(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094779
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】縫製装置
(51)【国際特許分類】
D05B 19/14 20060101AFI20240703BHJP
D05B 65/02 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
D05B19/14
D05B65/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211550
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104178
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 尚
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕之
(72)【発明者】
【氏名】早川 範一
(72)【発明者】
【氏名】原田 幸一
(72)【発明者】
【氏名】桝谷 隆志
【テーマコード(参考)】
3B150
【Fターム(参考)】
3B150AA02
3B150AA15
3B150CE01
3B150CE27
3B150EA02
3B150EB03
3B150EB09
3B150FH02
3B150FH03
3B150FH19
3B150JA02
3B150JA03
3B150LA02
3B150LA21
3B150LA53
3B150LA84
3B150LB02
3B150NA02
3B150NA20
3B150NA71
3B150NB16
3B150NC02
3B150NC03
3B150QA04
3B150QA06
3B150QA07
(57)【要約】
【課題】上糸と下糸の切断を適切に行うことができる縫製装置を提供する。
【解決手段】CPUは、最終針一つ手前の針数の縫製時、下降時機T1に中押えを接触位置に下降して被縫製物を押さえる。縫針による縫い目の形成後、CPUは上昇時機T2に中押えを離隔位置に戻さない。被縫製物が最終針の針落ち点に対応する位置に移動する時、CPUは中押えを接触位置に維持して被縫製物を押さえ、被縫製物が上下に揺れ動くことを抑制する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に延び、下端に縫針を装着可能な針棒と、
前記針棒を上下動する針棒機構と、
下端に中押えを有し、前記針棒と平行に上下方向に延びる中押え棒と、
前記縫針を挿通する針穴を有し、被縫製物を載置する針板と、
前記針板の下方で上糸と下糸を切断する糸切機構と、
を備える縫製装置において、
前記中押え棒を上下動し、前記中押えを前記被縫製物と接触する接触位置と、前記接触位置よりも上方の離隔位置の間で上下動する駆動源と、
前記糸切機構による前記上糸と前記下糸の切断直前の最終針より少なくとも一つ手前の針数の縫製時、前記駆動源を制御して、前記中押えを前記接触位置に下降し、前記最終針の縫製完了まで前記中押えを前記離隔位置に戻さない駆動制御部と、
を備えることを特徴とする縫製装置。
【請求項2】
前記中押えの前記接触位置及び前記離隔位置を設定する位置設定部を更に備え、
前記駆動制御部は、前記最終針より一つ手前の縫製時と前記最終針の縫製時との夫々において前記中押えが前記設定した前記接触位置に位置するように前記駆動源を制御し、それらの縫製後においては前記中押えを前記設定した前記離隔位置に戻す制御を行わないこと
を特徴とする請求項1に記載の縫製装置。
【請求項3】
前記位置設定部は、前記糸切機構の動作時の前記中押えの位置を、前記接触位置とは別の位置である糸切り用接触位置に設定可能であって、
前記駆動制御部は前記駆動源を制御して、前記糸切機構の動作開始時には、前記中押えが、前記最終針の縫製時の前記接触位置から前記設定した前記糸切り用接触位置に位置すること
を特徴とする請求項2に記載の縫製装置。
【請求項4】
入力部を更に備え、
前記位置設定部は前記入力部の入力結果を前記接触位置に設定すること
を特徴とする請求項2又は3に記載の縫製装置。
【請求項5】
前記駆動制御部は、
前記最終針より一つ手前の針数の縫製時、前記針棒機構による前記針棒の下降と同期して前記中押えを前記接触位置に下降する制御を行い、
前記針棒機構による前記針棒の上昇時には、前記中押えを前記離隔位置に上昇する制御を行わず、前記最終針の縫製完了まで前記中押えを前記接触位置に維持すること
を特徴とする請求項1に記載の縫製装置。
【請求項6】
前記駆動制御部は前記最終針より一つ手前の針数の縫製時に前記中押えが前記接触位置に位置するよう前記駆動源を制御した後、前記糸切機構による前記上糸と前記下糸の切断終了まで前記中押えを前記離隔位置に上昇する制御を行わず、前記中押えの上下位置を前記接触位置に維持すること
を特徴とする請求項5に記載の縫製装置。
【請求項7】
前記糸切機構が切断した前記上糸の端を前記中押えの上方に移動する糸払いを行う糸払い機構を更に有し、
前記駆動制御部は前記最終針より一つ手前の針数の縫製時に前記中押えが前記接触位置に位置するように前記駆動源を制御した後、前記糸払い機構による前記糸払いの終了まで前記中押えを前記離隔位置に上昇する制御を行わず、前記中押えの上下位置を前記接触位置に維持すること
を特徴とする請求項5に記載の縫製装置。
【請求項8】
前記駆動制御部による動作を実行するか実行しないかを設定する動作設定部を有し、
前記駆動制御部は、前記動作設定部の設定に従い、前記中押えの位置制御を行うこと
を特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の縫製装置。
【請求項9】
前記最終針より一つ手前の針数と前記最終針とのステッチ長と、所定の閾値とを比較するステッチ長比較部を有し、
前記動作設定部は、前記ステッチ長が前記閾値より小さい場合に、前記駆動制御部による動作を実行するよう設定すること
を特徴とする請求項8に記載の縫製装置。
【請求項10】
縫製データが指定する前記最終針の縫製の直前に通常縫製のステッチ長を分断する短ステッチの縫製動作を一針追加する縫製制御部を有し、
