(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094883
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】網膜投影装置及びニアアイウェアラブル装置
(51)【国際特許分類】
G02B 27/02 20060101AFI20240703BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20240703BHJP
H04N 5/64 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
G02B5/18
H04N5/64 511A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211773
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】水野 友人
(72)【発明者】
【氏名】福澤 英明
(72)【発明者】
【氏名】林 杰曙
【テーマコード(参考)】
2H199
2H249
【Fターム(参考)】
2H199CA04
2H199CA05
2H199CA06
2H199CA29
2H199CA32
2H199CA42
2H199CA45
2H249AA07
2H249AA13
2H249AA50
2H249AA60
2H249AA64
2H249AA69
(57)【要約】
【課題】レンズ上の反射体が設けられる領域を縮小すること。
【解決手段】網膜投影装置は、レーザ光を出射する光源ユニット21と、レーザ光Lsによる走査を行うための可動ミラー23と、可動ミラー23を経由したレーザ光Lsを反射して、ニアアイウェアラブル装置を装着するユーザの網膜REに反射光Lrを照射することで、網膜REに映像を投影する反射体30と、を備え、反射体30は、ニアアイウェアラブル装置のレンズの内面3aに沿って設けられた複数の単位領域を含み、複数の単位領域のそれぞれは、当該単位領域に可動ミラー23を経由したレーザ光Lsが入射した時に単位領域が設けられている位置に応じた反射角でレーザ光Lsを反射するように構成されたナノ構造体である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニアアイウェアラブル装置に搭載される網膜投影装置であって、
レーザ光を出射する光源と、
前記レーザ光による走査を行うための可動ミラーと、
前記可動ミラーを経由した前記レーザ光を反射して、前記ニアアイウェアラブル装置を装着するユーザの網膜に反射光を照射することで、前記網膜に映像を投影する反射体と、
を備え、
前記反射体は、前記ニアアイウェアラブル装置のレンズの前記ユーザの眼球と向かい合う面に沿って設けられた複数の単位領域を含み、
前記複数の単位領域のそれぞれは、当該単位領域に前記可動ミラーを経由した前記レーザ光が入射した時に前記単位領域が設けられている位置に応じた反射角で前記レーザ光を反射するように構成されたナノ構造体である、網膜投影装置。
【請求項2】
前記複数の単位領域のそれぞれは、前記面と交差する第1方向において、第1金属層、誘電体層、及び第2金属層を順に含む積層体であり、
前記第2金属層は、前記第1方向と交差する第2方向に配列された複数の金属体を含む、請求項1に記載の網膜投影装置。
【請求項3】
前記複数の単位領域のそれぞれは、前記第2方向において、前記反射角に応じた長さを有し、
前記複数の金属体のそれぞれの大きさは、前記単位領域の前記第2方向における第1端から第2端に向かって前記反射光の位相変化量が直線的に増加又は減少するように設定されている、請求項2に記載の網膜投影装置。
【請求項4】
前記第1金属層は、前記面上に設けられる、請求項2又は請求項3に記載の網膜投影装置。
【請求項5】
前記積層体は、前記面に貼り付けられた基材上に設けられる、請求項2又は請求項3に記載の網膜投影装置。
【請求項6】
前記基材は、サファイア基板である、請求項5に記載の網膜投影装置。
【請求項7】
前記基材は、フレキシブルシートである、請求項5に記載の網膜投影装置。
【請求項8】
前記第1金属層及び前記第2金属層は、金、銅、銀、イリジウム、ルテニウム、ロジウム、チタン、タンタル、タングステン、コバルト、鉄、及びニッケルからなる組から選択された少なくとも1つの元素を含む金属で構成され、
前記誘電体層は、シリコン酸化物、チタン酸化物、マグネシウム酸化物、及びアルミニウム酸化物からなる組から選択された1つの化合物で構成される、請求項2又は請求項3に記載の網膜投影装置。
【請求項9】
前記レーザ光は、第1波長を有する第1成分と、第1波長とは異なる第2波長を有する第2成分と、を含み、
前記複数の単位領域は、前記第1成分用の単位領域と前記第2成分用の単位領域とを含む、請求項1又は請求項2に記載の網膜投影装置。
【請求項10】
請求項1又は請求項2に記載の網膜投影装置と、
前記レンズと、
を備える、ニアアイウェアラブル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、網膜投影装置及びニアアイウェアラブル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートグラスなどのニアアイウェアラブル装置が知られている。例えば、特許文献1には、テンプルに設けられた画像源と、画像源からの光を方向転換するミラーと、ユーザの鼻の近傍に設けられた二次ミラーと、ユーザの目の前に設けられたコンバイナと、を備えるニアアイディスプレイアセンブリが開示されている。特許文献2には、画像源と、画像源に光学的に結合されたナノ構造面を含むコンバイナと、を備え、コンバイナのナノ構造面に画像情報が形成されることによって、ユーザの視野内に画像情報を運ぶニアアイディスプレイアセンブリが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2019/0369401号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2018/0113310号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のニアアイディスプレイアセンブリでは、レンズの内面からコンバイナが突出しているので、装置が大型化する。特許文献1及び特許文献2に記載のニアアイディスプレイアセンブリでは、コンバイナが画像投影面を形成しているので、画像を表示させるのに十分な程度に大きい反射面(反射体)が形成される。
