(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094788
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】高周波電源装置
(51)【国際特許分類】
H05H 1/46 20060101AFI20240703BHJP
【FI】
H05H1/46 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211567
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 雄一
(72)【発明者】
【氏名】上野 雄也
【テーマコード(参考)】
2G084
【Fターム(参考)】
2G084CC12
2G084CC33
2G084DD02
2G084DD15
2G084DD24
2G084DD38
2G084HH05
2G084HH22
2G084HH25
2G084HH29
2G084HH52
2G084HH56
(57)【要約】
【課題】本開示は、IMDに起因する反射波電力を低減できる高周波電源装置を提供する。
【解決手段】本開示に係る高周波電源装置は、第1の基本周波数を有する高周波電圧を負荷に向けて出力する第1の電源と、前記第1の基本周波数より低い第2の基本周波数を有する負極性電圧を前記負荷に向けて出力する第2の電源と、前記第1の電源と前記負荷との間に接続され、前記第1の電源側のインピーダンスと前記負荷側のインピーダンスとを整合可能である整合部と、前記第2の電源と前記負荷との間に接続されたローパスフィルタとを備え、前記第1の電源は、前記高周波電圧を前記第2の基本周波数と同じ周波数を有する台形波状の変調信号で周波数変調させ変調波として出力する周波数変調制御を行う。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基本周波数を有する高周波電圧を負荷に向けて出力する第1の電源と、
前記第1の基本周波数より低い第2の基本周波数を有する負極性電圧を前記負荷に向けて出力する第2の電源と、
前記第1の電源と前記負荷との間に接続され、前記第1の電源側のインピーダンスと前記負荷側のインピーダンスとを整合可能である整合部と、
前記第2の電源と前記負荷との間に接続されたローパスフィルタと、
を備え、
前記第1の電源は、前記高周波電圧を前記第2の基本周波数と同じ周波数を有する台形波状の変調信号で周波数変調させ変調波として出力する周波数変調制御を行う
高周波電源装置。
【請求項2】
前記第1の電源は、正弦波状の前記高周波電圧を発生させ、
前記第2の電源は、矩形波状の前記負極性電圧を発生させる
請求項1に記載の高周波電源装置。
【請求項3】
前記第1の電源は、前記高周波電圧を前記第2の基本周波数と同じ周波数を有する台形波状の変調信号で周波数変調させ変調波として出力する周波数変調制御を行う際に、反射係数の大きさ又は反射波電力の大きさが小さくなるように、前記変調信号の開始位相の探索処理と前記変調波の周波数偏移量の探索処理とを行う
請求項1に記載の高周波電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高周波電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ処理装置に用いられる高周波電源装置は、基本周波数が高い電源(第1の電源)と基本周波数が低い電源(第2の電源)とから、それぞれ、負荷に向けて電圧を出力する。高周波電源装置では、相互変調歪(IMD:InterModulation Distortion)が発生し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第7045152号公報
【特許文献2】特開2022-105037号公報
【特許文献3】特開2022-102688号公報
【特許文献4】特許第6785862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、第1の電源、第2の電源で発生されるのがいずれも正弦波状の高周波電圧である場合、第1の電源の正弦波状の高周波電圧に対して第2の電源の高周波電圧に応じた正弦波状の変調信号で周波数変調制御を行うことで、IMDに起因する反射波電力を低減できる。一方、第1の電源で発生されるのが正弦波状の高周波電圧であり、第2の電源で発生されるのが矩形波状の負極性電圧である場合、第1の電源の正弦波状の高周波電圧に対して第2の電源の負極性電圧に応じた矩形波状の変調信号で周波数変調制御を行っても、IMDに起因する反射波電力を低減することが困難な傾向にある。
