(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094870
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】カシメ部材の接合方法
(51)【国際特許分類】
B21D 39/00 20060101AFI20240703BHJP
【FI】
B21D39/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211741
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水谷 巧
(72)【発明者】
【氏名】岡田 徹
(72)【発明者】
【氏名】富士本 博紀
(72)【発明者】
【氏名】川合 蒼紫
(57)【要約】
【課題】通電カシメによりカシメ部材と接合対象物とを接合するための接合方法において、カシメ部に割れが発生することを抑制することができる接合方法を提供する。
【解決手段】カシメ部材と接合対象物とを接合するための接合方法に関する。接合方法は、カシメ部材を電極で挟んで、カシメ部材に電流を流し、ジュール熱によりカシメ部を予熱する予熱工程と、電極による加圧力により、予熱工程で予熱されたカシメ部を変形させる本工程と、を備える。そして、予熱工程では、電流値と加圧力のうち少なくとも一方が本工程よりも小さい。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カシメ部を有するカシメ部材と接合対象物とを接合するための接合方法であって、
前記接合方法は、
前記カシメ部材を電極で挟んで、前記カシメ部材に電流を流し、ジュール熱により前記カシメ部を予熱する予熱工程と、
前記電極による加圧力により、予熱工程で予熱された前記カシメ部を変形させる本工程と、
を備え、
予熱工程では、電流値と加圧力のうち少なくとも一方が本工程よりも小さい、
カシメ部材の接合方法。
【請求項2】
予熱工程の電流値は、本工程の電流値よりも小さい、
請求項1に記載のカシメ部材の接合方法。
【請求項3】
予熱工程の電流値は、本工程の電流値よりも小さく、
加圧力は、予熱工程から本工程までに亘って一定である、
請求項1に記載のカシメ部材の接合方法。
【請求項4】
予熱工程の時間は、本工程の時間よりも長い、
請求項1に記載のカシメ部材の接合方法。
【請求項5】
予熱工程の電流値は、本工程の電流値よりも小さく、
予熱工程の時間は、本工程の時間よりも長く、
加圧力は、予熱工程から本工程に亘って一定である、
請求項1に記載のカシメ部材の接合方法。
【請求項6】
予熱工程及び本工程の加圧力P(N)が、前記カシメ部の断面積S(mm2)に対して、P>0.08Sの関係を満たす、
請求項1に記載のカシメ部材の接合方法。
【請求項7】
前記カシメ部は、筒状である、
請求項1に記載のカシメ部材の接合方法。
【請求項8】
前記カシメ部は、筒状であり、
予熱工程の電流値(kA)及び時間t1(sec)は、
予熱工程中に前記カシメ部が大変形せず、かつ、
前記カシメ部の内径d(mm)に対して0.2d<t1の関係を満たすように設定される、
請求項1に記載のカシメ部材の接合方法。
【請求項9】
前記カシメ部は、筒状であり、
前記カシメ部材は、鋼製であり、
予熱工程の電流値(kA)及び時間t1(sec)は、
予熱工程終了時のカシメ部の最高温度が1000℃以下となり、かつ、
カシメ部の内径d(mm)に対して0.2d<t1の関係を満たすように設定される、
請求項1に記載のカシメ部材の接合方法。
【請求項10】
前記カシメ部材は、牽引フックのボルト部を捩じ込むための締結部材であり、
前記接合対象物は、自動車の骨格部材である、
請求項1に記載のカシメ部材の接合方法。
【請求項11】
前記カシメ部材は、牽引フックのボルト部を捩じ込むための締結部材であり、
前記接合対象物は、自動車の骨格部材であり、
前記骨格部材は、第一板部と、前記第一板部と対向する第二板部と、を有し、
前記第一板部には第一孔が形成され、前記第二板部には第二孔が形成され、
前記締結部材は、
軸方向に延びるネジ穴が形成された本体部であって、当該本体部の軸方向一方側の端面に、軸方向一方側を向く第一端面が形成された前記本体部と、
当該締結部材の軸方向一方側の端部を構成する第一端部と、
当該締結部材の軸方向他方側の端部を構成する第二端部と、
前記本体部と前記第一端部とを連結する第一連結部と、
前記本体部と前記第二端部とを連結する第二連結部と、を備え、
接合後の状態では、
前記第一端部は、前記第一板部に対して軸方向一方側に配置されており、
前記第二端部は、前記第二板部に対して軸方向他方側に配置されており、
前記第一端面は、前記第一板部における前記第一孔の周縁部分に軸方向他方側から接触しており、
前記第一端部及び前記第一連結部は、カシメられた変形部になっており、
前記本体部及び前記変形部は、前記第一板部における前記第一孔の周縁部分を軸方向両側から挟み込んだ状態になっている、
請求項1に記載のカシメ部材の接合方法。
【請求項12】
前記第二端部及び前記第二連結部は、本工程によっても変形しないように構成される、
請求項11に記載のカシメ部材の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、カシメ部材の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、所謂、通電カシメによる接合方法が開示されている。
通電カシメとは、カシメ部を有する部材(カシメ部材)を電極で挟んで通電することで、当該カシメ部を発熱させて軟化させると共に、電極による加圧力により当該カシメ部を局所的に変形させ、これにより当該カシメ部材と他の部材(接合対象物)とを接合する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、通電カシメによる接合方法では、変形後のカシメ部において割れが発生する可能性があること、及び、この割れはカシメ部材の径が大きい場合(例えば牽引ナット)に顕在化することに気が付いた。
【0005】
本開示の目的の1つは、通電カシメによりカシメ部材と接合対象物とを接合するための接合方法において、カシメ部に割れが発生することを抑制することができる接合方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、カシメ部において割れが発生する原因について、次のように考えた。
