(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094861
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】開離嵌挿具及びスライドファスナー
(51)【国際特許分類】
A44B 19/14 20060101AFI20240703BHJP
【FI】
A44B19/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211723
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004152
【氏名又は名称】弁理士法人お茶の水内外特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100187193
【弁理士】
【氏名又は名称】林 司
(74)【代理人】
【識別番号】100181766
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 均
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 涼太
(72)【発明者】
【氏名】細川 祐介
【テーマコード(参考)】
3B098
【Fターム(参考)】
3B098BA10
3B098EA08
3B098EC04
3B098FA08
(57)【要約】
【課題】係合爪部の破損を生じさせ難くすることが可能な開離嵌挿具を提供する。
【解決手段】本発明の開離嵌挿具(20,20a)では、箱体本体部(41)が、第1壁部(41a)及び第2壁部(41b)と、蝶棒収容部(43)及び箱棒収容部(42)間に配される仕切り部(44)と、仕切り部(44)から延びるとともに弾性変形可能な係合爪部(45)と、第1壁部(41a)又は第2壁部(41b)から箱棒収容部(42)に突出する突条部(46)とを有し、箱棒(30,30a)は、箱棒本体部(31)の蝶棒(50,50a)に対向する対向側面(31a)に凹設される係合凹部(32)と、箱棒本体部(31)に凹設される収容凹溝部(37)とを有し、箱体(40,40a)の突条部(46)は箱棒(30,30a)の収容凹溝部(37)に収容され、箱棒(30,30a)は、係合爪部(45)と係合凹部(32)の係合により抜出方向への移動が規制されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
箱棒(30,30a)と、前記箱棒(30,30a)に取り付けられる箱体(40,40a)と、前記箱体(40,40a)に挿入され、及び前記箱体(40,40a)から抜出される蝶棒(50,50a)とを有し、前記箱体(40,40a)は、箱体本体部(41)と、前記箱体本体部(41)に設けられるとともに前記箱棒(30,30a)が収容される箱棒収容部(42)と、前記箱体本体部(41)に設けられるとともに前記蝶棒(50,50a)が挿入及び抜出される蝶棒収容部(43)とを有する開離嵌挿具(20,20a)において、
前記箱体本体部(41)は、前記箱棒(30,30a)及び前記蝶棒(50,50a)のそれぞれの第1面の一部を覆う第1壁部(41a)と、前記箱棒(30,30a)及び前記蝶棒(50,50a)のそれぞれの第2面の一部を覆う第2壁部(41b)と、前記蝶棒収容部(43)及び前記箱棒収容部(42)間に配されるとともに前記第1壁部(41a)及び前記第2壁部(41b)を連結する仕切り部(44)と、前記仕切り部(44)から前記箱棒収容部(42)に向けて延びるとともに少なくとも一部が弾性変形可能な係合爪部(45)と、前記第1壁部(41a)又は前記第2壁部(41b)から前記箱棒収容部(42)に突出するとともに前記箱体(40,40a)に対する前記箱棒(30,30a)の挿入方向に沿って延びる突条部(46)とを有し、
前記箱棒(30,30a)は、前記挿入方向に長い形状を備える箱棒本体部(31)と、前記箱棒本体部(31)の前記蝶棒(50,50a)に対向する対向側面(31a)に凹設される係合凹部(32)と、前記箱棒本体部(31)に前記挿入方向に沿って凹設される収容凹溝部(37)とを有し、
前記箱体(40,40a)の前記突条部(46)は、前記箱棒(30,30a)の前記収容凹溝部(37)に収容され、
前記箱棒(30,30a)は、前記挿入方向における前記係合凹部(32)の形成範囲と、前記挿入方向における前記収容凹溝部(37)の形成範囲とが互いに重なる重なり部(25)を有し、
前記箱棒(30,30a)は、前記箱体(40,40a)の前記係合爪部(45)と前記箱棒(30,30a)の前記係合凹部(32)の係合により、前記箱体(40,40a)に対して抜出する方向に移動することが規制されている
ことを特徴とする開離嵌挿具。
【請求項2】
前記係合爪部(45)は、爪本体部(45e)と、前記爪本体部(45e)から前記箱体(40,40a)の前記第1壁部(41a)に向けて延びる第1爪端部(45f)と、前記爪本体部(45e)から前記箱体(40,40a)の前記第2壁部(41b)に向けて延びる第2爪端部(45g)とを有し、
前記第1爪端部(45f)及び前記第2爪端部(45g)には、それぞれ、前記箱体(40,40a)の幅方向における前記係合爪部(45)の寸法を前記第1壁部(41a)又は前記第2壁部(41b)に向けて漸減させる面取り部(45h)が設けられている
請求項1記載の開離嵌挿具。
【請求項3】
請求項1又は2記載の開離嵌挿具(20,20a)を有することを特徴とするスライドファスナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライドファスナー用の開離嵌挿具、及びその開離嵌挿具を有するスライドファスナーに関する。
【背景技術】
【0002】
スライドファスナーは、一般的に、帯状のファスナーテープのテープ側縁部に複数のファスナーエレメントが取着されてエレメント列が形成されている左右一対のファスナーストリンガーと、左右のファスナーストリンガーのエレメント列に摺動可能に取着されるスライダーとを有する。
【0003】
また、スライドファスナーには、左右のエレメント列が分離されたときに左右のファスナーストリンガーを互いに引き離すために、開離嵌挿具が設けられることがある。この開離嵌挿具は、一般に、一方のファスナーストリンガーのエレメント列に隣接してファスナーテープに固定される蝶棒と、他方のファスナーストリンガーのエレメント列に隣接してファスナーテープに固定される箱棒と、箱棒の先端部に一体的に設けられる箱体とを有する。また、箱体には、蝶棒を挿入して収容する蝶棒収容部(蝶棒収容孔部)が設けられている。
