(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094663
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】触媒作用を有する金属ないしは金属酸化物のナノ粒子の集まりからなるフィルムを基材の双方の表面に形成する方法
(51)【国際特許分類】
B01J 31/06 20060101AFI20240703BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20240703BHJP
B01J 35/45 20240101ALI20240703BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240703BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20240703BHJP
B01J 31/36 20060101ALI20240703BHJP
B01J 35/57 20240101ALI20240703BHJP
B01J 23/46 20060101ALI20240703BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
B01J31/06 M
B01J37/04 102
B01J35/02 H ZAB
B01J37/08
B01J37/02 101Z
B01J31/36 M
B01J35/04 301L
B01J23/46 311A
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211354
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】512150358
【氏名又は名称】小林 博
(72)【発明者】
【氏名】小林 博
【テーマコード(参考)】
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
4D148AA06
4D148AA13
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4G169FB05
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4G169FB16
4G169FB34
4G169FB57
4G169FC02
4G169FC10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】触媒作用を発揮する微粒子の表面が直接外界に晒され、隣接する微粒子同士が接合し微粒子の集まりの表面が触媒作用を発揮し、微粒子の集まりは10個未満の微粒子が重なり合って積層し、触媒作用を発揮するフィルムが長期にわたって使用できる、金属のナノ粒子の集まりからなるフィルムを基材の双方の表面に形成する方法の提供。
【解決手段】触媒作用を有する金属のナノ粒子の集まりが、基材の双方の表面の凹凸を埋め尽くすとともに、基材の双方の表面を覆い、さらに、基材の双方の表面の凹凸を埋め尽くした一部の金属のナノ粒子の集まりが、基材の双方の表面を覆った一部の金属のナノ粒子の集まりと接触し、接触したナノ粒子同士が接触部位で金属結合する。これによって、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが、0.1μmより厚みが薄いフィルムとして、基材の双方の表面に接合し、触媒作用を有するフィルムが基材の双方の表面に形成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒作用を有する金属のナノ粒子の集まりからなるフィルムを基材の双方の表面に形成する方法は、
メタノールに分子状態で分散するが、メタノールに溶解しない第一の性質と、熱分解で触媒作用を有する金属を析出する第二の性質を兼備する金属化合物を、メタノールに分子状態で分散し、該金属化合物のメタノール分散液を作成する、この後、該金属化合物のメタノール分散液からメタノールを気化させ、該金属化合物の結晶の集まりを析出させる、さらに、該金属化合物の結晶の集まりを容器に充填し、該金属化合物の結晶の集まりの表面全体を覆う平板を、該金属化合物の結晶の集まりの上に被せる、この後、該平板の表面全体に圧縮荷重を均一に加え、前記容器内の前記金属化合物の結晶を粉砕する、さらに、前記容器に前後、左右、上下の3方向の衝撃加速度を繰り返し加え、該容器内の前記粉砕された金属化合物の結晶の集まりを再配列させる、この後、前記平板の表面全体に再度前記圧縮荷重を均一に加え、前記金属化合物の結晶の粉砕をさらに進める、さらに、前記容器に前記3方向の衝撃加速度を再度繰り返し加える、こうした前記圧縮荷重を加える処理と前記衝撃加速度を加える処理とからなる一対の処理を繰り返し、前記平板に前記圧縮荷重を加えた際に、該平板からの反発力が発生した時点で前記一対の処理を停止し、前記容器内に前記金属化合物の微細結晶の集まりを作成する第一の工程と、
前記平板を前記容器から取り出し、さらに、前記容器に、20℃における粘度が0.7-0.9mPa・秒である第一の性質と、前記金属化合物の結晶が溶解及び分子状態となって分散しない第二の性質と、沸点が前記金属化合物の熱分解温度より低い第三の性質を兼備する液体の有機化合物について、前記容器内の前記微細結晶の集まりが占める体積より多い体積となる該有機化合物を重量に換算し、該換算した重量からなる有機化合物を秤量し、該秤量した有機化合物を前記容器に混合し、該有機化合物を撹拌し、前記金属化合物の微細結晶の集まりが、前記有機化合物に分散された懸濁液を作成する第二の工程と、
前記容器内の前記懸濁液中に、金属のナノ粒子の集まりを接合させる基材の全体を浸漬させ、この後、該基材を前記懸濁液から取り出し、該基材を、前記金属化合物を熱分解させる熱処理装置内に移動させ、該基材を前記金属化合物が熱分解する温度に昇温する、これによって、最初に、前記有機化合物が気化し、次に、前記微細結晶が熱分解する、この際、触媒作用を有する金属のナノ粒子の集まりが、前記基材の双方の表面と該双方の表面の凹凸とに一斉に析出し、該金属のナノ粒子の集まりが積層する、次に、該積層した金属のナノ粒子の集まりは、ナノ粒子同士が接触する部位で金属結合し、該金属結合した金属のナノ粒子の集まりが、前記基材の双方の表面の凹凸を埋め尽くすとともに、前記基材の双方の表面を覆い、さらに、前記基材の双方の表面の凹凸を埋め尽くした一部の金属のナノ粒子の集まりが、前記基材の双方の表面を覆った一部の金属のナノ粒子の集まりと接触し、該接触したナノ粒子同士が接触部位で金属結合する、この結果、該金属結合した金属のナノ粒子の集まりが、0.1μmより厚みが薄いフィルムとして、前記基材の双方の表面に接合する第三の工程とからなり、
前記した3つの工程における全ての処理を連続して実施する方法が、触媒作用を有する金属のナノ粒子の集まりからなるフィルムが基材の双方の表面に形成される方法である。
【請求項2】
請求項1に記載した触媒作用を有する金属のナノ粒子の集まりからなるフィルムを基材の双方の表面に形成する方法は、
請求項1に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物が、無機物の分子ないしは無機物のイオンが配位子となって金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機塩で構成された無機金属化合物であり、請求項1に記載した有機化合物が、炭素原子の数が9-11個からなる鎖式飽和炭化水素であり、前記無機金属化合物を、請求項1に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物として用い、前記鎖式飽和炭化水素を、請求項1に記載した有機化合物として用い、請求項1に記載した方法に従って、触媒作用を有する金属のナノ粒子の集まりからなるフィルムを基材の双方の表面に形成する方法である。
【請求項3】
請求項1に記載した触媒作用を有する金属のナノ粒子の集まりからなるフィルムを基材の双方の表面に形成する方法は、
請求項1に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物が、オクチル酸金属化合物であり、請求項1に記載した有機化合物が、炭素原子の数が9-11個からなる鎖式飽和炭化水素であり、前記オクチル酸金属化合物を、請求項1に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物として用い、前記鎖式飽和炭化水素を、請求項1に記載した有機化合物として用い、請求項1に記載した方法に従って、触媒作用を有する金属のナノ粒子の集まりからなるフィルムを基材の双方の表面に形成する方法である。
【請求項4】
触媒作用を有する金属酸化物のナノ粒子の集まりからなるフィルムを基材の双方の表面に形成する方法は、
メタノールに分子状態で分散するが、メタノールに溶解しない第一の性質と、熱分解で触媒作用を有する金属酸化物を析出する第二の性質を兼備する金属化合物を、メタノールに分子状態で分散し、該金属化合物のメタノール分散液を作成する、この後、該金属化合物のメタノール分散液からメタノールを気化させ、該金属化合物の結晶の集まりを析出させる、さらに、該金属化合物の結晶の集まりを容器に充填し、該金属化合物の結晶の集まりの表面全体を覆う平板を、該金属化合物の結晶の集まりの上に被せる、この後、該平板の表面全体に圧縮荷重を均一に加え、前記容器内の前記金属化合物の結晶を粉砕する、さらに、前記容器に前後、左右、上下の3方向の衝撃加速度を繰り返し加え、該容器内の前記粉砕された金属化合物の結晶の集まりを再配列させる、この後、前記平板の表面全体に再度前記圧縮荷重を均一に加え、前記金属化合物の結晶の粉砕をさらに進める、さらに、前記容器に前記3方向の衝撃加速度を再度繰り返し加える、こうした前記圧縮荷重を加える処理と前記衝撃加速度を加える処理とからなる一対の処理を繰り返し、前記平板に前記圧縮荷重を加えた際に、該平板からの反発力が発生した時点で、前記一対の処理を停止し、前記容器内に前記金属化合物の微細結晶の集まりを作成する第一の工程と、
前記平板を前記容器から取り出し、さらに、前記容器に、20℃における粘度が0.7-0.9mPa・秒である第一の性質と、前記金属化合物の結晶が溶解及び分子状態となって分散しない第二の性質と、沸点が前記金属化合物の熱分解温度より低い第三の性質を兼備する液体の有機化合物について、前記容器内の前記微細結晶の集まりが占める体積より多い体積となる該有機化合物を重量に換算し、該換算した重量からなる有機化合物を秤量し、該秤量した有機化合物を前記容器に混合し、該有機化合物を撹拌し、前記微細結晶の集まりが、前記有機化合物に分散した懸濁液を作成する第二の工程と、
前記容器内の前記懸濁液中に、金属酸化物のナノ粒子の集まりを接合させる平板からなる基材の全体を浸漬させ、この後、該基材を前記懸濁液から取り出し、該基材の大きさより大きい同一の形状からなる2枚の平板の間隙に該基材の全体を挟む、さらに、該2枚の平板の間隙に挟まれた基材を、前記金属化合物を熱分解させる熱処理装置内に移動させ、前記2枚の平板の一方の平板の表面全体を均一に圧縮するとともに、前記金属化合物が熱分解する温度に昇温する、これによって、最初に、前記有機化合物が気化し、次に、前記微細結晶が熱分解する、この際、触媒作用を有する金属酸化物のナノ粒子の集まりが、前記基材の双方の表面と該双方の表面の凹凸とに一斉に析出し、該金属酸化物のナノ粒子の集まりが積層する、次に、該積層した金属酸化物のナノ粒子の集まりに圧縮応力が加わり、該ナノ粒子同士が接触する部位で摩擦圧接によって接合し、該接合した金属酸化物のナノ粒子の集まりが、前記基材の双方の表面の凹凸を埋め尽くすとともに、前記基材の双方の表面を覆い、さらに、前記基材の双方の表面の凹凸を埋め尽くした一部の金属酸化物のナノ粒子の集まりが、前記基材の双方の表面を覆った一部の金属酸化物のナノ粒子の集まりと接触し、該接触したナノ粒子同士が接触部位で摩擦熱によって接合する、この結果、該摩擦圧接で接合した金属酸化物のナノ粒子の集まりが、0.1μmより厚みが薄いフィルムとして、前記基材の双方の表面に接合する第三の工程とからなり、
前記した3つの工程における全ての処理を連続して実施する方法が、触媒作用を有する金属酸化物のナノ粒子の集まりからなるフィルムが基材の双方の表面に形成される方法である。
【請求項5】
請求項4に記載した触媒作用を有する金属酸化物のナノ粒子の集まりからなるフィルムを基材の双方の表面に形成する方法は、
請求項4に記載した熱分解で金属酸化物を析出する金属化合物が、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが、金属イオンに配位結合したカルボン酸金属化合物からなる錯体であり、請求項4に記載した有機化合物が、炭素原子の数が9-11個からなる鎖式飽和炭化水素であり、前記カルボン酸金属化合物からなる錯体を、請求項4に記載した熱分解で金属酸化物を析出する金属化合物として用い、前記鎖式飽和炭化水素を、請求項4に記載した有機化合物として用い、請求項4に記載した方法に従って、触媒作用を有する金属酸化物のナノ粒子の集まりからなるフィルムを基材の双方の表面に形成する方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒作用を有する金属ないしは金属酸化物からなるナノ粒子の集まりからなるフィルムを、0.1μmより薄い厚みで基材の双方の表面に形成する方法に関わる。なお、厚みが250μm以下の薄い膜状のものを、JISの包装用語でフィルムと呼ぶため、本発明でも、厚みが0.1μmより薄い触媒作用を有する膜をフィルムと記した。
つまり、触媒作用を有する金属ないしは金属化合物が熱分解で析出する金属化合物の結晶を、20nm前後の大きさに粉砕し、該微細結晶の集まりを、20℃において1mPa・秒より低い粘度を有する液体の有機化合物に分散した懸濁液を作成する。この後、懸濁液中に基材を浸漬する。この際、微細結晶が基材の表面の凹凸の幅より2桁小さく、かつ、殆ど質量を持たないため、低粘度の有機化合物中に分散した懸濁液が、基材の表面の凹凸に入り込み、基材の双方の表面と双方の表面の凹凸とに、懸濁液が付着する。
この後、金属化合物が熱分解で金属を析出する場合は、金属化合物の微細結晶を熱分解させ、触媒作用を有する金属の10nm前後の大きさからなる粒状のナノ粒子の集まりを、基材の双方の表面と該双方の表面の凹凸とに一斉に析出させ、該ナノ粒子の集まりが積層する。この際、金属のナノ粒子が不純物を持たず、活性状態にあるため、ナノ粒子同士が互いに接触する部位で金属結合し、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが、基材の双方の表面の凹凸を埋め尽くすとともに、基材の双方の表面を埋め尽くし、さらに、基材の双方の表面の凹凸を埋め尽くした一部の金属のナノ粒子の集まりが、基材の双方の表面を埋め尽くした一部の金属のナノ粒子の集まりと互いに接触し、接触した部位で金属結合する。この結果、金属結合した金属のナノ粒子の集まりからなるフィルムが、0.1μmより薄い厚みで基材の双方の表面に接合し、触媒作用を有する金属のナノ粒子の集まりからなるフィルムが基材の双方の表面に形成される。
