(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094744
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】パッシブバイスタティックレーダーシステム
(51)【国際特許分類】
G01S 13/46 20060101AFI20240703BHJP
G01S 13/88 20060101ALI20240703BHJP
G01S 13/90 20060101ALI20240703BHJP
G01V 3/12 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
G01S13/46
G01S13/88 200
G01S13/90
G01V3/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211486
(22)【出願日】2022-12-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「超広帯域アンテナ・デジタル技術などを基盤技術とした受動型バイスタティックレーダーの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000101857
【氏名又は名称】アンテナ技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 純
(72)【発明者】
【氏名】須藤 邦明
【テーマコード(参考)】
2G105
5J070
【Fターム(参考)】
2G105AA02
2G105BB14
2G105CC01
2G105DD02
2G105EE02
2G105GG05
2G105LL02
2G105LL03
5J070AA02
5J070AC02
5J070AC11
5J070AD02
5J070AE11
5J070AF10
5J070AH04
5J070AH31
5J070AH35
5J070AK40
5J070BE02
5J070BG03
(57)【要約】
【課題】ターゲットの測定を容易に行うことを可能にする。
【解決手段】パッシブバイスタティックレーダーシステム1は、電波を送信可能な送信装置20と、送信装置20から送信された直接波を受信可能な第1アンテナ22と、送信装置20から送信されて測定対象となるターゲット10により反射された反射波を受信可能な第2アンテナ24と、第1アンテナ22により受信された直接波の電力と、第2アンテナ24により受信された反射波の電力とに基づいて、少なくともターゲット10の位置の測定を行うレーダー装置26と、を備え、送信装置20は、持ち運んで利用可能であり、公衆に利用される電波を送信する公衆移動局である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を送信可能な送信装置と、
前記送信装置から送信された直接波を受信可能な第1アンテナと、
前記送信装置から送信されて測定対象となるターゲットにより反射された反射波を受信可能な第2アンテナと、
前記第1アンテナにより受信された前記直接波の電力と、前記第2アンテナにより受信された前記反射波の電力とに基づいて、少なくとも前記ターゲットの位置の測定を行うレーダー装置と、
を備え、
前記送信装置は、持ち運んで利用可能であり、公衆に利用される電波を送信する公衆移動局である、パッシブバイスタティックレーダーシステム。
【請求項2】
前記送信装置は、スマートフォン、携帯電話、タブレット、モバイルルーターおよびノートパソコンのいずれかである、請求項1に記載のパッシブバイスタティックレーダーシステム。
【請求項3】
前記ターゲットは、地中に埋設された埋設物および地中の空洞の少なくともいずれかであり、
前記送信装置から送信される電波の周波数は、1GHz未満である、請求項1に記載のパッシブバイスタティックレーダーシステム。
【請求項4】
前記ターゲットは、地面であり、
前記送信装置から送信される電波の周波数は、1GHz以上である、請求項1に記載のパッシブバイスタティックレーダーシステム。
【請求項5】
前記レーダー装置は、前記第1アンテナにより受信された前記直接波の電力と、前記第2アンテナにより受信された前記反射波の電力との相関関数を導出し、導出した相関関数に従って前記ターゲットの位置を特定する、請求項1に記載のパッシブバイスタティックレーダーシステム。
【請求項6】
前記送信装置は、送信する電波が前記ターゲットの推定位置に到達可能な範囲内に配置され、
前記第1アンテナは、前記送信装置の近傍に配置され、
前記第2アンテナは、前記ターゲットの推定位置で反射された前記反射波を受信可能な範囲内に配置される、請求項1に記載のパッシブバイスタティックレーダーシステム。
【請求項7】
前記第1アンテナは、前記送信装置の近傍に配置されるとともに、前記レーダー装置と有線接続されている、請求項1に記載のパッシブバイスタティックレーダーシステム。
【請求項8】
前記第2アンテナは、前記第1アンテナと前記送信装置との間の距離よりも前記第1アンテナに対して離隔して配置される、請求項1に記載のパッシブバイスタティックレーダーシステム。
【請求項9】
前記第2アンテナは、互いに直交する第1エレメントおよび第2エレメントを有するクロス八木アンテナであり、前記反射波の水平偏波および垂直偏波を受信する、請求項1に記載のパッシブバイスタティックレーダーシステム。
