(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009495
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】カルコゲナイド系層状物質の製造方法および半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/205 20060101AFI20240116BHJP
C01G 39/06 20060101ALI20240116BHJP
C01B 32/188 20170101ALI20240116BHJP
C01B 21/064 20060101ALI20240116BHJP
C23C 16/30 20060101ALI20240116BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20240116BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
H01L21/205
C01G39/06
C01B32/188
C01B21/064 Z
C23C16/30
H01L29/78 618B
H01L29/78 618A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111060
(22)【出願日】2022-07-11
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、防衛装備庁、安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094525
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100094514
【弁理士】
【氏名又は名称】林 恒徳
(72)【発明者】
【氏名】林 賢二郎
【テーマコード(参考)】
4G048
4G146
4K030
5F045
5F110
【Fターム(参考)】
4G048AA07
4G048AD02
4G048AE05
4G146AA01
4G146AB07
4G146BC09
4G146CA06
4G146CB01
4K030AA01
4K030AA05
4K030AA16
4K030BA12
4K030BA50
4K030BA53
4K030CA04
4K030CA05
4K030DA08
4K030FA10
4K030HA03
4K030LA12
5F045AA02
5F045AA03
5F045AB40
5F045AD09
5F045AD10
5F045AD11
5F045AD12
5F045AD13
5F045AD14
5F045AE29
5F045AF08
5F045AF09
5F045BB16
5F045CA15
5F045DP04
5F045DQ06
5F045DQ08
5F045EK06
5F110CC01
5F110EE02
5F110EE04
5F110EE14
5F110GG01
5F110GG42
5F110GG44
5F110HK02
5F110HK04
5F110HK21
(57)【要約】
【課題】原子欠損が少ないカルコゲナイド系層状物質を提供する。
【解決手段】製造方法は、金属とカルコゲンとの化合物を有する金属カルコゲナイド膜を基板上に形成する第1工程と、上記金属カルコゲナイド膜の上にカルコゲンを有するカルコゲン膜を形成する第2工程と、上記カルコゲン膜の上に、グラフェンまたは六方晶窒化ホウ素を配置する第3工程と、上記第3工程の後に、上記カルコゲン膜と上記金属カルコゲナイド膜とを加熱する第4工程とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属とカルコゲンとの化合物を有する金属カルコゲナイド膜を、基板上に形成する第1工程と、
前記金属カルコゲナイド膜の上に、前記カルコゲンとは異なる別のカルコゲンおよび前記カルコゲンの少なくとも一方を有するカルコゲン膜を形成する第2工程と、
前記カルコゲン膜の上に、グラフェンまたは六方晶窒化ホウ素を配置する第3工程と、
前記第3工程の後に、前記カルコゲン膜と前記金属カルコゲナイド膜とを加熱する第4工程とを有する
カルコゲナイド系層状物質の製造方法。
【請求項2】
前記カルコゲンおよび前記別のカルコゲンは、それぞれ硫黄、セレン、およびテルルのいずれかであることを
特徴とする請求項1に記載のカルコゲナイド系層状物質の製造方法。
【請求項3】
前記カルコゲン膜は、前記カルコゲンの単体であることを
特徴とする請求項1に記載のカルコゲナイド系層状物質の製造方法。
【請求項4】
前記カルコゲン膜は、前記別のカルコゲンの単体であることを
特徴とする請求項1に記載のカルコゲナイド系層状物質の製造方法。
【請求項5】
前記カルコゲン膜は、前記カルコゲンの単体および前記別のカルコゲンの単体の双方を含むことを
特徴とする請求項1に記載のカルコゲナイド系層状物質の製造方法。
【請求項6】
前記第4工程の後に、前記グラフェンまたは前記六方晶窒化ホウ素を除去する第5工程と、
前記第5工程の後に、排気された空間において、前記カルコゲン膜を除去する第6工程と、
前記第6工程の後に、前記空間において更に、前記金属カルコゲナイド膜の上に、絶縁膜を形成する第7工程とを有し、
