IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧 ▶ 東レ・オペロンテックス株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-詰め物および繊維製品 図1
  • 特開-詰め物および繊維製品 図2
  • 特開-詰め物および繊維製品 図3
  • 特開-詰め物および繊維製品 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009477
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】詰め物および繊維製品
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/02 20060101AFI20240116BHJP
   D02G 3/04 20060101ALI20240116BHJP
   D02G 3/34 20060101ALI20240116BHJP
   D04H 1/4382 20120101ALI20240116BHJP
【FI】
D04H1/02
D02G3/04
D02G3/34
D04H1/4382
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111025
(22)【出願日】2022-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】502179282
【氏名又は名称】東レ・オペロンテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】柴田 剛志
(72)【発明者】
【氏名】増田 正人
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏子
【テーマコード(参考)】
4L036
4L047
【Fターム(参考)】
4L036MA04
4L036MA05
4L036MA33
4L036MA39
4L036PA41
4L036PA43
4L036PA46
4L036RA05
4L036UA25
4L047AA21
4L047AA25
4L047AA28
4L047AB03
4L047CC07
(57)【要約】
【課題】繰り返し使用することにより圧縮等の外力を受けることや、繰り返し洗濯を行った後においても、優れた消臭性を持続させることが可能な詰め物であり、加工糸を束ねたものを含んで詰め物を構成することにより、消臭性を効果的に発揮し、快適なクッション性を有した詰め物およびこれを用いた繊維製品を提供する。
【解決手段】繊維Aと、前記繊維Aよりも相対的に長い繊維Bとが一体化された加工糸を含み、少なくとも前記繊維Bに消臭繊維が含まれている、詰め物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維Aと、前記繊維Aよりも相対的に長い繊維Bとが一体化された加工糸を含み、少なくとも前記繊維Bに消臭繊維が含まれている、詰め物。
【請求項2】
前記繊維Bがループを形成している、請求項1に記載の詰め物。
【請求項3】
前記繊維Bに含まれる前記消臭繊維がポリウレタン系繊維である、請求項1または2に記載の詰め物。
【請求項4】
前記詰め物の総量に対して前記消臭繊維が10質量%以上含まれている、請求項1から3のいずれか1項に記載の詰め物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の詰め物を含む、繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、詰め物および前記詰め物を含む繊維製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
衣料や寝具等の詰め物に用いられる素材として、動物繊維や植物繊維等の天然繊維からなる素材や、合成繊維からなる合繊綿等の素材が用いられている。
【0003】
天然繊維は、その複雑な構造や、素材由来の特性から得られる吸湿性、発熱性等、様々な機能を有しているが、天然素材であるため供給安定性の課題がある。また、天然繊維自体は短繊維であるため、繊維状物に対して施される連続的な機能加工は難しく、各種用途で求められる所望の機能を追加で付与することが困難な場合があった。
【0004】
一方、合成繊維からなる素材は、素材の選定と後加工により、繊維への各種機能を付与することが容易で、機能性や安定供給可能であることを訴求点として、衣料や寝具等の詰め物に広く用いられるようになってきた。
【0005】
このような合成繊維からなる詰め物用素材について、保温性や嵩高性等の詰め物としての基本的特性の向上以外に、易洗濯性や消臭性といった合成繊維ならではの機能を有した素材に関するニーズが高まってきている。
【0006】
詰め物素材としての基本的な特性は嵩高性にあるが、天然の保温性素材である羽毛による詰め物素材の構造を再現することを目的に、特許文献1では、合成繊維をエアー交絡することで得た混繊交絡糸を用いた詰め物体、同様に、特許文献2では、流体加工ノズルを用いて、ノズル外で気流と糸を分離して絡合させることによって得た旋回加工性の嵩高糸が提案されている。これ等の嵩高加工糸を活用した合成繊維からなる詰め物素材においては、後加工等により機能性を付与することが可能となるが、消臭性に関しては、側地となる織編物や縫製に用いる縫い糸等に後加工することで消臭機能を付与することが一般的である。
【0007】
しかしながら、側地に内包させる詰め物にも臭い成分が蓄積することに加えて、側地と比較して洗濯が容易でないため、詰め物自体に消臭機能を付与しようとする取り組みも行われている。
【0008】
例えば、特許文献3では、合成繊維を用いた消臭機能を有する詰め物として、消臭加工を施した短繊維を混綿した合繊綿が提案されている。
【0009】
また、特許文献4では、詰め物用素材として、繊維に抗菌剤や消臭剤などを練り込んだり、含浸させたり、塗布したりして得られる短繊維を他の短繊維と束ねて短繊維束とした素材も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2012-67430号公報
【特許文献2】国際公開第2017/014241号
【特許文献3】特開平9-313323号公報
【特許文献4】特開2018-193646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1および特許文献2は、鞘糸が放射上に広がることを構造的な特徴とした加工糸であるが、このような構造体の場合、熱伝導率の低い空気を多く含むことにより、保温性に優れる詰め物素材となり、その骨格をなす芯糸と鞘糸が、混繊交絡や流体加工により一体化しているため、洗濯をした場合でも嵩高性を維持することができる。しかしながら、家庭用洗濯機を用いた洗濯では、同時に洗う衣類の数や種類等の条件によって揉まれ、圧縮されることで、隣り合う嵩高加工糸の鞘糸が絡み合い、構造体としての嵩高性が低下する場合があった。また、鞘糸が絡み合うことで形成された構造体内の複雑な空隙に、使用者の汗臭等が入り込んだ場合には、ソフトな洗濯では除去されず、経時で体臭が蓄積されることとなり、これを要因とした悪臭が課題となる場合があった。
【0012】
