(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094634
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】車両構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20240703BHJP
【FI】
B62D25/20 F
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211303
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 英二
(72)【発明者】
【氏名】宮岡 恭平
(72)【発明者】
【氏名】稲村 茂男
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA04
3D203BB12
3D203BB16
3D203BB17
3D203BB22
3D203CA25
3D203CA37
3D203CA43
3D203CA58
3D203CA69
3D203DA35
(57)【要約】
【課題】スライドドアに衝撃が作用したときに基幹部材がダメージを受け難い車両構造を提供する。
【解決手段】フロアと、車両の側部に配置されたロッカから前記車両の内方に向かって突出するスライドドアの戸袋と、前記車両を側方から見て前記戸袋に重複するように前記戸袋よりも前記内方に配置された基幹部材と、前記フロアにおける前記戸袋と前記基幹部材との間の位置に配置されるガイド部材とを備え、前記ガイド部材は、前記内方に向かうに従って前記車両の上方または前記車両の下方に傾斜する傾斜面を有する、車両構造。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロアと、
車両の側部に配置されたロッカから前記車両の内方に向かって突出するスライドドアの戸袋と、
前記車両を側方から見て前記戸袋に重複するように前記戸袋よりも前記内方に配置された基幹部材と、
前記フロアにおける前記戸袋と前記基幹部材との間の位置に配置されるガイド部材とを備え、
前記ガイド部材は、前記内方に向かうに従って前記車両の上方または前記車両の下方に傾斜する傾斜面を有する、
車両構造。
【請求項2】
前記戸袋に対応する位置で車幅方向に延びるフロアクロスメンバと、
前記車両の側方からの衝撃を吸収するための補強部材とを備え、
前記補強部材は、
前記フロアクロスメンバに接合されたベース部と、
前記ベース部から分岐し、前記ロッカまたは前記ロッカに接合された部材に接合された複数の分岐部とを備え、
前記複数の分岐部は、第一分岐部と第二分岐部とを備え、
前記第一分岐部の接合端部は、前記フロアクロスメンバよりも前記車両の前方に配置されており、
前記第二分岐部の接合端部は、前記フロアクロスメンバよりも前記車両の後方に配置されている、請求項1に記載の車両構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライドドアを有する車両構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、スライドドアを有する車両構造を開示する。スライドドアは、車両の前後方向にスライドする。特許文献1の
図3に示されるように、スライドドアは支持アームに支持され、支持アームは案内レールに走行可能に支持されている。案内レールの前部は、車両の前方に向かうに従って車両の内方に湾曲している。
【0003】
案内レールは、車室内に露出しないように、延出部に収納されている。延出部は、車両の側方に配置されたロッカから車両の内方に向かって突出している。延出部は戸袋とも呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両の側突時にスライドドアに衝撃が作用すると、戸袋が車両の内方に向かって移動する場合がある。戸袋よりも車両の内方には、車両の基幹部材が配置されている。基幹部材は例えば、車両を走行させる駆動系の構成部品、または車両を停止させる制動系の構成部品である。車両の側方から見て、基幹部材が戸袋に重複するように配置されていた場合、側突時に車両の内方に移動した戸袋が基幹部材にダメージを与えるおそれがある。
【0006】
本発明の目的の一つは、スライドドアに衝撃が作用したときに基幹部材がダメージを受け難い車両構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る車両構造は、
フロアと、
車両の側部に配置されたロッカから前記車両の内方に向かって突出するスライドドアの戸袋と、
前記車両を側方から見て前記戸袋に重複するように前記戸袋よりも前記内方に配置された基幹部材と、
前記フロアにおける前記戸袋と前記基幹部材との間の位置に配置されるガイド部材とを備え、
前記ガイド部材は、前記内方に向かうに従って前記車両の上方または前記車両の下方に傾斜する傾斜面を有する。
【0008】
上記車両構造において、
前記戸袋に対応する位置で車幅方向に延びるフロアクロスメンバと、
前記車両の側方からの衝撃を吸収するための補強部材とを備え、
前記補強部材は、
前記フロアクロスメンバに接合されたベース部と、
前記ベース部から分岐し、前記ロッカまたは前記ロッカに接合された部材に接合された複数の分岐部とを備え、
前記複数の分岐部は、第一分岐部と第二分岐部とを備え、
