(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094651
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】人工涙液型点眼剤組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 9/08 20060101AFI20240703BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240703BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20240703BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20240703BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20240703BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240703BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240703BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240703BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20240703BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240703BHJP
A61P 27/04 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
A61K9/08
A61K47/02
A61K47/38
A61K47/32
A61K47/34
A61K47/36
A61K47/26
A61K47/18
A61K47/20
A61K47/10
A61P27/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211328
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】599043770
【氏名又は名称】佐賀製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】宮田 悟
(72)【発明者】
【氏名】江村 智佐登
【テーマコード(参考)】
4C076
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB24
4C076CC10
4C076DD19R
4C076DD23
4C076DD24
4C076DD25
4C076DD26
4C076DD34
4C076DD37
4C076DD37E
4C076DD49R
4C076DD51
4C076DD57
4C076DD67G
4C076EE23G
4C076EE32G
4C076EE38G
4C076FF17
4C076FF70
(57)【要約】
【課題】清涼感を有する、保湿効果に優れた人工涙液型点眼剤を提供する。
【解決手段】人工涙液型点眼剤組成物は、(A)無機塩類、(B)粘稠剤、(C)アミノ酸類、(D)エタノール、及び(E)清涼化剤を含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)無機塩類、(B)粘稠剤、(C)アミノ酸類、(D)エタノール、及び(E)清涼化剤を含有する人工涙液型点眼剤組成物。
【請求項2】
(A)の無機塩類が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、及びリン酸水素ナトリウムからなる群より選択される一種以上である、請求項1に記載の人工涙液型点眼剤組成物。
【請求項3】
(B)の粘稠剤が、セルロース系高分子化合物、ビニル系高分子化合物、ポリエチレングリコール、デキストラン、及びそれらの塩、ならびにブドウ糖からなる群より選択される一種以上である、請求項1又は2に記載の人工涙液型点眼剤組成物。
【請求項4】
(B)の粘稠剤が、ヒロドキシプロピルメチルセルロース及びブドウ糖である、請求項1~3のいずれか1項に記載の人工涙液型点眼剤組成物。
【請求項5】
(C)成分のアミノ酸類が、アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸マグネシウム・カリウム(等量混合物)、及びタウリンからなる群より選択される一種以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の人工涙液型点眼剤組成物。
【請求項6】
(A)成分の無機塩類の配合量は、人工涙液型組成物の総量に対し、塩化ナトリウムが0.05~2(w/v)%、塩化カリウムが0.05~1(w/v)%、塩化カルシウムが0~0.5(w/v)%、硫酸マグネシウムが0~0.1(w/v)%、リン酸水素ナトリウムが0.05~0.8(w/v)%、であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の人工涙液型点眼剤組成物。
【請求項7】
(B)成分の粘稠剤がヒロドキシプロピルメチルセルロースであり、(C)成分のアミノ酸類がタウリンであることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の人工涙液型点眼剤組成物。
