(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094633
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】3次元構造体の製造方法及び3次元構造体
(51)【国際特許分類】
B29C 64/124 20170101AFI20240703BHJP
B29C 64/314 20170101ALI20240703BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20240703BHJP
【FI】
B29C64/124
B29C64/314
B33Y80/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211302
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石▲橋▼ 美咲
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 憲司
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AA44
4F213AR06
4F213AR12
4F213AR20
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL12
4F213WL23
4F213WL43
4F213WL92
(57)【要約】
【課題】寸法精度、耐水性及び耐衝撃性に優れ、着色がなく色調が良好な3次元構造体が得られる3次元構造体の製造方法の提供。
【解決手段】光硬化性組成物の硬化物である3次元構造体の製造方法であって、前記光硬化性組成物は重合性単量体(A)及び重合性単量体(B)を含む光硬化性組成物(X)であり、重合性単量体(A)のホモポリマーのガラス転移温度TAが40℃以上、重合性単量体(B)のホモポリマーのガラス転移温度TBが35℃未満であり、下記工程を有する。
・光硬化性組成物(X)に第1次の光照射を行い、光硬化性組成物(X)を光造形して第1の硬化状態にある3次元構造体(Y1)を得る工程
・3次元構造体(Y1)に、第2次の光照射を行うとともに、第2次の光照射前、光照射中、及び光照射後のうち少なくとも1段階で、TAより低くTBより高い温度TCで加温して、硬化が進行した第2の硬化状態にある3次元構造体(Y2)を得る工程
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化性組成物の硬化物である3次元構造体の製造方法であって、
前記光硬化性組成物は、重合性単量体(A)及び重合性単量体(B)を含有する光硬化性組成物(X)であり、
重合性単量体(A)のホモポリマーのガラス転移温度TAが40℃以上であり、
重合性単量体(B)のホモポリマーのガラス転移温度TBが35℃未満であり、
下記の工程(I)及び工程(II)を有する、3次元構造体の製造方法。
・工程(I):光硬化性組成物(X)に対して第1次の光照射を行うことにより、光硬化性組成物(X)を光造形して、第1の硬化状態にある3次元構造体(Y1)を得る工程
・工程(II):第1の硬化状態にある3次元構造体(Y1)に対して、第2次の光照射を行うとともに、前記第2次の光照射前、前記第2次の光照射中、及び前記第2次の光照射後からなる群より選ばれる少なくとも1つの段階で、TAより低くTBより高い温度TCで加温を行うことにより、前記第1の硬化状態よりも硬化が進行した第2の硬化状態にある3次元構造体(Y2)を得る工程
【請求項2】
前記温度TCが35℃以上である、請求項1に記載の3次元構造体の製造方法。
【請求項3】
前記重合性単量体(A)が多官能重合性単量体(A1)を含有する、請求項1又は2に記載の3次元構造体の製造方法。
【請求項4】
前記重合性単量体(B)が単官能重合性単量体(B1)を含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の3次元構造体の製造方法。
【請求項5】
前記工程(I)において、JIS T 6501:2012に記載された寸法に従って、板状の3次元構造体(Y1)を作製して試験片とし、前記寸法における長辺の長さL0と、前記工程(II)を行った後の前記試験片の長辺の長さL2が、以下の関係を満たす、請求項1~4のいずれか1項に記載の3次元構造体の製造方法。
{|L0-L2|/L0}×100≦1.0
【請求項6】
光硬化性組成物の硬化物である3次元構造体であって、
前記光硬化性組成物が重合性単量体(A)及び重合性単量体(B)を含有し、
重合性単量体(A)のホモポリマーのガラス転移温度TAが40℃以上であり、
重合性単量体(B)のホモポリマーのガラス転移温度TBが35℃未満あり、
下記の条件(1)及び(2)を満たす、3次元構造体。
(1)JIS Z 8722:2009、条件cに準拠して、D65光源で測定した黄色度b*が3.0以下である。
(2)JIS T 6501:2012に記載される寸法に従って、前記光硬化性組成物を第1次の光照射によって光造形して板状の試験片を作製し、前記寸法における長辺の長さL0と、前記試験片に対して、第2次の光照射を行うとともに、前記第2次の光照射の前、前記第2次の光照射中、及び前記第2次の光照射後からなる群より選択される少なくとも1つの段階で、TAより低くTBより高い温度TCで前記処理対象物を加温した後の試験片の長辺の長さL2とが、下記の関係を満たす。
・(|L0-L2|/L0)×100≦1.0
【請求項7】
下記の条件(3)を満たす、請求項6に記載の3次元構造体。
(3)JIS T 6501:2012に記載される寸法に従って、前記光硬化性組成物を用いて板状の試験片を作製し、前記試験片の、万能試験機を用いてクロスヘッドスピード5mm/minで測定した曲げ強さB1と、37℃の温水に168時間浸漬した後の前期試験片の、万能試験機を用いてクロスヘッドスピード5mm/minで測定した曲げ強さB2とが、下記の関係を満たす。
・([B1-B2]/B1)×100≦5.0
【請求項8】
下記の条件(4)を更に満たす、請求項6又は7に記載の3次元構造体。
(4)JIS T 6501:2012に記載される寸法に従って、前記光硬化性組成物を用いて板状の試験片を作製し、前記試験片の中心にφ5/8インチSUS304製鋼球を高さ40cmから自由落下させたときに前記試験片が破壊されない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元構造体の製造方法及び3次元構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
液状の光硬化性樹脂に対して、必要なエネルギー量に制御された光エネルギーを供給して薄層状に硬化させ、その薄層状の硬化物上にさらに液状の光硬化性樹脂を供給した後、同様に制御された光エネルギーを供給して薄層状に硬化させる工程を繰り返して複数の薄層状の硬化物を積層することによって立体造形物を製造する方法、いわゆる光学的光造形法(光造形法)が知られている。光造形法は、複雑な形状の成形性に優れること、術者の技量に依存することなく高精度の立体造形物が得られることなどの理由から、急速に普及している。
【0003】
立体造形物を光学的に製造する際の代表的な方法として、容器に入れた液状光硬化性樹脂組成物の液面に、所望のパターンが得られるようにコンピューターで制御された紫外線レーザーを選択的に照射して所定の厚さで硬化させて硬化層を形成し、次にその硬化層の上に1層分の液状光硬化性樹脂組成物を供給して、同様に紫外線レーザーを照射して前記と同じように硬化させて連続した硬化層を形成させる積層操作を繰り返して最終的な形状の立体造形物を製造する液槽光造形という方法が知られている。
液槽光造形は、造形物の形状がかなり複雑であっても、簡単にかつ比較的短時間で精度良く目的とする立体造形物を製造することができるために近年大きな注目を集めている。
【0004】
とりわけ、歯科材料分野においては、歯科用部材である歯科用マウスピース及び義歯床は、患者個人ごとに形状が異なり、かつ形状が複雑であることから、上記液槽光造形を含めて光造形法の応用が期待されている。
【0005】
歯科用マウスピースは、歯科用アライナーと呼ばれる歯並びを矯正するために歯列に装着するもの、歯科用スプリントと呼ばれる顎位を矯正するために装着するもの、睡眠時無呼吸症候群の治療のために夜間就寝中に歯列に装着するもの、歯ぎしりによる歯の摩耗を抑制するために歯列に装着するもの、又は、コンタクトスポーツにおいて、競技中に歯牙や顎骨に大きな外力が加わることにより発生する外傷を低減し、顎口腔系及び脳を保護するために口腔内に装着するものである。上記歯科用マウスピースは、歯科矯正においては審美性の良さや、装着者自身によって着脱可能なものであることから、近年急速に利用が拡大している歯科用部材である。また、睡眠時無呼吸症候群も医療において注目されている症例であり、その治療用具としても上記歯科用マウスピースは急速に利用が進んでいる。
【0006】
義歯床は、歯の喪失により義歯を装着する際の、歯肉部分に使用される歯科用部材である。近年、高齢者人口の増加に伴い義歯の需要が急激に増加しており、義歯床に対する需要も同様に急増している。
【0007】
