(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094902
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】内視鏡用処置具
(51)【国際特許分類】
A61B 17/29 20060101AFI20240703BHJP
【FI】
A61B17/29
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211816
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000200035
【氏名又は名称】SBカワスミ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 道男
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160GG29
(57)【要約】
【課題】良好な操作性を実現することが可能な構造の内視鏡用処置具を提供する。
【解決手段】内視鏡用処置具100は、螺線状に巻回されたワイヤ20により構成された長尺なコイルシース10を有する内視鏡用処置具であり、ワイヤ20は、それぞれ螺線状に巻回された1ターンであり相互に軸方向に連なっている複数の巻回部15を含み、コイルシース10の軸心AXに沿った断面において、ワイヤ20は、先端側又は基端側である第1方向に向けて巻回部15が窄まる向きに傾斜している。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺線状に巻回されたワイヤにより構成された長尺なコイルシースを有する内視鏡用処置具であって、
前記ワイヤは、それぞれ螺線状に巻回された1ターンであり相互に軸方向に連なっている複数の巻回部を含み、
前記コイルシースの軸心に沿った断面において、前記ワイヤは、先端側又は基端側である第1方向に向けて前記巻回部が窄まる向きに傾斜している内視鏡用処置具。
【請求項2】
前記ワイヤにおける径方向外側の面の、前記コイルシースの軸心に対する傾斜角度が、3.0度以上5.0度以下である請求項1に記載の内視鏡用処置具。
【請求項3】
前記コイルシースの初張力が4.5N以上6.0N以下である請求項1又は2に記載の内視鏡用処置具。
【請求項4】
前記コイルシースの軸心に沿った断面において、前記ワイヤにおける径方向外側の外形線は、径方向内側に向けて弧状に窪んでいる請求項1又は2に記載の内視鏡用処置具。
【請求項5】
前記ワイヤにおける径方向外側の外形線の、前記コイルシースの軸心に対する傾斜角度は、当該外形線における前記第1方向側の端部の前記傾斜角度よりも、当該外形線における前記第1方向側とは反対側の端部の前記傾斜角度の方が大きい請求項4に記載の内視鏡用処置具。
【請求項6】
前記コイルシースの軸心に沿った断面において、前記ワイヤにおける径方向内側の外形線は、径方向内側に向けて弧状に膨らんでいる請求項4に記載の内視鏡用処置具。
【請求項7】
前記ワイヤにおける径方向外側の外形線の曲率半径が、前記ワイヤにおける径方向内側の外形線の曲率半径よりも小さい請求項6に記載の内視鏡用処置具。
【請求項8】
前記コイルシースの軸心に沿った断面において、前記ワイヤにおける前記第1方向側の外形線は前記第1方向側に向けて弧状に膨らんでおり、前記ワイヤにおける前記第1方向とは反対側の外形線は前記第1方向とは反対側に向けて弧状に膨らんでいる請求項4に記載の内視鏡用処置具。
【請求項9】
前記コイルシースの軸心に対して直交する面に対する前記巻回部の傾斜角度が、前記コイルシースの軸心に対する前記ワイヤの傾斜角度よりも大きい請求項1又は2に記載の内視鏡用処置具。
【請求項10】
