(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094739
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】スタッドボルト固定具
(51)【国際特許分類】
F16B 21/06 20060101AFI20240703BHJP
F16B 37/08 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
F16B21/06 A
F16B37/08 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211478
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】308011351
【氏名又は名称】大和化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131048
【弁理士】
【氏名又は名称】張川 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100174377
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100215038
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 友子
(72)【発明者】
【氏名】大橋 健二
(72)【発明者】
【氏名】川口 英之
【テーマコード(参考)】
3J037
【Fターム(参考)】
3J037BA02
3J037BB06
3J037CA03
3J037DA14
3J037DB01
3J037FA02
(57)【要約】
【課題】挿入固定されたスタッドボルトの振動(揺動)を従来よりも抑制できるスタッドボルト固定具を提供する。
【解決手段】 本体部10に挿入されたスタッドボルト2を挟むよう該スタッドボルト2の軸線Z周りの弾性係止片11と同じ位置に押付面12Aを有した振動抑制片12が設けられる。振動抑制片12は、スタッドボルト2が本体部10に挿入された挿入固定状態において、当該スタッドボルト2によって外周側へと押し出されて弾性係止片11よりも内周側から外周側へと大きく変位する弾性変形を生じることにより、押付面12Aが当該スタッドボルト2を弾性係止片11よりも強く内周側に押し付ける。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のボルト径を有するスタッドボルトが挿入固定されるスタッドボルト固定具であって、
前記スタッドボルトの挿入部として形成され、その入口部が、挿入される前記スタッドボルトのねじ山先端と近接するよう形成される本体部と、
前記本体部に挿入された前記スタッドボルトを挟むよう該スタッドボルトの軸線周りに複数設けられ、各々が前記本体部の前記入口部よりも奥側の内壁面から内向きに突出する弾性アームとその先端で該スタッドボルトのネジ山に係止する係止爪とを有した弾性変形可能な弾性係止片と、
前記本体部に挿入された前記スタッドボルトを挟むよう該スタッドボルトの軸線周りの前記弾性係止片と同じ位置に設けられ、各々が前記弾性係止片よりも奥側の内壁面から内向きに突出する弾性アームとその先端でスタッドボルトのネジ山を押し付ける押付面とを有した弾性変形可能な振動抑制片と、
を備え、
前記押付面は、前記係止爪よりも前記本体部の内周側に位置する内周側先端面を有し、
前記振動抑制片は、前記スタッドボルトが前記本体部に挿入されて前記係止爪によって係止された挿入固定状態において、当該スタッドボルトのねじ山によって外周側へと押し出されて前記弾性係止片よりも内周側から外周側へと大きく変位する弾性変形を生じ、これにより前記押付面が当該スタッドボルトを前記弾性係止片よりも強く内周側に押し付けるスタッドボルト固定具。
【請求項2】
前記本体部は、前記振動抑制片が外周側に弾性変形したときに接触して、さらなる外周側への弾性変形を阻止する変形規制部を有する請求項1に記載のスタッドボルト固定具。
