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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094920
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】電動オイルポンプシステム
(51)【国際特許分類】
   F04B 49/06 20060101AFI20240703BHJP
   H02P 29/00 20160101ALI20240703BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20240703BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20240703BHJP
   F16H 59/44 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
F04B49/06 321A
H02P29/00
F16H63/50
F16H61/02
F16H59/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211840
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆志
【テーマコード(参考)】
3H145
3J552
5H501
【Fターム(参考)】
3H145AA12
3H145AA24
3H145AA32
3H145AA42
3H145BA19
3H145BA20
3H145BA31
3H145CA03
3H145CA09
3H145CA21
3H145DA07
3H145DA47
3H145EA13
3H145EA20
3H145EA26
3H145EA38
3H145EA42
3J552NA01
3J552PA54
3J552PA58
3J552QA30C
3J552QB07
3J552QC08
3J552SA51
3J552SA59
3J552TB02
3J552UA10
5H501AA05
5H501AA20
5H501AA22
5H501DD03
5H501DD06
5H501DD09
5H501GG05
5H501HA06
5H501HB07
5H501HB16
5H501JJ03
5H501JJ07
5H501JJ17
5H501LL01
5H501LL22
5H501LL23
5H501LL27
5H501LL42
5H501LL48
(57)【要約】
【課題】電動オイルポンプシステムの駆動制御について、安定性、特性の追従精度が高く、外乱、特性の変動に対応した制御を行うことができる電動オイルポンプシステムを提供する。
【解決手段】電動オイルポンプシステムDSは、油圧ポンプ3と、電動機4と、電動機4を制御する制御装置CUと、電動機4の回転数を検出する回転数検出手段9と、電動機4の電力または変速機1の油圧を検出する電力・油圧検出手段11とを含む。制御装置CUは、油圧負荷判定演算手段12と電動機駆動演算手段13とを有する。油圧負荷判定演算手段12は、現在および過去の回転数差ΔNと、現在および過去の電力差ΔPまたは現在および過去の油圧力差Δpとから油圧負荷状態を判定する。電動機駆動演算手段13は、油圧負荷急増と判定されたとき、油圧負荷状態に応じて電動機4の駆動電力を予め定められた複数の制御マップの中から1つを選択して電動機4を駆動する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動機器に配管接続される油圧ポンプと、この油圧ポンプを駆動する電動機と、この電動機を制御する制御装置とを備えた電動オイルポンプシステムであって、
前記電動機の回転数を検出する回転数検出手段と、前記電動機の電力または前記作動機器の油圧を検出する電力・油圧検出手段とを含み、
前記制御装置は、
前記回転数検出手段で検出された現在および過去の回転数差ΔNと、前記電力・油圧検出手段で検出された現在および過去の電力差ΔPまたは現在および過去の油圧力差Δpとから、この電動オイルポンプシステムの油圧負荷状態を判定する油圧負荷判定演算手段と、
