(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094772
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】歯科用組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 6/76 20200101AFI20240703BHJP
A61K 6/887 20200101ALI20240703BHJP
【FI】
A61K6/76
A61K6/887
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211536
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】村山 亮太
(72)【発明者】
【氏名】野尻 大和
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA10
4C089BA13
4C089BC02
4C089BC03
4C089BC08
4C089BC12
4C089BD01
4C089BD03
4C089BD06
4C089BD10
4C089BE01
4C089BE03
4C089BE06
4C089CA07
4C089CA08
(57)【要約】
【課題】
本発明は、硬化物の薄膜化と、硬化物の高い機械的強度とを両立できる歯科用組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】歯科用組成物の製造方法であって、歯科用組成物が、重合性単量体(A)、及び平均一次粒子径が0.001μm以上1μm未満であるフィラー(B)を含み、
フィラー(B)の含有量が、重合性単量体(A)の全量100質量%に対して3~25質量%であり、重合性単量体(A)を含む重合性単量体含有組成物(P0)とフィラー(B)を混合して重合性単量体含有組成物(P0)を得る工程〔1〕と、当該重合性単量体含有組成物(P0)と、重合性単量体(A)を含む重合性単量体含有組成物(P2)を混合する工程〔2〕を含み、重合性単量体含有組成物(P0)の粘度P0n[cP]と、重合性単量体含有組成物(P2)の粘度P2n[cP]が、P0n>P2nの関係を満たす、歯科用組成物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用組成物の製造方法であって、
歯科用組成物が、重合性単量体(A)、及び平均一次粒子径が0.001μm以上1μm未満であるフィラー(B)を含み、
フィラー(B)の含有量が、重合性単量体(A)の全量100質量%に対して3~25質量%であり、
重合性単量体(A)を含む重合性単量体含有組成物(P0)とフィラー(B)を混合して重合性単量体含有組成物(P1)を得る工程〔1〕と、
当該重合性単量体含有組成物(P1)と、重合性単量体(A)を含む重合性単量体含有組成物(P2)を混合する工程〔2〕を含み、
重合性単量体含有組成物(P0)の粘度P0n[cP]と、重合性単量体含有組成物(P2)の粘度P2n[cP]が、P0n>P2nの関係を満たす、歯科用組成物の製造方法。
【請求項2】
P0n/P2n=3~2000である、請求項1に記載の歯科用組成物の製造方法。
【請求項3】
前記重合性単量体含有組成物(P1)におけるフィラー(B)の濃度が、工程〔1〕における重合性単量体(A)とフィラー(B)の合計100質量%に対して5質量%以上50質量%未満である、請求項1又は2に記載の歯科用組成物の製造方法。
【請求項4】
前記重合性単量体含有組成物(P0)の粘度P0nが230~5000cPである、請求項1~3のいずれか1項に記載の歯科用組成物の製造方法。
【請求項5】
前記重合性単量体含有組成物(P2)の粘度P2nが、0.5~150cPである、請求項1~4のいずれか1項に記載の歯科用組成物の製造方法。
【請求項6】
前記重合性単量体含有組成物(P0)が、重合性単量体(A)として2種以上の重合性単量体を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の歯科用組成物の製造方法。
【請求項7】
前記フィラー(B)が、無機フィラーである、請求項1~6のいずれか1項に記載の歯科用組成物の製造方法。
【請求項8】
歯科用組成物が、重合開始剤(C)をさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の歯科用組成物の製造方法。
【請求項9】
前記重合開始剤(C)が光重合開始剤である、請求項8に記載の歯科用組成物の製造方法。
【請求項10】
前記工程〔2〕以降に、水(E)及び/又は有機溶媒(F)を混合する工程をさらに含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の歯科用組成物の製造方法。
【請求項11】
前記歯科用組成物が歯科用接着性組成物である、請求項1~10のいずれか1項に記載の歯科用組成物の製造方法。
【請求項12】
前記歯科用接着性組成物が1液型歯科用接着性組成物である、請求項11に記載の歯科用組成物の製造方法。
【請求項13】
重合性単量体(A)、平均一次粒子径が0.001~1μmのフィラー(B)、重合開始剤(C)、及び有機溶媒(F)を含む、歯科用組成物であって、
前記重合性単量体(A)が2種以上の重合性単量体を含み、
有機溶媒(F)が揮発性有機溶媒を含み、
フィラー(B)の含有量が、重合性単量体(A)の全量100質量%に対して3~25質量%であり、
粘度が100cP以下であり、
前記歯科用組成物から揮発性有機溶媒を揮発させて、重合硬化させて得られる2mm×2mm×25mmの硬化物を37℃の蒸留水中に24時間浸漬した後の曲げ強さが110MPa以上である、歯科用組成物。
【請求項14】
前記重合性単量体(A)として、酸性基を有する重合性単量体(A-1)を含む、請求項13に記載の歯科用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重合性単量体、フィラー及び揮発性有機溶媒を含有する組成物が歯科用途に用いられており、主として歯科用プライマー、歯科用ボンディング材、歯科用コーティング材等の歯科材料として使用されている。
【0003】
上記歯科材料の使用方法としては、いずれも筆又はブラシにより歯質又は歯科修復材の表面に塗布され、エアブローによって揮発性有機溶媒の大部分が除去された後に、当該歯科材料内や併用する他の歯科材料に含有される重合開始剤による重合反応により硬化される。そして、最終的には1mm以下の薄膜として形成される。
したがって、上記歯科材料に用いられる組成物は、筆又はブラシでの塗布及びエアブローによる揮発性有機溶媒の除去が容易となるために、低粘度であることが望まれる。
【0004】
歯科用組成物を低粘度にするための製造方法として、例えば、特許文献1~3が提案されている。
特許文献1には、重合性単量体全量とフィラーを先に分散した後に溶媒を加える製造方法が開示されている。
特許文献2には、重合性単量体全量を撹拌後に分け、小分けにした重合性単量体含有組成物とフィラーを先に分散、後に残りの重合性単量体を加える製造方法が開示されている。
特許文献3には、重合性組成物の粘度をコントロールする製造方法として、重合性単量体全量とフィラーとを撹拌羽根を用いて分散後、撹拌容器を自転公転させて分散させる製造方法が開示されている。
【0005】
ところで近年、歯科用組成物の多用途化が進み、コーティング用途で使用できる1液型の歯科用ボンディング材が求められるようになってきた。例えば、露出根面のコーティング用途では、ボンディング材層の硬化物が最表面に露出するため、特に硬化物が高強度であることが求められる。
他方、間接修復における印象取得前の窩洞コーティング用途においては、その後の印象取得や仮着材除去時の物理的刺激に耐えうるように、ボンディング材層の硬化物が高強度であることに加え、間接修復終了後のマージン部のボンディング材層の厚みがあると、歯質に対して補綴物が浮き上がった状態での接着が懸念されることから、薄膜にできること、すなわちエアブロー開始から終了に至るまでのボンディング材の粘度が低いことが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-012314号公報
【特許文献2】国際公開第2021/132707号
【特許文献3】特開2013-014690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1、2、3に記載されているような組成物は、ある程度の低粘度化はできているものの、窩洞コーティング用途での使用は想定されていないため、窩洞コーティング用途において薄膜として使用するためには、前記高強度及び低粘度の観点でさらなる改善の余地があった。
歯科用組成物を低粘度化する方法としてフィラーを低減する、溶媒を増量する、低粘度の重合性単量体を増量する等が考えられるが、そのような組成変更を行った場合、顕著に硬化物の強度が低下してしまうという課題があった。
【0008】
上記のように、従来技術では、コーティング用途(特に窩洞コーティング用途)を想定した薄膜化を達成できるほどの低粘度化と、硬化物の高い機械的強度の両立はなされていなかった。
平均粒子径が1μm未満(特に平均粒子径が0.2μm以下)のフィラーを用いる歯科用組成物の場合、組成物中においてフィラーが凝集しやすい傾向にある。
そのため、歯科用組成物の用途によっては問題とならない場合もあるものの、特に窩洞コーティング用途において、窩洞内を当該組成物でコーティングし、次いでエアブローして揮発成分を揮発させつつ、コーティング層の厚さが補綴物の浮き上がりを起こさないように薄膜化する際には課題があった。すなわち、低粘度化を目的とした特許文献1~3においても窩洞コーティング用途に対応した十分な薄膜化には改善の余地があった。
以上のように、低粘度化を目的とした特許文献1~3においても、コーティング用途を想定した低粘度化と、硬化物の高い機械的強度の両立は達成できていなかった。
加えて、単に低粘度化のために、上記のように組成を変更すると、組成物としての低粘度化と、硬化物の高い機械的強度を両立できないという困難性が存在していた。
【0009】
そこで本発明は、硬化物の薄膜化と、硬化物の高い機械的強度とを両立できる歯科用組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、高粘度の重合性単量体含有組成物とフィラーを先に分散させた後、低粘度の重合性単量体含有組成物を加えることで、硬化物の強度を維持しつつより低粘度な歯科用組成物が得られることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0011】
本発明は、以下の発明を包含する。
[1]歯科用組成物の製造方法であって、
歯科用組成物が、重合性単量体(A)、及び平均一次粒子径が0.001μm以上1μm未満であるフィラー(B)を含み、
フィラー(B)の含有量が、重合性単量体(A)の全量100質量%に対して3~25質量%であり、
重合性単量体(A)を含む重合性単量体含有組成物(P0)とフィラー(B)を混合して重合性単量体含有組成物(P1)を得る工程〔1〕と、
当該重合性単量体含有組成物(P1)と、重合性単量体(A)を含む重合性単量体含有組成物(P2)を混合する工程〔2〕を含み、
重合性単量体含有組成物(P0)の粘度P0n[cP]と、重合性単量体含有組成物(P2)の粘度P2n[cP]が、P0n>P2nの関係を満たす、歯科用組成物の製造方法。
[2]P0n/P2n=3~2000である、[1]に記載の歯科用組成物の製造方法。
[3]前記重合性単量体含有組成物(P1)におけるフィラー(B)の濃度が、工程〔1〕における重合性単量体(A)とフィラー(B)の合計100質量%に対して5質量%以上50質量%未満である、[1]又は[2]に記載の歯科用組成物の製造方法。
[4]前記重合性単量体含有組成物(P0)の粘度P0nが230~5000cPである、[1]~[3]のいずれかに記載の歯科用組成物の製造方法。
[5]前記重合性単量体含有組成物(P2)の粘度P2nが、0.5~150cPである、[1]~[4]のいずれかに記載の歯科用組成物の製造方法。
[6]前記重合性単量体含有組成物(P0)が、重合性単量体(A)として2種以上の重合性単量体を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の歯科用組成物の製造方法。
[7]前記フィラー(B)が、無機フィラーである、[1]~[6]のいずれかに記載の歯科用組成物の製造方法。
[8]歯科用組成物が、重合開始剤(C)をさらに含む、[1]~[7]のいずれかに記載の歯科用組成物の製造方法。
[9]前記重合開始剤(C)が光重合開始剤である、[8]に記載の歯科用組成物の製造方法。
[10]前記工程〔2〕以降に、水(E)及び/又は有機溶媒(F)を混合する工程をさらに含む、[1]~[9]のいずれかに記載の歯科用組成物の製造方法。
[11]前記歯科用組成物が歯科用接着性組成物である、[1]~[10]のいずれかに記載の歯科用組成物の製造方法。
[12]前記歯科用接着性組成物が1液型歯科用接着性組成物である、[11]に記載の歯科用組成物の製造方法。
[13]重合性単量体(A)、平均一次粒子径が0.001~1μmのフィラー(B)、重合開始剤(C)、及び有機溶媒(F)を含む、歯科用組成物であって、
前記重合性単量体(A)が2種以上の重合性単量体を含み、
有機溶媒(F)が揮発性有機溶媒を含み、
フィラー(B)の含有量が、重合性単量体(A)の全量100質量%に対して3~25質量%であり、
粘度が100cP以下であり、
前記歯科用組成物から揮発性有機溶媒を揮発させて、重合硬化させて得られる2mm×2mm×25mmの硬化物を37℃の蒸留水中に24時間浸漬した後の曲げ強さが110MPa以上である、歯科用組成物。
[14]前記重合性単量体(A)として、酸性基を有する重合性単量体(A-1)を含む、[13]に記載の歯科用組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、硬化物の薄膜化と、硬化物の高い機械的強度とを両立できる歯科用組成物の製造方法を提供できる。
また、本発明によれば、得られた歯科用組成物をコーティング用途(特に窩洞コーティング用途)に用いた場合にも、十分に薄膜化できるとともに、薄膜化した硬化物が高い機械的強度を有する歯科用組成物の製造方法を提供できる。
さらに、本発明の製造方法では、歯科用組成物の粘度を低粘度化できるため、特許文献3のように、撹拌容器を自転させつつ、公転させる複雑な混練が不要であり、簡便に、硬化物の薄膜化と、硬化物の高い機械的強度とを両立できる歯科用組成物を提供でき、工業的に有利である。
また、本発明の歯科用組成物によれば、特に、薄膜化できるため、コーティングに厚さがあるとコーティング層の上に配置された歯科用補綴物が浮き上がりやすい隅角部にコーティング層を形成した際にも、歯科用補綴物の浮き上がりの発生を抑制できる。
