(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094767
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】分子状ヨウ素を含む水性組成物、およびその製造方法、並びにがんの処置方法
(51)【国際特許分類】
A61K 33/18 20060101AFI20240703BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240703BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20240703BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240703BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240703BHJP
A61J 1/05 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
A61K33/18
A61K9/08
A61P39/06
A61P29/00
A61P35/00
A61J1/05 311
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211530
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】522280906
【氏名又は名称】株式会社セルクラウド
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】薄井 貢
【テーマコード(参考)】
4C047
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C047AA05
4C047BB01
4C047CC04
4C047DD01
4C047DD21
4C047GG02
4C047GG04
4C076AA12
4C076BB01
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4C076CC27
4C076FF70
4C076GG41
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA09
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZB11
4C086ZB26
(57)【要約】 (修正有)
【課題】分子状ヨウ素を含む水性組成物、およびその製造方法、並びにがんの処置方法を提供する。
【解決手段】水とヨウ素を含む水性組成物であって、前記水性組成物において、ヨウ素は、分子状ヨウ素(I2)の形態で存在し、水性組成物は分子状ヨウ素を溶解しており、溶解した分子状ヨウ素の濃度は、20ppmから200ppmの範囲の濃度であり、水性組成物中の溶存酸素濃度が4.0ppm以下である、水性組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水とヨウ素を含む水性組成物であって、前記水性組成物において、ヨウ素は、分子状ヨウ素(I2)の形態で存在し、前記水性組成物は前記分子状ヨウ素を溶解しており、溶解した分子状ヨウ素の濃度は、20ppmから200ppmの範囲の濃度であり、水性組成物中の溶存酸素濃度が4.0ppm以下である、水性組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の水性組成物であって、イオン化ヨウ素を含まない、水性組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水性組成物であって、4℃または25℃の温度条件下において、沈殿物を形成せず、または沈殿物を伴わない、水性組成物。
【請求項4】
4℃の温度条件下での6ヶ月の保存に関して安定である、請求項1~3のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の水性組成物であって、pH6~7の範囲のpHを有する、水性組成物。
【請求項6】
経口投与用に製剤化されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項7】
抗酸化作用または抗炎症作用を発揮させることに用いるための、請求項1~6のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項8】
対象においてがんを処置することに用いるための、請求項1~7のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項9】
対象が、前記対象から得られた血液試料中の末梢血循環腫瘍細胞(CTC)の検査により、Type.2およびType.2の亜型からなる群から選択されるいずれかの細胞を有すると決定された対象である、請求項8に記載の水性組成物。
【請求項10】
対象が、前記対象から得られた血液試料中の末梢血循環腫瘍細胞(CTC)の検査により、細胞表面ビメンチン(CSV)を発現したCTCを有すると決定された対象である、請求項8または9に記載の水性組成物。
【請求項11】
対象が、抗がん剤による化学療法および放射線療法のいずれも受けていない対象である、請求項8~10のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項12】
対象が、イオン化ヨウ素によるがん治療を受けている、または受ける予定がある対象である、請求項8~10のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項13】
イオン化ヨウ素によるがん治療と併用される、請求項8~12のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の水性組成物を含む、蓋付き容器であって、開閉可能に蓋を備えており、蓋は容器を密閉することができ、容器は、ガス不透過性であり、密閉することにより、容器内外間のガス交換が遮断される、蓋付き容器。
【請求項15】
請求項14に記載の蓋付き容器であって、容器内は、ガスと前記水性組成物からなり、ガスは、酸素を5モル%以上の濃度で含まず、酸素以外は不活性ガスからなる、蓋付き容器。
【請求項16】
前記不活性ガスは、窒素である、請求項15に記載の蓋付き容器。
【請求項17】
請求項14~16のいずれか一項に記載の蓋付き容器であって、容器外部からの紫外線をカットすることができる遮光容器である、蓋付き容器。
【請求項18】
水とヨウ素を含む水性組成物であって、
ヨウ素は、イオン化ヨウ素および三ヨウ化物イオンの形態のヨウ素を含まないか、または
