(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094889
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】デリケートエリアのかぶれの検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20240703BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20240703BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20240703BHJP
C12Q 1/34 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
C12Q1/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211787
(22)【出願日】2022-12-28
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩村 真恵子
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 大樹
(72)【発明者】
【氏名】石川 准子
(72)【発明者】
【氏名】深川 聡子
(72)【発明者】
【氏名】森 忍
(72)【発明者】
【氏名】森崎 尚子
(72)【発明者】
【氏名】千石 一雄
(72)【発明者】
【氏名】宮本 敏伸
(72)【発明者】
【氏名】水無瀬 萌
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045AA40
2G045CA25
2G045CB01
2G045DA20
2G045DA36
2G045FB01
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ03
4B063QQ36
4B063QQ79
4B063QR16
4B063QR48
4B063QR58
4B063QR72
4B063QS03
4B063QS28
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】デリケートエリアのかぶれの有無又はかぶれ発症リスクを検出する方法、及びデリケートエリアのかぶれ抑制剤の探索又は評価方法を提供する。
【解決手段】以下の工程(A)及び(B)を含む、デリケートエリアのかぶれの有無又はかぶれ発症リスクの検出方法。
(A)被験者の経血中の好中球エラスターゼ、α-1-アンチトリプシン、ヘモペキシン及びムチンから選ばれる1種以上の発現レベルを測定する工程
(B)前記好中球エラスターゼ、α-1-アンチトリプシン、ヘモペキシン及びムチンから選ばれる1種以上の発現レベルを基準値と比較する工程
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(A)及び(B)を含む、デリケートエリアのかぶれの有無又はかぶれ発症リスクの検出方法。
(A)被験者の経血中の好中球エラスターゼ、α-1-アンチトリプシン、ヘモペキシン及びムチンから選ばれる1種以上の発現レベルを測定する工程
(B)前記好中球エラスターゼ、α-1-アンチトリプシン、ヘモペキシン及びムチンから選ばれる1種以上の発現レベルを基準値と比較する工程
【請求項2】
以下の工程(a)~(c)を含む、デリケートエリアのかぶれ抑制剤の探索又は評価方法。
(a)好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上を発現可能な細胞又はその抽出液若しくは該抽出液からの精製品に被検物質を接触させる工程
(b)前記細胞又はその抽出液若しくは該抽出液からの精製品における好中球エラスターゼ、及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上の発現レベルを測定する工程
(c)前記好中球エラスターゼについてはその発現レベルを抑制する被験物質、前記α-1-アンチトリプシンについてはその発現レベルを高める被験物質をデリケートエリアのかぶれ抑制剤として選択又は評価する工程
【請求項3】
かぶれが刺激性接触皮膚炎によるかぶれである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
発現レベルの測定が、タンパク質の発現レベルの測定又はタンパク質の活性の測定である、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デリケートエリアのかぶれの検出、及びデリケートエリアのかぶれ抑制剤を評価又は探索する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
女性の陰部(デリケートエリア)は、生理やおりもの、汗による蒸れや下着、生理用ナプキンのこすれ等によってかぶれが起こることが多くみられる。斯かるデリケートエリアのかぶれは、尿や血液等の排泄物や生理用品等の刺激により生じる非アレルギー性の接触皮膚炎であると考えられ、特に月経期や月経直後において強いかゆみと発疹を伴い、ひどくなると腫れたり水疱ができる場合もある。したがって、かぶれを生じさせないためには、前もって原因物質との接触を避けるべく、デリケートエリアを常に清潔に保つこと、刺激の少ない下着や生理用品を選択すること等の対策が必要とされる。
【0003】
従来、デリケートエリアのかぶれは、月経により発症し、月経期の終了ともに改善することが多い。このことから、その原因として経血が刺激(起炎)因子として大きく関与することが推察される。ヒト皮膚に対する経血の影響を検討した報告があり、前腕への塗布で紅斑を惹起することが報告されており、経血がナプキンかぶれの一因として寄与する可能性が示されている(非特許文献1)。ナプキンかぶれを低減させるためには、その原因を特定し除去することが重要であるが、経血中のかぶれの原因となるものは何なのか、かぶれ原因分子(起炎分子)の同定はなされていない。
【0004】
