(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094702
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】偏心揺動型歯車装置及び軸体の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20240703BHJP
F16D 1/02 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
F16H1/32 A
F16D1/02 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211418
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】光藤 栄
(72)【発明者】
【氏名】鶴身 洋
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027FA20
3J027GB04
3J027GC03
3J027GC24
3J027GC26
3J027GD04
3J027GD08
3J027GD12
3J027GE21
(57)【要約】
【課題】クランク軸にスプライン部を設けるうえで、スプライン加工時の加工性とスプライン部の寸法精度の両立を図ることのできる技術を提供する。
【解決手段】揺動歯車を揺動させる偏心部18aを有するクランク軸18と、クランク軸18と別体かつ一体化され、スプライン部40aが形成されたスプライン軸40とを備え、スプライン部40aは、少なくとも偏心部18aの外周面よりも表面硬度が小さい偏心揺動型歯車装置である。クランク軸18には、少なくとも偏心部18aの外周面に表面硬化層70が設けられ、スプライン軸40には、少なくともスプライン部40aに表面硬化層が設けられなくともよい。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
揺動歯車を揺動させる偏心部を有するクランク軸と、
前記クランク軸と別体かつ一体化され、スプライン部が形成されたスプライン軸とを備え、
前記スプライン部は、少なくとも前記偏心部の外周面よりも表面硬度が小さい偏心揺動型歯車装置。
【請求項2】
前記クランク軸には、少なくとも前記偏心部の外周面に表面硬化層が設けられ、
前記スプライン軸には、少なくとも前記スプライン部に表面硬化層が設けられない請求項1に記載の偏心揺動型歯車装置。
【請求項3】
前記クランク軸は、シール部材が配置される配置面と、前記配置面よりも軸方向外側に設けられる軸方向端面部と、を備え、
前記クランク軸の外周部には、前記軸方向端面部の外周縁部から前記配置面までの間に、前記配置面よりも外径が小さく前記軸方向端面部に向かって連続する小外径部が設けられない請求項1に記載の偏心揺動型歯車装置。
【請求項4】
前記スプライン軸は、前記クランク軸に締り嵌めにより一体化される被固定部を備える請求項1に記載の偏心揺動型歯車装置。
【請求項5】
前記クランク軸は、前記スプライン軸が固定される固定孔を備え、
前記固定孔は、前記クランク軸を軸方向に貫通する貫通孔の一部となる請求項1に記載の偏心揺動型歯車装置。
【請求項6】
前記スプライン部にスプライン結合される内スプライン部を有するカップリングを備え、
前記内スプライン部の一部は、前記スプライン部よりも前記クランク軸とは軸方向反対側に延びている請求項1に記載の偏心揺動型歯車装置。
【請求項7】
前記スプライン軸は、前記クランク軸に締り嵌めにより一体化される被固定部を備え、
前記スプライン部は、前記スプライン軸の外側端面部から間隔を空けて設けられる請求項1に記載の偏心揺動型歯車装置。
【請求項8】
揺動歯車を揺動させる偏心部を有するクランク軸と、
前記クランク軸と別体かつ一体化され、スプライン部が形成されたスプライン軸とを備える軸体の製造方法であって、
前記クランク軸における少なくとも前記偏心部の外周面に第1表面硬化処理をする表面処理工程と、
スプライン軸素材にスプライン部を形成することで前記スプライン軸を得るスプライン加工工程と、を含み、
前記スプライン加工工程では、少なくとも前記スプライン部となるべき箇所の表面硬度が、前記第1表面硬化処理により得られる前記偏心部の外周面の表面硬度よりも小さい前記スプライン軸素材にスプライン部を形成し、
前記スプライン加工工程により得られる前記スプライン軸には、前記第1表面硬化処理よりも熱歪みの小さい第2表面硬化処理をする、又は、表面硬化処理をしない軸体の製造方法。
【請求項9】
前記スプライン加工工程では、表面硬化処理をされていない前記スプライン軸素材にスプライン部を形成する請求項8に記載の軸体の製造方法。
【請求項10】
前記スプライン軸素材又は前記スプライン軸を前記クランク軸に固定する固定工程を含み、
前記固定工程では、前記表面処理工程後の前記クランク軸の固定孔に前記スプライン軸素材又は前記スプライン軸を押し込む請求項8に記載の軸体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、偏心揺動型歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、クランク軸を備える偏心揺動型歯車装置を開示している。このクランク軸は、揺動歯車を揺動させる偏心部を有する。特許文献1のクランク軸には、他部材とスプライン結合するためのスプライン部が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者は、特許文献1の開示技術について検討した結果、以下の課題を認識するに至った。クランク軸には、通常、偏心部の表面硬度を確保するために、クランク軸の外面部の全域に焼入れ処理等の表面硬化処理がなされる。これに起因して、特許文献1のようにクランク軸そのものにスプライン部を形成した場合、スプライン加工時の加工性とスプライン部の寸法精度がトレードオフの関係となり、その両立が困難となっていた。
