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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094693
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】炭酸ガス固定化方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/62 20060101AFI20240703BHJP
   C01F 11/18 20060101ALI20240703BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20240703BHJP
   B01D 53/78 20060101ALI20240703BHJP
   F27D 15/00 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
B01D53/62
C01F11/18 B ZAB
C01B32/50
B01D53/78
F27D15/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211398
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000227250
【氏名又は名称】日鉄鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北村 直登
(72)【発明者】
【氏名】飯田 暁光
(72)【発明者】
【氏名】三觜 幸平
【テーマコード(参考)】
4D002
4G076
4G146
4K063
【Fターム(参考)】
4D002AA09
4D002AC04
4D002BA02
4D002CA06
4D002CA07
4D002DA02
4D002DA03
4D002DA07
4D002DA12
4D002EA07
4G076AA16
4G076AB02
4G076AB09
4G076BA14
4G076BA30
4G076DA29
4G146JA02
4G146JB09
4G146JC29
4G146JD02
4K063AA02
4K063AA03
4K063AA04
4K063BA02
4K063BA03
4K063HA39
(57)【要約】
【課題】炭酸ガスを迅速に固定化できる簡易な炭酸ガス固定化方法を提供する。
【解決手段】炭酸ガスをアルカリ水溶液に吸収させてアルカリ炭酸塩水溶液を生成する第一工程と、アルカリ炭酸塩水溶液と固定化材を反応させて炭酸塩を生成する第二工程と、を含む、炭酸ガス固定化方法であって、固定化材は、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含有し、第一工程において、前記第二工程の反応後の溶液中に含まれているアルカリ水溶液を循環利用する炭酸ガス固定化方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸ガスをアルカリ水溶液に吸収させてアルカリ炭酸塩水溶液を生成する第一工程と、
前記アルカリ炭酸塩水溶液と固定化材を反応させて炭酸塩を生成する第二工程と、
を含む、炭酸ガス固定化方法であって、
前記固定化材は、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含有し、
前記第一工程において、前記第二工程の反応後の溶液中に含まれているアルカリ水溶液を循環利用することを特徴とする炭酸ガス固定化方法。
【請求項2】
前記アルカリ水溶液は、アンモニア、水酸化ナトリウムもしくは水酸化カリウム、またはそれらの組み合わせであることを特徴とする請求項1に記載の炭酸ガス固定化方法。
【請求項3】
前記固定化材に含まれるアルカリ土類金属は、カルシウムもしくはマグネシウム、またはそれらの組み合わせであることを特徴とする請求項1または2に記載の炭酸ガス固定化方法。
【請求項4】
前記固定化材に含まれるアルカリ金属は、ナトリウムもしくはカリウム、またはそれらの組み合わせであることを特徴とする請求項1または2に記載の炭酸ガス固定化方法。
【請求項5】
前記固定化材は、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含む金属酸化物および/または金属水酸化物であることを特徴とする請求項1または2に記載の炭酸ガス固定化方法。
