IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 上村工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094787
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】無電解ルテニウムめっき浴
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/44 20060101AFI20240703BHJP
【FI】
C23C18/44
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211566
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000189327
【氏名又は名称】上村工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊井 義人
(72)【発明者】
【氏名】丸尾 洋一
(72)【発明者】
【氏名】小田 幸典
【テーマコード(参考)】
4K022
【Fターム(参考)】
4K022AA02
4K022AA05
4K022AA31
4K022AA42
4K022BA18
4K022DA01
4K022DB02
4K022DB03
4K022DB04
4K022DB07
(57)【要約】
【課題】一般的な還元剤であるアミンボラン化合物または次亜リン酸ナトリウムを使用した無電解ルテニウムめっき浴であって、浴安定性を向上することができるとともに、ルテニウムの析出性に優れた無電解ルテニウムめっき浴を提供することを目的とする。
【解決手段】ルテニウム化合物と、還元剤と、安定剤とを少なくとも含有する無電解ルテニウムめっき浴であって、還元剤が、アミンボラン化合物及び次亜リン酸ナトリウムの少なくとも一方であり、安定剤が、ヒドロキシルアミン化合物とアミン系化合物からなり、ヒドロキシルアミン化合物が、硫酸ヒドロキシルアミン及び塩化ヒドロキシルアミンの少なくとも一方である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルテニウム化合物と、還元剤と、安定剤とを少なくとも含有する無電解ルテニウムめっき浴であって、
前記還元剤が、アミンボラン化合物及び次亜リン酸ナトリウムの少なくとも一方であり、
前記安定剤が、ヒドロキシルアミン化合物とアミン系化合物からなり、
前記ヒドロキシルアミン化合物が、硫酸ヒドロキシルアミン及び塩化ヒドロキシルアミンの少なくとも一方である
ことを特徴とする無電解ルテニウムめっき浴。
【請求項2】
前記アミン系化合物が、グリシン、グリシルグリシン、アスパラギン酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム、L-アルギニン、β-アラニン、セリン、トレオニン、チロシン、アスパラギン、グルタミン、及びリシンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の無電解ルテニウムめっき浴。
【請求項3】
前記ルテニウム化合物の濃度が、0.01g/L超10g/L以下であり、前記還元剤の濃度が、0.2g/L以上15g/L以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の無電解ルテニウムめっき浴。
【請求項4】
前記ヒドロキシルアミン化合物の濃度が、1g/L以上10g/L以下であり、前記アミン系化合物の濃度が、1g/L以上15g/L以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の無電解ルテニウムめっき浴。
【請求項5】
析出速度調整剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の無電解ルテニウムめっき浴。
【請求項6】
析出速度抑制剤を含有することを特徴とする請求項5に記載の無電解ルテニウムめっき浴。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解ルテニウムめっき浴に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、銅は、高い電気導電率を有し、熱圧着による接続性などの物理的性質に優れるとともに、耐酸化性、耐薬品性などの化学的性質にも優れているため、電子工業分野において、プリント基板の回路における配線、ICパッケージの実装部分や端子部分などに広く使用されている。
