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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094766
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】ガスエンジン
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/06 20060101AFI20240703BHJP
   F02D 41/14 20060101ALI20240703BHJP
   F02D 19/02 20060101ALI20240703BHJP
   F02D 23/02 20060101ALI20240703BHJP
   F02M 21/02 20060101ALI20240703BHJP
   F02M 21/04 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
F02D41/06
F02D41/14
F02D19/02 F
F02D19/02 D
F02D23/02 J
F02M21/02 S
F02M21/04 G
F02M21/04 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211528
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110003502
【氏名又は名称】弁理士法人芳野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷本 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】藤村 耕司
(72)【発明者】
【氏名】徳永 隆広
(72)【発明者】
【氏名】白石 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】野寄 豊
【テーマコード(参考)】
3G092
3G301
【Fターム(参考)】
3G092AA01
3G092AB07
3G092AB08
3G092AB09
3G092BA02
3G092BA03
3G092BB03
3G092BB08
3G092DE04
3G092EA02
3G092EA05
3G092FA17
3G092HD05
3G092HE01
3G301HA22
3G301JA25
3G301KA03
3G301KA04
3G301KA05
3G301LB06
3G301MA11
3G301ND01
3G301ND25
3G301NE09
3G301NE13
3G301PA07
3G301PD02
3G301PE01
(57)【要約】
【課題】予混合気を火花点火燃焼させて作動するガスエンジンの欧州第5次排ガス規制に関する過渡試験モードにおいて、NOxの排出量を抑えることができるガスエンジンを提供すること。
【解決手段】ガスエンジン2は、気体燃料の供給量を制御する燃料ガス供給弁21と、気体燃料と空気とを互いに混合させて混合気を生成するガスミキサ29と、混合気の量を制御するスロットルバルブ22と、排気ガスを浄化する三元触媒25と、排気ガスの酸素濃度を測定する酸素センサ261と、エンジン回転数と吸気圧との関係に基づいて弁開度の制御を実行するとともに弁開度のフィードバック制御を実行する制御部27と、を備える。制御部27は、NRTCのコールド運転および運転停止が完了しNRTCのホット運転が始動した直後のオープンループ制御において、燃料学習値に補正値を加算した値に基づいて弁開度の制御を実行する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体燃料と空気とを予め混合させた混合気を気筒で火花点火燃焼させて作動するガスエンジンであって、
弁開度に応じて前記気体燃料の圧力を調整することにより前記気体燃料の供給量を制御する燃料ガス供給弁と、
前記燃料ガス供給弁を通過した前記気体燃料と吸入される前記空気とを互いに混合させて前記混合気を生成するガスミキサと、
吸気系に設けられ開閉することにより前記混合気の量を制御するスロットルバルブと、
排気系に設けられ前記気筒から排出された排気ガスを浄化する三元触媒と、
前記気筒と前記三元触媒との間の前記排気系に設けられ前記排気ガスの酸素濃度を測定する酸素センサと、