【請求項10】
前記第2アンテナは、受信位置をずらしながら前記反射波の受信が可能に構成されており、
前記レーダー装置は、前記第2アンテナにより受信された受信位置ごとの前記反射波の電力に基づいて合成開口処理を行い、前記合成開口処理の結果に基づいて前記ターゲットの特徴を特定する、請求項1に記載のパッシブバイスタティックレーダーシステム。
【請求項11】
遮蔽体をさらに備え、
前記遮蔽体は、前記送信装置と前記第2アンテナとの間に配置される、請求項1に記載のパッシブバイスタティックレーダーシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パッシブバイスタティックレーダーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、地中に埋設された対象物の探査を行う地中レーダー装置が開示されている。かかる地中レーダー装置は、電波を地中に送信する送信部と、対象物で反射した電波を受信する受信部とを備えている。すなわち、かかる地中レーダー装置は、探査用の電波を自ら(アクティブに)送信している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レーダーを用いてターゲット(対象物)を測定する技術の一例である、従来の地中探査技術では、電波をアクティブに送信しているため、電波法の観点から空中に電波を送信することが制限されており、電波漏れを抑制するために地面の近傍から地中に向けて電波を送信する構成としなければならない。このため、従来の地中探査技術では、レーダー装置の使用に制限や制約が生じることがある。
【0005】
そこで、本発明は、ターゲットの測定を容易に行うことが可能なパッシブバイスタティックレーダーシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一実施形態に係るパッシブバイスタティックレーダーシステムは、電波を送信可能な送信装置と、送信装置から送信された直接波を受信可能な第1アンテナと、送信装置から送信されて測定対象となるターゲットにより反射された反射波を受信可能な第2アンテナと、第1アンテナにより受信された直接波の電力と、第2アンテナにより受信された反射波の電力とに基づいて、少なくともターゲットの位置の測定を行うレーダー装置と、を備え、送信装置は、持ち運んで利用可能であり、公衆に利用される電波を送信する公衆移動局である。
【0007】
送信装置は、スマートフォン、携帯電話、タブレット、モバイルルーターおよびノートパソコンのいずれかであるとしてもよい。
【0008】
ターゲットは、地中に埋設された埋設物および地中の空洞の少なくともいずれかであり、送信装置から送信される電波の周波数は、1GHz未満であるとしてもよい。
【0009】
ターゲットは、地面であり、送信装置から送信される電波の周波数は、1GHz以上であるとしてもよい。
【0010】
レーダー装置は、第1アンテナにより受信された直接波の電力と、第2アンテナにより受信された反射波の電力との相関関数を導出し、導出した相関関数に従ってターゲットの位置を特定するようにしてもよい。
【0011】
送信装置は、送信する電波がターゲットの推定位置に到達可能な範囲内に配置され、第1アンテナは、送信装置の近傍に配置され、第2アンテナは、ターゲットの推定位置で反射された反射波を受信可能な範囲内に配置されるようにしてもよい。
【0012】
第1アンテナは、送信装置の近傍に配置されるとともに、レーダー装置と有線接続されているとしてもよい。
【0013】
第2アンテナは、第1アンテナと送信装置との間の距離よりも第1アンテナに対して離隔して配置されるようにしてもよい。
【0014】
第2アンテナは、互いに直交する第1エレメントおよび第2エレメントを有するクロス八木アンテナであり、反射波の水平偏波および垂直偏波を受信するようにしてもよい。
【0015】
第2アンテナは、受信位置をずらしながら反射波の受信が可能に構成されており、レーダー装置は、第2アンテナにより受信された受信位置ごとの反射波の電力に基づいて合成開口処理を行い、合成開口処理の結果に基づいてターゲットの特徴を特定するようにしてもよい。
【0016】
パッシブバイスタティックレーダーシステムは、遮蔽体をさらに備え、遮蔽体は、送信装置と第2アンテナとの間に配置されるとしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ターゲットの測定を容易に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本実施形態にかかるパッシブバイスタティックレーダーシステムの構成を示す概略図である。
【
図2】
図2は、第2アンテナの一例であるクロス八木アンテナとターゲットとの関係を説明する図である。
【
図3】
図3は、パッシブバイスタティックレーダーシステムの他の構成を示す概略図である。
【
図4】
図4は、ターゲットの測定方法を説明するフローチャートである。
【
図5】
図5は、信号処理部50による信号処理の流れを説明するフローチャートである。
【
図7】
図7は、送信装置から送信される電波の周波数について説明する図である。
【
図8】
図8は、変形例のパッシブバイスタティックレーダーシステムの構成を示す概略図である。
【
図9】
