(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094850
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】漏洩防止具
(51)【国際特許分類】
A61M 25/02 20060101AFI20240703BHJP
【FI】
A61M25/02 504
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211701
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098796
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 全
(74)【代理人】
【識別番号】100121647
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 和孝
(74)【代理人】
【識別番号】100187377
【弁理士】
【氏名又は名称】芳野 理之
(72)【発明者】
【氏名】北岡 孝史
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA04
4C267AA09
4C267AA33
4C267BB06
4C267BB18
4C267BB22
4C267CC01
4C267EE07
(57)【要約】
【課題】カテーテルの挿入長に関わらず、その外周面と患者の穿刺部である挿入口との間隙を埋めることで、溶液等の液体の漏れを抑止することができる漏洩防止具を提供すること。
【解決手段】漏洩防止具10は、カテーテル52の外側に装着する内側部10Pと、患者Pと接触する外側部10Rと、を有し、外側部10Rは、その先端部が先細り形状となっていると共に、先端側11から先端側11とは反対側の基端側12に向かって外径が大きくなる形状であるテーパ部13を有する。テーパ部13は、カテーテル52を患者Pの体内に挿入した際に形成される患者の挿入口200とカテーテル52との間隙を閉塞可能な構成となっており、漏洩防止具10は、カテーテル52に内側部10Pを装着した状態で、カテーテル52との相対位置を変更可能な構成となっている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の体内に挿入されるカテーテルの外側と前記カテーテルを前記患者の前記体内に挿入する際に形成される前記患者の挿入口の内側との間隙から体液が漏洩することを防止するための漏洩防止具であって、
前記カテーテルの外側に装着する内側部と、
前記患者と接触する外側部と、を有し、
前記外側部は、その先端部が先細り形状となっていると共に、先端側から前記先端側とは反対側の基端側に向かって外径が大きくなる形状であるテーパ部を有すると共に、前記テーパ部は、前記カテーテルを前記患者の前記体内に挿入する際に形成される前記患者の挿入口と前記カテーテルとの間隙を閉塞可能な構成となっており、
前記カテーテルに前記内側部を装着した状態で、前記カテーテルとの相対位置を変更可能な構成となっていることを特徴とする漏洩防止具。
【請求項2】
軟質の樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の漏洩防止具。
【請求項3】
前記内側部に摺動用のコーティングが施されていることを特徴とする請求項1に記載の漏洩防止具。
【請求項4】
前記基端側の前記外側部には、前記患者の体表に当接させるために延長して形成された延長部が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の漏洩防止具。
【請求項5】
前記延長部には、前記延長部を前記患者の前記体表に密着させるためのシール部が設けられていることを特徴とする請求項4に記載の漏洩防止具。
【請求項6】
前記テーパ部には、段差部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の漏洩防止具。
【請求項7】
前記内側部に配置することで前記内側部の内径寸法を拡張する拡張用チューブを備え、
前記拡張用チューブを前記内側部に配置し、前記拡張用チューブ内に前記カテーテルを配置した後に、前記拡張用チューブを前記内側部から取り除いて前記内側部の内径寸法を縮小させることで、前記内側部と前記カテーテルの外側とを密着させる構成となっていることを特徴とする請求項1または2に記載の漏洩防止具。