特許文献3は、合成短繊維を開綿し、シート状にした後に、絡合させた不織布を活用した詰め物素材であり、特許文献3のひとつの特徴である消臭機能についても、基材と同じく短繊維とした消臭繊維を混綿することにより発現するものである。合成短繊維からなる不織布を詰め物素材に用いた場合、絡合処理を施す必要があり、そもそも詰め物としての嵩高性は、特許文献1や特許文献2の嵩高加工糸を用いた詰め物素材と比較して低下するものである。また、素材の特徴である消臭機能は、合成短繊維に樹脂加工等により消臭剤を付与したものであるため、洗濯耐久性も高いとは言えず、そもそも使用経時で消臭機能が低下するものである。また、嵩高性を高めること等を目的に不織布加工の際の絡合を軽くした場合には、家庭用洗濯等で加えられる揉みや圧縮変形により、消臭繊維が脱落しやすく、機能を訴求する消臭繊維も同様に脱落することで、詰め物素材の消臭機能がさらに低下することが課題となる場合があった。
【0013】
特許文献4は、合成短繊維を束ねて一体化した詰め物素材であり、嵩高性には制約があり、さらに、機能性繊維によって消臭機能を付与できることの記載がある。特許文献4は、構造体として、短繊維を束ねた繊維束にすることを特徴としている。このため、特許文献3よりもさらに、使用経時での消臭繊維の脱落が起こりやすい構造体であり、特許文献3と同様に消臭機能の持続が困難であることが課題になる場合があった。衣類よりも洗濯頻度が少ない枕や敷布団、敷パッド等の寝具用途においては、肌が触れるものであるため清潔さが重要な要素となっており、このような用途では洗濯できるだけでなく、抗菌性や、悪臭の発生を抑制する消臭性が特に求められていた。
【0014】
本発明は上記を鑑みてなされたものであり、洗濯や使用経時においても持続可能で優れた消臭性と、枕や敷布団、敷パッド等の体重負荷のかかる寝具向けとして使用する場合にも快適なクッション性を兼ね備えた詰め物および前記詰め物を含む繊維製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記した従来技術の課題は、以下によって解決される。
(1)繊維Aと、前記繊維Aよりも相対的に長い繊維Bとが一体化された加工糸を含み、少なくとも前記繊維Bに消臭繊維が含まれている、詰め物。
(2)繊維Bがループを形成している、(1)に記載の詰め物。
(3)繊維Bに含まれる前記消臭繊維がポリウレタン系繊維である、(1)または(2)のいずれかに記載の詰め物。
(4)詰め物の総量に対して前記消臭繊維が10質量%以上含まれている、(1)~(3)のいずれかに記載の詰め物。
(5)(1)~(4)のいずれかに記載の詰め物を含む、繊維製品。
【発明の効果】
【0016】
本発明の詰め物は、繰り返しの使用や繰り返しの洗濯の後でも優れた消臭性を持続し、また快適なクッション性も有する詰め物および繊維製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の詰め物に含まれる加工糸の一例の概略側面図である。
図2】本発明の詰め物における加工糸の中心線の確認方法を説明するための模式図である。
図3】本発明の詰め物における加工糸を製造する方法の一例を模式的に示す概略工程図である。
図4】本発明の詰め物における加工糸を製造する方法の一例で用いるサクションノズルを説明するための概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について好ましい実施形態と共に記述する。
【0019】
本発明の詰め物は、繊維Aと、繊維Aよりも相対的に長い繊維Bとが一体化された加工糸を含む。
【0020】
本発明における加工糸において、繊維Aが芯糸となり、その周囲に繊維Bが存在して、両者が一体化している。
【0021】
繊維Aおよび繊維Bとしては、目的とする効果の発現をより際立たせるように設計されるものであるが、繊維構造体および加工糸として嵩高にすること、また、この糸加工工程における嵩高加工性およびこの加工通過性という観点から、繊維Aおよび繊維Bは、合成繊維からなる長繊維マルチフィラメントであることが好ましい。
【0022】
前記合成繊維とは高分子ポリマーからなる繊維であり、例えば溶融紡糸や溶液紡糸などで製造したものを採用することができる。
【0023】
前記合成繊維としては例えば、ポリエチレンテレフタレートあるいはその共重合体、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリ乳酸、ポリウレタンなどのポリマーからなる繊維が挙げられる。
【0024】
前記したポリマーの中でも、ポリエステルやポリアミドに代表される重縮合系ポリマーは、結晶性を有し、比較的高い融点を有している。このため、後加工等における熱処理工程及び実使用(クリーニングなど)の際に比較的高い温度で加熱された場合でも劣化やヘタリを起こすことがなく、本発明に利用するポリマーとして好適である。特にこれらの重縮合系ポリマーは、その融点が165℃以上であり優れた耐熱性を有し、好ましい。
【0025】
前記合成繊維として、ポリウレタン系繊維を用いることも好ましい。特に、本発明の詰め物を枕や敷パッド等の寝具に適用した場合には、加工糸内部に確保された空隙による反発感とも相まって、体圧を効果的に分散させ、就寝時の身体疲労の軽減に寄与する製品とすることができる。
【0026】
また後述のとおり、消臭繊維としてポリウレタン系繊維を用いることで、より高い消臭性能とより良好なクッション性を得ることができる。このため、詰め物に用いる加工糸の繊維Aおよび繊維Bは、いずれもポリウレタン系繊維を含んだ構成とすることが好ましい。
【0027】
前記ポリウレタン系繊維に用いられるポリウレタン樹脂は、ポリエーテル系ポリウレタン・ウレア樹脂であることが好ましい。
【0028】
また、前記ポリウレタン系繊維は、良好な耐熱性や、優れた力学特性および弾性特性を有することが好ましい。例えば、前記ポリウレタン系繊維は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定されるz平均分子量が20万以上であることが好ましく、より好ましくは25万以上、さらに好ましくは30万以上である。
【0029】
また、前記ポリウレタン系繊維は、アンモニアガスに対する消臭性を有する無機消臭剤を含有するものが好ましい。前記ポリウレタン系繊維にアンモニアガスに対する消臭性を有する無機消臭剤を含有させることで、ポリウレタン系繊維のそもそも特性である、酢酸ガス、ノネナールガス、イソ吉草酸ガスに対する消臭性に加え、アンモニアガスに対する消臭性を付与することができ、4大悪臭とされる各成分に対して、有効な消臭性能を発現することができ、悪臭に対する消臭性に優れた詰め物とすることができる。
【0030】
前記無機消臭剤としては例えば、ジルコニウム、チタン、アルミニウム、カルシウムからなる金属リン酸塩、亜鉛含有シリカなどを用いることができる。中でも、アンモニアに対する消臭性という観点から、層状構造を有するリン酸ジルコニウム、リン酸チタン、トリポリリン酸二水素アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、特に好ましくはリン酸ジルコニウムが挙げられる。また、リン酸ジルコニウムなどの金属リン酸塩は、アンモニアに対する消臭性の観点から銀イオンや銅イオンといった金属イオンを担持していない物が好適に用いられる。
【0031】