【0003】
ここで、半導体回路の微細化に伴い、銅配線についても微細化が行われているが、当該微細化が行われると銅配線に流れる電流密度が上昇するため、エレクトロマイグレーション(銅配線に高密度の電流が流れることによって、銅原子が移動する現象)に起因してボイドが発生し、断線が発生するという問題があった。
【0004】
そこで、近年、銅に代わる次世代の配線材料として、ルテニウムが注目されている。このルテニウムは、銅と比較して電流密度の許容量が高く、エレクトロマイグレーション耐性が高い材料であるため、上述の半導体回路の配線以外に、銅配線上に形成される薄膜(キャップメタル)や、銅配線を電解めっきにより成膜する際に、バリアメタル上に形成され、銅シード膜を均一に成長させるためのライナー層を形成する材料として期待されている。
【0005】
そして、この半導体回路の配線等を形成する工程において、無電解ルテニウムめっき処理を使用することが可能になれば、外部電源が必要なく、浸漬処理のみで選択的にルテニウムを析出させることが可能になるため、ルテニウムを含有する無電解めっき浴が提案されている。
【0006】
例えば、ルテニウム源と、錯化剤であるポリアミノポリカルボン酸と、還元剤である水酸化ホウ素ナトリウム(NaBH)と、安定剤である硫酸ヒドロキシルアミンとを含有する無電解ルテニウムめっき浴が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-508819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、ルテニウムは、複数の価数が存在するため、金属として析出しにくく、析出性に乏しいという問題があった。
【0009】
また、上記従来のめっき浴においては、還元剤として、水酸化ホウ素ナトリウムが使用されているが、この水素化ホウ素ナトリウムは反応性が高く、浴分解や所望のパターン以外の析出等が発生しやすいため、取り扱いが困難であるという問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、上述の問題に鑑み、一般的な還元剤であるアミンボラン化合物または次亜リン酸ナトリウムを使用した無電解ルテニウムめっき浴であって、浴安定性を向上することができるとともに、ルテニウムの析出性に優れた無電解ルテニウムめっき浴を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の無電解ルテニウムめっき浴は、ルテニウム化合物と、還元剤と、安定剤とを少なくとも含有する無電解ルテニウムめっき浴であって、還元剤が、アミンボラン化合物及び次亜リン酸ナトリウムの少なくとも一方であり、安定剤が、ヒドロキシルアミン化合物とアミン系化合物からなり、ヒドロキシルアミン化合物が、硫酸ヒドロキシルアミン及び塩化ヒドロキシルアミンの少なくとも一方であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、一般的な還元剤であるアミンボラン化合物または次亜リン酸ナトリウムを使用した無電解ルテニウムめっき浴において、浴安定性を向上することができるとともに、ルテニウムの析出性を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の無電解ルテニウムめっき浴について説明する。
【0014】
<無電解ルテニウムめっき浴>
本発明の無電解ルテニウムめっき浴は、ルテニウム化合物と、還元剤と、安定剤とを少なくとも含有するめっき浴である。
【0015】
(ルテニウム化合物)
ルテニウム化合物は、ルテニウムめっきを得るためのルテニウムイオンの供給源である。このルテニウム化合物は水溶性であればよく、例えば、塩化ルテニウム、硫酸ルテニウム、硝酸ルテニウム等の無機水溶性ルテニウム塩が挙げられる。なお、これらのルテニウム化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0016】
また、ルテニウムには複数の価数が存在し、ルテニウムの価数により、めっき浴におけるルテニウムの析出量が異なってくるが、めっき浴の安定性を確保するとの観点から、ルテニウムの価数は3価、または4価であることが好ましい。
【0017】
従って、ルテニウム化合物として、例えば、3価のルテニウムにより構成される塩化ルテニウム(III)、硝酸ルテニウム(III)や、4価のルテニウムにより構成される塩化ルテニウム(IV)、硫酸ルテニウム(IV)等を使用することが好ましい。