【0005】
本開示は、レンズ上の反射体が設けられる領域を縮小可能な網膜投影装置及びニアアイウェアラブル装置を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る網膜投影装置は、ニアアイウェアラブル装置に搭載される装置である。この網膜投影装置は、レーザ光を出射する光源と、レーザ光による走査を行うための可動ミラーと、可動ミラーを経由したレーザ光を反射して、ニアアイウェアラブル装置を装着するユーザの網膜に反射光を照射することで、網膜に映像を投影する反射体と、を備える。反射体は、ニアアイウェアラブル装置のレンズのユーザの眼球と向かい合う面に沿って設けられた複数の単位領域を含む。複数の単位領域のそれぞれは、当該単位領域に可動ミラーを経由したレーザ光が入射した時に単位領域が設けられている位置に応じた反射角でレーザ光を反射するように構成されたナノ構造体である。
【0007】
この網膜投影装置では、ニアアイウェアラブル装置のレンズのユーザの眼球と向かい合う面に沿って複数のナノ構造体が設けられており、ナノ構造体によってレーザ光が反射され、反射光が網膜に照射されることによって、網膜に映像が投影される。このため、反射体は映像を表示させる必要が無いので、映像を表示するコンバイナと比較して、レンズ上の反射体が設けられる領域を縮小することができる。
【0008】
いくつかの実施形態において、複数の単位領域のそれぞれは、上記面と交差する第1方向において、第1金属層、誘電体層、及び第2金属層を順に含む積層体であってもよい。第2金属層は、第1方向と交差する第2方向に配列された複数の金属体を含んでもよい。この構成によれば、各単位領域では、第1方向において第1金属層の上に誘電体層を介して第2金属層が設けられ、第2金属層では第2方向において複数の金属体が配列されているので、各単位領域は、反射ミラーとして機能し得る。したがって、各金属体の大きさを調整することにより、反射角を制御することができる。
【0009】
いくつかの実施形態において、複数の単位領域のそれぞれは、第2方向において、前記反射角に応じた長さを有してもよい。複数の金属体のそれぞれの大きさは、単位領域の第2方向における第1端から第2端に向かって反射光の位相変化量が直線的に増加又は減少するように設定されてもよい。この場合、第2方向における位置と反射光の位相変化量との関係を示す関数の傾きを波数ベクトルとして有する平面波が生じる。これにより、単位領域の第2方向における長さによって反射角を調整することが可能となる。
【0010】
いくつかの実施形態において、第1金属層は、上記面上に設けられてもよい。この場合、積層体がレンズに直接形成され得るので、別部品として反射ミラーを付加する必要が無くなり、網膜投影装置の製造工数を削減することができる。したがって、網膜投影装置の製造を簡易化することが可能となる。
【0011】
いくつかの実施形態において、積層体は、上記面に貼り付けられた基材上に設けられてもよい。この場合、レンズに積層体を直接形成する必要が無いので、既存のレンズの機能に影響を与えることなく、反射機能を付加することができる。
【0012】
いくつかの実施形態において、基材は、サファイア基板であってもよい。サファイア基板は可視光を透過することができるため、反射体を配置する部分と配置しない部分とを任意に選ぶことにより、実質的に透明性を有した反射ミラーを実現することができる。
【0013】
いくつかの実施形態において、基材は、フレキシブルシートであってもよい。この場合、レンズ曲面に沿うように変形することが可能な反射ミラーを実現することができる。
【0014】
いくつかの実施形態において、第1金属層及び第2金属層は、金、銅、銀、イリジウム、ルテニウム、ロジウム、チタン、タンタル、タングステン、コバルト、鉄、及びニッケルからなる組から選択された少なくとも1つの元素を含む金属で構成されてもよい。誘電体層は、シリコン酸化物、チタン酸化物、マグネシウム酸化物、及びアルミニウム酸化物からなる組から選択された1つの化合物で構成されてもよい。この場合、ある程度高い反射率とある程度高い導電率とを有する第1金属層及び第2金属層が得られ、電磁気作用を阻害しない誘電率を有する誘電体層が得られる。したがって、第1金属層と第2金属層との電磁気的な共鳴を強くすることができ、ナノ構造の反射体としての反射効果を高めることができる。
【0015】
いくつかの実施形態において、レーザ光は、第1波長を有する第1成分と、第1波長とは異なる第2波長を有する第2成分と、を含んでもよい。複数の単位領域は、第1成分用の単位領域と第2成分用の単位領域とを含んでもよい。反射角はレーザ光の波長によって変動する。上記構成によれば、レーザ光に含まれる異なる波長成分ごとに単位領域が設けられるので、レーザ光を所望の反射角で反射することが可能となる。
【0016】
本開示の別の側面に係るニアアイウェアラブル装置は、上記網膜投影装置と、レンズと、を備える。このニアアイウェアラブル装置においても、レンズ上の反射体が設けられる領域を縮小することができる。
【発明の効果】
【0017】
本開示の各側面及び各実施形態によれば、レンズ上の反射体が設けられる領域を縮小することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る網膜投影装置を含むニアアイウェアラブル装置の外観を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示される網膜投影装置を概略的に示す構成図である。
【
図3】
図3は、
図2に示される反射体を拡大して示す図である。
【
図4】
図4は、
図1に示される網膜投影装置の動作原理を説明するための図である。
【
図5】
図5は、
図3に示される単位領域の一例を概略的に示す平面図である。
【
図7】
図7は、単位領域のX軸方向における位置での反射光の位相変化量を示す図である。
【
図8】
図8は、青色の波長に対する、単位領域のX軸方向における長さごとの入射角と反射角との関係を示す図である。