【0005】
本開示の目的の1つは、クランク軸にスプライン部を設けるうえで、スプライン加工時の加工性とスプライン部の寸法精度の両立を図ることのできる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の偏心揺動型歯車装置は、揺動歯車を揺動させる偏心部を有するクランク軸と、前記クランク軸と別体かつ一体化され、スプライン部が形成されたスプライン軸とを備え、前記スプライン部は、少なくとも前記偏心部の外周面よりも表面硬度が小さい偏心揺動型歯車装置である。
【0007】
本開示の軸体の製造方法は、揺動歯車を揺動させる偏心部を有するクランク軸と、前記クランク軸と別体かつ一体化され、スプライン部が形成されたスプライン軸とを備える軸体の製造方法であって、前記クランク軸における少なくとも前記偏心部の外周面に第1表面硬化処理をする表面処理工程と、スプライン軸素材にスプライン部を形成することで前記スプライン軸を得るスプライン加工工程と、を含み、前記スプライン加工工程では、少なくとも前記スプライン部となるべき箇所の表面硬度が、前記第1表面硬化処理により得られる前記偏心部の外周面の表面硬度よりも小さい前記スプライン軸素材にスプライン部を形成し、前記スプライン加工工程により得られる前記スプライン軸には、前記第1表面硬化処理よりも熱歪みの小さい第2表面硬化処理をする、又は、表面硬化処理をしない軸体の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、クランク軸にスプライン部を設けるうえで、スプライン加工時の加工性とスプライン部の寸法精度の両立を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態の歯車装置を周辺構造とともに示す側面断面図である。
【
図2】実施形態のクランク軸とスプライン軸を示す側面断面図である。
【
図3】実施形態のクランク軸とスプライン軸を示す他の側面断面図である。
【
図4】実施形態の軸体の製造方法を示すフローチャートである。
【
図5】実施形態のスプライン加工工程の説明図である。
【
図6】第1変形形態の軸体の製造方法を示すフローチャートである。
【
図7】第2変形形態の軸体の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の歯車装置を実施するための実施形態を説明する。同一又は同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面では、説明の便宜のため、適宜、構成要素を省略、拡大、縮小する。図面は符号の向きに合わせて見るものとする。
【0011】
まず、本実施形態の偏心揺動型歯車装置を想到するに至った背景から説明する。前述の通り、クランク軸には、通常、偏心部(特に、偏心部の外周面)の表面硬度を確保するため、クランク軸の外面部の全域に表面硬化処理がなされる。これに起因して、クランク軸そのものにスプライン部を形成した場合、次に説明するように、スプライン加工時の加工性とスプライン部の寸法精度とがトレードオフの関係となり、その両立が困難となる。
【0012】
まず、表面硬化処理後にクランク軸そのものにスプライン加工をする場合を考える。この場合、クランク軸において、表面硬化処理により高硬度化した偏心部と同じ表面硬度の箇所にスプライン部を形成する必要があり、加工性の低下を招く。また、表面硬化処理前にクランク軸そのものにスプライン加工をする場合を考える。この場合、クランク軸の偏心部になされる表面硬化処理の影響をクランク軸そのものに形成したスプライン部が受けてしまい、その表面硬化処理の熱歪みに起因してスプライン部の寸法精度の低下を招く。
【0013】
本願発明者は、クランク軸にスプライン部を設けつつ、スプライン加工時の加工性とスプライン部の寸法精度の両立を図るためのアイデアを検討した。この結果、クランク軸そのものにスプライン部を形成するのではなく、クランク軸と別体かつ一体化されるスプライン軸にスプライン部を形成し、偏心部よりもスプライン部の表面硬度を小さくすることが有効であるとの着想を得た。
【0014】
このようにクランク軸と別体のスプライン軸にスプライン部を形成することにより、クランク軸の偏心部になされる表面硬化処理の影響を、スプライン軸又はスプライン軸素材(後述する)が受けずに済む。これにより、クランク軸の偏心部と同じ表面硬化処理をスプライン部にする場合と比べ、表面硬化処理の熱歪みに起因するスプライン部の寸法精度の低下を抑制できる。これは、例えば、スプライン加工により得られたスプライン軸に、クランク軸の偏心部にされた第1表面硬化処理よりも熱歪みの小さい第2表面硬化処理をするか、表面硬化処理をしないことで実現できる。
【0015】
