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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009461
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】印刷装置および印刷方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20240116BHJP
【FI】
B41J2/01 127
B41J2/01 305
B41J2/01 303
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111002
(22)【出願日】2022-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】吉川 英伸
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EB07
2C056EB12
2C056EB37
2C056EC07
2C056EC72
2C056HA37
2C056HA44
(57)【要約】
【課題】インクの着弾精度を向上させる印刷装置および印刷方法を提供すること。
【解決手段】印刷装置1は、媒体Mが載置される支持部31mと、支持部31mと対向して配置され、媒体Mおよび支持部31mへ放射線硬化型のインクを塗布するヘッド89aと、ヘッド89aが搭載され、支持部31mに対して相対的に移動するキャリッジ88と、媒体Mおよび支持部31mに塗布されたインクへ放射線を照射する照射部89cと、照射部89cを制御して、塗布されたインクを硬化させる制御部90と、を備え、支持部31mに塗布されたインクを硬化させて、支持部31mの凹凸を均すための平滑化処理を実行可能である。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体が載置される支持部と、
前記支持部と対向して配置され、前記媒体および前記支持部へ放射線硬化型のインクを塗布するヘッドと、
前記ヘッドが搭載され、前記支持部に対して相対的に移動するキャリッジと、
前記媒体および前記支持部に塗布された前記インクへ放射線を照射する照射部と、
前記照射部を制御して、塗布された前記インクを硬化させる制御部と、を備え、
前記支持部に塗布された前記インクを硬化させて、前記支持部の凹凸を均すための平滑化処理を実行可能な印刷装置。
【請求項2】
前記支持部と前記ヘッドとの距離を測定して、前記支持部の前記凹凸を検出する検出部を備え、
前記制御部は、前記凹凸に応じて、前記支持部に塗布する前記インクの塗布量を変更し、
前記平滑化処理は、前記塗布量の変更と、前記塗布量が変更されて前記支持部に塗布された前記インクの硬化と、を含む、請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記検出部は、前記支持部の第1領域、および前記第1領域と隣り合う第2領域において前記距離を測定し、
前記制御部は、前記塗布量として、前記第1領域における前記インクの第1塗布量、前記第2領域における前記インクの第2塗布量、および前記第1領域と前記第2領域との境界を含む第3領域における前記インクの第3塗布量を設定し、
前記第3塗布量は、前記第1塗布量と前記第2塗布量との平均値である、請求項2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記キャリッジに搭載され、前記支持部に塗布された前記インクを削って均すための加工を行うスクレイパーを備え、
前記平滑化処理は、前記加工と、前記支持部に残存する前記インクの硬化と、を含む、請求項1に記載の印刷装置。
【請求項5】
支持部に対してヘッドから放射線硬化型のインクを塗布し、前記支持部に塗布された前記インクを硬化させて前記支持部の凹凸を均すための平滑化処理を含む印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置および印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットヘッドからインクの液滴を媒体に付着させて印刷を行う印刷装置が知られていた。該印刷装置では、媒体に対するインクの液滴の着弾精度が印刷品質に影響し易い。例えば、特許文献1には、テストパターンに基づく複数位置の補正値から、印刷ヘッドの往路移動時と復路移動時とにおけるインク吐出のタイミングを補正する印刷制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-124266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の装置では、大判用の印刷装置に適用した場合に、インクの着弾精度を向上させることが難しいという課題があった。