【0018】
無電解ルテニウムめっき浴におけるルテニウムイオン濃度は、特に限定されないが、ルテニウムイオン濃度が低すぎると、めっき皮膜の析出速度が著しく低下する場合があるため、0.01g/L超が好ましく、1g/L以上がより好ましい。また、ルテニウムイオン濃度が高すぎると、過剰反応による浴分解が生じる場合があるため、20g/L以下が好ましく、10g/L以下がより好ましい。
【0019】
なお、ルテニウムイオン濃度は、原子吸光分光光度計を用いた原子吸光分光分析(Atomic Absorption Spectrometry,AAS)により測定することができる。
【0020】
(還元剤)
還元剤は、無電解ルテニウムめっき浴において、ルテニウムを析出させる作用を有するものである。そして、本発明の無電解ルテニウムめっき浴においては、この還元剤として、アミンボラン化合物及び次亜リン酸ナトリウムの少なくとも一方が使用される。
【0021】
アミンボラン化合物としては、ジメチルアミンボラン(DMAB)、トリメチルアミンボラン(TMAB)、モルホリンボラン、ピコリンボラン、ピリジンボラン、ジエチルアニリンボランなどが挙げられ、流通量が多く、入手がしやすいとの観点から、特に、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、モルホリンボランが好ましい。なお、これらのアミンボラン化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0022】
無電解ルテニウムめっき浴における還元剤の含有量は、還元剤の濃度が低すぎると、めっき皮膜の析出速度が著しく低下する場合があるため、0.2g/L以上が好ましく、1g/L以上がより好ましい。また、還元剤の濃度が高すぎると、過剰反応による浴分解が生じる場合があるため、30g/L以下が好ましく、15g/L以下がより好ましい。
【0023】
(安定剤)
安定剤は、主に無電解ルテニウムめっき浴におけるルテニウムの溶解性を安定化させる錯化剤としての作用を有するものである。そして、本発明の無電解ルテニウムめっき浴においては、この安定剤として、ヒドロキシルアミン化合物とアミン系化合物が併用して使用される。
【0024】
ヒドロキシルアミン化合物は、無電解ルテニウムめっき浴において、ルテニウムイオンと金属錯体を形成することにより、浴安定性に寄与するものである。このヒドロキシルアミン化合物としては、硫酸ヒドロキシルアミンや塩化ヒドロキシルアミン等が挙げられる。なお、これらのヒドロキシルアミン化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0025】
無電解ルテニウムめっき浴におけるヒドロキシルアミン化合物の含有量は、ヒドロキシルアミン化合物の濃度が低すぎると、浴安定性が低下して、浴分解が生じる場合があるため、1g/L以上が好ましく、2g/L以上がより好ましい。また、ヒドロキシルアミン化合物の濃度が高すぎると、浴安定性が過剰になり、ルテニウムの析出性が低下する場合があるため、10g/L以下が好ましく、8g/L以下がより好ましい。
【0026】
また、アミン系化合物は、無電解ルテニウムめっき浴において、上述のヒドロキシルアミン化合物と併用することにより、第二の錯化剤として機能し、ルテニウムイオンと金属錯体を形成することにより、浴安定性に寄与するものである。このアミン系化合物としては、グリシン、グリシルグリシン、アスパラギン酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム、アスパラギン酸、グルタミン酸、イミノジ酢酸、L-アルギニン、アラニン、β-アラニン、セリン、トレオニン、チロシン、アスパラギン、グルタミン、リシン、ロイシン、イソロイシン、リジン、トリプトファン、バリン、ヒスチジン及びアルギニン等のアミノ酸や、タウリン、及びエチレンジアミン等が挙げられ、特に、グリシン、グリシルグリシン、アスパラギン酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム、L-アルギニン、β-アラニン、セリン、トレオニン、チロシン、アスパラギン、グルタミン及びリシンが好ましい。なお、これらのアミン系化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0027】
