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特開2024-94807制御装置、駆動装置、制御方法、および制御プログラム
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  • 特開-制御装置、駆動装置、制御方法、および制御プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094807
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】制御装置、駆動装置、制御方法、および制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/22 20160101AFI20240703BHJP
【FI】
H02P21/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211607
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】ニデック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【弁理士】
【氏名又は名称】成田 友紀
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(72)【発明者】
【氏名】森 佑樹
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB06
5H505CC04
5H505DD03
5H505EE41
5H505GG04
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ17
5H505JJ28
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL45
5H505MM06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】回生トルクを維持しつつ、バッテリが過充電されることを抑制できる制御装置、駆動装置、制御方法、および制御プログラムを提供する。
【解決手段】本発明の制御装置の一つの態様は、モータを制御する制御装置であって、モータを制御する制御部を備える。制御部は、回生トルク指令値に基づいてd軸電流指令値とq軸電流指令値とをそれぞれ制御する回生電流制御を実行する。制御部は回生電流制御の実行時に、モータに電力を供給可能なバッテリの充電率と、モータに関する温度情報と、に基づいて、d軸電流指令値とq軸電流指令値との比率を決定する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを制御する制御装置であって、
前記モータを制御する制御部を備え、
前記制御部は、回生トルク指令値に基づいてd軸電流指令値とq軸電流指令値とをそれぞれ制御する回生電流制御を実行し、
前記制御部は前記回生電流制御の実行時に、前記モータに電力を供給可能なバッテリの充電率と、前記モータに関する温度情報と、に基づいて、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率を決定する、制御装置。
【請求項2】
前記温度情報は、少なくとも1つの温度パラメータを含み、
前記少なくとも1つの温度パラメータは、それぞれ第1閾値を有し、
前記制御部は前記回生電流制御の実行時に、
1つ以上の前記温度パラメータの値が前記第1閾値以上の場合、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率を第1比率とし、
全ての前記温度パラメータの値が前記第1閾値よりも小さく、かつ、前記バッテリの充電率の値が第2閾値よりも大きい場合、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率を第2比率とし、
前記第2比率における前記q軸電流指令値に対する前記d軸電流指令値の比は、前記第1比率における前記q軸電流指令値に対する前記d軸電流指令値の比よりも大きい、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は前記回生電流制御の実行時に、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率が前記第2比率である場合、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率が前記第1比率である場合よりも、前記モータのステータを冷却する冷媒を送る第1ポンプの出力指令値を大きくする、請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記制御部は前記回生電流制御の実行時に、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率が前記第2比率である場合、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率が前記第1比率である場合よりも、前記制御装置を冷却する冷媒を送る第2ポンプの出力指令値を大きくする、請求項2に記載の制御装置。
【請求項5】
前記制御部は前記回生電流制御の実行時に、全ての前記温度パラメータが前記第1閾値よりも小さく、かつ、前記バッテリの充電率の値が前記第2閾値よりも小さい第3閾値よりも大きく前記第2閾値以下である場合、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率を第3比率とし、
前記第3比率における前記q軸電流指令値に対する前記d軸電流指令値の比は、前記第1比率における前記q軸電流指令値に対する前記d軸電流指令値の比よりも大きく、かつ、前記第2比率における前記q軸電流指令値に対する前記d軸電流指令値の比よりも小さい、請求項2に記載の制御装置。
【請求項6】
前記温度パラメータは、前記モータのコイルの温度を含む、請求項2に記載の制御装置。
【請求項7】
前記温度パラメータは、前記制御装置の温度を含む、請求項2に記載の制御装置。
【請求項8】
前記制御装置の温度は、前記モータのコイルに電流を供給可能なインバータ回路部を構成するトランジスタの温度を含む、請求項7に記載の制御装置。
【請求項9】
前記制御装置の温度は、前記モータのコイルに電流を供給可能なインバータ回路部に電気的に接続されたコンデンサの温度を含む、請求項7に記載の制御装置。
【請求項10】
前記温度パラメータは、前記モータのステータに供給される第1冷媒の温度を含む、請求項2に記載の制御装置。
【請求項11】
前記制御装置を冷却する第2冷媒が流れる流路部を備え、
前記温度パラメータは、前記第2冷媒の温度を含む、請求項2に記載の制御装置。
【請求項12】
前記制御部は前記回生電流制御の実行時に、前記回生トルク指令値と前記モータの回転数とのd軸電流指令値マップに基づいて前記d軸電流指令値を決定し、前記回生トルク指令値と前記モータの回転数とのq軸電流指令値マップに基づいて前記q軸電流指令値を決定する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の制御装置を有するモータと、
前記モータに接続されたギヤ機構と、
を備える、駆動装置。
【請求項14】
モータを制御する制御方法であって、
回生トルク指令値に基づいてd軸電流指令値とq軸電流指令値とをそれぞれ制御する回生電流制御を実行することを含み、
前記回生電流制御の実行時において、前記モータに電力を供給可能なバッテリの充電率と前記モータに関する温度情報とに基づいて、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率を決定することを含む、制御方法。
【請求項15】
前記温度情報は、少なくとも1つの温度パラメータを含み、
前記少なくとも1つの温度パラメータは、それぞれ第1閾値を有し、
前記回生電流制御の実行時において、
1つ以上の前記温度パラメータの値が前記第1閾値以上の場合、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率を第1比率とすることと、
全ての前記温度パラメータの値が前記第1閾値よりも小さく、かつ、前記バッテリの充電率の値が第2閾値よりも大きい場合、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率を第2比率とすることと、
を含み、
前記第2比率における前記q軸電流指令値に対する前記d軸電流指令値の比は、前記第1比率における前記q軸電流指令値に対する前記d軸電流指令値の比よりも大きい、請求項14に記載の制御方法。
【請求項16】