従来、月経血中に含まれる成分に関しては、月経血特有タンパク質として、子宮内膜サイクル関連パスウェイと関連するタンパク質が含まれること(非特許文献2)、またヘモグロビン由来の抗菌ペプチドが含まれること(非特許文献3)が報告されている。
しかしながら、月経血中の起炎分子については全く報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】The vulva is relatively insensitive to menses-induced irritation.Cutaneous and Ocular Toxicol ,24:243-246,2005
【非特許文献2】Proteomic analysis of menstrual blood Molecular & Cellular proteomics (2012) 11:1024-1035
【非特許文献3】Antibasterial hemoglobin peptides in human menstrual blood. Peptides(2004)25:1839-47
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、デリケートエリアのかぶれの有無又はかぶれ発症リスクを検出する方法、及びデリケートエリアのかぶれ抑制剤の探索又は評価方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、経血中のタンパク成分を網羅的に解析し、デリケートエリアのかぶれとの関連性を調べたところ、経血中の特定のタンパク質の発現がかぶれ群において変動しており、これを指標としてデリケートエリアのかぶれの有無又はかぶれ発症リスクを評価でき、また、デリケートエリアのかぶれ抑制剤をスクリーニングできることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の1)~2)に係るものである。
1)以下の工程(A)及び(B)を含む、デリケートエリアのかぶれの有無又はかぶれ発症リスクの検出方法。
(A)被験者の経血中の好中球エラスターゼ、α-1-アンチトリプシン、ヘモペキシン及びムチンから選ばれる1種以上の発現レベルを測定する工程
(B)前記好中球エラスターゼ、α-1-アンチトリプシン、ヘモペキシン及びムチンから選ばれる1種以上の発現レベルを基準値と比較する工程
2)以下の工程(a)~(c)を含む、デリケートエリアのかぶれ抑制剤の探索又は評価方法。
(a)好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上を発現可能な細胞又はその抽出液若しくは該抽出液からの精製品に被検物質を接触させる工程
(b)前記細胞又はその抽出液若しくは該抽出液からの精製品における好中球エラスターゼ、及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上の発現レベルを測定する工程
(c)前記好中球エラスターゼについてはその発現レベルを抑制する被験物質、前記α-1-アンチトリプシンについてはその発現レベルを高める被験物質をデリケートエリアのかぶれ抑制剤として選択又は評価する工程
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、デリケートエリアのかぶれの有無又はかぶれ発症リスク、すなわちデリケートエリアのかぶれが生じているか否か、或いはかぶれ易いか否かを客観的に測定又は検出することが可能となる。これにより、例えば、被験者は、デリケートエリアのかぶれの有無を客観的に認識できるとともに、適切なかぶれ対策を講じることができ、症状の悪化を抑制し、かぶれの発症を未然に防止できる。また、本発明によれば、デリケートエリアのかぶれの抑制に有用な素材を探索することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】非かぶれ群及びかぶれ群の経血中の好中球エラスターゼ、α-1-アンチトリプシン、ヘモペキシン及びムチンの発現(プロテオーム解析)。
【
図2】経血中の好中球エラスターゼ又はα-1-アンチトリプシン含量と起炎性の関連。
【
図3】ベタメタゾン吉草酸エステルの好中球エラスターゼ阻害活性。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における「かぶれ」とは、何らかの刺激物質や特定の物質が皮膚に接触することによって起きる接触皮膚炎を指し、より詳細には刺激性接触皮膚炎(一次刺激性接触皮膚炎)を指す。その症状は、原因物質の接触部位に一致して、紅班、丘疹、浮腫、小水疱、水疱等が生じ、強い掻痒を伴う。
本発明において、「かぶれ」は、経血が直接又は生理用ナプキンやタンポン等の吸収性物品を介して接触する可能性が高いデリケートエリアのかぶれである。
本発明において、「デリケートエリア」とは、女性の陰部(股間)のことを意味し、本明細書において、「陰股部」又は「デリケートエリア陰股部」とは、デリケートエリアのうち、鼠蹊部から陰唇部の間の部分を意味する。
【0012】
本発明において、「デリケートエリアかぶれ発症リスク」とは、デリケートエリアのかぶれの易罹患性(かぶれ易さ)をいう。すなわち、本発明において、あるヒト個体が高リスク群であるとは、該ヒト個体がデリケートエリアのかぶれを発症する危険率が高いと予想されることを意味し、低リスク群であるとは、該ヒト個体がデリケートエリアのかぶれを発症する危険率が低いと予想されることを意味する。
【0013】
本発明における「好中球エラスターゼ」は、血中の好中球に存在する分子量約3万のプロテアーゼであり、エラスチン、コラーゲン等の分解活性を有する。好中球エラスターゼ遺伝子の塩基配列は、例えば、ヒト、マウスにおいて公知であり、例えば、ヒト好中球エラスターゼ遺伝子及びタンパク質は、NCBI accession number NM_001972.4及びNP_001963として登録されている。
「α-1-アンチトリプシン」は、血中の主要なプロテアーゼインヒビターであり、好中球エラスターゼの活性を阻害し、好中球エラスターゼから組織を保護する機能を有する。α-1-アンチトリプシン遺伝子の塩基配列は、例えば、ヒト、マウスにおいて公知であり、例えば、ヒトα-1-アンチトリプシン遺伝子及びタンパク質は、NCBI accession number NM_000295.5及びNP_000286として登録されている。