さらに、本発明の歯科用組成物によれば、窩洞コーティング用途において、印象取得や仮着材除去時の物理的刺激に耐えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書において、数値範囲(各成分の含有量、各成分から算出される値及び各物性等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。
また、各実施形態は、本発明の効果を妨げない限り、適宜組み合わせることができる。
【0014】
本発明に係る歯科用組成物の製造方法は、重合性単量体含有組成物(P0)とフィラー(B)を混合して重合性単量体含有組成物(P1)を得る工程〔1〕と、当該重合性単量体含有組成物(P1)と重合性単量体含有組成物(P2)を混合する工程〔2〕を含み、重合性単量体含有組成物(P0)の粘度P0n[cP]と、重合性単量体含有組成物(P2)の粘度P2n[cP]が、P0n>P2nの関係を満たす、歯科用組成物の製造方法である。
【0015】
本発明の歯科用組成物の製造方法では、高粘度の重合性単量体含有組成物(P0)中で平均一次粒子径が0.001μm以上1μm未満であるフィラー(B)(以下、単に「フィラー(B)」とも称する。)を先に分散させて重合性単量体含有組成物(P1)を得た後、重合性単量体含有組成物(P0)より低粘度の重合性単量体含有組成物(P2)と、当該重合性単量体含有組成物(P1)とを混合することで、硬化物の高い機械的強度を維持しつつ、歯科用組成物全体としては、従来技術に比べてより低粘度な歯科用組成物が得られる。
【0016】
本発明の製造方法により前記した優れた効果が奏される理由は必ずしも明らかではないが、以下のように推定される。
高粘度の重合性単量体含有組成物と微粒子フィラーであるフィラー(B)とを先に混合することによりフィラー(B)が組成物中において高粘度状態で撹拌される。その結果、フィラー(B)が十分に分散された重合性単量体含有組成物(P1)を得ることができる。
高粘度の組成物中でフィラー(B)が分散された場合、もともと凝集状態にあるフィラーが組成物の高い粘性中であると強いせん断力がかかり、十分に分散されるため、重合性単量体全量にフィラー(B)を分散したときよりも、凝集が少ない重合性単量体含有組成物(P1)を得ることができる。
さらに、調製された重合性単量体含有組成物(P1)と、重合性単量体含有組成物(P1)の原料である重合性単量体含有組成物(P0)に比べると粘度が低い重合性単量体含有組成物(P2)とを混合した場合には、コーティングした際に薄膜のコーティング層を形成できるほど歯科用組成物全体としての粘度を低下できるものの、フィラー(B)が既に十分に分散された状態にあるため、両者の混合後に凝集体を形成するほど組成物中でのフィラーの移動が進まず、フィラー(B)が十分に分散された状態を維持できるものと考えられる。
粘度が低い重合性単量体含有組成物(P2)の代わりに、揮発性有機溶媒を使用する特許文献1では、揮発性有機溶媒は臨床的な使用時において、エアブローを行うことで使用時に歯科用組成物に含まれる水及び揮発性有機溶媒を蒸発させることから、揮発性有機溶媒が存在しなくなった状態の歯科用組成物としては、粘度が下がっていないことになるため、コーティング用途(特に窩洞コーティング用途)に対応して必要となる低粘度化は実現できていなかった。
上記のように、フィラー(B)の分散に用いる重合性単量体を、少なくとも高粘度の重合性単量体含有組成物(P0)と、低粘度の重合性単量体含有組成物(P2)とを別々に製造した上で、先に、高粘度の重合性単量体含有組成物(P0)を用いて、フィラー(B)が十分に分散され、凝集度が低い状態とした重合性単量体含有組成物(P1)を調製することによって、後から、より低粘度の重合性単量体含有組成物(P2)とともに混合した場合にも、フィラー(B)が十分に分散された状態を維持することができる。
そのため、重合性単量体全量に微粒子フィラーを一括して分散させた時と比較して、歯科用組成物全体としてはより低粘度化できるとともに、硬化物の機械的強度は、フィラーの含有率に大きく依存するため、従来技術に比べて同程度の含有率とすることによって組成物としての粘度を低下させつつ、硬化物の高い機械的強度を両立できたものと考えられる。
【0017】
これに対して、従来技術では、微粒子フィラーの分散に用いる重合性単量体を、高粘度の重合性単量体含有組成物と、低粘度の重合性単量体含有組成物に分けるという技術的思想さえ存在しておらず、組成物としての低粘度化と、硬化物の高い機械的強度を両立できていなかった。
【0018】
本発明の製造方法において、重合性単量体含有組成物(P0)は、重合性単量体(A)を含有する。重合性単量体含有組成物(P0)は、フィラー(B)を含有しないことが好ましい。
重合性単量体含有組成物(P0)は、1種の重合性単量体のみを含むものであってもよいが、2種以上の重合性単量体を含む重合性単量体混合物(M0)を用いてもよい。
2種以上の重合性単量体を含むことで、粘度を調整するのが容易になる。
重合性単量体含有組成物(P0)は、後述する酸性基を有する重合性単量体(A-1)を少なくとも1種、及び/又は後述する酸性基を有しない重合性単量体(A-2)を少なくとも1種含むことにより、2種以上の重合性単量体を含むものが好ましい。
また、重合性単量体含有組成物(P0)は、重合開始剤(C)及び/又は重合促進剤(D)を含んでいてもよい。
ある実施形態において、例えば、重合開始剤(C)及び重合促進剤(D)を含まない場合、重合性単量体のみからなる重合性単量体混合物(M0)をそのまま重合性単量体含有組成物(P0)として使用してもよい。
重合性単量体含有組成物(P0)は、粘度を高く調整するのが容易になる点から、水(E)及び有機溶媒(F)を含まないことが好ましい。
【0019】
重合性単量体含有組成物(P0)に含まれる重合性単量体の合計含有量は、最終的に得られる歯科用組成物に含まれる重合性単量体(A)の全量100質量%中、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。
また、重合性単量体含有組成物(P0)に含まれる重合性単量体の合計含有量は、最終的に得られる歯科用組成物に含まれる重合性単量体(A)の全量100質量%中、95質量%以下であることが好ましく、93質量%以下であることがより好ましく、90質量%以下であることがさらに好ましい。
本明細書において、「重合性単量体(A)の全量100質量%」は、すべての成分を混合して最終的に得られる歯科用組成物に含まれる重合性単量体(A)の全量100質量%を意味する。
【0020】
重合性単量体含有組成物(P2)に含まれる重合性単量体の合計含有量は、組成物を低粘度化させつつ、フィラー(B)が十分に分散された状態を維持することができ、硬化物の高い機械的強度を維持できる点から、重合性単量体(A)の全量100質量%中、5質量%以上であることが好ましく、7質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。
また、重合性単量体含有組成物(P2)に含まれる重合性単量体の合計含有量は、重合性単量体(A)の全量100質量%中、80質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましい。
【0021】
ある好適な実施形態としては、重合性単量体含有組成物(P0)に含まれる重合性単量体の合計含有量と、重合性単量体含有組成物(P2)に含まれる重合性単量体の合計含有量との比率P0/P2が、P0/P2>1である、歯科用組成物の製造方法が挙げられる。
重合性単量体の合計含有量について、P0/P2が1以上である場合、重合性単量体含有組成物(P1)と重合性単量体含有組成物(P2)とのなじみがよくなり、フィラー(B)が既に十分に分散された状態を最終組成物まで維持しやすくなる。
さらに、重合性単量体の合計含有量の比率P0/P2について、1.2以上であることがより好ましく、1.5以上であることがさらに好ましい。
【0022】
重合性単量体含有組成物(P0)とフィラー(B)を混合して重合性単量体含有組成物(P1)を得る工程〔1〕におけるフィラー(B)の配合量は、最終的に得られる歯科用組成物に含まれるフィラー(B)の全量100質量%に対して、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることがさらに好ましい。
本明細書において、「フィラー(B)の全量100質量%」は、すべての成分を混合して最終的に得られる歯科用組成物に含まれるフィラー(B)の全量100質量%を意味する。
【0023】
重合性単量体含有組成物(P0)とフィラー(B)との混合は、特に限定されず、公知の混合撹拌方法を使用できる。例えば、市販の混練機(例えば、撹拌羽根を備えたモーター(株式会社SMT製、商品名「HIGH-FLEX DISPENSER HG-92」))を使用することができる。
混合撹拌する際の撹拌速度は、フィラー(B)が十分に分散された状態を維持できる限り限定されず、1000~18000rpmであってもよい。
混合撹拌する際の撹拌時間は、フィラー(B)が十分に分散された状態を維持できる限り限定されず、10分~10時間であってもよい。
【0024】
重合性単量体含有組成物(P0)の粘度P0n[cP]は、撹拌装置への負荷や発熱による組成物の劣化の観点及び工程〔2〕と合わせて組成物を低粘度化させつつ、フィラー(B)が十分に分散された状態を維持できる点から、5000cP以下であることが好ましく、4000cP以下であることがより好ましく、3000cP以下であることがさらに好ましい。
また、フィラー(B)が十分に分散された状態を維持できるように、フィラー(B)の分散効率の観点から、粘度P0nは、230cP以上であることが好ましく、500cP以上であることがより好ましく、1000cP以上であることがさらに好ましい。
本明細書において、粘度は、JIS K 5600-2-3:2014(コーン・プレート粘度法)に準拠した方法で測定できる。
粘度の測定方法の具体例は、後記する実施例に記載のとおりである。
【0025】
本発明の製造方法において、重合性単量体含有組成物(P2)は、重合性単量体(A)を含有する。
重合性単量体含有組成物(P2)は、1種の重合性単量体のみを含むものであってもよいが、2種以上の重合性単量体を含んでいてもよい。2種以上の重合性単量体を含むことで、粘度を調整するのが容易になる。
重合性単量体含有組成物(P2)は、後述する酸性基を有する重合性単量体(A-1)を少なくとも1種、及び/又は後述する酸性基を有しない重合性単量体(A-2)を少なくとも1種含むことにより、2種以上の重合性単量体を含むものが好ましい。
重合性単量体含有組成物(P2)は、後述する酸性基を有する重合性単量体(A-1)の含有量が重合性単量体含有組成物(P2)において、10質量%以下であってもよく、0質量%であってもよい。
また、重合性単量体含有組成物(P2)は、重合開始剤(C)及び/又は重合促進剤(D)を含んでいてもよい。
重合性単量体含有組成物(P2)は、水(E)及び/又は有機溶媒(F)を含んでいてもよい。
ただし、水(E)及び/又は有機溶媒(F)は、調製の途中で揮発してしまうおそれがあるため、重合性単量体含有組成物(P1)と重合性単量体含有組成物(P2)との混合前に、重合性単量体含有組成物(P1)と混合しないことが好ましい。
【0026】
重合開始剤(C)及び/又は重合促進剤(D)は、重合性単量体含有組成物(P1)を得た後、重合性単量体含有組成物(P1)と重合性単量体含有組成物(P2)との混合前に、重合性単量体含有組成物(P1)に添加してもよい。
【0027】
重合性単量体含有組成物(P2)の粘度P2nは、組成物を低粘度化させつつ、フィラー(B)が十分に分散された状態を維持できる点から、0.5cP以上であることが好ましく、1cP以上であることがより好ましく、2cP以上であることがさらに好ましい。
また、P2nは、重合性単量体含有組成物(P0)の粘度P0nと十分な粘度の差を設け、重合性単量体含有組成物(P1)にフィラー(B)が十分に分散された状態を維持しつつ、歯科用組成物全体を低粘度化する点から、200cP以下であることが好ましく、120cP以下であることがより好ましく、70cP以下であることがさらに好ましい。
【0028】
上記したように、本発明の歯科用組成物の製造方法では、重合性単量体含有組成物(P0)の粘度P0n[cP]と、重合性単量体含有組成物(P2)の粘度P2n[cP]が、P0n>P2nの関係を満たし、工程〔1〕でフィラー(B)を混合することで、組成物としての粘度を低下させつつ、硬化物の高い機械的強度を維持することができる。
さらに、フィラー(B)が十分に分散された状態を維持しつつ、組成物をより低粘度化させることができる点から、重合性単量体含有組成物(P0)の粘度P0n[cP]と、重合性単量体含有組成物(P2)の粘度P2n[cP]との比P0n/P2nは、3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、5以上であることがさらに好ましい。
また、P0n/P2nは、フィラー(B)が十分に分散された状態を維持しつつ、組成物をより低粘度化させることができる点から、2000以下であることが好ましく、1500以下であることがより好ましく、1000以下であることがさらに好ましい。
【0029】
また、ある好適な実施形態では、重合性単量体含有組成物(P0)の粘度P0n[cP]と、重合性単量体含有組成物(P2)の粘度P2n[cP]との差P0n-P2nは、フィラー(B)が十分に分散された状態を維持しつつ、組成物をより低粘度化させやすい点から、150cP以上であることが好ましく、200cP以上であることがより好ましく、220cP以上であることがさらに好ましい。
【0030】
重合性単量体含有組成物(P1)と重合性単量体含有組成物(P2)との混合は、特に限定されず、公知方法で行うことができる。例えば、市販の混練機を使用することができる。
【0031】
工程〔1〕により得られた重合性単量体含有組成物(P1)と、重合性単量体含有組成物(P2)とを混合した混合物(PC〔1+2〕)の粘度(PC〔1+2〕n)[cP]は、800cP以下であることが好ましく、750cP以下であることがより好ましく、700cP以下であることがさらに好ましい。
【0032】
工程〔1〕により得られる重合性単量体含有組成物(P1)のフィラー(B)の濃度は、フィラー(B)が十分に分散された状態を維持できる分散効率の観点から、工程〔1〕における重合性単量体(A)とフィラー(B)の合計100質量%に対して5質量%以上50質量%未満であることが好ましく、5質量%以上40質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上30質量%以下であることがさらに好ましい。
重合性単量体含有組成物(P1)におけるフィラー(B)の濃度が50質量%未満であることにより、高粘度の重合性単量体含有組成物(P0)において、組成物の劣化を防ぎ、装置に過剰な負荷を与えず、フィラー(B)を十分に分散させることができる。
【0033】
工程〔2〕により得られる歯科用組成物におけるフィラー(B)の含有量は、重合性単量体(A)の全量100質量%に対して、硬化物の薄膜化と、硬化物の高い機械的強度とを両立できる点から、3~25質量%であることが好ましく、4~20質量%であることがより好ましく、4~18質量%であることがさらに好ましく、5~15質量%であることが特に好ましい。