詳しくは、補正値が切り替わる領域において着弾の傾向が大きく変化することがあり、着弾精度にばらつきが生じる場合があった。また、大判の印刷装置ではプラテンに凹凸や歪みが生じ易いため、媒体に凹凸などの影響が及んで着弾位置にずれが生じ易くなっていた。すなわち、従来と比べてインクの着弾精度を向上させる印刷装置が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
印刷装置は、媒体が載置される支持部と、前記支持部と対向して配置され、前記媒体および前記支持部へ放射線硬化型のインクを塗布するヘッドと、前記ヘッドが搭載され、前記支持部に対して相対的に移動するキャリッジと、前記媒体および前記支持部に塗布された前記インクへ放射線を照射する照射部と、前記照射部を制御して、塗布された前記インクを硬化させる制御部と、を備え、前記支持部に塗布された前記インクを硬化させて、前記支持部の凹凸を均すための平滑化処理を実行可能である。
【0006】
印刷方法は、支持部に対してヘッドから放射線硬化型のインクを塗布し、前記支持部に塗布された前記インクを硬化させて前記支持部の凹凸を均すための平滑化処理を含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施形態に係る印刷装置の構成を示す斜視図。
図2】印刷装置の構成を示すブロック図。
図3】印刷方法を示すフロー図。
図4】平滑化処理の方法を示す模式側面図。
図5】平滑化処理の方法を示す模式側面図。
図6】平滑化処理の方法を示す模式側面図。
図7】平滑化処理の方法を示す模式平面図。
図8】第2実施形態に係る印刷装置の構成を示す斜視図。
図9】印刷方法を示すフロー図。
図10】平滑化処理の方法を示す模式側面図。
図11】平滑化処理の方法を示す模式側面図。
図12】平滑化処理の方法を示す模式側面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に述べる実施の形態では、媒体Mに印刷を実行する後述する印刷装置、および該印刷に適用される印刷方法を例示して、図面を参照して説明する。上記印刷装置はインクジェットプリンターであり、後述する平滑化処理を実行可能である。媒体Mは、紙、樹脂などのシート、および不織布、ニット、布帛などの布である。
【0009】
以下の各図においては、必要に応じて相互に直交する座標軸としてXYZ軸を付し、各矢印が指す方向を+方向とし、+方向と反対の方向を-方向とする。Y軸は印刷装置の前後方向に沿い、印刷装置の+Y方向を前方とする。X軸は印刷装置の左右方向に沿い、印刷装置の+X方向を右方とする。Z軸は鉛直方向に沿う仮想軸であって、印刷装置における+Z方向を上方とし、-Z方向を下方とする。X軸に沿う方向が左右方向であり、Y軸に沿う方向が前後方向であり、Z軸に沿う方向が上下方向である。
【0010】
1.第1実施形態
図1に示すように、本実施形態に係る印刷装置1は、本体部10、検出部20、媒体支持機構30、フレーム駆動部60、移動部70、および記録部80を備える。また、図示を省略するが、印刷装置1は、各種構成の稼働を統合的に制御する制御部90も備える。なお、印刷装置1では、媒体Mが載置される媒体支持機構30が移動せず、媒体Mおよび媒体支持機構30に対して、移動部70が相対的に移動して印刷が成される。
【0011】
本体部10は、一対のベース部11、媒体支持機構30、および駆動機構50を含む。印刷装置1は、一対のベース部11を介して接地面に固定される。本体部10は印刷装置1の各構成を支持する。ベース部11は、長さ方向がX軸に沿う細長い部材である。一対のベース部11は、+Z方向からの平面視にて、印刷装置1の+Y方向の端部付近と、-Y方向の端部付近とに配置される。
【0012】
媒体支持機構30は、テーブル31、および高さ移動機構32を含む。テーブル31は、+Z方向からの平面視にて矩形の平板である。上記平板の上方を向く主面は、支持部31mである。テーブル31は4つのテーブル脚部31nを有する。4つのテーブル脚部31nは、テーブル31の四隅の下方に配置される。
【0013】
支持部31mには媒体Mが載置される。支持部31mは、金属や樹脂などから成る略平坦な平面である。支持部31mは、印刷装置1が経た運搬や設置作業などによって、表面に窪みや歪みなどの凹凸が生じることがある。該凹凸は、支持部31mに載置される媒体Mに及んで、媒体Mの被印刷面である上方の面に凹凸を生じさせる場合があった。媒体Mの被印刷面の凹凸は、印刷装置1の印刷品質を低下させるおそれがある。これに対して、印刷装置1は、後述する平滑化処置によって支持部31mの平面度を向上させて、印刷品質を確保するものである。