前記縫製制御部は、前記短ステッチとして追加した一針の縫製時を、前記最終針の一つ手前の針数の縫製時として、前記中押えの位置制御を行うこと
を特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の縫製装置。
【請求項11】
前記縫製制御部による前記短ステッチの縫製動作の追加を実行するか実行しないかを設定する縫製設定部を有し、
前記縫製制御部は、前記縫製設定部の設定に従い、縫製動作を行うこと
を特徴とする請求項10に記載の縫製装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は縫製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
縫製装置は、中押え、糸切機構を備える。中押えは、被縫製物と接触する接触位置と、接触位置よりも上方の離隔位置との間を上下に移動する。中押えは、縫製時に針棒の上下動に合わせて接触位置に下降し、針板の上面に載置した被縫製物を間欠的に押さえる。糸切機構は、可動刃と固定刃を備える。可動刃は、縫製完了時に先端部が上糸のループ内に突入して下糸と被縫製物側の上糸を捕捉する。可動刃は固定刃と交差し、捕捉した上糸と下糸を切断する。
【0003】
特許文献1に記載の縫製装置は、切断時にも中押えを接触位置に下降し、被縫製物を針板に対して押さえた状態で糸切機構を駆動して、下糸と被縫製物側の上糸を切断する。これにより、縫製装置は、切断後に被縫製物の裏に残る上糸と下糸の長さを短くする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
縫製中、被縫製物は上下に揺れ動き、針板下方のボビンから下糸を余分に引き出すことがある。縫製完了前に引き出された場合、下糸は、切断時に中押えが被縫製物を押さえることで、針板の下方で弛みを生ずる。弛んだ下糸は上糸のループを外側から螺旋状に絡め、ループの開きを小さくする。この場合、可動刃は上糸のループ内に突入できず、切らずに残しておくべき縫針側の上糸を、下糸と被縫製物側の上糸と共にループの外側から切断する虞がある。
【0006】
本発明は上糸と下糸の切断を適切に行うことができる縫製装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、上下方向に延び、下端に縫針を装着可能な針棒と、前記針棒を上下動する針棒機構と、下端に中押えを有し、前記針棒と平行に上下方向に延びる中押え棒と、前記縫針を挿通する針穴を有し、被縫製物を載置する針板と、前記針板の下方で上糸と下糸を切断する糸切機構と、を備える縫製装置において、前記中押え棒を上下動し、前記中押えを前記被縫製物と接触する接触位置と、前記接触位置よりも上方の離隔位置の間で上下動する駆動源と、前記糸切機構による前記上糸と前記下糸の切断直前の最終針より少なくとも一つ手前の針数の縫製時、前記駆動源を制御して、前記中押えを前記接触位置に下降し、前記最終針の縫製完了まで前記中押えを前記離隔位置に戻さない駆動制御部と、を備えることを特徴とする縫製装置が提供される。
【0008】
駆動制御部は、最終針の少なくとも一つ手前の針数の縫製時から、最終針の縫製完了まで、中押えを離隔位置に戻さないことで、被縫製物が上下に揺れ動くことを抑制する。故に、糸切機構による切断前に、下糸は、針板の下方から引き上げられず、切断時に上糸を絡めることがない。よって糸切機構は、切断時に可動刃の先端部が上糸のループ内に突入し、下糸と被縫製物側の上糸を確実に捕捉して共に切断することができる。
【0009】
本態様の前記中押えの前記接触位置及び前記離隔位置を設定する位置設定部を更に備え、前記駆動制御部は、前記最終針より一つ手前の縫製時と前記最終針の縫製時との夫々において前記中押えが前記設定した前記接触位置に位置するように前記駆動源を制御し、それらの縫製後においては前記中押えを前記設定した前記離隔位置に戻す制御を行わなくてもよい。駆動制御部は、最終針の一つ手前の針数の縫製時に中押えを接触位置に移動した後は離隔位置に戻さない。故に被縫製物は、最終針の針落ち点に応じて移動する時、中押えに押さえられて、上下に揺れ動かない。故に、糸切機構による切断前に、下糸は、針板の下方から引き上げられず、切断時に上糸を絡めることがない。よって糸切機構は、切断時に可動刃の先端部を上糸のループ内に突入し、下糸と被縫製物側の上糸を確実に捕捉して共に切断することができる。
【0010】
本態様の前記位置設定部は、前記糸切機構の動作時の前記中押えの位置を、前記接触位置とは別の位置である糸切り用接触位置に設定可能であって、前記駆動制御部は前記駆動源を制御して、前記糸切機構の動作開始時には、前記中押えが、前記最終針の縫製時の前記接触位置から前記設定した前記糸切り用接触位置に位置してもよい。縫製装置は、被縫製物を中押えで押さえた状態で糸切機構により針板下方で上糸と下糸を切断するので、被縫製物裏に残る上糸と下糸の長さを短くすることができる。
【0011】
本態様は入力部を更に備え、前記位置設定部は前記入力部の入力結果を前記接触位置に設定してもよい。縫製装置は作業者が入力した入力結果により接触位置を設定でき、作業者の利便性を向上できる。
【0012】
本態様の前記駆動制御部は、前記最終針より一つ手前の針数の縫製時、前記針棒機構による前記針棒の下降と同期して前記中押えを前記接触位置に下降する制御を行い、前記針棒機構による前記針棒の上昇時には、前記中押えを前記離隔位置に上昇する制御を行わず、前記最終針の縫製完了まで前記中押えを前記接触位置に維持してもよい。駆動制御部は、最終針の一つ手前の針数の縫製時に中押えを接触位置に下降した後は離隔位置に戻さない。故に駆動制御部は、針棒の移動と同期して中押えを移動する処理を簡単にできる。
【0013】
本態様の前記駆動制御部は前記最終針より一つ手前の針数の縫製時に前記中押えが前記接触位置に位置するよう前記駆動源を制御した後、前記糸切機構による前記上糸と前記下糸の切断終了まで前記中押えを前記離隔位置に上昇する制御を行わず、前記中押えの上下位置を前記接触位置に維持してもよい。駆動制御部は、最終針の一つ手前の針数の縫製時に中押えを接触位置に下降した後は、上糸と下糸の切断終了まで中押えを離隔位置に戻さない。故に駆動制御部は、縫製時と切断時の夫々で中押えを接触位置と離隔位置に移動する処理と比べ、中押えの移動の制御を簡単にできる。