ヨウ素イオン(I-)および三ヨウ化物イオン(I3-)の形態と分子状ヨウ素(I2)の形態のヨウ素を含み、かつヨウ素イオン(I-)形態および三ヨウ化物イオン(I3-)形態のヨウ素の合計モル数よりも、分子状ヨウ素(I2)の形態のモル数が多い、
水性組成物。
【請求項19】
分子状ヨウ素の純度が、95重量%以上である、請求項18に記載の水性組成物。
【請求項20】
請求項18または19に記載の水性組成物であって、水性組成物は、酸素および窒素を溶存させており、酸素より窒素が多く含まれている、水性組成物。
【請求項21】
請求項1~13、および請求項18~20のいずれか一項に記載の水性組成物(目的水性組成物)を製造する方法であって、
酸素を溶存したヨウ素添加前の水性組成物中の溶存酸素濃度を低下させることと、その後、水性組成物に分子状ヨウ素を添加して目的水性組成物を得ることを含むか、
酸素を溶存したヨウ素添加後の水性組成物の溶存酸素濃度を低下させて目的水性組成物を得ることを含む、方法。
【請求項22】
請求項1~13、および請求項18~20のいずれか一項に記載の水性組成物(目的水性組成物)を製造する方法であって、
酸素を溶存したヨウ素添加前の水性組成物に不活性ガス雰囲気下で不活性ガスバブリングをして、溶存不活性ガス濃度を上昇させることと、その後、水性組成物に分子状ヨウ素を添加して目的水性組成物を得ることを含むか、
酸素を溶存したヨウ素添加後の水性組成物に不活性ガス雰囲気下で不活性ガスバブリングをして、溶存不活性ガス濃度を上昇させて目的水性組成物を得ることを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、分子状ヨウ素を含む水性組成物、およびその製造方法、並びにがんの処置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヨウ素が様々な組織(乳腺、前立腺、甲状腺、メラノーマ、膵臓癌、神経芽細胞株など)に抗腫瘍作用を発揮し、そして最新の研究によって、これらの抗腫瘍効果には、直接的あるいは間接的なメカニズムが関与している(非特許文献1~4)。ヨウ素の直接効果では、ヨウ素の有する酸化/抗酸化の特性によって、ミトコンドリア膜電位が乱され、ミトコンドリア介在性アポトーシスを引き起こす可能性が報告されている(非特許文献3,5)。間接経路では、ヨード脂質中間体の生成が関与しており、6-ヨードラクトン(6IL)はその中間体の1つである。6ILの存在は、食餌中に継続的にヨウ素を投与したラットの正常乳腺および腫瘍乳腺で報告されている(非特許文献6)。
【0003】
乳がん細胞株であるMCF-7細胞において、6ILがペルオキシソーム増殖因子活性化受容体ガンマ(PPARγ)を強く刺激し、PPARアルファ(PPARα)発現を阻害することが報告されている(非特許文献7)。PPARαが発癌促進に関連しているのに対し(非特許文献8,9)、PPARγ(非特許文献10,11)は、増殖を阻害し、アポトーシスを誘導し、分化を促進するすることから、抗腫瘍剤であることが報告されている(非特許文献12,13)。また、PPARαおよびPPARγの相反する効果は、正常および腫瘍乳房組織ならびに乳房細胞株において報告されており(非特許文献14,15)、PPARγが、がんの細胞分裂停止、EMT(上皮間葉転換)の阻害、アポトーシス誘導等に関与する事が報告されている(非特許文献16)。
【0004】
ヨウ素の水溶液中の存在形態としては、イオン化ヨウ素(I-、およびI3-)の形態と、分子状ヨウ素(I2)の形態が知られている。イオン化ヨウ素は高い水溶性を有するのに対して、分子状ヨウ素は難水溶性である。イオン化ヨウ素と分子状ヨウ素は、異なる機構によりがん細胞に取り込まれる。具体的には、がん細胞は、イオン化ヨウ素(例えば、NaI)をナトリウム/ヨウ素共輸送体(NIS)により細胞内に取り込む。これに対して、がん細胞は、分子状ヨウ素を促進拡散により取り込む。NISの発現レベルによって、イオン化ヨウ素が取り込まれ易い環境と分子状ヨウ素が取り込まれ易い環境が形成され得る。細胞に取り込まれたヨウ素は、上記の通り直接経路または間接経路により抗腫瘍効果を発揮する。
【0005】
がん患者の血液試料中に存在する循環腫瘍細胞(CTC)の有無および種類に基づき、がん患者のがんを診断する手法が開発されている。特許文献1では、末梢血循環腫瘍細胞を12のタイプに分類し、いずれの末梢血CTCを有する患者にイオン化ヨウ素が治療的意義をもたらすかが確認されている。その結果、上皮間葉転換(EMT)を経験したCTC(Type.2)を有する患者に対しても、EMTの途中段階であると考えられるCTC(Type.2の亜型)を有する患者に対しても、ヨウ素治療が有効であることを明らかにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Garcia-Solis P,他. Mol Cell Endocrinol. 2005; 236: 49-57.
【非特許文献2】Arroyo-Helguera,他, Exp Clin Endocrinol Diabetes. 2010; 118: 410-419.
【非特許文献3】Rosner H,他.Exp Clin Endocrinol Diabetes. 2010; 118: 410-419.
【非特許文献4】Gartner R,他, Horm (Athens). 2010; 9: 60-66.
【非特許文献5】Shrivastava A,他. J Biol Chem.2006; 281: 19762-71.
【非特許文献6】Aceves C, 他. Mol Cancer. 2009; 8: 33.
【非特許文献7】Nunez-Anita RE, et al., Prostaglandins Other Lipid Mediat. 2009; 89: 34-42.
【非特許文献8】Roberts-Thomson SJ, 他. Toxicol Lett. 2000; 118: 79-86.
【非特許文献9】Suchanek KM, 他. Mol Carcinog. 2002; 34: 165-171.
【非特許文献10】Germain P,他. Pharmacol Rev. 2006; 58: 726-741.
【非特許文献11】Ajaya Kumar Reka1,他、American Association for Cancer Rese arch. 2017; 18:3221-3232.
【非特許文献12】Elstner E,他. Proc Natl Acad Sci U S A. 1998; 95: 8806-8811.
【非特許文献13】Yin Y,他. Cancer Res. 2005; 65: 3950-3957.
【非特許文献14】Papi A,他. Cell Death Differ. 2012; 19: 1208-1219.
【非特許文献15】Papi A,他. PLoS One. 2013; 8: e54968.