【請求項6】
前記固定化材は、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含む金属酸化物および/または金属水酸化物であることを特徴とする請求項3に記載の炭酸ガス固定化方法。
【請求項7】
前記固定化材は、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含む金属酸化物および/または金属水酸化物であることを特徴とする請求項4に記載の炭酸ガス固定化方法。
【請求項8】
前記固定化材は、セメント、コンクリート、モルタル、鉄鋼スラグ、銅精錬スラグ、尾鉱、石炭灰、自然岩石、消石灰もしくは生石灰、またはそれらの混合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の炭酸ガス固定化方法。
【請求項9】
前記固定化材は、セメント、コンクリート、モルタル、鉄鋼スラグ、銅精錬スラグ、尾鉱、石炭灰、自然岩石、消石灰もしくは生石灰、またはそれらの混合物であることを特徴とする請求項3に記載の炭酸ガス固定化方法。
【請求項10】
前記固定化材は、セメント、コンクリート、モルタル、鉄鋼スラグ、銅精錬スラグ、尾鉱、石炭灰、自然岩石、消石灰もしくは生石灰、またはそれらの混合物であることを特徴とする請求項4に記載の炭酸ガス固定化方法。
【請求項11】
前記固定化材は、セメント、コンクリート、モルタル、鉄鋼スラグ、銅精錬スラグ、尾鉱、石炭灰、自然岩石、消石灰もしくは生石灰、またはそれらの混合物であることを特徴とする請求項5に記載の炭酸ガス固定化方法。
【請求項12】
前記第二工程において、前記固定材を湿式磨鉱処理で粉砕しながら、前記アルカリ炭酸塩水溶液と反応させることを特徴とする請求項1または2に記載の炭酸ガス固定化方法。
【請求項13】
前記第二工程において、前記固定材を湿式磨鉱処理で粉砕しながら、前記アルカリ炭酸塩水溶液と反応させることを特徴とする請求項3に記載の炭酸ガス固定化方法。
【請求項14】
前記第二工程において、前記固定材を湿式磨鉱処理で粉砕しながら、前記アルカリ炭酸塩水溶液と反応させることを特徴とする請求項4に記載の炭酸ガス固定化方法。
【請求項15】
前記第二工程において、前記固定材を湿式磨鉱処理で粉砕しながら、前記アルカリ炭酸塩水溶液と反応させることを特徴とする請求項5に記載の炭酸ガス固定化方法。
【請求項16】
前記第二工程において、前記固定材を湿式磨鉱処理で粉砕しながら、前記アルカリ炭酸塩水溶液と反応させることを特徴とする請求項6に記載の炭酸ガス固定化方法。
【請求項17】
前記第二工程において、前記固定材を湿式磨鉱処理で粉砕しながら、前記アルカリ炭酸塩水溶液と反応させることを特徴とする請求項7に記載の炭酸ガス固定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸ガス固定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、地球温暖化によって引き起こされる気候変動や海面上昇により、生態系や人類の生活が大きな影響を受けている。この地球温暖化の主因は温室効果ガスである炭酸ガス(二酸化炭素ガス)の排出にあるとされており、この回収・貯蔵技術に関心が集まっている。
二酸化炭素を回収する方法としてモノエタノールアミン(以下「MEA」という)溶液などの塩基性の溶液に吸収させる手法が用いられている。MEAが吸収した二酸化炭素は加熱、加圧することにより高純度の二酸化炭素として放出され、これを地下に貯蔵されている。しかしながら、地中へ貯蔵するためには大規模な施設が必要となるため導入が難しかった。
【0003】
上記課題を解決するための手段として、工業プロセスで発生した炭酸ガスの大気中への排出を防止する手段として、例えば、炭酸ガスを固定化する技術がいくつか提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
特許文献1によれば、粉砕した転炉スラグに注水して水溶液を生成するとともに、この水溶液中に炭酸ガスを含むガスを吹込んだのち分離する転炉スラグにおける炭酸カルシウム回収方法が提案されている。
