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特開2024-94924炭化ケイ素高含有成型品の製造方法、及び、炭化ケイ素高含有成型品を用いた炭化ケイ素単結晶の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094924
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】炭化ケイ素高含有成型品の製造方法、及び、炭化ケイ素高含有成型品を用いた炭化ケイ素単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20240703BHJP
   C30B 19/06 20060101ALI20240703BHJP
   C04B 35/577 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B19/06
C04B35/577
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211848
(22)【出願日】2022-12-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合研究機構、クリーンエネルギー分野における革新的技術の国際共同研究開発事業、「分散型電力ネットワーク有効活用に資する革新的要素技術開発」「SiC結晶の生産性と品質を飛躍的に向上する革新的溶液成長技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】川西 咲子
(72)【発明者】
【氏名】中山 吉之
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BE08
4G077CC10
4G077EG02
4G077HA12
(57)【要約】      (修正有)
【課題】溶液法によるSiC単結晶の製造において、前記SiC単結晶のC源かつSi源として用いるSiC高含有成型品の製造方法であって、反応性含浸法を適用しながらも、所望の形状で、空隙も抑えた緻密なSiC高含有成型品を得ることができるSiC高含有成型品の製造方法を提供する。
【解決手段】溶液法による炭化ケイ素単結晶の製造において、炭素源かつケイ素源として用いる炭化ケイ素高含有成型品の製造方法であって、前記製造方法は、炭化ケイ素粉末と熱硬化性樹脂とを含む造粒物を加圧成型し、硬化反応してなる成型体の炭化処理物に、溶融ケイ素を含浸させることにより、前記熱硬化性樹脂由来の炭素と前記溶融ケイ素とを反応させて炭化ケイ素を生成することを含む、炭化ケイ素高含有成型品の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液法による炭化ケイ素単結晶の製造において、炭素源かつケイ素源として用いる炭化ケイ素高含有成型品の製造方法であって、
前記製造方法は、炭化ケイ素粉末と熱硬化性樹脂とを含む造粒物を加圧成型し、硬化反応してなる成型体の炭化処理物に、溶融ケイ素を含浸させることにより、前記熱硬化性樹脂由来の炭素と前記溶融ケイ素とを反応させて炭化ケイ素を生成することを含む、炭化ケイ素高含有成型品の製造方法。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂が次の(a)~(f)の少なくとも1種を含む、請求項1に記載の炭化ケイ素高含有成型品の製造方法:
(a)熱硬化性フェノール樹脂
(b)熱硬化性エポキシ樹脂
(c)熱硬化性ウレタン樹脂
(d)熱硬化性尿素樹脂
(e)熱硬化性アクリル樹脂、
(f)熱硬化性アルキド樹脂
【請求項3】
前記熱硬化性樹脂が炭素元素と水素元素と酸素元素で構成される、請求項1又は2に記載の炭化ケイ素高含有成型品の製造方法。
【請求項4】
前記造粒物中の前記炭化ケイ素粉末の含有量を90質量%以下とする、請求項1又は2に記載の炭化ケイ素高含有成型品の製造方法。
【請求項5】
前記炭化処理物の残炭率を15質量%以上とする、請求項1又は2に記載の炭化ケイ素高含有成型品の製造方法。
【請求項6】
前記炭化ケイ素高含有成型品が、前記の溶液法による炭化ケイ素単結晶の製造において、溶液を収容する坩堝として用いられるものである、請求項1又は2に記載の炭化ケイ素高含有成型品の製造方法。
【請求項7】