いっぽう、金属化合物が、熱分解で金属酸化物を析出する場合は、基材として平板状の基材を用い、該基材を懸濁液に浸漬させ、基材を取り出した後に、基材を2枚の平板に挟み、上方の平板の表面全体を均一に圧縮するとともに、金属化合物の熱分解温度まで昇温し、金属化合物の微細結晶を熱分解させる。この際、触媒作用を有する金属酸化物の10nm前後の大きさから粒状のナノ粒子の集まりが、板状の基材の双方の表面と該双方の表面の凹凸とに一斉に析出する。さらに、金属酸化物のナノ粒子の集まりに圧縮応力が加わり、隣接する金属酸化物のナノ粒子同士が摩擦圧接で接合し、接合した金属酸化物のナノ粒子の集まりが、基材の双方の表面の凹凸を埋め尽くすとともに、基材の双方の表面を埋め尽くし、さらに、基材の双方の表面の凹凸を埋め尽くした一部の金属酸化物のナノ粒子の集まりが、基材の双方の表面を埋め尽くした一部の金属酸化物のナノ粒子の集まりと互いに接触し、接触した部位で金属酸化物のナノ粒子同士が摩擦圧接によって接合する。この結果、摩擦圧接で接合した金属酸化物のナノ粒子の集まりからなるフィルムが、0.1μmより薄い厚みで基材の双方の表面に接合し、触媒作用を有する金属酸化物のナノ粒子の集まりからなるフィルムが基材の双方の表面に形成される。
前記したフィルムは、フィルムの表面において、比表面積が大きい粒状のナノ粒子の集まりの表面は、同程度の大きさからなる粒状のナノ粒子同士が、接触した部位で金属結合ないしは摩擦圧接で接合したため、ナノ粒子の表面が50%より広い表面を直接外界に晒す。このため、フィルムの表面を形成するナノ粒子の集まりは、ナノ粒子を構成する材質に基づく固有の触媒作用を効率よく発揮する。また、触媒作用を有するフィルムが晒される環境に応じた材質からなる基材の表面に、ナノ粒子の集まりからなるフィルムを接合すれば、触媒作用を有するフィルムが、様々な環境下で長期にわたって使用できる。
【背景技術】
【0002】
触媒作用を有する被膜を基材に形成する方法の一つとして、触媒作用を有する塗料を用い、塗膜を基材に形成する方法がある。触媒作用を有する塗料として、例えば、特許文献1に、熱可塑性樹脂のバルーンの表面に光触媒作用を持つ微粒子を熱溶着させた第一の層と、コロイダルシリカからなる第二の層と、熱可塑性樹脂のバルーンの表面に金属粒子を熱溶着させた第三の層とからなる積層体を、壁や屋根に塗膜を形成する方法が記載されている。つまり、第一の層は汚れ防止の層で、第二の層は断熱層で、第三の層は帯電防止の層である。
しかしながら、熱可塑性樹脂からなるバルーンは、光触媒作用を持つ微粒子と接触させるため、微粒子の光触媒作用によって熱可塑性樹脂の分解が進行し、触媒作用を持つ微粒子がバルーンの表面から脱落し、塗膜の光触媒機能が徐々に失われる。また、光触媒作用を持つ微粒子を熱可塑性樹脂のバルーンの表面に結合させるため、微粒子の表面の多くが、熱可塑性樹脂のバルーンの表面に埋もれ、微粒子による触媒作用の効率が低い。
特許文献2に、白色顔料の粒子の表面に、酸化タングステンの微粒子を付着させた光触媒粒子を、無機バインダーに分散させた塗料が記載されている。つまり、酸化タングステンは、450nmの励起波長を吸収した際に黄色に着色する性質を持つため、酸化タングステン微粒子を塗料の成分として用いると、塗膜が黄色に変色する問題点を持つ。このため、特許文献2では、白色顔料の粒子に酸化タングステンの微粒子を付着させることで、酸化タングステン微粒子における黄色を白色の顔料で緩和させることとした。なお、有機バインダーを用いると、酸化タングステンの光触媒作用で有機化合物が分解されるため、無機のバインダーを用いている。
しかしながら、白色顔料を無機バインダー中に分散するため、酸化タングステンの微粒子の表面は無機バインダーで覆われ、無機バインダーが紫外線を透過しないため、酸化タングステンの光触媒機能が発揮されない。
以上に説明したように、光触媒作用をもたらす微粒子が分散された塗料を用いて形成した積層体では、触媒作用を持つ微粒子の表面の多くが、直接外界に晒される状態で、有機物質の表面に結合した積層体を形成することはできない。つまり、光触媒作用をもたらす微粒子が積層体の表面に現れることが必須になる。これらの要件はよく知られたことであるが、上記の特許文献はこれらの要件を満たしていない。
【0003】
従来の触媒作用をもたらす他の塗料として、自動車から排出される有害な排気ガスや排気ガスに含まれる微粒子の燃焼を促進させる触媒作用を有する微粒子を、分散させた塗料がある。例えば、特許文献3に、自動車のディーゼルエンジンから排出される微粒子と有害ガスとを燃焼させる排気浄化触媒が含まれる塗料を、多孔質フィルターに塗布することが記載されている。すなわち、微粒子を燃焼させる触媒として、LaxBa1-xFeO3の組成からなるペロブスカイト構造の複合酸化物を用い、有害なガス成分を燃焼させる触媒として、白金が担持されたアルミナ粉を用い、これらをセラミック粉体と溶剤と共に物理的に混合して塗料を作成し、多孔質フィルターに塗料を塗布することが記載されている。
しかしながら、塗料を多孔質フィルターに塗布しただけでは、触媒作用をもたらす複合酸化物と白金とが塗膜の表面に現れず、複合酸化物と白金とによる触媒作用が発揮されない。このように、燃焼を促進させる触媒についても、触媒作用をもたらす物質が積層体の表面に現れることが必須であることはよく知られた要件であるが、特許文献3はこの要件を満たしていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-148026号公報
【特許文献2】特開2009-106897号公報
【特許文献3】特開2009-291753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
触媒作用をもたらす物質の表面が、直接外界に直接晒されることで、触媒作用をもたらす物質が、触媒作用を発揮する。さらに、微粒子は単位質量に換算した比表面積が大きいため、微粒子の表面の多くが直接外界に晒されれば、微粒子の集まりは、効率よく触媒作用を発揮する。しかし、触媒作用を有する微粒子を外界に直接晒すことは、前記した特許文献にみられるように容易ではない。つまり、触媒作用を有する微粒子をバインダーに分散すると、微粒子がバインダーで覆われ、直接外界に晒されない。また、特許文献1に記載された熱可塑性樹脂の熱融着で、触媒作用を有する微粒子をバルーンの表面に結合させても、微粒子が熱融解した樹脂に埋もれることで、微粒子が樹脂に結合されるため、微粒子の触媒作用が発揮できない。
さらに、微粒子の表面の多くを直接外界に晒すことで、微粒子が触媒作用を発揮するため、微粒子は外界に晒される表面近くに限定できれば、触媒作用を発揮する高価な貴金属からなる微粒子の使用量は少なくて済む。
また、直接外界にさらされた触媒作用を有する微粒子の集まりが、薬品に侵されず、また、廃棄ガスや腐食性のガスに侵されず、また、高温の環境下でも熱劣化せず、あるいは、振動や衝撃加速度に対しも一定の機械的強度を持てば、長期にわたって微粒子による触媒作用が維持される。
ここで、本発明が解決しようとする課題を説明する。第一に、触媒作用を発揮する微粒子の表面が、50%より広い表面を直接外界に晒さらす。第二に、微粒子の集まりが重なり合って積層し、さらに、隣接する微粒子同士が接合し、微粒子の集まりの表面は、触媒作用を発揮する。第三に、微粒子の集まりは、10個未満の微粒子が重なり合って積層すれば、微粒子の原料の使用量が少なくて済む。第四に、触媒作用を発揮するフィルムが、様々な環境下で長期にわたって継続して使用できる。第五に、極めて簡単な処理で触媒作用を発揮するフィルムが形成できる。本発明が解決しようとする課題は、これら5つの課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係わる触媒作用を有する金属のナノ粒子の集まりからなるフィルムを基材の双方の表面に形成する方法は、
メタノールに分子状態で分散するが、メタノールに溶解しない第一の性質と、熱分解で触媒作用を有する金属を析出する第二の性質を兼備する金属化合物を、メタノールに分子状態で分散し、該金属化合物のメタノール分散液を作成する、この後、該金属化合物のメタノール分散液からメタノールを気化させ、該金属化合物の結晶の集まりを析出させる、さらに、該金属化合物の結晶の集まりを容器に充填し、該金属化合物の結晶の集まりの表面全体を覆う平板を、該金属化合物の結晶の集まりの上に被せる、この後、該平板の表面全体に圧縮荷重を均一に加え、前記容器内の前記金属化合物の結晶を粉砕する、さらに、前記容器に前後、左右、上下の3方向の衝撃加速度を繰り返し加え、該容器内の前記粉砕された金属化合物の結晶の集まりを再配列させる、この後、前記平板の表面全体に再度前記圧縮荷重を均一に加え、前記金属化合物の結晶の粉砕をさらに進める、さらに、前記容器に前記3方向の衝撃加速度を再度繰り返し加える、こうした前記圧縮荷重を加える処理と前記衝撃加速度を加える処理とからなる一対の処理を繰り返し、前記平板に前記圧縮荷重を加えた際に、該平板からの反発力が発生した時点で前記一対の処理を停止し、前記容器内に前記金属化合物の微細結晶の集まりを作成する第一の工程と、
前記平板を前記容器から取り出し、さらに、前記容器に、20℃における粘度が0.7-0.9mPa・秒である第一の性質と、前記金属化合物の結晶が溶解及び分子状態となって分散しない第二の性質と、沸点が前記金属化合物の熱分解温度より低い第三の性質を兼備する液体の有機化合物について、前記容器内の前記微細結晶の集まりが占める体積より多い体積となる該有機化合物を重量に換算し、該換算した重量からなる有機化合物を秤量し、該秤量した有機化合物を前記容器に混合し、該有機化合物を撹拌し、前記金属化合物の微細結晶の集まりが、前記有機化合物に分散された懸濁液を作成する第二の工程と、
前記容器内の前記懸濁液中に、金属のナノ粒子の集まりを接合させる基材の全体を浸漬させ、この後、該基材を前記懸濁液から取り出し、該基材を、前記金属化合物を熱分解させる熱処理装置内に移動させ、該基材を前記金属化合物が熱分解する温度に昇温する、これによって、最初に、前記有機化合物が気化し、次に、前記微細結晶が熱分解する、この際、触媒作用を有する金属のナノ粒子の集まりが、前記基材の双方の表面と該双方の表面の凹凸とに一斉に析出し、該金属のナノ粒子の集まりが積層する、次に、該積層した金属のナノ粒子の集まりは、ナノ粒子同士が接触する部位で金属結合し、該金属結合した金属のナノ粒子の集まりが、前記基材の双方の表面の凹凸を埋め尽くすとともに、前記基材の双方の表面を覆い、さらに、前記基材の双方の表面の凹凸を埋め尽くした一部の金属のナノ粒子の集まりが、前記基材の双方の表面を覆った一部の金属のナノ粒子の集まりと接触し、該接触したナノ粒子同士が接触部位で金属結合する、この結果、該金属結合した金属のナノ粒子の集まりが、0.1μmより厚みが薄いフィルムとして、前記基材の双方の表面に接合する第三の工程とからなり、
前記した3つの工程における全ての処理を連続して実施する方法が、触媒作用を有する金属のナノ粒子の集まりからなるフィルムが基材の双方の表面に形成される方法である。
【0007】
つまり、本方法によれば、次の3つの極めて簡単な工程を連続して実施すると、触媒作用を有する金属の粒状のナノ粒子の集まりからなる厚みが0.1μmより薄いフィルムが基材の双方の表面に接合する。フィルムの表面に形成された粒状のナノ粒子の表面が、50%より広い表面を直接外界に晒さらすため、フィルムの表面のナノ粒子の集まりは、効率よく触媒作用を発揮する。さらに、金属の粒状のナノ粒子の集まりは、10個より少ないナノ粒子の集まりが積層してフィルムを構成するため、原材料として使用する金属化合物の使用量は少ない。このため、貴金属からなる高価な金属化合物であっても、使用量が極めて少ないため、フィルムの形成は、安価な費用で済む。これは、有機化合物の粘度が極めて低いため、基材の表面に吸着する懸濁液の厚みが、0.15-0.20μmと極めて薄いことによる。
第一の工程は、金属化合物の結晶を限界の大きさに粉砕する工程である。このため、次の3つの処理を連続して行う。最初に、金属化合物を最も汎用的な溶剤であるメタノールに分散する。次に、メタノール分散液からメタノールを気化する。さらに、容器に充填した金属化合物の微細結晶の集まりに圧縮荷重を加える処理と、さらに、容器に3方向の衝撃加速度を加える処理とからなる一対の処理を繰り返す。この結果、限界の大きさまで破砕された金属化合物の結晶の集まりが作成される。
次に、3つの処理において起こる現象と、3つの処理の作用効果を説明する。
熱分解で金属を析出する金属化合物を、最も汎用的な溶剤であるメタノールに分散すると、金属化合物が分子状態となってメタノールに分散する。これに対し、金属化合物がメタノールに溶解すると、金属化合物を構成する金属が金属イオンとなってメタノール中に溶出し、溶解した金属化合物は、溶解前の金属化合物に戻ることができない。このため、金属化合物のメタノール溶解液からメタノールを気化させると、溶解前の金属化合物の結晶が析出しない。従って、メタノールに溶解せず分子状態で分散する金属化合物を用いる。つまり、金属化合物のメタノール分散液からメタノールを気化させると、分散前の金属化合物が、100nmより小さい金属化合物の結晶として析出する。
次に、金属化合物のメタノール分散液からメタノールを気化すると、100nmより小さい金属化合物の結晶の集まりが一斉に析出する。つまり、金属化合物のメタノール分散液において、金属化合物が分子状態となってメタノールに均一に分散しため、メタノールを気化させると、分散前の金属化合物が、100nmより小さい粒状の結晶として一斉に析出する。この結晶は、分子状態でメタノール中に分散した金属化合物が、結晶として析出したため、金属化合物の単分子が形成する結晶が集積した結晶の集まりである。従って、結晶に応力を加えると結晶が容易に粉砕され、微細な結晶になる。いっぽう、結晶が微細になるほど、結晶に応力を加えることが難しくなり、結晶の微細化には限界がある。なお、気化したメタノールは回収機で回収し、再利用する。
