(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094815
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】乳酸菌含有組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/747 20150101AFI20240703BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20240703BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20240703BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
A61K35/747
A61P1/00
A23L33/135
A23L2/00 F
A23L2/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211629
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福崎 千紘
(72)【発明者】
【氏名】藤本 純子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 京
(72)【発明者】
【氏名】曽野 陽子
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4C087
【Fターム(参考)】
4B018MD53
4B018MD86
4B018ME14
4B018MF04
4B018MF06
4B018MF07
4B018MF13
4B117LC04
4B117LG07
4B117LK21
4B117LP03
4B117LP05
4B117LP20
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC56
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA66
(57)【要約】
【課題】乳酸菌による新規な効果及び用途の提供。
【解決手段】ラクチプランチバチルス プランタラム(Lactiplantibacillus plantarum)S25株(受託番号:NITE BP-03571)を含む、腸内細菌叢改善及び/又は腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクチプランチバチルス プランタラム(Lactiplantibacillus plantarum)S25株(受託番号:NITE BP-03571)を含む、腸内細菌叢改善及び/又は腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物。
【請求項2】
ラクチプランチバチルス プランタラム(Lactiplantibacillus plantarum)S25株(受託番号:NITE BP-03571)発酵ブロッコリーを含む、腸内細菌叢改善及び/又は腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物。
【請求項3】
腸内細菌叢改善が、腸内細菌の多様性を増加させることである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
腸内細菌叢改善が、高脂肪食摂取により変化した腸内細菌叢を正常に戻すこと、又は正常に近づけることである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
腸内細菌叢改善が、腸内細菌全体に占めるクレゾール産生菌の相対存在比を減少させることである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項6】
経口組成物である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項7】
飲食品組成物又は医薬品組成物である、請求項1又は2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ラクチプランチバチルス プランタラム(Lactiplantibacillus plantarum)S25株(受託番号:NITE BP-03571)及び/又はラクチプランチバチルス プランタラム S25株発酵ブロッコリーを含む、腸内細菌叢改善及び/又は腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物等に関する。なお、本明細書に記載される全ての文献の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
肥満並びに肥満に関連した糖尿病、高血圧症及び脂質異常症等の生活習慣病の増加は、世界的な問題である。近年の研究により、肥満及びこれらの疾患と、腸内細菌叢とが相互に関連することが示唆されている。例えば、肥満の個体と正常体重の個体とでは腸内細菌叢が異なること、及び、高脂肪食の摂取により腸内細菌叢が変化すること等が報告されている(非特許文献1)。
【0003】
一方、乳酸菌発酵物が有する、種々の効果が検討されている。乳酸菌発酵物により、例えば腸バリアが改善される(特許文献1)、あるいは肌が改善される(特許文献2)等の効果が奏されることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開第2019-011315号公報
【特許文献2】特開第2019-011316号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】腸内細菌学雑誌 2010年24巻3号 pp.193~201
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、乳酸菌による新規な効果及び用途を探索した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ラクチプランチバチルス プランタラム(Lactiplantibacillus plantarum)S25株(受託番号:NITE BP-03571)及び/又はラクチプランチバチルス プランタラム S25株発酵ブロッコリーを摂取することで、腸内細菌叢を改善し、及び/又は腸内短鎖脂肪酸産生を促進し得ることを見出し、さらに改良を重ねた。
【0008】
本開示は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
ラクチプランチバチルス プランタラム(Lactiplantibacillus plantarum)S25株(受託番号:NITE BP-03571)を含む、腸内細菌叢改善及び/又は腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物。
項2.
ラクチプランチバチルス プランタラム(Lactiplantibacillus plantarum)S25株(受託番号:NITE BP-03571)発酵ブロッコリーを含む、腸内細菌叢改善及び/又は腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物。
項3.
腸内細菌叢改善が、腸内細菌の多様性を増加させることである、項1又は2に記載の組成物。
項4.