これら、歯科用マウスピース及び義歯床には、歯列又は顎堤への適合性、それぞれ適正な口腔内湿潤下での強度(換言すれば、耐水性)、耐衝撃性、色調等の物性が必要とされているが、一般的に、光造形法においては、瞬時に光硬化性組成物が光硬化されるため、重合が不完全な状態(通常、数%~数十%程度の未重合モノマーが残存している状態であり、「半硬化状態」ということがある)であり、光造形直後の造形物は、通常、必要な物性を満足していない。強力な光を照射して造形することにより、重合を進めて硬化を完了させようとすると、硬化後の造形物に歪みを生じたり、造形された層間同士の結合が弱くなって層間で剥離したりする等の不具合を生じる恐れがある。
そこで、造形後に別の光照射器を用いて第2次の光照射を行うことによって重合を追い込み、各物性の底上げを図ることが行われている。以下、本明細書においては、このような第2次の光照射等によって光造形物の重合を更に進行させる工程を「2次重合工程」と称することがある。なお、「2次重合工程」には、第2次の光照射だけではなく、第2次の光照射と並行して、あるいは第2次の光照射の前及び後のうち少なくとも一方の段階で行われる、第2次の光照射以外の周辺プロセスも含まれることがある。
【0008】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、2次重合工程を実行することによって硬化を進めた場合、得られる3次元構造体が変形することに加えて、着色や色調変化を生じ得ることが判った。
【0009】
特許文献1には、半硬化状態の造形物を、対応する作業模型にフィットさせた状態で光を照射して、高い精度の造形物を得る方法が記載されている。しかしながら、近年、3Dスキャナーの技術進歩に伴い、3Dスキャナーで造形データを取得し、当該造形データに従って光造形できるようになっていることから、模型を必要とせず、高精度で造形可能な造形プロセスが求められている。また、特許文献1には、第2次の光照射を行うことによる造形物の着色や色調変化については記載がなく、これらの問題を回避することについて何ら配慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、寸法精度、耐水性及び耐衝撃性に優れ、着色がなく色調が良好な3次元構造体を得ることができる3次元構造体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
[1]光硬化性組成物の硬化物である3次元構造体の製造方法であって、
前記光硬化性組成物は、重合性単量体(A)及び重合性単量体(B)を含有する光硬化性組成物(X)であり、
重合性単量体(A)のホモポリマーのガラス転移温度TAが40℃以上であり、
重合性単量体(B)のホモポリマーのガラス転移温度TBが35℃未満であり、
下記の工程(I)及び工程(II)を有する、3次元構造体の製造方法。
・工程(I):光硬化性組成物(X)に対して第1次の光照射を行うことにより、光硬化性組成物(X)を光造形して、第1の硬化状態にある3次元構造体(Y1)を得る工程
・工程(II):第1の硬化状態にある3次元構造体(Y1)に対して、第2次の光照射を行うとともに、前記第2次の光照射前、前記第2次の光照射中、及び前記第2次の光照射後からなる群より選ばれる少なくとも1つの段階で、TAより低くTBより高い温度TCで加温を行うことにより、前記第1の硬化状態よりも硬化が進行した第2の硬化状態にある3次元構造体(Y2)を得る工程
[2]前記温度TCが35℃以上である、上記[1]に記載の3次元構造体の製造方法。
[3]前記重合性単量体(A)が多官能重合性単量体(A1)を含有する、上記[1]又は[2]に記載の3次元構造体の製造方法。
[4]前記重合性単量体(B)が単官能重合性単量体(B1)を含有する、上記[1]~[3]のいずれか一つに記載の3次元構造体の製造方法。
[5]前記工程(I)において、JIS T 6501:2012に記載された寸法に従って、板状の3次元構造体(Y1)を作製して試験片とし、前記寸法における長辺の長さL0と、前記工程(II)を行った後の前記試験片の長辺の長さL2が、以下の関係を満たす、上記[1]~[4]のいずれか一つに記載の3次元構造体の製造方法。
{|L0-L2|/L0}×100≦1.0
[6]光硬化性組成物の硬化物である3次元構造体であって、
前記光硬化性組成物が重合性単量体(A)及び重合性単量体(B)を含有し、
重合性単量体(A)のホモポリマーのガラス転移温度TAが40℃以上であり、
重合性単量体(B)のホモポリマーのガラス転移温度TBが35℃未満あり、
下記の条件(1)及び(2)を満たす、3次元構造体。
(1)JIS Z 8722:2009、条件cに準拠して、D65光源で測定した黄色度b*が3.0以下である。
(2)JIS T 6501:2012に記載される寸法に従って、前記光硬化性組成物を第1次の光照射によって光造形して板状の試験片を作製し、前記寸法における長辺の長さL0と、前記試験片に対して、第2次の光照射を行うとともに、前記第2次の光照射の前、前記第2次の光照射中、及び前記第2次の光照射後からなる群より選択される少なくとも1つの段階で、TAより低くTBより高い温度TCで前記処理対象物を加温した後の試験片の長辺の長さL2とが、下記の関係を満たす。
・(|L0-L2|/L0)×100≦1.0
[7]下記の条件(3)を満たす、上記[6]に記載の3次元構造体。
(3)JIS T 6501:2012に記載される寸法に従って板状の試験片を作製し、前記試験片の、万能試験機を用いてクロスヘッドスピード5mm/minで測定した曲げ強さB1と、37℃の温水に168時間浸漬した後の前期試験片の、万能試験機を用いてクロスヘッドスピード5mm/minで測定した曲げ強さB2とが、下記の関係を満たす。
・([B1-B2]/B1)×100≦5.0
[8]下記の条件(4)を更に満たす、上記[6]又は[7]に記載の3次元構造体。
(4)JIS T 6501:2012に記載される寸法に従って板状の試験片を作製し、前記試験片の中心にφ5/8インチSUS304製鋼球を高さ40cmから自由落下させたときに前記試験片が破壊されない。
【発明の効果】
【0013】
本発明の3次元構造体の製造方法によれば、寸法精度、耐水性及び耐衝撃性に優れ、着色がなく色調が良好な3次元構造体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[3次元構造体の製造方法]
本発明の実施形態に係る3次元構造体の製造方法(以下、「本実施形態の3次元構造体の製造方法」ともいう)は、光硬化性組成物の硬化物である3次元構造体の製造方法であって、
上記光硬化性組成物は、重合性単量体(A)及び重合性単量体(B)を含有する光硬化性組成物(X)であり、
重合性単量体(A)のホモポリマーのガラス転移温度TAが40℃以上であり、
重合性単量体(B)のホモポリマーのガラス転移温度TBが35℃未満であり、
下記の工程(I)及び工程(II)を有する。
・工程(I):光硬化性組成物(X)に対して第1次の光照射を行うことにより、光硬化性組成物(X)を光造形して、第1の硬化状態にある3次元構造体(Y1)を得る工程(以下、「光造形工程」ともいう。)
・工程(II):第1の硬化状態にある3次元構造体(Y1)に対して、第2次の光照射を行うとともに、上記第2次の光照射前、上記第2次の光照射中、及び上記第2次の光照射後からなる群より選ばれる少なくとも1つの段階で、TAより低くTBより高い温度TCで上記処理対象物を加温することにより、上記第1の硬化状態よりも硬化が進行した第2の硬化状態にある3次元構造体(Y2)を得る工程(以下、「2次重合工程」ともいう。)
以下、第1の硬化状態にある3次元構造体(Y1)を、単に「3次元構造体(Y1)」と称することがある。また、第2の硬化状態にある3次元構造体(Y2)を、単に「3次元構造体(Y2)」と称することがある。
【0015】
上記3次元構造体の製造方法においては、重合性単量体(A)及び重合性単量体(B)を含有する光硬化性組成物(X)を用いている。重合性単量体(A)のホモポリマーのガラス転移温度TAが40℃以上であるため、重合性単量体(A)を含む光硬化性組成物(X)に剛直な構造が導入される。また、重合性単量体(B)のホモポリマーのガラス転移温度TBが35℃未満であるため、重合性単量体(B)を含む光硬化性組成物(X)に柔軟な構造が導入される。
そして、工程(I)によって得られた第1の硬化状態にある3次元構造体(Y1)に対して、工程(II)において、第2次の光照射を行うとともに、TAより低くTBより高い温度TCで加温することにより、3次元構造体(Y1)内に高ガラス転移温度の分子構造が維持されるため変形を防ぎつつ硬化が進行し、寸法精度が高く耐水性及び耐衝撃性に優れた3次元構造体(Y2)を得ることができるものと推測される。また、工程(II)を経ることによって、3次元構造体(Y1)内の低ガラス転移温度の分子構造に運動性が付与されて重合性が向上するとともに、発生したラジカルが重合反応に消費されやすくなり、着色や色調変化が抑えられるものと推測される。
以下、本実施形態に係る3次元構造体の製造方法の各工程について説明する。
【0016】
<工程(I):光造形工程>
