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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094732
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】伸縮性経編地の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D04B 21/00 20060101AFI20240703BHJP
   D04B 21/18 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
D04B21/00 A
D04B21/18
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211468
(22)【出願日】2022-12-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】592117623
【氏名又は名称】ウラベ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神川 健夫
(72)【発明者】
【氏名】藤内 寿志
【テーマコード(参考)】
4L002
【Fターム(参考)】
4L002AA05
4L002AA06
4L002AB02
4L002AC01
4L002AC07
4L002CA00
4L002CA02
4L002CA04
4L002EA00
4L002EA06
4L002FA02
4L002FA03
(57)【要約】
【課題】伸縮を繰り返した後においても裁断端部にカールが生じにくくする。
【解決手段】編成組織Aは、1繰り返し単位(1R)の全てのコースにおいてループが形成されており、連続したコースにおいて同一ウェール上で編み目が形成されていない。編成組織Bは、1繰り返し単位(1R)の全てのコースにおいてループが形成されており、1コース毎に二目編みWと一目編みXとが交互に繰り返されている。編成組織Cは、1繰り返し単位(1R)の全てのコースにおいてループが形成されていない。編成組織Dは、1繰り返し単位(1R)の全てのコースにおいてループが形成されておらず、編成組織Cとは異なっている。編成組織A~Dの各々は、コース方向に延びる仮想線V1~V4に関して1/2繰り返し単位(R/2)が交互に線対称に配置されて千鳥状に編成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非弾性糸で編成される編成組織A、第1弾性糸で編成される編成組織B、第2弾性糸で編成される編成組織C、および、第3弾性糸で編成される編成組織Dが、シンカーループ面側からこの順に編成される伸縮性経編地であって、
前記編成組織Aは、第1筬によってフルセットで編成され、1繰り返し単位の全てのコースにおいてループが形成されており、連続したコースにおいて同一ウェール上で編み目が形成されておらず、コース方向に延びる仮想線に関して1/2繰り返し単位が交互に線対称に配置されて千鳥状に編成されており、
前記編成組織Bは、第2筬によってフルセットで編成され、1繰り返し単位の全てのコースにおいてループが形成されており、1コース毎に二目編みと一目編みとが交互に繰り返され、コース方向に延びる仮想線に関して1/2繰り返し単位が交互に線対称に配置されて千鳥状に編成されており、
前記編成組織Cは、第3筬によってフルセットで編成され、1繰り返し単位の全てのコースにおいてループが形成されておらず、コース方向に延びる仮想線に関して1/2繰り返し単位が交互に線対称に配置されて千鳥状に編成されており、
前記編成組織Dは、第4筬によってフルセットで編成され、1繰り返し単位の全てのコースにおいてループが形成されておらず、コース方向に延びる仮想線に関して1/2繰り返し単位が交互に線対称に配置されて千鳥状に編成されており、前記編成組織Cとは異なっている、伸縮性経編地の製造方法。
【請求項2】
前記編成組織Aは、1繰り返し単位が4コースのアトラス組織である、請求項1に記載の伸縮性経編地の製造方法。
【請求項3】