【非特許文献16】Kao HF,他. Int Immunopharmacol. 2013 15: 565-574
【発明の概要】
【0008】
本開示は、分子状ヨウ素を含む水性組成物、およびその製造方法、並びにがんの処置方法を提供する。
【0009】
本開示によれば、例えば、以下の発明が提供される。
(1)水とヨウ素を含む水性組成物であって、前記水性組成物において、ヨウ素は、分子状ヨウ素(I2)の形態で存在し、前記水性組成物は前記分子状ヨウ素を溶解しており、溶解した分子状ヨウ素の濃度は、20ppmから200ppmの範囲の濃度であり、水性組成物中の溶存酸素濃度が4.0ppm以下である、水性組成物。
(2)上記(1)に記載の水性組成物であって、イオン化ヨウ素を含まない、水性組成物。
(3)上記(1)または(2)に記載の水性組成物であって、4℃または25℃の温度条件下において、沈殿物を形成せず、または沈殿物を伴わない、水性組成物。
(4)4℃の温度条件下での6ヶ月の保存に関して安定である、上記(1)~(3)のいずれかに記載の水性組成物。
(5)上記(1)~(4)のいずれかに記載の水性組成物であって、pH6~7の範囲のpHを有する、水性組成物。
(6)経口投与用に製剤化されている、上記(1)~(5)のいずれかに記載の水性組成物。
(7)抗酸化作用または抗炎症作用を発揮させることに用いるための、上記(1)~(6)のいずれかに記載の水性組成物。
(8)対象においてがんを処置することに用いるための、上記(1)~(7)のいずれかに記載の水性組成物。
(9)対象が、前記対象から得られた血液試料中の末梢血循環腫瘍細胞(CTC)の検査により、Type.2およびType.2の亜型からなる群から選択されるいずれかの細胞を有すると決定された対象である、上記(8)に記載の水性組成物。
(10)対象が、前記対象から得られた血液試料中の末梢血循環腫瘍細胞(CTC)の検査により、細胞表面ビメンチン(CSV)を発現したCTCを有すると決定された対象である、上記(8)または(9)に記載の水性組成物。
(11)対象が、抗がん剤による化学療法および放射線療法のいずれも受けていない対象である、上記(8)~(10)のいずれかに記載の水性組成物。
(12)対象が、イオン化ヨウ素によるがん治療を受けている、または受ける予定がある対象である、上記(8)~(10)のいずれかに記載の水性組成物。
(13)イオン化ヨウ素によるがん治療と併用される、上記(8)~(12)のいずれかに記載の水性組成物。
(14)上記(1)~(13)のいずれかに記載の水性組成物を含む、蓋付き容器であって、開閉可能に蓋を備えており、蓋は容器を密閉することができ、容器は、ガス不透過性であり、密閉することにより、容器内外間のガス交換が遮断される、蓋付き容器。
(15)上記(14)に記載の蓋付き容器であって、容器内は、ガスと前記水性組成物からなり、ガスは、酸素を5モル%以上の濃度で含まず、酸素以外は不活性ガスからなる、蓋付き容器。
(16)前記不活性ガスは、窒素である、上記(15)に記載の蓋付き容器。
(17)上記(14)~(16)のいずれかに記載の蓋付き容器であって、容器外部からの紫外線をカットすることができる遮光容器である、蓋付き容器。
(18)水とヨウ素を含む水性組成物であって、
ヨウ素は、イオン化ヨウ素および三ヨウ化物イオンの形態のヨウ素を含まないか、または
ヨウ素イオン(I-)および三ヨウ化物イオン(I3-)の形態と分子状ヨウ素(I2)の形態のヨウ素を含み、かつヨウ素イオン(I-)形態および三ヨウ化物イオン(I3-)形態のヨウ素の合計モル数よりも、分子状ヨウ素(I2)の形態のモル数が多い、
水性組成物。
(19)分子状ヨウ素の純度が、95重量%以上である、上記(18)に記載の水性組成物。
(20)上記(18)または(19)に記載の水性組成物であって、水性組成物は、酸素および窒素を溶存させており、酸素より窒素が多く含まれている、水性組成物。
(21)上記(1)~(13)、および(18)~(20)のいずれかに記載の水性組成物(目的水性組成物)を製造する方法であって、
酸素を溶存したヨウ素添加前の水性組成物中の溶存酸素濃度を低下させることと、その後、水性組成物に分子状ヨウ素を添加して目的水性組成物を得ることを含むか、
酸素を溶存したヨウ素添加後の水性組成物の溶存酸素濃度を低下させて目的水性組成物を得ることを含む、方法。
(22)上記(1)~(13)、および(18)~(20)のいずれかに記載の水性組成物(目的水性組成物)を製造する方法であって、
酸素を溶存したヨウ素添加前の水性組成物に不活性ガス雰囲気下で不活性ガスバブリングをして、溶存不活性ガス濃度を上昇させることと、その後、水性組成物に分子状ヨウ素を添加して目的水性組成物を得ることを含むか、
酸素を溶存したヨウ素添加後の水性組成物に不活性ガス雰囲気下で不活性ガスバブリングをして、溶存不活性ガス濃度を上昇させて目的水性組成物を得ることを含む、方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<定義>
本明細書では、「対象」とは、動物であり、例えば、哺乳動物、例えば、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、霊長類(例えば、サル、ゴリラ、オランウータン、ボノボ、チンパンジーおよびヒト)であり得、例えば、ヒトであり得る。
【0011】
本明細書では、「処置」は、治療(治療的処置)と予防(予防的処置)とを含む意味で用いられる。本明細書では、「治療」とは、疾患若しくは障害の治療、治癒、若しくは、寛解、または、疾患若しくは障害の進行速度の低減を意味する。本明細書では、「予防」とは、疾患もしくは病態の発症の可能性を低下させる、または疾患もしくは病態の発症を遅らせることを意味する。
【0012】
本明細書では、「治療上有効量」とは、疾患や状態を処置(予防または治療)するために有効な薬剤の量を意味する。