光造形工程においては、造形データ(STLデータ)に基づき、光硬化性組成物(X)に対して第1次の光照射を行うことにより、光硬化性組成物(X)を光造形して、第1の硬化状態にある3次元構造体(Y1)を得る。上記造形データは、3Dスキャナーによって取得した3次元データを用いて作成することができ、また、本実施形態に係る3次元構造体の製造方法においては、高い寸法精度で3次元構造体を得ることができる。このため、上記光造形工程においては、模型を作製する必要がない。
ここで、「第1の硬化状態」とは、少なくとも3次元構造体が目標とする構造体の形状を保持できる程度に硬化された状態を意味する。第1の硬化状態は、後述する「第2の硬化状態」より、硬化の度合いが低い状態である。上記第1の硬化状態にある3次元構造体(Y1)は、弾性率、表面硬度、靭性等の物性や、後述する耐水性や耐衝撃性が、最終的に得ようとする、実質的に硬化が完了した3次元構造体より低くてもよい。工程(I)を行う際の温度は、35℃未満が好ましい。
光造形法には特に制限はないが、高い精度の造形物を作製しやすいという観点から、光硬化性組成物の液面に選択的に光照射して所定厚さの硬化層を形成し、その上に光硬化性組成物を供給して光照射することにより次の硬化層を形成する動作を繰り返すことで3次元構造体を形成する、液槽光造形を用いることが好ましい。
光造形法において照射される光の波長は、使用する光硬化性組成物の種類や光重合開始剤の種類等によって適宜選択すればよく、紫外線であってもよいし、可視光であってもよい。
照射される光の強度や照射時間は、目標とする3次元構造体の構造や要求される精度等に合わせて適宜調整することができる。
【0017】
(光造形装置)
光造形工程において用いられる光造形装置は、造形物の形状を示す造形データに基づいて光を照射し、光硬化性組成物を硬化させることで目的とする造形物を作製する装置である。
光造形装置としては、第1の硬化状態にある3次元構造体(Y1)を作製できるものであれば特に限定されず、市販の光造形装置(例えば、DWS社製「DIGITALWAX 020D」、Perfactry Vida EnvisionTEC社製「Perfactry Vida」)を用いることができる。
【0018】
<工程(II):2次重合工程>
2次重合工程においては、第1の硬化状態にある3次元構造体(Y1)に対して、第2次の光照射を行うとともに、上記第2次の光照射前、上記第2次の光照射中、及び上記第2次の光照射後のうち少なくとも1つの段階で、TAより低くTBより高い温度TCで加温することにより、3次元構造体(Y1)を2次重合させて、上記第1の硬化状態よりも硬化が進行した第2の硬化状態にある3次元構造体(Y2)を得る。
上記「第2の硬化状態」は、実質的に硬化が完了した状態であることが望ましい。ここで、「実質的に硬化が完了した状態」とは、実用上必要とされる物性を満たす程度まで硬化を十分進行させた状態を意味する。
以下、第2次の光照射を行う工程を「2次照射工程」、加温を行う工程を「加温工程」と称することがある。
【0019】
2次重合工程は、換言すれば、2次照射工程と加温工程とを備えており、2次照射工程と加温工程とが重複して実行されてもよいし、別個に実行されてもよい。2次重合工程における2次照射工程と加温工程の組合せの例としては、以下の態様が挙げられる。なお、下記の態様において「2次照射工程及び加温工程」は、2次照射工程及び加温工程の少なくとも一部の期間が並行して実行されることを意味する。
・(a):加温工程→2次照射工程
・(b):加温工程→2次照射工程→加温工程
・(c):加温工程→2次照射工程及び加温工程
・(d):加温工程→2次照射工程及び加温工程→加温工程
・(e):加温工程→2次照射工程及び加温工程→2次照射工程
・(f):2次照射工程→加温工程
・(g):2次照射工程→加温工程→2次照射工程
・(h):2次照射工程→2次照射工程及び加温工程
・(i):2次照射工程→2次照射工程及び加温工程→加温工程
・(j):2次照射工程→2次照射工程及び加温工程→2次照射工程
・(k):2次照射工程及び加温工程
・(l):2次照射工程及び加温工程→加温工程
・(m):2次照射工程及び加温工程→2次照射工程
【0020】
2次照射工程及び加温工程が、少なくとも一部の期間並行して実行されれば、第2次の光照射に起因して発生するラジカルの消費を促進しやすくなり、また、3次元構造体(Y2)の製造工程全体に要する時間を短縮することができる。
なお、加温工程から2次照射工程に移る際に、加温停止後も処理対象物自身の温度や、処理対象物の支持部材等の周辺部材の温度がTBより高ければ、それらの温度がTB以下となるまでの期間は、実質的に2次照射工程と加温工程とを並行して実行していることになる。
上記の2次照射工程においては、光照射を連続的に行ってもよいし、光照射を複数回に分けて行ってもよい。前者の場合、光照射の制御が容易になり、後者の場合は、硬化の度合いを調整しやすくなる。
【0021】
2次重合工程においては、高い寸法精度を確保しやすくする観点から、上記工程(I)において、JIS T 6501:2012に記載された寸法に従って、板状の3次元構造体(Y1)を作製して試験片とし、上記寸法における長辺の長さL0と、上記工程(II)を行った後の上記試験片の長辺の長さL2が、以下の関係を満たすことが好ましい。
{|L0-L2|/L0}×100≦1.0
上記の関係を満たすためには、例えば、第2次の光照射の条件や加温時間を適切に設定する方法が挙げられる。なお、本明細書においては、上記式の|L0-L2|/L0を「寸法精度」と称することがある。
【0022】
(2次照射工程)
2次照射工程は、第1の硬化状態にある3次元構造体(Y1)に対して、第2次の光照射を行うことにより、硬化を進行させる工程である。
照射される光の波長は、使用する光硬化性組成物の種類や光重合開始剤の種類等によって適宜選択すればよく、紫外線であってもよいし、可視光であってもよい。
照射される光の強度、照射時間、回数は、得ようとする3次元構造体(Y2)の構造や要求される精度等に合わせて適宜調整することができる。この際、3次元構造体(Y2)の寸法精度が上述の関係を満たす範囲内で照射光の条件設定を行うことが好ましい。
【0023】
(光照射装置)
上記2次照射工程において用いられる光照射装置としては、3次元構造体(Y1)の硬化を進め得るものであれば特に限定されない。たとえば、光照射装置として、装置内部に第2次の光照射の対象物を載せるためのテーブル又は容器を有し、当該テーブル又は容器に置かれた対象物に対して、上下方向及び左右方向から光を照射するものを用いることができる。光照射装置は、光照射の対象物の表面を硬化させるための短波長の光と、光照射の対象物の内側を硬化させるための長波長の光とを切り替える機能を有していてもよい。また、光照射装置は、加温機能及び窒素充填機能のうち少なくとも一方の機能を有していてもよい。
光照射装置としては、市販の光照射装置(例えば、EnvisionTEC社製 Otoflash (登録商標)G171)を用いることができる。
【0024】
(加温工程)
上述したように、上記2次重合工程は加温工程を含んでおり、第2次の光照射の前、第2次の光照射中、及び第2次の光照射後のうち少なくともいずれか1つの段階で、TAより低くTBより高い温度TCで処理対象物を加温する。加温工程は、第2次の光照射中、あるいは、第2次の光照射前及び第2次の光照射後の両方で行うことが好ましく、第2次の光照射中に行うことがより好ましい。換言すれば、上記の態様(b)、(d)、(k)、(l)、(m)が好ましく、態様(k)、(l)、(m)がより好ましい。
【0025】
TCは、3次元構造体(Y2)の耐水性を高めやすくする観点から、35℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることがさらに好ましく、60℃以上であることがよりさらに好ましく、また、3次元構造体(Y2)の寸法精度、耐衝撃性及び色調を良好にしやすくする観点から、150℃以下であることが好ましく、120℃以下であることがより好ましく、90℃以下であることがさらに好ましい。換言すれば、TCは、好ましくは35~150℃である。
TCはTAよりも、5℃以上低いことが好ましく、10℃以上低いことがより好ましく、20℃以上低いことがさらに好ましい。TCはTBよりも、5℃以上高いことが好ましく、10℃以上高いことがより好ましく、20℃以上高いことがさらに好ましい。
【0026】
なお、光硬化性組成物(X)が、TAの値が互いに異なる複数種類の重合性単量体(A)を含有する場合、Tcは、そのうち最も低いTA以下に設定すればよい。また、光硬化性組成物(X)が、TBの値が互いに異なる複数種類の重合性単量体(B)を含有する場合、Tcは、そのうち最も高いTB以上に設定すればよい。
【0027】
加温時間は、変色や色調変化を抑えやすくする観点から、好ましくは3分以上、より好ましくは5分以上、更に好ましくは7分以上、より更に好ましくは10分以上、特に好ましくは15分以上である。加温時間の上限に特に制限はないが、3次元構造体の変質回避及び生産効率の観点から、例えば60分以下である。換言すれば、加温時間は、好ましくは3~60分である。加温を複数の期間に分けて行う場合、それぞれの加温期間の長さを上記時間とすることが好ましい。
【0028】