前記ポリウレタン系繊維における消臭剤の含有量は、1質量%以上であることが好ましい。係る範囲であれば、消臭繊維として前記悪臭成分の吸収・吸着作用が十分なものとなり、消臭機能を訴求することが可能となる。また、短時間でも消臭性を発揮させるなど、消臭機能を高めるには、前記消臭剤が多いほど優れた効果を発揮するものになるため、前記消臭剤の含有量は2質量%以上とすることがより好ましい。さらに、本発明の詰め物を枕や敷パッド等の寝具に用いる場合など、圧縮されて消臭繊維の表面積が小さくなった状態においても、ポリウレタン系繊維の消臭性を効果的に発揮させる観点では、前記消臭剤の含有量は3質量%以上とすることがさらに好ましい。また、前記ポリウレタン系繊維の強度や伸長回復性等の力学特性および弾性特性が低下せず、快適なクッション性が得られる範囲として、前記消臭剤の含有量は10質量%以下であることが好ましい。
【0032】
本発明の詰め物における前記ポリウレタン系繊維の含有量は、20質量%以上が好ましい。当該含有量を20質量%以上とすることで、圧縮した際の触感をウレタンフォームに近いものとすることができ、従来のウレタンフォームのような触感、体圧分散効果が得られる。また、空隙部を有した加工糸を含む詰め物であることにより、従来のウレタンフォームでは困難であった家庭用洗濯が可能となり、清潔さを維持できるといった、寝具等に使用するのに優れた特長を有するものとなる。また、消臭繊維であるポリウレタン系繊維が多く含まれるほど、より優れた消臭性能を発揮することになる。
【0033】
繊維Aおよび繊維Bを構成するポリマーは、本発明の効果を損なわない範囲で酸化チタン、シリカ、酸化バリウムなどの無機物質、カーボンブラック、染料や顔料などの着色剤、難燃剤、蛍光増白剤、酸化防止剤、あるいは紫外線吸収剤などの各種添加剤を含んでいても良い。
【0034】
繊維Aおよび繊維Bは、単成分繊維であっても繊維断面に2成分以上ポリマーが配置された複合繊維であっても良い。
【0035】
繊維Bは消臭繊維を含む。繊維Aの周囲に放射状に立毛した繊維Bが消臭繊維を含むことによって、繊維構造体に入り込んだ臭い成分を積極的に吸収・吸着し、優れた機能を発揮することができる。
【0036】
消臭繊維とは消臭機能を有する繊維を言い、消臭機能を有するとは、一般社団法人繊維評価技術協議会の定めるSEKマーク繊維製品認証基準(2021年6月1日改定版)21項に記載の消臭性試験方法に準じ、汗臭、加齢臭、排せつ臭、タバコ臭、生ゴミ臭、アンモニア臭の全臭気カテゴリーに含まれる成分であるアンモニアに対して、消臭率が70%以上を示すことを言う。
【0037】
前記消臭繊維としては例えば、ポリエステルやポリアミドといった汎用繊維に消臭成分をスプレー法、浸漬法等で付与し、必要に応じて熱処理等を施すことで繊維表面に消臭成分を固定した繊維、消臭機能を有した機能性剤や粒子を予め混合した樹脂を紡糸して得た繊維、および繊維内部に微細孔を有し、構造的特徴で消臭機能を有したポリウレタン等の樹脂を紡糸した繊維等を採用することができる。
【0038】
消臭機能の発現原理は幾つかあるが、本発明における消臭繊維は、臭気成分を吸収・吸着し、かつ化学反応により臭気を除去することで、悪臭の臭気レベルを低下、無臭化させるものであることが好適であり、この観点で言うと、前記消臭繊維はポリウレタン系繊維であることが好ましい。前記消臭繊維にポリウレタン系繊維を採用することで、優れた消臭性を有し、洗濯や使用経時においても消臭性が持続可能なことに加えて、快適なクッション性を有した、心地よい触感と優れた機能性を両立した詰め物とすることができる。
【0039】
繊維Bにおける消臭繊維の含有率は、20%質量以上が好ましい。係る含有率を20%質量以上、より好ましくは30質量%以上とすることで、繊維構造体の最外層にも消臭繊維が多く存在することとなるため、短時間での消臭機能など、優れた機能性を発揮させることができる。また、繊維Bの100質量%が消臭繊維であってもよい。
【0040】
本発明の詰め物における消臭繊維の含有量としては、10質量%以上が好ましい。係る範囲であれば、アンモニア、酢酸、イソ吉草酸などの悪臭成分の吸収・吸着が、繊維構造体として効果的に作用する。また、本発明の詰め物の100質量%が消臭繊維であってもよい。この場合、詰め物のクッション性等の力学的な機能については、加工糸を構成する繊維の太さや、加工糸の束ね方などの繊維構造体としての設計で、必要に応じて調整することが好ましい。
【0041】
詰め物の総量に対する消臭繊維の質量割合については、詰め物の総量および加工糸の質量を算出した後、加工糸を構成する消臭繊維を特定し、前記加工糸における前記消臭繊維の質量を算出することで求めることができる。具体的には、本発明の詰め物の総質量を測定した後、当該詰め物から加工糸を分離して、加工糸の質量を測定する。次に、前記加工糸を構成する繊維を分離し、実施例記載の消臭性試験方法に準じて、消臭繊維を特定する。続いて、前記加工糸を採取した試料の長さの総量が1m以上となるまで抽出して、加工糸を構成する各繊維の繊度と長さを求め、加工糸における各構成繊維の質量割合を算出する。その後、前記加工糸における前記消臭繊維の質量を算出して、詰め物の総量に対する消臭繊維の質量割合を求めることができる。
【0042】
繊維Aおよび繊維Bの断面形状は、いずれの形状を有するものであってもよい。例えば、紡糸口金の吐出孔形状を変更や吐出後に糸条を接合することで、丸断面から、三角断面、Y型、偏平型、多葉型や多フィン型、中空型などにすることもできる。
【0043】
前記加工糸を構成する繊維の単繊維繊度は、0.5dtex以上であることが好ましい。当該単繊維繊度を0.5dtex以上とすることで、実使用時における糸切れ等の品位低下を抑制し、製品に加工する際の取扱性にも優れる。
【0044】
また特に、繊維Bの単繊維繊度は、1.0dtex以上であることが好ましい。当該単繊維繊度を1.0dtex以上、より好ましくは3.0dtex以上とすることで、本発明の詰め物を好適に用いることができる枕や敷パッドなどの比較的大きな荷重が継続的にかかる用途において、圧縮された状態でも繊維B同士の間隔を確保し、良好な立毛形態、ひいては優れた嵩高性を確保することができる。
【0045】
また、前記加工糸を構成する繊維の単繊維繊度は、100dtex以下であることが好ましい。当該単繊維繊度を100dtex以下とすることで、快適なクッション性や異物感の無い触感を確保することができる。
【0046】
単繊維繊度は、求めた繊維径、フィラメント数および密度から算出した値、もしくは、繊維の単位長さあたりの質量を複数回測定した単純な平均値から、10000m当たりの質量を算出した値として得ることができる。
【0047】
本発明において、繊維Aよりも相対的に長い繊維Bとが一体化された加工糸の態様としては、繊維Aと繊維Bを撚り合わせた加工糸、繊維Aに繊維Bを巻き付けて形成した芯鞘構造の加工糸、繊維Aの繊維軸に直交させるように繊維Bを差し込んで撚り合わせて一定間隔で把持した加工糸、空気等の流体を利用した流体加工によって絡合させた加工糸などが挙げられる。
【0048】
このような加工糸は、繊維Bが繊維Aよりも相対的に長いことから、繊維Bが弛みやループを形成し、芯糸となる繊維Aと繊維Bの間や、繊維Bを構成する単繊維同士の間に空隙を形成する。これにより、詰め物として優れたクッション性を発現する。特に、繊維Bがループを形成している加工糸は、繊維Bからなるループが加工糸の断面方向に掛かる圧縮に耐え、他の加工糸のループとも相互に反発し合って空隙を保持することに優れており、本発明の詰め物に用いる加工糸として、より優れたクッション性を有することから好ましい形態である。
【0049】
繊維Bは、繊維Aに巻き付きながら繊維Aに挟まれて交錯することで固定され、この固定点を起点としてループが形成され、加工糸の中心から外層に向けて放射状に立毛して形成されていることがより好ましい。これは、該ループが自立して外層に突出しているほど加工糸の嵩高性が高まり、繊維間に空隙を多く形成することにつながる。図1では、繊維B(図1中2)が繊維A(図1中1)と交錯することによってループが自立し、繊維間の空隙形成を担う嵩高構造部を構成している。