エンジン回転数と吸気圧との関係に基づいて前記弁開度の制御を実行するとともに前記酸素センサにより測定された前記酸素濃度に基づいて前記混合気の空燃比が目標の前記空燃比になる前記弁開度の操作値を演算し燃料学習値として記憶して前記弁開度のフィードバック制御を実行する制御部と、
を備え、
前記制御部は、欧州第5次排ガス規制に関する過渡試験モードのコールド運転および運転停止が完了しホット運転が始動した直後のオープンループ制御において、記憶された前記燃料学習値に補正値を加算した値に基づいて前記弁開度の制御を実行することを特徴とするガスエンジン。
【請求項2】
前記制御部は、前記補正値を前記燃料学習値よりもリッチ側に設定することを特徴とする請求項1に記載のガスエンジン。
【請求項3】
前記制御部は、前記ホット運転が始動してから所定時間が経過するまで前記補正値を一定に維持し、前記所定時間が経過した後に前記補正値を段階的に減少させる制御を実行することを特徴とする請求項1に記載のガスエンジン。
【請求項4】
前記制御部は、前記気体燃料の成分比率に応じて前記補正値を設定することを特徴とする請求項1に記載のガスエンジン。
【請求項5】
前記制御部は、前記ホット運転が始動した直後の前記オープンループ制御におけるCOの排出量が所定値以下となる範囲で前記補正値を設定することを特徴とする請求項1に記載のガスエンジン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体燃料で作動するガスエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの排気ガスに関する規制が厳しくなる中、排気ガスに含まれるCO、HC、NOxを酸化還元反応により浄化する三元触媒を備えたガスエンジンがある。
【0003】
例えば特許文献1には、三元触媒と、排気経路に設けられた酸素センサと、を備えたガスエンジンが開示されている。特許文献1に記載されたガスエンジンは、第一バルブと、第二バルブと、制御部と、を備えている。第一バルブについては、第二バルブよりも応答性が低く燃料流量調整幅が大きい。第二バルブについては、第一バルブよりも応答性が高く燃料流量調整幅が小さい。制御部は、ガスエンジンの運転状況が一定だとみなされる期間内における実際の運転時に、ガスエンジンの排気経路に設けられた酸素センサから得られる出力の平均値が、当該条件で制御部に設定されている酸素センサの出力目標値から外れている場合に、出力平均値が出力目標値となるように第一バルブの開度を調整する。これにより、特許文献1に記載された発明は、燃料ガスの組成変化に対応して空燃比制御を行うことができるガスエンジンを提供することを目的としている。
【0004】
ここで、三元触媒を備えたガスエンジンであって定格出力が56kW以上のオフロード用のガスエンジンについては、欧州第5次排ガス規制(EU StageVの56kW以上の排ガス規制)に関して更なる改善の余地がある。すなわち、欧州第5次排ガス規制の過渡試験モード(NRTC:Non-Road Transient Cycle)では、20分間のコールド運転と、20分間の運転停止と、20分間のホット運転と、がこの順に行われる。このような欧州第5次排ガス規制の過渡試験モードにおいて、ホット運転の始動直後から、気体燃料の供給量に関するフィードバック制御が開始されるまでの所定時間(例えば数十秒間)に実行されるオープンループ制御で排出されるNOxの量について改善の余地がある。
【0005】
すなわち、欧州第5次排ガス規制の過渡試験モードでは、コールド運転におけるNOxの排出量の10%と、ホット運転におけるNOxの排出量の90%と、の合計値が、過渡試験モード全体のNOxの排出量になる。そのため、ホット運転におけるNOxの排出量の重みが、コールド運転におけるNOxの排出量の重みよりも重い。また、本発明者の得た知見によれば、ホット運転の始動直後のNOxの排出量が、過渡試験モード全体のNOxの排出量の大半を占める。そのため、欧州第5次排ガス規制の過渡試験モードにおいて、ホット運転の始動直後からフィードバック制御が開始されるまでの所定時間に実行されるオープンループ制御で排出されるNOxの量について改善の余地がある。
【0006】