腸内細菌叢改善が、高脂肪食摂取により変化した腸内細菌叢を正常に戻すこと、又は正常に近づけることである、項1又は2に記載の組成物。
項5.
腸内細菌叢改善が、腸内細菌全体に占めるクレゾール産生菌の相対存在比を減少させることである、項1又は2に記載の組成物。
項6.
経口組成物である、項1~5のいずれかに記載の組成物。
項7.
飲食品組成物又は医薬品組成物である、項1~6のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0009】
ラクチプランチバチルス プランタラム S25株及び/又はラクチプランチバチルス プランタラム S25株発酵ブロッコリーを含む、腸内細菌叢改善及び/又は腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】普通食(ND)、高脂肪食(HFD)、高脂肪食及びラクチプランチバチルス プランタラム S25株死菌(HFD+S25(死菌))、又は高脂肪食及びラクチプランチバチルス プランタラム S25株発酵ブロッコリー(HFD+S25発酵ブロッコリー)を摂取させたマウスの、盲腸内細菌叢のα多様性解析結果を箱ひげ図で示す。縦軸はα多様性の指標であるChao1の値である。**はp<0.01を示す。
【
図2】普通食(ND)、高脂肪食(HFD)、高脂肪食及びラクチプランチバチルス プランタラム S25株死菌(HFD+S25(死菌))、又は高脂肪食及びラクチプランチバチルス プランタラム S25株発酵ブロッコリー(HFD+S25発酵ブロッコリー)を摂取させたマウスの、盲腸内細菌叢のβ多様性に基づく主座標分析の結果を示す。赤いプロットはND群を、緑のプロットはHFD群を、青いプロットはHFD+S25(死菌)群を、紫のプロットはHFD+S25発酵ブロッコリー群をそれぞれ示す。また、各プロットの大きさはα多様性(Chao1)の大きさを反映している。
【
図3A】Control(無添加)又はS25株死菌を添加した場合の、ヒト便培養上清に含まれる短鎖脂肪酸濃度を箱ひげ図で示す。*はp<0.05を示す。
【
図3B】Control(無添加)又はS25株死菌を添加した場合の、ヒト便培養上清に含まれる酢酸濃度を箱ひげ図で示す。*はp<0.05を示す。●は「外れ値」、すなわち箱ひげ図に収まらない値を示す。
【
図3C】Control(無添加)又はS25株死菌を添加した場合の、ヒト便培養上清に含まれる酪酸濃度を箱ひげ図で示す。*はp<0.05を示す。
【
図4A】Control(無添加)、未発酵ブロッコリー、又はS25発酵ブロッコリーを添加した場合の、ヒト便培養上清に含まれる短鎖脂肪酸濃度を箱ひげ図で示す。*はp<0.05を示す。
【
図4B】Control(無添加)、未発酵ブロッコリー、又はS25発酵ブロッコリーを添加した場合の、ヒト便培養上清に含まれる酢酸濃度を箱ひげ図で示す。*はp<0.05を示す。
【
図4C】Control(無添加)、未発酵ブロッコリー、又はS25発酵ブロッコリーを添加した場合の、ヒト便培養上清に含まれる酪酸濃度を箱ひげ図で示す。*はp<0.05を示す。●は「外れ値」、すなわち箱ひげ図に収まらない値を示す。
【
図5】Control(無添加)又はS25株死菌を添加した場合の、ヒト便培養液に含まれるクレゾール産生菌の相対存在比を箱ひげ図で示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。
【0012】
本開示に包含される組成物は、乳酸菌及び/又は乳酸菌発酵ブロッコリーを含有する。本明細書において、当該組成物を「本開示の組成物」と表記することがある。
【0013】
本開示に用いられる乳酸菌は、ラクチプランチバチルス プランタラム(Lactiplantibacillus plantarum)S25株である。本明細書において、当該乳酸菌を「本開示の乳酸菌」と表記することがある。
【0014】
ラクチプランチバチルス プランタラム(Lactiplantibacillus plantarum)S25株は、2021年12月15日付で、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に、受託番号:NITE BP-03571で受託されている。
【0015】
ラクチプランチバチルス プランタラム(Lactiplantibacillus plantarum)S25株は、京漬物である、すぐきから分離された植物性乳酸菌である。