さらに、平板で容器内に拘束した金属化合物の結晶の集まりに対し、平板を介して圧縮荷重を加える。この際、結晶の大きさが相対的に大きい結晶ほど粉砕されやすい。このため、相対的に大きい結晶が優先して粉砕され、圧縮荷重が加えられている間は、結晶の粉砕が進む。いっぽう、結晶の集まりにおいては、結晶の粉砕によって新たな空隙が形成され、圧縮荷重が加えられている間は、空隙を埋めるように結晶が移動する。印加する圧縮荷重を停止した後に、容器に前後、左右、上下の3方向の衝撃加速度を繰り返し加える。この際、結晶は、平板で容器内に拘束されているため飛散せず、空隙を埋めるように結晶が移動し、結晶の集まりが容器内で再配列する。さらに、印加する衝撃加速度を停止した後に、再度、平板を介して結晶の集まりに圧縮荷重を加える。この際、より微細になった結晶の集まりに対し、前記した結晶の粉砕が進む。この後、再度、容器に3方向の衝撃加速度を繰り返し加え、微細になった結晶の集まりの再配列を進める。こうした圧縮荷重を加える処理と、3方向の衝撃加速度を加える処理とからなる一対の処理を繰り返す。いっぽう、結晶が微細になるほど、圧縮荷重を加えも、結晶に応力を加えることが難しくなり、結晶の微細化には限界がある。結晶の微細化が限界になると、平板に圧縮荷重を加えても、結晶の粉砕が行われず、平板に反発力が発生する。この時点で、一対の処理を停止する。 この結果、結晶の大きさは、結晶が析出した時点の大きさに比べ、1/5に近い20nm前後になる。なお、金属化合物の結晶が析出した際に、結晶の大きさにばらつきがあり、また、粉砕よってできた空隙の大きさにもばらつきがある。このため、粉砕が進んだ結晶の大きさは均一ではなく、ばらつきがある。また、平板に加える圧縮荷重は、容器の大きさに応じて、10-100kg重に相当する圧縮荷重を加える。また、容器に加える衝撃加速度は、容器の大きさに応じて、0.3-1.0Gの衝撃加速度を加える。
第二の工程は、金属化合物の粉砕した微細結晶の集まりを、液体の有機化合物に分散した懸濁液を作成する工程である。このため、微細結晶の集まりが存在する容器に、3つの性質を兼備する液体の有機化合物を混合する。すなわち、有機化合物は、20℃における粘度が0.7-0.9mPa・秒である第一の性質と、金属化合物の結晶が溶解及び分子状態となって分散しない第二の性質と、沸点が金属化合物の熱分解温度より低い第三の性質を兼備する。
次に、第二の工程における処理で起こる現象を説明する。
有機化合物の20℃における粘度が、0.7-0.9mPa・秒と低く、また、金属化合物の粉砕された微細結晶の大きさが、基材の表面の凹凸の幅より2桁小さく、かつ、微細結晶が殆ど質量をもたないため、基材の全体を懸濁液に浸漬させると、表面の凹凸に懸濁液が入り込み、基材の双方の表面に、懸濁液が0.15-0.20μmの厚みで吸着する。なお、微細結晶の集まりが占める体積より多い体積となる該有機化合物を重量に換算し、該換算した重量からなる有機化合物を容器に混合したため、微細結晶の集まりが、有機化合物に容易に分散する。いっぽう、微細結晶は、有機化合物中に、分子状態となって分散せず、微細結晶が固体の状態で分散する。
第三の工程は、金属結合した金属のナノ粒子の集まりを、0.1μmより薄い厚みからなるフィルムとして、基材の双方の表面に接合する工程である。この第三の工程における処理で起こる現象と、処理の作用効果を説明する。
最初に、懸濁液中に基材の全体を浸漬させ、基材を懸濁液から取り出し、金属化合物を熱分解させる熱処理装置内に基材を移動させる。なお、前記したように、懸濁液中に浸漬させた基材の双方の表面に、懸濁液が0.15-0.20μmの厚みで吸着する。いっぽう、金属化合物の粉砕された微細結晶の大きさが、基材の表面の凹凸の幅より2桁小さく、また、有機化合物が低粘度で、かつ、金属化合物の粉砕された微細結晶が殆ど質量を持たないため、基材の表面の凹凸に懸濁液が入り込んで凹凸に吸着する。
次に、基材を金属化合物が熱分解する温度に昇温する。最初に、有機化合物が懸濁液中から気化する。次に、金属化合物が熱分解する温度に到達すると、金属化合物の粉砕された結晶が、無機物の分子ないしは有機物の分子と金属分子とに分解し、無機物の分子ないしは有機物の分子が気化熱を奪って気化する。この際、懸濁液に存在した水分や不純物としての有機物と水酸化物も気化する。無機物の分子ないしは有機物の分子の気化が完了した瞬間に、金属分子の集まりが10nm前後の大きさからなり、粒状の金属のナノ粒子を形成し、触媒作用を有する金属のナノ粒子の集まりとして、基材の表面と表面の凹凸に一斉に析出し、基材の双方の表面と双方の表面の凹凸に金属のナノ粒子の集まりが積層する。金属のナノ粒子は、不純物を一切持たない真正な金属のナノ粒子として活性状態で析出するため、積層した金属のナノ粒子の集まりが、互いに接触する部位で金属結合する。この結果、金属結合した金属の粒状のナノ粒子の集まりが、基材の双方の表面の凹凸を埋め尽くすとともに、基材の双方の表面を埋め尽くし、さらに、基材の双方の表面の凹凸を埋め尽くした一部の金属の粒状のナノ粒子の集まりが、基材の双方の表面を埋め尽くした一部の金属の粒状のナノ粒子の集まりと互いに接触し、接触した部位で金属結合する。これによって、金属結合した金属の粒状のナノ粒子の集まりが、0.1μmより薄い厚みからなるフィルムを形成し、該フィルムが基材の双方の表面に接合する。なお、金属結合した金属のナノ粒子の集まりの一部は、基材の表面の全ての凹凸に入り込むため、金属結合した金属のナノ粒子の集まりに、アンカー効果が作用し、一定の機械的強度を持って、基材の表面に接合する。また、フィルムの表面に形成された粒状のナノ粒子は、粒状のナノ粒子同士が接触する部位で金属結合したため、ナノ粒子の表面が、50%より広い表面を直接外界に晒さらす。このため、ナノ粒子の集まりは、効率よく触媒作用を発揮する。さらに、金属の粒状のナノ粒子の集まりは、10個より少ないナノ粒子の集まりが積層してフィルムを構成するため、原材料として使用する金属化合物の使用量は少ない。このため、貴金属からなる高価な金属化合物であっても、使用量が極めて少ないため、フィルムの形成は、安価な費用で済む。これは、有機化合物の粘度が極めて低いため、基材の表面に吸着する懸濁液の厚みが、0.15-0.20μmと極めて薄いことによる。
以上に説明した3つの工程における処理は、いずれも極めて簡単な処理である。また、使用する材料も、汎用的な工業用の素材であり、また、汎用的な工業用の溶剤である。
この結果、本発明によれば、5段落に記載した5つの課題を解決して、触媒作用を持つフィルムを基材の表面全体に形成できる。
なお、金属結合した粒状の金属のナノ粒子の集まりが、基材の双方の表面を埋め尽くすが、金属のナノ粒子の集まりの表面は、同程度の大きさからなる粒状のナノ粒子同士が、接触した部位で金属結合したため、ナノ粒子の表面が50%より広い表面を直接外界に晒す。このため、金属結合したナノ粒子の集まりの表面は、ナノ粒子を構成する材質に基づく固有の触媒作用を効率よく発揮する。また、金属結合したナノ粒子の集まりの一部は、基材の凹凸に入り込み、この凹凸に入り込んだ金属結合したナノ粒子の集まりが、基材の表面の金属結合したナノ粒子の集まりと接触する部位で金属結合するため、金属結合したナノ粒子の集まりにアンカー効果が作用する。0.1μmより薄い厚みからなる金属結合したナノ粒子の集まりは、アンカー効果によって、基材の表面から容易に剥がれない。
いっぽう、基材が板やシート、平面状のフィルター、ワイヤを編んだメッシュやシートのように、2次元的な平面形状で構成される場合であっても、基材の全体を懸濁液に浸漬でき、かつ、懸濁液の粘度が低く、金属化合物の微細結晶が20nm前後と極めて微細であるため、懸濁液が基材の表面の凹凸に入り込み、また、基材の表面全体に吸着する。これによって、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが、触媒作用を持つフィルムを基材の双方の表面、ないしは、基材の表面全体に形成できる。さらに、基材が、ハニカム構造、多孔質フィルター構造、ハニカムフィルター構造のように、内部に空洞を持つ3次元的な構造物で構成される場合であっても、基材の全体を懸濁液に浸漬でき、かつ、懸濁液の粘度が低く、金属化合物の微細結晶が20nm前後と極めて微細であるため、懸濁液が基材の表面の凹凸に入り込み、また、基材の表面全体に吸着する。これによって、触媒作用を持つフィルムを基材の表面全体に形成できる。いっぽう、基材の材質の如何に関わらず、基材を懸濁液中に浸漬できるため、基材の材質は限定されない。
【0008】
6段落に記載した触媒作用を有する金属のナノ粒子の集まりからなるフィルムを基材の双方の表面に形成する方法は、
6段落に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物が、無機物の分子ないしは無機物のイオンが配位子となって金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機塩で構成された無機金属化合物であり、6段落に記載した有機化合物が、炭素原子の数が9-11からなる鎖式飽和炭化水素であり、前記無機金属化合物を、請求項1に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物として用い、前記鎖式飽和炭化水素を、6段落に記載した有機化合物として用い、6段落に記載した方法に従って、触媒作用を有する金属のナノ粒子の集まりからなるフィルムを基材の双方の表面に形成する方法である。
【0009】
つまり、無機物からなる分子ないしは無機物からなるイオンが配位子となって、金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機塩からなる無機金属化合物は、還元雰囲気で熱処理すると、最初に配位結合部が分断され、無機物と金属とに分解する。さらに昇温すると、無機物が気化熱を奪って気化し、無機物の分子量の大きさに応じて、180-220℃の温度範囲で無機物の気化が完了して金属が析出する。また、メタノールに10重量%近く分子状態になって分散し、メタノールに溶解しない。従って、無機金属化合物は、6段落に記載した懸濁液を製造する方法において、2つの性質を兼備する金属化合物である。
すなわち、無機金属化合物を構成するイオンの中で、分子の中央に位置する金属イオンが最も大きく、金属イオンと配位子との距離が最も長い。この無機金属化合物を還元雰囲気で熱処理すると、金属イオンが配位子と結合する配位結合部が最初に分断され、金属と無機物とに分解する。さらに温度が上がると、無機物が気化熱を奪って気化し、無機物の気化が完了すると金属が析出し、熱分解を終える。金属が析出する温度は、金属化合物が熱分解で金属が析出する温度の中で最も低い。従って、熱処理費用が安価で済む。また、金属錯イオンを有する無機塩からなる無機金属化合物は、メタノールに10重量%近く、分子状態になって分散し、メタノールに溶解しない。このため、無機金属化合物は、7段落に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物として用いることができる。
すなわち、無機物からなる分子ないしは無機物からなるイオンが配位子になって、金属イオンに配位結合する金属錯イオンは、配位子の分子量が少ないため、他の金属錯イオンに比べて合成が容易である。このような金属錯イオンとして、アンモニアNH3が配位子となって金属イオンに配位結合するアンミン金属錯イオン、水H2Oが配位子となって金属イオンに配位結合するアクア金属錯イオン、水酸基OH-が配位子となって金属イオンに配位結合するヒドロキソ金属錯イオン、塩素イオンCl-が、ないしは塩素イオンCl-とアンモニアNH3とが配位子となって金属イオンに配位結合するクロロ金属錯イオンなどがある。さらに、このような金属錯イオンを有する塩化物、硫酸塩、硝酸塩などの無機塩からなる無機金属化合物は、合成が容易で、無機塩の分子量が少ないため、180-220℃の温度範囲で無機物の気化が完了し金属を析出する。この金属が析出する温度は、金属化合物の熱分解で金属を析出する温度の中で最も低い。こうした無機金属化合物は、汎用的な工業用の薬品である。
いっぽう、6段落に記載した3つの性質を兼備する液体の有機化合物に、炭素原子の数が9-11個からなる鎖式飽和炭化水素が存在する。これらの有機化合物は、汎用的な工業用の有機溶剤である。
すなわち、炭素原子の数が9つであるノナンCH3(CH2)7CH3は、20℃における粘度が0.714mPa・秒であり、沸点が151℃で、前記した無機金属化合物が溶解及び分子状態となって分散しない3つの性質を兼備する。なお、融点は-51℃と低い。
また、炭素原子の数が10個であるデカンCH3(CH2)8CH3は、20℃における粘度が0.920mPa・秒であり、沸点が174℃で、前記した無機金属化合物が溶解及び分子状態となって分散しない3つの性質を兼備する。なお、融点が-30℃と低い。
さらに、炭素原子の数が11個であるウンデカンCH3(CH2)9CH3は、25℃における粘度が0.812mPa・秒であり、沸点が196℃で、前記した無機金属化合物が溶解及び分子状態となって分散しない3つの性質を兼備する。なお、融点が-26℃と引き。
以上に説明したように、金属錯イオンを有する無機塩からなる無機金属化合物は、6段落に記載した2つの性質を兼備する金属化合物である。また、炭素原子の数が9-11個からなる鎖式飽和炭化水素は、6段落に記載した3つの性質を兼備する有機化合物である。
【0010】
6段落に記載した触媒作用を有する金属のナノ粒子の集まりからなるフィルムを基材の双方の表面に形成する方法は、
請求項1に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物が、オクチル酸金属化合物であり、請求項1に記載した有機化合物が、炭素原子の数が9-11個からなる鎖式飽和炭化水素であり、前記オクチル酸金属化合物を、請求項1に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物として用い、前記鎖式飽和炭化水素を、請求項1に記載した有機化合物として用い、請求項1に記載した方法に従って、触媒作用を有する金属のナノ粒子の集まりからなるフィルムを基材の双方の表面に形成する方法である。
【0011】
つまり、オクチル酸金属化合物は、大気雰囲気の290℃で熱処理すると、金属を析出する。また、メタノールに10重量%近く分子状態で分散し、メタノールに溶解しない。従って、オクチル酸金属化合物は、6段落に記載した懸濁液を製造する方法において、2つの性質を兼備する金属化合物である。
すなわち、オクチル酸金属化合物を構成するイオンの中で、金属イオンが最も大きい。従って、オクチル酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに共有結合するオクチル酸金属化合物においては、カルボキシル基を構成する酸素イオンと金属イオンとの距離が、他のイオン同士の距離より長い。こうした分子構造上の特徴を持つオクチル酸金属化合物を大気雰囲気で熱処理すると、オクチル酸の沸点の228℃を超えると、カルボキシル基を構成する酸素イオンと金属イオンとの結合部が最初に分断され、オクチル酸と金属とに分離する。さらに、オクチル酸が飽和脂肪酸であるため、炭素原子が水素原子に対して過剰となる不飽和構造を持たないため、オクチル酸が気化熱を奪って気化し、気化が完了する290℃で金属が析出する。なお、オクチル酸金属化合物を窒素雰囲気で熱処理すると、330℃で金属が析出する。