前記油圧負荷判定演算手段にて油圧負荷が急増していると判定されたとき、その油圧負荷状態に応じて前記電動機の駆動電力を予め定められた複数の制御マップの中から1つを選択して前記電動機を駆動する電動機駆動演算手段とを有する電動オイルポンプシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の電動オイルポンプシステムにおいて、前記電動機駆動演算手段は、前記油圧負荷判定演算手段にて油圧負荷が一定または軽減していると判定されたとき、予め定められた制御マップにより前記電動機を駆動する電動オイルポンプシステム。
【請求項3】
請求項2に記載の電動オイルポンプシステムにおいて、前記制御装置は、予め定められた油圧負荷条件にて油圧流量不足、油圧圧力不足に陥らず、且つ最小限の電力で前記油圧ポンプを駆動するように、前記電動機の電力を制限する電動オイルポンプシステム。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の電動オイルポンプシステムにおいて、前記制御装置は、前記油圧負荷状態を判定する領域の境にヒステリシス領域が設定されている電動オイルポンプシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両の変速機等に適用される電動オイルポンプシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動オイルポンプの回転数をフィードバック制御で、トルクをフィードフォワード制御して、電動オイルポンプの駆動源である電動機の駆動制御を実施する技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-124158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来の技術では、フィードバック制御とフィードフォワード制御とで電動オイルポンプの電動機の駆動制御を実施している。フィードフォワード制御は、応答性を高くすることができるがオープンループ制御であるため、安定性、特性の追従精度、外乱、特性の変動への対応が低下することが課題である。
【0005】
本発明の目的は、電動オイルポンプシステムの駆動制御について、安定性、特性の追従精度が高く、外乱、特性の変動に対応した制御を行うことができる電動オイルポンプシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電動オイルポンプシステムDSは、作動機器1に配管接続される油圧ポンプ3と、この油圧ポンプ3を駆動する電動機4と、この電動機4を制御する制御装置CUとを備えた電動オイルポンプシステムであって、
前記電動機4の回転数を検出する回転数検出手段9と、前記電動機4の電力または前記作動機器1の油圧を検出する電力・油圧検出手段11とを含み、
前記制御装置CUは、
前記回転数検出手段9で検出された現在および過去の回転数差ΔNと、前記電力・油圧検出手段11で検出された現在および過去の電力差ΔPまたは現在および過去の油圧力差Δpとから、この電動オイルポンプシステムDSの油圧負荷状態を判定する油圧負荷判定演算手段12と、
前記油圧負荷判定演算手段12にて油圧負荷が急増していると判定されたとき、その油圧負荷状態に応じて前記電動機4の駆動電力を予め定められた複数の制御マップの中から1つを選択して前記電動機4を駆動する電動機駆動演算手段とを有する。
前記予め定められた複数の制御マップは、例えば、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方等により定められる。
【0007】
この構成によると、油圧負荷が急増しているとの判定で、複数の制御マップの中から1つを選択して電動機4を駆動することで、外乱、特性変動に対応させる。また油圧負荷状態に応じた制御マップの駆動電力で電動機4を駆動することで、電動オイルポンプシステムDSの駆動制御について安定性、追従精度を向上させる。
【0008】
前記電動機駆動演算手段13は、前記油圧負荷判定演算手段12にて油圧負荷が一定または軽減していると判定されたとき、予め定められた制御マップにより前記電動機4を駆動してもよい。
前記予め定められた制御マップは、例えば、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方等により定められる。
この構成によると、油圧負荷が一定または軽減しているとの判定で、予め定められた制御マップで電動機を駆動することで、電動オイルポンプシステムの駆動制御について安定性、追従精度を向上させる。
【0009】
