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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094873
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】蛍光体粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/08 20060101AFI20240703BHJP
   C09K 11/64 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
C09K11/08 B
C09K11/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211745
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】三谷 駿介
【テーマコード(参考)】
4H001
【Fターム(参考)】
4H001CA02
4H001CF02
4H001XA07
4H001XA13
4H001XA14
4H001XA20
4H001XA38
4H001YA63
(57)【要約】
【課題】発光特性に優れた蛍光体粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の蛍光体粉末の製造方法は、主結晶相がCaAlSiNと同一の結晶構造を有し、一般式(Ca1-x-ySrEu)AlSiNで示され、0≦x<1、0<y<1、1-x-y>0である蛍光体を含む蛍光体粉末の製造方法であって、少なくとも2種の原料粉末を混合してなる第一の原料混合粉末を予め焼成する予焼成工程と、目開き850μmの篩を用いたときの篩通過割合が80重量%以上となる予焼成工程で得られた予焼成粉末と他の原料粉末とを混合してなる第二の原料混合粉末を焼成して、焼成物を得る本焼成工程と、を含むものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主結晶相がCaAlSiNと同一の結晶構造を有し、一般式(Ca1-x-ySrEu)AlSiNで示され、0≦x<1、0<y<1、1-x-y>0である蛍光体を含む蛍光体粉末の製造方法であって、
少なくとも2種の原料粉末を混合してなる第一の原料混合粉末を予め焼成する予焼成工程と、
目開き850μmの篩を用いたときの篩通過割合が80重量%以上となる前記予焼成工程で得られた予焼成粉末と、他の原料粉末とを混合してなる第二の原料混合粉末を焼成して、焼成物を得る本焼成工程と、を含む、
蛍光体粉末の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光体粉末の製造方法であって、
前記予焼成工程における焼成を、10MPa・G以下の不活性ガス雰囲気下で行う、蛍光体粉末の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の蛍光体粉末の製造方法であって、
前記予焼成工程における焼成を、1500℃以上で、0.5時間以上30時間以下行う、蛍光体粉末の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の蛍光体粉末の製造方法であって、
前記予焼成工程における焼成を、2100℃以下で、0.5時間以上30時間以下行う、蛍光体粉末の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の蛍光体粉末の製造方法であって、
前記予焼成工程において、前記原料粉末が、Alを含む第一原料粉末およびSiを含む第二原料粉末を含む、蛍光体粉末の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の蛍光体粉末の製造方法であって、
前記予焼成工程において、前記原料粉末が、窒化物の第一原料粉末および窒化物の第二原料粉末を含む、蛍光体粉末の製造方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載の蛍光体粉末の製造方法であって、
前記予焼成工程で得られた予焼成粉末において、(Sr,Ca)AlSiNの結晶相が50%以下である、蛍光体粉末の製造方法。
【請求項8】
請求項1または2に記載の蛍光体粉末の製造方法であって、
得られる蛍光体粉末のメジアン径が5μm以下である、蛍光体粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白色LEDを製造するため、青色LEDチップからの青色光を赤色光に変換する赤色蛍光体が研究されている。赤色蛍光体としては、カズン(CASN)蛍光体及びエスカズン(SCASN)蛍光体などのCASN系蛍光体が知られている(例えば、特許文献1等)。これらのCASN系蛍光体は、一般に、ユウロピウム酸化物又はユウロピウム窒化物と、カルシウム窒化物、ケイ素窒化物、及びアルミニウム窒化物と、を含む原料粉末を加熱することによって合成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公報第2005/052087号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載のSCASN蛍光体の製造方法において、得られる蛍光体の発光特性の点で改善の余地があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者はさらに検討したところ、原料粉末の一部を事前に焼成する予焼成を行った後に、予焼成した原料粉末の一部と残りの原料粉末とを本焼成することにより、蛍光体粉末の発光特性が向上することを見出した。