【請求項8】
前記拡張用チューブには、前記拡張用チューブを前記内側部から取り除くために把持する把持部が設けられていることを特徴とする請求項7に記載の漏洩防止具。
【請求項9】
前記内側部の内径IDと前記カテーテルの外径ODは、ID≧OD+0.05mmであることを特徴とする請求項1に記載の漏洩防止具。
【請求項10】
前記内側部の内径IDと前記カテーテルの外径ODは、ID<ODであることを特徴とする請求項7に記載の漏洩防止具。
【請求項11】
前記外側部の少なくとも一部に膨潤材料を含む膨潤部を有することを特徴とする請求項1に記載の漏洩防止具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の体内に挿入されるカテーテルの外側に装着される漏洩防止具に関する。
【背景技術】
【0002】
カテーテルは、体外から体内の管腔にアクセスすることを目的に使用される医療デバイスであり、多様な疾患の診断、治療等に用いられる。対象となる管腔としては、動脈、静脈などの血管、食道、腸管などの消化管、クモ膜下腔、尿管、膀胱などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、いずれの管腔内にも血液、脳脊髄液、尿などの何らかの液体が存在しており、ここにアクセスすることはこれらの液体の漏出というリスクを常に伴う。特に、特許文献1に記載されたカテーテルシステムのように、脳脊髄液を含有する管腔にアクセスするカテーテルの場合、脳脊髄液は血液とは異なり、空気に触れても凝固しないため、その課題が大きい。
【0005】
そこで、本発明は、カテーテルの外周面と患者の穿刺部である挿入口との間隙を埋めることで、溶液等の液体の漏れを抑止することができる漏洩防止具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的は、本発明によれば、(1)患者の体内に挿入されるカテーテルの外側と前記カテーテルを前記患者の前記体内に挿入する際に形成される前記患者の挿入口の内側との間隙から体液が漏洩することを防止するための漏洩防止具であって、前記カテーテルの外側に装着する内側部と、前記患者と接触する外側部と、を有し、前記外側部は、その先端部が先細り形状となっていると共に、先端側から前記先端側とは反対側の基端側に向かって外径が大きくなる形状であるテーパ部を有すると共に、前記テーパ部は、前記カテーテルを前記患者の前記体内に挿入する際に形成される前記患者の挿入口と前記カテーテルとの間隙を閉塞可能な構成となっており、前記カテーテルに前記内側部を装着した状態で、前記カテーテルとの相対位置を変更可能な構成となっていることを特徴する漏洩防止具で達成される。
【0007】
前記構成によれば、漏洩防止具のテーパ部を挿入口内に挿入して装着する際に、テーパ部は挿入口の組織に対して、挿入口の内面とカテーテルの外側との間の間隙の大きさに関わらず、テーパ部の挿入長を調節することで確実に密着させることができ、挿入口の内面とカテーテルの外側との間の間隙を埋めることができる。
このため、患者の体型や状態によってカテーテルを体内に挿入する長さを変える場合でも、漏洩防止部は、カテーテルに対する相対位置を変えることで、カテーテルの外周面と患者の挿入口との間隙を埋め、髄液等の体液の漏れを抑止することができる。
【0008】
(2)上記(1)の漏洩防止具は、好ましくは、軟質の樹脂で形成されていることを特徴とする。
前記構成によれば、漏洩防止具を患者の挿入口に挿入したときに、漏洩防止具の内側部、外側部の両方向に形状が変形することが可能であり、効率的に間隙を埋めることができる。
【0009】
(3)上記(1)の漏洩防止具は、好ましくは、前記内側部に摺動用のコーティングが施されていることを特徴とする。
前記構成によれば、漏洩防止具の内側部の摺動性を高くすることで、漏洩防止具の内側部に、カテーテルの外側を接触させながら、カテーテル操作をスムーズに行うことができる。
【0010】
(4)上記(1)または(2)の漏洩防止具は、好ましくは、前記基端側の前記外側部には、前記患者の体表に当接させるために延長して形成された延長部が設けられていることを特徴とする。
【0011】
前記構成によれば、延長部を患者の体表に当てることで、漏洩防止具は、患者の体表に対して安定して保持される。
さらに、延長部を設けることで、漏洩防止具を挿入口から取り外す際に、術者は手技の際に指で延長部を把持することで、容易に取り外すことができる。