溶液法による炭化ケイ素単結晶の製造において、請求項1又は2に記載の炭化ケイ素高含有成型品の製造方法により得られた炭化ケイ素高含有成型品を、溶液を収容する坩堝として用いることにより、前記坩堝を前記炭化ケイ素単結晶の炭素源かつケイ素源として機能させることを含む、炭化ケイ素単結晶の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素単結晶の製造において、炭素源かつケイ素源として好適な炭化ケイ素高含有成型品の製造方法に関する。また、本発明は、炭化ケイ素高含有成型品を炭素源かつケイ素源として用いる炭化ケイ素単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC)は次世代パワー半導体材料として期待されている。例えば、SiCパワーデバイス市場は、世界的にみて年平均成長率30%で拡大することが予想され、特に電気自動車(EV)のモータドライブ等の車載分野では年率100%超の成長率が予想されている。しかし、SiC基板はSi基板に比べて高価であり、また、SiC単結晶基板の欠陥の低減には現状の技術では制約がある。したがって、SiC単結晶基板の高品質化が課題となっている。
【0003】
Si単結晶基板の場合には、Siの融点が常圧下で1414℃であるため、Si融液から、チョクラルスキー法(CZ法)や浮遊帯域溶融法(FZ法)により高品質で大口径の単結晶を得ることができる。これに対し、SiCは常圧下では融解せず、加熱すると2000℃程度の温度で昇華してしまうため、CZ法やFZ法を適用することができない。そのため、SiC単結晶は、主として昇華法により製造されている。昇華法は現時点で、SiC単結晶の量産化の唯一の方法であり、この方法で製造された6インチ径のSiC単結晶基板が市販されている。また、8インチ径のSiC単結晶基板の量産化に向けて開発が進められている。しかし、昇華法は結晶成長速度が遅く、結晶成長環境の精密な温度管理が難しいこともあり、更なる欠陥低減は困難な状況にある。また、RAF法(Repeated A-Face成長法)を適用することにより、原理的には高品質化が可能であるものの、コスト面で制約が生じてしまう。
【0004】
昇華法に代わるSiC単結晶の結晶成長技術として、溶液法(種付け溶液成長法、TSSG:Top Seeded Solution Growth)が提案されている。溶液法によるSiC単結晶の製造では、黒鉛坩堝内にSi融液を収容し、坩堝からCをSi融液中に溶解せしめ、このSi-C溶液に、SiC種結晶を接触させ、SiC種結晶上への溶液成長によってSiC単結晶を得ている。溶液法では、SiCの結晶成長が熱平衡に近い状態で進行し、昇華法に比べて低欠陥で高品質なSiC単結晶を得ることができる。上記のSi融液へのCの溶解度は1at%程度と極めて小さいため、一般に、Cの溶解量を高めるためにSi融液中に遷移金属などを添加する。添加元素としては、TiやCr,Ni、Feなどの遷移金属などが挙げられる。
【0005】
溶液法は高品質なSiC単結晶の製造技術として有望視されているが、課題もいくつか指摘されている。SiCの単結晶成長につれて、Si-C溶液から徐々にSi成分が失われる一方で、Cは継続的に坩堝から供給される。また、Si-C溶液に含まれる遷移金属などの添加元素量は変動しないため、溶液中のSiの割合は減少してしまう。そのため、Si-C溶液のC溶解度が高まり、経時的にCが過剰に融け込むことになり、溶液中のSi/C組成比が変化してしまう。結果、SiCの単結晶成長を、長時間、安定して継続することは難しくなる。また、Si-C溶液中へのCの過剰な融け込みは、坩堝の内壁に微細なSiC多結晶を生じ、このSiC多結晶がSi-C溶液中を浮遊し、単結晶成長を阻害する問題も指摘されている。
【0006】
溶液法において、上記のようなSi-C溶液の組成変動を抑え、また、坩堝内壁に析出する多結晶の発生も抑える技術が提案されている。例えば特許文献1には、酸素含有量が100ppm以下の、SiCを主成分とする坩堝をSi-C溶液の収容部として用いて、この坩堝を加熱して、前記Si-C溶液と接触する坩堝表面の高温領域から該坩堝の主成分であるSiCを源とするSiとCの両方を前記Si-C溶液中に溶出せしめ、前記坩堝の上部から、前記Si-C溶液にSiC種結晶を接触させて、該SiC種結晶上にSiC単結晶を成長させるSiC単結晶の製造方法が記載されている。特許文献1記載の技術によれば、Si-C溶液の収容部である坩堝がSiとCの両元素の供給源となり、溶液中のSi/C組成比が安定し、SiC単結晶を安定して長時間成長させることができる。また、坩堝の酸素含有量が100ppm以下であるため、Si-C溶液中でのガス発生が抑制され、低欠陥で高品質なSiC単結晶を、長時間に亘って安定的に製造することが可能になるとされる。なお、特許文献1は、SiCを主成分とする坩堝を、必要により、Siを含浸させる熱処理に付しても良いことを記載しているが、含浸させたSiを坩堝内に存在する炭素(C)原料と反応させてSiCを生成させることは記載されていない。