前記回生電流制御の実行時において、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率が前記第2比率である場合、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率が前記第1比率である場合よりも、前記モータを冷却する第1冷媒を送る第1ポンプの出力指令値を大きくすることを含む、請求項15に記載の制御方法。
【請求項17】
前記回生電流制御の実行時において、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率が前記第2比率である場合、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率が前記第1比率である場合よりも、前記モータの制御装置を冷却する第2冷媒を送る第2ポンプの出力指令値を大きくすることを含む、請求項15に記載の制御方法。
【請求項18】
前記回生電流制御の実行時において、全ての前記温度パラメータが前記第1閾値よりも低く、かつ、前記バッテリの充電率が前記第2閾値よりも小さい第3閾値よりも大きく前記第2閾値以下である場合、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率を第3比率とすることを含み、
前記第3比率における前記q軸電流指令値に対する前記d軸電流指令値の比は、前記第1比率における前記q軸電流指令値に対する前記d軸電流指令値の比よりも大きく、かつ、前記第2比率における前記q軸電流指令値に対する前記d軸電流指令値の比よりも小さい、請求項15に記載の制御方法。
【請求項19】
前記回生電流制御の実行時において、前記回生トルク指令値と前記モータの回転数とのd軸電流指令値マップに基づいて前記d軸電流指令値を決定し、前記回生トルク指令値と前記モータの回転数とのq軸電流指令値マップに基づいて前記q軸電流指令値を決定することを含む、請求項14に記載の制御方法。
【請求項20】
請求項14から19のいずれか一項に記載の制御方法をコンピュータに実行させる、制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、駆動装置、制御方法、および制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電気自動車に使用されるモータを内蔵したトランスアクスルなどの動力伝達装置は、運転者がブレーキを踏んだ際や坂道などでは、モータのロータが車両の車輪から伝達されるトルクを受けて回転することにより電力を発生する。すなわち、動力伝達装置のモータは、発電機としての機能することが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-91001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような動力伝達装置においては、モータが発電機として機能した際に発生した電力を利用してバッテリを充電する。この場合、バッテリの充電率が或る程度大きい場合に、モータからバッテリに電力が供給されると、バッテリが過充電される恐れがある。これに対して、バッテリの充電率が或る程度大きい場合にモータに生じる回生トルクをゼロにする、または低下させるなどの制御を行えば、モータからバッテリに供給される電力をゼロにする、または低下させることができるため、バッテリが過充電されることを抑制できる。しかしながら、その場合には、回生トルクをブレーキトルクとして利用しにくくなるため、車両のブレーキを好適に掛けにくくなるなどの問題があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みて、回生トルクを維持しつつ、バッテリが過充電されることを抑制できる制御装置、駆動装置、制御方法、および制御プログラムを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の制御装置の一つの態様は、モータを制御する制御装置であって、前記モータを制御する制御部を備える。前記制御部は、回生トルク指令値に基づいてd軸電流指令値とq軸電流指令値とをそれぞれ制御する回生電流制御を実行する。前記制御部は前記回生電流制御の実行時に、前記モータに電力を供給可能なバッテリの充電率と、前記モータに関する温度情報と、に基づいて、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率を決定する。
【0007】
本発明の駆動装置の一つの態様は、上記の制御装置を有するモータと、前記モータに接続されたギヤ機構と、を備える。
【0008】
本発明の制御方法の一つの態様は、モータを制御する制御方法であって、回生トルク指令値に基づいてd軸電流指令値とq軸電流指令値とをそれぞれ制御する回生電流制御を実行することを含み、前記回生電流制御の実行時において、前記モータに電力を供給可能なバッテリの充電率と前記モータに関する温度情報とに基づいて、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率を決定することを含む。
【0009】
本発明の制御プログラムの一つの態様は、上記の制御方法をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一つの態様によれば、モータおよび駆動装置において、回生トルクを維持しつつ、バッテリが過充電されることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、一実施形態における駆動装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、一実施形態における制御部の機能を示すブロック図である。
図3図3は、d軸電流成分とq軸電流成分と回生トルクとの関係を示すグラフである。
図4図4は、一実施形態における制御部による回生電流制御の制御手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に示す駆動装置100は、車両に搭載され、車両の車軸を回転させる駆動装置である。図1に示すように、駆動装置100は、モータ10と、ギヤ機構20と、を備える。ギヤ機構20は、モータ10に接続されている。ギヤ機構20は、車両の車軸にモータ10の後述するロータ12の回転を伝える。ギヤ機構20は、ロータ12に接続された減速装置21と、減速装置21に接続された差動装置22と、を有する。差動装置22は、車両の車軸を回転させる。
【0013】
モータ10には、車両に搭載されたバッテリ92から電力が供給される。バッテリ92は、充電式のバッテリである。モータ10は、モータ本体11と、ハウジング30と、制御装置40と、第1流路部50と、第1ポンプ51と、クーラ52と、冷媒供給部53と、第1温度センサ61と、第2温度センサ62と、を有する。
【0014】
モータ本体11は、ギヤ機構20に接続されたロータ12と、ロータ12と隙間を介して対向するステータ13と、を有する。つまり、モータ10は、ロータ12と、ステータ13と、を有する。ロータ12は、減速装置21に接続されたシャフト12aと、シャフト12aに固定されたロータコア12bと、を有する。ステータ13は、ロータ12の径方向外側に位置する。ステータ13は、ステータコア13aと、ステータコア13aに取り付けられた複数のコイル13bと、を有する。つまり、モータ10は、ステータコア13aと、コイル13bと、を有する。
【0015】
ハウジング30は、モータ本体11、ギヤ機構20、第1温度センサ61、および第2温度センサ62を内部に収容している。ハウジング30は、オイルOが貯留される貯留部31を有する。貯留部31は、例えば、ハウジング30の下部領域に設けられている。オイルOは、モータ本体11を冷却する冷媒として使用される。また、オイルOは、減速装置21および差動装置22に対して潤滑油として使用される。オイルOとしては、例えば、冷媒および潤滑油の機能を奏するために、比較的粘度の低いオートマチックトランスミッション用潤滑油(ATF:Automatic Transmission Fluid)と同等のオイルを用いることが好ましい。本実施形態においてオイルOは、「第1冷媒」に相当する。ハウジング30には、第1ポンプ51とクーラ52とが取り付けられている。
【0016】
第1温度センサ61は、モータ本体11の温度を計測可能なセンサである。本実施形態において第1温度センサ61は、モータ本体11の温度として、ステータ13のコイル13bの温度STを計測可能である。つまり、本実施形態においてモータ本体11の温度は、コイル13bの温度STを含む。第1温度センサ61は、コイル13bに取り付けられている。第1温度センサ61の計測結果は、制御装置40の後述する制御部42に送られる。
【0017】
第2温度センサ62は、ステータ13に供給される第1冷媒としてのオイルOの温度を計測可能なセンサである。本実施形態において第2温度センサ62は、貯留部31の内部に位置する。第2温度センサ62の計測結果は、制御装置40の後述する制御部42に送られる。
【0018】