前記コイルシースの軸心に沿った断面において、前記ワイヤは、径方向における寸法よりも、軸方向における寸法が大きい請求項1又は2に記載の内視鏡用処置具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡用処置具に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡の鉗子孔に挿入して用いられる内視鏡用処置具として、例えば、特許文献1には、螺線状に巻回されたワイヤにより構成された長尺なコイルシース(同文献には、シースと記載)を有する内視鏡用処置具が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者の検討によれば、特許文献1の技術では、内視鏡用処置具の操作性について、なお改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、良好な操作性を実現することが可能な構造の内視鏡用処置具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、螺線状に巻回されたワイヤにより構成された長尺なコイルシースを有する内視鏡用処置具であって、
前記ワイヤは、それぞれ螺線状に巻回された1ターンであり相互に軸方向に連なっている複数の巻回部を含み、
前記コイルシースの軸心に沿った断面において、前記ワイヤは、先端側又は基端側である第1方向に向けて前記巻回部が窄まる向きに傾斜している内視鏡用処置具を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、内視鏡用処置具の良好な操作性を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る内視鏡用処置具の全体構造を示す模式図である。
【
図2】実施形態に係る内視鏡用処置具の先端部及びその周辺構造の側面図であり、一対の鉗子部が閉じた状態を示す。
【
図3】実施形態に係る内視鏡用処置具の先端部及びその周辺構造の側面図であり、一対の鉗子部が開いた状態を示す。
【
図4】実施形態におけるコイルシースの側面の部分拡大図である。
【
図5】実施形態におけるコイルシースの縦断面の部分拡大図である。
【
図7】実施形態におけるワイヤの切断端面の部分拡大図である。
【
図8】
図8(a)は実施形態におけるワイヤの第1方向側の端部の部分拡大図であり、
図8(b)は実施形態におけるワイヤの第1方向側とは反対側の端部の部分拡大図である。
【
図9】実施形態における内視鏡の操作部及びその周辺構造の模式的な側面図である。
【
図10】実施形態におけるコイルシースの縦断面を撮影した画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、
図1から
図10を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、適宜に説明を省略する。また、
図5から
図8(b)は、コイルシース10の軸心AXに沿った断面である。
また、以下において、内視鏡用処置具100の遠位側を先端側、内視鏡用処置具100の近位側を基端側と称する場合がある。また、以下において、コイルシース10の軸方向を単に軸方向と称したり、コイルシース10の径方向を単に径方向と称したりする場合がある。
また、本実施形態に係る内視鏡用処置具100の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等を許容する。
【0010】
図1及び
図4に示すように、本実施形態に係る内視鏡用処置具100は、螺線状に巻回されたワイヤ20により構成された長尺なコイルシース10を有する内視鏡用処置具である。
ワイヤ20は、それぞれ螺線状に巻回された1ターンであり相互に軸方向に連なっている複数の巻回部15を含み、コイルシース10の軸心AXに沿った断面(
図5及び
図6参照)において、ワイヤ20は、先端側又は基端側である第1方向に向けて巻回部15が窄まる向きに傾斜している。
より詳細には、コイルシース10の軸心AXに沿った断面において、径方向における一方側のワイヤ20の断面形状、及び、径方向における一方側とは反対側のワイヤ20の断面形状は、それぞれ先端側又は基端側である第1方向に向けて軸心AXに近づく向きに傾斜している。すなわち、各巻回部15の先端の内径は、当該巻回部15の基端の内径よりも小さい。同様に、各巻回部15の先端の外径は、当該巻回部15の基端の外径よりも小さい。
