(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094846
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】高周波電源装置
(51)【国際特許分類】
H05H 1/46 20060101AFI20240703BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
H05H1/46 R
H01L21/302 101Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211685
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 雄也
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 雄一
【テーマコード(参考)】
2G084
5F004
【Fターム(参考)】
2G084AA02
2G084DD55
5F004AA16
5F004BB13
5F004CA03
(57)【要約】
【課題】直流パルス電圧の影響により高周波交流電圧に発生する相互変調歪みを効率良く抑制する。
【解決手段】高周波電源装置は、第1周波数の交流電圧である高周波交流電圧を出力する第1電源と、1個または複数個の連続したパルス波形を含む直流パルス電圧を出力する第2電源と、第1電源から高周波交流電圧が入力され、第1電源から見たインピーダンスが一定となるようにインピーダンス整合をして高周波交流電圧を出力する整合器と、第2電源から直流パルス電圧が入力され、直流パルス電圧をフィルタリングして負荷のパルス電力入力端子に出力するフィルタと、整合器と負荷の交流電力入力端子との間に設けられる所定のインダクタンスを有する第1インダクタを含み、整合器から出力された高周波交流電圧が入力され、入力された高周波交流電圧を第1インダクタを通過させて負荷の交流電力入力端子に出力するIMD抑制回路と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1周波数の交流電圧である高周波交流電圧を出力する第1電源と、
1個または複数個の連続したパルス波形を含む直流パルス電圧を出力する第2電源と、
前記第1電源から前記高周波交流電圧が入力され、前記第1電源から見たインピーダンスが一定となるようにインピーダンス整合をして前記高周波交流電圧を出力する整合器と、
前記第2電源から前記直流パルス電圧が入力され、前記直流パルス電圧をフィルタリングして負荷のパルス電力入力端子に出力するフィルタと、
前記整合器と前記負荷の交流電力入力端子との間に設けられる所定のインダクタンスを有する第1インダクタを含み、前記整合器から出力された前記高周波交流電圧が入力され、入力された前記高周波交流電圧を前記第1インダクタを通過させて前記負荷の前記交流電力入力端子に出力するIMD抑制回路と、
を備える高周波電源装置。
【請求項2】
前記IMD抑制回路は、さらに、所定のキャパシタンスである第1キャパシタを含み、
前記第1キャパシタは、前記第1周波数についてのリアクタンスが、前記第1インダクタの前記第1周波数についてのリアクタンスを相殺するようなキャパシタンスを有する
請求項1に記載の高周波電源装置。
【請求項3】
前記高周波交流電圧は、前記第1周波数の正弦波信号に対して、前記直流パルス電圧に含まれる前記1個または複数個のパルス波形のそれぞれに同期した周波数変調をした波形である
請求項1に記載の高周波電源装置。
【請求項4】
前記負荷は、プラズマを発生するプラズマ発生装置である
請求項1から3の何れか1項に記載の高周波電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマを維持するための高周波交流電圧と、プラズマを操作するための連続したパルス波形を含む直流パルス電圧とをプラズマ発生装置に同時投入する高周波電源装置が知られている。このような高周波電源装置は、プラズマ発生装置において半導体ウェハ等の試料を異方性エッチングする場合等に用いられる。
【0003】