【0034】
本発明の歯科用組成物の製造方法は、工程〔2〕の後に、さらに必要に応じて任意の重合性単量体含有組成物(P3)を混合してもよい(工程〔3〕)。
重合性単量体含有組成物(P3)を混合する場合、工程〔2〕によって得られた混合物と、重合性単量体含有組成物(P3)とを混合した後の最終的に得られる歯科用組成物の粘度が100cP以下であることが好ましい。
重合性単量体含有組成物(P3)において、重合性単量体は、1種単独で用いてもよく、2種以上を含んでいてもよい。
また、重合性単量体含有組成物(P3)は、重合開始剤(C)及び/又は重合促進剤(D)を含んでいてもよい。
重合性単量体含有組成物(P3)は、水(E)及び/又は有機溶媒(F)を含んでいてもよい。
また、水(E)及び/又は有機溶媒(F)が調製の途中で揮発してしまうことを防ぐ点から、重合性単量体含有組成物(P3)を混合した後に、得られた組成物と、水(E)及び/又は有機溶媒(F)とを混合してもよい。
【0035】
重合性単量体含有組成物(P3)の粘度P3nは、組成物を低粘度化させつつ、フィラー(B)が十分に分散された状態を維持できる点から、4000cP以下であることが好ましく、3000cP以下であることがより好ましく、2000cP以下であることがさらに好ましい。
また、フィラー(B)が十分に分散された状態を維持できるように、フィラー(B)の分散効率の観点から、粘度P3nは、2cP以上であることが好ましく、5cP以上であることがより好ましく、10cP以上であることがさらに好ましい。
【0036】
重合性単量体含有組成物(P3)を混合する実施形態においては、重合性単量体含有組成物(P0)に含まれる重合性単量体の合計含有量は、最終的に得られる歯科用組成物に含まれる重合性単量体(A)の全量100質量%中、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることがさらに好ましい。
また、重合性単量体含有組成物(P0)に含まれる重合性単量体の合計含有量は、歯科用組成物に含まれる重合性単量体(A)の全量100質量%中、65質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、55質量%以下であることがさらに好ましい。
【0037】
重合性単量体含有組成物(P3)を混合する実施形態においては、重合性単量体含有組成物(P2)に含まれる重合性単量体の合計含有量は、組成物を低粘度化させつつ、フィラー(B)が十分に分散された状態を維持することができ、硬化物の高い機械的強度を維持できる点から、重合性単量体(A)の全量100質量%中、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、8質量%以上であることがさらに好ましい。
また、重合性単量体含有組成物(P2)に含まれる重合性単量体の合計含有量は、重合性単量体(A)の全量100質量%中、40質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。
【0038】
重合性単量体含有組成物(P3)を混合する実施形態においては、重合性単量体含有組成物(P3)に含まれる重合性単量体の合計含有量は、組成物を低粘度化させつつ、フィラー(B)が十分に分散された状態を維持することができ、硬化物の高い機械的強度を維持できる点から、重合性単量体(A)の全量100質量%中、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることがさらに好ましい。
また、重合性単量体含有組成物(P3)に含まれる重合性単量体の合計含有量は、歯科用組成物に含まれる重合性単量体(A)の全量100質量%中、65質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、55質量%以下であることがさらに好ましい。
【0039】
重合性単量体含有組成物(P3)を混合する実施形態において、重合性単量体含有組成物(P0)に含まれる重合性単量体の合計含有量と、重合性単量体含有組成物(P2)に含まれる重合性単量体の合計含有量との比率P0/P2は、1以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましく、1.5以上であることがさらに好ましい。
重合性単量体の合計含有量について、P0/P2が1以上である場合、重合性単量体含有組成物(P2)とのなじみがよくなり、フィラー(B)が既に十分に分散された状態を最終組成物まで維持しやすくなる。
また、重合性単量体含有組成物(P3)を混合する実施形態において、重合性単量体含有組成物(P3)に含まれる重合性単量体の合計含有量と、重合性単量体含有組成物(P2)に含まれる重合性単量体の合計含有量との比率P3/P2は、1以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましく、1.5以上であることがさらに好ましい。
重合性単量体の合計含有量について、P3/P2が1以上である場合、歯科用組成物全体としてはより低粘度化しやすく、フィラー(B)が既に十分に分散された状態を維持しやすくなり、また、硬化物の高い機械的強度も得られやすくなる。
【0040】
工程〔2〕で得られた混合物と重合性単量体含有組成物(P3)との混合は、特に限定されず、公知方法で行うことができる。例えば、市販の混練機を使用することができる。
また、本発明の歯科用組成物の製造方法は、工程〔3〕の後に、さらに必要に応じて任意の重合性単量体や他の材料を混合してもよい。
【0041】
本発明の歯科用組成物の製造方法は、前記工程〔2〕以降に、水(E)及び/又は有機溶媒(F)を混合する工程をさらに含むことが好ましい。当該工程は、前記工程〔3〕を行う場合は、前記工程〔3〕以降に行うことが好ましい。
本発明の歯科用組成物の製造方法の好ましい一態様を以下に述べる。
前記工程〔1〕において、重合性単量体(A)と、重合開始剤(C)と、重合促進剤(D)を含む重合性単量体含有組成物(P0)を用い、フィラー(B)と混合し、重合性単量体含有組成物(P1)を得る。この際、重合性単量体含有組成物(P0)の全量における、重合性単量体(A)の含有量は90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。
次いで、前記工程〔2〕において、前記重合性単量体含有組成物(P1)と、重合性単量体(A)を含む重合性単量体含有組成物(P2)を混合する。この際、重合性単量体含有組成物(P2)の全量における、重合性単量体(A)の含有量は90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。
また、重合性単量体含有組成物(P2)の使用量は、重合性単量体含有組成物(P1)100質量部に対して、5~200質量部が好ましく、10~100質量部がより好ましく、15~50質量部がさらに好ましい。
次いで、水(E)及び/又は有機溶媒(F)を混合する工程において、前記工程〔2〕で得た組成物に対して、水(E)及び/又は有機溶媒(F)を混合する。この際、水(E)及び有機溶媒(F)の合計の添加量は、重合性単量体含有組成物(P1)と重合性単量体含有組成物(P2)の合計100質量部に対して、10~100質量部が好ましく、200~80質量部がより好ましく、30~60質量部がさらに好ましい。
【0042】
ある好適な実施形態としては、歯科用組成物が歯科用接着性組成物である、歯科用組成物の製造方法が挙げられる。
歯科用接着性組成物は、後記する酸性基を有する重合性単量体(A-1)を含むものが好ましい。
前記歯科用接着性組成物としては、1液型歯科用接着性組成物が好ましい。
【0043】
以下、本発明の歯科用組成物の製造方法に用いる各成分について説明する。
【0044】
・重合性単量体(A)
本発明の歯科用組成物の重合性単量体(A)として、酸性基を有する重合性単量体(A-1)を含むことが好ましい。酸性基を有する重合性単量体(A-1)は、歯質を脱灰しながら浸透して歯質と結合し、歯質に対する接着性を向上させることができる。
酸性基を有する重合性単量体(A-1)は、リン酸基、ホスホン酸基、ピロリン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基等の酸性基を少なくとも1個有し、且つアクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基等の重合性基を少なくとも1個有する単量体であればよい。
エナメル質に対する接着性の観点から、酸性基を有する重合性単量体(A-1)は、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基及びメタクリルアミド基のうちのいずれかを1つ有する単官能性の単量体であることが好ましい。具体例としては、下記のものが挙げられる。
【0045】
リン酸基を有する単量体としては、例えば、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-(4-メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピル-(4-メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート等のリン酸基含有単官能性(メタ)アクリレート化合物、及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩;ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9-(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート等のリン酸基含有二官能性(メタ)アクリレート化合物、及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0046】
ホスホン酸基を有する単量体としては、例えば、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチル-3-ホスホノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスホノプロピオネート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル-3-ホスホノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルホスホノアセテート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルホスホノアセテート、及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0047】
ピロリン酸基を有する単量体としては、例えば、ピロリン酸ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕、ピロリン酸ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕、ピロリン酸ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕、及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0048】
カルボン酸基を有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルオキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルオキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシオクチルオキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシデシルオキシカルボニルフタル酸、5-(メタ)アクリロイルアミノペンチルカルボン酸、及びこれらの酸無水物、酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0049】
スルホン酸基を有する単量体としては、例えば、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-スルホエチル(メタ)アクリレート、及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0050】
酸性基を有する重合性単量体(A-1)としては、歯質に対してより優れた接着性を発現できるなどの観点から、リン酸基を有する単量体、ピロリン酸基を有する単量体が好ましく、リン酸基を有する単量体がより好ましく、リン酸基を有する単官能性の単量体がさらに好ましい。その中でも、分子内に主鎖として炭素数6~20のアルキル基又はアルキレン基を有するリン酸基を有する(メタ)アクリレート系単官能性単量体が特に好ましく、10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート等の分子内に主鎖として炭素数8~12のアルキレン基を有するリン酸基を有する(メタ)アクリレート系単官能性単量体が最も好ましい。
なお、酸性基を有する重合性単量体(A-1)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0051】
本発明の歯科用組成物における酸性基を有する重合性単量体(A-1)の含有量は、歯科用修復材料と歯質との両方に対する接着性がより向上することなどから、歯科用組成物に含まれる単量体成分の合計質量において、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることがさらに好ましい。
また、酸性基を有する重合性単量体(A-1)の含有量は、単量体成分の合計質量において、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0052】
本発明の歯科用組成物の重合性単量体(A)として、接着性の観点から酸性基を有しない重合性単量体(A-2)をさらに含むことが好ましい。
当該酸性基を有しない重合性単量体(A-2)としては公知の酸性基を有しない単量体を使用することができ、例えば、酸性基を有しない疎水性単量体(A-2x)、酸性基を有しない親水性単量体(A-2y)などが挙げられる。
酸性基を有しない重合性単量体(A-2)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。酸性基を有しない重合性単量体(A-2)として、例えば、酸性基を有しない疎水性単量体(A-2x)と酸性基を有しない親水性単量体(A-2y)とを併用してもよい。
【0053】
(i)酸性基を有しない疎水性単量体(A-2x)
本発明の歯科用組成物が酸性基を有しない疎水性単量体(A-2x)を含むことにより、硬化物(歯科用組成物が硬化してなる硬化物)の機械的強度、取り扱い性などを向上させることができる。
酸性基を有しない疎水性単量体(A-2x)としては、酸性基を有さず、重合性基を有するラジカル重合性単量体が好ましい。