【請求項8】
タウリン1重量部に対して、ヒロドキシプロピルメチルセルロースが0.3~3重量部であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の人工涙液型点眼剤組成物。
【請求項9】
人工涙液型点眼剤組成物の総量に対し、(D)成分のエタノールを0.1~5(v/v)%、(E)成分の清涼化剤を0.004~0.05(w/v)%含有し、該清涼化剤に対する該エタノールの比率(清涼化剤/エタノール×100)が1~10(w/v)%であることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の人工涙液型点眼剤組成物。
【請求項10】
清涼化剤が、メントール、ボルネオ―ル、クロロブタノール、及びカンフルからなる群より選択される一種以上であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載の人工涙液型点眼剤組成物
【請求項11】
人工涙液型点眼剤組成物の総量に対し、(A)成分の無機塩類として、塩化ナトリウムを0.05~2(w/v)%、塩化カリウムを0.05~1(w/v)%、塩化カルシウムを0~0.5(w/v)%、硫酸マグネシウムを0~0.1(w/v)%、リン酸水素ナトリウムを0.05~0.8(w/v)%;(B)成分の粘稠剤として、ヒロドキシプロピルメチルセルロースを0.01~0.5(w/v)%、ブドウ糖を0.001~0.5(w/v)%;(C)成分のアミノ酸類として、タウリンを0.01~1(w/v)%、L-アスパラギン酸カリウムを0.01~1(w/v)%;(D)成分のエタノールを0.1~5(v/v)%、(E)成分の清涼化剤を0.004~0.05(w/v)%含有することを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項に記載の人工涙液型点眼剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エタノール及び清涼化剤を含有し、人工涙液としての効果に優れ、更に保湿性にも優れた人工涙液型点眼剤組成物を提供する。さらに詳しくは、本発明は、清涼化剤としてメントール、カンフル、ボルネオ―ル、クロロブタノール等を含有し、人の涙の組成に近く、溶解剤としてエタノールを含有し、界面活性剤を含有しない、例えば目のかわき(ドライアイ)に効果的な水分蒸発を抑えた人工涙液型点眼剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、人工涙液は、目の疲れ、涙液の補助(目のかわき)、ハードコンタクトレンズ又はソフトコンタクトレンズを装着しているときの不快感、目のかすみ(目やにの多いときなど)の効能効果を目的とした製剤である。このため人工涙液には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウムなどの無機塩類及びタウリン、コンドロイチン硫酸ナトリウムなどのアミノ酸類を主薬成分として配合し、これにアスパラギン酸塩類やポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ブドウ糖などの粘稠剤などを佐薬成分として配合して作製される(非特許文献3)。
【0003】
人工涙液には、点眼したときに清涼感を持たせるためにメントール、カンフル、ボルネオ―ル等のテルペン系の化合物及びクロロブタノール等を清涼化剤として配合することが行われる。これらの清涼化剤はいずれも人工涙液の溶剤である水にはほとんど溶解しないため、溶解剤として界面活性剤、例えばポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリソルベート80などの非イオン性界面活性剤なども配合されている。
しかしながら通常点眼剤に使用される界面活性剤は合成の界面活性剤であるため、目の角膜などに対する刺激性が報告され、界面活性剤がソフトコンタクトレンズ装用者に見られる角膜障害の原因になることが報告されている(非特許文献1)。また、界面活性剤がソフトコンタクトレンズに取り込まれて角膜障害の原因の一つになるとの報告が示されている(非特許文献2)。また、界面活性剤を使用すると粘稠性があるためべたつきがあり使用感が悪くなることも問題となっている。
従って、界面活性剤を使用しないで清涼化剤を配合した人工涙液が求められている。
【0004】
また、人工涙液型の点眼剤は、浸透圧比を0.85~1.55、またpHを5.5~8.0、にすることが規定されている(非特許文献3)。これは人工涙液が、安全性の点から物理的、化学的性状を目の生理的状態に近づけることが必要とされているためである。人の涙液は、-52℃で0.9%の食塩水溶液に相当することが報告され、点眼剤を等張にするための必要な成分の量は、各成分について計算された食塩価〔ある成分の一定量(1g)と同等の浸透圧を示す塩化ナトリウムの量(g数):食塩当量〕を用いて、以下のとおり計算される:
点眼剤を等張にするための必要な成分の量:X=0.9-(各成分の食塩価)×(100mL中の各成分のg数)。
従って、食塩価の大きい成分を配合した場合、浸透圧の観点からその配合量は少ない量に制限され、有効成分等、その他の成分の配合が制限されることになる。
【0005】