高周波交流電圧と直流パルス電圧とをプラズマ発生装置に同時に投入した場合、高周波交流電圧に相互変調歪(以降、IMDとも呼ぶ。)が発生する。IMDの発生によって、高周波交流電圧を発生するHF電源へと戻る反射電力は、直流パルス電圧に含まれる各パルス波形に応じて変動する。高周波電源装置は、HF電源とプラズマ発生装置との間に整合器を備える。しかし、整合器は、IMDによる反射電力の変化の速度よりもインピーダンスの変更速度が遅く、IMDによる反射電力を低減することが難しい。
【0004】
例えば、特許文献1および特許文献2には、高周波交流電圧と低周波交流電圧とを重畳してプラズマ発生装置に投入する高周波電源装置が記載されている。特許文献1および特許文献2に記載された高周波電源装置は、高周波交流電圧を、低周波交流電圧の波形に応じて周波数変調をする。これにより、特許文献1および特許文献2に記載された高周波電源装置は、低周波交流電圧の影響により高周波交流電圧に発生するIMDを相殺して、反射電力を低減することができる。しかし、プラズマを操作するための連続したパルス波形を含む直流パルス電圧は、特許文献1および特許文献2に記載された低周波交流電圧と比較して、高い。このため、高周波電源装置は、高周波交流電圧を直流パルス電圧に含まれるパルス波形に応じて周波数変調する場合、周波数変調度が非常に大きくなってしまうので、広帯域のHF電源を備えなければならなかった。従って、高周波電源装置は、高周波交流電圧を直流パルス電圧に含まれるパルス波形に応じて周波数変調した場合、装置が大型化し、効率の良く電力供給をすることができなかった。
【0005】
また、特許文献3には、HF電源と整合器との間に設けられた狭帯域のバンドパスフィルタを備える高周波電源装置が記載されている。特許文献3に記載された高周波電源装置は、バンドパスフィルタにより反射波を減衰もしくは通過させないようにしている。これにより、特許文献3に記載された高周波電源装置は、バンドパスフィルタと整合器との間で反射波を封じ込めて、IMDを抑制することができる。
【0006】
しかし、整合器は、整合器の入力端における電流および電圧を測定してインピーダンスを計算する。あるいは、整合器は、整合器の入力端における進行波および反射波を測定してインピーダンスを計算する。そして、整合器は、計算したインピーダンスに基づき、整合動作をする。しかし、特許文献3に記載された高周波電源装置は、HF電源と整合器との間にバンドパスフィルタが挿入されているので、整合器から出力される反射波と、HF電源に戻る反射波とが異なる。従って、特許文献3に記載された高周波電源装置は、HF電源へと戻る反射波を低減するように整合動作をすることができず、精度の良い整合動作をすることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-103102号公報
【特許文献2】特開2022-102688号公報
【特許文献3】特表2022-514377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、直流パルス電圧の影響により高周波交流電圧に発生する相互変調歪みを、効率良く抑制する高周波電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る高周波電源装置は、第1周波数の交流電圧である高周波交流電圧を出力する第1電源と、1個または複数個の連続したパルス波形を含む直流パルス電圧を出力する第2電源と、前記第1電源から前記高周波交流電圧が入力され、前記第1電源から見たインピーダンスが一定となるようにインピーダンス整合をして前記高周波交流電圧を出力する整合器と、前記第2電源から前記直流パルス電圧が入力され、前記直流パルス電圧をフィルタリングして負荷のパルス電力入力端子に出力するフィルタと、前記整合器と前記負荷の交流電力入力端子との間に設けられる所定のインダクタンスを有する第1インダクタを含み、前記整合器から出力された前記高周波交流電圧が入力され、入力された前記高周波交流電圧を前記第1インダクタを通過させて前記負荷の交流電力入力端子に出力するIMD抑制回路と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、直流パルス電圧の影響により高周波交流電圧に発生する相互変調歪みを、効率良く抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】高周波電源装置の構成をプラズマ発生装置とともに示す図である。
