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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094703
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】移動装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 61/10 20060101AFI20240703BHJP
   B60B 19/00 20060101ALI20240703BHJP
   B60B 33/08 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
B62D61/10
B60B19/00 H
B60B33/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211419
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】森川 正浩
(57)【要約】
【課題】移動装置の走行安定性を高めつつ荷重分散装置の小型化を図ることのできる技術を提供する。
【解決手段】駆動輪を含む複数の車輪12A、12Bが取り付けられる車体14と、車体14に取り付けられ、複数の車輪12A、12Bとともに車体荷重を分散して支持する荷重分散装置18と、を備え、荷重分散装置18は、走行面Sに接地する第1ボール30と、水平面上の全方向に第1ボール30を回転可能に保持する保持機構とを備える移動装置である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪を含む複数の車輪が取り付けられる車体と、
前記車体に取り付けられ、前記複数の車輪とともに車体荷重を分散して支持する荷重分散装置と、を備え
前記荷重分散装置は、走行面に接地する第1ボールと、前記第1ボールを回転可能に保持する保持機構とを備える移動装置。
【請求項2】
前記保持機構は、
前記第1ボールを保持するボール受けと、
前記第1ボールと前記ボール受けとの間に配置され、前記第1ボールが回転したときに前記第1ボールと転がり接触可能な複数の第2ボールとを備える請求項1に記載の移動装置。
【請求項3】
前記第1ボール及び前記第2ボールの一方は樹脂系材料により構成され、それらの他方は金属系材料により構成される請求項2に記載の移動装置。
【請求項4】
前記荷重分散装置の個数は前記複数の車輪の個数よりも多い請求項1に記載の移動装置。
【請求項5】
前記車輪は、前後方向に間隔を空けて配置される前側車輪及び後側車輪を含み、
前記荷重分散装置の接地箇所は、左右方向から見て、前記前側車輪及び前記後側車輪それぞれの接地箇所の間に設けられる請求項1に記載の移動装置。
【請求項6】
前記複数の車輪は、それぞれの回転方向及び回転数を変更することで前記走行面上の全方向に走行可能な複数の全方向車輪を含む請求項1に記載の移動装置。
【請求項7】
前記保持機構は、前記走行面上の全方向に回転可能に前記第1ボールを保持する請求項1に記載の移動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、移動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、複数の駆動輪が取り付けられる車体と、車体に取り付けられ複数の駆動輪と協働して車体荷重を分散して支持する荷重分散装置とを備える移動装置を開示する。特許文献1の荷重分散装置は、走行面に接地する接地部材としての複数の従動ローラと、車体の進行方向に追従して従動ローラの向きを変える調整装置とを備えている。この荷重分散装置は、車体の進行方向が変わった場合に、調整装置によって、車体の進行方向に従動ローラの回転方向が合うように従動ローラの向きを変えることで、移動装置の走行安定性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-6593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の荷重分散装置では、移動装置の走行安定性を高めるために、駆動源が組み込まれた調整装置を用いる必要があり、余計な大型化を招いてしまう。本願発明者は、移動装置の走行安定性を高めつつ荷重分散装置の小型化を図るうえで、特許文献1の開示技術に関して改良の余地があるとの認識を得た。