前記編成組織Cのシンカーループは、前記編成組織Aのシンカーループとは、2コース連続して同一方向に亘っていない、請求項1または2に記載の伸縮性経編地の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮性経編地の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インナー衣料の分野では、一般的に、生地を裁断した後、縁を折り返して縫い付けたり、細幅レースなどの端処理不要の生地を縫い付けるといった縁処理が行なわれる。しかし、縁処理した部分だけが分厚くなることで、インナー衣料の上にタイトなシルエットのアウター衣料を着用した場合に、縁処理した部分が凸状にアウター衣料の外観に表れてしまうことがある。そのため、生地を裁断したまま縁処理をせずに衣料を製造することができる分割可能な伸縮性経編地などが用いられている。
【0003】
分割可能な伸縮性経編地を開示した先行文献として、特許第3488947号(特許文献1)がある。特許文献1に記載された分割可能な伸縮性経編地は、非弾性糸で編成された経編の地組織に弾性糸が挿入または編成されている複数の伸縮性経編地片から成り、対向する一対の伸縮性経編地片間に少なくとも1ウェールの抜き糸による編地を配置し、この抜き糸による編地に対向するそれぞれの伸縮性経編地片をそれぞれの耳弾性糸で編成することによって隣接する伸縮性経編地片が結合されており、且つ上記複数の伸縮性経編地片が振りの異なる少なくとも2種の弾性糸と少なくとも一種の非弾性糸とからなり、上記耳弾性糸が、伸縮性経編地片に用いられる少なくとも2種の弾性糸中の振りの大きい弾性糸と同一の編組織で編成され、且つ振りの大きい弾性糸よりも太い弾性糸であり、且つ伸縮性経編地の組織が6コース-完全組織である。
【0004】
また、端処理不要な伸縮性経編地を開示した先行技術文献として、特許第4102829号(特許文献2)がある。特許文献2に記載された伸縮性経編地は、非弾性糸と弾性糸とを組み合わせて編成された伸縮性経編地であって、非弾性糸が、1コース毎に1ウェール分の振り幅で1繰り返し単位では合計2ウェール分の振り幅でウェール方向に振られて全てのコースでループを形成する編成組織aと、弾性糸のうち第1の弾性糸が、同じコース内で複数針間オーバーラップするコースと、コース間で前のコースから1ウェール分の振り幅でウェール方向に振られて次のコースに移る個所とを、1コース毎または2コース毎に有し、全てのコースでループを形成する編成組織bと、弾性糸のうち第2の弾性糸が、1コース毎に1ウェール分の振り幅で左右交互に振られて挿入された編成組織cとを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3488947号
【特許文献2】特許第4102829号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された分割可能な伸縮性経編地においては、抜き糸を抜いて形成される伸縮性経編地片の耳が同一ウェール上に位置して編み方向と平行な直線となる。そのため、伸縮性経編地片を裁断する際の裁断パネルの配置の自由度が低く、製品形状の制約および生地のロスが生じやすい。
【0007】
特許文献2に記載された伸縮性経編地においては、カールの発生が抑制されているが、編成組織cが寄与しにくい裁断方向で裁断された場合には、伸縮を繰り返した後にカールが生じる可能性がある。
【0008】
伸縮性経編地を使用したインナー衣料は、一般的に肌に密着して使用されるよう設計されているため、日常動作により伸縮性経編地が伸縮を繰り返すことは避けられない。着用による伸縮を繰り返した後に裁断端部にカールが生じると、カールした部分が折り重なって分厚くなった状態で着用されてしまうため、端処理不要の利点が損なわれる。
【0009】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされてものであって、裁断パネルの配置の自由度を大きくして、製品形状の制約および生地のロスを少なくするとともに、伸縮を繰り返した後においても裁断端部にカールが生じにくくすることができる、伸縮性経編地の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に基づく伸縮性経編地の製造方法は、非弾性糸で編成される編成組織A、第1弾性糸で編成される編成組織B、第2弾性糸で編成される編成組織C、および、第3弾性糸で編成される編成組織Dが、シンカーループ面側からこの順に編成される伸縮性経編地である。編成組織Aは、第1筬によってフルセットで編成され、1繰り返し単位の全てのコースにおいてループが形成されており、連続したコースにおいて同一ウェール上で編み目が形成されておらず、コース方向に延びる仮想線に関して1/2繰り返し単位が交互に線対称に配置されて千鳥状に編成されている。