【0014】
本態様の前記糸切機構が切断した前記上糸の端を前記中押えの上方に移動する糸払いを行う糸払い機構を更に有し、前記駆動制御部は前記最終針より一つ手前の針数の縫製時に前記中押えが前記接触位置に位置するように前記駆動源を制御した後、前記糸払い機構による前記糸払いの終了まで前記中押えを前記離隔位置に上昇する制御を行わず、前記中押えの上下位置を前記接触位置に維持してもよい。駆動制御部は、最終針の一つ手前の針数の縫製時に中押えを接触位置に下降した後は、糸切機構が切断した上糸の端を払う糸払いの終了まで中押えを離隔位置に戻さない。故に駆動制御部は、縫製時、切断時、糸払い時の夫々で中押えを接触位置と離隔位置に移動する処理と比べ、中押えの移動の制御を簡単にできる。
【0015】
本態様の前記駆動制御部による動作を実行するか実行しないかを設定する動作設定部を有し、前記駆動制御部は、前記動作設定部の設定に従い、前記中押えの位置制御を行ってもよい。縫製装置は、駆動制御部による動作の実行の有無を作業者が設定できるようにすることで、作業者の利便性を向上できる。
【0016】
本態様の前記最終針より一つ手前の針数と前記最終針とのステッチ長と、所定の閾値とを比較するステッチ長比較部を有し、前記動作設定部は、前記ステッチ長が前記閾値より小さい場合に、前記駆動制御部による動作を実行するよう設定してもよい。ステッチ長が所定の閾値より短い場合、下糸は、被縫製物が上下に揺れ動いた場合に針板の下方から引き上げられやすく、切断時に弛みを生じて上糸を絡める可能性がある。故に駆動制御部は、ステッチ長が閾値より短い場合に、最終針の少なくとも一つ手前の針数の縫製時から中押えを接触位置に維持することで、切断時までに被縫製物が上下に揺れ動くことを抑制する。故に糸切機構は、下糸と被縫製物側の上糸を可動刃で確実に捕捉して、共に切断することができる。
【0017】
本態様の縫製データが指定する前記最終針の縫製の直前に通常縫製のステッチ長を分断する短ステッチの縫製動作を一針追加する縫製制御部を有し、前記縫製制御部は、前記短ステッチとして追加した一針の縫製時を、前記最終針の一つ手前の針数の縫製時として、前記中押えの位置制御を行ってもよい。短ステッチの縫製動作がある場合、下糸は、被縫製物が上下に揺れ動いた場合に針板の下方から引き上げられやすく、切断時に弛みを生じて上糸を絡める可能性がある。故に駆動制御部は、縫製制御部が短ステッチの縫製動作を追加した場合に、最終針の少なくとも一つ手前の針数の縫製時から中押えを接触位置に維持することで、切断時までに被縫製物が上下に揺れ動くことを抑制する。故に糸切機構は、下糸と被縫製物側の上糸を可動刃で確実に捕捉して、共に切断することができる。
【0018】
本態様の前記縫製制御部による前記短ステッチの縫製動作の追加を実行するか実行しないかを設定する縫製設定部を有し、前記縫製制御部は、前記縫製設定部の設定に従い、縫製動作を行ってもよい。縫製装置は、縫製制御部による短ステッチの縫製動作の追加の有無を作業者が設定できるようにすることで、作業者の利便性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】針棒機構6、釜機構7を上方右前方視した斜視図である。
【
図3】針棒機構6、釜機構7を上方左前方視した斜視図である。
【
図4】針棒機構6、釜機構7を下方左後方視した斜視図である。
【
図5】縫製装置1の電気的構成を示すブロック図である。
【
図9】最終針一つ手前の針数の縫製時から縫製完了までの主モータ32の出力軸の角度に対する針棒63、中押え機構120及び糸切機構110の動作を示すグラフである。
【
図10】糸切時の被縫製物Wと中押え64の状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態の縫製装置1の物理的構成を説明する。以下説明では、図中に矢印で示す左右、前後、上下を使用する。
図1~
図4に示すように、縫製装置1は門型の縫製装置であり、ベッド部2、脚柱部3、4、同期機構31(
図5参照)、搬送機構9(
図5参照)、梁部5、針棒機構6、中押え機構120、糸払い機構130、釜機構7、糸切機構110、送り機構10(
図5参照)、保持機構8、操作部14を備える。
【0021】
ベッド部2は基部21、第一載置部22、第二載置部76、開口部24、25、蛇腹26、27、一対のレール、枠体28、下レール29を備える。基部21は略直方体状である。第一載置部22は基部21の上面をなし、水平面と平行に延びる板である。第一載置部22は左右方向に延びる開口部23を備える。第二載置部76は第一載置部22の前方に、第一載置部22と面一で配置した矩形板状である。開口部24は第一載置部22の左端部近傍で前後方向に延びる。開口部25は第一載置部22の右端部近傍で前後方向に延びる。開口部24、25は夫々、第一載置部22の前端部と後端部との間に亘って平面視矩形状に延び、上方に開口する部分である。蛇腹26、27は夫々開口部24、25を覆う。一対のレールは蛇腹26、27の下方に設ける。一対のレールは送り機構10の連結部78、79を前後方向に移動可能に支持する。枠体28は格子状の構造体であり、基部21を下方から支持する。下レール29は第一載置部22下方で左右方向に延びる。下レール29は、釜機構7を左右動可能に支持する。ベッド部2は第一載置部22下方に後述の下ベルト94、下スプライン軸34、釜機構7を配置する。
【0022】
脚柱部3、4は夫々略四角柱状である。脚柱部3はベッド部2の左端部の前後方向略中央にて上方に延びる。脚柱部4はベッド部2の右端部の前後方向略中央にて上方に延びる。脚柱部3、4は第一載置部22を間にして左右方向に離れる。同期機構31は針棒機構6と釜機構7とを同期駆動する機構であり、主モータ32(
図5参照)、上スプライン軸33、下スプライン軸34、伝達機構を備える。主モータ32は脚柱部3が支持する。上スプライン軸33、下スプライン軸34は、脚柱部3、4の間にて、左右方向に延びる。同期機構31の伝達機構は脚柱部3に収容し、主モータ32の動力を上スプライン軸33と下スプライン軸34とに伝達する。