無電解ルテニウムめっき浴におけるアミン系化合物の含有量は、アミン系化合物の濃度が低すぎると、浴安定性が低下して、浴分解が生じる場合があるため、1g/L以上が好ましく、2g/L以上がより好ましい。また、アミン系化合物の濃度が高すぎると、浴安定性が過剰になり、ルテニウムの析出性が低下する場合があるため、15g/L以下が好ましく、10g/L以下がより好ましい。
【0028】
ここで、ヒドロキシルアミン化合物は、アミン系化合物に比し、浴安定性への寄与が大きいため、安定剤としてヒドロキシルアミン化合物のみを使用すると、浴安定性が過剰になり、ルテニウムの析出性が低下する場合がある。従って、本発明の無電解ルテニウムめっき浴においては、安定剤として、ヒドロキシルアミン化合物と、当該ヒドロキシルアミン化合物に比し、浴安定性への寄与が小さいアミン系化合物を併用することにより、一般的な還元剤であるアミンボラン化合物または次亜リン酸ナトリウムを使用した無電解ルテニウムめっき浴において、浴安定性が向上する(すなわち、浴安定性が過剰になることを防止する)とともに、析出性に優れた無電解ルテニウムめっき浴を得ることが可能になる。
【0029】
また、特に、めっき反応が起こりにくい微細部(例えば、めっき面積が数十ナノ平方メートルレベルの被めっき部)においても、析出性に優れた無電解ルテニウムめっき浴を得ることが可能になる。
【0030】
(析出速度調整剤)
析出速度調整剤は、下地酸化物等の除去をスムーズに行うために添加されるものであり、ルテニウムの析出速度を向上させる作用を有するものである。
【0031】
この析出速度調整剤としては、各種キレート剤を使用することができ、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、NTA(ニトリロ三酢酸)、DTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)、HEDTA(ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸)、TTHA(トリエチレンテトラミン六酢酸)、CyDTA(trans-1,2-ジアミノシクロヘキサン-N,N,N',N'-四酢酸)、及びEDTMP(エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸)等の含窒素・リン化合物や、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、乳酸、マロン酸、フマル酸が挙げられる。なお、これらの析出速度調整剤は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0032】
無電解ルテニウムめっき浴における析出速度調整剤の含有量は、析出速度調整剤の濃度が低すぎると、ルテニウムの析出速度が低下して、めっき処理が長時間化する場合があるため、1g/L以上が好ましく、2g/L以上がより好ましい。また、析出速度調整剤の濃度が高すぎると、過剰添加によるコストアップとなるため、60g/L以下が好ましく、20g/L以下がより好ましい。
【0033】
(その他の成分)
本発明の無電解ルテニウムめっき浴は、上述の各成分の他に、めっき浴の分野で、通常、使用される各種添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、例えば、ルテニウムの析出速度を抑制する(ルテニウムの析出速度の微調整を行う)ための析出速度抑制剤等が挙げられる。
【0034】
析出速度抑制剤としては、例えば、マレイン酸、1,4-ブチンジオール、及びイタコン酸等の不飽和カルボン酸が挙げられる。なお、これらの析出速度抑制剤は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0035】
(pH)
本発明の無電解ルテニウムめっき浴のpHは10~14が好ましく、11~14がより好ましく、12~14が更に好ましい。pHが10未満の場合は、ルテニウムの析出が不十分になる場合があるためであり、pHが14よりも大きい場合は、ルテニウム塩が発生して沈殿する場合があるためである。
【0036】
なお、めっき浴のpHは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水、水酸化テトラメチルアンモニウム、硫酸、塩酸、クエン酸、ホウ酸、リン酸、モノカルボン酸、ジカルボン酸等のpH調整剤で調整可能である。なお、これらのpH調整剤は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0037】