前記空間は、前記第6工程の始めから前記第7工程の終わりまで、排気され続けることを
特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のカルコゲナイド系層状物質の製造方法。
【請求項7】
金属とカルコゲンとの化合物を有する金属カルコゲナイド膜と、複数の電極とを有する半導体装置の製造方法であって、
前記金属カルコゲナイド膜を、基板上に形成する第1工程と、
前記金属カルコゲナイド膜の上に、前記カルコゲンとは異なる別のカルコゲンおよび前記カルコゲンの少なくとも一方を有するカルコゲン膜を形成する第2工程と、
前記カルコゲン膜の上に、グラフェンまたは六方晶窒化ホウ素を配置する第3工程と、
前記第3工程の後に、前記カルコゲン膜と前記金属カルコゲナイド膜とを加熱する第4工程と、
前記第4工程の後に、前記複数の電極を形成する電極形成工程とを有する
半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記カルコゲンおよび前記別のカルコゲンは、それぞれ硫黄、セレン、およびテルルのいずれかであることを
特徴とする請求項7に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記第4工程の後に、前記グラフェンまたは前記六方晶窒化ホウ素を除去する第5工程と、
前記第5工程の後に、排気された空間において、前記カルコゲン膜を除去する第6工程と、
前記第6工程の後に、前記空間において更に、前記金属カルコゲナイド膜の上に絶縁膜を形成する第7工程とを有し、
前記空間は、前記第6工程の始めから前記第7工程の終わりまで排気され続け、
前記複数の電極のうちの一つは、前記絶縁膜の上に形成されることを
特徴とする請求項7または8に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルコゲナイド系層状物質の製造方法および半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
層状物質は、共有結合等により互いに強く結合した複数の原子を有する原子層が、ファンデルワールス力等によって互いに弱く結合した物質である。当該原子層自体も、層状物質と呼ばれる。例えば、グラファイトは、炭素の原子層(すなわち、グラフェン)が互いに弱く結合した層状物質である。グラフェン自体も、層状物質である。
【0003】
カルコゲナイド系層状物質は、近年注目されている層状物質である(例えば、特許文献1~4参照)。カルコゲナイド系層状物質は、金属とカルコゲンとの化合物である。このため、カルコゲナイド系層状物質は、金属カルコゲナイドとも呼ばれる(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
多数存在する金属カルコゲナイドのうち特に注目されている物質は、MoS2およびWSe2である。数層以下のMoS2およびWSe2は、柔軟性を有する半導体である。このため、MoS2およびWSe2は、フレキシブルデバイスおよび半導体装置への応用が期待されている(例えば、特許文献1~4参照)。
【0005】
MoS2およびWSe2以外の金属カルコゲナイド(例えば、WTe2)も、その層数が数層以下になると、バルク結晶とは異なる物性を呈する。このため、MoS2およびWSe2以外の金属カルコゲナイド(特に、WTe2)も注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2021/0375619号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2020/0347494号明細書
【特許文献3】特開2020-84323号公報
【特許文献4】特開2018―100194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
金属カルコゲナイドの主な合成方法は、化学気相堆積法(Chemical Vapor Deposition: 以下、CVD法と略す)および熱硫化法である。これらの方法によって合成された金属カルコゲナイドは、その合成中、高温に曝される。このため、これらの方法によって合成された金属カルコゲナイドは、カルコゲン原子の大きな欠損(すなわち、不足)を有する。これは、カルコゲンの蒸気圧が、金属の蒸気圧より高いためである。かかるカルコゲン原子の欠損は、意図しないキャリアの発生および低い移動度を、金属カルコゲナイドにもたらす。
【0008】
カルコゲン原子が不足すると、カルコゲン原子の空孔が発生する。この空孔は、大気中の水分または酸素と結合して、金属カルコゲナイドに、好ましくない化学変化(例えば、酸化膜の形成等)をもたらす。従って、カルコゲン原子の欠損(以下、原子欠損と呼ぶ)は、金属カルコゲナイドを化学的に不安定にする。
【0009】
そこで、本発明は、このような問題を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の問題を解決するために、一つの実施の形態では、製造方法は、金属とカルコゲンとの化合物を有する金属カルコゲナイド膜を基板上に形成する第1工程と、前記金属カルコゲナイド膜の上に前記カルコゲンとは異なる別のカルコゲンおよび前記カルコゲンの少なくとも一方を有するカルコゲン膜を形成する第2工程と、前記カルコゲン膜の上にグラフェンまたは六方晶窒化ホウ素を配置する第3工程と、前記第3工程の後に、前記カルコゲン膜と前記金属カルコゲナイド膜とを加熱する第4工程とを有する。