【0023】
搬送機構9は被縫製物W(
図10参照)に対して釜機構7と針棒機構6とを水平方向と平行な左右方向に移動でき、後述の上ベルト93、下ベルト94、Xモータ95、伝達機構を備える。本例の縫製装置1は保持機構8が被縫製物Wを保持する。Xモータ95はパルスモータであり、脚柱部4が支持する。搬送機構9の伝達機構は脚柱部4に収容し、Xモータ95の動力を上ベルト93と下ベルト94とに伝達する。上ベルト93は針棒機構6の背面に固定する。下ベルト94は釜機構7の背面に固定する。釜機構7と針棒機構6とはXモータ95の回転に応じて左右動する。
【0024】
梁部5は脚柱部3、4の間に架設し、左右方向に延びる。梁部5は針棒機構6に対して後側にて、針棒機構6を水平方向に平行な左右方向に移動可能に支持する。梁部5は筐体51、蛇腹52、上レール53を備える。筐体51は脚柱部3、4の夫々の上端部と後端部とを左右方向に延びる。蛇腹52は脚柱部3、4、筐体51の夫々の前端部と後述の針棒機構6の左右両端部に架設する。上レール53は左右方向に延びる棒状であり、脚柱部3、4の間に架設する。上レール53は針棒機構6を左右方向に移動可能に支持する。筐体51は上レール53、同期機構31の上スプライン軸33の上側、後側を覆う。蛇腹52は上レール53、上スプライン軸33の前側を覆う。蛇腹52は針棒機構6の左右動に応じ伸縮する。
【0025】
針棒機構6は梁部5に対して前側に設ける。針棒機構6は筐体60、上軸61、伝達機構62、針棒63を備え、針棒63を上下動できる。筐体60は箱状であり、上軸61を収容する。筐体60の背面は上ベルト93と連結し、筐体60は上レール53で支持する。針棒機構6は搬送機構9の駆動で梁部5内の上レール53に沿って左右動できる。上軸61は左右方向に延びる。伝達機構62は上スプライン軸33の動力を上軸61に伝達する。針棒63は上下方向に延び、下端部に縫針65を装着できる。針棒63は上軸61と連結し、主モータ32の駆動で上下動する。
【0026】
中押え機構120は、中押え棒69、中押えモータ68、伝達機構121を備える。
図2では、中押えモータ68、伝達機構121の図示を省略する。中押え棒69は下端に中押え64を有し、針棒63と平行に上下方向に延びる。中押え64は針棒63の上下動に応じて縫針65が通過する貫通穴を有し、被縫製物Wを上側から間欠的に押さえる。中押えモータ68は筐体60上面に固定したパルスモータである。中押えモータ68は中押え棒69を上下動し、中押え64を被縫製物Wと接触する接触位置と、接触位置よりも上方の離隔位置の間で上下動する。伝達機構121は中押えモータ68の出力軸と中押え棒69に連結し、中押えモータ68の出力軸の回動を中押え棒69に伝達する。
【0027】
糸払い機構130は糸切機構110が切断した上糸M(
図10参照)の端を中押え64の上方に移動する糸払いを行う。糸払い機構130はエアシリンダ131、リンク134、糸払い軸135、糸払いレバー136を備える。糸払い機構130は、縫製装置1の筐体60の背面に固定する。エアシリンダ131は出力軸を吸引する。リンク134はエアシリンダ131の出力軸と糸払い軸135とに連結し、糸払い軸135は出力軸の移動によりリンク134を介して回動する。糸払いレバー136は糸払い軸135に固定し、糸払い軸135の回動により揺動する。糸払いレバー136先端は、エアシリンダ131が出力軸を吸引した時、待機位置から糸払い位置まで移動する。
図2、
図3に示すように、待機位置は、糸払いレバー136先端が糸払い軸135の右方にある。糸払い位置は、糸払いレバー136先端が糸払い軸135の下方にある。糸払いレバー136先端は待機位置から糸払い位置に移動する過程で、上下位置において縫針65の下端と、中押え64の筒部の上端との間を通り、上糸Mを捕捉する。エアシリンダ131による吸引が停止した時、ばねの付勢力で糸払いレバー136先端は待機位置に移動する。故に、糸払いレバー136は上糸Mを中押え64の上方に移動できる。下糸Lは被縫製物Wの裏側(針板74と対向する側)に残る。
【0028】
釜機構7は針棒機構6の下方且つベッド部2の内部に配置する。釜機構7は筐体70、下軸71、伝達機構72、釜73を備える。筐体70は箱状であり、左上端部に針板74を備える。針板74は縫針65を挿通可能な針穴75を有する。針穴75は針棒63の下方に在る。
図10に示すように、針穴75は上端部に座ぐり77を有する。座ぐり77は上側程孔の径が大きいテーパ状の部分である。
図2に示すように、筐体70の背面は下ベルト94と連結する。筐体70は下スプライン軸34を挿通する。筐体70は下レール29で支持する。釜機構7は搬送機構9の駆動で針棒機構6と同期して下レール29に沿って左右動できる。伝達機構72は下スプライン軸34の動力を下軸71に伝達する。釜73は下軸71に連結し、主モータ32の駆動で針棒63の上下動と同期して回動する。
【0029】
糸切機構110は針板74下方で上糸Mと下糸Lを切断する。
図3、
図4に示すように、糸切機構110は固定刃111、可動刃112、糸切モータ113、リンク機構114を備える。リンク機構114の一部と糸切モータ113は筐体70の外側に設ける。糸切機構110はリンク機構114を介して可動刃112を移動し、上糸Mと下糸Lを切断する。固定刃111は針板74の下側に固定する。可動刃112は固定刃111に対して水平に回動可能に設ける。可動刃112は固定刃111から離れた位置にある待機位置と、固定刃111と交差して上糸Mと下糸Lを切断する切断位置と、切断位置に対して待機位置とは反対側の最大可動位置との間を移動できる。糸切モータ113はパルスモータであり、可動刃112を駆動する。リンク機構114は糸切モータ113の出力軸と可動刃112とに連結し、出力軸の回動を可動刃112に伝達する。可動刃112が待機位置から最大可動位置に移動する時、可動刃112の先端部116は上糸Mのループ内に突入し、上糸Mを捕捉する。可動刃112が最大可動位置から待機位置まで回動復帰する時、可動刃112の刃部と固定刃111の刃部は最大可動位置と待機位置の間の切断位置にて、下糸Lと、上糸Mのループのうち被縫製物W側の上糸Mとを同時に切断する。
【0030】
