(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009468
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】プレス装置
(51)【国際特許分類】
B30B 1/26 20060101AFI20240116BHJP
【FI】
B30B1/26 B
B30B1/26 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111014
(22)【出願日】2022-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】392017222
【氏名又は名称】太陽工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 信彦
【テーマコード(参考)】
4E090
【Fターム(参考)】
4E090AA01
4E090AB01
4E090BA02
4E090BB04
4E090CC02
4E090CD02
4E090EA01
4E090EB01
4E090EC01
(57)【要約】
【課題】
本発明は、クランクや偏心軸という最も一般的な機構を使用した上で、回転動力源とこれらの軸との接続に非円形歯車を採用することにより、簡単な機構で作業範囲を広くし、ストローク数を上げても高精度の安定した成形が可能なプレス装置を提供することを課題とする。
【解決手段】
本発明によるプレス装置は、回転駆動源と、前記回転駆動源に接続されたクランクや偏心軸などの偏心回転軸と、前記偏心回転軸に接続され前記偏心回転軸の回転に伴い上下動するスライダと、前記スライダに対向して固定されているボルスタとからなるプレス装置において、前記回転駆動源と前記偏心回転軸との接続部に少なくとも2枚1組の非円形歯車からなる駆動制御部を設け、前記スライダの下死点近傍における速度を低下させるよう構成したことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動源と、前記回転駆動源に接続された偏心回転軸と、前記偏心回転軸に接続され前記偏心回転軸の回転に伴い上下動するスライダと、前記スライダに対向して固定されているボルスタとからなるプレス装置において、前記回転駆動源と前記偏心回転軸との接続部に少なくとも2枚1組の非円形歯車からなる駆動制御部を設け、前記スライダの下死点近傍における速度を低下させるよう構成したことを特徴とするプレス装置。
【請求項2】
前記2枚1組の非円形歯車の各々は円形部と非円形部とからなり、一方の歯車は非円形部の半径が円形部より大きく、また他方の歯車は非円形部の半径が円形部より小さく形成されていることを特徴とする請求項1記載のプレス装置。
【請求項3】
前記2枚1組の非円形歯車は、互いの円形部同士及び非円形部同士が噛み合うよう構成されていることを特徴とする請求項2記載のプレス装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストローク数を上げても成形性を低下させないプレス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在プレス成形加工においては、動力源の回転運動をスライドの上下運動に変換してプレス成形を行うプレス装置が広く使用されている。これらの装置の回転動力源としては、モーター、サーボモーター、フライホイール等が利用されており、回転運動を上下の直線運動に変換する機構としては、クランク、偏心軸、ナックル機構、リンク機構などが使われている。このうちリンク機構は、下死点上の高い位置から速度が低下して速度変化が一定傾向になり、下死点を通過すると急速に上昇する。ナックル機構は、下死点付近の速度が最も遅く、上昇行程でもほぼ同じ傾向になる。これらに対してクランクや偏心軸では正弦曲線に従ってスライダ速度が変化する。従って、ストローク数を上げると作業範囲が狭くなってしまうという問題点がある。
【0003】
特許文献1には、センサと油圧調整を利用してスライダの上昇・下降速度を制御する技術が開示されている。しかし、この技術では装置の機構が複雑となり装置自体のコストが高くなるという問題点がある。
【0004】
また特許文献2には、両傾転可変容量ポンプ・モータを使用してスライドの可変速性能を高める技術が開示されている。この技術においても、特殊なポンプ・モータを使用することによりその制御が必要となり、装置の製造コストが高くなるという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-85499号公報
【特許文献2】実開平1-143424号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、クランクや偏心軸に対してナックル機構やリンク機構では同じストローク数で比較した場合に作業範囲が広いという利点があるが、総合すきまが多くなるため高精度の成形には適さないという問題点もある。