このような知見に基づきさらに鋭意研究したところ、本焼成で使用する予焼成した原料粉末の一部(予焼成粉末)について、目開き850μmの篩を通したときの篩通過割合が所定以上となるものを使用することにより、蛍光体粉末の発光特性を一層向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明の一態様によれば、以下の蛍光体粉末の製造方法が提供される。
1. 主結晶相がCaAlSiNと同一の結晶構造を有し、一般式(Ca1-x-ySrEu)AlSiNで示され、0≦x<1、0<y<1、1-x-y>0である蛍光体を含む蛍光体粉末の製造方法であって、
少なくとも2種の原料粉末を混合してなる第一の原料混合粉末を予め焼成する予焼成工程と、
目開き850μmの篩を用いたときの篩通過割合が80重量%以上となる前記予焼成工程で得られた予焼成粉末と、他の原料粉末とを混合してなる第二の原料混合粉末を焼成して、焼成物を得る本焼成工程と、を含む、
蛍光体粉末の製造方法。
2. 1.に記載の蛍光体粉末の製造方法であって、
前記予焼成工程における焼成を、10MPa・G以下の不活性ガス雰囲気下で行う、蛍光体粉末の製造方法。
3. 1.または2.に記載の蛍光体粉末の製造方法であって、
前記予焼成工程における焼成を、1500℃以上で、0.5時間以上30時間以下行う、蛍光体粉末の製造方法。
4. 1.~3.のいずれか一つに記載の蛍光体粉末の製造方法であって、
前記予焼成工程における焼成を、2100℃以下で、0.5時間以上30時間以下行う、蛍光体粉末の製造方法。
5. 1.~4.のいずれか一つに記載の蛍光体粉末の製造方法であって、
前記予焼成工程において、前記原料粉末が、Alを含む第一原料粉末およびSiを含む第二原料粉末を含む、蛍光体粉末の製造方法。
6. 1.~5.のいずれか一つに記載の蛍光体粉末の製造方法であって、
前記予焼成工程において、前記原料粉末が、窒化物の第一原料粉末および窒化物の第二原料粉末を含む、蛍光体粉末の製造方法。
7. 1.~6.のいずれか一つに記載の蛍光体粉末の製造方法であって、
前記予焼成工程で得られた予焼成粉末において、(Sr,Ca)AlSiNの結晶相が50%以下である、蛍光体粉末の製造方法。
8. 1.~7.のいずれか一つに記載の蛍光体粉末の製造方法であって、
得られる蛍光体粉末のメジアン径が5μm以下である、蛍光体粉末の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、発光特性に優れた蛍光体粉末の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施形態の蛍光体粉末の製造方法の概要を説明する。
【0009】
本実施形態の蛍光体粉末の製造方法は、主結晶相がCaAlSiNと同一の結晶構造を有し、一般式(Ca1-x-ySrEu)AlSiNで示され、0≦x<1、0<y<1、1-x-y>0である蛍光体を含む蛍光体粉末の製造方法であって、少なくとも2種の原料粉末を混合してなる第一の原料混合粉末を予め焼成する予焼成工程と、目開き850μmの篩を用いたときの篩通過割合が80重量%以上となる予焼成工程で得られた予焼成粉末と、他の原料粉末とを混合してなる第二の原料混合粉末を焼成して、焼成物を得る本焼成工程と、を含む。
【0010】
本発明者の知見よれば、目開き850μmの篩を用いたときの篩通過割合が上記下限値以上となる、少なくとも2種の原料粉末を予焼成してなる予焼成粉末を使用して、かかる予焼成粉末と残りの原料粉末とを本焼成することにより、蛍光体粉末の粉末時および樹脂と混合してシートにした時における発光特性を一層向上できることが判明した。
【0011】
本実施形態の蛍光体粉末の製造方法により得られた蛍光体粉末は、粉末時および樹脂と混合してシートにした時における発光特性が良好であることから、様々な用途に好ましく適用可能である。
用途の一例としては、LEDパッケージが挙げられる。すなわち、青色LEDから発せられる青色光を白色光とするための波長変換材料として本発明の蛍光体粉末を用いることが考えられる。
用途の別の例としては、ミニLEDやマイクロLEDのような自発光型ディスプレイへの適用が考えられる。
【0012】
以下、本実施形態の蛍光体粉末の製造方法の各工程について詳述する。
【0013】
本実施形態の蛍光体粉末の製造方法は、以下の工程を有することが好適である。
・出発原料の一部を混合して第一原料混合粉末を得る第一の混合工程
・第一の混合工程で得られた第一原料混合粉末を焼成して予焼成粉末を得る予焼成工程
・予焼成粉末と残りの出発原料とを混合して第二原料混合粉末を得る第二の混合工程
・第二の混合工程で得られた第二原料混合粉末を焼成して焼成物を得る本焼成工程
【0014】
ただし、蛍光体粉末の製造方法は、適切な原料の選択に加え、適切な製造方法・製造条件を選択することが好適である。
上記の工程に対して、必要なら、以下の工程の少なくとも1つまたは2つ以上の工程をさらに組み合わせもよい。