【発明の効果】
【0011】
一つの側面では、本発明によれば、原子欠損が少ないカルコゲナイド系層状物質を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施の形態1による製造方法の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、CVD法により堆積した単層MoS
2の側面図の一例である。
【
図6】
図6は、CVD法により堆積した単層MoS
2の平面図である。
【
図7】
図7は、S原子の欠損を補填する別の方法を示す図である。
【
図8】
図8は、S原子112が、グラフェン122を通り抜けられない理由を説明するための図である。
【
図10】
図10は、CVD法による金属カルコゲナイド膜の形成の一例を示す図である。
【
図11】
図11は、熱硫化法による金属カルコゲナイド膜の形成の一例を示す図である。
【
図12】
図12は、S膜20に、グラフェン22を転写する工程の一例を示す工程断面図である。
【
図13】
図13は、S膜20に、グラフェン22を転写する工程の一例を示す工程断面図である。
【
図14】
図14は、実施の形態2による製造方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。図面が異なっても同じ構造を有する部分等には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0014】
(実施の形態1)
実施の形態1は、カルコゲナイド系層状物質(すなわち、金属カルコゲナイド)の製造方法に関するものである。
図1は、実施の形態1による製造方法の一例を示す図である。
図2~4は、
図1に示した製造方法の工程断面図である。
【0015】
図1~4に例示した製造方法は、二硫化モリブデン(すなわち、MoS
2)を製造する方法である。しかし、
図1~4に例示した製造方法は、前駆体等を適宜変更する事で、他のカルコゲナイド系層状物質(例えば、WSe
2およびWTe
2)の製造にも適用できる。
【0016】
(1)製造方法
(1-1)金属カルコゲナイド膜の形成(
図1に示す第1工程S1)
まず、基板16(
図2(a)参照)の上に、CVD法によりMoS
2膜18を堆積する。
【0017】
基板16は例えば、熱酸化膜付きシリコン基板である。堆積するMoS2膜18の層数は、例えば単層~数層である。MoS2膜18の層数は、単層~数層より多くても良い。
【0018】
CVD法の詳細は、下記「(5)金属カルコゲナイド膜の形成方法」に記載されている。以下の説明では、CVD法によって膜を形成する事を、CVDと呼ぶ。
【0019】
物質Xを表す単語と「膜」とをこの順に有する合成語(例えば、MoS
2膜)は、物質Xを有する膜を意味する。「膜」は、ある物の表面を覆う薄い物を意味する。従って、上記合成語は、物質Xを有し、ある物の表面を覆う薄い物を意味する。故に、MoS
2膜18(
図2(a)参照)は、MoS
2を有し、基板16の表面を覆う薄い物(ここでは、原子層)である。
【0020】
図5は、CVD法により堆積した単層MoS
2(すなわち、層数が一つのMoS
2)の側面図の一例である。
図6は、この単層MoS
2の平面図である。
【0021】
単層MoS
2は、
図5に示すように、第1面2の上に配置された複数のS原子12(すなわち、硫黄原子)と、第1面2の上方に位置する第2面6の上に配置された複数のMo原子8とを有する。単層MoS
2は更に、第2面6の上方に位置する第3面10の上に配置された複数のS原子12を有する。
【0022】
単層MoS
2は、真上から見ると、
図6に示すように、隙間無く配置された正六角形(図示せず)の頂点に交互に位置する2種類の原子を有する。かかる2種類の原子は、Mo原子8とS原子12とである。Moは、金属元素である。Sは、カルコゲン元素である。
【0023】
カルコゲン(例えば、硫黄S)は、蒸気圧が金属(例えば、Mo)より高い元素である。CVDの間中、堆積膜は、高温に曝される。このため、CVDで合成されたMoS2膜は、S原子の大きな欠損(すなわち、不足)を有する。かかるMoS2膜には、S原子の空孔14が多数存在する。
【0024】
CVD法以外の方法でMoS2膜を形成しても、S原子の欠損は発生する。MoS2膜以外の金属カルコゲナイド膜についても、同様である。付言するならば、自然界で産出される金属カルコゲナイドの結晶も、カルコゲン原子の欠損を有する。
【0025】
なお、金属カルコゲナイドの構成元素となり得るカルコゲンは、硫黄(S),セレン(Se),テルル(Te)のいずれかである。従って、特に断らない限り、「カルコゲン」とは、硫黄(S)、セレン(Se)、およびテルル(Te)のいずれかを意味する。
【0026】
(1-2)カルコゲン膜の形成(
図1に示す第2工程S2)
次に、第1工程S1において形成したMoS
2膜18(
図2(b)参照)の上に、硫黄膜20(以下、S膜と呼ぶ)を形成する。S膜20は、例えば真空蒸着により形成する。形成するS膜20の厚さは、例えば1nm~1000nmである。S膜20は、好ましくは、硫黄の単体である。
【0027】