【0011】
本実施形態によれば、コイルシース10の軸心AXに沿った断面(
図5及び
図6参照)において、ワイヤ20は、先端側又は基端側である第1方向に向けて巻回部15が窄まる向きに傾斜している。
これにより、コイルシース10を内視鏡400の鉗子孔(不図示)に対して挿抜する際に、先端側又は基端側に向けて傾斜している巻回部15によって当該鉗子孔の内周面に対するコイルシース10の摩擦抵抗を適度に得ることができる。よって、コイルシース10を鉗子孔に押し込む際の摩擦抵抗に起因する荷重(押し込み荷重)、及び、コイルシース10を鉗子孔から抜去する際の摩擦抵抗に起因する荷重(引き抜き荷重)をそれぞれ適度に得ることができる。このため、軸方向において、コイルシース10が内視鏡400の鉗子孔に対して意図せず位置ずれしてしまうことを抑制できる。これにより、例えば、コイルシース10が鉗子口から意図せず突出してしまうことを抑制できる。
このように、本実施形態によれば、内視鏡用処置具100の良好な操作性を実現することができる。
【0012】
本実施形態の場合、一例として、内視鏡用処置具100は、体腔内で生体組織を切開する処置(病変部位を切除する処置を含む)を行うために用いられる。
より詳細には、内視鏡用処置具100は、例えば、コイルシース10に加えて、コイルシース10に挿通された操作ワイヤ68(
図5参照)と、操作ワイヤ68の先端に設けられ、生体組織の切開に用いられる一対の鉗子部30(
図2及び
図3参照)と、コイルシース10の基端側に設けられて操作ワイヤ68の基端が接続された手元操作部90(
図1参照)と、を更に備えている。
体腔内に留置された内視鏡400の鉗子孔に対して基端側から内視鏡用処置具100のコイルシース10を挿入する。そして、鉗子孔の先端側開口からコイルシース10の先端部を突出させ、コイルシース10の先端部に設けられている一対の鉗子部30によって生体組織を切開することができる。
【0013】
ただし、本発明において、内視鏡用処置具100はこの例に限定されず、内視鏡用処置具100は、例えば、医療用の高周波処置具であってもよい。この場合、内視鏡用処置具100は、給電部(不図示)を更に備えている。給電部は一対の鉗子部30に高周波電流を印加するための端子であり、電源ケーブルを介して高周波電源(不図示)が接続される。そして、給電部に入力された高周波電流は一対の鉗子部30に印加される。
また、本発明において、内視鏡用処置具100は、例えば、生体組織の止血等に用いられる内視鏡用クリップ装置であってもよい。この場合、内視鏡用処置具100は、コイルシース10に加えて、生体組織を把持するための複数の腕部を有するクリップ(不図示)と、コイルシース10に通されてクリップに着脱可能に接続される操作ワイヤ(不図示)と、を備えている。
【0014】
コイルシース10は、長尺かつ管状の部材であり、内視鏡用処置具100の外面に露出している。なお、ここでいう「外面に露出している」とは、例えば、コイルシース10の外面に親水層(不図示)が形成されている場合も含むものとする。ワイヤ20は、一例として、ステンレス線等の金属性ワイヤである。本実施形態の場合、ワイヤ20を螺線状に巻回し、複数の巻回部15を形成した後、当該ワイヤ20に熱処理が施されている。これにより、巻回部15が所望の形状に形状付け(クセ付け)され、当該巻回部15の形状を安定的に維持することができる。
また、本実施形態の場合、コイルシース10の軸心AXに沿った断面(
図5及び
図6参照)において、ワイヤ20は、先端側に向けて巻回部15が窄まる向きに傾斜している。すなわち、第1方向は、先端側の方向である。ただし、本発明において、ワイヤ20は、基端側に向けて巻回部15が窄まる向きに傾斜していてもよい。
ワイヤ20の断面(コイルシース10の軸心AXに沿った断面)形状は、互いに対向する一対の外形線と、互いに対向するもう一対の外形線と、の4つの外形線(以下に説明する径方向外側の外形線20a、径方向内側の外形線20b、先端側の外形線20c、基端側の外形線20d)を含む形状である。