加温工程後に2次照射工程を行う場合、加温工程終了から2次照射工程開始までの時間は、製造時間全体の短縮の観点からできるだけ短いことが好ましい。例えば、加温の停止をできるだけ2次照射工程に近づけて、処理対象物自身の温度や、処理対象物の支持部材等の周辺部材の温度がTB以下となるまでの期間に第2次の光照射を開始することで、加温工程と2次照射工程の時間を十分近づけることができ、あるいは無くすことができる。当該時間は好ましくは5分以内、より好ましくは1分以内である。
また、2次照射工程後に加温工程を行う場合、2次照射工程終了から加温工程開始までの時間は、製造時間全体の短縮の観点からできるだけ短いことが好ましい。例えば、加温の開始をできるだけ2次照射工程に近づけるか、2次照射工程中に加温を開始して、処理対象物自身の温度や、処理対象物の支持部材等の周辺部材の温度をTBに近づけておくことで、2次照射工程と加温工程の時間を十分近づけることができ、あるいは無くすことができる。当該時間は好ましくは20分以内、より好ましくは10分以内である。
【0029】
(加温装置)
上記2次重合工程において加温を行うための加温装置は、光照射装置に内蔵されていても良いし、市販の恒温機であっても良い。
加温の方法には特に制限はなく、処理対象物をヒーター等により直接加温しても良いし、恒温機内に処理対象物を入れて加温してもよいし、恒温槽内に光照射装置を設置して処理対象物を光照射装置ごと加温するようにしても良い。
【0030】
[3次元構造体]
本発明の実施形態に係る3次元構造体は、光硬化性組成物の硬化物である3次元構造体であって、
上記光硬化性組成物が重合性単量体(A)及び重合性単量体(B)を含有し、
重合性単量体(A)のホモポリマーのガラス転移温度TAが40℃以上であり、
重合性単量体(B)のホモポリマーのガラス転移温度TBが35℃未満あり、
下記の条件(1)及び(2)を満たす。
(1)JIS Z 8722:2009、条件cに準拠して、D65光源で測定した黄色度b*が3.0以下である。
(2)JIS T 6501:2012に記載される寸法に従って、上記光硬化性組成物を第1次の光照射によって光造形して板状の試験片を作製し、上記寸法における長辺の長さL0と、上記試験片に対して、第2次の光照射を行うとともに、上記第2次の光照射の前、上記第2次の光照射中、及び上記第2次の光照射後からなる群より選択される少なくとも1つの段階で、TAより低くTBより高い温度TCで上記処理対象物を加温した後の試験片の長辺の長さL2とが、下記の関係を満たす。
・(|L0-L2|/L0)×100≦1.0
【0031】
本実施形態に係る3次元構造体は、上記の条件(1)及び(2)を満たしており、寸法精度が高く、色調に優れたものである。
上記の関係を満たす3次元構造体(Y2)は、上述した3次元構造体の製造方法によって作製することができる。
【0032】
また、上記3次元構造体は、下記の条件(3)を満たすものであってもよい。
(3)JIS T 6501:2012に記載される寸法に従って板状の試験片を作製し、前記試験片の、万能試験機を用いてクロスヘッドスピード5mm/minで測定した曲げ強さB1と、37℃の温水に168時間浸漬した後の前期試験片の、万能試験機を用いてクロスヘッドスピード5mm/minで測定した曲げ強さB2とが、下記の関係を満たす。
・([B1-B2]/B1)×100≦5.0
3次元構造体が条件(3)を満たすことにより、耐水性に優れたものとなる。
【0033】
また、上記3次元構造体は、下記の条件(4)を満たすものであってもよい。
(4)JIS T 6501:2012に記載される寸法に従って板状の試験片を作製し、上記試験片の中心にφ5/8インチSUS304製鋼球を高さ40cmから自由落下させたときに上記試験片が破壊されない。
3次元構造体が条件(4)を満たすことにより、耐衝撃性に優れたものとなる。
上記の条件(3)及び(4)を満たす3次元構造体3次元構造体(Y2)は、上述した3次元構造体の製造方法によって作製することができる。
【0034】
次に、上記3次元構造体の製造方法に用いられる光硬化性組成物(X)について説明する。
【0035】
<光硬化性組成物(X)>
光硬化性組成物(X)は、重合性単量体(A)及び重合性単量体(B)を含有する。そして、重合性単量体(A)のホモポリマーのガラス転移温度TAが40℃以上であり、重合性単量体(B)のホモポリマーのガラス転移温度TBが35℃未満である。
【0036】
<重合性単量体(A)>
上述のとおり、重合性単量体(A)のホモポリマーのガラス転移温度TAは40℃以上である。TAが40℃以上であることにより、重合性単量体(A)を含む光硬化性組成物(X)に剛直な構造が導入されるため、光硬化性組成物(X)の硬化物の寸法精度、強度及び耐水性が優れる傾向となる。
また、3次元構造体(Y2)を歯科用部材として使用することを想定した場合、TAが40℃以上であれば、重合性単量体(A)に由来する構造部が、口腔内の温度37℃前後において、3次元構造体(Y2)の構造の中で拘束点のように作用し、3次元構造体(Y2)の寸法精度を高く保ちつつ、良好な耐衝撃性及び耐水性が得られやすくなる。
【0037】
TAは、上記各物性をより確保しやすくする観点から、50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、70℃以上がさらに好ましい。TAの上限は特に限定されないが、入手容易性の観点から、250℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましく、150℃以下がさらに好ましい。換言すれば、TAは、好ましくは40~250℃であり、より好ましくは50~250℃である。
重合性単量体(A)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
TAは、粘弾性測定装置(レオメーター)や示差走査熱量計(DSC)を用いて従来公知の方法により測定することができる。例えば、回転型レオメータ(TAインスツルメント社製、「AR2000」)を用いて重合性単量体(A)のホモポリマーの動的粘弾性測定を行い、この動的粘弾性測定において、せん断速度を10Hzに設定し、損失正接tanδがピークをとる温度をガラス転移温度TAと決定できる。また、公知の文献値(例:WILEY-INTERSVIENCE出版, J.Brandrup, E.H.Immergut, E.A.Grulke著, POLYMER HANDBOOK OF FOURTH EDITION, Volume 1, VI GLASS TRANSITION TEMPERATURE OF POLYMERS)を採用することもできる。
本明細書においては、実施例に記載の方法でガラス転移温度を測定した。
【0038】
本明細書において、重合性単量体とは、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、スチレン基等の重合性基を含有する化合物を意味し、重合性基を含有していれば、単量体であっても二量体であってもよく、重合体であってもよい。
重合性単量体(A)としては、重合性基を2個以上有する多官能重合性単量体(A1)、及び、重合性基を1個有する単官能重合性単量体(A2)のうち少なくとも一方を用いることができる。中でも、得られる硬化物の寸法精度及び耐水性が優れる観点から、重合性単量体(A)が多官能重合性単量体(A1)を含有することが好ましい。
なお、本明細書において「(メタ)アクリル」との表記は、メタクリルとアクリルの両者を包含する意味で用いられ、これと類似する「(メタ)アクリロイル」、「(メタ)アクリレート」等の表記についても同様である。
【0039】
多官能重合性単量体(A1)としては、環状構造を有しない脂肪族系多官能重合性単量体、環状構造を有する多官能重合性単量体が挙げられる。環状構造としては、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、例えば、ベンゼン環、ビフェニル環、トリフェニルメチル環等の芳香族単独環;ナフタレン環、ペンタレン環、インデン環、インダン環、テトラリン環、アズレン環等の芳香族縮合二環類;as-インダセン環、s-インダセン環、アセナフチレン環、アセナフテン環、フルオレン環、フェナレン環、ペリナフテン環、フェナントレン環、アントラセン環等の炭素縮合三環類が挙げられ、ノルボルナン環、テトラシクロドデカニル環、アダマンタン環、ノルボルネン環、ジシクロペンテニル環、トリシクロドデカニル環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環、シクロデカン環等の飽和炭化水素環;テトラリン環、フルオレン環等の不飽和炭化水素環、ピロリジン環、ピペリジン環等の窒素原子を1個有する飽和単環類;ピペラジン環、メテナミン環、イソシアヌレート環等の窒素原子を2個以上有する飽和単環類;ピロール環、ピリジン環等の窒素原子を1個有する不飽和単環類;イミダゾール環、インダゾール環、イミダゾリン環、ピラゾール環、ピラジン環、ピリミジン環、トリアゾール環、トリアジン環、テトラゾール環等の窒素原子を2個以上有する不飽和単環類;インドール環、イソインドール環、キノリン環、イソキノリン環、カルバゾール環等の窒素原子を1個有する不飽和多環類;ベンゾイミダゾール環、プリン環、ベンゾトリアゾール環、コリン環等の窒素原子を2個以上有する不飽和多環類に代表される窒素原子だけを有するヘテロ環類;モルホリン環、ラクタム環、オキサゾール環、ベンゾオキサジン環、ヒダントイン環、フタロシアニン環等の窒素原子と酸素原子の双方を有するヘテロ環類;チアゾール環、チアジン環、フェノチアジン環等の窒素原子と硫黄原子の双方を有するヘテロ環類が挙げられ、これらの中でも光造形物の寸法精度及び耐水性に優れる観点から、芳香族単独環、芳香族縮合二環類、炭素縮合三環類、飽和炭化水素環、窒素原子を1個有する飽和単環類、窒素原子を2個以上有する飽和単環類、窒素原子と酸素原子の双方を有するヘテロ環類が好ましく、芳香族単独環、芳香族縮合二環類、飽和炭化水素環、不飽和炭化水素環、窒素原子を1個有する飽和単環類がより好ましく、芳香族単独環、飽和炭化水素環、不飽和炭化水素環、窒素原子を1個有する飽和単環類、窒素原子を2個以上有する飽和単環類がより好ましい。