図9は、変形例のパッシブバイスタティックレーダーシステムにおける信号処理部の信号処理の流れを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す具体的な寸法、材料、数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0020】
図1は、本実施形態にかかるパッシブバイスタティックレーダーシステム1の構成を示す概略図である。
【0021】
パッシブバイスタティックレーダーシステム1は、測定対象であるターゲット10の測定が可能な構成となっている。ターゲット10は、例えば、地中に埋設された埋設物や地中の空洞などである。埋設物は、例えば、水道管、ガス管、電力線、通信線などであるが、例示したものに限らない。パッシブバイスタティックレーダーシステム1では、ターゲット10の位置、形状、大きさ、姿勢(方向)など、ターゲット10に関する各種の特徴を測定することができる。また、ターゲット10は、地面12や壁面など、地上に露出しているものであってもよい。例えば、パッシブバイスタティックレーダーシステム1では、大地の表面変位を測定することもできる。
【0022】
パッシブバイスタティックレーダーシステム1は、送信装置20、第1アンテナ22、第2アンテナ24およびレーダー装置26を備える。第1アンテナ22、第2アンテナ24およびレーダー装置26は、レーダーユニット30を構成する。送信装置20は、レーダーユニット30から独立した装置である。
【0023】
送信装置20は、電波を送信可能な装置である。本実施形態における送信装置20は、公衆移動局である。公衆移動局とは、持ち運んで利用可能であり、公衆に利用される電波を送信する無線局である。公衆に利用される電波は、例えば、LTE(Long Term Evolution)などの公衆無線システムで用いられる周波数の電波である。公衆移動局が送信する電波については、後に詳述する。
【0024】
送信装置20は、具体的には、スマートフォン、携帯電話、タブレット、モバイルルーター、ノートパソコンなどである。なお、送信装置20は、例示した機器に限らず、公衆移動局として機能する任意の機器であってもよい。すなわち、送信装置20は、モバイル装置であり、送信装置20について無線局の登録を行わなくてもユーザーが使用可能なものや、無線従事者免許がなくてもユーザーが使用可能なものである。
【0025】
送信装置20は、ターゲット10が存在すると推定される推定位置に送信装置20から送信される電波が到達可能な所定範囲内に配置される。ここでの所定範囲内は、例えば、10m以内などであるが、使用する電波によって適切に設定することができる。送信装置20は、持ち運びが可能であるため、当該所定範囲内の任意の位置に配置することができる。
【0026】
第1アンテナ22は、送信装置20から送信された電波の直接波を受信可能に構成されている。第1アンテナ22は、例えば、チップアンテナやループアンテナなどである。なお、第1アンテナ22は、例示した種類のアンテナに限らず、任意の種類のアンテナであってもよい。
【0027】
第1アンテナ22は、送信装置20の近傍に配置される。ここでの近傍とは、送信装置20と第1アンテナ22との間の距離が、送信装置20とターゲット10の推定位置との間の距離に対して十分に短いことを意味する。また、ここでの近傍は、第1アンテナ22が送信装置20に接触して配置されることを許容する。第1アンテナ22が送信装置20の近傍に配置されることで、第1アンテナ22は、送信装置20から送信される直接波を適切に受信することができる。
【0028】
第1アンテナ22は、レーダー装置26に有線接続されている。これにより、第1アンテナ22の位置に拘わらず、第1アンテナ22からレーダー装置26までの信号の伝達時間が一定に保たれる。このため、送信装置20および第1アンテナ22の位置を固定して測定することで、送信装置20から送信された直接波が第1アンテナ22を通じてレーダー装置26に伝達するまでの伝達時間を一定にすることができる。その結果、測定の基準となる直接波の取得タイミングが変動することを抑制することができ、測定精度を向上させることができる。
【0029】
第2アンテナ24は、送信装置20から送信された電波のうちターゲット10により反射された反射波を受信可能に構成されている。第2アンテナ24は、第1アンテナ22に対して離隔して配置される。具体的には、第1アンテナ22と第2アンテナ24との間の距離が、第1アンテナ22と送信装置20との間の距離よりも長くなるように、第2アンテナ24が配置される。例えば、第1アンテナ22と第2アンテナ24との間の距離が、第1アンテナ22と送信装置20との間の距離の5倍以上となるように配置されることが好ましい。なお、距離の比較値は、例示した数値に限らず、適宜設定することができる。
【0030】
また、第2アンテナ24は、ターゲット10の推定位置で反射された反射波を受信可能な所定範囲内に配置される。ここでの所定範囲内は、送信装置20から送信される電波の周波数、ターゲット10の推定位置、ターゲット10の設置環境など、各種の条件を考慮して適宜設定されてもよい。
【0031】
パッシブバイスタティックレーダーシステム1におけるバイスタティックとは、送信装置20が、第1アンテナ22および第2アンテナ24に対して独立していることを意味する。
【0032】