・焼成工程で得られた焼成物を一旦粉末化した後に実施する低温焼成工程(アニール工程)
・低温焼成工程後に得られた低温焼成粉末を粉砕して微粉化する粉砕工程
・粉砕工程にて発生する微粉末を除去するデカンテーション工程
・デカンテーション工程にて得られた沈殿物をろ過、乾燥する工程
・本焼成工程由来と考えられる不純物を除去する酸処理工程
【0015】
ちなみに、本実施形態において、「工程」には、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0016】
・第一の混合工程
第一の混合工程においては、出発原料(原料粉末)の少なくとも2種以上を混合して第一原料混合粉末を得る。
出発原料としては、ユウロピウム化合物、α型窒化ケイ素などの窒化ケイ素、窒化アルミニウム、などを挙げることができる。これに限定されず、出発原料として、蛍光体を構成する元素を含む窒化物または酸化物を使用できる。
上記各出発原料の形態は、好ましくは粉末状である。
【0017】
次の予焼成に使用する第一原料混合粉末には、Alを含む第一原料粉末およびSiを含む第二原料粉末を含めてもよい。これにより、蛍光体粉末の発光特性を向上できる。
また別の形態では、次の予焼成に使用する第一原料混合粉末には、窒化物の第一原料粉末および窒化物の第二原料粉末を含めてもよい。これにより、蛍光体粉末の発光特性を向上できる。
【0018】
ユウロピウム化合物としては、例えば、ユウロピウムを含む酸化物、ユウロピウムを含む水酸化物、ユウロピウムを含む窒化物、ユウロピウムを含む酸窒化物、ユウロピウムを含むハロゲン化物等を挙げることができる。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、酸化ユウロピウム、窒化ユウロピウムおよびフッ化ユウロピウムをそれぞれ単独で用いることが好ましく、酸化ユウロピウムを単独で用いることがより好ましい。
【0019】
第一の混合工程において、原料混合粉末は、例えば、出発原料を乾式混合する方法や、各出発原料と実質的に反応しない不活性溶媒中で湿式混合した後に溶媒を除去する方法等を用いて得ることができる。混合装置としては、例えば、小型ミルミキサー、V型混合機、ロッキングミキサー、ボールミル、振動ミル等を用いることができる。装置を用いた混合の後、必要に応じて篩により凝集物を取り除くことで、原料混合粉末を得ることができる。
出発原料の劣化や、意図せぬ酸素の混入を抑えるため、混合工程は、窒素雰囲気下、水分(湿気)ができるだけ少ない環境下で行われることが好ましい。
【0020】
・予焼成工程
予焼成工程においては、混合工程で得られた第一原料混合粉末を焼成して予焼成粉末を得る。
予焼成工程における焼成温度は、特に限定されないが、1500℃以上2100℃以下であることが好ましく、1600℃以上2050℃以下であることがより好ましい。
予焼成温度が上記下限値以上であることで、本焼成における蛍光体粒子の合成反応がより効果的に進行する。そのため、光吸収率、内部量子効率及び外部量子効率をより一層良好にすることができる。
予焼成温度が上記上限値以下であることで、予焼成粉末の分解を抑制することで、本焼成における蛍光体粒子の合成反応が効率的に進行する。そのため、光吸収率、内部量子効率および外部量子効率をより一層良好にすることができる。
【0021】
予焼成工程における昇温時間、昇温速度、加熱保持時間および圧力等の他の条件も特に限定されず、使用する原料に応じて適宜調整すればよい。典型的には、加熱保持時間は0.5時間以上30時間以下が好ましく、圧力は0.1MPa以上10MPa以下が好ましい。
また、予焼成工程は、酸素濃度のコントロールなどの観点から、窒素ガス雰囲気下等の不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。具体的な一例として、予焼成工程は、圧力0.1MPa以上10MPa以下の窒素ガス雰囲気下で行われることが好ましい。
【0022】
予焼成粉末は、目開き850μmの篩を用いたときの篩通過割合が80重量%以上となるものを使用する。
目開き850μmの篩を通したときの篩通過割合は、80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上である。これにより、得られる蛍光体粉末の発光特性を向上できる。
【0023】
予焼成粉末の篩通過割合の求める方法を、以下に示す。
まず、10gの予焼成粉末を、ヘラなどを用いて、目開き850μmの篩を通過させる篩分けを10分間程度行う。続いて、篩を通過した予焼成粉末の重量X(g)を測定する。
その後、上記の篩通過割合(重量%)を、式:(X/10)×100から算出する。
【0024】
予焼成後に、必要なら、解砕、粉砕、分級等の粉末中に存在する粗大粒子を除去する処理を実施してもよい。これらの粗大粒子除去処理は、単独または組み合わせて使用してもよい。具体的な一例としては、予焼成により得られた予焼成物をボールミルや振動ミル、ジェットミル等の一般的な粉砕機を使用して所定の粒度に粉砕する方法が挙げられる。
ただし、予焼成後に篩通過割合が80重量%以上を満たす予焼成粉末であれば、上記の粗大粒子除去処理を実施しなくてもよい。
また、予焼成後の篩通過割合が80重量%以上を満たさない場合には、他の出発原料の少なくとも1種を混合し、粉砕などの上記粗大粒子除去処理を実施して、篩通過割合が80重量%以上を満たす予焼成粉末を得てもよい。