(1-3)グラフェンによるカルコゲン膜の被覆(
図1に示す第3工程S3)
第2工程S2において形成したS膜20(
図2(c)参照)の上に、グラフェン22を配置する。その結果、S膜20が、グラフェン22によって被覆される。グラフェン22は、単層および多層のいずれであっても良い。
【0028】
具体的には、先ず、基板16とは別の基板上に、グラフェン22を形成する。その後、このグラフェン22を、S膜20に転写する。グラフェンの転写方法は、「(6)グラフェンの転写方法」に示す。
【0029】
(1-4)金属カルコゲナイド膜およびカルコゲン膜の加熱(
図1に示す第4工程S4)
第3工程S3の後、グラフェン22によって被覆したS膜20とMoS
2膜18とを、加熱する(
図3(a)参照)。
【0030】
この加熱により熱エネルギーを得た、S膜中のS原子は、MoS
2膜18に移動して、S原子の空孔14(
図6参照)を取り囲むMo原子108と結合する。換言するならば、MoS
2膜18が有する原子欠損が、S膜20のS原子によって補填される。
【0031】
この際、第3工程S3で形成したグラフェン22が、S原子が雰囲気中に拡散する事を抑制するので、第1工程S1で形成したMoS2膜18に存在する原子欠損は、S膜20のS原子によって効果的に補填される(「(2)比較例参照」)。なお、上記「雰囲気」は、基板16を囲む気体を意味する。
【0032】
第4工程は、具体的には、MoS
2膜18、S膜20、およびグラフェン22がこの順に積層された基板16を、例えば大気圧に保たれた不活性雰囲気中で加熱する工程である(
図3(a)参照)。基板16の加熱は、例えば、ヒータ24を有する電気炉(図示せず)によって行われる。加熱温度は例えば、200℃~1000℃である。加熱時間は例えば、1分~24時間である。
【0033】
(1-5)グラフェンの除去(
図1に示す第5工程S5)
第4工程S4の後、グラフェン22を、例えば酸素プラズマ処理により除去する(
図3(b)参照)。このプラズマ処理を行う時間は、グラフェン22が残らず除去される時間である。プラズマ処理を行う時間は例えば、10秒~60分である。
【0034】
(1-6)カルコゲン膜の除去(
図1に示す第6工程S6)
第5工程S5の後、排気された空間26(
図4(a)参照)において、S膜20(
図3(b)参照)を除去する。
【0035】
具体的には、S膜20(
図3(b)参照)が露出した基板16を、真空装置の内部(すなわち、排気された空間26)において加熱する。基板16の加熱は例えば、真空装置の内部に設けられたヒータ124によって行われる。
【0036】
すると、蒸気圧が高いS(すなわち、硫黄)が蒸発して、MoS
2膜18が露出する(
図4(a)参照)。加熱温度は例えば、100℃~600℃である。加熱時間は例えば、10秒~60分である。
【0037】
後述するように、S膜とは異なる別のカルコゲン膜を用いても、MoS2膜18におけるカルコゲン原子の欠損を補填する事は可能である(「(4)カルコゲン膜のバリエーション」参照)。別のカルコゲン膜を用いる場合、基板16は、この別のカルコゲン膜の蒸発に適した温度において加熱される。
【0038】
(1-7)絶縁膜による金属カルコゲナイド膜の被覆(
図1に示す第7工程S7)
第6工程S6の後に、排気された空間26において、MoS
2膜18の上に、絶縁膜28(
図4(b)参照)を形成する。その結果、MoS
2膜18が、絶縁膜28によって被覆される。空間26は、S膜20を除去する第6工程S6の始めからMoS
2膜18を絶縁膜28によって被覆する第7工程S7の終わりまで、排気され続ける。
【0039】
具体的には、排気された真空装置の内部(すなわち、排気された空間26)において、MoS2膜18の上に絶縁膜28を蒸着する。最後に、この真空装置に大気を導入しその後、絶縁膜28が蒸着された基板16を、真空装置から取り出す。
【0040】
絶縁膜28は、例えばSiO2膜である。絶縁膜28は、他の絶縁体(例えば、Al2O3膜またはHfO2膜)であっても良い。絶縁膜28の厚さは例えば、0.5nm~100nmである。
【0041】
第6~第7工程は真空一貫プロセスなので、第4工程S4において原子欠損が補填されたMoS2膜18を、大気に曝さずに絶縁膜28によって被覆できる。従って、第6~第7工程によれば、大気によるMoS2膜18の劣化(例えば、酸化)を抑制できる。
【0042】
第5~第7工程は、省略されても良い。第5~第7工程が省略されても、第1~第4工程は実行されるので、第1工程S1で形成するMoS2膜18が有する原子欠損は、カルコゲン膜から補充されるカルコゲン原子によって効果的に補填される。
【0043】
(2)比較例
図1~4を参照して説明した例では、MoS
2膜18(
図3(a)参照)と、S膜20と、グラフェン22とが、この順に積層された基板16を加熱する事で、MoS
2膜18に存在する、S原子の欠損を補填する。
【0044】
しかし、別の方法によっても、S原子の欠損を補填する事は可能である。
図7は、S原子の欠損を補填する別の方法の一例(以下、比較例と呼ぶ)を示す図である。この比較例では、MoS
2膜18が形成された基板16を、固体の硫黄120と共に、一つの容器30(例えば、石英アンプル)に密閉する。次に、この容器30ごと、MoS
2膜18および硫黄120を、例えばヒータ224によって加熱する。
【0045】