また、従来の地中レーダー装置は、探査用の電波を地中レーダー装置が自ら送信するアクティブ型のレーダー装置であった。一方、本実施形態のパッシブバイスタティックレーダーシステム1におけるパッシブとは、レーダーユニット30自体が、電波を送信しないことを意味する。すなわち、本実施形態のレーダーユニット30は、第1アンテナ22および第2アンテナ24の両方が受信用のアンテナで構成されるため、パッシブバイスタティックレーダーを構成している。
【0033】
第2アンテナ24は、レーダー装置26に有線接続されている。これにより、第2アンテナ24の位置に拘わらず、第2アンテナ24からレーダー装置26までの信号の伝達時間が一定に保たれる。
【0034】
第2アンテナ24は、例えば、クロス八木アンテナである。なお、第2アンテナ24は、クロス八木アンテナに限らず、任意の種類のアンテナであってもよい。
【0035】
図2は、第2アンテナ24の一例であるクロス八木アンテナ24aとターゲット10との関係を説明する図である。
図2のターゲット10aは、地面12に対して水平に配置されているターゲット10の一例である。ターゲット10bは、地面12に対して垂直に配置されているターゲット10の一例である。ターゲット10cは、地面12に対して傾斜して配置されているターゲット10の一例である。
【0036】
第2アンテナ24の一例であるクロス八木アンテナ24aは、複数の第1エレメント40および複数の第2エレメント42を有している。第1エレメント40および第2エレメント42は、互いに直交している。クロス八木アンテナ24aは、第1エレメント40が地面12に対して水平になり、第2エレメント42が地面12に対して垂直になるような姿勢で配置される。クロス八木アンテナ24aがこのように配置されることで、第1エレメント40は、ターゲット10により反射された反射波の水平偏波を受信し、第2エレメント42は、ターゲット10により反射された垂直偏波を受信する。
【0037】
第1エレメント40は、地面12に対して水平に配置されているターゲット10aに対して平行となり、地面12に対して垂直に配置されているターゲット10bに対して垂直となっている。
【0038】
第1エレメント40は、第1エレメント40に対して垂直なターゲット10bで反射された反射波については適切に受信することができないが、第1エレメント40に対して平行なターゲット10aで反射された反射波を受信可能である。すなわち、クロス八木アンテナ24aを用いることで、第1エレメント40で受信された電力によって水平に配置されたターゲット10aの測定を行うことができる。
【0039】
一方、第2エレメント42は、地面12に対して垂直に配置されているターゲット10bに対して平行となり、地面12に対して水平に配置されているターゲット10aに対して垂直となっている。
【0040】
第2エレメント42は、第2エレメント42に対して垂直なターゲット10aで反射された反射波については適切に受信することができないが、第2エレメント42に対して平行なターゲット10bで反射された反射波を受信可能である。すなわち、クロス八木アンテナ24aを用いることで、第2エレメント42で受信された電力によって垂直に配置されているターゲット10bの測定を行うことができる。
【0041】
また、第1エレメント40は、傾斜して配置されているターゲット10cで反射された反射波の水平方向成分(水平偏波成分)を受信可能である。第2エレメント42は、斜めに存在するターゲット10cで反射された反射波の垂直方向成分(垂直偏波成分)を受信可能である。第1エレメント40で受信された電力と第2エレメント42で受信された電力との比率を導出することで、傾斜して配置されているターゲット10cの測定を行うことができる。すなわち、クロス八木アンテナ24aを用いることで、傾斜して配置されているターゲット10cの測定も行うことができる。
【0042】
このように、第2アンテナ24としてクロス八木アンテナ24aを用いることで、ターゲット10の姿勢に拘わらず、ターゲット10の測定を行うことができる。
【0043】
図1に戻って説明する。レーダー装置26は、信号処理部50および表示部52を有する。信号処理部50は、例えば、ADコンバータおよびDSP(Digital Signal Processor)により構成される。
【0044】
信号処理部50は、第1アンテナ22により受信された直接波の電力(直接波の受信電力)と、第2アンテナ24により受信された反射波の電力(反射波の受信電力)とを取得する。信号処理部50は、直接波の受信電力と反射波の受信電力とに基づいて、少なくともターゲット10の位置の測定を行う。
【0045】
例えば、直接波の受信電力の取得タイミングと反射波の受信電力の取得タイミングとの差分を取ることで、送信装置20からターゲット10を経由して第2アンテナ24に至る経路を電波が伝搬する時間を特定することができる。この時間を距離に換算すれば、送信装置20からターゲット10を経由して第2アンテナ24に至る経路の距離を特定することができる。そして、この距離に対して、送信装置20の位置および第2アンテナ24の位置の関係から所定の距離調整を行うことで、第2アンテナ24からターゲット10までの距離を特定することができる。すなわち、ターゲット10の位置を特定することができる。
【0046】
表示部52は、例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどである。表示部52は、信号処理部50による処理結果を表示可能に構成されている。
【0047】
図3は、パッシブバイスタティックレーダーシステム1の他の構成を示す概略図である。
