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特開2024-94711極低温流体の輸送システムおよび輸送方法
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  • 特開-極低温流体の輸送システムおよび輸送方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094711
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】極低温流体の輸送システムおよび輸送方法
(51)【国際特許分類】
   F02M 21/02 20060101AFI20240703BHJP
   F28D 7/00 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
F02M21/02 G
F28D7/00 Z
F02M21/02 U
F02M21/02 301A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211432
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100127797
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 晴洋
(72)【発明者】
【氏名】滝田 将弘
(72)【発明者】
【氏名】前田 厚史
(72)【発明者】
【氏名】小林 泰三
(72)【発明者】
【氏名】野村 宗充
【テーマコード(参考)】
3L103
【Fターム(参考)】
3L103AA05
(57)【要約】
【課題】液化水素またはその気化ガスを輸送する輸送システムにおいて、システム構成の複雑化を回避しコストダウンを図る。
【解決手段】極低温流体の輸送システム1は、水素ガスを供給する極低温流体供給源11と、極低温流体供給源11から需要家設備14へ水素ガスを輸送する輸送管路2と、輸送管路2に配置され、水素ガスを昇圧する圧縮機12と、輸送管路2において圧縮機12よりも下流側に配置され、水素ガスを昇温する熱交換器13と、圧縮機12と熱交換器13との間において輸送管路2から分岐されるバイパス管路22と、水素ガスの輸送先を、圧縮機12の初期使用時にはバイパス管路22とし、需要家設備14へ水素ガスを供給する通常時には圧縮機12よりも下流側の輸送管路2とするよう切り替える第1自動弁31および第2自動弁32と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化水素またはその気化ガスからなる極低温流体の供給源と、
前記供給源から需要家へ前記極低温流体を輸送する輸送管路と、
前記輸送管路に配置され、前記極低温流体の圧力を昇圧する昇圧機器と、
前記輸送管路において前記昇圧機器よりも下流側に配置され、前記極低温流体の温度を昇温する昇温機器と、
前記昇圧機器と前記昇温機器との間において前記輸送管路から分岐されるバイパス管路と、
前記極低温流体の輸送先を、前記昇圧機器の初期使用時には前記バイパス管路とし、前記需要家へ前記極低温流体を供給する通常時には前記昇圧機器よりも下流側の前記輸送管路とするよう切り替える切り替え装置と、
を備える極低温流体の輸送システム。
【請求項2】
請求項1に記載の輸送システムにおいて、
前記輸送管路の前記昇圧機器の出口における前記極低温流体の温度を検出するセンサを備え、
前記切り替え装置は、前記センサが検出する温度が所定の閾値よりも高温であるとき、前記極低温流体の輸送先を前記昇圧機器よりも下流側の前記輸送管路とする、極低温流体の輸送システム。
【請求項3】
請求項1に記載の輸送システムにおいて、
前記昇圧機器が、前記極低温流体を加圧して送り出す回転機器である、極低温流体の輸送システム。
【請求項4】
請求項1に記載の輸送システムにおいて、
前記昇温機器が、前記極低温流体と熱交換する熱媒が流通する熱交換器である、極低温流体の輸送システム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の輸送システムにおいて、
