(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094710
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】樹脂パッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
A41C 5/00 20060101AFI20240703BHJP
A41C 3/10 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
A41C5/00 C
A41C3/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211431
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】395007705
【氏名又は名称】クロス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】岡本 信之
(72)【発明者】
【氏名】榎 幸司
【テーマコード(参考)】
3B131
【Fターム(参考)】
3B131AA15
3B131BB08
3B131CA25
3B131DA11
3B131DA25
(57)【要約】
【課題】製造コストを抑えることが可能な樹脂パッドの製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂パッドの製造方法は、弾力性を与える樹脂を含む原料20を溶解するまで加熱し、互いに縫合された複数の布地12によって構成され立体的に湾曲する布型11に、溶解した原料20を注入し、布型11内の原料20を、弾力性が回復するまで冷却することを含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾力性を与える樹脂を含む原料を溶解するまで加熱し、
互いに縫合された複数の布地によって構成され立体的に湾曲する布型に、溶解した前記原料を注入し、
前記布型内の前記原料を、弾力性が回復するまで冷却する
樹脂パッドの製造方法。
【請求項2】
溶解した前記原料を前記布型に注入する前に、前記布型の内面に第1の樹脂フィルムを載置する
請求項1に記載の樹脂パッドの製造方法。
【請求項3】
溶解した前記原料を前記布型に注入した後に、第2の樹脂フィルムで前記原料を覆い、
前記原料の周囲の前記第1の樹脂フィルムと前記第2の樹脂フィルムを接合する
請求項2に記載の樹脂パッドの製造方法。
【請求項4】
前記原料は、スチレン系熱可塑性エラストマーと流動パラフィンを成分として含み、
スチレン系熱可塑性エラストマーに対する流動パラフィンの混合比が重量比で17~25の範囲にある
請求項1に記載の樹脂パッドの製造方法。
【請求項5】
流動パラフィンの前記混合比が重量比で19~23の範囲にある
請求項4に記載の樹脂パッドの製造方法。
【請求項6】
前記複数の布地はブラジャーの生地である
請求項1~5のうちの何れか一項に記載の樹脂パッドの製造方法。
【請求項7】
前記布型の開口部を形成する縁部には補強樹脂が塗布されている
請求項1~5のうちの何れか一項に記載の樹脂パッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は樹脂パッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブラジャーパッド(バストパッド)は、ブラジャーに装着され胸部の形状を補整する補整具として知られている。これに関連する技術として特許文献1は、ブラジャー用パッドの製造方法を開示している。特許文献1の製造方法では、ブラジャーパッドの主成分であるポリウレタンフォームが金型に充填され、所望の形状に成型されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の通り、ブラジャーパッドを樹脂成型で作成する場合には、所望の形状を有する金型又は樹脂型を用意する必要がある。したがって、様々な形状のブラジャーパッドを製造するには、個々の形状に合わせ金型又は樹脂型を作製する必要がある。つまり、金型又は樹脂型の種類と個数が増えるため、スケールメリットの恩恵を受けにくい。
【0005】
本開示は上述の事情を鑑みて成されたものであり、製造コストを抑えることが可能な樹脂パッドの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る樹脂パッドの製造方法は、弾力性を与える樹脂を含む原料を溶解するまで加熱し、互いに縫合された複数の布地によって構成され立体的に湾曲する布型に、溶解した前記原料を注入し、前記布型内の前記原料を、弾力性が回復するまで冷却することを含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、製造コストを抑えることが可能な樹脂パッドの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の実施形態に係る原料滴下装置の構成の一例を示す図である。
【
図3】布型を支持台に取り付けた状態を示す側面図である。
【
図4】本実施形態に係る樹脂パッドの製造工程を示す図である。
【