【0050】
前記加工糸はそのループの大きさが1.0mm以上であることが好ましい。ループの大きさは、加工糸の中心線(図2中3)から、ループの頂点までの距離(図2中5)で定義される。
【0051】
前記加工糸は、そのループが前記加工糸の繊維軸方向に1個/mm以上、30個/mm以下の頻度で存在することが好ましい。ループの頻度を1個/mm以上、より好ましくは2個/mm以上、さらに好ましくは5個/mm以上とすることで、単繊維間における空隙サイズを均一なものとし、クッション性、嵩高性、機能性等を均質に発揮させることができる。また、ループにかかる圧力を分散しやすくし、反発感や耐ヘタリ性を得ることができる。耐ヘタリ性を有することで、本発明の詰め物は枕や敷パッド等の寝具に好適となる。また、ループの頻度を30個/mm以下、より好ましくは20個/mm以下、さらに好ましくは15個/mm以下とすることで、過度に絡合した部分を形成することなく、ループがそれぞれ自立した構造を形成し、隣接する加工糸のループ同士での相互反発が得られやすくなる。
【0052】
前記加工糸において、ループの大きさを変化させるためには、繊維Aと繊維Bの糸長差を制御することが好ましい。
【0053】
前記加工糸において、芯糸となる繊維Aに対する繊維Bの糸長、すなわち糸長差は、3倍以上100倍以下が好ましい。糸長差を3倍以上、より好ましくは5倍以上とすることで、嵩高い加工糸となり、詰め物として用いるのに好適である。また、繊維Bに含まれる消臭繊維が単繊維レベルで開繊した状態となり、質量当たりの表面積である比表面積を有効に利用することとなり、繊維Bの消臭機能や触感を有効に作用させることができる。また、糸長差を100倍以下、より好ましくは70倍以下とすることで、芯糸の繊維Aから自立する繊維Bの長さが揃い易く、束ねて詰め物にした際に内部にできる空隙サイズが均質化できるため、繊維軸方向における加工糸の嵩高性を均質にすることができ、詰め物とした場合のクッション性と機能性を斑無く発現させ、品位を高めることができる。
【0054】
また、繊維Bとしてポリウレタン系繊維を用いる場合は、繊維Aに対する繊維Bの糸長差は、10倍以上50倍以下の範囲とすることがより好ましい。この範囲内とすることで、比較的柔軟な繊維であるポリウレタン系繊維を繊維Bとして用いても、繊維Aを中心として放射状に開繊させることができる。
【0055】
本発明の詰め物は、繊維Aと繊維Bとの間、繊維Bを構成する単繊維同士の間に空隙を有することから、加工糸を束ねた詰め物とした場合にも、詰め物の内部に適度な空隙を確保することができる。
【0056】
繊維Bを構成する単繊維の間の空隙の大きさは、10μm以上1000μm以下であることが好ましい。当該空隙の大きさが10μm以上、より好ましくは20μm以上、さらに好ましくは30μm以上であることで、本発明の詰め物において、消臭繊維の表面積を有効に利用し、かつ繊維構造体が圧縮された場合に良好に変形しクッション性を担保することができる。また、当該空隙の大きさが1000μm以下、より好ましくは700μm以下、さらに好ましくは500μm以下であることで、繊維Bからなるループ構造による隣り合った接点を増加させ、圧縮に対する回復性を高めることができる。
【0057】
単繊維間の空隙の大きさは、光学顕微鏡で二次元的に観察し、単繊維同士で囲まれた空隙部に内接円を描き、当該内接円の直径を計測することにより求めることができる。具体的には、詰め物の無作為に抽出した10箇所から試料を採取し、各試料で無作為に抽出した空隙10箇所の大きさを計測して、各試料の平均値を算出した後、全試料の単純平均値を単繊維間の空隙の大きさとする。
【0058】
前記加工糸を詰め物に使用することで、詰め物として圧縮回復を繰り返し加えられた場合にも、加工糸の形態が崩れることなく存在し、使用経時でのヘタリなどが起こることなく、良好な保温性やクッション性を維持することが可能である。また、洗濯等で湿潤状態において揉み、捻れを加えられた場合においても、加工糸を構成する繊維が脱落することなく存在することで、詰め物としての機能を良好に維持できる。
【0059】
本発明の詰め物は、加工糸を繊維巻き取りパッケージやトウ、カットファイバー、織編物等の多様な繊維構造体として使用することも可能であるが、消臭性に加えて、快適なクッション性を発現させる観点から、加工糸を束ねた状態で詰め物に含んで用いることが好ましい。
【0060】
前記加工糸を束ねる素材としては、通常の繊維素材を用いることができる。また、当該素材についても消臭繊維を含むか、消臭繊維で構成されたものである場合、詰め物として消臭繊維の割合をより高めることができるため好ましい。
【0061】
本発明の詰め物は、繊維製品において側地の内部に中綿として詰められる。
【0062】
本発明の詰め物は、消臭性に優れ、かつ洗濯や実用による圧縮等の外力を受け続けた後であっても、消臭性および快適なクッション性を持続させることが可能であり、一般衣料、スポーツ衣料、衣料資材、手袋、靴のインソール、寝具、カーペット、ソファー、クッションなどのインテリア製品、ぬいぐるみ、カーシートなどの車輌内装品、健康用品などの生活用途やフィルター、有害物質除去製品などの環境・産業資材用途等に好適に用いることができる。
【0063】
また本発明の詰め物は、洗濯の頻度が少ない製品や、洗濯が困難な形状、大きさの製品に用いることが可能であり、枕、敷布団、敷パッド等の寝具、ぬいぐるみ等の詰め物としてより好適に用いることができる。従来の枕や敷パッド等の寝具に関しては、消臭の目的で、消臭性を有する繊維で構成されたカバーが主に使用されており、カバーを洗濯することで製品表面上の悪臭は洗い落とすことが可能なものの、詰め物自体にも徐々に悪臭が蓄積し、その解消は困難である。一方、本発明の詰め物を用いた場合には、詰め物に蓄積する汗臭や加齢臭等の悪臭の発生がそもそも抑制されることに加えて、詰め物としても簡易に家庭用洗濯が可能となるので、清潔さを維持が可能となり、枕や敷パッド等とすることで、一般用から介護用までと幅広い寝具に適用できる。
【0064】
以下、本発明の詰め物を製造する方法の例を説明する。
【0065】
繊維Aおよび繊維Bを一体化させて加工糸とする方法は、繊維Aと繊維Bを撚り合わせる加工、エアー交絡ノズルによる混繊交絡加工やタスラン加工といった繊維Aと繊維Bをノズル内で交絡させる流体加工方法、ノズル外の広い空間で繊維Aの周囲に繊維Bを旋回させて絡合させる流体加工方法等のいずれの加工方法も採用することができる。
【0066】
これらの糸加工技術の中でも、本発明における好適な加工糸形態である繊維Bがループを形成した加工糸の製造方法として、サクションノズルを用いて繊維Aの周囲に繊維Bを旋回させて絡合させる流体加工方法が好適に用いることがでる。流体加工方法は、大きく分けて2つの工程からなる。第1工程が、流体により繊維Aと繊維Bとを絡合させ、繊維Bからなるループを形成させる嵩高加工工程、第2工程が、嵩高加工された加工糸を熱処理することにより、加工糸の構造固定や、各種繊維処理剤を固定する熱処理工程である。
【0067】
前記加工糸の製造方法の一例について、図3の概略工程図および図4のサクションノズルの概略側面図に基づいて説明する。
【0068】