前記切り替え装置は、前記輸送管路、前記バイパス管路、もしくは前記輸送管路と前記バイパス管路との分岐点に配置された弁装置である、極低温流体の輸送システム。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の輸送システムにおいて、
前記バイパス管路の終端部に配置され、前記極低温流体を処理または回収するターミナル設備をさらに備える、極低温流体の輸送システム。
【請求項7】
液化水素またはその気化ガスからなる極低温流体を輸送する輸送管路に順次配置された昇圧機器、昇温機器により、前記極低温流体の圧力の昇圧、温度の昇温を順次行った上で、需要家へ前記極低温流体を輸送するにあたり、
前記昇圧機器の初期使用時には、前記極低温流体を、前記昇圧機器と前記昇温機器との間において前記輸送管路から分岐されるバイパス管路へ輸送し、
前記初期使用時以降の通常時には、前記極低温流体を、前記昇圧機器よりも下流側の前記輸送管路を用いて前記需要家に前記極低温流体を輸送する、極低温流体の輸送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液化水素またはその気化ガスを輸送する輸送システムおよび輸送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
極低温流体を使用する需要家設備と、極低温流体の貯蔵タンク等の供給源との間には、当該極低温流体を輸送する輸送システムを設置する必要がある。特許文献1には、LNG(液化天然ガス)の輸送システムとして、LNGの輸送管路に加え、LNGを圧送する昇圧機器としてのポンプと、前記ポンプの下流側に配置されLNGを昇温する熱交換器と、を備えるシステムが開示されている。極低温流体を圧送する昇圧機器は、無用なボイルオフガスの発生を抑制する、所定の圧送特性を発現させること等を目的として、輸送システムを起動させるスタートアップ時に所定温度までクールダウンを図る必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-209926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、需要家設備で利用される極低温流体として、液化水素が活用されつつある。液化水素を輸送する輸送システムの場合、前記スタートアップ時には、昇圧機器のクールダウンのため、-253℃近傍の水素ガスを輸送管路に流すことになる。この場合、前記輸送管路が周囲の空気を液化させるような極低温に冷却されるため、液体空気が周辺機器に悪影響を与えないように処置を施す必要が生じる。また、昇圧機器の下流側に配置される熱交換器などの昇温機器についても、上掲の極低温に耐性を備える構造体とせねばならない。これらの処置は、輸送システムのコストアップを招来する。
【0005】
本開示の目的は、液化水素またはその気化ガスを輸送する輸送システムおよび輸送方法において、システム構成の複雑化を回避しコストダウンを図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一局面に係る極低温流体の輸送システムは、液化水素またはその気化ガスからなる極低温流体の供給源と、前記供給源から需要家へ前記極低温流体を輸送する輸送管路と、前記輸送管路に配置され、前記極低温流体の圧力を昇圧する昇圧機器と、前記輸送管路において前記昇圧機器よりも下流側に配置され、前記極低温流体の温度を昇温する昇温機器と、前記昇圧機器と前記昇温機器との間において前記輸送管路から分岐されるバイパス管路と、前記極低温流体の輸送先を、前記昇圧機器の初期使用時には前記バイパス管路とし、前記需要家へ前記極低温流体を供給する通常時には前記昇圧機器よりも下流側の前記輸送管路とするよう切り替える切り替え装置と、を備える。
【0007】
