(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094784
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】アルコール由来の好ましくない味又は臭いが低減された飲料
(51)【国際特許分類】
C12G 3/04 20190101AFI20240703BHJP
【FI】
C12G3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211561
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100129458
【弁理士】
【氏名又は名称】梶田 剛
(72)【発明者】
【氏名】神津 早希
(72)【発明者】
【氏名】清原 和樹
【テーマコード(参考)】
4B115
【Fターム(参考)】
4B115LH01
4B115LH03
4B115LH11
4B115LP02
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、アルコール飲料におけるアルコール由来の刺激臭、えぐみ及び渋味からなる群から選択される少なくとも一種を低減することである。
【解決手段】ミリスチシンを用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミリスチシンの含有量が20ppb以上であり、アルコール含有量が30v/v%以下であり、糖類の含有量が4.0g/100ml以下であり、果汁含有量が果汁率に換算して8.0w/w%未満であり、そして波長550nmにおける吸光度が0.68未満である、アルコール飲料。
【請求項2】
ミリスチシンの含有量が20~1000ppbである、請求項1に記載のアルコール飲料。
【請求項3】
2.0~6.6の範囲のpHを有する、請求項1又は2に記載のアルコール飲料。
【請求項4】
果実及び/又は野菜の凍結粉砕浸漬酒を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項5】
アルコール含有量が30v/v%以下であり、糖類の含有量が4.0g/100ml以下であり、果汁含有量が果汁率に換算して8.0w/w%未満であり、そして波長550nmにおける吸光度が0.68未満であるアルコール飲料において、アルコール由来の刺激臭、えぐみ、及び渋味からなる群から選択される少なくとも一種を低減する方法であって、
当該飲料におけるミリスチシンの含有量が20ppb以上となるように原料を混合することを含む、前記方法。
【請求項6】
原料を混合する前記工程が、
果実及び/又は野菜の一種以上を凍結して凍結物を得る工程;
当該凍結物を微粉砕して凍結微粉砕物を得る工程;
当該微粉砕物をそのまま、又は解凍してペースト状にしてから、アルコール含有液に浸漬して浸漬酒を得る工程;及び
当該浸漬酒を他の原料と混合する工程;
を含み、前記飲料が当該浸漬酒を含む、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミリスチシンを含有するアルコール飲料、及び関連する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコール飲料においては、アルコールが有する刺激感や酒辛さがしばしば問題となる。そのような問題を解決するための方法がいくつか知られている。例えば、乳分とカラメル色素とを組み合わせて用いる方法(特許文献1)、特定の糖類を用いる方法(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-129517号公報
【特許文献2】特開2019-193602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アルコール飲料は、飲用時及び飲用後にアルコール(エタノール)由来の好ましくない味又は臭い、例えば、刺激臭、えぐみ、及び渋味をもたらす。
【0005】
ここで、アルコール由来の刺激臭とは、飲用時に感じられる、鼻腔内を刺激する香りを意味し、アルコール由来のえぐみとは、飲用後に感じられる苦味を意味し、そしてアルコール由来の渋味とは、飲用後に感じられる収斂味を意味する。
【0006】
本発明の課題は、アルコール飲料において、アルコール由来の刺激臭、えぐみ、及び渋味からなる群から選択される少なくとも一種を低減することのできる新たな手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ミリスチシンが、アルコール由来の刺激臭、えぐみ及び渋味からなる群から選択される少なくとも一種を低減できることを見出した。