第1工程では、原料となる合成繊維である繊維A(図3中1)、繊維B(図3中2)はニップローラなどを有した供給ローラ13により規定量引き出され、圧空の噴射が可能なサクションノズル6によって吸引される。この際、消臭繊維は、繊維Bに沿わせて供給する方法、予め繊維Bと合糸してから供給する方法等により適宜選択される方法で供給する。また、繊維Aにも消臭繊維を含む場合も同様に供給方法を適宜選択することができる。
【0069】
前記加工糸の繊維構成においては、垂直ジェット流で加工した場合、繊維Aおよび繊維Bが単繊維レベルで高度に絡合した混繊交絡となり、ループの糸切れや折れ曲がり、繊維間に空隙を形成させる点で困難な場合がある。また、消臭繊維として好適に用いられるポリウレタン系繊維においては、糸特性としてちょっとした歪みにより大きく伸長するものであるため、垂直ジェット流を受けた際にノズル内で伸長し、滞留し易い。このため、糸条の走行方向に圧縮空気を噴射する推進ジェット流を用いる糸加工が好ましい。推進ジェット流により、詰め物に使用した場合の繊維塊等の製品欠陥や、繊維Bからなるループの糸切れが抑制された加工糸を形成することが可能となる。
【0070】
また、このサクションノズル内での加工糸の撹乱、開繊を予防するという観点から、圧縮空気の噴射角度(図4中14)は、走行糸条に対して60°未満することが好ましい。当該噴射角度を60°未満、より好ましくは45°以下、さらに好ましくは20°以下とすることで、推進力を高く保ちつつ、サクションノズル内の狭い空間での撹乱、開繊を抑制し、繊維Bからなるループを安定して形成することができる。
【0071】
サクションノズルでは、ノズルから噴射する圧縮空気の流量は、供給ローラからノズルに挿入する糸条が必要最低限の張力を有し、供給ローラからノズルの間及びノズル内で糸揺れ等を起こさず安定的に走行する流量を噴射することが好ましい。この流量は、使用するサクションノズルの孔径により最適量が変化するが、糸張力を付与でき、後述するループの形成が円滑にできる範囲としては、ノズル内での気流速度が100m/s以上であることが好ましい。また、気流速度は700m/s以下が好ましく、係る範囲であれば、過剰に噴射された圧空により走行糸条が糸揺れ等を起こすことなく、糸に対して安定的にノズル内を走行させることができる。
【0072】
次に、圧縮空気が付与された糸条をノズル外で旋回させ、繊維Bからなるループを形成させる。ここでは、ノズルから噴射された後、所定の位置で供給された糸を旋回させるため、気流速度と糸速度の比(気流速度/糸速度)が100~5000となるように調整する。
【0073】
ここでの気流速度とは、サクションノズル出口から走行糸条とともに噴射された気流の速度であり、ノズル吐出口の断面積と圧縮空気の流量により制御できる。また、糸速度は、サクションノズルを出た後に、糸を引き取る引取ローラ(図3中9)の周回速度等により制御することが可能である。
【0074】
繊維Bのループを形成させるための旋回力は、気流速度と糸速度の速度比に依存して増減するため、繊維Aとの交錯点を増やし、繊維Bからなるループの固定を強くしたい場合は、この速度比を5000に近づければよい。緩慢にしたい場合には逆に100に近づければよく、本発明の加工糸を用いる用途に合わせて適宜調整すればよい。
【0075】
この旋回力が発現するのは、随伴していた気流が走行糸条を離脱した箇所である。そこで糸道を変更する旋回点7を配置する。具体的には、バーガイド等で糸道を変更することで良く、糸条を所定の速度で引き取ることにより、芯糸となる繊維Aに旋回した繊維Bが、繊維Aとの交錯で固定された点を起点にループを形成する。この旋回を起こすためのスペースを確保するため、走行糸条の旋回点は、ノズル吐出口から離れた位置にあることが好ましい。
【0076】
ここで、加工糸を製造するために適したノズル-旋回点間の距離は噴出した気流速度により変化する。気流の拡散とのバランスで適度な周期で繊維Aと繊維Bとの交錯点を形成させるために、ノズル-旋回点間の距離は、噴出気流が適度な旋回力を保つことができる1.0×10-5~1.0×10-3秒間走行する間に旋回点7が存在することが好ましく、2.0×10-5~5.0×10-4秒間走行する間に旋回点7が存在することがより好ましい。このように旋回点の位置を調整することで、繊維Aに対する繊維Bの旋回数や交錯点の周期を制御することができる。また、旋回させる繊維Bの繊度や、繊維Bの剛性等によっても旋回数や交錯点の周期を調整することができ、繊維Bのフィラメント数も含めて、適宜調整することが好ましい。
【0077】
前術の糸長差は、繊維Aおよび繊維Bの供給速度により設定することができる。
【0078】
繊維Bを供給する際に、原糸の解舒や走行時の擦過などによる糸切れを抑制する観点で、繊維Bの供給速度としては1000m/min以下とすることが好ましく、800m/min以下であることがより好ましく、600m/min以下とすることがさらに好ましい。
【0079】
繊維Bからなるループが形成された加工糸8は、引取ローラ9で引き取られる。加工糸の構造固定や、各種繊維処理剤を固定する等の目的で、一旦巻き取った後あるいは嵩高加工に引き続いて、熱処理を施すことが好ましい。
【0080】
図3においては、嵩高加工に引き続き熱処理を行う加工工程を例示している。この熱処理は、例えばヒータ10によって行うものである。熱処理温度は、加工糸を構成する繊維に使用するポリマーのうち、結晶化温度が最も低いポリマーの結晶化温度±30℃がその目安となる。この温度範囲での処理であれば、ポリマーの融点から処理温度が離れているため、加工糸を構成する繊維間で融着して硬化した箇所はなく、異物感や、触感の低減を抑制することができる。
【0081】
この熱処理工程に用いるヒータは一般的な接触式あるいは非接触式のヒータを採用することができ、熱処理前の嵩高性維持や構成繊維の劣化抑制という観点では、非接触式のヒータを使用することが好ましい。非接触式のヒータの例としては、スリット型ヒータやチューブ型ヒータ等の空気加熱式ヒータ、高温蒸気により加熱するスチームヒータ、輻射加熱を利用したハロゲンヒータやカーボンヒータ、マイクロ波ヒータ等が挙げられる。なかでも、加熱効率という観点から、輻射加熱を利用したヒータが好ましい。
【0082】
熱処理工程における加熱時間に関しては、例えば、結晶化が進み加工糸を構成する繊維の構造固定や、加工糸の形態固定および各種繊維処理剤を付与した場合の処理剤の固定が完了するための時間を考慮し、処理温度及び時間を求められる特性に応じて調整するのがよい。
【0083】
前記加工糸には、消臭性を阻害しない範囲で、風合い調整のために熱処理工程の前後においてシリコーン系油剤を付着させることもできる。ここで付着させるシリコーンは、熱処理などによって適度にシリコーンを架橋させることで、皮膜を形成させると良い。
【0084】
前記シリコーン系油剤としては、ジメチルポリシロキサン、ハイドロジエンメチルポリシロキサン、アミノポリシロキサン、エポキシポリシロキサン等が例示され、これらを単独または混合して使用できる。また、繊維表面に均一に皮膜を形成するために、シリコーン付着の目的を損なわない範囲で、分散剤、粘度調整剤、架橋促進剤、酸化防止剤、防燃剤及び静電防止剤を含有させることができる。前記シリコーン系油剤は無溶剤でも、溶液や水性エマルジョンの状態でも使用することもでき、油剤の均一付着という観点では、水性エマルジョンを使用することが好ましい。前記シリコーン系油剤は、油剤ガイド、オイリングローラまたはスプレーによる散布を利用して、質量比で嵩高糸に対して0.1~5.0%付着できるように処理することが好ましい。その後、任意の温度及び時間で乾燥し、架橋反応させることが好ましい。
【0085】
