(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094922
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】変性エチレン・αオレフィン共重合体、接着性重合体組成物及び積層体
(51)【国際特許分類】
C08F 8/46 20060101AFI20240703BHJP
C09J 151/00 20060101ALI20240703BHJP
C09J 123/30 20060101ALI20240703BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240703BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
C08F8/46
C09J151/00
C09J123/30
B32B27/00 D
B32B27/32 E
B32B27/32 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211843
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼嶋 優
【テーマコード(参考)】
4F100
4J040
4J100
【Fターム(参考)】
4F100AK03C
4F100AK04C
4F100AK24A
4F100AK46B
4F100AK51B
4F100AK62A
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4F100AK65A
4F100AK66C
4F100AK69B
4F100AL04A
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4J100HA57
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4J100HC36
4J100HE17
4J100JA03
(57)【要約】
【課題】成形性及び接着強度に優れる接着性重合体樹脂組成物を得ることができる変性エチレン・αオレフィン共重合体、該共重合体を含む接着性重合体組成物、及び該接着性重合体組成物からなる接着層を有する積層体を提供することを課題とする。
【解決手段】不飽和カルボン酸及びその無水物からなる群から選択される少なくとも1種で変性された変性エチレン・αオレフィン共重合体であって、メルトフローレート(MFR:190℃、2.16kg)が0.5~30g/10分であり、グラフト率が1.3~2.5質量%である変性エチレン・αオレフィン共重合体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和カルボン酸及びその無水物からなる群から選択される少なくとも1種で変性された変性エチレン・αオレフィン共重合体であって、メルトフローレート(MFR:190℃、2.16kg)が0.5~30g/10分であり、グラフト率が1.3~2.5質量%である、変性エチレン・αオレフィン共重合体。
【請求項2】
請求項1に記載の変性エチレン・αオレフィン共重合体を含む、接着性重合体組成物。
【請求項3】
接着性樹脂組成物100質量%における前記変性エチレン・αオレフィン共重合体の含有割合が2質量%以上30質量%以下である、請求項2に記載の接着性重合体組成物。
【請求項4】
極性基を有する重合体層とオレフィン系重合体層とが請求項2又は3に記載の接着性重合体組成物からなる接着層を介して積層された構造を有する、積層体。
【請求項5】
前記接着層の厚みが1~100μmである、請求項4に記載の積層体。
【請求項6】
前記極性基を有する重合体層の厚みが1~200μmである、請求項4に記載の積層体。
【請求項7】
前記オレフィン系重合体層の厚みが1~1000μmである、請求項4に記載の積層体。
【請求項8】
全層の合計の厚みが3~2400μmである、請求項4に記載の積層体。
【請求項9】
前記極性基を有する重合体層がエチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリアミド、及びポリウレタンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項4に記載の積層体。
【請求項10】
前記極性基を有する重合体層がエチレン・ビニルアルコール共重合体を含む、請求項9に記載の積層体。
【請求項11】
前記オレフィン系重合体層がエチレン系重合体を含む、請求項4に記載の積層体。
【請求項12】
食品包装材である、請求項4に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は変性エチレン・αオレフィン共重合体、及びこれを含む接着性重合体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィンは成形が容易で耐薬品性が高いため、各種分野で幅広く利用されている。一方で、ポリオレフィンは、ガスバリア性や耐内容物性に劣るため、ポリアミドやエチレン・酢酸ビニル共重合体ケン化物といった樹脂からなるガスバリア層との積層構造とすることが広く採用されている。
ガスバリア層とポリオレフィン含有層との積層構造を有する積層体では、通常これらの層を接着するための接着層が設けられ、該接着層に用いられる材料として極性基含有ポリオレフィンを含む接着性樹脂組成物が知られている。
【0003】
接着性樹脂組成物を用いてガスバリア層とポリオレフィン含有層とを接着する場合、コストと衛生性の観点から、内外層にポリオレフィンを用いる「外層/接着性樹脂組成物からなる接着層/ガスバリア層/接着性樹脂組成物からなる接着層/内層」という層構成が知られている。
このような層構成において、ポリエチレンを内外層とする場合は、接着層に用いる接着性樹脂組成物としては、極性官能基により変性された変性ポリエチレンを含有するものが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
極性官能基により変性された変性ポリエチレンとしてMFRの低い変性重合体を用いる場合、接着性樹脂組成物としても流動性が低下してしまうため、成形性の面で改良の余地があった。また、従来の接着性樹脂組成物は、接着強度の要求に対し、十分ではなかった。
そこで、本発明は、成形性及び接着強度に優れる接着性重合体樹脂組成物を得ることができる変性エチレン・αオレフィン共重合体、該共重合体を含む接着性重合体組成物、及び該接着性重合体組成物からなる接着層を有する積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、不飽和カルボン酸及びその無水物からなる群から選択される少なくとも1種で変性された変性エチレン・αオレフィン共重合体であって、メルトフローレート(MFR:190℃、2.16kg)とグラフト率とを特定の数値範囲である変性エチレン・αオレフィン共重合体を用いることで、成形性と接着強度が改善された接着性重合体樹脂組成物を得ることができることを見出し、本発明に至った。
【0007】
即ち、本発明は以下の特徴を有する。
[1] 不飽和カルボン酸及びその無水物からなる群から選択される少なくとも1種で変性された変性エチレン・αオレフィン共重合体であって、メルトフローレート(MFR:190℃、2.16kg)が0.5~30g/10分であり、グラフト率が1.3~2.