【0008】
本発明は、以下のものに関するが、これらに限定されない。
[1]ミリスチシンの含有量が20ppb以上であり、アルコール含有量が30v/v%以下であり、糖類の含有量が4.0g/100ml以下であり、果汁含有量が果汁率に換算して8.0w/w%未満であり、そして波長550nmにおける吸光度が0.68未満である、アルコール飲料。
[2]ミリスチシンの含有量が20~1000ppbである、[1]に記載のアルコール飲料。
[3]2.0~6.6の範囲のpHを有する、[1]又は[2]に記載のアルコール飲料。
[4]果実及び/又は野菜の凍結粉砕浸漬酒を含む、[1]~[3]のいずれか一項に記載の飲料。
[5]アルコール含有量が30v/v%以下であり、糖類の含有量が4.0g/100ml以下であり、果汁含有量が果汁率に換算して8.0w/w%未満であり、そして波長550nmにおける吸光度が0.68未満であるアルコール飲料において、アルコール由来の刺激臭、えぐみ、及び渋味からなる群から選択される少なくとも一種を低減する方法であって、
当該飲料におけるミリスチシンの含有量が20ppb以上となるように原料を混合することを含む、前記方法。
[6]原料を混合する前記工程が、
果実及び/又は野菜の一種以上を凍結して凍結物を得る工程;
当該凍結物を微粉砕して凍結微粉砕物を得る工程;
当該微粉砕物をそのまま、又は解凍してペースト状にしてから、アルコール含有液に浸漬して浸漬酒を得る工程;及び
当該浸漬酒を他の原料と混合する工程;
を含み、前記飲料が当該浸漬酒を含む、[5]に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アルコール飲料において、アルコール由来の刺激臭、えぐみ及び渋味からなる群から選択される少なくとも一種を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の飲料、及び関連する方法について、以下に説明する。
【0011】
なお、特に断りがない限り、本明細書において用いられる「ppb」は、重量/容量(w/v)のppbを意味し、これは「μg/L」と同義である。
【0012】
(アルコール)
本発明の飲料は、アルコール飲料、すなわちアルコールを含有する飲料である。本明細書に記載の「アルコール」との用語は、特に断らない限りエタノールを意味する。
【0013】
本発明の飲料のアルコール含有量は、30v/v%以下であり、好ましくは1~30v/v%、より好ましくは3~30v/v%である。
【0014】
本明細書においては、飲料のアルコール含有量は、公知のいずれの方法によっても測定することができるが、例えば、振動式密度計によって測定することができる。具体的には、飲料から濾過又は超音波によって必要に応じて炭酸ガスを抜いた試料を調製し、そして、その試料を水蒸気蒸留し、得られた留液の15℃における密度を測定し、国税庁所定分析法(平19国税庁訓令第6号、平成19年6月22日改訂)の付表である「第2表 アルコール分と密度(15℃)及び比重(15/15℃)換算表」を用いて換算して求めることができる。あるいは、ガスクロマトグラフィーやHPLCを用いてもよい。
【0015】
本発明の飲料には、アルコールをどのような手段で含有させてもよいが、典型的には、本発明の飲料はアルコール原料を含有し、それによってアルコールを含有する。アルコール原料としては特に限定はないが、例えば、スピリッツ類(ラム、ウオッカ、ジン、テキーラ等)、リキュール類、ウイスキー、ブランデー又は焼酎などが挙げられ、さらにはビールなどの醸造酒類でもよい。これらのアルコール原料は、それぞれ単独で、又は併用して用いることができる。
【0016】
本発明のアルコール飲料の種類は特に限定されないが、好ましくは、ハイボール、チューハイ(酎ハイ)、カクテル、サワーなどである。「ハイボール」、「チューハイ」との用語は、本発明の飲料との関連で用いられる場合、水と蒸留酒と炭酸とを含有する飲料を意味する。ハイボール、チューハイは、さらに果汁を含有してもよい。また、「サワー」
との用語は、本発明の飲料との関連で用いられる場合、スピリッツと、酸味のある果汁又は香料、例えば柑橘類果汁又は香料と、炭酸とを含有する飲料を意味する。「カクテル」との用語は、本発明の飲料との関連で用いられる場合、ベースとなる酒に果汁等を混ぜて作られたアルコール飲料を意味する。