前記第一分岐部の接合端部は、前記フロアクロスメンバよりも前記車両の前方に配置されており、
前記第二分岐部の接合端部は、前記フロアクロスメンバよりも前記車両の後方に配置されていても良い。
【発明の効果】
【0009】
上記車両構造において、ガイド部材は、側突時に車両の内方に移動する戸袋を上方または下方に変位させる。そのため、戸袋が基幹部材にダメージを与える可能性が大幅に低減される。また、ガイド部材は、戸袋の周辺のパネルを厚くするよりも、コスト、重量、および生産性の点で有利である。
【0010】
上記補強部材を備える車両構造では、側突の衝撃の一部が、補強部材によってフロアクロスメンバに伝達される。ここで、補強部材の第一分岐部と第二分岐部とが、車両の長さ方向に沿ったフロアクロスメンバの幅の中心をまたぐように配置されていることで、補強部材に伝わった側突の衝撃は、補強部材のベース部に集約されて、クロスメンバに伝達される。フロアクロスメンバは、フロアクロスメンバの延伸方向からの衝撃に耐性を有するため、変形し難い。従って、フロアクロスメンバがスライドドアの内方への移動を抑制し、その結果、戸袋の内方への移動も抑制される。フロアクロスメンバが変形し難いことで、フロアクロスメンバの近傍に配置されるガイド部材が変形し難く、ガイド部材の機能が維持され易い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態に係る車両構造の概略上面図である。
【
図3】
図3は、
図1における戸袋近傍の部分拡大斜視図である。
【
図4】
図4は、
図1における戸袋近傍の一部分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る車両構造の実施形態の一例を図面に基づいて説明する。図中の『FR』は車両の前方を、『RR』は車両の後方を、『UP』は車両の上方、『LWR』は車両の下方、『LH』は車両の左方を、『RH』は車両の右方を示す。図中の同一符号は同一又は相当部分を示す。各図面が示す部材の大きさは、説明を明確にする目的で表現されており、必ずしも実際の寸法を表すものではない。なお、本発明は以下の例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0013】
<実施形態1>
図1には、車両の上方から見た実施形態の車両構造1が示されている。本例の車両構造1は、図示しないシートが載置されるフロア2を備える。フロア2の上には、二本のフロアクロスメンバ20,21が配置されている。フロアクロスメンバ20,21は、フロア2の下に配置されていても良い。
【0014】
フロア2の側方、すなわち車両の側部にはロッカ3が配置されている。
図2に示されるように、ロッカ3は、車両の内方に向かって配置されるロッカインナ30と、車両の外方に向かって配置されるロッカアウタ31とを備える。
図1にはロッカインナ30のみが図示されている。ロッカ3はサイドシルとも呼ばれる。フロア2の車幅方向の端部はロッカインナ30に接合されている。ここで、
図2は、
図1のII-II断面を車両の前方から見た図であり、
図2の右側が車両の左方、
図2の左側が車両の右方である。この点は、
図3および
図4でも同様である。
【0015】
フロア2の下方には基幹部材4が配置されている。基幹部材4は、駆動系の構成部品または制動系の構成部品である。基幹部材4の具体例は例えば、バッテリ、バッテリにつながる高電圧ワイヤハーネス、燃料タンク、燃料パイプ、およびブレーキホースである。本例の基幹部材4は、図示しないブラケットによってサイドメンバ5に連結されている。本例の基幹部材4はバッテリである。バッテリは、電池本体、冷却装置、および制御装置を含む。基幹部材4の種類によっては、基幹部材4はフロア2の上方に配置されることもある。サイドメンバ5は、後述する戸袋39よりも下方に配置されている。
【0016】
本例のロッカ3には戸袋39が配置されている。戸袋39は、スライドドア9の支持アーム90を内部に収納する部材である。戸袋39の大部分がロッカ3の中空空間に配置され、戸袋39の一部がロッカ3から車両の内方に向かって突出している(
図4を合わせて参照)。本例の戸袋39はフロア2よりも上方に配置されているが、フロア2よりも下方に配置されていても良い。車両の側方から見てこの戸袋39に基幹部材4の少なくとも一部が重複して配置されている。車両の側突時に車両の側方からスライドドア9に衝撃が作用すると、戸袋39が基幹部材4に衝突する恐れがある。本例の車両構造1は、戸袋39が基幹部材4に衝突する可能性を低減する構成がいくつか備わっている。以下、その構成を順次説明する。
【0017】
≪ガイド部材≫
第一の構成は、フロア2における戸袋39と基幹部材4の間の位置に配置されるガイド部材6である。本例のガイド部材6は、フロア2における段差が形成されている部分に配置されている。本例とは異なり、ガイド部材6はフロア2自身によって構成されていても良い。
【0018】
本例のガイド部材6は、車両の内方に向かうに従って車両の上方に傾斜する傾斜面6sを備える。
図4の分解斜視図に示されるように、本例のガイド部材6は、平板の第一縁部61と第二縁部62とを互いに逆方向に折り曲げることで形成されている。平板における第一縁部61と第二縁部62とで挟まれる部分の上面が上記傾斜面6sである。第一縁部61は車両の外方側に配置されるフロア2の低部2Lに接合されている。第二縁部62は車両の内方側に配置されるフロア2の高部2Hに接合されている。接合は例えば、焼抜き栓溶接(SPW)によって実施されても良いし、アーク溶接によって実施されても良い。