また、偏心部よりもスプライン部の表面硬度が小さいため、スプライン加工に供されるスプライン軸素材においてスプライン部となるべき箇所の表面硬度も、偏心部の表面硬度よりも低くなる。よって、偏心部と同じ表面硬度の箇所にスプライン部を形成する場合と比べ、その偏心部よりも表面硬度の低い箇所にスプライン部を形成することで、スプライン加工時の加工性を良好にできる。ひいては、クランク軸にスプライン部を設けるうえで、スプライン加工時の加工性とスプライン部の寸法精度の両立を図ることができるようになる。なお、スプライン軸素材の表面硬度は、スプライン加工により得られたスプライン軸に第2表面硬化処理をする場合は、そのスプライン軸の表面硬度よりも低くなり、そのスプライン軸に表面硬化処理をしない場合は、そのスプライン軸の表面硬度と同じとなる。
【0016】
このようなスプライン加工時の加工性とスプライン部の寸法精度の両立を図るという課題を解決するうえで、クランク軸の外面部の全域に表面硬化層が設けられている必要はない。この課題を解決するうえでは、クランク軸の少なくとも偏心部の外周面に表面硬化層を設け、その偏心部の表面硬化層よりもスプライン軸のスプライン部における表面硬度が小さければよい。この場合でも、クランク軸の偏心部になされる表面硬化処理の影響をスプライン軸又はスプライン軸素材が受けずに済み、表面硬化処理の熱歪みに起因するスプライン部の寸法精度の低下を抑制できる。これと併せて、スプライン軸素材においてスプライン部となるべき箇所の表面硬度を、偏心部の表面硬度よりも低くすることができ、スプライン加工時の加工性を良好にできる。
【0017】
以下、このような背景のもとでなされた偏心揺動型歯車装置の詳細を説明する。
図1を参照する。偏心揺動型歯車装置10(以下、単に歯車装置10ともいう)は、被駆動機械の一部として被駆動機械に組み込まれる。被駆動機械は、例えば、産業機械(工作機械、建設機械等)、ロボット(産業用ロボット、サービスロボット等)、輸送機器(コンベア、車両等)等の各種機械である。
【0018】
歯車装置10は、被駆動機械の一部となる被駆動部材(不図示)に動力を出力するアクチュエータ12の一部となる。アクチュエータ12は、出力軸14から動力を出力する駆動装置(不図示)と、出力軸14から入力された動力を変速(本実施形態では減速)して出力する歯車装置10とを備える。駆動装置は、例えば、モータであるが、この他にもギヤモータ、エンジン等でもよい。
【0019】
歯車装置10は、少なくとも一つの偏心部18aを有するクランク軸18と、偏心部18aにより揺動される揺動歯車20と、揺動歯車20と噛み合う噛合歯車22と、偏心部18aと揺動歯車20との間に配置されるクランク軸受24と、揺動歯車20の径方向外側に配置されるケーシング26と、揺動歯車20に対して軸方向側方に配置されるキャリヤ28A、28Bと、を備える。歯車装置10は、駆動装置の出力軸14から動力として入力回転が入力される入力部材30と、入力回転よりも変速された出力回転を被駆動部材に出力する出力部材32と、を備える。ここでは入力部材30がクランク軸18、出力部材32が反入力側キャリヤ28B(後述する)である例を説明する。以下、説明の便宜から、クランク軸18の軸方向一方側(
図1の紙面右側)を入力側、軸方向他方側(
図1の紙面左側)を反入力側という。
【0020】
本実施形態のクランク軸18は三つの偏心部18aを備える。偏心部18aの個数は特に限定されず、単数、二つ及び四つ以上のいずれでもよい。偏心部18aは、その軸心C18aを中心とする円形状を呈する。偏心部18aの軸心C18aは、クランク軸18の回転中心C18に対して偏心している。複数の偏心部18aの偏心位相は、偏心部18aの個数をM個(本実施形態では3個)とするとき、360°/Mの分だけずれている。クランク軸18は後述する。
【0021】
揺動歯車20は外歯歯車であり、噛合歯車22は内歯歯車である。揺動歯車20は、複数の偏心部18aのそれぞれに対応して個別に設けられ、個別のクランク軸受24を介してクランク軸18に相対回転自在に支持される。本実施形態の噛合歯車22は、ケーシング26と一体化される噛合歯車本体22aと、噛合歯車本体22aの内周部に設けられる内歯部22bとを備える。本実施形態の内歯部22bは噛合歯車本体22aに回転自在に支持される外ピンによって構成されるが、噛合歯車本体22aと一体化されてもよい。
【0022】
クランク軸受24は、複数の転動体24aと、複数の転動体24aの相対位置を保持するリテーナ24bとを備える。本実施形態の転動体24aはころであるが、球体等の各種転動体でもよい。クランク軸受24の内輪は偏心部18aが兼ねており、その偏心部18aの外周面を転動面として転動体24aが転動する。
【0023】
本実施形態のキャリヤ28A、28Bは、揺動歯車20に対して入力側に配置される入力側キャリヤ28Aと、揺動歯車20に対して反入力側に配置される反入力側キャリヤ28Bとを含む。キャリヤ28A、28Bは、軸受36を介してクランク軸18を回転可能に支持している。ケーシング26とキャリヤ28A、28Bとの間には主軸受38が配置される。
【0024】
以上の歯車装置10の動作を説明する。駆動装置から入力される入力回転によりクランク軸18が回転する。クランク軸18が回転すると、その偏心部18aによって、揺動歯車20の中心が噛合歯車22の中心周りを回転するように揺動歯車20が揺動する。揺動歯車20が揺動すると、揺動歯車20と噛合歯車22の噛合位置が周方向に変化する。これに伴い、クランク軸18が一回転する毎に、揺動歯車20と噛合歯車22の歯数差分だけ揺動歯車20及び噛合歯車22の一方(ここでは揺動歯車20)が自転し、その自転成分が出力回転として出力部材32に伝達される。入力回転に対する出力回転の比である変速比(ここでは減速比)は揺動歯車20と噛合歯車22の歯数差に応じた大きさとなる。