5質量%である、変性エチレン・αオレフィン共重合体。
[2] [1]に記載の変性エチレン・αオレフィン共重合体を含む、接着性重合体組成物。
[3] 接着性樹脂組成物100質量%における前記変性エチレン・αオレフィン共重合体の含有割合が2質量%以上30質量%以下である、[2]に記載の接着性重合体組成物。
[4] 極性基を有する重合体層とオレフィン系重合体層とが[2]又は[3]に記載の接着性重合体組成物からなる接着層を介して積層された構造を有する、積層体。
[5] 前記接着層の厚みが1~100μmである、[4]に記載の積層体。
[6] 前記極性基を有する重合体層の厚みが1~200μmである、[4]又は[5]に記載の積層体。
[7] 前記オレフィン系重合体層の厚みが1~1000μmである、[4]~[6]のいずれかに記載の積層体。
[8] 全層の合計の厚みが3~2400μmである、[4]~[7]のいずれかに記載の積層体。
[9] 前記極性基を有する重合体層がエチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリアミド、及びポリウレタンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、[4]~[8]のいずれかに記載の積層体。
[10] 前記極性基を有する重合体層がエチレン・ビニルアルコール共重合体を含む、[9]に記載の積層体。
[11] 前記オレフィン系重合体層がエチレン系重合体を含む、[4]~[10]のいずれかに記載の積層体。
[12] 食品包装材である、[4]~[11]のいずれかに記載の積層体。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、成形性及び接着強度に優れる接着性重合体樹脂組成物を得ることができる変性エチレン・αオレフィン共重合体、該共重合体を含む接着性重合体組成物、及び該接着性重合体組成物からなる接着層を有する積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。尚、本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることする。
以下において、共重合体に含まれる単量体単位を単に「単位」と称す場合がある。例えば、プロピレンに基づく単量体単位を「プロピレン単位」と称し、エチレンに基づく単量体単位、αオレフィンに基づく単量体単位をそれぞれ「エチレン単位」、「αオレフィン単位」と称す場合がある。
【0010】
[変性エチレン・αオレフィン共重合体]
本実施形態に係る不飽和カルボン酸及びその無水物からなる群から選択される少なくとも1種で変性された変性エチレン・αオレフィン共重合体は、メルトフローレート(MFR:190℃、2.16kg)が0.5g/10分以上30g/10分以下であり、グラフト率が1.3質量%以上2.5質量%以下であることを特徴とする。
【0011】
変性エチレン・αオレフィン共重合体のMFRは、0.5g/10分以上30g/10分以下であることで、シート、フィルム、又はラミ成形等の押出成形に有利な成形性を得ることができるだけでなく、他の材料と混合して組成物とした場合、成形性(流動性)に優れる接着性重合体組成物を得ることができる。このような観点から変性エチレン・αオレフィン共重合体のMFRの下限は0.5g/10分以上が好ましく、1g/10分以上
がより好ましく、2g/10分以上が更に好ましく、また、変性エチレン・αオレフィン共重合体のMFRの上限は30g/10分以下が好ましく、25g/10分以下がより好ましく、20g/10分以下が更に好ましい。このMFRは、エチレン・αオレフィン共重合体の分子量が低いものを使用することで増加させることができ、逆に分子量が高いものを使用することで減少させることができる。
変性エチレン・αオレフィン共重合体のMFRはJIS K7210に準拠して、温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定される。
【0012】
本実施形態の変性エチレン・αオレフィン共重合体は、他の材料と混合して接着性重合体組成物として用いることもできる。接着性重合体組成物として用いる場合、グラフト率が1.3質量%以上2.5質量%以下と変性度合いが高い変性エチレン・αオレフィン共重合体を用いることで、接着性重合体組成物全体に対し、変性エチレン・αオレフィン共重合体を比較的少ない割合で含有した場合であっても優れた接着強度を発揮できる。この観点から変性エチレン・αオレフィン共重合体のグラフト率の下限は1.3質量%以上が好ましく、1.4質量%以上がより好ましく、1.5質量%以上が更に好ましく、また、変性エチレン・αオレフィン共重合体のグラフト率の上限は2.5質量%以下が好ましく、2.3質量%以下がより好ましく、2.1質量%以下が更に好ましい。
また、該グラフト率を上記範囲とすることにより、接着性重合体組成物に含まれる変性エチレン・αオレフィン共重合体に由来する残留の不飽和カルボン酸及び/又はその無水物の含有割合を少なく制御することができる。このように、グラフト率を向上させ、さらに、該残留の不飽和カルボン酸及び/又はその無水物の含有割合を小さくすることで、成形体の外観不良(ゲル、焼け)を低減することができる。
変性エチレン・αオレフィン共重合体のグラフト率は、後述の原料エチレン・αオレフィン共重合体にグラフトした不飽和カルボン酸及びその無水物からなる群から選択される少なくとも1種(以下、「不飽和カルボン酸成分」又は「不飽和カルボン酸及び/又はその無水物」と称す場合がある。)の含有割合を意味する。
【0013】
変性エチレン・αオレフィン共重合体のグラフト率は、以下のようにして測定される。
変性エチレン・αオレフィン共重合体を、200℃、5MPa、3分の条件で、厚さ100μm、直径20mmの円状のシートにプレス成形し、円状シートを得る。この円状シートをソックスレー抽出器にいれ、80℃、1時間アセトン還流を実施する。ここで、アセトン抽出は、反応残渣として変性エチレン・αオレフィン共重合体中に単体で存在する不飽和カルボン酸及び又はその誘導体を除去する目的で実施するものである。
その後、円状シートを加熱乾燥機を用いて80℃で2時間乾燥させる。この乾燥後の円状シートを赤外線吸収スペクトルの測定試料とし、赤外線吸収スペクトル法を用い、カルボン酸及び/又はその誘導体特有の吸収から、カルボン酸及び/又はその誘導体の含有割合を求める。具体的には、1900~1600cm-1(C=O伸縮振動帯)のカルボニル特性吸収を測定することにより求める。このようにして得られる測定値からグラフト部分の構造の質量を算出し、変性エチレン・αオレフィン共重合体を100質量%とした場合のグラフト部分の構造の質量の割合をグラフト率とする。