【0013】
本明細書では、「疾患」とは、治療が有益な症状を意味する。本明細書では、「がん」とは悪性腫瘍、神経膠腫、および神経膠芽腫を意味する。
【0014】
本明細書では、「ヨウ素」(ヨード)は、原子番号53、原子量126.9の元素である。ハロゲン元素の1つであり、ハロゲン元素としては常温で固体状の唯一の物質である。ヨウ素の原子記号は「I」である。本明細書では、「分子状ヨウ素」は、ヨウ素分子(I2)を示す。また、本明細書では、「イオン化ヨウ素」は、ヨウ素イオンを示し、例えば、ヨウ素イオン(I-)および三ヨウ化物イオン(I3-)が挙げられる。ヨウ素分子は、難水溶性であるが、ヨウ素イオン(I-)を含む水溶液(例えば、イオン化ナトリウム水溶液等)に対してはよく溶けることが知られている。ヨウ素分子は、イオン化ヨウ素(I-)を含む水溶液中では、ヨウ素イオン(I-)と反応して、三ヨウ化物イオン(I3-)を形成することにより、分子状ヨウ素の形態ではなく、イオン化ヨウ素として水に溶解していると考えられる。本明細書では、「分子状ヨウ素を含む」とは、ヨウ素を分子状ヨウ素の形態で含むことを意味する。
【0015】
本明細書では、「水性組成物」とは、溶媒として水を含む組成物であり、例えば、水溶液であり得る。水は極性分子であるため、極性分子は水に溶解するが、非極性分子(例えば、分子状ヨウ素形態のヨウ素)は、水には難溶性である。
【0016】
本明細書では、「不活性ガス」とは、化学反応や分子状ヨウ素に対して不活性なガスであり、例えば、例えば、窒素やアルゴンであり得る。
【0017】
本明細書では、「ppm」は、濃度の単位である。水性組成物中の溶質の濃度は、水1Lを1kgと近似し、ppmはmg/Lである。測定条件は、25℃大気下にて行われ得る。
【0018】
<本開示の水性組成物>
本開示によれば、ヨウ素を含む水性組成物が提供される。本開示によれば特に、分子状ヨウ素を含む水性組成物が提供される。
【0019】
ある好ましい態様では、本開示の水性組成物は、水溶液である。
【0020】
ある好ましい態様では、本開示の水性組成物中には、分子状ヨウ素は、10ppm~500ppmの濃度で含まれている。ある好ましい態様では、本開示の水性組成物中には、分子状ヨウ素は、30ppm以上、40ppm以上、50ppm以上、60ppm以上、70ppm以上、80ppm以上、90ppm以上、100ppm以上、110ppm以上、120ppm以上、130ppm以上、140ppm以上、150ppm以上、160ppm以上、170ppm以上、180ppm以上、または190ppm以上の濃度で含まれている。ある好ましい態様では、本開示の水性組成物中には、分子状ヨウ素は、500ppm以下、400ppm以下、300ppm以下、250ppm以下、240ppm以下、230ppm以下、220ppm以下、210ppm以下、200ppm以下、190ppm以下、180ppm以下、170ppm以下、160ppm以下、150ppm以下、140ppm以下、130ppm以下、120ppm以下、110ppm以下、または100ppm以下の濃度で含まれている。ある好ましい態様では、本開示の水性組成物中には、分子状ヨウ素は、10ppm~300ppm、20ppm~250ppm、20ppm~200ppm、または50ppm~150ppmの濃度で含まれている。経口投与に際しては、苦味を低減する観点で、本開示の水性組成物中の分子状ヨウ素の濃度は、好ましくは200ppm以下であり、例えば、150ppm以下であり、例えば、80~120ppmであり得る。
【0021】
ある態様では、本開示の水性組成物は、イオン化ヨウ素を含んでいてもよい。このようにすることで、分子状ヨウ素の水溶性が向上し、分子状ヨウ素濃度を高めることができる。ある好ましい態様では、本開示の水性組成物は、イオン化ヨウ素を所定の濃度より低い濃度で含む。ここで、所定の濃度は、10,000ppm以下、9,000ppm以下、8,000ppm以下、7,000ppm以下、6,000ppm以下、5,000ppm以下、4,000ppm以下、3,000ppm以下、2,000ppm以下、1,000ppm以下、900ppm以下、800ppm以下、700ppm以下、600ppm以下、500ppm以下、400ppm以下、300ppm以下、200ppm以下、190ppm以下、180ppm以下、170ppm以下、160ppm以下、150ppm以下、140ppm以下、130ppm以下、120ppm以下、110ppm以下、100ppm以下、90ppm以下、80ppm以下、70ppm以下、60ppm以下、50ppm以下、40ppm以下、30ppm以下、20ppm以下、10ppm以下、9ppm以下、8ppm以下、7ppm以下、6ppm以下、5ppm以下、4ppm以下、3ppm以下、2ppm以下、もしくは1ppm以下、または検出限界以下の値であり得る。ある好ましい態様では、所定の濃度は、分子状ヨウ素の濃度、分子状ヨウ素の濃度の90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下、3%以下、1%以下、1/1,000以下、または1/10,000以下であり得る。
【0022】
ある態様では、本開示によれば、水とヨウ素を含む水性組成物であって、
ヨウ素は、イオン化ヨウ素および三ヨウ化物イオンの形態のヨウ素を含まないか、または
ヨウ素イオン(I-)および三ヨウ化物イオン(I3-)の形態と分子状ヨウ素(I2)の形態のヨウ素を含み、かつヨウ素イオン(I-)形態および三ヨウ化物イオン(I3-)形態のヨウ素の合計モル数よりも、分子状ヨウ素(I2)の形態のモル数が多い、または2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、10倍以上、20倍以上、30倍以上、40倍以上、50倍以上、100倍以上、1,000倍以上、または10,000倍以上多い、水性組成物が提供される。
