(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094820
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】植物性ミルク乳酸菌発酵物、及び、植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23C 9/13 20060101AFI20240703BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20240703BHJP
A23L 11/00 20210101ALN20240703BHJP
【FI】
A23C9/13
A23L5/00 J
A23L11/00 E
A23L11/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211641
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】312017444
【氏名又は名称】ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇田川 和輝
(72)【発明者】
【氏名】北山 瞳
【テーマコード(参考)】
4B001
4B020
4B035
【Fターム(参考)】
4B001AC02
4B001AC03
4B001AC21
4B001AC22
4B001AC31
4B001AC46
4B001BC03
4B001BC07
4B001BC08
4B001BC14
4B001EC04
4B020LB27
4B020LG05
4B020LG09
4B020LK02
4B020LK05
4B020LK18
4B020LP03
4B020LP15
4B020LP18
4B020LP19
4B020LP23
4B035LC16
4B035LE04
4B035LG02
4B035LG19
4B035LG20
4B035LG22
4B035LG33
4B035LG50
4B035LP01
4B035LP21
4B035LP42
4B035LP43
4B035LP44
4B035LP46
(57)【要約】
【課題】再セット性に優れた植物性ミルク乳酸菌発酵物、及び、植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物は、ローメトキシルペクチンの含有量をXg/100gとし、カルシウムの含有量をYmg/100gとした場合に、Y≧-211.0X+136.0とY≧5.0とを満たす。本発明に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法は、植物性ミルクにローメトキシルペクチンとカルシウム塩とを添加し調合液を調製する調製工程と、前記調合液に乳酸菌を添加し前記調合液を発酵させる発酵工程と、を備え、前記調製工程において、前記調合液におけるローメトキシルペクチンの含有量をXg/100gとし、前記調合液におけるカルシウムの含有量をYmg/100gとした場合に、Y≧-211.0X+136.0とY≧5.0とを満たすように調製する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローメトキシルペクチンの含有量をXg/100gとし、カルシウムの含有量をYmg/100gとした場合に、Y≧-211.0X+136.0とY≧5.0とを満たす植物性ミルク乳酸菌発酵物。
【請求項2】
Y≧7.5を満たす請求項1に記載の植物性ミルク乳酸菌発酵物。
【請求項3】
植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法であって、
植物性ミルクにローメトキシルペクチンとカルシウム塩とを添加し調合液を調製する調製工程と、
前記調合液に乳酸菌を添加し、前記調合液を発酵させる発酵工程と、を備え、
前記調製工程において、前記調合液におけるローメトキシルペクチンの含有量をXg/100gとし、前記調合液におけるカルシウムの含有量をYmg/100gとした場合に、Y≧-211.0X+136.0とY≧5.0とを満たすように調製する植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法。
【請求項4】
前記調製工程において、Y≧7.5を満たすように調製する請求項3に記載の植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法。
【請求項5】