また、インジェクタにより気体燃料を例えば吸気ポートに噴射するガスエンジンと比較すると、気体燃料と空気とを予め混合させて混合気を生成するガスエンジンは、粒子状物質(PM:Particulate Matter)の発生を抑えることができる一方で、混合気の空燃比の制御が困難になる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-240615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、気体燃料と空気とを予め混合させた混合気を火花点火燃焼させて作動するガスエンジンの欧州第5次排ガス規制に関する過渡試験モードにおいて、NOxの排出量を抑えることができるガスエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1態様は、気体燃料と空気とを予め混合させた混合気を気筒で火花点火燃焼させて作動するガスエンジンであって、弁開度に応じて前記気体燃料の圧力を調整することにより前記気体燃料の供給量を制御する燃料ガス供給弁と、前記燃料ガス供給弁を通過した前記気体燃料と吸入される前記空気とを互いに混合させて前記混合気を生成するガスミキサと、吸気系に設けられ開閉することにより前記混合気の量を制御するスロットルバルブと、排気系に設けられ前記気筒から排出された排気ガスを浄化する三元触媒と、前記気筒と前記三元触媒との間の前記排気系に設けられ前記排気ガスの酸素濃度を測定する酸素センサと、エンジン回転数と吸気圧との関係に基づいて前記弁開度の制御を実行するとともに前記酸素センサにより測定された前記酸素濃度に基づいて前記混合気の空燃比が目標の前記空燃比になる前記弁開度の操作値を演算し燃料学習値として記憶して前記弁開度のフィードバック制御を実行する制御部と、を備え、前記制御部は、欧州第5次排ガス規制に関する過渡試験モードのコールド運転および運転停止が完了しホット運転が始動した直後のオープンループ制御において、記憶された前記燃料学習値に補正値を加算した値に基づいて前記弁開度の制御を実行することを特徴とするガスエンジンである。
【0010】
本発明の第1態様によれば、制御部は、エンジン回転数と吸気圧との関係に基づいて燃料ガス供給弁の弁開度の制御を実行する。エンジン回転数と吸気圧との関係は、例えばエンジン回転数に対する気体燃料の供給量を設定する基本マップとして記憶部に予め記憶されている。また、制御部は、酸素センサにより測定された酸素濃度に基づいて混合気の空燃比が目標の空燃比(すなわち理論空燃比)になる燃料ガス供給弁の弁開度の操作値を演算し燃料学習値として記憶する。そして、制御部は、酸素センサにより測定された酸素濃度に基づいて演算した燃料ガス供給弁の弁開度の操作値(すなわち燃料学習値)により燃料ガス供給弁の弁開度のフィードバック制御を実行する。さらに、制御部は、欧州第5次排ガス規制に関する過渡試験モードのコールド運転および運転停止が完了し、ホット運転が始動した直後のオープンループ制御において、記憶された燃料学習値に補正値を加算した値に基づいて燃料ガス供給弁の弁開度の制御を実行する。これにより、欧州第5次排ガス規制の過渡試験モードにおいて、ホット運転の始動直後におけるNOxの排出量を抑えることができる。ホット運転におけるNOxの排出量の重みがコールド運転におけるNOxの排出量の重みよりも重く、また、ホット運転の始動直後のNOxの排出量が過渡試験モード全体のNOxの排出量の大半を占めるため、ホット運転の始動直後におけるNOxの排出量を抑えることで、欧州第5次排ガス規制に関する過渡試験モードの全体におけるNOxの排出量を抑えることができる。
【0011】
本発明の第2態様は、本発明の第1態様において、前記制御部は、前記補正値を前記燃料学習値よりもリッチ側に設定することを特徴とするガスエンジンである。
【0012】
本発明の第2態様によれば、制御部が燃料学習値に加算する補正値を燃料学習値よりもリッチ側に設定するため、ホット運転の始動直後における混合気の空燃比は、よりリッチになる。これにより、ホット運転の始動直後におけるNOxの排出量をより一層確実に抑えることができる。
【0013】
本発明の第3態様は、本発明の第1または2態様において、前記制御部は、前記ホット運転が始動してから所定時間が経過するまで前記補正値を一定に維持し、前記所定時間が経過した後に前記補正値を段階的に減少させる制御を実行するガスエンジンである。
【0014】
本発明の第3態様によれば、ホット運転の始動直後に実行されるオープンループ制御から、ホット運転が始動してから所定時間後に実行されるフィードバック制御へ円滑に遷移することができる。
【0015】
本発明の第4態様は、本発明の第1~3態様のいずれか1つの態様において、前記制御部は、前記気体燃料の成分比率に応じて前記補正値を設定することを特徴とするガスエンジンである。
【0016】
本発明の第4態様によれば、制御部は、気体燃料の成分比率に応じて燃料学習値に加算する補正値を設定するため、気体燃料の性状に因らずホット運転の始動直後におけるNOxの排出量を抑えることができる。