【0025】
また、予焼成工程では、(Sr,Ca)AlSiNの結晶相が、例えば、50%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは10%以下となる予焼成粉末が得られることが好ましい。これにより、本焼成による蛍光体粉末の発光特性を向上できる。理由は定かではないが、予焼成時おける結晶相が少ない程、蛍光体の発光特性に対する本焼成の影響を高められると考えられる。
【0026】
・第二の混合工程
第二の混合工程においては、予焼成粉末と残りの出発原料を混合して第二原料混合粉末とする。
【0027】
残りの出発原料としては、ユウロピウム化合物、窒化ストロンチウムなどのストロンチウム化合物、窒化カルシウムなどのカルシウム化合物、α型窒化ケイ素などの窒化ケイ素、窒化アルミニウム、などを挙げることができる。残りの出発原料には、上記予焼成工程で得られた予焼成粉末に使用した出発原料の少なくとも一部が含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。残りの出発原料には、少なくとも2種以上含まれていてもよい。
上記各出発原料の形態は、好ましくは粉末状である。
【0028】
第二の混合工程において、第二原料混合粉末は、例えば、出発原料を乾式混合する方法や、各出発原料と実質的に反応しない不活性溶媒中で湿式混合した後に溶媒を除去する方法等を用いて得ることができる。混合装置としては、例えば、小型ミルミキサー、V型混合機、ロッキングミキサー、ボールミル、振動ミル等を用いることができる。装置を用いた混合の後、必要に応じて篩により凝集物を取り除くことで、原料混合粉末を得ることができる。
出発原料の劣化や、意図せぬ酸素の混入を抑えるため、混合工程は、窒素雰囲気下、水分(湿気)ができるだけ少ない環境下で行われることが好ましい。
【0029】
・本焼成工程
本焼成工程においては、第二の混合工程で得られた第二原料混合粉末を焼成して焼成物を得る。
本焼成工程における焼成温度は、特に限定されないが、1500℃以上2100℃以下であることが好ましく、1550℃以上2000℃以下であることがより好ましい。
本焼成温度が上記下限値以上であることで、蛍光体粒子の粒成長がより効果的に進行する。そのため、光吸収率、内部量子効率及び外部量子効率をより一層良好にすることができる。
本焼成温度が上記上限値以下であることで、蛍光体粒子の分解をより一層抑制できる。そのため、光吸収率、内部量子効率および外部量子効率をより一層良好にすることができる。
本焼成工程における昇温時間、昇温速度、加熱保持時間および圧力等の他の条件も特に限定されず、使用する原料に応じて適宜調整すればよい。典型的には、加熱保持時間は0.5時間以上30時間以下が好ましく、圧力は0.1MPa以上10MPa以下が好ましい。
本焼成工程は、酸素濃度のコントロールなどの観点から、窒素ガス雰囲気下等の不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。具体的な一例として、本焼成工程は、圧力0.1MPa以上10MPa以下の窒素ガス雰囲気下で行われることが好ましい。
【0030】
本焼成工程において、焼成方法としては、例えば、焼成中に混合物と反応しない材質(タングステンなど)からなる容器に混合物を充填して、窒素雰囲気中で加熱する方法を採用することができる。
【0031】
本焼成工程を経て得られる焼成物は、通常、粒状または塊状の焼結体である。解砕、粉砕、分級等の処理を単独または組み合わせて用いることにより、焼成物を一旦粉末化することができる。
具体的な処理方法としては、例えば、焼結体をボールミルや振動ミル、ジェットミル等の一般的な粉砕機を使用して所定の粒度に粉砕する方法が挙げられる。ただし、過度の粉砕は、光を散乱しやすい微粒子を生成する場合や、粒子表面に結晶欠陥をもたらすことで発光効率の低下を引き起こす場合があることに留意する。
【0032】
・低温焼成工程(アニール工程)
本焼成工程後に、焼成工程における焼成温度よりも低い温度で、焼成物(好ましくは一旦粉末化されたもの)を加熱して低温焼成粉末を得る低温焼成工程(アニール工程)をさらに含んでよい。
低温焼成工程(アニール工程)は、希ガス、窒素ガス等の不活性ガス、水素ガス、一酸化炭素ガス、炭化水素ガス、アンモニアガス等の還元性ガス、若しくはこれらの混合ガス、または真空中等の純窒素以外の非酸化性雰囲気中で行うことが好ましい。特に好ましくは、水素ガス雰囲気中やアルゴン雰囲気中で行われる。
【0033】
低温焼成工程(アニール工程)は、大気圧下または加圧下のいずれで行われてもよい。低温焼成工程(アニール工程)における熱処理温度は、特に限定されないが、1200℃以上1700℃以下が好ましく、1300℃以上1600℃以下がより好ましい。低温焼成工程(アニール工程)の時間は、特に限定されないが、3時間以上12時間以下が好ましく、5時間以上10時間以下がより好ましい。
低温焼成工程(アニール工程)を行うことにより、蛍光体粒子の発光効率を十分に向上させることができる。また、元素の再配列により、ひずみや欠陥が除去されるため、透明性も向上させることができる。
【0034】
・粉砕工程
粉砕工程においては、本焼成工程や低温焼成工程(アニール工程)で得られた粉末を粉砕して微粉化させる。