【0005】
本開示は、IMDに起因する反射波電力を低減できる高周波電源装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る高周波電源装置は、第1の基本周波数を有する高周波電圧を負荷に向けて出力する第1の電源と、前記第1の基本周波数より低い第2の基本周波数を有する負極性電圧を前記負荷に向けて出力する第2の電源と、前記第1の電源と前記負荷との間に接続され、前記第1の電源側のインピーダンスと前記負荷側のインピーダンスとを整合可能である整合部と、前記第2の電源と前記負荷との間に接続されたローパスフィルタと、を備え、前記第1の電源は、前記高周波電圧を前記第2の基本周波数と同じ周波数を有する台形波状の変調信号で周波数変調させ変調波として出力する周波数変調制御を行う。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る高周波電源装置によれば、IMDに起因する反射波電力を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る高周波電源装置の構成を示すブロック図。
【
図2】実施形態における負極性電圧及び変調信号を示す波形図。
【
図3】実施形態におけるHF電源の構成を示すブロック図。
【
図4】実施形態における周波数変調制御ブロックの構成を示すブロック図。
【
図5】実施形態における探索処理のタイミングを示す波形図。
【
図6】実施形態における勾配法による探索処理を示す図。
【
図7】実施形態における高周波電源装置の動作時のインピーダンスの軌跡を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本開示に係る高周波電源装置の実施形態について説明する。
【0010】
(実施形態)
実施形態にかかる高周波電源装置は、プラズマ処理装置に用いられる。高周波電源装置は、基本周波数が高い電源(第1の電源)と基本周波数が低い電源(第2の電源)とから、それぞれ、負荷に向けて電圧を出力する。高周波電源装置では、第1の電源から出力される高周波電圧に第2の電源の周波数に応じた相互変調歪(IMD:InterModulation Distortion)が発生する。
【0011】
第1の電源で発生されるのが正弦波状の高周波電圧であり、第2の電源で発生されるのが矩形波状の負極性電圧である場合、IMDにより、第1の電源の反射電力が矩形波状の負極性の電圧波形に応じで変動する。第1の電源の正弦波状の高周波電圧に対して第2の電源の負極性電圧に応じた矩形波状の変調信号で周波数変調制御を行っても、IMDに起因する反射波電力を低減することが困難な傾向にある。
【0012】
本実施形態では、第1の電源において、高周波電圧を第2の基本周波数と同じ周波数を有する台形波状の変調信号で周波数変調させ変調波として出力する周波数変調制御を行うことで、IMDに起因する反射波電力の低減化を図る。
【0013】
図1は、高周波電源装置1の構成を示すブロック図である。高周波電源装置1は、プラズマ処理装置PAに適用される。プラズマ処理装置PAは、例えば平行平板型であり、チャンバーCH内で下部電極EL1及び上部電極EL2が互いに対向する。下部電極EL1上には、処理対象となる基板SBが載置され得る。高周波電源装置1は、下部電極EL1に電気的に接続される。上部電極EL2は、グランド電位に電気的に接続される。チャンバーCHは、給気管を介してガス供給装置(図示せず)に接続され、排気管を介して真空装置(図示せず)に接続される。
【0014】
高周波電源装置1は、HF電源(第1の電源)10、-DC電源(第2の電源)20及び整合器30を有する。HF電源10は、上位のコントローラ(図示せず)からの指令信号に応じて、第1の基本周波数F1を有する高周波電圧を発生させる。HF電源10は、高周波電圧(進行波電圧)を出力することにより高周波電力(進行波電力)を負荷に供給する。高周波電圧は、主として、プラズマの生成に適した比較的高い第1の基本周波数F1を有する。第1の基本周波数F1は、例えば、40.68MHzである。HF電源10は、ソース電源とも呼ばれる。なお、基本周波数F1は、40.68MHzに限定されるものではなく、例えば13.56MHz、27.12MHz等の工業用のRF帯(Radio Frequency)の周波数であってもよい。