また、ソフトコンタクトレンズ適用の人工涙液は、ハードコンタクトレンズと違い、タイプI、II、III、IV及びハイドロゲルレンズ等への適合性試験及び有効成分並びに清涼化剤等の添加剤のレンズへの吸着試験が義務づけられている。従って、ソフトコンタクトレンズ適用の人工涙液は、ソフトコンタクトレンズとの適合性試験及びソフトコンタクトレンズへの人工涙液成分の吸着がないことを示す試験に適合する必要がある(非特許文献5)。このため、ソフトコンタクトレンズ適用の人工涙液は、界面活性剤を配合することで、ソフトコンタクトレンズへの適合性をクリアするための特許が多数出願されている(特許文献1~6)。
【0006】
特にソフトコンタクトレンズ適用人工涙液型点眼剤の場合、人の涙液の成分に合わせるため無機成分が主な有効成分として配合される。しかし、無機成分はいずれも食塩価が高いため、特にホウ酸とホウ砂のような食塩価の高い緩衝剤を使用すると浸透圧が高くなりすぎ、人の涙に近い無機イオン組成にすることは困難であった。点眼剤のpHを安定に維持するためにリン酸水素ナトリウムをリン酸二水素ナトリウムなどと組み合わせて、リン酸緩衝液として用いる例があるが、これはホウ酸とホウ砂の緩衝剤でみられた食塩価の問題があることに加えて、リン酸イオンが多くなりすぎることにより人の涙液の組成に近づけることができないといった問題があった。これを解決した特許として、本発明者らはホウ酸及びホウ砂を配合しないソフトコンタクトレンズ適用人工涙液を出願している(特許文献7)。
【0007】
しかしながら、この特許文献7の製剤においては無機成分及びアミノ酸類の組成及び組成比を人の涙に合わせることが目的であり、使用時の清涼感を持たせるために通常配合されるメントール、カンフル等の清涼化剤を配合することは、これらの清涼化剤を配合するためには通常界面活性剤を溶解剤として配合する必要があるため、界面活性剤の目に対する安全性或いは、点眼後の界面活性剤の残渣を目に残さない等の観点から清涼化剤を配合することはできなかった。
【0008】
なお、人工涙液に清涼感を持たせるために、清涼化剤を配合した製品が開発されたり、特許が出願されたりしている(特許文献1~7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11-130667号公報
【特許文献2】特開平11-180858号公報
【特許文献3】特開2001-122774号公報
【特許文献4】特開2001-192333号公報
【特許文献5】特開2002-322048号公報
【特許文献6】特開2003-279906号公報
【特許文献7】特開2001-139493号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】水谷聡ら:第38回日本コンタクトレンズ学会“界面活性剤による眼障害” 日コレ誌,38,82-85,1996
【非特許文献2】伊藤孝雄ら:第33回日コレ学会“含水性ソフトコンタクトレンズへの界面活性剤の取り込みに関する研究” 日コレ誌,32,120-125,1990
【非特許文献3】医薬品製造販売指針 別冊 一般用医薬品 製造販売承認基準 2012 「7.眼科用薬」93-104 (配合ルール)
【非特許文献4】高野正彦:今日の皮膚外用剤「表6-46.症例1におけるアルコールと関連物質のパッチテスト結果」242頁,1984年4月10日,第1版第3刷,南山堂,東京
【非特許文献5】医薬審第645号 2021年12月28年まで「二、ソフトコンタクトレンズの製造(輸入)承認申請書の記載および申請に際し添付すべき資料の取扱いについて」
【非特許文献6】一般用医薬品集 2022「人工涙液」839~845頁,2022年,一般財団法人 日本医薬情報センター編集・発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
清涼化剤の溶解剤としてエタノールを配合した人工涙液は存在していなかった(非特許文献6)。従来、エタノールなどのアルコール類を配合したソフトコンタクトレンズ対応の人工涙液は存在していなかった。これは一般にエタノールは目に対する刺激性があると考えられていること、及びエタノールを配合することにより、ソフトコンタクトレンズへの影響が考えられたためである。
【0012】
特許文献1~6に記載の点眼剤組成物の具体的な成分としては、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などの非イオン性界面活性剤、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系高分子化合物、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウムなどのムコ多糖類などが使用されるが、いずれも固体成分であるため、水分が蒸発すると残渣が残り、保湿性はあるものの、点眼後に目に残渣として固形物が残るため、目の角膜に損傷を与える危険性があった。また、上記の高分子化合物を配合した場合は、高分子化合物は、菌にとって栄養源となるため、防腐効果の高い防腐剤を配合する必要があり、目の安全性の観点からは好ましくなかった。
更に、特許文献1~4に記載の点眼剤組成物は緩衝剤としてホウ酸、ホウ砂を配合するため人の涙に近い組成の人工涙液を作製できないばかりでなく、水分が蒸発した後には残差として固形物が残るといったデメリットがあった。これを解決したものとして、ホウ酸、ホウ砂を配合しない人工涙液が本発明者らから提案されている(特許文献7参照)
【0013】