編成組織Bは、第2筬によってフルセットで編成され、1繰り返し単位の全てのコースにおいてループが形成されており、1コース毎に二目編みと一目編みとが交互に繰り返され、コース方向に延びる仮想線に関して1/2繰り返し単位が交互に線対称に配置されて千鳥状に編成されている。編成組織Cは、第3筬によってフルセットで編成され、1繰り返し単位の全てのコースにおいてループが形成されておらず、コース方向に延びる仮想線に関して1/2繰り返し単位が交互に線対称に配置されて千鳥状に編成されている。編成組織Dは、第4筬によってフルセットで編成され、1繰り返し単位の全てのコースにおいてループが形成されておらず、コース方向に延びる仮想線に関して1/2繰り返し単位が交互に線対称に配置されて千鳥状に編成されており、編成組織Cとは異なっている。
【0011】
本発明の一形態においては、編成組織Aは、1繰り返し単位が4コースのアトラス組織である。
【0012】
本発明の一形態においては、編成組織Cのシンカーループは、編成組織Aのシンカーループとは、2コース連続して同一方向に亘っていない。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、裁断パネルの配置の自由度を大きくして、製品形状の制約および生地のロスを少なくするとともに、伸縮を繰り返した後においても裁断端部にカールが生じにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る伸縮性経編地の製造方法において伸縮性経編地を編成する筬の各々の基本動作を示す編成組織図である。
図2】本発明の一実施形態に係る伸縮性経編地の編成組織図である。
図3】実施例2に係る伸縮性経編地の製造方法において伸縮性経編地を編成する筬の各々の基本動作を示す編成組織図である。
図4】実施例2に係る伸縮性経編地の編成組織図である。
図5】比較例1に係る伸縮性経編地の製造方法において伸縮性経編地を編成する筬の各々の基本動作を示す編成組織図である。
図6】比較例1に係る伸縮性経編地の編成組織図である。
図7】比較例2に係る伸縮性経編地の製造方法において伸縮性経編地を編成する筬の各々の基本動作を示す編成組織図である。
図8】比較例2に係る伸縮性経編地の編成組織図である。
図9】カール状態を測定する方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係る伸縮性経編地の製造方法について図を参照して説明する。以下の実施形態の説明においては、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰返さない。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る伸縮性経編地の製造方法において伸縮性経編地を編成する筬の各々の基本動作を示す編成組織図である。図2は、本発明の一実施形態に係る伸縮性経編地の編成組織図である。
【0017】
本発明の一実施形態に係る伸縮性経編地を編成する編成装置としては、たとえば、カールマイヤー社製のRSE4N3Kラッシェル機を用いることができる。ただし、編成装置は、カールマイヤー社製のRSE4N3Kに限られず、編成装置が備える制御機構および筬振り機構の各々の構成は、特に制限されない。給糸量などの編立条件、および、加工条件についても、特に制限されない。
【0018】
図1および図2に示すように、本発明の一実施形態に係る伸縮性経編地10は、第1筬、第2筬、第3筬および第4筬の4枚の筬を用いて編成される。ただし、伸縮性経編地10の編成に用いられる筬の数は、4枚に限られず、5枚以上であってもよい。
【0019】
本発明の一実施形態に係る伸縮性経編地10の製造方法においては、非弾性糸1で編成される編成組織A、第1弾性糸2で編成される編成組織B、第2弾性糸3で編成される編成組織C、および、第3弾性糸4で編成される編成組織Dが、シンカーループ面側からこの順に編成される。
【0020】
第1筬の基本動作は、図1(A)に示すように、21/10/12/23//の繰り返し単位を有する。第2筬の基本動作は、図1(B)に示すように、12/02/21/31//の繰り返し単位を有する。第3筬の基本動作は、図1(C)に示すように、11/11/00/00//の繰り返し単位を有する。第4筬の基本動作は、図1(D)に示すように、11/00/11/22//の繰り返し単位を有する。
【0021】
非弾性糸1は、材料がナイロン6、太さが33dtex/26fである。ただし、非弾性糸1の材料は、ナイロン6に限られず、他のナイロン若しくはポリエステルなどの合成繊維、レーヨン若しくはアセテートなどの再生繊維、または、綿などの天然繊維でもよい。非弾性糸1は、フィラメント糸に限られず、紡績糸、交撚糸または加工糸などでもよい。非弾性糸1の太さは、特に制限されないが、伸縮性経編地10がインナー衣料の生地として用いられる場合には、17dtex以上78dtex以下が好ましく、22dtex以上44dtex以下がさらに好ましい。