【0005】
本開示の目的の1つは、移動装置の走行安定性を高めつつ荷重分散装置の小型化を図ることのできる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の移動装置は、駆動輪を含む複数の車輪が取り付けられる車体と、前記車体に取り付けられ、前記複数の車輪とともに車体荷重を分散して支持する荷重分散装置と、を備え前記荷重分散装置は、走行面に接地する第1ボールと、水平面上の全方向に前記第1ボールを回転可能に保持する保持機構とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、移動装置の走行安定性を高めつつ荷重分散装置の小型化を図ることのできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態の移動装置を模式的に示す平面図である。
図2図1のA-A断面を模式的に示す図である。
図3】実施形態の荷重分散装置を示す断面図である。
図4図1の矢視Bから移動装置を見た模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の移動装置を実施するための実施形態を説明する。同一又は同等の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面では、説明の便宜のため、適宜、構成要素を省略、拡大、縮小する。図面は符号の向きに合わせて見るものとする。
【0010】
図1図2を参照する。移動装置10は、AGV(Automatic Guided Vehicle)、AMR(autonomous mobile robot)等の無人搬送台車である。移動装置10は、複数の車輪12A、12Bが取り付けられる車体14と、車体14に取り付けられる車輪駆動装置16と、車体14に取り付けられる複数の荷重分散装置18と、を備える。
【0011】
本実施形態の車体14は、平面視において矩形状をなす。車体14の上部には物品を積載するための物品積載部14aが設けられる。車体14は、例えば、移動装置10の走行動作を制御するためのコンピュータからなる制御装置(不図示)と、制御装置及び車輪駆動装置16に電力を供給するバッテリー(不図示)とを搭載する。
【0012】
本実施形態の複数の車輪12A、12Bのそれぞれは車輪駆動装置16により駆動される駆動輪20である。駆動輪20は、車輪駆動装置16を介して車体14に取り付けられる。本実施形態の車体14には、計4つの駆動輪20が取り付けられる。複数の駆動輪20は、対応する車輪駆動装置16によってそれぞれ独立して駆動される。
【0013】
複数の車輪12A、12Bは、車体14の前後方向Xに間隔を空けて配置される前側車輪12A及び後側車輪12Bを含む。前側車輪12A及び後側車輪12Bのそれぞれは、車体14の左右方向Yに間隔を空けて対になって配置される。ここでの前後方向X及び左右方向Yは互いに直交する水平方向となる。
【0014】
本実施形態の複数の車輪12A、12Bのそれぞれは、駆動輪20となる全方向車輪である。本実施形態の全方向車輪はメカナムホイールである。全方向車輪の具体例は特に限定されず、例えば、オムニホイール等でもよい。複数の全方向車輪は、個々の全方向車輪の回転方向及び回転数を変更することで走行面上の全方向(前後方向X、左右方向Y、斜め方向等)に走行可能となる。これを実現するための原理そのものは公知のため、ここでの説明は省略する。
【0015】
全方向車輪からなる車輪12A、12Bは、回転中心線C22周りに回転可能な車輪本体22と、車輪本体22に取り付けられ走行面Sに接地する車輪接地部材24とを備える。車輪接地部材24は樽状の複数のバレルであり、車輪本体22の外周部に回転自在に支持される。複数の車輪接地部材24の回転中心線は、車輪本体22の回転中心線C22に対して傾斜している。前側車輪12A及び後側車輪12Bは、車輪本体22の外周部に支持される車輪接地部材24の傾斜方向が逆向きに設定される。一対の前側車輪12A及び一対の後側車輪12Bも車輪接地部材24の傾斜方向が逆向きに設定される。
【0016】