本開示の他の局面に係る極低温流体の輸送方法は、液化水素またはその気化ガスからなる極低温流体を輸送する輸送管路に順次配置された昇圧機器、昇温機器により、前記極低温流体の圧力の昇圧、温度の昇温を順次行った上で、需要家へ前記極低温流体を輸送するにあたり、前記昇圧機器の初期使用時には、前記極低温流体を、前記昇圧機器と前記昇温機器との間において前記輸送管路から分岐されるバイパス管路へ輸送し、前記初期使用時以降の通常時には、前記極低温流体を、前記昇圧機器よりも下流側の前記輸送管路を用いて前記需要家に前記極低温流体を輸送する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、液化水素またはその気化ガスを輸送する輸送システムおよび輸送方法において、システム構成の複雑化を回避しコストダウンを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、比較例に係る極低温流体の輸送システムの構成を簡略的に示す構成図である。
図2図2は、本開示の実施形態に係る極低温流体の輸送システムの構成を示す構成図である。
図3図3は、前記輸送システムの制御構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本開示に係る極低温流体の輸送システムの実施形態を詳細に説明する。本開示の輸送システムは、液化水素または水素ガスの供給源から需要家の水素ガス利用設備へ、水素ガスを輸送する各種の設備の適用できる。例えば、液化水素の受け入れ施設の液化水素貯蔵タンクから、水素ガスを燃料として用いる発電設備へ水素ガスを送ガスする輸送システムに、本開示の輸送システムは好適に適用できる。
【0011】
[本開示の比較例の説明]
本開示に係る極低温流体の輸送システムの説明に先立ち、本開示の前段技術である比較例に係る輸送システムについて説明する。図1は、比較例に係る極低温流体の輸送システム100の構成を簡略的に示す構成図である。輸送システム100は、極低温流体供給源101、圧縮機102、熱交換器103および輸送管路200を含み、需要家設備104へ水素ガスを送ガスする輸送システムである。
【0012】
極低温流体供給源101は、液化水素貯蔵タンク等の何らかの水素ガス供給源である。輸送管路200は、極低温流体供給源101から需要家設備104へ水素ガスを輸送する管路である。圧縮機102は、輸送管路200に配置され、水素ガスの圧力を昇圧する昇圧機器である。熱交換器103は、圧縮機102よりも下流側において輸送管路200に配置され、輸送される水素ガスを需要家のデマンド温度に加温する昇温機器である。これらの機器の詳細については、後述の実施形態の説明の際に述べる。
【0013】
輸送システム100の通常運転時、極低温流体供給源101から-253℃近傍の極低温の水素ガスが、輸送管路200を通して圧縮機102へ導入される。圧縮機102は、輸送管路200において水素ガスを圧送するため、導入された水素ガスを昇圧して下流側へ送り出す。この昇圧により、水素ガスの温度は-200℃~-10℃程度に昇温される。その後、水素ガスは熱交換器103に導入され、前記デマンド温度に加温されて需要家設備104へ送られる。
【0014】
輸送システム100を起動させるスタートアップ時には、常温状態の圧縮機102や輸送管路200を所定温度まで予冷するクールダウンが行われる。クールダウンの際には、圧縮機102を稼働させず、極低温流体供給源101が持つ供給圧で、-230℃クラスの極低温の水素ガスが輸送管路200に供給される。つまり、通常運転時には流れることのない、液体空気を生じさせるような極低温の流体が、圧縮機102の下流側の輸送管路200および熱交換器103を流れることになる。このため、液体空気が周辺機器に悪影響を与えないように、輸送管路200の下方に液受けトレイを配置する等の処置を施す必要が生じる。また、熱交換器103についても、-230℃クラスの極低温に耐性を備える構造体;例えば脆化が生じないステンレスなどの高級素材を用い、なおかつ液体空気対策を備えた構造体とせねばならない。これらの処置は、輸送システム100のコストアップを招来する。
【0015】
[本開示の実施形態の説明]
図2は、本開示の実施形態に係る極低温流体の輸送システム1の構成を示す構成図である。輸送システム1は、機器構成として極低温流体供給源11、圧縮機12(昇圧機器)熱交換器13(昇温機器)、ターミナル設備15および輸送管路2を含み、需要家設備14へ水素ガスを送ガスする輸送システムである。また、輸送システム1は、管路構成として、輸送管路2およびその下流管路21と、輸送管路2から分岐されたバイパス管路22と、第1自動弁31および第2自動弁32(切り替え装置/弁装置)とを含む。
【0016】