【0022】
第1弾性糸2は、材料がポリウレタン、太さが50dtexである。ただし、第1弾性糸2の材料は、ポリウレタンに限られず、他の弾性繊維でもよい。ただし、カバリング糸などの非弾性糸との複合糸は、比較的低伸度かつ太く、二目編みには適さず、第1弾性糸2には適さない。第1弾性糸2の太さは、特に制限されないが、伸縮性経編地10がインナー衣料の生地として用いられる場合には、22dtex以上78dtex以下が好ましく、33dtex以上50dtex以下がさらに好ましい。
【0023】
第2弾性糸3は、材料がポリウレタン、太さが44dtexである。ただし、第2弾性糸3の材料は、ポリウレタンに限られず、他の弾性繊維でもよい。第2弾性糸3の太さは、特に制限されないが、伸縮性経編地10がインナー衣料の生地として用いられる場合には、22dtex以上156dtex以下が好ましく、33dtex以上78dtex以下がさらに好ましい。
【0024】
第3弾性糸4は、材料がポリウレタン、太さが44dtexである。ただし、第3弾性糸4の材料は、ポリウレタンに限られず、他の弾性繊維でもよい。第2弾性糸3がカバリング糸などの複合糸である場合は、伸縮性経編地10の厚みおよびごわつきを抑制する観点から、第3弾性糸4はカバリング糸などの複合糸以外の他の弾性繊維であることが好ましい。第3弾性糸4の太さは、特に制限されないが、伸縮性経編地10がインナー衣料の生地として用いられる場合には、22dtex以上156dtex以下が好ましく、33dtex以上78dtex以下がさらに好ましい。
【0025】
図1(A)および図2に示すように、編成組織Aは、第1筬によってフルセットで編成され、1繰り返し単位(1R)の全てのコースにおいてループが形成されており、連続したコースにおいて同一ウェール上で編み目が形成されておらず、コース方向に延びる仮想線V1に関して1/2繰り返し単位(R/2)が交互に線対称に配置されて千鳥状に編成されている。
【0026】
なお、本明細書において、フルセットで編成されるとは、筬の幅方向に並ぶガイドに連続して糸が通されている部分で編成組織が編成されていることを意味する。よって、編成組織がフルセットで編成されていれば、筬の幅方向の両端に位置するガイドに糸が通されていなくてもよく、伸縮性経編地10の幅方向の両端に耳組織を形成するために糸が通されていないガイドが存在していてもよい。
【0027】
同一ウェール上に亘る第1シンカーループは、別のウェールに移動する第2シンカーループよりも、編成に必要な糸量が少ない。そのため、第1シンカーループと第2シンカーループとが混在する編成組織においては、第1シンカーループは第2シンカーループよりも緻密な編み目となり、編成組織内で密度のムラが生じる。
【0028】
伸縮性経編地は荷重が負荷されて伸長する際、非弾性糸の組織構造における糸量の余分を消費しながら伸長し、糸量の余分がなくなるにつれ、組織構造が歪むことで伸長する。上述のように、第1シンカーループおよび第2シンカーループが編成組織に混在することによりシンカーループを形成する際の糸量のムラおよび編成組織内の密度のムラが生じている場合、伸縮性経編地が伸長する際に組織構造が不均一に歪むため、除荷後のカールが発生しやすくなる傾向がある。
【0029】
よって、伸縮を繰り返した後においてもカールが生じにくくするためには、編成組織Aが均一な組織構造を有することが求められ、編成組織Aは第1シンカーループを含まずに図1(A)に示す第2シンカーループSのみで編成されている。すなわち、編成組織Aにおいては、連続したコースにおいて同一ウェール上で編み目が形成されていない。伸縮性経編地10がインナー衣料の生地として用いられる場合における外観品位、風合いおよび厚みを考慮すると、編成組織Aは、1繰り返し単位(1R)が4コースのアトラス組織であることが好ましい。
【0030】
編成組織Aは、1繰り返し単位(1R)が4コースであるため、1/2繰り返し単位(R/2)は2コースとなる。図1(A)に示すように、前半の1/2繰り返し単位(R/2)と後半の1/2繰り返し単位(R/2)とは、仮想線V1に関して線対称になっている。よって、図1(A)に矢印で示すシンカーループSの亘る方向およびニードルループNの巻き方向が、前半の1/2繰り返し単位(R/2)と後半の1/2繰り返し単位(R/2)とで仮想線V1に関して線対称になっている。その結果、編成組織Aは、コース方向に行くにしたがって仮想線V1を中心にウェール方向に交互に移行して千鳥状に編成されている。