【
図9】
図9は、緑色の波長に対する、単位領域のX軸方向における長さごとの入射角と反射角との関係を示す図である。
【
図10】
図10は、赤色の波長に対する、単位領域のX軸方向における長さごとの入射角と反射角との関係を示す図である。
【
図11】
図11は、金属体の長さと反射波の位相変化量との関係を示す図である。
【
図13】
図13は、
図3に示される単位領域の更に別の例を概略的に示す平面図である。
【
図14】
図14は、
図3に示される単位領域の更に別の例を概略的に示す平面図である。
【
図15】
図15は、
図3に示される単位領域の更に別の例を概略的に示す平面図である。
【
図16】
図16は、
図3に示される単位領域の更に別の例を概略的に示す平面図である。
【
図18】
図18は、近赤外線の波長に対する、単位領域のX軸方向における長さごとの入射角と反射角との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本開示の実施形態が詳細に説明される。なお、図面の説明において同一要素には同一符号が付され、重複する説明は省略される。各図には、XYZ座標系が示される場合がある。Y軸方向(第3方向)は、X軸方向(第2方向)及びZ軸方向(第1方向)と交差(例えば、直交)する方向である。Z軸方向は、X軸方向及びY軸方向と交差(例えば、直交)する方向である。
【0020】
図1を参照しながら、一実施形態に係る網膜投影装置を含むニアアイウェアラブル装置を説明する。
図1は、一実施形態に係る網膜投影装置を含むニアアイウェアラブル装置の外観を示す斜視図である。
図1に示されるニアアイウェアラブル装置1は、現実世界の視界に映像を重ね合わせる装置である。ニアアイウェアラブル装置1は、例えば、頭部装着型の装置(ヘッドマウント装置)であり、眼鏡型、ゴーグル型、帽子型、及びヘルメット型などの形態をとり得る。ニアアイウェアラブル装置1の例としては、AR(Augmented Reality)グラス及びMR(Mixed Reality)グラスなどのスマートグラスが挙げられる。ニアアイウェアラブル装置1は、フレーム2と、レンズ3と、網膜投影装置10と、を含む。
【0021】
フレーム2は、一対のリム2aと、ブリッジ2bと、一対のテンプル2cと、を含む。リム2aは、レンズ3を保持する部分である。ブリッジ2bは、一対のリム2aを連結する部分である。テンプル2cは、リム2aから延び、ユーザの耳に掛けられる部分である。フレーム2は、リムレスのフレームであってもよい。レンズ3は、ニアアイウェアラブル装置1を装着しているユーザの眼球E(
図4参照)と向かい合う内面3a(
図2参照)を有する。
【0022】
網膜投影装置10は、ニアアイウェアラブル装置1を装着しているユーザの網膜RE(
図4参照)に映像を直接投影(描画)する装置である。網膜投影装置10は、ニアアイウェアラブル装置1に搭載されている。本実施形態では、左右両方の網膜に映像を投影するために、ニアアイウェアラブル装置1は、2つの網膜投影装置10を含むが、いずれか一方の網膜投影装置10のみを含んでもよい。
【0023】
次に、
図2~
図4を参照しながら、網膜投影装置10を詳細に説明する。
図2は、
図1に示される網膜投影装置を概略的に示す構成図である。
図3は、
図2に示される反射体を拡大して示す図である。
図4は、
図1に示される網膜投影装置の動作原理を説明するための図である。
図2に示されるように、網膜投影装置10は、光学エンジン20と、反射体30と、を含む。
【0024】
光学エンジン20は、網膜REに投影する映像の画素に対応した色及び強度のレーザ光Lsを生成し、レーザ光Lsを反射体30に出射する装置である。光学エンジン20は、各テンプル2cに搭載されている。光学エンジン20は、光源ユニット21(光源)と、光学部品22と、可動ミラー23と、レーザドライバ24と、ミラードライバ25と、コントローラ26と、を含む。
【0025】
光源ユニット21は、レーザ光を出射する。光源ユニット21としては、例えば、フルカラーレーザモジュールが用いられる。光源ユニット21は、赤色レーザダイオードと、緑色レーザダイオードと、青色レーザダイオードと、各レーザダイオードから出射されるレーザ光を1つのレーザ光に合波する合波部とを含む。光源ユニット21は、合波されたレーザ光を出射する。合波されたレーザ光は、赤色の波長(第1波長)を有する成分(赤色成分;第1成分)、緑色の波長(第2波長)を有する成分(緑色成分;第2成分)、及び青色の波長を有する成分(青色成分)を含む。光源ユニット21は、網膜REに投影する映像の画素に対応した色及び強度のレーザ光を出射する。
【0026】
光学部品22は、光源ユニット21から出射されたレーザ光を光学的に処理する部品である。本実施形態では、光学部品22は、コリメータレンズ22aと、スリット22bと、減光フィルタ22cと、を含む。コリメータレンズ22a、スリット22b、及び減光フィルタ22cは、レーザ光の光路に沿ってその順に配列されている。光学部品22は、他の構成を有してもよい。
【0027】
可動ミラー23は、レーザ光Lsによる走査を行うための部材である。可動ミラー23は、光学部品22によって処理されたレーザ光の出射方向に設けられる。可動ミラー23は、例えば、レンズ3の横方向(X軸方向)に延びる軸回り及びレンズ3の縦方向(Y軸方向)に延びる軸回りに揺動可能に構成され、X軸方向及びY軸方向に角度を変えてレーザ光を反射する。可動ミラー23としては、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラーが用いられる。
【0028】
レーザドライバ24は、光源ユニット21を駆動する駆動回路である。レーザドライバ24は、例えば、レーザ光の光パワー及び光源ユニット21の温度に基づき、光源ユニット21を駆動する。ミラードライバ25は、可動ミラー23を駆動する駆動回路である。ミラードライバ25は、可動ミラー23を所定の角度範囲及びタイミングで揺動させる。コントローラ26は、レーザドライバ24及びミラードライバ25を制御する装置である。
【0029】
光学エンジン20では、網膜REに投影する映像の画素に対応した色及び強度のレーザ光が光源ユニット21から出射され、光学部品22を通過して可動ミラー23によって反射される。可動ミラー23によって反射されたレーザ光は、レーザ光Lsとして反射体30に出射される。