カシメ部材を電極で挟んだ状態では、電極とカシメ部材との接触状態が不均一になることがあり、接触状態が不均一であるとカシメ部の温度上昇が不均一になる。そして、カシメ部の温度上昇が不均一であると、カシメ部に充分に温度上昇していない部分がある状態でカシメ部全体が変形してしまい、当該充分に温度上昇していない部分において割れが発生しやすい。
【0007】
そこで、本発明者らは、解決手段として、次のように考えた。
カシメ部を変形させる前に、カシメ部の温度を均一化することが重要である。そのためには、電流値を小さくすることで温度上昇を緩やかにして、カシメ部内の熱伝導の影響を大きくすればよい。
但し、単に電流値を小さくしたのでは、カシメ部を変形させる工程においてカシメ部の軟化が充分でなくなり、その結果、カシメ部が所望の形状に変形しない可能性が増してしまう。
そこで、カシメ部を予熱するための工程(予熱工程)は、カシメ部を変形させるための工程(本工程)とは電流値と加圧力の少なくとも一方が異なる工程として設けることが重要である。
【0008】
本開示の要旨は、以下のとおりである。
【0009】
<1>
カシメ部を有するカシメ部材と接合対象物とを接合するための接合方法であって、
前記接合方法は、
前記カシメ部材を電極で挟んで、前記カシメ部材に電流を流し、ジュール熱により前記カシメ部を予熱する予熱工程と、
前記電極による加圧力により、予熱工程で予熱された前記カシメ部を変形させる本工程と、
を備え、
予熱工程では、電流値と加圧力のうち少なくとも一方が本工程よりも小さい、
カシメ部材の接合方法。
(説明)
前述したとおり、カシメ部の温度が不均一な状態でカシメ部が変形すると、カシメ部のうち温度が充分に上がっていなかった部分で割れが起こりやすい。
そこで、本態様では、予熱工程を、電流値と加圧力のうち少なくとも一方が本工程よりも小さい工程とする。
予熱工程の電流値が本工程の電流値よりも小さい場合は、そうでない場合と比較して、予熱工程でのカシメ部の温度上昇が緩やかになり、その結果、本工程開始時のカシメ部の温度の不均一が抑制される。なぜなら、カシメ部の温度上昇が緩やかであると、カシメ部が充分な温度まで予熱される過程でカシメ部内での熱伝導によって温度分布が均一化されるからである。また、カシメ部材のうち電極が接触している部分が軟化して変形し、これにより電極とカシメ部材との接触状態の不均一が解消されるからである。
予熱工程の加圧力が本工程の加圧力よりも小さい場合は、そうでない場合と比較して、予熱工程でのカシメ部の変形が抑制される。そのため、予熱工程中にカシメ部の温度が不均一な状態が生じたとしても、その不均一な状態でのカシメ部の変形が抑制される。
よって、本態様によれば、カシメ部の温度が不均一な状態でカシメ部が変形することが抑制され、その結果、カシメ部の割れの発生を抑制することができる。
なお、カシメ部が変形するのは主に本工程においてであるが、予熱工程においてカシメ部が多少変形することは許容される。
【0010】
<2>
予熱工程の電流値は、本工程の電流値よりも小さい、
<1>に記載のカシメ部材の接合方法。
(説明)
本態様では、本工程で電流値が大きくなるので、本工程でカシメ部の軟化を加速させることができ、その結果、カシメ部を適切に変形させることができる。なお、予熱工程の電流値は、本工程の電流値の0.9倍以下が好ましい。
【0011】
<3>
予熱工程の電流値は、本工程の電流値よりも小さく、
加圧力は、予熱工程から本工程までに亘って一定である、
<1>~<2>の何れかに記載のカシメ部材の接合方法。
(説明)
本態様では、予熱工程から本工程への切り替えに際して加圧力を変化させる必要がなく、制御が容易である。
【0012】
<4>
予熱工程の時間は、本工程の時間よりも長い、
<1>~<3>の何れかに記載のカシメ部材の接合方法。
(説明)
本態様では、予熱工程の時間を確保できて予熱工程終了時でのカシメ部の温度の不均一を適切に解消できると共に、本工程の時間を短くしてカシメ工程の全体時間を適切な時間に収めることができる。
【0013】
<5>
予熱工程の電流値は、本工程の電流値よりも小さく、
予熱工程の時間は、本工程の時間よりも長く、
加圧力は、予熱工程から本工程に亘って一定である、
<1>~<4>の何れかに記載のカシメ部材の接合方法。
(説明)
本態様では、制御が容易であり、かつカシメ工程の全体時間を適切な時間に収めることができる。
【0014】
<6>
予熱工程及び本工程の加圧力P(N)が、前記カシメ部の断面積S(mm2)に対して、P>0.08Sの関係を満たす、
<1>~<5>の何れかに記載のカシメ部材の接合方法。
(説明)
本態様では、充分な加圧力を加えることができるので、カシメ部をより一層適切に変形させることができる。
【0015】
<7>
前記カシメ部は、筒状である、
<1>~<6>の何れかに記載のカシメ部材の接合方法。
(説明)
本態様では、カシメ部が筒状でない場合と比較して、カシメ部の断面積を小さくでき、その結果、カシメ部を局所的に変形させることが容易である。
【0016】
<8>
前記カシメ部は、筒状であり、
予熱工程の電流値(kA)及び時間t1(sec)は、
予熱工程中に前記カシメ部が大変形せず、かつ、
前記カシメ部の内径d(mm)に対して0.2d<t1の関係を満たすように設定される、
<1>~<7>の何れかに記載のカシメ部材の接合方法。
(説明)
本発明者らは、カシメ部が筒状でありその内径が大きいと、カシメ部の周方向の長さが長くなる分、カシメ部の温度の均一化に時間を要することに気が付いた。
そこで、本態様では、予熱工程の電流値(kA)及び時間t1(sec)は、予熱工程中にカシメ部が大変形せず、かつ、カシメ部の内径d(mm)に対して0.2d<t1の関係を満たすように設定される。なお、本開示において「大変形」とは、最終的なカシメ部の変形量を100%とした場合における10%以上の変形を意味する。
このため、予熱工程においてカシメ部が大きく変形してしまうことが防止されると共に、カシメ部の温度の均一化を実現しやすい。
なお、カシメ部の板厚は、1~4mmの範囲であることが好ましく、2~3mmであることが更に好ましい。
また、更にt1<0.3dの関係を満たすことが、接合時間の短縮化の観点から好ましい。
【0017】
<9>
前記カシメ部は、筒状であり、
前記カシメ部材は、鋼製であり、
予熱工程の電流値(kA)及び時間t1(sec)は、