【0015】
-DC電源20は、上位のコントローラ(図示せず)からの指令信号に応じて、負極性電圧を発生させる。負極性電圧は、矩形波状の波形を有してもよい。-DC電源20は、負極性電圧を負荷に供給する。負極性電圧は、イオンの加速に適した比較的低い第2の基本周波数F2を有する。第2の基本周波数F2は、第1の基本周波数F1より低く、例えば400kHzである。
【0016】
例えば、
図2に示すタイミングt11において、指令値がゼロからHレベルになると、-DC電源20は、負極性電圧のレベルをゼロから負電位-Vmへ遷移させる。このとき、-DC電源20は、負極性電圧を矩形波状に遷移するように発生させるが、出力される負極性電圧が負荷の影響で時定数的な遅延を持って遷移する。-DC電源20は、タイミングt12まで、負極性電圧のレベルを負電位-Vmに維持するように発生させる。
【0017】
タイミングt12において、指令値がHレベルからゼロになると、-DC電源20は、負極性電圧のレベルを負電位-Vmからゼロに遷移させる。このとき、-DC電源20は、負極性電圧を矩形波状に遷移するように発生させるが、出力される負極性電圧が負荷の影響で時定数的な遅延を持って遷移する。-DC電源20は、タイミングt13まで、負極性電圧のレベルをゼロに維持する。
【0018】
タイミングt11~t13と同様の動作が、タイミングt13~t15、タイミングt15~t17においても繰り返される。繰り返しの周期であるタイミングt11~t13の長さが、第2の基本周波数F2に対応する。
【0019】
なお、第2の基本周波数F2は、400kHzに限定されるものではなく、他の周波数であってもよい。
【0020】
図1に示す整合器30は、HF電源10及び-DC電源20にそれぞれ電気的に接続される。整合器30は、整合部31及びフィルタ部32を有する。整合部31は、HF電源10と下部電極EL1との間に電気的に接続される。整合部31は、HF整合回路部311を含み、HF整合回路部311のインピーダンスを変更して、HF電源10側のインピーダンスと負荷側のインピーダンスとを整合可能である。フィルタ部32は、-DC電源20と下部電極EL1との間に電気的に接続される。フィルタ部32は、ローパスフィルタ321を含み、-DC電源20からの負極性電圧をローパスフィルタ321に通すことで平滑化可能である。整合器30は、整合部31によるHF整合動作が行われた状態で、高周波電力をHF電源10から受け、整合部31経由で下部電極EL1に供給する。それとともに、整合器30は、負極性電圧を-DC電源20から受け、フィルタ部32経由で下部電極EL1に供給する。
【0021】
なお、高周波電源装置1及びプラズマ処理装置PAは、
図1の構成に限定されない。例えば、HF電源10から出力される高周波電力が整合器30を介して上部電極EL2に供給され、-DC電源20から出力される負極性電圧に応じた電力が整合器30を介して下部電極EL1に供給されるような構成等、様々な構成がある。このような他の構成にも高周波電源装置1を用いることが可能である。
【0022】
HF電源10は、高周波電圧を第2の基本周波数F2と同じ周波数を有する台形波状の変調信号(
図2参照)で周波数変調させ変調波として出力する周波数変調制御を行う。-DC電源20で発生される矩形波状の負極性電圧に応じて、IMDは矩形波状にインピーダンスが変動し得る。それに対して、HF電源10が周波数変調制御するときの変調信号を台形波状にする。台形波状の変調信号で変調波を形成することで、インピーダンス変動が比較的大きい負極性電圧の立上りと立下りとに応じたタイミング(例えば、
図2に示すタイミングt11,t12)におけるIMDを抑制できる。また、変調信号を台形波状にすることで、変調信号を矩形波状にする場合に比べて、周波数遷移の速さを抑制でき、それに応じて負荷の変動(周波数トランジェント)を緩和できる。
【0023】
HF電源10は、HF電源10において検出した情報に基づいて反射係数Γの大きさ又は反射波電力Prの大きさを演算する機能を有している。HF電源10は、