【請求項3】
前記押付面が形成される前記振動抑制片の先端部は、挿入された前記スタッドボルトの軸線方向から見て、前記スタッドボルトのネジ山に対し接触するとともにその接点に対し接線方向に延びる第一延出部と、前記第一延出部の一端側から屈曲して該スタッドボルト側へ延び、その延出先端側の第一延出部側壁面にて前記スタッドボルトのネジ山に対し接触する、前記第一延出部よりも短い第二延出部と、を有した請求項1に記載のスタッドボルト固定具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車体パネル等に立設されるスタッドボルトに挿入固定されるスタッドボルト固定具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のスタッドボルト固定具は、所定のボルト径(ねじ径)を有したスタッドボルトが挿入される本体部と、挿入されたスタッドボルトを挟むように本体部の内側から複数延び、それぞれが該スタッドボルトのねじ山に係止する弾性係止片と、を有する(例えば特許文献1)。本体部に挿入されたスタッドボルトは、各弾性係止片を外周側に撓ませつつ本体部内を進み、所定の位置にて各弾性係止片の係止爪によって係止されて固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、スタッドボルト固定具の本体部において、スタッドボルトの挿入方向の入口部は、スタッドボルトのボルト径に対応した径の挿入孔を有するように形成される。この場合、スタッドボルトは、スタッドボルト固定具に挿入固定された状態で車両の走行振動等による振動を受けると、スタッドボルト固定具の入口部を支点として奥側が揺動する形での振動を生じる。その結果、スタッドボルト固定具の各弾性係止片は、その揺動により押し出されて弾性変形を生じる。即ち、各弾性係止片やその先端の係止爪が、スタッドボルトの揺動に応じた荷重を受け止めることになる。従来のスタッドボルト固定具では、一定以上の剛性を有した樹脂材料により成形されることで、弾性係止片及び係止爪が受ける荷重に対抗していた。
【0005】
しかしながら、このようなスタッドボルト固定具において、低コスト化や他の機能付加等の要望により、成形に用いる樹脂材料の選択肢を増やすことが求められている。このため、スタッドボルト固定具は、樹脂材料の変更によって低剛性化したとしても、別の手法によって弾性係止片及び係止爪が受ける荷重に対抗できる必要がある。
【0006】
本発明の課題は、挿入固定される所定ボルト径のスタッドボルトの振動(揺動)を従来よりも抑制できるスタッドボルト固定具を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
上記課題を解決するためのスタッドボルト固定具は、
所定のボルト径(ねじ径)を有するスタッドボルトが挿入固定されるスタッドボルト固定具であって、
前記スタッドボルトの挿入部として形成され、その入口部が、挿入される前記スタッドボルトのねじ山先端と近接するよう形成される本体部と、
前記本体部に挿入された前記スタッドボルトを挟むよう該スタッドボルトの軸線周りに複数設けられ、各々が前記本体部の前記入口部よりも奥側の内壁面から内向きに突出する弾性アームとその先端で該スタッドボルトのネジ山に係止する係止爪とを有した弾性変形可能な弾性係止片と、
前記本体部に挿入された前記スタッドボルトを挟むよう該スタッドボルトの軸線周りの前記弾性係止片と同じ位置に設けられ、各々が前記弾性係止片よりも奥側の内壁面から内向きに突出する弾性アームとその先端でスタッドボルトのネジ山を押し付ける押付面とを有した弾性変形可能な振動抑制片と、
を備え、
前記押付面は、前記係止爪よりも前記本体部の内周側に位置する内周側先端面を有し、
前記振動抑制片は、前記スタッドボルトが前記本体部に挿入されて前記係止爪によって係止された挿入固定状態において、当該スタッドボルトのねじ山によって外周側へと押し出されて前記弾性係止片よりも内周側から外周側へと大きく変位する弾性変形を生じ、これにより前記押付面が当該スタッドボルトを前記弾性係止片よりも強く内周側に押し付ける。