また、各巻回部15は、例えば、径方向外側の面である外面21と、径方向内側の面である内面22と、先端側(軸方向における先端)の面である先端面23と、基端側(軸方向における基端)の面である基端面24と、の4つの面を含む。
コイルシース10の軸心AXに沿った断面において、外面21及び内面22の各々は、例えば、先端側に向けて軸心AXに近づく向きに傾斜している。
【0015】
ここで、本実施形態の場合、ワイヤ20における径方向外側の面(本実施形態の場合、外面21)の、コイルシース10の軸心AXに対する傾斜角度R1(
図7参照)が、3.0度以上5.0度以下である。なお、
図7は、径方向における一方側のワイヤ20の切断端面を選択的に図示している。
より詳細には、本実施形態の場合、ワイヤ20における径方向外側の面(外面21)の、コイルシース10の軸心AXに対する傾斜角度R1とは、径方向外側の外形線20aの先端211と基端212とを繋ぐ仮想的な直線302と、コイルシース10の軸心AXに対して平行に延在する仮想的な直線301と、がなす角度である。
ワイヤ20における径方向外側の面(外面21)の、コイルシース10の軸心AXに対する傾斜角度R1が、3.0度以上であることによって、内視鏡400に対するコイルシース10の押し込み荷重及び引き抜き荷重を適度に確保し、コイルシース10が意図せず内視鏡の鉗子口から突出してしまうことを抑制できる。
また、ワイヤ20における径方向外側の面(外面21)の、コイルシース10の軸心AXに対する傾斜角度R1が、5.0度以下であることによって、内視鏡400に対するコイルシース10の摩擦抵抗が過度に大きくなることを抑制し、当該内視鏡400に対するコイルシース10の挿抜をスムーズに行うことができる。
【0016】
また、本実施形態の場合、コイルシース10の初張力が4.5N以上6.0N以下である。
コイルシース10の初張力が4.5N以上であることによって、コイルシース10は、軸方向に交差する方向への屈曲に対する抵抗力を適度に得ることができる(つまり、適度なコシを有する構成となる)。このため、内視鏡400の鉗子孔へ挿入する際のコイルシース10の押し込み性(プッシャビリティ)を高めることができる。よって、コイルシース10をスムーズに鉗子孔に挿入することができる。
また、コイルシース10の初張力が6.0N以下であることによって、コイルシース10の柔軟性を適度に確保し、鉗子孔に対するコイルシース10の挿抜がスムーズに行われるようにできる。また、内視鏡400の屈曲にコイルシース10が良好に追従することができる。
なお、ここでいう「コイルシース10の初張力」とは、コイルシース10を軸方向に引っ張った際に隣接する巻回部15どうしに隙間を発生させるのに要する力である。
【0017】
本実施形態の場合、
図5及び
図6に示すように、コイルシース10の軸心AXに沿った断面において、ワイヤ20における径方向外側の外形線20aは、径方向内側に向けて弧状に窪んでいる。すなわち、本実施形態の場合、各巻回部15の外面21は、径方向内側に向けて窪んだ凹曲面となっている。
これにより、内視鏡400に対するコイルシース10の押し込み荷重及び引き抜き荷重を適度に確保し、コイルシース10が意図せず内視鏡の鉗子口から突出してしまうことをより確実に抑制できる。
【0018】
また、ワイヤ20における径方向外側の外形線20aの、コイルシース10の軸心AXに対する傾斜角度は、例えば、当該外形線における第1方向側の端部(本実施形態の場合、先端部21a)の傾斜角度R2(
図8(a)参照)よりも、当該外形線における第1方向側とは反対側の端部(本実施形態の場合、基端部21b)の傾斜角度R3(
図8(b)参照)の方が大きい。
これにより、径方向外側の外形線20aの全体が均一な傾斜角度で傾斜している場合と比較して、コイルシース10の外径が肥大化することを抑制しつつも、第1方向側とは反対側の端部(本実施形態の場合、基端部21b)において、内視鏡400との摩擦力を適度に確保することができる。
より詳細には、本実施形態の場合、コイルシース10の軸心AXに対する先端部21aの傾斜角度R2とは、径方向外側の外形線20aの先端211と中央213(軸方向における中央)とを繋ぐ仮想的な直線303と、コイルシース10の軸心AXに対して平行に延在する仮想的な直線301と、がなす角度である。