【0040】
多官能重合性単量体(A1)としては、光造形物の寸法精度及び耐水性に優れる点から、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ドデカンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(通称:UDMA)、2,4-トリレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート、ビスヒドロキシエチルメタクリレート-イソホロンジウレタン等の脂肪族系多官能重合性単量体;エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート(エチレンオキシド(EO)付加数:2~10モル%)、2,4-トリレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート、N,N’-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス[2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール]テトラメタクリレート、ヘキサメチレンビス{2-カルバモイルオキシ-3-フェノキシプロピル}ジアクリレート、2,4-トリレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ヘキサアクリレート等の芳香環含有多官能重合性単量体;トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート等の脂環式多官能重合性単量体;トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート等のヘテロ環含有多官能重合性単量体などが挙げられる。エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチレンオキシド(EO)付加数が2.6モル%であるもの(D2.6Eと称することがある)が挙げられる。
【0041】
単官能重合性単量体(A2)としては、芳香環を含有する(メタ)アクリル酸エステル化合物、脂環式(メタ)アクリル酸エステル化合物、窒素原子含有の環状(メタ)アクリル酸エステル化合物、環状(メタ)アクリルアミド化合物等が挙げられる。
【0042】
芳香環を含有する(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、例えば、o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシ化-m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシ化-p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、4-ビフェニリル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸1-ナフチル、(メタ)アクリル酸2-ナフチル、(メタ)アクリル酸アントリル、(メタ)アクリル酸-o-2-プロペニルフェニル、ベンズヒドロール(メタ)アクリレート、クミルフェノール(メタ)アクリレート、フルオレニル(メタ)アクリレート、フルオレニルメチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0043】
脂環式(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸2-(1-アダマンチル)プロピル、(メタ)アクリル酸2-メチルアダマンチル-2-イル、(メタ)アクリル酸2-エチルアダマンチル-2-イル、(メタ)アクリル酸2-n-プロピルアダマンチル-2-イル、(メタ)アクリル酸2-イソプロピルアダマンチル-2-イル、(メタ)アクリル酸1-(アダマンタン-1-イル)-1-メチルエチル、(メタ)アクリル酸1-(アダマンタン-1-イル)-1-エチルエチル、(メタ)アクリル酸1-(アダマンタン-1-イル)-1-メチルプロピル、(メタ)アクリル酸1-(アダマンタン-1-イル)-1-エチルプロピル等が挙げられる。
【0044】
窒素原子含有の環状(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、例えば、ペンタメチルピペリジニル(メタ)アクリレート、テトラメチルピペリジニル(メタ)アクリレート、4-(ピリミジン-2-イル)ピペラジン-1-イル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0045】
環状(メタ)アクリルアミド化合物としては、例えば、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイルピロリジン、N-(メタ)アクリロイルピペリジン、N-(メタ)アクリロイル-2-メチルピペリジン、N-(メタ)アクリロイル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン等が挙げられる。
【0046】
重合性単量体(A)中の重合性単量体(A1)の含有量は、強度及び耐水性の観点から、好ましくは70~100質量%、より好ましくは75~100質量%、更に好ましくは80~100質量%である。
重合性単量体(A)中の重合性単量体(A2)の含有量は、強度及び粘度の観点から、好ましくは0~30質量%、より好ましくは0~25質量%、更に好ましくは0~20質量%である。
光硬化性組成物(X)における重合性単量体(A1)と重合性単量体(A2)との比率は、(A1)/(A2)の質量比で、好ましくは100/0~70/30、より好ましくは100/0~75/25、更に好ましくは100/0~80/20である。
重合性単量体(A)は、重合性単量体(B)に比べてTgが高く、硬質成分であるため、3次元構造体の強度により強く影響を与えやすい。また、重合性単量体(A1)は架橋性が高いことから耐水性を高めやすい。さらに、重合性単量体(A2)は、比較的分子量が小さい傾向にあるため、重合性組成物の粘度を低減させやすく、寸法精度を良好にさせやすい。このため、重合性単量体(A1)と重合性単量体(A2)との比率が上記範囲にあると、両者がバランスよく配合される結果、得られる3次元構造体の強度を確保しつつ、耐水性及び寸法精度を良好にさせやすくなる。
【0047】
<重合性単量体(B)>
上述のとおり、重合性単量体(B)のホモポリマーのガラス転移温度TBは35℃未満である。TBが35℃未満であることにより、重合性単量体(B)を含む光硬化性組成物(X)に柔軟な構造が導入されるため、光硬化性組成物(X)の硬化物の耐衝撃性を高めやすくなる。
また、3次元構造体(Y2)を歯科用部材として使用することを想定した場合、TBが35℃未満であれば、重合性単量体(B)は、口腔内の温度37℃前後において、3次元構造体(Y2)中に柔軟化される構造を含有させることが可能となり、造形物が耐衝撃性に優れたものとなる。
重合性単量体(B)は、多官能重合性単量体(B1)を含有していてもよいし、単官能重合性単量体(B2)を含有していてもよいし、多官能重合性単量体(B1)及び単官能重合性単量体(B2)を含有していてもよい。耐衝撃性及び粘度が優れる傾向となることから、多官能重合性単量体(B1)及び単官能重合性単量体(B2)の両方を含有することが好ましい。
【0048】
重合性単量体(B)のホモポリマーのガラス転移温度TBは35℃未満である。TBが35℃未満であることで、重合性単量体(B)を含む光硬化性組成物(X)に柔軟な構造が導入されるため、光硬化性組成物(X)の硬化物の寸法精度及び耐衝撃性が優れる傾向となる。
TBは、上記各物性をより確保しやすくする観点から、25℃以下が好ましく、15℃以下がより好ましく、5℃以下がさらに好ましい。TBの下限は特に限定されないが、入手容易性の観点から、-100℃以上が好ましく、-80℃以上がより好ましく、-60℃以上がさらに好ましい。換言すれば、TBは、好ましくは-100℃≦TB<35℃であり、より好ましくは-100℃~+25℃である。
重合性単量体(B)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。TBは、TAと同様に測定することができる。
【0049】