【0014】
変性に供するエチレン・αオレフィン共重合体(「原料エチレン・αオレフィン共重合体」又は「原料重合体」と称す場合がある。)は特に限定されないが、αオレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、又は1-オクタデセン等の炭素数3~20のαオレフィンが挙げられる。
エチレン・αオレフィン共重合体の具体例としては、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・ブテン共重合体、エチレン・ヘキセン共重合体、エチレン・オクテン共重合体、エチレン・プロピレン・ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・ヘキセン共重合体、エチレン・プロピレン・オクテン共重合体、エチレン・ブテン・ヘキセン共重合体、エチレン・ブテン・オクテン共重合体、又はエチレン・ヘキセン・オクテン共重合体等のエチレン・αオレフィン共重合体が挙げられる。
これらの中でも、原料重合体としては、柔軟性の観点から、エチレン・ブテン共重合体、エチレン・オクテン共重合体が好ましい。
【0015】
ここで、原料重合体とは、エチレンを、共重合体を構成する全モノマー単位の中で最も多く含有することを意味し、50モル%を超える割合で含有することが好ましい。
【0016】
原料重合体のMFR(190℃、荷重2.16kg)は特に限定されないが、18~50g/10分であることが好ましい。原料共重合体のMFRを上記範囲内とすることで、変性によるMFRの変化を考慮しても、目的とする変性エチレン・αオレフィン共重合体が得やすくなる傾向にある。また、原料重合体としては、密度0.855~0.895g/cm3のものを好適に使用できる。
【0017】
本実施形態に好適な原料重合体としては市販品を用いることもでき、例えば、三井化学社製「TAFMER(登録商標)」シリーズの中から前記の特性に該当するものを適宜選択して用いることができる。
【0018】
変性エチレン・αオレフィン共重合体を組成物に含有させる場合、含有される変性エチレン・αオレフィン共重合体の原料重合体は1種のみを用いてもよく、物性や組成等の異なるものの2種以上を併用してもよい。
【0019】
不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、又はイソクロトン酸等のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸が挙げられる。また、不飽和カルボン酸の無水物としては、コハク酸2-オクテン-1-イル無水物、コハク酸2-ドデセン-1-イル無水物、コハク酸2-オクタデセン-1-イル無水物、マレイン酸無水物(無水マレイン酸)、2,3-ジメチルマレイン酸無水物、ブロモマレイン酸無水物、ジクロロマレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、イタコン酸無水物、1-ブテン-3,4-ジカルボン酸無水物、1-シクロペンテン-1,2-ジカルボン酸無水物、1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸無水物、3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物、exo-3,6-エポキシ-1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸無水物、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物、メチル-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物、endo-ビシクロ[2.2.2]オクト-5-エン-2,3-ジカルボン酸無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,又は6-テトラカルボン酸無水物等の不飽和カルボン酸無水物が挙げられる。
【0020】
これらの不飽和カルボン酸成分は、原料重合体や変性条件に応じて適宜選択することができ、1種を単独で用いる場合に限らず、2種以上を併用してもよい。これらの不飽和カルボン酸成分は、有機溶剤などに溶解させて使用することもできる。
これらのうち、特にマレイン酸又はその無水物が、電子密度が低く反応性が高いことから好適である。
【0021】
原料重合体のグラフト変性は、不飽和カルボン酸成分を添加して、好ましくはラジカル発生剤の存在下に不飽和カルボン酸成分を原料重合体にグラフト重合させることで行うことができる。
【0022】
ここで使用されるラジカル発生剤としては、例えば、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、
2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ベンゾイルパーオキサイド、m-トルオイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジブチルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、過酸化カリウム、もしくは過酸化水素等の有機又は無機の過酸化物;2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(イソブチルアミド)ジハライド、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、又はアゾジ-t-ブタン等のアゾ化合物;ジクミル等の炭素ラジカル発生剤が挙げられる。
【0023】
上記のラジカル発生剤は、変性反応に供する原料重合体の種類、変性剤としての不飽和カルボン酸成分の種類及び変性条件に応じて適宜選択することができ、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ラジカル発生剤は有機溶剤などに溶解して使用することもできる。
【0024】
変性エチレン・αオレフィン共重合体を得る際に行う変性反応としては、溶融混練反応法、溶液反応法、又は懸濁分散反応法など公知の種々の反応方法を使用することができるが、通常は溶融混練反応法が好ましい。
【0025】