前述の通り、人工涙液は、目のかわき(ドライアイ)、目の疲れなどを治療する目的で処方される点眼剤で、保湿剤としてセルロース系高分子化合物、ビニル系高分子化合物、ポリエチレングリコール、デキストラン、及びそれらの塩、ならびにブドウ糖などの粘稠剤、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸ナトリウムなどのムコ多糖類、プロピレングリコール、1,3-ブリテングリコール、グリセリンなどのグリコール類などが配合される。しかしこの中で、種類、配合量及びそれらの組み合わせを適切に考慮して処方しないと、使用感が悪くなったり、外観が白濁したり、また点眼後に水分が蒸発した後で高分子成分が異物として析出して角膜或いはコンタクトレンズを傷つける可能性があった。更にムコ多糖類、界面活性剤、セルロースなどの高分子化合物は菌にとっては栄養源になるため防腐効果を確実にするためには強い防腐剤を配合する必要があった。
また通常市販されている人工涙液に含まれている、食塩当量の高いホウ酸、ホウ砂、グリコール類を配合した処方にエタノールを配合すると、配合量が多いと目に対する刺激が発生するとともに、浸透圧比が高くなり、非特許文献3の配合ルールで規定されている人工涙液の浸透圧比(0.85~1.55)をクリアできない。また清涼化剤を配合するために界面活性剤を配合すると、角膜に対する刺激があったり、水分の蒸発後に後残りがあったりするためレンズへの汚染が問題となった。
【0014】
以上のことから、本発明は、緩衝剤として食塩当量の高いホウ酸、ホウ砂、及び清涼化剤の溶解剤として界面活性剤を配合する必要のない、人の涙に類似した処方でしかも水分の蒸発を抑えた、且つ水分の蒸発後に成分に由来する残渣が少ない、安全性の高い、しかも清涼感がある使用感のよい人工涙液型点眼剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記の課題解決のために鋭意検討した結果、(A)無機塩類、(B)粘稠剤、(C)アミノ酸類、(D)エタノール、及び(E)清涼化剤を含有する、組成物が、上記の課題の解決に有用であることを見出した。つまり、本発明の組成物は、ホウ酸、ホウ砂などの食塩当量が高い成分を配合しなくても、人の涙に近い人工涙液にできるのみならず、且つ、浸透圧比が非特許文献3の配合ルールの基準に合わせることもできる。また、エタノールを配合することで界面活性剤などの溶解剤を配合しなくても、清涼化剤を溶解できる。また保湿効果が優れているにも拘らず界面活性剤などの高分子化合物並びにホウ酸、ホウ砂などを配合しなくてもよいため点眼後の成分の析出などが殆ど無いため、異物による角膜に対する安全性の問題点も見られない。また、高分子化合物の配合量が少なくて済むため防腐剤の配合量も少なくて済み、更に清涼化剤を配合するにも拘らず界面活性剤未配合でもよいため、安全性に加えて官能的にもべたつきがないなど使用感にも優れている。更に、ソフトコンタクトレンズとの適合性並びにメントール、防腐剤などの添加剤のレンズへの吸着もなく、多くのメリットを有していることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち上記目的に沿う本発明は、(A)無機塩類、(B)粘稠剤、(C)アミノ酸類、(D)エタノール、及び(E)清涼化剤を含有する人工涙液型点眼剤組成物で、清涼化剤の溶解剤としてエタノールを配合するが、界面活性剤及びホウ酸、ホウ砂などの食塩当量が高い成分を配合する必要がないことにより上記課題を解決するものである。したがって、好ましくは、本願発明の人工涙液型点眼剤は、清涼化剤の溶解剤として界面活性剤、又は緩衝剤として食塩当量の高いもの、例えばホウ酸及び/又はホウ砂を含有しない。より好ましくは、本願発明の人工涙液型点眼剤は、清涼化剤の溶解剤として界面活性剤、ならびに緩衝剤として食塩当量の高いもの、例えばホウ酸及び/又はホウ砂を含有しない。
【0017】
本発明の人工涙液型点眼剤組成物において、前記(A)の無機塩類が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、及びリン酸水素ナトリウム、から選択される1又は複数であることが好ましい。
【0018】
本発明の人工涙液型点眼剤組成物において、前記(A)の無機塩類として、前記点眼剤組成物の総量に対し、塩化ナトリウムを0.05~2(w/v)%、塩化カリウムを0.05~1(w/v)%、塩化カルシウムを0~0.5(w/v)%、硫酸マグネシウムを0~0.1(w/v)%、リン酸水素ナトリウムを0.05~0.8(w/v)%含有していてもよい。
【0019】
本発明の人工涙液型点眼剤組成物において、前記(B)粘稠剤が、セルロース系高分子化合物、ビニル系高分子化合物、ポリエチレングリコール、デキストラン及びそれらの塩、並びにブドウ糖からなる群より選択される1又は複数であることが好ましい。
【0020】
本発明の人工涙液型点眼剤組成物において、前記(B)粘稠剤が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)及び/又はブドウ糖であってもよい。
【0021】
本発明の人工涙液型点眼剤組成物において、前記(C)アミノ酸類が、アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸マグネシウム・カリウム(等量混合物)、及びタウリン(2-アミノエタンスルホン酸)からなる群より選択される1又は複数であってもよい。
【0022】