制御装置40は、モータ10を制御する。制御装置40は、ケース41と、制御部42と、インバータ回路部43と、コンデンサ44と、第3温度センサ63と、第4温度センサ64と、第5温度センサ65と、を備える。ケース41は、制御部42、インバータ回路部43、第3温度センサ63、第4温度センサ64、および第5温度センサ65を内部に収容している。ケース41は、例えば、ハウジング30に取り付けられている。なお、ケース41の少なくとも一部とハウジング30の少なくとも一部とは、同一の単一部材の一部であってもよい。
【0019】
インバータ回路部43は、モータ10のコイル13bに電流を供給可能である。インバータ回路部43は、制御部42からの信号に基づいて、コイル13bに供給する電力を調整する。インバータ回路部43は、トランジスタ43aを有する。図示は省略するが、トランジスタ43aは、複数設けられている。コンデンサ44は、インバータ回路部43に電気的に接続されている。コンデンサ44は、例えば、フィルムコンデンサである。
【0020】
制御部42は、車両に搭載されたVCU(Vehicle Control Unit)90から入力された信号に基づいてモータ10を制御する。VCU90は、車両に搭載された各種の機器を制御する車両制御装置である。図2に示すように、本実施形態においてVCU90から制御部42に入力される信号は、トルク指令値Ttおよび回転数指令値Rtを含む。トルク指令値Ttは、力行トルク指令値Ttpと、回生トルク指令値Ttrと、を含む。例えば、力行トルク指令値Ttpは正の値のトルク指令値Ttであり、回生トルク指令値Ttrは負の値のトルク指令値Ttである。モータ10は、VCU90から力行トルク指令値Ttpが入力された場合に力行状態となり、VCU90から回生トルク指令値Ttrが入力された場合に回生状態となる。力行状態においてモータ10は、バッテリ92に充電された電力を使用して車両の車軸を回転させる。回生状態においてモータ10は、発電機として機能し、車両の車軸が回転させられることによって生じた電力をバッテリ92に充電する。
【0021】
図1に示すように、本実施形態においてVCU90には、ブレーキ信号Bsが入力される。ブレーキ信号Bsは、例えば、車両の運転者がブレーキペダルを踏み込んだ場合にVCU90に入力される。本実施形態においてVCU90は、ブレーキ信号Bsが入力された場合に、制御部42に対して回生トルク指令値Ttrをトルク指令値Ttとして出力する。なお、ブレーキ信号Bsは、運転者の動作によらず、車両に搭載されたシステムから入力される信号であってもよい。また、VCU90は、ブレーキ信号Bs以外のモータ10を回生状態に移行させる信号が入力された場合に、制御部42に対して回生トルク指令値Ttrをトルク指令値Ttとして出力してもよい。
【0022】
VCU90は、ブレーキ信号Bsが入力された場合に、車両に対してブレーキ信号Bsに基づいたブレーキを掛けるために必要なブレーキトルクの値を算出し、当該ブレーキトルクの値に基づいて、車両に搭載されたメカニカルブレーキ93に送るメカニカルブレーキトルク指令値と、制御部42に送る回生トルク指令値Ttrと、を決定する。車両に対してブレーキ信号Bsに基づいたブレーキを掛けるために必要なブレーキトルクの値は、例えば、メカニカルブレーキトルク指令値と制御部42に送る回生トルク指令値Ttrとを足し合わせた値に等しい。メカニカルブレーキ93は、例えば、ディスクブレーキである。
【0023】
制御部42は、モータ10のコイル13bに供給される電流Iをd軸電流成分Idとq軸電流成分Iqとに分けて制御するベクトル制御を行うことで、モータ10を制御する。本実施形態においてコイル13bに供給される電流Iは、3相交流電流である。
【0024】
d軸電流成分Idは、電流Iのうちモータ本体11におけるd軸方向の成分である。q軸電流成分Iqは、電流Iのうちモータ本体11におけるq軸方向の成分である。d軸方向は、モータ本体11のロータ12の磁極が作る磁束の方向である。q軸方向は、d軸方向と電気的および磁気的に直交する方向である。モータ本体11においてd軸方向は、例えば、磁極の周方向中心を通る径方向である。モータ本体11においてq軸方向は、例えば、周方向に隣り合う磁極同士の中心を通る径方向である。d軸電流成分Idは、磁束を発生させる電流成分である。q軸電流成分Iqは、トルクを発生させる成分である。
【0025】
図2に示すように、制御部42は、電流演算部42aと、電圧演算部42bと、3相変換部42cと、を有する。電流演算部42aは、d軸電流成分の目標値であるd軸電流指令値Idtおよびq軸電流成分の目標値であるq軸電流指令値Iqtを算出する。電流演算部42aで算出されたd軸電流指令値Idtおよびq軸電流指令値Iqtは、電圧演算部42bに入力される。
【0026】
電圧演算部42bは、電流演算部42aで算出されたd軸電流指令値Idtおよびq軸電流指令値Iqtに基づいて、d軸電圧成分の目標値であるd軸電圧指令値Vdtおよびq軸電圧成分の目標値であるq軸電圧指令値Vqtを算出する。本実施形態において電圧演算部42bは、インバータ回路部43から入力される電流Iを用いてフィードバック制御を行い、d軸電圧指令値Vdtおよびq軸電圧指令値Vqtを算出する。電圧演算部42bは、入力された3相の電流Iをd軸電流成分Idとq軸電流成分Iqとに2軸変換する。電圧演算部42bは、2軸変換して得られた各電流成分の値を用いてフィードバック制御を行い、各電圧指令値をそれぞれ算出する。電圧演算部42bで算出されたd軸電圧指令値Vdtおよびq軸電圧指令値Vqtは、3相変換部42cに入力される。
【0027】
3相変換部42cは、入力された2軸の電圧指令値を3相の電圧指令値に変換する。本実施形態において3相変換部42cは、d軸電圧指令値Vdtおよびq軸電圧指令値Vqtを、U相電圧成分の目標値である指令値Vutと、V相電圧成分の目標値である指令値Vvtと、W相電圧成分の目標値である指令値Vwtとに変換する。3相変換部42cによって変換されたU相電圧成分の指令値Vut、V相電圧成分の指令値Vvt、およびW相電圧成分の指令値Vwtは、インバータ回路部43に入力される。インバータ回路部43は、入力された3相の電圧成分の指令値に基づいて3相の電流Iを生成し、コイル13bに供給する。
【0028】
第3温度センサ63および第4温度センサ64は、制御装置40の温度を計測可能なセンサである。図1に示すように、第3温度センサ63は、インバータ回路部43を構成するトランジスタ43aに取り付けられており、トランジスタ43aの温度を計測可能である。つまり、本実施形態において制御装置40の温度は、インバータ回路部43を構成するトランジスタ43aの温度INVTを含む。第4温度センサ64は、コンデンサ44に取り付けられており、コンデンサ44の温度を計測可能である。つまり、本実施形態において制御装置40の温度は、コンデンサ44の温度CTを含む。第3温度センサ63の計測結果および第4温度センサ64の計測結果は、制御部42に送られる。
【0029】
第5温度センサ65は、後述する冷却流路部71b内を流れる第2冷媒としての水Wの温度を計測可能なセンサである。本実施形態において第5温度センサ65は、冷却流路部71bに取り付けられている。第5温度センサ65の計測結果は、制御装置40の制御部42に送られる。
【0030】
第1流路部50は、第1ポンプ51によって送られるオイルOが流れる流路である。第1流路部50は、例えば、ハウジング30を構成する壁部に設けられている。第1流路部50は、貯留部31内から冷媒供給部53まで延びている。第1流路部50の途中には、第1ポンプ51およびクーラ52が設けられている。本実施形態において第1ポンプ51は、電動ポンプである。クーラ52は、第1流路部50のうち第1ポンプ51と冷媒供給部53との間の部分に設けられている。
【0031】
第1ポンプ51が駆動されると、第1ポンプ51によって貯留部31内のオイルOが第1流路部50内に流入する。第1流路部50内に流入したオイルOは、クーラ52の内部を通り、クーラ52によって冷却されてから、冷媒供給部53を介してモータ本体11に供給される。冷媒供給部53は、例えば、供給口を有しハウジング30の内部に位置するパイプである。なお、冷媒供給部53は、ハウジング30を構成する壁部に設けられてもよい。本実施形態において冷媒供給部53は、ステータ13に第1冷媒としてのオイルOを供給する。
【0032】
クーラ52は、内部に水Wが流れる第2流路部71,72によって、車両に搭載されたラジエータ91と接続されている。第2流路部71は、第1接続流路部71aと、冷却流路部71bと、第2接続流路部71cと、を有する。第1接続流路部71aは、ラジエータ91と冷却流路部71bとを繋いでいる。冷却流路部71bは、制御装置40に設けられている。より詳細には、冷却流路部71bは、制御装置40のケース41を構成する壁部に設けられている。冷却流路部71b内に水Wが流れることで、制御装置40が冷却される。つまり、本実施形態において制御装置40は、制御装置40を冷却する水Wが流れる流路部として冷却流路部71bを備える。本実施形態においては、冷却流路部71b内を流れる水Wによって、インバータ回路部43およびコンデンサ44が冷却される。なお、本実施形態において水Wは、「第2冷媒」に相当する。第2接続流路部71cは、冷却流路部71bとクーラ52とを繋いでいる。第2流路部72は、クーラ52とラジエータ91とを繋いでいる。第1接続流路部71a、第2接続流路部71c、および第2流路部72は、例えば、配管によって構成されている。