同様に、本実施形態の場合、コイルシース10の軸心AXに対する基端部21bの傾斜角度R3とは、径方向外側の外形線20aの基端212と中央213(軸方向における中央)とを繋ぐ仮想的な直線304と、コイルシース10の軸心AXに対して平行に延在する仮想的な直線301と、がなす角度である。
本実施形態の場合、コイルシース10の軸心AXに対する先端部21aの傾斜角度R2は、一例として、0度以上10度以下であることが好ましく、より好ましくは0度以上5度以下である。
また、コイルシース10の軸心AXに対する基端部21bの傾斜角度R3は、一例として、3度以上20度以下であることが好ましく、より好ましくは5度以上15度以下である。
【0019】
また、
図5及び
図6に示すように、コイルシース10の軸心AXに沿った断面において、ワイヤ20における径方向内側の外形線20bは、例えば、径方向内側に向けて弧状に膨らんでいる。すなわち、本実施形態の場合、各巻回部15の内面22は、径方向内側に向けて凸の凸曲面となっている。
これにより、操作ワイヤ68がコイルシース10の内周面に対して点接触するようにできるので、コイルシース10に対する操作ワイヤ68の摺動抵抗を低減することができる。
より詳細には、本実施形態の場合、ワイヤ20における径方向内側の面(内面22)の、コイルシース10の軸心AXに対する傾斜角度R4(
図7参照)とは、径方向内側の外形線20bの先端221と基端222とを繋ぐ仮想的な直線307と、コイルシース10の軸心AXに対して平行に延在する仮想的な直線301と、がなす角度である。
【0020】
また、
図6及び
図7に示すように、コイルシース10の軸心AXに沿った断面において、ワイヤ20における径方向外側の外形線20aの曲率半径が、例えば、ワイヤ20における径方向内側の外形線20bの曲率半径よりも小さい。
これにより、内視鏡400に対するコイルシース10の押し込み荷重及び引き抜き荷重をより好適に確保することができる。
【0021】
また、コイルシース10の軸心AXに沿った断面において、例えば、ワイヤ20における第1方向側の外形線(本実施形態の場合、先端側の外形線20c)は第1方向側に向けて弧状に膨らんでおり、ワイヤ20における第1方向とは反対側の外形線(本実施形態の場合、基端側の外形線20d)は第1方向とは反対側に向けて弧状に膨らんでいる。
これにより、軸方向において隣り合う巻回部15どうしが、互いに線接触又は点接触するようにできるので、コイルシース10は、軸方向に対して交差する方向へ引っ掛かりなく滑らかに屈曲することができる。
より詳細には、巻回部15の先端面23は、例えば、当該巻回部15の先端側に隣接する他の巻回部15の基端面24に対して周回状(螺線状の周回状)に線接触している。なお、コイルシース10の軸心AXに沿った断面において、軸方向において隣り合う巻回部15どうしの接触点P1を繋ぐ仮想的な直線306は、例えば、コイルシース10の軸心AXに対して平行に直線状に延在している。
本実施形態の場合、
図6に示すように、先端側の外形線20cの曲率半径は、例えば、基端側の外形線20dの曲率半径と略同等である。また、先端側の外形線20c及び基端側の外形線20dの各々の曲率半径は、例えば、径方向外側の外形線20a及び径方向内側の外形線20dの各々の曲率半径よりも小さい。
【0022】
また、コイルシース10の軸心AXに対して直交する面(
図4に示す仮想面305)に対する巻回部15の傾斜角度R5が、例えば、コイルシース10の軸心AXに対するワイヤ20の傾斜角度(本実施形態の場合、ワイヤ20の外面21の傾斜角度R1と内面22の傾斜角度R4との平均値)よりも大きい。
これにより、巻回部15どうしがより良好に密着し、コイルシース10の初張力を十分に確保することができるので、当該コイルシース10の押し込み性(プッシャビリティ)をより高めることができる。
本実施形態の場合、一例として、コイルシース10の軸心AXに対して直交する面(仮想面305)に対する巻回部15の傾斜角度R5は、4度以上20度以下であることが好ましく、より好ましくは5度以上15度以下である。