【0017】
なお、本発明の飲料が比較的高いアルコール含有量を有する場合には、それを希釈して飲用することもあり得る。
【0018】
(ミリスチシン)
本発明の飲料はミリスチシンを含有する。ミリスチシン(myristicin)は、特定の植物から得られる精油中に含まれることが知られているフェニルプロペン化合物である。本発明の飲料に含まれるミリスチシンの由来は限定されず、たとえば、ミリスチシンを植物から得てもよいし、化学合成により得てもよい。
【0019】
本発明の飲料はミリスチシンを20ppb以上含有し、これによって、アルコール由来の刺激臭、えぐみ及び渋味からなる群から選択される少なくとも一種を低減する。当該低減効果を生じさせるためには高いミリスチシンの含有量が望まれるが、当該含有量が高すぎると、ミリスチシン自体が有するスパイス風の風味が目立ち過ぎることもある。本発明の飲料におけるミリスチシン含有量の範囲は、好ましくは20~1000ppb、より好ましくは30~900ppb、より好ましくは40~800ppb、より好ましくは50~800ppb、より好ましくは50~700ppb、より好ましくは50~600ppb、より好ましくは60~600ppb、より好ましくは70~500ppb、より好ましくは80~450ppb、より好ましくは90~400ppb、より好ましくは100~400ppb、より好ましくは100~350ppbである。
【0020】
飲料中のミリスチシンの含有量の測定には、公知のいずれの方法を用いてもよいが、例えば、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS法)に供することによって分析することができる。GC/MS法の測定条件の例は以下のとおりである。
【0021】
GC/MS条件
ガスクロマトグラフ:GC8890(Agilent社製)
質量分析器:MSD5977B(Agilent社製)
カラム:HP-INNOWAX(Agilent社製) 内径0.25mm、長さ60m、膜厚0.5μm
移動相:He(流速:1.0mL/分 定流量)
試料導入法:FE-DHS法(フルエバポレーション-ダイナミックヘッドスペース法)
オーブン温度:40℃(3分)→4℃/分→230℃(14.5分)
トランスファーライン温度:220℃
イオン源温度:230℃
四重極温度:150℃
モード:SIM/スキャンモード
DHS(ダイナミックヘッドスペース):
吸着樹脂:TENAX
サンプリング温度:80℃
窒素ガスパージ量:3.5L
窒素ガスパージ流量:100mL/min
TDU:
昇温条件:30℃(0.3分)→720℃/分→240℃(3分)
トランスファーライン温度:300℃
CIS:
昇温条件:20℃(0.5分)→720℃/分→250℃(20分)
(糖類)
本発明の飲料は糖類を含有してもよいし、含有しなくてもよいが、低い糖類含有量を有する。本明細書において用いられる「糖類」との用語は、単糖類又は二糖類であって、糖アルコールでないものを意味し、したがって、飲料中の糖類含有量は、それらの単糖類及び二糖類の総含有量を意味する。なお、当該飲料は、糖類を含有する場合、単糖類だけを含有してもよいし、二糖類だけを含有してもよいし、それらを組み合わせて含有してもよい。
【0022】
上記の単糖類としては、例えば、ブドウ糖、果糖、D-キシロース、L-アラビノースを挙げることができる。また、上記の二糖類として、例えば、ショ糖、ラクトースを挙げることができる。
【0023】
本発明の飲料中の糖類含有量は、4.0g/100ml以下、好ましくは3.9g/100ml以下、より好ましくは3.8g/100ml以下、より好ましくは3.7g/100ml以下、より好ましくは3.6g/100ml以下、より好ましくは3.5g/100ml以下、より好ましくは3.4g/100ml以下、より好ましくは3.3g/100ml以下、より好ましくは3.2g/100ml以下、より好ましくは3.1g/100ml以下、より好ましくは3.0g/100ml以下、より好ましくは2.0g/100ml以下、より好ましくは1.0g/100ml以下である。下限値は特に重要ではないが、たとえば、0g/100ml、0.01g/100ml、0.1g/100ml、0.5g/100ml、又は0.8g/100mlであってよい。好ましい当該糖類含有量の範囲の例は、0.01~4.0g/100ml、0.01~3.4g/100ml、又は0.01~3.0g/100mlである。そのような低い糖類含有量では、アルコール由来の刺激臭、えぐみ及び渋味からなる群から選択される少なくとも一種を低減する本発明の効果が特に顕著となる。