【0014】
高さ移動機構32は、昇降モーター33、昇降ベルト37、および昇降機構39を含む。高さ移動機構32は支持部31mを上下方向に移動させる。昇降機構39は、4つのテーブル脚部31nの各々に設けられる。
【0015】
昇降機構39は、図示を省略するが、Z軸に沿って配置されるボールねじ、該ボールねじに螺合するナット、およびプーリーを有する。ボールねじは、ベース部11に回転可能に支持される。ナットはテーブル脚部31nに固定される。プーリーはボールねじの上方に固定される。プーリーの回転に伴ってボールねじが回転して、ナット共にテーブル脚部31nがZ軸に沿って移動する。プーリーは昇降モーター33に駆動されて回転する。
【0016】
昇降モーター33は、制御部90の制御によって回転作動する。制御部90は、昇降モーター33の回転方向、および回転量を制御する。昇降ベルト37は、無端ベルトであって、昇降モーター33の出力軸と4つの昇降機構39のプーリーとに環状に張架される。昇降ベルト37は、昇降モーター33の回転駆動力を4つの昇降機構39のプーリーに伝達して、該プーリーを回転させる。
【0017】
昇降モーター33の回転方向は、支持部31mを上方に移動させる正方向と、支持部31mを下方に移動させる逆方向とに切り替えられる。印刷装置1では、昇降モーター33の回転作動によって、支持部31mが上昇および下降する。支持部31mの上昇および下降は、媒体Mの厚さや形状などに応じて、媒体Mの被印刷面と後述するヘッド89aとの距離、所謂プラテンギャップを適切な数値に調整する。
【0018】
駆動機構50は、第1ガイド軸51a、第2ガイド軸51b、およびフレーム駆動部60を有する。駆動機構50は、移動部70をY軸に沿って移動させる。第1ガイド軸51aおよび第2ガイド軸51bは、Y軸に沿うガイドフレームである。第1ガイド軸51aは、一対のベース部11の上方、かつ-X方向の端部に架け渡されて固定される。第2ガイド軸51bは、一対のベース部11の上方、かつ+X方向の端部に架け渡されて固定される。
【0019】
移動部70は、メインフレーム71、第1脚部73a、および第2脚部73bを含む。移動部70は、所謂ガントリーフレームであって、本体部10に対して、相対的にY軸に沿って移動する。移動部70は、支持部31mに対して、後述するキャリッジ88を上下方向に対向させながら移動可能に支持する。
【0020】
メインフレーム71は、X軸に沿って長い略板状部材である。X軸に沿う方向において、メインフレーム71の長さはベース部11の長さより長い。第1脚部73aの下方の端部は、第1ガイド軸51aによってY軸に沿って移動可能に支持される。第2脚部73bの下方の端部は、第2ガイド軸51bによってY軸に沿って移動可能に支持される。
【0021】
メインフレーム71の下方は、第1脚部73aおよび第2脚部73bの上方の端部に固定される。詳しくは、メインフレーム71において、-X方向の端部が第1脚部73aに支持され、+X方向の端部が第2脚部73bに支持される。メインフレーム71は、第1脚部73aおよび第2脚部73bと共に、第1ガイド軸51aおよび第2ガイド軸51bによってガイドされながら、後述するフレーム駆動部60の駆動によりY軸に沿って移動する。
【0022】
フレーム駆動部60は、フレーム移動モーター61、伝達ベルト63,67、および変速機構65を有する。フレーム移動モーター61は、制御部90の制御により回転作動する。伝達ベルト63は、無端ベルトであって、フレーム移動モーター61の出力軸と変速機構65とに環状に帳架される。伝達ベルト63は、フレーム移動モーター61の回転駆動力を変速機構65に伝達する。
【0023】
変速機構65は、図示しない第1プーリーおよび第2プーリーを有する。第1プーリーには伝達ベルト63が巻き掛けられ、第2プーリーには伝達ベルト67が巻き掛けられる。変速機構65は、伝達ベルト63から第1プーリーに伝達される回転駆動力によって、第2プーリーを回転させる。第2プーリーの回転は伝達ベルト67を回転駆動する。変速機構65は、第1プーリーの径と第2プーリーの径との比に対応する減速比にて、フレーム移動モーター61の回転駆動力を伝達ベルト67に伝達する。
【0024】
伝達ベルト67は、無端ベルトであって、変速機構65と、一対のベース部11の各々の-Y方向の端部に配置されるプーリー13とに環状に帳架される。伝達ベルト67は、第1ガイド軸51aに沿って配置される。プーリー13は、自転可能にベース部11に支持される。伝達ベルト67には、ベルト接続部79aを介して第1脚部73aが固定される。