【0031】
図1(B)および図2に示すように、編成組織Bは、第2筬によってフルセットで編成され、1繰り返し単位(1R)の全てのコースにおいてループが形成されており、1コース毎に二目編みWと一目編みXとが交互に繰り返され、コース方向に延びる仮想線V2に関して1/2繰り返し単位(R/2)が交互に線対称に配置されて千鳥状に編成されている。
【0032】
編成組織Bにおいて、1繰り返し単位(1R)の全てのコースでループを形成することにより、伸縮性経編地10の裁断時にニードルループが解れることを抑制することができる。第1弾性糸2で複数針間オーバーラップする二目編みWを形成することにより、ウェール方向に隣り合う第1弾性糸2同士のループが同じ編み目位置で重なって位置し、編成後の染色整理加工工程でのヒートセットにより、重なったループが熱融着するため、裁断時の解れをさらに抑制することができる。また、二目編みはウェール方向の糸の亘りを形成するため、伸縮性経編地10のウェール方向の伸縮性能を高めることができる。
【0033】
なお、一目編みXは、通常の1針間オーバーラップするループを意味し、二目編みWと区別するために一目編みと称している。
【0034】
編成組織Bは、1繰り返し単位(1R)が4コースであるため、1/2繰り返し単位(R/2)は2コースとなる。図1(B)に示すように、前半の1/2繰り返し単位(R/2)と後半の1/2繰り返し単位(R/2)とは、仮想線V2に関して線対称になっている。その結果、編成組織Bは、コース方向に行くにしたがって仮想線V2を中心にウェール方向に交互に移行して千鳥状に編成されている。
【0035】
図1(C)および図2に示すように、編成組織Cは、第3筬によってフルセットで編成され、1繰り返し単位(1R)の全てのコースにおいてループが形成されておらず、コース方向に延びる仮想線V3に関して1/2繰り返し単位(R/2)が交互に線対称に配置されて千鳥状に編成されている。
【0036】
編成組織Cの第2弾性糸3によって、伸縮性経編地10のコース方向の伸縮性を向上できるとともに、第2弾性糸3が第1弾性糸2と組み合わせられることにより、カール防止および解れ防止の効果を得ることができる。
【0037】
編成組織Cは、編成組織Aを編成する第1筬よりも後ろに位置する第3筬で編成されるため、通常は、編成組織Aのシンカーループの後ろ側(生地裏側、ニードルループ面側)に編成組織Cのシンカーループが位置する。しかし、編成組織Aのシンカーループと編成組織Cのシンカーループとが、2コース連続して同一方向に亘っている場合、当該部分の編成組織Cのシンカーループが編成組織Aのシンカーループの手前側(生地表側、シンカーループ面側)に移動するイベージョンラップという現象が生ずる。
【0038】
編成組織Aと編成組織Cとの間でイベージョンラップが生じると、非弾性糸1と第2弾性糸3との前後関係が変化して伸縮性経編地10内の張力バランスが崩れるため、編成組織A~Dによってカールを生じにくくする効果が減る。そのため、編成組織Cは、編成組織Aとの関係でイベージョンラップが生じないように編成されていることが好ましい。すなわち、図1(C)の矢印で示す編成組織Cのシンカーループの亘る方向は、図1(A)の矢印で示す編成組織Aのシンカーループの亘る方向とは、2コース連続して同一方向にならないように決定されることが好ましい。
【0039】
編成組織Cは、1繰り返し単位(1R)が4コースであるため、1/2繰り返し単位(R/2)は2コースとなる。図1(C)に示すように、前半の1/2繰り返し単位(R/2)と後半の1/2繰り返し単位(R/2)とは、仮想線V3に関して線対称になっている。その結果、編成組織Cは、コース方向に行くにしたがって仮想線V3を中心にウェール方向に交互に移行して千鳥状に編成されている。
【0040】
図1(D)および図2に示すように、編成組織Dは、第4筬によってフルセットで編成され、1繰り返し単位(1R)の全てのコースにおいてループが形成されておらず、コース方向に延びる仮想線V4に関して1/2繰り返し単位(R/2)が交互に線対称に配置されて千鳥状に編成されており、編成組織Cとは異なっている。
【0041】
伸縮後のカールは、伸縮によって生じた編成組織の歪みおよび編成組織内の糸量分布の乱れによって生じるが、編成組織Dは、編成組織の歪みおよび編成組織内の糸量分布の乱れを抑制する機能を有している。編成組織Dを編成組織Cとは異なる組織とすることにより、第2弾性糸3と第3弾性糸4との接点が増加するため、熱融着によって第1弾性糸2と第2弾性糸3と第3弾性糸4とによる強固な網状構造を形成することができ、編成組織の歪みを効果的に抑制することができる。