つまり、飽和脂肪酸からなるカルボン酸のカルボキシラートアニオン(R-COO-)が、金属イオンと共有結合するカルボン酸金属化合物は、熱分解で金属を析出する。こうしたカルボン酸金属化合物として、金属を析出する熱分解温度が低い順に、オクチル酸金属化合物、ラウリン酸金属化合物、ステアリン酸金属化合物がある。従って、熱分解温度が最も低いオクチル酸金属化合物を用いると、7段落に記載した懸濁液が安価に製造できる。なお、ラウリン酸金属化合物とステアリン酸金属化合物は、オクチル酸金属化合物と同様に、メタノールに10重量%近く分子状態で分散し、メタノールに溶解しない。
つまり、ラウリン酸の沸点は296℃であり、ラウリン酸金属化合物の熱分解温度が360℃である。しかし、ラウリン酸金属化合物とステアリン酸金属化合物の熱分解温度が、オクチル酸金属化合物の熱分解温度より高く、金属を析出する原料として、オクチル酸金属化合物を用いるのが望ましい。
なお、不飽和脂肪酸からなるカルボン酸金属化合物は、飽和脂肪酸からなるカルボン酸金属化合物に比べ、炭素原子が水素原子に対して過剰になるため、熱分解によって金属酸化物、例えば、オレイン酸銅の場合は、酸化第一銅Cu2Oと酸化第二銅CuOとが同時に析出し、酸化第一銅と酸化第二銅とを銅に還元する処理費用を要する。特に、酸化第一銅は、大気雰囲気より酸素がリッチな雰囲気で酸化第二銅に酸化させ、さらに、還元雰囲気で銅に還元させる必要があるため、処理費用がかさむ。
さらに、オクチル酸金属化合物は、容易に合成できる安価な工業用薬品である。すなわち、オクチル酸を強アルカリと反応させるとオクチル酸アルカリ金属化合物が生成される。この後、オクチル酸アルカリ金属化合物を無機金属化合物と反応させると、様々な金属からなるオクチル酸金属化合物が生成される。また、オクチル酸が汎用的な有機酸である。従って、オクチル酸金属化合物は、有機金属化合物の中で最も安価な有機金属化合物である。このため、8-9段落で説明した無機金属化合物からなる錯体より熱分解温度が高くなるが、錯体より安価な金属化合物である。
以上に説明したように、オクチル酸金属化合物は、6段落に記載した懸濁液を製造する方法において、2つの性質を兼備する金属化合物であり、また、金属の微粒子の安価な原料になる。
また、9段落で説明した炭素原子の数が9-11個からなる鎖式飽和炭化水素は、沸点がオクチル酸金属化合物の熱分解温度より低く、6段落に記載した3つの性質を兼備する有機化合物である。
【0012】
触媒作用を有する金属酸化物のナノ粒子の集まりからなるフィルムを基材の双方の表面に形成する方法は、
メタノールに分子状態で分散するが、メタノールに溶解しない第一の性質と、熱分解で触媒作用を有する金属酸化物を析出する第二の性質を兼備する金属化合物を、メタノールに分子状態で分散し、該金属化合物のメタノール分散液を作成する、この後、該金属化合物のメタノール分散液からメタノールを気化させ、該金属化合物の結晶の集まりを析出させる、さらに、該金属化合物の結晶の集まりを容器に充填し、該金属化合物の結晶の集まりの表面全体を覆う平板を、該金属化合物の結晶の集まりの上に被せる、この後、該平板の表面全体に圧縮荷重を均一に加え、前記容器内の前記金属化合物の結晶を粉砕する、さらに、前記容器に前後、左右、上下の3方向の衝撃加速度を繰り返し加え、該容器内の前記粉砕された金属化合物の結晶の集まりを再配列させる、この後、前記平板の表面全体に再度前記圧縮荷重を均一に加え、前記金属化合物の結晶の粉砕をさらに進める、さらに、前記容器に前記3方向の衝撃加速度を再度繰り返し加える、こうした前記圧縮荷重を加える処理と前記衝撃加速度を加える処理とからなる一対の処理を繰り返し、前記平板に前記圧縮荷重を加えた際に、該平板からの反発力が発生した時点で、前記一対の処理を停止し、前記容器内に前記金属化合物の微細結晶の集まりを作成する第一の工程と、
前記平板を前記容器から取り出し、さらに、前記容器に、20℃における粘度が0.7-0.9mPa・秒である第一の性質と、前記金属化合物の結晶が溶解及び分子状態となって分散しない第二の性質と、沸点が前記金属化合物の熱分解温度より低い第三の性質を兼備する液体の有機化合物について、前記容器内の前記微細結晶の集まりが占める体積より多い体積となる該有機化合物を重量に換算し、該換算した重量からなる有機化合物を秤量し、該秤量した有機化合物を前記容器に混合し、該有機化合物を撹拌し、前記微細結晶の集まりが、前記有機化合物に分散した懸濁液を作成する第二の工程と、
前記容器内の前記懸濁液中に、金属酸化物のナノ粒子の集まりを接合させる平板からなる基材の全体を浸漬させ、この後、該基材を前記懸濁液から取り出し、該基材の大きさより大きい同一の形状からなる2枚の平板の間隙に該基材の全体を挟む、さらに、該2枚の平板の間隙に挟まれた基材を、前記金属化合物を熱分解させる熱処理装置内に移動させ、前記2枚の平板の一方の平板の表面全体を均一に圧縮するとともに、前記金属化合物が熱分解する温度に昇温する、これによって、最初に、前記有機化合物が気化し、次に、前記微細結晶が熱分解する、この際、触媒作用を有する金属酸化物のナノ粒子の集まりが、前記基材の双方の表面と該双方の表面の凹凸とに一斉に析出し、該金属酸化物のナノ粒子の集まりが積層する、次に、該積層した金属酸化物のナノ粒子の集まりに圧縮応力が加わり、該ナノ粒子同士が接触する部位で摩擦圧接によって接合し、該接合した金属酸化物のナノ粒子の集まりが、前記基材の双方の表面の凹凸を埋め尽くすとともに、前記基材の双方の表面を覆い、さらに、前記基材の双方の表面の凹凸を埋め尽くした一部の金属酸化物のナノ粒子の集まりが、前記基材の双方の表面を覆った一部の金属酸化物のナノ粒子の集まりと接触し、該接触したナノ粒子同士が接触部位で摩擦熱によって接合する、この結果、該摩擦圧接で接合した金属酸化物のナノ粒子の集まりが、0.1μmより厚みが薄いフィルムとして、前記基材の双方の表面に接合する第三の工程とからなり、
前記した3つの工程における全ての処理を連続して実施する方法が、触媒作用を有する金属酸化物のナノ粒子の集まりからなるフィルムが基材の双方の表面に形成される方法である。
【0013】
つまり、本方法によれば、次の3つの極めて簡単な工程を連続して実施すると、触媒作用を有する金属酸化物の粒状のナノ粒子の集まりからなる厚みが0.1μmより薄いフィルムが基材の双方の表面に接合する。フィルムの表面に形成された粒状のナノ粒子の表面が、50%より広い表面を直接外界に晒さらすため、フィルムの表面のナノ粒子の集まりは、効率よく触媒作用を発揮する。さらに、摩擦圧接で接合した金属酸化物の粒状のナノ粒子の集まりは、10個より少ないナノ粒子の集まりが積層してフィルムを構成するため、原材料として使用する金属化合物の使用量は少ない。このため、高価な金属化合物であっても、使用量が極めて少ないため、フィルムの形成は安価な費用で済む。これは、有機化合物の粘度が極めて低いため、基材の表面に吸着する懸濁液の厚みが、0.15-0.20μmと極めて薄いことによる。
第一の工程は、金属化合物の結晶を限界の大きさに粉砕する工程である。このため、次の3つの処理を連続して行う。最初に、金属化合物を最も汎用的な溶剤であるメタノールに分散する。次に、メタノール分散液からメタノールを気化する。さらに、容器に充填した金属化合物の微細結晶の集まりに圧縮荷重を加える処理と、さらに、容器に3方向の衝撃加速度を加える処理とからなる一対の処理を繰り返す。この結果、限界の大きさまで破砕された金属化合物の結晶の集まりが作成される。
次に、3つの処理において起こる現象と、3つの処理の作用効果を説明する。
熱分解で金属酸化物を析出する金属化合物を、最も汎用的な溶剤であるメタノールに分散すると、金属化合物が分子状態となってメタノールに分散する。これに対し、金属化合物がメタノールに溶解すると、金属化合物を構成する金属が金属イオンとなってメタノール中に溶出し、溶解した金属化合物は、溶解前の金属化合物に戻ることができない。このため、金属化合物のメタノール溶解液からメタノールを気化させると、溶解前の金属化合物の結晶が析出しない。従って、メタノールに溶解せず、分子状態で分散する金属化合物を用いる。つまり、金属化合物のメタノール分散液からメタノールを気化させると、分散前の金属化合物が、100nmより小さい金属化合物の結晶として析出する。
次に、金属化合物のメタノール分散液からメタノールを気化すると、100nmより小さい金属化合物の結晶の集まりが一斉に析出する。つまり、金属化合物のメタノール分散液において、金属化合物が分子状態となってメタノールに均一に分散しため、メタノールを気化させると、分散前の金属化合物が、100nmより小さい粒状の結晶として一斉に析出する。この結晶は、分子状態でメタノール中に分散した金属化合物が、結晶として析出したため、金属化合物の単分子が形成する結晶が集積した結晶の集まりである。従って、結晶に応力を加えると結晶が容易に粉砕され、微細な結晶になる。いっぽう、結晶が微細になるほど、結晶に応力を加えることが難しくなり、結晶の微細化には限界がある。なお、気化したメタノールは回収機で回収し、再利用する。
さらに、容器内に拘束した金属化合物の結晶の集まりに対し、平板を介して圧縮荷重を加える。この際、結晶の大きさが相対的に大きい結晶ほど粉砕されやすい。このため、相対的に大きい結晶が優先して粉砕され、圧縮荷重が加えられている間は、結晶の粉砕が進む。いっぽう、結晶の集まりにおいては、結晶の粉砕によって新たな空隙が形成され、圧縮荷重が加えられている間は、空隙を埋めるように結晶が移動する。印加する圧縮荷重を停止した後に、容器に前後、左右、上下の3方向の衝撃加速度を繰り返し加える。この際、結晶は、平板で容器内に拘束されているため飛散せず、空隙を埋めるように結晶が移動し、結晶の集まりが容器内で再配列する。さらに、印加する衝撃加速度を停止した後に、再度、平板を介して結晶の集まりに圧縮荷重を加える。この際、より微細になった結晶の集まりに対し、前記した結晶の粉砕が進む。この後、再度、容器に3方向の衝撃加速度を繰り返し加え、微細になった結晶の集まりの再配列を進める。こうした圧縮荷重を加える処理と、3方向の衝撃加速度を加える処理とからなる一対の処理を繰り返す。いっぽう、結晶が微細になるほど、圧縮荷重を加えも、結晶に応力を加えることが難しくなり、結晶の微細化には限界がある。結晶の微細化が限界になると、平板に圧縮荷重を加えても、結晶の粉砕が行われず、平板に反発力が発生する。この時点で、一対の処理を停止する。この結果、結晶の大きさは、結晶が析出した時点の大きさに比べ、1/5に近い20nm前後になる。なお、金属化合物の結晶が析出した際に、結晶の大きさにばらつきがあり、また、粉砕よってできた空隙の大きさにもばらつきがある。このため、粉砕が進んだ結晶の大きさは均一ではなく、ばらつきがある。また、平板に加える圧縮荷重は、容器の大きさに応じて、10-100kg重に相当する圧縮荷重を加える。また、容器に加える衝撃加速度は、容器の大きさに応じて、0.3-1.0Gの衝撃加速度を加える。
第二の工程は、金属化合物の粉砕した微細結晶の集まりを、液体の有機化合物に分散した懸濁液を作成する工程である。このため、微細結晶の集まりが存在する容器に、3つの性質を兼備する液体の有機化合物を混合する。すなわち、有機化合物は、20℃における粘度が0.7-0.9mPa・秒である第一の性質と、金属化合物の結晶が溶解及び分子状態となって分散しない第二の性質と、沸点が金属化合物の熱分解温度より低い第三の性質を兼備する。
次に、第二の工程における処理で起こる現象を説明する。
有機化合物の20℃における粘度が、0.7-0.9mPa・秒と低く、また、金属化合物の粉砕された微細結晶の大きさが、基材の表面の凹凸の幅より2桁小さく、かつ、微細結晶が殆ど質量をもたないため、表面に触媒作用を有する金属酸化物のナノ粒子の集まりを接合させる基材の全体を、懸濁液に浸漬させると、表面の凹凸に懸濁液が入り込み、基材の双方の表面に、懸濁液が0.15―0.20μmの厚みで吸着する。なお、微細結晶の集まりが占める体積より多い体積となる該有機化合物を重量に換算し、該換算した重量からなる有機化合物を容器に混合したため、微細結晶の集まりが、有機化合物に容易に分散する。いっぽう、微細結晶は、有機化合物中に、分子状態となって分散せず、微細結晶が固体の状態で分散する。
第三の工程は、摩擦圧接で接合した金属酸化物のナノ粒子の集まりを、0.1μmより薄い厚みからなるフィルムとして、基材の双方の表面に摩擦圧接で接合する工程である。
最初に、懸濁液中に基材の全体を浸漬させる。なお、前記したように、懸濁液中に浸漬させた基材の双方の表面に、懸濁液が0.15-0.20μmの厚みで吸着する。いっぽう、金属化合物の粉砕された微細結晶の大きさが、基材の表面の凹凸の幅より2桁小さく、また、有機化合物が低粘度で、かつ、金属化合物の粉砕された微細結晶が殆ど質量を持たないため、基材の表面の凹凸に懸濁液が入り込んで凹凸に吸着する。
次に、基材を前記した懸濁液から取り出し、基材の大きさより大きい同一の形状からなる2枚の平板の間隙に基材の全体を挟む。
この後、2枚の平板の間隙に挟まれた基材を、金属化合物を熱分解させる熱処理装置内に移動させ、2枚の平板の一方の平板の表面全体を均一に圧縮するとともに、金属化合物が熱分解する温度に昇温する。これによって、最初に、前記した有機化合物が気化する。次に、金属化合物が熱分解する温度に到達すると、最初に、微細結晶が、有機物の分子と金属酸化物の分子とに分解し、有機物の分子が気化熱を奪って気化する。この際、懸濁液に存在した水分や不純物としての有機物と水酸化物も気化する。有機物の分子の気化が完了した瞬間に、金属酸化物の分子の集まりが10nm前後の大きさからなり、粒状の金属酸化物のナノ粒子を形成し、触媒作用を有する金属酸化物のナノ粒子の集まりとして、基材の表面と表面の凹凸に一斉に析出し、基材の双方の表面と双方の表面の凹凸に金属酸化物のナノ粒子の集まりが積層する。次に、積層した金属酸化物の粒状のナノ粒子の集まりに圧縮応力が加わり、ナノ粒子同士が接触する部位で摩擦圧接によって接合し、接合した金属酸化物の粒状のナノ粒子の集まりが、基材の双方の表面の凹凸を埋め尽くすとともに、基材の双方の表面を埋め尽くし、さらに、基材の双方の表面の凹凸を埋め尽くした一部の金属酸化物のナノ粒子の集まりが、基材の双方の表面を埋め尽くした一部の金属酸化物のナノ粒子の集まりと接触し、接触したナノ粒子同士が接触部位で摩擦熱によって接合する。この結果、摩擦圧接で接合した金属酸化物の粒状のナノ粒子の集まりが、0.1μmより薄い厚みからなるフィルムとして、基材の双方の表面に接合する。また、フィルムの表面に形成された粒状のナノ粒子は、粒状のナノ粒子同士が接触する部位で摩擦圧接によって接合したため、ナノ粒子の表面が、50%より広い表面を直接外界に晒さらす。このため、ナノ粒子の集まりは、効率よく触媒作用を発揮する。さらに、摩擦圧接で接合した金属酸化物の粒状のナノ粒子の集まりは、10個より少ないナノ粒子の集まりが積層してフィルムを構成するため、原材料として使用する金属化合物の使用量は少ない。このため、高価な金属化合物であっても、使用量が極めて少ないため、フィルムの形成は、安価な費用で済む。これは、有機化合物の粘度が極めて低いため、基材の表面に吸着する懸濁液の厚みが、0.15-0.20μmと極めて薄いことによる。