特許文献2によれば、二酸化炭素を含む水溶液に製鋼スラグを接触させた後、水溶液から炭酸ガスを除去して溶出物を析出させることにより、安価に製鋼スラグからリンおよびカルシウムの回収方法が提案されている。
しかし、これらの技術は炭酸ガスの固定に時間がかかり工業化することが困難であった。
【0004】
上述の他にも、いくつかの技術が提案されている(例えば、特許文献3、特許文献4参照)。
特許文献3によれば、回収用アンモニア水溶液を炭酸ガスと接触させ、その後炭酸アンモニウム水溶液とカチオン源を混合して炭酸塩を生成する工程を含む二酸化炭素の隔離方法が提案されている。
特許文献4によれば、金属ケイ酸塩岩石のスラリーをアンモニアと混合してアンモニア/水/金属ケイ酸塩スラリーを生成し、二酸化炭素を含むガス流を得られたスラリー中に吸収させる工程を含む、二酸化炭素隔離プロセスが提案されている。
しかし、特許文献3はカチオン源の調達や熱制御が困難であり、特許文献4は装置が複雑で扱いが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭55-100220号公報
【特許文献2】特許第5748925号公報
【特許文献3】特許第7037498号公報
【特許文献4】特許第5345954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そのため、炭酸ガスを迅速に固定化できる簡易な炭酸ガス固定化方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
〈1〉
炭酸ガスをアルカリ水溶液に吸収させてアルカリ炭酸塩水溶液を生成する第一工程と、前記アルカリ炭酸塩水溶液と固定化材を反応させて炭酸塩を生成する第二工程と、を含む、炭酸ガス固定化方法であって、前記固定化材は、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含有し、前記第一工程において、前記第二工程の反応後の溶液中に含まれているアルカリ水溶液を循環利用することを特徴とする炭酸ガス固定化方法。
〈2〉
前記アルカリ水溶液は、アンモニア、水酸化ナトリウムもしくは水酸化カリウム、またはそれらの組み合わせである〈1〉に記載の炭酸ガス固定化方法。
〈3〉
前記固定化材に含まれるアルカリ土類金属は、カルシウムもしくはマグネシウム、またはそれらの組み合わせである〈1〉または〈2〉に記載の炭酸ガス固定化方法。
〈4〉
前記固定化材に含まれるアルカリ金属は、ナトリウムもしくはカリウム、またはそれらの組み合わせである〈1〉または〈2〉に記載の炭酸ガス固定化方法。
〈5〉
前記固定化材は、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含む金属酸化物および/または金属水酸化物である〈1〉または〈2〉に記載の炭酸ガス固定化方法。
〈6〉
前記固定化材は、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含む金属酸化物および/または金属水酸化物である〈3〉に記載の炭酸ガス固定化方法。
〈7〉
前記固定化材は、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含む金属酸化物および/または金属水酸化物である〈4〉に記載の炭酸ガス固定化方法。
〈8〉
前記固定化材は、セメント、コンクリート、モルタル、鉄鋼スラグ、銅精錬スラグ、尾鉱、石炭灰、自然岩石、消石灰もしくは生石灰、またはそれらの混合物である〈1〉または〈2〉に記載の炭酸ガス固定化方法。
〈9〉
前記固定化材は、セメント、コンクリート、モルタル、鉄鋼スラグ、銅精錬スラグ、尾鉱、石炭灰、自然岩石、消石灰もしくは生石灰、またはそれらの混合物である〈3〉に記載の炭酸ガス固定化方法。
〈10〉
前記固定化材は、セメント、コンクリート、モルタル、鉄鋼スラグ、銅精錬スラグ、尾鉱、石炭灰、自然岩石、消石灰もしくは生石灰、またはそれらの混合物である〈4〉に記載の炭酸ガス固定化方法。
〈11〉
前記固定化材は、セメント、コンクリート、モルタル、鉄鋼スラグ、銅精錬スラグ、尾鉱、石炭灰、自然岩石、消石灰もしくは生石灰、またはそれらの混合物である〈5〉に記載の炭酸ガス固定化方法。
〈12〉
前記第二工程において、前記固定材を湿式磨鉱処理で粉砕しながら、前記アルカリ炭酸塩水溶液と反応させる〈1〉または〈2〉に記載の炭酸ガス固定化方法。
〈13〉
