(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094699
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】シート形成材料セット、剥落防止シート、および剥落防止施工方法
(51)【国際特許分類】
C09J 7/21 20180101AFI20240703BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20240703BHJP
E21D 11/40 20060101ALI20240703BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
C09J7/21
E01D22/00 A
E21D11/40 Z
E04G23/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211412
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】山上 大智
【テーマコード(参考)】
2D059
2D155
2E176
4J004
【Fターム(参考)】
2D059AA01
2D059AA14
2D059BB39
2D059GG02
2D059GG23
2D155CA04
2D155KA00
2D155KB11
2E176AA01
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2E176BB04
4J004AA10
4J004AA11
4J004AA13
4J004AA14
4J004AB04
4J004AB05
4J004AB07
4J004CA06
4J004CA07
4J004CB01
4J004CC02
4J004CE01
4J004FA04
4J004FA08
(57)【要約】
【課題】下地視認性に優れた繊維接着剤含有繊維シートを形成するためのシート形成材料セットを提供する。
【解決手段】本発明のシート形成材料セットは、構造物表面に配置される剥落防止シートの形成に用いられる、シート形成材料セットであって、繊維シートと、繊維接着剤と、を含み、繊維シートと繊維接着剤との組み合わせは、JSCE K 533に準拠し、所定の押し抜き試験の手順で測定されるサンプルの変位が5mm以上における最大荷重が1.6kN以上、および所定の画像二値化処理の手順に従って測定されるサンプルの非透過面積が40.0%以下を満たすように構成されるものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物表面に配置される剥落防止シートの形成に用いられる、シート形成材料セットであって、
繊維シートと、
繊維接着剤と、を含み、
前記繊維シートと前記繊維接着剤との組み合わせは、
JSCE K 533に準拠し、下記の押し抜き試験の手順で測定されるサンプルの変位が5mm以上における最大荷重が1.6kN以上、および
下記の画像二値化処理の手順に従って測定されるサンプルの非透過面積が40.0%以下を満たす、
シート形成材料セット。
(押し抜き試験)
JIS A 5372 付属書E(1種、300)に規定する上ぶた式U形側溝(不図示)の上ぶた形状を有する、縦:400mm×横:600mm×厚み:60mmのコンクリート板を準備する。準備したコンクリート板の表面から5mmの位置に到達するまで裏面側から研削加工して、直径:100mm×厚み:55mmの円筒状の押し抜き圧子を試験用基板に形成する。
続いて、23℃、相対湿度50%下、試験用基板の表面に、ディスクサンダーを用いてケレン処理および脱脂処理を施した後、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とオルソクレジルグリシジルエーテルと変性脂環式ポリアミンとを60質量部:40質量部:39.6質量部で混合してなるプライマー組成物を塗布量0.15kg/m2で塗布し、1日養生した後、前記プライマー組成物の上に前記繊維接着剤を塗布量0.6kg/m2で塗布し、前記繊維接着剤の塗膜に前記繊維シートを配置した後、脱泡ローラーを用いて、前記繊維シート中に前記繊維接着剤を含浸させ、前記繊維シートの表面を均した後、23℃、相対湿度50%で7日間養生し、サンプルを前記試験用基板の表面に形成する。
続いて、JSCE K 533に準拠して、室温23℃下、前記試験用基板と前記押し抜き圧子との接合部を破壊するまで1mm/minで載荷し、その後、5mm/minで押し抜き圧子を前記サンプル側に向かって載荷する。このとき、荷重および変位量を経時的に測定する。なお、前記サンプルが破断したとき又はサンプルの剥離が試験用基板の端面まで到達した際に載荷を終了する。前記接合部の破壊以降から載荷終了までの荷重の最大値を最大荷重(kN)とし、最大荷重時の変位量を最大変位(mm)とする。
(画像二値化処理)
室温23℃、相対湿度50%下、PETシートの表面上に前記繊維接着剤を塗布量0.6kg/m2で塗布し、前記繊維接着剤の塗膜に前記繊維シートを配置した後、脱泡ローラーを用いて前記繊維シート中に前記繊維接着剤を含浸させ、ゴムベラで前記繊維シートの表面を均した後、23℃、相対湿度50%で7日間養生し、前記PETシートを剥がして、サンプルを得る。
前記サンプルの表面について、20mm×20mmの画像を撮影し、その画像を256階調の輝度値の情報を有する二次元グレースケール画像に変換し、輝度値が115以上の領域を白画像として識別する白黒二値化処理し、当該白画像の面積割合(%)を上記の非透過面積とする。
【請求項2】
構造物表面に配置される剥落防止シートの形成に用いられる、シート形成材料セットであって、
繊維シートと、
繊維接着剤と、
繊維接着剤の種類と塗布量を記述した使用書と、を含み、
前記繊維シートと前記繊維接着剤との組み合わせは、
JSCE K 533に準拠し、下記の押し抜き試験の手順で測定されるサンプルの変位が5mm以上における最大荷重が1.6kN以上、および
下記の画像二値化処理の手順に従って測定されるサンプルの非透過面積が40.0%以下を満たす、
シート形成材料セット。
(押し抜き試験)
JIS A 5372 付属書E(1種、300)に規定する上ぶた式U形側溝(不図示)の上ぶた形状を有する、縦:400mm×横:600mm×厚み:60mmのコンクリート板を準備する。準備したコンクリート板の表面から5mmの位置に到達するまで裏面側から研削加工して、直径:100mm×厚み:55mmの円筒状の押し抜き圧子を試験用基板に形成する。
続いて、23℃、相対湿度50%下、試験用基板の表面に、ディスクサンダーを用いてケレン処理および脱脂処理を施した後、前記使用書に記載のプライマー組成物を前記使用書に記載の塗布量で塗布し、1日養生した後、前記プライマー組成物の上に、前記使用書に記載の前記繊維接着剤を前記使用書に記載の塗布量で塗布し、前記繊維接着剤の塗膜に前記繊維シートを配置した後、脱泡ローラーを用いて、前記繊維シート中に前記繊維接着剤を含浸させ、前記繊維シートの表面を均した後、23℃、相対湿度50%で7日間養生し、サンプルを前記試験用基板の表面に形成する。
続いて、JSCE K 533に準拠して、室温23℃下、前記試験用基板と前記押し抜き圧子との接合部を破壊するまで1mm/minで載荷し、その後、5mm/minで押し抜き圧子を前記サンプル側に向かって載荷する。このとき、荷重および変位量を経時的に測定する。なお、前記サンプルが破断したとき又はサンプルの剥離が試験用基板の端面まで到達した際に載荷を終了する。前記接合部の破壊以降から載荷終了までの荷重の最大値を最大荷重(kN)とし、最大荷重時の変位量を最大変位(mm)とする。
(画像二値化処理)
室温23℃、相対湿度50%下、PETシートの表面上に、前記使用書に記載の前記繊維接着剤を前記使用書に記載の塗布量で塗布し、前記繊維接着剤の塗膜に前記繊維シートを配置した後、脱泡ローラーを用いて前記繊維シート中に前記繊維接着剤を含浸させ、ゴムベラで前記繊維シートの表面を均した後、23℃、相対湿度50%で7日間養生し、前記PETシートを剥がして、サンプルを得る。
前記サンプルの表面について、20mm×20mmの画像を撮影し、その画像を256階調の輝度値の情報を有する二次元グレースケール画像に変換し、輝度値が115以上の領域を白画像として識別する白黒二値化処理し、当該白画像の面積割合(%)を上記の非透過面積とする。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシート形成材料セットであって、
前記繊維シートの透気度が、30cm3/(cm2・s)以上800cm3/(cm2・s)以下である、シート形成材料セット。
【請求項4】
請求項1または2に記載のシート形成材料セットであって、
下記の手順に従って測定される、前記繊維シートの開口率が、5.0%以上30.0%以下である、シート形成材料セット。