【0008】
上記構成によれば、自然状態(非弾性変形状態)において弾性係止片よりも内周側に膨出している振動抑制片が、挿入されるスタッドボルトによって大きく外周側へ弾性変形し、その弾性変形量に応じた弾性復帰力でもってスタッドボルトを力強く挟むように内周側に押しつけ、スタッドボルトの振動(揺動)を抑制できる。また、スタッドボルトの振動(揺動)は、スタッドボルト固定具(本体部)の挿入入口部を支点にして挿入方向奥側でより大きく生じるが、その奥側に振動抑制片が存在することによりスタッドボルトの振動(揺動)を効果的に抑制し、振動抑制片の手前側に存在する弾性係止片が受ける振動(揺動)を大きく減じ、保護できる。
【0009】
前記本体部は、前記振動抑制片が外周側に弾性変形したときに接触して、さらなる外周側への弾性変形を阻止する変形規制部を有することができる。この構成によれば、振動抑制片の可動範囲を変形規制部が制限するから、振動するスタッドボルトの振れ幅が大きいときに振動抑制片の破損を防ぐことができる。
【0010】
前記押付面が形成される前記振動抑制片の先端部は、挿入された前記スタッドボルトの軸線方向から見て、前記スタッドボルトのネジ山に対し接触するとともにその接点に対し接線方向に延びる第一延出部と、前記第一延出部の一端側から屈曲して該スタッドボルト側へ延び、その延出先端側の第一延出部側壁面にて前記スタッドボルトのネジ山に対し接触する、前記第一延出部よりも短い第二延出部と、を有していてもよい。この構成により、振動抑制片の押付面がスタッドボルトを押し付けているとき、その接触面積が増すので、スタッドボルトの振動(揺動)を効果的に抑制できる。
【0011】
前記押付面は、挿入された前記スタッドボルトに対し鋭角状に突出する爪形状を有さない、平坦ないし湾曲状の面とすることができる。押付面に弾性係止片の係止爪のような爪形状が設けられている場合、その爪形状がスタッドボルトのねじ溝に入り込み、振動抑制片の弾性変形量が減り、スタッドボルトの振動(揺動)を抑制するための押付力が小さくなる。上記のように押付面に爪形状を設けないことにより、振動抑制片の押付面がスタッドボルトを押し付けているとき、その押付面がスタッドボルトのねじ山先端に接触する形で振動抑制片がより大きく弾性変形するから、スタッドボルトへの押付力が増し、振動(揺動)を効果的に抑制できる。
【0012】
前記押付面は、挿入された前記スタッドボルトに対し、前記挿入方向の入口側から奥側に向けて徐々に接近する斜面を形成する入口側傾斜先端面と、その奥側で屈曲して前記挿入方向のさらに奥に(直線状に)延びる奥側先端面(奥側平坦面)と、を有し、少なくとも前記入口側傾斜先端面の奥側が前記係止爪の爪先端位置よりも、挿入された前記スタッドボルトに対し接近するよう形成できる。上記構成によれば、押付面のうちの入口側傾斜先端面は、スタッドボルトを挿入するときのガイド面として利用できる。また、奥側先端面(奥側平坦面)が形成されることで、振動抑制片の先端は挿入方向奥側へと延び、上記した前記本体部の変形規制部に接近して、変形規制を受けやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施例であるスタッドボルト固定具を示した斜視図。
【
図4】
図3の本体部へのスタッドボルトの挿入固定状態を示した断面図。
【
図5】
図3の本体部を振動抑制片が見えるよう切断した斜視断面図。
【
図6】
図3の本体部を弾性係止片が見えるよう切断した斜視断面図。
【
図7】
図4のスタッドボルトを、
図4とは異なるものにした場合の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例を、図面を参照して説明する。
【0015】
本実施例のスタッドボルト固定具1は、
図1及び
図2に示すように、本体部10と、弾性係止片11と、振動抑制片12と、機能部13と、を一体に備える樹脂成形体であり、
図4に示すように、所定のボルト径d(ねじ径)を有したスタッドボルト2が挿入固定される。