前記制御装置CUは、予め定められた油圧負荷条件にて油圧流量不足、油圧圧力不足に陥らず、且つ最小限の電力で前記油圧ポンプ3を駆動するように、前記電動機4の電力を制限してもよい。
前記予め定められた油圧負荷条件とは、設計等によって任意に定める油圧負荷条件であって、例えば、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方等により適切な油圧負荷条件を求めて定められる。
前記「制限」とは、電動機の電力を零に制限することも含む。
この構成によると、油圧負荷の減少時の電動機4の回転吹き上がりの発生を抑えることができる。このため、油圧負荷の減少時の油圧脈動を抑制することができる。
【0010】
前記制御装置CUは、前記油圧負荷状態を判定する領域の境にヒステリシス領域が設定されていてもよい。この場合、油圧負荷判定演算手段12による油圧負荷判定演算のハンチングを防止することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電動オイルポンプシステムは、油圧負荷判定演算手段にて油圧負荷が急増していると判定されたとき、その油圧負荷状態に応じて電動機の駆動電力を予め定められた複数の制御マップの中から1つを選択して前記電動機を駆動する。このため、電動オイルポンプシステムの駆動制御について、安定性、特性の追従精度が高く、外乱、特性の変動に対応した制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施形態に係る電動オイルポンプシステムのブロック図である。
図2】同電動オイルポンプシステムの電動機の回転数差と電力差の制御マップの例を示す図である。
図3】同電動機の回転数差と油圧力差の制御マップの例を示す図である。
図4】回転数差と電力差の制御マップによるDuty比制御マップの選択方法の例を示す図である。
図5】通常判定時における回転数差-Duty比制御マップの例を示す図である。
図6】負荷急増判定時の回転数差-Duty比制御マップの例1を示す図である。
図7】負荷急増判定時の回転数差-Duty比制御マップの例2を示す図である。
図8】負荷急増判定時の回転数差-Duty比制御マップの例3を示す図である。
図9】同電動オイルポンプシステムの制御処理を示すフローチャートである。
図10】本発明の第2の実施形態に係る電動オイルポンプシステムの電動機の回転数差と電力差の制御マップの例を示す図である。
図11】同電動機の回転数差と油圧力差の制御マップの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1の実施形態]
本発明の実施形態に係る電動オイルポンプシステムを図1ないし図9と共に説明する。電動オイルポンプシステムは、例えば、自動車等の車両に搭載される。
<電動オイルポンプシステムの全体構成>
図1のように、電動オイルポンプシステムDSは、油圧ポンプ3、電動機4、この電動機4を制御する制御装置CUおよびセンサ類を備え、作動機器である変速機1の変速機油圧回路2を介して変速機1に油圧を供給する。油圧ポンプ3は変速機油圧回路2に配管接続され、電動機4は油圧ポンプ3を駆動する。
【0014】
<油圧ポンプ>
油圧ポンプ3は、図示外のオイルパンからオイルを吸引し、このオイルを吐出して変速機油圧回路2にオイルを圧送する。これにより、変速機1内で必要な油圧が確保される。油圧ポンプ3は、オイルポンプとも称され、例えば、ポンプケース、アウターロータおよびインナーロータを有するトロコロイドギヤポンプである。前記アウターロータの内径側に前記インナーロータが配置され、前記ポンプケースは、これらインナーロータおよびアウターロータを収容する。
【0015】
<電動機>
電動機4は、油圧ポンプ3と軸方向に並べて配置される。電動機4として、例えば、3相ブラシレスDCモータが適用される。電動機4は、ハウジングに固定される図示外のステータと、このステータの径方向内方に所定のラジアルギャップを介して対向する図示外のロータと、前記ロータを回転自在に支持する出力軸4aとを有する。前記ハウジングには、軸方向両側に所定間隔を空けて転がり軸受が設けられ、これら転がり軸受に前記出力軸4aが回転自在に支持されている。
【0016】
<油圧ポンプと電動機との関係等について>
出力軸4aの軸方向一端部は、油圧ポンプ3のインナーロータが直結されている。換言すれば、出力軸4aと油圧ポンプ3との間には、減速機が設けられておらず、電動機4の回転速度と油圧ポンプ3の回転速度は同一である。この明細書において「回転速度」とは、単位時間当たりの回転数と同義である。以後、この単位時間当たりの回転数を、単に「回転数」という場合がある。