粉砕工程はボールミルにより、行うことが好ましい。以下に示す方法で処理することが望ましい。条件の範囲外で処理すると、蛍光体粒子の性能を保持できない。粉砕する力が強すぎると蛍光体粒子に欠陥が生成し、光学特性が低下する。粉砕する力が弱すぎると目的の微細化を達成できない。
【0035】
粉砕工程では、好ましくは粉砕機として、ボールミルを使用する。粉砕工程は、イオン交換水等の水溶液を共存させた湿式におけるボールミル粉砕で行われることが望ましい。
【0036】
水溶液は、イオン交換水の他の成分を含んでもよい。水溶液に含有される他の成分としては、低級アルコール及びアセトン等の有機溶媒、並びに、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム(Napp)、リン酸三ナトリウム(TSP)、及び界面活性剤等の分散剤などが挙げられる。
【0037】
水溶液の配合量の下限値は、アニール処理物の全体積を基準として、例えば、0.1体積%以上、0.3体積%以上、0.5体積%以上、又は1.0体積%以上であってよい。水溶液の配合量の下限値を上記範囲内とすることで、より緩やかな条件でアニール処理物の粉砕を行うことができ、蛍光体としての光学特性の低下をより抑制することができる。水溶液の配合量の上限値は、アニール処理物の全体積を基準として、例えば、60体積%以下、50体積%以下、45体積%以下、又は40体積%以下であってよい。水溶液の配合量の上限値を上記範囲内とすることで、ボールによるアニール処理物の粉砕に加わる力を向上させることができる。水溶液の配合量は上述の範囲内で調整してよく、アニール処理物の全体積を基準として、例えば、1.0~45体積%であってよい。
【0038】
ボールミルに使用するボールは、ジルコニアボールを使用できる。ボールの直径は、例えば、0.2~20.0mm、又は0.5~10.0mmであってよい。この条件外である場合、平均円形度及び円形度の標準偏差を所定範囲内のものとすることが困難であり、得られる蛍光体粉末は所望の色再現性を発揮することが困難である。
【0039】
粉砕工程における粉砕処理の時間(粉砕時間)の下限値は、例えば、1時間以上、2時間以上、3時間以上、4時間以上、5時間以上、6時間以上、7時間以上、8時間以上、9時間以上、10時間以上、又は12時間以上であってよい。粉砕時間の下限値を上記範囲内とすることで、十分に細かい粉砕物を得ることができ、続く酸処理工程での酸処理効率をより向上させることができる。上記粉砕処理の時間の上限値は、例えば、80時間以下、70時間以下、60時間以下、又は40時間以下であってよい。粉砕時間の上限値を上記範囲内とすることで、アニール処理物の過剰な粉砕によって、蛍光体粒子の表面への傷、割れの発生、及び蛍光体粒子内部の欠陥の発生等することをより十分に抑制できる。粉砕時間は上述の範囲内で調整してよく、例えば、1~60時間、又は4~40時間であってよい。
【0040】
・デカンテーション工程
粉砕工程後に、超微粉を除去するデカンテーション工程をさらに含んでよい。
デカンテーション工程においては、まず、粉砕工程を経て微粉化された蛍光体粒子を、適当な分散媒に投入し、蛍光体粒子を分散媒に分散させる。
分散媒としては、例えば、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ピロりん酸ナトリウム(Napp)、リン酸三ナトリウム(TSP)、低級アルコール、アセトン、および界面活性剤等を含む水溶液などを用いることができる。この際の蛍光体粒子と分散媒の重量比は、2%以上40%以下が好ましく、3%以上20%以下がより好ましく、4%以上10%以下がさらに好ましい。
次に、分散処置を行った後、蛍光体粒子を含む分散媒を、静置もしくは遠心分離を行い、粒子を沈降させる。
続けて、粒子を沈降させた後、上澄み液を除去する。これにより、上澄み液に含まれる、光学特性に悪影響を及ぼしうる微粒子(超微粉)を除去することができる。また、超微粉による凝集が低減される。微粒子(超微粉)の粒子径としては、例えば、0.4μm未満のものが挙げられる。
【0041】
・ろ過、乾燥工程
デカンテーション工程終了後、得られた沈殿物をろ過、乾燥し、必要に応じて篩を用いて粗大粒子を取り除く。こうすることで、微粒子(超微粉)が低減され、本実施形態の蛍光体粒子を得ることができる。乾燥には棚型の乾燥機、凍結乾燥、超臨界乾燥、真空乾燥、流動層乾燥器、遠赤外線乾燥機、マイクロ波乾燥機、スプレードライなどを使用してもよい。また、乾燥前に凝集抑制として分散剤などを添加してもよい。
【0042】
・酸処理工程
粉砕工程以降で得られた蛍光体を酸処理する酸処理工程を含んでもよい。酸処理工程においては、デカンテーション工程で得られた、微粒子(超微粉)が低減された蛍光体粒子を酸処理する。これにより、発光に寄与しない不純物の少なくとも一部を除去することができる。ちなみに、発光に寄与しない不純物は、焼成工程や低温焼成工程(アニール工程)の際に発生すると推察される。
【0043】
酸としては、フッ化水素酸、硫酸、リン酸、塩酸、硝酸から選ばれる1種以上の酸を含む水溶液を用いることができる。特に、フッ化水素酸、硝酸、および、フッ化水素酸と硝酸の混酸が好ましい。
酸処理は、低温焼成粉末を、上述の酸を含む水溶液に分散することにより行うことができる。攪拌の時間は、例えば10分以上6時間以下、好ましくは30分以上3時間以下である。攪拌の際の温度は、例えば40℃以上90℃以下、好ましくは50℃以上70℃以下とすることができる。