【0016】
本開示の組成物における本開示の乳酸菌の含有量は、特に限定はされず、例えば0.1~100質量%程度が好ましく、1~99質量%程度、2~90質量%、又は5~50質量%程度がより好ましい。なお、当該範囲の上限又は下限は、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、3、4、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、91、92、93、94、95、96、97、98であってもよい。
【0017】
本開示の組成物中、乳酸菌は、生菌体であってもよく、死菌体であってもよい。中でも、死菌体であることが好ましい。
【0018】
本開示の組成物中、乳酸菌は、例えば、破砕、加熱、乾燥(凍結乾燥、真空乾燥、噴霧乾燥など)、凍結、溶菌、抽出処理等がなされていてもよく、なされていなくてもよい。
【0019】
摂取される乳酸菌の量は、特に制限されず、例えば一日当たり(特に成人一日当たり)1~1000億個が好ましく、10~100億個がより好ましい。
【0020】
本開示の組成物に含有される乳酸菌量についても、当該一日当たりの乳酸菌摂取量を参考として設定することもできる。乳酸菌死菌粉末1gあたり、通常1.0×1011~1.0~1013個程度の乳酸菌が含まれることから、例えば当該値を参考として本開示の組成物に乳酸菌死菌粉末を上記一日当たりの乳酸菌摂取量が含まれるように設定して組成物を調製することもできる。また、組成物に含まれる乳酸菌量を上記一日当たりの乳酸菌摂取量の例えば1/2若しくは1/3として、当該組成物の摂取を一日数回(2回若しくは3回)とすることもできる。
【0021】
本開示の乳酸菌発酵ブロッコリーは、ラクチプランチバチルス プランタラム S25株でブロッコリーを発酵させることにより得られる。当該発酵ブロッコリーを、「本開示の発酵ブロッコリー」と表記することがある。
【0022】
本開示の発酵ブロッコリーを調製するにあたり、発酵条件は特に限定されない。例えば、ブロッコリーを加熱したのち、粉砕して得たブロッコリーピューレに乳酸菌を接種し、25~40℃程度で10~48時間程度静置することで、ブロッコリーを発酵させることができる。乳酸菌の接種量は特に限定されないが、例えばブロッコリーピューレ1kgにつき1×106~1010個程度としてもよい。また、発酵時間は発酵温度及び乳酸菌の接種量等に応じて適宜調整できる。さらに発酵後、当該発酵物を例えば90℃以上まで加熱することにより、殺菌してもよい。
【0023】
また発酵の際、本開示の乳酸菌に加えて、公知の経口摂取可能な乳酸菌を任意に添加してもよい。公知の経口摂取可能な乳酸菌として、例えばラクチプランチバチルス属、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属の乳酸菌を挙げることができ、より具体的には、例えばラクチプランチバチルス・ペントーサス、ラクトバチルス・ブルガリクス、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトコッカス・ラクティス、ラクトコッカス・クレモリス等を挙げることができる。乳酸菌は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
本開示の組成物における発酵ブロッコリーの含有量は、特に限定はされず、例えば0.1~100質量%程度が好ましく、1~99質量%程度、2~90質量%、又は5~50質量%程度がより好ましい。
【0025】
摂取される発酵ブロッコリーの量も特に制限されない。また、発酵ブロッコリーの形状も特に限定されない。例えば、発酵ブロッコリーは乾燥物(乾燥粉末が好ましく、凍結乾燥粉末がより好ましい)であってもよいし、あるいは例えば発酵ブロッコリーピューレであってもよい。乾燥物換算の場合、発酵ブロッコリーは、例えば一日当たり(特に成人一日当たり)100~1000mg程度摂取されることが好ましい。本開示の組成物に含有される発酵ブロッコリー量についても、当該一日当たりの発酵ブロッコリー摂取量を参考として設定することもできる。組成物に含まれる発酵ブロッコリー量を上記一日当たりの発酵ブロッコリー摂取量の例えば1/2若しくは1/3として、当該組成物の摂取を一日数回(2回若しくは3回)とすることもできる。
【0026】