【0023】
ある態様では、本開示の水性組成物は、イオン化ヨウ素を含まないか、実質的に含まない。ここで、「イオン化ヨウ素を実質的に含まない」とは、製造工程中の回避できないイオン化ヨウ素の混入や検出限界以下のイオン化ヨウ素の混入は許容される。
【0024】
ある態様では、本開示の水性組成物は、アルコールを5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、または0.1%以下でしか含まない、または実質的に含まないもしくは含まない。ここで、「アルコールを実質的に含まない」とは、製造工程中の回避できないアルコールの混入や検出限界以下のアルコールの混入は許容される。アルコールとしては、例えば、エタノールが挙げられる。
【0025】
ある好ましい態様では、本開示の水性組成物では、溶存酸素(O2)濃度が所定の酸素濃度以下である。ここで、所定の酸素濃度は、25℃、1気圧の大気中における溶存酸素濃度以下の値であり得、例えば、8ppm以下、7ppm以下、6ppm以下、5ppm以下、4ppm以下、3ppm以下、2ppm以下、または1ppm以下であり得る。溶存酸素濃度は低いほど好ましい。溶存酸素濃度は、市販の溶存酸素計を用いて測ることができる。
【0026】
ある態様では、本開示の水性組成物は、特に限定されないが例えば、6.0~7.0のpHを有する。ある態様では、本開示の水性組成物は、6.0~6.5のpHを有する。水溶液のpHは、市販のpH測定器を用いて測ることができる。
【0027】
ある態様では、本開示の水性組成物は、特に限定されないが例えば、4℃~30℃の温度を有する。ある態様では、本開示の水性組成物は、4℃~25℃の温度を有する。ある態様では、本開示の水性組成物は、凍結形態である。
【0028】
ある態様では、本開示の水性組成物における分子状ヨウ素の純度は、90重量%以上、91重量%以上、92重量%以上、93重量%以上、94重量%以上、95重量%以上、96重量%以上、97重量%以上、98重量%以上、または99重量%以上であり得る。純度は、クロマトグラフィーや質量分析計等により求めることができる。
【0029】
ある好ましい態様では、本開示の水性組成物は、水とヨウ素を含む水性組成物であって、前記水性組成物において、ヨウ素は、分子状ヨウ素(I2)の形態で存在し、前記水性組成物は前記分子状ヨウ素を溶解しており、溶解した分子状ヨウ素の濃度は、20ppmから200ppmの範囲の濃度であり、水性組成物中の溶存酸素濃度が4.0ppm以下である。ある好ましい態様では、本開示の水性組成物は、水とヨウ素を含む水性組成物であって、前記水性組成物において、ヨウ素は、分子状ヨウ素(I2)の形態で存在し、前記水性組成物は前記分子状ヨウ素を溶解しており、溶解した分子状ヨウ素の濃度は、20ppmから200ppmの範囲の濃度であり、水性組成物中の溶存酸素濃度(モル濃度)よりも溶存窒素濃度(モル濃度)が高い、または2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、10倍以上、20倍以上、30倍以上、40倍以上、50倍以上、100倍以上、1,000倍以上、または10,000倍以上高い。
【0030】
ある好ましい態様では、本開示の水性組成物は、4℃の温度条件下での6ヶ月の保存に関して安定である。例えば、本開示の水性組成物は、4℃の温度条件下での6ヶ月の保存後にpHの低下、着色(着色の変化及び増加)、苦味の増強、および析出からなる群から選択される1以上の変化を伴わない。ある好ましい態様では、本開示の水性組成物は、4℃の温度条件下での12ヶ月の保存に関して安定である。例えば、本開示の水性組成物は、4℃の温度条件下での12ヶ月の保存後にpHの低下、着色(着色の変化及び増加)、苦味の増強、および析出からなる群から選択される1以上の変化を伴わない。ある好ましい態様では、4℃の温度条件下での6ヶ月の保存後に、および/または、当該保存の前に、イオン化ヨウ素を同濃度で含む以外は同一の組成を有する溶液よりも、弱い苦味しか有しない。
【0031】
ある好ましい態様では、本開示の水性組成物は、経口投与用に製剤化されている、または経口投与用製剤である。経口投与用製剤では、分子状ヨウ素の濃度は、飽和濃度以下であればよく、約300ppm以下、約250ppm以下、約240ppm以下、約230ppm以下、約220ppm以下、約210ppm以下、好ましくは、約200ppm以下、約150ppm以下、例えば、約100ppm~約200ppm、または約80ppm~約120ppmであり得る。
【0032】
分子状ヨウ素は、高い抗酸化作用を有する。例えば、分子状ヨウ素は、ヨウ化カリウムよりも数十倍高い抗酸化力を有すると考えられている。ある態様では、本開示の水性組成物は、抗酸化作用を有する。ある態様では、本開示の水性組成物はまた、抗炎症作用を有する。
【0033】
<本開示の水性組成物の製造方法>
本開示によれば、本開示の水性組成物の製造方法が提供される。酸素を溶存したヨウ素添加前の水性組成物中の溶存酸素濃度を低下させることと、その後、水性組成物に分子状ヨウ素を添加して目的水性組成物を得ることを含むか、酸素を溶存したヨウ素添加後の水性組成物の溶存酸素濃度を低下させて目的水性組成物を得ることを含み得る。水性組成物中の溶存酸素濃度は、溶存酸素濃度の低下処理、例えば、溶存酸素の不活性ガスへの置換処理、特に、不活性ガスによるバブリング処理、または脱気(煮沸、超音波付加、真空減圧、遠心、およびこれらの組合せ等)により低下させることができる。溶存酸素濃度の低下処理、溶存酸素の不活性ガスへの置換処理、不活性化ガスのバブリング処理、および脱気は、常法にしたがって行うことができる。
【0034】