熱処理工程が完了した加工糸はデリバリーローラ11を介して速度を規制し、張力制御機能を具備したワインダ12で巻き取ればよい。この巻き形状に関しては、特に限定されるものではなく、いわゆるチーズ巻きやボビン巻きとすることが可能である。また、最終的な製品への加工を考慮して、複数本を予め合糸し、トウとすることや、そのままカセ枠に巻き取った上で、束ねて用いることも可能である。
【0086】
詰め物は繊維製品の側地に充填されることから、該加工糸を数本から数十本引き揃えて合糸する方法、カセ枠に所定長さの加工糸を所定回数巻き付けて糸束を形成する方法および巻き付ける際に所定幅の範囲で加工糸をトラバースさせながら巻き付けて幅広のシート状束とする方法が好ましく、このような束を用いることで充填時のハンドリング性、充填量調整の容易性等で優れた詰め物を提供することができる。
【実施例0087】
以下実施例を挙げて、本発明の詰め物およびその効果について具体的に説明する。
【0088】
(測定・評価方法)
(1)繊度
加工糸を、採取した試料の長さの総量が1m以上となるまで抽出して、加工糸を構成する各繊維の質量を測定し、10000mあたりに換算することで繊度を算出した。これを10回繰り返し、その平均値の小数点第1位を四捨五入した値をその繊維の繊度(dtex)とした。
【0089】
(2)糸長差
上記(1)のとおり抽出した加工糸を構成する繊維の長さを測定して、繊維Aおよび繊維Bの糸長差(繊維Bの長さ/繊維Aの長さ)を算出した。これを10回繰り返し、その平均値の小数点第1位を四捨五入した値を糸長差(倍)とした。
【0090】
(3)消臭繊維の割合
上記(1)で測定した繊度と、上記(2)で測定した糸長差から、加工糸に含まれる消臭繊維の質量割合x(%)を算出した。続いて、詰め物に含まれる前記加工糸の質量yと、詰め物の総質量zから、c=xy/z(%)として、詰め物に含まれる消臭繊維の質量割合cを算出し、小数点第1位を四捨五入した値を消臭繊維の質量割合とした。
【0091】
(4)消臭性
一般社団法人繊維評価技術協議会の定めるSEKマーク繊維製品認証基準(2021年6月1日改定版)21項に記載の消臭性試験方法に準拠し、汗臭、加齢臭、排せつ臭、タバコ臭、生ゴミ臭、アンモニア臭の全臭気カテゴリーに含まれる成分であるアンモニアを試験対象臭気成分として消臭性試験を行い、評価した。
【0092】
空試験として、50Lのビニルアルコール系ポリマーフィルム製サンプリングバッグ(ジーエルサイエンス(株)製スマートバッグPA)に、初発濃度100ppmのアンモニアガス30Lのみを充填して密封し、2時間放置後、残存ガス濃度をガス検知管にて測定して、これを空試験濃度とした。
【0093】
次に、測定に用いる試料として、詰め物500gを調整し、消臭加工していないポリエステル織物に詰め物を充填して枕を模した試料を作製した。前記試料をサンプルバックに入れ、初発濃度100ppmのアンモニアガス30Lを充填して密封し、2時間後の残存ガス濃度をガス検知管(ガステック(株)製)にて測定して、これを各試料の測定濃度とした。測定は3回行い、その平均値を用いて、下記式により、残存ガス濃度の減少率を算出して、小数点第1位を四捨五入した値を洗濯前の消臭率とした。
臭気成分の消臭率(%)=((空試験濃度-各試料の測定濃度)/空試験濃度))×100 …(式)。
【0094】
次に、SEKマーク繊維製品認証基準(2021年6月1日改定版)17項に記載の通り、JEC326「SEKマーク繊維製品の洗濯方法」に準拠し、JIS L0217:1995「繊維製品の取扱いに関する表示記号及びその表示方法」に記載の洗い方103に規定される家庭洗濯機を使用し、40℃の水30Lに対し40mLの割合でJAFET標準配合洗剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びアルファオレフィンスルホン酸ナトリウムを配合)を添加して洗濯液とし、浴比が1:30となるように、洗濯ネットに入れた試料と負荷布を投入して、5分間洗濯、脱水、2分間すすぎ洗い、脱水、2分間すすぎ洗い、脱水の工程を1回とした。これを10回繰り返した後、吊り干し乾燥を行った。この洗濯後の試料を用いて、洗濯前と同様に消臭性試験を行い、消臭率を算出して、小数点第1位を四捨五入した値を洗濯後の消臭率とした。消臭率の評価基準については、70%以上を合格とした。
【0095】
(5)クッション性(触感)
触感の評価には、上記(4)の評価に用いた枕を模した試料を使用した。この試料を静置させ、試料の上に手を添えて、体重を掛けながら圧縮した際の触感を下記の4段階で評価した。
◎:手が包まれるようなフィット感と徐々に沈み込む弾力感のある優れた風合いである。
○:フィット感と弾力感が適度に感じられる良好な風合いである。
△:フィット感または弾力感の何れかが乏しく、やや不良な風合いである。
×:フィット感も弾力感もなく、不良な風合いである。
【0096】
[実施例1]
(繊維A)
固有粘度(IV)が0.6dL/gのポリエチレンテレフタレートを290℃で溶融後、計量し、紡糸パックに流入させ、吐出孔が同心円状に配置された紡糸口金から吐出した。吐出された糸条に20℃の冷却風を30m/minの流れで片側から吹き付けて冷却固化後、紡糸油剤付与し、紡糸速度1500m/minで未延伸糸を巻き取った。巻き取った未延伸糸を90℃と140℃に加熱したローラ間で延伸速度800m/minで3.0倍延伸し、繊維PET1総繊度80dtex、フィラメント数12本の繊維糸PET1得た。PET1を繊維Aとして用いた。
【0097】
(繊維B-1)
PET1を繊維B-1としても用いた。
【0098】
(繊維B-2)
消臭繊維として、繊度22dtexのポリウレタン系繊維(東レ・オペロンテックス(株)製“ライクラ”(登録商標)ファイバーT-327C、以下「PU」。)を4本合糸して合計繊度88dtexとし、繊維B-2として用いた。
【0099】
(加工糸)
図3に示される工程において、前記繊維Aを図3中1から供給ローラ速度10m/minで供給した。また、前記繊維B-1に繊維B-2を沿わせて、図3中2から供給ローラ速度200m/minで供給した。すなわち、繊維Aが芯糸、繊維Bが鞘糸となるよう、繊維B/繊維Aの糸長差を20倍としてサクションノズルに供給した。サクションノズルでは走行糸条に対して20°で気流速度300m/sとなるように圧空を噴射し、芯糸と鞘糸がノズル内で交錯、開繊して絡合しないように随伴気流とともにノズルから噴出させた。ノズルから噴射した糸条を気流と共に走行させ、セラミックガイドを利用して糸道を変更し、鞘糸からなるループを形成した加工糸を引取ローラ速度9.5m/minで引き取った。連続して、ローラを介して該加工糸をチューブヒータに導き、140℃の加熱空気で10秒間熱処理し、加工糸の形態をセットした。該加工糸を、チューブヒータの下流側に設置された張力制御式巻取り機によりドラムに巻き取った。
【0100】
ドラムに巻き取った加工糸は、芯糸に鞘糸が旋回して巻き付いており、繊維Aからなる芯糸を軸として、芯糸との交錯点を起点に繊維Bからなる鞘糸がループを形成した旋回加工糸であり、鞘糸からなるループが突出した嵩高い構造を有していた。また、繊維Bに含まれる消臭繊維も単繊維毎に開繊してループを形成しており、ループ形成周期の均一性に優れ、消臭繊維の表面積を有効に利用できるものであった。
【0101】
(詰め物)
この加工糸に、シリコーン系油剤を、最終的なシリコーンの付着量が加工糸の質量に対して0.5%となるようにスプレーで均一に散布し、温度160℃、処理時間5分の条件で熱処理を施し、張力制御式巻取り機によりドラムに巻き取った。