すると、加熱された硫黄120から、硫黄の蒸気(以下、S蒸気と呼ぶ)が発生する。このS蒸気とMoS2膜18が接触すると、S蒸気中のS原子が、MoS2膜18中の空孔14(すなわち、S原子の空孔)を取り囲むMo原子と結合する。換言するならば、MoS2膜18が有する原子欠損が、S蒸気からのS原子によって補填される。
【0046】
一方、MoS
2膜中のS原子の一部は、MoS
2膜18から抜け出して、雰囲気中に拡散する。その結果、MoS
2膜18には、S原子の新たな欠損が発生する。このため、
図7に示す比較例により、全体として、S原子の欠損を十分に減少させる事は困難である。MoS
2膜以外の金属カルコゲナイド膜についても、事情は同じである。
【0047】
一方、
図1~4を参照して説明した例によれば、加熱されたMoS
2膜18(
図3(a)参照)から雰囲気中に拡散するS原子を、比較例より少なくできる。これは、S原子がグラフェン22を殆ど通り抜けられないため、MoS
2膜18を囲む雰囲気中へのS原子の拡散が抑制されるためである。
【0048】
図8は、S原子112が、グラフェン122を殆ど通り抜けられない理由を説明する図である。グラフェンは、一つの面上に規則正しく配置された複数の炭素原子を有する単層である。
【0049】
グラフェン内における、炭素原子の原子間距離dは、0.142nmである。この距離は、S原子112の半径R(=0.105nm)と同程度である。このため、S原子112は、
図8に示すように、グラフェン122を殆ど通り抜けられない。S原子112より大きい硫黄分子については、尚更である。他のカルコゲン(すなわち、SeおよびTe)についても、事情は同じである。
【0050】
発明者は、原子半径がカルコゲンより小さい酸素さえグラフェンを殆ど通り抜けられない事を、以下の実験により確認した。先ず、CVD法によって、部分的に銅箔を被覆するグラフェンを形成した。その後、大気中でこの銅箔を加熱し、表面を観察した。加熱温度は、200℃である。
【0051】
図9は、加熱後の銅箔32の断面図である。この銅箔32のうちグラフェン122によって被覆された部分は、加熱前と同じく銅色をしていた。一方、グラフェン122によって被覆されていない部分34(以下、露出部分と呼ぶ)は、変色していた。
【0052】
これらの事実は、露出部分34は酸化されたが、グラフェン122で被覆された部分は酸化されなかった事を示している。この事は、酸素が、グラフェン122を殆ど通り抜けられない事を示している。
【0053】
六方晶窒化ホウ素は、原子間距離がグラフェンと略同じ層状物質である。従って、グラフェン22(
図3(a)参照)の代わりに、単層~数層の六方晶窒化ホウ素でS膜20を被覆しても良い。
【0054】
ところで、
図1~4を参照して説明した例では、S膜20(
図3(a)参照)のS原子によって、MoS
2膜18が有する原子欠損を補填する。S膜20に含まれる硫黄の量は、比較例で使用する硫黄120(
図7参照)の量に比べ、極めて僅かである。従って、
図1~4を参照して説明した例によれば、比較例に比べ極めて僅かな硫黄によって、S原子の欠損を補填できる。
【0055】
同様に、S膜以外のカルコゲン膜(「(4)カルコゲン膜のバリエーション」参照)によって、カルコゲン原子の欠損を補填する場合も、僅かなカルコゲンによって、原子欠損を補填できる。
【0056】
(3)金属カルコゲナイド膜のバリエーション
図1~4に例示した製造方法では、第1工程S1(
図1参照)で、MoS
2膜18を形成する。しかし、第1工程S1では、MoS
2膜18以外の金属カルコゲナイド膜を形成しても良い。第1工程S1で形成する金属カルコゲナイド膜は、単層および多層のいずれであっても良い。
【0057】
例えば、第1工程S1で形成する金属カルコゲナイド膜は、遷移金属ダイカルコゲナイド、13族カルコゲナイド、14族カルコゲナイド、およびビスマスカルコゲナイドのいずれかを有する金属カルコゲナイド膜であって良い。
【0058】
遷移金属ダイカルコゲナイドとは、遷移金属(すなわち、Mo、Nb、W、Ta、Ti、Zr、Hf、V等)と、カルコゲン(すなわち、S、Se、Te)との化合物を意味する。13族カルコゲナイドは、13族元素(すなわち、Ga、In、Tl)とカルコゲンとの化合物を意味する。14族カルコゲナイドとは、14族元素(すなわち、Ge、Sn、Pb)と、カルコゲンとの化合物を意味する。ビスマスカルコゲナイドとは、ビスマスとカルコゲンとの化合物を意味する。
【0059】
(4)カルコゲン膜のバリエーション
図1~4に例示した製造方法では、第2工程S2(
図1参照)で、S膜20(
図2(b)参照)を形成する。しかし、第2工程S2では、S膜以外のカルコゲン膜を形成しても良い。第2工程S2で形成可能な主なカルコゲン膜は、以下に説明する第1~第3タイプに分類できる。
【0060】
-第1タイプのカルコゲン膜-
ところで、金属カルコゲナイド膜は、金属カルコゲナイドを有し、ある物(例えば、基板)の表面を覆う物体のことである。以下の説明では、上記「金属カルコゲナイド」(例えば、MoS2)の構成元素(例えば、MoおよびS)のうちのカルコゲン(例えば、S)を、カルコゲン構成元素と呼ぶこととする。
【0061】
第1タイプのカルコゲン膜は、第1工程S1で形成する金属カルコゲナイド膜が有するカルコゲン構成元素の単体である。