本発明の人工涙液型点眼剤組成物において、前記(B)粘稠剤がヒドロキシプロピルメチルセルロース、前記(C)アミノ酸類がタウリンであってもよい。
【0023】
本発明の人工涙液型点眼剤組成物において、前記(B)粘稠剤であるヒドロキシプロピルメチルセルロースが、(C)成分のタウリン1重量部に対して0.1~5重量部、好ましくは0.3~3重量部であってもよい。
【0024】
本発明の人工涙液型点眼剤組成物において、前記(E)清涼化剤が、メントール、ボルネオ―ル、クロロブタノール、及びカンフルからなる群より選択される1又は複数であってもよい。
【0025】
本発明の人工涙液型点眼剤組成物において、前記点眼剤組成物の総量に対し、前記(A)無機塩類として、塩化ナトリウムを0.05~2(w/v)%、特に0.05~1(w/v)%、塩化カリウムを0.05~1(w/v)%、塩化カルシウムを0~0.5(w/v)%、硫酸マグネシウムを0~0.1(w/v)%、リン酸水素ナトリウムを0.05~0.8(w/v)%、前記(B)粘稠剤として、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを0.01~0.5(w/v)%、特に0.01~0.35(w/v)%、とりわけ0.06~0.3(w/v)%、ブドウ糖を0.001~0.5(w/v)%、特に0.001~0.01(w/v)%、前記(C)アミノ酸類として、タウリンを0.01~1(w/v)%、特に0.01~0.5(w/v)%、とりわけ0.06~0.2(w/v)%、L-アスパラギン酸カリウムを0.01~1(w/v)%、特に0.01~0.5(w/v)%、(D)エタノールを0.1~5(v/v)%、(E)清涼化剤を0.004~0.05(w/v)%、特に0.005~0.04(w/v)%含有することが好ましい。
【0026】
本発明の人工涙液型点眼剤組成物において、前記点眼剤組成物の総量に対し、防腐剤として、ベンザルコニウム塩化物を0.001~0.004%含有し、前記(C)アミノ酸類として、タウリンを0.01~0.5(w/v)%含有していてもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の人工涙液型点眼剤組成物は、人の涙の組成に非常に近い製剤であるため、人工涙液の特徴である疲れ目、目のかわき(ドライアイ)などの諸症状に有用であり、人工涙液としての効果に優れる。更に本発明の人工涙液型点眼剤組成物は、保湿性にも優れ、且つ界面活性剤、ホウ酸、及びホウ砂を配合する必要がないため、点眼後に目にそれらの残渣が殆ど残らず、例えばセルロース系の粘稠剤及びアミノ酸類であるタウリンを配合しても、点眼後に目にそれらの残渣が殆ど残らず、角膜の損傷が回避され目に対する安全性も確保される。
更に、エタノールを配合していても、ソフトコンタクトレンズへの適合性も問題なく、また例えば防腐剤やメントールのレンズへの吸着は問題ないレベルであった。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】ペトリ皿上の人工涙液型点眼剤組成物の乾燥残渣の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書中、「人工涙液」と言う表記は、医薬品製造販売指針の別冊一般用医薬品製造販売承認基準の「7.眼科用薬」の項で使用されている用語である(非特許文献3)。
また、本明細書中、「w/v%」と言う表記は、特記しない限り溶液100mLに溶けている各成分(溶質)の質量(g)、つまり「重量/容量%」を意味する。また、エタノールについての「v/v%」と言う表記は、特記しない限り溶液100mLに溶けているエタノールの容量(mL)を意味する。
【0030】
また、本明細書において、人工涙液は、「目の疲れ、涙液の補助(目のかわき)、ハードコンタクトレンズ又はソフトコンタクトレンズを装着しているときの不快感、目のかすみ(目やにの多いときなど)」を効能又は効果として持つ眼科用薬で、またコンタクトレンズ用装着点眼液は、ハードコンタクトレンズ又はソフトコンタクトレンズの装着を容易にする。」を効能又は効果として持つ眼科用薬である。
【0031】
本発明における人工涙液型点眼剤組成物は、(A)無機塩類、(B)粘稠剤、(C)アミノ酸類、(D)エタノール、及び(E)清涼化剤を含有する。本発明の人工涙液型点眼剤組成物は、これらの成分を配合することで、前述のように人の涙に類似し、しかも保湿性に優れ、且つ界面活性剤やホウ酸、ホウ砂などを使用しなくても済むため点眼後に目に析出物の生じる虞がなく、更に清涼化剤を適切な量配合できるため使用感が良く、製剤的にもまた目の安全性の観点からも有用なものである。
【0032】
本発明のある実施の形態に係る人工涙液型点眼剤組成物は、(A)無機塩類として、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、及びリン酸水素ナトリウムから選択される一種以上を配合できる。またそれぞれの配合量は、前記点眼剤組成物の総量に対し、人の涙に類似させるために、好ましくは、塩化ナトリウムが0.05~2(w/v)%、塩化カリウムが0.05~1(w/v)%、塩化カルシウムが0~0.5(w/v)%、硫酸マグネシウムが0~0.1(w/v)%、リン酸水素ナトリウムが0.05~0.8(w/v)%、であり、より好ましくは、塩化ナトリウムが0.05~1%(w/v)%、塩化カリウムが0.05~1(w/v)%、塩化カルシウムが0~0.5(w/v)%、硫酸マグネシウムが0~0.1(w/v)%、リン酸水素ナトリウムが0.05~0.8(w/v)%、である。