(開口率の測定手順)
前記繊維シートの表面について、20mm×20mmの画像を撮影し、その画像を256階調の輝度値の情報を有する二次元グレースケール画像に変換し、輝度値が80以下の領域を黒画像として識別する白黒二値化処理し、当該黒画像の面積割合(%)を上記の開口率とする。
【請求項5】
請求項1または2に記載のシート形成材料セットであって、
前記繊維シートの目付が、120g/m2以上350g/m2以下である、シート形成材料セット。
【請求項6】
請求項1または2に記載のシート形成材料セットであって、
前記繊維シートを構成する繊維束の繊度が、50tex以上1500tex以下である、シート形成材料セット。
【請求項7】
請求項1または2に記載のシート形成材料セットであって、
前記繊維接着剤の付着量が、200g/m2以上2000g/m2である、シート形成材料セット。
【請求項8】
請求項1または2に記載のシート形成材料セットであって、
前記繊維シートは、ガラス、ビニロン、ナイロン、およびポリエステルのいずれか一つ以上を含む、シート形成材料セット。
【請求項9】
請求項1または2に記載のシート形成材料セットであって、
前記繊維シートが含むガラスは、Eガラス、ARガラス、およびECRガラスからなる群から選ばれる一または二以上を含む、シート形成材料セット。
【請求項10】
請求項1または2に記載のシート形成材料セットであって、
繊維シートが、2軸織物、3軸織物、4軸織物、および5軸織物からなる群から選ばれる一または二以上を含む、シート形成材料セット。
【請求項11】
請求項1または2に記載のシート形成材料セットであって、
JIS K 6870の発熱法に準拠して測定される、前記繊維接着剤における可使時間が、10分以上300分以下である、シート形成材料セット。
【請求項12】
請求項1または2に記載のシート形成材料セットであって、
23℃、2rpmで測定したときの前記繊維接着剤の粘度をV2とし、20rpmで測定したときの前記繊維接着剤の粘度をV20としたとき、V2/V20が2.0以上8.0以下であり、V2が2,000mPa・s以上100,000mPa・s以下である、シート形成材料セット。
【請求項13】
構造物表面に配置される剥落防止シートであって、
請求項1または2に記載のシート形成材料セットに含まれる繊維シートと繊維接着剤とを備え、
前記繊維接着剤は、前記繊維シート中に含浸された状態である、剥落防止シート。
【請求項14】
請求項1または2に記載のシート形成材料セットを用いて繊維シートに繊維接着剤を含浸させてなる剥落防止シートを構造物の表面上に配置する、配置工程と、
硬化処理により、前記剥落防止シートの硬化体を前記構造物の表面上に固定する、固定工程と、
を含む、剥落防止施工方法。
【請求項15】
請求項14に記載の剥落防止施工方法であって、
前記配置工程において、前記構造物の表面が、プライマー処理されたものである、剥落防止施工方法。
【請求項16】
請求項14に記載の剥落防止施工方法であって、
前記構造物が、コンクリート構造物である、剥落防止施工方法。
【請求項17】
構造物表面に配置される剥落防止シートの形成に用いられる、シート形成材料セットであって、
繊維シートと、
繊維接着剤と、を含み、
前記繊維シートと前記繊維接着剤との組み合わせは、
下記の画像二値化処理の手順に従って測定されるサンプルの非透過面積が40.0%以下を満たす、
シート形成材料セット。
(画像二値化処理)
室温23℃、相対湿度50%下、PETシートの表面上に前記繊維接着剤を塗布量0.6kg/m2で塗布し、前記繊維接着剤の塗膜に前記繊維シートを配置した後、脱泡ローラーを用いて前記繊維シート中に前記繊維接着剤を含浸させ、ゴムベラで前記繊維シートの表面を均した後、23℃、相対湿度50%で7日間養生し、前記PETシートを剥がして、サンプルを得る。
前記サンプルの表面について、20mm×20mmの画像を撮影し、その画像を256階調の輝度値の情報を有する二次元グレースケール画像に変換し、輝度値が115以上の領域を白画像として識別する白黒二値化処理し、当該白画像の面積割合(%)を上記の非透過面積とする。
【請求項18】
構造物表面に配置される剥落防止シートの形成に用いられる、シート形成材料セットであって、
繊維シートと、
繊維接着剤と、
繊維接着剤の種類と塗布量を記述した使用書と、を含み、
前記繊維シートと前記繊維接着剤との組み合わせは、
下記の画像二値化処理の手順に従って測定されるサンプルの非透過面積が40.0%以下を満たす、
シート形成材料セット。
(画像二値化処理)
室温23℃、相対湿度50%下、PETシートの表面上に、前記使用書に記載の前記繊維接着剤を前記使用書に記載の塗布量で塗布し、前記繊維接着剤の塗膜に前記繊維シートを配置した後、脱泡ローラーを用いて前記繊維シート中に前記繊維接着剤を含浸させ、ゴムベラで前記繊維シートの表面を均した後、23℃、相対湿度50%で7日間養生し、前記PETシートを剥がして、サンプルを得る。
前記サンプルの表面について、20mm×20mmの画像を撮影し、その画像を256階調の輝度値の情報を有する二次元グレースケール画像に変換し、輝度値が115以上の領域を白画像として識別する白黒二値化処理し、当該白画像の面積割合(%)を上記の非透過面積とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート形成材料セット、剥落防止シート、および剥落防止施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで剥落防止技術について様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、網目が正方形状のガラス繊維ネットにビニルエステル樹脂を含浸させた縦補強筋と横補強筋を複数積層し、硬化して形成したFRP格子筋を備えるコンクリート剥落防止材をコンクリート面に固定する技術が記載されている(特許文献1の請求項1、段落0073、
図1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載の剥落防止材において、下地視認性の点で改善の余地があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者はさらに検討したところ、押し抜き試験により算出される最大荷重を所定値以上とすることにより、各種用途に適用できる程度の機械的強度を備える繊維接着剤含有繊維シートを実現でき、画像二値化処理により算出される非透過面積を所定値以下とすることにより、下地視認性に優れた繊維接着剤含有繊維シートを実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明の一態様によれば、以下のシート形成材料セット、剥落防止シート、および剥落防止施工方法が提供される。
【0007】
以下、参考形態の例を付記する。
1. 構造物表面に配置される剥落防止シートの形成に用いられる、シート形成材料セットであって、
繊維シートと、
繊維接着剤と、を含み、
前記繊維シートと前記繊維接着剤との組み合わせは、
JSCE K 533に準拠し、下記の押し抜き試験の手順で測定されるサンプルの変位が5mm以上における最大荷重が1.6kN以上、および
下記の画像二値化処理の手順に従って測定されるサンプルの非透過面積が40.0%以下を満たす、
シート形成材料セット。
JIS A 5372 付属書E(1種、300)に規定する上ぶた式U形側溝(不図示)の上ぶた形状を有する、縦:400mm×横:600mm×厚み:60mmのコンクリート板を準備する。準備したコンクリート板の表面から5mmの位置に到達するまで裏面側から研削加工して、直径:100mm×厚み:55mmの円筒状の押し抜き圧子を試験用基板に形成する。
続いて、23℃、相対湿度50%下、試験用基板の表面に、ディスクサンダーを用いてケレン処理および脱脂処理を施した後、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とオルソクレジルグリシジルエーテルと変性脂環式ポリアミンとを60質量部:40質量部:39.6質量部で混合してなるプライマー組成物を塗布量0.15kg/m2で塗布し、1日養生した後、前記プライマー組成物の上に前記繊維接着剤を塗布量0.6kg/m2で塗布し、前記繊維接着剤の塗膜に前記繊維シートを配置した後、脱泡ローラーを用いて、前記繊維シート中に前記繊維接着剤を含浸させ、前記繊維シートの表面を均した後、23℃、相対湿度50%で7日間養生し、サンプルを前記試験用基板の表面に形成する。
続いて、JSCE K 533に準拠して、室温23℃下、前記試験用基板と前記押し抜き圧子との接合部を破壊するまで1mm/minで載荷し、その後、5mm/minで押し抜き圧子を前記サンプル側に向かって載荷する。このとき、荷重および変位量を経時的に測定する。なお、前記サンプルが破断したとき又はサンプルの剥離が試験用基板の端面まで到達した際に載荷を終了する。前記接合部の破壊以降から載荷終了までの荷重の最大値を最大荷重(kN)とし、最大荷重時の変位量を最大変位(mm)とする。