【0019】
図2に示されるように、傾斜面6sの上端は、基幹部材4の上端よりも上に位置している。また、傾斜面6sの下端は、戸袋39におけるロッカ3から突出している部分の下端よりも下に位置している。このような傾斜面6sには、側突によって車両の内方に移動した戸袋39が接触し易い。傾斜面6sに接触した戸袋39は、傾斜面6sに沿って斜め上方に移動する。そのため、戸袋39は基幹部材4に衝突し難い。本例とは異なり、傾斜面6sは、車両の内方に向かうに従って車両の下方に傾斜していても良い。この場合、傾斜面6sの上端は、戸袋39におけるロッカ3から突出している部分の上端よりも上に位置し、傾斜面6sの下端は、基幹部材4の下端よりも下に配置されていることが望ましい。
【0020】
≪フロアボックス≫
第二の構成は、
図2から
図4に示されるフロアボックス7である。フロアボックス7は、車両の外方に向かう部分が開口したボックス形状の部材である。フロアボックス7は、
図2に示されるようにボックスロア70とボックスアッパ71とで構成されている。ボックスロア70は、
図4に示されるように、底部と三つの壁部とで構成され、車両の外方を向く開口と、上方を向く開口とを備える。三つの壁部の上端にはフランジ部70Fが形成されている。
図2に示されるように、本例のボックスロア70の底部は、ガイド部材6の傾斜面6sに沿った形状を有し、傾斜面6sに接触する傾斜部70sを備える。
【0021】
ボックスアッパ71は板状の部材である。ボックスアッパ71の内方縁部は、ボックスロア70のフランジ部70Fに接合されている。一方、ボックスアッパ71の外方縁部71Fは、ロッカ3に接合されている。ボックスアッパ71によってボックスロア70の上部の開口が封止されている。
【0022】
車両の外方に向くフロアボックス7の開口は、ロッカ3に向き合う。ロッカ3から突出する戸袋39は、フロアボックス7の内部空間に配置されている。フロアボックス7は、ガイド部材6と共に、車両の内方に移動する戸袋39を上方に逸らす役割を担う。また、フロアボックス7は、車両の内方に移動する戸袋39の衝撃を受け止め、ガイド部材6が損傷することを抑制する。その結果、フロアボックス7が損傷してもガイド部材6によって戸袋39を上方に逸らすことができ、戸袋39が基幹部材4に衝突する可能性が低減される。フロアボックス7は必須の構成ではない。
【0023】
≪補強部材≫
第三の構成は、車両の側方からの衝撃を吸収する補強部材8である。補強部材8は、
図3に示されるように、ベース部80と、ベース部80から分岐する第一分岐部81および第二分岐部82とを備える。補強部材8の分岐部の数は三つ以上であっても良い。
【0024】
ベース部80は、戸袋39におけるロッカ3から突出する部分に対応する位置に配置されるフロアクロスメンバ20に接合されている。第一分岐部81および第二分岐部82は、ロッカ3に接合されたフロアボックス7に接合されている。第一分岐部81の接合端部は、フロアクロスメンバ20よりも車両の前方に配置されている。第二分岐部82の接合端部は、フロアクロスメンバ20よりも車両の後方に配置されている。本例では、第一分岐部81および第二分岐部82は、ねじによってフロアボックス7のボックスアッパ71に接合されているが、溶接などで接合されていても良い。また、第一分岐部81および第二分岐部82はロッカ3に接合されていても良い。
【0025】
補強部材8は、側突の衝撃の一部をフロアクロスメンバ20に伝達する。従って、スライドドア9の内方への移動が抑制され、その結果、戸袋39の内方への移動も抑制される。ここで、補強部材8の第一分岐部81と第二分岐部82とが、車両の長さ方向に沿ったフロアクロスメンバ20の幅の中心をまたぐように配置されていることで、補強部材8に伝わった側突の衝撃は、補強部材8のベース部80に集約されて、フロアクロスメンバ20に伝達される。フロアクロスメンバ20は、フロアクロスメンバ20の延伸方向からの衝撃に耐性を有するため、変形し難い。フロアクロスメンバ20が変形し難いことで、フロアクロスメンバ20の近傍に配置されるガイド部材6が変形し難く、ガイド部材6の機能が維持され易い。
【0026】
≪側突時の戸袋の挙動≫
図2に示されるスライドドア9に側方から衝撃が作用した場合、戸袋39が車両の内方に移動し、フロアボックス7の内周面に衝突する。戸袋39は、フロアボックス7の傾斜部70sとガイド部材6の傾斜面6sにガイドされ、斜め上方に移動する。その結果、戸袋39が基幹部材4に衝突することが抑制される。また、戸袋39が斜め上方に移動する際、スライドドア9と支持アーム90とのつなぎ目がV字状に折れ、車両の内方側の支持アーム90の端部が上方に向く。従って、支持アーム90が戸袋39を突き破って基幹部材4に衝突することも抑制される。
【符号の説明】
【0027】
1 車両構造
2 フロア
2H 高部
2L 低部
20,21 フロアクロスメンバ
3 ロッカ
30 ロッカインナ
31 ロッカアウタ
39 戸袋
4 基幹部材
5 サイドメンバ
6 ガイド部材
6s 傾斜面
61 第一縁部
62 第二縁部
7 フロアボックス
70 ボックスロア
71 ボックスアッパ
70F フランジ部
70s 傾斜部
71F 外方縁部
8 補強部材
80 ベース部
81 第一分岐部
82 第二分岐部
9 スライドドア
90 支持アーム