【0016】
なお、
図3及び
図4は、スタッドボルト固定具1にスタッドボルト2が挿入されていないときとスタッドボルト2が挿入固定されたときの断面を示した図である。双方の切断面は同一であり、いずれも本体部10の軸線Z1と、後述する弾性係止片11及び振動抑制片12の第一延出部11C1、12C1を通過する面である。後述する
図7及び
図8の断面図も、これらと
図4と同じである。
【0017】
スタッドボルト2は、
図4に示すように、外周に螺旋状のねじ山が先端側から基端側に向けて所定ピッチで形成されており、パネル材20から直線状に突出する。スタッドボルト2とパネル材20とは、ここでは一体の金属部品をなすが、別体のスタッドボルト2とパネル材20とが組付けられたものでもよい。また、スタッドボルト2は、予め定められたボルト径dを有するものであり、ボルト径dのねじ山が先端まで形成される第一のスタッドボルトと、先端部2tがねじ山の形成されていない円筒状をなす第二のスタッドボルトとの2種類が少なくとも存在する。ここでは、先端部2tにねじ山が形成されていない第二のスタッドボルト2Bが用いられており、その第二のスタッドボルト2Bがスタッドボルト固定具1に挿入固定された固定構造100B(
図4参照)が形成される。
【0018】
スタッドボルト固定具1を形成する樹脂材料は、従来のスタッドボルト固定具に用いていたナイロンでもよいし、それよりも低剛性のものでもよい。ここではナイロンよりも低剛性の樹脂材料が採用されている。具体的には、PP(ポリプロピレン)等を採用できる。
【0019】
本体部10は、スタッドボルト2の挿入部として形成される。
図1及び
図2に示すように、本体部10におけるスタッドボルト2の挿入入口部10H(入口部)は、その内周面10h(
図3参照)が、挿入されるスタッドボルト2のねじ山先端と近接するよう筒状に形成される(
図1参照)。本体部10において挿入入口部10Hは、その奥側に、挿入されるスタッドボルト2の軸線Z2(挿入方向I)に対し直交する方向に拡がるフランジ部10Aが形成される。なお、軸線Z1は本体部10の軸線であり、スタッドボルト2は自身の軸線Z2を軸線Z1に一致させる形で挿入される(
図3参照)。
【0020】
図4に示すように、フランジ部10A上(
図4では下)には、静音材等のシート材3が配置される。筒状の挿入入口部10Hは、シート材3に設けられた貫通孔3Hに挿入される。パネル材20から突出するスタッドボルト2は、挿入入口部10Hから挿入され、パネル材20は、挿入入口部10Hの入口面10aに当接する。シート材3は、フランジ部10Aとパネル材20との間に挟持される。
【0021】
また、本体部10は、
図1及び
図2に示すように、挿入入口部10Hの奥側に挿入本体部10Bが形成される。挿入本体部10Bは、ここでは挿入されたスタッドボルト2の外周を取り囲むように配置された、該スタッドボルト2の軸線Z2(挿入方向I)に沿って延びる複数の外周柱部として形成され、それらの内周側には挿入入口部10Hよりも幅広の挿入空間が形成される。各外周柱部(10B)は、フランジ部10Aの挿入方向Iの奥側の面から突設される。
【0022】
ここでの挿入本体部10Bをなす外周柱部10Bは、
図5及び
図6に示すように、軸線Z1周りの周方向に4つ形成され、それらのうち対向する2つは、互いの対向幅が挿入入口部10Hの径に対応し、スタッドボルト2の挿入をガイドするガイド柱部であり、他の2つは、後述する弾性係止片11及び振動抑制片12が形成される柱部であり、対向幅が挿入入口部10Hよりも幅広に形成される。
【0023】
また、本体部10におけるスタッドボルト2の挿入奥部10Cは、
図3及び
図4に示すように、所定のボルト径dを有したスタッドボルト2が貫通可能となるよう当該ボルト径dに対応する径を有した貫通孔10cが形成される。ここでのスタッドボルト2は、先端部2tにねじ山が形成されていない第二のスタッドボルト2B(