当該重合性基としては、ラジカル重合が容易であることなどから、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアミド基が好ましい。
酸性基を有しない疎水性単量体(A-2x)としては、25℃における水に対する溶解度が10質量%未満のものを用いることができる。
酸性基を有しない疎水性単量体(A-2x)としては、例えば、単官能性単量体、芳香族系の二官能性単量体、脂肪族系の二官能性単量体、三官能性以上の単量体などの架橋性単量体などが挙げられる。
【0054】
単官能性単量体としては、例えば、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、ビフェニルメチル(メタ)アクリレート、O-フェニルフェノールエチル(メタ)アクリレート、O-フェニル(EO)2(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0055】
芳香族系の二官能性単量体としては、例えば、2,2-ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス〔4-(2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパンなどが挙げられる。
これらの中でも、2,2-ビス〔4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル〕プロパン(通称「Bis-GMA」)、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(エトキシ基の平均付加モル数:2.6、通称「D-2.6E」)、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパンが好ましく、Bis-GMA、D-2.6Eがより好ましい。
【0056】
脂肪族系の二官能性単量体としては、例えば、グリセロールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジ(メタ)アクリレート、N-メタクリロイルオキシエチルアクリルアミド、N-メタクリロイルオキシプロピルアクリルアミド、N-メタクリロイルオキシブチルアクリルアミド、N-(1-エチル-(2-メタクリロイルオキシ)エチル)アクリルアミド、N-(2-(2-メタクリロイルオキシエトキシ)エチル)アクリルアミドなどが挙げられる。
これらの中でも、グリセロールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート(通称「3G」)、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(通称「UDMA」)、N-メタクリロイルオキシエチルアクリルアミド(通称「MAEA」)、N-メタクリロイルオキシプロピルアクリルアミドが好ましい。
【0057】
三官能性以上の単量体としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、N,N-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラ(メタ)アクリレート、1,7-ジアクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラ(メタ)アクリロイルオキシメチル-4-オキサヘプタン、N,N’-(トリメチルヘキサメチレン)ビス[2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール]テトラメタクリレート(通称「U4TH」)などが挙げられる。
これらの中でも、N,N-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラメタクリレート、N,N’-(トリメチルヘキサメチレン)ビス[2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール]テトラメタクリレートが好ましい。
【0058】
前記の酸性基を有しない疎水性単量体(A-2x)の中でも、硬化物の機械的強度や取り扱い性の観点から、芳香族系の二官能性単量体、脂肪族系の二官能性単量体が好ましく、接着力、硬化物の機械的強度の観点から、Bis-GMA、D-2.6E、3G、UDMA、MAEA、U4THがより好ましく、Bis-GMA、3G、UDMA、MAEA、U4THがさらに好ましい。
なお、酸性基を有しない疎水性単量体(A-2x)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0059】
本発明の歯科用組成物における酸性基を有しない疎水性単量体(A-2x)の含有量は、硬化物(歯科用組成物が硬化してなる硬化物)の機械的強度、取り扱い性などの観点から、歯科用組成物に含まれる単量体成分の合計質量において9質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましく、25質量%以上であることが特に好ましい。
また、酸性基を有しない疎水性単量体(A-2x)の含有量は、単量体成分の合計質量において、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、75質量%以下であることがさらに好ましく、70質量%以下であることが特に好ましい。
【0060】
(ii)酸性基を有しない親水性単量体(A-2y)
本発明の歯科用組成物が酸性基を有しない親水性単量体(A-2y)を含むことにより、歯質に対する接着性が向上させることができる。酸性基を有しない親水性単量体(A-2y)としては、酸性基を有さず、重合性基を有するラジカル重合性単量体が好ましい。当該重合性基としては、ラジカル重合が容易であることなどから、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアミド基が好ましい。酸性基を有しない親水性単量体(A-2y)としては、25℃における水に対する溶解度が10質量%以上のものを用いることができ、当該溶解度が30質量%以上のものが好ましく、25℃において水に任意の割合で溶解可能なものがより好ましい。
【0061】
酸性基を有しない親水性単量体(A-2y)としては、水酸基、オキシメチレン基、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、アミド基などの親水性基を有するものが好ましい。
酸性基を有しない親水性単量体(A-2y)としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-トリメチルアンモニウムエチル(メタ)アクリルクロリド、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(オキシエチレン基の平均付加モル数:9以上)等の(メタ)アクリレート;N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、4-(メタ)アクリロイルモルホリン、下記一般式(1)で示される二置換(メタ)アクリルアミド等の単官能性(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
【0062】
【0063】
前記一般式(1)中、R3及びR4はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよい直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~3のアルキル基であり、R5は水素原子又はメチル基である。
【0064】
R3及びR4によってそれぞれ示される炭素数1~3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基が挙げられ、それらが有していてもよい置換基としては、例えば、水酸基などが挙げられる。
【0065】
前記一般式(1)で示される二置換(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミドなどが挙げられ、貯蔵安定性などの観点から、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミドが好ましく、N,N-ジエチルアクリルアミドがより好ましい。
【0066】
前記の酸性基を有しない親水性単量体(A-2y)の中でも、歯質に対する接着性の観点から、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、単官能性(メタ)アクリルアミドが好ましく、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、前記一般式(1)で示される二置換(メタ)アクリルアミドがより好ましく、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、前記一般式(1)で示される二置換(メタ)アクリルアミドがさらに好ましく、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、N,N-ジエチルアクリルアミドが特に好ましい。
なお、酸性基を有しない親水性単量体(A-2y)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0067】
本発明の歯科用組成物における酸性基を有しない親水性単量体(A-2y)の含有量は、歯質接着性、及び保管中の性状変化が小さくなるなどの観点から、歯科用組成物に含まれる単量体成分の合計質量において、8質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、12質量%以上であることがさらに好ましい。
また、酸性基を有しない親水性単量体(A-2y)の含有量は、単量体成分の合計質量において、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましく、60質量%以下であることが特に好ましい。
【0068】
前記した酸性基を有する重合性単量体(A-1)及び酸性基を有しない重合性単量体(A-2)等を含めて本発明の歯科用組成物に含まれる全単量体の合計の含有量は、硬化物の機械的強度の観点などから、20質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましい。
また、全単量体の合計の含有量は、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。
【0069】
・フィラー(B)
本発明の歯科用組成物は、平均一次粒子径が0.001μm以上1μm未満であるフィラー(B)を含む。
フィラー(B)を含むことによって、歯科用組成物の操作性、硬化物の機械的強度に優れる。そのため、本発明の歯科用組成物は、1液型の歯科用ボンディング材として使用した場合にも露出根面のコーティングにおいても好適に使用できる。
【0070】
フィラー(B)は、有機フィラー、無機フィラー及び有機-無機複合フィラーに大別することができる。
フィラー(B)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合としては、例えば、素材、粒度分布、形態などが異なるフィラーを併用する場合などが挙げられる。フィラー(B)としては、市販品を使用することができる。
【0071】
有機フィラーの素材としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル-メタクリル酸エチル共重合体、架橋型ポリメタクリル酸メチル、架橋型ポリメタクリル酸エチル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体などが挙げられる。有機フィラーは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。有機フィラーの形状は特に限定されない。
【0072】
無機フィラーの素材としては、例えば、石英、シリカ、アルミナ、シリカ-チタニア、シリカ-チタニア-酸化バリウム、シリカ-ジルコニア、シリカ-アルミナ、ランタンガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ガラスセラミック、アルミノシリケートガラス、バリウムボロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、カルシウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムフルオロアルミノシリケートガラス、バリウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムカルシウムフルオロアルミノシリケートガラスなどが挙げられる。無機フィラーは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0073】
無機フィラーの形状に特に制限はなく、無機フィラーとしては、例えば、不定形フィラー、球状フィラーなどが挙げられる。硬化物の機械的強度を向上させる観点からは、無機フィラーとして球状フィラーを用いることが好ましい。
ここで球状フィラーとは、走査型電子顕微鏡(以下、SEMと略す)でフィラーの写真を撮り、その単位視野内に観察される粒子が丸みを帯びており、その最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で割った平均均斉度が0.6以上であるフィラーとすることができる。
無機フィラーとして球状フィラーを用いる場合、その平均粒子径は、歯科用組成物における球状フィラーの充填率が低下せず、硬化物の機械的強度を維持することができる点から、0.1μm以上であることが好ましく、また、硬化物の機械的強度を維持するのに十分な表面積となることから5μm以下であることが好ましい。
【0074】
無機フィラーは、歯科用組成物の流動性を調整するため、必要に応じてシランカップリング剤等の公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。かかる表面処理剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、11-メタクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0075】
有機-無機複合フィラーとしては、上述の無機フィラーにモノマー化合物を予め添加し、ペースト状にした後に重合させ、粉砕することにより得られるものを用いることができる。前記有機-無機複合フィラーとしては、例えば、TMPTフィラー(トリメチロールプロパンメタクリレートとシリカフィラーを混和、重合させた後に粉砕したもの)などを用いることができる。有機-無機複合フィラーの形状は特に限定されない。
【0076】
フィラー(B)の平均粒子径は、得られる歯科用組成物のハンドリング性及び硬化物の機械的強度などの観点から、0.001μm以上1μm未満である。