2. 構造物表面に配置される剥落防止シートの形成に用いられる、シート形成材料セットであって、
繊維シートと、
繊維接着剤と、
繊維接着剤の種類と塗布量を記述した使用書と、を含み、
前記繊維シートと前記繊維接着剤との組み合わせは、
JSCE K 533に準拠し、下記の押し抜き試験の手順で測定されるサンプルの変位が5mm以上における最大荷重が1.6kN以上、および
下記の画像二値化処理の手順に従って測定されるサンプルの非透過面積が40.0%以下を満たす、
シート形成材料セット。
(押し抜き試験)
JIS A 5372 付属書E(1種、300)に規定する上ぶた式U形側溝(不図示)の上ぶた形状を有する、縦:400mm×横:600mm×厚み:60mmのコンクリート板を準備する。準備したコンクリート板の表面から5mmの位置に到達するまで裏面側から研削加工して、直径:100mm×厚み:55mmの円筒状の押し抜き圧子を試験用基板に形成する。
続いて、23℃、相対湿度50%下、試験用基板の表面に、ディスクサンダーを用いてケレン処理および脱脂処理を施した後、前記使用書に記載のプライマー組成物を前記使用書に記載の塗布量で塗布し、1日養生した後、前記プライマー組成物の上に、前記使用書に記載の前記繊維接着剤を前記使用書に記載の塗布量で塗布し、前記繊維接着剤の塗膜に前記繊維シートを配置した後、脱泡ローラーを用いて、前記繊維シート中に前記繊維接着剤を含浸させ、前記繊維シートの表面を均した後、23℃、相対湿度50%で7日間養生し、サンプルを前記試験用基板の表面に形成する。
続いて、JSCE K 533に準拠して、室温23℃下、前記試験用基板と前記押し抜き圧子との接合部を破壊するまで1mm/minで載荷し、その後、5mm/minで押し抜き圧子を前記サンプル側に向かって載荷する。このとき、荷重および変位量を経時的に測定する。なお、前記サンプルが破断したとき又はサンプルの剥離が試験用基板の端面まで到達した際に載荷を終了する。前記接合部の破壊以降から載荷終了までの荷重の最大値を最大荷重(kN)とし、最大荷重時の変位量を最大変位(mm)とする。
(画像二値化処理)
室温23℃、相対湿度50%下、PETシートの表面上に、前記使用書に記載の前記繊維接着剤を前記使用書に記載の塗布量で塗布し、前記繊維接着剤の塗膜に前記繊維シートを配置した後、脱泡ローラーを用いて前記繊維シート中に前記繊維接着剤を含浸させ、ゴムベラで前記繊維シートの表面を均した後、23℃、相対湿度50%で7日間養生し、前記PETシートを剥がして、サンプルを得る。
前記サンプルの表面について、20mm×20mmの画像を撮影し、その画像を256階調の輝度値の情報を有する二次元グレースケール画像に変換し、輝度値が115以上の領域を白画像として識別する白黒二値化処理し、当該白画像の面積割合(%)を上記の非透過面積とする。
3. 1.または2.に記載のシート形成材料セットであって、
前記繊維シートの透気度が、30cm3/(cm2・s)以上800cm3/(cm2・s)以下である、シート形成材料セット。
4. 1.~3.のいずれか一つに記載のシート形成材料セットであって、
下記の手順に従って測定される、前記繊維シートの開口率が、5.0%以上30.0%以下である、シート形成材料セット。
(開口率の測定手順)
前記繊維シートの表面について、20mm×20mmの画像を撮影し、その画像を256階調の輝度値の情報を有する二次元グレースケール画像に変換し、輝度値が80以下の領域を黒画像として識別する白黒二値化処理し、当該黒画像の面積割合(%)を上記の開口率とする。
5. 1.~4.のいずれか一つに記載のシート形成材料セットであって、
前記繊維シートの目付が、120g/m2以上350g/m2以下である、シート形成材料セット。
6. 1.~5.のいずれか一つに記載のシート形成材料セットであって、
前記繊維シートを構成する繊維束の繊度が、50tex以上1500tex以下である、シート形成材料セット。
7. 1.~6.のいずれか一つに記載のシート形成材料セットであって、
前記繊維接着剤の付着量が、200g/m2以上2000g/m2である、シート形成材料セット。
8. 1.~7.のいずれか一つに記載のシート形成材料セットであって、
前記繊維シートは、ガラス、ビニロン、ナイロン、およびポリエステルのいずれか一つ以上を含む、シート形成材料セット。
9. 1.~8.のいずれか一つに記載のシート形成材料セットであって、
前記繊維シートが含むガラスは、Eガラス、ARガラス、およびECRガラスからなる群から選ばれる一または二以上を含む、シート形成材料セット。
10. 1.~9.のいずれか一つに記載のシート形成材料セットであって、
繊維シートが、2軸織物、3軸織物、4軸織物、および5軸織物からなる群から選ばれる一または二以上を含む、シート形成材料セット。
11. 1.~10.のいずれか一つに記載のシート形成材料セットであって、
JIS K 6870の発熱法に準拠して測定される、前記繊維接着剤における可使時間が、10分以上300分以下である、シート形成材料セット。
12. 1.~11.のいずれか一つに記載のシート形成材料セットであって、
23℃、2rpmで測定したときの前記繊維接着剤の粘度をV2とし、20rpmで測定したときの前記繊維接着剤の粘度をV20としたとき、V2/V20が2.0以上8.0以下であり、V2が2,000mPa・s以上100,000mPa・s以下である、シート形成材料セット。
13. 構造物表面に配置される剥落防止シートであって、
1.~12.のいずれか一つに記載のシート形成材料セットに含まれる繊維シートと繊維接着剤とを備え、
前記繊維接着剤は、前記繊維シート中に含浸された状態である、剥落防止シート。
14. 1.~12.のいずれか一つに記載のシート形成材料セットを用いて繊維シートに繊維接着剤を含浸させてなる剥落防止シートを構造物の表面上に配置する、配置工程と、
硬化処理により、前記剥落防止シートの硬化体を前記構造物の表面上に固定する、固定工程と、
を含む、剥落防止施工方法。
15. 14.に記載の剥落防止施工方法であって、
前記配置工程において、前記構造物の表面が、プライマー処理されたものである、剥落防止施工方法。
16. 14.または15.に記載の剥落防止施工方法であって、
前記構造物が、コンクリート構造物である、剥落防止施工方法。
17. 構造物表面に配置される剥落防止シートの形成に用いられる、シート形成材料セットであって、
繊維シートと、
繊維接着剤と、を含み、
前記繊維シートと前記繊維接着剤との組み合わせは、
下記の画像二値化処理の手順に従って測定されるサンプルの非透過面積が40.0%以下を満たす、
シート形成材料セット。
(画像二値化処理)
室温23℃、相対湿度50%下、PETシートの表面上に前記繊維接着剤を塗布量0.6kg/m2で塗布し、前記繊維接着剤の塗膜に前記繊維シートを配置した後、脱泡ローラーを用いて前記繊維シート中に前記繊維接着剤を含浸させ、ゴムベラで前記繊維シートの表面を均した後、23℃、相対湿度50%で7日間養生し、前記PETシートを剥がして、サンプルを得る。
前記サンプルの表面について、20mm×20mmの画像を撮影し、その画像を256階調の輝度値の情報を有する二次元グレースケール画像に変換し、輝度値が115以上の領域を白画像として識別する白黒二値化処理し、当該白画像の面積割合(%)を上記の非透過面積とする。
18. 構造物表面に配置される剥落防止シートの形成に用いられる、シート形成材料セットであって、
繊維シートと、
繊維接着剤と、
繊維接着剤の種類と塗布量を記述した使用書と、を含み、
前記繊維シートと前記繊維接着剤との組み合わせは、
下記の画像二値化処理の手順に従って測定されるサンプルの非透過面積が40.0%以下を満たす、
シート形成材料セット。
(画像二値化処理)
室温23℃、相対湿度50%下、PETシートの表面上に、前記使用書に記載の前記繊維接着剤を前記使用書に記載の塗布量で塗布し、前記繊維接着剤の塗膜に前記繊維シートを配置した後、脱泡ローラーを用いて前記繊維シート中に前記繊維接着剤を含浸させ、ゴムベラで前記繊維シートの表面を均した後、23℃、相対湿度50%で7日間養生し、前記PETシートを剥がして、サンプルを得る。
前記サンプルの表面について、20mm×20mmの画像を撮影し、その画像を256階調の輝度値の情報を有する二次元グレースケール画像に変換し、輝度値が115以上の領域を白画像として識別する白黒二値化処理し、当該白画像の面積割合(%)を上記の非透過面積とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、下地視認性に優れた繊維接着剤含有繊維シートを形成するためのシート形成材料セット、およびそれを用いた剥落防止シートおよび剥落防止施工方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態の剥落防止シートを構造物の表面に配置した状態を模式的に示す断面図である。
