(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094913
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤及び貼付材、ストーマ装具用皮膚保護剤、並びに創傷被覆材
(51)【国際特許分類】
A61K 47/34 20170101AFI20240703BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20240703BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20240703BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20240703BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240703BHJP
C08G 18/10 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
A61K47/34
A61K9/70 401
A61K47/14
A61P17/02
A61P17/00
C08G18/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211832
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000151380
【氏名又は名称】アルケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】久保 貴史
【テーマコード(参考)】
4C076
4J034
【Fターム(参考)】
4C076AA72
4C076AA74
4C076BB31
4C076CC18
4C076CC19
4C076DD29
4C076DD34
4C076DD34G
4C076DD37G
4C076DD38G
4C076DD41
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4C076EE22G
4C076EE23G
4C076EE30
4C076EE32
4C076FF43
4C076FF56
4J034DB03
4J034HA01
4J034HA07
4J034HC03
4J034HC12
4J034HC17
4J034HC22
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC61
4J034HC64
4J034HC67
4J034HC71
4J034HC73
4J034JA01
4J034RA02
(57)【要約】
【課題】本発明は、良好な粘着性を有し且つ皮膚、創傷、又は粘膜への刺激が少ない皮膚、創傷、又は粘膜用粘着剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、ポリオールとポリイソシアネートとの反応物である水酸基末端プレポリマーと、ポリオールとポリイソシアネートとの反応物であるイソシアネート基末端プレポリマーと、を含む混合物の硬化物を含み、37℃、100Hz、且つせん断モードでの動的粘弾性測定により得られた硬化物の複素せん断弾性率が、700kPa以下である、皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤を提供する。本発明は、皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤を含む、皮膚、創傷、又は粘膜用貼付材、ストーマ装具用皮膚保護剤、及び創傷被覆材も提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオールとポリイソシアネートとの反応物である水酸基末端プレポリマーと、
前記ポリオールと前記ポリイソシアネートとの反応物であるイソシアネート基末端プレポリマーと、を含む混合物の硬化物を含み、
37℃、100Hz、且つせん断モードでの動的粘弾性測定により得られた前記硬化物の複素せん断弾性率が、700kPa以下である、皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤。
【請求項2】
前記混合物が、アシルグリセロールを更に含む、請求項1に記載の皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤。
【請求項3】
前記アシルグリセロールが、脂肪酸トリグリセリドである、請求項2に記載の皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤。
【請求項4】
前記混合物における前記アシルグリセロールの含有割合が、3.0質量%以上60.0質量%以下である、請求項2又は3に記載の皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤。
【請求項5】
前記イソシアネート基末端プレポリマーの粘度が、25℃において400mPa・s以上100,000mPa・s以下である、請求項1又は2に記載の皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤。
【請求項6】
前記水酸基末端プレポリマーの粘度が、25℃において7,000mPa・s以上100,000mPa・s以下である、請求項1又は2に記載の皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤。
【請求項7】
フーリエ変換赤外分光光度計により得られた前記硬化物の赤外スペクトルが、波長1650cm-1~1800cm-1にカルボニル基に由来するピークを有する、請求項1又は2に記載の皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤。
【請求項8】
前記硬化物が、スキンケア成分を更に含む、請求項1又は2に記載の皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤。
【請求項9】
前記硬化物が、親水性成分を更に含む、請求項1又は2に記載の皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤。
【請求項10】
前記硬化物が、粘性付与剤を更に含む、請求項1又は2に記載の皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤を含む、皮膚、創傷、又は粘膜用貼付材。
【請求項12】
請求項1又は2に記載の皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤を含む、ストーマ装具用皮膚保護剤。
【請求項13】
請求項1又は2に記載の皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤を含む、創傷被覆材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤、皮膚、創傷、又は粘膜用貼付材、当該ポリウレタン粘着剤を含むストーマ装具用皮膚保護剤、及び当該ポリウレタン粘着剤を含む創傷被覆材に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚、創傷、又は粘膜(以下、本明細書において「皮膚等」ともいう。)用粘着剤は、例えば皮膚等用貼付材に用いられうる。皮膚等用貼付材は、ガーゼ、包帯、絆創膏、カテーテル、及びオストミー装具などの医療器具を皮膚に固定するために用いられうる。また、皮膚等用貼付材は、皮膚、傷、及びストーマ周囲などを保護又は治療するためにも用いられうる。
【0003】
従来、皮膚用粘着剤に関する技術が種々提案されている。例えば、下記特許文献1には、粘着剤を形成する樹脂成分と、脂質組成物から形成されるラメラ構造体と、を含有する皮膚用粘着剤組成物が記載されている。下記特許文献2には、放射線硬化型樹脂に放射線を照射して形成された多孔膜状の皮膚用粘着剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2015/178438号
【特許文献2】国際公開第2015/119160号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、皮膚等用粘着剤において、皮膚等への粘着性向上と皮膚等への刺激低減とを両立することは難しい。皮膚等用粘着剤は、粘着力が大きくなると皮膚等への刺激が強くなる傾向にあるためである。しかしながら、良好な粘着性を有しつつも、皮膚等への刺激が少ない皮膚等用粘着剤が求められている。
【0006】
そこで、本発明は、良好な粘着性を有し且つ皮膚、創傷、又は粘膜への刺激が少ない皮膚、創傷、又は粘膜用粘着剤を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
ポリオールとポリイソシアネートとの反応物である水酸基末端プレポリマーと、
ポリオールとポリイソシアネートとの反応物であるイソシアネート基末端プレポリマーと、を含む混合物の硬化物を含み、
37℃、100Hz、且つせん断モードでの動的粘弾性測定により得られた硬化物の複素せん断弾性率が、700kPa以下である、皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤を提供する。
混合物が、アシルグリセロールを更に含んでいてよい。
アシルグリセロールが、脂肪酸トリグリセリドであってよい。
混合物におけるアシルグリセロールの含有割合が、3.0質量%以上60.0質量%以下であってよい。
イソシアネート基末端プレポリマーの粘度が、25℃において400mPa・s以上100,000mPa・s以下であってよい。
水酸基末端プレポリマーの粘度が、25℃において7,000mPa・s以上100,000mPa・s以下であってよい。
フーリエ変換赤外分光光度計により得られた硬化物の赤外スペクトルが、波長1650cm-1~1800cm-1にカルボニル基に由来するピークを有していてよい。