【
図2】高周波交流電圧および直流パルス電圧等の波形を示す図である。
【
図3】整合器およびIMD抑制回路の構成を示す図である。
【
図4】負荷の容量変化のシミュレーション波形を示す図である。
【
図5】高周波交流電圧を周波数変調させずにシミュレーションをした場合におけるインピーダンス軌跡を示す図である。
【
図6】高周波交流電圧を周波数変調させてシミュレーションをする場合における高周波交流電圧の周波数変化を示す図である。
【
図7】高周波交流電圧を周波数変調させてシミュレーションをした場合におけるインピーダンス軌跡を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、実施形態に係る高周波電源装置10の構成をプラズマ発生装置20とともに示す図である。
【0013】
高周波電源装置10は、プラズマを発生するプラズマ発生装置20(負荷)における交流電力入力端子22に対して、第1周波数の交流電圧である高周波交流電圧を供給する。プラズマ発生装置20は、高周波電源装置10により供給された高周波交流電圧の電力により、真空チャンバ内のガスをプラズマ化させることができる。
【0014】
また、高周波電源装置10は、高周波交流電圧の供給と同時に、プラズマ発生装置20における交流電力入力端子22とは異なるパルス電力入力端子24に対して、1個または複数個の連続したパルス波形を含む直流パルス電圧を出力する。プラズマ発生装置20は、高周波電源装置10により供給された直流パルス電圧の電力により、真空チャンバ内に発生したプラズマを操作する。例えば、プラズマ発生装置20は、プラズマを操作することにより、半導体ウェハ等の試料に対して異方性エッチング等を行う。なお、本実施形態において、直流パルス電圧に含まれる1個または複数個のパルス波形のそれぞれは、三角波である。直流パルス電圧に含まれるパルス波形は、三角波に限らず、方形波等の任意の波形であってよい。
【0015】
また、高周波電源装置10は、高周波交流電圧を間欠的に出力してもよい。すなわち、高周波電源装置10は、高周波交流電圧の出力および停止を交互に繰り返してもよい。また、高周波電源装置10は、直流パルス電圧を、間欠的に出力してもよい。すなわち、高周波電源装置10は、直流パルス電圧の出力および停止を交互に繰り返してもよい。なお、高周波交流電圧および直流パルス電圧については、詳細を、
図2を参照してさらに説明する。
【0016】
高周波電源装置10は、
図1に示すように、パルス信号発生回路32と、高周波電源34(第1電源)と、DCパルス電源36(第2電源)と、整合器38と、フィルタ40と、IMD抑制回路42とを備える。
【0017】
パルス信号発生回路32は、高周波交流電圧の出力および停止タイミングを示す第1パルス信号を出力する。パルス信号発生回路32は、第1パルス信号を高周波電源34に供給する。また、パルス信号発生回路32は、直流パルス電圧の出力および停止タイミングを示す第2パルス信号を出力する。パルス信号発生回路32は、第2パルス信号をDCパルス電源36に供給する。
【0018】
高周波電源34は、第1周波数の交流電圧である高周波交流電圧を出力する。本実施形態において、高周波電源34は、第1パルス信号のタイミングに同期して、高周波交流電圧の出力と停止とを交互に繰り返す。高周波電源34は、発生した高周波交流電圧を整合器38へ出力する。
【0019】
DCパルス電源36は、1個または複数個の連続したパルス波形を含む直流パルス電圧を出力する。本実施形態において、DCパルス電源36は、第2パルス信号のタイミングに同期して、直流パルス電圧の出力と停止とを交互に繰り返す。DCパルス電源36は、発生した直流パルス電圧をフィルタ40へ出力する。
【0020】
整合器38は、高周波電源34から高周波交流電圧が入力される。整合器38は、入力インピーダンス、すなわち、高周波電源34から負荷側を見たインピーダンスが、一定となるようにインピーダンス整合をする。そして、整合器38は、高周波交流電圧を、IMD抑制回路42へ出力する。