【
図2】押し抜き試験に用いる試験装置の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。
【0011】
本実施形態のシート形成材料セットの概要を説明する。
【0012】
本実施形態のシート形成材料セットは、繊維シートと、繊維接着剤と、を含む。
また、本実施形態のシート形成材料セットにおいて、繊維シートと繊維接着剤との組み合わせは、JSCE K 533に準拠し、下記の押し抜き試験の手順で測定されるサンプルの変位が5mm以上における最大荷重が1.6kN以上、および下記の画像二値化処理の手順に従って測定されるサンプルの非透過面積が40.0%以下を満たすように構成される。
【0013】
(押し抜き試験)
JIS A 5372 付属書E(1種、300)に規定する上ぶた式U形側溝(不図示)の上ぶた形状を有する、縦:400mm×横:600mm×厚み:60mmのコンクリート板を準備する。準備したコンクリート板の表面から5mmの位置に到達するまで裏面側から研削加工して、直径:100mm×厚み:55mmの円筒状の押し抜き圧子を試験用基板に形成する。
続いて、23℃、相対湿度50%下、試験用基板の表面に、ディスクサンダーを用いてケレン処理および脱脂処理を施した後、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とオルソクレジルグリシジルエーテルと変性脂環式ポリアミンとを60質量部:40質量部:39.6質量部で混合してなるプライマー組成物を塗布量0.15kg/m2で塗布し、1日養生した後、プライマー組成物の上に繊維接着剤を塗布量0.6kg/m2で塗布し、繊維接着剤の塗膜に繊維シートを配置した後、脱泡ローラーを用いて、繊維シート中に繊維接着剤を含浸させ、繊維シートの表面を均した後、23℃、相対湿度50%で7日間養生し、サンプルを試験用基板の表面に形成する。
続いて、JSCE K 533に準拠して、室温23℃下、試験用基板と押し抜き圧子との接合部を破壊するまで1mm/minで載荷し、その後、5mm/minで押し抜き圧子を前記サンプル側に向かって載荷する。このとき、荷重および変位量を経時的に測定する。なお、サンプルが破断したとき又はサンプルの剥離が試験用基板の端面まで到達した際に載荷を終了する。接合部の破壊以降から載荷終了までの荷重の最大値を最大荷重(kN)とし、最大荷重時の変位量を最大変位(mm)とする。
【0014】
(画像二値化処理)
室温23℃、相対湿度50%下、PETシートの表面上に繊維接着剤を塗布量0.6kg/m2で塗布し、繊維接着剤の塗膜に繊維シートを配置した後、脱泡ローラーを用いて繊維シート中に繊維接着剤を含浸させ、ゴムベラで繊維シートの表面を均した後、23℃、相対湿度50%で7日間養生し、PETシートを剥がして、サンプルを得る。
サンプルの表面について、20mm×20mmの画像を撮影し、その画像を256階調の輝度値の情報を有する二次元グレースケール画像に変換し、輝度値が115以上の領域を白画像として識別する白黒二値化処理し、当該白画像の面積割合(%)を上記の非透過面積とする。
なお、目空きが大きなサンプルの場合には、繰り返し単位を4単位以上含む画像を使用してもよい。
【0015】
本実施形態のシート形成材料セットは、構造物表面に配置される繊維接着剤含有繊維シート、具体的な一例として、剥落防止シートの形成に用いられるものである。
シート形成材料セットに含まれる繊維シートと繊維接着剤とを用いて、繊維接着剤を繊維シート中に含浸させて形成した繊維接着剤含有繊維シートは、構造物の剥落防止の用途の他にも、構造物の補強、構造物の耐震補強、構造物の防水等の用途に用いることが可能である。
すなわち、繊維接着剤含有繊維シートは、構造物の剥落防止、補強、耐震補強、および防水のいずれかに用いることができる。なお、構造物の剥落防止用に用いる繊維接着剤含有繊維シートを、剥落防止シートという。
【0016】
剥落防止の場合、構造物としては、モルタル構造物やコンクリート構造物等が挙げられるが、経時劣化により剥落が生じる構造物であれば特に限定されない。コンクリート構造物は、例えば、道路;トンネル;橋桁、橋脚、橋台、床版等の橋梁;建築物や設備中の壁や天井等の躯体等が挙げられる。
なお、剥落防止以外の用途の場合、構造物としては、モルタルやコンクリートに限定されずに、様々な素材の構造物(例えば建築物の外壁等に用いられるタイル等)を用いることができる。
【0017】
本実施形態のシート形成材料セットによれば、下地視認性に優れた繊維接着剤含有繊維シートを実現できる。このような繊維接着剤含有繊維シートを構造物表面に施工すると、構造物表面状態の経時変化を、目視等により容易に観察できる。このため、施工後の構造物表面状態の検査において、作業が容易となる、また作業の精度も向上できる。
【0018】
本発明者の知見によれば、押し抜き試験により算出される最大荷重を所定値以上とすることにより、各種用途に適用できる程度の機械的強度を備える繊維接着剤含有繊維シートを実現でき、画像二値化処理により算出される非透過面積を所定値以下とすることにより、下地視認性に優れた繊維接着剤含有繊維シートを実現できることが見出された。
【0019】
押し抜き試験により測定される変位が5mm以上における最大荷重の下限は、1.6kN以上、好ましくは1.8kN以上、より好ましくは2.0kN以上である。これにより、構造物の表面に対する機械的強度や接着性を向上できる。
上記最大荷重の上限は、とくに限定されないが、10kN以下でもよい。
【0020】
また、押し抜き試験により測定される最大変位の下限は、5mm以上であればよく、好ましくは7mm以上、より好ましくは9mm以上、更に好ましくは11mm以上である。これにより、剥落等の変状が発生した際に、検出性を向上できる。
上記最大変位の上限は、特に限定されないが、100mm以下としてもよい。これにより、トンネル等の狭い部位において好適に用いることができる。
【0021】
画像二値化処理により算出される非透過面積の上限は、40.0%以下、好ましくは39.0%以下、より好ましくは35.0%以下である。これにより、下地視認性を向上できる。
上記非透過面積の下限は、例えば、1%以上でもよく、3%以上でもよい。これにより、適度な機械的強度が得られる。
【0022】
一般的に、繊維接着剤含有繊維シートの硬化体における透明性を評価する指標として、分光光度計やヘーズメータを用いて測定される透過率(%)が知られている。
しかしながら、本発明者が検討したところ、分光光度計による透過率は、下地視認性を安定的に評価できない場合があることが見出された。透過率は、光照射面の全体の平均値で算出されるため、部分的な不透明領域をうまく反映した値とならない恐れがある。すなわち、部分的な不透明領域が存在し、下地視認性が劣る場合でも、平均値である透過率は、比較的高く算出されてしまうことがあった。
このような知見に基づき、繊維接着剤含有繊維シートの硬化体における部分的不透明領域を反映した指標を鋭意検討した結果、上記の画像二値化処理により算出される非透過面積を見出すに至った。
画像二値化処理において、二値化の閾値を適切に設定することにより、部分的不透明領域を反映した光透過度合を表す指標とすることが可能となる。
【0023】
本実施形態では、例えば繊維接着剤含有繊維シート中に含まれる繊維シートや繊維接着剤、繊維接着剤含有繊維シートの製造方法等を適切に選択することにより、上記の非透過面積を制御することが可能である。これらの中でも、例えば繊維シートの開口率を適切に選択すること等が、上記透過面積を所望の数値範囲とするための要素として挙げられる。
【0024】
以下、本実施形態のシート形成材料セットおよび剥落防止シートの各構成について詳述する。
【0025】
本実施形態の剥落防止シートは、シート形成材料セットに含まれる繊維シートと繊維接着剤とを備え、繊維接着剤が繊維シート中に含浸された状態で両者を備える。
本実施形態の剥落防止シートを、構造物の表面上に配置・固定することより、表面から構造物の一部が剥落することを抑制できる。
【0026】
剥落防止シート中の繊維シートは、繊維接着剤からなる層中に、その一部または全体が含まれるように構成されてもよい。言い換えると、剥落防止シートは、繊維シート中に含浸される繊維接着剤の含浸層と、繊維シートの表面および裏面の少なくとも一方または両方に形成される繊維接着剤の露出層とを備えてもよい。なお、繊維接着剤含有繊維シートにおいても、剥落防止シートと同様の含浸構造を備えることができる。
【0027】
繊維シートは、繊維糸の材料として、ガラス、ビニロン、ナイロン、およびポリエステルのいずれか一つ以上を含んでもよい。この中でも、繊維シートは、ガラス繊維シートを用いてもよい。
【0028】