また、フィラー(B)の平均粒子径は、薄膜化されたコーティング層としての硬化物の機械的強度などの観点から、0.001μm以上0.9μm以下であることが好ましく、0.001μm以上0.5μm以下であることがより好ましく、0.001μm以上0.1μm以下であることがさらに好ましい。
なお、本明細書においてフィラー(B)の平均粒子径とは、フィラー(B)の一次粒子の平均粒子径(平均一次粒子径)を意味する。
【0077】
フィラー(B)の平均粒子径は、レーザー回折散乱法や粒子の電子顕微鏡観察により求めることができる。具体的には、0.1μm以上の粒子径測定にはレーザー回折散乱法が簡便であり、0.1μm未満の超微粒子の粒子径測定には電子顕微鏡観察が簡便である。0.1μm以上であるか否かの判別にはレーザー回折散乱法を採用すればよい。
【0078】
レーザー回折散乱法では、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、株式会社島津製作所製「SALD-2300」等)により、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒に用いて体積基準で測定して平均粒子径を求めることができる。
【0079】
電子顕微鏡観察では、例えば、粒子の走査型電子顕微鏡(例えば、株式会社日立製作所製「S-4000型」等)写真を撮り、その写真の単位視野内に観察される粒子(200個以上)の粒子径を画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製「Mac-View」等)を用いて測定することにより平均粒子径を求めることができる。このとき、粒子の粒子径は、その粒子の最長の長さと最短の長さの算術平均値として求められ、粒子の数とその粒子径より、平均粒子径が算出される。
【0080】
本発明の歯科用組成物におけるフィラー(B)の含有量は、得られる歯科用組成物のハンドリング性及び硬化物の機械的強度などの観点から重合性単量体(A)の全量100質量%に対して、3質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。
また、フィラー(B)の含有量は、重合性単量体(A)の全量100質量%に対して、25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましい。
【0081】
ある好適な実施形態としては、薄膜化されたコーティング層としての硬化物の機械的強度などの観点から、フィラー(B)が、無機フィラーである、歯科用組成物の製造方法が挙げられる。
【0082】
本発明の歯科用組成物及びその製造方法は、フィラー(B)以外の平均粒子径を有するフィラー(以下、単に「フィラー(B)以外のフィラー」とも称する。)を含んでいてもよい。
フィラー(B)以外のフィラーの平均粒子径としては、1μm以上50μm以下が好ましく、1μm以上30μm以下がより好ましく、1μm以上20μm以下がさらに好ましい。
フィラー(B)以外のフィラーとしては、フィラー(B)と同様に、有機フィラー、無機フィラー及び有機-無機複合フィラーを使用することができる。
これらのフィラーの素材も、フィラー(B)と同様のものが使用できる。
フィラー(B)以外のフィラーを含む場合、歯科用組成物におけるフィラー(B)とフィラー(B)以外のフィラーとの合計含有量は、得られる歯科用組成物のハンドリング性及び硬化物の機械的強度などの観点から重合性単量体(A)の全量100質量%に対して、3質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。
また、フィラー(B)とフィラー(B)以外のフィラーとの合計含有量は、重合性単量体(A)の全量100質量%に対して、25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましい。
【0083】
・重合開始剤(C)
本発明の歯科用組成物は、接着性の観点から、重合開始剤(C)をさらに含むことが好ましい。当該重合開始剤(C)としては公知の重合開始剤を使用することができ、例えば、光重合開始剤(C-1)、化学重合開始剤(C-2)などを使用することができる。重合開始剤(C)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、例えば、光重合開始剤(C-1)と化学重合開始剤(C-2)とを併用してもよい。
【0084】
(i)光重合開始剤(C-1)
光重合開始剤(C-1)としては、例えば、(ビス)アシルホスフィンオキシド類(塩を含む)、チオキサントン類(第4級アンモニウム塩等の塩を含む)、ケタール類、α-ジケトン類、クマリン類、アントラキノン類、ベンゾインアルキルエーテル化合物類、α-アミノケトン系化合物などが挙げられる。
【0085】
(ビス)アシルホスフィンオキシド類のうち、アシルホスフィンオキシド類としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ベンゾイルジ(2,6-ジメチルフェニル)ホスホネートなどが挙げられる。
【0086】
(ビス)アシルホスフィンオキシド類のうち、ビスアシルホスフィンオキシド類としては、例えば、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,3,6-トリメチルベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシドなどが挙げられる。
【0087】
前記アシルホスフィンオキシド類は、水溶性アシルホスフィンオキシド類であってもよい。当該水溶性アシルホスフィンオキシド類としては、例えば、アシルホスフィンオキシド分子内にアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ピリジニウムイオン、アンモニウムイオン等のイオンを有するものが挙げられる。水溶性アシルホスフィンオキシド類は、例えば、欧州特許第0009348号明細書、特開昭57-197289号公報などに開示されている方法により合成することができる。
【0088】
前記水溶性アシルホスフィンオキシド類の具体例としては、例えば、モノメチルアセチルホスフォネート・ナトリウム塩、モノメチル(1-オキソプロピル)ホスフォネート・ナトリウム塩、モノメチルベンゾイルホスフォネート・ナトリウム塩、モノメチル(1-オキソブチル)ホスフォネート・ナトリウム塩、モノメチル(2-メチル-1-オキソプロピル)ホスフォネート・ナトリウム塩、アセチルホスフォネート・ナトリウム塩、メチル4-(ヒドロキシメトキシホスフィニル)-4-オキソブタノエート・ナトリウム塩、メチル4-オキソ-4-ホスフォノブタノエート・モノナトリウム塩、アセチルフェニルホスフィネート・ナトリウム塩、(1-オキソプロピル)ペンチルホスフィネート・ナトリウム塩、メチル4-(ヒドロキシペンチルホスフィニル)-4-オキソブタノエート・ナトリウム塩、アセチルペンチルホスフィネート・ナトリウム塩、アセチルエチルホスフィネート・ナトリウム塩、メチル4-(ヒドロキシメチルホスフィニル)-4-オキソブタノエート・リチウム塩、4-(ヒドロキシメチルホスフィニル)-4-オキソブタノイックアシッド・ジリチウム塩、アセチルホスフィネート・ナトリウム塩、アセチルメチルホスフィネートオキシム・ナトリウム塩、アセチルメチルホスフィネート-O-ベンジルオキシム・ナトリウム塩、アセチルメチルホスフィネートセミカルバゾン・ナトリウム塩、ホルミルメチルホスフィネート・ナトリウム塩、メチル(1-オキソプロピル)ホスフィネート・ナトリウム塩、アセチルメチルホスフィネートチオセミカルバゾン・ナトリウム塩、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドのナトリウム塩、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドのカリウム塩、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドのアンモニウム塩などが挙げられる。
【0089】
これらの(ビス)アシルホスフィンオキシド類の中でも、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドのナトリウム塩が特に好ましい。
【0090】
前記チオキサントン類としては、例えば、チオキサントン、2-クロロチオキサンセン-9-オン、2-ヒドロキシ-3-(9-オキシ-9H-チオキサンテン-4-イルオキシ)-N,N,N-トリメチルプロパンアミニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-(1-メチル-9-オキソ-9H-チオキサンテン-4-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-(9-オキソ-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-(3,4-ジメチル-9-オキソ-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-(3,4-ジメチル-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-(1,3,4-トリメチル-9-オキソ-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロリドなどが挙げられる。
【0091】
これらのチオキサントン類の中でも、2-クロロチオキサンセン-9-オン、2-ヒドロキシ-3-(3,4-ジメチル-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロリドが好ましい。
【0092】
前記ケタール類としては、例えば、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタールなどが挙げられる。
【0093】
前記α-ジケトン類としては、例えば、ジアセチル、ベンジル、カンファーキノン、2,3-ペンタジオン、2,3-オクタジオン、9,10-フェナントレンキノン、4,4’-オキシベンジル、アセナフテンキノンなどが挙げられる。これらの中でも、可視光領域に極大吸収波長を有する観点から、カンファーキノンが特に好ましい。
【0094】
前記クマリン類としては、例えば、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)、3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、3-チエニルクマリン、3-ベンゾイル-5,7-ジメトキシクマリン、3-ベンゾイル-7-メトキシクマリン、3-ベンゾイル-6-メトキシクマリン、3-ベンゾイル-8-メトキシクマリン、3-ベンゾイルクマリン、7-メトキシ-3-(p-ニトロベンゾイル)クマリン、3-(p-ニトロベンゾイル)クマリン、3,5-カルボニルビス(7-メトキシクマリン)、3-ベンゾイル-6-ブロモクマリン、3,3’-カルボニルビスクマリン、3-ベンゾイル-7-ジメチルアミノクマリン、3-ベンゾイルベンゾ[f]クマリン、3-カルボキシクマリン、3-カルボキシ-7-メトキシクマリン、3-エトキシカルボニル-6-メトキシクマリン、3-エトキシカルボニル-8-メトキシクマリン、3-アセチルベンゾ[f]クマリン、3-ベンゾイル-6-ニトロクマリン、3-ベンゾイル-7-ジエチルアミノクマリン、7-ジメチルアミノ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、7-ジエチルアミノ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、7-ジエチルアミノ-3-(4-ジエチルアミノ)クマリン、7-メトキシ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、3-(4-ニトロベンゾイル)ベンゾ[f]クマリン、3-(4-エトキシシンナモイル)-7-メトキシクマリン、3-(4-ジメチルアミノシンナモイル)クマリン、3-(4-ジフェニルアミノシンナモイル)クマリン、3-[(3-ジメチルベンゾチアゾール-2-イリデン)アセチル]クマリン、3-[(1-メチルナフト[1,2-d]チアゾール-2-イリデン)アセチル]クマリン、3,3’-カルボニルビス(6-メトキシクマリン)、3,3’-カルボニルビス(7-アセトキシクマリン)、3,3’-カルボニルビス(7-ジメチルアミノクマリン)、3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジブチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾイミダゾリル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジオクチルアミノ)クマリン、3-アセチル-7-(ジメチルアミノ)クマリン、3,3’-カルボニルビス(7-ジブチルアミノクマリン)、3,3’-カルボニル-7-ジエチルアミノクマリン-7’-ビス(ブトキシエチル)アミノクマリン、10-[3-[4-(ジメチルアミノ)フェニル]-1-オキソ-2-プロペニル]-2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H-[1]ベンゾピラノ[6,7,8-ij]キノリジン-11-オン、10-(2-ベンゾチアゾリル)-2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H-[1]ベンゾピラノ[6,7,8-ij]キノリジン-11-オンなどが挙げられる。
【0095】
これらのクマリン類の中でも、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)、3,3’-カルボニルビス(7-ジブチルアミノクマリン)が好ましい。
【0096】
前記アントラキノン類としては、例えば、アントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-クロロアントラキノン、1-ブロモアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、1-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、1-ヒドロキシアントラキノンなどが挙げられる。
【0097】
前記ベンゾインアルキルエーテル化合物類としては、例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどが挙げられる。
【0098】
前記α-アミノケトン系化合物としては、例えば、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オンなどが挙げられる。
【0099】
これらの光重合開始剤(C-1)の中でも、(ビス)アシルホスフィンオキシド類、α-ジケトン類及びクマリン類からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。これにより、可視光領域及び近紫外光領域での光硬化性に優れ、ハロゲンランプ、発光ダイオード(LED)、キセノンランプのいずれの光源を用いても十分な光硬化性を示す歯科用組成物となる。