【0021】
フィルタ40は、DCパルス電源36から直流パルス電圧が入力される。フィルタ40は、直流パルス電圧をフィルタリングして、負荷であるプラズマ発生装置20のパルス電力入力端子24に出力する。フィルタ40は、例えば抵抗、キャパシタおよびインダクタを含む。フィルタ40は、DCパルス電源36から出力された直流パルス電圧に含まれる1個または複数個のパルス波形のそれぞれを、所定の形状とするようにフィルタリングする。例えば、フィルタ40は、DCパルス電源36から出力された直流パルス電圧に含まれる方形波のパルス波形を、三角波となるようにフィルタリングする。
【0022】
IMD抑制回路42は、所定のインダクタンスを有する第1インダクタ50を含む。第1インダクタ50は、整合器38と、負荷であるプラズマ発生装置20の交流電力入力端子22との間に設けられる。IMD抑制回路42は、整合器38から出力された高周波交流電圧が入力され、入力された高周波交流電圧を第1インダクタ50を通過させてプラズマ発生装置20の交流電力入力端子22に出力する。
【0023】
図2は、第1パルス信号(A)、高周波交流電圧(B)、第2パルス信号(C)、および、直流パルス電圧(D)の波形を示す図である。
【0024】
第1パルス信号は、
図2の(A)に示されるように、H論理またはL論理を表す2値信号である。第1パルス信号は、例えばH論理の期間が、高周波交流電圧を出力させる期間を示す。第1パルス信号は、例えばL論理の期間が、高周波交流電圧の出力を停止させる期間を示す。
【0025】
第2パルス信号は、
図2の(C)に示されるように、H論理またはL論理を表す2値信号である。第2パルス信号は、例えばH論理の期間が、直流パルス電圧を出力させる期間を示す。第2パルス信号は、例えばL論理の期間が、直流パルス電圧の出力を停止させる期間を示す。
【0026】
なお、
図2の例においては、第1パルス信号および第2パルス信号は、H論理とL論理との切り替えが同期している。しかし、第1パルス信号および第2パルス信号は、H論理とL論理との切り替えタイミングが同期していなくてよい。
【0027】
高周波交流電圧は、
図2の(B)に示すように、正弦波の電圧である。高周波電源34は、第1パルス信号がH論理の期間において、高周波交流電圧を出力し、第1パルス信号がL論理の期間において、高周波交流電圧の出力を停止する。本例において、高周波交流電圧の周波数は、40.68MHzである。なお、高周波交流電圧の周波数は、40.68MHzに限らず、他の周波数であってよい。
【0028】
直流パルス電圧は、
図2の(D)に示すように、それぞれのパルス波形が三角波である。また、直流パルス電圧は、パルス波形とパルス波形との間に、基準電圧(例えば0ボルト)となる期間が含まれていてもよい。なお、
図2の(D)には、フィルタ40からプラズマ発生装置20へと供給される直流パルス電圧が示されている。DCパルス電源36は、第2パルス信号がH論理の期間において、直流パルス電圧を出力し、第2パルス信号がL論理の期間において、直流パルス電圧の出力を停止する。
【0029】
また、高周波交流電圧は、第1周波数の正弦波信号に対して、直流パルス電圧に含まれる1個または複数個のパルス波形のそれぞれに同期した周波数変調をした波形であってもよい。例えば、高周波交流電圧は、直流パルス電圧が基準電圧(例えば0ボルト)の期間において基準周波数の40.68MHzであり、直流パルス電圧が基準電圧(例えば0ボルト)から変化している期間において、パルス波形の振幅値に比例した変調周波数が基準周波数に加算された周波数(40.68MHz+変調周波数)であってもよい。これにより、高周波電源装置10は、直流パルス電圧の影響により高周波交流電圧に発生するIMDの低減量を大きくすることができる。
【0030】
第1パルス信号および第2パルス信号は、パルス信号発生回路32により生成される。パルス信号発生回路32は、基準クロックに基づき、第1パルス信号および第2パルス信号を生成する。このため、高周波交流電圧に対する直流パルス電圧に含まれる各パルス波形の時間的な位置は、基準クロックに基づき特定される。従って、高周波電源34は、基準クロックに同期して動作することにより、第1周波数の正弦波信号に対して直流パルス電圧に含まれる1個または複数個のパルス波形のそれぞれに同期した周波数変調をした波形の高周波交流電圧を、精度良く出力することができる。
