(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094947
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】チクソ成形体
(51)【国際特許分類】
C22C 1/10 20230101AFI20240703BHJP
B22D 17/00 20060101ALI20240703BHJP
C22C 23/02 20060101ALN20240703BHJP
【FI】
C22C1/10 G
B22D17/00 540
C22C23/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211886
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】秀嶋 保利
(72)【発明者】
【氏名】岩下 節也
(72)【発明者】
【氏名】前田 郁也
(72)【発明者】
【氏名】内薗 駿介
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 公一
(72)【発明者】
【氏名】福田 忠生
【テーマコード(参考)】
4K020
【Fターム(参考)】
4K020AA24
4K020AA26
4K020AC02
4K020BB22
(57)【要約】
【課題】高い振動減衰性を有するチクソ成形体を提供すること。
【解決手段】Mgを主成分とするマトリックス部と、前記マトリックス部中に分散し、Cを主成分とするC粒子部と、前記マトリックス部中に分散し、Mg
2Siを含む第1Mg粒子部と、前記マトリックス部中に分散し、MgOを含む第2Mg粒子部と、を有し、Cの含有率が3.0質量%以上40.0質量%以下であることを特徴とするチクソ成形体。また、断面を観察し、表面からの深さが1mmの点を中心とする500μm角の範囲における前記第1Mg粒子部および前記第2Mg粒子部の合計の面積分率が0.05%以上10.0%以下であることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mgを主成分とするマトリックス部と、
前記マトリックス部中に分散し、Cを主成分とするC粒子部と、
前記マトリックス部中に分散し、Mg2Siを含む第1Mg粒子部と、
前記マトリックス部中に分散し、MgOを含む第2Mg粒子部と、
を有し、
Cの含有率が3.0質量%以上40.0質量%以下であることを特徴とするチクソ成形体。
【請求項2】
断面を観察し、表面からの深さが1mmの点を中心とする500μm角の範囲における前記第1Mg粒子部および前記第2Mg粒子部の合計の面積分率が0.05%以上10.0%以下である請求項1に記載のチクソ成形体。
【請求項3】
断面を観察し、表面からの深さが1mmの点を中心とする500μm角の範囲における前記第1Mg粒子部の面積分率をS1とし、前記第2Mg粒子部の面積分率をS2とし、前記C粒子部の面積分率をS3とするとき、S3/(S1+S2)の比は、2.0以上50.0以下である請求項1または2に記載のチクソ成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減衰特性に優れるマグネシウムチクソモールディング成形体(チクソ成形体)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マグネシウムは、比重が小さく、かつ、電磁波シールド性、振動の減衰能、切削性、生体安全性がそれぞれ良好であるという性質を有する。このような背景から、自動車用部品、航空機用部品、携帯電話、ノートパソコンといった製品にマグネシウム合金製の部品が使用され始めている。
【0003】
マグネシウム製の部品を製造する方法として、チクソ成形法が知られている。チクソ成形法は、ペレット状またはチップ状の材料をシリンダー内で加熱して液相と固相が共存した固液共存状態にした後、スクリューの回転によってチクソ性を発現させ、得られた半凝固物を金型に注入する成形法である。このようなチクソ成形法によれば、加熱とせん断とによって半凝固物の流動性が高められているため、ダイカスト法と比較して、薄肉な部品や複雑な形状の部品を成形できる。
【0004】
チクソ成形法では、前述したように、例えばチップ状をなす成形用チップが原料として用いられる。
【0005】
例えば、特許文献1には、マグネシウムチップに対して0.01~3重量%のカーボンブラックを添加し、両者をミキサーで混合することによって、マグネシウムチップの表面を炭素粉末で被覆した成形用チップが開示されている。このような炭素粉末で被覆された成形用チップによれば、射出成形によって製造される成形品の曲げ特性および引張強度を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の成形用チップを用いて製造されたチクソ成形体には、振動を減衰させる特性(振動減衰性)が不十分であるという課題がある。このため、チクソ成形体において振動減衰性のさらなる向上を図ることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の適用例に係るチクソ成形体は、
Mgを主成分とするマトリックス部と、
前記マトリックス部中に分散し、Cを主成分とするC粒子部と、
前記マトリックス部中に分散し、Mg2Siを含む第1Mg粒子部と、
前記マトリックス部中に分散し、MgOを含む第2Mg粒子部と、
を有し、
Cの含有率が3.0質量%以上40.0質量%以下であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係るチクソ成形体の一例を模式的に示す部分断面図である。
【
図2】チクソ成形法に用いられる射出成形機の一例を示す断面図である。
【
図3】
図2に示すチクソ成形用材料の一例を模式的に示す断面図である。
【
図5】チクソ成形用材料の製造方法を説明するための工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のチクソ成形体を添付図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
1.チクソ成形体
まず、実施形態に係るチクソ成形体について説明する。
図1は、実施形態に係るチクソ成形体の一例を模式的に示す部分断面図である。
【0011】
図1に示すチクソ成形体100は、マトリックス部200と、C粒子部300と、第1Mg粒子部400と、第2Mg粒子部500と、を有する。マトリックス部200は、Mgを主成分とする。C粒子部300は、Cを主成分とする。第1Mg粒子部400は、Mg