【0030】
反射体30は、可動ミラー23を経由したレーザ光Lsを反射して、ニアアイウェアラブル装置1を装着するユーザの網膜REに反射光Lrを照射することで、網膜REに映像を投影する部材である。反射体30には映像は表示されない。
図3に示されるように、反射体30は、複数の単位領域31を含む。複数の単位領域31は、レンズ3の内面3aに沿って設けられている。複数の単位領域31は、レンズ3の横方向(X軸方向)と縦方向(Y軸方向)とに2次元アレイ状に配列されている。
【0031】
複数の単位領域31は、赤色成分用の単位領域31(第1成分用の単位領域)と、緑色成分用の単位領域31(第2成分用の単位領域)と、青色成分用の単位領域31と、を含む。X軸方向において、赤色成分用の単位領域31、緑色成分用の単位領域31、及び青色成分用の単位領域31の組が配列されている。Y軸方向においても、赤色成分用の単位領域31、緑色成分用の単位領域31、及び青色成分用の単位領域31が順に配列されている。
【0032】
各単位領域31は、当該単位領域31にレーザ光Lsが入射した時に、単位領域31が設けられている位置に応じた反射角θ
r(
図6参照)でレーザ光Lsを反射するように構成されたナノ構造体である。各単位領域31によって反射されるレーザ光Ls(反射光Lr)が瞳孔PPの中心を通過するように、各単位領域31の反射角θ
rは設定される。したがって、入射角θ
i及び反射角θ
rは、単位領域31が設けられている位置によって定まる。単位領域31が設けられている位置に応じた入射角θ
i及び反射角θ
rが得られるように、単位領域31は構成されている。例えば、
図4に示されるように、ユーザの瞳孔PPが正面を向いている場合には、X軸方向において位置Paから位置Pcに設けられている単位領域31が用いられる。
【0033】
位置Paに設けられている単位領域31によって反射されるレーザ光Lsは、映像の右端の画素に対応する。位置Pbは、位置Paと位置Pcとの中間に位置し、位置Pbに設けられている単位領域31によって反射されるレーザ光Lsは、映像の中央の画素に対応する。位置Pcに設けられている単位領域31によって反射されるレーザ光Lsは、映像の左端の画素に対応する。
【0034】
位置Paに設けられている単位領域31では、30°の入射角θiでレーザ光Lsが入射し、5°の反射角θrでレーザ光Lsが反射されて反射光Lrとして出射される。位置Pbに設けられている単位領域31では、40°の入射角θiでレーザ光Lsが入射し、-5°の反射角θrでレーザ光Lsが反射されて反射光Lrとして出射される。位置Pcに設けられている単位領域31では、50°の入射角θiでレーザ光Lsが入射し、-10°の反射角θrでレーザ光Lsが反射されて反射光Lrとして出射される。
【0035】
ここで、入射角θiは、レーザ光Lsが照射される面の法線とレーザ光Lsの入射方向とが成す角度である。反射角θrは、レーザ光Lsが照射される面の法線と反射光Lrの出射方向とが成す角度である。レーザ光Lsと反射光Lrとを含む平面において、法線を境界として入射光(レーザ光Ls)とは反対側に反射光Lrが出射される場合に、反射角θrは正の値で表され、法線を境界として入射光(レーザ光Ls)と同じ側に反射光Lrが出射される場合に、反射角θrは負の値で表される。
【0036】
次に、
図5及び
図6を参照しながら、単位領域31の構成を説明する。
図5は、
図3に示される単位領域の一例を概略的に示す平面図である。
図6は、
図5のVI-VI線に沿った断面図である。
図5及び
図6に示されるように、各単位領域31は、Z軸方向において、金属層41(第1金属層)、誘電体層42、及び金属層43(第2金属層)を順に含む積層体40である。単位領域31のY軸方向における長さLyは、例えば、300nm程度である。単位領域31のX軸方向における長さLxは、反射角θ
rに応じて決定される。長さLxの決定方法については後述する。
【0037】
金属層41は、ベースとなる層である。金属層41は、レンズ3の内面3a上に設けられる。金属層41は、例えば、金(Au)、銅(Cu)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、及びニッケル(Ni)からなる組から選択された少なくとも1つの元素を含む金属で構成される。金属層41のZ軸方向における長さ(厚さd1)は、金属層41が共鳴電流を流すことができ、かつ、光を反射可能となる長さであればよく、例えば、1nm~1000nmである。
【0038】
誘電体層42は、スペーサとして機能する層である。誘電体層42は、金属層41上に設けられる。誘電体層42は、金属層41と金属層43とによる電磁気作用を阻害しない程度の誘電率を有する。誘電体層42は、高い反射特性を実現するために、誘電率の高い材料で構成されてもよい。誘電体層42は、例えば、シリコン酸化物(例えば、SiO2)、チタン酸化物(例えば、TiO2)、マグネシウム酸化物(例えば、MgO)、及びアルミニウム酸化物(例えば、Al2O3)からなる組から選択された1つの化合物で構成される。誘電体層42のZ軸方向における長さ(厚さd2)は、例えば、1nm~1000nmである。
【0039】
金属層43は、金属層41とともに電磁気的な共鳴を励起する層である。金属層43は、誘電体層42上に設けられる。金属層43は、金属層41と同様に、例えば、金(Au)、銅(Cu)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、及びニッケル(Ni)からなる組から選択された少なくとも1つの元素を含む金属で構成される。
【0040】
金属層43は、X軸方向に配列された複数の金属体44を含む。各金属体44のZ軸方向における長さ(厚さd3)は、例えば、1nm~1000nmである。各金属体44のX軸方向における長さ(幅Wm)は、100nm程度である。各金属体44のY軸方向における長さLmは、反射角θrに応じて決定される。長さLmの決定方法については後述する。X軸方向に互いに隣り合う2つの金属体44の間隔Dsは、反射光の波面が連続的となるように設定される。間隔Dsは、2つの金属体44が接触しない大きさであればよく、例えば、入射光(レーザ光Ls)の波長の半分以下に設定される。間隔Dsは、例えば、20nm程度である。複数の金属体44は、例えば、フォトリソグラフィによって形成される。