送り機構10は被縫製物Wを保持した保持機構8を針棒機構6と釜機構7とに対して相対的に前後動できる。送り機構10は、連結部78、79を備える。連結部78左下端部はベッド部2の開口部24にあるレールに配置する。連結部79右下端部はベッド部2の開口部25にあるレールに配置する。連結部78、79は保持機構8と連結する。保持機構8は被縫製物Wを保持できる。保持機構8は上枠81、下枠82、エアシリンダ83、84を有する。上枠81と下枠82は平面視矩形状の枠であり、間に被縫製物Wを挟持する。上枠81はエアシリンダ83、84を駆動源として下枠82に対して上下に開閉する。
【0031】
送り機構10は第一載置部22の下方に、Yモータ101(
図5参照)、伝達機構、一対のベルトを備える。Yモータ101はパルスモータである。送り機構10の伝達機構はYモータ101を連結部78、79に固定した一対のベルトに伝達する。保持機構8はYモータ101の回転に応じてベッド部2の一対のレールに沿って前後動する。
【0032】
操作部14は第二載置部76の左端部で支持する。操作部14はスイッチ群12、表示部13を備える。スイッチ群12は作業者の操作に応じて各種指示を入力する。表示部13は液晶ディスプレイであり、各種画像を表示できる。
【0033】
図5を参照し、縫製装置1の電気的構成を説明する。縫製装置1の制御部15はCPU16、ROM17、RAM18、記憶装置19、入出力インターフェース(I/O)20、駆動回路41~48等を有する。CPU16は縫製装置1の動作を統括制御する。ROM17は各種処理を実行する為のプログラム等を予め記憶する。RAM18は各種処理実行中に生じる各種情報を一時的に記憶する。記憶装置19は不揮発性で、各種設定値を記憶する。
【0034】
各駆動回路41~48、エンコーダ55~59、スイッチ群12はI/O20に接続する。駆動回路41は同期機構31の主モータ32と接続し、CPU16の制御指令で主モータ32を駆動する。駆動回路42は搬送機構9のXモータ95と接続し、CPU16の制御指令でXモータ95を駆動する。駆動回路43は送り機構10のYモータ101と接続し、CPU16の制御指令でYモータ101を駆動する。駆動回路43は保持機構8のエアシリンダ83、84と接続し、CPU16の制御指令でエアシリンダ83、84を駆動する。駆動回路45はエアシリンダ131と接続し、CPU16の制御指令でエアシリンダ131を駆動する。駆動回路46は中押えモータ68と接続し、CPU16の制御指令で中押えモータ68を駆動する。駆動回路47は糸切モータ113と接続し、CPU16の制御指令で糸切モータ113を駆動する。駆動回路48は表示部13と接続し、CPU16の制御指令で表示部13に各種情報を表示する。
【0035】
エンコーダ55は主モータ32の出力軸の回転位置、回転速度を検出し、検出結果をI/O20に入力する。エンコーダ55の検出結果は針棒63と縫針65の上下位置を示す。エンコーダ56はXモータ95の出力軸の回転方向、回転位置、回転速度を検出し、検出結果をI/O20に入力する。エンコーダ56の検出結果は、針棒機構6と釜機構7との左右位置を示す。エンコーダ57はYモータ101の出力軸の回転方向、回転位置、回転速度を検出し、検出結果をI/O20に入力する。エンコーダ57の検出結果は、保持機構8の前後位置を示す。エンコーダ58は中押えモータ68の出力軸の回転方向、回転位置、回転速度を検出し、検出結果をI/O20に入力する。エンコーダ58の検出結果は、中押え64の上下位置を示す。エンコーダ59は糸切モータ113の出力軸の回転方向、回転位置、回転速度を検出し、検出結果をI/O20に入力する。エンコーダ59の検出結果は、可動刃112の回動位置を示す。スイッチ群12は各種指示を検出し、検出結果をI/O20に入力する。
【0036】
図6~
図10を参照し、主処理を説明する。主処理は、縫製装置1が被縫製物Wに縫製データに従い縫目を形成後、糸切機構110で上糸Mと下糸Lを切断し、糸払い機構130で上糸Mの切断端縁を針板74の下方から上方に移動する処理である。縫製装置1は縫製時、針落ち点に縫針65を下降する前に中押えモータ68を制御して中押え64を接触位置に移動し、縫針65の上昇後に中押え64を離隔位置に移動して縫い目を形成する。縫い目の形成後、縫製装置1は、糸切機構110による上糸Mと下糸Lの切断時と、糸払い機構130による糸払いを行う時との夫々において、中押え64が接触位置に位置するように制御する。本実施形態において、縫製装置1は、被縫製物Wが上下に揺れ動くことを抑制するため、最終針一つ手前の針数での縫製時に中押え64を接触位置に移動した後、縫製完了まで、中押え64を離隔位置に戻さず接触位置に維持する。
【0037】
主処理は作業者が表示部13に表示するメニューの中からスイッチ群12を操作して処理の開始を指定した時に起動する。CPU16はROM17から主処理用のプログラムをRAM18に読み出して主処理を実行する。縫製データは保持機構8の縫製領域内の針落ち点の位置を一針毎に指示する座標データを含み、記憶装置19に予め記憶する。
図9に示すように、記憶装置19は時機T1~T7を記憶する。なお、
図9では、主モータ32の出力軸の角度に対する針棒63の上下位置、可動刃112の回動位置、中押え64の上下位置、糸払いレバー136の回動位置を太線で示す。主モータ32の出力軸の角度は針棒63の上下位置が上死点である時を0度とする。
【0038】
図6に示すように、CPU16は記憶装置19を参照し縫製データを取得する(S1)。CPU16は、縫製時における中押え64の接触位置及び離隔位置を設定する(S2)。接触位置は縫製時に中押え64が上下動する時の下端位置である。上記したように、縫製装置1は、最終針一つ手前の針数の縫製時から縫製完了まで、中押え64を離隔位置に戻さず接触位置に維持する処理を行う。S2で設定する接触位置は、縫製開始時から最終針二つ手前の針数の縫製時までの中押え64の接触位置と同じ位置としてもよいし、異なる位置に設定できるようにしてもよい。CPU16は被縫製物Wの厚み、材質等の縫製条件又は縫製データが指定する条件に応じて接触位置を自動で設定してもよい。CPU16は、縫製時の中押え64の離隔位置に、中押え64下端が被縫製物Wの上面から僅かに上方となる位置を設定する。CPU16は、中押え64が被縫製物Wと接触する位置から、第一載置部22の厚みD1(