図3に示すように、周波数変調制御ブロック11、コントローラ12、直接デジタル合波器(DDS)13、増幅部14、センサ15、処理部16、電力設定部18、減算器19を有する。
図3は、HF電源10の構成を示すブロック図である。周波数変調制御ブロック11は、変調基本波を生成する。変調基本波は、周波数F2を有し、基準振幅を有する。周波数変調制御ブロック11は、指令値(
図2参照)に対応する外部信号を基準にして、変調基本波に変調を開始すべき開始位相と変調の度合いを示す周波数偏移量とを設定し変調信号を生成する。変調信号は、開始位相及び周波数偏移量を含む。周波数変調制御ブロック11は、台形波状の変調信号(
図2参照)を生成してもよい。周波数変調制御ブロック11は、変調信号を周波数変調設定としてDDS13に供給する。DDS13は、周波数変調設定(すなわち、変調信号)と振幅設定とを用いて、周波数が第2の基本周波数F2と同じ変調波を生成して増幅部14に供給する。増幅部14は、変調波を増幅してセンサ15に供給する。
【0024】
センサ15は、増幅部14から出力された変調波(進行波)を整合器30に供給する。また、増幅部14からの進行波電圧を検出し、検出信号として進行波電圧検出信号Vf1を出力すると共に、整合器30を介してプラズマ処理装置PA側から反射された反射波電圧を検出し、検出信号として反射波電圧検出信号Vrを出力する。センサ15は、検出した進行波電圧検出信号Vfと反射波電圧検出信号Vrとを処理部16に供給する。
【0025】
処理部16は、進行波電圧検出信号Vfと反射波電圧検出信号Vrとに対して、例えばスーパーヘテロダイン方式で演算し、フィルタリング処理を行う。これにより、処理部16は、進行波電圧検出信号Vf1の所望成分である進行波電圧検出信号Vf2と反射波電圧検出信号Vr1の所望成分である反射波電圧検出信号Vr2とをそれぞれ抽出する。
【0026】
処理部16は、進行波電圧検出信号Vf2に基づいて進行波電力Pfを算出するとともに、反射波電圧検出信号Vr2に基づいて反射波電力Prを算出する。例えば、Vf2^2/R(R:抵抗値に相当するゲイン)によって進行波電力Pfを算出することができる。反射波電力Prも同様にして算出することができる。なお、上記計算式では、Vf2は進行波電圧検出信号Vf2の大きさを表している。もちろん、実際の電力値に換算するためのゲインが乗算される。
【0027】
また、処理部16は、算出した進行波電力Pfと反射波電力Prとをそれぞれ所定期間において蓄積する。処理部16は、進行波電力Pfと反射波電力Prとをそれぞれ所定期間について平均化する。処理部16は、進行波電力Pfの平均電力を減算器19に供給する。また、処理部16は、進行波電力Pfの平均電力および反射波電力Prの平均電力を周波数変調制御ブロック11に供給する。なお、上記では、電圧に基づいて電力を算出した後に、平均化を行う例を示したが、電圧の平均化を行った後に、電力を算出してもよい。
【0028】
電力設定部18は、目標電力が予め設定される。電力設定部18は、目標電力を減算器19に供給する。減算器19は、目標電力から進行波電力Pfの平均電力を減算し、減算結果を誤差ΔPとしてコントローラ12にフィードバックする。コントローラ12は、誤差ΔPに応じて、変調波の振幅を制御する。すなわち、コントローラ12は、誤差ΔPに応じて(例えば、誤差ΔPが小さくなるような)変調波の振幅を求め、求められた振幅に応じた振幅設定をDDS13に供給する。
【0029】
例えば、目標電力が1,000[W]であり、進行波電力Pfの平均電力が950[W]であれば、目標電力に対して50[W]不足しているので、コントローラ12は、負荷に供給する進行波電力Pfを大きくするように変調波の振幅を制御する。この変調波の振幅の制御には、例えば、PI制御やPID制御等の公知の手法を用いることができる。
【0030】
これにより、周波数変調制御ブロック11は、反射波電力Prの平均電力が最小になるように、変調信号の開始位相と変調波の周波数偏移量とをそれぞれ予め定めた調整範囲内で調整する。周波数変調制御ブロック11は、反射波電力Prの平均電力が所定の閾値以下になったら、反射波電力Prの平均電力が最小となったと見なすことができる。周波数変調制御ブロック11は、反射波電力Prの平均電力が最小となったと見なしたときに、周波数変調制御が完了したと見なすことができる。