【0031】
図3は、整合器38およびIMD抑制回路42の構成を示す図である。整合器38は、VI検出回路52と、整合回路54と、制御回路56とを含む。
【0032】
VI検出回路52は、整合器38の入力端における電圧(V)および電流(I)を、所定時間毎に測定する。
【0033】
整合回路54は、高周波電源34から高周波交流電圧がVI検出回路52を介して供給される。整合回路54は、複数のインダクタおよび複数のキャパシタを含むネットワーク回路である。整合回路54は、インピーダンスを変更可能となっている。整合回路54は、制御回路56から与えられる制御信号に応じて、入力端と出力端との間のインピーダンスが変更される。
【0034】
制御回路56は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサまたはFPGA(Field-Programmable Gate Array)等の再構成可能な半導体装置により実現される。制御回路56は、機能構成として、インピーダンス計算部62と、整合位置計算部64と、動作制御部66とを含む。
【0035】
インピーダンス計算部62は、所定時間毎に、VI検出回路52により検出された電圧(V)および電流(I)を取得する。インピーダンス計算部62は、所定時間毎に、取得した電圧(V)および電流(I)に基づき、高周波交流電圧が供給される入力端におけるインピーダンスを算出する。
【0036】
整合位置計算部64は、所定時間毎に、整合器38の入力端におけるインピーダンスが予め設定された値となるような整合回路54のインピーダンスを算出する。動作制御部66は、所定時間毎に、整合回路54に制御信号を与えて、整合位置計算部64により算出されたインピーダンスとなるように整合回路54のインピーダンスを変更させる。
【0037】
このような構成の整合器38は、所定期間毎に、整合回路54のインピーダンスを変更して、高周波電源34から見た整合器38のインピーダンスが予め設定された値で一定となるように、インピーダンス整合をすることができる。これにより、整合器38は、負荷であるプラズマ発生装置20のインピーダンスの変動に関わらず、高周波電源34から負荷側を見たインピーダンスを一定にすることができる。
【0038】
なお、整合器38は、VI検出回路52に代えて方向性結合器を含んでもよい。方向性結合器は、高周波交流電圧が供給される入力端における進行波電圧および反射波電圧を検出する。この場合、インピーダンス計算部62は、所定時間毎に、進行波電圧および反射波電圧に基づき、高周波交流電圧が供給される入力端における反射係数を算出する。なお、高周波電源34から負荷側を見たインピーダンスと高周波交流電圧が供給される入力端における反射係数とは相互に変換可能であるため、どちらを検出してもよい。
【0039】
IMD抑制回路42に含まれる第1インダクタ50は、一方の端子が整合器38の出力端に接続され、他方の端子がプラズマ発生装置20の交流電力入力端子22に接続される。これにより、IMD抑制回路42は、整合器38から出力された高周波交流電圧を第1インダクタ50を通過させてプラズマ発生装置20の交流電力入力端子22に出力することができる。
【0040】
このような構成にすると、高周波電源34側に発生するIMDの抑制効果を高めることができる。すなわち、プラズマ発生装置20は、直流パルス電圧に含まれる各パルス波形の影響によって静電容量が変動する。整合器38は、この静電容量の変動によって、過渡応答をする。この際、DCパルス電源36から出力される直流パルス電圧の影響による過渡応答の時間が直流パルス電圧のパルス波形の周波数に対して短いため、過渡応答時のインピーダンス変化が大きくなる。しかし、第1インダクタ50を挿入することによって、過渡応答時の急激なインピーダンス変化が抑制される。その結果、IMDの抑制効果が高まる。なお、第1インダクタ50のインダクタンスの適正値は、直流パルス電圧に含まれるパルス波形の周波数(例えば三角波)の周波数が高い程、低くなる。
【0041】