本開示の組成物は、本開示の乳酸菌及び/又は本開示の発酵ブロッコリーを含み、効果が損なわれない範囲において、さらに他の成分を含むことができる。当該他の成分としては、薬理学上又は食品衛生学上許容される基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、抗酸化剤、保存剤、コーティング剤、着色料等が例示される。また、本開示の乳酸菌以外の乳酸菌を含んでもよい。これらの成分は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
本開示の組成物は、特に限定されないが、例えば、経口組成物であってもよい。
【0028】
本開示の組成物は、医薬品組成物又は飲食品組成物であってもよい。飲食品組成物である場合には、例えば加工食品、飲料、健康食品(栄養機能食品、特定保健用食品等)、サプリメント、病者用食品(病院食、病人食又は介護食等)等であってもよい。
【0029】
本開示の組成物は、本開示の乳酸菌及び/又は本開示の発酵ブロッコリーと、必要に応じて他の成分とを組み合わせて常法により調製することができる。
【0030】
本開示の組成物は、腸内細菌叢改善及び/又は腸内短鎖脂肪酸産生促進効果を奏し得る。より具体的には、本開示の組成物は、腸内細菌の多様性を増加させる効果、高脂肪食摂取により変化した腸内細菌叢組成を正常に戻す又は正常に近づける効果、腸内のクレゾール産生菌存在量を減少させる効果、腸内細菌全体に占めるクレゾール産生菌の相対存在比を減少させる効果、腸内短鎖脂肪酸(例えば酪酸及び酢酸等)の濃度を増加させる効果、並びに、腸内短鎖脂肪酸産生を促進する効果等を奏し得る。
【0031】
上述した通り、肥満並びに肥満に関連する糖尿病、高血圧症及び脂質異常症等の生活習慣病と、腸内細菌叢とが相互に関連することが示唆されている。具体的には、肥満の個体と正常体重の個体とで腸内細菌叢が異なること、及び、高脂肪食の摂取により腸内細菌叢が変化すること等が報告されている。このため、腸内細菌叢の改善は重要であるといえる。
【0032】
p-クレゾールはチロシンを基質として腸内細菌が産生する代謝物質の1つであり、細胞毒性や遺伝毒性を示すこと、内皮バリア機能を低下すること等が報告されている。このため、クレゾール産生菌はいわゆる悪玉菌であり、腸内のクレゾール産生菌存在量を低下させることは重要であるといえる。クレゾール産生菌としては、例えば、Acidaminococcus fermentans、Anaerococcus vaginalis、Anaerostipes caccae、Anaerostipes hadrus、Bacteroides caccae、Bacteroides dorei、Bacteroides ovatus、Bacteroides plebeius、Bacteroides uniformis、Bacteroides vulgatus、Bifidobacterium longum subsp. infantis、Blautia coccoides、Blautia hydrogenotrophica、Blautia producta、Blautia schinkii、Citrobacter koseri、Clostridium aminovalericum、Clostridium asparagiforme、Clostridium bifermentans、Clostridium celerecrescens、Clostridium clostridioforme、Clostridium cochlearium、Clostridium difficile、Clostridium ghonii、Clostridium glycolicum、Clostridium hathewayi、Clostridium hylemonae、Clostridium indolis、Clostridium innocuum、Clostridium leptum、Clostridium limosum、Clostridium nexile、Clostridium oroticum、Clostridium paraputrificum、Clostridium perfringens、Clostridium saccharolyticum、Clostridium scindens、Clostridium sordellii、Clostridium sphenoides、Clostridium symbiosum、Clostridium xylanovorans、Dorea