以上に説明した3つの工程における処理は、いずれも極めて簡単な処理である。また、使用する材料も、汎用的な工業用の素材であり、また、汎用的な工業用の溶剤である。
この結果、本発明によれば、5段落に記載した5つの課題を解決して、触媒作用を持つフィルムを基材の表面全体に形成できる。
なお、摩擦圧接で接合した粒状の金属酸化物の粒状のナノ粒子の集まりが、基材の双方の表面を埋め尽くすが、金属酸化物のナノ粒子の集まりの表面は、同程度の大きさからなる粒状のナノ粒子同士が、接触した部位で摩擦圧接によって接合したため、ナノ粒子の表面が50%より広い表面を直接外界に晒す。このため、接合したナノ粒子の集まりの表面は、ナノ粒子を構成する材質に基づく固有の触媒作用を効率よく発揮する。また、摩擦圧接で接合したナノ粒子の集まりの一部は、基材の凹凸に入り込み、この凹凸に入り込んだ摩擦圧接で接合したナノ粒子の集まりが、基材の表面の摩擦圧接で接合したナノ粒子の集まりと接触する部位で摩擦圧接によって接合するため、接合したナノ粒子の集まりにアンカー効果が作用する。0.1μmより薄い厚みからなる摩擦圧接で接合したナノ粒子の集まりは、アンカー効果によって、基材の表面から容易に剥がれない。
いっぽう、基材が板やシートで構成される平板である場合は、金属酸化物のナノ粒子の集まりが積層した基材の表面全体を均一に圧縮することができるため、金属酸化物のナノ粒子の集まりが圧縮され、ナノ粒子同士が接触する部位で摩擦圧接によって接合し、触媒作用を持つフィルムを基材の双方の表面に形成できる。いっぽう、基材の材質の如何に関わらず、基材を懸濁液中に浸漬できるため、基材の材質は限定されない。
【0014】
12段落に記載した触媒作用を有する金属酸化物のナノ粒子の集まりからなるフィルムを基材の双方の表面に形成する方法は、
12段落に記載した熱分解で金属酸化物を析出する金属化合物が、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが、金属イオンに配位結合したカルボン酸金属化合物からなる錯体であり、12段落に記載した有機化合物が、炭素原子の数が9-11個からなる鎖式飽和炭化水素であり、前記カルボン酸金属化合物からなる錯体を、12段落に記載した熱分解で金属酸化物を析出する金属化合物として用い、前記鎖式飽和炭化水素を、12段落に記載した有機化合物として用い、12段落に記載した方法に従って、触媒作用を有する金属酸化物のナノ粒子の集まりからなるフィルムを基材の双方の表面に形成する方法である。
【0015】
つまり、カルボン酸金属化合物からなる錯体は、180-330℃の温度からなる大気雰囲気で熱処理すると、金属酸化物を析出する。また、メタノールに分子状態で分散し、メタノールに溶解しない。従って、カルボン酸金属化合物からなる錯体は、12段落に記載した懸濁液を製造する方法において、2つの性質を兼備する金属化合物である。
すなわち、カルボン酸のカルボキシラートアニオン(R-COO-)が配位子となって、金属イオンに近づいて配位結合するカルボン酸金属化合物からなる錯体は、最も大きいイオンである金属イオンにカルボキシラートアニオン(R-COO-)が近づいて配位結合するため、両者の距離は短くなる。これによって、金属イオンに配位結合するカルボキシラートアニオン(R-COO-)が、金属イオンの反対側で共有結合するイオンとの距離が最も長くなる。こうした分子構造上の特徴を持つカルボン酸金属化合物は、カルボン酸の沸点を超えると、カルボキシラートアニオン(R-COO-)が金属イオンの反対側で共有結合するイオンとの結合部が最初に分断され、金属イオンと酸素イオンとの化合物である金属酸化物とカルボン酸とに分解する。さらに昇温すると、カルボン酸が気化熱を奪って気化し、カルボン酸の分子量と、配位結合するカルボン酸の数に応じて、カルボン酸の気化が進み、気化が完了すると、金属酸化物が析出して熱分解を終える。
こうした分子構造上の特徴を持つカルボン酸金属化合物として、酢酸金属化合物、カプリル酸金属化合物、安息香酸金属化合物、ナフテン酸金属化合物などがある。これらカルボン酸金属化合物からなる錯体は、カルボン酸の沸点に応じて、180-330℃の大気雰囲気で熱分解する。つまり、酢酸の沸点は118℃で、カプリル酸の沸点は237℃で、安息香酸の沸点は249℃である。いっぽう、ナフテン酸は5員環をもつ飽和脂肪酸の混合物で、一般式ではCnH2n-1COOHで示され、主成分は沸点が268℃で、分子量が170のC9H17COOHからなる。このため、ナフテン酸金属化合物の熱分解温度は、カルボン酸金属化合物からなる錯体の中で330℃と高い。従って、酢酸金属化合物、カプリル酸金属化合物、安息香酸金属化合物ないしはナフテン酸金属化合物を、12段落に記載した2つの性質を兼備する金属化合物として用いることができる。
いっぽう、酢酸金属化合物の中に、メタノールに溶解する酢酸金属化合物がある。また、熱分解でアモルファス化した金属酸化物を析出する酢酸金属化合物がある。アモルファス化した金属酸化物の組成は一定でない。こうした酢酸金属化合物は、金属酸化物からなる微粒子の原料として用いることができない。さらに、酢酸金属化合物ないしはカプリル酸金属化合物の中に、熱分解で無定形の金属酸化物を析出する酢酸金属化合物ないしはカプリル酸金属化合物がある。こうした酢酸金属化合物ないしはカプリル酸金属化合物は、金属酸化物からなる微粒子の原料として用いることができない。また、酢酸金属化合物とカプリル酸金属化合物と安息香酸金属化合物の中に、酸素イオンが金属イオンに近づいて配位結合して複核錯塩を形成するが、熱分解の途上においては不安定な物質であり、熱分解における取り扱いが難しい酢酸金属化合物、カプリル酸金属化合物ないしは安息香酸金属化合物がある。こうしたカルボン酸金属化合物においては、ナフテン酸金属化合物を金属酸化物からなる微粒子の原料として用いる。従って、熱分解で析出する金属酸化物の物質に応じて、カルボン酸金属化合物からなる錯体を、カルボン酸金属化合物の微細結晶の原料として用いる。
さらに、カルボン酸金属化合物からなる錯体は容易に合成できる安価な工業用薬品である。すなわち、カルボン酸を強アルカリと反応させるとカルボン酸アルカリ金属化合物が生成される。この後、カルボン酸アルカリ金属化合物を無機金属化合物と反応させると、様々な金属からなるカルボン酸金属化合物からなる錯体が合成される。また、原料となるカルボン酸は、安価な有機酸である。従って、有機金属化合物の中で最も安価な有機金属化合物である。
以上に説明したように、カルボン酸金属化合物からなる錯体は、12段落に記載した懸濁液を製造する製造方法において、熱分解で金属酸化物を析出する金属化合物であり、また、金属酸化物の微粒子の安価な原料になる。
また、9段落で説明した炭素原子の数が9-11個からなる鎖式飽和炭化水素は、沸点がカルボン酸金属化合物からなる錯体の熱分解温度より低く、12段落に記載した3つの性質を兼備する有機化合物である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】ポリアセタール樹脂の平板の双方の表面にパラジウムのナノ粒子の集まりが積み重なって接合したフィルムの構造を、断面によって模式的に説明する図である。
【
図2】3層のフィルムがハニカムセラミックに積み重なって接合した断面を、模式的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施形態1
金属ないしは金属酸化物が発揮する触媒作用と、これを用いた触媒装置に係わる実施形態を説明する。なお、1種類の金属ないしは1種類の金属酸化物が発揮する触媒作用と、これを用いた触媒装置は多岐にわたるため、ここでは代表的な触媒装置に留めた。
第一に、白金族の金属に依る触媒作用を説明する。最もよく知られた白金族の金属の触媒として、自動車の排気ガスに含まれる炭化水素HCを水と二酸化炭素CO2に酸化し、一酸化炭素COを二酸化炭素に酸化し、窒素酸化物NOxを窒素に還元する三元触媒装置がある。
本発明に係わる最初の実施形態は、パラジウム、白金およびロジウムからなる3種類の金属のナノ粒子の集まりに依る触媒作用を同時に発揮する実施形態である。このため、パラジウム、白金ないしはロジウムを熱分解で析出する金属錯体からなる無機金属化合物を、熱分解でパラジウム、白金ないしはロジウムを析出する金属化合物として用い、8段落に記載した方法に準じて3種類の懸濁液を作成する。また、内部に多数の細長い貫通孔が形成されたハニカムセラミックを用意し、ハニカムセラミックを8段落に記載した基材として用いる。
次に、ハニカムセラミックを1種類ずつの懸濁液に浸漬する度に、ハニカムセラミックを懸濁液に浸漬する深さを浅くし、この後、ハニカムセラミックを引き上げ、無機金属化合物が熱分解する温度に昇温する。これによって、ハニカムセラミックの内部の貫通孔の互いに異なる3つの部位の表面に、金属結合したパラジウムのナノ粒子の集まりと、白金のナノ粒子の集まりと、ロジウムのナノ粒子の集まりからなる0.1μmより厚みが薄いフィルムが接合する。この結果、ハニカムセラミックは、互いに異なる白金族の3種類の金属のナノ粒子の集まりに依る触媒作用を同時に発揮する。
つまり、ハニカムセラミックの3つの部位において、パラジウム錯体の無機化合物が分散された懸濁液に浸漬した部位は、該懸濁液のみがハニカムセラミックの表面に吸着するため、無機化合物を熱分解すると、ハニカムセラミックの表面に、金属結合したパラジウムのナノ粒子の集まりが形成され、この部位の表面は、パラジウムのナノ粒子の集まりによる触媒作用が発揮する。なお、ハニカムセラミックの表面の凹凸に析出したパラジウムのナノ粒子の集まりは、アンカー効果をもたらすため、パラジウムのナノ粒子の集まりは、一定の強度で、ハニカムセラミックに接合する。
次に、白金錯体の無機化合物が分散された懸濁液に浸漬した部位は、パラジウム錯体の無機化合物が分散された懸濁液が吸着した表面に、白金錯体の無機化合物が分散された懸濁液が吸着するため、無機化合物を熱分解すると、金属結合したパラジウムのナノ粒子の集まりの表面に、金属結合した白金のナノ粒子の集まりが形成される。この部位の表面は、金属結合した白金のナノ粒子の集まりが形成するため、白金のナノ粒子による触媒作用を発揮する。なお、真正な金属からなるナノ粒子が活性状態で析出するため、パラジウムのナノ粒子が、白金のナノ粒子と接触するナノ粒子は、白金のナノ粒子と金属結合する。このため、2種類の金属のナノ粒子の集まりの全てが金属結合する。また、ハニカムセラミックの表面の凹凸に析出したパラジウムのナノ粒子の集まりは、アンカー効果をもたらすため、2種類の金属のナノ粒子の集まりは、一定の強度で、ハニカムセラミックに接合する。
さらに、ロジウム錯体の無機化合物が分散された懸濁液に浸漬した部位は、パラジウム錯体の無機化合物が分散された懸濁液が吸着した表面に、白金錯体の無機化合物が分散された懸濁液が吸着し、さらに、ロジウム錯体の無機化合物が分散された懸濁液が吸着する。このため、無機化合物を熱分解すると、金属結合したパラジウムのナノ粒子の集まりの表面に、金属結合した白金のナノ粒子の集まりが形成され、さらに、金属結合したロジウムのナノ粒子の集まりが形成される。この部位の表面は、金属結合したロジウムのナノ粒子の集まりが形成するため、ロジウムのナノ粒子による触媒作用を発揮する。なお、真正な金属からなるナノ粒子が活性状態で析出するため、パラジウムのナノ粒子が、白金のナノ粒子と接触するナノ粒子は、白金のナノ粒子と金属結合する。また、白金のナノ粒子が、ロジウムのナノ粒子と接触するナノ粒子は、ロジウムのナノ粒子と金属結合する。このため、3種類の金属のナノ粒子の集まりの全てが金属結合する。また、ハニカムセラミックの表面の凹凸に析出したパラジウムのナノ粒子の集まりは、アンカー効果をもたらすため、3種類の金属のナノ粒子の集まりは、一定の強度で、ハニカムセラミックに接合する。
いっぽう、ルテニウムを熱分解で析出するルテニウム錯体からなる無機金属化合物を、熱分解でルテニウムを析出する金属化合物として用い、8段落に記載した方法に準じて第一の懸濁液を作成する。また、パラジウムないしは白金を熱分解で析出する金属錯体からなる無機金属化合物を、熱分解でパラジウムないしは白金を析出する金属化合物として用い、8段落に記載した方法に準じて第二の懸濁液を作成する。この後、前記したハニカムセラミックの片方の端部を、第一の懸濁液中にハニカムセラミックの1/3の長さまで浸漬し、さらに、ハニカムセラミックのもう一方の端部を、第二の懸濁液中にハニカムセラミックの2/3の長さまで浸漬する。この後、無機金属化合物が熱分解する温度に昇温する。これによって、金属結合したルテニウムのナノ粒子の集まりと、パラジウムないしは白金のナノ粒子の集まりからなる0.1μmより厚みが薄いフィルムが、ハニカムセラミックの表面の異なる部位に接合する。このハニカムセラミックのルテニウムのナノ粒子の集まりが接合した部位を、三元触媒装置の上流側に配置すると、排気ガスに含まれる一酸化炭素をルテニウムのナノ粒子の集まりが二酸化炭素に酸化する。このため、下流側に配置されたパラジウムのナノ粒子の集まりないしは白金のナノ粒子の集まりが接合した部位は、一酸化炭素ガスを吸着することに依って触媒活性がなくなる被毒現象が起こらず、パラジウムのナノ粒子の集まりないしは白金のナノ粒子の集まりに依る触媒機能を効率よく発揮することができる。
また、白金族のルテニウムは、C=Cの2重結合やCとCの3重結合をC-Cの一重結合に水素化する際や、芳香族環の炭化水素を水素化して飽和環の炭化水素に還元する際に、触媒作用を発揮する。本発明に係わる次の実施形態は、ルテニウムを熱分解で析出するルテニウム錯体からなる無機金属化合物を、熱分解でルテニウムを析出する金属化合物として用い、8段落に記載した方法に準じて懸濁液を作成する。この懸濁液に、前記したハニカムセラミックを浸漬し、ハニカムセラミックを引き上げ、この後、無機金属化合物が熱分解する温度に昇温する。これによって、ルテニウムのナノ粒子の集まりからなる0.1μmより厚みが薄いフィルムが、ハニカムセラミックの表面に接合する。このハニカムセラミックを昇温させ、様々な炭化水素からなる液体を微粒子化してハニカムセラミックス内の細長い貫通孔を通過させると、炭化水素が低分子量の炭化水素に水素化するマイクロリアクター装置として、ハニカムセラミックが作用する。
第二に、銀に依る触媒作用を説明する。銀の触媒作用として、例えば、一酸化炭素を二酸化炭素に酸化する触媒作用がある。本発明に係わる実施形態は、銀を熱分解で析出する銀錯体からなる無機金属化合物を、熱分解で銀を析出する金属化合物として用い、8段落に記載した方法に準じて懸濁液を作成する。タバコの葉の集まりを、ワイヤからなるメッシュの容器に収納し、容器を懸濁液に浸漬し、容器を揺動させて懸濁液中でタバコの葉を揺動させ、この後、容器を引き上げる。さらに、無機金属化合物が熱分解する温度に昇温し、タバコの葉の表面に、銀のナノ粒子の集まりが、厚みが0.1μmより薄いフィルムとして接合する。つまり、タバコの葉を8段落に記載した基材として用いた。この後、タバコの葉をタバコとして加工する。このタバコを吸う喫煙者は、タバコの燃焼に伴って発生する一酸化炭素ガスが、銀の触媒作用で二酸化炭素に酸化され、有毒な一酸化炭素を吸引することがない。なお、銀のナノ粒子の集まりは、吸い殻と灰とから分離させ、銀のナノ粒子を再利用する。