酸処理工程の後、蛍光体粒子以外の物質をろ過で分離し、蛍光体粒子に付着した物質を水洗することが望ましい。
【0044】
(蛍光体について)
本実施形態の蛍光体粉末の製造方法で得られる蛍光体粉末に含まれる蛍光体は、主結晶相がCaAlSiNと同一の結晶構造を有し、一般式(Ca1-x-ySrEu)AlSiN(ただし、0≦x<1、0<y<1、1-x-y>0)という組成を有する。
前述の一般式に近似する代表的な蛍光体として、Caサイト占有率が100%で、Si/Al=1であるCaAlSiNがある。CaAlSiNのCa2+の一部が、発光中心として作用するEu2+で置換された場合には赤色発光蛍光体となる。このような蛍光体は、しばしば、元素の頭文字をとって「CASN」と呼ばれる。
また別の蛍光体としては、Caの替わりにSrが置換され固溶している(Sr,Ca)AlSiNがある。(Sr,Ca)AlSiNのCa2+の一部が発光中心として作用するEu2+で置換された場合には赤色発光蛍光体となる。このような蛍光体は、しばしば、元素の頭文字をとって「SCASN」と呼ばれる。
【0045】
本実施形態の蛍光体粉末の製造方法で得られる蛍光体粉末のメジアン径(体積基準の粒度分布曲線における累積50%値:D50)は、好ましくは5μm以下、より好ましくは4.8μm以下、さらに好ましくは4.5μm以下である。また、D50は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.3μm以上である。
50が大きすぎず小さすぎないことにより、例えば、蛍光体粉末をミニLEDまたはマイクロLEDに好ましく適用可能となる。
【0046】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【0047】
なお、明細書中、圧力の単位表記において「MPaG」などと「G」を付しているのは、ゲージ圧であることを明確化するためである。
【実施例0048】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0049】
<蛍光体粉末の製造方法>
(実施例1)
53.3質量部のα型窒化ケイ素(Si、宇部興産株式会社製、SN-E10グレード)、46.7質量部の窒化アルミニウム(AlN、株式会社トクヤマ製、Eグレード)を測り取り、乾式混合することで第一原料粉末(混合粉末)を得た。
【0050】
上記第一原料粉末を蓋つき容器に充填した。当該蓋つき容器を、カーボンヒーターを備える電気炉内に配置した後、電気炉内の圧力が0.1PaG以下となるまで十分に真空排気した。真空排気を継続したまま、電気炉内の温度が850℃になるまで昇温した。850℃に到達した後、電気炉内に窒素ガスを導入し、電気炉内の圧力が0.85MPaGとなるように調整した。その後、窒素ガスの雰囲気下で、電気炉内の温度が1950℃になるまで昇温し、到達後はその温度を維持した状態で4時間かけて加熱処理を行った(予焼成工程)。その後、加熱を終了し、室温まで冷却させた。室温まで冷却した後、容器から塊状物を回収した。回収した塊状物を解砕し、ジェットミルにて粉砕して、予焼成粉末を得た。
得られた10gの予焼成粉末について、ヘラを用いて10分程度篩分けを実施して、目開き850μmの篩を通過した篩通過割合(重量%)が表1の値となることを確認した。
【0051】
<結晶構造の確認>
得られた予焼成粉末についてについて、X線回折装置(株式会社リガク製UltimaIV)を用い、Cu-Kα線を用いた粉末X線回折パターンにより、その結晶構造を確認した。ピーク解析ソフト(TOPAS)にてRietveld法による定量分析を行った。
実施例1の予焼成粉末中の(Sr,Ca)AlSiNの結晶相の割合は、表1に示す値となることを確認した。
【0052】
窒素雰囲気に保持したグローブボックス中で容器に、47.9質量部の予焼成粉末、2.43質量部の窒化カルシウム(Ca、Materion社製)、43.9質量部の窒化ストロンチウム(Sr、純度2N、株式会社高純度化学研究所製)、及び5.8質量部の酸化ユウロピウム(Eu、信越化学工業株式会社製、RUグレード)を測り取り、乾式混合することで第二原料粉末(混合粉末)を得た。
【0053】
グローブボックス内で、上記第二原料粉末をタングステン製の蓋つき容器に充填した。当該蓋つき容器をグローブボックスから取り出し、カーボンヒーターを備える電気炉内に配置した後、電気炉内の圧力が0.1PaG以下となるまで十分に真空排気した。真空排気を継続したまま、電気炉内の温度が850℃になるまで昇温した。850℃に到達した後、電気炉内に窒素ガスを導入し、電気炉内の圧力が0.025MPaGとなるように調整した。その後、窒素ガスの雰囲気下で、電気炉内の温度が1550℃になるまで昇温し、到達後はその温度を維持した状態で4時間かけて加熱処理を行った(本焼成工程)。その後、加熱を終了し、室温まで冷却させた。室温まで冷却した後、容器から塊状物を回収した。回収した塊状物を解砕、粉砕して、焼成粉末を得た(本焼成工程)。
【0054】
得られた焼成粉末をボールミルに入れ、湿式で4時間かけて粉砕処理を行うことによって、粉砕物を調製した(粉砕工程)。この際、ボールとして直径3mmのジルコニアボールを使用した。粉砕物として赤色の蛍光体粉末を得た。
【0055】
(実施例2)
第一原料粉末の混合から第二原料粉末の混合の前までの工程を後述する条件にて処理したこと以外は、実施例1と同様にして、蛍光体粉末を得た。