【0007】
本発明は上述の問題点に鑑みて、クランクや偏心軸という最も一般的な機構を使用した上で、回転動力源とこれらの軸との接続に非円形歯車を採用することにより、簡単な機構で作業範囲を広くし、ストローク数を上げても高精度の安定した成形が可能なプレス装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するため本発明によるプレス装置は、回転駆動源と、前記回転駆動源に接続されたクランクや偏心軸などの偏心回転軸と、前記偏心回転軸に接続され前記偏心回転軸の回転に伴い上下動するスライダと、前記スライダに対向して固定されているボルスタとからなるプレス装置において、前記回転駆動源と前記偏心回転軸との接続部に少なくとも2枚1組の非円形歯車からなる駆動制御部を設け、前記スライダの下死点近傍における速度を低下させるよう構成したことを特徴とする。
【0009】
前記2枚1組の非円形歯車の各々は円形部と非円形部とからなり、一方の歯車は非円形部の半径が円形部より大きく、また他方の歯車は非円形部の半径が円形部より小さく形成されていることが好適であり、前記2枚1組の非円形歯車は、互いの円形部同士及び非円形部同士が噛み合うよう構成されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によるプレス装置は、回転動力源とクランクや偏心軸との接続に非円形歯車を使用することにより、簡単な機構で作業範囲を広くし、ストローク数を上げても高精度の安定した成形が可能なプレス装置を提供することができる。また前記の機構は単純であるためプレス装置の製造コストに対する影響が少なくてすむ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施例について説明する。
【実施例0012】
図1に本発明によるプレス装置の一実施例模式図を示す。回転駆動源1としてサーボモーターを使用している。隣には駆動伝達軸2が配置されており、回転伝達手段6(ベルト)により回転駆動源1に接続されている。さらに隣には偏心回転軸3(クランク軸)が配置されており、駆動伝達軸2上に設けられた非円形歯車A10と偏心回転軸3上に設けられた非円形歯車B20との噛合いにより回転駆動源1の回転が伝達される。偏心回転軸3上の偏心部7(クランク)にはコネクティングロッド4が連結されており、さらにスライド5へと接続されている。
【0013】
非円形歯車A10と非円形歯車B20の噛合いの正面図を
図2に示した。これらの歯車対はそれぞれ、円形部11、21及び非円形部12、22からなり、各々の歯車において円形部と非円形部は連続的に形成されている。また、非円形歯車A10においては、非円形部12の半径は円形部11の半径より小さくなるよう構成されており、また非円形歯車B20においては逆に、非円形部22の半径は円形部21の半径より大きくなるよう構成されている。
【0014】
プレス動作の際のスライドの変位を
図3に示した。縦軸が変位、横軸が時間である。
図3(a)は、
図1に示した実施例のプレス機を駆動した際のスライド5の変位である。開始点100と終了点110の間の1周期で上死点101付近と下死点102付近の曲線が異なっている。すなわち、下死点102付近Aにおける滞在時間が上死点101付近に比べて長くなっている。言い換えると、下死点102付近ではスライド5の速度を低く抑えることができる。精密プレスには、下死点付近でのスライド速度が低いことが重要である。
【0015】
一般的な偏心回転軸を使用したプレス機のスライド変位を
図3(b)及び(c)に示した。(b)はストローク数が100SPMの場合である。スライド下死点202付近でのスライド速度は
図3(a)とほぼ同じになるが、周期が2倍となってしまう。また(c)はストローク数が200SPMの場合であり、周期は(a)と同じになるが、下死点302付近でのスライド速度が(a)の場合より速くなってしまう。これら3つの場合をまとめて示したのが
図3(d)である。
図3(d)から明らかなように、非円形歯車を使用した本発明の実施例では、ストローク数(周期)を200SPMにした場合でも、下死点付近でのスライド速度を一般的な偏心軸を使用したプレス機の100SPMの場合と同じにすることができる。すなわち、ストローク数を大きくしても精密プレスが可能となる。
【0016】
上記実施例においては回転駆動源1としてサーボモーターを使用したが、これに限定されるものではなく、他のモーターやフライホイールを使用することも可能である。
本発明によるプレス装置では、回転動力源とクランクや偏心軸との接続に非円形歯車を使用することにより、簡単な機構で作業範囲を広くし、ストローク数を上げても高精度の安定した成形が可能なプレス装置を提供することができる。また前記の機構は単純であるためプレス装置の製造コストに対する影響が少なくてすむ。