(めっき浴の温度)
めっき浴の温度としては、特に限定されないが、60~90℃が好ましく、65~90℃がより好ましく、70~85℃が更に好ましい。めっき液の温度が60℃未満であると、めっき液が不活性化して、ルテニウムの析出が不十分になる場合があるためであり、温度が90℃を超えると、浴が過剰に活性化して、浴分解が生じる場合があるためである。
【0038】
(被めっき物)
本発明の無電解ルテニウムめっき浴が用いられる被めっき物の種類については特に限定はなく、従来のルテニウムめっきの処理対象物(例えば、プリント基板の回路における配線、ICパッケージの実装部分や端子部分等)を被めっき物とすることができる。
【0039】
また、本発明の無電解ルテニウムめっき浴は、特に、半導体回路の配線部分や、銅配線上に形成される薄膜(キャップメタル)、あるいは銅配線を電解めっきにより成膜する際に、バリアメタル上に形成され、銅シード膜を均一に成長させるためのライナー層をルテニウムにより形成する場合に、特に、好適に使用できる。
【0040】
(無電解ルテニウムめっき処理)
上述の被めっき物を本発明の無電解ルテニウムめっき浴に接触させて、被めっき物に対して無電解ルテニウムめっき処理を行うことにより、例えば、上述の配線部分や、薄膜(キャップメタル)、あるいはライナー層を構成するルテニウムめっき皮膜を形成することができる。なお、無電解ルテニウムめっき処理時の温度は、上述の無電解ルテニウムめっき浴の浴温に制御して行う。
【0041】
また、無電解ルテニウムめっき処理の処理時間は、特に限定されず、所望の膜厚となるように適宜設定すればよい。より具体的には、例えば、30秒~15時間程度とすることができる。
【0042】
なお、ルテニウムめっき皮膜の膜厚は要求特性に応じて、適宜、設定すればよく、通常は0.001~1.0μm程度である。
【実施例0043】
以下、実施例及び比較例に基づき、本出願に係る発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0044】
(実施例1~48、比較例1~17)
(めっき浴の調製)
脱イオン水200mlに対して、ルテニウム化合物(ルテニウム塩)と、安定剤であるヒドロキシルアミン化合物及びアミン系化合物と、還元剤と、析出速度調整剤と、pH調整剤と、析出速度抑制剤とを、表2~8に示す濃度となるように添加して混合し、攪拌することにより、実施例1~48、及び比較例1~17の各めっき浴を調製した。
【0045】
なお、表2~8に示すように、各めっき浴の温度(めっき処理の温度)を50~90℃、pHを10~14に設定した。
【0046】
(前処理)
無電解めっき処理を行う前に、基体に対して、表1に示す前処理工程1~2を順次行った。なお、各工程間において、脱イオン水による洗浄を行った。
【0047】
工程1:MCL-12(上村工業社製、商品名:エピタス(登録商標)MCL-12)を用いて、基体(下地として、CVD法でルテニウム薄膜(5nm)を付与したSiウェハー)に対して、脱脂洗浄処理を行った。
【0048】
工程2:次に、MRU-30(上村工業社製、商品名:エピタス(登録商標)MRU-30)を用いて基体表面の活性化処理を行った。
【0049】
【表1】
【0050】
(無電解ルテニウムめっき処理)
次に、上述の前処理が行われた基体を、表2~8に示す実施例1~48、及び比較例1~17の各めっき浴に、10分間浸漬することにより、基体の表面上(ルテニウム薄膜上)にルテニウムめっき皮膜を形成した。
【0051】
(形成されたルテニウムめっき皮膜の膜厚の算出、及びルテニウムの析出速度の算出)
次に、蛍光X線膜厚計(フィッシャー・インスタメンツ社製、商品名:XDV-μ)を用いて、基体の表面上に形成されたルテニウムめっき皮膜の膜厚[nm]を算出した。
【0052】
より具体的には、蛍光X線膜厚計を用いて、基体の表面上におけるルテニウムめっき皮膜の膜厚[nm]を測定し、この測定した膜厚から、上述の基体において下地として付与されたルテニウム薄膜の膜厚(5nm)を差し引いた値を、形成されたルテニウムめっき皮膜の膜厚[nm]とした。
【0053】
また、算出したルテニウムめっき皮膜の膜厚を用いて、上述の10分間のめっき処理におけるルテニウムの析出速度[nm/10min]を算出した。以上の結果を表2~8に示す。
【0054】
(ルテニウムの析出性評価)
上述の無電解ルテニウムめっき処理が行われた基体の外観を目視にて観察し、無電解ルテニウムめっき処理により形成したルテニウムめっきの析出性について、下記の基準により評価した。以上の結果を表2~8に示す。