プラズマ発生装置20は、直流パルス電圧に含まれるパルス波形に応じて、真空チャンバ内の正負の2つの電極の対向方向におけるプラズマの発生位置を変化させる。この結果、正負の2つの電極間に形成される仮想キャパシタの静電容量は、パルス波形に同期して変化する。この静電容量の変化が高速であるため、高周波電源装置10は、整合器38によるインピーダンス自動整合機能を用いても、第1周波数についてのインピーダンスを、静電容量の変化に追従させることができない。このため、高周波電源装置10は、IMD抑制回路42を備えない場合、第1周波数の高周波交流電圧に、直流パルス電圧に含まれるパルス波形に応じたIMDを生じさせてしまう。
【0042】
ここで、シミュレーションの結果、このようなIMDは、直流パルス電圧の影響によるプラズマ発生装置20の静電変動によって生じる整合器38の過渡応答が原因であることがわかった。また、整合器38とプラズマ発生装置20との間にインダクタンスを挿入することにより、このような整合器38の過渡応答を抑制することができることがわかった。このため、高周波電源装置10は、整合器38によるインピーダンス自動整合機能よりも静電容量の変化が速い場合であっても、IMD抑制回路42を備えることにより、直流パルス電圧の影響によるIMDを抑えることができる。これにより、本実施形態に係る高周波電源装置10は、直流パルス電圧の影響により高周波交流電圧に発生するIMDを効率良く抑えて、高周波交流電圧を効率良くプラズマ発生装置20に供給することができる。
【0043】
また、IMD抑制回路42は、整合器38の後段、すなわち、整合器38とプラズマ発生装置20との間に設けられる。このため、本実施形態に係る高周波電源装置10は、整合器38と高周波電源34との間にフィルタ等が設けられないので、整合器38は、高周波電源34に反射される反射波を低減するように、インピーダンス整合をすることができる。これにより、本実施形態に係る高周波電源装置10によれば、精度の良い整合動作をすることができる。
【0044】
なお、IMD抑制回路42は、
図3の(A)に示すように、第1インダクタ50に加えて、第1インダクタ50に対して直列に接続された第1キャパシタ70を含んでもよい。より具体的には、直列に接続された第1インダクタ50と第1キャパシタ70とにより構成される回路は、一方の端子が、整合器38の出力端子に接続され、他方の端子がプラズマ発生装置20の交流電力入力端子22に接続される。
【0045】
第1キャパシタ70は、高周波交流電圧の周波数である第1周波数についてのリアクタンスが、第1インダクタ50の第1周波数についてのリアクタンスを相殺するようなキャパシタンスを有する。これにより、IMD抑制回路42は、第1周波数についての合成のリアクタンスが略0となる。IMD抑制回路42のリアクタンスが0となることにより、整合器38のインピーダンスの整合範囲は、IMD抑制回路42を設けない場合の整合範囲と同一となる。従って、整合器38は、IMD抑制回路42が設けられた場合であっても、初期設定値および整合動作時の整合範囲を変えずに、インピーダンスの整合動作をすることができる。
【0046】
(シミュレーション)
第1のシミュレーションの結果について説明する。
【0047】
本発明者は、回路シミュレータにより、高周波電源装置10のシミュレーションを行った。第1のシミュレーションでは、高周波電源装置10から40.68MHzの正弦波の高周波交流電圧を発生させ、負荷に含まれるキャパシタ成分を可変キャパシタと見なしたときに、その可変キャパシタの静電容量を
図4に示すように変化させるシミュレーションをした。そして、第1のシミュレーションでは、上記のようなシミュレーションをした場合の整合器38の入力端におけるインピーダンスの軌跡を算出した。
【0048】
図4は、第1のシミュレーションにおける、可変キャパシタンスの時間変化波形を示す図である。プラズマ発生装置20は、パルス電力入力端子24に
図4に示す波形に同期したパルス波形を含む直流パルス電圧が与えられることにより、静電容量が
図4に示すように変化する。そこで、第1のシミュレーションでは、プラズマ発生装置20の交流電力入力端子22から見た負荷を、抵抗と、可変キャパシタとの直列回路とみなした。第1のシミュレーションでは、抵抗の抵抗値を4Ωとした。そして、第1のシミュレーションでは、可変キャパシタの容量を、