図10参照)分下方の位置を接触位置に設定する。CPU16は、中押え64が被縫製物Wと接触する位置から、第一載置部22の厚みD1と、針穴75の座ぐり77の高さD2(
図10参照)との和だけ下方の位置を糸切り時の接触位置である糸切位置に設定する。CPU16はスイッチ群12の入力結果に基づき、接触位置、離隔位置及び糸切位置を設定してもよい。
【0039】
CPU16は、下降時機T1,T3と上昇時機T2を設定する(S3)。下降時機T1,T3は、縫製時に針棒63が下降して縫針65が針落ち点に落ちる前に中押え64を接触位置に移動し、被縫製物Wを中押え64で押さえる時機である。上昇時機T2は、針棒63が上昇し、被縫製物Wが次の針落ち点に移動する前に中押え64を離隔位置に移動して被縫製物Wの押さえを解除する時機である。CPU16はスイッチ群12の入力結果を下降時機T1,T3及び上昇時機T2に設定してもよい。CPU16は被縫製物Wの厚み、材質等の縫製条件又は縫製データが指定する条件に応じて下降時機T1,T3及び上昇時機T2を自動で設定してもよい。
図9に示すように、本実施形態のCPU16は、あらかじめ記憶装置19が記憶する範囲R1内で下降時機T1,T3を設定し、範囲R2内で上昇時機T2を設定する。CPU16は下降時機T1,T3及び上昇時機T2を夫々、主モータ32の回転角度で表し、記憶装置19に記憶する。なお、下降時機T1と下降時機T3は、主モータ32の回転角度における同一の時機である。便宜上、縫製開始時から最終針一つ手前の針数までの縫製時における下降時機をT1とし、最終針の縫製時における下降時機をT3とする。
【0040】
図6に示すように、CPU16は、作業者によるスイッチ群12の入力結果に基づき、動作設定及び縫い目設定を行う(S4)。動作設定は、最終針一つ手前の針数での縫製時から縫製完了まで、中押え64を離隔位置に戻さない処理の実行の有無を設定する。動作設定がONの時、CPU16は、最終針一つ手前の針数での縫製時から縫製完了まで、中押え64を離隔位置に戻さない処理を実行する。縫い目設定は、最終針一つ手前の針落ち点と最終針の針落ち点との間の縫い目(ステッチ)を二つの短い縫い目(短ステッチ)に分割する処理の実行の有無を設定する。縫い目設定がONの時、CPU16は、縫製データにおいて、最終針一つ手前の針落ち点と最終針の針落ち点との間に新たな針落ち点を追加する。
【0041】
CPU16は縫製開始指示を検出したか否かを判断する(S6)。作業者はスイッチ群12を操作して縫製開始指示を入力する。縫製開始指示を未検出時(S6:NO)、CPU16は縫製開始指示を検出するまでS6で待機する。縫製開始指示を検出時(S6:YES)、CPU16はS1で取得した縫製データの座標データを縫製順に読出し、座標データに従い、搬送機構9、送り機構10、同期機構31を駆動し、保持機構8の縫製領域内に縫製する処理を開始する(S7)。
【0042】
図7に示すように、CPU16は次の座標データが最終針一つ手前の針数の座標データか否かを判断する(S11)。最終針は縫製順序が最後の針落ち点である。次の座標データが最終針一つ手前の針数の座標データではない時(S11:NO)、CPU16はS16~S27の処理を実行し、S1で取得した縫製データに従った縫製を行う。CPU16はエンコーダ55の検出結果によりS3で設定した下降時機T1であるか否かを判断する(S16)。下降時機T1ではない時(S16:NO)、CPU16は下降時機T1になるまでS16で待機する。下降時機T1である時(S16:YES)、CPU16は縫製中の座標データが最終針の座標データか否かを判断する(S17)。縫製中の座標データが最終針の座標データではない時(S17:NO)、縫製中の座標データは、縫製開始時から最終針一つ手前の針数までのいずれかの座標データである。CPU16は中押えモータ68を駆動して中押え64をS2で設定した接触位置に下降する(S18)。
図10に示すように、中押え64が接触位置に位置する時、中押え64は被縫製物Wを針板74側に押さえる。中押え64が押さえた部分の被縫製物Wは変形し、被縫製物Wの下端は第一載置部22の上端よりも下方となる。針棒63は下降した後上昇し、縫針65で被縫製物Wに縫い目を形成する。
【0043】
図7に示すように、CPU16はエンコーダ55の検出結果によりS3で設定した上昇時機T2であるか否かを判断する(S19)。上昇時機T2ではない時(S19:NO)、CPU16は上昇時機T2になるまでS19で待機する。上昇時機T2である時(S19:YES)、CPU16は縫製中の座標データが最終針一つ手前の針数の座標データか否かを判断する(S21)。縫製中の座標データが最終針一つ手前の針数の座標データではない時(S21:NO)、CPU16は中押えモータ68を駆動して中押え64をS2で設定した離隔位置に上昇する(S27)。被縫製物Wは次の針落ち点に移動する。CPU16は処理をS11に戻し、S1で取得した縫製データに従った縫製を行う。
【0044】
被縫製物Wへの縫製が継続し、次の座標データが最終針一つ手前の針数の座標データである時(S11:YES)、CPU16はS4で設定した縫い目設定がONであるか否かを判断する(S12)。縫い目設定がOFFの時(S12:NO)、CPU16は処理をS16に移行し、最終針一つ手前の針落ち点と最終針の針落ち点との間の縫い目を分割する処理を実行しない。縫い目設定がONの時(S12:YES)、CPU16は処理をS16に移行し、CPU16は、縫製データにおいて、最終針一つ手前の針落ち点と最終針の針落ち点の座標データに基づき、二点間の距離を二分する位置に、針落ち点の座標データを追加する縫い目分割処理を行う(S13)。CPU16は、新たに追加した針落ちてんの座標データを、最終針一つ手前の針落ち点の座標データとして設定する(S14)。CPU16は処理をS16に移行する。
【0045】