【0042】
編成組織Dは、1繰り返し単位(1R)が4コースであるため、1/2繰り返し単位(R/2)は2コースとなる。図1(D)に示すように、前半の1/2繰り返し単位(R/2)と後半の1/2繰り返し単位(R/2)とは、仮想線V4に関して線対称になっている。その結果、編成組織Dは、コース方向に行くにしたがって仮想線V4を中心にウェール方向に交互に移行して千鳥状に編成されている。
【0043】
本実施形態においては、図1(D)の矢印で示す編成組織Dのシンカーループの亘る方向は、図1(A)の矢印で示す編成組織Aのシンカーループの亘る方向とは、2コース連続して同一方向である。
【0044】
伸縮性経編地10は、伸縮性経編地10が生地として用いられる製品に要求される、伸縮性能、外観品位および風合いを損なわない範囲で、綿およびレーヨンなどの機能性付与を目的とした繊維で編成される編成組織をさらに含んでいてもよい。
【0045】
上記のように、編成組織A~Dの各々が、コース方向に延びる仮想線に関して1/2繰り返し単位(R/2)が交互に線対称に配置されて千鳥状に編成されていることにより、コース方向およびウェール方向の各々に交差する斜め方向の伸縮性経編地10の伸縮性能が均一化し、さらに、編成組織A~Dの各々を構成する糸が交差する接点の編成組織内における分布に偏りがなくなり、伸縮性経編地10の全体におけるカールの出現傾向を均一的に低下することができる。
【0046】
(実験例)
以下、伸縮前後の伸縮性経編地に生ずるカール状態を実測した実験例について説明する。実験例においては、図1および図2に示す実施例1に係る伸縮性経編地10、実施例2、比較例1および比較例2に係る伸縮性経編地の4種類の伸縮性経編地について実験を行なった。4種類の伸縮性経編地は、カールマイヤー社製のRSE4N3Kラッシェル機を用いて編成した。
【0047】
図3は、実施例2に係る伸縮性経編地の製造方法において伸縮性経編地を編成する筬の各々の基本動作を示す編成組織図である。図4は、実施例2に係る伸縮性経編地の編成組織図である。
【0048】
図3および図4に示すように、実施例2に係る伸縮性経編地20の製造方法においては、非弾性糸1で編成される編成組織A、第1弾性糸2で編成される編成組織B、第2弾性糸23で編成される編成組織C、および、第3弾性糸24で編成される編成組織Dが、シンカーループ面側からこの順に編成される。
【0049】
第1筬の基本動作は、図3(A)に示すように、21/10/12/23//の繰り返し単位を有する。第2筬の基本動作は、図3(B)に示すように、12/02/21/31//の繰り返し単位を有する。第3筬の基本動作は、図3(C)に示すように、11/00/11/22//の繰り返し単位を有する。第4筬の基本動作は、図3(D)に示すように、00/11/00/11//の繰り返し単位を有する。
【0050】
非弾性糸1は、材料がナイロン6,6、太さが44dtex/34fである。第1弾性糸2は、材料がポリウレタン、太さが50dtexである。第2弾性糸23は、材料がポリウレタン、太さが156dtexである。第3弾性糸24は、材料がポリウレタン、太さが50dtexである。
【0051】
実施例2においては、図3(C)の矢印で示す編成組織Cのシンカーループの亘る方向は、図3(A)の矢印で示す編成組織Aのシンカーループの亘る方向とは、2コース連続して同一方向である。
【0052】
図5は、比較例1に係る伸縮性経編地の製造方法において伸縮性経編地を編成する筬の各々の基本動作を示す編成組織図である。図6は、比較例1に係る伸縮性経編地の編成組織図である。
【0053】
図5および図6に示すように、比較例1に係る伸縮性経編地80の製造方法においては、非弾性糸1で編成される編成組織A、第1弾性糸2で編成される編成組織B、および、第2弾性糸33で編成される編成組織Cが、シンカーループ面側からこの順に編成される。
【0054】
第1筬の基本動作は、図5(A)に示すように、21/10/12/23//の繰り返し単位を有する。第2筬の基本動作は、図5(B)に示すように、12/02/21/31//の繰り返し単位を有する。第3筬の基本動作は、図5(C)に示すように、11/00/11/00//の繰り返し単位を有する。
【0055】
非弾性糸1は、材料がナイロン6、太さが44dtex/34fである。第1弾性糸2は、材料がポリウレタン、太さが50dtexである。第2弾性糸33は、材料がポリウレタン、太さが50dtexである。