【0031】
周波数変調制御ブロック11は、
図4に示すように、周波数変調設定部11a、基本波生成部11b及び加算器11cを有する。
図4は、周波数変調制御ブロック11の構成を示すブロック図である。周波数変調設定部11aは、周波数変調制御部11a1、変調基本波形テーブル11a2、開始位相設定部11a3、偏移量ゲイン設定部11a4を有する。周波数変調制御部11a1は、カウンタ部11a11、メモリ部11a12、比較部11a13、コントロール部11a14を有する。
【0032】
基本波生成部11bは、周波数変調前の周波数(例えば40.68MHz)情報を有する信号を生成し(一般的に搬送波と呼ばれる)、加算器11cを通してDDS13へ出力する。周波数変調設定部11aの出力が0の場合、基本波生成部11bは、基本波を出力する。
【0033】
周波数変調設定部11aにおいて、周波数変調制御部11a1は、その制御周期に応じて、タイミング信号を生成可能である。
【0034】
変調基本波形テーブル11a2には、第2の基本周波数F2(例えば400kHz)の1周期分の振幅情報が所定の位相間隔毎に記憶されている。この1周期分の振幅情報で表される波形データを「変調基本波形」とする。変調基本波形は、台形波状(
図2参照)であってもよい。
【0035】
変調基本波形における振幅情報の位相間隔は、周波数変調制御部11a1の制御周期によって異なる。例えば、周波数変調制御部11a1が100MHzの制御周期で動作していれば、250分割(100MHz/400kHz)されるので、1.44度(360/250)の位相間隔毎の振幅情報が変調基本波形テーブル11a2に記憶される。周波数変調制御部11a1が500MHzの制御周期で動作していれば、1250分割(500MHz/400kHz)されるので、0.288度(360/1250)の位相間隔毎の振幅情報が変調基本波形テーブル11a2に記憶される。制御周期は、図示しない基本クロック生成部から出力されるクロック信号に基づいて設定される。
【0036】
また、変調基本波形テーブル11a2に記憶されている変調基本波形の振幅は、所定の基準振幅(例えば、振幅の大きさが±1)である。なお、変調基本波形の波形データは、周波数変調制御部11a1を介して変調基本波形テーブル11a2に予め記憶させることが可能である。
【0037】
開始位相設定部11a3は、周波数変調制御部11a1から供給されるタイミング信号に応じて変調基本波形テーブル11a2から変調基本波形を読み出す。その後、開始位相設定部11a3は、変調基本波形における変調を開始すべき開始位相θstを設定する。開始位相の定め方は後述する。その後、開始位相設定部11a3は、開始位相θstから波形が開始されるように変調基本波形を時間方向にシフトさせる。例えば、
図2の場合、開始位相設定部11a3は、負極性電圧の立下りのタイミングt11,t13,t15,t17から波形が開始されるように変調基本波形を時間方向にシフトさせる。シフトした変調基本波形は、
図4に示す偏移量ゲイン設定部11a4へ供給される。
【0038】
偏移量ゲイン設定部11a4は、周波数変調制御部11a1から供給されるタイミング信号に応じて周波数偏移量ΔFを設定する。周波数偏移量ΔFは、-ΔFmax~+ΔFmaxの範囲で変わり得る。例えば、ΔFmax=1.2MHzである。周波数偏移量ΔFの定め方は後述する。基本波生成部11bから出力される第1の基本周波数F1の基本波信号を周波数変調させる際の周波数偏移量は、変調基本波形の振幅によって表される。そのため、変調基本波形に周波数偏移量ΔFに応じたゲイン(偏移量ゲイン)を乗算することにより、変調基本波形の振幅が変更されて、周波数偏移量ΔFを設定することができる。周波数偏移量ΔFと偏移量ゲインとは1対1に対応しており、偏移量ゲインを設定することは、周波数偏移量ΔFを設定することと等価である。
【0039】
周波数変調制御部11a1において、カウンタ部11a11は、外部信号(
図5参照)のパルス数をカウントし、カウント値をメモリ部11a12及びコントロール部11a14へ供給可能である。
図3の処理部16からの現在の反射電力Pr又は反射係数Γが