【0025】
これにより、伝達ベルト67が回転駆動されると、第1脚部73aをY軸に沿って移動させる駆動力が生じる。該駆動力により、メインフレーム71を含む上記ガントリーフレームがY軸に沿って移動する。
【0026】
フレーム移動モーター61の回転方向は、メインフレーム71に対して、+Y方向に移動させる正方向、および-Y方向に移動させる逆方向に切り替えられる。印刷装置1では、フレーム移動モーター61の回転作動によって、メインフレーム71が前方および後方へ移動する。
【0027】
メインフレーム71には、キャリッジ支持フレーム81、伝達機構82、キャリッジガイド軸83、およびキャリッジ駆動モーター87が配置される。メインフレーム71は、キャリッジ88ごと記録部80および検出部20などを左右方向に移動可能に支持する。記録部80は、キャリッジ88、ヘッド89a、および照射部89cを含む。
【0028】
キャリッジ支持フレーム81は、X軸に沿う方向に長い略板状の部材である。キャリッジ支持フレーム81には、X軸に沿ってキャリッジガイド軸83が固定される。キャリッジ88は、キャリッジ支持フレーム81およびキャリッジガイド軸83によって、左右方向に移動可能に支持される。
【0029】
キャリッジ88が左右方向に移動する範囲において、左方の端部の位置はホームポジションである。図示を省略するが、ホームポジションには、ヘッド89aのフラッシングやクリーニングを行うメンテナンス機構が設けられる。図1では、ホームポジションにあるキャリッジ88を破線にて表示している。
【0030】
キャリッジ駆動ベルト85は、無端ベルトであって、キャリッジ支持フレーム81の左方の端部に設けられる伝達機構82と、キャリッジ支持フレーム81の右方の端部に設けられる図示しないプーリーとに帳架される。キャリッジ駆動ベルト85は、キャリッジガイド軸83に沿って配置される。
【0031】
キャリッジ駆動モーター87は、制御部90の制御により回転作動する。伝達機構82は、プーリー82a、2段プーリー82b、およびベルト82cを有する。プーリー82aは、キャリッジ駆動モーター87の出力軸に固定される。ベルト82cは、無端ベルトであって、プーリー82aと2段プーリー82bとに帳架される。
【0032】
2段プーリー82bは、図示しない小プーリー、および小プーリーより大径の大プーリーを含む。大プーリーにはベルト82cが巻き掛けられ、小プーリーにはキャリッジ駆動ベルト85が巻き掛けられる。ベルト82cは、キャリッジ駆動モーター87の回転に伴って回転駆動されて、2段プーリー82bの大プーリーを回転させる。2段プーリー82bの回転によって小プーリーも回転して、小プーリーの回転はキャリッジ駆動ベルト85を回転駆動する。
【0033】
キャリッジ駆動モーター87の回転駆動力は、大プーリーの径と小プーリーの径との比に対応する減速比にて、キャリッジ駆動ベルト85に伝達される。キャリッジ駆動ベルト85には、キャリッジ88の-Y方向の部位が連結される。キャリッジ駆動ベルト85が回転駆動されると、キャリッジ88はX軸に沿って移動する。
【0034】
キャリッジ88の下方には、+X方向から-X方向に向かって、ヘッド89a、検出部20、照射部89cが上記の順番にて搭載される。ヘッド89a、検出部20、照射部89cは、下方を向いて設置される。これにより、ヘッド89a、検出部20、照射部89cは、キャリッジ88がホームポジションより+X方向へ移動すると、支持部31mと対向して配置される。
【0035】
上述した構成により、キャリッジ88は、XY平面に沿いながら、支持部31mに対して相対的に移動する。すなわち、ヘッド89a、検出部20、および照射部89cは、支持部31mと上下方向に対向しながら、支持部31mに対して相対的に移動する。
【0036】
ヘッド89aは、支持部31mおよび支持部31mに載置される媒体Mへ放射線硬化型のインクを塗布する。図示を省略するが、ヘッド89aは、下方を向く位置にノズル面を有する。ノズル面は、印刷装置1によって印刷が行われる際に、支持部31mと上下方向に対向する。ノズル面には複数のノズル列が配置される。ここで、以下の説明では、放射線硬化型のインクを単にインクということもある。
【0037】
複数のノズル列の各々は、複数のノズルから成り、例えば、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックなどの色を呈するインクを個別に吐出する。これらのインクは、図示しないインク容器から配管を介してヘッド89aに供給される。ヘッド89aから吐出されるインクは、上述した各色のインクの他、クリアインクや処理液などの液体であってもよい。