【0017】
本発明の第5態様は、本発明の第1~4態様のいずれか1つの態様において、前記制御部は、前記排気ガスに含まれるCOが所定値以下となる範囲で前記補正値を設定することを特徴とするガスエンジンである。
【0018】
本発明の第5態様によれば、ホット運転の始動直後におけるNOxの排出量を抑えつつ、ホット運転の始動直後におけるCOの排出量を抑えることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、気体燃料と空気とを予め混合させた混合気を火花点火燃焼させて作動するガスエンジンの欧州第5次排ガス規制に関する過渡試験モードにおいて、NOxの排出量を抑えることができるガスエンジンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態に係るガスエンジンの概要を表す模式図である。
図2】欧州第5次排ガス規制の過渡試験モードを説明するフローチャートである。
図3】本実施形態のECUがNRTCにおいて実行する気体燃料の供給量に関する制御を説明するフローチャートである。
図4】本実施形態のECUがNRTCにおいて実行する気体燃料の供給量に関する制御を説明するフローチャートである。
図5】本実施形態のECUが燃料学習値に加算する補正値について説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明を適宜省略する。
【0022】
図1は、本実施形態に係るガスエンジンの概要を表す模式図である。
本実施形態に係るガスエンジン2は、例えば、水素ガス、天然ガス、LPG、バイオガスなどの気体燃料で作動する内燃機関すなわちガスエンジンである。図1に表したガスエンジン2は、例えば建設機械や農業機械のような産業機械に搭載される。
【0023】
本実施形態に係るガスエンジン2は、燃料ガス供給弁21と、ガスミキサ29と、スロットルバルブ22と、シリンダブロック(図示せず)に形成された気筒24と、第1酸素センサ261と、第2酸素センサ262と、三元触媒25と、ECU27と、を備える。第2酸素センサ262は、必ずしも設けられていなくともよい。
【0024】
燃料ガス供給弁21は、吸気系281に設けられており、弁開度に応じて気体燃料の圧力を調整することにより気体燃料の供給量を制御する。具体的には、燃料ガス供給弁21は、燃料ガス供給弁21の入口と出口との間における気体燃料の圧力差(すなわち差圧)を調整することにより気体燃料の供給量を制御する。図1に表した矢印A1のように、燃料ガス供給弁21に供給された気体燃料は、燃料ガス供給弁21を通過し、ガスミキサ29に向かって導かれる。
【0025】
ガスミキサ29は、吸気系281に設けられており、燃料ガス供給弁21を通過した気体燃料と、図1に表した矢印A2のようにエアクリーナ(図示せず)を通して吸入される空気と、を互いに混合させて混合気を生成する。ガスミキサ29は、気体燃料が燃焼しやすい適正な割合(すなわち目標の空燃比)で気体燃料と空気とを互いに混合させ、気体燃料と空気とを含む混合気をスロットルバルブ22に向かって導く。このように、本実施形態に係るガスエンジン2は、インジェクタにより気体燃料を例えば吸気ポートに噴射するガスエンジンではなく、気体燃料と空気とを予め混合させて混合気を生成するガスエンジンである。
【0026】
スロットルバルブ22は、例えば電子制御スロットルバルブであり、吸気系281に設けられている。スロットルバルブ22は、例えばECU27から受信した制御信号に基づいて開閉することにより、ガスミキサ29から供給された混合気の量(すなわち混合気の吸気量あるいは供給量)を制御する。言い換えれば、スロットルバルブ22は、図1に表した矢印A1のように燃料ガス供給弁21を通過した気体燃料と、図1に表した矢印A2のようにエアクリーナ(図示せず)を通して吸入された空気(すなわち吸入空気)と、の双方の量を制御する。図1に表した矢印A3のように、スロットルバルブ22を通した混合気は、吸気マニホルド23および吸気ポートに向かって導かれる。図1に表したように、例えば吸気マニホルド23には、流量センサが設けられている。流量センサは、混合気の流量に関する信号をECU27に送信する。
【0027】