図4参照)であり、その先端部2tは、挿入奥部10Cの貫通孔10cに挿入されている。ただし、先端部2tにねじ山が形成されていないため、貫通孔10cの内壁面との間に隙間を有する。この隙間が存在することにより、スタッドボルト2Bには、挿入入口部10H側を支点とした先端部2t側の揺動が生じうる。この揺動は、後述する振動抑制片12により抑制される。
【0024】
なお、本実施例において、スタッドボルト2はその先端部を本体部10内に収容し、貫通させない形で挿入固定されるが、本発明はスタッドボルト2が挿入奥部10C(貫通孔10c)を貫通する形で挿入固定されるものでもよい。
【0025】
機能部13は、ここでは長手状配策材(図示なし)の保持機能を有した保持部として設けられる。具体的には、
図1及び
図2に示すように、本体部10のフランジ部10Aが円盤状に拡がるよう形成され、挿入方向Iの手前側の面が平坦面をなして形成される一方、その拡がり方向(面内方向)のうち一方向に延びるように拡張されたフランジ拡張部10A1を有する。機能部13は、その拡張部10A1における挿入方向Iの奥側に形成される。
【0026】
ここでの機能部13は、長手状配策材(例えばワイヤーハーネス)の外周を取り巻くベルト部13Bと、ベルト部13Bをその先端側から受け入れて固定可能なバックル部13Aと、を有した周知の結束部(ベルトクランプ部、ワイヤーハーネス保持部)である。バックル部13Aは、フランジ拡張部10A1の挿入方向Iの奥側に形成され、ベルト部13Bは、バックル部13Aのベルト入口側とは逆のベルト出口側から挿入方向Iの奥側へと延び出す。バックル部13Aは、ベルト部13Bを挿入方向Iに対し直交する方向に受け入れる形状をなす。
【0027】
なお、機能部13については、本実施例とは異なる機能部としてもよい。
【0028】
弾性係止片11は、
図3、
図4、
図6に示すように、本体部10に挿入されたスタッドボルト2を外周側から挟むよう軸線Z1周り(該スタッドボルト2の軸線Z2周り)に複数(ここでは2つ)設けられる。各弾性係止片11は、本体部10の挿入入口部10Hよりも奥側(スタッドボルト2の挿入方向Iの奥側)の挿入本体部10B(外周柱部)の内壁面10b(
図3参照)から内向きに突出する弾性アーム11Bと、その先端でスタッドボルト2の外周部に係止する係止爪11Aと、を有する。弾性アーム11Bは、内壁面10bとの接続部を支点にして、係止爪11Aが設けられる先端側が挿入方向I(
図3上下方向)に揺動する弾性変形が可能であり、挿入されたスタッドボルト2によって挿入方向Iの奥側及び外周側へと押し出される(
図3→
図4)。
【0029】
弾性アーム11Bは、挿入されたスタッドボルト2の軸線Z2に向けて挿入方向I側へと傾斜した形で直線状に延び出す。弾性アーム11Bの先端には、挿入方向I(
図3上方)に延びる弾性係止片先端部11C(弾性係止片11の先端部)が形成され、当該軸線Z2を臨む面に係止爪11Aが設けられる。ここでの係止爪11Aは、挿入されたスタッドボルト2のネジ溝に進入できるよう該スタッドボルト2に向かって鋭角状に突出する爪形状をなす。ここでの弾性係止片先端部11Cには、スタッドボルト2の挿入方向Iに並ぶ形で2つの係止爪11Aが設けられる。
【0030】
振動抑制片12は、
図3、
図4、
図5に示すように、本体部10に挿入されたスタッドボルト2を外周側から挟むよう軸線Z1周り(該スタッドボルト2の軸線Z2周り)において弾性係止片11と同じ位置にそれぞれ設けられる。各振動抑制片12は、各弾性係止片11よりも奥側(挿入方向Iの奥側)の内壁面10b(
図3参照)から内向きに突出する弾性アーム12Bと、その先端でスタッドボルト2の外周部を押し付ける押付面12Aを有する。弾性アーム12Bは、内壁面10bとの接続部を支点にして、押付面12Aが設けられる先端側が挿入方向I(
図3上下方向)に揺動する弾性変形が可能であり、挿入されたスタッドボルト2によって挿入方向Iの奥側及び外周側へと押し出される(
図3→
図4)。
【0031】
弾性アーム12Bは、挿入されたスタッドボルト2の軸線Z2に向けて挿入方向側へと傾斜した形で直線状に延び出す。弾性アーム12Bの先端には、挿入方向I(