【0038】
本実施形態では、インクとして、放射線硬化型のインクのうち紫外線硬化型のインクを適用する。放射線硬化型のインクは、硬化性のモノマーを主成分とするため、媒体Mの内部に浸透し難く、かつ硬化しても体積が大きくは減少しない。つまり、溶媒成分が蒸発することで固化する非硬化性の水性インクや溶剤インクとは異なり、放射線硬化型のインクは塗布された液滴が比較的に盛り上がったドットと成る。印刷装置1および後述する印刷方法では、放射線硬化型のインクの上記特性を利用して、支持部31mに塗布されたインクを硬化させて、支持部31mの凹凸を均すための平滑化処理を行う。平滑化処理の詳細については後述する。
【0039】
ヘッド89aでは、インク吐出の駆動手段であるアクチュエーターとして、圧電素子を用いている。圧電素子以外の駆動手段として、例えば、アクチュエーターとしての振動板を静電吸着により変位させる電気機械変換素子や、加熱によって生じる気泡にてインクを吐出する電気熱変換素子を用いてもよい。
【0040】
照射部89cは、支持部31mおよび媒体Mに塗布されたインクへ放射線としての紫外線を照射する。支持部31mや媒体Mに塗布されたインクに対して紫外線を照射することにより、インク中のモノマーの重合反応が促進されてインクが硬化する。照射部89cによる放射線の照射は、制御部90によって制御される。
【0041】
照射部89cは、例えば、紫外線発光ダイオードを備える。照射部89cとして、発光ダイオードや半導体レーザーなどの発光素子の他に、紫外線ランプを用いてもよい。
【0042】
放射線としては、紫外線の他に、電子線、赤外線、可視光線、およびエックス線などが挙げられる。これらの中でも、放射線のピーク波長に対して良好な硬化性を有するモノマーや、放射線源を入手し易いことから、放射線として紫外線を用いることが好ましい。紫外線硬化型以外のインクを用いる場合には、該インクの種類に応じて、照射部89cとして公知の照射機構を適用する。
【0043】
支持部31mに載置された媒体Mに対して、X軸に沿う方向およびY軸に沿う方向へキャリッジ88を走査させながら、ヘッド89aから所定のタイミングにてインクを塗布し、媒体Mに塗布されたインクに照射部89cから紫外線を照射して硬化させる。これにより、所望の画像などが印刷される。照射部89cによる紫外線の照射量、照射タイミング、および照射領域などは、制御部90によって制御される。
【0044】
検出部20は、印刷装置1による媒体Mへの印刷に先立って、支持部31mに平滑化処理を施すために支持部31mの凹凸を検出する。つまり、支持部31mに対して、X軸に沿う方向およびY軸に沿う方向へキャリッジ88を走査させながら、検出部20にて支持部31mとヘッド89aのノズル面との距離を測定する。これにより、支持部31mの凹凸情報が得られる。
【0045】
検出部20は非接触式の距離測定センサーである。検出部20としては、光学式、音波式、および超音波式などが挙げられる。本実施形態では、検出部20として、以下に述べる薄膜圧電素子を含む超音波センサーを採用する。
【0046】
超音波センサーは、厚さ方向に貫通する開口部を有する基板、開口部を塞ぐ振動板、振動板の背面の開口部と対応する位置に設けられた薄膜圧電素子、および開口部の内側にあって振動板を介して薄膜圧電素子と対向する弾性層を備える。振動板の振動領域と薄膜圧電素子とが1つの超音波トランスデューサーを構成する。
【0047】
超音波センサーでは、薄膜圧電素子の2つの電極間に所定周波数のパルス電圧を印加することにより、薄膜圧電素子が撓んで振動領域が振動して開口部から超音波が送信される。また、超音波センサーに向かって伝播した超音波が振動板の振動領域を振動させると、薄膜圧電素子の2つの電極間に電位差が発生する。該電位差を検出することにより、超音波の発振および受信の時期を検出することが可能となる。さらに、検出部20は、温湿度センサーを含み、計測した温湿度から音速を算出する。
【0048】
以上の構成により、超音波を測定対象に送信して、測定対象にて反射された超音波を受信することにより、超音波センサーと測定対象との間の距離を測定することができる。なお、本実施形態の超音波センサーは、測定対象が近距離にある場合に特化した小型の超音波センサーである。
【0049】
薄膜圧電素子を含む超音波センサーによれば、薄膜圧電素子を用いない超音波センサーと比べて、支持部31mに対する距離の測定における空間分解能が向上する。また、光学式や音波式のセンサーと比べて小型化が容易であるため、検出部20を小型で軽量なものとすることができる。さらに、超音波センサーは、光学式と比べて、測定対象の色や表面の反射率に影響されにくいという利点も備える。なお、検出部20は、支持部31mの凹凸検出の効率や測定精度を向上させる観点から、複数個の距離測定センサーを有してもよい。