【0007】
SiCを主成分とする成形品の製造に係る技術として、C原料を含む成型体にSi融液を含浸させてSiCを生成する方法(反応性含浸法)が知られている。例えば、非特許文献1には、SiC粉末とC粉末の混合圧粉体にSi融液を含浸させて、SiCを高含有する構造体を得たことが記載されている。また、非特許文献2には、結晶セルロースとフェノール樹脂とを混合し、これを炭化したカーボンプリフォームにSi融液を含浸させてSiCを高含有する構造体を得たことが記載されている。いずれの技術においても、SiCの含有量が80%以上の構造体が得られている。なお、これらの技術において、SiCを除いた残部の大半はSiで構成され、僅かに未反応のCが残存する場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2017-31036号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Suyama et al.,Diamond and Related Materials,2003年,第12巻,p.1201-1204
【非特許文献2】Margiotta et al.,J.Mater.Res.2008年,第23巻,p.1237-1248
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
非特許文献1に記載されるC粉末としては黒鉛を用いることが想定されるが、本発明者らが検討したところ、黒鉛が溶融Siと反応してSiCを生成すると体積膨張が生じ、圧粉体の形状維持が困難となることがわかってきた。
また、非特許文献2記載の技術に関し本発明者らが検討を進めたところ、有機原料を炭化してC原料としているためにC原料のかさ密度を小さくでき、Siと反応してSiCを生じた際に体積膨張を生じにくいこと、他方で、フェノール樹脂の硬化反応(脱水縮合)の際に生じる水分(水蒸気)の影響で、得られる成形品には多数の空隙が生じ、やはり所望の形状を精度高く維持することが難しいことがわかってきた。
【0011】
本発明は、溶液法によるSiC単結晶の製造において、前記SiC単結晶のC源かつSi源として用いるSiC高含有成型品の製造方法であって、反応性含浸法を適用しながらも、所望の形状で、空隙も抑えた緻密なSiC高含有成型品を得ることができるSiC高含有成型品の製造方法を提供することを課題とする。また、本発明は、溶液法によるSiCの単結晶成長を、より長時間、安定して継続することができるSiC単結晶の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた。その結果、SiC粉末と熱硬化性樹脂とを混合(混練)して均一な組成物の状態とし、この混合物を造粒して造粒物を得て、この造粒物を加圧成型し、次いで硬化反応させた成型体を炭化して、この炭化物に溶融Siを含浸させることにより、熱硬化性樹脂由来のCと溶融Siとの反応によりSiCを生成し、得られる成形品は溶融Siを含浸させる前の加圧成型体の形状を実質的に維持でき、また、硬化反応時に生じる水蒸気等のガスは、成型体を構成する粒子間の微細な空隙から外部へと逃がすことができるため、空隙も生じにくく、結果として、所望の形状で緻密なSiC高含有成形品が得られることを見出した。
本発明は、これらの知見に基づきさらに検討を重ねて完成されるに至ったものである。
【0013】
本発明の上記課題は、下記の手段により解決された。
〔1〕
溶液法による炭化ケイ素単結晶の製造において、炭素源かつケイ素源として用いる炭化ケイ素高含有成型品の製造方法であって、
前記製造方法は、炭化ケイ素粉末と熱硬化性樹脂とを含む造粒物を加圧成型し、硬化反応してなる成型体の炭化処理物に、溶融ケイ素を含浸させることにより、前記熱硬化性樹脂由来の炭素と前記溶融ケイ素とを反応させて炭化ケイ素を生成することを含む、炭化ケイ素高含有成型品の製造方法。
〔2〕
前記熱硬化性樹脂が次の(a)~(f)の少なくとも1種を含む、〔1〕に記載の炭化ケイ素高含有成型品の製造方法:
(a)熱硬化性フェノール樹脂
(b)熱硬化性エポキシ樹脂
(c)熱硬化性ウレタン樹脂
(d)熱硬化性尿素樹脂
(e)熱硬化性アクリル樹脂、
(f)熱硬化性アルキド樹脂
〔3〕
前記熱硬化性樹脂が炭素元素と水素元素と酸素元素で構成される、〔1〕又は〔2〕に記載の炭化ケイ素高含有成型品の製造方法。
〔4〕
前記造粒物中の前記炭化ケイ素粉末の含有量を90質量%以下とする、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の炭化ケイ素高含有成型品の製造方法。
〔5〕