硬化物が、スキンケア成分を更に含んでいてよい。
硬化物が、親水性成分を更に含んでいてよい。
硬化物が、粘性付与剤を更に含んでいてよい。
本発明は、皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤を含む、皮膚、創傷、又は粘膜用貼付材も提供する。
本発明は、皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤を含む、ストーマ装具用皮膚保護剤も提供する。
本発明は、皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤を含む、創傷被覆材も提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、良好な粘着性を有し且つ皮膚、創傷、又は粘膜への刺激が少ない皮膚、創傷、又は粘膜用粘着剤が提供される。なお、本発明の効果は、ここに記載された効果に限定されず、本明細書内に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】PET板の凹凸面の拡大写真(倍率25倍)である。
【
図2】ヒトの皮膚表面の拡大写真(倍率25倍)である。
【
図3】実施例6又は比較例Aが圧着されたPET板を、PET板の平滑面側から見た拡大写真(倍率25倍)である。
【
図4】実施例6のポリウレタン粘着剤又は比較例Aの粘着層と、PET板の凹凸面との接触部の拡大写真(倍率200倍)である。
【
図5】180°引きはがし粘着力を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態を示したものであり、本発明の範囲がこれらの実施形態のみに限定されることはない。
【0011】
1.本発明の背景及び概要
【0012】
皮膚表面には、皮溝及び皮丘が存在する。皮溝は、皮膚表面に存在する細かい溝である。皮丘は、皮溝に囲まれた小さな隆起である。このように、皮膚表面は、平滑ではなく、細かな凹凸を有している。
【0013】
従来の粘着剤は、皮膚に貼り付けても皮溝に入り込むことができず、皮丘には粘着できても皮溝に粘着できない場合が多い。皮溝に入り込むことができるほどの高い柔軟性を有していないからである。皮丘から剥がれないようにするため、従来の粘着剤の粘着力は強い傾向にある。このような粘着力の強い粘着剤は、皮膚へ強い刺激を与えうる。
【0014】
本発明者は、良好な粘着性を有しつつも皮膚への刺激が少ない粘着剤について検討を行った。その結果、本発明者は、良好な粘着性と皮膚への低刺激性とを両立させるためには、粘着剤が皮膚に接触した際に皮丘及び皮溝に沿って粘着できることが重要であると考えた。その理由は以下のとおりである。
【0015】
粘着剤と皮膚とが接触している場合に、接触面の単位面積当たりの粘着力が強いほど、皮膚への刺激が強くなる傾向にある。本発明者は、接触面の単位面積当たりの粘着力を低減させることにより、皮膚への刺激を弱めることができると考えた。しかしながら、接触面の単位面積当たりの粘着力を低減させると、接触面全体の粘着性も低下するおそれがある。
【0016】
本発明者は、接触面の単位面積当たりの粘着力が弱くても接触面全体が良好な粘着性を有するようにするために、皮膚用粘着剤と皮膚との接触面の面積を増大させる必要があると考えた。すなわち、本発明者は、接触面の単位面積当たりの粘着力が弱くても、接触面の面積を増大させれば、接触面全体としては良好な粘着性を発揮できると考えた。そして、本発明者は、接触面の面積を増大させるためには、粘着剤が皮溝及び皮丘に沿って粘着可能であることが重要であると考えた。
【0017】
本発明者は、皮溝及び皮丘に沿って粘着可能な粘着剤の技術について検討を重ねた。その結果、本発明者は、複素せん断弾性率が特定の数値範囲であって高い柔軟性を有する特定のポリウレタンを用いることにより、目的の粘着剤が得られることを見出した。そして、得られた粘着剤は、皮膚のみならず、創傷及び粘膜に対しても良好な粘着性を有しつつ刺激が少ないことを見出した。
【0018】
すなわち、本発明は、高い柔軟性を有するポリウレタンを含有する、皮膚等用ポリウレタン粘着剤である。本発明に係る皮膚等用ポリウレタン粘着剤は、皮膚表面に接触した際に、皮溝及び皮丘に沿うことができるため、皮膚と接触している面積が広い。そのため、本発明に係る粘着剤は、皮膚接触面の単位面積当たりの粘着力が弱く且つ皮膚への刺激が少ないにもかかわらず、接触面全体として良好な粘着性を有している。また、本発明に係る皮膚等用ポリウレタン粘着剤は、創傷表面及び粘膜表面の細かな凹凸にも沿うことができる。そのため、本発明に係る皮膚等用ポリウレタン粘着剤は、創傷表面及び粘膜表面に対しても、上述した皮膚に対する効果と同様の効果を奏する。
【0019】
以下、本発明の詳細について説明する。
【0020】
2.皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤
【0021】
2-1.概要
【0022】
本発明の一実施形態に係る皮膚等用ポリウレタン粘着剤(以下単に「ポリウレタン粘着剤」ともいう。)は、ポリオールとポリイソシアネートとの反応物である水酸基末端プレポリマーと、当該ポリオールと当該ポリイソシアネートとの反応物であるイソシアネート基末端プレポリマーと、を含む混合物の硬化物を含む。本明細書において「硬化物」は、「ポリウレタン」と言い換えることができる。すなわち、本実施形態に係るポリウレタン粘着剤は、ポリオールとポリイソシアネートとの反応物である水酸基末端プレポリマーと、当該ポリオールと当該ポリイソシアネートとの反応物であるイソシアネート基末端プレポリマーと、を含む混合物を、硬化させることによって得られたポリウレタンを含む。
【0023】
本明細書において、ポリウレタン粘着剤に用いられるポリオールを「ポリオール(A)」、ポリイソシアネートを「ポリイソシアネート(B)」、水酸基末端プレポリマーを「水酸基末端プレポリマー(P1)」、イソシアネート基末端プレポリマーを「イソシアネート基末端プレポリマー(P2)」とも表記する。
【0024】
2-2.ポリウレタンの原料
【0025】
本実施形態に係るポリウレタン粘着剤に用いられる原料について説明する。
【0026】
2-2-1.ポリオール
【0027】
ポリオール(A)は、2以上の水酸基(-OH)を有する化合物である。ポリオール(A)は、1種のみであってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。ポリオール(A)としては、例えば、ポリエーテルポリオールが挙げられる。ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリオキシアルキレンポリオールが挙げられる。ポリオキシアルキレンポリオールとしては、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレントリオール、ポリオキシプロピレングリコール、及びポリオキシプロピレントリオールが挙げられる。
【0028】
ポリオール(A)は、好ましくは、特開2018-204000号公報に記載されているポリオール成分である。すなわち、ポリオール(A)は、好ましくは、分子末端がヒドロキシプロピル基で、且つ、その1級水酸基含有率が少なくとも40%以上であるポリオキシアルキレンポリオール(a1)及び/又はそのエチレンオキサイド付加物(a2)を含有する。ポリオール(A)は、より好ましくは、分子末端がヒドロキシプロピル基で、且つ、その1級水酸基含有率が少なくとも40%以上であるポリオキシアルキレンポリオール(a1)を含有する。分子末端がヒドロキシプロピル基で、且つ、その1級水酸基含有率が少なくとも40%であるポリオキシアルキレンポリオール(a1)は、好ましくは、一般式(1)で表される化合物である。
【0029】
【化1】
[上記一般式(1)中、Xはm個の活性水素原子を有する化合物から活性水素原子を除いたm価の残基;Aはフェニル基又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~12のアルキレン基;Zはプロピレン基;mは2~20の整数;pは0~199の整数、qは1~200の整数であって、1≦p+q≦200を満たす。]
【0030】
ポリオキシアルキレンポリオール(a1)は、末端にヒドロキシプロピル基を有する。ヒドロキシプロピル基末端を有することの確認は、例えば1H-NMR法により行うことができる。ヒドロキシプロピル基には下記の化学式(2)で表される1級水酸基(1級炭素に結合した水酸基)含有基と、化学式(2’)で表される2級水酸基(2級炭素に結合した水酸基)含有基とが含まれるが、1級水酸基含有基と2級水酸基含有基の合計数に対する1級水酸基含有基の数の割合である1級水酸基含有率(以下、1級化率という)は、40%以上、好ましくは70%以上である。1級化率が40%未満では十分な粘着性が得られない。なお、下記にて説明する実施例において用いられたポリオール(A)に含まれるポリオキシアルキレンポリオール(a1)の1級化率は、70%以上を満たすものであった。
【0031】
【0032】
【0033】
1級化率は、予め試料を前処理(エステル化)した後に、1H-NMR法により測定して求めることができる。
【0034】
1H-NMR法の詳細を以下に説明する。
<試料調製法>
測定試料約30mgを直径5mmのNMR用試料管に秤量し、約0.5mlの重水素化溶媒を加え溶解する。その後、約0.1mlの無水トリフルオロ酢酸を添加し分析用試料とする。重水素化溶媒としては、例えば、重水素化クロロホルム、重水素化トルエン、重水素化ジメチルスルホキシド、重水素化ジメチルホルムアミド等から、試料を溶解させることのできる溶媒を適宜選択する。
<NMR測定>
一般的な条件で1H-NMR測定を行う。
<1級化率の計算方法>
上に述べた前処理の方法により、ポリオキシアルキレンポリオールの末端の水酸基は、添加した無水トリフルオロ酢酸と反応してトリフルオロ酢酸エステルとなる。その結果、1級水酸基が結合したメチレン基由来の信号は4.3ppm付近に観測され、2級水酸基が結合したメチン基由来の信号は5.2ppm付近に観測される。1級化率は次の計算式により算出する。