図3で示すように、パッシブバイスタティックレーダーシステム1は、遮蔽体60をさらに備えてもよい。
【0048】
遮蔽体60は、導電性を有する金属で構成される。遮蔽体60としては、例えば、電磁シールドを目的とした金網や鉄板などを用いることができる。遮蔽体60は、送信装置20と第2アンテナ24との間に配置される。なお、遮蔽体60は、導電性を有する金属で構成されるものに限らず、例えば、電波を吸収する材質のもので構成されてもよい。
【0049】
遮蔽体60を配置することで、送信装置20から送信された直接波が第2アンテナ24で受信されることを防止することができる。第2アンテナ24の受信電力に直接波が混在することが防止されるため、信号処理部50におけるターゲット10の測定結果の精度の低下を抑制することができる。
【0050】
図4は、ターゲット10の測定方法を説明するフローチャートである。ターゲット10の測定を行う場合、まず、送信装置20に電波を送信させる(S10)。
【0051】
例えば、送信装置20がスマートフォンであれば、スマートフォンで通話を行えば、電波を送信させることができる。また、通話に限らず、例えば、スマートフォンでデータ通信を行うことによっても電波を送信させることができる。ここではスマートフォンを例に挙げたが、送信装置20が他の種類の公衆移動局であっても、送信装置20に無線通信を行わせることによって送信装置20から電波を送信させることができる。
【0052】
送信装置20が電波を送信すると、第1アンテナ22は、送信装置20からの直接波を受信する(S11)。
【0053】
また、第2アンテナ24は、送信装置20から送信されてターゲット10で反射された反射波を受信する(S12)。
【0054】
信号処理部50は、受信した直接波および反射波に基づいて信号処理(S13)を行う。この信号処理により、ターゲット10の位置などの測定結果が得られる。信号処理(S13)については、後に詳述する。
【0055】
信号処理(S13)が完了して測定結果が得られると、信号処理部50は、その測定結果を表示部52に表示させる(S14)。
【0056】
図5は、信号処理部50による信号処理(S13)の流れを説明するフローチャートである。
【0057】
信号処理部50は、まず、第1アンテナ22により受信された直接波の受信電力「f(t)」を取得する(S20)。「f(t)」は、受信電力の時間に対する関数である。
【0058】
また、信号処理部50は、第2アンテナ24により受信された反射波の受信電力「g(t)」を取得する(S21)。「g(t)」は、受信電力の時間に対する関数である。
【0059】
信号処理部50は、取得した直接波の受信電力「f(t)」に対してフーリエ変換(例えば、高速フーリエ変換)を行い、直接波の受信電力の周波数スペクトル「F(f)」を導出する(S22)。
【0060】
また、信号処理部50は、取得した反射波の受信電力「g(t)」に対してフーリエ変換(例えば、高速フーリエ変換)を行い、反射波の受信電力の周波数スペクトル「G(f)」を導出する(S23)。
【0061】
信号処理部50は、直接波の受信電力の周波数スペクトル「F(f)」の複素共役をとって、「F(f)」の共役複素数「F*(f)」を導出する(S24)。
【0062】
次に、信号処理部50は、直接波の受信電力の周波数スペクトルの共役複素数「F*(f)」と、反射波の受信電力の周波数スペクトル「G(f)」とを乗算し、クロススペクトル「F*(f)G(f)」を導出する(S25)。
【0063】
信号処理部50は、クロススペクトル「F*(f)G(f)」に対して逆フーリエ変換を行い、相関関数「C(t)」を導出する(S26)。相関関数「C(t)」は、時間の関数である。
【0064】
信号処理部50は、相関関数「C(t)」に基づいてターゲット10の位置を特定し(S27)、信号処理(S13)を終了する。なお、ターゲット10の位置は、第2アンテナ24からターゲット10までの距離や、地面12からターゲット10までの距離(埋設深さ)の概念を含んでもよい。
【0065】
例えば、信号処理部50は、相関関数「C(t)」における相関値が最大となる時点を特定する。信号処理部50は、相関関数「C(t)」における基準時点(例えば、0)から、特定した時点までの時間を距離に換算する。このようにして得られた距離が、送信装置20からターゲット10を経由して第2アンテナ24までの経路の距離に相当する。信号処理部50は、このようにして得られた距離を、例えば、1/2などの所定の調整係数を乗算するなどして、第2アンテナ24からターゲット10の位置までの距離を導出することができる。
【0066】
送信装置20の位置および第2アンテナ24の位置は、ユーザーが任意に設定できる。そのため、例えば、送信装置20の位置および第2アンテナ24の位置を、ユーザーがレーダー装置26に予め入力するなどして、送信装置20の位置および第2アンテナ24の位置を特定しておくことができる。信号処理部50は、例えば、第2アンテナ24の位置と、導出した第2アンテナ24からターゲット10までの距離とから、ターゲット10の位置を特定することが可能である。
【0067】
なお、
図5のフローチャートの各処理において、一部を並列処理で実行してもよい。例えば、信号処理部50は、直接波の受信電力「f(t)」を取得して直接波の受信電力の周波数スペクトル「F(f)」を導出する処理と、反射波の受信電力「g(t)」を取得して射波の受信電力の周波数スペクトル「G(f)」を導出する処理とを、並列して行ってもよい。