【0023】
コイルシース10の軸心AXに沿った断面において、ワイヤ20は、例えば、径方向における寸法よりも、軸方向における寸法が大きい。
これにより、内視鏡400の鉗子孔へ挿入する際のコイルシース10の押し込み性(プッシャビリティ)を良好に確保することができる。
より詳細には、コイルシース10の軸心AXに沿った断面において、ワイヤ20は、例えば、径方向における最大寸法L1(
図6参照)よりも、軸方向における最大寸法L2(
図6参照)が大きい。
ワイヤ20の径方向における最大寸法L1は、例えば、0.1mm以上1.0mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.2mm以上0.3mm以下である。
ワイヤ20の軸方向における最大寸法L2は、例えば、0.2mm以上2.0mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.3mm以上0.5mm以下である。
【0024】
本実施形態の場合、一対の鉗子部30の各々は、長尺な棒状に形成されている(
図2及び
図3参照)。
図2及び
図3に示すように、一対の鉗子部30の基端部どうしが、これら鉗子部30の厚み方向に対して交差する回動軸(後述する軸部材61)において相互に軸支されている。
一対の鉗子部30は、互いに近づく方向に回動することにより生体組織を把持可能に構成されている。
一対の鉗子部30の各々は、刃部50を有している。
【0025】
本発明において、一対の鉗子部30の形状は、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。本実施形態の場合、一対の鉗子部30は互いに同一形状である。
【0026】
本実施形態の場合、刃部50は、
図2及び
図3に示すように、鉗子部30の長手方向における中間部において他方の鉗子部30側に向けて突出している複数の凸部53と、当該鉗子部30の長手方向において凸部53と隣接して配置されていて他方の鉗子部30から遠ざかる側に向けて窪んでいる複数の凹部55とを有している。
本実施形態によれば、凸部53及び凹部55によって生体組織を把持することができるため、より十分な把持力で生体組織を把持することができる。
なお、本発明において、鉗子部30の形状は
図2及び
図3等に示す形状に限定されず、ハサミ形状やカップ形状など内視鏡用処置具100の用途等に応じて適宜設定することができる。
【0027】
手元操作部90は、一対の鉗子部30の開閉操作を行うためのものであり、内視鏡用処置具100における基端側に配置されている。
手元操作部90は、例えば、操作ワイヤ68が挿通された軸部95と、この軸部95の基端部に設けられた指掛リング92と、操作ワイヤ68の基端が連結されて軸部95に対して進退移動するスライダ93と、回転操作部94と、を備えている。操作ワイヤ68は軸部95に対して摺動可能に挿通されている。ユーザは、指掛リング92に例えば親指を挿入し、スライダ93を他の2本の指で挟んで軸部95の長手方向に沿って進退駆動する。これにより、操作ワイヤ68は手元操作部90に対して前進または後退する。コイルシース10の基端は手元操作部90に固定され、操作ワイヤ68はコイルシース10に対して進退可能に挿通されているため、スライダ93の進退移動に連動して操作ワイヤ68の先端はコイルシース10に対して前進または後退する。これにより、後述するように、進退部(不図示)が進退駆動されて、一対の鉗子部30が開閉する。
一対の鉗子部30の回転軸の軸方向は、鉗子部30の板面に対して直交する方向(鉗子部30の厚み方向)である。
また、回転操作部94には操作ワイヤ68が接続されており、回転操作部94を軸部95のまわりに軸回転させることで、スライダ93に基端が固定された操作ワイヤ68はコイルシース10の内部で回転する。これにより、一対の鉗子部30を所望の向きに指向させることができる。
【0028】
また、
図2及び
図3に示すように、内視鏡用処置具100は、一対の鉗子部30を開閉可能に軸支している軸部材61と、2枚のリンク片65、66と、進退部(不図示)と、保持枠80と、を備えている。