【0012】
(5)上記(4)の漏洩防止具は、好ましくは、前記延長部には、前記延長部を前記患者の前記体表に密着させるためのシール部が設けられていることを特徴とする。
【0013】
前記構成によれば、シール部が設けられているので、漏洩防止具の延長部は、より確実に体表に密着でき、漏洩防止具が手技中に挿入口から抜け出るのを防止することができる。
【0014】
(6)上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の漏洩防止具は、好ましくは、前記テーパ部には、段差部が形成されていることを特徴とする。
【0015】
前記構成によれば、テーパ部の段差部が、挿入口の内面に対して押し込まれることで、テーパ部を挿入口の組織に対してさらに確実に密着させることができ、間隙を確実に埋めることができる。
【0016】
(7)上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の漏洩防止具は、好ましくは、前記内側部に配置することで前記内側部の内径寸法を拡張する拡張用チューブを備え、前記拡張用チューブを前記内側部に配置し、前記拡張用チューブ内に前記カテーテルを配置した後に、前記拡張用チューブを前記内側部から取り除いて前記内側部の内径寸法を縮小させることで、前記内側部と前記カテーテルの外側とを密着させる構成となっていることを特徴とする。
【0017】
前記構成によれば、拡張用チューブを内側部から取り除いて漏洩防止具の内側部の内径寸法を縮小させるので、漏洩防止具の内側部とカテーテルの外側とを容易に密着させることができる。
【0018】
(8)上記(7)の漏洩防止具は、好ましくは、前記拡張用チューブには、前記拡張用チューブを前記内側部から取り除くために把持する把持部が設けられていることを特徴とする。
【0019】
前記構成によれば、手技者は、把持部を持って拡張用チューブを容易に取り除くことができる。
【0020】
(9)上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の漏洩防止具では、好ましくは、前記内側部の内径IDと前記カテーテルの外径ODは、ID≧OD+0.05mmであることを特徴とする。
【0021】
前記構成によれば、漏洩防止具の製造時の公差を有する漏洩防止具の内側部の内径IDの数値が、カテーテルの製造時の公差を有するカテーテルの外径ODの数値よりも、わずかに大きく設定されているので、手技時に漏洩防止具の内側部に、カテーテルを通し易い。
【0022】
(10)上記(7)または(8)の漏洩防止具では、好ましくは、前記内側部の内径IDと前記カテーテルの外径ODは、ID<ODであることを特徴とする。
【0023】
前記構成によれば、漏洩防止具とカテーテルとが密着でき、漏洩を防止できる。
【0024】
(11)上記(1)乃至(10)のいずれかに記載の漏洩防止具は、好ましくは、前記外側部の少なくとも一部に膨潤材料を含む膨潤部を有することを特徴とする。
【0025】
前記構成によれば、漏洩防止具の外側部が、患者の挿入口の内面に接触する際に膨潤することで、漏洩防止具の外側部は、挿入口とカテーテルの外側との間の間隙を確実に塞ぐことができる
【発明の効果】
【0026】
本発明は、カテーテルの外周面と患者の穿刺部である挿入口との間隙を埋めることで、溶液等の液体の漏れを抑止することができる漏洩防止具を提供することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の第1の実施の形態の漏洩防止具が用いられる脳疾患治療システムの概要を示すブロック図である。
【
図2】脳疾患治療デバイスのカテーテルを患者の腰椎付近からクモ膜下腔に挿入している様子を示す図である。
【
図3】患者の腰椎の付近に穿刺された挿入口と、カテーテルと、漏洩防止具と、を示している断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を、手技的内容(操作方法,操作・取り扱いの手順)を含めた形で図面を参照して詳しく説明する。
なお、以下に説明する実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0029】
<第1の実施の形態>
(漏洩防止具10が用いられる脳疾患治療システム1の概要)
図1は、本発明の第1の実施の形態の漏洩防止具10が用いられる脳疾患治療システム1の概要を示すブロック図である。