1級化率(%)=[x/(x+2×y)]×100
但し、xは4.3ppm付近の1級水酸基の結合したメチレン基由来の信号の積分値であり、yは5.2ppm付近の2級水酸基の結合したメチン基由来の信号の積分値である。
【0035】
本実施形態において用いられるポリオール(A)を構成するポリオキシアルキレンポリオール(a1)の好ましい具体例としては、プロピレングリコールのPO付加物、ポリプロピレングリコール(末端2級水酸基)のPO付加物、グリセリンのPO付加物、ポリグリセリンのPO付加物、プロピレングリコールの1,2-BO付加物(末端2級水酸基)のPO付加物、グリセリンの1,2-BO付加物(末端2級水酸基)のPO付加物、ポリグリセリンの1,2-BO付加物(末端2級水酸基)のPO付加物及びヒマシ油のPO付加物等が挙げられる。なお、下記の実施例において用いられたポリオール(A)に含まれるポリオキシアルキレンポリオール(a1)は、これらの具体例に記載されたポリオキシアルキレンポリオール(a1)の中から選択されたものであった。
【0036】
本実施形態において用いられるポリオール(A)は、ポリオキシアルキレンポリオール(a1)及びそのエチレンオキサイド付加物(a2)以外に、その他のポリオール(a3)を含有することができる。本実施形態において用いられるポリオール(A)は、好ましくは、ポリオキシアルキレンポリオール(a1)と、ポリオキシアルキレンポリオール(a1)以外のポリオール(a3)とを含有する。
その他のポリオール(a3)としては、水酸基含有化合物(a31)、水酸基含有化合物のAO付加物であるポリエーテルポリオールであって(a1)及び(a2)以外のポリエーテルポリオール(a32)、アミノ基含有化合物のAO付加物であるポリエーテルポリオールであって(a1)及び(a2)以外のポリエーテルポリオール(a33)並びにポリエステルポリオール(a34)等が挙げられる。
【0037】
ポリエーテルポリオール(a32)としては、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリ-3-メチルテトラメチレンエーテルグリコール、共重合ポリオキシアルキレンジオール[末端にヒドロキシプロピル基を有しないEO/PO共重合ジオール、THF/EO共重合ジオール及びTHF/3-メチルテトラヒドロフラン共重合ジオール等(重量比は例えば1/9~9/1)]及びビスフェノール系化合物のAO付加物であって末端にヒドロキシプロピル基を有しないもの;3官能以上のポリエーテルポリオールであって末端にヒドロキシプロピル基を有しないもの、例えば3価以上の多価アルコールのAO付加物[グリセリンのAO付加物及びトリメチロールプロパンのAO付加物等];並びにこれらの1種以上をメチレンジクロライドでカップリングしたもの等が挙げられる。
【0038】
ポリエーテルポリオール(a33)としては、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)-エチレンジアミン(以下、THPEDと略記)、N,N,N’,N”,N”-ペンタキス(2-ヒドロキシプロピル)-ジエチレントリアミン、トリエタノールアミン及びN,N-ジメチルプロピレンジアミン等のAO付加物、N,N-ジメチルジプロピレントリアミンのAO付加物(特開平11-335436号公報に記載のもの)及びN-アミノアルキルイミダゾールのAO付加物(特開平11-322881号公報に記載のもの)等が挙げられる。
【0039】
ポリエステルポリオール(a34)としては、ヒマシ油脂肪酸エステルポリオール(例えばヒマシ油、部分脱水ヒマシ油及びヒマシ油脂肪酸エステル);ポリ(n=2~3又はそれ以上)カルボン酸[脂肪族飽和又は不飽和ポリカルボン酸(炭素数2~40、例えばシュウ酸、アジピン酸、アゼライン酸、ドデカン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸及び二量化リノール酸)、芳香環含有ポリカルボン酸(炭素数8~15、例えばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸及び2,6-ナフタレンジカルボン酸)及び脂環含有ポリカルボン酸(炭素数7~15、例えば1,3-ペンタンジカルボン酸及び1,4-ヘキサンジカルボン酸)等]とポリオール[例えば水酸基含有化合物、(a1)、(a2)及び(a3)等]から形成される線状又は分岐状ポリエステルポリオール;ポリラクトンポリオール[例えば水酸基含有化合物(2~3価)の1種又は2種以上の混合物を開始剤としてこれに(置換)カプロラクトン(炭素数6~10、例えばε-カプロラクトン、α-メチル-ε-カプロラクトン及びε-メチル-ε-カプロラクトン)を触媒(有機金属化合物、金属キレート化合物及び脂肪酸金属アシル化合物等)の存在下に付加重合させたポリオール(例えばポリカプロラクトンポリオール)];末端にカルボキシル基及び/又は水酸基を有するポリエステルにAO(EO及びPO等)を付加重合させて得られるポリエーテルエステルポリオール;ポリカーボネートポリオール;等が挙げられる。
【0040】
その他のポリオール(a3)の内、硬化性及び粘着剤の硬化物の観点から好ましいのは、水酸基含有化合物(a31)の内の水酸基当量が160以下の低分子多価アルコール、ポリエーテルポリオール(a32)及びポリエーテルポリオール(a33)であり、更に好ましいのはポリエーテルポリオール(a32)であり、特に好ましいのは炭素数2~4の繰り返し単位を有するポリエーテルポリオールであり、最も好ましいのはポリテトラメチレンエーテルグリコールである。
【0041】
その他のポリオール(a3)の水酸基価は、柔軟性と硬化性の観点から、好ましくは10~1500mgKOH/g、更に好ましくは20~500mgKOH/g、特に好ましくは30~150mgKOH/gである。なお、下記の実施例において用いられたポリオール(A)に含まれるポリオール(a3)の水酸基価は、30~150mgKOH/gを満たすものであった。
【0042】
その他のポリオール(a3)の数平均官能基数は、硬化性の観点から、好ましくは2~5、更に好ましくは2~4、特に好ましくは2~3である。なお、下記の実施例において用いられたポリオール(A)に含まれるポリオール(a3)の数平均官能基数は、2~3を満たすものであった。
【0043】
ポリオール(A)におけるその他のポリオール(a3)の含有量は、粘着剤の硬化物の靭性の観点から、ポリオール(A)の重量に基づいて好ましくは5~95重量%、更に好ましくは10~90重量%、特に好ましくは20~80重量%である。なお、下記の実施例において用いられたポリオール(A)におけるポリオール(a3)の含有量は、20~80重量%を満たすものであった。
【0044】
2-2-2.ポリイソシアネート
【0045】
ポリイソシアネート(B)は、1~3のイソシアネート基(-NCO)を有する化合物である。ポリイソシアネート(B)は、1種のみであってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。ポリイソシアネート(B)としては、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、及びこれらのポリイソシアネートの変性物が挙げられる。
【0046】
ポリイソシアネート(B)は、好ましくは、特開2018-204000号公報に記載されている有機ポリイソシアネート成分である。すなわち、ポリイソシアネート(B)は、好ましくは、2以上のイソシアネート基を有する炭素数4~22の鎖状脂肪族ポリイソシアネート(b1)、炭素数8~18の脂環式ポリイソシアネート(b2)、炭素数8~26の芳香族ポリイソシアネート(b3)、炭素数10~18の芳香脂肪族ポリイソシアネート(b4)及びこれらのポリイソシアネートの変性物(b5)である。
【0047】
炭素数4~22の鎖状脂肪族ポリイソシアネート(b1)としては、例えばエチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(以下、HDIと略記)、ドデカメチレンジイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6-ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2-イソシアナトエチル)フマレート、ビス(2-イソシアナトエチル)カーボネート及び2-イソシアナトエチル-2,6-ジイソシアナトヘキサノエートが挙げられる。
【0048】
炭素数8~18の脂環式ポリイソシアネート(b2)としては、例えばイソホロンジイソシアネート(以下、IPDIと略記)、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(以下、水添MDIと略記)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2-イソシアナトエチル)-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボキシレート及び2,5-又は2,6-ノルボルナンジイソシアネートが挙げられる。
【0049】
炭素数8~26の芳香族ポリイソシアネート(b3)としては、例えば1,3-又は1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-又は2,6-トリレンジイソシアネート(以下、TDI略記)、粗製TDI、4,4’-又は2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと略記)、粗製MDI、ポリアリールポリイソシアネート、4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4’,4”-トリフェニルメタントリイソシアネート及びm-又はp-イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネートが挙げられる。
【0050】