【0033】
第1接続流路部71aには、水Wを送る第2ポンプ94が設けられている。本実施形態において第2ポンプ94は、電動ポンプである。第2ポンプ94は、VCU90によって制御される。第2ポンプ94が駆動させられると、第2流路部71,72内に水Wが流れる。水Wは、ラジエータ91で冷却された後、第2流路部71内を流れて、クーラ52へと流れる。第2流路部71内を流れる水Wは、冷却流路部71bを流れる際に、制御装置40のインバータ回路部43およびコンデンサ44を冷却する。クーラ52へと流れた水Wは、第1流路部50を流れるオイルOとの熱交換により、第1流路部50内のオイルOを冷却する。クーラ52へと流れた水Wは、第2流路部72を流れてラジエータ91へと戻り、ラジエータ91において再び冷却される。
【0034】
本実施形態のモータ10を制御する制御方法は、制御部42によって実行される。制御部42は、力行電流制御と、回生電流制御と、を実行可能である。つまり、本実施形態のモータ10の制御方法は、力行電流制御と、回生電流制御と、を実行することを含む。制御部42は、トルク指令値Ttとして力行トルク指令値Ttpが入力された場合に力行電流制御を実行し、トルク指令値Ttとして回生トルク指令値Ttrが入力された場合に回生電流制御を実行する。力行電流制御は、モータ10が力行状態である場合に、コイル13bに供給される電流Iを制御する電流制御である。
【0035】
回生電流制御は、モータ10が回生状態である場合に、コイル13bに生じる電流Iを制御する電流制御である。回生電流制御は、回生トルク指令値Ttrに基づいてd軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとをそれぞれ制御する制御である。回生電流制御は、回生状態であるモータ10のコイル13bに生じる電流Iのd軸電流成分Idとq軸電流成分Iqとをそれぞれ制御するベクトル制御である。
【0036】
図3は、d軸電流成分Idとq軸電流成分Iqと回生トルクTrとの関係を示すグラフである。図3において、縦軸はq軸電流成分Iqを示しており、横軸はd軸電流成分Idを示している。図3に示す複数の双曲線は、等トルク曲線である。図3では、回生トルクTrがTr1となる場合の等トルク曲線と、回生トルクTrがTr2となる場合の等トルク曲線と、回生トルクTrがTr3となる場合の等トルク曲線と、を示している。d軸電流成分Idの値とq軸電流成分Iqの値とを、所望する回生トルクTrの等トルク曲線上の値に制御すれば、所望する回生トルクTrを出力することができる。回生トルクTrを生じさせるd軸電流成分Idの値およびq軸電流成分Iqの値は、負の値である。
【0037】
制御部42は回生電流制御の実行時に、モータ10に電力を供給可能なバッテリ92の充電率SOCと、モータ10に関する温度情報と、に基づいて、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率を決定する。言い換えれば、本実施形態のモータ10の制御方法は、回生電流制御の実行時において、モータ10に電力を供給可能なバッテリ92の充電率SOCとモータ10に関する温度情報とに基づいて、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率を決定することを含む。バッテリ92の充電率SOCは、例えば、VCU90に入力され、VCU90から制御部42に入力される。
【0038】
本実施形態において制御部42は回生電流制御の実行時に、バッテリ92の充電率SOCと、モータ10に関する温度情報と、に基づいてd軸電流指令値マップ(Id-Map)およびq軸電流指令値マップ(Iq-Map)をそれぞれ決定し、当該各マップに基づいて回生トルク指令値Ttrの回生トルクTrを生じさせることが可能なd軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとを決定する。
【0039】
d軸電流指令値マップは、回生トルク指令値Ttrとモータ10の回転数とに対応するd軸電流指令値Idtがマッピングされたデータマップである。q軸電流指令値マップは、回生トルク指令値Ttrとモータ10の回転数とに対応するq軸電流指令値Iqtがマッピングされたデータマップである。モータ10の回転数は、ロータ12の回転数である。本実施形態においてd軸電流指令値マップおよびq軸電流指令値マップは、それぞれ3つずつ設けられている。3つのd軸電流指令値マップは、モータ10において生じる発熱量が最も小さいd軸電流指令値マップと、モータ10において生じる発熱量が中間の大きさとなるd軸電流指令値マップと、モータ10において生じる発熱量が最も大きいd軸電流指令値マップと、を含む。3つのq軸電流指令値マップは、モータ10において生じる発熱量が最も小さいq軸電流指令値マップと、モータ10において生じる発熱量が中間の大きさとなるq軸電流指令値マップと、モータ10において生じる発熱量が最も大きいq軸電流指令値マップと、を含む。
【0040】
以下の説明においては、モータ10において生じる発熱量が最も小さいd軸電流指令値マップおよびq軸電流指令値マップを「最小発熱量マップ」と呼ぶ場合があり、モータ10において生じる発熱量が中間の大きさとなるd軸電流指令値マップおよびq軸電流指令値マップを「中間発熱量マップ」と呼ぶ場合があり、モータ10において生じる発熱量が最も大きいd軸電流指令値マップおよびq軸電流指令値マップを「最大発熱量マップ」と呼ぶ場合がある。
【0041】
モータ10において生じる発熱量は、コイル13bに生じる電流Iの値が大きいほど大きくなる。最小発熱量マップには、モータ10の回転数ごとに、所望する回生トルクTrを生じさせることができる範囲内で最も電流Iの値を小さくできるd軸電流成分Idの値とq軸電流成分Iqの値とがマッピングされている。所望する回生トルクTrを生じさせることができる範囲内で最も電流Iの値を小さくできるd軸電流成分Idの値とq軸電流成分Iqの値とは、VCU90から入力された回生トルク指令値Ttrの等トルク曲線上となる各電流成分の値のうちで、d軸電流成分Idの値とq軸電流成分Iqの値との積が最も小さくなる値である。或る等トルク曲線上となる各電流成分の値のうちで、d軸電流成分Idの値とq軸電流成分Iqの値との積が最も小さくなる値とは、図3のグラフにおいて原点から回生トルク指令値Ttrの等トルク曲線までの距離が最も短くなる各電流成分の値である。
【0042】
VCU90から入力された回生トルク指令値Ttrの等トルク曲線上となる各電流成分の値のうちからd軸電流成分Idの値とq軸電流成分Iqの値との積が大きくなる値を各電流指令値として選択することで、モータ10において生じる発熱量を大きくすることができる。言い換えれば、図3のグラフにおいて原点から回生トルク指令値Ttrの等トルク曲線までの距離が長くなる各電流成分の値を、各電流指令値として選択することで、モータ10において生じる発熱量を大きくすることができる。中間発熱量マップおよび最大発熱量マップにおいては、最小発熱量マップよりもモータ10において生じる発熱量を大きくできる各電流成分の値がマッピングされている。最大発熱量マップにおいては、中間発熱量マップよりもモータ10において生じる発熱量を大きくできる各電流成分の値がマッピングされている。
【0043】
例えば、図3において、回生トルク指令値Ttrが値Tr2であった場合、最小発熱量マップに基づいて決定されるd軸電流指令値Idtは値Idt1であり、最小発熱量マップに基づいて決定されるq軸電流指令値Iqtは値Iqt3である。回生トルク指令値Ttrが値Tr2であった場合、中間発熱量マップに基づいて決定されるd軸電流指令値Idtは値Idt2であり、中間発熱量マップに基づいて決定されるq軸電流指令値Iqtは値Iqt2である。回生トルク指令値Ttrが値Tr2であった場合、最大発熱量マップに基づいて決定されるd軸電流指令値Idtは値Idt3であり、最大発熱量マップに基づいて決定されるq軸電流指令値Iqtは値Iqt1である。値Idt2の絶対値は、値Idt1の絶対値よりも大きい。値Idt3の絶対値は、値Idt2の絶対値よりも大きい。値Iqt2の絶対値は、値Iqt1の絶対値よりも大きい。値Iqt3の絶対値は、値Iqt2の絶対値よりも大きい。値Idt2と値Iqt2との積は、値Idt1と値Iqt3との積よりも大きい。値Idt3と値Iqt1との積は、値Idt2と値Iqt2との積よりも大きい。
【0044】