【0024】
飲料中の糖類含有量を測定する方法は特に限定されないが、例えば、高速液体クロマトグラフ法である。高速液体クロマトグラフ法の好ましい測定条件の例を以下に示す。
【0025】
装置:株式会社島津製作所 LC-20シリーズ
検出器:UV検出器(SPD-20A)、RID検出器(RID-20A)
カラム:COSMOSIL Sugar-D 4.6mm×250mm(ナカライテスク株式会社)
分析成分:単糖類、二糖類
移動相:75%アセトニトリル
流速:1.0ml/min
オーブン温度:30℃
(果汁)
本発明の飲料は、果汁を含有してもよいし、含有しなくてもよいが、当該飲料における果汁の含有量は、果汁率に換算して8.0w/w%未満、好ましくは7.0w/w%以下、好ましくは6.0w/w%以下、好ましくは5.0w/w%以下、好ましくは4.0w/w%以下、好ましくは3.0w/w%以下、好ましくは2.0w/w%以下、より好ましくは1.0w/w%以下である。果汁率の下限値は特に重要ではないが、たとえば、0w/w%、0.01w/w%、0.1w/w%、0.5w/w%、又は0.8w/w%であってよい。好ましい果汁率の範囲の例は、0.01以上8.0w/w%未満、0.01~7.0w/w%、0.01~4.0w/w%、又は0.01~3.0w/w%である。このような低い果汁含有量では、アルコール由来の刺激臭、えぐみ及び渋味からなる群から選択される少なくとも一種を低減する本発明の効果が特に顕著となる。
【0026】
本発明では、飲料中の「果汁率」を、飲料100g中に配合される果汁配合量(g)を用いて下記換算式によって計算することとする。また濃縮倍率を算出する際はJAS規格に準ずるものとし、果汁に加えられた糖質、はちみつ等の糖用屈折計示度を除くものとする。
【0027】
果汁率(w/w%)=<果汁配合量(g)>×<濃縮倍率>/100mL/<飲料の比重>×100
本発明の飲料が果汁を含有する場合、当該果汁は、果実を搾汁して得られる果汁をそのまま使用するストレート果汁、それを濃縮して得られる濃縮果汁などのいずれの形態であってもよい。また、透明果汁、混濁果汁を使用することもでき、果実の外皮を含む全果を破砕し種子など特に粗剛な固形物のみを除いた全果果汁、果実を裏ごしした果実ピューレ、或いは、乾燥果実の果肉を破砕もしくは抽出した果汁を用いることもできる。
【0028】
果汁の種類は、特に限定されないが、例えば、柑橘類果汁(バレンシアオレンジ、ネーブルオレンジなどオレンジ類、グレープフルーツなどのグレープフルーツ類、レモン、ライム、シークヮーサー、ダイダイ、ゆず、カボス、すだち、シトロン、ブッシュカン、などの香酸柑橘類、ナツミカン、ハッサク、ヒュウガナツ、スウィーティー、デコポンなどの雑柑類、イヨカン、タンカンなどのブンタン類、マンダリンオレンジ、ウンシュウミカン、ポンカン、紀州ミカンなどのミカン類、キンカンなどのキンカン類の果汁など)、リンゴ果汁、ブドウ果汁、モモ果汁、熱帯果実果汁(パイナップル果汁、グァバ果汁、バナナ果汁、マンゴー果汁、アセロラ果汁、ライチ果汁、パパイヤ果汁、パッションフルーツ果汁等)、その他果実の果汁(ウメ果汁、ナシ果汁、アンズ果汁、スモモ果汁、ベリー果汁、キウイフルーツ果汁等)、イチゴ果汁、メロン果汁などが挙げられる。これらの果汁は、1種類を単独使用しても、2種類以上を併用してもよい。当該果汁は、好ましくは柑橘類果汁であり、より好ましくは、オレンジ類、グレープフルーツ類、及び香酸柑橘類からなる群から選択され、より好ましくはオレンジ、グレープフルーツ、レモン、及びライムからなる群から選択される。
【0029】
(吸光度)
ミリスチシンは常温において無色透明な液体であり、飲料に強い色を付与しない。つまり、本発明は、ミリスチシンが配合される飲料が本来有する色に大きな影響を与えない。このことを利用した結果、本発明の飲料は無色であるか、又はその色が薄い。この性質は、例えば紫外可視分光光度計(UV-1600(株式会社島津製作所製)など)を用いて測定した波長550nmにおける吸光度をもって規定することができる。具体的には、本発明の飲料の波長550nmにおける吸光度は、0.68未満である。好ましい吸光度の例は、波長550nmにおいて、0.67以下、0.65以下、0.63以下、0.60以下、0.55以下、0.50以下、0.40以下、0.30以下、0.20以下、及び0.10以下である。当該吸光度の下限値は特に重要ではないが、例えば、当該吸光度は、0以上、0.01以上、0.02以上、0.05以上、0.07以上、又は0.10以上であってもよい。