前記炭化処理物の残炭率を15質量%以上とする、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の炭化ケイ素高含有成型品の製造方法。
〔6〕
前記炭化ケイ素高含有成型品が、前記の溶液法による炭化ケイ素単結晶の製造において、溶液を収容する坩堝として用いられるものである、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の炭化ケイ素高含有成型品の製造方法。
〔7〕
溶液法による炭化ケイ素単結晶の製造において、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の炭化ケイ素高含有成型品の製造方法により得られた炭化ケイ素高含有成型品を、溶液を収容する坩堝として用いることにより、前記坩堝を前記炭化ケイ素単結晶の炭素源かつケイ素源として機能させることを含む、炭化ケイ素単結晶の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のSiC高含有成型品の製造方法によれば、反応性含浸法を適用しながらも、所望の形状で、空隙も抑えた、緻密なSiC高含有成型品を得ることができる。すなわち、溶液法によるSiC単結晶の製造において、C源かつSi源として好適なSiC高含有成型品を得ることができる。また、本発明のSiC単結晶の製造方法によれば、溶液法によるSiCの単結晶成長を、より長時間、安定して継続することができ、欠陥を抑えたSiC単結晶を安定的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の炭化ケイ素高含有成型品の製造方法の好ましい一実施形態の各工程を時系列に示すフロー図である。
図2図2は、本発明の炭化ケイ素高含有成型品の製造方法において、炭化ケイ素粉末と熱硬化性樹脂とを含む造粒物を加圧成型し、この加圧成型品を硬化反応してなる成型体の炭化処理物に、溶融Siを含浸させた直後の状態(左図)と、その後、SiとCとが反応してSiCが生成した状態(右図)とを模式的に示す説明図である。
図3図3は、溶液法によるSiC単結晶の製造方法を模式的に示す説明図である。左図はSi-C溶液に種結晶を接触させた状態を示し、右図は溶液成長によって種結晶からSiC単結晶が育成した状態を示す。
図4図4は、実施例1のSiC高含有成形品の断面の光学顕微鏡写真である。
図5図5は、実施例1のSiC高含有成形品の断面の電子顕微鏡写真である。
図6図6は、実施例2のSiC高含有成形品の断面の電子顕微鏡写真である。
図7図7は、実施例3のSiC高含有成形品の断面の電子顕微鏡写真である。
図8図8は、比較例1と比較例2のSiC含有成形品の外観写真である。
図9図9は、比較例1と比較例2のSiC含有成形品の断面の電子顕微鏡写真である。
図10図10は、比較例3のSiC含有成形品の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明は、本発明が規定すること以外は、下記の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
[炭化ケイ素高含有成型品の製造方法]
本発明のSiC高含有成型品の製造方法(以下、「本発明の成型品の製造方法」とも称す。)は、SiC粉末と熱硬化性樹脂とを含む造粒物を加圧成型し、硬化反応してなる成型体の炭化処理物に、溶融Siを含浸させることを含む。一実施形態では、炭化処理物を得るための炭化処理を独立して行わなくても、溶融Siの含浸に供するための昇温段階にて炭化を進めることもできる。本発明において「SiC高含有成型品」とは、成形品の断面の、互いに重ならない3つのエリアを観察し、各エリアの面積(10000μmの矩形枠内)の合計(30000μm)に占めるSiC部分の面積の割合が75%以上(好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上)である成形品を意味する。
本発明の成型品の製造方法で得られるSiC高含有成型品は、溶液法によるSiC単結晶の製造において、C源かつSi源として好適である。すなわち、SiC高含有成型品を、Si-C溶液を収容する坩堝として用いることができる。また、SiC高含有成型品をSi-C溶液中に浸漬してC源かつSi源として用いることもできる。本発明において、SiC高含有成型品を坩堝として用いる形態には、坩堝をSiC高含有成型品のみで構成する形態と、SiC高含有成型品以外の坩堝(例えば黒鉛坩堝)の内壁に沿って、SiC高含有成型品を配する形態(ライナーとしての使用)の両方が包含されるものとする。
【0018】
<炭化ケイ素粉末と熱硬化性樹脂とを含む造粒物の調製>