【0004】
一方、例えば特開2022-38070号公報(特許文献1)には、ファスナーテープを用いることなくスライドファスナーが形成されているスライドファスナー付き製品が記載されている。
【0005】
この特許文献1のスライドファスナー付き製品は、紐状の固定部材に複数のファスナーエレメントと蝶棒とが取着された第1エレメント部材と、紐状の固定部材に複数のファスナーエレメントと箱棒とが取着された第2エレメント部材とを有する。これらの第1エレメント部材及び第2エレメント部材は、衣服の生地等のファスナー被着部材にミシンで直接縫い付けられ、更に、第1エレメント部材及び第2エレメント部材のエレメント列にスライダーが取り付けられることによって、スライドファスナー付き製品が形成されている。
【0006】
また、特許文献1のスライドファスナー付き製品には、第1エレメント部材に設けられた蝶棒と、第2エレメント部材に設けられた箱棒と、第2エレメント部材がファスナー被着部材に縫い付けられた後に第2エレメント部材の箱棒に装着される箱体とを有する開離嵌挿具が設けられている。また、第1エレメント部材の蝶棒には、蝶棒をファスナー被着部材に縫い付けるために、蝶棒から幅方向の外側に延びる第1ヒレ部が設けられている。第2エレメント部材の箱棒には、箱棒をファスナー被着部材に縫い付けるために、箱棒から幅方向の外側に延びる第2ヒレ部が設けられている。
【0007】
特許文献1の開離嵌挿具では、箱棒に箱体を装着するために、箱棒の下面から上側に向けて凹設された係合凹部が配されている。また、箱体は、箱棒の上面の一部及び蝶棒の上面の一部を覆う上壁部と、箱棒の下面の一部及び蝶棒の下面の一部を覆う下壁部とを有しており、箱体の下壁部には、下壁部から箱体の箱棒収容部(箱棒収容空間)に突出するとともに箱棒の係合凹部に係合する弾性爪部と、弾性爪部の左右両側と後側とに下壁部を貫通するように設けられた貫通孔部と、弾性爪部の下側に弾性爪部の弾性変形を許容する空間部とが設けられている。
【0008】
特許文献1の開離嵌挿具において、第2エレメント部材の箱棒に箱体を取り付ける場合、箱棒を、箱体の前方側から箱体の箱棒収容部に挿入し、更に、箱棒収容部に深く押し込む。このように箱棒が箱体の箱棒収容部に押し込まれることにより、先ず、箱体の弾性爪部が箱体によって押圧されて箱体の箱棒収容部を開くように弾性変形する。
【0009】
その後、箱棒が箱体の箱棒収容部に更に押し込まれることによって、箱棒の係合凹部が箱体の弾性爪部の位置よりも奥側(後方側)に移動して、弾性爪部に対する箱棒からの押圧が解除される。その結果、弾性爪部が元の形状に弾性復帰して、箱棒の係合凹部内に挿入されるため、箱体の弾性爪部を箱棒の係合凹部に係合させることができる。これにより、第2エレメント部材の箱棒に箱体を取り付けて保持することができる。
【0010】
上述のような特許文献1のスライドファスナー付き製品は、ファスナーテープを用いずに、スライドファスナーの機能を有することができるため、例えば製造コストの削減、衣服の軽量化、衣服の柔軟性の向上といった効果が得られる。また、特許文献1のスライドファスナー付き製品は、箱棒、箱体、及び蝶棒により形成された開離嵌挿具を有するため、第1エレメント部材及び第2エレメント部材のエレメント列を分離したときに、第1エレメント部材が縫い付けられたファスナー被着部材と、第2エレメント部材が縫い付けられたファスナー被着部材とを容易に引き離すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1のスライドファスナー付き製品では、第2エレメント部材の箱棒に箱体を取り付ける場合、箱棒を、箱体の箱棒収容部に挿入して押し込むことにより、箱体の下壁部に設けた弾性爪部を弾性変形させる必要がある。
【0013】
しかし、特許文献1の箱棒を箱体の箱棒収容部に挿入するときに、箱体への挿入方向に対して箱棒の挿入向きが傾いている場合、及び、箱体の箱棒収容部に対して箱棒の挿入姿勢が捩れるように倒れている場合では、箱体の弾性爪部に大きな応力が加えられ易くなり、弾性爪部が折れて破損することがあった。
【0014】
また、箱棒を箱体の箱棒収容部に挿入して箱体が箱棒に取り付けた後に、例えば第2エレメント部材の箱棒が、箱体から離れる向きに引っ張られること等によって、箱棒に対し、箱棒を箱体から抜出させるようなファスナー長さ方向の引っ張り力が加えられることがある。なお、以下の説明において、このように箱棒が引っ張られることによって箱棒に加えられるファスナー長さ方向の引っ張り力を、縦引き力と称する。
【0015】
特許文献1のような従来のスライドファスナー付き製品において、例えば上述のような縦引き力が箱棒に加えられたときに、箱体の材質等によっては、箱体の箱棒収容部が箱体の厚さ方向(高さ方向)に開くことがある。このとき、箱体の弾性爪部と箱棒の係合凹部との係合が外れ易くなることが考えられ、その結果、開離嵌挿具の縦引き力に対する強度の低下を招く虞もあった。
【0016】
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、係合爪部の弾性力を利用して箱体を箱棒に取り付けるときに係合爪部の破損を生じさせ難くすることが可能な開離嵌挿具、及びその開離嵌挿具を有するスライドファスナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明により提供される開離嵌挿具は、箱棒と、前記箱棒に取り付けられる箱体と、前記箱体に挿入され、及び前記箱体から抜出される蝶棒とを有し、前記箱体は、箱体本体部と、前記箱体本体部に設けられるとともに前記箱棒が収容される箱棒収容部と、前記箱体本体部に設けられるとともに前記蝶棒が挿入及び抜出される蝶棒収容部とを有する開離嵌挿具において、前記箱体本体部は、前記箱棒及び前記蝶棒のそれぞれの第1面の一部を覆う第1壁部と、前記箱棒及び前記蝶棒のそれぞれの第2面の一部を覆う第2壁部と、前記蝶棒収容部及び前記箱棒収容部間に配されるとともに前記第1壁部及び前記第2壁部を連結する仕切り部と、前記仕切り部から前記箱棒収容部に向けて延びるとともに少なくとも一部が弾性変形可能な係合爪部と、前記第1壁部又は前記第2壁部から前記箱棒収容部に突出するとともに前記箱体に対する前記箱棒の挿入方向に沿って延びる突条部とを有し、前記箱棒は、前記挿入方向に長い形状を備える箱棒本体部と、前記箱棒本体部の前記蝶棒に対向する対向側面に凹設される係合凹部と、前記箱棒本体部に前記挿入方向に沿って凹設される収容凹溝部とを有し、前記箱体の前記突条部は、前記箱棒の前記収容凹溝部に収容され、前記箱棒は、前記挿入方向における前記係合凹部の形成範囲と、前記挿入方向における前記収容凹溝部の形成範囲とが互いに重なる重なり部を有し、前記箱棒は、前記箱体の前記係合爪部と前記箱棒の前記係合凹部の係合により、前記箱体に対して抜出する方向に移動することが規制されている開離嵌挿具である。