formicigenerans、Eubacterium rectale、Eubacterium siraeum、Fusobacterium necrogenes、Fusobacterium varium、Klebsiella pneumoniae、Lactobacillus brevis、Lactobacillus reuteri、Megasphaera elsdenii、Olsenella uli、Romboutsia lituseburensis、Roseburia hominis、Roseburia intestinalis、Ruminococcus gnavus、Ruminococcus torques、及びVeillonella parvula等が挙げられる。
【0033】
本開示において、短鎖脂肪酸とは炭素数6以下の脂肪酸を指す。短鎖脂肪酸としては、例えば酢酸、プロピオン酸、酪酸等が挙げられる。ヒトの大腸内では腸内細菌が食物繊維等を発酵し、短鎖脂肪酸を産生することが知られている。短鎖脂肪酸は耐糖能改善効果、肥満抑制効果及び炎症抑制効果等、多数の有益な効果を有することが報告されており、近年注目を集める物質である。このため、腸内の短鎖脂肪酸産生を促進すること、及び腸内の短鎖脂肪酸濃度を増加させることは重要であるといえる。
【0034】
本開示の組成物の摂取対象としては、例えば、ヒト、ヒト以外の哺乳動物(例えば、ラット、マウス、ウサギ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ、ヒツジ、サル等)が挙げられる。
【0035】
ヒトとしては、例えば、食生活が乱れ腸内細菌の多様性が低下していると考えられるヒト、食生活が乱れ腸内細菌叢に異常が生じていると考えられるヒト;脂質摂取量が比較的多いヒト(例えば総摂取カロリーの30%以上を脂質が占めるヒト等)、脂っこい食事を好むヒト;メタボリックシンドローム患者、メタボリックシンドローム予備群のヒト;脂質異常症患者、脂質異常症予備群のヒト;糖尿病患者(高血糖のヒト)、糖尿病予備群のヒト(血糖値が高めのヒト);高血圧症患者、高血圧症予備群のヒト(血圧が高めのヒト);肥満のヒト、肥満傾向があるヒト;喫煙や過度な飲酒の習慣があるヒト;体を動かす習慣がなく運動量が少ないヒト;BMI(Body Mass Index)が23以上のヒト;内臓脂肪量が比較的多いと考えられるヒト(例えば腹囲が男性で80cm以上、女性で85cm以上、あるいはCTスキャン等による内臓脂肪面積が90cm2以上等)、等が挙げられる。また、腸内細菌叢に大きな異常が見られない場合であっても、正常な腸内細菌叢を維持するために予防的に用いることもできる。
【0036】
理論に拘束されることを望むものではないが、本開示の組成物を摂取することにより、腸内細菌叢が改善され得て、これによって、腸内のクレゾール産生菌抑制効果及び腸内の短鎖脂肪酸産生促進効果等が奏されると考えられる。
【0037】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term “comprising” includes “consisting essentially of” and “consisting of.”)。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件の任意の組み合わせを全て包含する。
【0038】
また、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0039】
以下、例を示して本開示の実施形態をより具体的に説明するが、本開示の実施形態は下記の例に限定されるものではない。
【0040】
<試験例1>乳酸菌発酵ブロッコリーの調製
ブロッコリーを加熱したのち、粉砕してブロッコリーピューレを得た。前記ブロッコリーピューレ1kgあたり1×108個程度のラクチプランチバチルス プランタラム S25株(受託番号:NITE BP-03571)(当該乳酸菌を「S25株」又は単に「S25」と表記することがある)を接種し、35℃程度で20時間程度静置して発酵させた。
【0041】
得られた発酵ブロッコリーを凍結乾燥し粉末として、以降の試験に用いた。なお、当該発酵ブロッコリーの凍結乾燥粉末を、「S25発酵ブロッコリー」と表記することがある。
【0042】
<試験例2>動物試験