車輪駆動装置16は、モータ16aと、モータ16aの回転を減速して駆動輪20に伝達する減速機16bとを備える。モータ16aは、制御装置によって制御される。移動装置10は、各モータ16aの回転方向と回転数を制御することにより、各モータ16aの回転方向及び回転数に応じた進行方向に車体14を進行させることができる。本実施形態のように複数の車輪12A、12Bに全方向車輪を用いた場合、水平面上の全方向を進行方向として車体14を進行させることができる。減速機16bは、例えば、偏心揺動型減速機であり、車輪12A、12Bの内側に組み込まれている。
【0017】
荷重分散装置18は、複数の車輪12A、12Bとともに車体荷重を分散して支持する。ここでの「車体荷重」には、車体14そのものの荷重の他に、車体14に搭載される各種搭載物(車輪駆動装置16、制御装置等)の荷重、車体14の物品積載部14aに積載される各種物品の荷重等が含まれる。
【0018】
荷重分散装置18の個数は、複数の車輪12A、12Bの個数よりも多くなる。本実施形態では荷重分散装置18は5つ用いられ、車輪12A、12Bは4つ用いられる。本実施形態の荷重分散装置18は、複数の車輪12A、12Bのそれぞれに一対一に対応する計4つの第1荷重分散装置18-Aと、車輪12A、12Bと対応しない第2荷重分散装置18-Bとを含む。第1荷重分散装置18-Aは、自身と対応する車輪12A、12Bの近傍に配置され、第2荷重分散装置18-Bは、複数の第1荷重分散装置18-Aで囲まれた箇所の中央部に設けられる。
【0019】
図3を参照する。複数の荷重分散装置18それぞれの構成は共通のため、ここでは一つの荷重分散装置18に着目して、その構成を説明する。荷重分散装置18はボールトランスファーとして機能する。荷重分散装置18は、移動装置10が走行する走行面Sに接地する第1ボール30と、第1ボール30を回転可能に保持する保持機構32とを備える。
【0020】
保持機構32は、第1ボール30を保持するボール受け34と、第1ボール30とボール受け34との間に配置される複数の第2ボール36とを備える。第1ボール30及び第2ボール36のそれぞれは球状をなす。第2ボール36の外径は、第1ボール30の外径よりも小さくなる。本実施形態のボール受け34は、複数の第2ボール36と協働して第1ボール30を回転可能に保持する。複数の第2ボール36は、第1ボール30が回転したときに第1ボール30と転がり接触可能である。
【0021】
ボール受け34は、取付機構38を用いて車体荷重を支持可能に車体14に取り付けられる。これにより、車体14→取付機構38→ボール受け34→第1ボール30の順で車体荷重が走行面Sに伝達されることで、これらにより車体荷重が支持される。第1ボール30、ボール受け34は車体荷重を支持可能であるともいえる。本実施形態ではボール受け34→複数の第2ボール36→第1ボール30の順で車体荷重が走行面Sに伝達され、これらにより車体荷重を支持可能となる。
【0022】
本実施形態の取付機構38はサスペンション機構であり、車体荷重を支持可能かつ車体14に上下動可能にボール受け34を車体14に取り付ける。この取付機構38は、ボール受け34に設けられるシャフト40と、ボール受け34を下向きに付勢する付勢部材42とを備える。シャフト40は、車体14に設けられる挿通孔14bに上下動可能に挿通される。シャフト40は、不図示の直動軸受を介して車体14に上下動可能に設けられる。付勢部材42は、スプリング等のばね部材により構成される。付勢部材42は、車体14とボール受け34との間に配置され、車体14から伝達される車体荷重を自身の弾性変形を伴いボール受け34に伝達する。これにより、走行面S上に小さな凹凸があった場合でも、付勢部材42の付勢力により走行面Sに第1ボール30を接地させた状態のまま、車体14に対してボール受け34が上下動できるようになる。ひいては、走行面S上に小さな凹凸があった場合でも、車体14に対する影響を抑えつつ、車体荷重をボール受け34等により支持できるようになる。
【0023】
ボール受け34は、第1ボール30を回転可能に保持しつつ、複数の第2ボール36を転動可能に保持する。ボール受け34は、第1ボール30を回転可能に収容するボール穴44と、複数の第2ボール36を転動可能に収容するボール循環通路46とを備える。ボール穴44は、ボール受け34の下面部に開口する。第1ボール30の下部はボール穴44から下向きに突出して走行面Sに接地している。
【0024】