【0018】
本発明の開離嵌挿具において、前記係合爪部は、爪本体部と、前記爪本体部から前記箱体の前記第1壁部に向けて延びる第1爪端部と、前記爪本体部から前記箱体の前記第2壁部に向けて延びる第2爪端部とを有し、前記第1爪端部及び前記第2爪端部には、それぞれ、前記箱体の幅方向における前記係合爪部の寸法を前記第1壁部又は前記第2壁部に向けて漸減させる面取り部が設けられていることが好ましい。
更に、本発明によれば、上述した開離嵌挿具を有するスライドファスナーが提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の開離嵌挿具によれば、係合爪部の弾性力を利用して箱体を箱棒に取り付けるときに係合爪部の破損を生じさせ難くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施例に係る開離嵌挿具を備えたスライドファスナー付き製品の要部を示す模式図である。
【
図2】開離嵌挿具の箱棒及び蝶棒を模式的に示す底面図である。
【
図3】開離嵌挿具における箱体の断面を箱棒及び蝶棒の配置とともに模式的に示す底面図である。
【
図5】箱体の
図1に示すV-V線における断面を模式的に示す断面図である。
【
図6】箱体に対する箱棒の挿入を説明する模式図である。
【
図7】箱体を断面で示すことにより箱体の突条部が箱棒の収容凹溝部に収容されている状態を模式的に示す斜視図である。
【
図8】本発明の変形例に係る開離嵌挿具を備えたスライドファスナーを示す模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施の形態について、実施例を挙げて図面を参照しながら説明する。
【実施例0022】
図1は、本実施例に係る開離嵌挿具を備えたスライドファスナー付き製品(衣服)の要部を示す模式図である。
図2は、本実施例の箱棒及び蝶棒を模式的に示す底面図である。
図3は、開離嵌挿具における箱体の断面を箱棒及び蝶棒の配置とともに模式的に示す底面図である。
【0023】
なお、以下の説明において、前後方向は、スライダーの摺動方向に沿った第1エレメント部材及び第2エレメント部材の長さ方向又はスライドファスナーの長さ方向を言う。また、前後方向は、第1エレメント部材及び第2エレメント部材の固定部材に沿った方向と言い換えることもできる。この場合、スライダーが左右のエレメント列を噛合させるように摺動する方向を前方とし、左右のエレメント列を分離させるように摺動する方向を後方とする。
【0024】
左右方向は、スライドファスナーの幅方向に沿った方向又は第1エレメント部材及び第2エレメント部材が互いに接近・離間する方向を言う。また、左右方向は、スライダーの摺動方向に直交し、且つ、ファスナー被着部材である生地の表面及び裏面に平行な方向と言い換えることもできる。この場合、左右方向又は幅方向の内側とは、左右のエレメント列が互いに近付く方向を意味し、左右方向又は幅方向の外側とは、左右のエレメント列が互いに離れる方向を意味する。
【0025】
上下方向は、前後方向と左右方向とに直交する方向、又はファスナー被着部材である生地の表面及び裏面に直交する方向を言う。この場合、衣服を製造したときに生地の外面側となる向きを上方とし、その反対側の向きを下方とする。更に、開離嵌挿具について、蝶棒又は箱棒の挿入方向とは、箱体の上下方向における下向き又は略下向きの方向を意味する。
【0026】
また具体的に、本実施例の場合、前後方向は
図1の紙面における上下の方向であり、左右方向は
図1の紙面における左右の方向である。上下方向は
図1の紙面における表裏方向である。この場合、上方は、
図1の紙面の手前側の向きであり、下方は、
図1の紙面の奥側の向きである。
【0027】
本実施例のスライドファスナー付き製品1は、スライドファスナー2付きの衣服1であり、この衣服1の前身頃の前立て部にスライドファスナー2が形成されている。スライドファスナー付き製品1は、衣服1の生地6にエレメント部材10がそれぞれ直接縫着されることによってエレメント列7が形成されている左右一対のファスナーストリンガー部5と、左右のファスナーストリンガー部5のエレメント列7に摺動可能に取着されるスライダー60と、左右のエレメント列7の下端部に隣接して配される開離嵌挿具20とを有する。
【0028】
この場合、衣服1を形成する生地6は、エレメント部材10が取り付けられるファスナー被着部材であるため、本実施例のスライドファスナー付き衣服1では、ファスナーテープが用いられることなくスライドファスナー2が形成されている。開離嵌挿具20は、箱棒30と、箱体40と、蝶棒50とを有する。
【0029】
左右の各ファスナーストリンガー部5は、ファスナー被着部材の生地6と、生地6に取り付けられるエレメント部材10とをそれぞれ有する。この場合、エレメント部材10は、スライドファスナー付き衣服1を上側から見た正面視(例えば、
図1を参照)において、右側に配される第1エレメント部材10aと、左側に配される第2エレメント部材10bとを有する。第1エレメント部材10aと第2エレメント部材10bとは、それぞれ、前後方向に沿ってまっすぐに配されており、また、互いに幅方向に並べられて配置される。
【0030】
第1エレメント部材10aは、紐状の固定部材11と、固定部材11に前後方向に一定の間隔で取り付けられる複数のファスナーエレメント12と、固定部材11の後端部に取り付けられる箱棒30と、箱棒30に組み付けられる箱体40とを有する。第2エレメント部材10bは、紐状の固定部材11と、固定部材11に前後方向に一定の間隔で取り付けられる複数のファスナーエレメント12と、固定部材11の後端部に取り付けられる蝶棒50とを有する。
【0031】
左右のファスナーストリンガー部5の各エレメント列7は、生地6に縫い付けられた第1エレメント部材10a又は第2エレメント部材10bの複数のファスナーエレメント12により形成されている。
【0032】
第1エレメント部材10a及び第2エレメント部材10bの各固定部材11は、前後方向に長く形成されているとともに、可撓性を備えている。また、固定部材11は、長さ方向に直交する断面が略円形を示す細長い部材により形成されている。固定部材11には、例えばモノフィラメント、撚糸(撚紐)、又は、引き揃えられた複数本のマルチフィラメントからなる芯糸を、複数の編糸で編成される袋織部で包み込むことにより形成される紐体(ニットコードとも言われる)などが用いられる。