極低温流体供給源11は、液化水素またはその気化ガスである水素ガスの供給源である。例えば、地上に設置された液化水素貯蔵タンク、液化水素の輸送船または輸送車、液化水素の生産設備に付設された貯蔵タンク、液化水素のBOG(ボイルオフガス)の回収設備などを、極低温流体供給源11として例示することができる。
【0017】
圧縮機12は、輸送管路2に配置され、水素ガスを加圧して送り出す回転機器である。圧縮機12としては、圧縮室およびピストンを備えたレシプロ式圧縮機などの容積型圧縮機、羽根車を備えた遠心型圧縮機などを例示できる。圧縮機12は、輸送管路2の上流側から水素ガスを取り入れ、当該水素ガスの圧力を昇圧して下流側に送り出すことが可能な他の昇圧機器に置き換えることができる。例えば、水素ガスを圧送可能なポンプや、ブロワー等の他の回転機器を、圧縮機12に代替して配置しても良い。
【0018】
熱交換器13は、圧縮機12よりも下流側において輸送管路2に配置され、水素ガスの温度を昇温する。熱交換器13は、水素ガスと熱交換する熱媒が流通する昇温機器である。熱交換器13としては、低温流体を対象とする汎用の熱交換器を用いることができる。例えば、輸送管路2に接続され水素ガスが流される蛇行管と、前記蛇行管を収容するシェルと、前記シェルを通して熱交換媒体を循環させる循環系統とを備える機器を、熱交換器13として使用できる。熱交換媒体としては、水、温水、不凍液などの液体を用いることができる。前記蛇行管に空気を送風する空冷式の熱交換器や、大気と熱交換する大気加熱式の熱交換器を、熱交換器13として使用しても良い。
【0019】
需要家設備14は、水素ガスを燃焼用途として用いる設備や、水素ガスを電気化学的用途として用いる設備である。燃焼用途の設備としては、発電所の水素ガスタービンや、工場等で使用される水素ガスボイラーを例示できる。電気化学的用途としては、水素と酸素の化学反応で発電を行う大規模燃料電池設備を例示できる。
【0020】
ターミナル設備15は、水素ガスの処理設備または回収設備である。例えば、水素ガスを大気中に放散させるベントスタックや、水素ガスを燃焼させる設備を、ターミナル設備15として設置できる。あるいは、ターミナル設備15を水素ガスの回収タンクとしても良い。前記回収タンクに回収した水素ガスは、他の水素ガス輸送管路のパージ用に用いる、水素ガスを燃料とする機器や燃料電池設備へ送ガスする、などの再利用が可能である。
【0021】
輸送管路2は、極低温流体供給源11から需要家設備14へ水素ガスを輸送する管路である。輸送管路2において、特に極低温の水素ガスが流れることが想定される領域は、真空断熱層を有する二重管構造とする、他の断熱処理を施す、あるいは液体空気を受け取る液受けトレイを配置する、などの処置を施すことが望ましい。
【0022】
バイパス管路22は、圧縮機12と熱交換器13との間に設けられた分岐部Brにおいて、輸送管路2から分岐されている管路である。すなわち、分岐部Brよりも下流において輸送管路2は、当該輸送管路2の分岐部Brより下流側に位置する下流管路21と、バイパス管路22とに分岐している。バイパス管路22の終端部は、ターミナル設備15に接続されている。バイパス管路22に対しても、断熱処理や液受けトレイの配置などを行っても良い。
【0023】
第1自動弁31は、下流管路21(輸送管路2)において分岐部Brと熱交換器13との間に配置され、下流管路21を開閉する弁装置である。第2自動弁32は、バイパス管路22に配置され、バイパス管路22を開閉する弁装置である。第1自動弁31および第2自動弁32を、手動操作の弁装置としても良い。また、第1自動弁31および第2自動弁32に代えて、分岐部Brに三方弁を配置しても良い。
【0024】
分岐部Brの上流側であって圧縮機12の出口付近には、温度センサ4(センサ)が配置されている。温度センサ4は、圧縮機12の出口付近において、輸送管路2内を流れる水素ガスの温度を検出する。
【0025】
輸送システム1から需要家設備14へ水素ガスを送ガスする当該輸送システム1の通常時、輸送管路2には-253℃近傍の極低温の水素ガスが流れる。一方、未使用または休止中の輸送システム1では、圧縮機12や輸送管路2は常温である。このため、輸送システム1の起動または再起動から前記通常運転に至るまでの間の初期使用時には、圧縮機12や輸送管路2を所定温度まで予冷するクールダウンが行われる。次述の制御構成は、上記の「通常時」と「初期使用時」とで、水素ガスの輸送先を切り替える制御を行わせるための構成である。