【0041】
次に、
図7~
図16を更に参照しながら、長さLx及び長さLmの決定方法を説明する。
図7は、単位領域のX軸方向における位置での反射光の位相変化量を示す図である。
図8は、青色の波長に対する、単位領域のX軸方向における長さごとの入射角と反射角との関係を示す図である。
図9は、緑色の波長に対する、単位領域のX軸方向における長さごとの入射角と反射角との関係を示す図である。
図10は、赤色の波長に対する、単位領域のX軸方向における長さごとの入射角と反射角との関係を示す図である。
図11は、金属体の長さと反射波の位相変化量との関係を示す図である。
図12~
図16は、
図3に示される単位領域の例を概略的に示す平面図である。
【0042】
上述のように、複数の金属体44によって反射ミラーが形成されている。
図5及び
図7に示されるように、複数の金属体44の長さLmは、単位領域31のX軸方向における一端31a(第1端)から他端31b(第2端)に向かって、金属体44による反射光Lrの位相変化量φが直線的に増加又は減少するように設定されている。反射光Lrの位相変化量φとは、金属体44の大きさを変化させた際の反射光Lrの位相変化量である。なお、本実施形態では、X軸方向に互いに隣り合う2つの金属体44が1つの組を構成しており、同一の組に含まれる2つの金属体44の長さLmは等しい。各組の金属体44は異なる位相変化量φでレーザ光を反射するので、反射光間の干渉により、波面が形成される。すなわち、X軸方向における位置xと位相変化量φとの関係を示す関数φ(x)の傾きを波数ベクトルΦとして有する平面波が生じる。
【0043】
ここで、スネルの法則は、一般化すると、レーザ光Lsの波数ベクトルk
0、入射角θ
i、反射角θ
r、及び波数ベクトルΦを用いて式(1)で表される。
【数1】
【0044】
波数ベクトルk
0は、レーザ光Lsの波長λを用いて、2π/λで表される。波数ベクトルΦは、長さLxを用いて、2π/Lxで表される。これらの関係を用いて式(1)を変形することによって、式(2)が得られる。
【数2】
【0045】
式(2)に、単位領域31に対応するレーザ光Lsの色成分の波長と、単位領域31が設けられている位置に応じたレーザ光Lsの入射角θi及び反射角θrと、を代入することによって、単位領域31の長さLxが求められる。
【0046】
例えば、レーザ光Lsに含まれる青色成分の波長λが430nmであるとすると、式(2)から、
図8に示される各長さLxにおける入射角θ
iと反射角θ
rとの関係が得られる。位置Paに設けられている単位領域31では、30°の入射角θ
iでレーザ光Lsが入射し、5°の反射角θ
rでレーザ光Lsが反射されて反射光Lrとして出射される。したがって、位置Paに設けられている青色成分用の単位領域31の長さLxは-0.0010mm(=-1.0μm)に決定される。ここで、長さLxは、一端31aから他端31bに向かって金属体44の長さLmが増加している場合に正の値で表され、一端31aから他端31bに向かって金属体44の長さLmが減少している場合に負の値で表される。
【0047】
同様に、位置Pbに設けられている単位領域31では、40°の入射角θiでレーザ光Lsが入射し、-5°の反射角θrでレーザ光Lsが反射されて反射光Lrとして出射される。したがって、位置Pbに設けられている青色成分用の単位領域31の長さLxは-0.0006mm(=-0.6μm)に決定される。位置Pcに設けられている単位領域31では、50°の入射角θiでレーザ光Lsが入射し、-10°の反射角θrでレーザ光Lsが反射されて反射光Lrとして出射される。したがって、位置Pcに設けられている青色成分用の単位領域31の長さLxは-0.0004mm(=-0.4μm)に決定される。
【0048】
レーザ光Lsに含まれる緑色成分の波長λが530nmであるとすると、式(2)から、
図9に示される各長さLxにおける入射角θ
iと反射角θ
rとの関係が得られる。位置Paに設けられている単位領域31では、30°の入射角θ
iでレーザ光Lsが入射し、5°の反射角θ
rでレーザ光Lsが反射されて反射光Lrとして出射される。したがって、位置Paに設けられている緑色成分用の単位領域31の長さLxは-0.0012mm(=-1.2μm)に決定される。同様にして、位置Pbに設けられている緑色成分用の単位領域31の長さLxは-0.0007mm(=-0.7μm)に決定される。位置Pcに設けられている緑色成分用の単位領域31の長さLxは-0.0006mm(=-0.6μm)に決定される。
【0049】
レーザ光Lsに含まれる赤色成分の波長λが750nmであるとすると、式(2)から、
図10に示される各長さLxにおける入射角θ
iと反射角θ
rとの関係が得られる。したがって、位置Paに設けられている赤色成分用の単位領域31の長さLxは-0.0020mm(=-2.0μm)に決定される。位置Pbに設けられている赤色成分用の単位領域31の長さLxは-0.0010mm(=-1.0μm)に決定される。位置Pcに設けられている赤色成分用の単位領域31の長さLxは-0.0008mm(=-0.8μm)に決定される。
【0050】
続いて、単位領域31に含まれる各金属体44の長さLmが決定される。1つの単位領域31では、一端31aから他端31bにわたって位相変化量φが直線的に(1次関数的に)変化し、かつ、一端31aから他端31bまでで位相変化量φが360°(2πラジアン)変化するという条件が満たされる必要がある。したがって、長さLxが正の値である場合には、上記条件を満たし、かつ、一端31aから他端31bに向かって長さLmが増加するように、各金属体44の長さLmが決定される。長さLxが負の値である場合には、上記条件を満たし、かつ、一端31aから他端31bに向かって長さLmが減少するように、各金属体44の長さLmが決定される。
【0051】
例えば、幅Wmを固定値として、長さLmと位相変化量φとの関係が計算又は実験などによって予め求められる。幅Wmが100nmであるとすると
図11に示される関係が得られる。具体的には、金属層41及び金属体44の構成材料として金(Au)が用いられ、誘電体層42の構成材料として二酸化ケイ素(SiO