【0033】
第1エレメント部材10a及び第2エレメント部材10bの各ファスナーエレメント12は、前述した特許文献1に記載されているファスナーエレメントと実質的に同様に形成されている。簡単に説明すると、各ファスナーエレメント12は、前後方向に隣接するファスナーエレメント12から分離して独立した形状を有しており、ポリアセタールなどの熱可塑性樹脂を固定部材11に射出成形することにより形成されている。
【0034】
各ファスナーエレメント12は、固定部材11に固定されるエレメント胴部と、エレメント胴部から幅方向の内側に延出するとともに括れた形状を有するエレメント首部と、エレメント首部から更に幅方向の内側に延出するとともに平面視にて略長円形を呈する噛合頭部と、エレメント首部から前方及び後方に突出する前後一対の肩部とを有する。
【0035】
開離嵌挿具20を形成する箱棒30は、第1エレメント部材10aの固定部材11に熱可塑性樹脂を射出成形することにより、固定部材11に固定されている。箱棒30は、固定部材11に固着されるとともに前後方向に長い形状を備える箱棒本体部31と、箱棒本体部31から左右方向の外側に向けて延びる箱側ヒレ部39とを有する。
【0036】
箱棒本体部31は、略直方体状の形状を有しており、また、固定部材11を内側に包み込んで形成されている。また、箱棒本体部31は、上下方向に向く上面及び下面と、幅方向の内側に向いて蝶棒50に対向する対向側面(内側面)31aと、幅方向の外側に向くとともに箱側ヒレ部39が接続する外側面とを有する。
【0037】
箱棒本体部31は、
図1及び
図2に示すように、箱棒本体部31の対向側面31aに凹設される係合凹部32と、箱棒本体部31の上半部から幅方向の内側に向けて突出する第1箱側突片部33及び第2箱側突片部34と、箱棒本体部31の下半部から幅方向の内側に向けて突出する第3箱側突片部35及び第4箱側突片部36と、箱棒本体部31の下面に凹設される収容凹溝部37及び補助凹溝部38とを有する。
【0038】
箱棒本体部31の係合凹部32は、箱棒本体部31に箱体40を装着するために、箱体40の後述する係合爪部45を収容して係合させる形状を有する。具体的に説明すると、係合凹部32は、箱棒本体部31の後半部に配され、且つ、箱棒本体部31の対向側面31aから幅方向の外側に向けて凹設されている。なお、箱棒本体部31の後半部は、箱棒本体部31において、箱棒本体部31の前後方向の中央部よりも後方側に配される部分を意味する。本実施例の係合凹部32は、幅方向に沿って配されて前方に向く係合面32aと、係合面32aにおける幅方向の外側から前方に向けて湾曲しながら箱棒本体部31の対向側面31aに接続する湾曲面32bとを有する。
【0039】
第1箱側突片部33及び第2箱側突片部34は、前後方向に互いに離れて配されるとともに、蝶棒50が箱体40に収容されたときに蝶棒50の後述する蝶棒本体部51に接触する大きさで形成されている。第1箱側突片部33は、第2箱側突片部34よりも前側に配されており、また、蝶棒50の後述するエレメント係合部52に係合する形状を有する。第3箱側突片部35及び第4箱側突片部36は、それぞれ、第1箱側突片部33及び第2箱側突片部34の下側に配されている。第3箱側突片部35及び第4箱側突片部36の間には、蝶棒50が箱体40に収容されたときに蝶棒50の後述する蝶棒側突片部54が挿入される空間部が設けられている。
【0040】
箱棒本体部31の収容凹溝部37は、
図2に示すように、箱棒本体部31における後半部の下面に、箱棒本体部31の後端縁から前方に向けて凹設されている。この収容凹溝部37は、箱棒本体部31の後端縁に開口しており、また、前後方向に沿って直線状に形成されている。
【0041】
収容凹溝部37は、後述するように箱棒30を箱体40の箱棒収容部42に挿入して箱棒30に箱体40を組み付けるときに、箱体40の突条部46を箱棒本体部31の後端縁から挿入させることによって、箱棒30を箱体40に対してまっすぐに挿入させるように案内できる。
【0042】
また、箱棒30が箱体40を組み付けられたときに、箱棒30の収容凹溝部37に箱体40の突条部46が収容されていることにより、箱棒30を箱体40に対して幅方向に移動させ難くすることができる。特に本実施例では、前後方向に関して、箱棒30の係合凹部32の形成範囲と箱棒30の収容凹溝部37の形成範囲とが互いに重なり合う重なり部25を有する(
図2を参照)。これによって、箱棒30が箱体40に対してがたつくこと(特に、幅方向にがたつくこと)を効果的に防止又は抑制できる。また、箱棒30の係合凹部32に係合した箱体40の係合爪部45が、箱棒30の係合凹部32から抜け出して外れることを防止できる。
【0043】
補助凹溝部38は、箱棒本体部31の後端部(先端部)に、収容凹溝部37と一体的に凹設されている。また、補助凹溝部38は、収容凹溝部37の後端部から、幅方向の内側に向けて(言い換えると、蝶棒50に近付く方向に向けて)形成されており、また、箱棒本体部31の後端縁に開口している。また、補助凹溝部38には、箱棒30に箱体40が組み付けられたときに、箱体40の補助突条部47が収容される。
【0044】
箱側ヒレ部39は、箱棒本体部31の外側面に、箱棒本体部31の上下方向における中央部に連結している。箱側ヒレ部39は、箱棒本体部31から幅方向の外側に延出する平板状のヒレ本体部39aと、ヒレ本体部39aの前端部に設けられるノッチ部39bと、ヒレ本体部39aから前斜め方向及び後斜め方向に突出する2つの糸掛け部39cと、ヒレ本体部39aを表裏方向に貫通する3つの開口部39dとを有する。
【0045】
箱側ヒレ部39の開口部39dは、箱棒30と生地(ファスナー被着部材)6にミシンによる縫製加工を行うときに、ミシンのミシン針を挿通させるために設けられている。この縫製加工では、箱棒30を生地6に縫い付けるときに、ミシン針が、例えば
図1に仮想線の円で示す位置で上下方向に昇降することによって縫製部(ステッチ)8を形成するとともに、その縫製部8で箱棒30が生地6に固定される。このとき、箱側ヒレ部39に糸掛け部39cが設けられていることにより、箱棒30を生地6にしっかりと固定でき、また、生地6に固定された箱棒30の位置をずれ難くすることができる。
なお本発明において、箱側ヒレ部39の形状及び大きさ等は特に限定されるものではなく、必要に応じて変更可能である。
【0046】