図2は、脳疾患治療デバイス5のカテーテル51,52を患者Pの腰椎付近からクモ膜下腔に挿入している様子を示す図である。
【0030】
図1に示すように、脳疾患治療システム1は、本発明の実施の形態の漏洩防止具10が用いられる医療システムの一例である。
脳疾患治療システム1は、脊髄クモ膜下腔カテーテルシステム2と、ポンプシステム3と、酸素化機構4と、を備える。脊髄クモ膜下腔カテーテルシステム2は、脳疾患治療デバイス5を備え、漏洩防止具10は、医療器具ともいい、この脊髄クモ膜下腔カテーテルシステム2において使用される。
【0031】
脳疾患治療デバイス5は、例えば
図2に示すように、患者Pを側臥位の状態にして、患者Pの腰椎付近からクモ膜下腔に挿入されて、脳疾患治療デバイス5のカテーテル51の先端部は大槽付近まで送達される。
脳疾患治療デバイス5のカテーテル51の先端部は、高酸素溶液(本実施の形態では、例えば酸素化された脳脊髄液)を、クモ膜下腔に存在する脳脊髄液(CSF:Cerebrospinal Fluid)に注入するとともに、脳梗塞治療デバイス5のカテーテル52は、クモ膜下腔に存在する脳脊髄液を吸引して患者Pの体外に排出する。本実施の形態の高酸素溶液は、本発明の「溶液」の一例である。
【0032】
図1に示すポンプシステム3は、例えばコントローラにより動作制御される遠心ポンプである。
ポンプシステム3は、矢印A1のように、脳疾患治療デバイス5を介して患者Pの体内の脳脊髄液を吸引する。さらに、ポンプシステム3は、必要に応じて貯留タンク6に貯留されている充填液LQを、矢印A2のように吸引することもできる。
そして、ポンプシステム3は、矢印A2から吸引した液体を、矢印A3のように、酸素化機構4側に送り出す。
充填液LQとしては、人工脳脊髄液(aCSF:artificial Cereb rospinal Fluid)、例えば乳酸リンゲルであるが、特に限定されない。
【0033】
図1に示す酸素化機構4は、酸素供給源7を備え、ポンプシステム3から送られてきた液体に対して、酸素供給源7からの酸素を供給して酸素化を行って、高酸素溶液LPを作る。
高酸素溶液LPは、ポンプシステム3によっては、矢印A4のように送り出され、脳疾患治療デバイス5を介して患者Pの脳脊髄液に注入される。
【0034】
なお、ポンプシステム3は、
図1に示すように、1つのポンプで注入と排出とを行うが、この方式の他に、排出用ポンプと注入用ポンプとの2つのポンプを使用する方式や、注入のみポンプを用いて自然排出させる方式、逆に排出のみポンプを用いて自然注入させる方式、ポンプを使用せずに点滴のように位置エネルギーを利用して注入、排出を行う方式で、注入、排出を行ってもよい。
なお、本実施形態では酸素化機構4としては、酸素バブリングを使用した方式であっても、中空糸を脳脊髄液に浸し、中空糸の中に酸素を通過させ、中空糸表面の細孔を通じて脳脊髄液を酸素化する方式であってもよい。
【0035】
脳疾患治療デバイス5のカテーテル51,52は、
図1に示すように、患者Pの腰椎Sの付近からクモ膜下腔に挿入される。
脳疾患治療デバイス5のカテーテル51の先端部は、患者Pの大槽付近に送達される。矢印A4のように、高酸素溶液LPが脳疾患治療デバイス5のカテーテル51の先端部に送られ、クモ膜下腔に存在する脳脊髄液に注入される。
【0036】
(脳疾患治療デバイス5の断面構造例)
図1に示すように、脳疾患治療デバイス5は、具体的には、例えば脊髄クモ膜下腔カテーテルであり、二重管構造(Co-axial構造、同軸構造)を有しており、第1の管としての筒状の注入用のカテーテル51と、第2の管としての筒状の排出用のカテーテル52と、から構成されている。そして、本実施形態では、排出用カテーテル52の内腔に注入用カテーテル51が配置されている。
【0037】
注入用のカテーテル51は内腔51Hを有する内管であり、生成された高酸素溶液LPを患者Pのクモ膜下腔に送り込み、排出用のカテーテル52は内腔52Hを有する外管であり、患者Pの体内の脳脊髄液を回収、排出する。
図2に示すように、患者Pの腰椎Sにおいて、腰椎穿刺用針100を用いて穿刺部である挿入口200を形成する。カテーテル51,52は、腰椎穿刺用針100に通すことで、患者Pの体内に配置される。
【0038】
(漏洩防止具10)
次に、漏洩防止具10の好ましい構造例を、図面を参照して説明する。
図3は、