前記第二工程において、前記固定材を湿式磨鉱処理で粉砕しながら、前記アルカリ炭酸塩水溶液と反応させる〈3〉に記載の炭酸ガス固定化方法。
〈14〉
前記第二工程において、前記固定材を湿式磨鉱処理で粉砕しながら、前記アルカリ炭酸塩水溶液と反応させる〈4〉に記載の炭酸ガス固定化方法。
〈15〉
前記第二工程において、前記固定材を湿式磨鉱処理で粉砕しながら、前記アルカリ炭酸塩水溶液と反応させる〈5〉に記載の炭酸ガス固定化方法。
〈16〉
前記第二工程において、前記固定材を湿式磨鉱処理で粉砕しながら、前記アルカリ炭酸塩水溶液と反応させる〈6〉に記載の炭酸ガス固定化方法。
〈17〉
前記第二工程において、前記固定材を湿式磨鉱処理で粉砕しながら、前記アルカリ炭酸塩水溶液と反応させる〈7〉に記載の炭酸ガス固定化方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、炭酸ガスを迅速に固定化できる簡易な炭酸ガス固定化方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は本発明の1実施形態に係る炭酸ガス固定化方法のフロー概略図である。
図2図2Aは試験前の固定化材のX線回折法(XRD)の測定結果である。図2Bは試験後固定化材および析出物のX線回折法(XRD)の測定結果である。
図3図3は浸漬液のpH測定の結果である。
図4図4は固定化材1kg当たりの炭酸ガス固定化量の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、実施形態を挙げて本発明の説明を行うが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
〔炭酸ガス固定化方法〕
図1は本発明の実施形態に係る炭酸ガス固定化方法のフロー概略図である。本発明者等は、検討の結果、例えば、CO含有排ガス(炭酸ガス)から二酸化炭素を固定化する際に、二酸化炭素の溶解液としてアンモニア溶液(アルカリ水溶液)を用い、炭酸アンモニウムとの反応物質(固定化材)としてアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属含有物質を用いることで上記課題が解決されることとなった。なお、図1には固定化材としてCa含有物質、後述の(イ)(ロ)工程の反応場としてそれぞれ、CO回収塔と反応器を例示したが本発明はこれらに制限されることはない。
即ち、本発明の実施形態に係る炭酸ガス固定化方法は、(イ)炭酸ガスをアルカリ水溶液に吸収させてアルカリ炭酸塩水溶液を生成する第一工程と、(ロ)アルカリ炭酸塩水溶液と固定化材を反応させて炭酸塩を生成する第二工程と、任意の工程として(ハ)炭酸塩を分離・回収する第三工程と、を含む。
この実施形態に係る炭酸ガス固定化方法は、固定化材として、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含有し、第一工程のアルカリ水溶液として、第二工程の反応後の溶液中に含まれているアルカリ源をアルカリ水溶液として循環利用することができる。
実施形態に係る炭酸ガス固定化方法は、熱管理の必要がないため、装置や作業の簡略化と、ワークスペースの縮小化を図れる。例えば、従来技術(特許第7037498号、特許第5345954号)よりも簡易でコンパクトな方法(装置)に仕上げることができる。またアンモニアを回収して再利用できるため持続可能社会(SDGs)にも寄与する。以下工程毎に詳細に説明する。
【0011】
(イ)第一工程について
炭酸ガスとしては、特に制限なく、種々のものを使用することができる。炭酸ガス は、例えば工業プロセスで排出されるものを使用することができる。炭酸ガスは、より具体的には、廃棄物、プラスチック、炭化水素、木材、化石燃料、石炭、褐炭、ナフサ、油、ガソリン、ディーゼル燃料、ケロシン、石油、液化石油ガス(LPG)、天然ガス、ボトルドガス、メタン、ブタン、プロパン、ガソリン添加剤、エタノール、メタノール、バイオディーゼル、モノアルキルエステル、および/または、それらのあらゆる組み合わせを燃焼させることから誘導されたものを用いることができる。
なお、工業プロセスが一次停止等することにより、炭酸ガスを十分に調達できない場合は、汎用の石灰石を焼成することにより製造されたものを利用することもできる。しかし、SDGsの観点からは工業プロセスで排出された炭酸ガスを再利用することが好ましい。