「ヘモペキシン」は、血中のヘム結合タンパク質であり、ヘムの細胞毒性のスカベンジャーとして機能する。ヘモペキシン遺伝子の塩基配列は、例えば、ヒト、マウスにおいて公知であり、例えば、ヒトヘモペキシン遺伝子及びタンパク質は、NCBI accession number NM_000613.3及びNP_000604として登録されている。
「ムチン」は、動物の上皮細胞から分泌される粘液の主成分であり、糖を多量に含む糖たんぱく質である。ムチンには複数の分子が知られているが、本発明におけるムチンとしては、膣内粘液成分として知られているムチン5Bが好ましい。ムチン5B遺伝子の塩基配列は、例えば、ヒト、マウスにおいて公知であり、例えば、ヒトムチン5B遺伝子及びタンパク質は、NCBI accession number NM_002458.3及びNP_002449として登録されている。
【0014】
後記実施例のプロテオーム解析の結果に示すように、好中球エラスターゼはデリケートエリアのかぶれ群で多い傾向があり、α-1-アンチトリプシンは非かぶれ群で多い傾向があり、ヘモペキシンはデリケートエリアのかぶれ群で有意に少なく、ムチン5Bはデリケートエリアのかぶれ群で有意に多いことが確認された(
図1)。また、好中球エラスターゼ含量が多い経血ほど、表皮細胞に対しIL-1a産生誘導能が高く、α-1-アンチトリプシン含量が少ない経血ほど、表皮細胞に対しIL-1a産生誘導能が高いことが確認された(
図2)。
したがって、経血中の好中球エラスターゼ、α-1-アンチトリプシン、ヘモペキシン及びムチンから選ばれる1種以上のタンパク質の発現レベルを指標として、デリケートエリアのかぶれの有無又はかぶれ発症リスクを検出することができる。
ここで、デリケートエリアのかぶれ発症リスクを検出するとは、デリケートエリアのかぶれの発症の可能性、皮膚炎の病態の進行度、皮膚炎の治癒の程度や治療効果等を検出することを含むものとする。また、当該タンパク質の発現レベルを指標として、デリケートエリアのかぶれ抑制剤の評価又は探索が可能である。
【0015】
なお、本発明において、「検出」という用語は、測定、判定、評価又は評価支援という用語で言い換えることもできる。なお、ここで、「判定」又は「評価」という用語は、医師による判定や評価を含むものではない。
【0016】
本発明のデリケートエリアのかぶれの有無又はかぶれ発症リスクの検出方法は、以下の工程(A)及び(B)を含む。
(A)被験者の経血中の好中球エラスターゼ、α-1-アンチトリプシン、ヘモペキシン及びムチンから選ばれる1種以上の発現レベルを測定する工程
(B)前記好中球エラスターゼ、α-1-アンチトリプシン、ヘモペキシン及びムチンから選ばれる1種以上の発現レベルを基準値と比較する工程
【0017】
「経血」とは、月経期に膣から排出される子宮内膜や膣内粘液成分と血液の混合物を指す。工程(A)の被験者の経血は、生理期間中に採取されたものであればよいが、月経開始から2,3日目に採取された経血が好ましい。
【0018】
経血のサンプル採取方法としては、特に限定されないが、液体状のままで採取する方法や吸収体に吸収させて採取する方法等が挙げられる。液体状のままで採取する方法としては、月経カップや、生理用ナプキン上に採取用の秤量皿を乗せたナプキンの使用等が挙げられ、吸収体に吸収させて採取する方法としては、タンポンの使用等が挙げられ、これらを適宜選択することができる。
採取された経血吸収部材等からの経血の抽出・回収は、採取部材を緩衝液(例えば、生理食塩水)中に浸漬し、攪拌後、遠心分離することによって行うことができる。
経血のサンプル採取方法としては、経血を抽出・回収する方法を、好ましく用いることができる。
本発明の検出方法においては、当該抽出・回収された経血は、そのまま使用できるが、必要に応じて、これを遠心分離して得られる経血上清又は経血沈殿をそれぞれ用いることもできる。血球や子宮内膜組織片に由来する成分の解析は沈殿画分を用いることが好ましく、それ以外の成分であれば、上清画分を用いるのが好ましい。
【0019】
工程(A)において、経血中の好中球エラスターゼ、α-1-アンチトリプシン、ヘモペキシン及びムチンから選ばれる1種以上の発現レベルの測定としては、遺伝子発現量(例えばmRNAの発現量)、又はタンパク質の発現量やその機能(酵素活性や酵素阻害活性、ヘムとの結合活性)を測定することが挙げられ、その方法は、当該分野で通常使用される任意の解析方法によって行うことができる。
遺伝子発現の解析方法としては、例えば、ドットブロット法、ノーザンブロット法、RNaseプロテクションアッセイ法、ルシフェラーゼ等によるレポーターアッセイ、RT-PCR法、DNAマイクロアレイ等が挙げられ、タンパク質発現の解析方法としては、プロテオーム解析、ウェスタンブロッティング法、免疫染色法、ELISA、バインディングアッセイ等が挙げられる。また、タンパク質の活性測定法としては、例えば酵素活性測定法等が挙げられる。本発明においては、プロテオーム解析やウェスタンブロッティング法や酵素活性測定法を用いるのが好ましい。
【0020】
好中球エラスターゼ、α-1-アンチトリプシン、ヘモペキシン又はムチンの発現レベルをウェスタンブロッティング法により測定する場合、以下に示す処理手段によりタンパク質抽出液を調製し、測定に供されるのが好ましい。
すなわち、採取した経血、経血上清又は経血沈殿に4分の1量のLaemmliサンプルバッファー(CatNo.161-0737、BIO-RAD社)を加え、100℃で5分加熱することでSDS化処理を行う。得られたSDS化サンプルを常法に従い、ポリアクリルアミドゲルにて、例えば4-15% ミニプロティアンTGX(登録商標) プレキャストポリアクリルアミドゲルにて、分離泳動を行う(室温、60V定電圧)。セミドライ方式でPVDF膜に転写し(2.5A、25V 7分)、5%スキムミルク/PBST(0.1% Tween-20/PBS)でブロッキング処理をする(室温、2時間)。PBSTで膜を洗浄後、5%スキムミルク/PBST溶液で希釈した1次抗体、2次抗体を反応させ、ECL-PRIME(GE ヘルスケア)にて発光をさせ、Image-Quant LAS-4000(Fujifilm)で検出、定量することができる。