2Siを含む。第2Mg粒子部500は、MgOを含む。そして、チクソ成形体100のCの含有率は、3.0質量%以上40.0質量%以下である。
【0012】
Mgを主成分とする、とは、マトリックス部200の断面に元素分析を行ったとき、元素であるMgが原子数比で最も多いことを指す。Cを主成分とする、とは、C粒子部300の断面に元素分析を行ったとき、元素であるCが原子数比で最も多いことを指す。Mg2Siは、ケイ化マグネシウムである。MgOは、酸化マグネシウムである。
【0013】
このようなチクソ成形体100は、高い振動減衰性を有する。振動減衰性とは、チクソ成形体100に耐久限度以下の応力サイクル(振動)を与えたとき、そのエネルギーを熱として吸収または消散させる能力のことをいい、例えば、対数減衰率で定量化することができる。したがって、チクソ成形体100は、高い対数減衰率を有するといえる。
【0014】
1.1.マトリックス部
マトリックス部200は、Mg以外に種々の添加成分を含んでいてもよい。添加成分としては、例えば、リチウム、ベリリウム、カルシウム、アルミニウム、シリコン、マンガン、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、銀、錫、金、希土類元素等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合物が用いられる。希土類元素としては、例えばセリウムが挙げられる。
【0015】
マトリックス部200におけるMgの含有率は、他の元素より大きければよいが、50原子%超であるのが好ましく、70原子%以上であるのがより好ましく、80原子%以上であるのがさらに好ましい。
【0016】
添加成分は、特に、アルミニウムおよび亜鉛の双方を含むことが好ましい。これにより、チクソ成形体100をチクソ成形法で製造するとき、原材料の融点が低下し、半凝固物の流動性が向上する。その結果、チクソ成形時の成形性が高められるため、製造されるチクソ成形体100の寸法精度を高めることができる。
【0017】
また、添加成分は、アルミニウムおよび亜鉛以外に、マンガン、イットリウム、ストロンチウムおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種を含むのが好ましい。これにより、チクソ成形体100の機械的特性、耐食性、耐摩耗性および熱伝導率を高めることができる。
【0018】
1.2.C粒子部
C粒子部300は、前述したように、Cを主成分とし、マトリックス部200中に分散している。
【0019】
C粒子部300は、マトリックス部200に比べて振動減衰性に優れる。この振動減衰能は、C粒子部300が、その内部や界面において、振動エネルギーを熱エネルギーに変化させやすいことに起因すると考えられる。このため、C粒子部300を設けることにより、振動減衰性に優れたチクソ成形体100を実現することができる。
【0020】
C粒子部300は、好ましくはC単体を含む。C単体は、例えば炭化物等と比べて、硬度や剛性が低く、振動減衰性に優れる。このため、C粒子部300がC単体を含むことにより、振動減衰性が特に高いチクソ成形体100を実現することができる。C単体としては、例えば、グラファイト、ダイヤモンド、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレン等が挙げられる。
【0021】
C粒子部300の断面は、元素分析によるCの含有率が60原子%以上であるのが好ましく、80原子%以上であるのがより好ましい。C粒子部300におけるCの含有率が前記範囲内であることにより、C粒子部300において、C単体が持つ振動減衰性が十分に発揮される。その結果、振動減衰性が特に高いチクソ成形体100を実現することができる。
【0022】
なお、C粒子部300は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)による撮像画像やSEMに付属するエネルギー分散型X線分光法(EDX)による元素分析結果に基づいて、C(炭素)が偏析している箇所として特定される。C粒子部300の断面におけるCの含有率は、例えば、エネルギー分散型X線分光法(EDX)による定性定量分析により求められる。
【0023】
C粒子部300の断面形状は、特に限定されず、例えば、球形であっても、多角形であっても、異形状であってもよい。このうち、C粒子部300の断面形状は、細長い形状であるのが好ましい。細長い形状とは、平均アスペクト比、すなわち短軸の長さに対する長軸の長さの比が、2.0以上20.0以下、好ましくは4.0以上15.0以下であり、より好ましくは5.0以上10.0以下である形状をいう。C粒子部300の断面形状がこのような細長い形状をなしていることにより、チクソ成形体100に高い振動減衰性と高い熱伝導性とを付与することができる。つまり、細長い形状のC粒子部300は、振動エネルギーが付与されたとき、球形に近い形状のC粒子部に比べて、内部またはマトリックス部200との界面において、振動エネルギーを吸収しやすい。したがって、C粒子部300の断面形状が細長い形状であれば、振動減衰性を高めることができる。また、炭素に由来する優れた熱伝導性も付加される。そして、細長い形状をなすC粒子部300は、マトリックス部200との接触面積が広いこと、形状異方性が大きいこと等の特長を有することとなるため、チクソ成形体100の振動減衰性、機械的特性および熱伝導性を高めることに寄与する。
【0024】
なお、平均アスペクト比とは、10個以上のC粒子部300の断面について求めたアスペクト比の平均値である。
【0025】
チクソ成形体100におけるCの含有率は、3.0質量%以上40.0質量%以下とされ、好ましくは7.0質量%25.0質量%以下とされ、より好ましくは10.0質量%以上20.0質量%以下とされる。
【0026】
チクソ成形体100におけるCの含有率は、そのほとんどがC粒子部300に由来するものと考えられる。Cの含有率を前記範囲内に設定することにより、C粒子部300の分散に伴うチクソ成形体100の機械的特性の低下を抑えつつ、チクソ成形体100の振動減衰性を高めることができる。つまり、Cの含有率が前記範囲内であれば、このような効果を奏するために必要かつ十分なC粒子部300を有するチクソ成形体100を実現することができる。また、Cの含有率を前記範囲内に設定することにより、チクソ成形体100の機械的特性の低下を抑えつつ、チクソ成形体100の熱伝導性を高めることができる。
【0027】
なお、Cの含有率が前記下限値を下回ると、C粒子部300の比率も低下するため、チクソ成形体100の振動減衰性が低下する。また、機械的特性や熱伝導性も低下するおそれがある。一方、Cの含有率が前記上限値を上回ると、チクソ成形体100の機械的特性、例えば強度や剛性が低下する。