軸部材61の軸方向は、
図2及び
図3の紙面に対して直交する方向である。また、軸部材61の軸方向は、一対の鉗子部30の厚み方向である。
一対の鉗子部30は、操作ワイヤ68の押し引きにより開閉駆動される。操作ワイヤ68は、ステンレス鋼などの金属材料で作製されている。
【0029】
進退部は操作ワイヤ68の先端に一体に連結されている。進退部には軸部材(不図示)により2枚のリンク片65、66が回動可能に連結されている。さらに、リンク片65には一方の鉗子部30(例えば、鉗子部30a)の基端部が回動可能に連結され、リンク片66には他方の鉗子部30(例えば、鉗子部30b)の基端部が回動可能に連結されている。
一対の鉗子部30及びリンク片65、66は、
図2及び
図3に示す平面内(軸部材61の軸方向に対して直交する平面内)で相対的に回動する。
一対の鉗子部30の基端部と、リンク片65、66とにより菱形の四節リンクが構成されている。
【0030】
保持枠80はコイルシース10の先端に固定されている。
保持枠80は、コイルシース10の先端に固定されている基端部81と、基端部81から先端側に突出している一対のブラケット82と、を備えている。
ブラケット82は、例えば板状に形成されている。
一対の鉗子部30は、一対のブラケット82の先端部に対して、軸部材61により軸支されている。
一対のブラケット82どうしの間隙において、一対の鉗子部30の基端部と、リンク片65、66がそれぞれ回転可能となっているとともに、進退部においてコイルシース10から先端側に突出している部分が進退可能となっている。
【0031】
操作ワイヤ68及び進退部が基端側に牽引されると、
図2に示すように一対の鉗子部30が閉状態となる。逆に、操作ワイヤ68及び進退部が先端側(
図3における左方)に押し出されると、
図3に示すように一対の鉗子部30が開状態となる。
【0032】
保持枠80の一対のブラケット82は、一対の鉗子部30の基端部を一対の鉗子部30の回転軸(軸部材61)の軸方向における両側から挟持しているとともに、当該回転軸において軸支している。一対のブラケット82は、当該ブラケット82の先端部において鉗子部30の基端部を挟持及び軸支している。
【0033】
上述のように、内視鏡用処置具100は、内視鏡400の鉗子孔(不図示)に挿通して用いられる。
図9に示すように、内視鏡400は、体腔内に挿入される管状の挿入部440と、挿入部440の基端側に設けられている操作部410と、を備えている。操作部410の外面には、鉗子孔の基端側の開口である鉗子口を有する鉗子口金411が設けられている。そして、鉗子口金411には、例えば、鉗子口からの体液の漏れなどを抑制するために当該鉗子口を覆う鉗子栓420が装着される場合がある。鉗子栓420には、内視鏡用処置具100を挿通可能な挿通孔又はスリット(不図示)が形成されており、コイルシース10は、当該挿通孔又はスリットを介して鉗子口から鉗子孔に挿入される。
一般的に鉗子栓420は、ゴム材料などの弾性変形可能な材料によって構成されている。そして、コイルシース10を鉗子栓420に挿入する際には、当該コイルシース10によって鉗子栓420の挿通孔又はスリットを拡径方向に押し広げながら挿入する。
ここで、上述のように、本実施形態に係る内視鏡用処置具100は、内視鏡へ挿入する際のコイルシース10の押し込み性(プッシャビリティ)を十分に有する。このため、コイルシース10を鉗子栓420に挿入する際に、当該コイルシース10が挿通孔又はスリットの基端側の開口の近傍でキンクしてしまうことを抑制できる。
また、上述のように、本実施形態に係る内視鏡用処置具100は、内視鏡400へ押し込む際の摩擦抵抗に起因する荷重(押し込み荷重)が適度となるように構成されている。
このため、挿通孔又はスリットを拡径方向に押し広げつつスムーズにコイルシース10を鉗子栓420に挿入することができる。
すなわち、本実施形態によれば、鉗子栓420ひいては内視鏡400に対する内視鏡用処置具100の挿通性が良好となる。
【0034】
ここで、実際に得られたコイルシース10の縦断面(コイルシース10の軸心AXに沿った断面)の拡大写真を