ボール循環通路46は、第1ボール30に転がり接触する第2ボール36が転動する主転動通路46aと、主転動通路46aから送り出された第2ボール36を主転動通路46aに戻す戻し通路46bとを備える。戻し通路46bは、車体14の進行方向Da側にある主転動通路46aの端部から送り込まれた第2ボール36を自身の内部で反進行方向Dbに転動させたうえで、反進行方向Db側にある主転動通路46aの端部に戻すことができる。これにより、ボール循環通路46は、複数の第2ボール36が循環するように転動させることができる。ここでの反進行方向Dbとは進行方向Daとは水平方向で正反対の方向をいう。ここでは、ある進行方向Daにあるときの反進行方向Dbと、ボール循環通路46内での第2ボール36の循環方向Dc(転動方向)との一例を図示する。図示はしないものの、ボール循環通路46の一部はシャフト40と紙面直交方向に重なる位置に設けられる。
【0025】
ボール受け34は、ボール穴44が形成されたハウジング48と、ハウジング48内に配置される内部部材50とを備える。ハウジング48にはボール穴44に連通する球冠状の空洞部48aが形成される。内部部材50は、ハウジング48の空洞部48a内に配置される球冠状の仕切り部50aを備える。本実施形態の内部部材50には、仕切り部50aの他に、前述したシャフト40が一体に設けられる。仕切り部50aが空洞部48aを上下に仕切ることで空洞部48a内にボール循環通路46の戻し通路46bが形成される。また、仕切り部50aは、第1ボール30との間に主転動通路46aを形成する。
【0026】
以上の荷重分散装置18の動作を説明する。複数の駆動輪20が回転すると、複数の駆動輪20の回転方向及び回転数に応じた進行方向Daに車体14が進行する。車体14が進行方向Daに進行すると、荷重分散装置18が向きを変えることなく、その進行方向Daと合うような回転方向Deに第1ボール30が回転する。ここでの「進行方向Daに回転方向Deが合う」とは、走行面Sに対する第1ボール30の接地点P上での回転方向Deの接線方向成分Dfと進行方向Daが平行になることをいう。第1ボール30が進行方向Daに回転すると、複数の第2ボール36が第1ボール30と転がり接触する。第1ボール30と転がり接触する複数の第2ボール36はボール循環通路46内を転動しつつ循環する。このように第1ボール30が回転する過程で、車体荷重は、少なくともボール受け34、第1ボール30を経由して走行面Sに伝達されることで、これらにより支持される。この結果、車体荷重が複数の車輪12A、12Bとともに荷重分散装置18により分散して支持される。
【0027】
以上の保持機構32は、予め定められた回転許容方向への第1ボール30の回転を許容するように第1ボール30を回転可能に保持する。回転許容方向は、第1ボール30の接地箇所を通る鉛直線周りの少なくとも一部の角度範囲内の方向となる。本実施形態の回転許容方向は、その鉛直線周りの全角度範囲内の方向、つまり、走行面S上の全方向となる。本実施形態の保持機構32は、走行面S上の全方向に第1ボール30を回転可能に保持することになる。ここでの「走行面S上の全方向」とは、走行面Sと平行な任意の方向(前後方向X、左右方向Y、斜め方向等)をいう。
【0028】
以上の移動装置10の効果を説明する。荷重分散装置18の第1ボール30は走行面Sに接地するとともに保持機構32により回転自在に保持されている。よって、車体14の進行方向Daが変わった場合に、その進行方向Daが保持機構32の回転許容方向であれば、第1ボール30の向きを変えることなく、その車体14の進行方向Daに第1ボール30を回転させることができ、移動装置10の走行安定性を高めることができる。特に、保持機構32が走行面S上の全方向に回転可能に第1ボール30を保持している場合、車体14の進行方向Daが変わった場合に、その進行方向Daによらず、移動装置10の走行安定性を高めることができる。また、移動装置10の走行安定性を高めるうえで、接地部材(第1ボール30)の向きを変える駆動源を荷重分散装置18に組み込む必要がなく、その分、荷重分散装置18の小型化を図ることができる。
【0029】
また、車体14の進行方向Daが変わった場合を考える。この場合に、車体14の進行方向Daに追従して接地部材(第1ボール30)の向きを変更するケースでは、車体14の進行方向Daに接地部材の回転方向が合わせられるまで走行安定性の低下を招き、スムーズな方向転換の妨げとなる。これは、例えば、特許文献1のような調整装置を用いるケースの他、接地部材として自在キャスターを用いるケースを想定している。この点、本実施形態によれば、接地部材となる第1ボール30の向きを変更せずとも車体14の進行方向Daに第1ボール30の回転方向Deを合わせることができるため、スムーズな方向転換を実現できる。特に、複数の車輪12A、12Bが複数の全方向車輪を含む場合、通常の車輪を用いる場合と比べ、車体14の進行方向Daが大きく変わり得る。この点、本実施形態によれば、このように車体14の進行方向Daが大きく変わった場合でも、スムーズな方向転換を実現できる利点がある。