SiC粉末と熱硬化性樹脂とを含む造粒物は、SiC粉末と熱硬化性樹脂とを混合(混練)して均一な組成物の状態とし、この混合物(組成物)を造粒処理に付して得ることができる。熱可塑性樹脂が溶媒に溶解している溶液状である場合には、SiC粉末と混合後、乾燥して溶媒を除去することが好ましい。乾燥処理は溶媒種や熱硬化性樹脂の種類にもよるが、硬化反応を生じないように、例えば120℃以下で加熱乾燥することができ、100℃以下で加熱乾燥することがより好ましい。乾燥時間は特に制限されず、所望の乾燥状態になるまで乾燥させればよい。
SiC粉末と熱硬化性樹脂(溶媒を除く)との混合比は、SiC粉末/熱硬化性樹脂(質量比)が10/1~1/5が好ましく、8/1~1/3がより好ましく、6/1~1/1がさらに好ましく、5/1~2/1が特に好ましい。また、造粒処理に付して得られる造粒物中のSiC粉末の含有量を、90質量%以下とすることが好ましい。換言すれば、C源となる熱硬化性樹脂をある程度多量に配合することが好ましい。
造粒処理は特に制限されず、混合物を粉砕可能な種々の方法を採用することができる。例えば、乳鉢、石臼、スタンプミル、自生粉砕機、カッターミル、ミキサーミル、クライオミル、スプレードライヤーなどを用いる方法が挙げられる。この造粒処理によって得られた造粒物を、篩を用いて分級し、所望の粒径のものを次工程の加圧成型(プレス成型)に付すことが好ましい。次工程の加圧成型に付す造粒物の粒径(造粒により形成された二次粒子の粒径)は、篩によって600μm以下に調整する(目開き600μmの篩を通過した造粒物を用いる)ことが好ましく、500μm以下に調整することがより好ましく、400μm以下に調整することがさらに好ましい。この粒径は通常は0.5μm以上であり、1μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましい。造粒物の粒径を好ましい範囲として示すと、0.5~600μmが好ましく、1~500μmがより好ましく、5~500μmがさらに好ましく、5~400μmがさらに好ましい。また、目開きが10~100μmの間にある篩を用いて、この篩を通過しない造粒物を用いることにより、造粒物の粒径の下限を制御することも好ましい。
【0019】
(炭化ケイ素粉末)
上記の原料として用いるSiC粉末は、粉末状のSiCであれば特に制限されない。例えば、体積基準のメディアン径(d50)が20μm以下のSiC粉末を用いることができ、成型体中の過度な空隙の発生を抑える観点から、15μ以下のSiC粉末を用いることが好ましく、10μm以下のSiC粉末を用いることがより好ましく、6μm以下のSiC粉末を用いることがさらに好ましい。SiC粉末のd50は通常は0.2μm以上であり、0.3μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることも好ましい。このようなSiC粉末は市場から入手することができる。SiC粉末のd50を好ましい範囲として示すと、0.2~20μmが好ましく、0.3~20μmがより好ましく、0.5~15μmがさらに好ましく、0.5~10μmがさらに好ましく、1~6μmがさらに好ましい。
【0020】
(熱硬化性樹脂)
熱硬化性樹脂は、熱により硬化反応を生じて3次元網状構造の硬化物を生じる樹脂を意味する。単に「熱硬化性樹脂」という場合、硬化反応前の状態、あるいは硬化反応が一定程度生じているが完全に硬化する前の状態の熱硬化性樹脂を意味する。熱硬化性樹脂として、例えば、プレポリマーと硬化剤(架橋剤、硬化触媒、熱重合開始剤等)との組み合わせ、プレポリマーとモノマーと硬化剤との組み合わせ、反応性基を有するプレポリマーなどが挙げられる。
上記熱硬化性樹脂は、上記の造粒処理や加圧成型時に結着剤(バインダー)として機能して二次粒子ないし成型体の形状安定性に寄与し、また、SiC生成反応の前には炭化され、SiC生成反応におけるC源となるものである。
熱硬化性樹脂の種類は特に制限されず、一般的な熱硬化性樹脂を広く用いることができる。例えば、次の(a)~(f)の少なくとも1種を熱硬化性樹脂として用いることができる。
【0021】
(a)熱硬化性フェノール樹脂
(b)熱硬化性エポキシ樹脂
(c)熱硬化性ウレタン樹脂
(d)熱硬化性尿素樹脂
(e)熱硬化性アクリル樹脂
(f)熱硬化性アルキド樹脂
【0022】
(a)熱硬化性フェノール樹脂は、熱硬化反応により3次元網状構造のフェノール樹脂を形成するものである。通常はプレポリマーと硬化剤との組み合わせからなり、モノマーであるフェノール化合物を含んでいてもよい。熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂は広く知られており、市販品を広く用いることができる。