ガラス繊維シートを構成するガラス糸は、例えば、Eガラス、ARガラス、Sガラス、Cガラス、Dガラス、ECRガラス等であってよい。
この中でも、強度および耐久性、これらとコストとのバランスの観点から、ガラス繊維シートは、Eガラス、ARガラス、およびECRガラスからなる群から選ばれる一または二以上を含むことが好ましい。
【0029】
図1(a)~(c)は、繊維シート110と繊維接着剤120と含む剥落防止シート100を、構造物50の表面に配置した状態の一例を模式的に示す断面図である。
図1(a)は、剥落防止シート100が構造物50の表面に直接配置された状態、
図1(b)は、剥落防止シート100が構造物50の表面上のプライマー層130配置された状態、
図1(c)は、
図1(b)の剥落防止シート100の表面にさらに保護層150が形成された構造を示す。
【0030】
図1(a)~
図1(c)中、繊維接着剤120は、繊維シート110に含浸された部分とともに、繊維シート110の表面および裏面の少なくとも一方面から露出した露出層120A、120Bを有する。この露出層120A、120Bが、硬化して、下地層や他の層の界面との接着性を発揮する。
なお、プライマー層130や保護層150については、後述にて説明する。
【0031】
繊維シートは、織物が好ましく、例えば、2軸織物、3軸織物、4軸織物、および5軸織物からなる群から選ばれる一または二以上の織物を含んでもよい。繊維接着剤の含浸性の観点から、2軸織物、3軸織物または4軸織物が好ましい。
【0032】
3軸織物または4軸織物とは、経糸、緯糸、および左右のどちらか一方または両方の斜め糸等の、3軸方向の糸または4軸方向の糸を、一定の方式に従って立体的に交錯させたものを指す。
【0033】
ここで、組布(登録商標)とは、織機を用いずに、糸を、経方向、緯方向あるいは斜め方向に組んで、接着剤によりで固定した布状の連続糸不織布を指す。詳細なメカニズムは定かではないが、組布(登録商標)を構成する接着剤が、繊維接着剤の含浸を妨げるため、十分な透明性が得られないと推察される。また、組布(登録商標)は、施工時に糸が動いてヨレやすいため、施工性が十分に得られない恐れもある。
ただし、組布(登録商標)であっても、交絡点をずらす構造を付与するだけでなく、交絡点に結着樹脂を付与した構造および/または補強用繊維を追加した構造を採用することで、施工性を改善することが可能となる。
【0034】
繊維シートの透気度の下限は、例えば、30cm3/(cm2・s)以上、好ましくは50cm3/(cm2・s)以上、より好ましくは60cm3/(cm2・s)以上である。これにより、繊維接着剤の含浸性を向上できる。また、繊維接着剤を塗布後、繊維シートを貼りつけ、ローラーで含浸させた際、気泡が抜けやすくなるため、下地の見えやすさが向上し、かつ繊維シートの浮きを防ぐことができる。
繊維シートの透気度の上限は、例えば、800cm3/(cm2・s)以下、好ましくは600cm3/(cm2・s)以下、より好ましくは500cm3/(cm2・s)以下である。これにより、糸がヨレることを抑制し、施工性を向上できる。
【0035】
繊維シートの開口率の下限は、例えば、5.0%以上、好ましくは8.0%以上、より好ましくは10.0%以上である。これにより、気泡が抜けやすくなるため、施工性を向上できる。
繊維シートの開口率の上限は、例えば、30.0%以下、好ましくは28.0%以下、より好ましくは25.0%以下である。これにより、糸がヨレることを抑制し、施工性を向上し、透明性を向上することができる。
【0036】
繊維シートの開口率は、以下の手順に従って測定できる。
繊維シートの表面について、20mm×20mmの画像を撮影し、その画像を256階調の輝度値の情報を有する二次元グレースケール画像に変換し、輝度値が80以下の領域を黒画像として識別する白黒二値化処理し、当該黒画像の面積割合(%)を上記の開口率とする。
なお、目空きが大きなサンプルの場合には、繰り返し単位を4単位以上含む画像を使用してもよい。
【0037】
繊維シートの目付の下限は、例えば、120g/m2以上、好ましくは140g/m2以上、より好ましくは160g/m2以上である。これにより、剥落防止性を一層向上できる。
繊維シートの目付の上限は、例えば、350g/m2以下、好ましくは300g/m2以下、より好ましくは260g/m2以下である。これにより、透明性を向上できる。
【0038】
繊維シートを構成する繊維束の繊度の下限は、例えば、50tex以上、好ましくは60tex以上、より好ましくは70tex以上である。これにより、繊維シートの開口を適度に作成することができ、繊維接着剤を塗布後、繊維シートを貼りつけ、ローラーで含浸させた際、気泡が抜けやすくなるため、下地の見えやすさが向上し、かつ繊維シートの浮きを防ぐことができる。
上記繊維束の繊度の上限は、例えば、1500tex以下、好ましくは1000tex以下、より好ましくは400tex以下である。これにより、繊維シートの密度を一定以上に構成することができ、糸のヨレ防止性を向上できる。
【0039】
繊維接着剤の付着量の下限は、例えば、200g/m2以上、好ましくは300g/m2以上、より好ましくは400g/m2以上である。これにより、繊維シートへの含浸性を向上できる。
繊維接着剤の付着量の上限は、例えば、2000g/m2以下、好ましくは1500g/m2以下、より好ましくは1000g/m2以下である。これにより、透明性を向上できる。また、火災時の発生ガスの有害性を低減できる。
【0040】
繊維接着剤は、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、ウレア系接着剤、シリコーン系接着剤、(メタ)アクリル系接着剤等の硬化型接着剤が挙げられる。これらの中では、硬化体が透明性を有する繊維接着剤が好ましく、繊維シートの屈折率と硬化体の屈折率との差が小さい繊維接着剤がより好ましい。この中でも、コンクリート面や繊維シート等との接着性により優れる観点から、(メタ)アクリル系接着剤とエポキシ系接着剤からなる群の1種以上が好ましく、エポキシ系接着剤がより好ましい。
【0041】
繊維接着剤は、形態は特に限定されないが、一剤型接着剤でもよく、二剤型接着剤でもよい。貯蔵時の安定性の観点から、二剤型接着剤が好ましい。
【0042】
二剤型の繊維接着剤の一例は、主剤と硬化剤とを含んでもよい。
二剤型の繊維接着剤がエポキシ系接着剤の場合、主剤(第一剤)は、エポキシ化合物を含み、硬化剤(第二剤)は、エポキシ化合物を硬化させる成分を含むものであれば限定されないが、一例として、アミン化合物を含む。
【0043】
エポキシ化合物として、エポキシ基またはグリシジル基を、分子中に1個または2個以上有するエポキシ化合物が用いられる。
エポキシ化合物の具体例としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAビス(ポリプロピレングリコールグリシジルエーテル)エーテル、ビスフェノールAビス(ポリエチレングリコールグリシジルエーテル)エーテル、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂、アルキルグリシジルエーテル、クレシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、アルキルジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
アミン化合物として、1級アミン基および/または2級アミン基を有するアミン化合物が用いられる。
アミン化合物の具体例としては、例えば、脂肪族アミン、脂環族アミン、変性脂肪族ポリアミン、変性脂環族アミンおよびポリアミドアミン等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
二剤型の繊維接着剤において、エポキシ化合物のエポキシ当量に対するアミン化合物(エポキシ化合物を硬化させる成分)の活性水素当量の比が、例えば、0.5~1.5、好ましくは、0.8~1.2となるように、主剤と硬化剤とを混合してもよい。
なお、アミン化合物の活性水素当量は、活性水素1モル当たりのアミン化合物の質量(g)を示す。2種以上を併用した場合、アミン化合物の合計質量と合計活性水素とから、上記のアミン化合物の活性水素当量を算出する。
【0046】
繊維接着剤は、必要に応じて、一般的な接着剤に使用される添加剤を含んでもよい。二剤型接着剤の場合、主剤および硬化剤の少なくとも一方が、添加剤を含んでもよい。
【0047】
添加剤としては、例えば、フィラー(充填材)、硬化促進剤、光安定剤、光吸収剤、酸化防止剤、劣化防止剤、顔料、染料、シランカップリング剤、消泡剤、レベリング剤、分散剤、レオロジーコントロール剤、ワックス、溶剤、水等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。この中でも、フィラーやレオロジーコントロール剤等が用いられてもよい。