【0028】
チクソ成形体100におけるCの含有率の測定には、例えば、JIS G 1211:2011に規定された酸素気流燃焼(高周波誘導加熱炉燃焼)-赤外線吸収法が用いられる。この測定法に対応する分析装置としては、例えば、LECOジャパン株式会社製、炭素・硫黄分析装置等が挙げられる。
【0029】
1.3.第1Mg粒子部
第1Mg粒子部400は、前述したように、Mg2Siを含み、マトリックス部200中に分散している。Mg2Siは、マトリックス部200に比べてヤング率が高い。このため、Mg2Siを含む第1Mg粒子部400は、チクソ成形体100の剛性を高めるための強化剤として機能する。これにより、第1Mg粒子部400を有するチクソ成形体100は、高い剛性を有するものとなる。具体的には、マトリックス部200中に分散している第1Mg粒子部400は、マトリックス部200の剛性を高める。そうすると、チクソ成形体100に印加された振動エネルギーは、マトリックス部200を介してC粒子部300に伝達されやすくなり、C粒子部300の内部や界面における振動エネルギーの吸収効率が高められる。
【0030】
また、第1Mg粒子部400は、マトリックス部200に含まれるMg結晶の粗大化を抑制する。このため、チクソ成形体100では、マトリックス部200においてMg結晶の微細化が図られている。これにより、チクソ成形体100は、高い機械的強度を有するものとなる。
【0031】
第1Mg粒子部400では、その断面について、例えば、エネルギー分散型X線分光法(EDX)による定性定量分析を行ったとき、原子数比でMgが最も多く、次いでSiが多ければ、その他の元素が含まれていてもよい。その場合、MgおよびSiの合計含有率は、50原子%以上であるのが好ましく、60原子%以上であるのがより好ましい。これにより、上記の効果がより確実に得られる。
【0032】
なお、第1Mg粒子部400は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)による撮像画像やSEMに付属するエネルギー分散型X線分光法(EDX)による元素分析結果に基づいて、MgおよびSiが偏析している箇所として特定される。
【0033】
1.4.第2Mg粒子部
第2Mg粒子部500は、前述したように、MgOを含み、マトリックス部200中に分散している。MgOは、マトリックス部200に比べてヤング率が高い。このため、MgOを含む第2Mg粒子部500は、チクソ成形体100の剛性を高めるための強化剤として機能する。これにより、第2Mg粒子部500を有するチクソ成形体100は、高い剛性を有するものとなる。具体的には、マトリックス部200中に分散している第2Mg粒子部500は、マトリックス部200の剛性を高める。そうすると、チクソ成形体100に印加された振動エネルギーは、マトリックス部200を介してC粒子部300に伝達されやすくなり、C粒子部300の内部や界面における振動エネルギーの吸収効率が高められる。
【0034】
また、第2Mg粒子部500は、マトリックス部200に含まれるMg結晶の粗大化を抑制する。このため、チクソ成形体100では、マトリックス部200においてMg結晶の微細化が図られている。これにより、チクソ成形体100は、高い機械的強度を有するものとなる。
【0035】
さらに、第2Mg粒子部500は、第1Mg粒子部400が樹枝状または針状に異常成長するのを阻害する機能も有する。この機能により、第1Mg粒子部400は、等方的な形状になりやすく、亀裂等の起点になりにくい。したがって、第1Mg粒子部400および第2Mg粒子部500の双方を有するチクソ成形体100では、機械的強度がより高められる。
【0036】
第2Mg粒子部500では、その断面について、例えば、エネルギー分散型X線分光法(EDX)による定性定量分析を行ったとき、原子数比でMgおよびOのいずれか一方最も多く、次いで他方が多ければ、その他の元素が含まれていてもよい。その場合、MgおよびOの合計含有率は、50原子%以上であるのが好ましく、60原子%以上であるのがより好ましい。これにより、上記の効果がより確実に得られる。
【0037】
なお、第2Mg粒子部500は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)による撮像画像やSEMに付属するエネルギー分散型X線分光法(EDX)による元素分析結果に基づいて、MgおよびOが偏析している箇所として特定される。
【0038】
1.5.実施形態が奏する効果
以上のように、実施形態に係るチクソ成形体100は、マトリックス部200と、C粒子部300と、第1Mg粒子部400と、第2Mg粒子部500と、を有する。マトリックス部200は、Mgを主成分とする。C粒子部300は、マトリックス部200中に分散し、Cを主成分とする。第1Mg粒子部400は、マトリックス部200中に分散し、Mg2Siを含む。第2Mg粒子部500は、マトリックス部200中に分散し、MgOを含む。そして、チクソ成形体100では、Cの含有率が3.0質量%以上40.0質量%以下である。
【0039】
このような構成によれば、第1Mg粒子部400および第2Mg粒子部500がマトリックス部200の機械的特性を高め、それに伴って、C粒子部300の内部や界面における振動エネルギーの吸収効率が高められる。これにより、高い振動減衰性を有するチクソ成形体100が得られる。また、それに加えて、チクソ成形体100は、剛性や機械的強度等の機械的特性および熱伝導性にも優れたものとなる。
【0040】
1.6.各粒子部の相互関係
ここで、チクソ成形体100の断面を観察し、表面101からの深さが1mmの点を中心とする500μm角の範囲Aを設定する。範囲Aにおいて、第1Mg粒子部400の面積分率をS1とし、第2Mg粒子部500の面積分率をS2とする。
【0041】
このとき、範囲Aにおける面積分率S1および面積分率S2の合計の面積分率は、0.05%以上10.0%以下であるのが好ましく、0.1%以上8.0%以下であるのがより好ましく、0.15%以上5.0%以下であるのがさらに好ましい。これにより、前述した強化剤としての機能を持つ第1Mg粒子部400および第2Mg粒子部500の面積比率が最適化され、チクソ成形体100の剛性を高めることができる。その結果、C粒子部300の内部や界面における振動エネルギーの吸収効率が高められ、振動減衰性が特に高いチクソ成形体100が得られる。また、第1Mg粒子部400および第2Mg粒子部500は、マトリックス部200に含まれるMg結晶の粗大化を抑制する。これにより、機械的強度が特に高いチクソ成形体100が得られる。
【0042】