【0030】
移動装置10は、複数の車輪12A、12Bの他に、荷重分散装置18により車体荷重を分散して支持できる。よって、荷重分散装置18がない場合と比べ、車体荷重を支持するうえで一つの車輪当たりに作用する車体荷重を軽減でき、車輪12A、12Bの外径及び車輪駆動装置16の小型化を図ることができる。特に、本実施形態の荷重分散装置18の個数は複数の車輪12A、12Bの個数よりも多くなる。よって、荷重分散装置18の個数を車輪12A、12Bの個数と同数にする場合と比べ、一つの車輪12A、12B当たりに作用する車体荷重を効果的に軽減できる。
【0031】
保持機構32は、第1ボール30とボール受け34との間に配置され、第1ボール30が回転したときに第1ボール30と転がり接触可能な複数の第2ボール36を備える。よって、ボール受け34に第1ボール30が滑り接触する場合と比べ、第1ボール30の回転に起因して発生する走行抵抗を抑えることができる。
【0032】
次に、移動装置10の他の特徴を説明する。第1ボール30及び第2ボール36の一方は、樹脂系素材により構成され、それらの他方は、金属系材料により構成される。ここでは第1ボール30が樹脂系材料、第2ボール36が金属系材料により構成される例を説明するが、その逆の関係であってもよい。樹脂系材料は、樹脂を主材とする材料をいい、主材のみ、又は、主材と他素材との複合材料(繊維強化樹脂等)によって構成される。ここで用いられる樹脂系材料は、例えば、汎用エンジニアプラスチック、特殊エンジニアプラスチック等のプラスチック系材料の他、ゴム等のエラストマー系材料である。金属系素材は、金属(合金含む)を主材とする材料をいい、主材のみ、又は、主材と他素材との複合材料(繊維強化金属等)によって構成される。ここで用いられる金属は、例えば、鋳鉄、鋼等の鉄系材料の他、アルミニウム合金等のアルミニウム系材料等である。
【0033】
第1ボール30と第2ボール36との接触箇所には車体荷重に起因して大面圧が作用している。このような第1ボール30及び第2ボール36の一方を樹脂系材料により構成することで、両者を金属系材料により構成する場合と比べ、樹脂系材料の自己潤滑性を利用して両者の接触箇所での摩耗を抑制できる。また、第1ボール30及び第2ボール36の他方を金属系材料により構成することで、両者を樹脂系材料により構成する場合と比べ、金属系材料により構成したボールの強度を高めることができる。このように第1ボール30及び第2ボール36の接触箇所での摩耗を抑制しつつ他方のボールの強度を高めることで、両者を樹脂系材料のみ又は金属系材料のみにより構成する場合と比べ、荷重分散装置18の耐久性を高めることができる。また、このように荷重分散装置18の耐久性を高めるうえで、第1ボール30及び第2ボール36の接触箇所の潤滑のための潤滑剤を不要にでき、潤滑剤による走行面Sの汚れを防止できる。このように、本実施形態の荷重分散装置18では、ボール受け34内の各ボール30、36に潤滑剤(グリース等)を塗布していないが、潤滑剤を塗布していてもよい。
【0034】
なお、ボール受け34の主転動通路46aを転動する第2ボール36とボール受け34との間にも車体荷重に起因して大面圧が作用している。よって、これらの間での摩耗も抑制するうえでは、第2ボール36を樹脂系材料により構成するとよい。この他にも、第2ボール36を金属系材料により構成した場合、主転動通路46aを形成するボール受け34の内部部材50を樹脂系材料により構成してもよい。これにより、前述のように荷重分散装置18の耐久性を高めつつ、樹脂系材料により構成される内部部材50の自己潤滑性を利用して、これらの間での摩耗を抑制できる。
【0035】