【0021】
ウェスタンブロッティング法に用いられる、好中球エラスターゼ、α-1-アンチトリプシン、ヘモペキシン又はムチンに対する1次抗体としては、 例えば、Neutrophil elastase:GTX113175(Anti-human neutrophil elastase antibody polyclonal RabbitIgG,Gene Tex)、Antitrypsin:TA500069(Anti-human alpha-1 antitrypsin antibody monoclonal Mouse IgG,ORIGENE),Hemopexin:NBP1-31713(Anti-human hemopexin antibody polyclonal RabbitIgG,Novus biologicals),Mucin5B:NBP1-92151(Anti-human mucin5B antibody polyclonal Rabbit-IgG,Novus biologicals)が挙げられる。
【0022】
好中球エラスターゼの発現レベルを酵素活性測定法により測定する場合、例えば、経血から調製したタンパク質抽出液を用い、公知の酵素活性測定法により測定することができるが、市販の酵素活性測定キットを用いても良く、例えばNeutrophil elastase colormetric drug discovery kit(BML-AL497)を用いて測定することができる。
α-1-アンチトリプシンの発現レベルを酵素活性測定法により測定する場合、例えば、経血から調製したタンパク質抽出液を用い、公知の酵素活性測定法によりその阻害活性を測定することができるが、市販の酵素活性測定キットを用いても良く、例えば、SensoLyte(登録商標)プロテアーゼアッセイキット(蛍光)(AS-71124)を用いて、測定することができる。
【0023】
次いで、前記工程(A)において測定された好中球エラスターゼ、α-1-アンチトリプシン、ヘモペキシン及びムチンから選ばれる1種以上の発現レベルが基準値と比較される(工程(B))。
基準値としては、一態様として、非かぶれ者の経血における好中球エラスターゼ、α-1-アンチトリプシン、ヘモペキシン及びムチンから選ばれる1種以上の発現レベルが挙げられる。非かぶれ者の経血中の好中球エラスターゼ、α-1-アンチトリプシン、ヘモペキシン及びムチンから選ばれる1種以上の発現レベルは、複数人の非かぶれ者からのデータの平均値を使用することができる。又は、無作為に抽出した被験者の経血中の好中球エラスターゼ、α-1-アンチトリプシン、ヘモペキシン及びムチンから選ばれる1種以上の発現レベルの分布に基づき、適宜非かぶれ者に相当する基準値を設定できる。
尚、かぶれの症状の判定は、例えば、医師が紅班について5段階(0:なし、1:軽微、2:軽度、3:中等度、4:重度)評価を行った場合に、紅班スコアが0であった被験者を非かぶれ者とし、1以上であった被験者をかぶれ者とすることが挙げられる。
【0024】
このように比較した結果、例えば、測定された経血中の好中球エラスターゼ及びムチンについてはその発現レベルが統計的に基準値より有意に大きい場合、α-1-アンチトリプシン及びヘモペキシンについてはその発現レベルが統計的に基準値より有意に小さい場合には「かぶれである」又は「かぶれ発症のリスクが高い」(かぶれ群)と判定でき、好中球エラスターゼ及びムチンについてはその発現レベルが統計的に基準値より有意に小さい場合、α-1-アンチトリプシン及びヘモペキシンについてはその発現レベルが統計的に基準値より有意に大きい場合には「かぶれが無い」又は「かぶれ発症リスクは低い」(非かぶれ群)と評価できる。
尚、経血中の好中球エラスターゼ又はムチンの発現レベルが統計的に基準値より有意に大きい場合、或いはα-1-アンチトリプシン又はヘモペキシンの発現レベルが統計的に基準値より有意に小さい場合には、かぶれを呈していなくとも、かぶれのリスクが高いと評価することができる。
【0025】
本発明のデリケートエリアのかぶれ抑制剤の探索又は評価方法は、以下の工程(a)~(c)を含む。
(a)好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上を発現可能な細胞又はその抽出液若しくは該抽出液の精製品に被検物質を接触させる工程
(b)前記細胞又はその抽出液若しくは該抽出液の精製品における好中球エラスターゼ、及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上の発現レベルを測定する工程
(c)前記好中球エラスターゼについてはその発現レベルを抑制する被験物質、前記α-1-アンチトリプシンについてはその発現レベルを高める被験物質をデリケートエリアのかぶれ抑制剤として選択又は評価する工程
【0026】
工程(a)において用いられる好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上を発現可能な細胞としては、天然に好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上を発現する細胞、又は好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上を発現するように遺伝的に操作された組換え細胞或いはそれらの培養物が使用される。
天然に好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上を発現する細胞としては、好中球(好中球エラスターゼ)、肝細胞(α-1-アンチトリプシン)、リンパ球(α-1-アンチトリプシン)等が挙げられ、これらを含有する生体試料としては経血が挙げられる。また好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上を発現するように遺伝的に操作された組換え細胞は、好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上をコードする核酸が発現可能に宿主細胞に導入されている細胞、好ましくは好中球エラスターゼ遺伝子及びα-1-アンチトリプシン遺伝子から選ばれる1種以上が恒常的に発現可能なように宿主細胞に導入されている細胞であり、好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上をコードする核酸が、染色体外要素として当該核酸が複製可能となるように導入されている細胞、又は当該核酸が染色体組み込みにより当該核酸が複製可能となるように導入されている細胞が挙げられる。ここで、核酸はDNA、RNA、mRNA、cDNAの何れでも良い。