前記カルシウム塩がクエン酸カルシウムである請求項3又は請求項4に記載の植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性ミルク乳酸菌発酵物、及び、植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ヨーグルトは日本でも大量に消費されている。そして、近年の健康への関心や環境意識の高まりなどから、植物性ミルクを乳酸菌で発酵させて製造される植物性ミルク乳酸菌発酵物(植物性ヨーグルトなど)にも注目が集まりつつある。
よって、植物性ミルク乳酸菌発酵物について、様々な技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、生大豆を粒のまま乳酸菌による発酵処理した後、前記処理した乳酸発酵大豆を磨砕処理又は磨砕処理並びに加熱処理して得た豆乳液を使用してなることを特徴とする大豆加工食品の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、生大豆を粒の状態で発酵させて大豆加工食品を製造する方法が開示されている。そして、特許文献1は、良好な風味を備えるヨーグルトなどの大豆加工食品を製造することができると説明している。
【0006】
ここで、植物性ミルク乳酸菌発酵物の中でも、容器への充填前に発酵処理を施す前発酵型のヨーグルトは、発酵後にヨーグルトを崩して容器に充填した後に再度固める必要があるため、「再セット性」(カードを崩して充填した後、冷却・静置によって一定の硬度を発現する性能)が極めて重要となる。
そして、従来の植物性ミルク乳酸菌発酵物は、再セット性を発揮させるために、ゲル化剤として動物由来のゼラチンが使用されていた。
【0007】
現在、植物由来の製品に対するニーズは高まっており、植物性ミルク乳酸菌発酵物において、主原料だけでなく全ての原料を植物由来にして欲しいと考える消費者も増えている。そのため、本発明者らは、ゲル化剤として動物性由来のゼラチンを使用することなく、優れた「再セット性」を発揮できる植物性ミルク乳酸菌発酵物を提供したいと考えた。
【0008】
そこで、本発明は、再セット性に優れた植物性ミルク乳酸菌発酵物、及び、植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は、以下の手段により解決することができる。
(1)ローメトキシルペクチンの含有量をXg/100gとし、カルシウムの含有量をYmg/100gとした場合に、Y≧-211.0X+136.0と、Y≧5.0とを満たす植物性ミルク乳酸菌発酵物。
(2)Y≧7.5を満たす前記1に記載の植物性ミルク乳酸菌発酵物。
(3)植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法であって、植物性ミルクにローメトキシルペクチンとカルシウム塩とを添加し調合液を調製する調製工程と、前記調合液に乳酸菌を添加し、前記調合液を発酵させる発酵工程と、を備え、前記調製工程において、前記調合液におけるローメトキシルペクチンの含有量をXg/100gとし、前記調合液におけるカルシウムの含有量をYmg/100gとした場合に、Y≧-211.0X+136.0とY≧5.0とを満たすように調製する植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法。
(4)前記調製工程において、Y≧7.5を満たすように調製する前記3に記載の植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法。
(5)前記カルシウム塩がクエン酸カルシウムである前記3又は前記4に記載の植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物は、再セット性に優れている。
本発明に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法は、再セット性に優れた植物性ミルク乳酸菌発酵物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例における各サンプルの再セット性の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物、及び、植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法を実施するための形態(本実施形態)について説明する。
【0013】
[植物性ミルク乳酸菌発酵物]
本実施形態に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物は、植物性ミルクを乳酸菌で発酵させて得られる発酵物である。そして、本実施形態に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物は、ローメトキシルペクチンとカルシウムとを含有し、両者の含有量が所定の式を満たしている。
以下、本実施形態に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物を構成する各要素について説明する。