予熱工程終了時のカシメ部の最高温度が1000℃以下となり、かつ、
カシメ部の内径d(mm)に対して0.2d<t1の関係を満たすように設定される、
<1>~<8>の何れかに記載のカシメ部材の接合方法。
(説明)
本態様では、カシメ部材が鋼製である場合において、<8>の態様と同様の作用効果を奏する。
【0018】
<10>
前記カシメ部材は、牽引フックのボルト部を捩じ込むための締結部材であり、
前記接合対象物は、自動車の骨格部材である、
<1>~<9>の何れかに記載のカシメ部材の接合方法。
(説明)
本態様では、カシメ部材は、牽引フックのボルト部を捩じ込むための締結部材(牽引ナット)であるので、カシメ部材の径が大きく、変形後のカシメ部における割れが顕在化しやすい。このため、本開示の接合方法が特に有効である。
【0019】
<11>
前記カシメ部材は、牽引フックのボルト部を捩じ込むための締結部材であり、
前記接合対象物は、自動車の骨格部材であり、
前記骨格部材は、第一板部と、前記第一板部と対向する第二板部と、を有し、
前記第一板部には第一孔が形成され、前記第二板部には第二孔が形成され、
前記締結部材は、
軸方向に延びるネジ穴が形成された本体部であって、当該本体部の軸方向一方側の端面に、軸方向一方側を向く第一端面が形成された前記本体部と、
当該締結部材の軸方向一方側の端部を構成する第一端部と、
当該締結部材の軸方向他方側の端部を構成する第二端部と、
前記本体部と前記第一端部とを連結する第一連結部と、
前記本体部と前記第二端部とを連結する第二連結部と、を備え、
接合後の状態では、
前記第一端部は、前記第一板部に対して軸方向一方側に配置されており、
前記第二端部は、前記第二板部に対して軸方向他方側に配置されており、
前記第一端面は、前記第一板部における前記第一孔の周縁部分に軸方向他方側から接触しており、
前記第一端部及び前記第一連結部は、カシメられた変形部になっており、
前記本体部及び前記変形部は、前記第一板部における前記第一孔の周縁部分を軸方向両側から挟み込んだ状態になっている、
<1>~<10>の何れかに記載のカシメ部材の接合方法。
(説明)
本態様では、第一板部と第二板部とを有する骨格部材に牽引ナットを良好に接合することができる。
【0020】
<12>
前記第二端部及び前記第二連結部は、本工程によっても変形しないように構成される、
<11>に記載のカシメ部材の接合方法。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図4】接合対象物に対してカシメ部材が配置された状態(カシメ準備状態)を示す断面図である。
【
図5】接合対象物に対してカシメ部材が接合された状態(接合継手)を示す断面図である。
【
図6】比較例1における電流値及び加圧力の時間変化を示す図である。
【
図7】比較例2における電流値及び加圧力の時間変化を示す図である。
【
図8】第1実施形態における電流値及び加圧力の時間変化を示す図である。
【
図9】第2実施形態における電流値及び加圧力の時間変化を示す図である。
【
図10】第3実施形態における電流値及び加圧力の時間変化を示す図である。
【
図11】第4実施形態における電流値及び加圧力の時間変化を示す図である。
【
図12】第5実施形態における電流値及び加圧力の時間変化を示す図である。
【
図13】カシメ部材の変形例を示す
図4に対応する断面図である。
【
図14】カシメ部材の変形例を示す
図5に対応する断面図である。
【
図15】(A)はカシメ部材の変形例を示す
図4に対応する断面図であり、(B)は
図5に対応する断面図である。
【
図16】(A)はカシメ部材の変形例を示す
図4に対応する断面図であり、(B)は
図5に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本開示に係るカシメ部材の接合方法の好適な実施形態について説明する。
【0023】
本実施形態に係る接合方法は、通電カシメによりカシメ部材10(
図1、
図2)と接合対象物20(
図3)とを接合するための接合方法である。
【0024】
<カシメ部材10>
まず、
図1、
図2等を用いて、カシメ部材10について説明する。
【0025】
カシメ部材10は、接合対象物20(
図3参照)に接合されて用いられるものであり、図示しない牽引フックのボルト部を捩じ込むための締結部材(牽引ナットともいう。)である。牽引フックとは、自動車を牽引するために用いられるフックである。
【0026】
カシメ部材10は、一般部11,12と、カシメ部13と、を備える。
一般部11,12は、接合工程において大きな変形をしない部分である。カシメ部13は、接合工程において大きな変形をする部分である。
一般部11,12は、軸部11と、フランジ部12と、を備える。
【0027】
軸部11は、円柱形状である。軸部11には、当該軸部11を貫通する円形の貫通孔11Aが形成される。そのため、軸部11は、円筒状であるともいえる。軸部11の貫通孔11Aは、ネジ穴(図示省略)である。
【0028】
フランジ部12は、軸部11の軸方向他方側に設けられる。フランジ部12は、軸部11と同軸上に形成された円柱形状である。フランジ部12の外径R2は、軸部11の外径R1よりも大きい。フランジ部12には、当該フランジ部12を貫通する円形の貫通孔12Aが形成される。そのため、フランジ部12は、円筒状であるともいえる。フランジ部12の貫通孔12Aは、軸部11の貫通孔11Aと同軸上に形成され、軸部11の貫通孔11Aと繋がっている。本実施形態においてフランジ部12の貫通孔12Aはネジ穴でないが、これに限定されない。フランジ部12の内径r2は、軸部11の内径r1(最大径、ネジ穴の谷径)よりも大きい。
【0029】
カシメ部13は、軸部11の軸方向一方側に設けられる。カシメ部13は、軸部11と同軸上に形成された円柱形状である。カシメ部13の外径R3は、軸部11の外径R1よりも小さい。カシメ部13には、当該カシメ部13を貫通する円形の貫通孔13Aが形成される。そのため、カシメ部13は、円筒状であるともいえる。カシメ部13の貫通孔13Aは、軸部11の貫通孔11Aと同軸上に形成され、軸部11の貫通孔11Aと繋がっている。このため、軸部11の貫通孔11A、フランジ部12の貫通孔12A及びカシメ部13の貫通孔13Aは、カシメ部材10を軸方向に貫通する貫通孔11A,12A,13Aを構成する。本実施形態においてカシメ部13の貫通孔13Aはネジ穴でないが、これに限定されない。本実施形態においてカシメ部13の内径r3は、軸部11の内径r1(最大径、ネジ穴の谷径)よりも大きいが、これに限定されない。カシメ部13の肉厚((R3-r3)/2)は、軸部11の肉厚((R1-r1)/2)よりも小さい。