【0012】
炭酸ガスとしては、純粋な炭酸ガスの他に、その他のガスとの混合気体であってもよい。その他のガスとしては、例えば窒素や酸素が挙げられる。
本実施形態において、処理することが可能な炭酸ガス濃度(炭酸ガス/ガス)は、0.1~100%v/v程度であり、反応効率を考えると20~100%v/vの範囲が好ましく、90~100%v/vの範囲であることがより好ましい。
【0013】
アルカリ水溶液としては、特に制限なく、種々のものを用いることができる。具体的には、アンモニア、水酸化ナトリウムもしくは水酸化カリウム、またはそれらの組み合わせを用いることが好ましい。
アルカリ水溶液のpHは、pH8~14が望ましい。反応プロセスにおいてpH調整の手間が省けるからである。主成分濃度は0.5wt%~飽和水溶液であるのがよく、好ましくは4.0wt%~飽和水溶液であるのがよい。
【0014】
炭酸ガス固定化方法の開始当初は、メーカーから購入したアルカリ水溶液を使用することになるが、その後は前述のアルカリ水溶液の要件を満たすのであれば、第二工程で副製されるアルカリ水溶液を循環利用することが好ましい。材料の調達にかかる手間や費用を削減できるからである。アルカリ水溶液としては、第二工程後のアルカリを含む溶液を前処理なしで使用されるものであることがより好ましい。作業の効率化を図ることができるからである。
アルカリ水溶液としては、アンモニア水溶液を用いることが特に好ましい。
【0015】
アンモニア水溶液のアンモニア源は、特に制限されるものではなく、種々のものを使用することができる。アンモニア源としては、例えば人工の合成アンモニア源由来のものを用いることができる。その他のアンモニア源としては、家禽、野生の鳥、家畜、哺乳動物の糞尿、並びに養魚場からの廃水または鉱床に由来するものであってもよい。
【0016】
炭酸ガスをアルカリ水溶液に吸収させる方法としては、炭酸ガスをアルカリ水溶液にバブリングする方法が挙げられる。
炭酸ガスとアルカリ水溶液の反応は、例えば、アルカリ水溶液がアンモニア水溶液とした場合、以下の反応式で示される。
CO+2NHOH→(NHCO+HO (式1-1)
また、アルカリ水溶液が水酸化ナトリウム水溶液とした場合、以下の反応式で示される。
CO+2NaOH→NaCO+HO (式1-2)
【0017】
アルカリ溶液を用いた炭酸ガス吸収塔においては、アルカリ溶液と炭酸ガスとの気液接触反応がなされることなることから、気液接触効率の高い装置を用いるのがよく、それにはバルブトレイ塔、バブルキャップトレイ(泡鐘)塔、多孔板塔、充填塔等が例示できる。
【0018】
炭酸ガス吸収時のアルカリ溶液の温度は、炭酸アンモニウムが分解しない温度であれば特に制限はなく、20~50℃程度であれば好ましい。
液中に溶解した炭酸ガスの濃度は、様々であってよく、0.5wt%~飽和水溶液であるのがよく、好ましくは5.6wt%~飽和水溶液であるのがよい。
【0019】
(ロ)第二工程について
固定化材に含まれるアルカリ土類金属元素としては、カルシウムもしくはマグネシウム、またはそれらの組み合わせであることが好ましい。カルシウムがより好ましい。
固定化材に含まれるアルカリ金属元素としては、ナトリウムもしくはカリウム、またはそれらの組み合わせであることが好ましい。
固定化材に含まれるアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属は、それらの酸化物、水酸化物もしくはケイ酸塩であるか、またはそれらの混合物であることが好ましい。
【0020】
固定化材は、セメント、コンクリート、モルタル、鉄鋼スラグ、銅精錬スラグ、尾鉱、石炭灰、自然岩石、消石灰もしくは生石灰、またはそれらの混合物であることが好ましい。
固定化材としては、工業プロセスで排出された廃棄物を再利用することが好ましい。炭酸ガスの固定化に加えて、廃棄物処理の問題解決にも寄与するからである。
固定化材は、固形状態にあることが好ましい。液体に比べて輸送し易く、輸送等の取り扱いが容易であるからである。
【0021】
第二工程において、固定化材の粒度は細かいことが好ましく、湿式磨鉱処理で粉砕しながら、アルカリ炭酸塩水溶液と反応させることがより好ましい。固定化材の粒度が細かくなることで、アルカリ炭酸塩水溶液と固定化材の反応が促進され、炭酸塩の生成率が向上するからである。固定化材の粒度は、2mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましく、0.3mm以下が最も好ましい。