図4に示すように、0.5nFから4.5nFの範囲で三角波となるように変化させた。
【0049】
図5(A)、
図5(B)および
図5(C)は、第1のシミュレーションにより計算された、整合器38の入力端における、特性インピーダンスで規格化したインピーダンスの軌跡を示す。
図5(A)、
図5(B)および
図5(C)は、ポーラチャートであり、縦軸がインピーダンスの虚数成分(v)、横軸がインピーダンス実数成分(u)を示す。
【0050】
さらに、
図5(A)は、IMD抑制回路42の第1インダクタ50のインダクタンスが0、第1キャパシタ70のキャパシタンスが無限大である場合、すなわち、IMD抑制回路42が設けられていない場合のインピーダンスの軌跡を示す。また、
図5(B)は、第1インダクタ50のインダクタンスが306nH、第1キャパシタ70のキャパシタンスが50pFである場合のインピーダンスの軌跡を示す。
図5(C)は、第1インダクタ50のインダクタンスが1.05μH、第1キャパシタ70のキャパシタンスが15pFである場合のインピーダンスの軌跡を示す。
【0051】
図5(A)と比較して、
図5(B)および
図5(C)の場合の方が、インピーダンスの変化が小さくなっている。特に、
図5(C)の場合、インピーダンスの変化が非常に小さくなっている。
【0052】
表1は、第1のシミュレーションにおける、整合器38の入力端における反射係数を示す。実施形態に係る高周波電源装置10は、表1に示されるように、IMD抑制回路42を備えることにより、反射係数を小さくすることができる。
【表1】
【0053】
このように、実施形態に係る高周波電源装置10は、直流パルス電圧に含まれるパルス波形に応じてプラズマ発生装置20の静電容量が変動する場合であっても、IMD抑制回路42を備えることにより、整合器38の入力端におけるインピーダンスの変化を小さくすることができる。これにより、実施形態に係る高周波電源装置10は、IMDを抑えて、効率良く高周波交流電圧をプラズマ発生装置20に供給することができる。特に、IMD抑制回路42は、第1インダクタ50のインダクタンスが300nH以上である場合、整合器38の入力端におけるインピーダンスの変化をより小さくすることができる。
【0054】
つぎに、第2のシミュレーションの結果について説明する。
【0055】
第2のシミュレーションでは、高周波電源装置10から40.68MHzの正弦波を周波数変調させた高周波交流電圧を発生させ、負荷を第1のシミュレーションと同様に
図4に示すように変化させるシミュレーションをした。そして、第2のシミュレーションでは、上記のようなシミュレーションをした場合の整合器38の入力端におけるインピーダンスの軌跡を算出した。
【0056】
図6は、第2のシミュレーションにおける、プラズマ発生装置20の可変キャパシタンスの時間変化波形に対する、高周波交流電圧の周波数変化を示す図である。
【0057】
可変キャパシタンスは、第1時刻(t1)から第2時刻(t2)までの間、0.5nFで一定である。続いて、可変キャパシタンスは、第2時刻(t2)から第3時刻(t3)まで直線的に上昇し、第3時刻(t3)において4.5nFとなる。続いて、可変キャパシタンスは、第3時刻(t3)から第4時刻(t4)まで直線的に下降し、第4時刻(t4)において0.5nFとなる。そして、可変キャパシタンスは、第1時刻(t1)から第4時刻(t4)までを1周期として、繰り返して容量が変化する。
【0058】
なお、第2時刻(t2)は、第1時刻(t1)から1.5μ秒が経過した時刻である。また、第3時刻(t3)は、第2時刻(t2)から0.5μ秒が経過した時刻である。第4時刻(t4)は、第3時刻(t3)から0.5μ秒が経過した時刻である。
【0059】
第2のシミュレーションでは、高周波電源装置10は、第1期間(T1)において、高周波交流電圧の周波数を、40.68MHzで一定とする。第1期間(T1)は、可変キャパシタンスが0.5nFで一定である期間であって、第1時刻(t1)に開始し、第2時刻(t2)に終了する期間である。
【0060】