【0030】
カシメ部材10は、全体が同じ材料で一体に形成される。カシメ部材10は、例えば鋼製である。
【0031】
軸部11の軸方向一方側の端面には、軸方向一方側を向く第一端面14が形成される。軸部11の第一端面14は、カシメ部材10を軸方向一方側から見た場合に、カシメ部13の周囲に形成される面であり、円環状に延びる面である。
【0032】
フランジ部12の軸方向一方側の端面には、軸方向一方側を向く第一端面15が形成される。フランジ部12の第一端面15は、カシメ部材10を軸方向一方側から見た場合に、軸部11の周囲に形成される面であり、円環状に延びる面である。
【0033】
<接合対象物20>
続いて、
図3を用いて、「接合対象物」としての接合対象物20について説明する。
【0034】
接合対象物20は、例えば、自動車の前端部又は後端部の位置を車幅方向に延びる骨格部材(バンパー補強部材)であるが、他の自動車部材(例えば、バッテリーボックスやサブフレーム)であってもよい。
【0035】
接合対象物20は、第一部材21と、第二部材22と、を備える。第一部材21は、ハット形状である。すなわち、第一部材21は、天板部21Aと、一対の縦板部21Bと、一対のフランジ部21Cと、を有する。第二部材22は、略平板形状である。第二部材22は、天板部21Aに対向する対向部22Aと、一対のフランジ部21Cに接合される一対の接合部22Bと、を有する。これにより、接合対象物20は、図の紙面に垂直な方向を長手方向として延びる閉断面構造になっている。図示した例では、第二部材22の板厚は、第一部材21の板厚よりも小さい。第一部材21及び第二部材22は、例えば鋼板である。第一部材21及び第二部材22の何れか一方又は両方は、1800MPa以上の高張力鋼板であってもよく、ホットスタンプ鋼板であってもよい。接合対象物20は、例えば、第一部材21及び第二部材22のうち第二部材22側(
図3の下側)を車両前後方向外側に向ける姿勢で配置される。
【0036】
第一部材21の天板部21Aには、第一孔23が形成される。第一孔23は、円形である。第一孔23の直径d1は、カシメ部13の外径R3よりも僅かに大きく、軸部11の外径R1よりも小さい。以下、第一部材21の天板部21Aを、第一板部21Aと呼ぶことがある。
第二部材22の対向部22Aには、第二孔24が形成される。第二孔24は、円形である。第二孔24の直径d2は、軸部11の外径R1よりも僅かに大きく、フランジ部12の外径R2よりも小さい。以下、第二部材22の対向部22Aを、第二板部22Aと呼ぶことがある。
【0037】
<接合方法(製造方法)>
続いて、
図4、
図5を用いて、カシメ部材10の接合方法、すなわち接合構造物30(締結部材付き自動車部材)の製造方法について説明する。
【0038】
カシメ部材10の接合方法は、概ね、次の手順を踏む。
第一工程:接合対象物20に対してカシメ部材10を所定の位置に配置した状態(カシメ準備状態、
図4参照)にする。
第二工程:カシメ準備状態でカシメ工程を実施し、接合構造物30を得る(
図5参照)。
【0039】
第一工程では、接合対象物20の第二孔24側から接合対象物20の内部にカシメ部材10をカシメ部13側を先頭にして挿入する。具体的には、接合対象物20の第二孔24に、カシメ部材10のカシメ部13及び軸部11を通し、更に、カシメ部13を第一孔23に通して、カシメ部13の先端部13aを第一板部21Aの第一面21A1から突出させる。また、カシメ部材10の軸部11の第一端面14を、天板部21Aの第二面21A2に接触させる。
【0040】
図4に示すカシメ準備状態を詳細に説明すると、次のとおりである。
カシメ部13の根元部13bは、第一孔23内に配置される。カシメ部13の根元部13b以外の部分(先端部13a)は、第一孔23から第一板部21Aの第一面21A1側に突出しており、第一板部21Aの第一面21A1側に位置する。
軸部11の第一端面14は、第一板部21Aの第二面21A2に接触している。軸部11の第一端面14が接触しているのは、第一板部21Aにおける第一孔23の周縁部分である。
軸部11の根元部11b(軸方向他方側の端部)は、第二孔24内に配置される。軸部11のうち根元部11bを除く大半の部分(一般部11a)は、接合対象物20の内部に位置する。換言すると、軸部11の一般部11aは、第一部材21と第二部材22との間に位置する。
フランジ部12は、接合対象物20の外部に位置する。換言すると、フランジ部12は、第二部材22の軸方向他方側に配置される。フランジ部12の第一端面15は、第二板部22Aの第二面22A2に接触又は近接している。フランジ部12の第一端面15が接触又は近接しているのは、第二板部22Aにおける第二孔24の周縁部分である。
【0041】
以下、軸部11の一般部11aを本体部11aと呼び、カシメ部13の先端部13aを第一端部13aと呼び、カシメ部13の根元部13bを第一連結部13bと呼び、軸部11の根元部11bを第二連結部11bと呼び、フランジ部12を第二端部12と呼ぶことがある。
これらの呼び方でカシメ部材10の構造を説明し直すと、次のとおりとなる。
本体部11aは、第一端面14を有している。第一端部13aは、カシメ部材10の軸方向一方側の端部を構成する。第一連結部13bは、本体部11aと第一端部13aとを連結する。第二端部12は、カシメ部材10の軸方向他方側の端部を構成する。第二連結部11bは、本体部11aと第二端部12とを連結する。
【0042】
第二工程では、カシメ準備状態でカシメ工程を実施する。ここでいうカシメ工程とは、カシメ部材10が一対の電極40によって軸方向両側から挟まれて通電及び加圧がされる工程をいう。カシメ工程が実施されることで、カシメ部13が局所的に変形する。カシメ部13は、軸部11及びフランジ部12と比較して肉厚が薄い(断面積が小さい)ので、そもそもの耐力が小さく、また通電により局所的に加熱されて軟化するからである。ここで、カシメ部13の肉厚は(R3-r3)/2であり、軸部11の肉厚は(R1-r1)/2であり、フランジ部12の肉厚は(R2-r2)/2である。カシメ部13の肉厚は、好ましくは軸部11の肉厚の80%以下である。外径又は内径が軸方向に一様でない場合には、肉厚は平均値によって定義するものとする。例えば、カシメ部13の内径r3が一様でない場合は、(R3-r3ave)/2をカシメ部13の肉厚とみなし、その値が軸部11及びフランジ部12の肉厚よりも小さければ、適切にカシメることができる。以下、