図10に示す。
図10に示すように、本実施形態におけるワイヤ20は、コイルシース10の軸心AXに沿った断面(
図5及び
図6参照)において、第1方向(
図10に示す写真では先端側)に向けて巻回部15が窄まる向きに傾斜している。
このため、上述のように、コイルシース10を鉗子孔に押し込む際の摩擦抵抗に起因する荷重(押し込み荷重)、及び、コイルシース10を鉗子孔から抜去する際の摩擦抵抗に起因する荷重(引き抜き荷重)をそれぞれ適度に得ることができる。よって、内視鏡用処置具100の良好な操作性を実現することができる。
【0035】
以上、図面を参照して実施形態を説明したが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0036】
本実施形態は以下の技術思想を包含する。
(1)螺線状に巻回されたワイヤにより構成された長尺なコイルシースを有する内視鏡用処置具であって、
前記ワイヤは、それぞれ螺線状に巻回された1ターンであり相互に軸方向に連なっている複数の巻回部を含み、
前記コイルシースの軸心に沿った断面において、前記ワイヤは、先端側又は基端側である第1方向に向けて前記巻回部が窄まる向きに傾斜している内視鏡用処置具。
(2)前記ワイヤにおける径方向外側の面の、前記コイルシースの軸心に対する傾斜角度が、3.0度以上5.0度以下である(1)に記載の内視鏡用処置具。
(3)前記コイルシースの初張力が4.5N以上6.0N以下である(1)又は(2)に記載の内視鏡用処置具。
(4)前記コイルシースの軸心に沿った断面において、前記ワイヤにおける径方向外側の外形線は、径方向内側に向けて弧状に窪んでいる(1)から(3)のいずれか一項に記載の内視鏡用処置具。
(5)前記ワイヤにおける径方向外側の外形線の、前記コイルシースの軸心に対する傾斜角度は、当該外形線における前記第1方向側の端部の前記傾斜角度よりも、当該外形線における前記第1方向側とは反対側の端部の前記傾斜角度の方が大きい(1)から(4)のいずれか一項に記載の内視鏡用処置具。
(6)前記コイルシースの軸心に沿った断面において、前記ワイヤにおける径方向内側の外形線は、径方向内側に向けて弧状に膨らんでいる(1)から(5)のいずれか一項に記載の内視鏡用処置具。
(7)前記ワイヤにおける径方向外側の外形線の曲率半径が、前記ワイヤにおける径方向内側の外形線の曲率半径よりも小さい(1)から(6)のいずれか一項に記載の内視鏡用処置具。
(8)前記コイルシースの軸心に沿った断面において、前記ワイヤにおける前記第1方向側の外形線は前記第1方向側に向けて弧状に膨らんでおり、前記ワイヤにおける前記第1方向とは反対側の外形線は前記第1方向とは反対側に向けて弧状に膨らんでいる(1)から(7)のいずれか一項に記載の内視鏡用処置具。
(9)前記コイルシースの軸心に対して直交する面に対する前記巻回部の傾斜角度が、前記コイルシースの軸心に対する前記ワイヤの傾斜角度よりも大きい(1)から(8)のいずれか一項に記載の内視鏡用処置具。
(10)前記コイルシースの軸心に沿った断面において、前記ワイヤは、径方向における寸法よりも、軸方向における寸法が大きい(1)から(9)のいずれか一項に記載の内視鏡用処置具。
【符号の説明】
【0037】
10 コイルシース
15 巻回部
20 ワイヤ
20a 径方向外側の外形線
20b 径方向内側の外形線
20c 先端側の外形線(第1方向側の外形線)
20d 基端側の外形線(第1方向とは反対側の外形線)
21 外面
21a 先端部
21b 基端部
211 先端
212 基端
213 中央
22 内面
221 先端
222 基端
23 先端面
24 基端面
30、30a、30b 鉗子部
50 刃部
53 凸部
55 凹部
61 軸部材
65、66 リンク片
68 操作ワイヤ
80 保持枠
81 基端部
82 ブラケット
90 手元操作部
92 指掛リング
93 スライダ
94 回転操作部
95 軸部
100 内視鏡用処置具
301、302、303、304、306、307 直線
305 仮想面
400 内視鏡
410 操作部
411 鉗子口金
420 鉗子栓
440 挿入部
AX 軸心