最小発熱量マップに基づいて決定されるd軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率は、第1比率である。最大発熱量マップに基づいて決定されるd軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率は、第2比率である。中間発熱量マップに基づいて決定されるd軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率は、第3比率である。第2比率におけるq軸電流指令値Iqtに対するd軸電流指令値Idtの比は、第1比率におけるq軸電流指令値Iqtに対するd軸電流指令値Idtの比よりも大きい。第3比率におけるq軸電流指令値Iqtに対するd軸電流指令値Idtの比は、第1比率におけるq軸電流指令値Iqtに対するd軸電流指令値Idtの比よりも大きく、かつ、第2比率におけるq軸電流指令値Iqtに対するd軸電流指令値Idtの比よりも小さい。
【0045】
なお、本明細書において「或る値に対する他の値の比」とは、他の値を或る値で除した値である。言い換えれば、「或る値に対する他の値の比」とは、{(他の値)/(或る値)}で示される値である。q軸電流指令値Iqtに対するd軸電流指令値Idtの比とは、d軸電流指令値Idtをq軸電流指令値Iqtで除した値であり、Idt/Iqtで示される値である。
【0046】
モータ10に関する温度情報とは、モータ10に関係する温度の情報であれば、どのような情報であってもよく、モータ10を構成する各部の温度のみに限られず、モータ10に供給される物質の温度などであってもよい。本実施形態においてモータ10に関する温度情報は、少なくとも1つの温度パラメータを含んでいる。当該温度パラメータは、モータ10の温度と、オイルOの温度OTと、水Wの温度WTと、を含む。モータ10の温度は、コイル13bの温度STと、制御装置40の温度と、を含む。つまり、当該温度パラメータは、コイル13bの温度STと、制御装置40の温度と、を含む。制御装置40の温度は、トランジスタ43aの温度INVTと、コンデンサ44の温度CTと、を含む。
【0047】
モータ10に関する温度情報に含まれる各温度パラメータの温度は、それぞれ第1閾値を有する。当該第1閾値は、温度パラメータごとに決定される。各温度パラメータにおける各第1閾値は、互いに異なってもよいし、互いに同じであってもよい。
【0048】
ここで、モータ10が回生状態である場合にモータ10からバッテリ92に供給される回生電流は、モータ10におけるエネルギ損失が大きくなるほど小さくなる。モータ10におけるエネルギ損失は、モータ10における発熱量が大きくなるほど大きくなる。回生電流をIrとし、回生電圧をVrとし、回生状態においてモータ10が生じる回生エネルギをErとし、発熱によってモータ10に生じる損失をLmとしたとき、回生電流Irは、Ir=(Er-Lm)/Vrで表される。したがって、回生状態において、モータ10に生じる発熱量を大きくすることで、バッテリ92に供給される回生電流Irを小さくすることができる。
【0049】
本実施形態によれば、制御部42は回生電流制御の実行時に、モータ10に電力を供給可能なバッテリ92の充電率SOCと、モータ10に関する温度情報と、に基づいて、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率を決定する。そのため、充電率SOCが比較的大きい場合に、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率を、モータ10における発熱量が大きくなる比率に決定することにより、バッテリ92に供給される回生電流Irを小さくする、またはゼロにすることができる。したがって、バッテリ92が過充電されることを抑制できる。このように、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率を調整することで回生電流Irを小さくしても、モータ10によって生じる回生トルクTrは小さくならない。そのため、回生トルクTrを維持しつつ、バッテリ92が過充電されることを抑制できる。これにより、回生トルクTrをブレーキトルクとして利用することができ、車両のブレーキを好適に掛けることができる。また、メカニカルブレーキ93によって生じさせるメカニカルブレーキトルクが大きくなることを抑制できるため、メカニカルブレーキ93において生じる発熱が大きくなることを抑制できる。
【0050】
上述したようにしてモータ10において生じる発熱量を大きくしてバッテリ92の過充電を抑制する場合、モータ10において生じる熱によってモータ10の温度が高くなり過ぎる恐れがある。これに対して、本実施形態によれば、制御部42は、回生電流制御の実行時に、バッテリ92の充電率SOCだけでなく、モータ10に関する温度情報にも基づいてd軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率を決定する。そのため、モータ10における発熱量を大きくすることでモータ10の温度が高くなり過ぎる恐れがある場合には、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率を、モータ10における発熱量が小さくなる比率に決定することができる。これにより、モータ10の温度が高くなり過ぎることを抑制できる。
【0051】
また、本実施形態において制御部42は回生電流制御の実行時に、回生トルク指令値Ttrとモータ10の回転数とのd軸電流指令値マップに基づいてd軸電流指令値Idtを決定し、回生トルク指令値Ttrとモータ10の回転数とのq軸電流指令値マップに基づいてq軸電流指令値Iqtを決定する。言い換えれば、モータ10の制御方法は、回生電流制御の実行時において、回生トルク指令値Ttrとモータ10の回転数とのd軸電流指令値マップに基づいてd軸電流指令値Idtを決定し、回生トルク指令値Ttrとモータ10の回転数とのq軸電流指令値マップに基づいてq軸電流指令値Iqtを決定することを含む。そのため、回生トルク指令値Ttrおよびモータ10の回転数に応じたd軸電流指令値Idtおよびq軸電流指令値Iqtを容易かつ好適に決定することができる。
【0052】
図4は、制御部42による回生電流制御の制御手順の一例を示すフローチャートである。図4に示すように、本実施形態において制御部42は回生電流制御の実行時に、モータ10に関する温度情報の各温度パラメータの温度を各温度パラメータにおける第1閾値と比較する。具体的に、制御部42は回生電流制御の実行時に、第5温度センサ65の計測結果に基づいて、水Wの温度WTが第1閾値Ttwよりも小さいか否かを判定する(ステップS1)。
【0053】
水Wの温度WTが第1閾値Ttw以上の場合(ステップS1:NO)、制御部42は、d軸電流指令値マップ(Id-Map)およびq軸電流指令値マップ(Iq-Map)を発熱量が最も小さいマップ、すなわち最小発熱量マップにする(ステップS8a)。これにより、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとが最小発熱量マップに基づいて決定され、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率は、第1比率となる。一方、水Wの温度WTが第1閾値Ttwよりも小さい場合(ステップS1:YES)、制御部42は、第1温度センサ61の計測結果に基づいて、コイル13bの温度STが第1閾値Ttsよりも小さいか否かを判定する(ステップS2)。
【0054】
コイル13bの温度STが第1閾値Tts以上の場合(ステップS2:NO)、制御部42は、d軸電流指令値マップ(Id-Map)およびq軸電流指令値マップ(Iq-Map)を発熱量が最も小さいマップ、すなわち最小発熱量マップにする(ステップS8a)。これにより、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとが最小発熱量マップに基づいて決定され、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率は、第1比率となる。一方、コイル13bの温度STが第1閾値Ttsよりも小さい場合(ステップS2:YES)、制御部42は、第3温度センサ63の計測結果に基づいて、トランジスタ43aの温度INVTが第1閾値Ttinvよりも小さいか否かを判定する(ステップS3)。
【0055】
トランジスタ43aの温度INVTが第1閾値Ttinv以上の場合(ステップS3:NO)、制御部42は、d軸電流指令値マップ(Id-Map)およびq軸電流指令値マップ(Iq-Map)を発熱量が最も小さいマップ、すなわち最小発熱量マップにする(ステップS8a)。これにより、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとが最小発熱量マップに基づいて決定され、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率は、第1比率となる。一方、トランジスタ43aの温度INVTが第1閾値Ttinvよりも小さい場合(ステップS3:YES)、制御部42は、第2温度センサ62の計測結果に基づいて、オイルOの温度OTが第1閾値Ttoよりも小さいか否かを判定する(ステップS4)。