図5に示す変形後のカシメ部13を変形部13と呼ぶことがある。
なお、電極の材質は、例えば、クロム銅やアルミナ分散銅、ベリリウム銅を用いることができるが、これらに限定はされず、抵抗溶接用の電極材質を広く用いることができる。電極の外径は、カシメ部13の外径以上であればよく、好ましくはフランジ部12の外径以上である。電極先端の形状は、フラット形状でもR型形状でもよい。後者の場合、電極先端の曲率半径が小さすぎると牽引ナットの半径方向に温度分布を生じやすくなるため、電極先端の曲率半径は100mm以上が好適である。
【0043】
図5は、接合構造物30が備える接合継手を示している。
【0044】
変形後のカシメ部13は、変形前のカシメ部13(
図4参照)を基準にすると、径方向外側へ広がると共に径方向内側へも広がるように変形している。
変形後のカシメ部13の外径R3aは、変形前のカシメ部13の外径R3よりも大きく、第一孔23の直径d1よりも大きい。これにより、第一板部21Aにおける第一孔23の周縁部分は、本体部11a及び変形後のカシメ部13によって挟み込まれた状態となっている。
【0045】
変形後のカシメ部13の内径r3aは、例えば、変形前のカシメ部13の内径r3よりも小さく、軸部11の内径r1(最大径)よりも大きい。
【0046】
<カシメ工程(接合工程)>
次に、第二工程であるカシメ工程について説明する。
まずは、本発明の範囲に属しない比較例1,2について説明する。
【0047】
(比較例1)
図6は、比較例1における電流値及び加圧力の時間変化を示す。
実線が電流値の時間変化を示し、点線が加圧力の時間変化を示す。
【0048】
比較例1に係るカシメ工程は、後述する実施形態と同様、予熱工程と本工程とを備える。
予熱工程は、カシメ部材10を電極40で挟んで、カシメ部材10に電流を流し、ジュール熱によりカシメ部13を予熱する工程である。
本工程は、電極40による加圧力により、予熱工程で予熱されたカシメ部13を変形させる工程である。
【0049】
カシメ部が変形するのは主に本工程であり、予熱工程ではカシメ部はほぼ変形しない。但し、予熱工程と本工程とは厳密に区分できるものではなく、また厳密に区分する必要もない。比較例1では、例えば、カシメ部の最終的な変形量に対して3%の変形が起こった時点を予熱工程の終了時として考えればよい。ここでいうカシメ部の変形量は、電極の変位量に置き換えて考えても同じである。なお、上述の「3%」は一例であり、0.1%として考えてもよいし、10%として考えてもよい。
【0050】
図6に示すように、比較例1では、加圧力は予熱工程から本工程に亘って一定であり、かつ、電流値も予熱工程から本工程に亘って一定である。
比較例1では、予熱工程の電流値が大きく、そのため、予熱工程の終了時点でカシメ部の温度に不均一が生じてしまう程にカシメ部の温度上昇が急である。このため、変形したカシメ部において割れが発生する可能性が高い。
【0051】
(比較例2)
図7は、比較例2における電流値及び加圧力の時間変化を示す。
【0052】
比較例2では、比較例1と同様、加圧力は予熱工程から本工程に亘って一定であり、かつ、電流値も予熱工程から本工程に亘って一定である。但し、比較例2では、比較例1よりも、電流値が小さくカシメ工程の時間が長い。
【0053】
比較例2では、予熱工程の電流値が小さいので、予熱工程でのカシメ部の温度上昇が緩やかになり、その結果、予熱工程の終了時点でのカシメ部の温度の不均一が抑制される。
しかし、本工程の電流値も小さいので、本工程においてカシメ部の軟化が充分でなくなり、その結果、カシメ部が所望の形状に変形しない可能性が高い。
【0054】
次に、本発明の実施形態(第1実施形態~第5実施形態)について説明する。
【0055】
(第1実施形態)
図8は、第1実施形態における電流値及び加圧力の時間変化を示す。
【0056】
第1実施形態では、加圧力は、予熱工程から本工程に亘って一定としつつ、電流値は、予熱工程では小さくし、本工程では大きくする。
【0057】
予熱工程の電流値は、予熱工程の終了時のカシメ部の温度を均一化する観点では、小さい方が好ましい。
そこで、例えば、予熱工程の電流値(kA)及び時間t1(sec)は、予熱工程中にカシメ部13が大変形せず、かつ、カシメ部13の内径d(mm)に対して0.2d<t1の関係を満たすように設定される。
この場合、予熱工程中にカシメ部13が大変形することを避けつつ、予熱工程終了時のカシメ部13の温度の不均一を適切に解消できる。予熱工程の時間t1がカシメ部13の内径dとの関係で規定される理由は、カシメ部13の内径dが大きいとカシメ部13内の熱伝導に時間を要するからである。「0.2」という係数は、本発明者らが計算及び実験により導き出した好ましい値である。
なお、カシメ部材10が鋼製の場合、予熱工程終了時のカシメ部13の最高温度が1000℃以下になるようにすることで、予熱工程中にカシメ部13が大変形することを避けられる。
しかし、予熱工程の電流値が小さいと、予熱工程の時間は長くなってカシメ工程全体の時間も長くなり、生産性の問題が生じる。そこで、予熱工程の時間t1(sec)は、カシメ部13の内径d(mm)に対して0.2d<t1<0.3dの関係を満たすように設定されることが好ましい。
【0058】
また、加圧力P(N)は、カシメ部13の断面積S(mm2)に対して、P>0.08Sの関係を満たすように設定されることが好ましい。この場合、カシメ部13の断面積に対して充分に大きい加圧力Pを電極40により加えることとなり、カシメ部13が適切に変形させることができる。
【0059】
以上のように、第1実施形態では、予熱工程の電流値が比較例1よりも小さいため、予熱工程終了時でのカシメ部の温度分布に不均一が生じにくい。なぜなら、予熱工程の電流値が小さいと、カシメ部の温度上昇が緩やかになり、予熱工程中にカシメ部内での熱伝導が進んで温度分布の不均一が解消されるからである。また、カシメ部材10のうち電極40が接触している部分が軟化して変形し、これにより電極40とカシメ部材10との接触状態の不均一が解消されるからである。
【0060】