【0014】
(植物性ミルク)
植物性ミルクとは、植物性素材を原料とする濁度のある乳化液である。
植物性ミルクの原料としては、豆類、穀類、種実類が挙げられる。原料となる豆類の例としては、大豆、エンドウマメ、小豆、ヒヨコマメ、ラッカセイなどが挙げられる。穀類の例としては、キビ、アワ、ヒエ、シコクビエなど、イネ科作物で小さい穎果をつける狭義の雑穀(millet)、オオムギ、ライムギ、エンバク、ハトムギ、ソルガム(タカキビ、モロコシ、ホワイトソルガム)など、日本人が主食として利用していないイネ科作物、大豆や小豆などの豆類(菽穀)、キノア、アマランサス、ソバなどの擬穀、ゴマ、エゴマ、アマニ、ヒマワリの種など、主に油脂を利用し、粒食もされる油穀とも称される作物、黒米、赤米、緑米などの有色米、精米されていない玄米、発芽玄米、及び、玄米胚芽、国内では主食として利用されていない、トウモロコシ、精白されていない小麦の全粒粉、及び小麦胚芽、押麦、米粒麦、きな粉、はったい粉、フリーカなどの精麦、及び加工された状態のものなどが挙げられる。種実類の例としては、アーモンド、ココナッツ、ピスタチオなどが挙げられる。
なお、大豆を原料とする植物性ミルクである豆乳類については、繊維質が除去されていない(又は、一部しか除去されていない)豆乳類も含まれるが、厳密には、豆乳類の日本農林規格(平成28年2月24日農林水産省告示第489号)に規定されている「豆乳」、「調製豆乳」、又は、「豆乳飲料」が好ましい。
【0015】
(ローメトキシルペクチン)
ローメトキシルペクチン(以下、適宜「LMペクチン」ともいう)は、エステル化度が50%未満のペクチンである。
本発明者らは、ゲル化剤としてLMペクチンを用いることによって、植物性ミルク乳酸菌発酵物の全ての原料を植物性由来のもとのすることが可能となるとともに、後記するカルシウムの含有量との関係を精緻に特定することによって、植物性ミルク乳酸菌発酵物が再セット性に優れることを見出した。
なお、LMペクチンは、エステル化度が10~40%であるのが好ましく、20~35%であるのがより好ましい。
【0016】
(カルシウム)
カルシウムは、一度崩した後の植物性ミルク乳酸菌発酵物を再度固めるために前記したLMペクチンと共に必要となる成分である。
本明細書におけるカルシウムは、植物性ミルク乳酸菌発酵物に含有される全てのカルシウムであって、由来は限定されない。つまり、カルシウムは、主原料となる植物性ミルクに由来するものだけでなく、主原料に添加するカルシウム塩などに由来するものも含まれる。
本発明者らは、前記したLMペクチンの含有量とカルシウムの含有量との関係を精緻に制御することによって、植物性ミルク乳酸菌発酵物が優れた再セット性を発揮できることを見出した。
以下、両者の含有量について詳細に説明する。
【0017】
(ローメトキシルペクチンとカルシウムとの含有量)
植物性ミルク乳酸菌発酵物のLMペクチンの含有量をXg/100gとし、カルシウムの含有量をYmg/100gとした場合に、関係式(1)Y≧-211.0X+136.0を満たす。
図1は、LMペクチンの含有量とカルシウムの含有量とが植物性ミルク乳酸菌発酵物の再セット性に与える影響を示すグラフである。
そして、
図1の「●」と「○」は、いずれも再セット性に優れるとの結果を示しているが、「●」は実施例での試験においてきれいに固まったとの結果であり、「○」は当該試験において固まるものの離水が発生したとの結果である。また、「×」は当該試験において固まらず再セット性が悪かったとの結果を示している。そして、
図1の実線は、関係式(1)の等号付き不等号を等号に代えた線である。
この
図1の結果から確認できるように、植物性ミルク乳酸菌発酵物が関係式(1)を満たすことによって、優れた再セット性を発揮することができる。
なお、関係式(1)Y≧-211.0X+136.0は、Y≧-211.0X+138.0であるのが好ましく、Y≧-211.0X+140.0であるのがより好ましく、Y≧-211.0X+141.4であるのが特に好ましい。
【0018】
また、植物性ミルク乳酸菌発酵物のLMペクチンの含有量をXg/100gとし、カルシウムの含有量をYmg/100gとした場合に、関係式(2)Y≧5.0を満たすのが好ましい。
そして、
図1の点線は、関係式(2)の等号付き不等号を等号に代えた線である。
この
図1の結果から確認できるように、植物性ミルク乳酸菌発酵物が関係式(2)を満たすことによって、カルシウムが不足することに伴う再セット性の低下を回避することができる。
なお、関係式(2)Y≧5.0は、Y≧7.5であるのが好ましく、Y≧9.0であるのがより好ましく、Y≧10.0であるのが特に好ましい。
【0019】
また、植物性ミルク乳酸菌発酵物のLMペクチンの含有量をXg/100gとし、カルシウムの含有量をYmg/100gとした場合に、関係式(3)Y≦6.4X+19.2を満たすのが好ましい。