3週齢の雄性マウス(C57BL/6J(SPF))を日本チャールス・リバー株式会社から購入して使用した。入荷から群分け日までの8日間を馴化期間とした。飼料は、馴化期間中及びA群の試験期間中はD12450J(通常食(ND)、RESEARCH DIETS社製)を、B~D群の試験期間中はD12492(高脂肪食(HFD),RESEARCH DIETS社製)を、ケージの蓋上に置き、絶食中を除き自由に与えた。飲料水は、ポリサルフォン製給水器(先管ステンレス製)により試験期間中を通じ自由に与えた。
【0043】
馴化期間終了日に測定して得られた体重を指標に、次表に従い層別連続無作為化法により群分けを行った。
【0044】
【0045】
C群の被験物質としては、S25株の死菌末を用いた。C群のマウスには、試験期間中1日1回、1匹あたり0.53mgの被験物質を含む蒸留水を、ゾンデを用いて経口投与した。なお、C群に対する被験物質の投与量は、菌数で示すと死菌10億個/回である。
【0046】
D群の被験物質としては、S25発酵ブロッコリーを用いた。D群のマウスには、試験期間中1日1回、体重1kgあたり1000mgの被験物質を含む蒸留水を、ゾンデを用いて経口投与した。なお、D群に投与した被験物質に含まれるS25株を菌数で示すと、10億個/回である。
【0047】
また、被験物質を投与しないA群及びB群のマウスには、試験期間中1日1回、ゾンデにより蒸留水を投与した。試験期間(馴化期間を除く)は70日間とした。
【0048】
試験期間後、一晩絶食させて麻酔をし、解剖を行った。盲腸内容物を取得し、後述する細菌叢解析を行った。
【0049】
<試験例3>盲腸内細菌叢解析
3-1.細菌16S rRNA解析
試験例2で取得した盲腸内容物の細菌叢解析として、細菌16S rRNAの解析を行った。なお、試験例3に記載の解析は、テクノスルガ・ラボ社に委託して行った。具体的には、Takahashi et al., (2014) PLoS ONE 9(8): e105592の方法により、前処理を行い、得られた粗抽出DNAをGENE PREP STAR PI-480 DNA自動分離装置 (倉敷紡績社製、日本) を用いて精製した。前記DNAを鋳型として、各種腸内細菌の16S rRNAに共通して保存されている塩基配列を含む塩基配列をプライマーとして用いてPCRを行った。より詳細には、PCRプライマーとしてTakahashi et al., (2014)に開示された原核生物16S rRNA用プライマーであるPro341F及びPro805Rを用い、PCR条件はTakahashi et al., (2014)に従った。その後、PCR増幅産物を用いて、ペアエンドシーケンシングを行った。このとき、シーケンサーとしてMiSeq(イルミナ社製)、シーケンシングキットとしてMiSeq Reagent Kit v3(600サイクル)(イルミナ社製)を用いた。取得した配列について、ソフトウェアCutadapt ver 1.18を用いて、デフォルト条件でプライマー配列の除去を行った。さらに、ソフトウェアfastq-join ver 1.3.1を用いて、ペアエンドシーケンスを結合させた。ソフトウェアFASTX-Toolkit ver0.0.13を用いて、配列の99%以上の塩基がQV(Quality Value)20以上を満たす配列を採用する条件で、クオリティフィルタリングを行った。その後、usearch61を用いてキメラ配列を検出し、除去した。
【0050】
以上のフィルタリングを通過した配列について、RDP ver 2.13及び微生物同定データベースNGS-DB-BA 16.0(テクノスルガ・ラボ社、日本)を用いて、塩基配列の帰属分類群を推定した。なお、RDPではconfidence0.8以上、及び微生物同定データベースでは相同率97%以上の帰属分類群の推定結果を採用し、Metagenome@KIN ver 2.2.1ソフトウェアを用いて各検体の菌叢構造を確認した。
【0051】
以上の工程を経たデータを、後述する試験例3-2及び試験例3-3に供した。なお、多様性解析及び帰属分類群の推定は、Qiime2 version.2020.6を用いて行った。リードの精査、キメラ配列除去並びに代表配列決定は、DADA2(Divisive Amplicon Denoising Algorithm 2)denoise-single ver 2017.6.0アルゴリズムのデフォルト設定にて実行した。また、Greengenes database ver 13.8を用いた単純ベイズ分類器によるデフォルト設定にて代表配列の帰属分類群の推定を行った。