図2に示す患者Pの腰椎Sの付近に穿刺された挿入口200と、排出用のカテーテル52と、漏洩防止具10と、を示している断面図である。
図3に示すように、カテーテル52は、穿刺部である挿入口200を通じて案内されて体内から体外に延在される。
【0039】
図3(A)に示すように、漏洩防止具10は、患者Pの体内に挿入されるカテーテル52の外側52Rに対して、Z方向に沿って相対位置を移動可能に装着される。
この漏洩防止具10は、内側部10Pと、外側部10Rと、を有する部材であり、漏洩防止具10の内側部10Pは、カテーテル52の外側52Rに装着される部分である。
また、漏洩防止具10の外側部10Rは、患者Pの挿入口200の生体組織に直接接触する部分である。
さらに、漏洩防止具10は、断面円形状の貫通孔14を有していて、この貫通孔14は、内側部10Pにより形成されている。そして、貫通孔14は、先端側11から基端側12に至るまで形成されている。
【0040】
図3(A)に示すように、漏洩防止具10の外側部10Rは、先端側11からこの先端側11とは反対側の基端側12に行くにしたがって外径が大きくなるテーパ部13を有している。
テーパ部13の基端側12の最大外径寸法Fは、患者Pの挿入口200の内径寸法Gよりも大きく設定されている。
このテーパ部13は、断面で見て先細りのいわゆる楔型になっている。
図3(B)に示すように、漏洩防止具10のテーパ部13は、患者Pの挿入口200と、カテーテル52の外側52Rと、の間隙SPを閉塞可能である。
これにより、漏洩防止具10のテーパ部13は、カテーテル52を挿入口200内に装着している際に、テーパ部13は、挿入口200の生体組織に対して確実に密着させることができる。
【0041】
図3(B)に示すように、漏洩防止具10のテーパ部13は、カテーテル52の外側に装着した状態で、漏洩防止具10がカテーテル52に対して、軸方向であるZ方向に沿って相対的に移動可能である。
これにより、カテーテル52に対する漏洩防止具10の相対位置は、手技の状況や患者Pの状況等に応じて、任意に変更して設定することができる。
【0042】
漏洩防止具10は、伸縮性を有する軟質の樹脂、例えばポリエチレンや、ナイロンエラストマー、ポリエステルエラストマー、シリコンゴム、天然ゴム、合成ゴム等で構成されている。
これにより、漏洩防止具10は、
図3(A)から
図3(B)に示すように、テーパ部13をZ方向に沿って挿入口200に挿入して装着する際に、
図3(B)に示すように、テーパ部13は挿入口200の生体組織に対して確実に密着させながら、間隙SPを埋めることができる。
【0043】
また、漏洩防止具10の貫通孔14を形成する内側部10Pは、カテーテル52の外側52Rの周囲面に密着させることができる。従って、患者Pの脳脊髄液が、挿入口200の内面とカテーテル52の外側52Rとの間の間隙SPから漏れるおそれがない。
また、漏洩防止具10が、患者Pの体表においてカテーテル52の外側52Rに配置されることで、患者Pの体表において、カテーテル52に折れ曲がり等のキンク現象が発生するのを抑止できる。
【0044】
漏洩防止具10は、好ましくは樹脂で作られており、漏洩防止具10の内の少なくとも内側部10Pの面、すなわち貫通孔14を形成する内面には、好ましくは、摺動用のコーティングが施されている。
このように、漏洩防止具10は、軟質の樹脂で形成されていることにより、漏洩防止具10を患者の挿入口に挿入したときに、漏洩防止具10の内側部と外側部の両方向に形状が弾性変形することが可能であり、効率的に間隙を埋めることができる。
また、漏洩防止具10は、好ましくは、その内側部に摺動用のコーティングが施されていることにより、漏洩防止具10の内側部の摺動性を高くすることで、漏洩防止具10の内側部に、カテーテルの外側を接触させながら、カテーテル操作をスムーズに行うことができる。
漏洩防止具10の内側部10Pを、カテーテル52の外側に接触させながら漏洩防止具10を装着する際に、カテーテル52に対する摺動抵抗が減り、カテーテル52に容易に挿入することができ、相対位置の変更も容易となる。
【0045】