ガスミキサ29により生成された混合気は、図1に表したように、スロットルバルブ22、吸気マニホルド23、吸気バルブ241をこの順に通過し、気筒24に供給される。気筒24に供給され気筒24で圧縮された混合気は、スパークプラグ243により発生した火花により点火され燃焼する。このように、本実施形態に係るガスエンジン2は、気体燃料と空気とを予め混合させた混合気を気筒24で火花点火燃焼させて作動するガスエンジンである。気筒24で燃焼した混合気は、図1に表した矢印A4のように、排気バルブ242を通過し、気筒24から三元触媒25に向かって排気ガスとして排出される。
【0028】
三元触媒25は、排気系282に設けられており、気筒24から排出された排気ガスを酸化還元反応により浄化する。具体的には、気筒24から排出された排気ガスには、CO、HCおよびNOxが含まれる。三元触媒25は、COおよびCHの酸化反応、ならびにNOxの還元反応により、CO、HCおよびNOxを同時に浄化する。三元触媒25が有効に機能するためには、混合気の空燃比を理論空燃比に設定する必要がある。
【0029】
第1酸素センサ261は、気筒24と三元触媒25との間の排気系282に設けられている。言い換えれば、第1酸素センサ261は、三元触媒25の入口に設けられている。本実施形態の第1酸素センサ261は、本発明の「酸素センサ」の一例である。第1酸素センサ261は、気筒24から排出された排気ガスの酸素濃度を測定するとともに、測定した酸素濃度に関する信号(例えば電圧値の信号)をECU27に送信する。
【0030】
第2酸素センサ262は、三元触媒25の出口に設けられている。第2酸素センサ262は、三元触媒25を通過した排気ガスの酸素濃度を測定するとともに、測定した酸素濃度に関する信号(例えば電圧値の信号)をECU27に送信する。
【0031】
ECU27は、電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)であり、演算処理部(図示せず)と、記憶部(図示せず)と、を有する。ECU27は、燃料ガス供給弁21の動作を制御する。例えば、ECU27は、燃料ガス供給弁21の弁開度の制御を実行する。本実施形態のECU27は、本発明の「制御部」の一例である。ECU27の演算処理部は、CPU(Central Processing Unit)としての機能を有し、ECU27の記憶部に記憶されたプログラムを読み出して種々の演算や処理を実行する。
【0032】
ECUの記憶部は、種々のプログラムや、燃料ガス供給弁21の弁開度に関するマップあるいは条件式などを格納(記憶)する。ECU27の記憶部としては、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などが挙げられる。
【0033】
ECU27は、エンジン回転数と吸気圧との関係に基づいて燃料ガス供給弁21の弁開度の制御を実行する。エンジン回転数と吸気圧との関係は、例えばエンジン回転数に対する気体燃料の供給量を設定する基本マップとして記憶部に予め記憶されている。
【0034】
また、ECU27は、第1酸素センサ261により測定された酸素濃度に基づき演算した混合気の空燃比が目標の空燃比(すなわち理論空燃比)になる燃料ガス供給弁21の弁開度の操作値を演算し、その操作値を燃料学習値として記憶部に記憶する。言い換えれば、ECU27は、燃料学習値の更新を行う。燃料学習値は、例えば燃料学習値に関するマップとして記憶(更新)される。そして、ECU27は、第1酸素センサ261により測定された酸素濃度に基づいて演算した燃料ガス供給弁21の弁開度の操作値(すなわち燃料学習値)により燃料ガス供給弁21の弁開度のフィードバック制御を実行する。
【0035】
具体的には、ECU27は、第1酸素センサ261から受信した酸素濃度に基づき演算した混合気の空燃比と、目標の空燃比(すなわち理論空燃比)と、を比較する。混合気の空燃比が目標の空燃比よりもリーンであれば、ECU27は、燃料ガス供給弁21の弁開度を現在の弁開度よりも高くする(すなわち弁を開く)ための操作値を演算し、その操作値を燃料学習値として記憶部に記憶する。そして、ECU27は、その操作値(すなわち燃料学習値)により燃料ガス供給弁21の弁開度のフィードバック制御を実行する。つまり、ECU27は、気体燃料の供給量を増加させるフィードバック制御を実行する。
【0036】
一方で、混合気の空燃比が目標の空燃比よりもリッチであれば、ECU27は、燃料ガス供給弁21の弁開度を現在の弁開度よりも低くする(すなわち弁を閉じる)ための操作値を演算し、その操作値を燃料学習値として記憶部に記憶する。そして、ECU27は、その操作値(すなわち燃料学習値)により燃料ガス供給弁21の弁開度のフィードバック制御を実行する。つまり、ECU27は、気体燃料の供給量を減少させるフィードバック制御を実行する。