【0100】
(ii)化学重合開始剤(C-2)
化学重合開始剤(C-2)としては従来公知のものを用いることができ、特に有機過酸化物が好ましい。
当該有機過酸化物としては、例えば、ケトンペルオキシド、ヒドロペルオキシド、ジアシルペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、ペルオキシケタール、ペルオキシエステル、ペルオキシジカーボネートなどが挙げられる。
【0101】
前記ケトンペルオキシドとしては、例えば、メチルエチルケトンペルオキシド、メチルイソブチルケトンペルオキシド、メチルシクロヘキサノンペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシドなどが挙げられる。
【0102】
前記ヒドロペルオキシドとしては、例えば、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシドなどが挙げられる。
【0103】
前記ジアシルペルオキシドとしては、例えば、アセチルペルオキシド、イソブチリルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、デカノイルペルオキシド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルペルオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシドなどが挙げられる。
【0104】
前記ジアルキルペルオキシドとしては、例えば、ジ-t-ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、1,3-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)-3-ヘキシンなどが挙げられる。
【0105】
前記ペルオキシケタールとしては、例えば、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)オクタン、4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレリン酸n-ブチルエステルなどが挙げられる。
【0106】
前記ペルオキシエステルとしては、例えば、α-クミルペルオキシネオデカノエート、t-ブチルペルオキシネオデカノエート、t-ブチルペルオキシピバレート、2,2,4-トリメチルペンチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ-t-ブチルペルオキシイソフタレート、ジ-t-ブチルペルオキシヘキサヒドロテレフタラート、t-ブチルペルオキシ-3,3,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシアセテート、t-ブチルペルオキシベンゾエート、t-ブチルペルオキシバレリン酸などが挙げられる。
【0107】
前記ペルオキシジカーボネートとしては、例えば、ジ-3-メトキシブチルペルオキシジカーボネート、ジ(2-エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルペルオキシジカーボネート、ジ(2-エトキシエチル)ペルオキシジカーボネート、ジアリルペルオキシジカーボネートなどが挙げられる。
【0108】
これらの有機過酸化物の中でも、安全性、保存安定性及びラジカル生成能力の総合的なバランスから、ジアシルペルオキシドが好ましく、ベンゾイルペルオキシドが特に好ましい。
【0109】
重合開始剤(C)として、光重合開始剤(C-1)を含むことが好ましい。
【0110】
本発明の歯科用組成物における重合開始剤(C)の含有量は、得られる歯科用組成物の接着性等の観点から、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましく、0.3質量%以上であることが特に好ましい。
また、重合開始剤(C)の含有量は、10質量%以下であることが好ましい。
【0111】
・重合促進剤(D)
本発明の歯科用組成物は、重合促進剤(D)をさらに含むことができる。
重合促進剤(D)は前記重合開始剤(C)とともに用いることが好ましい。
重合促進剤(D)としては公知の重合促進剤を使用することができ、例えば、アミン類、スルフィン酸類(塩を含む)、ボレート化合物、バルビツール酸化合物、トリアジン化合物、銅化合物、スズ化合物、バナジウム化合物、ハロゲン化合物、アルデヒド類、チオール化合物、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、チオ尿素化合物などが挙げられる。
重合促進剤(D)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0112】
前記アミン類は、脂肪族アミン及び芳香族アミンに分けられる。
当該脂肪族アミンとしては、例えば、n-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-オクチルアミン等の第1級脂肪族アミン;ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、N-メチルエタノールアミン等の第2級脂肪族アミン;N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-ラウリルジエタノールアミン、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N-メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N-エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレート、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の第3級脂肪族アミンなどが挙げられる。
これらの中でも、歯科用組成物の接着性及び保存安定性の観点から、第3級脂肪族アミンが好ましく、N-メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミンがより好ましい。
【0113】
前記芳香族アミンとしては、例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-エチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-イソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジイソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-m-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-4-エチルアニリン、N,N-ジメチル-4-イソプロピルアニリン、N,N-ジメチル-4-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチル-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸メチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸プロピル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸2-〔(メタ)アクリロイルオキシ〕エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4-ジメチルアミノ安息香酸ブチル、4-(ジメチルアミノ)ベンゾニトリルなどが挙げられる。
これらの中でも、歯科用組成物に優れた接着性を付与できる観点から、N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノンが好ましい。
【0114】
前記スルフィン酸類としては、例えば、p-トルエンスルフィン酸、p-トルエンスルフィン酸ナトリウム、p-トルエンスルフィン酸カリウム、p-トルエンスルフィン酸リチウム、p-トルエンスルフィン酸カルシウム、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸カリウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、ベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カルシウムなどが挙げられる。
これらの中でも、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p-トルエンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウムが特に好ましい。
【0115】
前記ボレート化合物としては、アリールボレート化合物が好ましい。当該アリールボレート化合物としては、例えば、1分子中に1~4個のアリール基を有するボレート化合物などが挙げられる。
【0116】
1分子中に1個のアリール基を有するボレート化合物としては、例えば、トリアルキルフェニルホウ素、トリアルキル(p-クロロフェニル)ホウ素、トリアルキル(p-フルオロフェニル)ホウ素、トリアルキル[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ素、トリアルキル[3,5-ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシ-2-プロピル)フェニル]ホウ素、トリアルキル(p-ニトロフェニル)ホウ素、トリアルキル(m-ニトロフェニル)ホウ素、トリアルキル(p-ブチルフェニル)ホウ素、トリアルキル(m-ブチルフェニル)ホウ素、トリアルキル(p-ブチルオキシフェニル)ホウ素、トリアルキル(m-ブチルオキシフェニル)ホウ素、トリアルキル(p-オクチルオキシフェニル)ホウ素、トリアルキル(m-オクチルオキシフェニル)ホウ素(前記各例示におけるアルキル基はn-ブチル基、n-オクチル基、n-ドデシル基等である)、これらの塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等)などが挙げられる。
【0117】
1分子中に2個のアリール基を有するボレート化合物としては、例えば、ジアルキルジフェニルホウ素、ジアルキルジ(p-クロロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p-フルオロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ素、ジアルキルジ[3,5-ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシ-2-プロピル)フェニル]ホウ素、ジアルキルジ(p-ニトロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m-ニトロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p-ブチルフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m-ブチルフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p-ブチルオキシフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m-ブチルオキシフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p-オクチルオキシフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m-オクチルオキシフェニル)ホウ素、これらの塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等)などが挙げられる。
前記ボレート化合物の各例示におけるアルキル基としては、n-ブチル基、n-オクチル基、n-ドデシル基などが挙げられる。
【0118】
1分子中に3個のアリール基を有するボレート化合物としては、例えば、モノアルキルトリフェニルホウ素、モノアルキルトリ(p-クロロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p-フルオロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ素、モノアルキルトリ[3,5-ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシ-2-プロピル)フェニル]ホウ素、モノアルキルトリ(p-ニトロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m-ニトロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p-ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m-ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p-ブチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m-ブチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p-オクチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m-オクチルオキシフェニル)ホウ素、これらの塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等)などが挙げられる。
前記ボレート化合物の各例示におけるアルキル基としては、n-ブチル基、n-オクチル基、n-ドデシル基などが挙げられる。
【0119】