【0030】
(pH)
一態様において、本発明に係るアルコール飲料のpHは、2.0~6.6、好ましくは2.6~5.0、より好ましくは3.0~4.5、より好ましくは3.3~4.2である。pHがこのような範囲にあると、本発明の低減効果が良好となる。
【0031】
pHの調整のためには、リンゴ酸、リン酸、乳酸、酒石酸、コハク酸、グルコン酸、フィチン酸、酢酸、フマル酸、重曹、炭酸水素ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、炭酸カリウムなどのpH調整剤を用いることができ、また、他の成分(例えば果汁など)の含有量を調整することでpHを調整してもよい。
【0032】
pHの測定方法は特に限定されないが、温度の影響を少なくするため、測定には25℃の恒温槽を用いることが好ましい。本明細書において、飲料のpHは、炭酸ガス抜きの状態で測定されたpHを意味する。したがって、たとえば、飲料のガス抜きと振とうの工程を実施したのちにpHを測定することができる。
【0033】
(炭酸ガス)
本発明の飲料は、炭酸ガスを含んでもよい。炭酸ガスは、当業者に通常知られる方法を用いて飲料に付与することができ、例えば、これらに限定されないが、二酸化炭素を加圧下で飲料に溶解させてもよいし、ツーヘンハーゲン社のカーボネーター等のミキサーを用いて配管中で二酸化炭素と飲料とを混合してもよいし、また、二酸化炭素が充満したタンク中に飲料を噴霧することにより二酸化炭素を飲料に吸収させてもよいし、飲料と炭酸水とを混合してもよい。これらの手段を適宜用いて炭酸ガス圧を調節する。
【0034】
本発明の飲料が炭酸ガスを含有する場合、その炭酸ガス圧は、特に限定されないが、好ましくは0.7~4.5kgf/cm2、より好ましくは0.8~2.8kgf/cm2である。本発明において、炭酸ガス圧は、京都電子工業製ガスボリューム測定装置GVA-500Aを用いて測定することができる。例えば、試料温度を20℃にし、前記ガスボリューム測定装置において容器内空気中のガス抜き(スニフト)、振とう後、炭酸ガス圧を測定する。本明細書においては、特に断りがない限り、炭酸ガス圧は、20℃における炭酸ガス圧を意味する。
【0035】
(凍結粉砕浸漬酒)
本発明の飲料は、果実及び/又は野菜の凍結粉砕浸漬酒を含んでもよい。その含有量は限定されないが、例えば、0.1v/v%以上、又は0.1~1v/v%である。
【0036】
果実及び/又は野菜の凍結粉砕浸漬酒は、原料となる果実及び/又は野菜の一種以上を凍結して凍結物を得る工程、当該凍結物を微粉砕して凍結微粉砕物を得る工程、当該微粉砕物をそのまま、又は解凍してペースト状にしてから、アルコール含有液に浸漬して得られる浸漬酒を意味する。
【0037】
当該凍結粉砕浸漬酒を製造するために用いられる果実は、限定されないが、例えば、柑橘類(バレンシアオレンジ、ネーブルオレンジなどオレンジ類、グレープフルーツなどのグレープフルーツ類、レモン、ライム、シークヮーサー、ダイダイ、ゆず、カボス、すだち、シトロン、ブッシュカン、などの香酸柑橘類、ナツミカン、ハッサク、ヒュウガナツ、スウィーティー、デコポンなどの雑柑類、イヨカン、タンカンなどのブンタン類、マンダリンオレンジ、ウンシュウミカン、ポンカン、紀州ミカンなどのミカン類、キンカンなどのキンカン類など)、リンゴ、ブドウ、モモ、熱帯果実(パイナップル、グァバ、バナナ、マンゴー、アセロラ、ライチ、パパイヤ、パッションフルーツ等)、その他果実(ウメ、ナシ、アンズ、スモモ、ベリー、キウイフルーツ等)、イチゴ、メロンなどが挙げられる。これらの果実は、1種類を単独使用しても、2種類以上を併用してもよい。当該果実は、好ましくは柑橘類果実であり、より好ましくは、オレンジ類、グレープフルーツ類、及び香酸柑橘類からなる群から選択され、より好ましくはオレンジ、グレープフルーツ、レモン、及びライムからなる群から選択される。
【0038】
当該凍結粉砕浸漬酒を製造するために用いられる野菜には、特別な場合を除き、葉茎菜類、果菜類(ただし、市場では果実として扱われているものを除く)、花菜類、根菜類のほか、豆類、食用の植物種子が含まれ、シソ、ショウガ、トウガラシ、ハーブ(例えば、ミント、レモングラス、コリアンダー、イタリアンパセリ、ローズマリー)、ワサビ等も含まれる。好ましい野菜の例は、トマト、セロリ、ニンジン、パセリ、ホウレン草、クレソン、ピーマン、レタス、キャベツ、ビート、ショウガ類(ショウガ、葉ショウガ)、シソ(青ジソ、赤ジソ)である。
【0039】