摺動用のコーティングの例としては、湿潤時に潤滑性を発揮する親水性ポリマーコーティングを施すのが好ましい。このような親水性ポリマーコーティングの材料の例としては、セルロース系高分子、ポリエチレンオキサイド系高分子、無水マレイン酸系高分子(例えば、メチルビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体のような無水マレイン酸共重合体)、アクリルアミド系高分子(例えば、ポリアクリルアミド、ポリグリシジルメタクリレート-ジメチルアクリルアミド(PGMA-DMAA)のブロック共重合体)、水溶性ナイロン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等からなる公知の親水性高分子が挙げられる。
【0046】
また、漏洩防止具10の外側部10Rの少なくとも一部には、体液に触れることで膨潤する膨潤材料を含む膨潤部10Dを有することが好ましい。膨潤材料の具体的な材料の例としては、例えばポリビニルアルコールやエチレン系不飽和モノマーとの架橋剤との反応生成物が適している。
これにより、外側部10Rが、患者Pの挿入口200の内面に接触する際に膨潤することで、漏洩防止具10の外側部10Rは、挿入口200とカテーテル52の外側52Rとの間の間隙SPを確実に塞ぐことができる。
【0047】
図3(A)に示すように、漏洩防止具10の内側部10Pの内径IDと、カテーテル52の外径ODとの関係としては、ID≧OD+0.05mmであることが、好ましい。
漏洩防止具10の製造時の公差を有する内側部10Pの内径IDの数値が、カテーテル52の製造時の公差を有するカテーテル52の外径ODの数値よりもわずかに大きく設定されていることで、漏洩防止具10の内側部10Pには、手技時にカテーテル52を通し易い。
上述した0.05mmの数値は、好ましい例であるが、漏洩防止具10の素材と、カテーテル52の素材により異なる。
【0048】
(漏洩防止具10の使用例)
次に、漏洩防止具10の使用例を、図面を参照して説明する。
脳疾患治療デバイス5と漏洩防止具10を用いて、患者Pを脳疾患治療する際には、予め
図2と
図3に示すように、カテーテル51,52は患者Pの腰椎Sの付近に穿刺部として形成されている挿入口200を通じて患者の体内に挿入される。
その後、クモ膜下腔内において、カテーテル51の先端部を、大槽付近に送達する。その後、カテーテル52の基端側を漏洩防止具10の貫通孔14に挿入する。
漏洩防止具10の貫通孔14には、カテーテル52の外側52Rの外周面が密着するようにして挿入されている。この場合に患者Pの体格等の手技の条件に基づいて、カテーテル52の長さ方向に対する漏洩防止具10の位置が設定される。
【0049】
次に、
図3(A)から
図3(B)に示すように、矢印Z方向に沿って漏洩防止具10の先端側11側から挿入口200内に差し込む。
これにより、漏洩防止具10のテーパ部13をZ方向に沿って挿入口200内に挿入して装着する際に、テーパ部13は挿入口200の生体組織に対して確実に密着させることができ、挿入口200の内面とカテーテル52の外側52Rとの間の間隙SPを埋めることができる。
さらに、漏洩防止具10の貫通孔14の内周面は、カテーテル52の外側の周囲面に密着させることができる。
【0050】
その後、カテーテル51を通じて高酸素溶液をクモ膜下腔の大槽中の脳脊髄液に注入する。
この注入と同時に、頭蓋内圧を適切に保持するために、注入した高酸素溶液の量と概ね同量の脳脊髄液を、カテーテル52を通じて体外に排出する。
【0051】
このように、高酸素溶液を排出する際に、漏洩防止具10のテーパ部13は挿入口200の生体組織に対して確実に密着させて間隙SPを埋めており、しかも、漏洩防止具10の貫通孔14の内周面は、カテーテル52の外側の周囲面に密着している。
従って、患者Pの脳脊髄液が、挿入口200の内面とカテーテル52の外側の周囲面との間の間隙SPから漏れるおそれがなく、挿入口200とカテーテル52の間隙から脳脊髄液が漏れるリスクが、治療中に常に抑止できる。
【0052】
次に、本発明の第1の実施の形態と異なる複数の別の実施の形態を説明するが、第1の実施の形態と同様の箇所には同じ符号を記して、その説明を援用し、異なる箇所のみを説明する。
<第2の実施の形態>
図4は、本発明の第2の実施の形態を示している。
図4に示す漏洩防止具10Aは、
図3に示す漏洩防止具10とほぼ同じ構造であるが、延長部16がさらに設けられていることが、漏洩防止具10とは異なる。
漏洩防止具10Aの基端部12側には、延長部16が、半径方向に延長して設けられている。延長部16は、患者Pの体表に当てる部分であり、延長部16が設けられていることで、漏洩防止具10Aは、患者Pの体表Nに対して安定して保持できる。延長部16の形状としては、円形状や楕円形状あるいは長方形状等を採用でき、特に限定されない。