【0022】
アルカリ炭酸塩水溶液と固定化材の反応は、例えば、炭酸アンモニウムとカルシウムを反応させた場合、以下の反応式で示される。
(NHCO+CaO+HO→CaCO+2NHOH (式2-1)
また、炭酸ナトリウム水溶液と反応させた場合、以下の反応式で示される。
NaCO+CaO+HO→CaCO+2NaOH (式2-2)
本工程で生成したアルカリ水溶液、例えば、NHOHおよびNaOH等は、そのまま炭酸ガス吸収工程へ再利用することが可能である。
なお、炭酸ガス吸収、炭酸化、固液分離の各工程において、アルカリ溶液が損失または濃度変化することもあるので、その場合は、アンモニア吸収の工程において、適宜不足分のアルカリ溶液を加えることが望ましい。
【0023】
アルカリ炭酸塩水溶液と固定化材の反応を効率良く進めるためには、キレート剤等のCa抽出触媒を用いることが望ましい。キレート剤は、特に制限なく、種々のものを使用することができる。具体的には、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、ブドウ糖、ショ糖、ジグリコール酸、オキシン、EDTA、DTPA、GLDAおよび/または、それらのあらゆる組み合わせを用いることができる。
反応温度は、アルカリ炭酸塩水溶液が分解しない温度であれば特に制限はなく、20~60℃が好ましい。
pHは、炭酸塩が生成可能な範囲であれば特に制限はなく、pH8~14が好ましい。
【0024】
(ハ)第三工程について
炭酸塩の分離・回収方法としては、特に制限なく種々の方法を取ることができる。具体的には、遠心脱水機、遠心分離機、加圧ろ過機、減圧ろ過機、フィルタプレス、液体サイクロン、沈降分離等を用いることができる。
【0025】
以上の実施形態に係る炭酸ガス固定化方法によれば、簡易に、炭酸ガスの固定化を図ることができる。また得られた炭酸塩を他の用途、例えばセメント原料、肥料、路盤材、pH矯正剤および軽質炭酸カルシウムフィラー等に再利用することができる。実施形態に係る炭酸ガス固定化方法の作用効果について、従来の技術との対比において説明する。
【0026】
特許文献3(特許第7037498号)では、アンモニア水溶液でCOガスを吸収した後、カチオン源と接触させて炭酸塩を生成し、残溶液から回収用アンモニアを生成する手法が述べられている。しかし、対象としているカチオン源は塩水であり、原料調達の関係上立地が例えば海岸近傍に制限されてしまうという課題があった。
そのうえ、塩水には、アルカリ炭酸塩水溶液と反応して、アンモニウム塩および/またはアルカリ金属塩を含むハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩に例示される可溶性塩を生じるアニオンが多量に含まれていることに起因した課題もあった。即ち、アルカリ炭酸塩水溶液と塩水由来のアニオンとが反応し可溶性塩が生成することで、炭酸ガスの吸収に寄与するアルカリ水溶液が不足することから、循環利用には蒸留等によるアルカリ水溶液の再生操作が必要であった。
それに対して、本発明の好ましい形態のように、固定化材としてアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含む金属酸化物および/または金属水酸化物を用いることで、(式2-1)に示されるように、アルカリ炭酸塩水溶液と固定化剤の反応で生成したアルカリ水溶液を直接、循環利用に供することができる。
アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含む金属酸化物とは、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の酸化物、ケイ酸塩および他金属酸化物の化合物(CaO、CaSiO、CaFe等)を指し、さらに硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸イオン等を含まないものが好ましい。アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含む金属水酸化物とは、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の水酸化物、含水ケイ酸塩および他金属酸化物の水和物(Ca(OH)、CaSiO・HO、CaAl・6HO等)を指し、さらに硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸イオン等を含まないものが好ましい。