【0037】
図2は、欧州第5次排ガス規制の過渡試験モードを説明するフローチャートである。
現在、定格出力が56kW以上のオフロード用のガスエンジンについては、欧州第5次排ガス規制(EU StageVの56kW以上の排ガス規制)が適用されている。具体的には、欧州第5次排ガス規制の過渡試験モード(NRTC:Non-Road Transient Cycle)が適用されている。ここで、欧州第5次排ガス規制の過渡試験モード(以下、説明の便宜上「NRTC」と称する。)を、図面を参照して説明する。
【0038】
NRTCでは、まずステップS1において、20分間のコールド運転が実行される。NRTCのコールド運転では、ガスエンジン2の運転が冷気始動として開始される。続いて、ステップS2において、20分間の運転停止が実行される。つまり、ガスエンジン2の運転が20分間にわたって停止される。続いて最後に、ステップS3において、20分間のホット運転が実行される。NRTCのホット運転では、ガスエンジン2の運転が暖気始動として開始される。20分間のホット運転が完了すると、NRTCが終了する。
【0039】
ここで、ガスエンジン2の始動直後から、気体燃料の供給量に関するフィードバック制御が開始されるまでの所定時間(例えば数十秒間)において、ECU27は、気体燃料の供給量に関するオープンループ制御を実行する。すなわち、ECU27は、ガスエンジン2の始動直後から所定時間(例えば数十秒間)が経過するまで、フィードバック制御を実行せず、エンジン回転数と吸気圧との関係を示す基本マップと、記憶部に記憶された燃料学習値と、に基づいて燃料ガス供給弁21の弁開度のオープンループ制御を実行する。
【0040】
そのため、図2に表されたステップS3におけるNRTCのホット運転の始動直後に実行されるオープンループ制御において、ECU27は、基本マップと、NRTCのコールド運転において記憶(更新)された燃料学習値と、に基づいて燃料ガス供給弁21の弁開度のオープンループ制御を実行する。本発明者の得た知見によれば、NRTCのホット運転の始動直後に実行されるオープンループ制御で排出されるNOxの量について改善の余地がある。
【0041】
すなわち、NRTCでは、コールド運転におけるNOxの排出量の10%と、ホット運転におけるNOxの排出量の90%と、の合計値が、NRTC全体のNOxの排出量になる。そのため、ホット運転におけるNOxの排出量の重みが、コールド運転におけるNOxの排出量の重みよりも重い。また、本発明者の得た知見によれば、ホット運転の始動直後のNOxの排出量が、NRTC全体のNOxの排出量の大半を占める。そのため、NRTCにおいて、ホット運転の始動直後からフィードバック制御が開始されるまでの所定時間に実行されるオープンループ制御で排出されるNOxの量について改善の余地がある。
【0042】
具体的には、NRTCのホット運転の始動直後に実行されるオープンループ制御において、混合気の空燃比がリーンになる傾向がある。そうすると、NOxの排出量は、混合気の空燃比が理論空燃比である場合およびリッチである場合と比較して増加する傾向にある。
【0043】
これに対して、本実施形態に係るガスエンジン2のECU27は、NRTCのホット運転の始動直後に実行されるオープンループ制御において、記憶部に記憶された燃料学習値(すなわち更新された燃料学習値)に補正値を加算した値に基づいて、燃料ガス供給弁21の弁開度の制御を実行する。具体的には、ECU27は、補正値を、記憶部に記憶された燃料学習値(すなわち更新された燃料学習値)よりもリッチ側に設定する。
以下、本実施形態に係るガスエンジン2のECU27が実行する制御を、図面を参照してさらに説明する。
【0044】
図3および図4は、本実施形態のECUがNRTCにおいて実行する気体燃料の供給量に関する制御を説明するフローチャートである。
図5は、本実施形態のECUが燃料学習値に加算する補正値について説明するグラフである。
【0045】
まず、図3に表したように、ステップS11において、NRTCのコールド運転が始動する。そうすると、ステップS12において、ECU27は、NRTCのコールド運転の始動直後から所定時間が経過するまで、フィードバック制御を実行せず、基本マップと、記憶部に記憶された燃料学習値と、に基づいて燃料ガス供給弁21の弁開度のオープンループ制御を実行する。ここで、記憶部に記憶された燃料学習値とは、ガスエンジン2の前回の運転(例えば前日のガスエンジン2の運転)において更新された燃料学習値である。
【0046】