図3上方)に延びる振動抑制片先端部12C(振動抑制片12の先端部)が形成され、当該軸線Z2を臨む先端面が押付面12Aとされる。
【0032】
各押付面12Aは、
図3に示すように、弾性係止片11及び振動抑制片12の自然状態(非弾性変形状態)において係止爪11Aの先端よりも本体部10の内周側(
図3の破線P(係止爪11Aの先端位置)よりも軸線Z1側)に位置する内周側先端面12pを有する。このため、スタッドボルト2が本体部10内に所定位置まで挿入されて係止爪11Aによって係止された挿入固定状態において、振動抑制片12は、弾性係止片11と同様、挿入されたスタッドボルト2によって外周側へと押し出されるが、押付面12Aが弾性係止片11(係止爪11A)よりも内周側の内周側先端面12pを有する分、弾性係止片11よりも内周側から外周側へとより大きく変位(弾性変形)することになる。この大きな変位(弾性変形)により、振動抑制片12は、大きな弾性復帰力を有した状態となり、押付面12Aは、挿入されたスタッドボルト2を弾性係止片11よりも強く内周側に押し付ける。
【0033】
押付面12Aによる押し付けにより、スタッドボルト固定具1の本体部10に挿入されたスタッドボルト2の揺動変位を小さく抑えることができる。この揺動変位は、例えば車両振動(走行振動等)等によって本体部10に挿入されたスタッドボルト2に生じる、本体部10の挿入入口部10H(入口部)側を支点とした、スタッドボルト2の先端部2t側(挿入方向Iの奥側)の外周側への変位である。この揺動変位が小さく抑えられることにより、弾性係止片11の外周側への揺動変位(弾性変形)も小さくなる。即ち、車両振動が生じたときのスタッドボルト2の揺動に伴い弾性係止片11やその係止爪11Aが受けとめる荷重が小さくなる。このため、弾性係止片11(弾性アーム11Bや係止爪11A)にダメージが入りにくくなり、従来よりも低剛性の樹脂材料でスタッドボルト固定具1を形成することが可能になる。
【0034】
また、弾性係止片11と振動抑制片12は、本体部10の軸線Z1周り(本体部10に挿入されたスタッドボルト2の軸線Z2周り)において同じ位置に存在する。即ち、弾性係止片11と振動抑制片12は、本体部10の内側で、本体部10の軸線Z1の方向(本体部10に挿入されたスタッドボルト2の軸線Z2の方向)に並んで形成される。このため、本体部10に挿入されたスタッドボルト2の上記揺動変位によっていずれかの弾性係止片11に弾性変形が生じるとき、その弾性係止片11の弾性変形を、軸線Z1の方向(軸線方向Z1)に並ぶ直上の振動抑制片12が確実に抑制し、弾性係止片11を保護することができる。
【0035】
また、本体部10は、
図4に示すように、振動抑制片12が外周側に揺動変位(弾性変形)したときに接触して、外周側へのさらなる弾性変形を阻止する変形規制部15を有する。これにより、振動抑制片12に過剰変形によるダメージが入ることを防ぐことができる。ここでは、本体部10の挿入入口部10Hよりも奥側(スタッドボルト2の挿入方向Iの奥側)の内壁面10bが、振動抑制片12との接続位置よりもさらに奥側において、奥側ほど内周側にせり出した傾斜面15bとされており、変形規制部15は、この傾斜面15bを振動抑制片12と接触する変形規制面15bとして有する。
【0036】
また、振動抑制片12は、
図3に示すように、自然状態(非弾性変形状態)において変形規制面15bと対面し、外周側に大きく揺動変位(弾性変形)したときに該変形規制面15bと接触する当接面12c(振動抑制片側当接面)を有する。当接面12cは、変形規制面15bとの接触時に面接触するよう当接傾斜面15bに対応する形状で形成される。ここでの変形規制面15bは、軸線Z1に対し傾斜した突起等の無い平坦面であり、当接面12cも、軸線Z1に直交する突起等の無い平坦面として形成される。
【0037】
また、本実施例において、押付面12Aが形成される振動抑制片12の先端部12C(振動抑制片先端部)は、