また、銀を熱分解で析出する銀錯体からなる無機金属化合物を、熱分解で銀を析出する金属化合物として用い、8段落に記載した方法に準じて懸濁液を作成し、この懸濁液に布(生地)を浸漬し、布(生地)を引き上げて、無機金属化合物の熱分解温度に昇温すると、布(生地)の表面に、銀からなるナノ粒子の集まりが、厚みが0.1μmより薄いフィルムとして接合する。この布(生地)は銀のナノ粒子に依る抗菌作用を持つため、抗菌作用を持つ様々な衣服やガーゼ、マスクなどに用いることができる。なお、布(生地)は無機金属化合物が熱分解する180-220℃に昇温されるが、還元雰囲気であり、また、昇温される温度が低いため、布(生地)を構成する合成樹脂は熱分解されず、また、布(生地)を構成する天然繊維は自己発火しない。
第三に、銅に依る触媒作用を説明する。銅の触媒作用として、例えば、今後燃料としての需要が高まるメタノールの合成がある。本発明に係わる実施形態は、銅が熱分解で析出する金属化合物として、銅錯体からなる無機金属化合物を用い、8段落に記載した方法に準じて懸濁液を作成する。この懸濁液に、前記したハニカムセラミックを浸漬し、ハニカムセラミックを引き上げ、この後、無機金属化合物が熱分解する温度に昇温する。これによって、ハニカムセラミックの表面に、銅のナノ粒子の集まりが、厚みが0.1μmより薄いフィルムとして接合する。このハニカムセラミック内の細長い貫通孔に、5-10MPaの圧力に昇圧し、かつ、300℃前後に昇温した一酸化炭素と水素とからなる混合ガスを通過させると、ハニカムセラミックは、メタノールを合成するマイクロリアクター装置として作用する。
第四に、酸化チタンTiO2に依る触媒作用を説明する。酸化チタンは、例えば、光触媒の作用を発揮する。本発明に係わる実施形態は、酸化チタンを熱分解で析出する金属化合物として、安息香酸チタンを用い、14段落に記載した方法に準じて懸濁液を作成する。この懸濁液に、室内で用いるカーテン生地を浸漬し、カーテンを引き上げたのちに、このカーテンを、カーテンより大きさが大きい2枚の平板で挟み、上方の平板に圧縮荷重を均一に加え、安息香酸チタンが熱分解する310℃に昇温する。これによって、カーテン生地の双方の表面に、酸化チタンのナノ粒子の集まりが、厚みが0.1μmより薄いフィルムとして接合する。このため、酸化チタン微粒子の集まりが担持されたカーテン生地は、室内の臭いの元になる高分子ガスやVOCガスなどを分解する。なお、カーテン生地は310℃に昇温されるが、カーテン生地の表面は、安息香酸チタンの微細結晶の集まりによって、大気と遮断されるため、カーテン生地が、密閉された領域で310℃に昇温されるため、カーテン生地を構成する合成樹脂は熱分解しない。あるいは、前記した懸濁液に板材を浸漬した後、該板材を、板材より大きさが大きい2枚の平板で挟み、上方の平板に圧縮荷重を均一に加え、安息香酸チタンが熱分解する310℃に昇温する。これによって、板材の表面に、酸化チタンのナノ粒子集まりが、厚みが0.1μmより薄いフィルムとして接合する。この板材を室内の内装材として用いると、酸化チタン微粒子の集まりは、室内の臭いの元になる高分子ガスやVOCガスなどを分解する。
第五に、酸化バナジウムV2O5に依る触媒作用を説明する。酸化バナジウムは、例えば、接触法で硫酸を製造する際に、二硫化硫黄SiO2を酸化する際の触媒として用いられている。本発明に係わる実施形態は、ナフテン酸バナジウムを熱分解で酸化バナジウムを析出する金属化合物として用い、14段落に記載した方法に準じて懸濁液を作成する。この懸濁液に、複数の平板を離間して浸漬し、各々の平板を引き上げ、この後、各々の平板について、平板を該平板より大きさが大きい2枚の平板で挟み、2枚の平板の上方の平板に圧縮荷重を加え、ナフテン酸バナジウムが熱分解する330℃に昇温する。これによって、各々の平板の双方の表面に、厚みが0.1μmより薄いフィルムとして酸化バナジウムのナノ粒子の集まりが接合する。この複数の平板を、脱硫塔内に離間して固定し、排気ガスが複数の平板を通過すると、排ガス中に含まれる二硫化硫黄を、平板の表面の酸化バナジウムのナノ粒子の集まりが吸着し、さらに、排ガス中の酸素と水で酸化させ、希硫酸となって二酸化硫黄を除去回収するマイクロリアクター装置として作用する。
第六に、ニッケルに依る触媒作用を説明する。ニッケルは、例えば、アルケン、ニトリル、重質油、油脂などを、ニッケルの触媒の元で300℃程度の水蒸気と反応させると、一酸化炭素ガスと水素ガスとの合成ガス、あるいは、二酸化炭素ガスと水素ガスとの合成ガスが生成され、こうした水蒸気改質反応における触媒として用いられている。本発明に係わる実施形態は、オクチル酸ニッケルを、熱分解でニッケルを析出する金属化合物として用い、11段落に記載した方法に準じて懸濁液を作成する。この懸濁液に、前記したハニカムセラミックを浸漬し、ハニカムセラミックを引き上げ、この後、オクチル酸ニッケルが熱分解する290℃に昇温する。これによって、ハニカムセラミックの表面に、ニッケルのナノ粒子の集まりが、厚みが0.1μmより薄いフィルムとして接合する。このハニカムセラミックを昇温し、微粒子化したアルケン、ニトリル、重質油ないしは油脂を、高温の水蒸気と共に、ハニカムセラミックの細長い貫通孔を通過させると、ハニカムセラミックは、前記した合成ガスが生成されるマイクロリアクター装置として作用する。
第七に、コバルトに依る触媒作用を説明する。コバルトは、例えば、フィッシャー・トロプッシュ合成によって、一酸化炭素と水素とからなる合成ガスをコバルトの触媒の元で反応させると、直鎖炭化水素からなる液体燃料が合成される。本発明に係わる実施形態は、オクチル酸コバルトを熱分解でコバルトを析出する金属化合物として用い、11段落に記載した方法に準じて懸濁液を作成する。この懸濁液に、前記したハニカムセラミックを浸漬し、ハニカムセラミックを引き上げ、この後、オクチル酸コバルトが熱分解する290℃に昇温する。これによって、ハニカムセラミックの表面に、コバルトのナノ粒子の集まりが、厚みが0.1μmより薄いフィルムとして接合する。このハニカムセラミックの細長い貫通孔に、250℃で10気圧に昇圧した一酸化炭素と水素とからなる合成ガスを通過させると、ハニカムセラミックは、前記した液体燃料が合成されるマイクロリアクター装置として作用する。
【0018】
実施形態2
本発明における熱分解で金属を析出する金属化合物の中で、相対的に低い温度で熱分解する金属化合物として、9段落に記載した無機物の分子ないしは無機物のイオンからなる配位子が、金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機金属化合物がある。ここでは、自動車の排気ガス浄化用触媒や、エチレンからアセトアルデヒドを合成する際に用いる触媒など、様々な分野の触媒に用いられているパラジウムを熱分解で析出するパラジウム化合物の実施形態から説明する。
パラジウム化合物が、熱分解でパラジウムを析出する原料になるには、メタノールに溶解せず、メタノールに分子状態で分散する性質と、熱分解でパラジウムを析出する性質とを兼備する必要がある。塩化パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウムはメタノールに溶解し、酢酸パラジウムと臭化パラジウムとはメタノールに分子状態で分散しない。これら低分子量の無機パラジウム化合物は、熱分解でパラジウムを析出する原料にならない。
いっぽう、パラジウム化合物からパラジウムが生成される化学反応の中で、熱分解反応が最も簡単な化学反応である。つまり、パラジウム化合物を昇温するだけでパラジウムが析出する。さらに、パラジウム化合物の熱分解温度が低ければ、触媒作用を発揮するパラジウムのナノ粒子を生成する処理温度が低く、安価な費用でパラジウムのナノ粒子の集まりからなるフィルムが形成できる。無機パラジウム化合物の中で、無機物からなる分子ないしは無機物からなるイオンが配位子となって、分子構造の中央に位置するパラジウムイオンに配位結合したパラジウム錯イオンを有する無機パラジウム化合物は、配位子とパラジウム錯イオンが結合する無機物の分子量が小さいため、還元雰囲気で熱分解する温度は、パラジウム錯イオンを有するパラジウム化合物の中で最も低い。また、このような無機パラジウム化合物は、有機酸とパラジウムとの化合物である有機パラジウム化合物より合成が容易であるため、パラジウム錯塩の中では最も安価なパラジウム錯塩である。
すなわち、無機パラジウム化合物を構成する分子の中でパラジウムイオンが最も大きい。ちなみに、パラジウム原子の共有結合半径は117pmであり、一方、窒素原子の共有結合半径の54pmであり、水素原子の共有結合半径は32pmで、酸素原子の共有結合半径は63pmである。このため、無機パラジウム化合物の分子構造において、配位子がパラジウムイオンに配位結合する配位結合部の距離が最も長い。従って、還元雰囲気の熱処理で最初に配位結合部が分断され、パラジウムと無機物とに分解し、低分子量の無機物が容易に気化し、その直後にパラジウムが析出する。
このようなパラジウム錯イオンを有する錯体の中で、アンモニアNH3が配位子となってパラジウムイオンに配位結合するアンミン錯体、塩素イオンCl-が配位子となってパラジウムイオンに配位結合するクロロ錯体、臭素イオンBr-が配位子となってパラジウムイオンに配位結合するブロモ錯体は、いずれの配位子も低分子量の物質であり、これらの錯体が低分子量の無機物と結合した無機化合物は、他のパラジウム錯塩に比べて合成が容易で、安価な費用で製造できる。また、こうしたパラジウム錯イオンが無機物と結合した無機パラジウム化合物は、アンモニアガスや水素ガスなどの還元性雰囲気で熱処理すると、配位結合部が最初に分断され、200℃前後の比較的低い温度でパラジウムが析出する。さらに、メタノールに10重量%近くの分散濃度まで分散する。このようなパラジウム錯塩として、アンミン錯体であるジクロロジアンミンパラジウム[Pd(NH3)2]Cl2、ジブロモジアンミンパラジウム[Pd(NH3)2]Br2、テトラアンミンパラジウム塩化物[Pd(NH3)4]Cl2、テトラアンミンパラジウム臭化物[Pd(NH3)4]Br2、テトラアンミンパラジウム硝酸塩[Pd(NH3)4](NO3)2、テトラアンミンパラジウム硫酸塩[Pd(NH3)4](SO4)2、テトラアンミンパラジウム酢酸塩[Pd(NH3)4](CH3COO)2や、クロロ錯体であるテトラクロロパラジウム酸アンモニウム(NH4)2[PdCl4]、ヘキサクロロパラジウムアンモニウム(NH4)2[PdCl6]や、ブロム錯体であるテトラブロモパラジウム酸アンモニウム(NH4)2[PdBr4]などのパラジウム錯塩がある。
また、熱分解で白金を析出する白金錯イオンを有する無機白金化合物として、アンミン錯体であるジアンミン白金塩化物[Pt(NH3)2]Cl2、テトラアンミン白金塩化物[Pt(NH3)4]Cl2、テトラアンミン白金酢酸塩[Pt(NH3)4](CH3COO)2、テトラアンミン白金硫酸塩[Pt(NH3)4](SO4)2、ペンタアンミンクロロ白金塩化物[PtCl(NH3)5]Cl3や、クロロ錯体であるテトラクロロ白金酸アンモニウム(NH4)2[PtCl4]、ジクロロジアンミン白金[PtCl2(NH3)2]や、ブロモ錯体であるヘキサブロモ白金酸アンモニウム(NH4)2[PdBr6]などがある。これらの白金錯塩は、配位子と無機物が低分子量の物質であるため、還元雰囲気の200℃前後の比較的低い温度で白金を析出する。
さらに、還元雰囲気の200℃前後の比較的低い温度で、ロジウムを析出するロジウム錯イオンを有する無機ロジウム化合物として、アンミン錯体であるペンタアンミンクロロロジウム塩化物[RhCl(NH3)5]Cl2、ヘキサアンミンロジウム塩化物[Rh(NH3)6]Cl3、ヘキサアンミンロジウム硝酸塩[Rh(NH3)6](NO3)3や、クロロ錯体であるヘキサクロロロジウム酸アンモニウム(NH4)3[RhCl6]などのロジウム錯塩がある。
さらに、還元雰囲気の200℃前後の比較的低い温度で、ルテニウムを析出するルテニウム錯イオンを有する無機ルテニウム化合物として、アンミン錯体であるヘキサアンミンルテニウム塩化物[Ru(NH3)6]Cl3、ヘキサアンミンルテニウム硫酸塩[Ru(NH3)6](SO4)3、ヘキサアンミンルテニウム硝酸塩[Ru(NH3)6](NO3)3、クロロペンタアンミンルテニウム塩化物[Ru(NH3)5Cl]Cl2などのルテニウム塩がある。
また、還元雰囲気の200℃前後の比較的低い温度で、銅族の金属である銀を析出する銀錯イオンを有する無機銀化合物として、アンミン錯体であるジアンミン銀塩化物[Ag(NH3)2]Clがある。また、熱分解で銅を析出する銅錯イオンを有する無機銅化合物として、アンミン錯体であるテトラアンミン銅硫酸塩[Cu(NH3)4]SO4がある。
以上に説明したように、本発明における相対的に低い熱処理温度で金属を析出する金属化合物として、無機物の分子ないしは無機物のイオンからなる配位子が、金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機金属化合物がある。
【0019】
実施形態3
本発明における熱分解で金属を析出する金属化合物として、前記した金属錯イオンを有する無機金属化合物より熱処理温度が高いが、合成が容易でより安価な11段落に記載したオクチル酸金属化合物がある。ここでは、金属をコバルトとし、コバルト化合物の実施形態から説明する。
コバルト化合物が本発明における懸濁液の原料になるには、メタノールに分子状態で分散する性質と、熱分解でコバルトを析出する性質とを兼備する必要がある。塩化コバルトはメタノールに溶解し、硝酸コバルトは水に溶け、硫酸コバルトはメタノールに溶解し、酢酸コバルトは水に溶解する。このため、これらの低分子量の無機コバルト化合物は、メタノールに分子状態となって分散しない。
なお、18段落で説明したコバルト錯イオンを有する無機コバルト化合物として、ヘキサアンミンコバルト塩化物[Co(NH3)6]Cl3、ヘキサアンミンコバルト硝酸塩[Co(NH3)6](NO3)3、ペンタアンミンクロロコバルト塩化物[CoCl(NH3)5]Cl2などがある。これらの無機コバルト化合物は、還元雰囲気の200℃前後でコバルトを析出する。
次に、有機コバルト化合物について説明する。有機コバルト化合物は、熱分解でコバルトを析出する。有機コバルト化合物からコバルトが生成される化学反応の中で、最も簡単な処理による化学反応に熱分解反応がある。つまり、有機コバルト化合物を昇温するだけでコバルトが析出する。さらに、有機コバルト化合物の合成が容易でれば、安価に製造できる。こうした性質を兼備する有機コバルト化合物にカルボン酸コバルト化合物がある。