範囲Aにおける面積分率S1および面積分率S2は、それぞれ次のようにして算出される。まず、範囲Aの観察像において、画像処理により、第1Mg粒子部400の範囲および第2Mg粒子部500の範囲をそれぞれ抽出するとともに、それらの合計の面積を算出する。画像処理には、例えば画像解析ソフトウエア、OLYMPUS Stream等を用いることができる。また、観察像の拡大倍率は、300倍以上であるのが好ましい。次に、範囲Aの全面積に対する、第1Mg粒子部400の面積の割合および第2Mg粒子部500の面積の割合をそれぞれ算出する。この割合が、面積分率S1および面積分率S2となる。
【0043】
範囲Aにおいて、面積分率S1および面積分率S2の合計をS1+S2とし、C粒子部300の面積分率をS3とするとき、S3/(S1+S2)の比は、2.0以上50.0以下であるのが好ましく、3.0以上30.0以下であるのがより好ましく、4.0以上20.0以下であるのがさらに好ましい。S3/(S1+S2)の比を前記範囲内に設定することにより、C粒子部300と、第1Mg粒子部400および第2Mg粒子部500と、の量的バランスが良好になる。これにより、C粒子部300による効果と、第1Mg粒子部400および第2Mg粒子部500による効果とが、互いに阻害し合うことなく得られるチクソ成形体100を実現することができる。このようなチクソ成形体100は、振動減衰性が特に高いものとなる。
【0044】
範囲Aにおける面積分率S3は、次のようにして算出される。まず、範囲Aの観察像において、画像処理により、C粒子部300の面積を算出する。画像処理には、例えば画像解析ソフトウエアOLYMPUS Stream等を用いることができる。また、観察像の拡大倍率は、300倍以上であるのが好ましい。次に、範囲Aの全面積に対するC粒子部300の面積の割合を算出する。この割合が、面積分率S3となる。
【0045】
また、第1Mg粒子部400の平均粒径をD1とし、第2Mg粒子部500の平均粒径をD2とする。平均粒径D1およびD2は、それぞれ、0.1μm以上10.0μm以下であるのが好ましく、0.1μm以上5.0μm以下であるのがより好ましい。平均粒径D1およびD2が前記範囲内であれば、第1Mg粒子部400および第2Mg粒子部500は、含まれていても、チクソ成形体100に生じる亀裂等の起点になりにくくなる。これにより、チクソ成形体100の曲げ強さ、引張強さ等の機械的強度を高めることができる。
【0046】
平均粒径D1、D2は、次のようにして算出される。まず、範囲Aにおいて、含まれている第1Mg粒子部400の粒径および第2Mg粒子部500の粒径を全て計測する。第1Mg粒子部400の粒径とは、第1Mg粒子部400の観察像における、長軸の長さと、短軸の長さと、の中間値である。このようにして算出した粒径の平均値が、第1Mg粒子部400の平均粒径である。第2Mg粒子部500の粒径とは、第2Mg粒子部500の観察像における、長軸の長さと、短軸の長さと、の中間値である。このようにして算出した粒径の平均値が、第2Mg粒子部500の平均粒径である。
【0047】
1.7.チクソ成形体の物性
チクソ成形体100の引張強さは、180MPa以上であることが好ましく、190MPa以上であることがより好ましい。さらに、チクソ成形体100のヤング率は、40GPa以上であることが好ましく、45GPa以上であることがより好ましい。引張強さおよびヤング率が前記範囲内であるチクソ成形体100は、比強度および比剛性が特に高いものとなる。このようなチクソ成形体100は、軽量であり、かつ、高強度および高剛性であるため、例えば、自動車、航空機等の輸送機器に用いられる部品、携帯端末、ノートパソコン等のモバイル機器に用いられる部品等に、好適である。
【0048】
チクソ成形体100の0.2%耐力は、155MPa以上であるのが好ましく、165MPa以上であるのがより好ましい。
【0049】
チクソ成形体100の引張強さおよび0.2%耐力は、次のようにして計測される。まず、チクソ成形体100から試験片を削り出す。試験片としては、例えば、JISに規定されている13号試験片等が挙げられる。次に、試験片を引張試験機に取り付け、25℃において試験片に加わった最大の力に対応する応力を算出する。得られた応力を、チクソ成形体100の引張強さとする。また、計測によって得られる応力ひずみ曲線において、0.2%ひずみの点に対応する応力を、0.2%耐力とする。
【0050】
チクソ成形体100のヤング率は、次のようにして計測される。まず、チクソ成形体100から試験片を削り出す。次に、試験片を引張試験機に取り付け、25℃において試験片に引張荷重を加える。次に、引張荷重を変動させたときの引張ひずみの変化量、および、引張荷重を変動させたときの引張応力の変化量、をそれぞれ算出する。そして、前者の変化量に対する後者の変化量の比を算出し、これをチクソ成形体100のヤング率とする。なお、チクソ成形体100のヤング率は、上記の計測方法以外の方法、例えば、共振法、超音波パルス法で測定された値であってもよい。
【0051】
チクソ成形体100の表面のビッカース硬さは、65以上であるのが好ましく、70以上であるのがより好ましく、80以上であるのがさらに好ましい。ビッカース硬さが前記範囲内であれば、表面硬度が高く、キズ等が付きにくいチクソ成形体100を実現することができる。チクソ成形体100の表面のビッカース硬さは、JIS Z 2244:2009に規定されたビッカース硬さ試験の方法に準じて測定される。なお、測定荷重は5kgfとする。
【0052】
2.チクソ成形法
次に、チクソ成形体を製造するチクソ成形法の一例について説明する。
【0053】
チクソ成形法は、ペレット状またはチップ状の原材料をシリンダー内で加熱して液相と固相が共存した固液共存状態にした後、スクリューの回転によってチクソ性を発現させ、得られた半凝固物を金型に注入する成形法である。このようなチクソ成形法によれば、加熱とせん断とによって半凝固物の流動性が高められているため、例えばダイカスト法と比較して、薄肉な部品や複雑な形状の部品を成形できる。
【0054】
後述する実施形態に係るチクソ成形体は、マグネシウムを主成分とする成形体である。したがって、原材料には、マグネシウムを主成分とする材料が用いられる。
【0055】
図2は、チクソ成形法に用いられる射出成形機の一例を示す断面図である。
図2に示すように、射出成形機1は、金型2と、ホッパー5と、加熱シリンダー7と、スクリュー8と、ノズル9と、を備える。金型2は、キャビティーCvを形成する。ホッパー5にチクソ成形用材料10が投入されると、チクソ成形用材料10は加熱シリンダー7へ供給される。加熱シリンダー7に供給されたチクソ成形用材料10は、ヒーター6によって加熱されながらスクリュー8によってせん断されつつ移送される。これにより、チクソ成形用材料10は半溶融し、スラリー化する。得られたスラリーは、ノズル9を介して、大気に触れることなく、金型2内のキャビティーCvへ射出される。そして、キャビティーCvに射出されたスラリーを冷却することにより、チクソ成形体が得られる。