また、第2のシミュレーションでは、高周波電源装置10は、第2期間(T2)において、高周波交流電圧の周波数を、40.68MHzから、40.68MHzに予め設定された設定周波数を加算した周波数まで、直線的に下降させる。第2期間(T2)は、第2時刻(t2)に開始し、第2時刻(t2)から0.2μ秒経過した時刻に終了する期間である。なお、予め設定された設定周波数は、マイナスの値である。
【0061】
第2のシミュレーションでは、高周波電源装置10は、第3期間(T3)において、高周波交流電圧の周波数を、40.68MHzに設定周波数を加算した周波数で一定とする。第3期間(T3)は、第2時刻(t2)から0.2μ秒経過した時刻に開始し、第2時刻(t2)から0.6μ秒経過した時刻に終了する期間である。
【0062】
第2のシミュレーションでは、高周波電源装置10は、第4期間(T4)において、高周波交流電圧の周波数を、40.68MHzに設定周波数を加算した周波数から、40.68MHzまで、直線的に上昇させる。第4期間(T4)は、第2時刻(t2)から0.8μ秒経過した時刻に開始し、第4時刻(t4)に終了する期間である。
【0063】
第2のシミュレーションでは、高周波電源装置10は、第1期間(T1)、第2期間(T2)、第3期間(T3)および第4期間(T4)を1周期として、高周波交流電圧の周波数を繰り返して変化させる。
【0064】
図7(A)、
図7(B)および
図7(C)は、第2のシミュレーションにより計算された、整合器38の入力端における、特性インピーダンスで規格化したインピーダンスの軌跡を示す。
図7(A)、
図7(B)および
図7(C)は、ポーラチャートであり、縦軸がインピーダンスの虚数成分(v)、横軸がインピーダンス実数成分(u)を示す。
【0065】
さらに、
図7(A)は、IMD抑制回路42の第1インダクタ50のインダクタンスが0、第1キャパシタ70のキャパシタンスが無限大であり、設定周波数が-2.1MHzである場合、すなわち、IMD抑制回路42が設けられておらず、設定周波数が-2.1MHzである場合のインピーダンスの軌跡を示す。また、
図7(B)は、第1インダクタ50のインダクタンスが306nH、第1キャパシタ70のキャパシタンスが50pFであり、設定周波数が-0.8MHzである場合のインピーダンスの軌跡を示す。
図7(C)は、第1インダクタ50のインダクタンスが1.05μH、第1キャパシタ70のキャパシタンスが15pFであり、設定周波数が-0.4MHzである場合のインピーダンスの軌跡を示す。
【0066】
図7(A)と比較して、
図7(B)および
図7(C)の場合の方が、インピーダンスの変化が小さくなっている。特に、
図7(C)の場合、インピーダンスの変化が非常に小さくなっている。また、設定周波数、すなわち、高周波交流電圧の周波数変調度も、
図7(A)と比較して、
図7(B)および
図7(C)の場合の方が、小さくなる。
【0067】
表2は、第2のシミュレーションにおける、整合器38の入力端における反射係数を示す。実施形態に係る高周波電源装置10は、表1に示されるように、IMD抑制回路42を備えることにより、反射係数を小さくすることができる。
【表2】
【0068】
このように、実施形態に係る高周波電源装置10は、直流パルス電圧に応じてプラズマ発生装置20の静電容量が変動する場合、IMD抑制回路42を備えることにより、整合器38の入力端におけるインピーダンスの変化を小さくすることができるとともに、高周波交流電圧の周波数変調度も小さくすることができる。これにより、実施形態に係る高周波電源装置10は、広帯域で大型な高周波電源装置10を備えなくてよいので、高周波交流電圧のIMDを効率の良く抑えて、プラズマ発生装置20に供給することができる。
【0069】
以上、本発明の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。実施形態は、種々の変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0070】
10 高周波電源装置、20 プラズマ発生装置、22 交流電力入力端子、24 パルス電力入力端子、32 パルス信号発生回路、34 高周波電源、36 DCパルス電源、38 整合器、40 フィルタ、42 IMD抑制回路、50 第1インダクタ、70 第1キャパシタ