1分子中に4個のアリール基を有するボレート化合物としては、例えば、テトラフェニルホウ素、テトラキス(p-クロロフェニル)ホウ素、テトラキス(p-フルオロフェニル)ホウ素、テトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ素、テトラキス[3,5-ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシ-2-プロピル)フェニル]ホウ素、テトラキス(p-ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(m-ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(p-ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(m-ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(p-ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m-ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(p-オクチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m-オクチルオキシフェニル)ホウ素、(p-フルオロフェニル)トリフェニルホウ素、[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]トリフェニルホウ素、(p-ニトロフェニル)トリフェニルホウ素、(m-ブチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素、(p-ブチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素、(m-オクチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素、(p-オクチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素、これらの塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等)などが挙げられる。
【0120】
これらのアリールボレート化合物の中でも、保存安定性の観点から、1分子中に3個又は4個のアリール基を有するボレート化合物が好ましい。
なお、アリールボレート化合物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0121】
前記バルビツール酸化合物としては、例えば、バルビツール酸、1,3-ジメチルバルビツール酸、1,3-ジフェニルバルビツール酸、1,5-ジメチルバルビツール酸、5-ブチルバルビツール酸、5-エチルバルビツール酸、5-イソプロピルバルビツール酸、5-シクロヘキシルバルビツール酸、1,3,5-トリメチルバルビツール酸、1,3-ジメチル-5-エチルバルビツール酸、1,3-ジメチル-5-n-ブチルバルビツール酸、1,3-ジメチル-5-イソブチルバルビツール酸、1,3-ジメチル-5-シクロペンチルバルビツール酸、1,3-ジメチル-5-シクロヘキシルバルビツール酸、1,3-ジメチル-5-フェニルバルビツール酸、1-シクロヘキシル-1-エチルバルビツール酸、1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸、5-メチルバルビツール酸、5-プロピルバルビツール酸、1,5-ジエチルバルビツール酸、1-エチル-5-メチルバルビツール酸、1-エチル-5-イソブチルバルビツール酸、1,3-ジエチル-5-ブチルバルビツール酸、1-シクロヘキシル-5-メチルバルビツール酸、1-シクロヘキシル-5-エチルバルビツール酸、1-シクロヘキシル-5-オクチルバルビツール酸、1-シクロヘキシル-5-ヘキシルバルビツール酸、5-ブチル-1-シクロヘキシルバルビツール酸、1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸、チオバルビツール酸類、これらの塩などが挙げられる。
これらのバルビツール酸化合物の塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などが挙げられ、より具体的には、5-ブチルバルビツール酸ナトリウム、1,3,5-トリメチルバルビツール酸ナトリウム、1-シクロヘキシル-5-エチルバルビツール酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0122】
特に好適なバルビツール酸化合物は、5-ブチルバルビツール酸、1,3,5-トリメチルバルビツール酸、1-シクロヘキシル-5-エチルバルビツール酸、1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸、これらのナトリウム塩である。
【0123】
前記トリアジン化合物としては、例えば、2,4,6-トリス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2,4,6-トリス(トリブロモメチル)-s-トリアジン、2-メチル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-メチル-4,6-ビス(トリブロモメチル)-s-トリアジン、2-フェニル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(p-メトキシフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(p-メチルチオフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(p-クロロフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(2,4-ジクロロフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(p-ブロモフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(p-トリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-n-プロピル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(α,α,β-トリクロロエチル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-スチリル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-(p-メトキシフェニル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-(o-メトキシフェニル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-(p-ブトキシフェニル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-(3,4-ジメトキシフェニル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-(3,4,5-トリメトキシフェニル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(1-ナフチル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(4-ビフェニリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-{N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ}エトキシ]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-{N-ヒドロキシエチル-N-エチルアミノ}エトキシ]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-{N-ヒドロキシエチル-N-メチルアミノ}エトキシ]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-{N,N-ジアリルアミノ}エトキシ]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジンなどが挙げられる。
【0124】
これらのトリアジン化合物の中でも、重合活性の点では、2,4,6-トリス(トリクロロメチル)-s-トリアジンが好ましく、また保存安定性の点では、2-フェニル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(p-クロロフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(4-ビフェニリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジンが好ましい。
なお、トリアジン化合物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0125】
前記銅化合物としては、例えば、アセチルアセトン銅、酢酸第2銅、オレイン酸銅、塩化第2銅、臭化第2銅などが挙げられる。
【0126】
前記スズ化合物としては、例えば、ジ-n-ブチル錫ジマレエート、ジ-n-オクチル錫ジマレエート、ジ-n-オクチル錫ジラウレート、ジ-n-ブチル錫ジラウレートなどが挙げられる。これらの中でも、ジ-n-オクチル錫ジラウレート、ジ-n-ブチル錫ジラウレートが好ましい。
【0127】
前記バナジウム化合物としては、IV価及びV価のバナジウム化合物が好ましい。IV価及びV価のバナジウム化合物としては、例えば、四酸化二バナジウム(IV)、酸化バナジウムアセチルアセトナート(IV)、シュウ酸バナジル(IV)、硫酸バナジル(IV)、オキソビス(1-フェニル-1,3-ブタンジオネート)バナジウム(IV)、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)、五酸化バナジウム(V)、メタバナジン酸ナトリウム(V)、メタバナジン酸アンモン(V)などが挙げられる。
【0128】
前記ハロゲン化合物としては、例えば、ジラウリルジメチルアンモニウムクロリド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムクロリド、ベンジルジメチルセチルアンモニウムクロリド、ジラウリルジメチルアンモニウムブロミドなどが挙げられる。
【0129】
前記アルデヒド類としては、例えば、テレフタルアルデヒド、ベンズアルデヒド誘導体などが挙げられる。当該ベンズアルデヒド誘導体としては、例えば、ジメチルアミノベンズアルデヒド、p-メトキシベンズアルデヒド、p-エトキシベンズアルデヒド、p-n-オクチルオキシベンズアルデヒドなどが挙げられる。これらの中でも、接着性の観点から、p-n-オクチルオキシベンズアルデヒドが好ましい。
【0130】
前記チオール化合物としては、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2-メルカプトベンゾオキサゾール、デカンチオール、チオ安息香酸などが挙げられる。
【0131】
前記亜硫酸塩としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0132】
前記亜硫酸水素塩としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウムなどが挙げられる。
【0133】
前記チオ尿素化合物としては、例えば、1-(2-ピリジル)-2-チオ尿素、チオ尿素、メチルチオ尿素、エチルチオ尿素、N,N’-ジメチルチオ尿素、N,N’-ジエチルチオ尿素、N,N’-ジ-n-プロピルチオ尿素、N,N’-ジシクロヘキシルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、トリエチルチオ尿素、トリ-n-プロピルチオ尿素、トリシクロヘキシルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、テトラエチルチオ尿素、テトラ-n-プロピルチオ尿素、テトラシクロヘキシルチオ尿素などが挙げられる。
【0134】
本発明の歯科用組成物における重合促進剤(D)の含有量は、得られる歯科用組成物の接着性等の観点から、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましい。
また、重合促進剤(D)の含有量は、10質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0135】
・水(E)
本発明の歯科用組成物は、水(E)をさらに含むことが好ましい。水(E)を含むことにより、歯科用組成物が酸性基を有する重合性単量体(A-1)を含む場合、酸性基を有する重合性単量体(A-1)の脱灰作用を促進することができる。本発明の歯科用組成物の調製に使用される水(E)としては、接着性に悪影響を及ぼす不純物を持ち込まないようにする観点から、蒸留水又はイオン交換水が好ましい。
【0136】
本発明の歯科用組成物における水(E)の含有量は、陶材等の歯科用修復材料及び歯質との両方に対して高い接着性を示す歯科用組成物となることから、1.0質量%以上であることが好ましく、5.0質量%以上であることがより好ましく、8.0質量%以上であることがさらに好ましい。また、水(E)の含有量が多すぎると接着性が低下することから、水(E)の含有量は、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0137】
・有機溶媒(F)
本発明の歯科用組成物は、接着性、塗布性、歯質への浸透性をより向上させることができ、歯科用組成物中の各成分の分離をより防止することができることなどから、有機溶媒(F)をさらに含むことが好ましい。
【0138】
有機溶媒(F)としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-メチル-2-プロパノール等のアルコール溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶媒;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル溶媒;ヘキサン、シクロヘキサン等の非芳香族炭化水素溶媒;トルエン等の芳香族炭化水素溶媒;クロロホルム等の塩素系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル溶媒などが挙げられる。
これらの中でも、生体に対する安全性と、揮発性に基づく除去の容易さの双方を勘案した場合、揮発性有機溶媒が好ましく、水溶性の有機溶媒がより好ましく、アルコール溶媒、ケトン溶媒、エーテル溶媒がさらに好ましい。
水溶性の有機溶媒としては、具体的には、エタノール、2-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、アセトン、テトラヒドロフランが好ましく、エタノール、2-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、テトラヒドロフランがより好ましい。
【0139】
本発明の歯科用組成物における有機溶媒(F)の含有量は、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、8質量%以上であることがさらに好ましい。
また、有機溶媒(F)が多すぎると、エアブローで除去しきれず接着阻害や強度低下を招く恐れがあることから、有機溶媒(F)の含有量は、70質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。