【0068】
図6は、実験結果の一例を示す図である。実験では、ターゲット10としてアルミ板を使用し、ターゲット10を地上に設置した。また、実験では、送信装置20としてルーターを使用し、第1アンテナ22としてループアンテナを使用し、第2アンテナ24として八木アンテナを使用した。また、実験では、送信装置20と第2アンテナ24との間に金網の遮蔽体60を設けた。
【0069】
図6(a)は、第1アンテナ22を通じて信号処理部50が取得した直接波の受信電力「f(t)」の一例である。
図6(b)は、第2アンテナ24を通じて信号処理部50が取得した反射波の受信電力「g(t)」の一例である。
図6(a)および
図6(b)で示すように、反射波は、ターゲット10の位置の情報を含むため、直接波と比べ、受信電力の時間変化が大きい。
【0070】
図6(c)は、
図6(a)の波形に対してフーリエ変換を行って得られた、直接波の受信電力の周波数スペクトル「F(f)」の一例である。
図6(c)で示すように、直接波の受信電力の周波数スペクトル「F(f)」では、送信装置20から送信された電波の周波数特性が反映されている。
【0071】
図6(d)は、
図6(b)の波形に対してフーリエ変換を行って得られた、反射波の受信電力の周波数スペクトル「G(f)」の一例である。
図6(d)で示すように、反射波の受信電力の周波数スペクトル「G(f)」では、ターゲット10で反射された電波を含む周波数特性が反映されている。
【0072】
図6(e)は、
図6(c)の周波数スペクトル「F(f)」と
図6(d)の周波数スペクトル「G(f)」とに基づいて導出された相関関数「C(t)」の一例である。
図6(e)において、時点0は、送信装置20の位置に対応する基準時点を示す。時点Tcは、相関関数「C(t)」の相関値が最大となる時点を示す。時間TLは、時点0から時点Tcまでの時間である。
【0073】
時間TLは、送信装置20からターゲット10を経由して第2アンテナ24に至る経路の距離に対応する時間である。すなわち、信号処理部50は、この時間TLを特定し、時間TLに所定の換算係数や所定の調整係数を乗算するなどして、第2アンテナ24からターゲット10までの距離を特定する。その結果、ターゲット10の位置が特定される。
【0074】
図7は、送信装置20から送信される電波の周波数について説明する図である。パッシブバイスタティックレーダーシステム1では、ターゲット10の種類によって送信装置20から送信される電波の周波数を使い分けることが好ましい。
【0075】
図7で示すように、ターゲット10が、地中に埋設された埋設物および地中の空洞の少なくともいずれかである場合、送信装置20から送信される電波の周波数を、1GHz未満とすることが好ましい。ここで、周波数が1GHz以上となると、電波の地中での減衰が大きくなる。これを踏まえ、1GHz未満の周波数の電波を用いて、地中のターゲット10の測定を行うことで、電波の地中での減衰を抑制することができる。その結果、地中のターゲット10の測定精度の低下を抑制することができる。
【0076】
1GHz未満の周波数の一例としては、例えば、LTEで利用される、703~915MHzの周波数が挙げられる。なお、送信装置20から送信する電波の周波数は、例示した周波数に限らず、1GHz未満の任意の周波数としてもよい。
【0077】
また、
図7で示すように、ターゲット10が、地面などのように、地上に現れているものである場合、送信装置20から送信される電波の周波数を、1GHz以上とすることが好ましい。ここで、ターゲット10が地上にあれば、地中での電波の減衰を考慮しなくてもよい。また、周波数が高いほど、信号処理部50における信号処理の精度を高くすることができる。これを踏まえ、1GHz以上の周波数の電波を用いて、地上のターゲット10の測定を行うことで、測定精度を向上させることができる。例えば、1GHz以上の周波数の電波を用いることで、大地の表面変位を精度良く測定することができる。
【0078】
1GHz以上の周波数の一例として、
図7で示す(1)~(4)の態様が挙げられる。第1の例(1)としては、5.6GHz帯のWLANで利用される、5470~5730MHzの周波数が挙げられる。第2の例(2)としては、5G(第5世代移動通信システム)で利用される、3.6~4.2GHz、4.4~4.9GHzの周波数が挙げられる。第3の例(3)としては、60GHz帯の移動体検知センサなどで利用される、57~64GHzの周波数が挙げられる。第4の例(4)としては、79GHz帯の車載レーダーで利用される、77~81GHzの周波数が挙げられる。なお、送信装置20から送信する周波数は、例示した周波数に限らず、1GHz以上の任意の周波数としてもよい。
【0079】
以上のように、本実施形態のパッシブバイスタティックレーダーシステム1は、電波を送信可能な送信装置20と、第1アンテナ22と、第2アンテナ24と、レーダー装置26とを備える。第1アンテナ22は、送信装置から送信された直接波を受信可能となっている。第2アンテナ24は、送信装置20から送信されて所定のターゲット10により反射された反射波を受信可能となっている。レーダー装置26は、第1アンテナ22により受信された直接波の電力と、第2アンテナ24により受信された反射波の電力とに基づいて、ターゲット10の測定を行う。そして、本実施形態のパッシブバイスタティックレーダーシステム1では、送信装置20が、持ち運んで利用可能であり、公衆に利用される電波を送信する公衆移動局となっている。