【0027】
当該好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上をコードする核酸が発現可能に宿主細胞に導入されている細胞は、前記好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上をコードする核酸と、用いられる宿主細胞における好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上の発現に適したベクターを連結させることにより得られた好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上を発現するベクターを宿主細胞に導入することにより得ることができる。宿主細胞への好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上をコードする核酸の導入は、例えば、Sambrook,J., Fritsh,E.F. and Maniatis,T., “Molecular Cloning A Laboratory Manual, Second Edition”, Cold Spring Harbor Laboratory Pess (1989)等に記載された形質転換、トランスフェクション等の方法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、DEAEデキストラン法、パーティクルガン法、ウイルスを利用した方法等に準じて行なうことができる。
【0028】
前記好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上をコードする核酸は、好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上のポリペプチドをコードする核酸に対応する既知の塩基配列の情報、例えば、ヒトやマウスの好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上をコードする核酸に対応する既知の塩基配列の情報等に基づき、前記塩基配列から作製した適切なプライマー対を用いたPCR法及び/又は前記塩基配列から作製した適切なプローブとcDNAライブラリーとを用いたハイブリダイゼーション法等により得ることができる。
【0029】
前記好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上を発現するベクターは、前記好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上をコードする核酸と、用いられる宿主細胞における好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上の発現に適したベクターとを連結させることにより得られる。前記ベクターは、調製が容易であり、用いられる宿主細胞に効率よく導入でき、当該宿主細胞において好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上を発現させることができるベクターであればよく、好ましいベクターとしては、大腸菌のプラスミド、酵母のプラスミド、又はレトロウイルスベクター等の動物ウイルスベクターが挙げられる。また、これらベクターには、導入した遺伝子の発現を制御するエンハンサーやプロモーター等の配列が組み込まれていてもよい。
【0030】
また、前記宿主細胞としては、前記好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上をコードする核酸が効率よく発現され、かつ培養が容易なものであればよく、特に限定されないが、例えば、アフリカツメガエル卵母細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、human embryonic kidney(HEK)細胞、Sf-9 insect細胞、ヒト新生児由来表皮細胞(NHEK)等が挙げられる。
【0031】
本発明の方法に使用される前記好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上を発現可能な細胞は、例えば、当該細胞における好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上の機能の発現(活性)、タンパク質レベルでの発現、遺伝子レベルでの発現、蛍光物質の導入等を指標として選択することができる。前記好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上のポリペプチドをコードする核酸が発現可能に宿主細胞に導入されている細胞の選択には、適切な選択培地等を用いることができる。
【0032】
好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上を発現可能な細胞の培養に用いられる培地としては、当該好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上を発現する細胞が生育するのに適した成分、例えば、グルコース、アミノ酸、ペプトン、ビタミン、細胞増殖促進因子(例えば、細胞成長因子、ホルモン、結合タンパク質、細胞接着因子、脂質)、血清(例えば、FBS、FCS等)、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等を成分とする培地であればよい。前記培地は、市販されている培地であってもよい。好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上を発現する細胞の培養に用いられる培地としては、かかる細胞に適した培地であればよく、特に限定されないが、Epilife培地、MEM培地、DMEM培地、RPMI 1640培地等が挙げられる。