溶融混練反応法よる場合は、前記の各成分を所定の配合比にて均一に混合した後に溶融混練すればよい。混合には、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、又はV型ブレンダー等が使用され、溶融混練には、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、又は一軸もしくは二軸などの多軸混練押出機などが使用される。
【0026】
溶融混練は、樹脂が熱劣化しないように、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上で、また、通常300℃以下、好ましくは280℃以下、より好ましくは250℃以下の範囲で行う。
【0027】
変性剤としての不飽和カルボン酸成分の配合量は、原料重合体であるエチレン・αオレフィン共重合体100質量部に対し、1.00質量部以上、好ましくは1.25質量部以上、より好ましくは1.50質量部以上で、また、通常10質量部以下、好ましくは5質量部以下、より好ましくは4質量部以下である。不飽和カルボン酸成分の配合量を上記範囲とすることで、変性エチレン・αオレフィン共重合体のグラフト率を1.3~2.5質量%の範囲に制御しやすくなる。
【0028】
また、ラジカル発生剤の配合量は、原料重合体であるエチレン・αオレフィン共重合体100質量部に対し、通常0.001質量部以上、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上で、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.3質量部以下である。ラジカル発生剤の配合量を上記下限以上とすることで、変性エチレン・αオレフィン共重合体のグラフト率を1.3~2.5質量%の範囲に制御しやすくなる。また、ラジカル発生剤の配合量を上記上限以下とすることで、エチレン・αオレフィン共重合体の変性時のMFRを所望の範囲に抑えることができ、目的の変性エチレン・αオレフィン共重合体を得やすい傾向にある。
【0029】
変性エチレン・αオレフィン共重合体を含む組成物(「変性エチレン・αオレフィン共重合体組成物」と称す場合がある。)を製造する場合、変性エチレン・αオレフィン共重合体と必要に応じて添加されるその他の成分を混合して製造してもよく、その混合方法は、実用的には溶融混練法が好ましい。この場合、その他の成分と原料重合体とを混合すると共に、前述のグラフト変性を行って変性エチレン・αオレフィン共重合体組成物を得てもよいし、変性エチレン・αオレフィン共重合体とその他の成分を混合して変性エチレン
・αオレフィン共重合体組成物を得てもよい。
【0030】
溶融混練の具体的な方法としては、変性エチレン・αオレフィン共重合体又は原料重合体、並びに必要に応じて添加されるその他の成分を、所定の配合割合にて、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、又はV型ブレンダー等を用いて均一に混合した後、多軸混練押出機、例えば日本製鋼所の2軸混練押出機であるTEX25を用いて混練する方法が例示できる。
【0031】
各成分の溶融混練の温度は、前述のグラフト変性時の温度と同様、通常100~300℃、好ましくは120~280℃、より好ましくは150~250℃である。更に、各成分の混練順序及び方法は、特に限定されるものではなく、変性エチレン・αオレフィン共重合体又は原料重合体と必要に応じて用いられるその他の成分とを一括して混練する方法、又は変性エチレン・αオレフィン共重合体又は原料重合体と必要に応じて用いられるその他の成分の一部を予め混練しておき、その後残りの成分を添加して混練する方法でもよい。
【0032】
[接着性重合体組成物]
本発明の別の実施形態に係る接着性重合体組成物は、上述した変性エチレン・αオレフィン共重合体(以下、「変性エチレン・αオレフィン共重合体(A)」と称す場合がある。)を含む組成物である。
接着性重合体組成物の組成は特段制限されないが、変性エチレン・αオレフィン共重合体(A)、密度が0.890g/cm3以上0.950g/cm3以下のエチレン系重合体(B)、及び密度が0.890g/cm3未満のエチレン系重合体(C)を含有することが好ましい。本明細書において、「エチレン系重合体」のような表現は、エチレン単独重合体、およびモノマー単位としてエチレンが含まれる共重合体のいずれも対象とするものとして扱う。エチレン系重合体における共重合体とは、共重合体を構成する全モノマー単位の中でエチレンを最も多く含有する共重合体を意味し、共重合体の場合、50モル%を超える割合で含有することが好ましい。
密度が0.890g/cm3以上0.950g/cm3以下のエチレン系重合体(B)を用いることで、エチレン系重合体からなる被着体への接着性や接着性重合体組成物の成形性を向上することができる。エチレン系重合体(B)としては、例えば直鎖状低密度ポリエチレン等のエチレン単独重合体、又はエチレン・1-ヘキセン共重合体もしくはエチレン・プロピレン・1-ヘキセン共重合体等の共重合体(共重合体中のエチレンは、直鎖状低密度ポリエチレンであることが好ましい。)のようなものが使用できる。市販品としては日本ポリエチレン社製のKARNEL(登録商標)等が使用できる。
密度が0.890g/cm3未満のエチレン系重合体(C)を用いることで、接着性重合体組成物が柔軟になり、接着性が向上する。エチレン系重合体(C)としては例えば、エチレン単独重合体、又はエチレン・ポリプロピレン共重合体等の共重合体が使用できる。市販品としては三井化学社製のTAFMER(登録商標)等が使用できる。
【0033】
接着性重合体組成物のメルトフローレート(MFR)は、成形性の観点から2g/10分以上が好ましく、3g/10分以上がより好ましく、4g/10分以上が更に好ましい。一方、このMFRは、成形性の観点から12g/10分以下が好ましく、10g/10分以下がより好ましく、8g/10分以下が更に好ましい。ここで、接着性重合体組成物のMFRは、190℃、荷重2.16kgでの値を意味する。
【0034】
接着性樹脂組成物100質量%における変性エチレン・αオレフィン共重合体の含有割合は、接着性の観点から、下限としては、2質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、4質量%以上が更に好ましい。一方、成形体の外観の観点から少ない方が好ましく、上限としては、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20
質量%以下が更に好ましい。
【0035】