【0080】
このように、本実施形態のパッシブバイスタティックレーダーシステム1では、第1アンテナ22、第2アンテナ24およびレーダー装置26から構成されるレーダーユニット30が電波をアクティブに送信せず、送信装置20が公衆移動局であるため、無線局の登録が不要となっている。すなわち、本実施形態のパッシブバイスタティックレーダーシステム1では、無線局などの許認可を受けることが必要となる構成が省略されている。このため、本実施形態のパッシブバイスタティックレーダーシステム1では、無線局の登録の制約がないため、ユーザーが本実施形態のパッシブバイスタティックレーダーシステム1を容易に利用することができる。
【0081】
また、スマートフォンなどの公衆移動局は、携帯電話基地局などの固定局と比べて、ターゲット10に対して近距離に設置することが可能であるから、ターゲット10に照射する電波の強度は比較的大きい。本実施形態のパッシブバイスタティックレーダーシステム1では、送信装置20が公衆移動局であるため、強度が比較的大きい電波を使用してターゲット10の測定を行うことができる。このため、本実施形態のパッシブバイスタティックレーダーシステム1では、測定可能距離が短くなることを抑制することができるとともに、測定精度を向上させることが可能となる。
【0082】
また、本実施形態のパッシブバイスタティックレーダーシステム1では、送信装置20が公衆移動局であるため、地面12の近傍から地中に向けて電波を送信する態様に制限されない。例えば、本実施形態のパッシブバイスタティックレーダーシステム1では、地面12から十分に離隔した位置から電波を送信することができるとともに、電波に指向性が無くてもターゲット10の測定を行うことができる。このため、本実施形態のパッシブバイスタティックレーダーシステム1では、従来の地中探査レーダー装置と比べ、利便性が高い。
【0083】
また、本実施形態のパッシブバイスタティックレーダーシステム1では、地中探査だけでなく、大地の表面変位など、地上での測定にも利用できる。このため、本実施形態のパッシブバイスタティックレーダーシステム1では、地中探査しか行うことができない従来の地中探査レーダー装置と比べ、汎用性が高い。
【0084】
また、本実施形態のパッシブバイスタティックレーダーシステム1では、送信装置20が公衆移動局であるため、公衆移動局で通常使用される周波数の電波を、ターゲット10の測定に利用することができる。このため、本実施形態のパッシブバイスタティックレーダーシステム1では、ターゲット10の測定に適した周波数の電波を利用することができる。
【0085】
また、本実施形態のパッシブバイスタティックレーダーシステム1では、送信装置20としてユーザーが持っている公衆移動局を利用できる。このため、本実施形態のパッシブバイスタティックレーダーシステム1では、レーダーユニット30の製造コストを抑制することができる。
【0086】
また、本実施形態のパッシブバイスタティックレーダーシステム1では、送信装置20が公衆移動局であるため、ユーザーが送信装置20を測定位置まで持ち運び移動することができる。このため、本実施形態のパッシブバイスタティックレーダーシステム1では、電波塔などの固定局と比べ、ターゲット10の推定位置に電波を確実に伝達させることが可能となる。
【0087】
また、本実施形態のパッシブバイスタティックレーダーシステム1では、送信装置20が公衆移動局であるため、送信装置20の位置、すなわち、電波の送信位置を、ユーザーが自由に決めることができる。このため、本実施形態のパッシブバイスタティックレーダーシステム1では、電波塔などの固定局と比べ、電波の送信位置を容易に把握することができる。
【0088】
したがって、本実施形態のパッシブバイスタティックレーダーシステム1によれば、ターゲット10の測定を容易に行うことが可能となる。
【0089】
図8は、変形例のパッシブバイスタティックレーダーシステム100の構成を示す概略図である。パッシブバイスタティックレーダーシステム100は、
図1のパッシブバイスタティックレーダーシステム1を合成開口レーダー(Synthetic Aperture Radar:SAR)に応用したものである。
【0090】
パッシブバイスタティックレーダーシステム100において、第2アンテナ24は、
図8の両矢印A10で示すように、受信位置をずらしながら反射波の受信が可能に構成されている。例えば、第2アンテナ24は、地面に平行な方向に移動可能に構成される。これにより、受信位置をずらしながら反射波の受信を順次行うことで、第2アンテナ24の移動方向に第2アンテナ24を複数並べたものと同じ効果を得ることができる。すなわち、仮想的に大きな開口面のアンテナで反射波を受信したことと同じ効果を得ることができる。
【0091】
なお、
図8では、第2アンテナ24が受信位置を移動可能に構成されているが、例えば、第2アンテナ24を含むレーダーユニット30全体を移動可能に構成することで、結果的に、第2アンテナ24が受信位置を移動可能に構成されていてもよい。
【0092】
また、パッシブバイスタティックレーダーシステム100において、レーダー装置26の信号処理部50は、第2アンテナ24により受信された受信位置ごとの反射波の電力に基づいて合成開口処理を行う。
【0093】