また、第1実施形態では、予熱工程の電流値が本工程の電流値よりも小さい。
このため、本工程でカシメ部の軟化を加速させることができ、その結果、カシメ部を適切に変形させることができる。
【0061】
また、第1実施形態では、加圧力は、予熱工程から本工程までに亘って一定である。
このため、予熱工程から本工程への切り替えに際して加圧力を変化させる必要がなく、制御が容易である。
【0062】
また、第1実施形態では、予熱工程の時間は、本工程の時間よりも長い。
このため、予熱工程の時間を確保できて予熱工程終了時でのカシメ部の温度の不均一を適切に解消できると共に、本工程の時間を短くしてカシメ工程の全体時間を適切な時間に収めることができる。
【0063】
(第2実施形態)
図9は、第2実施形態における電流値及び加圧力の時間変化を示す。
【0064】
第2実施形態の予熱工程は、電流値が一定である第一予熱工程と、電流値が連続的に上昇する第二予熱工程と、を備える。加圧力は、予熱工程から本工程に亘って一定である。
【0065】
このような、第2実施形態によっても、カシメ部の割れの発生を抑制することができる。
【0066】
なお、カシメ部の変形量の推移によっては、上述した第一予熱工程のみが予熱工程であり、第二予熱工程は本工程の一部であると把握することも可能である。このように把握しても、予熱工程の電流値は、本工程の電流値よりも小さいからである。
【0067】
(第3実施形態)
図10は、第3実施形態における電流値及び加圧力の時間変化を示す。
【0068】
第3実施形態の予熱工程では、加圧力が本工程よりも小さい。他方、電流値は、予熱工程から本工程に亘って一定である。
【0069】
第3実施形態では、本工程の電流値は予熱工程の電流値よりも大きくないので、本工程においてカシメ部の軟化を加速させることができない。しかし、本工程の加圧力が予熱工程の加圧力よりも大きいので、カシメ部を適切に変形させることができる。
【0070】
なお、通常、加圧力を変化させるには一定程度の時間を要する。そのため、加圧力が上昇を始める時点と加圧力の上昇が完了した時点との間には一定程度の時差がある。図では、この点を表現している。
また、
図10では、加圧力が上昇を始める時点以降を本工程としているが、加圧力の上昇が完了した時点以降を本工程と把握することも可能である。
【0071】
(第4実施形態)
図11は、第4実施形態における電流値及び加圧力の時間変化を示す。
【0072】
第4実施形態の予熱工程では、電流値と加圧力の両方が本工程よりも小さい。このようなカシメ方法も、本発明の範囲に属する。
【0073】
なお、
図11では、加圧力が上昇を始める時点に遅れて電流値が上昇しているが、これに代えて、加圧力が上昇を始める時点と電流値が上昇する時点とを一致させてもよい。
また、
図11では、加圧力が上昇を始める時点以降を本工程としているが、電流値が上昇する時点以降を本工程と把握することもできる。
【0074】
(第5実施形態)
図12は、第5実施形態における電流値及び加圧力の時間変化を示す。
【0075】
第5実施形態の予熱工程では、加圧力が本工程よりも小さい。他方、電流値に関しては、本工程の電流値は、予熱工程の電流値よりも小さく、具体的にはゼロである。予熱工程によりカシメ部を充分に予熱できれば、本工程の電流値がゼロであっても、カシメ部を適切に変形させることができる。このようなカシメ方法も、本発明の範囲に属する。
【0076】
(その他の作用効果)
次に、本実施形態の作用効果について、主にカシメ部材10の構造の観点から説明する。
【0077】
本実施形態のカシメ部材10は、
図1、
図2等に示すように、軸方向に延びるネジ穴(貫通孔11A)が形成された本体部11aと、当該カシメ部材10の軸方向一方側の端部を構成する第一端部13aと、当該カシメ部材10の軸方向他方側の端部を構成する第二端部12と、本体部11aと第一端部13aとを連結する第一連結部13bと、本体部11aと第二端部12とを連結する第二連結部11bと、を備える。そして、本体部11aの軸方向一方側の端面には、軸方向一方側を向く第一端面14が形成される。
このため、接合対象物20に対してカシメ部材10を配置することにより、所定の配置状態(カシメ準備状態、
図4参照)とすることができる。ここでいう所定の配置状態(カシメ準備状態)とは、第一端部13aが第一板部21Aに対して軸方向一方側に配置され、かつ、第二端部12が第二板部22Aに対して軸方向他方側に配置された状態であって、第一端面14が第一板部21Aにおける第一孔23の周縁部分に軸方向他方側から接触した状態を意味する。
【0078】
更に、本実施形態では、
図4、
図5に示すように、第一端部13a及び第一連結部13bは、カシメ部材10が一対の電極40によって軸方向両側から挟まれて通電及び加圧がされるカシメ工程によりカシメられるように構成される。
このため、カシメ準備状態(
図4参照)でカシメ工程を実施することで、第一端部13a及び第一連結部13bをカシメて変形部13(
図5参照)にし、本体部11a及び変形部13が、第一板部21Aにおける第一孔23の周縁部分を軸方向両側から挟み込んだ状態を実現することができる。これにより、カシメ部材10が接合対象物20に接合される。
【0079】
また、本実施形態では、
図5に示すように、第二端部12及び第二連結部11bは、カシメ工程によっても変形しないように構成される。このため、第一端部13a及び第二端部12の両方がカシメられるように構成される態様(
図13、
図14参照)と比較して、接合工程が容易である。
なお、このような構成は、カシメ部13の断面積に対して第二端部12及び第二連結部
11bの肉厚を厚くすること(断面積を大きくすること)で実現できる。
【0080】
また、本実施形態では、
図4に示すように、本体部11aは、接合対象物20に形成された第二孔24を通過可能に構成される。このため、接合対象物20を構成する第一部材21と第二部材22とが接合された状態で、カシメ部材10を接合対象物20に対して配置することができる。
【0081】
また、本実施形態では、
図1に示すように、本体部11a及び第二連結部11bの周面11Sの形状は、軸方向に沿って一様である。このため、本体部11aが第二孔24を通過し、第二連結部11bが第二孔24内に配置される態様において、本体部11a及び第二連結部11bの耐力を確保しやすい。
更に、本実施形態では、