接着性重合体組成100質量%におけるエチレン系重合体(B)の含有割合は、成形性の観点から下限としては40質量%以上が好ましく、45質量%以上がより好ましく、50質量%以上が更に好ましい。また、該含有割合は、接着性の観点から、上限としては、80質量%以下である事が好ましく、75質量%以下である事がより好ましい。
【0036】
接着性重合体組成物100質量%におけるエチレン系重合体(C)の含有割合は、柔軟性や接着性の観点から下限としては5質量%以上である事が好ましく、10質量%以上である事がより好ましい。また、該含有割合は、成形性の観点から上限としては40質量%以下である事が好ましく、35質量%以下である事がより好ましい。
【0037】
接着性重合体組成物が前記変性エチレン・αオレフィン共重合体(A)、密度が0.890g/cm3以上0.950g/cm3以下のエチレン系重合体(B)、密度が0.890g/cm3未満のエチレン系重合体(C)以外のその他の重合体を含有する場合のその他の重合体の含有割合は限定されないが、通常、接着性重合体組成物100質量%中の含有割合で0.1~20質量%、好ましくは0.5~10質量%である。その他の重合体の含有割合が上記上限値以下であれば、得られる接着性重合体組成物の機械特性の向上やバリア性向上などの効果を十分に得ることができる。
【0038】
接着性重合体組成物は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で各種目的に応じ上述した成分以外の任意の添加剤や樹脂等(以下、これらを「その他の成分」と称す。)を配合した接着性重合体組成物として用いることもできる。その他の成分は、1種類のみを用いても、2種類以上を任意の組合せと比率で併用してもよい。
添加剤としては、例えば、熱安定剤又は酸化防止剤が挙げられ、具体的に、これらの材料として、ヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、又はアルカリ金属のハロゲン化物等を用いることができる。
【0039】
接着性重合体組成物が前述のその他の成分を含有する場合の含有割合は限定されないが、通常、接着性重合体組成物100質量%中に0.01~10質量%、好ましくは0.2~5質量%である。その他の成分の含有割合が上記上限値以下であれば、得られる接着性重合体組成物の機械特性の向上やバリア性向上などの効果を十分に得ることができる。なおこれらのその他の成分は、接着性重合体組成物をマスターバッチとして用いる場合には、マスターバッチ100質量%中の含有割合として、前記した含有割合の2~50倍、好ましくは3~30倍の濃度で含有させることもできる。
【0040】
いずれの場合においても、接着性重合体組成物が上記の(A)~(C)の成分を含むことによる接着性の向上効果を有効に得る観点から、接着性重合体組成物を100質量%とした場合の(A)~(C)の成分の合計の含有割合は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは99質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0041】
[接着性重合体組成物の製造方法]
接着性重合体組成物は、上述の各成分を所定の割合で混合することにより得ることができる。混合の方法については、原料成分が均一に分散すれば特に制限はない。すなわち、上述の各原料成分を同時に又は任意の順序で混合することにより、各成分が均一に分散した接着性重合体組成物を得ることができる。より均一な混合、分散のためには、所定量の上記原料成分を溶融混合することが好ましく、例えば、接着性重合体組成物の各原料成分を任意の順序で混合してから加熱したり、全原料成分を順次溶融させたりしながら混合してもよいし、目的とする成形体を製造する際の成形時に各原料成分を適宜配合(好ましく
は、ドライブレンド)して溶融混合してもよい。
【0042】
混合方法や混合条件は、各原料成分が均一に混合されれば特に制限はないが、生産性の点からは、例えばタンブラーブレンダー、Vブレンダー、リボンブレンダー、又はヘンシェルミキサー等を用いて原料を混合し、単軸押出機もしくは二軸押出機のような連続混練機、ミルロール、バンバリーミキサー、又は加圧ニーダー等のバッチ式混練機で溶融混練する方法が好ましい。これらの方法で接着性重合体組成物を製造する際の製造条件は限定されず、周知の条件で適宜設定することができる。溶融混合時の温度は、各原料成分の少なくとも一つが溶融状態となる温度であればよいが、通常は用いる全原料成分が溶融する温度が選択され、一般的には150~250℃の範囲で行うことができる。
【0043】
[積層体]
本発明の別の実施形態である積層体は、上述した接着性重合体組成物からなる接着層を有する積層体であり、例えば、極性基を有する重合体層とオレフィン系重合体層とが、該接着層を介して積層された構造を有する積層体であり、その形態としては積層シート、積層フィルム、積層ボトル、又は積層チューブ等が挙げられる。ここで、「シート」と「フィルム」は何れも面状の成形体を意味し、それぞれ、一般的に「シート」および「フィルム」として扱われるものを示す。また、該重合体層は、エチレン・ビニルアルコール共重合体等の極性基を有する重合体よりなるガスバリア性重合体層又は後述のオレフィン系重合体層であることが好ましい。
積層体は、複数の接着層を有していてもよく、例えば、3層の重合体層のそれぞれの層間に接着層を設けることができる。積層体が複数の接着層を有する場合、それらの複数の層のうちの少なくとも1層が後述する接着層であればよく、他の接着層を有していてもよいが、全ての接着層が後述する接着層であることが好ましい。
【0044】
[接着層]
積層体における接着層の厚みは限定されるものではなく、層構成、用途、最終製品の形状、および要求される物性等により任意に設定することができるが、積層体の総厚みに対し通常1%以上、好ましくは5%以上であり、通常20%以下、好ましくは10%以下である。例えば、接着層の厚みは、1~100μmの範囲であることが好ましく、2~50μmの範囲であることがより好ましく、3~30μmの範囲であることが更に好ましい。接着性重合体組成物よりなる接着層の厚みが上記下限値以上であれば、接着性が良好であり、上記上限値以下であれば、多層成形体の強度が良好である。なお、ここで接着層の厚みは接着層一層当たりの厚みである。
【0045】
[極性基を有する重合体層]
極性基を有する重合体層は、少なくとも極性基を有する重合体を含む層である。極性基を有する重合体とは、分子内に1価又は2価の極性基を有するモノマーを構成単位に有する重合体である。1価又は2価の極性基としては、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アルキルエステル基、イソシアネート基、もしくはグリシジル基等の1価の官能基、又はエステル結合、アミド結合、ウレタン結合、ウレア結合、エーテル結合、もしくはカルボニル結合等を形成する2価の官能基等が挙げられる。