続いて、NRTCのコールド運転の始動直後から所定時間が経過すると、ECU27は、気体燃料の供給量に関するフィードバック制御を実行する。すなわち、ステップS13において、第1酸素センサ261は、排気ガスの酸素濃度を測定するとともに、測定した酸素濃度に関する信号をECU27に送信する。
【0047】
続いて、ステップS14において、ECU27は、第1酸素センサ261から受信した酸素濃度に基づき演算した混合気の空燃比と、目標の空燃比(すなわち理論空燃比)と、の偏差に基づいて、混合気の空燃比が目標の空燃比(すなわち理論空燃比)になる燃料ガス供給弁21の弁開度の操作値を演算する。
【0048】
続いて、ステップS15において、ECU27は、燃料ガス供給弁21の弁開度の操作値を燃料学習値として記憶部に記憶する。つまり、ECU27は、燃料学習値の更新を実行する。続いて、ステップS16において、ECU27は、燃料学習値に基づいて燃料ガス供給弁21の弁開度の制御を実行する。
【0049】
続いて、ステップS17において、NRTCのコールド運転の始動から20分間がまだ経過していない場合には(ステップS17:NO)、ECU27は、ステップS13~ステップS16に関して前述した気体燃料の供給量に関するフィードバック制御を実行する。一方で、ステップS17において、NRTCのコールド運転の始動から20分間が経過した場合には(ステップS17:YES)、ステップS18において、20分間の運転停止が実行される。
【0050】
続いて、図4に表したように、ステップS21において、NRTCのホット運転が始動する。そうすると、ステップS22において、ECU27は、NRTCのホット運転の始動直後から所定時間が経過するまで、フィードバック制御を実行せず、基本マップと、記憶部に記憶された燃料学習値に補正値を加算した値と、に基づいて燃料ガス供給弁21の弁開度のオープンループ制御を実行する。ここで、記憶部に記憶された燃料学習値とは、NRTCのコールド運転において更新された燃料学習値である。補正値は、燃料学習値と同次元の値であり、燃料学習値をオフセットあるいはシフトさせる機能を有する。
【0051】
図5に表したように、補正値が「0」近傍である範囲A11におけるNOxの排出量は、補正値が「1」から「3」の近傍である範囲A12におけるNOxの排出量よりも高い。また、補正値が「0」近傍である範囲A11におけるNOxの排出量の傾きは、補正値が「1」から「3」の近傍である範囲A12におけるNOxの排出量の傾きよりも急である。言い換えれば、範囲A11におけるNOxの排出量のロバスト性は、範囲A12におけるNOxの排出量のロバスト性よりも低い。
【0052】
図5に表した補正値が「0」である状態とは、ECU27が燃料学習値をオフセットあるいはシフトさせない状態である。この状態では、図3に表したステップS12に関して前述した場合と同様に、ECU27は、基本マップと、記憶部に記憶された燃料学習値と、に基づいて燃料ガス供給弁21の弁開度の制御を実行する。図5に表した補正値が正である状態とは、ECU27が燃料学習値をリッチ側にオフセットあるいはシフトさせる状態である。図5に表した補正値が負である状態とは、ECU27が燃料学習値をリーン側にオフセットあるいはシフトさせる状態である。
【0053】
ECU27は、NRTCのホット運転の始動直後におけるNOxの排出量を抑えるために、補正値を燃料学習値よりもリッチ側に設定する。すなわち、図4に表したステップS22において、ECU27は、基本マップと、燃料学習値に正の補正値を加算した値と、に基づいて燃料ガス供給弁21の弁開度のオープンループ制御を実行する。これにより、ECU27は、例えば補正値を図5に表した「1」から「3」の近傍になる程度のリッチ側に設定すると、NRTCのホット運転の始動直後におけるNOxの排出量を図5に表した範囲A12の排出量に抑えることができる。
【0054】
また、ECU27は、NRTCのホット運転が始動した直後のオープンループ制御におけるCOの排出量が所定値以下となる範囲で補正値を設定する。例えば、NRTCにおけるCOの規制値が5g/kWh以下であるとすると、図5に表したように、ECU27は、補正値を「1」から「3」の近傍である範囲A12に設定することにより、NRTCのホット運転が始動した直後のオープンループ制御におけるCOの排出量を所定値以下となる3~4g/kWh程度に抑えることができる。
【0055】
続いて、NRTCのホット運転の始動直後から所定時間が経過すると、ECU27は、気体燃料の供給量に関するフィードバック制御を実行する。すなわち、第1酸素センサ261およびECU27は、図3に表したステップS13~ステップS16に関して前述した処理を実行する。