抽出液の作製は、好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上を発現可能な細胞を適当な緩衝液、例えば20mM Tris-HCL(pH8.0),0.1%Triton X-100で懸濁して超音波破砕した後、その遠心上清を回収することで行うことができる。該抽出液からの精製品は、公知の精製手段を用いて好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上を精製して調製することができる。ここで、抽出液からの好中球エラスターゼやα-1-アンチトリプシンの精製品に代えて、市販の好中球エラスターゼやα-1-アンチトリプシンを使用することも可能である。
【0033】
工程(a)において、好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上を発現可能な細胞と、被験物質との接触は、例えば被験物質を所定の濃度になるように予め培養液中に添加した後、好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上を発現可能な細胞を培養液に載置すること、或いは、好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上を発現可能な細胞が載置された培養液に、被験物質を所定の濃度になるように添加することにより行うことができる。
ここで、好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上を発現可能な細胞の播種時の細胞濃度は、24Wellプレートを使用した場合、1×104~2×105cells/wellとするのが好ましく、1×105~1.5×105cells/wellとするのがより好ましい。
一方、好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上を発現可能な細胞の抽出液を被験物質と接触させる場合は、例えば、前記播種密度で播種しコンフルエントまで培養した好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上を発現可能な細胞を適当な緩衝液中で超音波破砕した上清を使用し、被験物質を所定の濃度になるように予め適当な緩衝液中に添加した溶液と混合することにより行うことができる。抽出液からの精製品を被験物質と接触させる場合は、例えば精製品を適当な緩衝液に添加し、被験物質を所定の濃度になるように予め適当な緩衝液中に添加した溶液と混合することにより行うことができる。
被験物質の添加濃度は、被験物質が植物、微生物又は動物由来の抽出物(抽出液)の場合、0.01~10質量%(固形残分)とするのが好ましく、0.1~1質量%(固形残分)とするのが好ましい。また、被験物質が化合物の場合、終濃度1~1000μMの範囲内で適宜決定するのが好ましい。
【0034】
尚、本発明において、被験物質としては、特に限定されず、天然に存在する物質であっても、化学的又は生物学的方法等で人工的に合成した物質であってもよく、また化合物であっても、組成物若しくは混合物であってもよい。
【0035】
好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシン選ばれる1種以上を発現可能な細胞若しくはその抽出液と被験物質との接触は、室温(25℃)~37℃で通常0.1時間~24時間程度、好ましくは0.5~20時間程度、培養するのが好ましい。
【0036】
工程(b)の好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上の発現レベルの測定としては、前記工程(B)と同様であり、好ましくはウェスタンブロッティング法によるタンパク質の発現量の解析が挙げられる。また好中球エラスターゼの場合、ウェスタンブロッティング法によるタンパク質の発現量の解析に加え、酵素活性(プロテアーゼ活性)の測定が挙げられる。この内、検出感度が高く、少量の試料に基づいて簡便に測定できる点で、酵素活性(プロテアーゼ活性)測定方法が好ましい。プロテアーゼ活性の測定は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ザイモグラフィ、基質を添加した溶液中における酵素反応を介した検出等が挙げられる。酵素活性を測定する場合の基質としては、前述したとおりである。
尚、好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上の発現レベルの測定は、例えば、被験物質を接触させる細胞又はその抽出液若しくは該抽出液の精製品群と接触させない群(対照細胞等)を用意し、好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上の発現レベルを測定し、必要に応じて当該測定値を定量化した後、両者間で比較することにより行うことができる。なお、対照細胞等としては、被験物質を接触させない代わりに、対照物質を接触させたものを用いてもよい。
尚、工程(b)の発現レベルの測定は、工程(a)の被験物質との接触の後に行っても、被験物質との接触と同時に、即ち工程(a)と工程(b)を同時に行っても良い。
【0037】
上記のように測定した好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上の発現レベルに基づき、好中球エラスターゼについてはその発現レベルを抑制する被験物質、前記α-1-アンチトリプシンについてはその発現レベルを高める被験物質をデリケートエリアのかぶれ抑制剤として選択又は評価することができる(工程(c))。
すなわち、好中球エラスターゼについては被験物質を添加した細胞又はその抽出液若しくは該抽出液の精製品におけるその発現レベルが被験物質を添加しない対照細胞等でのレベルと比較して低下又は減少する場合、α-1-アンチトリプシンについては被験物質を添加した細胞又はその抽出液若しくは該抽出液の精製品におけるその発現レベルが被験物質を添加しない対照細胞等でのレベルと比較して促進又は増加する場合に、デリケートエリアのかぶれ抑制剤として評価又は選択できる。