電動機4を回転駆動すると、前記インナーロータが回転することでアウターロータが従動回転する。これにより両歯部間に形成される空間が回転に伴って拡大および縮小する。よって、前記オイルパンに貯留されたオイルが、油圧ポンプ3に吸入されて所定の油圧を発生させた後、変速機油圧回路2に圧送される。
【0017】
<センサ類>
前記センサ類は、電動機4の回転数を検出する回転数検出手段9と、電力・油圧検出手段11とを含む。電力・油圧検出手段11は、電流検出手段7と、電圧検出手段8と、油圧検出手段10とを有する。電流検出手段7として、例えば、シャント抵抗両端の電圧を検出するアンプから成る電流センサ、または電動機4の相電流の通電経路周囲の磁束等を検出する非接触式センサ等を用いることができる。電流検出手段7は、例えば、後述するインバータ5のモータドライバを構成する素子等の端子電圧等を検出する構成としてもよい。
後述する制御装置CUの制御部6は、電流検出手段7で検出された電動機4の電流、および電圧検出手段8で検出された電動機4の電圧により、電動機4の電力を算出する。油圧検出手段10は、変速機油圧回路2の油圧を検出する油圧センサ等である。
【0018】
<制御装置の基本構成>
制御装置CUは、制御部6と、電動機駆動回路であるインバータ5とを含む。制御部6は、例えば、マイクロコンピュータ等から成る。各検出手段の検出値は、例えば、前記マイクロコンピュータの記憶手段であるRAMに書換え可能に記憶される。制御部6は、電動機4の各検出値および制御値等の情報を、制御部6の上位制御手段に出力する機能を有する。前記上位制御手段として、例えば、変速機1のトランスミッションコントロールユニット(略称:TCU)等が挙げられる。インバータ5は、複数のスイッチング素子を含むブリッジ回路で構成される。
【0019】
制御部6は、例えば、TCUから与えられる指令回転数に対応する電流指令を演算しこの電流指令に対し、電流検出手段7で検出されるモータ電流を得て追従させる電流フィードバック制御を行う。制御部6は、電流フィードバック制御により電圧指令を算出し、PWMドライバに電圧指令を与える。PWMドライバは、与えられた電圧指令に従ってインバータ5を駆動する。インバータ5は、図示外のバッテリの直流電力を電動機4の駆動に用いる三相の交流電力に変換する。
【0020】
<制御装置の特徴構成>
制御部6は、油圧負荷判定演算手段12と、電動機駆動演算手段13とを有する。油圧負荷判定演算手段12は、回転数検出手段9で検出された現在および過去の回転数差ΔNと、電力・油圧検出手段11で検出された現在および過去の電力差ΔPとから、この電動オイルポンプシステムDSの油圧負荷状態を判定する。具体的には、油圧負荷判定演算手段12は、電流検出手段7から得られた電動機4の電流値に、電圧検出手段8から得られた電圧値を乗じ電動機4の電力値を算出する。
【0021】
油圧負荷判定演算手段12は、過去の電力値を電力前回値Pとし、現在の電力値を電力今回値Pとしてそれぞれ前記記憶手段に記憶し、電力差ΔP=P―Pを演算する。また油圧負荷判定演算手段12は、過去の回転数を回転数前回値Nとし、現在の回転数を回転数今回値Nとしてそれぞれ前記記憶手段に記憶し、回転数差ΔN=N―Nを演算する。電力前回値Pと回転数前回値Nとは、原則、過去の同一時刻における検出値とするが、例えば、演算処理における同一周期内の時間のずれは許容される。
【0022】
油圧負荷判定演算手段12は、図2のように、回転数差ΔNと電力差ΔPにより、予め定められた回転数差ΔN-電力差ΔP制御マップから、この電動オイルポンプシステムの油圧負荷が、油圧負荷急増判定領域A1にあるか油圧負荷通常判定領域A2にあるかを判定する。油圧負荷急増判定領域A1は、同図2の閾値曲線Lの上側で油圧負荷が急増していると判定される領域であり、油圧負荷通常判定領域A2は、閾値曲線Lの下側で通常の油圧負荷と判定される領域である。前記回転数差ΔN-電力差ΔP制御マップは、例えば、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方等により定められる。
【0023】
前記電力差ΔPの代わりに、図1の油圧検出手段10で検出した現在および過去の油圧力差Δpを用いてもよい。つまり油圧負荷判定演算手段12は、現在および過去の回転数差ΔNと、油圧検出手段10で検出された現在および過去の油圧力差Δpとから、図3の回転数差ΔN-油圧力差Δp制御マップを用いてこの電動オイルポンプシステムの油圧負荷状態を判定してもよい。同図3の閾値曲線L1の上側で油圧負荷が急増していると判定され、閾値曲線L1の下側で通常の油圧負荷と判定される。