【0056】
なお、ホッパー5には、チクソ成形用材料10とともに、それ以外の材料が投入されてもよい。
【0057】
3.チクソ成形用材料
次に、
図2に示すチクソ成形用材料10の一例について説明する。
【0058】
図3は、
図2に示すチクソ成形用材料10の一例を模式的に示す断面図である。
図4は、
図3の部分拡大図である。
【0059】
図3に示すチクソ成形用材料10は、チップ状をなす金属体11と、金属体11の表面に設けられた被覆部12と、金属体11と被覆部12との間に介在する接着部13と、を有する。
【0060】
被覆部12は、
図3に示すように、複数の被覆粒子14を含む。被覆粒子14は、金属体11の表面に設けられる。被覆粒子14の構成材料には、C(炭素)を含む材料を用いる。これにより、前述したチクソ成形体100が有するC粒子部300が、被覆粒子14の構成材料から形成される。
【0061】
接着部13は、
図4に示すように、金属体11と被覆粒子14との間に介在する介在粒子15を含む。介在粒子15は、平均粒径が被覆粒子14より小さく、酸化ケイ素を含有する。介在粒子15は、
図4に示すように、金属体11と被覆粒子14との間や被覆粒子14同士の間に侵入し、これらを接着するように作用する。
【0062】
このようなチクソ成形用材料10を用いて、チクソ成形を行うことにより、介在粒子15を含む接着部13の作用により、チクソ成形用材料10から被覆粒子14の脱落が抑制される。このため、加熱シリンダー7内で金属体11の半溶融物と被覆粒子14とが均一に混合されやすくなる。これにより、半溶融物中に被覆粒子14が均一に分散し、C粒子部300が生成する。また、介在粒子15も、半溶融物中に均一に分散し、第1Mg粒子部400および第2Mg粒子部500が生成する。その結果、被覆粒子14由来のC粒子部300、および、介在粒子15由来の第1Mg粒子部400および第2Mg粒子部500、が分散したチクソ成形体100を製造することができる。
【0063】
3.1.金属体
金属体11は、例えば、鋳型等で鋳込みされたMg基合金を、切削または切断等することによって得られる切片である。なお、金属体11の製造方法は、これに限定されない。
【0064】
金属体11の構成材料には、Mgを主成分とする材料を用いる。この金属体11は、チクソ成形体100が有するマトリックス部200を生成する。
【0065】
前述したマトリックス部200が含む添加成分は、金属体11において、単体、合金、酸化物、金属間化合物等の状態で存在し得る。また、添加成分は、金属体11中において、MgまたはMg合金等の金属組織の結晶粒界に偏析していてもよいし、均一に分散していてもよい。
【0066】
金属体11の平均粒径は、特に限定されないが、0.5mm以上であるのが好ましく、1.5mm以上10.0mm以下であるのがより好ましい。平均粒径を前記範囲内に設定することで、射出成形機1の加熱シリンダー7内におけるブリッジ等の発生を抑制することができる。
【0067】
なお、金属体11の平均粒径は、金属体11の投影面積と同じ面積を持つ円の直径の平均値である。平均値は、無作為に選択した100個以上の金属体11から算出される。
【0068】
金属体11の平均アスペクト比は、5.0以下であるのが好ましく、4.0以下であるのがより好ましい。このような平均アスペクト比を有する金属体11は、加熱シリンダー7内における充填性を高めるとともに、加熱時の温度均一性が良好になる。その結果、機械的特性が高く、かつ、寸法精度の高いチクソ成形体が得られる。
【0069】
なお、金属体11の平均アスペクト比は、金属体11の投影像において、長径/短径により算出されるアスペクト比の平均値である。平均値は、無作為に選択した100個以上の金属体11から算出される。また、長径とは、投影像においてとり得る最大の長さであり、短径とは、長径に直交する方向の最大の長さである。
【0070】
また、金属体11には、必要に応じて、任意の表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、例えば、プラズマ処理、コロナ処理、オゾン処理、紫外線照射処理、粗面化処理等が挙げられる。
【0071】
3.2.被覆部
被覆部12は、複数の被覆粒子14を含む。本実施形態では、
図3に示すように、複数の被覆粒子14が金属体11の表面を覆うように分布することで、被覆部12を構成している。被覆部12は、金属体11の表面全体を覆っているのが好ましいが、表面の一部のみを覆っていてもよい。
【0072】
被覆粒子14は、半溶融物中に分散する。また、被覆粒子14は、Cを主成分とする材料で構成されているため、沸点や熱分解温度が比較的高い。このため、チクソ成形時に被覆粒子14が気化する可能性が低くなり、被覆粒子14が成形不良の原因になるのを抑制することができる。
【0073】
被覆粒子14の構成材料としては、Cを含む材料であれば、特に限定されず、例えば、グラファイト、ダイヤモンド、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレン、炭素繊維等が挙げられる。被覆粒子14におけるCの含有量は、80質量%以上であるのが好ましい。
【0074】
被覆粒子14の平均粒径は、0.1μm以上100μm以下であるのが好ましく、1μm以上25μm以下であるのがより好ましく、2μm以上15μm以下であるのがさらに好ましい。被覆粒子14の平均粒径を前記範囲内に設定することにより、被覆部12の被覆率とチクソ成形用材料10における被覆粒子14の含有率とのバランスを最適化することができる。また、被覆粒子14を金属体11の表面に付着させたとき、被覆粒子14を均一に分布させることができ、かつ、被覆粒子14が脱落しにくくなる。
【0075】
なお、被覆粒子14の平均粒径が前記上限値を上回ると、被覆粒子14が脱落しやすくなるおそれがある。
【0076】
被覆粒子14の平均粒径は、顕微鏡で拡大観察した被覆粒子14の観察像から、被覆粒子14の粒径を測定し、100個以上の測定データから算出した個数基準平均粒径である。なお、顕微鏡には、例えば走査型電子顕微鏡が好ましく用いられる。
【0077】
金属体11に対する被覆粒子14の添加量は、製造しようとするチクソ成形体100のマトリックス部200とC粒子部300との存在比に応じて、適宜設定される。
【0078】