【0046】
このような極性基を有する重合体としては、例えば、極性基を有するオレフィン系重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリアミド、及びポリウレタンからなる群より選択される少なくとも1種が好適に用いられ、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリアミド、及びポリウレタンからなる群より選択される少なくとも1種がより好適に用いられ、これらの樹脂により重合体層にガスバリア性を付与することもできる。これらの中でもエチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)がガスバリア性が高いため好ましく、また、ポリアミドが延伸性が高いため好ましい。
【0047】
極性基を有するオレフィン系ポリマーとしては、具体的には、変性エチレン・プロピレン系共重合体、又はシラン変性ポリオレフィン等が挙げられる。
【0048】
ポリアミドとしては、具体的には、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン9、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6/66、ナイロン66/610、ナイロン6/11、MXDナイロン、アモルファスナイロン、又はテレフタル酸/アジピン酸/ヘキサメチレンジアミン共重合体が好ましく用いられる。これらの中でも融点、剛性などが優れるナイロン6、ナイロン66、又はナイロン6/66が好ましい。
【0049】
エチレン・ビニルアルコール共重合体としては、好ましくはエチレン含量が15~65モル%、更に好ましくは25~48モル%である共重合体が望ましい。このようなエチレン・ビニルアルコール共重合体は、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体を鹸化することにより製造することができ、その鹸化度が好ましくは50%以上、更に好ましくは90%以上になるように鹸化したものが用いられる。なお、鹸化度の上限は100%である。エチレン・ビニルアルコール共重合体のエチレン含量が少な過ぎると熱分解し易く、溶融成形が困難で、また延伸性にも劣り、かつ吸水し膨潤し易く耐水性が劣るものとなる。一方、エチレン・ビニルアルコール共重合体のエチレン含量が多過ぎると、耐ガス透過性が低下する傾向がある。また、鹸化度が低過ぎる場合には、耐ガス透過性が低下する傾向がある。
【0050】
ポリウレタンとしては種々の構造のものを使用することができる。具体的にはポリエステルポリオールとジイソシアネートから得られるポリエステル系ポリウレタン、又はポリエーテルポリオールとジイソシアネートから得られるポリエーテル系ポリウレタン等が挙げられる。ジイソシアネートしては芳香族イソシアネートであるトルイレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、又は脂肪族イソシアネートとしてヘキサメチレンジイソシアネートなどが使用できる。
【0051】
エチレン・ビニルアルコール共重合体等の極性基を有する重合体層の厚みは特に限定されるものではなく、用途や樹脂種、要求特性等によって適宜決定されるが、通常1~200μm、好ましくは3~100μmである。なお、ここで極性基を有する重合体層の厚みは極性基を有する重合体層一層当たりの厚みである。
【0052】
極性基を有する重合体層中の極性基を有する重合体の含有割合は限定されないが、極性基を有する重合体層100質量%中の含有割合で、通常1~30質量%であり、3~25質量%であることが好ましく、5~20質量%であることがさらに好ましい。該含有割合が上記下限以上であれば、接着性を維持し易い傾向にある。また、該含有割合が上記上限以下であれば、成形性を良好に維持し易い傾向にある。
【0053】
[オレフィン系重合体層]
オレフィン系重合体層は、少なくともオレフィン系重合体を含む層である。上述した接着性重合体組成物はオレフィン系重合体に対する接着性に優れることから、上述の接着性重合体組成物よりなる接着層と接するようにオレフィン系重合体層を有することが好ましい。オレフィン系重合体層の原料として用いられる原料ポリオレフィンとしては、特に限定されないが、エチレンの単独重合体、プロピレンの単独重合体、エチレンと他のモノマーとの共重合体、又はプロピレンと他のモノマーとの共重合体等が挙げられる。
【0054】
オレフィン系重合体層の厚みは、成形性の観点から、1~1000μmであることが好ましく、5~500μmであることがより好ましく、10~100μmであることが更に好ましい。なお、ここでオレフィン系重合体層の厚みはオレフィン系重合体層の一層当た
りの厚みである。なお、ここでオレフィン系重合体層の厚みは極性基を有するオレフィン系重合体層一層当たりの厚みである。
【0055】
なお、上記の極性基を有する重合体層及びオレフィン系重合体層は、本発明の効果が得られる範囲において、接着性重合体組成物中の変性エチレン・αオレフィン共重合体(A)、密度が0.890g/cm3以上0.950g/cm3以下のエチレン系重合体(B)、密度が0.890g/cm3未満のエチレン系重合体(C)からなる群より選択される少なくとも1種を含有していてもよく、また、前述のその他の成分や添加剤を含有していてもよい。
【0056】
オレフィン系重合体層中のオレフィン系重合体の含有割合は限定されないが、オレフィン系重合体層100質量%中の含有割合で、通常70~100質量%であり、80~100質量%であることが好ましく、85~100質量%であることがさらに好ましい。該含有割合が上記下限以上であれば、外層および内層材料としての機能を保持できる。
【0057】
積層体は、2種以上の異なる層が積層されていてもよい。
【0058】
[層構成]
積層体としては、例えば、極性基を有する重合体層の両面に上記の接着性重合体組成物よりなる接着層を介してオレフィン系重合体層の一実施形態であるエチレン系重合体(エチレンの単独重合体、又はエチレンと他のモノマーとの共重合体)を含むエチレン系重合体層を積層してなる5層の積層体、例えば、エチレン系重合体層/本実施形態に係る接着性重合体組成物よりなる接着層/極性基を有する重合体層/本実施形態に係る接着性重合体組成物よりなる接着層/エチレン系重合体層の層構造を有するものが挙げられる。この場合、2つのエチレン系重合体層は同一のエチレン系重合体よりなるものであってもよく、異なるエチレン系重合体よりなるものであってもよい。