【0024】
図1の電動機駆動演算手段13は、油圧負荷判定演算手段12にて油圧負荷が急増している(油圧負荷急増判定領域にある)と判定されたとき、その油圧負荷状態に応じて電動機4の駆動電力を予め定められた複数の制御マップの中から1つを選択して電動機4を駆動する。具体的には、油圧負荷急増判定をしたとき、図4のように、予め定められた回転数差ΔN-電力差ΔP制御マップで判定した座標の位置で、予め定められた複数の制御マップ(図6図8)の中から1つの制御マップを選択し、判定をしたときの回転数差ΔNから電動機4(図1)をPWM駆動するDuty比を演算して電動機4(図1)を駆動して油圧負荷に追従させる制御を実施する。
【0025】
油圧負荷急増判定時の回転数差-Duty比制御マップは、図6図7図8のように複数(この例では3つ)の制御マップを予め定めておく。図4の回転数差ΔN-電力差ΔP制御マップによるDuty比制御マップの選択方法として、例えば、同図4の座標a点で油圧負荷急増の判定をしたときは、図6の制御マップを選択する。図4の座標b点で油圧負荷急増の判定をしたときは、図7の制御マップを選択する。図4の座標c点で油圧負荷急増の判定をしたときは、図8の制御マップを選択する。
【0026】
図1の電動機駆動演算手段13は、選択した制御マップで回転数Nから電動機4を駆動するDuty比を演算し通常の制御で油圧を制御する。油圧負荷急増判定時の前記複数の制御マップの数はさらに追加してもよく、2つでもよい。参考提案例として、油圧負荷急増判定時に1つの制御マップで制御が成立する場合は、制御マップを1つとしてもよい。
【0027】
電動機駆動演算手段13は、油圧負荷判定演算手段12にて油圧負荷が一定または軽減している油圧負荷通常判定領域にあると判定されたとき、予め定められた制御マップにより電動機4を駆動する。具体的には、油圧負荷通常判定をしたとき、図5の回転数差-Duty比制御マップで回転数差Nから電動機4(図1)をPWM駆動するDuty比を演算し通常の制御で油圧を制御する。
【0028】
図1に示す制御装置CUの電動機駆動演算手段13は、予め定められた油圧負荷条件にて油圧流量不足、油圧圧力不足に陥らず、且つ最小限の電力で油圧ポンプ3を駆動するように、電動機4の電力を制限する。予め定められた油圧負荷条件として、例えば、油圧負荷減少による電動オイルポンプシステムDSの停止時がある。この油圧負荷減少による電動オイルポンプシステムの停止時DS(停止直前から停止に至るまでの間)には、図2の回転数差ΔN-電力差ΔP制御マップにおいて油圧負荷が減少している油圧負荷通常判定領域A2にある。したがって、図1の電動機駆動演算手段13は、図5の回転数差-Duty比制御マップでDuty比を決定する。前記Duty比は低く制御マップの曲線の係数が小さく緩やかに上昇する制御とする。これにより、油圧負荷減少時の図1の電動機4の回転吹き上がりの発生を抑えることができるため、油圧負荷減少時の油圧脈動を抑制することができる。
【0029】
<電動オイルポンプシステムの制御方法>
電動オイルポンプシステムDSの制御方法は、油圧負荷判定演算工程と、電動機駆動演算工程とを有する。油圧負荷判定演算工程では、回転数検出手段9で検出された現在および過去の回転数差ΔNと、電力・油圧検出手段11で検出された現在および過去の電力差ΔPまたは現在および過去の油圧力差Δpとから、この電動オイルポンプシステムDSの油圧負荷状態を判定する。
【0030】
電動機駆動演算工程では、油圧負荷判定演算工程にて油圧負荷が急増していると判定されたとき、その油圧負荷状態に応じて電動機4の駆動電力を予め定められた複数の制御マップの中から1つを選択して電動機4を駆動する。油圧負荷判定演算工程は前記油圧負荷判定演算手段12で実行され、電動機駆動演算工程は前記電動機駆動演算手段13で実行される。
【0031】
図9のように、例えば、車両の主電源をオンにする条件で制御フローが開始する。この制御フローは、主電源をオンにしている状態で常時実行される。制御フロー開始後の油圧負荷判定演算工程において、回転数検出手段9(図1)で検出された回転数のうち(ステップS1)、過去の回転数が回転数前回値N(ステップS2)、現在の回転数が回転数今回値Nとしてそれぞれ前記記憶手段に記憶される(ステップS3)。記憶された回転数前回値Nおよび回転数今回値Nから回転数差ΔN=N―Nが演算される(ステップS4)。