不活性ガスは、化学的に安定であり、他の元素および化合物と容易に反応しないガスである。不活性ガスとしては、希ガス、すなわち、周期表の18族の元素(例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン等)をさすが、本明細書では、酸素に対してはるかに反応性に乏しい窒素ガスおよび二酸化炭素ガスも不活性ガスに含まれる。但し、不活性化ガスは、人体に対して許容できない毒性を発揮しない濃度でのみ用いられるものとする。ある好ましい態様は、不活性ガスは、窒素ガスである。溶存酸素濃度の低下処理、溶存酸素の不活性ガスへの置換処理、および不活性ガスによるバブリング処理は、不活性ガス雰囲気下で行われ得る。不活性ガス雰囲気は、例えば、グローブボックス内に形成することができる。例えば、不活性化ガス雰囲気下で、水性組成物に不活性ガスを溶解させることにより、溶存酸素濃度を低下させ、不活性ガスの溶存濃度が高まる。このようにして、溶存酸素を不活性ガスに置換することができる。例えば、不活性化ガス雰囲気下で、不活性化ガスを水性組成物に泡状に放出する(バブリングする)と、溶存酸素濃度が低下し、不活性化ガスの溶存濃度が高まる。ある好ましい態様では、不活性ガスを水性組成物中に飽和溶解させることにより、溶存酸素濃度を低下させる。不活性化ガスの水性組成物中への放出速度は、特に限定されないが例えば、2L/分とすることができる。また、不活性化ガスの水性組成物中への放出時間は、特に限定されないが例えば、5分以上、例えば、10分とすることができる。
【0035】
ある態様では、本開示の製造方法は、酸素を溶存したヨウ素添加前の水性組成物に不活性ガス雰囲気下で不活性ガスバブリングをして、溶存不活性ガス濃度を上昇させることと、その後、水性組成物に分子状ヨウ素を添加して目的水性組成物を得ることを含むか、酸素を溶存したヨウ素添加後の水性組成物に不活性ガス雰囲気下で不活性ガスバブリングをして、溶存不活性ガス濃度を上昇させて目的水性組成物を得ることを含む。
【0036】
作製された水性組成物は、30℃以下の温度条件下、例えば、4℃~27℃にて保管されうる。作製された水性組成物はまた、好ましくは、遮光瓶内で保管されうる。遮光瓶はガラス製でありうる。遮光瓶は、茶褐色または緑色の遮光瓶であり得る。遮光瓶は紫外線をカットすることができる。
【0037】
<がん治療>
イオン化ヨウ素は、体内では、ナトリウム/ヨウ化物共輸送体(NIS)により細胞内に取り込まれると考えられる。分子状ヨウ素は、促進拡散により細胞内に取り込まれると考えられる。したがって、分子状ヨウ素は、イオン化ヨウ素とは異なる細胞内への取込み機構を利用して細胞内に取り込まれる。そのため、分子状ヨウ素は、がん幹細胞にも取り込まれ易いと考えられる。がん細胞内に取り込まれたヨウ素は、がん細胞内でPPARγを活性化し、PPARαを抑制して、抗がん作用を発揮し得る。PPARαは、発がん促進に働く因子として知られ、PPARγは、がん細胞の増殖抑制、アポトーシス誘導、および分化促進を通してがん細胞に対して抗がん作用を発揮することが知られている。また、PPARγは、上皮間葉転換(EMT)に対する阻害作用を有することが知られている。
【0038】
したがって、本開示の水性組成物は、がんの処置に好ましく用いられ得る。
【0039】
本開示によれば、がんを処置することに用いるための、本開示の水性組成物が提供される。本開示によればまた、がんをその必要のある対象において処置する方法であって、当該対象に本開示の水性組成物の治療上有効量を投与することを含む方法が提供される。本開示によれば、がんを処置することに用いるための医薬の製造における、本開示の水性組成物の使用が提供される。
【0040】
がんとしては、特に限定されないが例えば、乳がん、肺がん、頭頚部がん、前立腺がん、食道がん、気管がん、皮膚がん、脳がん、肝臓がん、膀胱がん、胃がん、膵臓がん、卵巣がん、子宮がん、子宮頸がん、精巣がん、結腸がん、直腸がん及び皮膚がんからなる群から選択される1種以上であり得る。がんとしてはまた、上皮腫瘍、間葉腫瘍、上皮と間葉の両方の性質を有する腫瘍、および転移性腫瘍からなる群から選択される1以上であり得る。
【0041】
対象は、がんを有する対象であり得る。
【0042】
本開示によれば、分子状ヨウ素は、Type.2、Type.2の亜型、およびType.1からなる群から選択される1以上の循環腫瘍細胞(CTC)を有する対象に対して抗がん作用を示し得る。Type.2、Type.2の亜型、およびType.1は、表1に示されるように、それぞれさらなるサブタイプに分類される。
【0043】
【0044】
Type.1は、サイトケラチン陽性であり、ビメンチン陰性である。Type.2は、サイトケラチン陰性であり、ビメンチン陽性である。これに対して、Type.2亜型は、サイトケラチン陽性であり、ビメンチン陽性である。このように、Type.2亜型は、Type.1とType.2の中間的性質を示す。実際、がんは、Type.1、Type.2亜型、Type.2となるにつれて悪性度が高まる。また、細胞表面に発現するビメンチン(細胞表面ビメンチン;CSV)ががんの悪性度や上皮間葉転換(EMT)と関連する(Mitra et al., Int. J. Cancer., 137(2):491-496, 2015)。したがって、上記分類に加えて、または上記分類をせずに、細胞表面ビメンチン(CSV)を発現する細胞(特にCTC)を検出することによってもがんの悪性度を評価することができる。
【0045】
マクロファージは、当業者に周知の方法により特定することができる。死滅CTCは、核を有しない点に特徴がある。Type.2亜型、およびType.2において、アメーバCTCは、表1の特徴の他に、形状がアメーバ様であることを特徴とする。Type.1、Type.2亜型、およびType.2において、凝集CTC(クラスターCTC)は、CTCがクラスターを形成していることを特徴とする。Type.1、Type.2亜型、およびType.2において、凝集塊(CTM)は、血球細胞または血小板とCTCとを含んだ凝集塊を形成していることを特徴とする。細胞の形態、凝集形成、および凝集塊の形成は、光学顕微鏡下における観察を併用して決定することができる。