被覆部12は、被覆粒子14以外の物質を含んでいてもよい。その場合、被覆粒子14以外の物質の含有量は、質量比で被覆粒子14の含有量未満であればよく、好ましくは被覆粒子14の30質量%以下とされ、より好ましくは10質量%以下とされる。
【0079】
また、被覆粒子14は、構成材料が異なる2種類以上の粒子が混合された混合粒子であってもよい。これにより、異なる材料が持つ特性を兼ね備えるチクソ成形体100を製造することができる。さらに、その場合、粒子の種類ごとに粒径が異なっていてもよい。
【0080】
また、被覆粒子14には、必要に応じて、任意の表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、例えば、プラズマ処理、コロナ処理、オゾン処理、紫外線照射処理、粗面化処理、カップリング剤処理等が挙げられる。
【0081】
3.3.接着部
接着部13は、金属体11と被覆粒子14との間に介在する。また、接着部13は、被覆粒子14同士の間に介在していてもよい。
【0082】
接着部13は、介在粒子15を含む。介在粒子15は、平均粒径が被覆粒子14より小さく、酸化ケイ素を含有する粒子である。本明細書において「酸化ケイ素」とは、SiOx(0<x≦2)という組成式で表される物質を指す。介在粒子15における酸化ケイ素の含有率は、80質量%以上であるのが好ましい。そして、このような介在粒子15は、微小であることから、金属体11と被覆粒子14との間や被覆粒子14同士の間に、容易に入り込む。介在粒子15は、微小であり、比表面積が非常に広いことから、金属体11および被覆粒子14の双方と強く相互作用すると考えられる。相互作用の例としては、水素結合、ファンデルワールス力のような分子間力や、介在粒子15の集合体が金属体11の表面に存在する凹凸に入り込むことで生じるアンカー効果等が挙げられる。特に酸化ケイ素を含有する介在粒子15の表面には、高密度の水酸基が存在する。この水酸基が金属体11や被覆粒子14との間で水素結合を生じ、これが相互作用の駆動力になると考えられる。このような相互作用により、接着部13は、金属体11の表面に被覆粒子14を固定する機能を有することになる。
【0083】
このような接着部13を有するチクソ成形用材料10では、介在粒子15を介して金属体11と被覆粒子14との間が強固に固定されるため、被覆粒子14が脱落しにくい。このため、チクソ成形においてチクソ成形用材料10が加熱シリンダー7内に投入されたとき、金属体11の半溶融物と被覆粒子14とが均一に混合されやすくなる。これにより、チクソ成形体100中に被覆粒子14および介在粒子15を均一に分散させることができる。その結果、C粒子部300、第1Mg粒子部400および第2Mg粒子部500が均一に分散したチクソ成形体100を製造することができる。
【0084】
また、酸化ケイ素は、気化しにくく、かつ、チクソ成形体100に取り込まれると、マグネシウムと化合して、前述した強化剤として機能する第1Mg粒子部400および第2Mg粒子部500を生成する。このため、気化に伴う成形不良の発生が抑制されるとともに、機械的特性に優れたチクソ成形体100が得られる。
【0085】
介在粒子15の平均粒径は、被覆粒子14の平均粒径より小さければよい。具体的には、介在粒子15の平均粒径は、被覆粒子14の平均粒径の20%以下であるのが好ましく、10%以下であるのがより好ましく、5%以下であるのがさらに好ましい。これにより、介在粒子15は、金属体11と被覆粒子14との間や被覆粒子14同士の間に、特に入り込みやすくなる。また、介在粒子15の比表面積も特に大きくなる。
【0086】
なお、下限値は、必ずしも設定されていなくてもよいが、介在粒子15同士が凝集しやすくなること、介在粒子15の取り扱いが難しくなること等の理由から、被覆粒子14の0.01%以上であるのが好ましく、0.05%以上であるのがより好ましく、0.10%以上であるのがさらに好ましい。
【0087】
また、介在粒子15の平均粒径は、1nm以上100nm以下であるのが好ましく、10nm以上80nm以下であるのがより好ましく、20nm以上60nm以下であるのがさらに好ましい。平均粒径が前記範囲内であれば、介在粒子15は、金属体11と被覆粒子14との間や被覆粒子14同士の間に、特に入り込みやすくなる。また、介在粒子15の比表面積も特に大きくなる。一方、平均粒径が前記範囲内であれば、介在粒子15同士の凝集が抑制される。
【0088】
介在粒子15の平均粒径は、顕微鏡で拡大観察した介在粒子15の観察像から、介在粒子15の粒径を測定し、100個以上の測定データから算出した個数基準平均粒径である。なお、顕微鏡には、例えば走査型電子顕微鏡が好ましく用いられる。
【0089】
金属体11に対する介在粒子15の添加量は、製造しようとするチクソ成形体100のマトリックス部200と第1Mg粒子部400および第2Mg粒子部500との存在比に応じて、適宜設定される。なお、第1Mg粒子部400は、介在粒子15が含む酸化ケイ素の分解物であるSiとMgとが化合した化合物に由来する。また、第2Mg粒子部500は、介在粒子15が含む酸化ケイ素の分解物であるOとMgとが化合した化合物に由来する。
【0090】
なお、介在粒子15は、構成材料が異なる2種類以上の粒子が混合された混合粒子であってもよい。また、その場合、粒子の種類ごとに粒径が異なっていてもよい。
【0091】
また、介在粒子15には、必要に応じて、任意の表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、例えば、プラズマ処理、コロナ処理、オゾン処理、紫外線照射処理、粗面化処理、カップリング剤処理等が挙げられる。
【0092】
なお、接着部13は、介在粒子15以外の物質を含んでいてもよい。その場合、介在粒子15以外の物質の含有量は、質量比で介在粒子15の含有量未満であればよく、好ましくは介在粒子15の10質量%以下とされ、より好ましくは5質量%以下とされる。
【0093】
介在粒子15以外の物質としては、例えば有機バインダーが挙げられる。有機バインダーは、介在粒子15による被覆粒子14の固定を補強し、接着部13の接着力を高める。また、介在粒子15と有機バインダーとを併用することで、有機バインダーの使用量を抑えつつ、上記の効果を享受することができる。
【0094】
有機バインダーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンまたはこれらの共重合体等の各種樹脂や、ワックス類、アルコール類、高級脂肪酸、脂肪酸金属、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、非イオン性界面活性剤、シリコーン系滑剤等が用いられる。また、バインダーは、これらの成分の少なくとも1種と他の成分とを含む混合物であってもよいし、これらの成分を2種以上含む混合物であってもよい。