【0052】
3-2.α多様性解析
本試験例においてα多様性とは、ある個体から取得したサンプル(盲腸内容物)に含まれる腸内細菌の多様性を指すものとする。本試験例においては、α多様性の指標としてChao1を用いた。Chao1は観測された種の数に基づいて算出される値であり、種の豊富さの指標である。Chao1の値が大きい程、様々な種が存在していることを示す。
【0053】
試験例3-1で得られたデータから、解析ソフトウェアQiime2 version.2020.6を用いて、Chao1を算出し、クラスカル・ウォリス検定による群間比較を行った。結果を
図1に示す。
【0054】
図1に示す通り、高脂肪食(HFD)を投与したB群においては、普通食(ND)を投与したA群と比較してChao1の値が有意に低下した。一方、高脂肪食に加えてS25発酵ブロッコリーを投与したD群においては、高脂肪食のみを投与したB群と比較してChao1の値が有意に増加した。また、高脂肪食に加えてS25株死菌を投与したC群と、高脂肪食のみを投与したB群とを比較したとき、有意な差は認められなかったが、C群の方がChao1の値が大きい傾向が認められた。
【0055】
以上の結果から、高脂肪食の摂取により腸内細菌叢の多様性が低下すること、並びに、S25株死菌又はS25発酵ブロッコリーの摂取によって、高脂肪食摂取により低下した腸内細菌叢の多様性が回復し得ることが判明した。
【0056】
3-3.β多様性解析
本試験例においてβ多様性とは、ある個体から取得したサンプル(盲腸内容物)に含まれる腸内細菌叢を1つの生態系とみなしたときの、生態系間の多様性の違いを指すものとする。本試験例においては、β多様性を視覚化するために主座標分析(Principal Component Analysis;PCoA)を用いた。PCoAにおいては、各プロットが1個体を表しており、プロット同士が近いほど個体間の腸内細菌叢の構成が類似していることを示す。
【0057】
試験例3-1で得られたデータから、解析ソフトウェアQiime2 version.2020.6を用いてbray-curtis距離(類似度距離)を算出し、主座標分析を行った。結果を
図2に示す。なお、
図2において各プロットの大きさはα多様性(Chao1)の大きさを反映している。
【0058】
図2に示す通り、高脂肪食に加えてS25株死菌を投与したC群のプロット及び高脂肪食に加えてS25発酵ブロッコリーを投与したD群のプロットは、高脂肪食(HFD)のみを投与したB群のプロットと比較して、普通食(ND)を投与したA群のプロットにより近い位置に存在する傾向があった。
【0059】
以上の結果から、高脂肪食の摂取により変化した腸内細菌叢の多様性が、S25株死菌又はS25発酵ブロッコリーの摂取によって、正常な腸内細菌叢へと回復し得ることが示唆された。
【0060】
<試験例4>ヒト糞便培養試験
4-1.便培養液の調製
試験例4はメタジェン社に委託して行った。健康な男女から採取した便を使用して便懸濁液を調製した。ここでは、過去の調査により腸内細菌叢プロファイルが予め判明している被験者の中から腸内細菌叢プロファイルが互いに異なる6名を抽出して、抽出した6名の便を使用した。
【0061】
調製した便懸濁液に、表2に示す被験物質を添加した。
【0062】
【0063】
表2中、S25(死菌)及びS25発酵ブロッコリーは試験例2で用いたものと同等のものである。また、未発酵ブロッコリーは、試験例1の方法で得たブロッコリーピューレを発酵させずに凍結乾燥した粉末である。
【0064】
各被験物質は、炭酸ガスを送気して酸素を除去した超純水に懸濁した後に、表2の濃度となるよう前記便懸濁液に添加した。なお、Controlには酸素を除去した超純水のみを添加した。各被験物質添加後、便懸濁液を37℃の嫌気条件下で16時間培養した。培養後の便培養液を遠心し、上清を後述する短鎖脂肪酸濃度の解析に、ペレットをクレゾール産生菌解析のための核酸抽出に、それぞれ供した。
【0065】
4-2.短鎖脂肪酸濃度の解析
試験例4-1で得た培養上清に含まれる短鎖脂肪酸濃度、酢酸濃度、及び酪酸濃度を、従来公知の方法により解析した。なお、本試験例における短鎖脂肪酸濃度とは、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸を含む炭素数6以下の脂肪酸の濃度を指すものとする。結果を
図3A~C及び
図4A~Cに示す。
【0066】