図5】本実施形態に係る樹脂パッドの製造工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の幾つかの実施形態について説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。本実施形態に係る樹脂パッド10(
図4(e)参照)は湾曲した形状と適度な弾力性(柔軟性)を有し、ブラジャーパッド、人工乳房の芯材、膝や肘などの関節の保護パッドなどとして使用できる。
【0010】
まず、本実施形態に係る原料滴下装置1について説明する。
図1は、原料滴下装置1の構成の一例を示す図である。
図2は、本実施形態に係る布型11の正面図である。
図3は、布型11を支持台7に取り付けた状態を示す側面図である。
図1に示すように、原料滴下装置1は、制御部2と、タンク3と、ヒータ4と、バルブ5と、温度センサ6と、支持台7と、質量計8とを備える。制御部2は入出力部を備える所謂コンピュータであり、ヒータ4の制御、温度センサ6を用いた温度計測、バルブ5の開閉制御、タンク3からの樹脂パッドの原料20の吐出量管理など、当該原料滴下装置1に関わる一連の制御を実行する。
【0011】
タンク3は樹脂パッドの原料20を貯留する。タンク3の底面3aにはノズル9が設けられ、その途中にはバルブ5が設けられている。バルブ5は例えば電磁弁である。バルブ5の開閉は制御部2によって制御される。
【0012】
ヒータ4はタンク3の外面を覆うように設けられ、タンク3内の原料20を加熱する。温度センサ6はタンク3内の原料20の温度を計測し、その計測結果を制御部2に出力する。
【0013】
支持台7は後述する布型11を支持する。
図3に示すように、支持台7は、布型11を支持する支持板7aと、支持板7aを支える脚部7bとを備える。支持板7aの略中央には、布型11が挿入される孔7cが形成されている。
【0014】
質量計8は布型11に注入された原料20の合計質量を計測するために用いられる。例えば、質量計8は、支持台7と布型11の総質量を計測する状態に置かれる。この場合、布型11に原料20を注入する前と後の間の質量の変化分から、布型11に注入された原料20の質量を算出することができ、容量に換算できる。なお、質量計は、原料20を注入する前の質量をゼロとして(即ち、支持台7と空の布型11の総質量をオフセットして)計測を開始してもよい。
【0015】
なお、
図1中の点線で示すように、質量計8による計測値は制御部2に出力されてもよい。制御部2は、注入前後の質量の差から原料20の質量や容量を算出する。この場合、制御部2は、算出した質量又は容量に応じてバルブ5の開閉を制御してもよい。例えば、算出した質量又は容量が予め設定された値に達したとき、制御部2は、それまで開いていたバルブ5を閉じる制御を行ってもよい。
【0016】
図2に示すように、布型11は互いに縫合された複数の布地12によって構成される。例えば、複数の布地12は同一の素材及び編成の生地によって形成される。この場合、各布地12に対して共通の柔軟性が得られるため、布型11の形状設計が容易になる。また、
図3に示すように布型11は立体的に湾曲する形状を有する。この立体形状は樹脂パッドの使用箇所に応じて適宜変更される。布型11はその外周に設けられる鍔部13によって支持される。鍔部13は支持台7の支持板7aに固定される。
【0017】
布地12の材料は織物でもよく、編物でもよく、或いは不織布でもよい。布地12の材料は、例えばブラジャーの生地(即ち、ブラジャーのカップの一部となる形状に裁断された生地)でもよい。この場合、ブラジャーの生地は、既成の型紙などを利用して作製することができる。型紙は、これまでのブラジャーの製造により、様々な形状のものが入手できる。従って、布型11の立体形状も様々な形状に形成できる。ブラジャーの生地の一例はポリエステル製の生地である。ポリエステル製の生地は広く使われており、肌触りも良く、溶解した原料20などの高温(140~150℃)の熱にも比較的強い。
【0018】
樹脂パッド10の原料20は、弾力性を与える樹脂(合成樹脂)を含む。具体的には、原料20は、スチレン系熱可塑性エラストマー(以下、説明の便宜上エラストマーと称する)と流動パラフィンを成分として含む。エラストマーに対する流動パラフィンの混合比は重量比で17~25の範囲に、好適には19~23の範囲に設定される。
【0019】
エラストマーの分量が多いほど(換言すれば、流動パラフィンの混合比が減るほど)原料20の樹脂の硬度は上がる。樹脂パッド10の形状を維持しつつ適度な弾力性を得るために、上述した範囲の混合比が設定される。また、上述した混合比を19~23の範囲に設定することで、人工乳房などに求められる自然の乳房に近い弾力性を得ることができる。なお、原料20は、必要に応じて着色料等の他の物質を含んでもよい。
【0020】
次に、本実施形態に係る樹脂パッド10の製造方法について説明する。
説明の便宜上、ブラジャーパッド又は人工乳房の芯材として適用できる樹脂パッド10の製造を想定して説明する。従って、布型11は、種々の形状に合わせてブラジャーカップ用の布地から選択された布地12を縫合することによって形成されている。
図4は、樹脂パッド10の製造工程を示す図である。
図5は、樹脂パッド10の製造工程を示すフローチャートである。
【0021】
まず、
図4(a)に示すように、準備工程として布型11を支持台7に設置する(ステップS1)。具体的には、布型11が支持板7aの孔7c内に位置するように、鍔部13を支持板7aに取り付ける。このとき、