開離嵌挿具20を形成する箱体40は、箱棒30の下端部に取り付けられて固定されている。本実施例の箱体40は、略直方体の形状を有する箱体本体部41と、箱体本体部41の前面に開口するとともに内部空間が後方に向けて延びる箱棒収容部42及び蝶棒収容部43とを有する。箱棒収容部42には、箱棒30が挿入されて収容される。蝶棒収容部43には、蝶棒50が抜出可能に挿入される。
【0047】
箱体40の箱体本体部41は、互いに上下方向の反対側に配される上壁部(第1壁部)41a及び下壁部(第2壁部)41bと、上壁部41aの側縁部及び下壁部41bの側縁部間を連結する左右の側壁部41cと、上壁部41aの後端部及び下壁部41bの後端部間を連結する後壁部41dとを有する。
【0048】
箱体本体部41は、箱棒収容部42及び蝶棒収容部43間の位置において上壁部41a及び下壁部41b間を連結する仕切り部44と、仕切り部44から箱棒収容部42に向けて延びるとともに少なくとも一部が弾性変形可能な係合爪部45と、下壁部41bから箱棒収容部42に突出する突条部46及び補助突条部47とを有する。
【0049】
また、箱体本体部41は、箱体本体部41の左右の側壁部41cに設けられて箱側ヒレ部39又は蝶棒50の後述する蝶棒側ヒレ部59を挿通させる左右のスリット部41eと、後壁部41dに開口するとともに内部空間が前方に延びる連通孔部48とを有する。この場合、右側のスリット部41eは、箱体40の箱棒収容部42に連通し、左側のスリット部41eは、箱体40の蝶棒収容部43に連通している。連通孔部48は、箱棒収容部42と蝶棒収容部43の両方に連通している。
【0050】
箱体本体部41の上壁部41a及び下壁部41bは、上下方向に対し直交して(又は略直交して)配されている。上壁部41aは、箱棒30の少なくとも下端部の上面と、蝶棒収容部43に挿入された蝶棒50の少なくとも下端部の上面とを覆う。下壁部41bは、箱棒30の少なくとも下端部の下面と、蝶棒50の少なくとも下端部の下面とを覆う。
【0051】
箱体本体部41の上壁部41aは、例えば
図5に示すように、箱棒収容部42の内壁面及び蝶棒収容部43の内壁面を形成する左右の厚肉上壁部41fと、厚肉上壁部41fよりも幅方向の内側に形成されるとともに厚肉上壁部41fより薄く形成された薄肉上壁部41gとを有する。箱体本体部41の下壁部41bも、上壁部41aと同様に、左右の厚肉下壁部41hと、厚肉下壁部41hよりも幅方向の内側に形成されるとともに厚肉下壁部41hより薄く形成された薄肉下壁部41iとを有する。
【0052】
このように箱体40の幅方向の中央部分に、厚さが薄い薄肉上壁部41g及び薄肉下壁部41iが配されていることにより、係合爪部45は、上下方向に適切な高さ寸法(上下方向における寸法)を確保できるため、係合爪部45を箱棒30の係合凹部32に安定して係合させることができる。また、箱体本体部41の上壁部41a(薄肉上壁部41g)と係合爪部45の間に、且つ箱体本体部41の下壁部41b(薄肉下壁部41i)と係合爪部45の間に、空間を設けることができる。このため、係合爪部45を、上壁部41a及び下壁部41bと干渉させることなく、後述するように適切に弾性変形させることができる。
【0053】
箱体40の仕切り部44は、例えば
図3に示すように、箱体本体部41の前面から少し後方の位置に配されている。仕切り部44は、上下方向に直交する断面が略四角形を示すように上下方向に沿った柱状に形成されており、上壁部41a(薄肉上壁部41g)と下壁部41b(薄肉下壁部41i)とに連結している。
【0054】
箱体40の係合爪部45は、仕切り部44の下端部から箱棒収容部42に突出するように右斜め後方に延びている。また、係合爪部45は、箱体40の上壁部41a及び下壁部41bからそれぞれ離れて配されている。
【0055】
本実施例の係合爪部45は、係合爪部45の上下方向における中央の位置において上下方向に直交する断面(
図3)を見たときに、仕切り部44の箱棒30に対向する右側面から屈曲部を介して右斜め後方に向けて延びる第1爪側面(爪右側面)45aと、仕切り部44の蝶棒50に対向する左側面から屈曲部を介して右斜め後方に向けて延びる第2爪側面(爪左側面)45bと、第1爪側面45aの後端部及び第2爪側面45bの後端部間に後方に向くように配される爪後端面45cとを有する。また、第1爪側面45aと爪後端面45cとの間には、鋭角に形成される先端縁(後端縁)45dが配されている。
【0056】
係合爪部45の第1爪側面45aは、前記断面(
図3)において、仕切り部44から右斜め下向きにまっすぐに延びており、また、箱体40の箱棒収容部42内に進出している。このような係合爪部45の第1爪側面45aは、箱棒30が箱体40の前方から箱棒収容部42に挿入されて押し込まれたときに、箱棒本体部31の先端部(下端部)に接触し、更に箱棒本体部31から押圧力を受ける。これにより、係合爪部45は、係合爪部45の先端縁45dが蝶棒収容部43に近付くように弾性変形して、箱棒本体部31の対向側面(内側面)31aに接触する。
【0057】
その後、箱棒30は、係合爪部45の先端縁45dを箱棒本体部31の対向側面31aに接触させながら後方に押し込まれることにより、箱棒30の係合凹部32が係合爪部45の先端縁45dの位置に到達する。これにより、箱棒30による係合爪部45の押圧が解除されて、係合爪部45が元の形状に弾性復帰するため、係合爪部45は、箱棒30の係合凹部32内に挿入されて係合凹部32と係合できる。
【0058】
係合爪部45の第2爪側面45bは、
図3の断面において、係合爪部45における前後方向の中央部又はその近傍部分が係合爪部45の内側に凹むように湾曲した又は折れ曲がった形状に形成されている。このように第2爪側面45bが形成されていることにより、係合爪部45が箱棒本体部31によって押圧されたときに、係合爪部45を弾性変形し易くすることができる。
【0059】
係合爪部45の爪後端面45cは、係合爪部45が箱棒30の係合凹部32と係合したときに、係合凹部32の係合面32aに接触する。これにより、例えば箱棒30に取り付けられた箱体40が後方に引っ張られた場合等において、箱体40が箱棒30に対して後方に移動することを規制できるため、箱体40を箱棒30から外れ難くすることができる。
【0060】
本実施例の係合爪部45は、上下方向に関して、例えば
図4及び
図5に示すように、上下方向の中央部分に配される爪本体部45eと、爪本体部45eから箱体40の上壁部41aに向けて延びる爪上端部(第1爪端部)45fと、爪本体部45eから箱体40の下壁部41bに向けて延びる爪下端部(第2爪端部)45gとを有する。
【0061】
この係合爪部45の爪上端部45fには、係合爪部45の左右方向における寸法を箱体40の上壁部41aに向けて漸減させる面取り部45hが設けられている。また、係合爪部45の爪下端部45gにも、係合爪部45の左右方向における寸法を箱体40の下壁部41bに向けて漸減させる面取り部45hが設けられている。