そして、
図1の一点鎖線は、関係式(3)の等号付き不等号を等号に代えた線である。
この
図1の結果から確認できるように、植物性ミルク乳酸菌発酵物が関係式(3)を満たすことによって、離水の発生を回避しつつ優れた再セット性を発揮させることができる。
【0020】
LMペクチンの含有量は、上記の関係式を満たせばよいものの、例えば、以下の範囲となるのが好ましい。
LMペクチンの含有量(Xg/100g)は、0.40g/100g以上が好ましく、0.50g/100g以上、0.60g/100g以上がより好ましい。LMペクチンの含有量が所定値以上であることによって、LMペクチンの不足に伴う再セット性の低下をより確実に回避することができる。
LMペクチンの含有量(Xg/100g)は、2.00g/100g以下が好ましく、1.50g/100g以下、1.20g/100g以下がより好ましい。LMペクチンの含有量が所定値以下であることによって、離水の発生をより確実に回避することができる。
【0021】
カルシウムの含有量は、上記の関係式を満たせばよいものの、例えば、以下の範囲となるのが好ましい。
カルシウムの含有量(Ymg/100g)は、5.0mg/100g以上が好ましく、7.5mg/100g以上、9.0mg/100g以上、10.0mg/100g以上がより好ましい。カルシウムの含有量が所定値以上であることによって、カルシウムの不足に伴う再セット性の低下をより確実に回避することができる。
カルシウムの含有量(Ymg/100g)は、50.0mg/100g以下が好ましく、40.0mg/100g以下、30.0mg/100g以下がより好ましい。カルシウムの含有量が所定値以下であることによって、離水の発生をより確実に回避することができる。
【0022】
植物性ミルク乳酸菌発酵物におけるLMペクチンの含有量は、食品添加物公定書第9版(厚生労働省作成)に規定されている確認試験法によって測定することができる。また、植物性ミルク乳酸菌発酵物におけるカルシウムの含有量は、ICP発光分析法等によって測定することができる。
【0023】
(その他)
本実施形態に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物は、本発明の所望の効果が阻害されない範囲で食品素材として通常配合される食品原料および食品添加物として許容可能な物であれば含有することができるが、当然、含有していなくてもよい。
食品原料および食品添加物として含有できる物としては、例えば、水、糖(例えば、三温糖、上白糖、グラニュー糖、果糖ぶどう糖液糖、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、スタキオース、ラフィノースなど)、果汁、植物性タンパク質、植物油脂、ペプチド、高甘味度甘味料(例えば、アセスルファムカリウム、スクラロース、ズルチン、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテーム、トレハロースなど)、酸化防止剤(例えば、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなど)、乳化剤、栄養強化剤、酸味料(例えば、アジピン酸、クエン酸、グルコン酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、リン酸、フィチン酸など、及びそれらの塩)、食物繊維(例えば、イヌリン、難消化性デキストリン、大豆食物繊維など)、加工澱粉、デキストリン、凝固剤、増粘多糖類又はゲル化剤(例えば、ペクチン、カラギーナン、グァーガム、ジェランガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、寒天など)を用いることができる。
【0024】
本実施形態に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物は、植物性ミルクを原料として乳酸菌により発酵させたものであれば特に限定されないものの、優れた再セット性を発揮できることから、「植物性(ミルク)ヨーグルト」であるのが好ましく、前発酵型のものであるのがより好ましい。
そして、植物性ヨーグルトの中でも、植物性ミルクとして豆乳類を使用したものは、いわゆる「豆乳(類)ヨーグルト」となる。
【0025】
以上説明したように、本実施形態に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物は、再セット性に優れる。
【0026】
[植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法]
次に、本実施形態に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法を説明する。