以下において、凍結粉砕浸漬酒に関して果実を例にして説明することがあるが、そのような説明は、特別な場合を除き、野菜にも当てはまる。
【0040】
また、本明細書において、原料に関して「果実」、「野菜」というときは、特別な場合を除き、汁液および固形分を含む生の果実全体または野菜全体を指し、これらは、「果汁」や「野菜汁」と区別される。「果汁」や「野菜汁」との用語を用いる場合には、特別な場合を除き、圧搾等の工程によりあらかじめ得た果実または野菜の汁液を指し、これには、原料として果実及び/又は野菜の全体を用いた結果として最終製品等に含まれることとなる果実及び/又は野菜の汁液は包含されない。
【0041】
凍結工程においては、原料果実及び/又は野菜を凍結して固化する。凍結のために用いられる凍結機、凍結方法は、ともに限定されず、空気凍結法、エアブラスト凍結法、接触式凍結法、ブライン凍結法、液体窒素を用いる凍結法のいずれ用いてもよい。好ましい凍結方法は、液体窒素を用いる凍結法である。液体窒素の温度は-196℃である。凍結する温度は、用いる原料果実、野菜の脆下温度以下であることが好ましい。本明細書における「脆化温度」とは、対象物が低温で急激に脆化(脆く、破壊されやすくなる)する温度を意味する。脆化温度は、高分子などで実施される従来の方法を適用して決定することができる。
【0042】
凍結工程に供する果実及び野菜の大きさは、凍結機に投入可能であれば限定されない。しかしながら、なるべく短時間で凍結するためには小さくカットしたほうが適切な場合があり、なるべく傷めず、また空気に曝さずに凍結するためにはあまり切り分けないほうが適切な場合がある。果実及び野菜は、果皮および種子を含んだ全体を凍結工程に付すこと
ができ、あるいは、非可食部や好ましくない成分を含む部分を除去してから凍結工程に付すこともできる。このような部分の除去は、凍結工程の後に行うこともできる。凍結工程を経て、果実又は野菜の凍結物を得ることができる。
【0043】
微粉砕工程では、当該凍結物を微粉砕する。この工程に用いる粉砕機、微粉砕方法は、ともに限定されない。微粉砕は、凍結物が固化している状態を保つように低温で、好ましくは液体窒素を用いた凍結条件下で行うことが好ましい。液体窒素の温度は-196℃である。微粉砕の程度は特に限定されないが、得られる微粉砕物の平均粒径が好ましくは約1μm~約1000μm、より好ましくは約1μm~200約μm、より好ましくは約1μm~約100μmとなるまで行う。なお、本明細書における平均粒径は、メディアン径(ふるい上分布曲線の50%に対応する粒径。中位径、または50%粒子径ともいう。)を意味する。微粉砕工程を経て、果実及び/又は野菜の凍結微粉砕物を得ることができる。
【0044】
得られた凍結微粉砕物を、次に、浸漬工程に付す。具体的には、凍結微粉砕物を、アルコール含有液に浸漬する。凍結微粉砕物は、そのまま浸漬工程に付してもよいし、解凍してペースト状にしてから付してもよい。浸漬工程温度は、熱をかけない限り特に限定されない。また、浸漬期間も限定されないが、典型的には、約半日~数カ月、又は約1日間~約3日間であり、数カ月であってもよい。
【0045】
アルコール含有液とは、飲用可能、又は食品製造に用いることができるエタノールを含む液体を意味し、それは水を含有してもよい。典型的には、アルコール含有液はエタノールと水の混合液であり、それには、蒸留酒や醸造酒類が包含される。この工程においては、好ましくは、アルコール含有液は蒸留酒である。この工程に用いるアルコール含有液のアルコール含有量は、好ましくは、約15.0v/v%~約100.0v/v%のものを用い、好ましくは約25.0v/v%~約60.0v/v%である。
【0046】
浸漬比も限定されないが、典型的には、アルコール含有液1Lに対して凍結微粉砕物約1g~約500g、約5g~約300g、又は約10g~約200gである。
【0047】
浸漬工程を経て、凍結粉砕浸漬酒である浸漬酒が得られる。浸漬酒は、そのまま用いてもよいし、ろ過を通じて固形物を除いてから用いてもよい。
【0048】
本発明の飲料の製造のためには、当該凍結粉砕浸漬酒を、他の材料と混合すればよい。
【0049】
(他の成分)
本発明の飲料には、本発明の効果を妨げない範囲で、通常の飲料と同様、各種添加剤等を配合してもよい。各種添加剤としては、例えば、酸味料、香料、ビタミン類、色素類、酸化防止剤、乳化剤、保存料、調味料、エキス類、pH調整剤、増粘剤、品質安定剤等を挙げることができる。
【0050】
(容器詰め飲料)