【0046】
本開示のある態様では、本開示の水性組成物は、Type.1、Type.2の亜型、およびType.2からなる群から選択されるいずれか1以上のCTCを有する対象を処置することに用いられる。本開示のある態様では、本開示の水性組成物は、Type.1、Type.2の亜型、およびType.2からなる群から選択されるいずれか1以上のCTCを有すると決定された対象を処置することに用いられる。
【0047】
本開示のある態様では、本開示の水性組成物は、Type.1の無傷細胞、Type.1の凝集CTC、およびType.1の凝集塊;Type.2亜型の無傷細胞、Type.2亜型のアメーバ様CTC、Type.2亜型の凝集CTC、およびType.2亜型の凝集塊;並びに、Type.2の無傷細胞、Type.2のアメーバ様CTC、Type.2の凝集CTC、およびType.2の凝集塊からなる群から選択されるいずれか1以上のCTCを有する対象を処置することに用いられる。本開示のある態様では、本開示の水性組成物は、Type.1の無傷細胞、Type.1の凝集CTC、およびType.1の凝集塊;Type.2亜型の無傷細胞、Type.2亜型のアメーバ様CTC、Type.2亜型の凝集CTC、およびType.2亜型の凝集塊;並びに、Type.2の無傷細胞、Type.2のアメーバ様CTC、Type.2の凝集CTC、およびType.2の凝集塊からなる群から選択されるいずれか1以上のCTCを有すると決定された対象を処置することに用いられる。本開示のある態様ではまた、本開示の水性組成物は、細胞表面ビメンチン(CSV)陽性の細胞(特に血液中の細胞、特にCTC)を有する対象を処置することにも用いられ得る。
【0048】
本開示のある態様では、本開示の水性組成物は、Type.1の無傷細胞、Type.1の凝集CTC、およびType.1の凝集塊からなる群から選択されるいずれか1以上のCTCを有する対象を処置することに用いられる。本開示のある態様では、本開示の水性組成物は、Type.1の無傷細胞、Type.1の凝集CTC、およびType.1の凝集塊からなる群から選択されるいずれか1以上のCTCを有すると決定された対象を処置することに用いられる。
【0049】
本開示のある態様では、本開示の水性組成物は、Type.2亜型の無傷細胞、Type.2亜型のアメーバ様CTC、Type.2亜型の凝集CTC、およびType.2亜型の凝集塊からなる群から選択されるいずれか1以上のCTCを有する対象を処置することに用いられる。本開示のある態様では、本開示の水性組成物は、Type.2亜型の無傷細胞、Type.2亜型のアメーバ様CTC、Type.2亜型の凝集CTC、およびType.2亜型の凝集塊からなる群から選択されるいずれか1以上のCTCを有すると決定された対象を処置することに用いられる。
【0050】
本開示のある態様では、本開示の水性組成物は、Type.2の無傷細胞、Type.2のアメーバ様CTC、Type.2の凝集CTC、およびType.2の凝集塊からなる群から選択されるいずれか1以上のCTCを有する対象を処置することに用いられる。本開示のある態様では、本開示の水性組成物は、Type.2の無傷細胞、Type.2のアメーバ様CTC、Type.2の凝集CTC、およびType.2の凝集塊からなる群から選択されるいずれか1以上のCTCを有すると決定された対象を処置することに用いられる。
【0051】
本開示のある態様では、Type.2亜型およびType.2のCTCを有する対象においてより優れた抗がん作用を発揮する。したがって、本開示の好ましい態様では、本開示の水性組成物は、Type.2亜型およびType.2からなる群から選択されるいずれか1以上のCTCを有する対象を処置することに用いられる。また、本開示の水性組成物は、Type.2亜型およびType.2からなる群から選択されるいずれか1以上のCTCを有すると決定された対象を処置することに用いられる。
【0052】
本開示のある態様では、ビメンチン陽性のCTC(好ましくは、細胞表面ビメンチン(CSV)陽性のCTC)を有する対象を処置することに用いられる。本開示のある態様では、ビメンチン陽性のCTC(好ましくは、細胞表面ビメンチン(CSV)陽性のCTC)を有すると決定された対象を処置することに用いられる。この場合に、凝集CTCおよび凝集塊などの凝集物は、測定前に除去してもよいし、または、単一細胞化して測定に供してもよい。測定対象から凝集物を除去することにより、例えば、マイクロ流路などを有するデバイスでの分析が容易となる。
【0053】
特定のCTCを有すると決定することは、上記の通り、それぞれのCTCを検出することにより行われ得る。それぞれのCTCの検査は、例えば、特開2020-152683号公報(JP2020-152683A)に記載される通りに実施できる。
【0054】
本開示によれば、本開示の水性組成物は、特に悪性度の高いがん細胞またはがん幹細胞に対して有効であり得る。したがって、本開示の水性組成物で処置された対象は、その他のがん療法を受けることができる。その他のがん療法としては、例えば、イオン化ヨウ素の投与による治療、化学療法(免疫療法を含む)、放射線療法、および外科手術が挙げられる。
【0055】
本明細書では、イオン化ヨウ素は、ヨウ化ナトリウム、およびヨウ化カリウムなどのヨウ化物の形態で、対象に投与され得る。したがって、本開示の水性組成物に、イオン化ヨウ素を含ませる場合には、例えば、ヨウ化ナトリウム、およびヨウ化カリウムなどのヨウ化物の形態でヨウ素を水性組成物に添加することができる。また、本開示の水性組成物と併用されるイオン化ヨウ素は、例えば、ヨウ化ナトリウム、およびヨウ化カリウムなどのヨウ化物の形態のヨウ素であり得る。