また、(B)粘稠剤の配合量は、前記点眼剤組成物の総量に対し、人の涙に類似させるために、好ましくは、ヒロドキシプロピルメチルセルロースが0.01~0.5(w/v)%、ブドウ糖が0.001~0.5(w/v)%、より好ましくは、ヒロドキシプロピルメチルセルロースが0.01~0.35(w/v)%、特に0.06~0.3(w/v)%、ブドウ糖が0.001~0.01(w/v)%である。
また、(C)アミノ酸類の配合量は、前記点眼剤組成物の総量に対し、人の涙に類似させるために、好ましくは、タウリンが0.01~1(w/v)%、特に0.01~0.5(w/v)%、L-アスパラギン酸カリウムが0.01~1(w/v)%、より好ましくは、タウリンが0.06~0.2(w/v)%、L-アスパラギン酸カリウムが0.01~0.5(w/v)%である。
【0033】
また、(D)エタノールは、前記点眼剤組成物の総量に対し、清涼化剤の溶解の観点から、0.1(v/v)%以上、エタノールの眼に対する刺激性の観点から5(v/v)%以下含有することが好ましい。
また、(E)清涼化剤は、清涼感の観点から0.004(w/v)%以上、特に0.005(w/v)%以上、溶解性の観点から0.05(w/v)%以下、特に0.04(w/v)%以下含有することが好ましい。
さらに、本発明の人工涙液型点眼剤組成物において、清涼化剤に対するエタノールの比率(清涼化剤/エタノール×100)は、1~10(w/v)%とすることが好ましい。10(w/v)%以上の場合は、清涼化剤が溶解しにくくなる観点から好ましくない。1(w/v)%以下の場合は、エタノールの配合量が多くなるため眼に対する刺激性の観点から好ましくない。
【0034】
また、本発明のある実施の形態において、人工涙液型点眼剤組成物は、前記点眼剤組成物の総量に対し、人の涙に類似させるために、(B)粘稠剤として、好ましくは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを0.01~0.5(w/v)%、ブドウ糖を0.001~0.5(w/v)%、より好ましくは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを0.01~0.35(w/v)%、ブドウ糖を0.001~0.01(w/v)%を含有している。
【0035】
また、本発明のある実施の形態において、人工涙液型点眼剤組成物は、前記点眼剤組成物の総量に対し、人の涙に類似させるために、(C)アミノ酸類として、好ましくは、タウリンを0.01~1(w/v)%、L-アスパラギン酸カリウムを0.01~1(w/v)%、より好ましくは、タウリンを0.01~0.5(w/v)%、L-アスパラギン酸カリウムを0.01~0.5(w/v)%を含有している。
【0036】
(B)粘稠剤及び(C)アミノ酸類として、それぞれ、2種以上を組み合わせて使用することが本発明の効果をより一層高める観点から、好ましい。この場合、(B)粘稠剤は、セルロース系高分子化合物及びブドウ糖が好ましく、セルロース系高分子化合物としては、特にヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)が好ましい。また(C)アミノ酸類として、タウリンとL-アスパラギン酸カリウムが好ましい。
【0037】
本発明の人工涙液型点眼剤組成物において、(B)粘稠剤としてのヒドロキシプロピルメチルセルロース及び(C)アミノ酸類としてのタウリンの配合量は、本発明の効果をより一層高める観点から、ヒドロキシプロピルメチルセルロース1重量部に対し、タウリンが、好ましくは0.1~5重量部、より好ましくは0.2~4重量部である。
【0038】
本発明では、(A)無機塩類として塩化カルシウムと(B)粘稠剤としてヒドロキシプロピルメチルセルロースとを併用しないのが好ましい。
【0039】
本発明の人工涙液型点眼剤組成物は、必要に応じて適当な緩衝剤を含有することが好ましい。人工涙液型点眼剤組成物に用いられる緩衝剤としては、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、HEPES緩衝剤、MOPS緩衝剤などが挙げられる。この中で、リン酸緩衝剤が好ましい。一般的に汎用されるホウ酸、ホウ砂は点眼剤の浸透圧を上げるために好ましくないので本発明では使用しない。本発明では、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、エデト酸ナトリウムを使用する。
なお、本発明では、点眼後に目に残る残渣がより少量になる点からも、ホウ酸及びホウ砂を使用しないのが好ましい。
【0040】
点眼剤の浸透圧を涙液に近い値に調整するために、緩衝剤として、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、エデト酸ナトリウムが好ましく用いられる。
【0041】
本発明における人工涙液型点眼剤組成物中の緩衝剤の含有量は、緩衝剤の種類などによって異なるので一概に規定できないが、前記点眼剤組成物の総量に対し、緩衝剤が総量で、通常0.001~5%、好ましくは0.001~3%、より好ましくは0.005~2.0%、である。
【0042】
本発明の人工涙液型点眼剤組成物に使用される代表的な成分は下記のとおりであるが、これらは単なる例示であり、これらに限定されない。これらは単独で用いてもよく、任意の2以上の組み合わせであってもよい。