本発明の飲料は、容器詰めの形態で提供することができる。容器の形態には、缶等の金属容器、ペットボトル、紙パック、瓶、パウチなどが含まれるが、これらに限定されない。例えば、本発明の飲料を容器に充填した後にレトルト殺菌等の加熱殺菌を行う方法や、飲料を殺菌して容器に充填する方法を通じて、殺菌された容器詰め製品を製造することができる。
【0051】
(関連する方法)
ある側面において、本発明は、アルコール含有量が30v/v%以下であり、糖類含有量が4.0g/100ml以下であり、果汁の含有量が果汁率に換算して8.0w/w%未満であり、そして波長550nmにおける吸光度が0.68未満であるアルコール飲料において、アルコール由来の刺激臭、えぐみ及び渋味からなる群から選択される少なくとも一種を低減する方法に関する。当該方法は、当該飲料におけるミリスチシンの含有量が20ppb以上となるように原料を混合することを含む。
【0052】
前記の原料の例は、ミリスチシン及びそれを含有する植物抽出物、水などである。
【0053】
飲料中の成分の種類、その含有量、吸光度、pH、炭酸ガス圧、及びそれらの好ましい範囲、並びにその調整方法については、本発明の飲料に関して上記した通りであるか、それらから自明である。そのタイミングも限定されない。さらに、追加的な他の成分の具体例や量も、飲料に関して上記した通りである。
【0054】
例えば、当該飲料が果実及び/又は野菜の凍結粉砕浸漬酒を含む場合には、原料を混合する前記工程は、
果実及び/又は野菜の一種以上を凍結して凍結物を得る工程;
当該凍結物を微粉砕して凍結微粉砕物を得る工程;
当該微粉砕物をそのまま、又は解凍してペースト状にしてから、アルコール含有液に浸漬して浸漬酒を得る工程;及び
当該浸漬酒を他の原料と混合する工程;
を含んでもよい。
【0055】
(数値範囲)
明確化のために記載すると、本明細書における数値範囲は、その端点、即ち下限値及び上限値を含む。
【実施例0056】
以下、具体的な実験例を示しつつ、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実験例に限定されるものではない。
【0057】
なお、以下の実験において作成されたすべての飲料の波長550nmにおける吸光度は0.05~0.67の範囲内にあった。
【0058】
(実験1) ミリスチシンの効果
ニュートラルスピリッツと水を混合して、アルコール含有量が7v/v%、15v/v%、30v/v%、及び40v/v%である複数のアルコール水溶液を調製し、それらに種々の量のミリスチシンを添加して、サンプル飲料を調製した。得られた全てのサンプル飲料において、糖類含有量は0g/100mlであり、果汁率は0w/w%であり、pHは3.3~6.6の範囲内の特定の値であった。
【0059】
次いで、各サンプル飲料について専門パネル4名が以下の基準にしたがって官能評価し、そのスコアの平均値を求めた。いずれの項目においてもより高いスコアがよりよい結果を示す。評価の個人差を少なくするために、各パネルは、各スコアに対応した標準品を用いて、事前に各スコアと味との関係の共通認識を確立した。
【0060】
(アルコール(EtOH)由来の刺激臭)
6点:アルコール由来の刺激臭を全く感じない
5点:アルコール由来の刺激臭をほとんど感じない
4点:アルコール由来の刺激臭が弱い
3点:アルコール由来の刺激臭をやや感じる
2点:アルコール由来の刺激臭を感じる
1点:アルコール由来の刺激臭を強く感じる
(アルコール(EtOH)由来のえぐみ及び渋味)
6点:アルコール由来のえぐみ及び渋味を全く感じない
5点:アルコール由来のえぐみ及び渋味をほとんど感じない
4点:アルコール由来のえぐみ及び渋味が弱い
3点:アルコール由来のえぐみ及び渋味をやや感じる
2点:アルコール由来のえぐみ及び渋味を感じる
1点:アルコール由来のえぐみ及び渋味を強く感じる
(ミリスチシン由来のスパイス風の風味)
6点:スパイス風の香味は全く感じられない
5点:スパイス風の香味はほとんど感じられない
4点:スパイス風の香味はあまり感じられない
3点:スパイス風の香味がわずかに感じられる
2点:スパイス風の香味がやや感じられる
1点:スパイス風の香味が強く感じられる
これらの評価基準と評価方法は、他の実験でも用いた。
【0061】
各飲料の配合及び官能評価結果は、以下の表に示したとおりである。
【0062】
【0063】
上記の表から明らかなように、特定範囲のアルコール含有量において、特定以上の量のミリスチシンがアルコール由来の刺激臭、えぐみ及び渋味からなる群から選択される少なくとも一種を低減することができた。