受信位置をずらしながら反射波を取得すると、受信位置ごとに反射経路が異なる反射波が受信されるため、受信位置ごとに、送信装置20からターゲット10を経由して第2アンテナ24に至る経路の距離情報が得られる。合成開口処理では、受信位置ごとの距離情報を合成して、2次元平面の各位置に距離情報がそれぞれ対応付けられた距離情報マップが生成される。
【0094】
信号処理部50は、合成開口処理の結果に基づいて、ターゲット10の特徴を特定する。ここでのターゲット10の特徴は、ターゲット10の位置(距離)だけでなく、ターゲット10の形状、ターゲット10の姿勢、ターゲット10の大きさなどを含んでもよい。例えば、合成開口処理によって距離情報マップが生成されると、第2アンテナ24からターゲット10までの距離を、ターゲット10の広い範囲で特定することができ、その結果、ターゲット10の形状なども特定することが可能となる。
【0095】
図9は、変形例のパッシブバイスタティックレーダーシステム100における信号処理部50の信号処理(S13)の流れを説明するフローチャートである。パッシブバイスタティックレーダーシステム100では、第2アンテナ24の受信位置ごとに、第1アンテナ22による受信と第2アンテナ24による受信とを行う。
【0096】
信号処理部50は、まず、第2アンテナ24の移動に応じて、順次、第1アンテナ22による直接波の受信が行われることで、第1アンテナ22により受信された直接波の受信電力「f(t)0~f(t)n」を取得する(S30)。なお、f(t)0の0およびf(t)nのnは、第2アンテナ24による受信位置の数を示しており、受信位置が複数あること、換言すると、第2アンテナ24の受信位置に応じた第1アンテナ22による受信回数を意味する。すなわち、「f(t)0~f(t)n」は、直接波の受信電力が複数取得されることを意味する。
【0097】
また、信号処理部50は、第2アンテナ24を移動しながら、順次、反射波の受信が行われることで、第2アンテナ24により受信位置ごとに受信された反射波の受信電力「g(t)0~g(t)n」を取得する(S31)。なお、g(t)0の0およびg(t)nのnは、受信位置の数を示しており、受信位置が複数あることを意味する。すなわち、「g(t)0~g(t)n」は、反射波の受信電力が複数取得されることを意味する。
【0098】
信号処理部50は、取得した直接波の受信電力「f(t)0~f(t)n」に対してフーリエ変換(例えば、高速フーリエ変換)を行い、直接波の受信電力の周波数スペクトル「F(f)0~F(f)n」を導出する(S32)。
【0099】
また、信号処理部50は、取得した反射波の受信電力「g(t)0~g(t)n」の各々に対してフーリエ変換(例えば、高速フーリエ変換)を行い、反射波の受信電力の周波数スペクトル「G(f)0~G(f)n」を導出する(S33)。
【0100】
信号処理部50は、直接波の受信電力の周波数スペクトル「F(f)0~F(f)n」の複素共役をとって、「F(f)0~F(f)n」の共役複素数「F*(f)0~F*(f)n」を導出する(S34)。
【0101】
次に、信号処理部50は、直接波の受信電力の周波数スペクトルの共役複素数「F*(f)0~F*(f)n」と、反射波の受信電力の周波数スペクトル「G(f)0~G(f)n」とを、反射波の受信電力の周波数スペクトルごとに乗算し、クロススペクトル「F*(f)0G(f)0~F*(f)nG(f)n」を導出する(S35)。
【0102】
信号処理部50は、クロススペクトル「F*(f)0G(f)0~F*(f)nG(f)n」の各々に対して逆フーリエ変換を行い、受信位置ごとの相関関数「C(t)0~C(t)n」を導出する(S36)。
【0103】
信号処理部50は、相関関数「C(t)0~C(t)n」に基づいて、第2アンテナ24からターゲット10までの距離「L0~Ln」を特定する(S37)。距離「L0~Ln」は、受信位置ごとの距離を意味する。
【0104】
信号処理部50は、距離「L0~Ln」に対して合成開口処理を行い、2次元平面の各位置に距離情報がそれぞれ対応付けられた距離情報マップを生成する(S38)。
【0105】
信号処理部50は、距離情報マップに基づいて、ターゲット10の形状などの特徴を特定し(S39)、信号処理(S13)を終了する。
【0106】
なお、
図9のフローチャートの各処理において、一部を並列処理で実行してもよい。例えば、信号処理部50は、直接波の受信電力「f(t)0~f(t)n」を取得して直接波の受信電力の周波数スペクトル「F(f)0~F(f)n」を導出する処理と、反射波の受信電力「g(t)0~g(t)n」を取得して射波の受信電力の周波数スペクトル「G(f)0~G(f)n」を導出する処理とを、並列して行ってもよい。
【0107】
変形例のパッシブバイスタティックレーダーシステム100では、上記実施形態のパッシブバイスタティックレーダーシステム1と同様に、ターゲット10の測定を容易に行うことが可能となる。
【0108】
さらに、変形例のパッシブバイスタティックレーダーシステム100では、ターゲット10の位置だけでなく、例えば、ターゲット10の形状など、ターゲット10の各種の特徴を測定することが可能となる。
【0109】
以上、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0110】
1、100 パッシブバイスタティックレーダーシステム
10 ターゲット
20 送信装置
22 第1アンテナ
24 第2アンテナ
26 レーダー装置
60 遮蔽体