(A)無機塩類:塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、リン酸水素ナトリウム等。
(B)粘稠剤:グルコース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)等。
(C)アミノ酸類:アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸マグネシウム・カリウム(等量混合物)、タウリン等。
【0043】
上記成分以外に、本発明の人工涙液型点眼剤組成物には、防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤として、ベンザルコニウム塩化物液のほか、例えば、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル等を用いることができる。
【0044】
本発明の人工涙液型点眼剤組成物には、pH調節剤として、例えば、塩酸、ホウ酸、イプシロン-アミノカプロン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン等を用いることができる。
【0045】
本発明の人工涙液型点眼剤組成物には、等張化剤として、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、グリセリン、プロピレングリコール等を用いることができる。
【0046】
本発明の人工涙液型点眼剤組成物には、安定剤として、ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノエタノールアミン、モノステアリン酸アルミニウム、エデト酸ナトリウム等を用いることができる。
【0047】
本発明の人工涙液型点眼剤組成物は、必要に応じて、生体に許容される範囲内の浸透圧に調整して用いられる。人工涙液型点眼剤組成物の浸透圧は、生理食塩液に対する浸透圧比として、通常、0.7~1.5、特に好ましくは0.8~1.4である。浸透圧比の測定は、例えば、「第16改正日本薬局方 一般試験法 浸透圧測定法」に準拠する方法を用いて行うことができる。
【0048】
本発明の人工涙液型点眼剤組成物は、必要に応じて、生体に適用可能な範囲内のpHに調整して用いられる。pHは、通常、pH5.0~8.5、特に好ましくは6.5~8.0である。pHの調節は、前述の緩衝剤、pH調節剤等を用いて行うことができる。
【0049】
本発明の人工涙液型点眼剤組成物は、界面活性剤を含有してもよいが、点眼後の目に残る残渣がより少量になること、製造工程での泡立ちがなく製造する上でもメリットがあることから、界面活性剤を含有しない方が好ましい。
加えて、本発明の人工涙液型点眼剤組成物は、界面活性剤を含有しない場合は、清涼化剤を配合しているにも拘らず、目に対する刺激性が少なく、使用時にべたつきが少ないため、使用感に優れている。
【0050】
本発明の人工涙液型点眼剤組成物は、任意の公知の方法により製造でき、必要により、ろ過滅菌処理工程や、容器への充填工程等を適宜加えることができる。
【実施例0051】
以下に、試験例及び実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0052】
本発明の人工涙液型点眼剤組成物の調製(実施例1~8、比較例1~5)
下記の表1~3に示す組成を有する、実施例1~8及び比較例1~5に係る人工涙液型点眼剤組成物を調製した。表1~3に示した量の各成分を精製水に溶解し、100mLにメスアップしたものを、各実施例及び比較例に係る人工涙液型点眼剤組成物とした。なお、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、リン酸水素ナトリウム及びエデト酸ナトリウムについては、市販の水和物の結晶を使用した。
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
試験例1.メントールの溶解性試験、使用感試験
前記で調製された実施例1~8及び比較例1~5の人工涙液型点眼剤組成物の外観を観察し、結果を表4に示した。また、使用感も確認した(データは示さず)。
【0057】
【0058】
試験例1の結果から、実施例1~8の人工涙液及び比較例3~5の人工涙液はメントールが完全に溶解した。一方、比較例1及び2の人工涙液はメントールに由来する油滴が見られた。
【0059】
試験例2.浸透圧測定
前記で調製された実施例1~8及び比較例1~5の人工涙液型点眼剤組成物の浸透圧比を、「第16改正日本薬局方 一般試験法 浸透圧測定法」に準拠する方法を用いて行った。その結果、表1~3に記載したように、実施例1~8の浸透圧比は1.18~1.34であったが、比較例3、4、5の浸透圧比はそれぞれ1.98、2.25、1.53であり、好ましい浸透圧比0.8~1.4を超えていた。なお、非特許文献3の人工涙液の配合ルールでの浸透圧比の基準は0.85~1.55である。
【0060】
試験例3.ソフトコンタクレンズとの適合性試験
ソフトコンタクトレンズグループI、II、及びIVにそれぞれ属する3種の市販のレンズ、ならびにシリコーンハイドロゲルに属する2種の市販のレンズを用いた。各種レンズ(n=7)をブリスターケースから取り出し、ISO生理食塩水でよくすすいだ後、約2mLのISO生理食塩水に室温で2時間以上浸漬し飽和膨潤させた後、処理前測定を行った。次に、レンズの余分な水分をキムワイプで拭き取り、試験溶液として実施例6の人工涙液型点眼剤組成物5mL(n=4)、又は対照としてISO生理食塩水5mL(n=3)に、35℃、24時間以上浸漬した。その後、レンズを取り出しISO生理食塩水でよくすすいだ後、キムワイプで余分な水分を拭き取り、2mLのISO生理食塩水に浸漬し室温で2時間以上放置して飽和膨潤させた後、処理後測定を行った。