【0102】
この加工糸をドラムから引き出して、綛枠に10cm幅でトラバースさせながら50g巻き付けて1束の束状とし、束の1箇所を切断して、加工糸からなる糸束を作製した。
【0103】
上記の糸束を8束作製し、さらに各糸束を半分の長さに切断して1方向に引き揃え、厚みが均一となるように成形して、次述する繊維製品の詰め物の一部とした。
【0104】
(繊維製品)
上記の加工糸からなる詰め物をポリエステル織物からなる側地内に充填し、前記詰め物の下層にポリエステルからなる粒綿100gを厚みが均一になるよう充填して、詰め物の総質量500gとした枕を模した試料を作製した。実施例1の詰め物の総質量における消臭繊維の質量割合cは41質量%であった。
【0105】
実施例1の詰め物は、洗濯前の消臭率が99%、洗濯後の消臭率が97%であり、洗濯による消臭性能の低下もほとんどなく、優れた消臭性能を持続して発揮できるものであった。また、試料の触感については、上から手で押し込んだ際に、手が包まれるようなフィット感と徐々に沈み込む弾力感のある優れた風合いを有していた。
【0106】
[実施例2]
繊維B-1にもPUを4本合糸したものを用いた以外は実施例1と同様して、加工糸、詰め物および繊維製品を作製した。
【0107】
実施例2の加工糸は、鞘糸からなるループが突出した嵩高い構造を有しており、繊維Bを全てポリウレタン系繊維としたことから、単繊維毎に開繊したループ形成周期の均一性がより優れたものであり、消臭繊維の表面積を有効に利用できるものであった。
【0108】
加工糸から糸束を作製した際、実施例2の加工糸は、鞘糸からなるループの均一性が高いことにより、綛枠への巻き付け時に引っ掛かり等もなく、工程通過性は良好であった。
【0109】
実施例2の詰め物の総質量における消臭繊維の質量割合cは78質量%であった。
【0110】
実施例2の詰め物は、洗濯前の消臭率が99%、洗濯後の消臭率が99%であり、洗濯による消臭性能の低下がなく、優れた消臭性能を持続して発揮できるものであった。また、試料の触感については、上から手で押し込んだ際に、手が包まれるようなフィット感と徐々に沈み込む弾力感があり、かつ良好な反発感も感じられる優れた風合いを有していた。
【0111】
[実施例3]
加工糸の製造工程において繊維Aの供給ローラ速度を10m/min、繊維Bの供給ローラ速度を50m/minとし、すなわち繊維B/繊維Aの糸長差を5倍としてサクションノズルに供給した以外は実施例1と同様にして、加工糸、詰め物および繊維製品を作製した。
【0112】
実施例3の加工糸は、実施例1と比較してループの数が少なく、サイズも小さかったが、鞘糸からなるループは突出しており、加工糸間における空隙の確保が可能なものであった。
【0113】
実施例3の詰め物の総質量における消臭繊維の質量割合cは38質量%であった。
【0114】
実施例3の詰め物は、洗濯前の消臭率86%、洗濯後の消臭率82%であり、洗濯による消臭性能の低下が少なく、良好な消臭性能を持続して発揮できるものであった。また、試料の触感については、上から手で押し込んだ際に、手が包まれるようなフィット感と、弾力感を適度に感じられる良好な風合いを有していた。
【0115】
[実施例4]
加工糸の製造工程において繊維Aの供給ローラ速度を10m/min、繊維Bの供給ローラ速度を300m/minとし、すなわち繊維B/繊維Aの糸長差を30倍としてサクションノズルに供給した以外は実施例1と同様にして、加工糸、詰め物および繊維製品を作製した。
【0116】
実施例4の加工糸は、鞘糸からなるループが突出しており、実施例1と比較してループのサイズが大きく、加工糸1本でも嵩高いものであった。
【0117】
実施例4の詰め物の総質量における消臭繊維の質量割合cは41質量%であった。
【0118】
実施例4の詰め物は、洗濯前の消臭率が99%、洗濯後の消臭率が96%であり、洗濯による消臭性能の低下がほとんどなく、優れた消臭性能を持続して発揮できるものであった。また、試料の触感については、上から手で押し込んだ際に、抵抗が少なく柔軟に変形する部分が多いことで手が包まれるようなフィット感に優れ、かつ徐々に沈み込む弾力感があり、優れた風合いを有していた。
【0119】
[実施例5]
(加工糸)
繊維B-2としてPUの本数を1本とした以外は実施例1と同様にして、加工糸を作製した。
【0120】
実施例5の加工糸は、鞘糸からなるループが突出した嵩高い構造を有しており、消臭繊維はPET1に絡まないように開繊してループを形成しており、消臭繊維の表面積を有効に利用できるものであった。
【0121】
(詰め物)
この加工糸に、実施例1と同様にシリコーン系油剤を付与して熱処理を施し、張力制御式巻取り機によりドラムに巻き取った。
【0122】
この加工糸をドラムから引き出して、実施例1と同様に綛枠に50g巻き付けて1束の束状とし、束の1箇所を切断して、加工糸からなる糸束を作製した。
【0123】
上記の糸束を6束作製し、さらに各糸束を半分の長さに切断して1方向に引き揃えて、厚みが均一となるように成形して、次述する繊維製品の詰め物の一部とした。
【0124】
(繊維製品)
上記の加工糸からなる詰め物をポリエステル織物からなる側地内に充填し、前記詰め物の下層にポリエステルからなる粒綿200gを厚みが均一になるよう充填して、詰め物の総質量500gとした枕を模した試料を作製した。実施例5の詰め物の総質量における消臭繊維の質量割合cは12質量%であった。
【0125】
実施例5の詰め物は、洗濯前の消臭率が74%、洗濯後の消臭率が70%であり、消臭繊維の質量割合が少なかったため、消臭性能は低めとなったが、洗濯後においても消臭率の基準を満たす性能を維持できるものであった。また、試料の触感については、上から手で押し込んだ際に、手が包まれるようなフィット感と、弾力感が適度に感じられる良好な風合いを有していた。
【0126】
[実施例6]
(繊維A)
PUを8本合糸して繊維Aとした。
【0127】
(繊維B-1)
PUを4本合糸して繊維B-1とした。
【0128】
(繊維B-2)
PUを4本合糸して繊維B-2とした。
【0129】
(加工糸)
上記の繊維A、繊維B-1および繊維B-2を用い、引取ローラ速度を8.5m/minとした以外は実施例1と同様にして、加工糸を作製した。
【0130】
実施例6の加工糸は、実施例2の加工糸と同様に、鞘糸からなるループが突出した嵩高い構造を有し、単繊維毎に開繊したループ形成周期の均一性に優れたものであり、消臭繊維の表面積を有効に利用できるものであった。
【0131】
(詰め物)
この加工糸に、実施例1と同様にシリコーン系油剤を付与して熱処理を施し、張力制御式巻取り機によりドラムに巻き取った。
【0132】
この加工糸をドラムから引き出して、実施例1と同様に綛枠に50g巻き付けて1束の束状とし、束の1箇所を切断して、加工糸からなる糸束を作製した。この際、実施例6の加工糸は、芯糸の繊維Aがポリウレタン系繊維であるため、綛枠へ巻き付けて束を切断した際に引出し時張力が解放されて糸束の収縮が発生した。この収縮により、加工糸間の空隙がさらに拡大し、糸束として嵩高性が高いものとなった。
【0133】
上記の糸束を10束作製し、さらに各糸束を半分の長さに切断して1方向に引き揃えて、厚みが均一となるように成形して、次述する繊維製品の詰め物の一部とした。
【0134】
(繊維製品)
上記の加工糸からなる詰め物をポリエステル織物からなる側地内に充填して詰め物の総質量500gとした枕を模した試料を作製した。実施例6の詰め物の総質量における消臭繊維の質量割合cは100質量%とした。