炭素数10~18の芳香脂肪族ポリイソシアネート(b4)としては、例えばm-又はp-キシリレンジイソシアネート及びα,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネートが挙げられる。
【0051】
(b1)~(b4)のポリイソシアネートの変性物(b5)としては、上記ポリイソシアネートの変性物(ウレタン基、カルボジイミド基、アロハネート基、ウレア基、ビウレット基、ウレトジオン基、ウレトイミン基、イソシアヌレート基又はオキサゾリドン基含有変性物等;遊離イソシアネート基含有量が好ましくは8~33重量%、更に好ましくは10~30重量%、特に12~29重量%のもの)、例えば変性MDI(ウレタン変性MDI、カルボジイミド変性MDI及びトリヒドロカルビルホスフェート変性MDI等)、ウレタン変性TDI、ビウレット変性HDI、イソシアヌレート変性HDI及びイソシアヌレート変性IPDI等のポリイソシアネートの変性物が挙げられる。
【0052】
ポリイソシアネート(B)は、色相の観点から、より好ましくは、炭素数4~22の鎖状脂肪族ポリイソシアネート(b1)及び炭素数8~18の脂環式ポリイソシアネート(b2)であり、更に好ましくは炭素数4~22の鎖状脂肪族ポリイソシアネート(b1)である。
【0053】
2-2-3.水酸基末端プレポリマー及びイソシアネート基末端プレポリマー
【0054】
水酸基末端プレポリマー(P1)は、ポリオール(A)とポリイソシアネート(B)との反応物である。具体的には、水酸基末端プレポリマー(P1)は、ポリオール(A)とポリイソシアネート(B)とを混合し、反応させることによって得られる。反応させるポリオール(A)及びポリイソシアネート(B)の量は、ポリオール(A)の水酸基のモル数が、ポリイソシアネート(B)のイソシアネート基のモル数よりも大きくなるように調整される。これにより、水酸基末端プレポリマー(P1)が得られうる。
【0055】
イソシアネート基末端プレポリマー(P2)は、ポリオール(A)とポリイソシアネート(B)との反応物である。具体的には、イソシアネート基末端プレポリマー(P2)は、ポリオール(A)とポリイソシアネート(B)とを混合し、反応させることによって得られる。反応させるポリオール(A)及びポリイソシアネート(B)の量は、ポリイソシアネート(B)のイソシアネート基のモル数が、ポリオール(A)の水酸基のモル数よりも大きくなるように調整される。これにより、イソシアネート基末端プレポリマー(P2)が得られうる。
【0056】
水酸基末端プレポリマー(P1)は、例えば、溶剤の存在下又は非存在下で、ポリイソシアネート(B)のイソシアネート基のモル数に対するポリオール(A)の水酸基のモル数の比(水酸基のモル数/イソシアネート基のモル数)が1.0を超過する値となるように、ポリオール(A)とポリイソシアネート(B)とを反応させて得られる反応物である。
【0057】
イソシアネート基末端プレポリマー(P2)は、例えば、溶剤の存在下又は非存在下で、ポリオール(A)の水酸基のモル数に対するポリイソシアネート(B)のイソシアネート基のモル数の比(イソシアネート基のモル数/水酸基のモル数)が1.0を超過する値となるように、ポリオール(A)とポリイソシアネート(B)とを反応させて得られる反応物である。
【0058】
上記溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、ジメチルホルムアミド、アセトン、メチルエチルケトン、及びTHFなどが挙げられる。
【0059】
水酸基末端プレポリマー(P1)及びイソシアネート基末端プレポリマー(P2)は、好ましくは、溶剤の非存在下において、ポリオール(A)とポリイソシアネート(B)とを反応させることにより得られる。すなわち、水酸基末端プレポリマー(P1)は、好ましくは、ポリオール(A)とポリイソシアネート(B)との溶剤非含有反応物である。イソシアネート基末端プレポリマー(P2)は、好ましくは、ポリオール(A)とポリイソシアネート(B)との溶剤非含有反応物である。このような溶剤非含有反応物を用いることにより、皮膚への刺激が強い溶剤(例えば有機溶剤)を含まないポリウレタン粘着剤が得られうる。すなわち、上記溶剤非含有反応物を用いることにより、皮膚への刺激がより少ないポリウレタン粘着剤が得られうる。
【0060】
ポリオール(A)とポリイソシアネート(B)との混合及び反応は、当技術分野において既知の反応装置を用いて行われてよい。当該反応装置は、例えば、撹拌機を備えた混合槽及びスタティックミキサーなどであってよい。反応温度は、反応性及び熱劣化抑制の観点から好ましくは10~160℃、更に好ましくは25~120℃である。反応においては、安定性の観点から、気相部を窒素で置換することが好ましい。
【0061】
水酸基末端プレポリマー(P1)の粘度の下限値は、25℃において、好ましくは7,000mPa・s以上、より好ましくは8,000mPa・s以上、更により好ましくは10,000mPa・s以上である。水酸基末端プレポリマー(P1)の粘度の上限値は、25℃において、好ましくは100,000mPa・s以下、より好ましくは75,000mPa・s以下、更により好ましくは50,000mPa・s以下である。水酸基末端プレポリマー(P1)の粘度の好ましい数値範囲は、上記で述べた下限値及び上限値から選択された組み合わせであってよく、25℃において、好ましくは7,000mPa・s以上100,000mPa・s以下、より好ましくは8,000mPa・s以上75,000mPa・s以下、更により好ましくは10,000mPa・s以上50,000mPa・s以下である。高い柔軟性を有するポリウレタンを得るために、このような粘度が好ましい。
【0062】
イソシアネート基末端プレポリマー(P2)の粘度の下限値は、25℃において、好ましくは400mPa・s以上、より好ましくは2,000mPa・s以上、更により好ましくは8,000mPa・s以上である。イソシアネート基末端プレポリマー(P2)の粘度の上限値は、25℃において、好ましくは100,000mPa・s以下、より好ましくは80,000mPa・s以下、更により好ましくは50,000mPa・s以下である。イソシアネート基末端プレポリマー(P2)の粘度の好ましい数値範囲は、上記で述べた下限値及び上限値から選択された組み合わせであってよく、25℃において、好ましくは400mPa・s以上100,000mPa・s以下、より好ましくは2,000mPa・s以上80,000mPa・s以下、更により好ましくは8,000mPa・s以上50,000mPa・s以下である。高い柔軟性を有するポリウレタンを得るために、このような粘度が好ましい。
【0063】
本明細書において、水酸基末端プレポリマー(P1)及びイソシアネート基末端プレポリマー(P2)の粘度は、25℃においてB型粘度計を用いて測定された値である。
【0064】
水酸基末端プレポリマー(P1)は、上述のとおり高い粘度(例えば25℃において7,000mPa・s以上)を有していることが好ましい。このような高い粘度を有している水酸基末端プレポリマー(P1)は、分子量が高いと考えられる。水酸基末端プレポリマー(P1)が高分子量化されていることが、ポリウレタンの柔軟性を高めることに寄与していると考えられる。
【0065】
2-2-4.他の原料
【0066】
2-2-4-1.アシルグリセロール
【0067】
本実施形態において用いられる硬化物(ポリウレタン)を得るために、他の原料が用いられてよい。当該他の原料として、例えばアシルグリセロールが挙げられる。
【0068】
アシルグリセロールは、ポリウレタンの柔軟性を高めることに寄与しうる。アシルグリセロールを用いて得られるポリウレタン粘着剤は、皮膚表面に接した際に皮溝により入り込みやすく、皮溝及び皮丘に沿ってより良好に粘着できる。また、アシルグリセロールは、ポリウレタンからブリードアウトしにくい。そのため、アシルグリセロールを用いて得られるポリウレタン粘着剤を経時的に使用しても、ブリードアウトによる粘着力の低下及び皮膚への刺激が生じにくい。
【0069】
アシルグリセロール(グリセリドともいう)は、好ましくは脂肪酸トリグリセリド(具体的には、短鎖脂肪酸トリグリセリド、中鎖脂肪酸トリグリセリド、及び長鎖脂肪酸トリグリセリド)であり、より好ましくは炭素数が5~12の脂肪酸を構成成分とする中鎖脂肪酸トリグリセリドである。本実施形態において、これらのアシルグリセロールのうちの1種又は2種以上の組み合わせが用いられてよい。
【0070】
アシルグリセロールは、好ましくは、水酸基末端プレポリマー(P1)とイソシアネート基末端プレポリマー(P2)とを用いてポリウレタンを生成する際に配合される。すなわち、水酸基末端プレポリマー(P1)とイソシアネート基末端プレポリマー(P2)とを含む混合物は、好ましくは、アシルグリセロールを更に含んでいてよい。当該混合物中でアシルグリセロールとイソシアネート基末端プレポリマー(P2)とが反応することにより、柔軟性の高い硬化物が得られる。
【0071】
水酸基末端プレポリマー(P1)とイソシアネート基末端プレポリマー(P2)とを含む混合物におけるアシルグリセロールの含有割合は、好ましくは3.0質量%以上60.0質量%以下、より好ましくは5.0質量%以上60.0質量%以下、更により好ましくは5.0質量%以上55.0質量%以下である。
【0072】
上記混合物におけるアシルグリセロールの含有割合は、例えば、目的に応じて調整されてよい。一例として、柔軟性のより高い硬化物(ポリウレタン)を得ることを目的とする場合、当該混合物におけるアシルグリセロールの含有割合は、好ましくは20.0質量%以上60.0質量%以下、より好ましくは25.0質量%以上60.0質量%以下、更により好ましくは30.0質量%以上60.0質量%以下、特に好ましくは40.0質量%以上60.0質量%以下、又は45.0質量%以上55.0質量%以下である。当該混合物におけるアシルグリセロールの含有割合が高いほど、硬化物(ポリウレタン)の柔軟性が高くなる(具体的には、硬化物の複素せん断弾性率の値が小さくなる)。そのため、より良好な粘着性を有し且つ皮膚への刺激がより少ないポリウレタン粘着剤が得られうる。当該混合物におけるアシルグリセロールの含有割合が60.0質量%以下であることにより、イソシアネート基末端プレポリマー(P2)と反応せずに残存するアシルグリセロールの量が低減されうる。