【0062】
この場合、爪上端部45f及び爪下端部45gに設けられる面取り部45hは、係合爪部45の蝶棒収容部43に向く第2爪側面(爪左側面)45bに配されている。また、面取り部45hは、係合爪部45の仕切り部44に接続する基端部から、箱棒30の係合凹部32に接触する係合爪部45の先端までの係合爪部45の全体に亘って連続的に形成されている。
【0063】
本実施例の係合爪部45に上述のような面取り部45hが設けられていることにより、係合爪部45が上述したように箱棒本体部31によって押圧されて弾性変形するときに、係合爪部45の爪上端部45f及び爪下端部45gに加えられる応力を低減できる。このため、係合爪部45を弾性変形し易くすることができ、また、係合爪部45の弾性変形時に係合爪部45が折れる等の破損を生じさせ難くすることができる。
【0064】
箱体40の突条部46及び補助突条部47は、箱体40の下壁部41b(特に、厚肉下壁部41h)に上側に突出するように設けられている。この場合、厚肉下壁部41hからの突条部46の高さ寸法(上下方向の寸法)と、厚肉下壁部41hからの補助突条部47の高さ寸法(上下方向の寸法)とは、互いに同じ大きさである。
【0065】
突条部46は、前後方向に沿って直線状に形成されている。この突条部46は、箱棒30の収容凹溝部37に挿入されて収容される。
例えば従来では、生地に縫着されたエレメント部材の箱棒を箱体の箱棒収容部に弾性爪部を変形させながら挿入するときに、前述したように、弾性爪部が折れて破損することがあった。その破損の原因について調査したところ、従来では、箱棒を箱体の箱棒収容部に挿入するときに、エレメント部材が縫い付けられている生地等の影響によって、箱棒が前後方向に対して斜めに傾くことや箱棒の挿入姿勢が捩れること等があり、その結果、箱棒で係合爪部を弾性変形させるときに、係合爪部を必要以上に大きく弾性変形させることや、係合爪部に不適切な力(無理な力)が加えられることがあった。
【0066】
これに対し、本実施例では、箱棒30を箱体40の箱棒収容部42に挿入して押し込むときに、箱棒30に設けた収容凹溝部37に、箱体40の突条部46を挿入することによって、箱棒30の挿入を箱体40の突条部46で案内でき、それによって、箱棒30を箱体40に対して前後方向に沿ってまっすぐに挿入し易くすることができる。特に本実施例の場合、上述したように、箱棒30に、係合凹部32の形成範囲と箱棒30の収容凹溝部37の形成範囲が互いに重なり合う重なり部25が設けられていることにより、箱棒30が箱体40の係合爪部45に接触する前に、箱棒30の収容凹溝部37に箱体40の突条部46を挿入して、突条部46による箱棒30の案内を開始できる。
【0067】
これにより、本実施例では、箱棒30を、箱棒30で係合爪部45を弾性変形させながら収容凹溝部37内に押し込むときに、箱棒30が前後方向に対して斜めに傾き難くすること、また、箱棒30の挿入姿勢を捩れ難くすることができるため、係合爪部45が必要以上に大きく弾性変形すること及び箱棒30から係合爪部45に不適切な力が加えられることを防止又は抑制して、係合爪部45の破損等の不具合を生じさせ難くすることができる。
【0068】
本実施例の補助突条部47は、突条部46と一体的に形成されており、また、突条部46から幅方向の内側に向けて(言い換えると、突条部46から蝶棒収容部43に接近する方向に向けて)延びている。補助突条部47は、
図3の断面において、三角形(特に、直角三角形)に形成されており、補助突条部47の幅寸法(左右方向の寸法)は、後方に向けて漸減している。なお本発明において、箱体40の突条部46及び補助突条部47は、箱体40の上壁部41aに下側に突出するように設けられていてもよい。この場合、箱棒30の収容凹溝部37及び補助凹溝部38も、箱棒本体部31の上面に凹設される。
【0069】
開離嵌挿具20を形成する蝶棒50は、第2エレメント部材10bの固定部材11に熱可塑性樹脂を射出成形することにより、固定部材11に固定されている。蝶棒50は、前後方向に長い形状を備える蝶棒本体部51と、蝶棒本体部51の前端部から幅方向の内側に向けて突出するエレメント係合部52と、蝶棒本体部51から左右方向の外側に向けて延びる蝶棒側ヒレ部59とを有する。
【0070】
蝶棒本体部51は、略直方体状の形状を有しており、また、箱棒本体部31よりも前後方向に長く形成されている。また、蝶棒本体部51は、固定部材11を内側に包み込んで形成されている。本実施例の蝶棒本体部51は、上下方向に向く上面及び下面と、幅方向の内側に向いて蝶棒50に対向する対向側面部と、幅方向の外側に向くとともに蝶棒側ヒレ部59が接続する外側面とを有する。
【0071】
蝶棒本体部51は、
図1及び
図2に示すように、箱棒本体部31の対向側面部に設けられる内側段差部53と、箱棒本体部31の下半部から幅方向の内側に突出する蝶棒側突片部54とを有する。蝶棒本体部51の内側段差部53は、箱棒本体部31の対向側面部に前後方向に沿って形成される第1段差部53aと、第1段差部53aの下側に配される第2段差部53bとを有する。蝶棒側突片部54は、例えば蝶棒50の底面視(
図2)において、略台形の形状を有しており、また、エレメント係合部52よりも後方に配されている。
【0072】
本実施例において、例えば蝶棒50が箱体40の蝶棒収容部43に挿入されて保持されたときに(
図1を参照)、蝶棒本体部51の第1段差部53aに箱棒30の第1箱側突片部33が接触し、蝶棒本体部51の第2段差部53bに箱棒30の第2箱側突片部34が接触する。また、蝶棒本体部51の蝶棒側突片部54は、箱棒30における第3箱側突片部35と第4箱側突片部36の間に挿入される(
図2を参照)。
【0073】
本実施例の蝶棒50において、エレメント係合部52の上側半部と下側半部とは、互いに上下方向に非対称的な形状を有する。エレメント係合部52の上側半部は、第1エレメント部材10a側の箱棒30に隣接するファスナーエレメント12と、箱棒30に設けた第1箱側突片部33とに係合する形状を有する。
【0074】
蝶棒側ヒレ部59は、蝶棒本体部51の外側面に、蝶棒本体部51の上下方向における中央部に連結している。蝶棒側ヒレ部59は、箱側ヒレ部39に対して、左右方向に対称的な形状を有する。このため、蝶棒側ヒレ部59について簡単にすると、蝶棒側ヒレ部59は、蝶棒本体部51から幅方向の外側に延出する平板状のヒレ本体部59aと、ヒレ本体部59aの前端部に設けられるノッチ部59bと、ヒレ本体部59aから前斜め方向及び後斜め方向に突出する2つの糸掛け部59cと、ヒレ本体部59aを表裏方向に貫通する3つの開口部59dとを有する。