【0050】
図2に示すように、制御部90は、CPU(Central Processing Unit)126、システムバス127、ROM(Read Only Memory)128、RAM(Random Access Memory)129、ヘッド駆動部130、モーター駆動部131、および入出力部135を備える。制御部90は、例えば、上述した印刷装置1の主基板に設けられる。
【0051】
CPU126は印刷装置1の全体の制御を司る。CPU126は、システムバス127を介して、ROM128、RAM129、ヘッド駆動部130、およびモーター駆動部131と電気的に接続される。ROM128には、CPU126が実行する各種制御プログラムやメンテナンスシーケンスなどが格納される。RAM129は一時的にデータを格納する。ヘッド駆動部130はヘッド89aを駆動する。
【0052】
ヘッド駆動部130はヘッド89aと電気的に接続される。モーター駆動部131は、昇降モーター33、フレーム移動モーター61、およびキャリッジ駆動モーター87と電気的に接続される。制御部90は、フレーム移動モーター61およびキャリッジ駆動モーター87によるキャリッジ88の移動と、ヘッド89aのインクの吐出とを関連付けて実行させる。
【0053】
CPU126は、システムバス127を介して、検出部20および照射部89cと電気的に接続される。制御部90は、フレーム移動モーター61およびキャリッジ駆動モーター87によるキャリッジ88の移動と、検出部20による支持部31mの凹凸の検出および照射部89cによる紫外線の照射と、を関連付けて実行させる。
【0054】
CPU126は、システムバス127を介して、入出力部135と電気的に接続される。入出力部135は、PC(Personal Computer)などの外部機器200と電気的に接続される。外部機器200は、印刷装置1における各種操作の指示や、画像などの印刷データを印刷装置1に入力する。
【0055】
図3に示すように、本実施形態に係る印刷方法は工程S11から工程S16を含む。本実施形態の印刷方法は、支持部31mへのインクの塗布量の変更と、変更された塗布量にて支持部31mに対してヘッド89aからインクを塗布し、支持部31mに塗布されたインクを硬化させて支持部31mの凹凸を均す平滑化処理を含む。これにより、支持部31mの凹凸に応じてインクの塗布量が変更されるため、支持部31mの凹凸が均され易くなる。そのため、支持部31mの平滑化を促進させることができる。
【0056】
なお、本明細書において凹凸を均すための平滑化処理とは、凹凸を均そうとする行為を指していい、その結果を担保するものではない。具体的には、平滑化処理を行った後の支持部31mの凹凸度合が、平滑化処理を行う前の支持部31mの凹凸度合よりも低減する処理を平滑化処理とする。
【0057】
ここで、以下の説明では、メインフレーム71を含むガントリーフレームを単にガントリーフレームということもある。また、支持部31mとヘッド89aのノズル面との距離を、単にギャップということもある。さらに、インクが塗布されてインクの硬化膜が支持部31mに形成されている場合には、インクの硬化膜の上方の面とヘッド89aとの距離をギャップということもある。
【0058】
工程S11では、支持部31mの凹凸を検出部20が検出する。詳しくは、図4に示すように、支持部31mに対して、キャリッジ88をX軸に沿う方向に走査する。このとき、ガントリーフレームは移動させない。これにより、+Z方向からの平面視にて、走査された略矩形状の領域の凹凸情報が得られる。そして、検出部20から制御部90へ、上記領域の凹凸情報が送信される。
【0059】
具体的には図5に示すように、上記凹凸情報には、上記領域内において、ヘッド89aと支持部31mとのギャップが最小となるギャップ最小位置P1におけるギャップ値G1と、ギャップが最大となるギャップ最大位置P2のギャップ値G2とが含まれる。
【0060】
次に、ガントリーフレームをY軸に沿って移動させる。このとき、上記領域に対して、Y軸に沿う方向において隙間が生じないように、隣接する領域についてキャリッジ88をX軸に沿う方向に走査させる。以上の処理を繰り返し実行して、支持部31mの凹凸情報を得る。そして工程S12へ進む。
【0061】
工程S12では、測定された領域ごとに、支持部31mの凹凸に応じて支持部31mに塗布するインクの塗布量を変更、決定する。詳しくは、CPU126にて、支持部31mの各領域について、該当領域の凹凸を均して支持部31mの平滑化が向上するように、該当領域へのインクの塗布量を演算する。
【0062】