図4のメモリ部11a12で保存される。現在の反射電力Pr又は反射係数Γと過去の反射電力Pr’又は反射係数Γ’とがメモリ部11a12から比較部11a13へ送られる。メモリ部11a12で保存されるタイミングは、カウンタ部11a11のカウント値が任意の閾値を超えるタイミングであってもよい。比較部11a13は、過去の反射電力Pr’と現在の反射電力Prとを比較する。あるいは、比較部11a13は、過去の反射係数Γ’と現在の反射係数Γとを比較する。比較部11a13は、比較結果をコントロール部11a14へ送る。コントロール部11a14は、カウンタ部11a11のカウント値と比較部11a13の比較結果とに応じて、タイミング信号を生成して開始位相設定部11a3、偏移量ゲイン設定部11a4へそれぞれ供給する。
【0040】
加算器11cは、基本波信号を基本波生成部11bから受け、変調信号を偏移量ゲイン設定部11a4から受ける。加算器11cは、基本波信号に変調信号を加算する。加算結果は、出力波形データとしてDDS13へ供給される。
【0041】
ここで、周波数変調制御ブロック11は、
図5に示すように、反射波電力Prの大きさ又は反射係数Γの大きさが小さくなるように、変調信号の開始位相θstの探索処理と変調波の周波数偏移量ΔFの探索処理とを行ってもよい。
図5は、探索処理のタイミングを示す波形図である。変調信号の開始位相θstの探索処理と変調波の周波数偏移量ΔFの探索処理とは、
図6に示すように、勾配法で行われてもよい。
図6は、勾配法による探索処理を示す図である。
【0042】
例えば、
図5に示すタイミングt1において、周波数変調制御部11a1は、開始位相設定部11a3で開始位相θstの設定を開始すべきと判断する。周波数変調制御部11a1は、外部信号のパルスに同期して、タイミング信号TS1をノンアクティブレベルからアクティブレベルに遷移させ開始位相設定部11a3へ供給する。これに応じて、開始位相設定部11a3は、開始位相θstの設定を開始する。開始位相設定部11a3は、外部信号のパルスに同期して、開始位相θstを徐々に(例えば、制御量ΔDずつ)変化させる。
【0043】
これに応じて、処理部16からの反射波電力Pr又は反射係数Γが減少又は増加する。例えば、
図6に示すように、開始位相設定部11a3が開始位相θstを初期値Dminから徐々に増加させると、周波数変調制御部11a1は、反射波電力Pr又は反射係数Γが減少し始めることを認識する。周波数変調制御部11a1は、所定の制御周期で、反射波電力Pr又は反射係数Γの変化を観測する。
【0044】
周波数変調制御部11a1は、反射電力Pr又は反射係数Γの変化が減少傾向から増加傾向に転じることを認識する。周波数変調制御部11a1は、このときの開始位相θstの値又はそれより若干減少させた値を、反射電力Pr又は反射係数Γがほぼ極小となる開始位相θstの値Dtとすることができる。
【0045】
図5に示すタイミングt2において、周波数変調制御部11a1は、開始位相θstの値が探索処理における最大値Dmaxに達すると、開始位相設定部11a3で開始位相θstの設定を終了すべきと判断する。
【0046】
なお、探索処理を繰り返し行う場合、周波数変調制御部11a1は、繰り返しの回数をカウントしてもよい。この場合、周波数変調制御部11a1は、繰り返しの回数が探索処理における最大回数に達し且つ開始位相θstの値が探索処理における最大値Dmaxに達すると、開始位相設定部11a3で開始位相の設定を終了すべきと判断する。
【0047】
周波数変調制御部11a1は、外部信号のパルスに同期して、タイミング信号TS1をアクティブレベルからノンアクティブレベルに遷移させる。これに応じて、開始位相設定部11a3は、開始位相θstの値をDtに設定して維持し、開始位相θstの設定を終了する。
【0048】
それとともに、周波数変調制御部11a1は、偏移量ゲイン設定部11a4で周波数偏移量ΔFの設定を開始すべきと判断する。偏移量ゲイン設定部11a4は、外部信号のパルスに同期して、
図5に示すように、タイミング信号TS2をノンアクティブレベルからアクティブレベルに遷移させ偏移量ゲイン設定部11a4へ供給する。これに応じて、偏移量ゲイン設定部11a4は、周波数偏移量ΔFの設定を開始する。偏移量ゲイン設定部11a4は、外部信号のパルスに同期して、周波数偏移量ΔFを徐々に(例えば、制御量ΔEずつ)変化させる。
【0049】