【0048】
フィラーは、有機フィラーおよび無機フィラーが挙げられる。
有機フィラーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル系粒子、ポリスチレン系粒子等の樹脂粒子が挙げられる。
無機フィラーとしては、例えば、フュームドシリカ、炭酸カルシウム、タルク、クレー、金属酸化物、金属水酸化物、シリカ等が挙げられる。この中でも、透明性の観点からシリカ、フュームドシリカからなる群の1種以上が好ましく、フュームドシリカがより好ましい。フュームドシリカの中では、親水性フュームドシリカがより好ましい。
【0049】
フィラーのBET比表面積は、例えば、80g/m2以上400g/m2以下、より好ましくは100g/m2以上300g/m2以下である。このような数値範囲内とすることで、繊維接着剤の透明性を保ちながら粘度を適切な範囲に調整でき、繊維接着剤の液だれを抑制できる。BET比表面積は、例えば、JIS K6217-2に従い、BET法により測定できる。
フィラーの一次粒子径は、例えば、1nm以上50nm以下、より好ましくは5nm以上200nm以下である。このような数値範囲内とすることで、繊維接着剤の透明性を保ちながら粘度を適切な範囲に調整でき、繊維接着剤の液だれを抑制できる。一次粒子径は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)の5万倍画像より、100個のフィラーの一次粒子径を測り、その平均値を算出することにより測定できる。
【0050】
フィラーの含有量の下限は、繊維接着剤の固形分100質量%に対して、例えば、0.1質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上である。これにより、増粘による液だれ抑制を向上できる。
フィラーの含有量の上限は、繊維接着剤の固形分100質量%に対して、例えば、10.0質量%以下、好ましくは8.0質量%以下、より好ましくは6.0質量%以下である。これにより、繊維接着剤の透明性を向上できる。
なお、繊維接着剤の固形分とは、繊維接着剤における不揮発分を指し、水や溶媒等の揮発成分を除いた残部を指す。
【0051】
レオロジーコントロール剤は、液だれを抑制し、接着剤の作業性を向上できる。
レオロジーコントロール剤としては、例えば、アマイドが好ましい。アマイドとしては、例えば、高級脂肪酸アマイド、ポリアマイド、アマイドのオリゴマー等が挙げられる。
【0052】
レオロジーコントロール剤の含有量の下限は、繊維接着剤の固形分100質量%に対して、例えば、0.1質量%以上、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上である。これにより、増粘による液だれ抑制を向上できる。
レオロジーコントロール剤の上限は、繊維接着剤の固形分100質量%に対して、例えば、好ましくは10.0質量%以下、さらに好ましくは7.0質量%以下、より好ましくは4.0質量%以下である。これにより、繊維接着剤の引張特性を向上できる。
【0053】
繊維接着剤における可使時間の下限は、例えば、好ましくは10分以上、さらに好ましくは20分以上、より好ましくは30分以上である。これにより、施工性や繊維シートへの含浸性を向上できる。
繊維接着剤における可使時間の上限は、例えば、好ましくは可使時間が、300分以下である。
繊維接着剤における可使時間の上限は、実用上使用可能な範囲内であれば、特に限定されない。
繊維接着剤における可使時間は、JIS K 6870の発熱法に準拠して測定できる。繊維接着剤が、二剤型接着剤の場合、主剤および硬化剤を混合した直後から5分以内の混合物を測定対象とする。
【0054】
コーンプレート型回転式粘度計を用いて、23℃、2rpmで測定したときの繊維接着剤の粘度(mPa・s)をV2とし、20rpmで測定したときの繊維接着剤の粘度(mPa・s)をV20とする。繊維接着剤が、二剤型接着剤の場合、主剤および硬化剤を混合した直後から10分以内の混合物を測定対象とする。
V2の下限は、例えば、2,000mPa・s以上、好ましくは5,000mPa・s以上、より好ましくは10,000mPa・s以上である。これにより、液ダレ防止性を向上できる。
V2の上限は、例えば、100,000mPa・s以下、好ましくは90,000mPa・s以下、より好ましくは80,000mPa・s以下である。これにより、繊維シートへの繊維接着剤の含浸性を向上できる。
【0055】
また、繊維接着剤のチクソトロピックインデックスをV2/V20とする。
V2/V20の下限は、例えば、2.0以上、好ましくは2.5以上、より好ましくは3.0以上である。これにより、液ダレ防止性と繊維シートへの含浸性のバランスを図ることができる。
V2/V20の上限は、例えば、8.0以下、好ましくは7.5以下、より好ましくは7.0以下である。これにより、塗膜表面のレベリング性を向上できる。
【0056】
繊維接着剤の、波長380~780nmにおける可視光線透過率は、例えば、30%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上である。これにより、剥落防止シートの硬化体における透明性を向上できる。
可視光線透過率の測定方法は、以下の通りである。
まず、繊維接着剤を、PETシート上に0.6kg/m2で塗布し、23℃、相対湿度50%で7日間養生し、得られた硬化体からPETシートを剥離して、測定サンプルを得る。得られた測定サンプルについて、分光光度計を用いて、JIS A 5759の可視光線透過率試験に準拠して、法線(90°)方向から、波長380~780nmの範囲の分光透過率を測定し、JIS A 5759に規定される「可視光線透過率を計算するための重価係数」を用いて、波長毎に重価係数をかけて加重平均して、可視光線透過率(%)を算出する。なお、二剤型接着剤の場合、主剤および硬化剤を混合した混合物を、上記の繊維接着剤として使用する。また、可視光線透過率の測定方法は、剥落防止シートの硬化体を対象としてもよい。
【0057】
シート形成材料セットは、繊維シートおよび繊維接着剤を内部に収容する第一梱包部材を備えてもよいが、繊維シートを含む第二梱包部材Aと繊維接着剤を含む第二梱包部材Bとの複数の梱包部材を備えてもよい。梱包部材には、袋、箱、ボトル等の公知のものが使用できる。
【0058】
繊維接着剤が二剤型の繊維接着剤の場合、主剤(第一剤)と硬化剤(第二剤)とを、それぞれ別々に梱包されてもよい。例えば、シート形成材料セットは、第一剤を含む第二梱包部材B1と、第二剤を含む第二梱包部材B2とを備えてもよい。
別の態様として、シート形成材料セットは、繊維シートおよび繊維接着剤以外の上記の添加剤の一部又は全部を収容する別の第三梱包部材を備えてもよいが、一剤型の繊維接着剤中に配合した状態で含んでもよく、二剤型の繊維接着剤の第一剤および/または第二剤に配合した状態で含んでもよい。
さらに別の態様として、シート形成材料セットは、施工に必要な各種施工剤の一部または全部を収容する別の第四梱包部材をさらに備えてもよい。施工剤としては、例えば、後述のプライマー、後述の改質剤、後述の上塗り塗料等が挙げられる。
なお、上記のシート形成材料セットに含まれる各梱包部材は、同一に配送されてもよいが、別々に配送されてもよい。
【0059】
別の形態として、本実施形態のシート形成材料セットは、使用書に記載の工法に基づいて構造物表面に配置される剥落防止シートの形成に用いられるものであり、繊維シートと、繊維接着剤と、繊維接着剤の種類と塗布量を記述した使用書と、を含んでもよい。
【0060】
使用書には、繊維接着剤の種類と塗布量等の施工条件がされている。この使用書には、プライマーの使用の有無や、使用する場合のプライマーの種類や塗布量が記述されていてもよい。
使用書は、シート形成材料セットに内包されるものであっても、所定機関に提出されたものであってもよく、その形式は紙、電子を問わない。
シート形成材料セットの使用者は、この使用書に記載の手順にしたがって、シート形成材料セット内の繊維シートと繊維接着剤とを用いて、構造物の表面に繊維接着剤含有繊維シート(具体的な一例として、剥落防止シート)を配置し、必要に応じて硬化処理して、施工を行う。
【0061】
使用書を含むシート形成材料セットの場合、上記押し抜き試験および上記画像二値化処理のサンプル作製は、使用書に記載の条件に従って行われてもよい。例えば、上記押し抜き試験では、プライマー組成物の種類と塗布量と、繊維接着剤の種類と塗布量と、を使用書に記載の条件を採用してもよい。また、上記画像二値化処理では、繊維接着剤の種類と塗布量と、を使用書に記載の条件を採用してもよい。
このように使用書を含むシート形成材料セットの一例は、使用書に記載の条件に従って作製されたサンプルが、押し抜き試験の手順で測定されるサンプルの変位が5mm以上における最大荷重が1.6kN以上、および画像二値化処理の手順に従って測定されるサンプルの非透過面積が40.0%以下を満たす繊維シートと繊維接着剤との組み合わせを、が含む。