より具体的には、ヘッド89aの下方の面はラインLhにてX軸に沿って走査される。これに対して、ギャップ最小位置P1はラインLhに沿うラインL1上にあり、ギャップ最大位置P2はラインLhに沿うラインL2上にある。そのため、ギャップ最大位置P2には、ギャップ値G2とギャップ値G1との差分を埋めるインクを塗布して、ギャップ最小位置P1にはインクを塗布しない。
【0063】
さらに、図示を省略するが、支持部31mにおいてラインL1とラインL2との間に位置する領域、換言すればギャップの値がギャップ値G1より大きく、ギャップ値G2より小さい領域では、該領域のギャップの値とギャップ値G1との差分を埋めるインクを塗布する。このように支持部31mの凹凸に応じてインクの塗布量を変更する。
【0064】
インクの塗布量の変更は、印刷Dutyの変更によって成される。印刷Dutyと、形成されるインクの硬化膜厚との相関データは、ROM128に格納される。具体的には、例えば、印刷Duty10%では硬化膜厚が0.1mmとなり、印刷Duty20%では硬化膜厚が0.2mmとなり、印刷Duty30%では、0.3mmとなる。印刷Dutyとインクの硬化膜厚との相関関係は、インクの種類や成分などによって変化することがある。そして工程S13へ進む。
【0065】
工程S13では、決定されたインクの塗布量にて、キャリッジ88をX軸に沿って移動させながら、ヘッド89aから支持部31mへインクを塗布する。凹みを埋めるために、複数回重ねてインクを塗布してもよい。そして工程S14へ進む。
【0066】
工程S14では、支持部31mに塗布されたインクに対して、照射部89cから紫外線を照射する。これにより、図6に示すように、支持部31mの上方にインクの硬化膜31iが形成される。硬化膜31iの上方の面は、-Y方向からの側面視にて、ラインL1と重なる。硬化膜31iの上方の面は、支持部31mと比べて平滑化が進み、平面度が向上する。そして工程S15へ進む。
【0067】
工程S15では、支持部31mの硬化膜31iの上方の面に媒体Mを載置して、媒体Mの上方の面にヘッド89aからインクを塗布する。次に、工程S16では、媒体Mに塗布されたインクに対して照射部89cから紫外線を照射する。これにより、インクが硬化して、媒体Mに所望の画像などが印刷される。
【0068】
上述した平滑化処理、すなわち工程S11からS14は、媒体Mへの印刷の都度行う必要はなく、印刷装置1を移動させた後や、分解および再組立てした後などに行えばよい。また、定期的に工程S11を実施して、支持部31mまたは硬化膜31iの上方の面に凹凸が発生していないか確認し、平滑化処理を行ってもよい。
【0069】
なお、平滑化処理を行う支持部31mの全領域について、工程S11から工程S14を順次行わなくともよい。具体的には、ガントリーフレームを移動させずに工程S11から工程S14を行ってから、ガントリーフレームをY軸に移動させて工程S11から工程S16を行うバッチ式の処理としてもよい。
【0070】
ここで、平滑化処理で形成する硬化膜31iの上方の面において、Y軸に沿う方向の段差の発生を抑える手段について説明する。
【0071】
図7に示すように、支持部31mに、ギャップ最大位置P2として、第1位置P2aおよび第2位置P2bがあるとする。第1位置P2aは第1領域Aaにおいて、ギャップが最大となる位置であり、第2位置P2bは第2領域Abにおいて、ギャップが最大となる位置である。第1領域Aaおよび第2領域Abは、支持部31mにおいて、X軸に沿って走査されるヘッド89aが各々対向する範囲であり、ヘッド89aと共に走査される検出部20が各々対向する範囲でもある。第1領域Aaと第2領域Abとは境界Babにて隣り合う。
【0072】
第1位置P2aのギャップと第2位置P2bのギャップとの関係などによって、平滑化処理にて支持部31mに塗布されるインクの塗布量が変わる場合がある。そのため、第1領域Aaと第2領域Abとでインクの硬化膜厚が変わって、境界Babに段差が生じる可能性がある。これに対して、以下の手段を講じてもよい。
【0073】
検出部20は、支持部31mの第1領域Aa、および第1領域AaとY軸に沿う方向に隣り合う第2領域Abにおいてギャップを測定する。制御部90は、インクの塗布量として、第1領域Aaにおけるインクの第1塗布量、第2領域Abにおけるインクの第2塗布量、および第1領域Aaと第2領域Abとの境界Babを含む第3領域Acにおけるインクの第3塗布量を設定する。
【0074】
このとき、第3塗布量を第1塗布量と第2塗布量との平均値とする。すなわち、第3領域Acには、第1塗布量に対応する印刷Dutyと、第2塗布量に対応する印刷Dutyとの中間の印刷Dutyを適用する。これにより、第1領域Aaと第2領域Abの境界Bab、すなわち第1塗布量と第2塗布量とが切り替わる第3領域Acにおいて、段差の発生を抑えることができる。