(b)熱硬化性エポキシ樹脂は、熱硬化反応によりエポキシ基の開環重合反応を生じて3次元網状構造を形成するものである。例えば、エポキシ化合物と硬化剤との組合せからなるものを用いることができる。熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂は広く知られており、市販品を広く用いることができる。
(c)熱硬化性ウレタン樹脂は、熱硬化反応により3次元網状構造のウレタン樹脂を形成するものである。一般的にはポリイソシアネート化合物とポリオールとの組み合わせである。このポリイソシアネート化合物はプレポリマーでもよい。また、ポリオールはポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールなどのプレポリマーであってもよい。熱硬化性樹脂としてウレタン樹脂は広く知られており、市販品を広く用いることができる。
(d)熱硬化性尿素樹脂は、熱硬化反応により3次元網状構造の尿素樹脂を形成するものである。一般的にはポリイソシアネート化合物とポリアミンとの組み合わせである。このポリイソシアネート化合物はプレポリマーでもよい。また、ポリアミンはポリエーテルポリアミン、ポリエステルポリアミンなどのプレポリマーであってもよい。熱硬化性樹脂として尿素樹脂は広く知られており、市販品を広く用いることができる。
(e)熱硬化性アクリル樹脂は、熱硬化反応により3次元網状構造のアクリル樹脂を形成するものである。例えば、アクリル系モノマーと熱重合開始剤との組合せ、あるいはアクリル系プレポリマーと硬化剤との組合せで構成される。熱硬化性樹脂としてアクリル樹脂は広く知られており、市販品を広く用いることができる。
(f)熱硬化性アルキド樹脂は、熱硬化反応により3次元網状構造のアルキド樹脂を形成するものである。熱硬化性アルキド樹脂は熱硬化性樹脂として広く知られており、市販品を広く用いることができる。
なかでも本発明の成型品の製造方法に用いる熱硬化性樹脂は、炭化処理により炭素以外の元素を除去しながら炭素のみを高効率に残留させる観点から、炭素元素と水素元素と酸素元素で構成されることが好ましい。この観点で、熱硬化性フェノール樹脂は、本発明の成型品の製造方法に用いる熱硬化性樹脂として好適である。
【0023】
<加圧成型>
上記加圧成型により、造粒物を所望の形状に成型する。加圧成型における圧力は、造粒物同士が結着して所望の成型物が得られれば特に制限されない。例えば、10~60MPa程度とすることができる。加圧成型それ自体は広く知られた成型方法であり、一般的な加圧成型装置を適宜に用いることができる。細かな造粒物を加圧成型するため、得られる成型体は、多数の微細孔を有した状態にあり、熱硬化反応により生じるガスを外部へと逃がすことができる。
【0024】
<硬化反応>
上記硬化反応により、熱硬化性樹脂が3次網目構造を形成し、強固な成型体を得ることができる。硬化反応の温度と時間は熱硬化性樹脂の種類等に応じて適宜に設定することができる。例えば、フェノール樹脂であれば200℃程度で30分ほど保持することで、硬化反応を十分に進めることができる。硬化反応の雰囲気は特に制限されない。通常は大気中で硬化反応をさせることができる。また、加圧成型しながら加熱することにより、硬化反応を生じながら加圧成型することもできる。
【0025】
<炭化処理>
本発明の成型品の製造方法では、上記硬化反応後の成型体を、溶融Siを含浸させる前に、炭化処理に付す。この炭化処理は、不活性ガス、還元性ガス、あるいは真空中で、500~600℃程度まで加熱することにより行うことができる。加熱時間は炭化が十分に進行すればよく、例えば、1~10時間程度とすることができる。この炭化処理により熱硬化性樹脂が炭化してC原子となり、後工程のSi含浸によるSiC生成反応におけるC源となる。この炭化処理によって、成型体の残炭率を10質量%以上とすることが好ましく、13質量%以上とすることがより好ましく、15質量%以上とすることがさらに好ましく、17質量%以上とすることがさらに好ましい。残炭率の算出方法は後述の実施例に記載する。
なお、炭化処理物を得るための炭化処理を独立して行わなくても、溶融Siの含浸に供するための昇温段階(高温)にて炭化を進めることもできる。
【0026】
<ケイ素含浸による炭化ケイ素の生成>
上記炭化処理物に、溶融Siを含浸させることにより、熱硬化性樹脂由来のCと溶融Siとが反応して成型体の内部ないし表面においてSiCが生成し、緻密なSiC成形品を得ることができる。
Siの融点が1414℃なので、溶融Siの温度はそれよりも高温となる。例えば、1500℃程度の溶融Siを上記炭化処理物に含浸させ、数分から数時間(例えば、10分~5時間、好ましくは20分~3時間)、SiC生成反応を生じさせることができる。この反応は不活性ガス、還元性ガス、あるいは真空中で行うことができる。