【0073】
他の一例として、親水性成分又は添加剤などの含有割合を高めるためにアシルグリセロールの含有割合を相対的に低くすることを目的とする場合、上記混合物におけるアシルグリセロールの含有割合は、好ましくは3.0質量%以上40.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以上30.0質量%以下、更により好ましくは3.0質量%以上20.0質量%以下、特に好ましくは5.0質量%以上20.0質量%以下である。当該含有割合をこのような数値範囲内とすることにより、硬化物(ポリウレタン)に適切な柔軟性を付与しつつ、アシルグリセロール以外の成分の含有割合を調整することができる。
【0074】
アシルグリセロールは、例えば、ポリオール(A)とポリイソシアネート(B)とを用いて水酸基末端プレポリマー(P1)を生成する際に配合されてもよい。この場合、ポリオール(A)とポリイソシアネート(B)との反応物である水酸基末端プレポリマー(P1)と、アシルグリセロールと、を含む組成物が得られる。当該組成物と、イソシアネート基末端プレポリマー(P2)と、を含む混合物を硬化させることによって、硬化物が得られる。当該混合物中でアシルグリセロールとイソシアネート基末端プレポリマー(P2)とが反応することにより、柔軟性の高い硬化物が得られる。
【0075】
なお、上記混合物中のアシルグリセロールは、当該混合物の硬化後においては検出されにくい場合がある。アシルグリセロールがイソシアネート基末端プレポリマー(P2)と反応するため、硬化物からアシルグリセロールを単離することが困難なためである。
【0076】
2-2-4-2.スキンケア成分
【0077】
上記他の原料は、例えば、スキンケア成分であってよい。本実施形態において用いられる混合物及びその硬化物(ポリウレタン)は、例えば、スキンケア成分を更に含む。
【0078】
本明細書において「スキンケア成分」とは、皮膚の健康状態及び/又は外観の維持及び/又は改善が可能な成分をいう。「皮膚の健康状態及び/又は外観の維持及び/又は改善」には、例えば、健康な皮膚を維持すること、皮膚トラブル(例えば、痒み、発疹、及び赤みなど)の発生を予防すること、皮膚トラブルを改善すること、皮膚トラブルの悪化を防止すること、皮膚の外観を維持すること、及び皮膚の外観を改善することが含まれうる。当該スキンケア成分は、例えば、皮膚保護成分(例えば鉱油)、保湿成分(例えばセラミド)、肌荒れ改善成分、炎症抑制成分、及び美白成分などであってよいが、これらに限定されない。本実施形態において、これらのスキンケア成分のうちの1種又は2種以上の組み合わせが用いられてよい。
【0079】
本発明者は、ポリウレタン粘着剤にスキンケア成分を配合することにより、ポリウレタン粘着剤を皮膚から剥がす際により剥がしやすくなることを見出した。スキンケア成分を含有するポリウレタン粘着剤は、皮膚への粘着性が良好である一方で、意図的に皮膚から剥がす際には剥がしやすい。
【0080】
上記混合物及びその硬化物(ポリウレタン)におけるスキンケア成分の含有割合は、例えば0.01質量%以上20.0質量%以下、好ましくは0.1質量%以上15.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%以上10.0質量%以下である。スキンケア成分の含有割合が例えば0.01%以上であることは、スキンケア成分の効果を得ることに寄与しうる。スキンケア成分の含有割合が例えば20.0質量%以下であることは、スキンケア成分を過剰に含有することに起因する粘着力低下を抑制することに寄与しうる。
【0081】
2-2-4-3.親水性成分
【0082】
上記他の原料は、例えば、親水性成分であってよい。本実施形態において用いられる混合物及びその硬化物(ポリウレタン)は、例えば、親水性成分を更に含む。
【0083】
親水性成分は、液状成分(例えば、血液、浸出液、及び膿などの体液、汗、並びに排泄物など)を吸収できる。一般的に、粘着剤と皮膚表面との間に液状成分が長時間存在すると、粘着剤の粘着力が低下したり皮膚トラブルが発生したりしやすくなる。親水性成分を含むポリウレタン粘着剤は、液状成分を吸収することができるため、液状成分に起因する粘着力低下及び皮膚トラブルを抑制できる。
【0084】
本実施形態に係るポリウレタン粘着剤が創傷を覆うために用いられる場合、親水性成分は、創面からの浸出液を吸収して湿潤環境を維持し、創傷の治癒を促すことに寄与しうる。このような創傷の治療方法は、湿潤環境下療法と呼ばれており、滲出液に含まれる多核白血球、マクロファージ、酵素、及び細胞増殖因子などを創面に保持することによって創傷治癒を促進できる。
【0085】
親水性成分は、例えば、汗の吸収、薬剤の含浸及び放出、並びに保湿作用などを目的として配合されていてもよい。
【0086】
親水性成分の一例として、親水性ポリマーが挙げられる。親水性ポリマーは、例えば、天然、半合成、又は合成の親水性ポリマーであってよい。「半合成」とは、部分化学合成とも称され、例えば植物材料、微生物又は細胞培養物などの天然資源から単離された化合物を出発物質として使用する化学合成をいう。
【0087】
天然親水性ポリマーとして、例えば、アラビアガム、トラガカントガム、ガラクタン、グアガム、キャロブガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、カンテン、及びデンプン(例えば、コメ、トウモロコシ、バレイショ、及びコムギのデンプン)などの植物系ポリマー;キサンタンガム、デキストリン、デキストラン、サクシノグルカン、マンナン、ローカストビーンガム、及びプルランなどの微生物系ポリマー;カゼイン、アルブミン、及びゼラチンなどの動物系ポリマーなどが挙げられる。
【0088】
半合成親水性ポリマーとして、例えば、カルボキシメチルデンプン及びメチルヒドロキシプロピルデンプンなどのデンプン系ポリマー;メチルセルロース、エチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロース硫酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロース・ナトリウムなどのセルロース系ポリマー;アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カルシウム、及びアルギン酸プロピレングリコールエステルなどのアルギン酸系ポリマーなどが挙げられる。
【0089】
合成親水性ポリマーとして、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン、及びカルボキシビニルポリマーなどのビニル系ポリマー;ポリアクリル酸ナトリウム及びポリアクリルアミドなどのアクリル系ポリマー;ポリエチレンイミンなどが挙げられる。
【0090】
本実施形態において、これらの親水性ポリマーのうちの1種又は2種以上の組み合わせが用いられてよい。親水性ポリマーは、好ましくはカルボキシメチルセルロース・ナトリウム、ペクチン、カラヤガム、マンナン、ローカストビーンガム、及びゼラチンからなる群より選択される1種又は2種以上であり、より好ましくはカルボキシメチルセルロース・ナトリウム、ペクチン、及びゼラチンからなる群より選択される1種又は2種以上であり、さらにより好ましくはカルボキシメチルセルロース・ナトリウム及び/又はペクチンである。このような親水性ポリマーを含むポリウレタン粘着剤は、液状成分の吸収性が良好であるため、液状成分に起因する粘着力低下及び皮膚トラブルを効果的に抑制できる。
【0091】
親水性成分の他の一例として、吸水性又は吸湿性を有する無機化合物が挙げられる。このような無機化合物の具体例として、シリカが挙げられる。
【0092】
親水性成分の他の一例として、吸着性を有する物質が挙げられる。このような物質の具体例として、活性炭が挙げられる。
【0093】
本実施形態において、親水性成分として、親水性ポリマーのうちの1種又は2種以上と、吸水性又は吸湿性を有する無機化合物との組み合わせが用いられてよい。この場合において、親水性成分は、好ましくはカルボキシメチルセルロース・ナトリウム、ペクチン、カラヤガム、マンナン、ローカストビーンガム、及びゼラチンからなる群より選択される1種又は2種以上とシリカとの組み合わせであり、より好ましくはカルボキシメチルセルロース・ナトリウム、ペクチン、及びゼラチンからなる群より選択される1種又は2種以上とシリカとの組み合わせであり、さらにより好ましくはカルボキシメチルセルロース・ナトリウム及び/又はペクチンとシリカとの組み合わせである。
【0094】
上記混合物及びその硬化物(ポリウレタン)における親水性成分の含有割合は、例えば1.0質量%以上50.0質量%以下、好ましくは5.0質量%以上40.0質量%以下、より好ましくは5.0質量%以上35.0質量%以下である。良好な粘着性に加えて液状成分の吸収性も有するポリウレタン粘着剤を得るために、このような含有割合が好ましい。なお、本明細書において「親水性成分の含有割合」は、親水性成分が2種以上の成分の組み合わせである場合、当該2種以上の成分の含有割合の合計を意味する。
【0095】
例えば、適切な柔軟性を有しつつ高い吸水性を有するポリウレタン粘着剤を得ることを目的とする場合、上記混合物及びその硬化物(ポリウレタン)における親水性成分の含有割合は、更により好ましくは10.0質量%以上30.0質量%以下、特に好ましくは15.0質量%以上30.0質量%以下、又は20.0質量%以上30.0質量%以下である。
【0096】
例えば、吸水性よりも柔軟性を高めたい場合、上記混合物及びその硬化物(ポリウレタン)における親水性成分の含有割合は、更により好ましくは5.0質量%以上30.0質量%以下、特に好ましくは5.0質量%以上25.0質量%以下、5.0質量%以上20.0質量%以下、又は5.0質量%以上15.0質量%以下である。
【0097】
2-2-4-4.粘性付与剤
【0098】