縫い目の分割時、縫製中の座標データは最終針二つ手前の針数の座標データとなるため、CPU16はS16~S27の処理を行って最終針二つ手前の針数の縫製を行う。最終針一つ手前の針数の縫製時、CPU16は下降時機T1に中押え64を接触位置に下降した後、上昇時機T2に、S4で設定した動作設定がONであるか否かを判断する(S21:YES、S22)。動作設定がOFFの時(S22:NO)、CPU16は処理をS27に移行し、通常の縫製時の中押え64の動作を行う。動作設定がONの時(S22:YES)、CPU16は縫製データに基づき、最終針一つ手前の針落ち点と最終針の針落ち点との間の縫い目の長さを演算する(S23)。縫い目の長さが所定の閾値以上の場合(S24:YES)、CPU16は処理をS27に移行し、中押え64を中押え64を離隔位置に上昇する(S27)。被縫製物Wが最終針の針落ち点に移動した時、針板74下方のボビンから繰り出される下糸Lは、少なくとも針穴75から最終針一つ手前の縫い目に延びる長さが閾値以上ある。この場合、被縫製物Wが上下に揺れ動いた時、下糸Lは、被縫製物Wの下側で針穴75から最終針一つ手前の縫い目に延びる部分だけで動きに対応できる。故に下糸Lは針板74下方から引き上げられず、切断時に弛みを生じないので、上糸Mを絡めることがない。故にCPU16は、最終針一つ手前の針数の縫製時において中押え64を離隔位置に戻さない処理を実行しない。
【0046】
縫い目の長さが所定の閾値より短い場合(S24:NO)、CPU16は、最終針一つ手前の針数の縫製時において、針棒63の上昇時に中押え64を接触位置で維持し(S26)、離隔位置に戻さない。CPU16は処理をS11に戻す。
【0047】
被縫製物Wへの縫製が継続し、下降時機T3において縫製中の座標データが最終針の座標データである時(S17:YES)、
図8に示すように、CPU16は動作設定がONであるか否かを判断する(S31)。動作設定がOFFの時(S31:NO)、中押え64は最終針一つ手前の針数の縫製時に離隔位置に戻されている。故にCPU16は、中押えモータ68を駆動して中押え64を接触位置に下降し(S33)、処理をS34に移行する。動作設定がONの時(S31:YES)、中押え64は最終針一つ手前の針数の縫製時から離隔位置に戻されていない。CPU16は、中押え64を接触位置に維持し(S32)、処理をS34に移行する。
【0048】
CPU16はエンコーダ55の検出結果により糸切時機T4であるか否かを判断する(S34)。糸切時機T4ではない時(S34:NO)、CPU16は糸切時機T4になるまでS34で待機する。糸切時機T4である時(S34:YES)、CPU16は中押えモータ68を駆動して中押え64をS2で設定した糸切位置に移動する(S36)。
図10に示すように、中押え64が糸切位置に位置する時、被縫製物Wの下端は針板74の上端よりも下方となる。即ち、被縫製物Wの下端の一部は針穴75内に位置する。
【0049】
図8に示すように、CPU16は糸切モータ113を駆動して糸切機構110の可動刃112を切断位置まで移動し、上糸Mと下糸Lを切断する(S37)。切断時、可動刃112は先端部116を上糸Mのループ内に突入させ、上糸Mを下糸Lと共に捕捉する。
図10に示すように、糸切機構110は位置Pで、下糸Lと、上糸Mのループのうち被縫製物W側の上糸Mとを同時に切断する。中押え64が被縫製物Wを接触位置よりも下方の糸切位置で押さえるので、糸切機構110は、被縫製物Wに残る上糸Mと下糸Lの長さがより短くなるように切断できる。
【0050】
図8に示すように、CPU16は針棒機構6による針棒63の上昇時に中押え64を糸切位置で維持する(S38)。CPU16は糸切機構110による上糸Mと下糸Lの切断時に、中押えモータ68を制御して中押え64を糸切位置に移動した後、糸払い機構130による糸払い終了まで、中押え64の上下位置を糸切位置で維持する。
【0051】
CPU16はエンコーダ55の検出結果により糸払い時機T5であるか否かを判断する(S39)。糸払い時機T5ではない時(S39:NO)、CPU16は糸払い時機T5になるまでS39で待機する。糸払い時機T5である時(S39:YES)、CPU16はエアシリンダ131を駆動して糸払い機構130の糸払いレバー136を移動し、糸切機構110が切断した上糸Mの端を中押え64の筒部の上方に移動する糸払いを行う(S41)。CPU16は上昇時機T6で中押えモータ68を駆動して、中押え64を離隔位置までで上昇する(S42)。CPU16は、縫製完了時機T7で、搬送機構9、送り機構10、同期機構31の駆動を停止し、縫製を完了する(S43)。CPU16は以上で主処理を終了する。
【0052】
以上説明したように、CPU16は、最終針の少なくとも一つ手前の針数の縫製時から、最終針の縫製完了まで、中押え64を離隔位置に戻さないことで、被縫製物Wが上下に揺れ動くことを抑制する(S18,S26)。故に、糸切機構110による切断前に、下糸Lは、針板74の下方から引き上げられず、切断時に上糸Mを絡めることがない。よって糸切機構110は、切断時に可動刃112の先端部116が上糸Mのループ内に突入し、下糸Lと被縫製物W側の上糸Mを確実に捕捉して共に切断することができる。
【0053】
CPU16は、最終針の一つ手前の針数の縫製時に中押え64を接触位置に移動した後は離隔位置に戻さない。故に被縫製物Wは、最終針の針落ち点に応じて移動する時、中押え64に押さえられて、上下に揺れ動かない。故に、糸切機構110による切断前に、下糸Lは、針板74の下方から引き上げられず、切断時に上糸Mを絡めることがない。よって糸切機構110は、切断時に可動刃112の先端部116を上糸Mのループ内に突入し、下糸Lと被縫製物W側の上糸Mを確実に捕捉して共に切断することができる。
【0054】
縫製装置1は、被縫製物Wを中押え64で押さえた状態で糸切機構110により針板74下方で上糸Mと下糸Lを切断するので、被縫製物W裏に残る上糸Mと下糸Lの長さを短くすることができる。
【0055】
縫製装置1は作業者がスイッチ群12を介して入力した入力結果により接触位置を設定でき、作業者の利便性を向上できる。
【0056】
CPU16は、最終針の一つ手前の針数の縫製時に中押え64を接触位置に下降した後は離隔位置に戻さない。故にCPU16は、針棒63の移動と同期して中押え64を移動する処理を簡単にできる。
【0057】
CPU16は、最終針の一つ手前の針数の縫製時に中押え64を接触位置に下降した後は、上糸Mと下糸Lの切断終了まで中押え64を離隔位置に戻さない。故に駆動制御部は、縫製時と切断時の夫々で中押え64を接触位置と離隔位置に移動する処理と比べ、中押え64の移動の制御を簡単にできる。