【0056】
ステップS26に続くステップS27において、NRTCのホット運転の始動から20分間がまだ経過していない場合には(ステップS27:NO)、ECU27は、ステップS23~ステップS26に関して前述した気体燃料の供給量に関するフィードバック制御を実行する。一方で、NRTCのホット運転の始動から20分間が経過すると(ステップS27:YES)、NRTCが終了する。
【0057】
本実施形態に係るガスエンジン2によれば、NRTCのホット運転が始動した直後のオープンループ制御において、ECU27は、基本マップと、記憶部に記憶された燃料学習値に補正値を加算した値と、に基づいて燃料ガス供給弁21の弁開度の制御を実行する。
これにより、NRTCにおいて、ホット運転の始動直後におけるNOxの排出量を抑えることができる。ホット運転におけるNOxの排出量の重みがコールド運転におけるNOxの排出量の重みよりも重く、また、ホット運転の始動直後のNOxの排出量がNRTC全体のNOxの排出量の大半を占めるため、ホット運転の始動直後におけるNOxの排出量を抑えることで、NRTC全体におけるNOxの排出量を抑えることができる。
【0058】
また、ECU27が燃料学習値に加算する補正値を燃料学習値よりもリッチ側に設定する、すなわち燃料学習値に加算する補正値として正の補正値を設定するため、ホット運転の始動直後における混合気の空燃比は、よりリッチになる。これにより、ホット運転の始動直後におけるNOxの排出量をより一層確実に抑えることができる。
【0059】
ECU27は、NRTCのホット運転が始動してから所定時間が経過するまで補正値を一定に維持し、所定時間が経過した後に補正値を段階的に減少させる制御を実行してもよい。これによれば、NRTCのホット運転の始動直後に実行されるオープンループ制御から、NRTCのホット運転が始動してから所定時間後に実行されるフィードバック制御へ円滑に遷移することができる。なお、ECU27が補正値を段階的に減少させるタイミングは、気体燃料の供給量に関するフィードバック制御が開始される前であってもよく、気体燃料の供給量に関するフィードバック制御が開始された後であってもよい。
【0060】
EUC27は、気体燃料の成分比率に応じて補正値を設定してもよい。例えば、ECU27は、LPGに含まれるプロパンおよびブタンの成分比率に応じて補正値を設定してもよい。あるいは、ECU27は、天然ガスの成分比率に応じて補正値を設定してもよい。これによれば、気体燃料の性状に因らずNRTCのホット運転の始動直後におけるNOxの排出量を抑えることができる。
【0061】
なお、ガスエンジン2が第2酸素センサ262を備える場合、第2酸素センサ262は、三元触媒25を通過した排気ガスの酸素濃度を測定するとともに、測定した酸素濃度に関する信号(例えば電圧値の信号)をECU27に送信する。これにより、ECU27は、第2酸素センサ262から受信した酸素濃度に基づき演算した混合気の空燃比と、目標の空燃比(すなわち理論空燃比)と、の偏差に基づいて、燃料ガス供給弁21の弁開度のフィードバック制御を実行し、三元触媒25に排気ガスを浄化させることができる。また、三元触媒25が劣化した場合であっても、ECU27は、三元触媒25を通過した排気ガスの酸素濃度を目標にして燃料ガス供給弁21の弁開度の制御を実行できる。さらに、三元触媒25の機差や、三元触媒25の貴金属の担持量により三元触媒25の性能にばらつきが生じた場合であっても、ECU27は、三元触媒25を通過した排気ガスの酸素濃度を目標にして燃料ガス供給弁21の弁開度の制御を実行できる。
【0062】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、上記実施形態に限定されず、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことができる。上記実施形態の構成は、その一部を省略したり、上記とは異なるように任意に組み合わせたりすることができる。
【符号の説明】
【0063】
2:ガスエンジン、 21:燃料ガス供給弁、 22:スロットルバルブ、 23:吸気マニホルド、 24:気筒、 25:三元触媒、 27:ECU、 29:ガスミキサ、 241:吸気バルブ、 242:排気バルブ、 243:スパークプラグ、 261:第1酸素センサ、 262:第2酸素センサ、 281:吸気系、 282:排気系

図1
図2
図3
図4
図5