【0056】
オイルOの温度OTが第1閾値Tto以上の場合(ステップS4:NO)、制御部42は、d軸電流指令値マップ(Id-Map)およびq軸電流指令値マップ(Iq-Map)を発熱量が最も小さいマップ、すなわち最小発熱量マップにする(ステップS8a)。これにより、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとが最小発熱量マップに基づいて決定され、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率は、第1比率となる。一方、オイルOの温度OTが第1閾値Ttoよりも小さい場合(ステップS4:YES)、制御部42は、第4温度センサ64の計測結果に基づいて、コンデンサ44の温度CTが第1閾値Ttcよりも小さいか否かを判定する(ステップS5)。
【0057】
コンデンサ44の温度CTが第1閾値Ttc以上の場合(ステップS5:NO)、制御部42は、d軸電流指令値マップ(Id-Map)およびq軸電流指令値マップ(Iq-Map)を発熱量が最も小さいマップ、すなわち最小発熱量マップにする(ステップS8a)。これにより、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとが最小発熱量マップに基づいて決定され、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率は、第1比率となる。
【0058】
一方、コンデンサ44の温度CTが第1閾値Ttcよりも小さい場合(ステップS5:YES)、制御部42は、バッテリ92の充電率SOCが第2閾値Xaよりも大きいか否かを判定する(ステップS6)。第2閾値Xaは、例えば、80%以上、100%未満程度の値である。
【0059】
バッテリ92の充電率SOCが第2閾値Xaよりも大きい場合(ステップS6:YES)、制御部42は、d軸電流指令値マップ(Id-Map)およびq軸電流指令値マップ(Iq-Map)を発熱量が最も大きいマップ、すなわち最大発熱量マップにする(ステップS8c)。これにより、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとが最大発熱量マップに基づいて決定され、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率は、第2比率となる。
【0060】
以上のように、本実施形態によれば、制御部42は回生電流制御の実行時に、モータ10に関する温度情報に含まれる1つ以上の温度パラメータの値が第1閾値以上の場合、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率を第1比率とし、モータ10に関する温度情報に含まれる全ての温度パラメータの値が第1閾値よりも小さく、かつ、バッテリ92の充電率SOCの値が第2閾値Xaよりも大きい場合、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率を第2比率とする。言い換えれば、本実施形態のモータ10の制御方法は、回生電流制御の実行時において、1つ以上の温度パラメータの値が第1閾値以上の場合、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率を第1比率とすることと、全ての温度パラメータの値が第1閾値よりも小さく、かつ、バッテリ92の充電率SOCの値が第2閾値Xaよりも大きい場合、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率を第2比率とすることと、を含む。第2比率におけるq軸電流指令値Iqtに対するd軸電流指令値Idtの比は、第1比率におけるq軸電流指令値Iqtに対するd軸電流指令値Idtの比よりも大きい。そのため、回生電流制御においてモータ10における発熱量を大きくするとモータ10の温度が高くなり過ぎる恐れが場合にはモータ10の発熱量を大きくせずに、回生電流制御においてモータ10における発熱量を大きくしてもモータ10の温度が高くなり過ぎにくい場合にモータ10の発熱量を大きくしてバッテリ92が過充電されることを抑制できる。したがって、モータ10の温度が高くなり過ぎることを好適に抑制しつつ、バッテリ92が過充電されることを抑制できる。
【0061】
また、本実施形態によれば、モータ10に関する温度情報に含まれる温度パラメータは、モータ10のコイル13bの温度STを含む。そのため、コイル13bの温度STが第1閾値Tts以上の場合にd軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率を第1比率として、モータ10において生じる発熱量を少なくできる。これにより、コイル13bの温度STが高くなり過ぎることを好適に抑制できる。
【0062】
また、本実施形態によれば、モータ10に関する温度情報に含まれる温度パラメータは、制御装置40の温度を含む。そのため、制御装置40の温度が第1閾値以上の場合にd軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率を第1比率として、モータ10において生じる発熱量を少なくできる。これにより、制御装置40の温度が高くなり過ぎることを好適に抑制できる。具体的に本実施形態では、制御装置40の温度は、モータ10のコイル13bに電流Iを供給可能なインバータ回路部43を構成するトランジスタ43aの温度INVTを含む。そのため、トランジスタ43aの温度INVTが高くなり過ぎることを好適に抑制できる。また、本実施形態では、制御装置40の温度は、モータ10のコイル13bに電流Iを供給可能なインバータ回路部43に電気的に接続されたコンデンサ44の温度CTを含む。そのため、コンデンサ44の温度CTが高くなり過ぎることを好適に抑制できる。
【0063】
また、本実施形態によれば、モータ10に関する温度情報に含まれる温度パラメータは、モータ10のステータ13に供給される第1冷媒としてのオイルOの温度OTを含む。そのため、オイルOの温度OTが比較的高く、オイルOによるステータ13の冷却度合いが比較的小さくなる場合に、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率を第1比率として、モータ10において生じる発熱量を少なくできる。これにより、モータ10の温度が高くなり過ぎることをより好適に抑制できる。
【0064】
また、本実施形態によれば、モータ10に関する温度情報に含まれる温度パラメータは、冷却流路部71b内を流れる第2冷媒としての水Wの温度WTを含む。そのため、水Wの温度WTが比較的高く、水Wによる制御装置40の冷却度合いが比較的小さくなる場合に、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率を第1比率として、モータ10において生じる発熱量を少なくできる。これにより、制御装置40の温度が高くなり過ぎることをより好適に抑制できる。本実施形態では、インバータ回路部43の温度INVTおよびコンデンサ44の温度CTが高くなり過ぎることを好適に抑制できる。
【0065】
本実施形態のステップS8cにおいてd軸電流指令値マップおよびq軸電流指令値マップが最大発熱量マップとされた場合、制御部42は、第1ポンプ51の出力および第2ポンプ94の出力を増加させる(ステップS9c)。具体的には、制御部42は、第1ポンプ51および第2ポンプ94に送る出力指令値を大きくする。本実施形態において制御部42は、VCU90に信号を送ることで、VCU90から第2ポンプ94に送られる出力指令値を大きくする。
【0066】
ステップS9cにおいて第1ポンプ51および第2ポンプ94に送られる出力指令値は、d軸電流指令値マップ(Id-Map)およびq軸電流指令値マップ(Iq-Map)が最小発熱量マップとされた場合よりも大きい。つまり、制御部42は回生電流制御の実行時に、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率が第2比率である場合、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率が第1比率である場合よりも、モータ10のステータ13を冷却する冷媒としてのオイルOを送る第1ポンプ51の出力指令値を大きくする。言い換えれば、モータ10の制御方法は、回生電流制御の実行時において、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率が第2比率である場合、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率が第1比率である場合よりも、モータ10を冷却する第1冷媒としてのオイルOを送る第1ポンプ51の出力指令値を大きくすることを含む。そのため、回生電流制御においてモータ10における発熱量を大きくしても、第1ポンプ51によってステータ13に送られるオイルOの量を多くしてステータ13の冷却度合いを向上させることができ、コイル13bの温度STが高くなり過ぎることを抑制できる。これにより、モータ10の温度が高くなり過ぎることを好適に抑制しつつ、バッテリ92が過充電されることを抑制できる。