【0032】
次に、検出された電流値および電圧値から算出された電力値のうち(ステップS5)、過去の電力値が電力前回値P(ステップS6)、今回の電力値が電力今回値Pとしてそれぞれ前記記憶手段に記憶される(ステップS7)。記憶された電力前回値Pおよび電力今回値Pから電力差ΔP=P―Pが演算される(ステップS8)。次に、回転数差ΔNと電力差ΔPにより、回転数差ΔN-電力差ΔP制御マップから、油圧負荷が判定される(ステップS9)。
【0033】
油圧負荷が急増していると判定されたとき(ステップS10:Yes)、電動機駆動演算工程において、回転数差ΔN-電力差ΔP制御マップで判定した座標の位置で、複数の制御マップの中から1つの制御マップが選択される(ステップS11、S12)。その後、選択した制御マップで回転数Nから電動機を駆動するDuty比が演算され通常の制御で油圧が制御される(ステップS13)。油圧負荷が急増していないと判定されたとき(ステップS10:No)、電動機駆動演算工程において、予め定められた回転数差-Duty比制御マップで回転数差NからDuty比が演算され通常の制御で油圧が制御される(ステップS14、S13)。その後ステップS1に戻る処理を繰り返す。
【0034】
<作用効果>
以上説明した図1の電動オイルポンプシステムDSによると、油圧負荷が急増しているとの判定で、複数の制御マップの中から1つを選択して電動機4を駆動することで、外乱、特性変動に対応させる。また油圧負荷状態に応じた制御マップのDuty比で電動機4を駆動することで、電動オイルポンプシステムDSの駆動制御について安定性、追従精度を向上させることができる。制御装置CUの基本構成となるフィードバック制御に加え、油圧負荷の状態を短時間で判定し、予め定められた制御マップを切り替えながら電動オイルポンプシステムDSを駆動することができる。
【0035】
油圧負荷が一定または軽減しているとの判定で、予め定められた制御マップで電動機4を駆動することで、電動オイルポンプシステムDSの駆動制御について安定性、追従精度を向上させることができる。
制御装置CUは、予め定められた油圧負荷条件にて油圧流量不足、油圧圧力不足に陥らず、且つ最小限の電力で油圧ポンプ3を駆動するように、電動機4の電力を制限する。これにより、油圧負荷の減少時の電動機4の回転吹き上がりの発生を抑えることができる。このため、油圧負荷の減少時の油圧脈動を抑制することができる。
【0036】
<他の実施形態について>
以下の説明においては、各実施形態で先行して説明している事項に対応している部分には同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している実施形態と同様とする。同一の構成は同一の作用効果を奏する。各実施形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0037】
[第2の実施形態:ヒステリシス領域]
制御装置CUは、図10の回転数差ΔN-電力差ΔP制御マップまたは図11の回転数差ΔN-油圧力差Δp制御マップのように、油圧負荷状態を判定する領域の境に、ヒステリシス領域HAが設定されていてもよい。これらの場合、油圧負荷判定演算手段12(図1)による油圧負荷判定演算のハンチングを防止することができる。
【0038】
電動オイルポンプシステムを、車両の変速機以外の機器に適用してもよい。
電動オイルポンプシステムを、産業機械、工作機械等に適用してもよい。
電動機として、例えば、ブラシを用いたDCモータ、永久磁石を用いないリラクタンスモータ、あるいは誘導モータ等を適用することもできる。
油圧ポンプとして、外接ギヤポンプ、ベーンポンプ、ピストンポンプ等を適用してもよい。
出力軸と油圧ポンプとの間に減速機が設けられてもよい。この場合、減速機の減速比を加味した各演算が行われる。
【0039】
以上、本発明の実施形態を説明したが、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0040】
1…変速機(作動機器)、3…油圧ポンプ、4…電動機、9…回転数検出手段、11…電力・油圧検出手段、12…油圧負荷判定演算手段、13…電動機駆動演算手段、CU…制御装置、DS…電動オイルポンプシステム
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