【0055】
基体にルテニウムが均一に析出:◎
基体に若干の色調ムラが確認されるが、基体にルテニウムがほぼ均一に析出:〇
基体の一部に、ルテニウムが析出していない箇所が確認:△
基体にルテニウムが析出していない:×
【0056】
(めっき浴の安定性評価)
無電解ルテニウムめっき処理後のルテニウムめっき浴中に、ルテニウム粒子の析出が生じていないかを目視にて観察し、下記の基準により、めっき浴の安定性を評価した。以上の結果を表2~8に示す。
【0057】
めっき処理後、3時間を経過しても、ルテニウム粒子の析出を確認できなかった:◎
めっき処理から3時間経過後、ごく微量のルテニウム粒子が発生した:〇
めっき処理から3時間経過後、少量のルテニウム粒子が発生した:△
めっき処理から3時間経過後、大量のルテニウム粒子が発生した:×
【0058】
(アニール処理後のルテニウムめっき皮膜の抵抗率の測定)
上述の無電解ルテニウムめっき処理が行われた基体に対して、還元リフロー装置(Unitemp社製、商品名:VSS-300-EP)を用いて、ギ酸雰囲気下、400℃で10分間、アニール処理を行った。
【0059】
次に、4探針法測定器(ナプソン株式会社製、商品名:ナプソンRT-70V)を用いて、アニール処理後のルテニウム皮膜のシート抵抗の測定を行い、このシート抵抗値と、上述の蛍光X線膜厚計により測定したルテニウムめっき皮膜の膜厚に基づいて、下記式(1)を用いて、アニール処理後のルテニウムめっき皮膜の抵抗率[μΩcm]を算出した。以上の結果を表2~8に示す。
【0060】
[数1]
ルテニウムめっき皮膜の抵抗率[μΩcm]=(シート抵抗値[Ω/□]×膜厚[nm])/10 (1)
【0061】
なお、純粋なルテニウムめっき皮膜における抵抗率は、7.6[μΩcm]程度であるため、アニール処理後の抵抗率が10[μΩcm]~60[μΩcm]の場合は、基体の表面上に形成したルテニウムめっき皮膜において、殆どホウ素(還元剤であるアミンボラン化合物に由来するホウ素)が共析していないものと考えられ、純粋なルテニウムめっき皮膜と同等の低抵抗化が実現できていると言える。
【0062】
また、比較例1~2,5~17においては、基体の表面上にルテニウムが析出しなかったたため、アニール処理後のルテニウム皮膜の抵抗率の測定を行うことができなかった。
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【0066】
【表5】
【0067】
【表6】
【0068】
【表7】
【0069】
【表8】
【0070】
表2~6に示すように、安定剤として、ヒドロキシルアミン化合物(硫酸ヒドロキシルアミン及び塩化ヒドロキシルアミンの少なくとも一方)と、アミン系化合物(グリシン、グリシルグリシン、アスパラギン酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム、L-アルギニン、β-アラニン、セリン、トレオニン、チロシン、アスパラギン、グルタミン、及びリシンからなる群より選ばれる少なくとも1種)とを併用している実施例1~48の無電解ルテニウムめっき浴においては、一般的な還元剤であるアミンボラン化合物または次亜リン酸ナトリウムを使用した場合であっても、浴安定性を向上することができるとともに、ルテニウムの析出性を向上することができることが分かる。
【0071】
一方、表7に示すように、比較例1~4の無電解ルテニウムめっき浴においては、安定剤として、ヒドロキシルアミン化合物とアミン系化合物を併用していないため、浴安定性に乏しく、特に、ヒドロキシルアミン化合物が使用されていない比較例1~2の無電解ルテニウムめっき浴においては、ルテニウムの析出性も乏しいことが分かる。
【0072】
また、表7~8に示すように、比較例5~17の無電解ルテニウムめっき浴においては、還元剤として、アミンボラン化合物または次亜リン酸ナトリウムが使用されていないため、安定剤として、ヒドロキシルアミン化合物とアミン系化合物を併用した場合であっても、ルテニウムの析出性に乏しいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の無電解ルテニウムめっき浴は、特に、半導体回路の配線部分や、銅配線上に形成される薄膜(キャップメタル)、あるいは銅配線を電解めっきにより成膜する際に、バリアメタル上に形成され、銅シード膜を均一に成長させるためのライナー層を構成するルテニウムめっき皮膜を形成するためのめっき浴として、好適に使用できる。