【0059】
[積層体の厚み]
積層体の全層の合計の厚みは、層構成、接着性重合体の種類、用途、包装形態、および要求される物性等により適宜設計することができるが、積層体が多層ボトルである場合、全層の合計の厚みは3~2400μmである事が好ましく、500~2000μmである事がより好ましい。多層シートである場合、全層の合計の厚みは200~5,000μmである事が好ましい。また、積層体が多層フィルムである場合、全層の合計の厚みは3~500μmである事が好ましく、3~300μmである事がより好ましい。
【0060】
[積層体の製造方法]
積層体を製造する方法としては、公知の種々の手法を採用することができる。例えば、押出機で溶融させた個々の溶融樹脂を多層ダイスに供給し、ダイスの中で積層する共押出し手法によるインフレーション成形、T-ダイ成形によるフィルム成形もしくはシート成形、ブロー成形による容器成形、又は溶融した個々の樹脂を同一金型内にタイムラグを付けてインジェクションする共インジェクション成形等がある。また、被着材に対し上述した組成物単体の押出しもしくは該組成物と他の樹脂との共押出しを行う押出しラミネーションに係る手法、又は押出しラミネーションの際、積層前に被着材をコロナ放電処理もしくは火炎処理を行い、積層直前に被着材及び上述した接着性重合体組成物の接着面をオゾン処理する手法も用いられる。更に、上述した組成物単体の押出し又は該組成物と他の樹脂との共押出しにより得られた接着性重合体組成物フィルムと被着材フィルムとの熱ラミネート、又はヒートシール等による積層法を用いることもできる。
【0061】
これら押出しによるフィルム、シート、又はブロー成形の条件は、特に限定されるものではないが、ダイス温度180~250℃の範囲で成形されることが好ましい。また、押
出しラミネーション成形の条件は、特に限定されるものではないが、ダイス温度280~320℃の範囲で成形されることが好ましく、熱ラミネートやヒートシールによる積層法は、特に限定されるものではないが、積層温度が160~220℃の範囲で成形されることが好ましい。
【0062】
多層成形体は、蓋材又は包装袋等の包装材として好適に使用することができる。また、多層成形体を用いてカップ又はトレイ状の多層容器を得ることも可能である。その場合は、通常、絞り成形法が採用され、該絞り成形法としては、具体的には真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法、又はプラグアシスト式真空圧空成形法等が挙げられる。更に多層パリソン(ブロー前の中空管状の予備成形物)からチューブやボトル状の多層容器を得る場合はブロー成形法が採用される。
【0063】
積層体の成形方法としては、具体的には、押出ブロー成形法(双頭式、金型移動式、パリソンシフト式、ロータリー式、アキュムレーター式、もしくは水平パリソン式等)、コールドパリソン式ブロー成形法、射出ブロー成形法、又は二軸延伸ブロー成形法(押出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、もしくは射出成形インライン式二軸延伸ブロー成形法等)等が挙げられる。この際必要に応じ、熱処理、冷却処理、圧延処理、印刷処理、ドライラミネート処理、溶液もしくは溶融コート処理、製袋加工、深絞り加工、箱加工、チューブ加工、又はスプリット加工等を行うことができる。
【0064】
[用途]
上述した接着性重合体組成物は、極性基を有する重合体層に対して優れた接着性を発現する事ができる。特に、フィルム、シート、チューブ、又はボトル等の接着層として使用した際に、優れた接着強度を維持する。このため、このような重合体組成物を接着層とする積層体よりなる本発明の成形体は、優れた接着強度特性を示し、更に強度、耐熱性及びガスバリア性等にも優れたものとすることができる。
【0065】
積層体、特には積層体からなるフィルム、シート、袋、カップ、トレイ、チューブ、もしくはボトル等の容器は、一般的な食品、マヨネーズやドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、建材又は医薬品等の各種の包装材として有用であり、食品包装材として特に有用である。
【実施例0066】
以下、実施例を用いて本発明の具体的態様を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。尚、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味を持つものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0067】
本実施例で行った各特性の評価方法は次の通りである。
(1)[密度]
密度は、JIS K7112に従い、水中置換法で測定した。
【0068】
(2)[MFR]
MFRは、JIS K7210に準拠して、温度190℃、荷重2.16kg、10分の条件で測定した。
【0069】
(3)[アセトン抽出前の変性エチレン・αオレフィン共重合体の不飽和カルボン酸及び又はその誘導体の含有割合]
変性エチレン・αオレフィン共重合体のアセトン抽出前の重合体組成物の不飽和カルボン酸及び又はその誘導体の含有割合は以下のようにして測定した値である。
変性エチレン・αオレフィン共重合体のペレットを厚さ100μm、直径20mmの円状のシートに200℃、5MPa、3分の条件でプレス成形し、円状シートを得る。この円状シートを赤外線吸収スペクトルの測定試料とし、赤外線吸収スペクトル法を用い、カルボン酸及び/又はその誘導体特有の吸収から、カルボン酸及び/又はその誘導体の含有割合を求めた。具体的には、1900~1600cm-1(C=O伸縮振動帯)のカルボニル特性吸収を測定することにより求めた。
【0070】
(4)[アセトン抽出後の変性エチレン・αオレフィン共重合体の不飽和カルボン酸及び又はその誘導体の含有割合(グラフト率)]
変性エチレン・αオレフィン共重合体のアセトン抽出後の重合体組成物の不飽和カルボン酸及び又はその誘導体の含有割合(グラフト率と称する場合がある)は以下のようにして測定した値である。
変性エチレン・αオレフィン共重合体のペレットを200℃、5MPa、3分の条件でプレス成形し、厚さ100μm、直径20mmの円状シートを得た。この円状シートをソックスレー抽出器に入れ、80℃、1時間アセトン還流を実施した。