上記他の原料は、例えば、粘性付与剤であってよい。本実施形態において用いられる混合物及びその硬化物(ポリウレタン)は、例えば、粘性付与剤を更に含む。
【0099】
本明細書において「粘性付与剤」とは、ポリウレタン粘着剤に粘性を付与する添加剤をいう。粘性付与剤として、例えば、アルコールが挙げられる。アルコールとして、例えば、上記混合物及びその硬化物(ポリウレタン)に上記ポリオール(A)として配合されていないポリオール、一価アルコール、並びにポリオレフィン樹脂が挙げられる。
【0100】
上記ポリオールとして、例えば、グリコールが挙げられる。グリコールとして、例えば、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、ノナンジオール、及びポリプロピレングリコールなどが挙げられる。上記一価アルコールとして、例えば、飽和一価アルコールが挙げられる。飽和一価アルコールとして、例えば、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、及びデカノールが挙げられる。上記ポリオレフィン樹脂として、例えば、ポリブテンが挙げられる。
【0101】
本実施形態において、これらの粘性付与剤のうちの1種又は2種以上の組み合わせが用いられてよい。上記混合物及びその硬化物に含まれる粘性付与剤は、好ましくはグリコールとポリオレフィン樹脂とを含み、より好ましくはグリコールとポリブテンとを含み、さらにより好ましくはヘキサンジオール、ペンタンジオール、及びノナンジオールから選択される1種又は2種以上とポリブテンとを含み、特に好ましくはペンタンジオールとポリブテンとを含む。このような粘性付与剤を用いることにより、柔軟性と粘性とのバランスが良好なポリウレタン粘着剤が得られうる。
【0102】
上記混合物及びその硬化物における粘性付与剤の含有割合は、例えば0.1質量%以上20.0質量%以下、好ましくは0.5質量%以上15.0質量%以下である。粘性付与剤の含有割合が例えば0.1質量%以上であることは、ポリウレタン粘着剤の粘性向上に寄与しうる。粘性付与剤の含有割合が例えば20.0質量%以下であることにより、アシルグリセロール又は親水性成分などの他の原料の効果を妨げにくくなる。
【0103】
2-2-4-5.触媒
【0104】
上記他の原料は、例えば、触媒であってよい。本実施形態において用いられる混合物及びその硬化物(ポリウレタン)は、好ましくは、触媒を更に含む。触媒は、水酸基末端プレポリマー(P1)とイソシアネート基末端プレポリマー(P2)とを効率的に反応させることができる。
【0105】
触媒は、例えば、カルボン酸金属塩、ビスマスカルボン酸塩、変性シリコーン、ビス(2-エチルヘキサノイルオキシ)亜鉛、アクリル系重合物、アクリルシリコーン系重合物、及び金属炭酸塩などであってよい。
【0106】
上記混合物及びその硬化物(ポリウレタン)における触媒の含有割合は、例えば0.01質量%以上5.0質量%以下であってよい。
【0107】
2-2-4-6.添加剤
【0108】
本実施形態に係るポリウレタン粘着剤は、本発明の効果を損なわない範囲において、各種の添加剤を含んでいてよい。当該添加剤としては、例えば、充填剤、pH調整剤、着色剤、抗菌剤、及び薬剤(薬効成分)などが挙げられる。
【0109】
2-3.皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤の製造方法
【0110】
本実施形態に係るポリウレタン粘着剤は、水酸基末端プレポリマー(P1)とイソシアネート基末端プレポリマー(P2)とを混合し、硬化させることによって得られうる。当該混合は、当技術分野において既知の手段によって行われてよい。水酸基末端プレポリマー(P1)及びイソシアネート基末端プレポリマー(P2)は、上記「2-2-3.水酸基末端プレポリマー及びイソシアネート基末端プレポリマー」において説明した手順によって生成されうる。
【0111】
水酸基末端プレポリマー(P1)とイソシアネート基末端プレポリマー(P2)との混合物は、時間の経過と共に徐々に硬化する。混合物の硬化を促進するために、混合物は加熱処理されてもよい。加熱処理において、加熱温度は、例えば50℃以上130℃以下、好ましくは60℃以上100℃以下である。加熱時間は、例えば1分以上20分以下、好ましくは3分以上10分以下である。
【0112】
2-4.皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤の特性
【0113】
2-4-1.複素せん断弾性率
【0114】
本実施形態において用いられる硬化物(ポリウレタン)は、弾性と粘性の両方の性質を有する粘弾性体である。粘弾性体の粘弾性を評価する方法として、動的粘弾性測定が知られている。
【0115】
本実施形態に係るポリウレタン粘着剤において、37℃、100Hz、且つせん断モードでの動的粘弾性測定により得られた硬化物の複素せん断弾性率は、700kPa以下である。当該硬化物の複素せん断弾性率の上限値は、好ましくは400kPa以下である。硬化物の複素せん断弾性率の値が小さいほど、硬化物の柔軟性が高いといえる。硬化物の柔軟性を更に高めたい場合、複素せん断弾性率の上限値は、より好ましくは、300kPa以下、200kPa以下、150kPa以下、100kPa以下、又は50kPa以下である。本実施形態において用いられる硬化物(ポリウレタン)は、複素せん断弾性率の値が700kPa以下であり、高い柔軟性を有している。そのため、本実施形態に係るポリウレタン粘着剤は、皮膚表面の皮丘及び皮溝に沿って粘着可能である。
【0116】
硬化物の複素せん断弾性率の下限値は、例えば10kPa以上、好ましくは20kPa以上、より好ましくは30kPa以上、更により好ましくは40kPa以上である。このように硬化物の複素せん断弾性率が過度に低くないことによって、硬化物が柔らかくなり過ぎることを防止できる。そのため、複素せん断弾性率の下限値がこのような値であることは、ポリウレタン粘着剤の取り扱い性向上に寄与しうる。柔軟性と他の特性とのバランスを取る観点からは、硬化物の複素弾性率の下限値は、好ましくは、100kPa以上、150kPa以上、又は200kPa以上である。
【0117】
硬化物の複素せん断弾性率の好ましい数値範囲は、上記で述べた上限値及び下限値から選択された組み合わせであってよく、例えば10kPa以上700kPa以下、好ましくは20kPa以上400kPa以下である。柔軟性を重視する場合、硬化物の複素せん断弾性率の数値範囲は、好ましくは、10kPa以上200kPa以下、20kPa以上150kPa以下、30kPa以上100kPa以下、又は40kPa以上50kPa以下である。柔軟性と他の特性とのバランスを重視する場合、硬化物の複素せん断弾性率の数値範囲は、好ましくは、100kPa以上400kPa以下、150kPa以上400kPa以下、又は200kPa以上400kPa以下である。
【0118】
上記動的粘弾性測定は、レオメーターを用いて行われうる。当該測定に用いられる試験片の作製手順及び測定手順の詳細は、下記実施例に記載されているとおりである。
【0119】
2-4-2.ループタック
【0120】
粘着剤の粘着性を評価する指標の1つとして、タックが知られている。タックは、粘着剤のべたつきを指す。タックが高い(タックの値が大きい)粘着剤ほど、軽い力で短時間に対象物に粘着することができるため、貼り付け時に対象物に貼り付きやすく、すなわち、初期粘着力が強い。
【0121】
本実施形態において用いられる硬化物(ポリウレタン)のループタックの上限値は、例えば600gf以下、好ましくは300gf以下、より好ましくは270gf以下、更により好ましくは160gf以下である。ループタックは、ループタック法という試験法によって測定されたタックである。硬化物のループタックは低いことが好ましく、すなわち、硬化物の初期粘着力は低いことが好ましい。低い初期粘着力は、皮膚への刺激を弱めることに寄与しうる。ループタック測定に用いられる試験片の作成及びループタック測定は、下記実施例に記載されている手順によって行われうる。
【0122】
硬化物のループタックの下限値は、例えば50gf以上、好ましくは70gf以上である。このように硬化物のループタックが過度に低くないことによって、ポリウレタン粘着剤が皮膚に貼り付きにくくなることを低減できる。
【0123】
硬化物のループタックの好ましい数値範囲は、上記で述べた上限値及び下限値から選択された組み合わせであってよく、例えば50gf以上600gf以下、好ましくは50gf以上300gf以下、より好ましくは50gf以上270gf以下、更により好ましくは50gf以上160gf以下、特に好ましくは70gf以上160gf以下である。
【0124】
2-4-3.官能基
【0125】
本実施形態において用いられる硬化物(ポリウレタン)は、好ましくは、カルボニル基(-CO)を有している。具体的には、フーリエ変換赤外分光光度計により得られた硬化物の赤外スペクトルが、好ましくは、波長1650cm-1~1800cm-1にカルボニル基に由来するピークを有している。硬化物が官能基としてカルボニル基を有していることが、ポリウレタン粘着剤の柔軟性向上に寄与していると推測される。
【0126】
2-5.皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤の利点
【0127】
本実施形態に係るポリウレタン粘着剤は、高い柔軟性を有しているため、以下の利点を有する。当該ポリウレタン粘着剤は、皮溝に入り込むことができ、皮丘と皮溝の両方に粘着できる。当該ポリウレタン粘着剤は、単位面積当たりの粘着力は低いが、皮膚との接触面積が広いため接触面全体としては良好な粘着性を有しており、皮膚から剥がれにくい。当該ポリウレタン粘着剤は、凹凸のある体表面にも貼り付けやすく、剥がれにくい。当該ポリウレタン粘着剤は、皮膚の動きに追従可能であるため、体動によって皮膚が伸縮した場合であっても剥がれにくい。
【0128】
本実施形態に係るポリウレタン粘着剤は、単位面積当たりの粘着力が弱いため、以下の利点を有する。当該ポリウレタン粘着剤は、皮膚への刺激が少ない。当該ポリウレタン粘着剤は、皮膚に長期間貼り付けられていても皮膚トラブルを引き起こしにくい。当該ポリウレタン粘着剤は、皮膚から剥離される際に角質を傷めにくい。