【0056】
図7は、比較例2に係る伸縮性経編地の製造方法において伸縮性経編地を編成する筬の各々の基本動作を示す編成組織図である。図8は、比較例2に係る伸縮性経編地の編成組織図である。
【0057】
図7および図8に示すように、比較例2に係る伸縮性経編地90の製造方法においては、非弾性糸1で編成される編成組織A、第1弾性糸2で編成される編成組織B、および、第2弾性糸23で編成される編成組織Cが、シンカーループ面側からこの順に編成される。
【0058】
第1筬の基本動作は、図7(A)に示すように、21/10/12/23//の繰り返し単位を有する。第2筬の基本動作は、図7(B)に示すように、12/02/21/31//の繰り返し単位を有する。第3筬の基本動作は、図7(C)に示すように、11/00/11/22//の繰り返し単位を有する。
【0059】
非弾性糸1は、材料がナイロン6,6、太さが44dtex/34fである。第1弾性糸2は、材料がポリウレタン、太さが50dtexである。第2弾性糸23は、材料がポリウレタン、太さが50dtexである。
【0060】
図9は、カール状態を測定する方法を説明する図である。図9に示すように、平坦な台上に、対象となる伸縮性経編地から切り取られた試験片Gを載せる。試験片Gの端部が湾曲してカールを生じたときに、試験片Gの端点Pで、試験片Gが延びる方向を直線で延長した線、言いかえると、試験片Gの端点Pで湾曲カーブの接線Tを想定する。この接線Tから水平面Hまでの回転角度θを測定してカール角度θとする。測定結果には、カールした方向も付記しておく。カールが全く無ければ、カール角度θ=0°になり、カール角度が大きくなるほど、カールが甚だしいことになる。
【0061】
伸縮前のカール状態を測定するための試験片Gとして、伸縮性経編地から1辺10cmの正方形の試験片を裁断して作製した。伸縮前の試験片Gのカール角度として、コース方向に沿う裁断部でのカール角度、および、ウェール方向に沿う裁断部でのカール角度を測定した。
【0062】
伸縮後のカール状態を測定するための試験片Gとして、伸縮性経編地から幅9cmおよび長さ17cmのサイズで、長辺が編み方向に平行な第1試験片と、長辺が編み方向に垂直な第2試験片との、2種類の試験片を裁断して作製した。そして、伸縮疲労性試験機を用いて、伸度120%、速度200rpm、10000回の設定で各試験片を伸縮し、伸縮後の各試験片のカール状態を、上記伸縮前のカール状態を測定する方法と同一方法で測定した。
【0063】
【表1】
【0064】
表1は、実験結果をまとめた表である。表1に示すように、実施例1においては、伸縮前後とも、カール角度が30°以下の若干のカールが認められた。実施例2においては、イベージョンラップが生じているため、実施例1に比較して、ウェール方向に伸縮した後のコース方向に沿う裁断部でのカール角度が45°になり、やや大きくなった。実施例1および実施例2においては、伸縮前後のいずれのカール角度も45°以下であり、伸縮後にインナー衣料を着用した際に、カールした部分が折り重なって分厚くなった状態で着用される可能性はほとんどなく、製品の品位への影響は生じにくい。
【0065】
比較例1においては、ウェール方向に伸縮した後のコース方向に沿う裁断部でのカール角度が120°であり90°を超えていた。比較例2においては、コース方向に伸縮した後のウェール方向に沿う裁断部でのカール角度が120°、および、ウェール方向に伸縮した後のコース方向に沿う裁断部でのカール角度が360°であり、両方とも90°を超えていた。
【0066】
伸縮後のカール角度が90°を超えている場合、伸縮後にインナー衣料を着用した際に、カールした部分が折り重なって分厚くなった状態で着用される可能性が高く、このようになった場合、着用者が違和感を感じたり、分厚くなった部分が凸状にアウター衣料の外観に表れてしまい、製品の品位が低下する。
【0067】
本実験結果から、実施例1および実施例2においては、比較例1および比較例2に比較して、伸縮を繰り返した後においても裁断端部にカールが生じにくくすることができることが確認できた。
【0068】