多官能重合性単量体(B1)としては、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブタジエングリコールジ(メタ)アクリレート、水添ポリブタジエングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリイソプレングリコールジ(メタ)アクリレート、水添イソプレングリコールジ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー等の多官能重合性単量体などが挙げられる。
上記ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、例えば、ポリエステル系ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリカーボネート系ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリウレタン系ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエーテル系ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリ共役ジエン系ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、及び、水添ポリ共役ジエン系ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが挙げられる。
【0050】
単官能重合性単量体(B2)としては、芳香環を含有する(メタ)アクリル酸エステル化合物、脂肪族(メタ)アクリル酸エステル化合物等が挙げられる。
【0051】
芳香環を含有する(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、例えば、エトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、エトキシ化-m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、エトキシ化-p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、プロポキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、プロポキシ化-m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、プロポキシ化-p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、ブトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、ブトキシ化-m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、ブトキシ化-p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、o-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、p-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、2-(o-フェノキシフェニル)エチル(メタ)アクリレート、2-(m-フェノキシフェニル)エチル(メタ)アクリレート、2-(p-フェノキシフェニル)エチル(メタ)アクリレート、3-(o-フェノキシフェニル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(m-フェノキシフェニル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(p-フェノキシフェニル)プロピル(メタ)アクリレート、4-(o-フェノキシフェニル)ブチル(メタ)アクリレート、4-(m-フェノキシフェニル)ブチル(メタ)アクリレート、4-(p-フェノキシフェニル)ブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。脂肪族(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、ウンデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、パルミトレイル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オレイル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0052】
重合性単量体(B)中の重合性単量体(B1)の含有量は、耐衝撃性及び耐水性の観点から、好ましくは0~30質量%、より好ましくは0~25質量%、更に好ましくは0~20質量%である。
重合性単量体(B)中の重合性単量体(B2)の含有量は、耐衝撃性及び粘度の観点から、好ましくは70~100質量%、より好ましくは80~100質量%、更に好ましくは90~100質量%である。 光硬化性組成物(X)における重合性単量体(B1)と重合性単量体(B2)との比率は、(B1)/(B2)の質量比で、好ましくは30/70~0/100、より好ましくは25/75~0/100、更に好ましくは20/80~0/100である。
重合性単量体(B)は、重合性単量体(A)に比べてTgが低く、軟質成分であるため、3次元構造体の柔軟性や耐衝撃性により強く影響を与えやすい。また、多官能重合性単量体(B1)は架橋性が高いことから耐水性を高めやすい。さらに、単官能重合性単量体(B2)は、比較的分子量が小さい傾向にあるため、重合性組成物の粘度を低減させやすく、寸法精度を良好にさせやすい。このため、多官能重合性単量体(B1)と単官能重合性単量体(B2)との比率が上記範囲にあると、両者がバランスよく配合される結果、得られる3次元構造体の耐衝撃性を確保しつつ、耐水性及び寸法精度を良好にさせやすくなる。
【0053】
重合性単量体(B1)として重合体を用いる場合、その重量平均分子量(Mw)は、耐衝撃性及び粘度の観点から、400~10,000が好ましく、400~7,500がより好ましく、600~5,000がさらに好ましく、800~3,000が特に好ましい。なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で求めたポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。
【0054】
<その他の重合性単量体>
光硬化性組成物(X)には、重合性単量体(A)及び重合性単量体(B)以外の重合性単量体が含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。重合性単量体(A)及び重合性単量体(B)以外の重合性単量体としては、例えば、n-ステアリルメタクリレート(Tg=38℃)が挙げられる。
【0055】
光硬化性組成物(X)中の重合性単量体(A)及び重合性単量体(B)の合計含有量は、上記各物性をより高めやすくする観点から、の観点から、重合性単量体(A)、重合性単量体(B)及びその他の重合性単量体の総量100質量部に対し、好ましくは70質量部以上、より好ましくは80質量部以上、更に好ましくは90質量部以上、より更に好ましくは95質量部以上である。上限に特に制限はなく100質量部でもよいし、製造容易性の観点から、例えば、99質量部以下、あるいは98質量部以下であってもよい。
【0056】
光硬化性組成物(X)に含まれる、重合性単量体(A)の質量MAと重合性単量体(B)の質量MBの比率MA/MBは、上記各物性をバランスよく確保しやすくする観点から、好ましくは50/50~85/15、より好ましくは55/45~80/20、更に好ましくは60/40~75/25である。
【0057】
<光重合開始剤(C)>
光硬化性組成物(X)は、光重合開始剤(C)を含有することが好ましい。光重合開始剤(C)は、一般工業界で使用されている光重合開始剤から選択して使用でき、中でも歯科用途に使用されている光重合開始剤が好ましい。
【0058】
光重合開始剤(C)としては、(ビス)アシルホスフィンオキシド類、チオキサントン類又はチオキサントン類の第4級アンモニウム塩、ケタール類、α-ジケトン類、クマリン類、アントラキノン類、ベンゾインアルキルエーテル化合物、α-アミノケトン系化合物等が挙げられる。光重合開始剤(C)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
中でも、(ビス)アシルホスフィンオキシド類と、α-ジケトン類とからなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、(ビス)アシルホスフィンオキシド類が好ましい。これにより、紫外領域及び可視光域での光硬化性に優れ、レーザー、ハロゲンランプ、発光ダイオード(LED)、及びキセノンランプのいずれの光源を用いても十分な光硬化性を示す光重合性組成物が得られる。
【0060】