【0058】
CPU16は、最終針の一つ手前の針数の縫製時に中押え64を接触位置に下降した後は、糸切機構110が切断した上糸Mの端を払う糸払いの終了まで中押え64を離隔位置に戻さない。故にCPU16は、縫製時、切断時、糸払い時の夫々で中押え64を接触位置と離隔位置に移動する処理と比べ、中押え64の移動の制御を簡単にできる。
【0059】
縫製装置1は、CPU16による動作の実行の有無を作業者が設定できるようにすることで、作業者の利便性を向上できる。
【0060】
ステッチ長(縫い目の長さ)が所定の閾値より短い場合、下糸Lは、被縫製物Wが上下に揺れ動いた場合に針板74の下方から引き上げられやすく、切断時に弛みを生じて上糸Mを絡める可能性がある。故にCPU16は、ステッチ長が閾値より短い場合に、最終針一つ手前の針数の縫製時から中押え64を接触位置に維持することで、切断時までに被縫製物Wが上下に揺れ動くことを抑制する。故に糸切機構110は、下糸Lと被縫製物W側の上糸Mを可動刃112で確実に捕捉して、共に切断することができる。
【0061】
短ステッチの縫製動作がある場合、下糸Lは、被縫製物Wが上下に揺れ動いた場合に針板74の下方から引き上げられやすく、切断時に弛みを生じて上糸Mを絡める可能性がある。故に駆動制御部は、縫製制御部が短ステッチの縫製動作を追加した場合に、最終針一つ手前の針数の縫製時から中押え64を接触位置に維持することで、切断時までに被縫製物Wが上下に揺れ動くことを抑制する。故に糸切機構110は、下糸Lと被縫製物W側の上糸Mを可動刃112で確実に捕捉して、共に切断することができる。
【0062】
縫製装置1は、CPU16による短ステッチの縫製動作の追加の有無を作業者が設定できるようにすることで、作業者の利便性を向上できる。
【0063】
上記実施形態において、中押えモータ68は本発明の「駆動源」の一例である。S18、S26を実行するCPU16は本発明の「駆動制御部」の一例である。S2を実行するCPU16は本発明の「位置設定部」の一例である。糸切位置は本発明の「糸切り用接触位置」の一例である。スイッチ群12は本発明の「入力部」の一例である。S4で動作設定を行うCPU16は本発明の「動作設定部」の一例である。S24を実行するCPU16は本発明の「ステッチ長比較部」の一例である。S13を実行するCPU16は本発明の「縫製制御部」の一例である。S4で縫い目設定を行うCPU16は本発明の「縫製設定部」の一例である。
【0064】
本発明の縫製装置は上記実施形態の他に種々変更できる。縫製装置1の種類は各種工業用ミシン、家庭用ミシン等適宜変更してよい。縫製装置1はスイッチ群12を備えなくてもよいし、スイッチ群12に変えて、タッチパネル等の他の入力部を備えてもよい。
【0065】
縫製装置1の処理を実行する為の指令を含むプログラムは、縫製装置1でプログラムを実行するまでに、縫製装置1の記憶装置に記憶されればよい。従って、プログラムの取得方法、取得経路及びプログラムを記憶する機器の夫々は、適宜変更してもよい。例えば、縫製装置1のCPU16が実行するプログラムは、ケーブル又は無線通信を介して、他の装置から受信し、フラッシュメモリ等の記憶装置に記憶されてもよい。他の装置は、例えば、PC、及びネットワーク網を介して接続されるサーバを含む。
【0066】
縫製装置1が実行する処理の一部又は全部はCPU16とは別の電子機器(例えば、ASIC)が実行してもよい。縫製装置1が実行する処理は、複数の電子機器(例えば、複数のCPU)が分散処理してもよい。縫製装置1が実行する処理の各ステップは、必要に応じて順序の変更、ステップの省略、及び追加ができる。本発明の範囲は縫製装置1上で稼動しているオペレーティングシステム(OS)等が、CPU16の指令で各処理の一部又は全部を行う態様も含む。例えば、上記実施形態に以下の変更を適宜加えてもよい。
【0067】
縫製装置1はS2、S3、S4の少なくともいずれか一つの処理を省略又は変更してよい。縫製時の接触位置は、縫製開始時から最終針二つ手前の針数までの位置と、最終針一つ手前の針数から最終針までの位置とを同じ位置としたが、異なる位置としてもよい。この場合において、最終針一つ手前の縫製時と最終針の縫製時との間には被縫製物Wの移動が含まれるため、最終針一つ手前の針数の縫製時における接触位置は、それ以前の接触位置よりも離隔位置寄りであるとよい。糸切位置は接触位置に含まれるとしたが、糸切位置と接触位置は同じ位置であってもよい。
【0068】
中押え64が被縫製物Wと接触する位置から厚みD1分下方の位置を接触位置の一例としたが、接触位置は被縫製物Wの厚み、材質等に応じて適宜設定可能である。また、中押え64が被縫製物Wと接触する位置から厚みD1+D2分下方の位置を糸切り用接触位置の一例としたが、同様に糸切位置も被縫製物Wの厚み、材質等に応じて適宜設定してもよい。中押え64下端が被縫製物Wの上面から僅かに上方となる位置を離隔位置の一例としたが、離隔位置は被縫製物Wの厚み等に応じて適宜設定可能である。
【0069】
CPU16は最終針一つ手前の縫製時に中押え64を接触位置に下降してから縫製完了まで離隔位置に戻さない制御を行ったが、最終針二つ手前の縫製時あるいはそれ以前の縫製時に中押え64を接触位置に下降し、最終針の縫製時まで離隔位置に戻さず接触位置に維持する制御を行ってもよい。CPU16は、糸払い機構130による糸払いを行う時、中押え64を糸切位置に維持したが、接触位置に戻してもよいし、糸払い用の接触位置を別途設定してもよい。CPU16は中押え64を糸切位置に移動して糸切機構110による上糸Mと下糸Lの切断後、中押え64を離隔位置から移動し、その後、中押え64を再び糸切位置あるいは接触位置に移動して糸払い機構130による糸払いを行ってもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 縫製装置
6 針棒機構
12 スイッチ群
16 CPU
63 針棒
64 中押え
65 縫針
68 中押えモータ
69 中押え棒
74 針板
75 針穴
110 糸切機構
130 糸払い機構
L 下糸
M 上糸
W 被縫製物