つまり、カルボン酸コバルト化合物を構成するイオンの中で、分子の中央に位置するコバルトイオンCo3+が最も大きい。従って、コバルトイオンCo3+とカルボキシル基を構成する酸素イオンO-とが共有結合する場合は、コバルトイオンCo3+と酸素イオンO-との距離が最大になる。この理由は、コバルト原子の共有結合半径は103pmであり、酸素原子の共有結合半径は57pmであり、炭素原子の共有結合半径は75pmであることによる。このため、コバルトイオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとが共有結合するカルボン酸コバルト化合物は、カルボン酸の沸点において、結合距離が最も長いコバルトイオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとの結合部が最初に分断され、コバルトとカルボン酸とに分離する。さらに昇温すると、カルボン酸が飽和脂肪酸であれば、カルボン酸が気化熱を奪って気化し、カルボン酸の気化が完了した後にコバルトが析出する。こうしたカルボン酸コバルト化合物として、オクチル酸コバルト、ラウリン酸コバルト、ステアリン酸コバルトなどがある。このようなカルボン酸コバルト化合物の多くは、金属石鹸として市販されている安価な工業用薬品である。
また、カルボン酸コバルト化合物は合成が容易である。つまり、カルボン酸を水酸化ナトリウムなどの強アルカリ溶液中で反応させると、カルボン酸アルカリ金属化合物が生成される。このカルボン酸アルカリ金属化合物を、塩化コバルトなどの無機コバルト化合物と反応させると、カルボン酸コバルト化合物が生成される。
さらに、飽和脂肪酸で構成されるカルボン酸コバルト化合物は、飽和脂肪酸の沸点が低ければ、カルボン酸コバルト化合物は低い温度で熱分解し、コバルトを析出させる熱処理費用が安価で済む。飽和脂肪酸が長鎖構造からなる飽和脂肪酸である場合は、長鎖が長いほど、つまり、飽和脂肪酸の分子量が大きいほど、飽和脂肪酸の沸点が高くなる。ちなみに、分子量が200.3であるラウリン酸の大気圧での沸点は296℃であり、分子量が284.5であるステアリン酸の大気圧での沸点は361℃である。
さらに、飽和脂肪酸が分岐鎖構造からなる飽和脂肪酸である場合は、直鎖構造の飽和脂肪酸より鎖の長さが短く、沸点がさらに低くなる。これによって、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸からなるカルボン酸コバルト化合物は、低い温度で熱分解する。さらに、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸は極性を持つため、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸からなるカルボン酸コバルト化合物も極性を持ち、メタノールなどの極性を持つ有機溶剤に相対的に高い割合で分散する。このような分岐構造の飽和脂肪酸としてオクチル酸がある。すなわち、オクチル酸は構造式が、CH3(CH2)3CH(C2H5)COOHで示され、CHでCH3(CH2)3とC2H5とのアルカンに分岐され、CHにカルボキシル基COOHが結合する。オクチル酸の大気圧での沸点は228℃であり、前記したラウリン酸の沸点より68℃低い。このため、コバルトを析出する原料として、熱分解温度が低いオクチル酸コバルトが望ましい。オクチル酸コバルトは、大気雰囲気において290℃で熱分解が完了してコバルトが析出し、メタノールに10重量%まで分子状態で分散する。
【0020】
実施形態4
本発明における熱処理で金属酸化物を析出する金属化合物として、15段落に記載したカルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに配位結合したカルボン酸金属化合物からなる錯体が適切である。ここでは、金属酸化物を酸化チタンTiO2とし、チタン化合物の実施形態から説明する。
チタン化合物が本発明における懸濁液の原料になるには、メタノールに分子状態で分散する性質と、熱分解で酸化チタンを析出する性質とを兼備する必要がある。塩化チタンはメタノールと反応する。酸化チタンはメタノールに分散しない。このため、これら低分子量の無機チタン化合物は、メタノールに分子状態で分散しない。
なお、18段落で説明したチタン錯イオン[TiCl4O]2-を有する無機金属化合物があるが、配位結合が安定でないため、熱分解でチタンを析出しない。
次に、有機チタン化合物について説明する。有機チタン化合物は、熱分解によって二酸化チタンTiO2を析出する性質を持つことが必要になる。有機チタン化合物から酸化チタンが生成される化学反応の中で、最も簡単な化学反応に熱分解反応がある。つまり、有機チタン化合物を昇温するだけで、熱分解によって酸化チタンが析出する。さらに、有機チタン化合物の合成が容易でれば、有機チタン化合物が安価に製造できる。これらの性質を兼備する有機チタン化合物にカルボン酸チタン化合物がある。
つまり、19段落で説明したように、カルボン酸チタン化合物を構成する物質の中で、最も大きい共有結合半径を持つ物質はチタンイオンTi4+である。いっぽう、チタンイオンTi4+とカルボキシル基を構成する酸素イオンO-とが共有結合するカルボン酸チタン化合物は、チタンイオンと酸素イオンとの距離が最大になるため、19段落で説明したように熱分解でチタンを析出する。従って、熱分解で酸化チタンを析出するカルボン酸チタン化合物は、チタンイオンTi4+に酸素イオンO-が配位結合するために近づき、これによって、酸素イオンO-がチタンイオンTi4+の反対側で結合するイオンと結合する距離が最も長くなる必要がある。つまり、酸素イオンO-がチタンイオンTi4+の反対側で結合するイオンと結合する部位が最も長いため、最初にこの結合部が分断され、チタンイオンと結合した酸素イオン、つまり、酸化チタンTiO2とカルボン酸とに分解する。このような分子構造上の特徴を持つカルボン酸チタン化合物として、カルボキシル基を構成する酸素イオンO-が配位子になってチタンイオンTi4+に近づいて配位結合するカルボン酸チタン化合物がある。
また、有機チタン化合物の中でカルボン酸チタン化合物は、19段落で説明したように合成が容易で、有機酸の沸点が低くければ熱分解温度が比較的低い。このため、カルボキシル基を構成する酸素イオンが、配位子となって金属イオンに近づいて配位結合するカルボン酸金属化合物からなる錯体は、安価な工業用薬品であり、熱処理費用も安価で済む。従って、カルボキシル基を構成する酸素イオンがチタンイオンに配位結合したカルボン酸チタン化合物は、熱分解で酸化チタンを析出する安価な工業用薬品である。
こうしたカルボン酸チタン化合物として、酢酸チタン、カプリル酸チタン、安息香酸チタン、ナフテン酸チタンなどが挙げられる。しかし、安息香酸チタンを除くカルボン酸チタン化合物は、配位結合が安定していないため、熱分解で酸化チタンを析出しない。安息香酸の沸点は249℃であるため、安息香酸チタンは大気雰囲気の310℃で熱分解して酸化チタンを析出する。いっぽう、カルボン酸バナジウム化合物の中で、ナフテン酸バナジウムを除くカルボン酸バナジウム化合物は、配位結合が安定していないため、熱分解で酸化バナジウムを析出しない。いっぽう、ナフテン酸は5員環をもつ飽和脂肪酸の混合物で、一般式がCnH2n-1COOHで示され、主成分の沸点が268℃で、分子量が170のC9H17COOHからなる。従って、ナフテン酸バナジウムは大気雰囲気の330℃で熱分解して、酸化バナジウムを析出する。
なお、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが配位子になって、金属イオンに配位結合するカルボン酸金属化合物は有機金属化合物からなる錯体である。一方、18段落で説明した錯体は、無機物の分子ないしは無機物のイオンが配位子となって、金属イオンに配位結合する金属錯イオンを有する無機金属化合物からなる錯体である。また、配位子と金属錯イオンと結合する無機物とが、カルボン酸に比べて分子量が小さいため、無機金属化合物からなる錯体の熱分解温度は、カルボン酸金属化合物の熱分解温度より低い。
なお、本発明における懸濁液の原料となる液体の有機化合物は、6段落に記載した3つの性質を兼備する有機化合物であり、9段落に記載した炭素原子の数が9-11個からなる鎖式飽和炭化水素がある。この鎖式飽和炭化水素として、9段落に記載したノナンCH3(CH2)7CH3、デカンCH3(CH2)8CH3、ウンデカンCH3(CH2)9CH3が存在する。
【0021】
実施例1
本実施例は、105g(0.5モルに相当する)のジアンミンジクロロパラジウム(株式会社徳力本店の製品)を、メタノールに10重量%として分散し、この後、メタノールを気化させ、ジクロロジアンミンパラジウムの結晶を析出させた。ジアンミンジクロロパラジウムの結晶の集まりを、底が浅い容器に敷き詰め、容器内の結晶の集まりの全体を覆う平板を結晶の集まりに被せ、さらに、平板の表面の離間する9個所に、2kgの重りを等間隔に載せた。この後、一旦、重りを平板の表面から外し、容器を加振機の加振台の上に固定し、0.3Gの上下、前後、左右の3方向の衝撃加速度を容器に加えた。こうした重りを載せる処理と、衝撃加速度を加える処理からなる一対の処理を3回繰り返した。さらに、容器内の破砕された結晶の集まりに、デカン(富士フィルム和光純薬株式会社の製品)を100cc加え、デカンを撹拌して、第一の懸濁液を作成した。なお、ジアンミンジクロロパラジウムの密度は、2.5g/cm3であるため、100gのジアンミンジクロロパラジウムは、42cm3に相当する体積になる。
【0022】
実施例2
本実施例は、93g(0.3モルに相当する)のヘキサアンミンルテニウム塩化物(富士フィルム和光純薬工業株式会社の製品)を、メタノールに10重量%として分散し、この後、メタノールを気化させ、ヘキサアンミンルテニウム塩化物の結晶を析出させた。実施例1と同様に、結晶の集まりを、底が浅い容器に敷き詰め、重りを載せる処理と、衝撃加速度を加える処理からなる一対の処理を3回繰り返した。さらに、容器内の破砕された結晶の集まりに、デカンを90cc加え、デカンを撹拌して、第二の懸濁液を作成した。
【0023】
実施例3
本実施例では、90g(0.3モルに相当)のジアンミン白金塩化物(三津和化学薬品株式会社の製品)を、メタノールに10重量%として分散し、この後、メタノールを気化させ、ジアンミン白金塩化物の結晶を析出させた。実施例1と同様に、結晶の集まりを、底が浅い容器に敷き詰め、重りを載せる処理と、衝撃加速度を加える処理からなる一対の処理を3回繰り返した。さらに、容器内の破砕された結晶の集まりに、デカンを90cc加え、デカンを撹拌して、第三の懸濁液を作成した。
【0024】
実施例4
本実施例は、93g(0.3モルに相当)のヘキサアンミンロジウム塩化物(三津和化学薬品株式会社の製品)を、メタノールに10重量%として分散し、この後、メタノールを気化させ、ヘキサアンミンロジウム塩化物の結晶を析出させた。実施例1と同様に、結晶の集まりを、底が浅い容器に敷き詰め、重りを載せる処理と、衝撃加速度を加える処理からなる一対の処理を3回繰り返した。さらに、容器内の破砕された結晶の集まりに、デカンを90cc加え、デカンを撹拌して、第四の懸濁液を作成した。
【0025】
実施例5
本実施例では、90g(0.5モルに相当する)のジアンミン銀塩化物(田中貴金属工業株式会社の製品)を、メタノールに10重量%として分散し、この後、メタノールを気化させ、ジアンミン銀塩化物の結晶を析出させた。実施例1と同様に、結晶の集まりを、底が浅い容器に敷き詰め、重りを載せる処理と、衝撃加速度を加える処理からなる一対の処理を3回繰り返した。さらに、容器内の破砕された結晶の集まりに、デカンを90cc加え、デカンを撹拌して、第五の懸濁液を作成した。
【0026】
実施例6
本実施例では、100g(0.4モルに相当する)のテトラアンミン銅二硝酸塩(和光純薬工業株式会社の製品)を、メタノールに10重量%として分散し、この後、メタノールを気化させ、テトラアンミン銅二硝酸塩の結晶を析出させた。実施例1と同様に、結晶の集まりを、底が浅い容器に敷き詰め、重りを載せる処理と、衝撃加速度を加える処理からなる一対の処理を3回繰り返した。さらに、容器内の破砕された結晶の集まりに、デカンを100cc加え、デカンを撹拌して、第六の懸濁液を作成した。
【0027】
実施例7
本実施例では、106g(0.2モルに相当する)のテトラ安息香酸チタン(三津和化学薬品株式会社の製品)を、メタノールに10重量%として分散し、この後、メタノールを気化させ、テトラ安息香酸チタンの結晶を析出させた。実施例1と同様に、結晶の集まりを、底が浅い容器に敷き詰め、重りを載せる処理と、衝撃加速度を加える処理からなる一対の処理を3回繰り返した。さらに、容器内の破砕された結晶の集まりに、デカンを100cc加え、デカンを撹拌して、第七の懸濁液を作成した。
【0028】
実施例8
本実施例では、111g(0.15モルに相当する)のナフテン酸バナジウム(キシダ化学株式会社の製品)を、メタノールに10重量%として分散し、この後、メタノールを気化させ、ナフテン酸バナジウムの結晶を析出させた。実施例1と同様に、結晶の集まりを、底が浅い容器に敷き詰め、重りを載せる処理と、衝撃加速度を加える処理からなる一対の処理を3回繰り返した。さらに、容器内の破砕された結晶の集まりに、デカンを110cc加え、デカンを撹拌して、第八の懸濁液を作成した。
【0029】
実施例9
本実施例は、最も汎用的な基材の一つである合成樹脂を基材として用い、厚みが薄い合成樹脂の平板の全体を、実施例1-8で作成した各々の懸濁液に浸漬し、この後、実施例1-8で用いた各々の金属化合物を熱分解し、該金属化合物の熱分解で析出した金属ないしは金属酸化物の10nm前後の大きさからなる粒状のナノ粒子同士を、金属結合ないしは摩擦圧接で接合させ、金属結合したナノ粒子の集まりからなるフィルムを、ないしは、摩擦圧接で接合した金属酸化物のナノ粒子の集まりからなるフィルムを、合成樹脂の平板の双方の表面に接合させる。
なお、実施例1-8で用いた金属化合物の中で、最も熱分解温度が高い金属化合物は、実施例8で用いたナフテン酸バナジウムであり、大気雰囲気の330℃で熱分解が完了し、酸化バナジウムV
2O
5を析出する。いっぽう、合成樹脂の重量変化が始まる大気雰囲気での熱分解の開始温度は、例えば、ポリビニルアルコール樹脂が230℃で、ポリ塩化ビニル樹脂が250℃で、アクリル樹脂が300℃で、トリアセテート樹脂が300℃で、ポリスチレン樹脂が320℃で、ポリプロピレン樹脂が380℃で、低密度ポリエチレン樹脂が400℃で、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂が440℃で、ポリエーテルサルフォン(PES)樹脂が480℃で、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂が480℃で、ポリカーボネート樹脂が500℃である。なお、熱分解は不可逆反応であり、熱分解が始まると、高分子材料は不可逆変化し、元に戻ることはできない。