【0095】
このうち、バインダーは、ワックス類を含むことが好ましく、パラフィンワックスまたはその誘導体を含むことがより好ましい。ワックス類は良好な結着性を有する。
【0096】
ワックス類としては、例えば、キャンデリラワックス、カルナバワックス、ライスワックス、木ろう、ホホバ油のような植物系ワックス、みつろう、ラノリン、鯨ろうのような動物系ワックス、モンタンワックス、オゾケライト、セレシンのような鉱物系ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムのような石油系ワックス等の天然ワックス、ポリエチレンワックスのような合成炭化水素、モンタンワックス誘導体、パラフィンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体のような変性ワックス、硬化ひまし油、硬化ひまし油誘導体のような水素化ワックス、12-ヒドロキシステアリン酸のような脂肪酸、ステアリン酸アミドのような酸アミド、無水フタル酸エステルのようなエステル等の合成ワックスが挙げられる。
【0097】
4.チクソ成形用材料の製造方法
次に、上述したチクソ成形用材料10を製造する方法の一例について説明する。
【0098】
図5は、チクソ成形用材料の製造方法を説明するための工程図である。
図5に示すチクソ成形用材料10の製造方法は、準備工程S102と、撹拌工程S104と、乾燥工程S106と、を有する。
【0099】
4.1.準備工程
準備工程S102では、金属体11と、被覆粒子14と、介在粒子15と、分散媒と、を含む混合物を準備する。この混合物は、十分な量の分散媒を用いて、金属体11、被覆粒子14および介在粒子15を分散させた分散液である。
【0100】
分散媒は、金属体11、被覆粒子14および介在粒子15を変質させないものであれば、特に限定されない。分散媒の例としては、水、イソプロピルアルコール、アセトン等が挙げられる。なお、本工程では、あらかじめ作製された混合物を用意してもよい。また、分散媒に水を含めることで、金属体11、被覆粒子14および介在粒子15の表面に、より高密度の水酸基を導入することができる。
【0101】
4.2.撹拌工程
撹拌工程S104では、混合物を撹拌する。撹拌には、例えば、撹拌棒や撹拌子等を用いる方法、混合物を収容した容器に蓋をした状態で振とうする方法等が用いられる。このような撹拌により、介在粒子15を介して金属体11の表面に被覆粒子14を付着させることができる。なお、被覆粒子14の一部は、介在粒子15を介することなく、金属体11の表面に直接付着してもよい。また、被覆粒子14は、この段階では、弱い付着力で金属体11の表面に付着していてもよい。
【0102】
また、撹拌により、金属体11同士、被覆粒子14同士および介在粒子15同士が凝集して塊になるのを抑制することができる。
【0103】
4.3.乾燥工程
乾燥工程S106では、混合物を乾燥させる。これにより、介在粒子15を介して金属体11の表面に付着していた被覆粒子14は、金属体11に対してより強固に付着する。例えば、介在粒子15の表面に存在する水酸基、および、金属体11や被覆粒子14との表面に存在する水酸基と、の間が、水素結合等による弱い付着力で結びついているとき、本工程を経ることで、脱水縮合が生じ、より強い付着力で結びつくことになる。例えば、介在粒子15の表面にはシラノール基が存在している。したがって、本工程を経ると、シラノール基に脱水縮合が生じ、介在粒子15同士の間にシロキサン結合が生成され、介在粒子15が接着剤のように作用する。このようにして、被覆粒子14が金属体11に固定される。
【0104】
乾燥には、混合物を加熱する方法、混合物をガスに曝す方法等が用いられる。このうち、混合物を加熱する場合には、例えば、ホットバス等を用いて混合物を入れた容器全体を加熱すればよい。なお、乾燥工程S106では、混合物中の全ての分散媒を除去してもよいが、一部の分散媒が除去されずに残ってもよい。
以上のようにして、チクソ成形用材料10が得られる。
【0105】
なお、混合物が有機バインダーを含む場合には、乾燥工程S106の後、チクソ成形用材料10に脱脂処理を施すようにしてもよい。
【0106】
以上、本発明のチクソ成形体を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明のチクソ成形体は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、前記実施形態に任意の構成物が付加されたものであってもよい。
【実施例0107】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
5.チクソ成形体の製造
5.1.サンプルNo.1
まず、金属体としてのマグネシウム合金チップと、被覆粒子としてのグラファイト粒子と、介在粒子としての酸化ケイ素粒子と、分散媒としてのIPA(イソプロピルアルコール)と、を混合し、混合物を得た。なお、マグネシウム合金チップには、日本マテリアル株式会社製のAZ91D合金で構成された4mm×2mm×1mmのチップを用いた。なお、AZ91D合金は、9質量%のAlおよび1質量%のZnを含むMg基合金である。酸化ケイ素粒子には、IPA中にコロイド状に分散してなるコロイダルシリカを用いた。グラファイト粒子および酸化ケイ素粒子の平均粒径、ならびに、製造したチクソ成形体におけるCの含有率および各部の面積分率は、表1および表2に示すとおりである。
【0108】
次に、混合物を撹拌した。撹拌には、混合物を収容した容器を振とうする方法を用いた。
次に、撹拌した混合物を加熱し、乾燥させた。これにより、チクソ成形用材料を得た。
【0109】
次に、得られたチクソ成形用材料を射出成形機に投入してチクソ成形を行い、サンプルNo.1のチクソ成形体を得た。射出成形機には、株式会社日本製鋼所製、マグネシウム射出成形機JLM75MGを使用した。
【0110】
5.2.サンプルNo.2~9
チクソ成形用材料の製造条件およびチクソ成形体の製造条件を表1に示すように変更した以外は、サンプルNo.1の場合と同様にしてサンプルNo.2~9のチクソ成形体を得た。
【0111】
5.3.サンプルNo.10
介在粒子の添加を省略し、代わりにパラフィンワックスをバインダーとして添加した以外は、サンプルNo.1の場合と同様にしてサンプルNo.10のチクソ成形体を得た。
【0112】
5.4.サンプルNo.11、12
チクソ成形用材料の製造条件およびチクソ成形体の製造条件を表1に示すように変更した以外は、サンプルNo.1の場合と同様にしてサンプルNo.11、12のチクソ成形体を得た。