2)が用いられ、厚さd1が200nm、厚さd2が50nm、厚さd3が40nm、幅Wmが100nmである場合に、異なる長さLmを有する金属体44単体の位相変化量φを求めることによって、
図11に示される関係が得られる。
【0052】
例えば、40nmの長さLmを有する金属体44(以下、「金属体44A」と称する。)では位相変化量φは0°であり、100nmの長さLmを有する金属体44(以下、「金属体44B」と称する。)では位相変化量φは50°であり、130nmの長さLmを有する金属体44(以下、「金属体44C」と称する。)では位相変化量φは140°であり、150nmの長さLmを有する金属体44(以下、「金属体44D」と称する。)では位相変化量φは200°であり、250nmの長さLmを有する金属体44(以下、「金属体44E」と称する。)では位相変化量φは300°である。
【0053】
上記条件を満たすように、長さLxに応じて上記金属体44の中からいくつかの金属体44を選択し、選択された金属体44をX軸方向に配列することによって、単位領域31に含まれる金属体44の数及び長さLmが決定されてもよい。同じ長さLmを有する2つの金属体44を組として、複数の組がX軸方向に配列されてもよい。例えば、
図7に示されるように、長さLxが1200nmである場合には、X軸方向において、一端31aから他端31bに向けて、金属体44A、金属体44A、金属体44B、金属体44B、金属体44C、金属体44C、金属体44D、金属体44D、金属体44E、及び金属体44Eが20nmの間隔Dsで順に配列される。
【0054】
図12に示されるように、長さLxが720nmである場合には、X軸方向において、一端31aから他端31bに向けて、金属体44A、金属体44A、金属体44C、金属体44C、金属体44D、及び金属体44Dが20nmの間隔Dsで順に配列される。
図13に示されるように、長さLxが480nmである場合には、X軸方向において、一端31aから他端31bに向けて、金属体44A、金属体44A、金属体44D、及び金属体44Dが20nmの間隔Dsで順に配列される。
【0055】
同じ長さLmを有する2つの金属体44の組がX軸方向に配列される構成に代えて、互いに異なる長さLmを有する金属体44が1つずつX軸方向に配列されてもよい。例えば、
図14に示されるように、長さLxが1200nmである場合には、X軸方向において、一端31aから他端31bに向けて、40nmの長さLmを有する金属体44、75nmの長さLmを有する金属体44、100nmの長さLmを有する金属体44、112nmの長さLmを有する金属体44、130nmの長さLmを有する金属体44、137nmの長さLmを有する金属体44、150nmの長さLmを有する金属体44、200nmの長さLmを有する金属体44、250nmの長さLmを有する金属体44、及び263nmの長さLmを有する金属体44が20nmの間隔Dsで順に配列される。
【0056】
図15に示されるように、長さLxが720nmである場合には、X軸方向において、一端31aから他端31bに向けて、40nmの長さLmを有する金属体44、110nmの長さLmを有する金属体44、130nmの長さLmを有する金属体44、140nmの長さLmを有する金属体44、150nmの長さLmを有する金属体44、及び250nmの長さLmを有する金属体44が20nmの間隔Dsで順に配列される。
図16に示されるように、長さLxが480nmである場合には、X軸方向において、一端31aから他端31bに向けて、40nmの長さLmを有する金属体44、118nmの長さLmを有する金属体44、150nmの長さLmを有する金属体44、及び215nmの長さLmを有する金属体44が20nmの間隔Dsで順に配列される。
【0057】
このように、互いに異なる長さLmを有する金属体44を1つずつX軸方向に配列することにより、関数φ(x)が直線に近づくので、反射光の波面が平面に近づく。
【0058】
なお、X軸方向における位置及びY軸方向における位置に応じて、入射角θiと反射角θrとの組み合わせが決定される。上述の例では、X軸方向において異なる位置に設けられる単位領域31の構造を説明したが、Y軸方向において異なる位置に設けられる単位領域31も同様に、その位置に対応する入射角θiと反射角θrとの組み合わせを実現可能な構造を有する。
【0059】
次に、ニアアイウェアラブル装置1の製造方法を説明する。まず、レンズ3が準備され、レンズ3が真空成膜装置にセットされる。そして、レンズ3の内面3a上の所望の領域に金属層41が形成される。具体的には、DC(Direct Current)スパッタリングなどの手法を用いて、真空成膜により金属層41が形成される。金属層41の形成には、金(Au)、銅(Cu)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、及びニッケル(Ni)からなる組から選択されるいずれかの金属、又は、上記組から選択される少なくとも1つの元素を含む金属合金で構成される金属材料が用いられる。金属層41は、例えば、1nm~1000nmの膜厚で形成される。金属材料として金が用いられる場合には、金属層41の膜厚は、例えば、200nmである。
【0060】
続いて、金属層41上に誘電体層42が形成される。具体的には、RF(Radio Frequency)スパッタリングなどの手法を用いて、真空成膜により誘電体層42が形成される。誘電体層42の形成には、半導体プロセスで形成可能な二酸化ケイ素(SiO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化マグネシウム(MgO)、又は酸化アルミニウム(Al2O3)などの誘電体材料が用いられる。誘電体層42は、例えば、1nm~1000nmの膜厚で形成される。誘電体材料として二酸化ケイ素が用いられる場合には、誘電体層42の膜厚は、例えば、40nmである。
【0061】
続いて、誘電体層42上に金属層43のもととなる金属層(以下、「最表面の金属層」と称する。)が形成される。最表面の金属層の形成方法は、金属層41と同様であるので、詳細な説明を省略する。最表面の金属層は、例えば、1nm~1000nmの膜厚で形成される。金属材料として金が用いられる場合には、最表面の金属層の膜厚は、例えば、50nmである。