また工業プロセスで排出された廃棄物(例えば、廃コンクリート、スラグ)を再利用することができるので、塩水と比較して調達・保管が容易であり、廃棄物処理の問題解決にも寄与する。
【0027】
特許文献4(特許第5345954号)では、岩石スラリーをアンモニア溶液で溶解した後、COを吸収させることで炭酸塩を生成し、アンモニアの回収・再利用を行う手法について述べられている。しかし、システムが大がかりでスペースをとり、温度制御も困難であった。この点、本発明の実施形態によれば、スペースを取ることなく、しかも困難な温度制御が不要である。
【0028】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
例えば、実施形態において説明した炭酸ガス固定化方法を用いた炭酸塩の製造方法が提供される。上述の炭酸ガス固定化方法のフローに適した炭酸ガス固定化装置も同様に提供される。
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【実施例0029】
以下に、アルカリ水溶液としてアンモニア水溶液、固定化材としてカルシウムを用いた実施例を例に挙げて説明を行うが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
〔1.試作条件〕
(1)アルカリ炭酸塩水溶液の調製
炭酸アンモニウム試薬(関東化学、純度>30.0%(as NH)(T))を純水に溶解し、10%炭酸アンモニウム溶液(以下、「炭安溶液」ともいう)を調製した。
【0030】
(2)固定化材の調製
固定化材として、市販のセメント粉と水道水を10:4の比率(重量比)で混錬し、3日間静置し固化させた。その後、ジョークラッシャーにて破砕し、それぞれ1.0~2.0mm、0.6~1.0mm、0.3~0.6mmおよび<0.3mmに分級した。
【0031】
(3)アルカリ炭酸塩水溶液と固定化材の混合
分級後の固定化材と10%炭酸アンモニウム溶液をそれぞれ固液比が0.13となるようにポリ容器へ投入し、加振条件下で既定の日数経過まで反応させた。加振は振とう機(タイテック社製、商品名「NR-150」)を用い、往復振とう方式にて100r/minで振とうした。
(NHCO+CaO+HO→CaCO+2NHOH (式2-1)
表1に試験条件をまとめて記載する。
【0032】
【表1】
【0033】
〔2.評価方法〕
反応後のスラリーを、吸引ろ過によって試験後固定化材と析出物から成る固形分と反応後溶液に分けた。固形分は、80℃の乾燥機で12時間以上乾燥後、250μmの篩にて試験後固定化材と析出物(<250μmの粉体)に分級され、それぞれについてXRD測定を実施した。代表例としてA0610の鉱物相同定の結果について、試験前の結果を図2A、試験後の結果を図2Bに示す。
反応後溶液についてはpH測定および溶存成分の分析を実施した。得られたpH測定の結果を図3、溶存成分の分析結果を図4にそれぞれ示す。
【0034】
(1)試験後固定化材および析出物の鉱物相同定
図2Bに示すように、炭安溶液と反応させることで試験前(図2A)にはみられなかった炭酸カルシウムが生成していた。
【0035】
(2)反応後溶液のpH測定結果
図3に示すように、反応後溶液のpH測定結果より、炭安溶液の初期pH(pH=8.87)より浸漬時間の経過とともにpHの上昇が認められ、最終的に溶液のpHは10で一定となった。このpH上昇は、炭酸アンモニウムと固定化材中のCaOが反応することで、(式2-1)のような反応が起き、アンモニア水溶液が再生されたことを示唆している。
【0036】
(3)炭酸ガス固定化量の比較
実際に固定化材あたりどの程度炭酸ガスを固定化可能か確認するために、反応前後の溶液中の炭酸イオン濃度から固定化材1kg当たりの炭酸ガス固定化量を算出した。得られた結果を図4に示す。
図4に示すように、固定化材の粒度が細かいほど炭酸ガス固定化量が多く、A0003(粒度<0.3mm)では、反応時間1日にて固定化材の3割、5日において4割の重量の炭酸ガスが固定化可能であるという結果が得られた。
図1
図2
図3
図4