(ビス)アシルホスフィンオキシド類のうち、アシルホスフィンオキシド類としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ベンゾイルジ(2,6-ジメチルフェニル)ホスホネート、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドナトリウム塩、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドカリウム塩、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドのアンモニウム塩が挙げられる。ビスアシルホスフィンオキシド類としては、例えば、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,5,6-トリメチルベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド等が挙げられる。さらに、特開2000-159621号公報に記載されている化合物を挙げることができる。
【0061】
これらの(ビス)アシルホスフィンオキシド類の中でも、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、及び2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドナトリウム塩を光重合開始剤(C)として用いることが特に好ましい。
【0062】
α-ジケトン類としては、例えば、ジアセチル、ベンジル、カンファーキノン、2,3-ペンタジオン、2,3-オクタジオン、9,10-フェナントレンキノン、4,4’-オキシベンジル、アセナフテンキノンが挙げられる。この中でも、可視光域の光源を使用する場合には、カンファーキノンが特に好ましい。
【0063】
光硬化性組成物(X)における光重合開始剤(C)の含有量は特に限定されないが、得られる光硬化性樹脂組成物の硬化性等の観点から、重合性単量体(A)、重合性単量体(B)及びその他の重合性単量体の総量100質量部に対し、光重合開始剤(C)が0.01~20質量部が好ましい。光重合開始剤(C)の含有量が0.01質量部以上であれば、重合が十分に進行し、光造形物を得やすくなる。光重合開始剤(C)の含有量は、前記総量100質量部に対し、0.05質量部以上がより好ましく、0.1質量部以上がさらに好ましく、0.5質量部以上が特に好ましい。一方、光重合開始剤(C)の含有量が20質量部以下であれば、重合開始剤自体の溶解性が低くても、光硬化性組成物からの析出が生じにくくなる。光重合開始剤(C)の含有量は、前記総量100質量部に対し、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましく、5.0質量部以下が特に好ましい。
【0064】
<その他の成分>
光硬化性組成物(X)には、本発明の効果を妨げない範囲で、1種又は2種以上の他の成分をさらに含んでいてもよい。例えば、重合禁止剤、光重合開始剤と併用するための増感剤や連鎖移動剤、酸素クエンチャー等が更に配合されていてもよい。また、力学物性や組成物の粘度の調整を目的として、公知の添加剤を配合することができる。かかる添加剤としては、例えば、無機粒子、有機粒子、有機溶媒、増粘剤が挙げられる。
その他の成分の配合量に特に限定はなく、必要な効果を得られやすくする観点から、光硬化性組成物(X)100質量部中、好ましくは0.01~5.0質量部、より好ましくは0.05~3.0質量部、さらに好ましくは0.1~2.0質量部である。
【実施例0065】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変更が本発明の技術的思想の範囲内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0066】
実施例又は比較例に係る光硬化性組成物に用いた各成分を略号とともに以下に説明する。
【0067】
[TAが40℃以上である多官能重合性単量体(A1)]
・UDMA:2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(共栄社化学株式会社製、TA=95℃)
・D2.6E:2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(エトキシ基の平均付加モル数:2.6)(新中村化学社製「BPE-100」、TA=85℃)
【0068】
[TAが40℃以上である単官能重合性単量体(A2)]
・PMPMA:ペンタメチルピペリジニルメタクリレート(株式会社アデカ製、液体、TA=105℃)
【0069】
[TBが35℃未満である単官能重合性単量体(B2)]
・EPPA:エトキシ化-o-フェニルフェノールアクリレート(新中村化学工業株式会社製、A-LEN-10、TB=33℃)
【0070】
[光重合開始剤(C)]
・TPO:2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド
・BAPO:ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド
【0071】
[重合禁止剤]
・BHT:3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン
【0072】
<合成例1:TBが35℃未満である多官能重合性単量体(B1)-1の製造>
撹拌機、温度調節器、温度計及び凝縮器を備えた内容積5Lの四つ口フラスコ(1)に、イソホロンジイソシアネート250g、及びジラウリル酸ジ-n-ブチルスズ0.15gを添加して、撹拌下に70℃に加熱した。
一方、ポリエステルポリオール(株式会社クラレ製「クラレポリオール(登録商標) P-2050」;セバシン酸と3-メチル-1,5-ペンタンジオールからなるポリオール、重量平均分子量Mw2,000)2,500gを側管付きの滴下漏斗に添加し、この滴下漏斗の液を、上記(1)のフラスコ中に滴下した。なお、上記(1)のフラスコ中の溶液を撹拌しつつ、フラスコの内温を65~75℃に保持しながら4時間かけて等速で滴下した。さらに、滴下終了後、同温度で2時間撹拌して反応させた。
次いで、別の滴下漏斗に添加した2-ヒドロキシエチルアクリレート150gとヒドロキノンモノメチルエーテル0.4gとを均一に溶解させた液をフラスコの内温を55~65℃に保持しながら2時間かけて等速で滴下した後、フラスコ内の溶液の温度を70~80℃に保持しながら4時間反応させることにより、多官能重合性単量体(B1)-1を得た。GPC分析による多官能重合性単量体(B1)-1の重量平均分子量Mwは2,600、多官能重合性単量体(B1)-1のホモポリマーのガラス転移温度TBは-30℃であった。
【0073】
<ガラス転移温度の測定>
上記各重合性単量体のホモポリマーを準備し、回転型レオメータ(TAインスツルメント社製、「AR2000」)を用いて、各ホモポリマーの動的粘弾性測定を行った。この動的粘弾性測定において、せん断速度を10Hzに設定し、損失正接tanδがピークをとる温度を、各ホモポリマーのガラス転移温度とした。
【0074】
<重量平均分子量の測定>
上記重合性単量体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算の値として算出した。
【0075】
<参考例1:光硬化性組成物(X)-1の製造>
2Lの褐色広口ポリエチレン製の瓶に、UDMA 650質量部、多官能重合性単量体(B1)-1 50質量部、EPPA 300質量部、TPO 20質量部、BHT5.0質量部を投入し、メカニカル撹拌機を挿入して、50℃で6時間撹拌して、完全に溶解したことを確認した。得られた組成物を光硬化性組成物(X)-1とした。
【0076】
<参考例2:光硬化性組成物(X)-2の製造>
2Lの褐色広口ポリエチレン製の瓶に、D2.6E 650質量部、多官能重合性単量体(B1)-1 50質量部、EPPA 300質量部、TPO 20質量部、BHT 5.0質量部を投入し、メカニカル撹拌機を挿入して、50℃で6時間撹拌して、完全に溶解したことを確認した。得られた組成物を光硬化性組成物(X)-2とした。
【0077】
<参考例3:光硬化性組成物(X)-3の製造>
2Lの褐色広口ポリエチレン製の瓶に、UDMA 600質量部、PMPMA 100質量部、EPPA 300質量部、TPO 20質量部、BHT 5.0質量部を投入し、メカニカル撹拌機を挿入して、50℃で6時間撹拌して、完全に溶解したことを確認した。得られた組成物を光硬化性組成物(X)-3とした。
【0078】
<参考例4:光硬化性組成物(X)-4の製造>
2Lの褐色広口ポリエチレン製の瓶に、UDMA 650質量部、EPPA 300質量部、BAPO 20質量部、BHT 5.0質量部を投入し、メカニカル撹拌機を挿入して、50℃で6時間撹拌して、完全に溶解したことを確認した。得られた組成物を光硬化性組成物(X)-4とした。
光硬化性組成物(X)-1~(X)-4の組成を表1に示す。
【0079】
【0080】
[実施例1]