図1~4に例示した製造方法では、第1工程S1でMoS
2膜を形成する。従って、
図1~4に例示した製造方法における第1タイプのカルコゲン膜は、Sの単体である。
【0062】
第1工程S1でWSe2を形成する場合は、第1タイプのカルコゲン膜は、Seの単体である。第1工程S1でWTe2を形成する場合は、第1タイプのカルコゲン膜は、Teの単体である。
【0063】
第1タイプのカルコゲン膜は、金属カルコゲナイド膜のカルコゲン構成元素によって、金属カルコゲナイド膜の原子欠損を補填する。従って、第1タイプのカルコゲン膜によれば、不純物濃度を増加させずに、金属カルコゲナイド膜の原子欠損を補填できる。
【0064】
-第2タイプのカルコゲン膜-
第2タイプのカルコゲン膜は、第1工程S1で形成する金属カルコゲナイド膜(例えば、MoS2膜18)が有するカルコゲン構成元素(例えば、S)とは異なる別のカルコゲン(例えば、Se)の単体である。
【0065】
図1~4に例示した製造方法では、第1工程S1でMoS
2膜を形成する。従って、第2タイプのカルコゲン膜は、Seの単体またはTeの単体である。
【0066】
第2タイプのカルコゲン膜によれば、金属カルコゲナイド膜(例えば、MoS2膜)の原子欠損を補填できるだけでなく、この金属カルコゲナイド膜へのドーピングも可能になる。この場合のドーパントは、金属カルコゲナイド膜のカルコゲン構成元素(例えば、S)とは異なる「別のカルコゲン」(例えば、Se)である。
【0067】
-第3タイプのカルコゲン膜-
第3タイプのカルコゲン膜は、第1工程S1で形成する金属カルコゲナイド膜が有するカルコゲン構成元素の単体、およびこのカルコゲン構成元素とは異なる「別のカルコゲン」の単体の双方を含む混合物である。
【0068】
図1~4に例示した製造方法では、第1工程S1でMoS
2膜を形成する。従って、第3タイプのカルコゲン膜は、例えば、Sの単体とSeの単体との混合物である。
【0069】
第3タイプのカルコゲン膜によっても、金属カルコゲナイド膜(例えば、MoS2膜)の原子欠損を補填できるだけでなく、この金属カルコゲナイド膜(例えば、MoS2膜)へのドーピングも可能である。この場合も、ドーパントは、上記「別のカルコゲン」(例えば、Se)である。
【0070】
更に、第3タイプのカルコゲン膜に混在する「別のカルコゲン」の割合を制御すれば、金属カルコゲナイドに導入されるドーパントの密度を制御できる。
【0071】
第1~第3タイプのカルコゲン膜が含むカルコゲンの種類は2つまでであるが、第2工程で形成するカルコゲン膜は、3種類のカルコゲン(すなわち、S,Se,Te)を全て含む物質であっても良い。
【0072】
(5)金属カルコゲナイド膜の形成方法
図1~4に例示した製造方法の第1工程S1(
図1参照)では、CVD法を用いて、金属カルコゲナイド膜を形成する。しかし、第1工程S1では、CVD法以外の方法(例えば、熱硫化法)によって、金属カルコゲナイド膜を形成しても良い。ここでは、CVD法および熱硫化法を説明する。
【0073】
(5-1)CVD法
図10は、CVD法による金属カルコゲナイド膜の形成の一例を示す図である。
図10に示す例では、MoS
2膜が形成される。
図10に示すCVD法は、大気圧下で行われる。
【0074】
先ず、別々のヒータ36a,36b,36cで囲まれた3つのゾーンを有する反応管38の内部に、基板16、MoO
340(三酸化モリブデン)、およびS42(例えば、硫黄の粉末)をこの順に配置する。基板16は、第1ヒータ36aに囲まれた第1ゾーンに配置する。MoO
340は、第2ヒータ36bに囲まれた第2ゾーンに配置する。S42は、第3ヒータ36cに囲まれた第3ゾーンに配置する。なお、
図10には、形成中のMoS
2膜18が示されている。
【0075】
第2ゾーンに配置するMoO340の重量は、例えば1mg~100mgである。第3ゾーンに配置するS42の重量は、例えば10mg~1000mgである。
【0076】
この状態で、反応管38の両端のうちS42に最も近い一端から、反応管38にArガス44を導入する。Arガスの流量は、例えば100sccm~1000sccmである。Arガス44は、キャリアガスである。
【0077】
次に、第1ヒータ36aによって基板16を、500℃~1000℃に加熱する。更に、第2ヒータ36bによってMoO340を、300℃~600℃に加熱する。更に、第3ヒータ36cによってS42を、100℃~200℃に加熱する。すると、MoO340からMoO3の蒸気が発生し、S42からはSの蒸気が発生する。
【0078】
このMoO3の蒸気とSの蒸気とが気相中で反応して、基板16の上にMoS2膜18が析出する。すなわち、基板16の上に、MoS2膜18が形成される。
【0079】
図10を参照して説明したCVD法は一例であって、種々の変更が可能である。例えば、
図10に示した例では、キャリアガスは、Arガス44である。しかし、キャリアガスは、Arガス44以外の不活性ガスであっても良い。これらのキャリアガスは、水素を含んでも良い。
【0080】
図10に示す例では、金属カルコゲナイド膜(例えば、MoS
2膜18)は、大気圧下で形成される。しかし、金属カルコゲナイド膜は、減圧下(例えば、真空中)で形成されても良い。
【0081】