【0062】
次に、本実施形態の剥落防止施工方法について説明する。
【0063】
本実施形態の剥落防止施工方法の一例は、シート形成材料セットを用いて繊維シートに繊維接着剤を含浸させてなる繊維接着剤含有繊維シート(具体的な一例として、剥落防止シート)を、コンクリート構造物等の構造物の表面上に配置した状態とする配置工程と、硬化処理することにより、剥落防止シートの硬化体を構造物の表面上に固定する、固定工程と、を含む。
【0064】
配置工程において、繊維接着剤を繊維シートに含浸させる順番や方法は、任意である。つまり、構造物の表面上に繊維接着剤を塗布し、この塗膜中に繊維シートを含浸させてもよく、構造物の表面上に置いた繊維シートに繊維接着剤を塗布等により含浸させてもよく、繊維接着剤中に繊維シートを含浸させた剥落防止シートを予め準備し、この剥落防止シートを構造物の表面上に配置してもよい。
【0065】
固定工程は、繊維接着剤の硬化メカニズムに応じて、適当な方法にて硬化処理を行う。
硬化処理の一例として、硬化剤混合、加熱硬化、溶剤揮散、湿気硬化、嫌気硬化、あるいは紫外線硬化等が用いられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
具体例の一つとして、繊維接着剤が、二剤型のエポキシ系接着剤の場合、主剤および硬化剤を混合し、所定の温度・湿度条件下で所定期間、養生することにより、硬化処理を行うことができる。
【0066】
剥落防止シートの硬化体の厚みの下限は、例えば、0.10mm以上であってよく、好ましくは0.2mm以上、より好ましくは0.3mm以上である。これにより、剥落防止性を一層向上できる。
剥落防止シートの硬化体の厚みの上限は、例えば2.0mm以下であってよく、好ましくは1.5mm以下、より好ましくは1.0mm以下である。これにより、下地視認性を一層向上できる。
【0067】
また、構造物の表面は、上記配置工程を行う前に、プライマー処理されてもよい。これにより、剥落防止シートと構造物の表面との接着性を向上できる。
【0068】
プライマー処理とは、一般的に表面処理に使用されるプライマーを用いて、構造物の表面に、かかるプライマーを塗布し、プライマー層を形成する処理を言う。
プライマーとしては、例えば、エポキシ系プライマー、ウレタン系プライマー、(メタ)アクリル系プライマー等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。この中でも、構造物の表面への接着性に優れる観点から、エポキシ系プライマーと(メタ)アクリル系プライマーからなる群の1種以上が好ましく、エポキシ系プライマーがより好ましい。
【0069】
プライマーの形態は特に限定されないが、一剤型プライマーでもよく、二剤型プライマーでもよい。取扱性の観点から、二剤型プライマーが好ましい。
二剤型プライマーの一例としては、主剤と硬化剤とを含んでもよい。二剤型プライマーがエポキシ系プライマーの場合、プライマー主剤は、エポキシ化合物を含む。二剤型プライマーがエポキシ系プライマーの場合、プライマー硬化剤は、エポキシ化合物を硬化させる成分を含むものであれば限定されないが、一例として、アミン化合物を含む。
【0070】
プライマーの塗布量の下限は、例えば、50g/m2以上、好ましくは80g/m2以上、より好ましくは120g/m2以上である。これにより、シートの構造物への接着性を向上できる。
プライマーの塗布量の上限は、例えば、600g/m2以下、好ましくは400g/m2以下、より好ましくは300g/m2以下である。これにより、火災時の有害性ガスの発生抑制を向上できる。
【0071】
下塗り工程は、構造物の表面を改質する改質処理を施してもよい。
改質処理の一例としては、構造物の表面に、含浸補強剤、断面修復剤、および不陸調整剤からなる群から選ばれる一つの改質剤を含む改質剤層を一は二以上層形成することが好ましい。改質剤層は、例えば、プライマー層と剥落防止シートとの間の位置に形成されてもよく、また構造物とプライマー層との間に形成されてもよい。
【0072】
剥落防止施工方法は、固定工程の後に、剥落防止シートの硬化体の表面に保護層を形成する上塗り工程を実施してもよい。
保護層の形成にはとしては、一般的な保護塗料やトップコート塗料等の上塗り塗料が用いられる。トップコート塗料の一例として、フッ素系塗料等が挙げられる。
【0073】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0074】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0075】
表1に示す原料は以下の通り。
<繊維シート>
・繊維シート:表1に示す特性を備えるものを使用した。
透気度は、JIS L 1096 A法(フラジール形法)に準拠して測定した。
【0076】
開口率は、次のようにして測定した。
繊維シートの表面について、マイクロスコープ(キーエンス社製 VHX-7000、リング照射)を用いて、20mm×20mmの画像を撮影し、その画像を256階調の輝度値の情報を有する二次元グレースケール画像に変換し、輝度値が80以下の領域を黒画像として識別する白黒二値化処理し、当該黒画像の面積割合(%)を上記の開口率とした。
【0077】
<繊維接着剤>
・主剤(第一剤)
E1:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(アデカレジンEP4100、ADEKA社製、エポキシ当量:190g/ep、25℃粘度:13,000mPa・s)
E2:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(アデカレジンEP4000、ADEKA社製、エポキシ当量:320g/ep、25℃粘度:4,500mPa・s)
E3:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(アデカレジンEP4005、ADEKA社製、エポキシ当量:510g/ep、25℃粘度:800mPa・s)
フィラー:親水性フュームドシリカ(AEROSIL 200、エボニック社製、一次粒子径:12nm、BET比表面積:200g/m2、疎水化度0%)
・硬化剤(第二剤)
N1:ポリアミドアミン(トーマイド245S、T&K TOKA社製、活性水素当量:80g/ep、1級アミン基を有するアミン化合物および2級アミン基を有するアミン化合物の混合物)
N2:ポリアミドアミン(トーマイド235A、T&K TOKA社製、活性水素当量:95g/ep、1級アミン基を有するアミン化合物および2級アミン基を有するアミン化合物の混合物)
N3:変性脂環式ポリアミン(フジキュアー8116、T&K TOKA社製、活性水素当量:72g/ep)
添加剤:レオロジーコントロール剤(BYK R607、ビックケミー社製、ポリアミノアマイド)
【0078】
上記の主剤および硬化剤を用いて、72.2質量部のE1、12.8質量部のE2、15質量部のE3、3質量部のフィラー、39質量部のN1、および1.5質量部の添加剤を混合して、配合1の繊維接着剤を得た。
また、上記の主剤および硬化剤を用いて、30質量部のE1、70質量部のE2、3質量部のフィラー、35質量部のN2、および1.5質量部の添加剤を混合して、配合2の繊維接着剤を得た。
また、上記の主剤および硬化剤を用いて、15質量部のE1、85質量部のE2、3質量部のフィラー、25質量部のN3、および1.5質量部の添加剤を混合して、配合3の繊維接着剤を得た。
【0079】
得られた直後から5分以内の繊維接着剤について、JIS K 6870の方法5 発熱反応温度による求め方に準拠し、繊維接着剤の各成分を23±1℃に保持し、規定する混合比ではかり取り、試験の開始を記録し、60±2秒間混合後、200mLのディスポカップに100gをはかり取り、熱電対をバッチの中央に浸し、温度測定を実施し、最高温度に達した時の経過時間の半分を可使時間(min)とした。
得られた直後から10分以内の繊維接着剤について、コーンプレート型回転式粘度計(東機産業社製 TPE-100形)を用いた。23℃、2rpmで測定したときの粘度V2(mPa・s)、23℃、20rpmで測定したときの粘度のV20(mPa・s)を測定した。
・配合1の繊維接着剤は、V2が56.200mPa・s、V20が15.100mPa・s、V2/V20が3.7、可使時間が70分であった。
・配合2の繊維接着剤は、V2が67.500mPa・s、V20が18.200mPa・s、V2/V20が3.7、可使時間が90分であった。
・配合3の繊維接着剤は、V2が35.000mPa・s、V20が6.200mPa・s、V2/V20が5.6、可使時間が90分であった。
【0080】
<プライマー>