レンズの浸漬は、グループIIのレンズについては24時間40分間、それ以外のものは24時間25分間行った。
処理前後の測定は、10倍ルーペを用いて、自然光をレンズにあて、形状、外観及び色調を肉眼で観察して行った。その結果を表5に示した。
【0061】
【0062】
ソフトコンタクトレンズとの適合性試験の結果、実施例6の人工涙液はレンズの「形状、外観及び色調」に影響を与えなかった。
【0063】
試験例4.人工涙液型点眼剤組成物の水分蒸発試験
実施例3、6、7の人工涙液型点眼剤組成物及び比較例3、4、5の人工涙液型点眼剤組成物をそれぞれペトリ皿に100μL入れて水分が蒸発するまでの時間を記録した。また水分が蒸発した後ペトリ皿の残渣を肉眼で観察した。結果を表6及び
図1に示した。
(測定条件:27℃±4℃、湿度:50~80RH%)
【0064】
【0065】
表6及び
図1からわかるように、実施例3、6、7の人工涙液型点眼剤組成物は水分の蒸発後にペトリ皿に僅かに白い粉末が残った。また、水分の蒸発時間が比較例より長く、点眼によって水分の保湿性が示唆された。また一方、比較例3、4、5の人工涙液はいずれも白い粉末が残った。特に比較例4及び5の人工涙液は、ホウ酸、ホウ砂及び界面活性剤などを配合しているため多くの白い粉末が析出した。この粉末は、コンタクトレンズを装着したまま人工涙液を点眼するとコンタクトレンズに残り、角膜への悪影響を及ぼすことが示唆された。
【0066】
試験例5.人工涙液の官能試験
実施例及び比較例の人工涙液型点眼剤組成物を1滴手の甲に伸ばして、しっとり感とべたつきを官能的に調べた。試験結果を表7に示した。
【0067】
【0068】
表7からわかるように、実施例の人工涙液型点眼剤組成物は、べたつき感において比較例の人工涙液型点眼剤組成物より優れていた。特に比較例4、5の人工涙液型点眼剤組成物は界面活性剤が配合されているため、しっとり感はあったものの、べたつきが多かった。
【0069】
試験例6.人工涙液型点眼剤の安全性試験(ウサギを用いた21日間眼累積刺激性試験)
実施例1及び実施例4の人工涙液型点眼剤組成物を、それぞれ1滴ずつ、1日4回、ウサギの片方の眼に21日間点眼し、もう片方の目を対照として、眼に対する刺激性を肉眼及び検眼鏡を用いて観察した。尚、刺激性はDraizeの基準(1959年)によって評価した。その結果、実施例1及び実施例4の人工涙液はいずれも眼刺激性は認められなかった。
【0070】
試験例7.人工涙液型点眼剤の配合成分(防腐剤)のソフトコンタクトレンズ(タイプI~タイプIV及びハイドロゲルタイプ)への吸着試験
ソフトコンタクトレンズグループIに属する3種の市販のレンズ、ならびにソフトコンタクトレンズグループII及びIVにそれぞれ属する2種の市販のレンズを用いた。試験溶液として実施例4の人工涙液型点眼剤組成物(防腐剤としてベンザルコニウム塩化物液10%液0.02mL/100mL配合)を用意し、そこから20μL採取し、液体クロマトグラフでベンザルコニウム塩化物を定量し、これを「試料溶液10mL中のベンザルコニウム塩化物の量」とした。合わせて、ベンザルコニウム塩化物の面積も求め、これを「0時間におけるベンザルコニウム塩化物の面積」とした。次いで、この試験溶液から正確に10mLを栓付試験管に量り取り、そこに各種レンズを1枚96時間浸漬した。時間経過後、ゆっくり振り混ぜてから、20μL採取し、液体クロマトグラフでベンザルコニウム塩化物を定量し、ベンザルコニウム塩化物の面積を求め、これを「測定溶液のベンザルコニウム塩化物の面積」とした。そして、以下の式から、ソフトコンタクトレンズへのベンザルコニウム塩化物液の吸着量を算出した。
0時間との比較(%)=測定溶液のベンザルコニウム塩化物の面積/0時間におけるベンザルコニウム塩化物の面積×100
吸着量(mg)=試料溶液10mL中のベンザルコニウム塩化物の量×(100-0時間との比較)×0.01
その結果、ソフトコンタクトレンズへのベンザルコニウム塩化物液の吸着量は、いずれもベンザルコニウム塩化物液の常用量(30ppm)以下であり、問題ない程度であった。
【0071】
試験例8.メントールのエタノールへの溶解性試験
メントールとエタノールとを以下の表8に示す量で混合して、メントールの溶解状態を目視にて観察し、その結果を表8に示した。
【0072】
【0073】
表8からわかるように、メントール/エタノール(w/v%)が1.3~10でメントールがエタノールに溶解することが認められた。
本発明によって、人の涙に近い組成で安全で、ドライアイ効果などに優れた、ハードコンタクトレンズ及びソフトコンタクトレンズなどのコンタクトレンズ、特にソフトコンタクトレンズ適用人工涙液型点眼剤の調製が可能になる。本発明の人工涙液型点眼剤組成物は、人工涙液及び/又はコンタクトレンズ用装着点眼液として用いることができる。
また、本発明によれば、ヒプロメロースなどの粘稠剤とタウリンなどのアミノ酸類を組み合わせて配合することにより、水分蒸発後の残滓が少なく、コンタクトレンズ装着時においても安全に使用できる点眼剤が得られる。更に清涼化剤の溶解剤としてエタノールを清涼化剤と配合することにより、使用感が良い人工涙液が得られた。