【0053】
また、この延長部16を設けることで、漏洩防止具10Aを挿入口200から取り外す際に、術者は指で延長部16を把持することで、容易に挿入口200から取り外すことができる。
さらに、延長部16の内面には、延長部16の内面を患者Pの体表Nに密着させるためのシール部17が設けられてもよい。
【0054】
このシール部17は、例えば生体組織に影響の少ないジェル状の材料である。延長部16にシール部17が設けられていることで、漏洩防止具10Aの延長部16は、より確実に体表Nに密着でき、漏洩防止具10Aが手技中に挿入口200に対して移動したり、抜け出たりするのを防止できる。
このため、患者Pの脳脊髄液が、挿入口200の内面とカテーテル52の外側の周囲面との間の間隙SPから漏れるおそれがなく、挿入口200とカテーテル52の間隙から脳脊髄液が漏れるリスクが、治療中に常に抑止できる。
また、延長部16を設けることで、漏洩防止具10Aのテーパ部13の外側と挿入口200の隙間から脳脊髄液が漏れそうになった場合でも、延長部16により確実に脳脊髄液の漏洩を抑止することができる。
【0055】
<第3の実施の形態>
図5は、本発明の第3の実施の形態を示している。
図5に示すように、漏洩防止具10Bのテーパ部13には、患者の挿入口200に接触させるための少なくとも1つの凸部を有する段差部18が形成されている。
これにより、テーパ部13の段差部18が、挿入口200の内面に対して押し込まれることで、テーパ部13は挿入口200の組織に対して、さらに確実に密着させることができ、間隙SPを埋めることができる。
さらに、漏洩防止具10Bが挿入口から抜けそうになった場合でも、段差部18の凸部が挿入口200の内側に引っ掛かり、抜けにくくなり、確実に脳脊髄液が漏れることを抑止することができる。
このため、患者Pの脳脊髄液が、挿入口200の内面とカテーテル52の外側の周囲面との間の間隙SPから漏れるおそれがなく、挿入口200とカテーテル52の間隙から脳脊髄液が漏れるリスクが、治療中に常に抑止できる。
【0056】
<第4の実施の形態>
図6は、本発明の第4実施形態を示している。
図6(A)に示す漏洩防止具10Cは、上述した漏洩防止具10,10A,10Bとは異なり、拡張用チューブ60を備えている。
漏洩防止具10Cの形状は、漏洩防止具10の形状と同様である。この拡張用チューブ60は、漏洩防止具10Cの貫通孔14内に挿入することで漏洩防止具10Cの貫通孔14を押し広げて、漏洩防止具10Cの内径寸法を拡張する機能を有する。
【0057】
漏洩防止具10Cの内側部の内径IDと、カテーテル52の外径ODとの関係は、ID<OD(内径IDは、外径ODより小さい)である。これにより、拡張用チューブ60は、漏洩防止具10Cの貫通孔14内に挿入することで漏洩防止具10Cを押し広げて、漏洩防止具10Cの内径寸法を拡張し、抜去することで内径が戻り、漏洩防止具10Cとカテーテル52との間が密着でき、漏洩を防止できる。
【0058】
また、
図6(A)に示すように、漏洩防止具10Cの貫通孔14の内径IDは、カテーテル52の外径ODよりも小さく、拡張用チューブ60の内径DSは、排出用のカテーテル52の外径ODよりも大きく設定されている。
これにより、
図6(B)に示すように、カテーテル52は、拡張用チューブ60内に容易に挿入できる。
【0059】
漏洩防止具10Cは、上述した漏洩防止具10と同様に、伸縮性を有する軟質の樹脂で作られているが、拡張用チューブ60は漏洩防止具10Cの材質よりも硬い材質の樹脂等により作られている。
これにより、拡張用チューブ60は、漏洩防止具10Cの貫通孔14内に挿入することで漏洩防止具10Cを押し広げて、漏洩防止具10Cの内径寸法を容易に拡張できる。
また、拡張用チューブ60の軸方向の長さは、漏洩防止具10Cの軸方向の長さに比べて大きく設定されている。
【0060】
図6(A)に示すように、矢印M1で示すように、拡張用チューブ60を漏洩防止具10Cの貫通孔14内に圧入することで、拡張用チューブ60により漏洩防止具10Cの内径寸法を弾性変形により拡張した状態にする。
そして、例えば、
図6(A)の矢印M2で示すように、拡張用チューブ60内にカテーテル52を挿入して
図6(B)に示す状態にして、
図6(C)に示すように、漏洩防止具10Cを患者Pの挿入口200に挿入することで、漏洩防止具10Cのテーパ部13を挿入口200の生体組織に密着させる。
【0061】