本実施形態に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法は、調製工程、発酵工程を含み、調製工程と発酵工程との間に、均質化工程、殺菌冷却工程を含んでもよく、発酵工程の後に、充填工程、冷却工程を含む。
以下、本実施形態に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法を構成する各工程について説明する。
【0027】
(調製工程)
調製工程は、植物性ミルクにLMペクチンとカルシウム塩とを添加し調合液を調製する工程である。そして、調製工程で使用する植物性ミルクは、本実施形態に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物の説明に記載したとおりである。
なお、調製工程の調合液には、適宜、前記した食品原料および食品添加物を含有させてもよい。
【0028】
(調製工程:調合液におけるLMペクチンの含有量とカルシウムの含有量)
調製工程の調合液におけるLMペクチンの含有量とカルシウムの含有量は、調製工程以降の工程(発酵工程など)で大きく増減することはない。
よって、調製工程の調合液におけるLMペクチンの含有量とカルシウムの含有量は、前記の「植物性ミルク乳酸菌発酵物」で説明したとおりであって、植物性ミルク乳酸菌発酵物におけるLMペクチンの含有量とカルシウムの含有量と同じである。
【0029】
(調製工程:カルシウム塩)
調製工程で添加するカルシウム塩は、クエン酸カルシウム、リン酸カルシウム、乳酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウムなどが挙げられるが、特に、クエン酸カルシウムが好ましい。クエン酸カルシウムは、発酵工程における調合液のpHの低下とともに溶解度が少しずつ高まっていくため、急速なゲル化を予防し、ゲル化を徐々に進行させることができる。そのため、発酵工程において調合液が適切に発酵し、最終的に得られる植物性ミルク乳酸菌発酵物が所望する再セット性を発揮することとなる。
【0030】
(均質化工程)
均質化工程は、調製工程で調製した調合液を均質化する工程である。
そして、均質化方法は、例えば、市販のホモジナイザーなどを用いる方法が挙げられる。
なお、均質化工程は、必要に応じて適宜実施すればよい。
【0031】
(殺菌冷却工程)
殺菌冷却工程は、調合液に対して殺菌処理を施した後、冷却する工程である。
そして、殺菌冷却工程での殺菌処理は、例えば、80~150℃(好ましくは120~150℃)に調合液を加熱するという加熱殺菌を実施すればよい。その後、殺菌冷却工程での冷却処理は、乳酸菌の添加前に乳酸菌による発酵に適した温度(例えば、35~50℃)になるまで冷却すればよい。
なお、殺菌冷却工程は、必要に応じて適宜実施すればよい。
【0032】
(発酵工程)
発酵工程は、調合液に乳酸菌を添加し、調合液を発酵させる工程である。
発酵工程での発酵温度(発酵液の温度)は、使用する乳酸菌によって適宜設定すればよい。なお、発酵液の温度は、例えば、30~50℃とすればよいが、これに限定されない。
発酵工程での発酵時間は、使用する乳酸菌の種類等に応じて適宜設定すればよい。なお、発酵工程におけるカルシウム塩(クエン酸カルシウムなど)の沈殿や凝集を防止するため、調合液を攪拌しながら発酵させるのが好ましい。
【0033】
(発酵工程:乳酸菌)
発酵工程で使用する乳酸菌としては、特に限定されないが、例えば、Lactobacillus属、Lacticaseibacillus属、Lactiplantibacillus属、Limosilactobacillus 属、Levilactobacillus 属、Fructilactobacillus属、Apilactobacillus属、Lactobacillaceae 属、Lactococcus属、Streptococcus属、Oenococcus属、Pediococcus属、Bifidobacterium属などの細菌を用いることができる。乳酸菌は、1種を単独で使用してもよく、複数種を併用してもよい。
【0034】
(充填工程)
充填工程は、発酵後の発酵液を容器に充填する工程である。
そして、発酵後の発酵液はカード(凝固物)の状態であることから、充填工程では、カードを崩した後に容器に充填することとなる。
なお、充填工程で使用する容器は、特に限定されず、現在流通しているどのような容器でもよく、例えば、プラスチック容器、紙容器、パウチ容器、ガラス容器などが挙げられる。
【0035】
(冷却工程)
冷却工程は、充填工程で崩した発酵液を容器内で再度固まらせる工程である。
そして、冷却工程では、発酵液を固まらせるために、例えば、0~10℃まで冷却する。
【0036】
(その他の工程)