その後、円状シートを加熱乾燥機を用いて80℃で2時間乾燥させた。この乾燥後の円状シートを赤外線吸収スペクトルの測定試料とし、赤外線吸収スペクトル法を用い、カルボン酸及び/又はその誘導体特有の吸収から、カルボン酸及び/又はその誘導体の含有割合を求めた。具体的には、1900~1600cm-1(C=O伸縮振動帯)のカルボニル特性吸収を測定することにより求めた。
【0071】
(5)[単体で存在する不飽和カルボン酸及び又はその誘導体の含有割合]
[アセトン抽出前の変性エチレン・αオレフィン共重合体の不飽和カルボン酸及び又はその誘導体の含有割合]と[アセトン抽出後の変性エチレン・αオレフィン共重合体の不飽和カルボン酸及び又はその誘導体の含有割合]との差を単体で存在する不飽和カルボン酸及び又はその誘導体の含有割合として算出した。
【0072】
(6)[酸含有割合]
酸含有割合は、上記で得られた変性エチレン・αオレフィン共重合体のグラフト率と表2に記載の配合量から算出した。
【0073】
(7)[接着強度]
各例で得られた多層フィルムを押出方向(MD方向)に幅15mmの短冊状に切り出して試験片とし、23℃雰囲気下、速度300mm/minにて180°ピール剥離試験を行い、接着強度を測定した。ここで、接着強度は、EVOH層と接着層との界面における接着強度である。
【0074】
(8)[成形性]
接着強度測定用サンプルの作製時(下記[多層積層体の成形])、多層フィルムの外観を観察し、架橋物や黒点、スジによる外観異常が実用上問題ない範囲である場合はA、架橋物や黒点、スジによる外観異常が実用上問題となる場合はBとした。
【0075】
[変性エチレン・αオレフィン共重合体の作製と物性]
<合成例1>
原料エチレン・αオレフィン共重合体として原料エチレン・ブテン共重合体:三井化学社製 TAFMER(登録商標)A35070S(MFR(190℃、荷重2.16kg):35g/10分、密度:0.870g/cm3)を用いた。
原料エチレン・ブテン共重合体:100質量部、ラジカル発生剤である日油(株)製パー
ヘキサ25B(2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン):0.05質量部、及び無水マレイン酸:1.5質量部をドライブレンドして混合し、2軸押出機(日本製鋼所社製、TEX25αIII、D=25mmφ、L/D=52.5)を用い、設定温度230℃、スクリュー回転数400rpm、押出量20kg/hで溶融混練し、ストランドカットによりペレット状の無水マレイン酸により変性された変性エチレン・ブテン共重合体(A-1)を得た。得られた変性エチレン・ブテン共重合体(A-1)のペレットを用いて、前記(2)~(5)の測定を実施した。測定結果を表1に示す。
【0076】
<合成例2、3、4>
合成例2、3について表1の配合割合とした以外は合成例1と同じようにして変性エチレン・ブテン共重合体を得た。また、合成例4についてはエチレン・ブテン共重合体:三井化学社製 TAFMER(登録商標)A4085S(MFR(190℃、荷重2.16kg):4g/10分、密度:0.885g/cm3)を原料に用い、表1の配合割合とした以外は合成例1と同じようにして変性エチレン・ブテン共重合体を得た。得られた変性エチレン・ブテン共重合体(A-2)、(A’-1)、(A’-2)のペレットを用いて合成例1と同じように測定を実施した。測定結果を表1に示す。
【0077】
<成分(B):密度が0.890g/cm3以上0.950g/cm3以下のエチレン系重合体>
B-1:エチレン・プロピレン・1-ヘキセン共重合体
日本ポリエチレン社製 KARNEL(登録商標)KS560T(MFR(190℃、荷重2.16kg):16.5g/10分、密度:0.898g/cm3
B-2:エチレン・1-ヘキセン共重合体
日本ポリエチレン社製 KARNEL(登録商標)KC580S(MFR(190℃、荷重2.16kg):10.5g/10分、密度:0.920g/cm3
【0078】
<成分(C):密度が0.890g/cm3未満のエチレン系重合体>
C-1:エチレン・プロピレン共重合体
三井化学社製 TAFMER(登録商標)P0280(MFR(230℃、荷重2.16kg):5.4g/10分、密度:0.870g/cm3
【0079】
【0080】
[実施例1]
<接着性重合体組成物の製造>
表2の通り、A-1 10質量部、B-1 25質量部、B-2 35質量部、およびC-1 30質量部をドライブレンドにより混合した。これを単軸押出機(IKG社製、IKG50、D=50mmφ、L/D=32)を用い、設定温度210℃、スクリュー回転数60rpm、押出量20kg/hで溶融混練し、ストランドカットにより接着性重合体組成物のペレットを得た。この変性エチレン・ブテン共重合体を含む接着性重合体組成物について、(2)と(6)の測定を実施した。測定結果を表2に示す。
【0081】
[多層積層体の成形]
上記で得られた接着性樹脂組成物を接着層とし、以下の製造方法により多層積層体を得た。
プラ技研社製多層押出フィルム成形機(各層の押出機:40mmφ,450mm幅マルチマニフォールドダイス、リップ開度:0.5mm)を用いて、3種5層多層フィルムを得た。層構成は、ポリエチレン層/接着層/EVOH層/接着層/ポリエチレン層とし、各層厚みを60μm/20μm/40μm/20μm/60μmとし、多層フィルムの全厚みを200μmとした。成形温度は240℃、成形速度は10m/分とし、冷却は、エアナイフ冷却後に冷却ロール(温度30℃)を用いて実施した。なお、上記のポリエチレン層、EVOH層には以下のものを用いた。
ポリエチレン層:日本ポリエチレン社製 エチレン系重合体 ノバテック(登録商標)
SF8402、エチレン・1-ヘキセン共重合体
EVOH:クラレ社製 エバール F101B、エチレン含量32モル%
得られた5層フィルムについて、(7)の測定を実施した。測定結果を表2に示す。
【0082】
[実施例2~4、比較例1~4]
変性エチレン・ブテン共重合体を含む接着性重合体組成物の製造に置いて、表2に記載の配合としたこと以外は実施例1と同様に変性エチレン・ブテン共重合体を含む接着性重合体組成物のペレットを得、同様に多層積層体を製造し、それぞれ測定を行った。結果を表2に示す。
【0083】
【0084】
変性エチレン・ブテン共重合体(A-1)、(A-2)を用いた実施例1~4における接着性重合体組成物は、接着強度が高く、また成形後の多層フィルムの外観も良好であった。
一方、比較例1における接着性重合体組成物は接着強度が低く、比較例2における接着性重合体組成物は、接着強度は良好であったが、成形後の多層フィルムの外観が悪い結果となった。比較例3、4における接着性重合体組成物は接着強度が良好であったが、成形後の多層フィルムの外観に劣る結果となった。