【0067】
また、制御部42は回生電流制御の実行時に、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率が第2比率である場合、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率が第1比率である場合よりも、制御装置40を冷却する冷媒としての水Wを送る第2ポンプ94の出力指令値を大きくする。言い換えれば、モータ10の制御方法は、回生電流制御の実行時において、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率が第2比率である場合、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率が第1比率である場合よりも、モータ10の制御装置40を冷却する第2冷媒としての水Wを送る第2ポンプ94の出力指令値を大きくすることを含む。そのため、回生電流制御においてモータ10における発熱量を大きくしても、第2ポンプ94によって制御装置40に送られる水Wの量を多くして制御装置40の冷却度合いを向上させることができ、制御装置40の温度が高くなり過ぎることを抑制できる。これにより、モータ10の温度が高くなり過ぎることをより好適に抑制できる。
【0068】
バッテリ92の充電率SOCが第2閾値Xa以下の場合(ステップS6:NO)、制御部42は、バッテリ92の充電率SOCが第3閾値Xbよりも大きいか否かを判定する(ステップS7)。第3閾値Xbは、第2閾値Xaよりも小さい。第3閾値Xbは、例えば、60%以上、80%以下程度の値である。
【0069】
バッテリ92の充電率SOCが第3閾値Xbよりも大きい場合(ステップS7:YES)、制御部42は、d軸電流指令値マップ(Id-Map)およびq軸電流指令値マップ(Iq-Map)を発熱量が中間の大きさとなるマップ、すなわち中間発熱量マップにする(ステップS8b)。これにより、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとが中間発熱量マップに基づいて決定され、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率は、第3比率となる。
【0070】
このように、制御部42は回生電流制御の実行時に、モータ10に関する温度情報に含まれる全ての温度パラメータが第1閾値よりも小さく、かつ、バッテリ92の充電率SOCの値が第2閾値Xaよりも小さい第3閾値Xbよりも大きく第2閾値Xa以下である場合、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率を第3比率とする。言い換えれば、モータ10の制御方法は、回生電流制御の実行時において、全ての温度パラメータが第1閾値よりも低く、かつ、バッテリ92の充電率SOCが第2閾値Xaよりも小さい第3閾値Xbよりも大きく第2閾値Xa以下である場合、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率を第3比率とすることを含む。第3比率におけるq軸電流指令値Iqtに対するd軸電流指令値Idtの比は、第1比率におけるq軸電流指令値Iqtに対するd軸電流指令値Idtの比よりも大きく、かつ、第2比率におけるq軸電流指令値Iqtに対するd軸電流指令値Idtの比よりも小さい。そのため、回生電流制御において、バッテリ92の充電率SOCが比較的大きい範囲内において第2閾値Xa以下である場合に、バッテリ92に供給される回生電流Irを小さくしつつ、モータ10において生じる発熱量が大きくなることを抑制できる。これにより、バッテリ92が過充電されることを抑制しつつ、モータ10の温度が高くなり過ぎることをより好適に抑制できる。
【0071】
本実施形態のステップS8bにおいてd軸電流指令値マップおよびq軸電流指令値マップが中間発熱量マップとされた場合、制御部42は、第1ポンプ51の出力および第2ポンプ94の出力を増加させる(ステップS9b)。ステップS9bにおいて第1ポンプ51および第2ポンプ94に送られる出力指令値は、d軸電流指令値マップ(Id-Map)およびq軸電流指令値マップ(Iq-Map)が最小発熱量マップとされた場合よりも大きい。また、ステップS9bにおいて第1ポンプ51および第2ポンプ94に送られる出力指令値は、d軸電流指令値マップ(Id-Map)およびq軸電流指令値マップ(Iq-Map)が最大発熱量マップとされた場合よりも小さい。つまり、制御部42は回生電流制御の実行時に、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率が第3比率である場合、第1ポンプ51の出力指令値および第2ポンプ94の出力指令値を、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率が第1比率である場合よりも大きくし、かつ、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率が第2比率である場合よりも小さくする。これにより、回生電流制御においてモータ10における発熱量が大きくなった場合に、増加する発熱量に応じて第1ポンプ51の出力および第2ポンプ94の出力を好適に大きくしてモータ10を好適に冷却しつつ、第1ポンプ51の出力および第2ポンプ94の出力が必要以上に大きくなることを抑制できる。
【0072】
バッテリ92の充電率SOCが第3閾値Xb以下の場合(ステップS7:NO)、制御部42は、d軸電流指令値マップ(Id-Map)およびq軸電流指令値マップ(Iq-Map)を発熱量が最も小さいマップ、すなわち最小発熱量マップにする(ステップS8a)。つまり、制御部42は回生電流制御の実行時に、モータ10に関する温度情報の全ての温度パラメータの値が第1閾値よりも小さい場合であっても、バッテリ92の充電率SOCが第3閾値Xb以下であれば、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率を第1比率とする。バッテリ92の充電率SOCが第3閾値Xb以下の場合には、バッテリ92に回生電流Irが供給されてもバッテリ92が過充電されにくい。そのため、バッテリ92の充電率SOCが第3閾値Xb以下の場合には、d軸電流指令値Idtとq軸電流指令値Iqtとの比率を第1比率とすることでバッテリ92に供給される回生電流Irを大きくして、バッテリ92を好適に充電することができる。
【0073】
制御装置40における制御部42は、上述した本実施形態のモータ10の制御方法を実行するコンピュータである。制御部42には、本実施形態のモータ10の制御方法をコンピュータである制御部42に実行させる制御プログラムがインストールされている。制御部42の各構成要素における機能の少なくとも一部は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサが、図示しない記憶部に記憶された制御プログラム、すなわちソフトウェアを実行することで実現される。
【0074】
なお、制御部42の各構成要素の機能の少なくとも一部は、例えば、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、およびGPU(Graphics Processing Unit)などの回路部を含むハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアとの協働によって実現されていてもよい。図示しない記憶部は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(hard disk drive)、およびフラッシュメモリなどの記憶媒体によって実現される。
【0075】
本発明は上述の実施形態に限られず、本発明の技術的思想の範囲内において、他の構成および方法を採用することもできる。モータに関する温度情報に含まれる温度パラメータの数は、1つ以上であれば、特に限定されない。制御部は回生電流制御の実行時に、モータに電力を供給可能なバッテリの充電率と、モータに関する温度情報と、に基づいて、d軸電流指令値とq軸電流指令値との比率を決定するならば、どのようにd軸電流指令値とq軸電流指令値との比率を決定してもよい。例えば、上述した実施形態において、ステップS1からステップS5までの各温度の判定は、どのような順番で行われてもよい。d軸電流指令値マップおよびq軸電流指令値マップは、それぞれ、上述した実施形態の最小発熱量マップおよび最大発熱量マップの2つのみ設けられてもよいし、4つ以上設けられてもよい。また、制御部は、d軸電流指令値とq軸電流指令値とをマップに基づかずに、演算などによって算出して決定してもよい。第1閾値、第2閾値、および第3閾値は、どのような値であってもよい。