これに応じて、処理部16からの反射波電力Pr又は反射係数Γが減少又は増加する。例えば、
図6に示すように、偏移量ゲイン設定部11a4が周波数偏移量ΔFを初期値Eminから徐々に増加させると、周波数変調制御部11a1は、反射波電力Pr又は反射係数Γが減少し始めることを認識する。周波数変調制御部11a1は、所定の制御周期で、反射波電力Pr又は反射係数Γの変化を観測する。
【0050】
周波数変調制御部11a1は、反射電力Pr又は反射係数Γの変化が減少傾向から増加傾向に転じることを認識する。周波数変調制御部11a1は、このときの周波数偏移量ΔFの値又はそれより若干減少させた値を、反射電力Pr又は反射係数Γがほぼ極小となる周波数偏移量ΔFの値Etとすることができる。
【0051】
図5に示すタイミングt3において、周波数変調制御部11a1は、周波数偏移量ΔFの値が探索処理における最大値Emaxに達すると、偏移量ゲイン設定部11a4で周波数偏移量ΔFの設定を終了すべきと判断する。
【0052】
なお、探索処理を繰り返し行う場合、周波数変調制御部11a1は、繰り返しの回数をカウントしてもよい。この場合、周波数変調制御部11a1は、繰り返しの回数が探索処理における最大回数に達し且つ周波数偏移量ΔFの値が探索処理における最大値Emaxに達すると、偏移量ゲイン設定部11a4で周波数偏移量ΔFの設定を終了すべきと判断する。
【0053】
周波数変調制御部11a1は、外部信号のパルスに同期して、タイミング信号TS2をアクティブレベルからノンアクティブレベルに遷移させる。これに応じて、偏移量ゲイン設定部11a4は、周波数偏移量ΔFの値をEtに設定して維持し、周波数偏移量ΔFの設定を終了する。
【0054】
タイミングt1~t2の期間は、変調信号の開始位相θstの探索処理が行われる期間である。開始位相θstの探索処理は、開始位相スイープとも呼ばれる。
【0055】
タイミングt2~t3の期間は、変調信号の周波数偏移量ΔFの探索処理が行われる期間である。周波数偏移量ΔFの探索処理は、偏移量スイープとも呼ばれる。
【0056】
タイミングt3以降において、周波数変調制御ブロック11は、周波数変調制御を開始する。すなわち、周波数変調設定部11aで台形波状の変調信号(
図2参照)が生成され加算器11cへ供給される。加算器11cは、基本波生成部11bからの基本波に変調信号を加算して出力波形データを生成し、出力波形データをDDS13へ供給する。DDS13は、台形波状の変調信号で周波数変調を行って変調波を生成する。変調波は、増幅部14、センサ15、整合器30経由で負荷へ出力される。
【0057】
以上のように、実施形態では、HF電源10において、高周波電圧を第2の基本周波数F2と同じ周波数を有する台形波状の変調信号(
図2参照)で周波数変調させ変調波として出力する周波数変調制御が行われる。これにより、インピーダンス変動が比較的大きい負極性電圧の立上りと立下りとに応じたタイミングにおけるIMDを抑制でき、IMDに起因する反射波電力を低減できる。また、変調信号を台形波状にすることで、変調信号を矩形波状にする場合に比べて、周波数遷移の速さを抑制でき、それに応じて負荷の変動(周波数トランジェント)を緩和できる。
【0058】
例えば、HF電源10で周波数変更制御を行わずに高周波電源装置1から負荷へ電源供給を行った場合、HF電源10から負荷に至る経路のインピーダンスが、
図7に点線で示すような大きな振幅で変動し得る。
図7は、高周波電源装置の動作時のインピーダンスの軌跡を示す図である。
図7において、横軸が実軸であり、縦軸が虚数軸であり、インピーダンスの振幅が原点からの距離で示される。
【0059】
一方、HF電源10において、高周波電圧を第2の基本周波数F2と同じ周波数を有する台形波状の変調信号で周波数変調させ変調波として出力する周波数変調制御が行われながら高周波電源装置1から負荷へ電源供給を行った場合、HF電源10から負荷に至る経路のインピーダンスが、
図7に実線で示すように、より小さな振幅で変動し得る。これにより、IMDを効果的に抑制でき、IMDに起因する反射波電力を低減できることが確認される。
【0060】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0061】
1 高周波電源装置
10 HF電源
20 -DC電源
30 整合器
31 整合部
32 フィルタ部