【0129】
本実施形態に係るポリウレタン粘着剤は、本発明者による試験の結果、凝集剥離しにくく、皮膚から剥離する際に糊残りが生じにくいことが確認されている。これは、ポリウレタン全体が良好に架橋していることが要因であると推測される。
【0130】
2-6.皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤の用途
本実施形態に係るポリウレタン粘着剤は、皮膚、創傷、又は粘膜用の粘着剤である。本明細書において「皮膚、創傷、又は粘膜用」とは、皮膚用、創傷用、及び粘膜用から選択される少なくとも1つの用途を有していることを意味する。したがって、「皮膚、創傷、又は粘膜用」の語は、例えば、皮膚用及び創傷用といった2つの用途を有するもの、及び、皮膚用、創傷用、及び粘膜用の3つの用途を有するものも包含する。
【0131】
3.皮膚、創傷、又は粘膜用貼付材
【0132】
上記皮膚等用ポリウレタン粘着剤は、皮膚等用貼付材に適している。したがって、本発明は、上記皮膚等用ポリウレタン粘着剤を含む皮膚等用貼付材も提供できる。
【0133】
本発明の一実施形態に係る皮膚等用貼付材に用いられるポリウレタン粘着剤は、上記「2.皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤」において説明したとおりであり、当該説明が本実施形態にも当てはまる。
【0134】
本実施形態に係る皮膚等用貼付材は、例えば、基材と粘着剤とを組み合わせて貼付材を得る既知の方法によって製造されうる。本実施形態に係る皮膚等用貼付材は、例えば、上記水酸基末端プレポリマーと上記イソシアネート基末端プレポリマーとを含む混合物を基材の表面に滴下又は塗布する工程と、当該混合物を硬化させる工程と、を少なくとも行うことによって製造されうる。
【0135】
本実施形態に係る皮膚等用貼付材としては、例えば、創傷被覆材、サージカルテープ、カテーテル及び点滴チューブの固定用テープ、心電図電極及び磁気治療器の固定用貼付材、ストーマ装具用皮膚保護剤、貼り薬(パップ剤及びテープ剤)、並びにスキンケア及び美容を目的とした貼付材などが挙げられる。本実施形態に係る皮膚等用貼付材は、これらの中でもストーマ装具用皮膚保護剤及び創傷被覆材に特に適している。したがって、本発明は、上記皮膚等用ポリウレタン粘着剤を含むストーマ装具用皮膚保護剤、及び、上記皮膚等用ポリウレタン粘着剤を含む創傷被覆材も提供できる。
【実施例0136】
以下で実施例を参照して本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0137】
I.試験例1
【0138】
[実施例1~23及び参考例1~7]
【0139】
下記原料を用いて、下記作製手順にしたがい、皮膚等用ポリウレタン粘着剤からなる実施例1~23及び参考例1~7の試験片を作製した。
【0140】
(1)原料
【0141】
<ポリオール>
上記「2-2-1.ポリオール」で説明した、ポリオキシアルキレンポリオール(a1)と、ポリオキシアルキレンポリオール(a1)以外のポリオール(a3)と、を含有するポリオール(A)を用いた。
【0142】
<ポリイソシアネート>
上記「2-2-2.ポリイソシアネート」で説明した、特開2018-204000号公報に記載されている有機ポリイソシアネート成分を用いた。
【0143】
<水酸基末端プレポリマー>
上記ポリオールと上記ポリイソシアネートとを混合し、反応させることによって、水酸基末端プレポリマーを得た。具体的には、溶剤の非存在下で、当該ポリイソシアネートのイソシアネート基のモル数に対する当該ポリオールの水酸基のモル数の比(水酸基のモル数/イソシアネート基のモル数)が1.0を超過する値となるように、当該ポリオールと当該ポリイソシアネートとを反応させることによって、水酸基末端プレポリマーを得た。水酸基末端プレポリマーの粘度を25℃においてB型粘度計を用いて測定した結果、当該粘度は20,000mPa・sであった。
【0144】
<イソシアネート基末端プレポリマー>
上記ポリオール成分と上記ポリイソシアネートとを混合し、反応させることによって、イソシアネート基末端プレポリマーを得た。具体的には、溶剤の非存在下で、ポリオールの水酸基のモル数に対する当該ポリイソシアネートのイソシアネート基のモル数の比(イソシアネート基のモル数/水酸基のモル数)が1.0を超過する値となるように、当該ポリオールと当該ポリイソシアネートとを反応させることによって、イソシアネート基末端プレポリマーを得た。イソシアネート基末端プレポリマーの粘度を25℃においてB型粘度計を用いて測定した結果、当該粘度は20,000mPa・sであった。
【0145】
<アシルグリセロール>
・脂肪酸トリグリセリド(I)
・脂肪酸トリグリセリド(II)
脂肪酸トリグリセリド(I)は、炭素数が8の脂肪酸(カプリル酸)を構成成分とする脂肪酸トリグリセリドを含み、脂肪酸トリグリセリド(II)よりも分子量分布がシャープであった。脂肪酸トリグリセリド(II)は、炭素数が8の脂肪酸(カプリル酸)を構成成分とする脂肪酸トリグリセリドを含み、脂肪酸トリグリセリド(I)よりも高分子寄りの分子量を有していた。
【0146】
<スキンケア成分>
・鉱油
・セラミド
【0147】
<親水性成分>
親水性成分として下記3つの成分の混合物を用いた。
・カルボキシメチルセルロース・ナトリウム(日本製紙社製「サンローズ」)
・ペクチン(三晶社製「ゲニューペクチン」)
・シリカ(東ソー・シリカ社製「ニップシール」)
【0148】
<触媒>
・金属カルボン酸塩(Borchers社製「Borchi Kat」)
【0149】
<粘性付与剤>
・ヘキサンジオール
・ペンタンジオール
・ノナンジオール
・ポリプロピレングリコール
・プロパノール
・ブタノール
・ペンタノール
・ヘキサノール
・ヘプタノール
・オクタノール
・ノナノール
・デカノール
・ポリブテン
【0150】
(2)試験片の作製手順
【0151】
a.下記表1~3に記載されている原料のうちイソシアネート基末端プレポリマー以外を、下記表1~3に記載されている割合で配合し、1分間混合した。
b.イソシアネート基末端プレポリマーを下記表1~3に記載されている割合で添加し、1分間混合した後、さらに2分間脱気混合し、混合物を得た。
c.得られた混合物を1.1~2.5mmの厚さに伸ばしてシート状とした。
d.下記吸水試験に用いられる試験片については、上記c.のシート状混合物にポリウレタンフィルムをラミネートした。下記吸水試験以外に用いられる試験片には、ポリウレタンフィルムをラミネートしなかった。
e.上記c.のシート状混合物又は上記d.のラミネートされたシート状混合物を、80℃にて3分間加熱した。その後、8時間以上静置して、混合物を硬化させた。これにより、実施例1~23及び参考例1~7の試験片を得た。
【0152】
[評価]
【0153】
実施例1~23の試験片を以下のとおり評価した。
【0154】
(1)動的粘弾性測定
【0155】
a.厚み1.1mm~2.5mmの上記試験片を直径25mmの円形状に切断し、サンプルを作製した。
b.レオメーター(レオメーターMCR102、Anton Paar社製)により、上記サンプルを用いた動的粘弾性測定を行って複素せん断弾性率(G*)及び損失正接(tanδ)を求めた。測定条件は以下のとおりであった。
<測定条件>
測定治具:パラレルプレート(PP25、Anton Paar社製)
温度:37℃
周波数:0.01Hz~100.00Hz
【0156】
周波数100.00Hzにおける複素せん断弾性率の値を、以下の評価基準に沿って評価した。
<評価基準>
(複素せん断弾性率の値):(評価)
100kPa以下 :A(柔軟性が最も高くて最も良好)
100kPa超300kPa以下:B(柔軟性が非常に高くて非常に良好)
300kPa超500kPa以下:C(柔軟性が高くて良好)
500kPa超700KPa以下:D(柔軟性があり許容範囲)
700kPa超 :E(柔軟性がなく不良)
【0157】
(2)ループタック測定
【0158】
a.上記試験片に非伸縮性テープを貼付し、サンプルを作製した。
b.TAC1000(RHESCA社製)により、上記サンプルのループタックを測定した。測定条件は以下のとおりであった。
<測定条件>
温度:23℃
プローブ径:5mm
押し付け速度:1mm/秒
荷重:50gf
押し付け時間:2秒
引き上げ速度:10mm/秒
c.測定されたタックのピーク値をループタックの値とした。
d.上記測定を合計3回行い、得られた3つの測定値を平均して、サンプルのループタックを算出した。
【0159】
(3)吸水試験
【0160】
a.ポリウレタンフィルムがラミネートされた上記試験片を直径30mmの円形状に切断し、サンプルを作製した。
b.上記サンプルの厚みを測定した。その後、上記サンプルを37℃の蒸留水に浸漬し、1、3、6、24、及び168時間後の吸水率を下記式により算出した。吸水後にサンプルが崩壊した場合には、吸水率の算出を行わなかった。
吸水率(Yt)=Gt/G0-1
(上記式中、Gtは経過時間後のサンプル重量、G0は測定開始前のサンプル重量を示す。)
【0161】
(4)フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)による赤外スペクトル測定
【0162】
フーリエ変換赤外分光光度計(UATR TWO、PerkinElmer社製)を用いて、ATR法により上記試験片の赤外スペクトルを測定した。ただし、実施例12~19については、赤外スペクトル測定を実施しなかった。
【0163】
(5)圧着試験(試験片同士の圧着)
【0164】
2枚の上記試験片(1cm角)の粘着面同士を接触させ、手指を用いて4kgの荷重を5秒間掛け圧着した。その後、試験片の粘着面同士が一体化したかを手指で剥離する事により確認した。
【0165】