【0025】
図1、
図2を参照する。歯車装置10は、クランク軸18の他に、クランク軸18と別体かつ一体化されるスプライン軸40を備える。ここでの「一体化」とは、クランク軸18とスプライン軸40とが相互に固定されずに分離しているのではなく、相互に相対回転不能に固定されることで一体化していることを意味する。クランク軸18とスプライン軸40は、このように一体化されることで、相互に相対回転不能に一体に回転する。尚、本実施形態では、クランク軸18の固定孔18hとスプライン軸40の被固定部40dの締り嵌めにより、クランク軸18とスプライン軸40が一体化している。
【0026】
クランク軸18は、偏心部18aの他に軸部18bを備える。軸部18bは、クランク軸18の入力側にある第1軸方向端面部18cから反入力側にある第2軸方向端面部18dまでの部分を構成し、その外周部に偏心部18aが一体化される。軸部18bには、クランク軸18の外面部18eに開口する中空部18fが形成される。中空部18fは、クランク軸18を軸方向に貫通する貫通孔18gにより構成される。この他にも中空部18fは、ボルト孔等のスプライン軸40を貫通しない有底孔により構成されてもよい。
【0027】
スプライン軸40には、被結合部材とスプライン結合するためのスプライン部40aが形成される。歯車装置10は、この被結合部材として、スプライン軸40と外部回転軸52を連結するためのカップリング54を備える。本実施形態の外部回転軸52は、駆動装置の出力軸14である。スプライン部40aは、スプライン軸40の一部の軸方向範囲を構成する。スプライン部40aの周面部には、スプライン歯40bとスプライン溝40cとが周方向に向かって交互に形成される。本実施形態のスプライン部40aは外スプライン部により構成されるが、内スプライン部により構成されてもよい。
【0028】
スプライン軸40は、スプライン部40aの他に、クランク軸18に固定される被固定部40dを備える。クランク軸18は、スプライン軸40の被固定部40dが固定される固定孔18hを備える。固定孔18hは、貫通孔18gの一部となる。本実施形態のスプライン軸40の被固定部40dは、クランク軸18の固定孔18hに嵌合されたうえで締り嵌めにより固定孔18hに固定(一体化)される。これにより、クランク軸18とスプライン軸40が一体化される。クランク軸18に対するスプライン軸40の被固定部40dの固定態様は特に限定されず、キー構造等により固定されてもよい。
【0029】
カップリング54は筒状部材である。カップリング54は、スプライン軸40のスプライン部40aとスプライン結合される内スプライン部54aを備える。内スプライン部54aの一部は、スプライン軸40のスプライン部40aよりもクランク軸18とは軸方向反対側(入力側)に延びており、外部回転軸52に設けられる外スプライン部52aとスプライン結合される。
【0030】
以上のクランク軸18及びスプライン軸40は、例えば、機械構造用合金鋼鋼材等の鋼材をはじめとする金属を素材とする。特に、クランク軸18は、鋼材等の焼入れ可能な金属を素材とする。
【0031】
図2、
図3を参照する。
図3では、クランク軸18及びスプライン軸40の断面において次に説明する表面硬化層70のみにハッチングを付す。クランク軸18には、少なくとも偏心部18aの外周面に表面硬化層70が設けられるとともに、表面硬化層70よりも内側に第1硬度均質領域72が設けられる。本実施形態のクランク軸18には、その外面部18e(詳しくは表面部18i)の全域に表面硬化層70が設けられる。この「外面部18e」とは、言及している部材(ここではクランク軸18)の外部にある空間に露出する面部をいい、その外面部18eに開口する中空部18fの内面部は含まれない。この「表面部18i」とは、言及している部材に中空部18fがある場合、その外面部18eと中空部18fの内面部の双方を含めた面部をいい、中空部18fがない場合、その外面部18eのみをいう。
【0032】
表面硬化層70は、被処理材において表面硬化処理がなされることによって硬化した層であり、第1硬度均質領域72よりも高硬度となる。第1硬度均質領域72は、被処理材において表面硬化処理がなされていない領域となり、その被処理材の母材そのものの硬度となる。第1硬度均質領域72は、言及している部材の表面から深さ方向(表面に垂直な方向)に向かって硬度分布が均質となる。ここでの硬度分布が均質であるとは、深さ方向に向かって硬度が大きく増減しないことをいい、例えば、ビッカース硬度(Hv)を深さ方向に向かって0.1mm単位で測定したときに、その最大値と最小値の差分値が50以下になることをいう。表面硬化層70は、例えば、このようにビッカース硬度を測定したときに、第1硬度均質領域72のビッカース硬度の最大値よりも50以上大きくなる箇所である。このビッカース硬度は、JIS Z2244に準拠した方法により測定される。
【0033】
スプライン軸40には、少なくともスプライン部40aに表面硬化層が設けられない。本実施形態のスプライン軸40には、その表面部の全域において表面硬化層が設けられない。スプライン軸40には表面硬化処理が施されないことになる。クランク軸18は表面硬化処理を施した表面硬化処理品であり、スプライン軸40は表面硬化処理を施さない非表面硬化処理品であるともいえる。これにより、クランク軸18の第1硬度均質領域72と同様、スプライン軸40には、その全域(全断面)において、表面から深さ方向に向かって硬度分布が均質となる第2硬度均質領域74が設けられる。