【0026】
[制御構成および動作]
図3は、輸送システム1の制御構成を示すブロック図である。輸送システム1は、第1自動弁31および第2自動弁32の開閉動作を制御する開閉制御装置5(切り替え装置)を備える。開閉制御装置5は、所定のプログラムで動作するプロセッサを含み、機能的に情報取得部51を備えている。情報取得部51は、温度センサ4から圧縮機12の出口を流れる流体温度情報を取得し、圧縮機12の動作を制御する圧縮機コントローラ6から当該圧縮機12の動作情報を取得する。
【0027】
開閉制御装置5は、第1自動弁31を「開」とする一方で、第2自動弁32を「閉」とすることで、極低温流体供給源11から供給される水素ガスを、輸送管路2およびその下流管路21を通して需要家設備14に供給させる。この開閉モードは、輸送システム1の通常運転時における自動弁31、32の開閉状態である。これに対し開閉制御装置5は、第1自動弁31を「閉」とする一方で、第2自動弁32を「開」とすることで、極低温流体供給源11から供給される水素ガスを、バイパス管路22を通してターミナル設備15に供給させる。この開閉モードは、圧縮機12の初期使用時、つまり輸送システム1のスタートアップ時に用いられる自動弁31、32の開閉状態である。
【0028】
図2を参照して、需要家設備14に送ガスを行う通常運転時には、極低温流体供給源11から-230℃~-250℃程度の水素ガスが、圧縮機12へ供給される。極低温流体供給源11が大規模の液化水素貯蔵タンクである場合、当該タンクの上層の気相部からBOG(水素ガス)が輸送管路2へ送り出される。この場合、圧縮機12を稼働させずとも、タンク内圧力に基づき水素ガスは輸送管路2を流れる。圧縮機12が稼働すれば、当該圧縮機12の吸引圧により水素ガスの積極的な流動が輸送管路2に生じる。
【0029】
圧縮機12へ導入された水素ガスは、需要家設備14に求められている供給圧に加圧され、送り出される。圧縮機12の出口における水素ガスの温度は、昇圧によって-10℃~-200℃程度の範囲、例えば-110℃に昇温する。その後、水素ガスは、分岐部Brから下流管路21に入り、熱交換器13に導入される。熱交換器13における熱交換媒体との熱交換により、水素ガスは需要家設備14のデマンド温度まで昇温される。
【0030】
これに対し、スタートアップ時には、圧縮機12を停止させた状態で、極低温流体供給源11から-230℃~-250℃程度の水素ガスが輸送管路2へ送り出される。これにより、圧縮機12および輸送管路2のクールダウンが図られる。圧縮機12を通過した水素ガスは、分岐部Brからバイパス管路22に入り、ターミナル設備15へ送られる。従って、液体空気を発生させるような極低温の水素ガスは、下流管路21および熱交換器13を流れない。
【0031】
第1自動弁31および第2自動弁32の開閉制御の最もシンプルな態様は、輸送システム1の使用フェーズに基づく制御である。この態様では、開閉制御装置5は、輸送システム1のスタートアップフェーズとして予め定められた期間、第1自動弁31を「閉」、第2自動弁32を「開」とする。この制御により、極低温の水素ガスがバイパス管路22に逃がされる。そして、前記期間の経過後、開閉制御装置5は、第1自動弁31を「開」、第2自動弁32を「閉」として、需要家設備14への送ガスを行わせる。
【0032】
第1自動弁31および第2自動弁32の開閉制御のより緻密な態様の一つは、情報取得部51が温度センサ4から取得する流体温度情報に基づく制御である。下流管路21および熱交換器13への流通を回避すべきは、空気を液化させる-196℃以下の温度を持つ水素ガスである。換言すると、水素ガスの温度が-196℃よりも十分高くなれば、下流管路21および熱交換器13へ当該水素ガスを流しても差し支えない。
【0033】