図2に示すように、第二端部12の外径R2は、本体部11a及び第二連結部11bの外径R1よりも大きい。この構成により、カシメ工程により第二端部12が変形してしまうことを抑制できる。
【0082】
また、本実施形態では、
図4に示すように、第一連結部13b及び第一端部13aは、筒状に形成される。このため、筒状に形成されない態様と比較して、第一連結部13b及び第一端部13aが適切にカシメられ、接合信頼性が向上する。
【0083】
また、本実施形態では、第一端部13a、第一連結部13b、本体部11a、第二連結部11b及び第二端部12を軸方向に貫通する貫通孔11A,12A,13Aが形成される。このため、旋盤等により、カシメ部材10の製造が容易になる。
【0084】
また、本実施形態では、ネジ穴は、貫通孔11A,12A,13Aのうち、本体部11aに対応する部分だけでなく、第二連結部11bに対応する部分にも形成される。このため、ネジ穴が形成される部分を長くでき、その分ボルトとの締結強度を確保できる。
【0085】
また、本実施形態では、
図2に示すように、第一連結部13bの内径r3は、軸方向に沿って一定であり、第一端部13aの内径r3は、軸方向に沿って一定であり、第一連結部13bの内径r3は、第一端部13aの内径r3と同一である。
このため、第一連結部13bの内径(一定でない場合は平均値)が第一端部13aの内径(一定でない場合は平均値)よりも大きい態様と比較して、第一連結部13b(カシメ部13の根元部13b)を充分に変形させることができ、適切な形状の変形部13を得ることができる。
【0086】
また、本実施形態では、
図2に示すように、第一連結部13b及び第一端部13aの内径r3の軸方向における最小値r3(なお、本実施形態では一定値である。)は、ネジ穴(貫通孔11A)の最大径r1よりも大きい。このため、径方向内側へ広がるように変形した変形部13(
図5参照)と、ネジ穴11Aとが軸方向から見て重なってしまうことが抑制される。このことは、牽引フックのボルト部が軸方向一方側から捩じ込まれる場合において特に好適である。なお、両者(r1とr3)の差は1mm以上であることが好ましく、5mm以上であることが更に好ましい。
【0087】
また、本実施形態では、
図2に示すように、第二端部12の内径r2は、本体部11a及び第二連結部11bの内径r1よりも大きく、第二端部12の外径R2は、本体部11a及び第二連結部11bの外径R1よりも大きい。
第二端部12の内径r2が本体部11a及び第二連結部11bの内径r1よりも大きいことにより、カシメ工程によって第二端部12が多少変形した場合でも、変形した第二端部12とネジ穴11Aとが軸方向から見て重なってしまうことが抑制される。更に、第二端部12の外径R2が、本体部11a及び第二連結部11bの外径R1よりも大きいことにより、カシメ工程によって第二端部12が変形すること自体が抑制される。
また、第二端部12の外径R2を大きくしてフランジ部12を形成することで、フランジ部12と第二板部22Aの第二面22A2とを接触させることができ、その結果、カシメ部材10が傾くことを抑制できるという効果をも奏する。このような構成は、R1とR3の差が小さい場合に特に有効である。
【0088】
また、本実施形態の接合継手では、
図5に示すように、本体部11aの第一端面14は、第一板部21Aにおける第一孔23の周縁部分に軸方向他方側から接触している。そして、第一端部13a及び第一連結部13bは、カシメられた変形部13になっており、本体部11a及び変形部13は、第一板部21Aにおける第一孔23の周縁部分を軸方向両側から挟み込んだ状態になっている。
このため、接合対象物20とカシメ部材10とが適切に接合される。なお、特定の接合継手における一部分が「カシメられた変形部13」(カシメられて変形したカシメ部13)で該当するか否かは、例えば、当該部分と本体部11aの組織を断面観察により比較することで確認することができる。また、当該部分と本体部11aの硬さを比較することで確認することができる。この場合、本体部11aの組織や硬さは、軸方向中心部から採取することが望ましい。
また、本実施形態の接合継手では、
図5に示すように、カシメ部材10の第二連結部11bが第二板部22Aの第二孔24内に配置されるので、カシメ部材10が第一板部21Aとの接合部分を中心として傾いてしまうことが抑制される。
【0089】
また、本実施形態では、
図3に示すように、第一部材21の板厚は、第二部材22の板厚よりも大きい。ハット形状の第一部材21の板厚が第二部材22の板厚よりも大きいことで、接合対象物20の強度を効率よく向上させることができる。また、カシメ部材10が板厚の大きい第一部材21にカシメられることで、板厚の小さい第二部材22にカシメられる場合と比較して、接合強度を確保しやすい。
【0090】
<補足説明>
以上、本開示に係るカシメ部材の接合方法の好適な実施形態について説明について説明したが、本開示に係るカシメ部材の接合方法は、上記実施形態に限定されない。
【0091】
上記実施形態では、第一孔23及び第二孔24の形状が円形であるとして説明したが、本開示の第一孔及び第二孔の形状は、円形でなくてもよい。例えば、第一孔23の形状は六角形でもよい。これにより、円筒状のカシメ部13(特に根元部13b)が第一孔23の六角形の形状に倣うようにして変形する結果、接合対象物20に対するカシメ部材10の軸周りの回転がより一層抑制される。この場合、第一孔23が形成する六角形に内接する円の直径を第一孔23の直径d1と考えて、第一孔23の直径d1をカシメ部13の外径R3と同じか、僅かに大きくすればよい。
なお、このような効果を得るための第一孔23の形状は、六角形に限定されず、六角形以外の多角形(例えば八角形)でもよい。また、第一孔23の形状は、多角形以外の形状(接合対象物20に対するカシメ部材10の軸方向周りの回転を抑制する形状)であってもよい。
また、第一孔23の形状を円形以外の形状にする場合には、カシメ部13の形状(軸方向から見た形状)を変更し、第一孔23の形状と相似形にしてもよい。
【0092】
また、上記実施形態では、軸部11、フランジ部12及びカシメ部13がいずれも円柱形状である例を説明した。換言すると、上記実施形態では、本体部11a、第一端部13a、第二端部12、第一連結部13b及び第二連結部11bがいずれも円柱形状である例を説明した。しかし、本開示はこれに限定されない。本体部11a、第一端部13a、第二端部12、第一連結部13b及び第二連結部11bは、それぞれ個別に、六角柱形状やそれ以外の角柱形状に変更されてもよい。なお、例えば本体部11aが六角柱形状の場合、当該六角形に外接する円の直径を本体部11aの外径と考える。