【0056】
ある態様では、対象は、抗がん剤による化学療法および放射線療法のいずれも受けていない対象である。
【0057】
ある態様では、対象は、イオン化ヨウ素によるがん治療を受けている、または受ける予定がある対象である。
【0058】
ある態様では、本開示の水性組成物は、イオン化ヨウ素によるがん治療と併用される。
【0059】
本開示のある態様によれば、投与される分子状ヨウ素の1日当たりの用量は、10μg~200μg/kg体重であり得る。本開示のある態様によれば、投与される分子状ヨウ素の1日当たりの用量は、70μg~100μg/kg体重であり得る。投与量は、対象の年齢、体重、健康状態、がんの状態等を考慮して、または医薬品の添付文書を参考として医師が決定することができる。100ppmの分子状ヨウ素水溶液を体重65kgの対象に対して、例えば20mL~30mL投与することができる。投与は、好ましくは経口投与により行われる。
【0060】
本開示の水性組成物は、滅菌されている。滅菌は、加熱滅菌、放射線照射滅菌、およびフィルター滅菌などの医薬品製造の滅菌方法により実施することができる。
【0061】
<容器>
本開示のある態様では、本開示の水性組成物を含む容器が提供される。本開示の水性組成物を含む容器は、閉鎖系容器である。閉鎖系容器とは、外と内部との気体および液体の行き来が遮断されている容器を意味する。閉鎖系容器としては、蓋付き容器が挙げられる。蓋付き容器は、開閉可能に蓋を備えている。蓋は容器を密閉することができ、これにより、外と内部との気体および液体の行き来(特に容器内外間のガス交換)が遮断され得る。容器は、ガス不透過性である。
【0062】
ある態様では、本開示の水性組成物を含む容器は、容器内にガスと前記水性組成物とを含み、好ましくは、ガスと前記水性組成物とからなる。用語「からなる」は、その前に列挙されていない第三成分を含まないことを意味する。ある好ましい態様では、ガスは、酸素を50モル%以下、15モル%以下、10モル%以下、5モル%以下、4モル%以下、3モル%以下、2モル%以下、または1モル%以下の濃度でしか含まない。ある態様では、ガスは酸素以外には不活性ガスを含む。ある態様では、ガスは、酸素と不活性ガスとからなる。不活性ガスは、ある好ましい態様では、窒素である。ある態様では、ガスは、不活性ガスからなる。
【0063】
閉鎖系容器は、遮光瓶であり得る。ある好ましい態様では、遮光瓶はガラス製である。また、ある好ましい態様では、遮光瓶は、茶褐色または緑色の遮光瓶であり、より好ましくは、ガラス製の遮光瓶である。閉鎖系容器は、紫外線を遮断することができ、好ましくは、紫外線を80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.9%以上、99.99%以上、99.999%以上、または99.9999%以上遮断し得る。
【実施例0064】
実施例1:分子状ヨウ素を含む水性組成物(分子状ヨウ素水)の調製
分子状ヨウ素(I2)は、イオン化ヨウ素(イオン化されているヨウ素)とは明確に区別される。イオン化ヨウ素は、例えば、ヨウ化ナトリウム(分子量:149.89)は、白色の結晶または白色の結晶性の粉末であるのに対して、分子状ヨウ素(分子量:253.81)は、黒紫色の板状、葉状、または粒状の結晶である。また、イオン化ヨウ素は、水溶性であるのに対して、分子状ヨウ素は、難水溶性である。分子状ヨウ素の水溶性を高めるために、イオン化ヨウ素と混合する方法、アルコール濃度を高める方法が採用されているが、イオン化ヨウ素を含まず、アルコールを含まない水性組成物において分子状ヨウ素を溶解した水性組成物を得ることは容易ではない。本実施例では、分子状ヨウ素を溶解した水性組成物を調製した。水性組成物の調製においてイオン化ヨウ素の添加やアルコールの添加を行わないこととした。
【0065】
蒸留水に対して窒素を2L/分の流速で10分間にわたってバブリング(窒素バブリング処理)して溶存酸素濃度を低下させて溶媒を得た。分子状ヨウ素を最終濃度100ppm(約394μM)となるように、得られた溶媒に添加して分子状ヨウ素を含む水性組成物を得た。また、分子状ヨウ素を最終濃度100ppm(約394μM)となるように、蒸留水に点火して、その後、窒素を2L/分の流速で10分間にわたってバブリング(窒素バブリング処理)して溶存酸素濃度を低下させた。得られた水性組成物を0.45μmのメンブレンフィルターでろ過して滅菌した。得られた水性組成物のpHは、6.0~6.5であった。得られた水性組成物は、薄い褐色系の色を呈する透明の溶液であった。また、得られた水性溶液は、ヨウ素特有の匂いを示したが、ほぼ無味無臭であった。これに対して、蒸留水を窒素バブリング処理に供することなく溶媒として用いて、分子状ヨウ素を最終濃度100ppmとなるように、溶媒に添加して対照水性溶液を得た。対照水性溶液は、濃い黄色を呈した。また、水溶液の苦味が、窒素バブリング処理をして得た分子状ヨウ素水よりも強かった。酸素は、分子状ヨウ素と反応して酸化物を形成するため、水性組成物中での分子状ヨウ素を不安定化させたと考えられた。
【0066】
上記で窒素バブリング処理をした水性組成物は、保存安定性に優れ、開封前は常温で保存可能であり、開封後は冷蔵保存(例えば、4℃)により、半年~1年経過しても、その性状は変化しなかった。例えば、窒素バブリング処理に供しないで作製された水性組成物では、pHの低下、着色、苦味の増強、または析出が認められたが、窒素バブリング処理をした水性組成物では、このような性状変化は認められなかった。得られた水性組成物は、抗酸化作用および抗炎症作用を示した。したがって、本開示の分子状ヨウ素水は、がん患者の処置、特にType2やType2の亜型を有する対象およびCSV陽性の対象などの対象の処置に有効であり得る。