【0034】
スプライン軸40のスプライン部40aは、クランク軸18における少なくとも偏心部18aの外周面よりも表面硬度が小さくなる。本実施形態のスプライン部40aは、クランク軸18の外面部18e(詳しくは表面部18i)の全域よりも表面硬度が小さくなる。本実施形態のスプライン軸40は、その表面部の全域において、少なくとも偏心部18aの外周面よりも表面硬度が小さくなる。このような表面硬度の大小関係は、表面硬度に影響するクランク軸18、スプライン軸40の素材、表面硬化層の有無、表面硬化層を設けるための表面硬化処理の種類等を調整することで実現される。本実施形態では、スプライン軸40に表面硬化層を設けていないため、スプライン軸40に表面硬化層を設ける場合と比べ、表面硬化層70の設けられたクランク軸18の偏心部18aの外周面との表面硬度差が大きくなる。クランク軸18の偏心部18aの外周面とスプライン軸40のスプライン部40aの表面硬度差は、例えば、ロックウェル硬さで20以上の大きさとなる。このロックウェル硬さは、JIS Z2245に準拠した方法により測定される。
【0035】
以上の歯車装置10の効果を説明する。
【0036】
(A)クランク軸18と別体かつ一体化されたスプライン軸40にスプライン部40aを形成したうえで、スプライン部40aの表面硬度をクランク軸18の偏心部18aよりも小さくしている。よって、前述の通り、スプライン加工時の加工性とスプライン部40aの寸法精度の両立を図ることができる。
【0037】
スプライン軸40には少なくともスプライン部40aに表面硬化層が設けられない。よって、表面硬化処理の熱歪みに起因するスプライン部40aの寸法精度の低下を回避できる。ひいては、スプライン加工時の加工性を良好にしつつ、スプライン部40aの寸法精度を更に良好にできる。
【0038】
カップリング54の内スプライン部54aの一部は、スプライン軸40のスプライン部40aよりもクランク軸18とは軸方向反対側に延びている。よって、このカップリング54の一部を外部回転軸52の外スプライン部52aとスプライン結合させることができる。これにより、外部回転軸52の外スプライン部52aの大きさに応じてカップリング54とスプライン軸40を変えることで、大きさの異なる複数種の外部回転軸52を共通のクランク軸18に連結できるようになる。ひいては、大きさの異なる複数種の外部回転軸52毎に、その外部回転軸52に連結するための専用のクランク軸18が不要になる。
【0039】
次に、歯車装置10の他の特徴を説明する。
図1、
図2を参照する。アクチュエータ12は、揺動歯車20及び噛合歯車22(歯車機構)を収容する歯車装置10の内部空間80を封止するシール部材82A~82Cを備える。内部空間80には、揺動歯車20及び噛合歯車22の潤滑に用いられる潤滑油、グリース等の潤滑剤が封入される。シール部材82A~82Cは、クランク軸18の径方向外側に配置される外側部材84とクランク軸18との間に配置される第1シール部材82Aを含む。第1シール部材82Aは、例えば、オイルシールであるが、Oリング等の各種シール部材であってもよい。ここでの外側部材84は、歯車装置10のケーシング26と駆動装置とを連結するアダプタである。外側部材84の具体例は特に限定されず、例えば、歯車装置10の入力側キャリヤ28A等でもよい。
【0040】
クランク軸18は、第1シール部材82Aが配置される配置面18jと、配置面18jよりも軸方向外側に設けられる前述の第1軸方向端面部18cと、を備える。配置面18jは、クランク軸18の最も軸方向一方側にある偏心部18aよりも軸方向外側に設けられる。スプライン軸40の外側端面部40eは、スプライン軸40の最も軸方向外側に設けられる。配置面18jは、第1シール部材82Aと径方向に重なる箇所に設けられる。クランク軸18の外周部には、第1軸方向端面部18cの外周縁部18kから配置面18jまでの間に、配置面18jよりも外径が小さく第1軸方向端面部18cに向かって連続する小外径部が設けられない。本実施形態のクランク軸18の外周部には、その配置面18jから外周縁部18kまで同じ外径の部分が設けられる。この第1軸方向端面部18cの外周縁部18kに曲面部又は面取り部が設けられる場合、その曲面部又は面取り部は外周縁部18kとして取り扱う。本実施形態では、この外周縁部18kに面取り部が設けられている。
【0041】
ここでの「小外径部」とは、スプライン軸40にスプライン部40aを形成する場合に、必要に応じて、クランク軸18と切削工具との干渉を避けるために設けられる。このような小外径部を設ける場合、クランク軸18の配置面18jと第1軸方向端面部18cとの間に小外径部を設けるための軸方向寸法を確保する必要があり、その分、クランク軸18の軸方向寸法が余計に長くなってしまう。この点、本実施形態では、クランク軸18とスプライン軸素材100(後述する)を分離した状態のもと、スプライン軸素材100にスプライン部40aを形成できるため、そのような小外径部をクランク軸18に設けずに済む。よって、クランク軸18の配置面18jから第1軸方向端面部18cまでの間に小外径部を設ける場合と比べて、クランク軸18の軸方向寸法を小型化できる。
【0042】