その後、
図6(D)に示すように、漏洩防止具10C内から拡張用チューブ60を取り除いて漏洩防止具10Cの貫通孔14を弾性収縮により縮小させることで、漏洩防止具10Cの内側と、カテーテル52の外側と、を密着させる。
これにより、漏洩防止具10Cの内側とカテーテル52の外側との間から、患者Pの脳脊髄液が漏れるのを防ぐことができる。
【0062】
さらに、テーパ部13は、深く挿入することで挿入口200の生体組織を押し広げて確実に密着させることができ、間隙SPを埋めることができる。
このため、患者Pの脳脊髄液が、挿入口200の内面とカテーテル52の外側の周囲面との間の間隙SPから漏れるおそれがなく、脳脊髄液が漏れるリスクが、治療中に常に抑止できる。
【0063】
なお、
図6(A)から
図6(B)に示すように、漏洩防止具10Cが拡張用チューブ60により拡張された状態で、カテーテル52が拡張用チューブ60内に挿入され、その後、漏洩防止具10Cと拡張用チューブ60とカテーテル52の組立体が、
図6(C)に示すように、患者Pの挿入口200に装着されている。
しかし、これに限らず、漏洩防止具10が拡張用チューブ60により拡張された状態で、漏洩防止具10Cと拡張用チューブ60が挿入口200に挿入されてから、拡張用チューブ60の中にカテーテル52を挿入しても良い。
【0064】
図示した例では、
図6(D)に示すように、拡張用チューブ60は、好ましくは、一端部(外端部)に把持部61を有する。
この把持部61は、拡張用チューブ60を漏洩防止具10C内から取り除く際に把持することで、拡張用チューブ60はカテーテル52と漏洩防止具10Cから容易に取り除くことができる。
【0065】
なお、拡張用チューブ60は、図示しないが例えば軸方向に破線の切り離し線を設けておくと良い。
これにより、
図6(D)に示すように、拡張用チューブ60を漏洩防止具10Cから引き抜いた後に、拡張用チューブ60は、この切り離し線に沿って切り裂くことで、カテーテル52から容易に除去できる。なお、
図6(A)に示す漏洩防止具10Cは、拡張用チューブ60の一端側からでも他端側からでも挿入可能である。
【0066】
通常の治療中に、穿刺部である挿入口とカテーテルの間の間隙から脳脊髄液が漏れるリスクが治療中に常に存在し続けると、脳脊髄液の量が減少して脳が浮いている状態を維持できず、重量によって脳が下方に下がり、頭痛やめまい、倦怠感等の脳脊髄液減少症を引き起こしてしまう。
そこで、本発明の各実施形態の漏洩防止具10,10A、10B、10Cを用いることにより、治療中に脳脊髄液が漏れるリスクを回避して、脳脊髄液減少症を抑止できる。
【0067】
脳脊髄液は、空気に触れても血液のように凝固しないため、挿入口から漏洩すると、漏洩防止措置を行わなければ漏洩が止まらず、漏洩し続けてしまう課題がある。
したがって、本実施形態の漏洩防止具は、特に、脳脊髄液の漏洩を防止するのに効果的であり、カテーテルの挿入長に関わらず、カテーテルの外周面と患者の穿刺部である挿入口との間隙を埋めることで、溶液等の液体の漏れを抑止することができる。
【0068】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、上記実施形態に限定されず、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことができる。上記実施形態の構成は、その一部を省略したり、上記とは異なるように任意に組み合わせたりすることができる。
図示した脳疾患治療システム1は、本発明の実施形態の漏洩防止具10が用いられる医療システムの一例であるが、本発明の実施形態の漏洩防止具が適用できる医療システムは、これに限定されず、本発明の実施形態の漏洩防止具は、他の領域や分野の医療システムを用いた手技や治療に適用できる。
【符号の説明】
【0069】
1・・・脳疾患治療システム、2・・・脊髄クモ膜下腔カテーテルシステム、3・・・ポンプシステム、4・・・酸素化機構、5・・・脳疾患治療デバイス、8・・・排出タンク、10、10A、10B、10C・・・漏洩防止具、10P・・・内側部、10R・・・外側部、11・・・先端側、12・・・基端側、13・・・テーパ部、14・・・貫通孔、16・・・延長部、17・・・シール部、18・・・段差部、51・・・供給用のカテーテル、52・・・排出用のカテーテル、52R・・・カテーテルの外側、LP・・・高酸素溶液、LQ・・・充填液、P・・・患者、S・・・腰椎、SP…間隙、