金属カルコゲナイド膜(例えば、MoS2膜)の前駆体は、単体および化合物のいずれであっても良い。上記「化合物」は、酸化物、塩化物、フッ化物、水素化物、および有機化合物のいずれであっても良い。ただし、上記「単体」および上記「化合物」は、金属カルコゲナイド膜の構成元素を含む物質である。
【0082】
図10に示す例では、前駆体は、複数の物質である。しかし、金属カルコゲナイド膜の前駆体は、金属カルコゲナイド膜の構成元素を全て含む単一の物質であっても良い。
【0083】
MoS3は、かかる前駆体の一例である。H2Sを含む不活性ガス中でMoS3を加熱すると、MoS3がMoS2に変化して、基板上に析出する。MoS4、Mo2S3、Mo2S5、およびMo3S4も、H2Sを含む不活性ガス中で加熱されると、MoS2に変化して、基板上に析出する。これらの化合物も、金属カルコゲナイド膜の構成元素を全て含む単一の前駆体である。
【0084】
前駆体の形態は、固体、液体、および気体のいずれであっても良い。個体の前駆体は、結晶およびアモルファスのいずれであっても良い。前駆体が固体または液体の場合、加熱処理等によって前駆体を気化させる。気化した前駆体は、金属カルコゲナイド膜の構成元素を、基板まで輸送する。前駆体の蒸発量は、前駆体の加熱温度、雰囲気の圧力、反応管に装填する前駆体の量、および前駆体の蒸気圧に依存する。
【0085】
前駆体に関するこれらのパラメータ(すなわち、加熱温度等)は、基板上に形成する金属カルコゲナイド膜(例えば、
図10に示す基板16)の厚さおよび面積が、それぞれの目標値に達するように設定される。更に、金属カルコゲナイド膜が形成される基板の加熱温度も、基板上に形成する金属カルコゲナイド膜の厚さ、面積、および品質が、それぞれの目標値に達するように設定される。
【0086】
種々の基板が、金属カルコゲナイド膜を形成するための基板16として使用可能である。例えば、熱酸化膜付きシリコン基板、サファイア基板、および酸化マグネシウム基板等が使用できる。
【0087】
金属カルコゲナイド膜を合成する容器(例えば、
図10に示す反応管38)内における基板および前駆体の配置は、
図10に示す例には限られない。基板等の適切な配置は、金属カルコゲナイド膜の合成条件および反応炉の構造等によって変わる。
【0088】
複数のゾーンの温度が別々に制御される反応炉(以下、多温度反応炉と呼ぶ)によれば、2つの前駆体を、別々の温度に加熱できる。
図10に示した装置(すなわち、反応管38と3つのヒータ36a,36b,36cを有する装置)は、この様な反応炉の一例である。
【0089】
多温度反応炉によれば、複数の前駆体それぞれの加熱温度を別々に制御できるので、複数の前駆体それぞれの蒸発量を、独立に制御できる。従って、多温度反応炉によれば、基板上に形成する金属カルコゲナイド膜の化学量論的組成比を、制御できる。
【0090】
(5-2)熱硫化法
図11は、熱硫化法による金属カルコゲナイド膜の形成の一例を示す図である。
図11に示す例では、MoS
2膜が形成される。
図11に示す熱硫化法は、大気圧下で行われる。
【0091】
先ず、別々のヒータ36a,36b,36cで囲まれた3つのゾーンを有する反応管38の内部に、Mo膜46(好ましくは、純粋なモリブデン膜)で表面が覆われた基板116と、S142(例えば、硫黄の粉末)をこの順に配置する。基板116は、第1ヒータ36aに囲まれた第1ゾーンに配置する。S142は、第3ヒータ36cに囲まれた第3ゾーンに配置する。なお、
図11には、形成中のMoS
2膜118が示されている。
【0092】
基板116の表面を覆うMo膜46の厚さは、例えば0.5nm~1000nmである。第3ゾーンに配置するS142の重量は、例えば1mg~1000mgである。
【0093】
この状態で、反応管38の両端のうちS142に最も近い一端から、反応管38にArガス44を導入する。Arガスの流量は、例えば10sccm~1000sccmである。
【0094】
次に、第1ヒータ36aによって基板116を、500℃~1000℃に加熱する。更に、第3ヒータ36cによってS142を、100℃~300℃に加熱する。すると、S142から、Sの蒸気が発生する。このSの蒸気と、基板116を覆うMo膜46が反応して、基板116の上にMoS2膜118が析出する。すなわち、基板116の上に、MoS2膜118が形成される。基板116およびS142を加熱する時間は、例えば1秒~10時間である。この時間は、基板116の上に形成するMoS2膜118の厚さおよび面積が、それぞれの目標値に達するように設定される。
【0095】
基板116の表面を覆うMo膜46は、Moの単体ではなく、Moの化合物(例えば、MoO3、MoCl5等)であっても良い。Mo膜46は、例えば真空蒸着法またはスパッタリング法により、基板116の上に堆積する。Mo膜46を堆積する際の基板温度は、例えば室温~500℃である。Mo膜46の膜厚の目標値は、所望の厚さの金属カルコゲナイド膜が、基板116の上に形成される膜厚である。
【0096】
図11を参照して説明した熱硫化法は一例であって、種々の変更が可能である。例えば、
図11に示した例では、金属カルコゲナイド膜(例えば、MoS
2膜118)の形成は、大気圧下で行われる。しかし、金属カルコゲナイドの形成は、減圧下または加圧下で行われても良い。
【0097】
図11を参照して説明した例では、カルコゲンの供給源は、固体(例えば、硫黄の粉末)である。しかし、カルコゲンの供給源は、固体でなくても良い。例えば、カルコゲンの供給源は、気体(例えば、硫化水素)であっても良い。