【0056】
53.3質量部のα型窒化ケイ素(Si、宇部興産株式会社製、SN-E10グレード)、46.7質量部の窒化アルミニウム(AlN、株式会社トクヤマ製、Eグレード)を測り取り、乾式混合することで第一原料粉末(混合粉末)を得た。
【0057】
上記第一原料粉末を蓋つき容器に充填した。当該蓋つき容器を、カーボンヒーターを備える電気炉内に配置した後、電気炉内の圧力が0.1PaG以下となるまで十分に真空排気した。真空排気を継続したまま、電気炉内の温度が850℃になるまで昇温した。850℃に到達した後、電気炉内に窒素ガスを導入し、電気炉内の圧力が0.85MPaGとなるように調整した。その後、窒素ガスの雰囲気下で、電気炉内の温度が1950℃になるまで昇温し、到達後はその温度を維持した状態で4時間かけて加熱処理を行った(予焼成工程)。その後、加熱を終了し、室温まで冷却させた。室温まで冷却した後、容器から塊状物を回収した。回収した塊状物を解砕し、乳鉢にて粉砕して、予焼成粉末を得た。
なお、本焼成前の得られた10gの予焼成粉末における篩通過割合(重量%)は、表1の値を示すことを確認した。
実施例2の予焼成粉末中の(Sr,Ca)AlSiNの結晶相の割合は、表1に示す値となることを確認した。
【0058】
(実施例3)
第一原料粉末の混合から第二原料粉末の混合までの工程を後述する条件にて処理したこと以外は、実施例1と同様にして、蛍光体粉末を得た。
【0059】
81.6質量部のα型窒化ケイ素(Si、宇部興産株式会社製、SN-E10グレード)、18.4質量部の酸化ユウロピウム(Eu、信越化学工業株式会社製、RUグレード)を測り取り、乾式混合することで第一原料粉末(混合粉末)を得た。
【0060】
上記第一原料粉末を蓋つき容器に充填した。当該蓋つき容器を、カーボンヒーターを備える電気炉内に配置した後、電気炉内の圧力が0.1PaG以下となるまで十分に真空排気した。真空排気を継続したまま、電気炉内の温度が850℃になるまで昇温した。850℃に到達した後、電気炉内に窒素ガスを導入し、電気炉内の圧力が0.85MPaGとなるように調整した。その後、窒素ガスの雰囲気下で、電気炉内の温度が1950℃になるまで昇温し、到達後はその温度を維持した状態で4時間かけて加熱処理を行った(予焼成工程)。その後、加熱を終了し、室温まで冷却させた。室温まで冷却した後、容器から塊状物を回収した。回収した塊状物を解砕し、ジェットミルにて粉砕して、予焼成粉末を得た。
なお、本焼成前の得られた10gの予焼成粉末では、目開き850μmの篩を通過した篩通過割合(重量%)が、99重量%を示すことを確認した。
実施例3の予焼成粉末中の(Sr,Ca)AlSiNの結晶相の割合は、表1に示す値となることを確認した。
【0061】
窒素雰囲気に保持したグローブボックス中で容器に、31.3質量部の予焼成粉末、2.43質量部の窒化カルシウム(Ca、Materion社製)、43.9質量部の窒化ストロンチウム(Sr、純度2N、株式会社高純度化学研究所製)、及び22.4質量部の窒化アルミニウム(AlN、株式会社トクヤマ製、Eグレード)を測り取り、乾式混合することで原料粉末(第二混合粉末)を得た。
【0062】
(比較例1)
第一原料粉末の混合、予焼成工程および予焼成後の粉砕を実施しないで、第二原料の混合工程を後述する条件にて処理したこと以外は、本焼成工程および粉砕工程を実施例1と同様にして、蛍光体粉末を得た。
【0063】
窒素雰囲気に保持したグローブボックス中で容器に、25.5質量部のα型窒化ケイ素(Si、宇部興産株式会社製、SN-E10グレード)、22.4質量部の窒化アルミニウム(AlN、株式会社トクヤマ製、Eグレード)、2.4質量部の窒化カルシウム(Ca、Materion社製)、43.9質量部の窒化ストロンチウム(Sr、純度2N、株式会社高純度化学研究所製)、及び5.8質量部の酸化ユウロピウム(Eu、信越化学工業株式会社製、RUグレード)を測り取り、乾式混合することで第二原料粉末を得た。
なお、本焼成後の10gの蛍光体粉末における篩通過割合(重量%)は、表1の値を示すことを確認した。
【0064】
(比較例2)
予焼成後の粉砕を実施しないで、第一原料粉末の混合および予焼成工程を後述する条件にて処理したこと以外は、本焼成工程および粉砕工程を実施例1と同様にして、蛍光体粉末を得た。
【0065】
53.3質量部のα型窒化ケイ素(Si、宇部興産株式会社製、SN-E10グレード)、46.7質量部の窒化アルミニウム(AlN、株式会社トクヤマ製、Eグレード)を測り取り、乾式混合することで第一原料粉末(混合粉末)を得た。
【0066】
上記第一原料粉末を蓋つき容器に充填した。当該蓋つき容器を、カーボンヒーターを備える電気炉内に配置した後、電気炉内の圧力が0.1PaG以下となるまで十分に真空排気した。真空排気を継続したまま、電気炉内の温度が850℃になるまで昇温した。850℃に到達した後、電気炉内に窒素ガスを導入し、電気炉内の圧力が0.85MPaGとなるように調整した。その後、窒素ガスの雰囲気下で、電気炉内の温度が1950℃になるまで昇温し、到達後はその温度を維持した状態で4時間かけて加熱処理を行った(予焼成工程)。その後、加熱を終了し、室温まで冷却させた。室温まで冷却した後、容器から塊状物を回収し、予焼成粉末を得た。
なお、本焼成前の得られた10gの予焼成粉末における篩通過割合(重量%)は、表1の値を示すことを確認した。