この点に鑑み、開閉制御装置5は、温度センサ4が検出する水素ガスの温度が所定の閾値(例えば-160℃)よりも低温であるとき、第1自動弁31を「閉」、第2自動弁32を「開」として、水素ガスをバイパス管路22に逃がす。一方、温度センサ4の検出温度が前記閾値よりも高いとき、開閉制御装置5は第1自動弁31を「開」、第2自動弁32を「閉」として、送ガスを行わせる。この態様によれば、水素ガスが下流管路21および熱交換器13に流しても差し支えない温度であることを確認した上で、水素ガスの輸送先をバイパス管路22から輸送管路2の下流管路21に切り替える運用が行える。
【0034】
第1自動弁31および第2自動弁32の開閉制御のより緻密な態様の他の一つは、情報取得部51が圧縮機コントローラ6から取得する動作情報に基づく制御である。既述の通り、圧縮機12をクールダウンするスタートアップ時には、圧縮機12は停止状態とされる。クールダウンが済んで圧縮機12が動作を開始すれば、水素ガスが昇圧されることに伴い、水素ガスの温度も上昇する。すなわち、下流管路21および熱交換器13へ水素ガスを流せるようになる。
【0035】
この点に鑑み、開閉制御装置5は、スタートアップの開始後、情報取得部51が圧縮機コントローラ6から圧縮機12の動作開始を示す動作情報を取得するまで、第1自動弁31を「閉」、第2自動弁32を「開」として、水素ガスをバイパス管路22に逃がす。一方、情報取得部51が圧縮機12の動作開始を示す動作情報を取得すると、開閉制御装置5は第1自動弁31を「開」、第2自動弁32を「閉」に切り替えて、送ガスを行わせる。この態様によれば、圧縮機12の動作に連動して水素ガスの輸送先をバイパス管路22から輸送管路2の下流管路21に切り替えるので、センサ類に依存しない制御が可能となる。
【0036】
以上説明した本実施形態の輸送システム1によれば、輸送管路2に昇温機器としての熱交換器13が配置されているので、輸送する水素ガスを需要家設備14のデマンドに応じた温度に昇温させることができる。また、昇圧機器としての圧縮機12の初期使用時には、クールダウン用の極低温の水素ガスをバイパス管路22へ逃がすことができるので、圧縮機12の下流側の輸送管路2(下流管路21)や熱交換器13には極低温の水素ガスを流さずに済む。このため、下流管路21に対する液体空気発生対策や、熱交換器13の極低温耐性化を回避することができる。従って、極低温流体の輸送システム1の大幅なコストダウンを図ることができる。
【0037】
本明細書で開示する要素の機能は、開示された機能を実行するように構成またはプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、および/または、それらの組み合わせ、を含む回路または処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路または回路と見なされる。本開示において、回路、ユニット、または手段は、列挙された機能を実行するハードウェアであるか、または、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されているハードウェアであってもよいし、あるいは、列挙された機能を実行するようにプログラムまたは構成されているその他の既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、手段、またはユニットはハードウェアとソフトウェアの組み合わせであり、ソフトウェアはハードウェアおよび/またはプロセッサの構成に使用される。
【0038】
[本開示のまとめ]
以上説明した具体的実施形態には、以下の構成を有する開示が含まれている。
【0039】
本開示の第1の態様に係る極低温流体の輸送システムは、液化水素またはその気化ガスからなる極低温流体の供給源と、前記供給源から需要家へ前記極低温流体を輸送する輸送管路と、前記輸送管路に配置され、前記極低温流体の圧力を昇圧する昇圧機器と、前記輸送管路において前記昇圧機器よりも下流側に配置され、前記極低温流体の温度を昇温する昇温機器と、前記昇圧機器と前記昇温機器との間において前記輸送管路から分岐されるバイパス管路と、前記極低温流体の輸送先を、前記昇圧機器の初期使用時には前記バイパス管路とし、前記需要家へ前記極低温流体を供給する通常時には前記昇圧機器よりも下流側の前記輸送管路とするよう切り替える切り替え装置と、を備える。
【0040】