溶融Siを含浸させる上記炭化処理物は、炭化処理前の状態では細かな造粒物が結着して構成されているため、微細な空隙を有しており、また、熱硬化性樹脂の硬化物の炭化によっても微細孔が生じる。したがって、毛細管現象によって溶融Siが上記炭化処理物全体に速やかに均質に行きわたり、より均一で緻密なSiC成形品を高効率に得ることができる。
【0027】
図1は、上述した本発明の成形品の製造方法の好ましい一実施形態について、各工程を時系列に示すフロー図である。また、図2は、炭化処理物にSiを含浸させた直後の状態と、その後、SiとCとが反応してSiCが生成した状態とを模式的に示す説明図である。
【0028】
[炭化ケイ素単結晶の製造方法]
本発明のSiC単結晶の製造方法は、溶液法によるSiC単結晶の製造において、本発明の成形品の製造方法により得られたSiC高含有成型品を、Si-C溶液を収容する坩堝として用いることにより、前記坩堝を前記SiC単結晶のC源かつSi源として機能させることを含む。溶液法によるSiC単結晶の製造方法それ自体は公知であり、例えば、特開2017-31036号公報などを適宜に参照することができる。本発明のSiC単結晶の製造方法は、Si融液を収容する坩堝として、本発明の成形品の製造方法により得られたSiC高含有成型品を用いることに、従来技術にはない特徴がある。
【0029】
図3は、本発明のSiC単結晶の製造方法の一実施形態を模式的に示す説明図である。図3に示す形態では、黒鉛坩堝2の内壁に沿ってSiC高含有成型品1(SiC坩堝1)をライナーとして配している。このSiC高含有成型品1に、遷移金属等を添加したSi融液3を収容し、SiC坩堝からSiとCの両方を上記Si融液3中に溶解せしめてSi-C溶液3とし、このSi-C溶液3に、保持具5によって保持されたSiC種結晶4を接触させ、SiC種結晶上への溶液成長によってSiC単結晶6を得る。溶液成長(育成)の条件としては、例えば、不活性ガス中で、1800~2200℃で1~48時間、引き上げ速度0.1~0.5mm/時間とすることができる。
【実施例0030】
本発明を、実施例に基づき更に詳細に説明する。本発明は、本発明で規定すること以外は、以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0031】
[炭化ケイ素含有成形品の作製]
<実施例>
SiC原料粉(太平洋ランダム社製、商品名:GMF、粒径(d50):2.3μm)と、フェノール樹脂溶液(群栄化学工業社製、商品名:PL2211、熱硬化性樹脂溶液)とを混合して均一な混合物を得た。混合物中のSiC原料粉とフェノール樹脂溶液との混合比は質量比でSiC:フェノール樹脂溶液=3:2とした。このとき、SiC:フェノール樹脂(フェノール樹脂溶液の固形分)=7:3(質量比)である。
次に、上記混合物を大気中、80℃にて30分乾燥させて溶媒を除去した後、乳鉢を用いて造粒し、造粒物を得た。続いて、この造粒物を粒径212~75μm(実施例1、目開き212μmの篩を通過し目開き75μmの篩を通過しないもの)、粒径75~53μm(実施例2、目開き75μmの篩を通過し目開き53μmの篩を通過しないもの)、粒径53~25μm(実施例3、目開き53μmの篩を通過し目開き25μmの篩を通過しないもの)に分級し、分級された造粒物を40MPaの圧力で一軸加圧することで、実施例1~3の成形体(直径:8mm、高さ:3mm)を得た。
次に、上記各成形体を大気中、90℃にて1分保持してから、1℃/minの昇温速度で200℃まで加熱し、200℃にて30分保持することでフェノール樹脂を硬化させ、各成型体の硬化体を得た。続いて、これらの硬化体をアルゴンガス雰囲気中、600℃にて2時間加熱してフェノール樹脂の硬化物を炭化させることで、SiCとCからなるプリフォームを得た。これらのプリフォームの全質量(A1)に占める炭素の質量(A2)の割合(残炭率、(A2/A1)×100)は、いずれも19質量%であった。
次に、上記各プリフォームの上部に、各プリフォーム中のCと反応してSiCを生成するのに十分な量のSi塊を載置し、真空中、1450℃にて10分保持した。これにより、溶融状態となったSiがプリフォームに含浸し、このSiとプリフォームのCとが反応することでSiCが生成する。続いて、真空を維持した状態で自然冷却することで、実施例1~3のSiC高含有成形品を得た。
【0032】
<比較例>