比較例2の予焼成粉末中の(Sr,Ca)AlSiNの結晶相の割合は、表1に示す値となることを確認した。
【0067】
【表1】
【0068】
<455nmの光に対する光吸収率、内部量子効率、外部量子効率、及び発光ピーク波長の測定>
実施例1~3及び比較例1~2で得られた蛍光体粉末について、それぞれ、波長455nmの励起光を照射した場合の光の吸収率(光吸収率)、内部量子効率及び外部量子効率を、以下の手順で算出した。結果を表1に示す。
【0069】
まず、測定対象である蛍光体粉末を、凹型セルに表面が平滑になるように充填し、積分球の開口部に取り付けた。発光光源であるXeランプから455nmの波長に分光した単色光を、光ファイバーを用いて蛍光体の励起光として上記積分球内に導入した。この励起光である単色光を測定対象である蛍光体粉末に照射し、蛍光スペクトルを測定した。測定には、分光光度計(大塚電子株式会社製、商品名:MCPD-7000)を用いた。
【0070】
得られた蛍光スペクトルのデータから、励起反射光フォトン数(Qref)及び蛍光フォトン数(Qem)を算出した。励起反射光フォトン数は、励起光フォトン数と同じ波長範囲で、蛍光フォトン数は465~800nmの範囲で算出した。また同じ装置を用い、積分球の開口部に反射率が99%の標準反射板(Labsphere社製、スペクトラロン(登録商標))を取り付けて、波長が455nmの励起光のスペクトルを測定した。その際、450~465nmの波長範囲のスペクトルから励起光フォトン数(Qex)を算出した。
【0071】
上述の算出結果から、以下に示す計算式に基づいて、測定対象である蛍光体粉末の455nmの励起光の吸収率、及び内部量子効率を求めた。
455nmの励起光の吸収率=((Qex-Qref)/Qex)×100
内部量子効率=(Qem/(Qex-Qref))×100
外部量子効率=(Qem/Qex)×100
なお、上記式から外部量子効率と、455nmの励起光の吸収率、及び内部量子効率との関係式は以下のように表すことができる。
外部量子効率=455nm光吸収率×内部量子効率
【0072】
蛍光体粉末の発光ピークの波長は、上記積分球の開口部に蛍光体粉末を取り付けて得られたスペクトルデータの、波長465~800nmの範囲で最も高い強度を示した波長とした。
【0073】
<粒子径の測定>
レーザー回折・散乱法の粒子径測定装置であるMicrotrac MT3300EXII(マイクロトラック・ベル株式会社)により、以下の処理を施して蛍光体粉末の粒径分布を測定した。得られた粒径分布から、体積基準の積算分率における累積50%に相当する各粒径D50(μm)を求めた。
超音波ホモジナイザーとして、「US-150E」(株式会社日本精機製作所製)を用いた。
(処理)蛍光体粉末30mgを、濃度0.2%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液100ml中に均一に分散させた分散液を、底面の内径5.5cmの円柱状容器に入れた。次に当該分散液の上方から、超音波ホモジナイザの振動子(外径20mmの円柱状チップ)部分を挿入し、当該振動子が深さ1.0cm以上まで浸漬した状態で、周波数19.5kHz、出力150Wで3分間、当該分散液に超音波を照射した。
【0074】
<蛍光体粉末を分散させた硬化樹脂シートについての全光束の測定>
[硬化樹脂シート(測定サンプル)の調製]
まず、測定対象である蛍光体粉末40質量部と、シリコーン樹脂(東レ・ダウコーニング社製、商品名:OE-6630)60質量部と、を自転・公転ミキサーを用いて撹拌処理及び脱泡処理することによって均一な混合物(液体)を得た。次に、上記混合物を、透明な第一のフッ素樹脂フィルム上に滴下し、その滴下物の上からさらに透明な第二のフッ素樹脂フィルムを重ねることによって、シート状の積層物を得た。さらにシート状の積層物を、第一のフッ素樹脂フィルム及び第二のフッ素樹脂フィルムの合計厚みに50μmを加えたギャップを持つローラーを用いて、上記滴下物の層の厚みを調整して、未硬化シートに成形した。
【0075】
上記未硬化シートを、150℃、60分間の条件で加熱処理した。加熱処理の後、第一のフッ素樹脂フィルム及び第二のフッ素樹脂フィルムをはく離して、膜厚が50±5μmである、蛍光体が内部に分散した硬化樹脂シートを得た。
【0076】
[全光束の測定]
450~460nmの範囲内にピーク波長を持つ青色発光ダイオード(青色LED)を用意した。当該青色LEDから発せられる青色光を樹脂硬化シートの一方の主面に対して照射し、樹脂硬化シートの他方の主面側から発せられる光の発光スペクトルを測定した。当該発光スペクトルの500~800nmの範囲の波長域におけるスペクトルデータから、全光束を算出した。評価結果は、比較例1の蛍光体を用いて作製した全光束を100%とした場合の相対評価とした。結果を表1に示す。
【0077】
なお、測定に用いた青色発光ダイオードは、ピーク波長が450~460nmであり、色度Xが0.145~0.165であり、色度Yが0.023~0.037である発光ダイオード(品番:SMT形、PLCC-6、0.2W、SMD 5050LED)を用いた。
【0078】
実施例1~3の蛍光体粉末は、比較例1~2と比べて、粉体時における発光強度が高く、また、シート時における全光束も高い値という結果を示した。このような実施例の蛍光体粉末は、ミニLEDまたはマイクロLEDに好ましく適用可能である。