図1図4を参照する。荷重分散装置18の平坦な走行面Sに対する接地箇所Aは、左右方向Yから見て(図4の視点から見て)、前側車輪12A及び後側車輪12Bそれぞれの接地箇所Bの間に設けられる。この条件は、本実施形態において全ての荷重分散装置18が満たしているが、そのうちの少なくとも一つが満たしていてもよい。これにより、段差部のある走行面S上を車体14が前後方向Xに進行したとき、前側車輪12A及び後側車輪12Bのいずれかが先に段差部に接触することで、その段差部に乗り上げることができる。このように車輪12A、12Bが先に段差部に乗り上げることで、車体14が持ち上がり、車体14の一部とともに荷重分散装置18の第1ボール30が走行面Sから上方に離れる。本実施形態のようにサスペンション機構を用いた場合、ボール受け34の上下方向での可動範囲内の下限位置まで移動したうえで荷重分散装置18の第1ボール30が走行面Sから上方に離れる。この状態のまま車体14が更に進行すると、それに続いて第1ボール30も段差部に乗り上げることができる。この結果、第1ボール30が先に段差部に接触する場合と比べ、第1ボール30により段差部に乗り上げ易くすることができる。
【0036】
また、荷重分散装置18の接地箇所Aは、前後方向Xから見て、左右の前側車輪12Aそれぞれの接地箇所Bの間に設けられる。荷重分散装置18の接地箇所Aは、前後方向Xから見て、左右の後側車輪12Bそれぞれの接地箇所Bの間に設けられる。この条件は、本実施形態において全ての荷重分散装置18が満たしているが、そのうちの少なくとも一つが満たしていてもよい。これにより、段差部のある走行面S上を車体14が左右方向Yに進行したときに、前述と同様の理由により、第1ボール30により段差部に乗り上げ易くすることができる。
【0037】
次に、ここまで説明した各構成要素の変形形態を説明する。
【0038】
移動装置10は、無人搬送台車に限定されず、運転者が運転する有人搬送台車等の各種車両であってもよい。車輪12A、12Bの個数は特に限定されず、3つ以下でもよいし、5つ以上でもよい。複数の車輪12A、12Bは少なくとも一つの駆動輪20を含んでいればよく、残りを従動輪としてもよい。複数の車輪12A、12Bは、全方向車輪でなくともよく、キャスター、タイヤ付き車輪等の通常の車輪であってもよい。
【0039】
荷重分散装置18の個数は特に限定されず、4つ以下(単数含む)でもよいし、6つ以上でもよい。荷重分散装置18と車輪12A、12Bの個数差は1つ超であってもよい。荷重分散装置18は、ボール受け34のボール穴44内への異物の侵入を防止するために防塵シールが用いられていてもよい。荷重分散装置18の接地箇所Aは、前側車輪12A及び後側車輪12Bの接地箇所Bの間以外の箇所に設けられていてもよい。
【0040】
保持機構32は、第1ボール30を回転可能に保持することができればよく、その具体的な構成は特に限定されない。例えば、ボール受け34は、自身に対する第1ボール30の滑り接触を伴い第1ボール30を回転可能に保持していてもよい。また、ボール受け34に複数の第2ボール36を転動可能に保持するうえで、ボール受け34に形成されるボール循環通路46の具体的な構成は特に限定されない。第1ボール30、第2ボール36の双方は樹脂系材料、金属系材料のいずれによって構成されてもよい。
【0041】
保持機構32により第1ボール30の回転を許容する回転許容方向は、第1ボール30の接地箇所を通る鉛直線周りの一部の角度範囲内に制限されていてもよい。保持機構32は、予め定められる回転禁止方向への第1ボール30の回転を不能にしてもよいということである。例えば、前述の鉛直線周りの真前方向から±θ°以上の角度範囲内の方向を回転許容方向とし、それ以外の角度範囲内の方向を回転禁止方向としてもよい。この他にも、特定の限られた一方向(例えば、真後方向等)のみを回転禁止方向としてもよい。これを実現するうえで、保持機構32は、例えば、車体14の進行方向を検出する加速度センサ等のセンサと、センサにより回転禁止方向への車体14の進行を検出したときにストッパを駆動して第1ボール30の回転を拘束するモータ等の駆動部とを備えてもよい。
【0042】
以上の実施形態及び変形形態は例示である。これらを抽象化した技術的思想は、実施形態及び変形形態の内容に限定的に解釈されるべきではない。実施形態及び変形形態の内容は、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態」との表記を付して強調している。しかしながら、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【符号の説明】
【0043】
10…移動装置、12A…前側車輪、12B…後側車輪、14…車体、18…荷重分散装置、20…駆動輪、30…第1ボール、32…保持機構、32…ボール受け、36…第2ボール。
図1
図2
図3
図4