発酵工程の後であって充填工程の前、又は、充填工程の後に、ソース、果肉、香料等を発酵後の発酵液に添加する添加工程を設けてもよい。なお、充填工程の前に添加工程を設けると、ソース等が全体に混ざった製品となり、充填工程の後に添加工程を設けると、2層状の製品となる。そして、添加工程で添加するものについては、従来のヨーグルト製造で用いられているものであれば特に限定されない。
また、各工程の前後で、適宜、異物混入の有無や分量などを検査する検査工程を設けてもよい。
【0037】
前記した各工程における処理は、ヨーグルトなどの食品を製造するために一般的に用いられている設備によって行うことができる。
また、本実施形態に係る植物組成物の製造方法は、以上説明したとおりであるが、明示していない条件については、一般的に食品分野(特に、ヨーグルト分野)で実施されている公知の条件を適用すればよく、前記した処理内容によって得られる効果を奏する限りにおいて、その条件を適宜変更できることは言うまでもない。
【0038】
以上説明したように、本実施形態に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法によると、再セット性に優れる植物性ミルク乳酸菌発酵物を製造することができる。
【実施例0039】
次に、本発明の要件を満たす実施例とそうでない比較例とを例示して、本発明について説明する。
【0040】
[サンプルの準備]
表に示す配合量で各原料と水を配合して1kgとし、高圧ホモジナイザーを使用して均質化(10MPa)を行った後、85℃達温の加熱殺菌処理を行い、再度、均質化(10MPa)を行った。
そして、原料(発酵前液)を43℃となるまで冷却した後、原料に乳酸菌スターターを0.1g/kg添加し、発酵を実施した。
発酵開始後pHが4.7以下となるまで発酵処理を続けた。なお、発酵時の原料温度は40~45℃とした。
発酵処理の後、カード(凝固物)を崩して15℃まで冷却して同ホモジナイザーで均質化(3MPa)した。
そして、容器底面より高さ3cm以上になるように発酵液を充填し、冷却して得られたサンプル(植物性ヨーグルト)について、以下に示す各試験を実施した。
【0041】
なお、表1の各原料や乳酸菌スターターは、詳細には以下のとおりである。
無調整豆乳:自社製
三温糖:DM三井製糖社製 市販品
食物繊維:水溶性食物繊維
LMペクチン:ユニテックフーズ社製、エステル化度26~32%
クエン酸カルシウム四水和物:扶桑化学工業社製
乳酸菌スターター:ラクトバチルス属、ビフィドバクテリウム属、ストレプトコッカス属を混合したスターターを使用
アーモンドミルク:筑波乳業社製「濃いアーモンドミルク」
【0042】
[試験内容:再セット性]
各サンプルについて、硬度測定装置(株式会社サン科学「SUN RHEO METER CR-100」)を用いて硬度(gf)を測定した。
そして、再セット性の評価は、硬度が20gf以上であると、十分な再セット性があると判断し、「合格(○又は●)」と評価した。一方、硬度20gf未満であると、固まらず十分な再セット性が無いと判断し、「不合格(×)」と評価した。
なお、硬度の測定における硬度測定装置の条件は、以下のとおりであった。
MODE20、MAX10kg、進入深度20.0mm、P/T PRESS 60mm/m、REP 10h 0m 0s
【0043】
[試験内容:離水]
各サンプルについて、2人のパネルが目視によって、離水の有無の評価を行った。
詳細には、前記した再セット性について「合格(○又は●)」との評価が得られたサンプルを試験対象とし、サンプルが離水なくきれいに固まっていた場合を「●」と評価し、サンプルが固まっていたものの離水が確認できた場合を「○」と評価した。
なお、「●」と「○」の評価は、優れた再セット性であると判断でき、その中でも、「●」の評価は、離水も発生しないため特に好ましいと判断できる。
【0044】
表に、各サンプルの原料の配合量などを示すとともに、各評価の結果を示す。
なお、表のカルシウムの含有量(最終製品における含有量)は、原豆乳に含まれるカルシウム量、クエン酸カルシウム四水和物に含まれるカルシウム量、及び、両者の配合量に基づいて算出した値である。そして、原豆乳に含まれるカルシウム量は、ICP発光分析法によって測定した。
また、表のLMペクチンの含有量(最終製品における含有量)は、LMペクチンの配合量に基づいた値である。
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
(結果の検討)
図1に、表1~4の各サンプルの再セット性の結果を示す。
図1の結果によると、LMペクチンの含有量とカルシウムの含有量とが、植物性ミルク乳酸菌発酵物の再セット性に大きな影響を与えていることが確認できた。そして、LMペクチンの含有量とカルシウムの含有量とが所定の関係式を満たすことによって、植物性ミルク乳酸菌発酵物が優れた再セット性を発揮できることが確認できた。