なお、実施形態によっては有機溶媒(F)を含有しなくてもよい。
【0140】
・他の成分
本発明の歯科用組成物は、本発明の効果を低下させない範囲内で、公知の添加剤を含んでもよい。かかる添加剤としては、pH調整剤、重合禁止剤、フッ素イオン放出性成分、紫外線吸収剤、増粘剤、着色剤、蛍光剤、香料、抗菌性物質等が挙げられる。
添加剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0141】
当該抗菌性物質としては、例えば、セチルピリジニウムクロリド、塩化ベンザルコニウム、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロミド、(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルピリジニウムクロリド、(メタ)アクリロイルオキシデシルアンモニウムクロリド、トリクロサンなどが挙げられる。
【0142】
重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ジブチルハイドロキノン、ジブチルハイドロキノンモノメチルエーテル、t-ブチルカテコール、2-t-ブチル-4,6-ジメチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン等が挙げられる。
本発明の歯科用組成物における重合禁止剤の含有量は、0.001~3.0質量%が好ましい。
【0143】
ある好適な実施形態としては、重合性単量体(A)、平均一次粒子径が0.001~1μmのフィラー(B)、重合開始剤(C)、及び有機溶媒(F)を含む、歯科用組成物であって、
前記重合性単量体(A)が2種以上の重合性単量体を含み、
有機溶媒(F)が揮発性有機溶媒を含み、
フィラー(B)の含有量が、重合性単量体(A)の全量100質量%に対して3~25質量%であり、
粘度が100cP以下であり、
前記歯科用組成物から揮発性有機溶媒を揮発させて、重合硬化させて得られる2mm×2mm×25mmの硬化物を37℃水中にて24時間浸漬した後の曲げ強さが110MPa以上である、歯科用組成物が挙げられる。
前記37℃水中浸漬24時間後の曲げ強さの測定方法は、後記する実施例に記載のとおりである。
前記37℃水中浸漬24時間後の曲げ強さは、105MPa以上であることが好ましく、108MPa以上であることがより好ましく、110MPa以上であることがさらに好ましい。
【0144】
本発明の歯科用組成物の粘度は、硬化物の薄膜化の観点から、100cP以下であることが好ましく、50cP以下であることがより好ましく、35cP以下であることがさらに好ましい。
前記歯科用組成物の粘度範囲において、フィラー(B)が既に十分に分散された状態にあるため、コーティング層の上に配置された歯科用補綴物が浮き上がりやすい隅角部にコーティング層を形成した際にも、歯科用補綴物の浮き上がりの発生を効果的に抑制でき、印象取得や仮着材除去時の物理的刺激に耐えることができ、前記曲げ強さを兼ね備えることができる。
【0145】
前記した好適な実施形態に係る歯科用組成物において、各成分は、本明細書の記載に基づいて、適宜変更できる。
例えば、歯科用組成物を歯科用接着性組成物とする場合、重合性単量体(A)が酸性基を有する重合性単量体(A-1)を含むことが好ましい。
【実施例0146】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。以下で用いる略記号は次の通りである。
【0147】
〔酸性基を有する重合性単量体(A-1)〕
MDP:10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
【0148】
〔酸性基を有しない疎水性単量体(A-2x)〕
Bis-GMA:2,2-ビス〔4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル〕プロパン
MAEA:N-メタクリロイルオキシエチルアクリルアミド
U4TH:N,N’-(トリメチルヘキサメチレン)ビス[2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール]テトラメタクリレート
【0149】
〔酸性基を有しない親水性単量体(A-2y)〕
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
DEAA:N,N-ジエチルアクリルアミド
【0150】
〔フィラー(B)〕
R972:日本アエロジル株式会社製の微粒子シリカ「アエロジル(登録商標)R 972」、平均粒子径:16nm
【0151】
〔光重合開始剤(C-1)〕
CQ:カンファーキノン
BAPO:ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド
【0152】
〔重合促進剤(D)〕
DABE:4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル
DEPT:N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン
【0153】
〔有機溶媒(F)〕
EtOH:エタノール
【0154】
〔他の成分〕
BHT:3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン(重合禁止剤)
【0155】
〔重合性単量体混合物(M0)〕
表1に示した配合割合で各種重合性単量体(A)を配合し、重合性単量体混合物(M0)としてa~qを調製した。
【0156】
〔実施例1~9及び比較例3~5〕
実施例1においては、重合性単量体混合物(M0)として表1に記載の「a」47.0質量部と、CQ1.57質量部と、BAPO0.59質量部と、DABE1.57質量部と、DEPT0.59質量部と、BHT0.04質量部とを、メカニカルスターラーを用いて目視で不溶物がなく均一な溶液となるまで撹拌し、重合性単量体含有組成物(P0)を得た。
実施例2~9及び比較例3~5についても実施例1と同様に、表2の記載に基づき表1に記載の重合性単量体混合物(M0)を用い、表2の各実施例及び比較例に記載された比率にて、重合開始剤(C)、重合促進剤(D)及び他の成分であるBHTを、メカニカルスターラーを用いて目視で不溶物がなく均一な溶液となるまで撹拌し、重合性単量体含有組成物(P0)を得た。
なお、表2において、例えば、「P0-a」とは、表1に記載の重合性単量体混合物(M0)の「a」を、重合開始剤(C)と、重合促進剤(D)と、他の成分であるBHTとともに混合して得られる重合性単量体含有組成物(P0)の原料として用いたことを意味する。重合性単量体含有組成物(P2)、(P3)、(P)についても同様である。
【0157】
前記重合性単量体含有組成物(P0)とフィラー(B)を、表2の各実施例及び比較例に記載された比率にて、撹拌羽根を備えたモーター(株式会社SMT製、商品名「HIGH-FLEX DISPENSER HG-92」)の撹拌羽根(株式会社SMT製、商品名「丸羽根型 KO-01」)を用いて4000rpmで2時間撹拌した(以上、工程〔1〕)。これにより、重合性単量体含有組成物(P1)を得た。
【0158】
工程〔1〕で得られた重合性単量体含有組成物(P1)に対し、表2の各実施例及び比較例に記載された比率にて、重合性単量体含有組成物(P2)を、メカニカルスターラーを用いて目視で不溶物がなく均一な溶液となるまで撹拌した(以上、工程〔2〕)。
【0159】
工程〔2〕で得られた重合性単量体含有組成物(P1)及び(P2)の混合物に対し、表2の各実施例及び比較例に記載された比率にて、水(E)及び有機溶媒(F)を、メカニカルスターラーを用いて目視で不溶物がなく均一な溶液となるまで撹拌し、歯科用組成物を得た。
【0160】
〔実施例10、11〕
重合性単量体混合物(M0)に対し、重合開始剤(C)、重合促進剤(D)及び他の成分であるBHTを、メカニカルスターラーを用いて目視で不溶物がなく均一な溶液となるまで撹拌した。これにより、重合性単量体含有組成物(P0)を得た。
【0161】
前記重合性単量体含有組成物(P0)とフィラー(B)を表2の実施例10及び11に記載された比率にて、撹拌羽根を備えたモーター(株式会社SMT製、商品名「HIGH-FLEX DISPENSER HG-92」)の撹拌羽根(株式会社SMT製、商品名「丸羽根型 KO-01」)を用いて4000rpmで2時間撹拌した(以上、工程〔1〕)。これにより、重合性単量体含有組成物(P1)を得た。
【0162】
工程〔1〕で得られた重合性単量体含有組成物(P1)に対し、表2の実施例10及び11に記載された比率にて、重合性単量体含有組成物(P2)を、メカニカルスターラーを用いて目視で不溶物がなく均一な溶液となるまで撹拌した(以上、工程〔2〕)。
【0163】
前記重合性単量体含有組成物(P1)及び(P2)との混合物に対し、表2の実施例10及び11に記載された比率にて、重合性単量体含有組成物(P3)を、メカニカルスターラーを用いて目視で不溶物がなく均一な溶液となるまで撹拌した(以上、工程〔3〕)。
【0164】
工程〔3〕で得られた重合性単量体含有組成物(P1)、(P2)及び(P3)の混合物に対し、表2の実施例10及び11に記載された比率にて、水(E)及び有機溶媒(F)を、メカニカルスターラーを用いて目視で不溶物がなく均一な溶液となるまで撹拌し、歯科用組成物を得た。
【0165】
〔比較例1、2〕
表2に記載の重合性単量体含有組成物(P)に対し、表2の比較例1及び2に記載された比率にて、重合開始剤(C)、重合促進剤(D)及び他の成分であるBHTを、メカニカルスターラーを用いて目視で不溶物がなく均一な溶液となるまで撹拌した。
【0166】
前記重合性単量体含有組成物(P)とフィラー(B)を、表2の比較例1及び2に記載された比率にて、撹拌羽根を備えたモーター(株式会社SMT製、商品名「HIGH-FLEX DISPENSER HG-92」)の撹拌羽根(株式会社SMT製、商品名「丸羽根型 KO-01」)を用いて4000rpmで2時間撹拌した。
【0167】
得られた重合性単量体含有組成物(P)とフィラー(B)の混合物に対し、表2の比較例1及び2に記載された比率にて、水(E)及び有機溶媒(F)を、メカニカルスターラーを用いて目視で不溶物がなく均一な溶液となるまで撹拌し、歯科用組成物を得た。
【0168】
・粘度測定
粘度計(東機産業株式会社製、TV-100EH型粘度計、JIS K 5600-2-3:2014(コーン・プレート粘度法)に準拠、コーン・プレートタイプ)を用いて、0.8°×R24のコーンロータで、サンプル量:0.6mL、ずり速度:7.5N(s-1)、30℃にて測定した。
3分間のプレヒート(30℃)を行った後、測定を開始し、3分後の測定値をその粘度とした(n=2)。
上記方法で、表1で得た重合性単量体混合物(M0:a~q)の粘度の測定を行った。結果を表1に示す。また、表3において、M0n、P2n、Pnの欄に、用いた重合性単量体混合物(M0)に沿って、表1の結果に基づき値を転記した。
また、重合性単量体含有組成物(P0)の粘度(P0n)、重合性単量体含有組成物(P1)と重合性単量体含有組成物(P2)とを混合した混合物(PC〔1+2〕)(ただし、実施例10及び11については、重合性単量体含有組成物(P1)と重合性単量体含有組成物(P2)と重合性単量体含有組成物(P3)との混合物)の粘度(PC〔1+2〕n)、及び最終組成物の粘度について、実施例及び比較例ごとに測定を行った。比較例1及び2は、重合性単量体含有組成物(P)を全量一括混合して最終的に得られる重合性単量体含有組成物(PC)の粘度(PCn)を測定した。結果を表3に示す。
【0169】
・曲げ強さの測定
調製した実施例及び比較例の歯科用組成物に圧縮空気を吹き付けて揮発性有機溶媒を揮発させた。真空脱泡後、ステンレス製の金型(寸法2mm×2mm×25mm)に充填し、上下をスライドガラスで圧接し、歯科用LED光重合器(株式会社モリタ製、商品名「ペンキュアー2000」)で1点10秒、片面を5点ずつ、スライドガラスの両面に光を照射して硬化させて硬化物を得た。
各実施例及び比較例について、硬化物を5本ずつ作製し、該硬化物を金型から取り出した後、37℃の蒸留水中に24時間静置して保管した。
保管後の硬化物を試験供試サンプルとして、万能試験機(株式会社島津製作所製、商品名「AG-I 100N」)を用いて、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/分の条件下で曲げ強さを測定し、各サンプルの測定値の平均値を算出し、曲げ強さとした。結果を表3に示す。
曲げ強さは、105MPa以上であることが好ましく、108MPa以上であることがより好ましく、110MPa以上であることがさらに好ましい。
【0170】
・隅角の被膜厚さの判定
ウシ下顎前歯の唇面に顕著な隅角を有するφ3mm×2mmの1級窩洞を形成した。各実施例又は比較例で作製した歯科用組成物を前記の1級窩洞内にブラシを用いて塗布し、3秒間放置した後、表面をエアブローすることで、塗布した歯科用組成物の流動性が無くなるまで乾燥させた。
続いて、歯科用LED光重合器(株式会社モリタ製、商品名「ペンキュアー2000」)にて10秒間光照射することにより、塗布した歯科用組成物を硬化させた。
歯科用組成物を硬化させた1級窩洞内に歯科充填用コンポジットレジン(クラレノリタケデンタル株式会社製、商品名「クリアフィル(登録商標)AP-X」)を充填し、さらに歯科用LED光重合器にて20秒間光照射することにより、歯科充填用コンポジットレジンを硬化させて被膜厚さ測定サンプルを製造した。
当該被膜厚さ測定サンプルを、37℃の蒸留水中に24時間静置後、ダイヤモンドカッターを用いて1級窩洞の中心を通るように切断した。
切断面を#1500研磨紙を用いて研磨し、最後にダイヤモンドペーストで鏡面研磨した。得られたサンプルの隅角の被膜厚さを、3Dレーザー顕微鏡(キーエンス株式会社製、商品名「VK-9710」)を用いて観察した。
隅角の被膜厚さを1サンプルについて10箇所計測し、その平均値が15μm未満であるものを良好(〇)とし、15μm以上であるものを不良(×)と評価した。結果を表3に示す。
【0171】
【0172】
【0173】
【0174】
表3に示すように、本発明に係る歯科用組成物(実施例1~11)は、35cP以下の粘度であり隅角の被膜厚さが良好であり、さらに110MPa以上の曲げ強さを示した。
それに対して、重合性単量体含有組成物(P)とフィラー(B)を1工程で分散する製造方法にて調製した歯科用組成物(比較例1、2)及び重合性単量体含有組成物(P0)の粘度P0n[cP]と、重合性単量体含有組成物(P2)の粘度P2n[cP]が、P0n>P2nの関係を満たさない歯科用組成物(比較例4、5)は、隅角の被膜厚さが不良であり、フィラーの分散不足であることが確認された。
重合性単量体(A)の全量100質量%に対して、フィラー(B)が3質量%未満の歯科用組成物(比較例3)は、隅角の被膜厚さは良好であったが、曲げ強さが99MPaであり、フィラーの含有量が低減したことによる曲げ強さの低下が確認された。