SiC原料粉(太平洋ランダム社製、商品名:GMF、粒径(d50):2.3μm)と、黒鉛粉末(伊藤黒鉛工業社製、商品名:GE-1、粒径(d50):2.7μm)と、結着剤としてポリカルボシラン(日本カーボン社製、商品名:NIPSI-HU)とを混合して均一な混合物を得た。この際、SiC原料粉と黒鉛粉末の全重量(D1)に占める黒鉛粉末の質量(D2)の割合((D2/D1)×100)を6質量%(比較例1)、13質量%(比較例2)、23質量%(比較例3)とした3種の混合物を調製した。また、混合物中のポリカルボシランの含有量はいずれも3質量%とした。
次に、上記各混合物を大気中、80℃にて30分乾燥させた後、40MPaの圧力で一軸加圧することで、成形体(直径:8mm、高さ:3mm)を得た。続いて、これらの成形体をアルゴンガス雰囲気中、1000℃にて2時間加熱することでポリカルボシランをSiCとし、SiCと炭素とからなるプリフォームを得た。これらのプリフォームの残炭率は、それぞれ6質量%(比較例1)、13質量%(比較例2)、23質量%(比較例3)であった。
次に、上記各プリフォームの上部に各プリフォーム中のCと反応してSiCを生成するのに十分な量のSi塊を載置し、真空中、1450℃にて10分保持した。これにより、溶融状態となったSiがプリフォームに含浸し、このSiとプリフォームのCとが反応することでSiCが生成する。続いて、真空を維持した状態で自然冷却することで、比較例1~3のSiC含有成形品を得た。
【0033】
図4及び図5はそれぞれ、実施例1のSiC高含有成形品の断面の光学顕微鏡写真、及び当該断面を拡大した電子顕微鏡写真である。SiC高含有成形品はSiCと残留Siで構成されており、画像解析により評価したところ、当該断面の観察面積(互いに重ならない3つのエリア(各エリアの面積:10000μmの矩形枠内)の合計:30000μm)に占めるSiCの面積率は88%であり、SiCを高含有する成形品であることがわかった。
また、図6は実施例2、図7は実施例3のSiC高含有成形品の断面の電子顕微鏡写真である。いずれもSiCと残留Siで構成されており、当該断面の観察面積(互いに重ならない3つのエリア(各エリアの面積:10000μmの矩形枠内)の合計:30000μm)に占めるSiCの面積率は、実施例2が91%、実施例3が90%であり、いずれもSiCを高含有する成形品であることがわかった。
【0034】
図8及び図9はそれぞれ、比較例1と比較例2のSiC含有成形品の外観写真と、断面の電子顕微鏡写真である。溶融Siの含浸は進行したものの、当該断面の観察面積(互いに重ならない3つのエリア(各エリアの面積:10000μmの矩形枠内)の合計:30000μm)に占めるSiCの面積率は低く、比較例1では59%、比較例2では66%であった。比較例2でややSiCの面積率が増加したのは、黒鉛の添加割合の増加に伴いプリフォーム中の空隙のより多くが生成したSiCで充填されたためと考えられる。
黒鉛のかさ密度(等方性黒鉛では1.7~1.9g/cm程度)を考慮すると、Siとの反応によるSiC(密度3.2g/cm)の生成時には体積膨張を伴うことになる。図10は、比較例3のSiC含有成形品の外観写真である。溶融Si含浸によるSiC生成時に、局所的に過度な体積膨張を生じた結果、成型体の形状が維持できなかったと考えられる。
このように、黒鉛粉末をC原料に用いてSiC含有成形品を得る場合には、所望の形状を維持しながらSiCを高含有させようとしても、成形品中のSiC含有量の向上は限定的となってしまうことがわかる。
【0035】
上記の通り、実施例1~3のSiC高含有成形品では、所望の形状を維持し、かつSiC高含有を実現できることが示された。炭化処理により得られるプリフォームを水銀圧入法で分析した結果、実施例1~3のいずれも樹脂の炭化部分のかさ密度は1.0g/cmであった。これは、Siと反応した際に体積変化を殆ど伴わずにSiC(密度3.2g/cm)を生成することが可能なかさ密度である。加えて、実施例1~3では硬化および炭化の工程で、形状を維持しながらも体積収縮を生じ、成型時に発生した空隙が、樹脂の効果により適度に縮小したと考えられる。これにより、実施例1~3ではプリフォームにおける空隙率が、比較例1~3と比べて小さく、かつ、含浸時のSiCの生成に伴う体積変化を生じなかったため、形状維持と高いSiC率が両立できたと考えられる。
【0036】
実施例1~3及び比較例1~3の、原料の種類、プリフォームの残炭率、SiC含有成形品のSiC面積率を下表に整理した。下記表1中、比較例1~3のプリフォームの残炭率は、SiC原料粉と黒鉛粉末の全重量(D1)に占める黒鉛粉末の質量(D2)の割合を示した。
【0037】
【表1】
【符号の説明】
【0038】
1 SiC高含有成型品
2 黒鉛坩堝
3 Si融液(Si-C溶液)
4 SiC種結晶
5 種結晶の保持具
6 SiC単結晶

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10