例えば、対照細胞等における好中球エラスターゼの発現レベルを100%としたときに、被験物質を添加した細胞における発現量レベルが95%以下、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下である場合に、被験物質はデリケートエリアのかぶれ抑制剤として評価又は選択できる。或いは対照細胞等に対して統計的に有意な発現量レベル低下があるか否かにより評価又は選択しても良い。
また、対照細胞におけるα-1-アンチトリプシンの発現レベルを100%としたときに、被験物質を添加した細胞における発現量レベルが105%以上、好ましくは110%以上、より好ましくは120%以上である場合に、被験物質はデリケートエリアのかぶれ抑制剤として評価又は選択できる。或いは対照細胞等に対して統計的に有意な発現量レベル上昇があるか否かにより評価又は選択しても良い。
【0038】
このようにして選択されたデリケートエリアのかぶれ抑制剤は外用剤、内服剤、身体洗浄剤、入浴剤、ふき取りシート等として、或いはデリケートエリアのかぶれを抑制するための素材又は製剤として、外用剤、内服剤、身体洗浄剤、入浴剤、ふき取りシート等に配合して使用できる。
【0039】
上述した実施形態に関し、本発明においては更に以下の態様が開示される。
<1>以下の工程(A)~(B)を含む、デリケートエリアのかぶれの有無又はかぶれ発症リスクの検出方法。
(A)被験者の経血中の好中球エラスターゼ、α-1-アンチトリプシン、ヘモペキシン及びムチンから選ばれる1種以上の発現レベルを測定する工程
(B)前記好中球エラスターゼ、α-1-アンチトリプシン、ヘモペキシン及びムチンから選ばれる1種以上の発現レベルを基準値と比較する工程
<2>工程(B)における基準値が、非かぶれ者の経血における好中球エラスターゼ、α-1-アンチトリプシン、ヘモペキシン及びムチンから選ばれる1種以上の発現レベルである、<1>の検出方法。
<3>以下の工程(a)~(c)を含む、デリケートエリアのかぶれ抑制剤の探索又は評価方法。
(a)好中球エラスターゼ及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上を発現可能な細胞又はその抽出液若しくは該抽出液からの精製品に被検物質を接触させる工程
(b)前記細胞又はその抽出液若しくは該抽出液からの精製品における好中球エラスターゼ、及びα-1-アンチトリプシンから選ばれる1種以上の発現レベルを測定する工程
(c)前記好中球エラスターゼについてはその発現レベルを抑制する被験物質、前記α-1-アンチトリプシンについてはその発現レベルを高める被験物質をデリケートエリアのかぶれ抑制剤として選択又は評価する工程
<4>かぶれが、刺激性接触皮膚炎によるかぶれである、<1>~<3>のいずれかの方法。
<5>発現レベルの測定が、タンパク質の発現レベルの測定である、<1>~<4>のいずれかの方法。
<6>発現レベルの測定が、好中球エラスターゼの活性、好ましくは酵素活性の測定である、<1>~<5>のいずれかの方法。
<7>工程(c)において、対照細胞等における好中球エラスターゼの発現レベルを100%としたときに、被験物質を添加した細胞又はその抽出液若しくは該抽出液からの精製品における発現量レベルが95%以下、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下である場合に、被験物質をデリケートエリアのかぶれ抑制剤として評価又は選択する、或いは、対照細胞等におけるα-1-アンチトリプシンの発現レベルを100%としたときに、被験物質を添加した細胞又はその抽出液若しくは該抽出液からの精製品における発現量レベルが105%以上、好ましくは110%以上、より好ましくは120%以上である場合に、被験物質をデリケートエリアのかぶれ抑制剤として評価又は選択する、<3>~<6>のいずれかの方法。
<8>工程(c)において、対照細胞等における好中球エラスターゼの発現レベルに対し、被験物質を添加した細胞又はその抽出液若しくは該抽出液からの精製品における発現量レベルが統計的に有意に低下した場合に、被験物質をデリケートエリアのかぶれ抑制剤として評価又は選択する、或いは、対照細胞等におけるα-1-アンチトリプシンの発現レベルに対し、被験物質を添加した細胞又はその抽出液若しくは該抽出液からの精製品における発現量レベルが統計的に有意に上昇した場合に、被験物質をデリケートエリアのかぶれ抑制剤として評価又は選択する、<3>~<6>のいずれかの方法。
【実施例0040】
以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。
実施例1 経血タンパク質のプロテオーム解析
(1)被験者の選抜
ヘルシンキ宣言の下、20歳~49歳までの生理周期が安定している女性を対象に、デリケートエリアのかぶれ症状に関して、医師が紅班、丘疹、浸軟、落屑について5段階(0:なし、1:軽微、2:軽度、3:中等度、4:重度)のスコア評価による判定を行った。月経期間中の診断において、陰股部及び陰唇部における紅班スコアが0であった対象者9名を非かぶれ群の被験者として選抜し、一方、陰股部又は陰唇部における紅斑スコアが1以上であった対象者8名をかぶれ群の被験者として選抜した。
【0041】
(2)経血の採取
月経開始から2、3日目に採取用の秤量皿を乗せた生理用ナプキンを使用し、秤量皿内に経血を採取した。得られた経血を遠沈管に移し、860×gで10分間遠心し、上清と沈殿に分離した。さらに沈殿については氷上にて10分間ソニケーションすることで分散処理を行った後、凍結保存した。
【0042】
(3)タンパク質の可溶化及び断片化
経血上清あるいは沈殿試料50μLをPTSバッファー(0.1M Tris-HCl pH9.0,12mM デオキシコール酸ナトリウム,12mM N-ドデカノイルサルコシン酸ナトリウム)で10倍希釈した。沈殿試料についてはチューブにステンレスビーズを入れ、高速振盪することで破砕ホモジナイズを行った。経血上清、沈殿試料それぞれについて遠心(21500×g、30分、4℃)で不溶物を除去後、得られたそれぞれの上清について、等量のニッケルカラムビーズ(Ni-NTA)と室温で1時間転倒混和することでヘモグロビンを吸着除去した。