【0093】
また、上記実施形態で説明したとおり、フランジ部12(第二端部12)の内径r2は、軸部11の内径r1以上であることが好ましい。しかし、軸方向一方側から牽引フックを捩じ込む態様にする場合は、フランジ部12(第二端部12)の内径r2は、軸部11の内径r1未満であってもよい。また、第二端部12に貫通孔12Aが形成されていなくてもよい。
【0094】
また、上記実施形態では、フランジ部12(第二端部12)の外径R2が、軸部11の外径R1よりも大きいが、本開示の第二端部はこれに限定されない。例えば、第二端部12の外径R2は、軸部11の外径R1と同じであってもよい。この場合、第二端部12は、フランジ部12とは呼べなくなる。
【0095】
また、上記実施形態では、カシメ部材10が鋼製である例を説明したが、本開示の締結部材は、鋼以外の金属製であってもよい。
【0096】
また、上記実施形態では、カシメ部13が筒状に形成される例(すなわち、第一端部13a及び第一連結部13bに貫通孔13Aが形成される例)を説明したが、本開示の第一端部及び第一連結部はこれに限定されない。例えば、第一端部は筒状に形成される一方、第一連結部は筒状に形成されなくてもよい。また、例えば、第一端部及び第二連結部が両方とも筒状に形成されなくてもよい。
【0097】
また、上記実施形態では、軸部11の貫通孔11Aの全体がネジ穴になっている例(すなわち、貫通孔11A,12A,13Aのうち本体部11a及び第二連結部11bに対応する部分の全体がネジ穴になっている例)を説明したが、本開示のネジ穴はこれに限定されない。軸部11の貫通孔11Aの一部がネジ穴になっていてもよい。
【0098】
また、上記実施形態では、筒状のカシメ部13の内径r3が、軸方向に沿って一定である例を説明したが、本開示はこれに限定されない。筒状のカシメ部13の内径r3は、軸方向一方側へ向かうに従い大きくなっていてもよい。この場合には、カシメ部13が径方向内側へ広がるように変形することを抑制することができる。
【0099】
また、上記実施形態では、筒状のカシメ部13の内部空間(貫通孔13A)が、ネジ穴(貫通孔11A)と繋がっている例を説明したが、本開示はこれに限定されない。ネジ穴は、軸方向他方側にのみ開放されていてもよい。
【0100】
また、上記実施形態では、接合対象物20に対するカシメ部材10の接合にアーク溶接を用いないので、アーク溶接を用いる場合と比較して、接合に要する時間を大幅に短縮できる。更に、溶接欠陥等に起因する自動車衝突時の破断の問題も回避することができる。
しかし、本開示の接合方法及び接合継手は、これに限定されず、例えば、締結部材の第二連結部と第二板部とがアーク溶接により接合されていてもよい。
【0101】
また、上記実施形態では、接合対象物である接合対象物20が閉断面構造である例を説明したが、本開示の接合対象物及び自動車部材は、閉断面構造であるものに限られない。
【0102】
また、上記実施形態では、第一板部21A及び第二板部22Aの相対位置が固定された接合対象物(接合対象物20)に対して、第二孔24側からカシメ部材10を挿入してカシメ準備状態を実現可能に構成される例を説明した。
しかし、本開示はこれに限定されない。まず、第一部材21に対してカシメ部材10を配置し、その後、第二部材22を配置することでカシメ準備状態を実現してもよい。
この場合、
図7、
図8に示すカシメ部材110のように、カシメ部材110の軸方向両側の部分をカシメるように構成してもよい。
【0103】
図7に示すカシメ部材110は、軸部111と、軸部111の軸方向一方側に設けられた一方側のカシメ部13と、軸部111の軸方向他方側に設けられた他方側のカシメ部13と、を有する。その他の構成で上記実施形態と同様の機能、働きを有する構成は、同一の符号を付して説明を省略する。
この例では、軸部111の全体が「本体部」に相当し、一方側のカシメ部13の先端部13aが「第一端部」に相当し、一方側のカシメ部13の根元部13bが「第一連結部」に相当し、他方側のカシメ部13の先端部13aが「第二端部」に相当し、他方側のカシメ部13の根元部13bが「第二連結部」に相当する。
なお、この例では、第一端部13a及び第一連結部13bだけでなく、第二端部13a及び第二連結部13bも、カシメ工程によってもカシメられるように構成されている。また、
図13に示すように、この例では、軸部111(本体部)の周面の形状が軸方向に沿って一様ではない。本開示の本体部には、このような形状のものも含まれる。
【0104】
また、本開示のカシメ部材は、例えば、
図14、
図15に示すカシメ部材210,310のような部材であってもよい。
図14に示すカシメ部材210は、ナットである。また、カシメ部材210は、フランジ部を有しない。この図に示す接合方法は、カシメ部材210を1枚の板部21Aに接合するものである。
図15に示すカシメ部材310は、ボルトである。このボルトでは、カシメ部13が筒状ではない。この図に示す接合方法は、カシメ部材310を1枚の板部21Aに接合するものである。
また、本開示のカシメ部材は、これらに限定されず、締結部材(ボルト、ナット等)でなくてもよい。
【0105】
また、上記実施形態では、予熱工程が休止時間(通電を休止する時間)を含まない例、つまり予熱工程中は連続して通電を行う例を説明したが、本開示の予熱工程はこれに限定されない。本開示の予熱工程は、休止時間を含んでもよく、例えば断続通電を行う工程であってもよい。なお、断続通電とは、通電と休止とを繰返す通電方法をいう。
また、本開示の本工程における通電方法も、休止時間を含む通電方法(例えば断続通電)であってもよい。
これらの場合、予熱工程又は本工程の電流値は、それぞれの平均値を用いる。
【0106】
また、本開示において電極による電流は、直流であってもよいし、交流であってもよい。交流の場合、電流値の大小は、実効値で判断する。
【符号の説明】
【0107】
10 カシメ部材
11,12 一般部
11 軸部
12 第二端部
12 フランジ部
13 変形部
13 カシメ部
14 第一端面
15 第一端面
20 接合対象物
21 第一部材
22 第二部材
23 第一孔
24 第二孔
30 接合構造物
40 電極
110 カシメ部材
210 カシメ部材
310 カシメ部材