図5に示すように、挿入されたスタッドボルト2の軸線Z2方向(軸線Z1方向と一致する)から見て、該スタッドボルト2に対し接線方向に延びる第一延出部12C1と、第一延出部12C1の一端側から屈曲して該スタッドボルト2側へ延びる、第一延出部12C1よりも短い第二延出部12C2と、を有したL字状をなす。これにより、押付面12Aは、本体部10に挿入されたスタッドボルト2のねじ山に対しその周方向において少なくとも第一延出部12C1と第二延出部12C2との2点で接触するから、安定して押し付けることができる。
【0038】
同様に、係止爪11Aが形成される弾性係止片11の先端部11C(弾性係止片先端部)は、
図6に示すように、挿入されたスタッドボルト2の軸線Z2方向(軸線Z1方向と一致する)から見て、該スタッドボルト2に対し接線方向に延びる第一延出部11C1と、第一延出部11C1の一端側から屈曲して該スタッドボルト2側へ延びる、第一延出部12C1よりも短い第二延出部11C2と、を有したL字状をなす。これにより、係止爪11Aは、本体部10に挿入されたスタッドボルト2のねじ溝に対しその周方向において少なくとも第一延出部11C1と第二延出部11C2との2点で進入するから、安定した係止が可能になる。
【0039】
なお、挿入されたスタッドボルト2の軸線Z2の周り(軸線Z1の周り)において、押付面12Aが形成される振動抑制片12の、第一延出部12C1に対する第二延出部12C2側(
図5において軸線Z1を中心とする左回転側:矢印L方向側)と、係止爪11Aが形成される弾性係止片11の、第一延出部11C1に対する第二延出部11C2側(
図6において軸線Z1を中心とする右回転側:矢印R方向側)と、が逆側になっている。
【0040】
さらに、ここでの押付面12Aは、
図5に示すように、第一延出部12C1から第二延出部12C2にかけてスタッドボルト2の外周縁(ねじ山先端)に沿って湾曲する区間を有している。このため、押付面12Aは、本体部10に挿入されたスタッドボルト2のねじ山に対し、その湾曲区間において周方向(軸線Z1の周り)に長く接触(線接触)している。このため、振動抑制片12は、挿入されたスタッドボルト2の揺動変位を安定かつ確実に受け止め、スタッドボルト2の振動(揺動)をより効果的に抑制できる。
【0041】
同様に、ここでの係止爪11Aは、
図6に示すように、第一延出部11C1から第二延出部11C2にかけてスタッドボルト2の外周縁(ねじ山先端)に沿って湾曲する区間を有している。このため、係止爪11Aは、本体部10に挿入されたスタッドボルト2のねじ溝に対し、その湾曲区間において周方向(軸線Z2の周り)に長く進入した係止状態となっている。このため、弾性係止片11は、挿入されたスタッドボルト2を安定かつ確実に係止して、抜け止め状態で保持する。
【0042】
また、押付面12Aは、
図3及び
図4に示すように、挿入されたスタッドボルト2に向かって鋭角状に突出する爪形状(弾性係止片11の係止爪11Aのような爪形状)を有さない、平坦ないし湾曲状の面(平坦面と、湾曲面と、平坦面及び湾曲面の組み合わせとのいずれか)からなる。このため、振動抑制片12の押付面12Aがスタッドボルト2を押し付けているとき、その押付面12Aがスタッドボルト2のねじ山先端と接触し、振動抑制片12をより大きく弾性変形させる。その結果、より大きく弾性変形した分、スタッドボルト2への押付力が増し、スタッドボルト2の振動(揺動)をより効果的に抑制できる。振動抑制片12に弾性係止片11の係止爪11Aのような爪形状があれば、その爪係状部がスタッドボルト2のねじ溝内に進入する分、振動抑制片12の弾性変形は小さくなる。
【0043】
また、押付面12Aは、
図3に示すように、挿入されたスタッドボルト2に対し、挿入方向Iの手前側(入口側)から奥側に向けて徐々に接近する斜面を形成する入口側傾斜先端面12A1と、その奥側で屈曲して挿入方向Iのさらに奥に延びる奥側先端面12A2と、を有する。上述の内周側先端面12p(押付面12Aのうち