スプライン軸40の被固定部40dの外径R40dは、そのスプライン部40aの最大外径R40a-1よりも小さくなる。本実施形態において、被固定部40dの外径R40dは、スプライン部40aの最小外径R40a-2よりも小さくなる。ここでの「最大外径R40a-1」とは、スプライン部40aのスプライン歯40bに外接する最大径の円の半径(歯先円半径)をいう。ここでの「最小外径R40a-2」とは、スプライン部40aのスプライン溝40cに内接する最小径の円の半径(歯底円半径)をいう。ここでの最大径の円及び最小径の円のそれぞれは、スプライン軸40の中心線C40を円中心とする。
【0043】
仮に、被固定部40dの外径R40dがスプライン部40aの最大外径R40a-1と同じである場合を考える。この場合、スプライン加工時にスプライン溝40cを切削するうえで、被固定部40dにまでスプライン溝40cの一部が形成され易くなってしまう。締り嵌めによりスプライン軸40の被固定部40dを固定するうえで、被固定部40dにスプライン溝40cが形成されてしまうと固定強度の低下を招く。よって、被固定部40dにまでスプライン溝40cが形成される場合、所要の固定強度を確保するうえでは、被固定部40dの締り嵌め箇所の軸方向寸法を長くする必要が生じる。この点、本実施形態では、被固定部40dの外径R40dをスプライン部40aの最大外径R40a-1よりも小さくしている。よって、その外径R40dを最大外径R40a-1と同じにする場合と比べ、スプライン溝40cを切削する場合に、スプライン溝40cの一部が被固定部40dにまで形成される事態を回避し易くなる。ひいては、被固定部40dの軸方向寸法を長くせずとも、締り嵌めによる固定強度の確保が容易となる。また、被固定部40dの外径R40dをスプライン部40aの最大外径R40a-1と同じにする場合と比べ、クランク軸18において被固定部40dと径方向に重なる箇所での肉厚を厚くでき、そこでの強度の確保が容易となる。これにより、締り嵌めによる固定強度を確保しつつクランク軸18において被固定部40dと径方向に重なる箇所での強度の確保が容易となる。
【0044】
貫通孔18gの一部は、クランク軸18よりも反入力側にあるクランク軸18の外部にある空間と固定孔18hとを通じさせる逃がし孔18mとして設けられる。固定孔18hの最小内径R18hは、逃がし孔18mの最小内径R18mよりも小さくなる。この利点を説明する。
【0045】
貫通孔18gを形成する場合、まず、ドリル等の第1切削工具を用いて、クランク軸18の反入力側にある第2軸方向端面部18dから入力側に向かって切削することでクランク軸18に逃がし孔18mを形成する。続いて、第1切削工具を用いて、クランク軸18の第1軸方向端面部18cから反入力側に向かって切削することで、固定孔18hの形成予定位置に下穴を形成する粗切削加工をする。続いて、第1切削工具よりも高い寸法精度で切削可能な第2切削工具(ボーリング、リーマ等)を用いて、固定孔18hの下穴を切削することで固定孔18hを形成する仕上げ切削加工をする。ここで、貫通孔18gの一部として固定孔18hを設けているため、このような粗切削加工、仕上げ切削加工をするときに、予め形成した逃がし孔18mを通して切削粉を逃がすことで、そのときの作業性が良好になる。また、固定孔18hの最小内径R18hを逃がし孔18mの最小内径R18mよりも小さくすることで、逃がし孔18mの最小内径R18mと同じにする場合と比べ、仕上げ切削加工時の切削量を削減できる。
【0046】
スプライン軸40のスプライン部40aは、スプライン軸40の外側端面部40eから軸方向内側に向けて間隔を空けて設けられる。これを実現するうえで、本実施形態のスプライン軸40は、スプライン部40aから外側端面部40eに向けて延びる非スプライン部40fを備える。非スプライン部40fは、スプライン軸40の軸方向範囲の一部を構成し、その外周部にスプラインが形成されない。
【0047】
スプライン軸40をクランク軸18の固定孔18hに締り嵌めのために圧入する場合を考える。この場合、スプライン軸40の外側端面部40eに圧入冶具を接触させた状態で、圧入冶具により固定孔18hに向けて押し込むことで、スプライン軸40の被固定部40dを固定孔18hに圧入する。このとき、本実施形態のスプライン部40aは、スプライン軸40の外側端面部40eから間隔を空けて設けられる。よって、スプライン軸40の外側端面部40eに接触させた圧入冶具を用いてスプライン軸40を押し込むときに、圧入冶具にスプライン部40aのスプライン歯40bを接触させずに済み、それに伴うスプライン歯40bの損傷を回避できる。
【0048】
なお、スプライン軸40のスプライン部40aと被固定部40dとの間には反入力側に向かって外径が小さくなる段差部40gが設けられる。スプライン軸40は、圧入冶具により固定孔18hに向けて押し込むとき、その段差部40gをクランク軸18の第1軸方向端面部18cに接触させることで軸方向に位置決めされる。
【0049】
次に、クランク軸18とスプライン軸40とを備える軸体の製造方法の一例を説明する。
図4を参照する。この製造方法は、表面処理工程S10と、スプライン加工工程S12と、固定工程S14とを含む。
【0050】