【0135】
実施例6の詰め物は、洗濯前の消臭率が99%、洗濯後の消臭率が99%であり、洗濯による消臭性能の低下がなく、優れた消臭性能を持続して発揮できるものであった。また、試料の触感については、上から手で押し込んだ際に、手が包まれるようなフィット感と徐々に沈み込む弾力感があり、かつ良好な反発感も感じられる優れた風合いを有していた。
【0136】
[実施例7]
(繊維B-2)
IVが0.6dL/gのポリエチレンテレフタレートを80質量部に無機消臭剤としてリン酸ジルコニウムを20質量部混合して、押出機に供給し、溶融混錬してマスターバッチ樹脂ペレットを作製した。次に、IVが0.6dL/gのポリエチレンテレフタレートと前記マスターバッチ樹脂ペレットとを9:1の質量比で混合して、押出機に供給し、290℃で溶融後、計量し、紡糸パックに流入させ、吐出孔が同心円状に配置された紡糸口金から吐出した。
【0137】
吐出された糸条に20℃の冷却風を30m/minの流れで片側から吹き付けて冷却固化後、紡糸油剤付与し、紡糸速度1500m/minで未延伸糸を巻き取った。巻き取った未延伸糸を90℃と140℃に加熱したローラ間で延伸速度800m/minで3.0倍延伸し、総繊度80dtex、フィラメント数12本の繊維糸PET2を得た。PET2を繊維B-2として用いた。
【0138】
(加工糸、詰め物および繊維製品)
上記の繊維B-2を用いた以外は実施例1と同様にして、加工糸、詰め物および繊維製品を作製した。
【0139】
実施例7の加工糸は、鞘糸からなるループが突出した嵩高い構造を有していた。また、繊維Bは単繊維毎に開繊してループを形成しており、ループ形成周期の均一性に優れ、消臭繊維の表面積を有効に利用できるものであった。
【0140】
実施例7の詰め物の総質量における消臭繊維の質量割合cは39質量%であった。
【0141】
実施例7の詰め物は、洗濯前の消臭率が91%、洗濯後の消臭率が87%であり、洗濯による消臭性能の低下が少なく、優れた消臭性能を持続して発揮できるものであった。また、試料の触感については、上から手で押し込んだ際に、手が包まれるようなフィット感と徐々に沈み込む弾力感があり、良好な風合いを有していた。
【0142】
[実施例8]
(繊維A)
PET1を繊維Aとして用いた。
【0143】
(繊維B-1)
PUを4本合糸したものを繊維B-1として用いた。
【0144】
(繊維B-2)
PUを4本合糸したものを繊維B-2として用いた。
【0145】
(加工糸)
図3に示される工程において、繊維Aを図3中1から供給ローラ速度5m/minで供給した。また、繊維B-1および繊維B-2を合わせて、図3中2から供給ローラ速度20m/minで供給した。すなわち、繊維Aが芯糸、繊維Bが鞘糸となるよう、繊維B/繊維Aの糸長差を4倍としてタスランノズルに供給し、圧空圧力0.4MPaで加工を行い、ドラムに巻き取ってタスラン加工糸を得た。
【0146】
実施例8で得られたタスラン加工糸は、繊維Bがループおよび弛みを形成していたものの、繊維A近傍に繊維Bが多く存在しており、加工糸外側に突出するループの数は、10mmあたりで6個程度と少なく、ループのサイズについては、ほとんどが1mm以下の小さいものであった。また、ループや弛みを形成する繊維Bおよび消臭繊維の一部に破断箇所があり、切れた糸端が突出した部分もあった。
【0147】
(詰め物および繊維製品)
上記の加工糸を用いた以外は実施例1と同様にして、詰め物および繊維製品を作製した。
【0148】
実施例8の詰め物の総質量における消臭繊維の質量割合cは72質量%であった。
【0149】
実施例8の詰め物は、洗濯前の消臭率が84%、洗濯後の消臭率が79%であり、洗濯による消臭性能の低下が少なく、良好な消臭性能を持続して発揮できるものであった。また、試料の触感については、上から手で押し込んだ際に、手が包まれるようなフィット感と、弾力感を適度に感じられる良好な風合いを有していた。
【0150】
[実施例9]
(繊維A)
2本のPET1を、モール糸の芯糸および押さえ糸とする繊維Aとして用いた。
【0151】
(繊維B-1)
PET1を繊維B-1として用いた。
【0152】
(繊維B-2)
PET2を繊維B-2として用いた。
【0153】
(融着糸)
ポリアミド系融着繊維(共重合ポリアミド繊維、東レ社製商品名“エルダー”22T-10f)を融着糸として用いた。
【0154】
(加工糸)
公知のモール撚糸機を用い、芯糸(繊維AのPET1のうち1本)および押さえ糸(繊維AのPET1のうちの他の1本)の供給速度と、繊維B-1繊維B-2とを引き揃えて供給した花糸との供給速度の比を1:15として、花糸をフライヤー部に供給し、押さえ糸に融着糸を添わせて芯糸と押さえ糸を供給した。花糸を下端部の幅長さ20mmのガイド片に巻き付け、カッターで花糸をカットして芯糸と押さえ糸の間に花糸を挟み込み、撚り合わせ、スピンドルで巻き取った。続いて、前記モール糸を綛巻き機にて100g毎に綛状に巻き取り、綛掛け棒に前記綛を引っ掛けて吊るした状態で、98℃×20分の加圧スチーム処理を行い、融着糸を溶融させて花糸を融着固定したモール糸を得た。
【0155】
実施例9のモール糸においては、繊維Bはループを形成しておらず、また、実施例1の旋回加工糸と比較して繊維Bの開繊は不十分であった。
【0156】
(詰め物)
上記の綛の一箇所を切断して、モール糸からなる糸束を作製した。
【0157】
上記モール糸からなる糸束を4本作製し、さらに各糸束を半分の長さに切断して1方向に引き揃えて、厚みが均一となるように成形して、次述する繊維製品の詰め物の一部とした。
【0158】
(繊維製品)
上記の加工糸からなる詰め物をポリエステル織物からなる側地内に充填し、前記詰め物の下層にポリエステルからなる粒綿100gを厚みが均一になるよう充填して、詰め物の総質量500gとした枕を模した試料を作製した。実施例9の詰め物の総質量における消臭繊維の質量割合cは38質量%であった。
【0159】
実施例9の詰め物は、洗濯前の消臭率が81%、洗濯後の消臭率が75%であり、洗濯による消臭性能の低下が少なく、良好な消臭性能を持続して発揮できるものであった。また、試料の触感については、上から手で押し込んだ際に、手が包まれるようなフィット感は感じられたが、弾力感に劣るものであった。
【0160】
[比較例1]
繊維A、繊維B-1および繊維B-2をそれぞれPET1で構成した以外は実施例1と同様にして、加工糸、詰め物および繊維製品を作製した。
【0161】
比較例1の加工糸は、鞘糸からなるループが突出した嵩高い構造を有していた。また、繊維Bは単繊維毎に開繊してループを形成しており、ループ形成周期の均一性に優れていた。
【0162】
比較例1は、消臭繊維を含んでいないため、詰め物の総質量における消臭繊維の質量割合cは0質量%である。
【0163】
比較例1の詰め物は、洗濯前の消臭率が20%、洗濯後の消臭率が16%であり、繊維Bの表面積が大きいことにより、臭気成分が吸着されて減少したと推測されるが、消臭率の基準に対して不合格であった。また、試料の触感については、上から手で押し込んだ際に、手が包まれるようなフィット感と徐々に沈み込む弾力感があり、良好な風合いを有していた。
【0164】
【表1】
【符号の説明】
【0165】
1 繊維A(芯糸)
2 繊維B(鞘糸)
3 加工糸中心線
4 糸道ガイド
5 加工糸中心線からループ頂点までの距離
6 サクションノズル
7 旋回点
8 加工糸
9 引取ローラ
10 ヒータ
11 デリバリーローラ
12 ワインダ
13 供給ローラ
14 圧空の噴射角度
図1
図2
図3
図4