【0062】
続いて、フォトリソグラフィプロセス及びエッチングプロセスによって、金属層43(複数の金属体44)が形成される。具体的には、スピンコータなどを用いて最表面の金属層上に液状レジストを塗布し、塗布された液状レジストを乾燥させることにより、レジスト膜(フォトレジスト)が形成される。そして、KrF露光機及び電子線描画装置などの露光装置を用いて、レジスト膜に、金属体44に相当するパターンが転写される。そして、現像機を用いて、レジスト膜に転写されたパターンが現像される。そして、イオンミリング法により、最表面の金属層のうちのパターンで覆われていない部分が除去され、その後、レジスト膜が除去される。これにより、金属層43が形成される。各金属体44の幅Wm及び長さLmは、例えば、10nm~1000nmである。以上により、レンズ3の内面3aに反射体30が形成される。
【0063】
続いて、光学エンジン20が搭載されたフレーム2が準備され、フレーム2のリム2aに、反射体30が形成されたレンズ3が装着される。以上により、ニアアイウェアラブル装置1が製造される。
【0064】
反射体30(積層体40)は、レンズ3の内面3aに直接形成されなくてもよい。例えば、サファイア基板又はフレキシブルシートなどの基材に反射体30が形成されてもよい。基材に反射体30を形成する方法は、レンズ3に反射体30を形成する方法と同じである。この場合、基材には、複数の反射体30が形成されてもよい。そして、基材を切断することによって、1つの反射体30を含む部分が得られる。そして、当該部分の基材をレンズ3の内面3aの所定の領域に貼り付けることにより、レンズ3の内面3aに反射体30が形成される。
【0065】
以上説明したニアアイウェアラブル装置1及び網膜投影装置10においては、ニアアイウェアラブル装置1のレンズ3の内面3aに沿って複数のナノ構造体が設けられており、ナノ構造体によってレーザ光Lsが反射され、反射光Lrがユーザの網膜REに照射されることによって、網膜REに映像が投影される。このため、反射体30は映像を表示させる必要が無いので、映像を表示するコンバイナと比較して、レンズ3上の反射体30が設けられる領域を縮小することができる。網膜投影(網膜描画)においては、ユーザはレンズ3上の反射体30に目の焦点を合わせる必要が無く、反射体30を構成する各単位領域31がナノ構造体であるので、ユーザの視界が制限される可能性を低減することができる。
【0066】
各単位領域31では、Z軸方向において金属層41の上に誘電体層42を介して金属層43が設けられ、金属層43ではX軸方向において複数の金属体44が配列されている。このため、各単位領域31は、反射ミラーとして機能し得る。したがって、各金属体44の大きさを調整することにより、単位領域31における反射角θrを制御することができる。
【0067】
具体的には、各金属体44の大きさは、単位領域31の一端31aから他端31bに向かって反射光Lrの位相変化量φが直線的に増加又は減少するように設定されている。このため、X軸方向における位置xと反射光Lrの位相変化量φとの関係を示す関数φ(x)の傾きを波数ベクトルΦとして有する平面波が生じる。この場合、上記式(1)及び式(2)が満たされるので、単位領域31の長さLxによって反射角θrを調整することが可能となる。
【0068】
金属層41は、内面3a上に設けられてもよい。この場合、積層体40がレンズ3に直接形成され得るので、別部品として反射ミラーを付加する必要が無くなり、網膜投影装置10及びニアアイウェアラブル装置1の製造工数を削減することができる。したがって、網膜投影装置10及びニアアイウェアラブル装置1の製造を簡易化することが可能となる。
【0069】
積層体40は、内面3aに貼り付けられた基材上に設けられてもよい。この場合、レンズ3に積層体40を直接形成する必要が無いので、積層体40の形成工程においてレンズ3が汚れたり変形したりすることを回避することができる。したがって、既存のレンズ3の機能に影響を与えることなく、反射機能を付加することができる。
【0070】
積層体40が設けられる基材は、サファイア基板であってもよい。サファイア基板は可視光を透過することができる。したがって、反射体30を配置する部分と配置しない部分とを任意に選ぶことにより、実質的に透明性を有した反射ミラーを実現することができる。
【0071】
積層体40が設けられる基材は、フレキシブルシートであってもよい。フレキシブルシートは、可撓性を有している。したがって、レンズ3の曲面(内面3a)に沿うように変形することが可能な反射ミラーを実現することができる。
【0072】
複数の金属体44は、各々の寸法がナノメートルオーダーであることから、フォトリソグラフィによって形成される。このため、微細な加工が可能となるので、金属体44の形成精度を向上させることができる。その結果、網膜投影装置10の性能を向上させることが可能となる。
【0073】
金属層41及び金属層43は、金、銅、銀、イリジウム、ルテニウム、ロジウム、チタン、タンタル、タングステン、コバルト、鉄、及びニッケルからなる組から選択された少なくとも1つの元素を含む金属で構成されてもよい。誘電体層42は、シリコン酸化物、チタン酸化物、マグネシウム酸化物、及びアルミニウム酸化物からなる組から選択された1つの化合物で構成されてもよい。この場合、ある程度高い反射率とある程度高い導電率と有する金属層41及び金属層43が得られ、電磁気作用を阻害しない誘電率を有する誘電体層42が得られる。したがって、金属層41と金属層43との電磁気的な共鳴を強くすることができ、ナノ構造の反射体としての反射効果を高めることができる。
【0074】
レーザ光Lsは、互いに波長が異なる赤色成分、緑色成分及び青色成分を含む。式(2)に示されるように、単位領域31にレーザ光Lsが照射された場合の反射角θrは、レーザ光Lsの波長によって変動する。これに対し、網膜投影装置10では、レーザ光Lsに含まれる異なる波長成分ごとに単位領域31が設けられるので、レーザ光Lsを所望の反射角θrで反射することが可能となる。
【0075】
なお、本開示に係る網膜投影装置及びニアアイウェアラブル装置は上記実施形態に限定されない。
【0076】