図3の直線Pよりも軸線Z1側に存在する面領域)は、ここでは入口側傾斜先端面12A1の挿入方向Iの奥側と、奥側先端面12A2全体と、からなる滑らかに続く連続面である。スタッドボルト2は、挿入本体部10B内に挿入される際、入口側傾斜先端面12A1の挿入方向Iの奥側が押し付けられて振動抑制片12が弾性変形する。したがって、内周側先端面12pについては、少なくとも入口側傾斜先端面12A1の挿入方向Iの奥側と、奥側先端面12A2の挿入方向Iの手前側のみ(即ち、入口側傾斜先端面12A1と奥側先端面12A2の接続部のみ)であってもよく、これらのみであっても、スタッドボルト2が挿入されたときには振動抑制片12を弾性変形させることができる。
【0044】
ただし、ここでの奥側先端面12A2は、振動抑制片12が自然状態(非弾性変形状態:
図3参照)のときに、スタッドボルト2の挿入方向に沿って延びる平坦面(奥側平坦面)をなしており、これにより変形規制部15に対し接触する当接面12cの面積を広く確保している。
【0045】
以上、本発明の一実施例を説明したが、これはあくまでも例示にすぎず、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、追加及び省略等の種々の変更が可能である。
【0046】
上記実施例のスタッドボルト2は、所定のボルト径(ねじ径)を有し、先端部2tにねじ山が非形成の第二のスタッドボルト2Bであったが、先端までねじ山が形成される第一のスタッドボルトとしてもよい。例えば
図7に示すように、先端までねじ山が形成される第一のスタッドボルトが、挿入奥部10Cの貫通孔10cに挿入されないような、長さの短いスタッドボルト2Aであれば、このスタッドボルト2Aは、挿入入口部10H側を支点とした先端部2t側の揺動が生じる構造となる。しかしながら、その揺動は、上記実施例と同様の振動抑制片12の存在によって抑制できる。即ち、第一のスタッドボルト2Aがスタッドボルト固定具1に挿入固定された固定構造100Aにおいても、スタッドボルト2Aの揺動を抑制できる。
【0047】
また、スタッドボルト2が、上記実施例(
図4参照)のスタッドボルト2Bと同様、先端部2tが円柱状をなしてねじ山が非形成とされた第二のスタッドボルトであるものの、例えば
図8に示すように、先端部2tが挿入奥部10Cの貫通孔10cに挿入されないような、長さが短いスタッドボルト2Cであれば、このスタッドボルト2Cも、挿入入口部10H側を支点とした先端部2t側の揺動が生じる構造となる。しかしながら、その揺動も、上記実施例(
図4参照)と同様の振動抑制片12の存在によって抑制できる。この場合、振動抑制片12の押付面12Aは、スタッドボルト2Cの先端部2t(ねじ山非形成部)を押し付けることになるが、その先端部2tにはねじ山が無いため、振動抑制片12の内周側から外周側への弾性変形の変位は、上記実施例(
図4参照)のスタッドボルト2Bよりも小さくなる。しかしながら、振動抑制片12における押付面12Aの内周側先端面12pが、弾性係止片11における係止爪11Aの先端よりも内周側に位置していることにより、ねじ山の無い小径の先端部2tに対しても確実に接触するから、スタッドボルト2Cに揺動が生じた際には確実に弾性変形し、その揺動を抑制することができる。即ち、第二のスタッドボルト2Cがスタッドボルト固定具1に挿入固定された固定構造100Cにおいても、スタッドボルト2Cの揺動を抑制できる。
【0048】
さらに、この場合は、内周側先端面12pのうち、挿入されたスタッドボルト2に最も近い位置が、弾性係止片11における係止爪11Aの先端よりも、スタッドボルト2のねじ山の高さよりも長く内周側に位置していれば、スタッドボルト2が挿入されたときに振動抑制片12が確実に弾性変形し、上記揺動を抑制することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 スタッドボルト固定具
10 本体部
10H 挿入入口部(入口部)
10A フランジ部
10B 挿入本体部
10C 挿入奥部
10b 内壁面
11 弾性係止片
11A 係止爪
11B 弾性アーム
12 振動抑制片
12A 押付面
12B 弾性アーム
13 機能部
15 変形規制部
2 スタッドボルト
I 挿入方向
Z1 本体部の軸線、本体部の軸線方向
Z2 スタッドボルトの軸線、スタッドボルトの軸線方向