表面処理工程S10では、クランク軸18における少なくとも偏心部18aの外周面に第1表面硬化処理をする。第1表面硬化処理は、例えば、浸炭焼入れ、高周波焼入れ、レーザー焼入れ等の焼入れ処理の他、窒化処理等によりなされる。本実施形態の第1表面硬化処理は、クランク軸18の表面部18iの全域になされる。これにより、クランク軸18において第1表面硬化処理がなされた箇所に表面硬化層70が設けられる。第1表面硬化処理は、クランク軸18とスプライン軸40又はスプライン軸素材100を分離した状態のもと、クランク軸18のみになされる。この第1表面硬化処理に供されるクランク軸18は、全断面において硬度分布が均質な素材、つまり、全断面が第1硬度均質領域72となる素材により構成される。この素材は、例えば、調質済みの調質材(調質鋼等)、非調質材(非調質鋼等)のいずれが採用されてもよい。なお、表面処理工程S10に供されるクランク軸18は、加工装置(旋盤、マシニングセンタ等)を用いて、丸棒等の素材をクランク軸18の外形となるように切削する加工工程(不図示)を経ることで得られる。
【0051】
図5を参照する。スプライン加工工程S12では、スプライン軸素材100にスプライン部40aを形成することでスプライン軸40を得る。ここでのスプライン軸素材100とは、スプライン軸40の素材となる中間製品をいう。スプライン軸素材100は、スプライン軸40のスプライン部40aとなるべき箇所にスプライン部40aが形成されていない他は、スプライン軸40と同様の構成となる。スプライン軸素材100も、スプライン軸40と同様、被固定部40d、非スプライン部40fを備える。このようなスプライン軸素材100は、加工装置を用いて、丸棒等の素材をスプライン軸素材100の外形となるように切削する加工工程(不図示)をすることで得られる。
【0052】
スプライン加工工程S12では、切削工具によってスプライン軸素材100のスプライン部40aとなるべき箇所にスプライン溝40cを切削することによってスプライン部40aを形成する。本実施形態では、クランク軸18とスプライン軸素材100を分離した状態のもと、スプライン軸素材100にスプライン部40aを形成する。スプライン加工工程S12に供されるスプライン軸素材100は、少なくともスプライン部40aとなるべき箇所の表面硬度が、第1表面硬化処理により得られるクランク軸18における偏心部18aの表面硬度(表面硬化層70の表面硬度)よりも小さくなる。この表面硬度に関する条件を満たすうえで、例えば、スプライン軸素材100の材質を調整するか、スプライン軸素材100に予め表面硬化処理をする場合は、その表面硬化処理の種類を調整すればよい。これにより、クランク軸18の偏心部18aと同じ表面硬度の箇所にスプライン部40aを形成する場合と比べ、スプライン加工時の加工性が良好となる。
【0053】
本実施形態においては、スプライン加工工程S12では、表面硬化処理をされていないスプライン軸素材100にスプライン部40aを形成する。スプライン加工工程S12に供されるスプライン軸素材100は、全断面において硬度分布が均質な素材、つまり、全断面が第2硬度均質領域74となる素材により構成される。この素材は、前述と同様、調質材、非調質材のいずれが採用されてもよい。これにより、表面硬化処理をされているスプライン軸素材100にスプライン部40aを形成する場合と比べ、スプライン部40aとなるべき箇所の表面硬度を小さくでき、スプライン加工時の加工性が良好になる。
【0054】
本実施形態では、このようなスプライン加工工程S12により得られるスプライン軸40には表面硬化処理をしない。これにより、表面硬化層が設けられていないスプライン軸40を得ることができる。このように、スプライン軸40に表面硬化処理をしないことで、表面硬化処理による熱歪みに起因するスプライン部40aの寸法精度の低下を回避できる。ひいては、前述の(A)で説明したような、スプライン加工時の加工性とスプライン部40aの寸法精度の両立を図ることができる。
【0055】
図4の例では、固定工程S14に先立って、表面処理工程S10とスプライン加工工程S12とを個別にする。この後に固定工程S14をする。この場合、固定工程S14では、スプライン加工工程S12により得られたスプライン軸40を表面処理工程S10後のクランク軸18に固定する。固定工程S14では、本実施形態において、スプライン軸40の被固定部40dをクランク軸18の固定孔18hに圧入を伴い押し込むことで、クランク軸18にスプライン軸40を固定する。
【0056】
このように固定工程S14に先だって表面処理工程S10をすることで、表面処理工程S10においてクランク軸18の偏心部18aになされる表面硬化処理の影響を、スプライン軸40又はスプライン軸素材100が受けずに済む。ひいては、クランク軸18への表面硬化処理の熱歪みに起因するスプライン部40aの寸法精度の低下を抑制することができる。特に、表面処理工程S10においてクランク軸18の外面部18e(表面部18i)の全域に表面硬化処理をする場合に、このような効果を得られる点で利点がある。
【0057】
なお、このようなクランク軸18の外面部18eの全域に表面硬化処理をする場合として、本実施形態では、クランク軸18の中空部18fを含む表面部18iの全域に表面硬化処理をする場合を説明した。この他にも、表面処理工程S10では中空部18fのないクランク軸18の外面部18eの全域に表面硬化処理をして、表面処理工程S10後にクランク軸18に中空部18f(貫通孔18g、ボルト孔等)を形成してもよい。いずれにしても、表面処理工程S10では、クランク軸18の少なくとも外面部18eの全域に表面硬化処理をしていればよいともいえる。クランク軸18の外面部18eの全域に表面硬化処理をした場合、クランク軸18の表面部18iではなく外面部18eの全域に表面硬化層70が設けられ、その中空部18fの内面部には第1硬度均質領域72が部分的に残ったままとなる。
【0058】