第1の態様によれば、輸送管路に昇温機器が配置されているので、輸送する極低温流体を需要家のデマンドに応じた温度に昇温させることができる。また、昇圧機器の初期使用時には、クールダウン用の極低温流体をバイパス管路へ逃がすことができるので、前記昇圧機器の下流側の輸送配管や前記昇温機器には前記極低温流体は流れない。このため、前記輸送配管に対する液体空気発生対策や、前記昇温機器の極低温耐性化を回避することができる。従って、極低温流体の輸送システムのコストダウンを図り得る。
【0041】
第2の態様に係る極低温流体の輸送システムは、第1の態様の輸送システムにおいて、前記輸送管路の前記昇圧機器の出口における前記極低温流体の温度を検出するセンサを備え、前記切り替え装置は、前記センサが検出する温度が所定の閾値よりも高温であるとき、前記極低温流体の輸送先を前記昇圧機器よりも下流側の前記輸送管路とする。
【0042】
第2の態様によれば、昇圧機器の出口温度に基づき、極低温流体の輸送先が輸送管路もしくはバイパス管路に切り替えられる。これにより、例えば、極低温流体が昇圧機器よりも下流側の輸送管路や昇温機器に流しても差し支えない温度であることを確認した上で、輸送先をバイパス管路から前記輸送管路に切り替えるといった運用が可能となる。
【0043】
第3の態様に係る極低温流体の輸送システムは、第1または第2の態様の輸送システムにおいて、前記昇圧機器が、前記極低温流体を加圧して送り出す回転機器である。
【0044】
第3の態様によれば、回転機器のクールダウンの際に、輸送管路および昇温機器を保護することができる。
【0045】
第4の態様に係る極低温流体の輸送システムは、第1~第3の態様の輸送システムにおいて、前記昇温機器が、前記極低温流体と熱交換する熱媒が流通する熱交換器である。
【0046】
第4の態様によれば、回転機器のクールダウンの際において、熱交換器には極低温流体が流れない。このため、例えば熱交換部分の構造を簡素化し、また構成材料としても安価な材料を用いることが可能となる。
【0047】
第5の態様に係る極低温流体の輸送システムは、第1~第4の態様の輸送システムにおいて、前記切り替え装置は、前記輸送管路、前記バイパス管路、もしくは前記輸送管路と前記バイパス管路との分岐点に配置された弁装置である。
【0048】
第5の態様によれば、弁装置の操作により、極低温流体の輸送先を輸送管路またはバイパス管路へ容易に切り替えることができる。
【0049】
第6の態様に係る極低温流体の輸送システムは、第1~第6の態様の輸送システムにおいて、前記バイパス管路の終端部に配置され、前記極低温流体を処理または回収するターミナル設備をさらに備える。
【0050】
第6の態様によれば、バイパス管路に逃がした極低温流体を、ターミナル設備により、無害化する、廃棄する、もしくは再利用するなど、適宜処理することができる。
【0051】
第7の態様に係る極低温流体の輸送方法は、液化水素またはその気化ガスからなる極低温流体を輸送する輸送管路に順次配置された昇圧機器、昇温機器により、前記極低温流体の圧力の昇圧、温度の昇温を順次行った上で、需要家へ前記極低温流体を輸送するにあたり、前記昇圧機器の初期使用時には、前記極低温流体を、前記昇圧機器と前記昇温機器との間において前記輸送管路から分岐されるバイパス管路へ輸送し、前記初期使用時以降の通常時には、前記極低温流体を、前記昇圧機器よりも下流側の前記輸送管路を用いて前記需要家に前記極低温流体を輸送する。
【0052】
第7の態様によれば、昇圧機器の初期使用時には、クールダウン用の極低温流体をバイパス管路へ逃がすことができるので、前記昇圧機器の下流側の輸送配管や前記昇温機器には前記極低温流体は流れない。このため、前記輸送配管に対する液体空気発生対策や、前記昇温機器の極低温耐性化を回避することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 輸送システム
11 極低温流体供給源
12 圧縮機(昇圧機器/回転機器)
13 熱交換器(昇温機器)
14 需要家設備
15 ターミナル設備
2 輸送管路
21 下流管路(昇圧機器よりも下流側の輸送管路)
22 バイパス管路
31 第1自動弁(切り替え装置/弁装置)
32 第2自動弁(切り替え装置/弁装置)
4 温度センサ(センサ)
5 開閉制御装置(切り替え装置)
Br 分岐部(輸送管路とバイパス管路との分岐点)
図1
図2
図3