図3A~Cに示す通り、便懸濁液にS25株死菌を添加することにより、コントロールと比較して培養上清中の短鎖脂肪酸濃度、酢酸濃度、及び酪酸濃度のいずれもが増加した。
【0067】
また、
図4A~Cに示す通り、便懸濁液に未発酵ブロッコリーを添加した場合及びS25発酵ブロッコリーを添加した場合のいずれにおいても、コントロールと比較して培養上清中の短鎖脂肪酸濃度、酢酸濃度、及び酪酸濃度が増加した。しかし、S25発酵ブロッコリーを添加した場合の方が、未発酵ブロッコリーを添加した場合と比較してより大きく増加した。
【0068】
以上の結果から、S25株の摂取及びS25発酵ブロッコリーの摂取により、腸内の短鎖脂肪酸産生が促進され得ることが示唆された。
【0069】
4-3.クレゾール産生菌の解析
試験例4-1で得たペレットから抽出した核酸を用いて、当該ペレット中に含まれるクレゾール産生菌の相対存在比を解析した。具体的には、クレゾール産生菌として知られる以下の細菌:Acidaminococcus fermentans、Anaerococcus vaginalis、Anaerostipes caccae、Anaerostipes hadrus、Bacteroides caccae、Bacteroides dorei、Bacteroides ovatus、Bacteroides plebeius、Bacteroides uniformis、Bacteroides vulgatus、Bifidobacterium longum subsp. infantis、Blautia coccoides、Blautia hydrogenotrophica、Blautia producta、Blautia schinkii、Citrobacter koseri、Clostridium aminovalericum、Clostridium asparagiforme、Clostridium bifermentans、Clostridium celerecrescens、Clostridium clostridioforme、Clostridium cochlearium、Clostridium difficile、Clostridium ghonii、Clostridium glycolicum、Clostridium hathewayi、Clostridium hylemonae、Clostridium indolis、Clostridium innocuum、Clostridium leptum、Clostridium limosum、Clostridium nexile、Clostridium oroticum、Clostridium paraputrificum、Clostridium perfringens、Clostridium saccharolyticum、Clostridium scindens、Clostridium sordellii、Clostridium sphenoides、Clostridium symbiosum、Clostridium xylanovorans、Dorea formicigenerans、Eubacterium rectale、Eubacterium siraeum、Fusobacterium necrogenes、Fusobacterium varium、Klebsiella pneumoniae、Lactobacillus brevis、Lactobacillus reuteri、Megasphaera elsdenii、Olsenella uli、Romboutsia lituseburensis、Roseburia hominis、Roseburia intestinalis、Ruminococcus gnavus、Ruminococcus torques、及びVeillonella parvulaの、腸内細菌全体に対する相対存在比を、前記核酸から従来公知のバイオーム解析手法を用いて評価した。比較検定にはノンパラメトリックな対応有り2群比較検定であるWilcoxonの符号順位検定を採用した。結果を
図5に示す。
【0070】
図5に示す通り、便懸濁液にS25株死菌を添加することにより、コントロールと比較してクレゾール産生菌の相対存在比が減少した。
【0071】
以上の結果から、S25株の摂取により、腸内細菌の中でいわゆる悪玉菌とされるクレゾール産生菌の相対存在比が減少し得ること、すなわち、腸内細菌叢が改善し得ることが示唆された。