本実施形態に係る伸縮性経編地の製造方法は、非弾性糸で編成される編成組織A、第1弾性糸で編成される編成組織B、第2弾性糸で編成される編成組織C、および、第3弾性糸で編成される編成組織Dが、シンカーループ面側からこの順に編成される伸縮性経編地である。編成組織Aは、第1筬によってフルセットで編成され、1繰り返し単位(1R)の全てのコースにおいてループが形成されており、連続したコースにおいて同一ウェール上で編み目が形成されておらず、コース方向に延びる仮想線に関して1/2繰り返し単位(R/2)が交互に線対称に配置されて千鳥状に編成されている。編成組織Bは、第2筬によってフルセットで編成され、1繰り返し単位(1R)の全てのコースにおいてループが形成されており、1コース毎に二目編みと一目編みとが交互に繰り返され、コース方向に延びる仮想線に関して1/2繰り返し単位(R/2)が交互に線対称に配置されて千鳥状に編成されている。編成組織Cは、第3筬によってフルセットで編成され、1繰り返し単位(1R)の全てのコースにおいてループが形成されておらず、コース方向に延びる仮想線に関して1/2繰り返し単位(R/2)が交互に線対称に配置されて千鳥状に編成されている。編成組織Dは、第4筬によってフルセットで編成され、1繰り返し単位(1R)の全てのコースにおいてループが形成されておらず、コース方向に延びる仮想線に関して1/2繰り返し単位(R/2)が交互に線対称に配置されて千鳥状に編成されており、編成組織Cとは異なっている。
【0069】
これにより、端処理不要な経編地が得られ、裁断パネルの配置の自由度を大きくして、製品形状の制約および生地のロスを少なくすることができるとともに、第1弾性糸と第2弾性糸と第3弾性糸とによる強固な網状構造によって、伸縮を繰り返した後においても裁断端部にカールが生じにくくすることができる。
【0070】
本実施形態においては、編成組織Aは、1繰り返し単位が4コースのアトラス組織である。これにより、伸縮性経編地が厚くなることを抑制して、伸縮性経編地がインナー衣料の生地として用いられる場合における外観品位および風合いを向上することができる。
【0071】
本実施形態においては、編成組織Cのシンカーループは、編成組織Aのシンカーループとは、2コース連続して同一方向に亘っていない。これにより、イベージョンラップが生じることを抑制して、伸縮を繰り返した後においても裁断端部にカールがさらに生じにくくすることができる。
【0072】
なお、今回開示した上記実施形態および実施例はすべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した実施形態および実施例のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0073】
1 非弾性糸、2 第1弾性糸、3,23,33 第2弾性糸、4,24 第3弾性糸、10,20,80,90 伸縮性経編地、A,B,C,D 編成組織、G 試験片、H 水平面、N ニードルループ、P 端点、S シンカーループ、T 接線、V1,V2,V3,V4 仮想線、X 一目編み、W 二目編み。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2024-02-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非弾性糸で編成される編成組織A、第1弾性糸で編成される編成組織B、第2弾性糸で編成される編成組織C、および、第3弾性糸で編成される編成組織Dが、シンカーループ面側からこの順に編成される伸縮性経編地の製造方法であって、
前記編成組織Aは、第1筬によってフルセットで編成され、1繰り返し単位の全てのコースにおいてループが形成されており、連続したコースにおいて同一ウェール上で編み目が形成されておらず、コース方向に延びる仮想線に関して1/2繰り返し単位が交互に線対称に配置されて千鳥状に編成されており、
前記編成組織Bは、第2筬によってフルセットで編成され、1繰り返し単位の全てのコースにおいてループが形成されており、1コース毎に二目編みと一目編みとが交互に繰り返され、コース方向に延びる仮想線に関して1/2繰り返し単位が交互に線対称に配置されて千鳥状に編成されており、
前記編成組織Cは、第3筬によってフルセットで編成され、1繰り返し単位の全てのコースにおいてループが形成されておらず、コース方向に延びる仮想線に関して1/2繰り返し単位が交互に線対称に配置されて千鳥状に編成されており、
前記編成組織Dは、第4筬によってフルセットで編成され、1繰り返し単位の全てのコースにおいてループが形成されておらず、コース方向に延びる仮想線に関して1/2繰り返し単位が交互に線対称に配置されて千鳥状に編成されており、前記編成組織Cとは異なっており、
前記編成組織Cのシンカーループは、前記編成組織Aのシンカーループとは、2コース連続して同一方向に亘っていない、伸縮性経編地の製造方法。
【請求項2】
前記編成組織Aは、1繰り返し単位が4コースのアトラス組織である、請求項1に記載の伸縮性経編地の製造方法。