【0064】
なお、上記の表には、「総合評価」が示されているが、これは、アルコール含有量が本願発明の範囲にある飲料(7v/v%、15v/v%、及び30v/v%)についての評価であり、刺激臭、えぐみ・渋味、スパイス風の風味の三項目の全てにおいて3点以上のスコアを示したものに「〇」を与え、それ以外には「×」を与えた。特定のミリスチシン含有量範囲で「〇」の評価が得られた。
【0065】
(実験2) レモンフレーバーが付与された飲料における検討
実験1と同様の実験を、飲料サンプルにさらに炭酸と高甘味度甘味料と酸味料とpH調整剤を加えてレモンフレーバーが付与された飲料を調製して実施した。全ての飲料サンプルにおいて、使用した炭酸、高甘味度甘味料、酸味料、pH調整剤の量は同じレベルであった。得られた全てのサンプル飲料において、糖類含有量は0g/100mlであり、果汁率は0w/w%であり、pHは3.3~5.0の範囲内の特定の値であった。
【0066】
官能評価では、実験1に記載した評価項目に加えて、「果実感向上」についても評価した。その評価基準は以下のとおりである。
【0067】
(果実感向上)
6点:果実感の向上がとてもある
5点:果実感の向上がある
4点:果実感の向上がややある
3点:果実感の向上がわずかにある
2点:果実感の向上が殆どない
1点:果実感の向上がない
各飲料の配合及び評価結果を以下の表に示す。
【0068】
【0069】
ミリスチシンとアルコール以外の追加的な成分を含有する飲料においても、実験1と同様の傾向が認められた。
【0070】
なお、表中の「総合評価」では、刺激臭、えぐみ・渋味、スパイス風の風味の三項目のすべてにおいて3点以上のスコアを示したサンプルに「〇」を与えた。
【0071】
(実験3) pHの影響
実験1と同様にして、ミリスチシンを含有するアルコール水溶液を調製し、さらに、pHを調整してサンプル飲料を得た。pH調整には食添用75%燐酸(日本化学工業株式会社)を用いた。全てのサンプル飲料において、ミリスチシン含有量は100ppbであり、アルコール含有量は7w/w%であり、糖類含有量は0g/100mlであり、果汁率は0w/w%であった。
【0072】
得られた全てのサンプル飲料について実験1と同様の官能評価試験を実施した。結果を以下の表に示す。
【0073】
【0074】
表中の「総合評価」では、刺激臭、えぐみ・渋味、スパイス風の風味の三項目のすべてにおいて3点以上のスコアを示したサンプルに「〇」を与え、それ以外のサンプルに「×」を与えた。
【0075】
pHが特定範囲にある場合に特に良好な結果が得られた。特に、pH3.0~4.5の範囲では、全ての評価結果が非常に好ましいものであった。
【0076】
(実験4) 糖類の影響
まず、実験1と同様にして、ミリスチシンを含有するアルコール水溶液を調製し、さらに、種々の量の糖類(ショ糖)を加えてサンプル飲料を調製した。全てのサンプル飲料において、ミリスチシン含有量は100ppbであり、アルコール含有量は7w/w%であり、pHは3.3~6.6の範囲内の特定の値であり、果汁率は0w/w%であった。
【0077】
さらに、コントロールとして、ミリスチシンを含有していないことを除いて上記のサンプル飲料と同じサンプル飲料を調製した。
【0078】
得られた全てのサンプル飲料について実験1と同様の官能評価試験を実施した。次いで、ミリスチシンを含有する各飲料のスコアから、対応する量の糖類を含有するコントロールのスコアを差し引き、値を求めた。得られた値は、ミリスチシンによるアルコール由来の刺激臭、えぐみ及び渋味からなる群から選択される少なくとも一種の低減効果を示す(各項目に関する値又はその合計値が大きいほど低減効果が高いことを示す)。結果を以下の表に示す。
【0079】
【0080】
糖類含有量が特定範囲にある場合に、当該低減効果が大きくなった。
【0081】
(実験5) 果汁量の影響
糖類を添加する代わりに種々の量の果汁を添加したことを除いて実験4と同様の実験を実施した。用いた果汁は透明レモン果汁であった。この実験でも、ミリスチシンを含有する各飲料のスコアから、対応する量の糖類を含有するコントロールのスコアを差し引き、低減効果を示す値を求めた。コントロール以外の全てのサンプル飲料において、ミリスチシン含有量は100ppbであり、アルコール含有量は7w/w%であり、pHは2.0~5.0の範囲内にあり、糖類含有量は1.0g/100ml以下であった。結果を以下の表に示す。
【0082】
【0083】
果汁含有量が特定範囲にある場合に、ミリスチシンによる低減効果が大きくなった。