次に、軸体の製造方法の変形形態を説明する。
図6を参照する。第1変形形態では、固定工程S14に先立って表面処理工程S10をしておき、固定工程S14に続いてスプライン加工工程S12をする。この場合、固定工程S14では、
図4の例のようなスプライン軸40に替えて、スプライン軸素材100をクランク軸18に固定する。この場合、スプライン軸素材100における被固定部40dをクランク軸18の固定孔18hに圧入を伴い押し込むことで、クランク軸18にスプライン軸素材100を固定する。
【0059】
図7を参照する。第2変形形態の製造方法は、スプライン加工工程S12により得られるスプライン軸40に、第1表面硬化処理よりも熱歪みの小さい第2表面硬化処理をする第2表面硬化処理S16を含む。第2表面硬化処理は、スプライン軸40の少なくともスプライン部40aにされていればよい。第2表面硬化処理により、クランク軸18の偏心部18aの表面硬度よりも、少なくともスプライン部40aの表面硬度が小さいスプライン軸40を得ることができる。第1表面硬化処理が浸炭焼入れである場合、第2表面硬化処理は、例えば、窒化処理、レーザー焼入れ等となる。本変形形態ではスプライン軸40の全域に第2表面硬化処理がされる。これにより、熱歪みの大きい第1表面硬化処理をスプライン軸40にする場合と比べ、表面硬化処理による熱歪みに起因するスプライン部40aの寸法精度の低下を抑制できる。ひいては、前述の(A)で説明したような、スプライン加工時の加工性とスプライン部40aの寸法精度の両立を図ることができる。
【0060】
このようにスプライン加工工程S12後に第2表面硬化処理S16をした場合、スプライン軸40に表面硬化層が設けられる。この他にも、スプライン軸素材100に予め表面硬化処理をした場合も同様である。このように、スプライン軸40には表面硬化層が設けられていてもよい。
【0061】
次に、ここまで説明した各構成要素の変形形態を説明する。
【0062】
ここまで、偏心揺動型歯車装置10として、出力部材32の回転中心線上にクランク軸18が設けられるセンタークランクタイプを例に説明した。偏心揺動型歯車装置10の具体的な種類はこれに限定されず、出力部材32の回転中心線からオフセットした位置に複数のクランク軸18が設けられる振り分けタイプであってもよい。出力部材32は、キャリヤ28A、28Bに替えて、ケーシング26であってもよい。揺動歯車20は外歯歯車に替えて内歯歯車とし、噛合歯車22は内歯歯車に替えて外歯歯車としてもよい。
【0063】
歯車装置10は減速装置として機能する例を説明した。この場合、クランク軸18が入力部材30、ケーシング26又はキャリヤ28A、28Bが出力部材32となる。これに替えて、歯車装置10は増速装置として機能してもよい。この場合、ケーシング26又はキャリヤ28A、28Bが入力部材30、クランク軸18が出力部材32となればよい。
【0064】
スプライン軸40のスプライン結合される被結合部材はカップリング54に限定されない。被結合部材は、例えば、振り分けタイプの偏心揺動型歯車装置10に用いられるクランク軸18と一体に回転するクランク軸歯車であってもよい。
【0065】
クランク軸18の外周部には、第1軸方向端面部18cから配置面18jまでの間に、配置面18jよりも外径が小さく第1軸方向端面部18cまで連続する小外径部を設けてもよい。スプライン軸40の被固定部40dの外径R40dは、スプライン部40aの最大外径R40a-1と同じであってもよいし、それ以上であってもよい。また、この外径R40dは、スプライン部40aの最大外径R40a-1未満最小外径R40a-2以上であってもよい。固定孔18hは、スプライン軸40を貫通しなくともよい。スプライン部40aは、スプライン軸40の外側端面部40eまで連続していてもよい。
【0066】
表面処理工程S10、スプライン加工工程S12、固定工程S14の先後関係は特に限定されない。例えば、固定工程S14を行ってから、これに続いて表面処理工程S10、スプライン加工工程S12のそれぞれをしてもよい。この場合、クランク軸18にしようとする表面硬化処理の影響がスプライン軸40に及ばないように、クランク軸18の偏心部18aの外周面を含む一部のみを対象として部分的に表面硬化処理をすればよい。この部分的な表面硬化処理は、例えば、レーザー焼入れ、高周波焼入れ、マスキング等を用いて実現すればよい。
【0067】
以上の実施形態及び変形形態は例示である。これらを抽象化した技術的思想は、実施形態及び変形形態の内容に限定的に解釈されるべきではない。実施形態及び変形形態の内容は、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態」との表記を付して強調している。しかしながら、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。実施形態において単数部材により構成された構成要素は複数部材で構成されてもよい。同様に、実施形態において複数部材により構成された構成要素は単数部材で構成されてもよい。
【符号の説明】
【0068】
10…偏心揺動型歯車装置、18…クランク軸、18a…偏心部、18g…貫通孔、18h…固定孔、18j…配置面、18k…外周縁部、20…揺動歯車、40…スプライン軸、40a…スプライン部、40d…被固定部、40e…外側端面部、52…外部回転軸、52a…外スプライン部、54…カップリング、54a…内スプライン部、70…表面硬化層、82A…シール部材、100…スプライン軸素材。