なお本発明において、蝶棒50の形状等は特に限定されるものではなく、必要に応じて変更可能である。
【0075】
本実施例のスライダー60は、特許文献1に記載されているスライダーと実質的に同様に形成されている。本実施例のスライダー60について簡単に説明すると、本実施例のスライダー60は、スライダー胴体61と、スライダー胴体61に保持される引手(不図示)とを有する。スライダー胴体61は、上翼板(不図示)及び下翼板62と、上翼板の前端部及び下翼板62の前端部間を連結する連結柱63と、上翼板の左右側縁部から下方に延出する左右の上フランジ部(不図示)と、下翼板62の左右側縁部から上方に延出する左右の下フランジ部64と、上翼板の上面に立設される引手取付部(不図示)と有する。
【0076】
スライダー胴体61の前端部には、連結柱63の左右両側に配される左右の肩口が設けられている。スライダー胴体61の後端部には、後口が設けられている。スライダー胴体61の上翼板と下翼板62の間には、左右の肩口と後口とを連通する略Y字状のエレメント案内路が形成されている。スライダー胴体61における左右の上フランジ部と左右の下フランジ部64との間には、生地6を挿通させるための挿通間隙が形成されている。
【0077】
上述した本実施例の箱棒30を備えた第1エレメント部材10aと、蝶棒50を備えた第2エレメント部材10bとは、縫製加工によって衣服1の前身頃を形成する生地6に取り付けられる。次に、生地6に取り付けられた第1エレメント部材10aのエレメント列7にスライダー60を取り付けるとともに、第1エレメント部材10a側の箱棒30に箱体40が組み付けられることによって、開離嵌挿具20を備えたスライドファスナー2が形成される。
【0078】
ここで、本実施例のスライドファスナー付き衣服1を製造する方法について、具体的に説明する。
先ず、第1エレメント部材10a及び第2エレメント部材10bを作製する。第1エレメント部材10aは、1本の紐状の固定部材11に、上述した複数のファスナーエレメント12と箱棒30とを射出成形することによって作製される。第2エレメント部材10bは、1本の紐状の固定部材11に、上述した複数のファスナーエレメント12と蝶棒50とを射出成形することによって作製される。また、第1エレメント部材10a及び第2エレメント部材10bとは別に、箱体40を射出成形によって作製する。
【0079】
続いて、第1エレメント部材10a及び第2エレメント部材10bを、衣服1を形成する生地6の側縁部にそれぞれ縫着する縫製工程を行う。
この縫製工程では、千鳥縫いミシンを用いて、上糸(針糸)及び下糸(ボビン糸)によって生地6の表面及び裏面に縫製部8を形成しながら、その縫製部8で第1エレメント部材10a又は第2エレメント部材10bを生地6に固定する。なお本発明において、ミシンの構造やミシンによる縫製方法等は特に限定されない。
【0080】
上述の縫製加工によって第1エレメント部材10a及び第2エレメント部材10bを生地6にそれぞれ縫い付けた後、第1エレメント部材10aのエレメント列7にスライダー60を取り付けるスライダー取付工程を行う。
【0081】
続いて、スライダー60が取り付けられた第1エレメント部材10a側の箱棒30に箱体40を取り付ける箱体取付工程を行う。この箱体取付工程では、先ず、第1エレメント部材10a側の箱棒30に、箱体40を箱棒30の後方側から近づけて、箱棒30の先端部(後端部)を、例えば
図6に示すように、箱体40の箱棒収容部42に箱体40の前方側から挿入する。これにより、箱棒30が箱体40の箱棒収容部42に挿入されるとともに、箱棒30の先端部が箱体40の係合爪部45に接触する。
【0082】
更に、箱棒30が箱体40の係合爪部45に接触した後、箱棒30を箱体40の箱棒収容部42に押し込むことによって、箱棒30が箱体40の係合爪部45を押圧して弾性変形させる。これにより、係合爪部45によって狭められていた箱棒収容部42の内部空間が開放されるため、箱棒30を箱棒収容部42の後方(奥側)に円滑に移動させるできる。
【0083】
また、係合爪部45は、後方に移動する箱棒本体部31に対し、弾性変形した状態で箱棒本体部31の対向側面(内側面)31aに接触しながら係合凹部32に近付く。その後、箱棒30の係合凹部32が係合爪部45の先端縁45dの位置に到達することにより、係合爪部45が元の形状に弾性復帰して箱棒30の係合凹部32と係合できる。
【0084】
また本実施例では、第1エレメント部材10a側の箱棒30を箱体40の箱棒収容部42に挿入したときに、例えば箱棒30が箱体40の係合爪部45に接触する前に、箱棒本体部31の下面に設けた収容凹溝部37に箱体40の突条部46を挿入して収容できる。これにより、上述したように、箱体40に押し込まれる箱棒30を、箱体40の突条部46で案内できるため、箱棒30を箱棒本体部31の収容凹溝部37に前後方向に沿ってまっすぐに挿入し易くすることができる。
【0085】
その結果、箱体40に対して箱棒30の挿入向きが傾くことや箱棒30の挿入姿勢が捩れること等を抑制し、箱棒30を箱体40の箱棒収容部42に円滑に安定して挿入できる。またそれによって、箱棒30で箱体40の係合爪部45を適切に弾性変形させることができるため、箱体40の係合爪部45と箱棒30の係合凹部32とを安定して係合させることができる。更に、係合爪部45が折れて破損する等の不具合を生じさせ難くすることができる。
【0086】
そして、上述のように箱棒30が箱体40の箱棒収容部42に押し込まれて、箱体40の係合爪部45と係合凹部32とが係合することにより、箱体40を箱棒30に組み付けて固定できる。これにより、箱棒30は、箱体40に対して、箱体40の箱棒収容部42から抜出する方向に移動することが規制される。
【0087】
更に、スライダー60が箱体40に接触する位置に保持されている状態で、第2エレメント部材10b側の蝶棒50を、スライダー60の左側の肩口から、箱体40の蝶棒収容部43内に挿入することによって、
図1に示したような蝶棒50、箱棒30、及び箱体40を備える本実施例の開離嵌挿具20が形成される。
【0088】
以上のような工程が行われることにより、第1エレメント部材10aと第2エレメント部材10bとがそれぞれ取着された一対の前身頃を形成する生地パーツが作製される。その後、作製した各部位の生地パーツを互いに縫製等により結合させることによって、衣服1を組み立てる。これによって、開離嵌挿具20を備えるスライドファスナー2が形成された衣服1が製造される。