【0075】
本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。媒体Mに塗布されるインクの着弾精度を向上させることができる。詳しくは、平滑化処理によって支持部31mの凹凸が低減される。そのため、支持部31mに載置される媒体Mに対して、支持部31mの凹凸の影響が及び難くなる。これにより、媒体Mに塗布されるインクの着弾位置のばらつきが低減される。すなわち、インクの着弾精度を向上させる印刷装置1および印刷方法を提供することができる。
【0076】
2.第2実施形態
図8に示すように、本実施形態に係る印刷装置2は、キャリッジ88に搭載されるスクレイパー89dを備える。印刷装置2は、第1実施形態の印刷装置1に対してこの点が異なる。また、本実施形態の印刷方法は、第1実施形態の印刷方法に対してスクレイパー89dを平滑化処理に適用する点が異なる。以下の説明では、第1実施形態と異なる構成について言及し、重複する構成については説明を省略する。
【0077】
スクレイパー89dは、略直方体状のキャリッジ88において、+X方向を向く側面の下方に配置される。スクレイパー89dは、支持部31mに塗布されたインクを削って均すための加工を行う。スクレイパー89dは、+Y方向からの側面視にて、略三角形の楔状であり、ヘッド89aの図示しないノズル面からやや下方に突出すると共に、+X方向に向かって突起状に形成される。
【0078】
図9に示すように、本実施形態の印刷方法は工程S21から工程S26を含む。本実施形態の印刷方法は、スクレイパー89dによる加工と、支持部31mに残存するインクの硬化と、を含む。
【0079】
工程S21では、図10に示すように、ヘッド89aから支持部31mに対して、一定の塗布量でインクを塗布する。これにより、支持部31mに一定の厚さの未硬化のインク膜231iixが形成される。この段階では、支持部31mの凹凸は緩和されない。なお、工程S21に先立って、検出部20にて支持部31mの凹凸を検出して、上述したギャップ最小位置P1とギャップ最大位置P2との高低差を埋めるに足る塗布量を設定して、該塗布量にてインクを一定に塗布してもよい。そして工程S22へ進む。
【0080】
工程S22では、インク膜231ixに対して照射部89cから紫外線を照射する。このとき、インク膜231ixに照射する紫外線の照射量は、インクを完全に硬化させるに必要な照射量のおよそ半分程度とする。これによって、インク膜231ixは、図11に示すように半硬化膜231iyとなり、後段の工程S23においてスクレイパー89dによる加工が可能となる。そして工程S23へ進む。
【0081】
工程S23では、スクレイパーによる加工として、スクレイパー89dの+X方向の先端を半硬化膜231iyに当接させながら、キャリッジ88を+X方向に移動させる。これにより、半硬化膜231iyの上方の一部がはぎ取られて、半硬化膜231iyの上方の面において凹凸が低減される。
【0082】
このとき、上述した媒体支持機構30を作動させて、半硬化膜231iyとスクレイパー89dとのZ軸に沿う方向の距離、つまりスクレイパー89dによってはぎ取られる半硬化膜231iyの厚さを調節してもよい。また、その際に、図示しない上記検出部20および制御部90にて半硬化膜231iyの厚さを特定して、はぎ取る半硬化膜231iyの厚を演算してから工程23を行ってもよい。そして工程S24に進む。
【0083】
工程S24では、支持部31mの上方に残存する半硬化膜231iyに対して、照射部89cから紫外線を照射する。このとき、半硬化膜231iyに照射する紫外線の照射量は、工程S22にて照射された照射量との合算で、インクを完全に硬化させる照射量とする。これにより、図12に示す、上方の面の凹凸が低減されたインクの硬化膜231iが形成される。そして工程S25へ進む。
【0084】
工程S25は、上記実施形態の印刷方法の工程S15と同様に行う。工程S26は、上記実施形態の印刷方法の工程S16と同様に行う。なお、上述したスクレイパーを用いる平滑化処理は、上記実施形態と同様に媒体Mへの印刷の都度行う必要はない。
【0085】
本実施形態によれば、第1実施形態と同様な効果が得られる。
【符号の説明】
【0086】
1,2…印刷装置、20…検出部、31m…支持部、88…キャリッジ、89a…ヘッド、89c…照射部、89d…スクレイパー、90…制御部、Aa…第1領域、Ab…第2領域、Ac…第3領域、Bab…境界、M…媒体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12