上記実施形態では、各金属体44の幅Wmを固定し、長さLmを変更することによって、位相変化量φが調整されるが、幅Wm及び長さLmの両方を変更することによって位相変化量φが調整されてもよい。例えば、幅Wm及び長さLm以外のパラメータは、すべての金属体44で同じ値に設定されており、
図11に示される関係と同様に、幅Wm及び長さLmの組み合わせと位相変化量φとの関係が計算又は実験などによって予め求められる。そして、一端31aから他端31bにわたって位相変化量φが直線的に(1次関数的に)変化し、かつ、一端31aから他端31bまでで位相変化量φが360°(2πラジアン)変化するという条件を満たすように、単位領域31に含まれる各金属体44の幅Wm及び長さLmが決定される。
【0077】
例えば、5つの金属体44で直線的に360°の位相変化量を得る場合には、100nmの幅Wm及び100nmの長さLmを有する金属体44と、250nmの幅Wm及び250nmの長さLmを有する金属体44と、300nmの幅Wm及び300nmの長さLmを有する金属体44と、350nmの幅Wm及び350nmの長さLmを有する金属体44と、400nmの幅Wm及び400nmの長さLmを有する金属体44と、がX軸方向に順に配列されてもよい。
【0078】
光源ユニット21は、アイトラッキング用に近赤外線レーザダイオードを更に含んでもよい。この場合、光源ユニット21から出射されるレーザ光は、近赤外線の波長を有する成分(近赤外線成分)を更に含む。
図17に示されるように、反射体30は、近赤外線成分用の単位領域31を更に含む。X軸方向において、近赤外線成分用の単位領域31、赤色成分用の単位領域31、緑色成分用の単位領域31、及び青色成分用の単位領域31が1つずつ順に繰り返し配列されている。
【0079】
なお、
図17に示される例では、X軸方向において、1つの赤色成分用の単位領域31、1つの緑色成分用の単位領域31、及び1つの青色成分用の単位領域31を含む組と、近赤外線成分用の単位領域31とが、交互に配置されている。言い換えると、
図3に示される反射体30において、X軸方向に互いに隣り合う2つの組の間に近赤外線成分用の単位領域31が設けられている。
【0080】
他の単位領域31と同様に、近赤外線用の単位領域31の長さLxは、式(2)に、近赤外線成分の波長と、単位領域31が設けられている位置に応じたレーザ光Lsの入射角θ
i及び反射角θ
rと、を代入することによって求められる。レーザ光Lsに含まれる近赤外線成分の波長λが850nmであるとすると、式(2)から、
図18に示される各長さLxにおける入射角θ
iと反射角θ
rとの関係が得られる。位置Paに設けられている近赤外線成分用の単位領域31の長さLxは-0.0020mm(=-2.0μm)に決定される。位置Pbに設けられている近赤外線成分用の単位領域31の長さLxは-0.0012mm(=-1.2μm)に決定される。位置Pcに設けられている近赤外線成分用の単位領域31の長さLxは-0.0009mm(=-0.9μm)に決定される。
【0081】
(付記)
[条項1]
ニアアイウェアラブル装置に搭載される網膜投影装置であって、
レーザ光を出射する光源と、
前記レーザ光による走査を行うための可動ミラーと、
前記可動ミラーを経由した前記レーザ光を反射して、前記ニアアイウェアラブル装置を装着するユーザの網膜に反射光を照射することで、前記網膜に映像を投影する反射体と、
を備え、
前記反射体は、前記ニアアイウェアラブル装置のレンズの前記ユーザの眼球と向かい合う面に沿って設けられた複数の単位領域を含み、
前記複数の単位領域のそれぞれは、当該単位領域に前記可動ミラーを経由した前記レーザ光が入射した時に前記単位領域が設けられている位置に応じた反射角で前記レーザ光を反射するように構成されたナノ構造体である、網膜投影装置。
【0082】
[条項2]
前記複数の単位領域のそれぞれは、前記面と交差する第1方向において、第1金属層、誘電体層、及び第2金属層を順に含む積層体であり、
前記第2金属層は、前記第1方向と交差する第2方向に配列された複数の金属体を含む、条項1に記載の網膜投影装置。
【0083】
[条項3]
前記複数の単位領域のそれぞれは、前記第2方向において、前記反射角に応じた長さを有し、
前記複数の金属体のそれぞれの大きさは、前記単位領域の前記第2方向における第1端から第2端に向かって前記反射光の位相変化量が直線的に増加又は減少するように設定されている、条項2に記載の網膜投影装置。
【0084】
[条項4]
前記第1金属層は、前記面上に設けられる、条項2又は条項3に記載の網膜投影装置。
【0085】
[条項5]
前記積層体は、前記面に貼り付けられた基材上に設けられる、条項2又は条項3に記載の網膜投影装置。
【0086】
[条項6]
前記基材は、サファイア基板である、条項5に記載の網膜投影装置。
【0087】
[条項7]
前記基材は、フレキシブルシートである、条項5に記載の網膜投影装置。
【0088】
[条項8]
前記第1金属層及び前記第2金属層は、金、銅、銀、イリジウム、ルテニウム、ロジウム、チタン、タンタル、タングステン、コバルト、鉄、及びニッケルからなる組から選択された少なくとも1つの元素を含む金属で構成され、
前記誘電体層は、シリコン酸化物、チタン酸化物、マグネシウム酸化物、及びアルミニウム酸化物からなる組から選択された1つの化合物で構成される、条項2~条項7のいずれか一項に記載の網膜投影装置。
【0089】
[条項9]
前記レーザ光は、第1波長を有する第1成分と、第1波長とは異なる第2波長を有する第2成分と、を含み、
前記複数の単位領域は、前記第1成分用の単位領域と前記第2成分用の単位領域とを含む、条項1~条項8のいずれか一項に記載の網膜投影装置。
【0090】
[条項10]
条項1~条項9のいずれか一項に記載の網膜投影装置と、
前記レンズと、
を備える、ニアアイウェアラブル装置。
【符号の説明】
【0091】
1…ニアアイウェアラブル装置、3…レンズ、3a…内面(面)、10…網膜投影装置、21…光源ユニット(光源)、23…可動ミラー、30…反射体、31…単位領域、31a…一端(第1端)、31b…他端(第2端)、40…積層体、41…金属層(第1金属層)、42…誘電体層、43…金属層(第2金属層)、44,44A,44B,44C,44D,44E…金属体、E…眼球、RE…網膜。