【0089】
このようにして製造された本実施例のスライドファスナー付き衣服1は、ファスナーテープが使用されていなくても、スライドファスナー2の機能を有することができる。これにより、スライドファスナー付き衣服1について、製造コストの削減、衣服1の軽量化、衣服1の柔軟性の向上を実現できる。
【0090】
また、スライドファスナー2の後端部に開離嵌挿具20が設けられているため、例えばスライドファスナー2を開いたときに、第1エレメント部材10aの蝶棒50を箱体40から引き抜くことによって、第1エレメント部材10aと第2エレメント部材10bとを容易に引き離すことができる。また、引き離されている第1エレメント部材10aと第2エレメント部材10bとを再び噛み合わせて、スライドファスナー2を容易に閉鎖することができる。
【0091】
更に、本実施例の開離嵌挿具20では、箱棒30の収容凹溝部37に箱体40の突条部46が挿入された状態で箱体40が箱棒30に組み付けられている。特に本実施例では、箱棒30の係合凹部32の形成範囲と箱棒30の収容凹溝部37の形成範囲とが前後方向で互いに重なり合う重なり部25が設けられている(
図2を参照)。これにより、箱体40の箱棒収容部42内で箱棒30の向きが傾くことや箱棒30の姿勢が捩れることを防止できるため、スライドファスナー2の使用時に、箱体40の係合爪部45が箱棒30の係合凹部32に係合している状態を安定して維持し、係合爪部45が係合凹部32から抜け出ることを防止できる。また、係合爪部45が折れて破損する等の不具合を発生させ難くすることができる。
【0092】
また、本実施例のスライドファスナー付き衣服1において、例えば第1エレメント部材10a側の箱棒30が、箱体40から離れる前方に引っ張られる場合等では、箱棒30と箱体40に縦引き力が加えられるため、箱体40の箱棒収容部42が上下方向に開き易くなる場合がある。しかし、本実施例の開離嵌挿具20では、箱体40の係合爪部45が仕切り部44に設けられているとともに、箱棒30の係合凹部32に対して幅方向から係合している。これにより、箱体40の箱棒収容部42が上下方向に開くことに起因して箱体40の係合爪部45と箱棒30の係合凹部32との係合が外れることを生じ難くすることができるため、開離嵌挿具20の縦引き力に対する強度を向上させることができる。
【0093】
なお、上述した実施例では、紐状の固定部材11に複数のファスナーエレメント12が固定された第1エレメント部材10aに箱棒30及び箱体40を設けるとともに、紐状の固定部材11に複数のファスナーエレメント12が固定された第2エレメント部材10bに蝶棒50を設けることによって、上述したように、ファスナーテープを使用することなく、開離嵌挿具20を備えたスライドファスナー2が形成されている。
【0094】
しかし本発明では、例えば
図8に本発明の変形例に係るスライドファスナー3を示すように、帯状のファスナーテープ71に複数のファスナーエレメント12が固定された第1ファスナーストリンガー70aに箱棒30a及び箱体40aを設けるとともに、帯状のファスナーテープ71に複数のファスナーエレメント12が固定された第2ファスナーストリンガー70bに蝶棒50aを設けることによって、開離嵌挿具20aを備えたスライドファスナー3が形成されていてもよい。
【0095】
ここで、変形例に係るスライドファスナー3について、
図8を参照しながら簡単に説明する。
変形例に係るスライドファスナー3は、ファスナーテープ71のテープ側縁部に複数の合成樹脂製のファスナーエレメント12が取り付けられた左右一対の第1ファスナーストリンガー70a及び第2ファスナーストリンガー70bと、第1ファスナーストリンガー70a及び第2ファスナーストリンガー70bのエレメント列7に摺動可能に取り付けられたスライダー(不図示)と、左右のエレメント列7の下端部に隣接して配される開離嵌挿具20aとを有する。また、開離嵌挿具20aは、箱棒30aと、箱体40aと、蝶棒50aとを有する。
この変形例において、ファスナーエレメント12及びスライダーは、上述した実施例のファスナーエレメント12及びスライダー60と実質的に同様に形成されている。
【0096】
左右の各ファスナーテープ71は、帯状に織成又は編成されて形成されている。ファスナーテープ71は、テープ主体部と、ファスナーストリンガーが取り付けられるテープ側縁部(エレメント取付部とも言う)とを有する。左右のファスナーテープ71の互いに対向するテープ側端縁には芯紐部72が設けられている。エレメント列7は、ファスナーテープ71の芯紐部72を含むテープ側縁部に、複数のファスナーエレメント12がテープ長さ方向に一定の間隔で射出成形されることによって形成されている。
【0097】
変形例の箱棒30aは、上述した実施例の箱棒30から箱側ヒレ部39が除去された形状を有する。なお、変形例の箱棒30aは、箱側ヒレ部39が除去されたこと以外は、実施例の箱棒30と実質的に同様に形成されている。変形例の箱体40aは、上述した実施例の箱体40と実質的に同様に形成されている。変形例の蝶棒50aは、上述した実施例の蝶棒50から蝶棒側ヒレ部59が除去された形状を有する。なお、変形例の蝶棒50aは、蝶棒側ヒレ部59が除去されたこと以外は、実施例の蝶棒50と実質的に同様に形成されている。
【0098】
このような変形例に係る開離嵌挿具20aを備えたスライドファスナー3であっても、上述した実施例の開離嵌挿具20を備えたスライドファスナー2付きの衣服1と同様に、開離嵌挿具20aの機能を安定して発揮させることができる。また、箱体40aの箱棒収容部42に箱棒30aを挿入するときに、及びスライドファスナー3が使用されるときに、係合爪部45が折れて破損する等の不具合を生じさせ難くすることができる。更に、開離嵌挿具20aの縦引き力に対する強度を向上させることができる。
【0099】
なお、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明と実質的に同一な構成を有し、かつ、同様な作用効果を奏しさえすれば、多様な変更が可能である。
例えば上述した実施例のスライドファスナー2において、ファスナーエレメント12は、固定部材11に熱可塑性樹脂を射出成形することにより形成されており、各ファスナーエレメント12は、それぞれ、前後方向に隣接するファスナーエレメント12から独立した形状を有する。しかし本発明において、ファスナーエレメントの形状及び材質等は特に限定されるものではなく、エレメント列を形成するファスナーエレメントは、例えば合成樹脂製のモノフィラメントを成形することによって得られるコイル状に連続した形状に形成されていてもよい。