高分子材料である合成樹脂の熱分解反応は、酸素ガスが存在する雰囲気と、窒素雰囲気とでは大きく異なる。つまり、酸素ガスが存在する雰囲気での熱分解は、酸化反応に依る熱分解であるため発熱を伴う。この発熱現象が、酸化されやすい有機物質からなる高分子の熱分解を促進させ、また、熱分解の途上で生成される可燃性ガスが自己発火する。これに対し、窒素雰囲気での熱分解では酸化反応が起こらず、吸熱反応に依る熱分解が起こり、発熱現象が生じない。このため、高分子が熱分解を開始する温度は、酸素ガスが存在する雰囲気に比べて大幅に遅れて高温側にシフトする。例えば、高密度ポリエチレン樹脂の熱分解は、大気雰囲気では250℃付近で開始するのに対し、窒素雰囲気では400℃付近と150℃も高温側にシフトする。
窒素雰囲気での合成樹脂の熱分解の開始温度と終了温度とは次の通りである。ポリアセタール樹脂POMは280℃で始まり420℃で終了する。ポリスチレン樹脂PSは350℃で始まり460℃付近で終了する。ポリエチレンテレフタレート樹脂PETが425℃で始まり480℃付近で終了する。ポリプロピレン樹脂PPが370℃で始まり500℃付近で終了する。高密度ポリエチレン樹脂HDPEが400℃で始まり520℃付近で終了する。ポリテトラフルオルエチレン樹脂PTFEは490℃で始まり640℃付近で終了する。なお、ポリ塩化ビニル樹脂PVC樹脂は、不燃性で有害の塩化水素ガスHClの離脱が、吸熱反応を伴って220℃付近から始まり260℃付近で急激に進行し360℃まで続く。この後、420℃付近から吸熱を伴う高分子の熱分解が始まり、発火点が498℃のベンゼンを生成して550℃付近で終了し、固体の残査(灰分)を10%残す。ノボラック型フェノール樹脂の熱分解反応は、260℃付近から可塑剤の脱離が始まり、360℃付近まで続き、この後、390℃から吸熱を伴う高分子の熱分解が始まり、発火点が715℃のフェノールや発火点が626℃のクレゾールなどの液状モノマーを生成し、700℃付近で終了し、固体の残査(灰分)を65%残す。
従って、PP樹脂、HDPE樹脂、PTFE樹脂が窒素雰囲気で昇温される場合であっても、これらの樹脂が熱分解すると、プロパン、エタン、トルエンなどの炭化水素ガスが生成され、さらに、これら可燃性ガスが大気雰囲気に移動して発火点以上に昇温されれば、可燃性ガスが自己発火し、火災の起点を作る。また、PVC樹脂は、熱分解でベンゼンを生成し、さらに、大気雰囲気に移動して498℃以上に昇温されれば、ベンゼンが自己発火する。さらに、ノボラック型フェノール樹脂は、熱分解してクレゾールを生成し、さらに、大気雰囲気に移動して626℃以上に昇温されれば、クレゾールが自己発火する。
これに対し、本発明における基材は、金属化合物が熱分解を開始する前に、金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶が積層した気密性の被膜で覆われている。このため、合成樹脂からなる高分子の熱分解は、窒素雰囲気での熱分解とは異なる。つまり、窒素雰囲気が開放された雰囲気であるため、熱分解で生成される可燃性ガスは窒素雰囲気中に順次気化するため、温度の上昇に伴って可燃性ガスが順次生成される熱分解が進み、可燃性ガスが順次窒素雰囲気に放出される。これに対し、本発明における微細結晶が積層した気密性の被膜で覆われた高分子材料においては、金属化合物の熱分解が始まると、金属化合物が無機物の分子ないしは有機物の分子と、金属の分子ないしは金属酸化物の分子に分解し、無機物の分子ないしは有機物の分子が、完全に気化した直後に、金属の分子ないしは金属酸化物の分子が集まって、10nm前後の大きさからなる粒状の金属ないしは粒状の金属酸化物のナノ粒子の集まりが積み重なって析出する。このため、高分子材料は、無機物の分子ないしは有機物の分子の集まりと、金属の分子ないしは金属酸化物の分子の集まりで覆われ、この後、粒状の金属ないしは粒状の金属酸化物のナノ粒子の集まりで覆われ、外界から継続して遮断されている。従って、高分子材料が熱分解を開始し、熱分解で生成される最初のガスは、高分子材料の表面の極めて狭い領域内に閉じ込められ、狭い領域内におけるガスの分圧が増大し、その温度での飽和圧力となって熱分解が停止する。従って、熱分解を進めるには、開放された雰囲気における熱分解より大きな熱エネルギーを高分子に与える必要がある。さらに、生成されたガスの1モルに相当する量が22.4リットルの体積を占める。このため、極めて微量の可燃性ガスが生成された時点で、狭い領域内におけるガスの分圧がその温度での飽和圧力になり、窒素ガスの雰囲気に比べて生成されるガスの量は極めて少ない。また、熱分解で生成される2番目以降のガスは、最初のガスが閉じ込められているため、さらに大きな熱エネルギーが供給されないと熱分解が進まない。この結果、本発明における微細結晶が積層した気密性の被膜で覆われた合成樹脂は、窒素雰囲気における熱分解温度より、著しく高温側で熱分解反応が進む。従って、本発明における合成樹脂からなる基材は熱分解が進行しないため、合成樹脂の物性は、昇温前と殆ど変わらない。
本実施例では、熱可塑性合成樹脂の中で、最も汎用的な合成樹脂の一つであるポリアセタール樹脂で、合成樹脂を代表させた。ポリアセタール樹脂からなる厚みが1mmで、大きさが10cm×10cmからなる板材を、実施例1-8で作成した各々の懸濁液に浸漬した。さらに、実施例1、3、5の懸濁液に浸漬した試料は、アンモニア雰囲気において180℃まで昇温し、実施例2、4の懸濁液に浸漬した試料は、水素雰囲気において220℃まで昇温し、実施例6の懸濁液に浸漬した試料は、アンモニア雰囲気において200℃まで昇温し、それぞれの温度に5分間放置させた後に、室温まで冷却した。実施例7の懸濁液に浸漬した試料は、大気雰囲気において310℃まで昇温し、実施例8の懸濁液に浸漬した試料は、大気雰囲気において330℃まで昇温し、それぞれの温度に1分間放置させた後に、室温まで冷却した。こうして実施例1-8の各々の懸濁液に浸漬した基材をさらに熱処理し、試料1-8を作成した。
最初に、試料1-8について、試料表面に形成したフィルムと板材との結合力を、JIS Z0237に規定された粘着力の試験方法に基づいて測定した。試料1-6は800gの荷重に耐え、試料7、8は1000gの荷重に耐えた。このため、板材に形成したフィルムは、触媒としての機能を発揮する際に加えられる様々な物理的応力でも剥がれず、長期にわたって板材に結合する。
次に、試料1-8の表面と、試料1-8の中央部分で切断した切断面とを、電子顕微鏡で観察した。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社が所有する極低加速電圧SEMを用いた。この装置は100ボルトからの極低加速電圧による表面観察が可能で、導電性の被膜を形成せずに直接表面が観察できる。
最初に、試料1-8の表面からの反射電子線について、900-1000ボルトの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。試料1-8の表面は、いずれも10nm前後の大きさの粒状微粒子の集まりで形成され、いずれの微粒子の表面は、50%以上の表面が直接外界に晒され、粒状微粒子同士が接触部位で接合していた。
次に、試料1-8の表面からの反射電子線の900-1000ボルトの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡によって材質の違いを観察した。試料1-6は、濃淡が認められなかったため、同一の原子で構成されている。また、試料7と試料8は、濃淡が認められたため、複数の原子で構成されている。
さらに、試料1-8の表面からの特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、粒状微粒子を構成する元素の種類とその分布状態を分析した。試料1はパラジウム原子が、試料2はルテニウム原子が、試料3は白金原子が、試料4はロジウム原子が、試料5は銀原子が、試料6は銅原子が均等に存在し、特段に偏在する箇所が見られなかった。試料7はチタン原子と酸素原子とが互いに近接して存在し、2種類の原子は偏在しなかった。また、試料8はバナジウム原子と酸素原子とが互いに近接して存在し、2種類の原子は偏在しなかった。従って、試料1-6は単一金属からなる大きさが10nm前後の粒状の金属微粒子である。
次に、試料7と試料8については、極低加速電圧SEMの機能にEBSP解析機能を付加し、結晶構造の解析を行なった。この結果、試料7には酸化チタンTiO
2が、試料8には酸化バナジウムが形成されていた。従って、試料7は酸化チタンからなる大きさが10nm前後の粒状の微粒子であり、試料8は酸化バナジウムV
2O
5からなる大きさが10nm前後の粒状の微粒子である。
さらに、試料1-8の断面からの反射電子線について、900-1000ボルトの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。試料1-8の断面は、いずれも10nm前後の大きさからなる粒状微粒子が、基材の表面の凹凸を埋めるとともに、5個前後の粒状微粒子が積み重なり、接合した微粒子の集まりからなるフィルムが、50nm前後の膜厚で構成されていた。この微粒子の集まりからなるフィルムを、試料1におけるパラジウム微粒子からなるフィルムで代表させ、
図1に模式的に図示した。1はポリアセタール樹脂の板材で、2はパラジウム微粒子である。
以上の結果から、試料1の双方の表面は、パラジウム微粒子の触媒作用を発揮する。試料2の双方の表面は、ルテニウム微粒子の触媒作用を発揮する。試料3の双方の表面は、白金微粒子の触媒作用を発揮する。試料4の双方の表面は、ロジウム微粒子の触媒作用を発揮する。試料5の双方の表面は、銀微粒子の触媒作用を発揮する。試料6の双方の表面は、銅微粒子の触媒作用を発揮する。試料7の双方の表面は、酸化チタン微粒子の触媒作用を発揮する。試料8の双方の表面は、酸化バナジウム微粒子の触媒作用を発揮する。
【0030】
実施例10
本実施例は、17段落の実施形態1において、最初に説明したパラジウム、白金およびロジウムからなる3種類の金属のナノ粒子の集まりに依る触媒作用を同時に発揮する実施形態に関わる実施例である。
ハニカムセラミックを基材として用い、ハニカムセラミックを、懸濁液2と懸濁液1と懸濁液3とに浸漬する際の深さを順に浅くし、それぞれの懸濁液をハニカムセラミックの表面に吸着させ、さらに、金属化合物が熱分解する温度に昇温し、内部の貫通孔の互いに異なる3箇所の表面に、3種類の金属からなるナノ粒子が金属結合したフィルムを、各々の箇所に形成した。なお、ハニカムセラミックは、自動車の3元触媒装置に用いられている触媒担体用セラミックス(日本ガイシ株式会社の製品であるハニセラム)を用いた。このハニセラムは、セルの壁の厚みが6ミル(1ミルは1/1000インチ)で、セルの数は1平方インチ当たり400個である。
最初に、懸濁液2が充填された容器に、ハニカムセラミックの全体を浸漬させる。室温に5分間放置した後に、懸濁液2に浸漬したハニカムセラミックを、懸濁液1が充填された容器に、ハニカムセラミックの表面に懸濁液2が吸着していない1/3の高さまで、懸濁液1を吸着させる。室温に5分間放置した後に、懸濁液1に浸漬したハニカムセラミックを、懸濁液3が充填された容器に、ハニカムセラミックの表面に懸濁液1が吸着していない1/3の高さまで懸濁液3を浸漬させる。この後、ハニカムセラミックをアンモニア雰囲気の200℃まで昇温し、5分間放置させた後に、室温まで冷却して試料9を作成した。
次に、試料9の懸濁液2のみが吸着した部位と、懸濁液2の上に懸濁液1が吸着した部位と、懸濁液1の上に懸濁液3が吸着した部位とを垂直に輪切りし、各々の切断面におけるセルの内壁を、実施例9と同様にSEMによって観察した。
懸濁液2のみが吸着したセルの内壁は、10nm前後の大きさからなるルテニウムの粒状微粒子が、5個前後が積み重なって接合したナノ粒子の集まりが第一のフィルムを形成した。また、懸濁液2の上に懸濁液1が吸着したセルの内壁は、第一のフィルムの上に、10nm前後の大きさからなるパラジウムの粒状微粒子が、5個前後が積み重なって接合したナノ粒子の集まりが第二のフィルムを形成した。さらに、懸濁液1の上に懸濁液3が吸着したセルの内壁は、第一のフィルムと第二のフィルムの上に、10nm前後の大きさからなる白金の粒状微粒子が、5個前後が積み重なって接合したナノ粒子の集まりが第三のフィルムを形成した。フィルムの表面は、いずれのナノ粒子についても50%の以上の表面が直接外界に晒され、粒状のナノ粒子同士が接触部位で接合していた。
図2に、3つのフィルムが積み重なって接合した断面を模式的に図示した。3はセルの表面で、4は第一のフィルムで、5は第二のフィルムで、6は第三のフィルムである。
以上の結果から、ハニカムセラミックの内部の貫通孔は、ルテニウムの触媒作用を発揮する部位と、パラジウムの触媒作用を発揮する部位と、白金の触媒作用を発揮する部位とからなり、互いに異なる3カ所に、互いに異なる触媒作用を発揮するフィルムが形成された。
【0031】
前記した実施例は、本発明の一部の事例に過ぎない。つまり、触媒作用を有する金属を熱分解で析出する、金属錯イオンを有する無機金属化合物は、実施例1-6の無機金属化合物は一例に過ぎない。また、触媒作用を有する金属酸化物を熱分解で析出する、テトラ安息香酸チタンないしはナフテン酸バナジウムも、実施例7と実施例8は一例に過ぎない。
また、実施例では示さなかったが、オクチル酸銅、オクチル酸ニッケルないしはオクチル酸コバルトを用いて、懸濁液を作成することは容易であり、オクチル酸銅、オクチル酸ニッケルないしはオクチル酸コバルトを熱分解すれば、銅のナノ粒子、ニッケルのナノ粒子ないしはコバルトのナノ粒子によってフィルムを形成できる。
さらに、懸濁液を吸着させる基材は、実施例で示した合成樹脂の板材とハニカムセラミックとに限定されない。金属箔ないしは合金泊からなるハニカム、面状フィルター、多孔質フィルターなど様々な形状や構造に加工した基材ないしは部品に対しても、懸濁液に浸漬するだけで、懸濁液を吸着させることができる。この基材ないしは部品を金属化合物が熱分解する温度に昇温すれば、触媒作用を発揮するフィルムが基材ないしは部品に形成される。
従って、本発明に依れば、金属結合した金属のナノ粒子の集りからなるフィルムの表面は、ないしは、摩擦圧接で接合した金属酸化物のナノ粒子の集りからなるフィルムの表面は、10nm前後の大きさからなる粒状のナノ粒子が結合ないしは接合したため、ナノ粒子の表面が50%より広い表面を直接外界に晒さらし、フィルムはナノ粒子を構成する材質に基づく固有の触媒作用を効率よく発揮することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 ポリアセタール樹脂の板材 2 パラジウムのナノ粒子 3 ハニカムセラミックのセル 4 第一のフィルム 5 第二のフィルム 6 第三のフィルム