経血上清及び沈殿試料から調製したヘモグロビンを除去した上清に、DTT(ジチオスレイトール)及びヨードアセトアミドを、それぞれ終濃度が5mM及び15mMになるように加え、室温で1時間振盪し、還元アルキル化を行った。50mM重炭酸アンモニウム水溶液で5倍希釈後、EZQ Protein Quantitation Kit(登録商標)でタンパク質濃度を定量し、100μgあたり1μgのトリプシン(ブタ膵臓由来、質量分析グレード、202-15951、富士フイルム和光純薬(株))を加えて、37℃で1昼夜反応させ、ペプチド断片化を行った。
【0043】
終濃度0.5%(v/v)になるようにトリフルオロ酢酸を加えて酵素を失活させたのち、15000rpm、10分間遠心して、不溶物を除去した。上清を等量の酢酸エチルと混合し、2分間試験管ミキサー攪拌してデオキシコール酸ナトリウム、N-ドデカノイルサルコシン酸ナトリウムを有機層に移動させ、21500×gで2分間遠心して有機層(酢酸エチル層)と水層に分離させた。下層の水層を回収し、遠心エバポレーターで減圧乾固した(50℃、一昼夜)。
得られた乾固物をBufferA(0.1%(v/v)トリフルオロ酢酸、5%(v/v)アセトニトリル水溶液)300μLで溶解し、同BufferAで平衡化したStage-tipカラム(プロテオーム解析用固層抽出カラム)(BUNSEKI KAGAKU 57(12)、1011-1018,2008)にアプライし、遠心(500×g、室温4分)によりカラムにペプチドを吸着させた。1mLのBufferAでカラムを洗浄後、0.1mLのBufferB(0.1%トリフルオロ酢酸、80%アセトニトリル水溶液)でペプチドを溶出した(500×g、室温3分間)。溶出液を35℃で減圧乾固し、得られた沈殿を100μLの0.1%ギ酸、2%アセトニトリルに懸濁し、ペプチド溶液とした。
【0044】
(4)LC-MS/MS分析
(3)で得られたペプチド溶液のペプチド濃度をnanoLC-UVで定量後、0.2μg/μLに濃度調整し、LC-MS/MS分析を実施した。それぞれの詳細条件を表1、2に示す。
【0045】
【0046】
【0047】
MS/MS 分析にて得られたスペクトルデータの解析にはProteome Discoverer ver.2.2(ThermoFisher Scientific)を用いた。タンパク質同定には参照データベースにSwiss Protを設定し、Mascot database search(Matrix Science)を用いた。False discovery rate(FDR)p<0.01を満たすタンパク質を解析対象とした。各タンパク質のNormalised Abundanceの値を用いて解析を行った。
【0048】
(5)経血の起炎性評価
新生児包皮由来表皮細胞を用いた。培養用培地はEpiLife(商標) Medium, with 60μM calcium(サーモフィッシャー Cat.No.MEPI500CA)にHuMedia-KG増殖添加剤セット(クラボウ Cat.No. KK-6150)を添加して使用した。表皮細胞を9.0×104個/ウェルの濃度で24穴プレートに播種し、サブコンフルエントの状態で経血を0.1~10%(v/v)の濃度で培地中に添加した。経血添加時は、培地はEpilife-KG2培地から増殖因子(EGF及びBPE)を除いたマイナス培地を用いた。24時間暴露培養を行った後、回収した培地中に産生された炎症性サイトカインIL-1alphaの量をELISA(R&D systems)を用い、添付のプロトコールに従って定量した。
【0049】
(6)結果
かぶれ群、非かぶれ群の間で発現差異解析を行い、かぶれの有無と相関性のある経血上清・沈殿成分を解析したところ、かぶれ群と非かぶれ群の間に有意な差、又は傾向が認められたものとして、ヘモペキシン(沈殿)、ムチン(上清)、好中球エラスターゼ(上清)及びα-1-アンチトリプシン(沈殿)が見い出された(
図1)。好中球エラスターゼはかぶれ群で多い傾向があり、α-1-アンチトリプシンはかぶれ群で少ない傾向があり、ヘモペキシンはかぶれ群で有意に少なく、ムチンはかぶれ群で有意に多いことが確認された。
経血の起炎性とその含量に相関性のある経血上清・沈殿成分を解析したところ、経血上清中の好中球エラスターゼ量が経血の起炎性(IL-1alpha産生能)と正相関を示し、経血沈殿中のα-1-アンチトリプシン量がIL-1alpha産生能と負相関を示した(
図2)。
【0050】
実施例2 デリケートエリアのかぶれ抑制剤の評価
(1)材料
精製酵素:好中球エラスターゼ (Enzo Life Sxiences,Inc,BML―SE284-9090)
評価素材:デリケートエリアのかぶれ治療において医師が処方することが公知である、ベタメタゾン吉草酸エステルを使用し、終濃度が100μMとなるように評価系に添加した。
【0051】
(2)好中球エラスターゼ活性測定
酵素活性測定は、Neutrophil elastase colormetric drug discovery kit(BML-AL497)を用いて行った。
下記表3の通り、反応液を調製し、37℃で5~60分間インキュベーションし、5分間隔のタイミングで405nmの吸光度を測定した。阻害効果の指標としてエラスターゼ阻害剤であるElastatinalを終濃度1、10、100μMになるように用いた。
評価素材による蛍光量への影響を排除するために、精製酵素は添加せず評価素材のみを加えたウェルを作成して同様に蛍光量を測定したものをブランクに、評価素材を加えていないウェルをコントロールとした。
【0052】
【0053】
(3)統計解析
各評価素材の評価終濃度条件ごとにN=3で実験を行い、平均値を算出した。コントロールとの差をt検定の方法で有意差検定し、p<0.05を有意水準とした。
【0054】
<結果>
デリケートエリアのかぶれ抑制効果のある剤として公知である、ベタメタゾン吉草酸エステルは、コントロールと比較して有意に好中球エラスターゼ活性が低下しており、好中球エラスターゼ阻害活性を有することが確認された(
図3)。これらの結果から、好中球エラスターゼの活性を指標とすることで、デリケートエリアのかぶれ抑制剤の評価やかぶれ抑制剤の探索が可能であることが示された。