【0113】
5.5.サンプルNo.13
マグネシウム合金チップを、そのまま、サンプルNo.13のチクソ成形用材料とみなした。
【0114】
【0115】
なお、表1では、各サンプルNo.のチクソ成形体のうち、本発明に相当するものについては「実施例」、本発明に相当しないものについては「比較例」とした。
【0116】
6.チクソ成形体の分析結果
6.1.Cの含有率
各サンプルNo.のチクソ成形体について、元素分析により、Cの含有率を測定した。測定結果を表2に示す。
【0117】
6.2.断面観察
各サンプルNo.のチクソ成形体を切断し、切断面を走査型電子顕微鏡で観察した。そして、観察像から、マトリックス部、C粒子部、第1Mg粒子部および第2Mg粒子部を特定した。
【0118】
次に、第1Mg粒子部の面積分率S1、第2Mg粒子部の面積分率S2、および、C粒子部の面積分率S3を算出した。そして、S1+S2、および、S3/(S1+S2)をそれぞれ算出した。算出結果を表2に示す。
【0119】
7.チクソ成形体の評価結果
7.1.振動減衰性(対数減衰率)
各サンプルNo.のチクソ成形体から、対数減衰率を測定するための試験片を切り出した。試験片は、長さ100mm、幅10mm、厚さ2.5mmの板状体とした。
【0120】
次に、この試験片を用い、JIS G 0602:1993に規定されている振動減衰特性試験方法における片端固定打撃加振法に準拠して、対数減衰率を算出した。
【0121】
具体的には、まず、試験片の端から10mmを固定部にボルトで固定した。ボルトの締め付けトルクは、23N・mとした。
【0122】
次に、固定した方の端(固定端)から15mmの位置に、ひずみゲージを接着した。接着には、シアノアクリレート系接着剤を使用した。また、ひずみゲージには、共和電業社製、汎用箔ひずみゲージKFGSを使用した。ゲージ長さは5mmとした。そして、ブリッジボックスを介して、ひずみゲージを動ひずみ計内蔵のメモリーレコーダーに接続した。メモリーレコーダーには、日本アビオニクス社製、RA2300Aを用い、サンプリング周波数を10kHzとした。
【0123】
次に、固定端とは反対の端(自由端)にインパクト加振を加えた。そして、ひずみゲージから検出したひずみ応答波形をメモリーレコーダーで収録した。これにより、横軸をインパクト加振からの経過時間、縦軸をひずみとする直交座標系に描かれたひずみ減衰波形を得た。得られたひずみ減衰波形は、ひずみ応答が示す往復振動の振幅が時間経過とともに減衰する波形であった。
【0124】
次に、ひずみ減衰波形の初期から数点の応答変位のピーク値と、そのピーク値が観測されたときのインパクト加振からの経過時間を読み取った。そして、読み取り値を直交座標系にプロットし、指数近似曲線を求めた。なお、ピーク値を読み取るときには、経過時間が、約0.1秒、約0.5秒、約1.0秒、約1.5秒、および、約2.0秒の近傍にあるピークを選択して、そのピーク値を読み取った。応答変位のピーク値をyとし、時間をtとするとき、yおよびtの間には、以下の式が成り立つ。
【0125】
【0126】
次に、この近似式から逆算により、減衰比ζ、および、対数減衰率δ(=2πζ)を算出した。なお、ωnは、減衰系の固有振動数であり、x0は、応答変位の初期値である。
【0127】
そして、算出した対数減衰率δに基づき、試験片の振動減衰性を以下の評価基準に照らして評価した。なお、評価にあたっては、サンプルNo.13の試験片について得られた対数減衰率δを1とし、各サンプルNo.の試験片について得られた対数減衰率δの相対値を算出した。
【0128】
A:振動減衰性が特に高い(対数減衰率δの相対値が1.80超である)
B:振動減衰性が高い(対数減衰率δの相対値が1.60超1.80以下である)
C:振動減衰性がやや高い(対数減衰率δの相対値が1.40超1.60以下である)
D:振動減衰性がやや低い(対数減衰率δの相対値が1.20超1.40以下である)
E:振動減衰性が低い(対数減衰率δの相対値が1.00超1.20以下である)
F:振動減衰性が特に低い(対数減衰率δの相対値が1.00以下である)
評価結果を表2に示す。
【0129】
7.2.粒子部の分散性
各サンプルNo.のチクソ成形体の観察像から、C粒子部、第1Mg粒子部および第2Mg粒子部の分散性を評価した。具体的には、C粒子部、第1Mg粒子部および第2Mg粒子部のうち、少なくとも1種の粒子部について著しい凝集が認められるものを「NG」とし、そのような凝集が認められないものを「OK」と評価した。評価結果を表2に示す。
【0130】
7.3.機械的強度(引張強さ)
各サンプルNo.のチクソ成形体について、引張強さを測定した。具体的には、チクソ成形体からJIS規格に準拠した試験片を形成し、引張試験機によって引張強さを測定した。そして、測定結果を以下の評価基準に照らして評価した。なお、この評価は、サンプルNo.13の試験片の引張強さに対する相対評価とした。
【0131】
A:引張強さが特に高い
B:引張強さが高い
C:引張強さがやや高い
D:引張強さがやや低い
E:引張強さが低い
F:引張強さが特に低い
評価結果を表2に示す。
【0132】
7.4.剛性(ヤング率)
各サンプルNo.のチクソ成形体について、ヤング率を測定した。そして、測定結果を以下の評価基準に照らして評価した。なお、この評価は、サンプルNo.13の試験片のヤング率に対する相対評価とした。
【0133】
A:ヤング率が特に高い
B:ヤング率が高い
C:ヤング率がやや高い
D:ヤング率がやや低い
E:ヤング率が低い
F:ヤング率が特に低い
評価結果を表2に示す。
【0134】
【0135】
表2に示すように、各実施例で得られたチクソ成形体では、各比較例で得られたチクソ成形体に比べて、高い対数減衰率が得られた。したがって、Cの含有率が最適化されているとともに、C粒子部、第1Mg粒子部および第2Mg粒子部がマトリックス部に分散してなるチクソ成形体では、優れた振動減衰性を示すことがわかった。
【0136】
また、各実施例で得られたチクソ成形体は、粒子部の分散性が良好であった。この点が、前述した高い振動減衰性をもたらした理由の1つであると考えられる。
【0137】
さらに、各実施例で得られたチクソ成形体では、引張強さやヤング率等の機械的特性が良好であった。
1…射出成形機、2…金型、5…ホッパー、6…ヒーター、7…加熱シリンダー、8…スクリュー、9…ノズル、10…チクソ成形用材料、11…金属体、12…被覆部、13…接着部、14…被覆粒子、15…介在粒子、100…チクソ成形体、101…表面、200…マトリックス部、300…C粒子部、400…第1Mg粒子部、500…第2Mg粒子部、A…範囲、Cv…キャビティー、S102…準備工程、S104…撹拌工程、S106…乾燥工程