【0076】
なお、本技術は以下のような構成をとることが可能である。
(1) モータを制御する制御装置であって、前記モータを制御する制御部を備え、前記制御部は、回生トルク指令値に基づいてd軸電流指令値とq軸電流指令値とをそれぞれ制御する回生電流制御を実行し、前記制御部は前記回生電流制御の実行時に、前記モータに電力を供給可能なバッテリの充電率と、前記モータに関する温度情報と、に基づいて、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率を決定する、制御装置。
(2) 前記温度情報は、少なくとも1つの温度パラメータを含み、前記少なくとも1つの温度パラメータは、それぞれ第1閾値を有し、前記制御部は前記回生電流制御の実行時に、1つ以上の前記温度パラメータの値が前記第1閾値以上の場合、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率を第1比率とし、全ての前記温度パラメータの値が前記第1閾値よりも小さく、かつ、前記バッテリの充電率の値が第2閾値よりも大きい場合、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率を第2比率とし、前記第2比率における前記q軸電流指令値に対する前記d軸電流指令値の比は、前記第1比率における前記q軸電流指令値に対する前記d軸電流指令値の比よりも大きい、(1)に記載の制御装置。
(3) 前記制御部は前記回生電流制御の実行時に、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率が前記第2比率である場合、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率が前記第1比率である場合よりも、前記モータのステータを冷却する冷媒を送る第1ポンプの出力指令値を大きくする、(2)に記載の制御装置。
(4) 前記制御部は前記回生電流制御の実行時に、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率が前記第2比率である場合、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率が前記第1比率である場合よりも、前記制御装置を冷却する冷媒を送る第2ポンプの出力指令値を大きくする、(2)または(3)に記載の制御装置。
(5) 前記制御部は前記回生電流制御の実行時に、全ての前記温度パラメータが前記第1閾値よりも小さく、かつ、前記バッテリの充電率の値が前記第2閾値よりも小さい第3閾値よりも大きく前記第2閾値以下である場合、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率を第3比率とし、前記第3比率における前記q軸電流指令値に対する前記d軸電流指令値の比は、前記第1比率における前記q軸電流指令値に対する前記d軸電流指令値の比よりも大きく、かつ、前記第2比率における前記q軸電流指令値に対する前記d軸電流指令値の比よりも小さい、(2)から(4)のいずれか一項に記載の制御装置。
(6) 前記温度パラメータは、前記モータのコイルの温度を含む、(2)から(5)のいずれか一項に記載の制御装置。
(7) 前記温度パラメータは、前記制御装置の温度を含む、(2)から(6)のいずれか一項に記載の制御装置。
(8) 前記制御装置の温度は、前記モータのコイルに電流を供給可能なインバータ回路部を構成するトランジスタの温度を含む、(7)に記載の制御装置。
(9) 前記制御装置の温度は、前記モータのコイルに電流を供給可能なインバータ回路部に電気的に接続されたコンデンサの温度を含む、(7)または(8)に記載の制御装置。
(10) 前記温度パラメータは、前記モータのステータに供給される第1冷媒の温度を含む、(2)から(9)のいずれか一項に記載の制御装置。
(11) 前記制御装置を冷却する第2冷媒が流れる流路部を備え、前記温度パラメータは、前記第2冷媒の温度を含む、(2)から(10)のいずれか一項に記載の制御装置。
(12) 前記制御部は前記回生電流制御の実行時に、前記回生トルク指令値と前記モータの回転数とのd軸電流指令値マップに基づいて前記d軸電流指令値を決定し、前記回生トルク指令値と前記モータの回転数とのq軸電流指令値マップに基づいて前記q軸電流指令値を決定する、(1)から(11)のいずれか一項に記載の制御装置。
(13) (1)から(12)のいずれか一項に記載の制御装置を有するモータと、前記モータに接続されたギヤ機構と、を備える、駆動装置。
(14) モータを制御する制御方法であって、回生トルク指令値に基づいてd軸電流指令値とq軸電流指令値とをそれぞれ制御する回生電流制御を実行することを含み、前記回生電流制御の実行時において、前記モータに電力を供給可能なバッテリの充電率と前記モータに関する温度情報とに基づいて、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率を決定することを含む、制御方法。
(15) 前記温度情報は、少なくとも1つの温度パラメータを含み、前記少なくとも1つの温度パラメータは、それぞれ第1閾値を有し、前記回生電流制御の実行時において、1つ以上の前記温度パラメータの値が前記第1閾値以上の場合、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率を第1比率とすることと、全ての前記温度パラメータの値が前記第1閾値よりも小さく、かつ、前記バッテリの充電率の値が第2閾値よりも大きい場合、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率を第2比率とすることと、を含み、前記第2比率における前記q軸電流指令値に対する前記d軸電流指令値の比は、前記第1比率における前記q軸電流指令値に対する前記d軸電流指令値の比よりも大きい、(14)に記載の制御方法。
(16) 前記回生電流制御の実行時において、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率が前記第2比率である場合、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率が前記第1比率である場合よりも、前記モータを冷却する第1冷媒を送る第1ポンプの出力指令値を大きくすることを含む、(15)に記載の制御方法。
(17) 前記回生電流制御の実行時において、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率が前記第2比率である場合、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率が前記第1比率である場合よりも、前記モータの制御部を冷却する第2冷媒を送る第2ポンプの出力指令値を大きくすることを含む、(15)または(16)に記載の制御方法。
(18) 前記回生電流制御の実行時において、全ての前記温度パラメータが前記第1閾値よりも低く、かつ、前記バッテリの充電率が前記第2閾値よりも小さい第3閾値よりも大きく前記第2閾値以下である場合、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との比率を第3比率とすることを含み、前記第3比率における前記q軸電流指令値に対する前記d軸電流指令値の比は、前記第1比率における前記q軸電流指令値に対する前記d軸電流指令値の比よりも大きく、かつ、前記第2比率における前記q軸電流指令値に対する前記d軸電流指令値の比よりも小さい、(15)から(17)のいずれか一項に記載の制御方法。
(19) 前記回生電流制御の実行時において、前記回生トルク指令値と前記モータの回転数とのd軸電流指令値マップに基づいて前記d軸電流指令値を決定し、前記回生トルク指令値と前記モータの回転数とのq軸電流指令値マップに基づいて前記q軸電流指令値を決定することを含む、(14)から(18)のいずれか一項に記載の制御方法。
(20) (14)から(19)のいずれか一項に記載の制御方法をコンピュータに実行させる、制御プログラム。
【0077】
以上、本明細書において説明した構成および方法は、相互に矛盾しない範囲内において、適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0078】
10…モータ、13…ステータ、13b…コイル、20…ギヤ機構、40…制御装置、42…制御部、43…インバータ回路部、43a…トランジスタ、44…コンデンサ、51…第1ポンプ、53…冷媒供給部、71b…冷却流路部(流路部)、92…バッテリ、94…第2ポンプ、100…駆動装置、CT,INVT,OT,ST,WT…温度、I…電流、Idt…d軸電流指令値、Iqt…q軸電流指令値、O…オイル(第1冷媒)、SOC…充電率、Ttc,Ttinv,Tto,Tts,Ttw…第1閾値、Ttr…回生トルク指令値、Xa…第2閾値、Xb…第3閾値
図1
図2
図3
図4