各評価結果を表1及び2に示す。表1及び2中、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)による赤外スペクトル測定の結果、赤外スペクトルが波長1650cm-1~1800cm-1にカルボニル基に由来するピークを有していたものを「○」、当該ピークを有していないものを「×」と表記した。また、圧着試験の結果、試験片の粘着面同士が一体化したものを「A」、一体化しなかったが強力に粘着していたものを「B」、一体化せず容易に剥がせたものを「C」と表記した。
【0166】
【0167】
【0168】
【0169】
表1及び2に示される結果より、以下のことが分かる。
【0170】
実施例1~23の複素せん断弾性率はいずれも700kPa以下であった。この結果から、本発明に係るポリウレタン粘着剤は、柔軟性を有していることが分かる。
【0171】
実施例1~11を参照すると、アシルグリセロールの含有割合が高いほど複素せん断弾性率の値が低下する傾向にあることが分かる。この結果から、アシルグリセロールは、本発明に係るポリウレタン粘着剤において柔軟性の向上に寄与していると考えられる。
【0172】
実施例9と他の実施例とを比較すると、親水性成分を含有することによりポリウレタン粘着剤の吸水率が高まる傾向にあることが分かる。この結果から、本発明に係るポリウレタン粘着剤において、親水性成分は液状成分の吸収性向上に寄与していると考えられる。
【0173】
実施例12~18、20、22の試験片は、他の試験片に比べて、圧着試験によってより良好に一体化したことが確認された。これは、粘性付与剤を添加したことによって試験片の粘性が向上したことが要因であると考えられる。このように、本発明において用いられる混合物が粘性付与剤を含むことにより、ポリウレタン粘着剤の粘性が向上しうる。これにより、ポリウレタン粘着剤のシール性が向上し、また、ポリウレタン粘着剤と皮膚等用貼付材に用いられる基材との貼り付きが良好になりうると考えられる。そのため、例えば当該ポリウレタン粘着剤をストーマ装具用皮膚保護剤に用いた場合、排泄物の漏れをより効果的に軽減できると考えられる。
【0174】
II.試験例2
【0175】
本発明に係るポリウレタン粘着剤が皮膚表面の皮丘及び皮溝に沿って粘着可能であるかを検証するための試験を、以下の手順にしたがって行った。
【0176】
1.5mm厚のPET板(ポリエチレンテレフタレート製の板)の片側表面を鬼目やすりでこすり、皮溝及び皮丘を模した細かな凹凸を形成した。これにより、一方の表面が凹凸面で他方の表面が平滑面であるPET板を得た。
図1は、PET板の凹凸面の拡大写真(倍率25倍)である。
図2は、ヒトの皮膚表面の拡大写真(倍率25倍)である。
図1及び2を対比すると、PET板表面の細かな凹凸が、皮溝及び皮丘の形状と類似していることが分かる。
【0177】
上記試験例1において作製した実施例6のポリウレタン粘着剤の試験片を、上記PET板の凹凸面に貼付した後2kgローラーで2往復し圧着後、5分経過時に剥離力を測定した。
【0178】
上記で説明した実施例6の試験片と同じ手順で、粘着層を有している市販品のハイドロコロイド創傷被覆材(比較例A)をPET板の凹凸面に圧着した。
【0179】
図3は、実施例6又は比較例Aが圧着されたPET板を、PET板の平滑面側から見た拡大写真(倍率25倍)である。
図3Aは実施例6の写真であり、
図3Bは比較例Aの写真である。
図4は、実施例6のポリウレタン粘着剤又は比較例Aの粘着層と、PET板の凹凸面との接触部分を、側面側から見た拡大写真(倍率200倍)である。
図4Aは実施例6の写真であり、
図4Bは比較例Aの写真である。
【0180】
図3Aにおいては、PET板の凹凸が明瞭に確認できない。一方、
図3Bにおいては、PET板の凹凸が明瞭に確認できる。
図4Aにおいては、ポリウレタン粘着剤の表面がPET板の凹凸に沿うように曲がっていることが確認できる。一方、
図4Bにおいては、粘着層の表面が平滑であることが確認できる。これらの結果は、実施例6のポリウレタン粘着剤がPET板の凹部に入り込んでいること、及び、比較例Aの粘着層がPET板の凹部に入り込んでいないことを示している。したがって、本発明に係るポリウレタン粘着剤は、皮膚に貼り付けられた際に、皮溝に入り込んで皮溝及び皮丘に沿って粘着可能であると考えられる。
【0181】
III.試験例3
【0182】
本発明に係るポリウレタン粘着剤の粘着性を検証するための試験を、以下の手順にしたがって行った。
【0183】
本試験においては、上記実施例6のポリウレタン粘着剤、上記比較例Aのハイドロコロイド創傷被覆材、及び上記試験例2において作製したPET板を用いた。実施例6のポリウレタン粘着剤と比較例Aの創傷被覆材のそれぞれから、幅15mm、長さ300mmの試験片を2枚ずつ切り出し、試験片(比較例Aは試験片の基材側)に非伸縮性テープを貼り合わせた。実施例6の試験片1枚をPET板の凹凸面に貼付した後2kgローラーで2往復し圧着後、5分経過時に剥離力を測定した。同じ手順で、実施例6の試験片1枚をPET板の平滑面に圧着した。同じ手順で、比較例Aの試験片2枚をそれぞれ、PET板の凹凸面と平滑面に圧着した。試験片が圧着されたPET板を用いて、JIS Z2037:2009にしたがって、圧着してから5分後に180°引きはがし粘着力を測定した。当該測定は、温度23度、湿度65%の環境下にて、引張速度300mm/分の条件で行った。180°引きはがし粘着力の値が大きいほど、粘着力が強いといえる。結果を表4及び
図5に示す。
【0184】
【0185】
表4及び
図5に示されるとおり、実施例6では、平滑面と凹凸面とで180°引きはがし粘着力に大差はなかった。すなわち、実施例6のポリウレタン粘着剤の凹凸面に対する粘着力は、平滑面に対する粘着力に近い値であった。この結果は、当該ポリウレタン粘着剤の凹凸面への接触面積と、平滑面への接触面積との間に大差がなかったことを示していると考えられる。これは、当該ポリウレタン粘着剤が、凹部に入り込んで凹凸に沿って粘着したことが要因であると考えられる。したがって、本発明に係るポリウレタン粘着剤は、皮膚に貼り付けられた場合には、皮溝及び皮丘に沿って粘着可能であると考えらえる。
【0186】
一方、比較例Aの創傷被覆材の凹凸面に対する粘着力は、平滑面に対する粘着力のおよそ半分であった。これは、比較例Aの創傷被覆材が凹部に入り込まずに主に凸部に粘着しており、創傷被覆材と凹凸面との接触面積が小さかったことが要因であると考えられる。
【0187】
凹凸面に対する実施例6の粘着力の値は、比較例Aよりも大きかった。一方、平滑面に対する実施例6の粘着力の値は、比較例Aの粘着力よりも小さかった。この結果から、本発明に係るポリウレタン粘着剤は、単位面積当たりの粘着力が弱いといえる。このことが、本発明に係るポリウレタン粘着剤における皮膚への低刺激性に寄与していると考えられる。
【0188】
本発明は、以下の形態とすることができる。
[1]
ポリオールとポリイソシアネートとの反応物である水酸基末端プレポリマーと、
前記ポリオールと前記ポリイソシアネートとの反応物であるイソシアネート基末端プレポリマーと、を含む混合物の硬化物を含み、
37℃、100Hz、且つせん断モードでの動的粘弾性測定により得られた前記硬化物の複素せん断弾性率が、700kPa以下である、皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤。
[2]
前記混合物が、アシルグリセロールを更に含む、[1]に記載の皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤。
[3]
前記アシルグリセロールが、脂肪酸トリグリセリドである、[2]に記載の皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤。
[4]
前記混合物における前記アシルグリセロールの含有割合が、3.0質量%以上60.0質量%以下である、[2]又は[3]に記載の皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤。
[5]
前記イソシアネート基末端プレポリマーの粘度が、25℃において400mPa・s以上100,000mPa・s以下である、[1]~[4]のいずれか一つに記載の皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤。
[6]
前記水酸基末端プレポリマーの粘度が、25℃において7,000mPa・s以上100,000mPa・s以下である、[1]~[5]のいずれか一つに記載の皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤。
[7]
フーリエ変換赤外分光光度計により得られた前記硬化物の赤外スペクトルが、波長1650cm-1~1800cm-1にカルボニル基に由来するピークを有する、[1]~[6]のいずれか一つに記載の皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤。
[8]
前記硬化物が、スキンケア成分を更に含む、[1]~[7]のいずれか一つに記載の皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤。
[9]
前記硬化物が、親水性成分を更に含む、[1]~[8]のいずれか一つに記載の皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤。
[10]
前記硬化物が、粘性付与剤を更に含む、[1]~[9]のいずれか一つに記載の皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤。
[11]
[1]~[10]ののいずれか一つに記載の皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤を含む、皮膚、創傷、又は粘膜用貼付材。
[12]
[1]~[10]ののいずれか一つに記載の皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤を含む、ストーマ装具用皮膚保護剤。
[13]
[1]~[10]ののいずれか一つに記載の皮膚、創傷、又は粘膜用ポリウレタン粘着剤を含む、創傷被覆材。