図4(a)に示すように、布型11の湾曲方向(突出方向)を下方に向ける。また、バルブ5を閉じ、タンク3内に原料20を投入しておく。
【0022】
次に、
図4(b)に示すように、布型11の内面に樹脂フィルム(第1の樹脂フィルム)15を載置する(ステップS2)。樹脂フィルム15は、布型11の内面11aよりも大きい面積と寸法を有するウレタン系のフィルムである。樹脂フィルム15は、溶融した原料20の注入により、自然に下方にずれるので、内面11aに完全に密着させる必要はない。
【0023】
次に、ヒータ4(
図1参照)をオンにし、タンク3内の原料20を溶解するまで(即ち、溶解温度以上に)加熱する(ステップS2)。溶解温度は、例えば145℃である。その後、ヒータ4は、原料20の溶解状態を維持するために加熱を維持する。ヒータ4の出力は、温度センサ6によって計測された温度に基づいて制御部2が制御する。なお、ステップS3の加熱は、ステップS4の注入までに行えばよい。従って、ステップS3を行う順番は上述のものに限られない。
【0024】
次に、バルブ5を開き、溶解した原料20を布型11に注入する(ステップS4)。溶解した原料20は、重力によりノズル9を介して布型11内に流入する。注入する原料20の量は、質量計8による質量の増加分を監視することによって決定できる。或いは、バルブ5の開時間を定めることによっても決定できる。何れの場合も、所定の量が注入された場合、バルブ5を閉じ、原料20の注入を終了する(
図4(c)参照)。後者の場合、タンク3内の原料20の残量に応じてノズル9からの単位時間当たりの吐出量が変化する。そこで、タンク3内の原料20の残量に対する単位時間当たりの吐出量の関数を予め求めておき、求めた関数に基づいてバルブ5の開時間を設定する。これにより、所望の量の原料20を布型11に注入できる。
【0025】
次に、
図4(d)に示すように、樹脂フィルム(第2の樹脂フィルム)16で原料20の上面を覆い(ステップS5)、原料20を弾力性が回復するまで冷却する(ステップS6)。樹脂フィルム16も、樹脂フィルム15と同じく、ウレタン系のフィルムである。ステップS6の冷却は常温に達するまで行えばよく、例えば自然放冷を採用できる。
【0026】
その後、硬化した(弾力性が回復した)原料20を、樹脂フィルム15及び樹脂フィルム16と共に布型11から取り出し、原料20の周囲(即ち、原料20の縁の近傍)で、樹脂フィルム15及び樹脂フィルム16を互いに接合する(ステップS7)。この接合により、原料20は樹脂フィルム15及び樹脂フィルム16によって封じられる。なお、この接合は、コテや高周波ウェルダ等の加熱器具を用いて実行することができる。
【0027】
接合後の樹脂フィルム15、16の余剰分は、周知の切断具によって除去される。これにより、
図4(e)に示すブラジャーパッド又は人工乳房の芯材として適用できる樹脂パッド10が完成する。樹脂パッド10は、例えば予め縫製されたパッド用布(図示せず)に装着され、ブラジャーに設けられたパッド用ポケット(図示せず)或いはカップと胸部の間に挿入される。
【0028】
なお、樹脂パッド10の用途によっては、樹脂フィルム15及び樹脂フィルム16が不要な場合もあり得る。この場合、ステップS2及びステップS5の工程は省略できる。
【0029】
本実施形態では、布型を構成する材料として織物、編物、或いは不織布等の布地が採用される。布地は金属や樹脂と比べて安価であり、形状の自由度も高い。従って、金型や樹脂型に比べ、布型は安価に作製することができる。布型を用いることによって、製造コストを抑えた樹脂パッドを作製できる。また、金型や樹脂型に樹脂フィルムの溶着が発生した場合、溶着した樹脂フィルムの除去が必要になる。しかしながら、布型を採用した場合は交換で対処できる。
【0030】
更に、布型を構成する布地としてブラジャーの生地を採用した場合、この生地を縫合することによって、自ずと胸部を模した形状の型が完成する。従って、完成した樹脂パッドを、ブラジャーパッド又はその芯材として直ちに使用できる。また、ブラジャーの生地は、様々な胸部の形状に合わせて作製されているため、これらの形状に合わせた様々な布型を容易且つ安価に作成できる。
【0031】
なお、
図2に示すように、布型11の開口部を形成する縁部11bには補強樹脂14が塗布されていてもよい。例えば、補強樹脂14は、
図2中のハッチングで示す、縁部11bを含めた布型11と鍔部13の接続部に予め塗布される。なお、補強樹脂14は布地12に含浸されていてもよい。
【0032】
補強樹脂14は主成分としてシリコーン樹脂を含み、常温で布型11よりも硬い柔軟性を有する。従って、補強樹脂14の塗布によって、布型11の開口部の形状を維持することができる。例えば、原料20を布型11に注入する際、開口部の撓みや皺などの余計な変形の発生を抑制できる。その結果、原料20が硬化する際、原料20の縁部の変形も抑制できる。
【符号の説明】
【0033】
1 原料滴下装置
2 制御部
3 タンク
3a 底面
4 ヒータ
5 バルブ
6 温度センサ
7 支持台
7a 支持板
7b 脚部
7c 孔
8 質量計
9 ノズル
10 樹脂パッド
11 布型
11a 内面
11b 縁部
12 布地
13 鍔部
14 補強樹脂
15 樹脂フィルム(第1の樹脂フィルム)
16 樹脂フィルム(第2の樹脂フィルム)
20 原料