・PE1:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(アデカレジンEP4100、ADEKA社製、エポキシ当量:190g/ep、25℃粘度:13,000mPa・s)
・PE2:オルソクレジルグリシジルエーテル(SY-OCG、坂本薬品工業社製、エポキシ当量:180g/ep、25℃粘度:8mPa・s)
・PN1:変性脂環式ポリアミン(フジキュアー8116、T&K TOKA社製、活性水素当量:72g/ep)
【0081】
【0082】
なお、表1中、実施例3~4のEガラスは4軸の織物、実施例5のEガラスは4軸の組布(登録商標)を表す。繊維束の繊度がタテ糸とヨコ糸で異なる場合2つ表記した。
表1中、「FRP透過率」の-は未測定を示す。「施工性」の-は、繊維接着剤が含浸せず、測定不可であることを示す。
【0083】
<押し抜き試験>
JSCE K 533に準拠して、
図2に示す試験装置を用いて押し抜き試験を行い、試験用基板10の表面に形成されたサンプル20について、変位(mm)および荷重(kN)を測定した。
なお、
図2(a)は試験装置の断面図、
図2(b)は試験装置の斜視図を示す。
【0084】
具体的な押し抜き試験の手順は以下の通りとした。
JSCE K 533の試験体の作成に準拠して、水/セメント比44%、砂/セメント比2.7のコンクリートを、内のり寸法が縦:400mm×横:600mm×厚み:60mmの金属製型枠に入れ、温度20±2℃、相対湿度80%以上の状態で24時間養生したのち脱型し、その後6日間温度20±2℃で水中養生した。水中養生終了後、温度23±2℃、相対湿度50±5%で7日間以上養生し、JIS A 5372 付属書E(1種、300)に規定する上ぶた式U形側溝(不図示)の上ぶた形状のコンクリート板(多孔質体)を作製した。
続いて、得られたコンクリート板について、表面から5mmの位置に到達するまで裏面側から研削加工して、直径:100mmφ×厚み:55mm±3mmの円筒状の押し抜き圧子30を試験用基板10に形成した。
続いて、試験用基板10の表面(施工面)を、ディスクサンダーを用いてケレンした後、脱脂を施した。
続いて、試験用基板10の表面に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とオルソクレジルグリシジルエーテルと変性脂環式ポリアミンとを60質量部:40質量部:39.6質量部で混合して得られたプライマー組成物を、ローラーを用いて塗布量0.15[kg/m2]で塗布し、23±2℃、相対湿度50±20%で、1日間養生して、乾燥した状態のプライマー層を形成した。
プライマー層の上に、上記で得られた配合1の繊維接着剤を、ゴムベラにより塗布量0.6[kg/m2]で塗布し、この塗膜に対して繊維シートを直ちに貼り付けた。貼り付け後、繊維シート中に繊維接着剤が含浸するように、脱泡ローラーを用いて繊維シートを塗膜の内側に押し入れた。そして、繊維シートの表面に存在する状態となった繊維接着剤の塗膜の表面をゴムべらで均して、剥落防止シートを形成した。
この剥落防止シートを、23±2℃、相対湿度50±20%、7日間養生(静置)して、プライマー層上に剥落防止シートの硬化体が形成されたサンプル20を得た。
続いて、JSCE K 533に準拠して、室温23℃下、試験用基板10と押し抜き圧子30との接合部を破壊するまで1mm/minで載荷し、その後、5mm/minで押し抜き圧子30をサンプル20側に向かって載荷した。このとき、荷重および変位量を経時的に測定した。サンプル20が破断したとき、又はサンプル20の剥離が試験用基板10の端面まで到達した際に載荷を終了した。
接合部の破壊以降から載荷終了までの荷重の最大値を最大荷重(kN)とし、最大荷重時の変位量を最大変位(mm)とした。
なお、荷重および変位量は、0.05kN毎に記録し、変位量が10mm毎に載荷を一次中断し、剥離範囲をサンプル20にマーキングするとともに荷重を記録した。
なお、上記で得られた配合2または配合3の繊維接着剤を使用した場合でも、各実施例・各比較例において、配合1の時の値と同様に、「サンプルの変位が5mm以上における最大荷重が1.6kN以上」の結果を示した。
【0085】
<画像二値化処理>
室温23℃、相対湿度50%下、PETシートの表面上に、上記で得られた配合1の繊維接着剤を塗布量0.6kg/m2で塗布し、繊維接着剤の塗膜に繊維シートを配置した後、脱泡ローラーを用いて繊維シート中に繊維接着剤を含浸させ、ゴムベラで繊維シートの表面を均した後、23±2℃、相対湿度50±20%、7日間養生(静置)した後、PETシートを剥がして、サンプルを得た。
サンプルの表面について、マイクロスコープ(キーエンス社製 VHX-7000、リング照射、シャッタースピード:オート、ゲイン:0.0dB)を用いて、20mm×20mmの画像を撮影し、その画像を256階調の輝度値の情報を有する二次元グレースケール画像に変換し、輝度値が115以上の領域を白画像として識別する白黒二値化処理を行い、当該白画像の面積割合(%)を上記の非透過面積とした。
なお、上記で得られた配合2または配合3の繊維接着剤を使用した場合でも、各実施例・各比較例において、配合1の時と同程度の非透過面積の値を示した。
【0086】
<可視光線透過率>
PETシート上に、上記<押し抜き試験>で得られた繊維接着剤を、ゴムベラを用いて塗布量0.6[kg/m2]で塗布し、この塗膜に対してガラス繊維シートを直ちに貼り付けた。貼り付け後、ガラス繊維シート中に繊維接着剤が含浸させるように、ローラーを用いてガラス繊維シートを塗膜の内側に押し入れた。そして、ガラス繊維シートの表面に存在する状態となった繊維接着剤の塗膜の表面をゴムべらで均して、剥落防止シートを形成した。
この剥落防止シートを、23±2℃、相対湿度50±20%、7日間養生(静置)して、剥落防止シートの硬化体を形成した。
その後、PETシートを剥離して、厚さ0.6mmの剥落防止シートの硬化体を得た。
得られた剥落防止シートの硬化体について、島津製作所社製UV-VIS-NIR分光光度計SolidSpec-3700iを用いて、JIS A 5759の可視光線透過率試験に準拠して、測定対象のシート硬化体の表面に対して法線(90°)方向から、波長380~780nmの範囲の分光透過率を測定し、JIS A 5759に規定される「可視光線透過率を計算するための重価係数」を用いて、波長毎に重価係数をかけて加重平均し、可視光線透過率(%)を算出した。算出した可視光線透過率を表1に示す。
【0087】
<下地視認性>
JISR 5201に準拠して、縦:70mm×横:150mm×厚み:10mmのモルタル供試体を作製した。得られたモルタル供試体の表面に、幅0.2mmおよび0.5mmのクラックを模したクラックスケールを貼り付けた。
かかるモルタル供試体の表面に、上記<押し抜き試験>で得られたプライマーを、ローラーを用いて塗布量0.15[kg/m2]で塗布し、23±2℃、相対湿度50±20%の条件下で、1日間養生して、乾燥した状態のプライマー層を形成した。
プライマー層の上に、上記<押し抜き試験>で得られた繊維接着剤を、ゴムベラにより塗布量0.6[kg/m2]で塗布し、この塗膜に対してガラス繊維シートを直ちに貼り付けた。貼り付け後、ガラス繊維シート中に繊維接着剤が含浸するように、ローラーを用いてガラス繊維シートを塗膜の内側に押し入れた。そして、ガラス繊維シートの表面に存在する状態となった繊維接着剤の塗膜の表面をゴムべらで均して、剥落防止シートを形成した。
この剥落防止シートを、23±2℃、相対湿度50±20%、7日間養生(静置)して、プライマー層上に剥落防止シートの硬化体が形成された評価サンプルを得た。
得られた評価サンプルについて、目視にてクラックスケールのヒビ(0.2mm、0.5mm)が視認可能かを評価した。
下地視認性について、現場点検経験を有する試験者が、目視にて現場でヒビと判断できない場合を良好と判断し、ヒビと判断できる場合を不良と判断した。
【0088】
<施工性>
上記<押し抜き試験>において、ガラス繊維シート中に繊維接着剤を含浸させた際の施工性について、評価した。
「含浸時のローラーによる塗布作業で、繊維束のヨレが5mm以上発生したこと」および「ガラス繊維シートを貼り付け後、ローラーでガラス繊維シートを塗膜の内側に押し入れた際、3秒以内に樹脂が表面に浮き上がらなかったこと」の、両方に該当しない場合を施工性が良好と判断し、いずれか一方に該当する場合を可と判断し、両方に該当する場合を不良と判断した。
【0089】
実施例1~6の各剥落防止シートは、比較例1~3と比べて、下地に生じたひび割れの視認性が良好である結果を示すことから、下地視認性に優れることが判明した。
また、実施例1~6の各剥落防止シートは、比較例3と比べて、施工性にも優れる結果を示した。
このような実施例の剥落防止シートを使用した剥落防止施工方法を施すことにより、施工後における構造物(とくにコンクリート構造物)の表面状態について視認による定期的な観察や点検が容易となる。