光硬化性組成物(X)-1について、光造形機(DWS社製 DIGITALWAX(登録商標) 020D)を用いて、後述する試験片の寸法データに従って光造形した。得られた光造形物を、エタノールで洗浄し、付着している未重合の重合性単量体を除去し、第1の硬化状態にある試験片を得た。この試験片を40℃の恒温槽に入れて20分間加温した後、直ちに取り出し、光照射機(EnvisionTEC社製 Otoflash(登録商標)G171)を用いて、第2次の光照射として25℃で3.5分の間に2,000回光照射した。そして、直ちに40℃の恒温槽に入れて20分間加温して、2次重合工程を完了し、3次元構造体を得た。本実施例においては、上記試験片は恒温槽内への投入から約10分後に40℃に到達したので、40℃の加温時間の合計は、光照射前の10分に光照射後の10分を加えた20分であった。
【0081】
[実施例2]
第2次の光照射前及び第2次の光照射後の加温温度をそれぞれ60℃にしたこと以外は実施例1と同様の手順で3次元構造体を得た。本実施例においては、上記試験片は恒温槽内への投入から約10分後に60℃に到達したので、60℃の加温時間の合計は、光照射前の10分に光照射後の10分を加えた20分であった。
【0082】
[実施例3]
第2次の光照射前及び第2次の光照射後の加温温度をそれぞれ80℃にしたこと以外は実施例1と同様の手順で3次元構造体を得た。本実施例においては、上記試験片は恒温槽内への投入から約10分後に80℃に到達したので、80℃の加温時間の合計は、光照射前の10分に光照射後の10分を加えた20分であった。
【0083】
[実施例4]
実施例1の第1の硬化状態にある試験片を、60℃の恒温槽に入れて、20分経過した後、恒温槽内で第2次の光照射を開始し、この第2次の光照射の完了後、直ちに取り出すことにより、加温と第2次の光照射を同時に実施したこと以外は実施例1と同様の手順で3次元構造体を得た。本実施例においては、上記試験片は恒温槽内への投入から約10分後に60℃に到達したので、60℃の加温時間の合計は、光照射前の10分に光照射中の3.5分を加えた13.5分であった。
【0084】
[実施例5]
第2次の光照射前及び第2次の光照射後の加温温度をそれぞれ60℃としたこと、及び光硬化性組成物(X)-1を光硬化性組成物(X)-2に変更したこと以外は実施例1と同様の手順で3次元構造体を得た。本実施例においては、上記試験片は恒温槽内への投入から約10分後に60℃に到達したので、60℃の加温時間の合計は、光照射前の10分に光照射後の10分を加えた20分であった。
【0085】
[実施例6]
第2次の光照射前及び第2次の光照射後の加温温度をそれぞれ60℃としたこと、及び光硬化性組成物(X)-1を光硬化性組成物(X)-3に変更したこと以外は、実施例1と同様の手順で3次元構造体を得た。本実施例においては、上記試験片は恒温槽内への投入から約10分後に60℃に到達したので、60℃の加温時間の合計は、光照射前の10分に光照射後の10分を加えた20分であった。
【0086】
[実施例7]
第2次の光照射前のみ加温したこと、及び加温温度を60℃としたこと以外は、実施例1と同様の手順で3次元構造体を得た。本実施例においては、上記試験片は恒温槽内への投入から約10分後に60℃に到達したので、60℃の加温時間は10分であった。
【0087】
[実施例8]
第2次の光照射後のみ加温したこと、及び加温温度を60℃としたこと以外は、実施例1と同様の手順で3次元構造体を得た。本実施例においては、上記試験片は恒温槽内への投入から約10分後に60℃に到達したので、60℃の加温時間は10分であった。
【0088】
[実施例9]
光硬化性組成物(X)-1を光硬化性組成物(X)-4に変更したこと、及び加温温度を60℃としたこと以外は、実施例1と同様の手順で3次元構造体を得た。本実施例においては、上記試験片は恒温槽内への投入から約10分後に60℃に到達したので、60℃の加温時間の合計は、光照射前の10分に光照射後の10分を加えた20分であった。
【0089】
[比較例1]
光照射前及び光照射後の加温温度を30℃としたこと、及び光硬化性組成物(X)-1を光硬化性組成物(X)-3に変更したこと以外は、実施例1と同様の手順で3次元構造体を得た。本比較例においては、上記試験片は恒温槽内への投入から約10分後に30℃に到達したので、30℃の加温時間の合計は、光照射前の10分に光照射後の10分を加えた20分であった。
【0090】
[比較例2]
光照射前及び光照射後の加温温度を120℃にしたこと以外は、実施例1と同様の手順で3次元構造体を得た。本比較例においては、上記試験片は恒温槽内への投入から約10分後に120℃に到達したので、120℃の加温時間の合計は、光照射前の10分に光照射後の10分を加えた20分であった。
【0091】
[比較例3]
加温することなく25℃の環境下で第2次の光照射を行ったこと、及び光照射の回数を4,000回としたこと以外は、実施例1と同様の手順で3次元構造体を得た。
【0092】
<寸法精度>
参考例1~4の光硬化性組成物について、光造形機(DWS社製 DIGITALWAX(登録商標) 020D)を用いて、JIS T 6501:2012(義歯床用アクリル系レジン)に記載の寸法(長さ64.0mm、幅10.0mm、厚さ3.3mm)に従って光造形を行い、板状の光造形物を5個作製した。得られた光造形物を、エタノールで洗浄して未重合の重合性単量体を除去した後、各実施例及び比較例に記載した手順で2次重合(第2次の光照射及び加温)を行うことによって試験片を得た。
上記試験片の長辺をノギス用いて寸法(単位:mm)を測定し、上記JIS規格に記載の寸法における長辺の長さをL0とし、上記試験片の測定寸法をL2として、下記の式により寸法精度を算出した。この方法により測定及び算出された寸法精度の値が1.0%以下である場合、寸法精度に優れ、歯科用マウスピース、義歯床等を造形した場合に、適合性に優れたものとなりやすい。
寸法精度(%)=(|L0-L2|/L0)×100
【0093】
<耐水性>
上述した寸法精度の測定と同じ手順で試験片を10個作製し、その内、5個を空気中で1日保管後、曲げ強さ試験を行って評価した。曲げ強さ試験は、万能試験機(株式会社島津製作所製、オートグラフAG-I 100kN)を用いて、クロスヘッドスピード5mm/minで実施した。5点の測定値の算術平均値を初期値B1とした。結果を「初期の曲げ強さ」として表2に示す。
試験片の曲げ強さとしては、70MPa以上が好ましく、80MPa以上がより好ましい。
上記試験片の残りの5個を37℃の温水に168時間浸漬した後、曲げ強さを測定した。5点の測定値の算術平均値を耐水試験後の曲げ強さB2とした。結果を「浸漬後の曲げ強さ」として表2に示す。上記初期の曲げ強さB1に対する、37℃水中浸漬168時間後の曲げ強さB2の変化率(低下率)が5%以下であれば耐水性に優れる3次元構造体であると判断できる。表2において、下記式で算出される曲げ強さの変化率を「耐水性」として示す。
曲げ強さの変化率(低下率)(%)=([B1-B2]/B1)×100
【0094】
<耐衝撃性>
上述した寸法精度の測定と同じ手順で試験片を1個作製し、各実施例及び各比較例に係る光硬化性組成物の試験片を曲げ試験と同様に万能試験機に設置し、φ5/8インチSUS304製鋼球を高さ40cmから自由落下させ、試験片の中心に衝突させた。この試験で、試験片が破壊しないことが好ましい。硬化物が破壊しなかった場合を耐衝撃性が良好「G」とし、硬化物が破壊した場合を耐衝撃性が悪い「NG」とした。
【0095】
<色調>
各参考例の光硬化性組成物について、上記光造形機を用いて、直径15.0mm×厚さ1.0mmのディスク状の光造形物を作製した。得られた光造形物をエタノールで洗浄して未重合の重合性単量体を除去した後、各実施例及び比較例に記載した手順で、光照射機(EnvisionTEC社製 Otoflash(登録商標)G171)を用いて、2次重合(第2次の光照射及び加温)を行うことによって3次元構造体を得た。得られた3次元構造体をシリコンカーバイド紙1000番で研磨し、続いて歯科用ラッピングフィルム(3M社製)で研磨した後、分光測色計(コニカミノルタ株式会社製、SPECTROPHOTOMETER CM-3610A、JIS Z 8722:2009、条件cに準拠、D65光源)を用いて、黄色度b*値を測定し、算術平均値を得た(n=5)。前記平均値を表2に示す。
上記黄色度b*値が3.0以下である場合、歯科用マウスピース、義歯床等の歯科用部材を作製した場合に、目視で無色と認識されやすい。
【0096】
【0097】
表2から、実施例1~9の方法で製造した3次元構造体は、寸法精度、耐水性、耐衝撃性及び色調に優れていることが判る。特に、実施例1~9の方法で製造した3次元構造体の耐水性及び色調は、加温温度TCが重合性単量体(B)のホモポリマーのガラス転移温度TBより低い比較例1の方法で製造した3次元構造体より優れていることが判る。
また、実施例1~9の方法で製造した3次元構造体の寸法精度及び耐衝撃性は、加温温度TCが重合性単量体(A)のホモポリマーのガラス転移温度TAより高い比較例2の方法で製造した3次元構造体より優れていることが判る。
また、実施例1~9の方法で製造した3次元構造体の耐水性、耐衝撃性、及び色調は、加温温度を行わない比較例3の方法で製造した3次元構造体より優れていることが判る。
本発明の3次元構造体の製造方法は、寸法精度、耐水性及び耐衝撃性に優れ、着色がなく色調が良好な3次元構造体(Y2)を得ることが可能である。このため、3次元構造体に高い精度が求められることに加えて、耐水性や耐衝撃性が求められ、かつ審美性も要求される用途に適しており、特に、歯科用マウスピース及び義歯床を作製するのに好適に利用することができる。