【0098】
カルコゲンの供給源が固体の場合、この固体を蒸発させる事で、カルコゲンを基板116まで輸送する。供給源から蒸発するカルコゲンの量は、供給源の加熱温度、雰囲気の圧力、反応炉に装填する供給源の量、および供給源の蒸気圧に依存する。
【0099】
従って、供給源に関するこれらのパラメータは、基板(例えば、
図11に示す基板116)の上に形成する金属カルコゲナイド膜(例えば、MoS
2膜118)の厚さおよび面積が、それぞれの目標値に達するように設定される。同様に、基板の加熱温度も、基板上に形成する金属カルコゲナイド膜の厚さ、面積、および品質が、それぞれの目標値に達するように設定される。
【0100】
種々の基板が、金属カルコゲナイド膜が形成される基板116として使用可能である。例えば、熱酸化膜付きシリコン基板、サファイア基板、および酸化マグネシウム基板等が使用可能である。
【0101】
金属カルコゲナイド膜を合成する容器(例えば、反応管38)内における、基板116およびカルコゲン供給源(例えば、S142)の配置は、
図11に示す例には限られない。基板等の最適な配置は、金属カルコゲナイド膜(例えば、MoS
2膜118)の合成条件および反応炉の構造等によって決まる。
【0102】
(6)グラフェンの転写方法
グラフェンの転写とは、例えばCVD法により触媒の上に形成したグラフェンを、触媒とは別の基板上に移すことである。
図12~13は、S膜20(
図2(c)参照)に、グラフェン22を転写する工程の一例を示す工程断面図である。
図12~13に示す方法によってグラフェン22をS膜20に転写すると、高い被覆率(例えば、99%)を達成できる。
【0103】
先ず、触媒50(
図12(a)参照)とグラフェン22とがこの順に積層された基板48を、用意する。この様な基板48の代わりに、グラフェンが形成された自立した触媒箔を、用意しても良い。触媒50は、例えばFe、Ni、およびCuのいずれかの単体である。グラフェン22は、例えばCVDにより触媒50の上に形成された原子膜である。
【0104】
次に、グラフェン22の上に、例えば厚さ0.1μm~100μmの支持膜52(
図12(b)参照)を形成する。具体的には、先ず、グラフェン22の上に、スピンコート等によりレジストを塗布する。レジストの代わりに、ポリマーを塗布しても良い。その後、塗布したレジスト(または、ポリマー)を加熱する。加熱温度は、例えば室温~200℃である。
【0105】
すると、塗布したレジスト(または、ポリマー)が固化して、支持膜52になる。支持膜52は、上記以外の方法(例えば、真空蒸着)によって形成しても良い。
【0106】
次に、支持膜52によって支持されたグラフェン22を、触媒50から剥離する(
図12(c)参照)。具体的には、触媒50とグラフェン22と支持膜52とがこの順に積層された基板48を、触媒50のエッチング液に浸す。すると、サイドエッチングにより、触媒50が除去される。エッチング液は、例えば塩化鉄(III)(すなわち、FeCl
3)の水溶液である。
【0107】
ここまでの処理により、支持膜52で支持されたグラフェン22(以下、支持膜付きグラフェン222と呼ぶ)が、形成される。その後、支持膜付きグラフェン222に付着したエッチング液を、水洗により除去する。
【0108】
次に、支持膜付きグラフェン222とS膜20とが接するように、支持膜付きグラフェン222とS膜20とを、重ね合わせる(
図13(a)参照)。この状態で基板16を加熱して、支持膜付きグラフェン222とS膜20とを密着(すなわち、ぴったりと付着)させる。加熱温度は、例えば室温~300℃である。
【0109】
最後に、例えば有機溶剤(例えば、アセトン)で支持膜52を溶解する事で、支持膜52を除去する(
図13(b)参照)。以上により、S膜20へのグラフェン22の転写が完了する。
【0110】
実施の形態1による製造方法は、金属(例えば、Mo)とカルコゲン(例えば、S)との化合物(例えば、MoS
2)を有する金属カルコゲナイド膜(例えば、MoS
2膜18)を、基板上に形成する第1工程S1(
図2(a)参照)を有する。
【0111】
実施の形態1による製造方法は、更に、上記金属カルコゲナイド膜の上に、カルコゲン膜(例えば、S膜20)を形成する第2工程S2(
図2(b)参照)を有する。かかるカルコゲン膜は、上記カルコゲン(例えば、S)とは異なる別のカルコゲン(例えば、SeまたはTe)および上記カルコゲン(例えば、S)の少なくとも一方を有する。
【0112】
実施の形態1による製造方法は、更に、上記カルコゲン膜(例えば、S膜20)の上に、グラフェン22または六方晶窒化ホウ素を配置する第3工程S3(
図2(c)参照)を有する。
【0113】
実施の形態1による製造方法は、更に、第3工程S3の後に、上記カルコゲン膜(例えば、S膜20)と上記金属カルコゲナイド膜(例えば、MoS
2膜18)とを加熱する第4工程S4(
図3(a)参照)を有する。上記「カルコゲン」は、硫黄、セレン、およびテルルのいずれかである。更に、上記「別のカルコゲン」も、硫黄、セレン、およびテルルのいずれかである。
【0114】
第4工程S4によって、金属カルコゲナイド膜(例えば、MoS2膜18)が有する、カルコゲン原子(例えば、S原子)の欠損が、補填される。一方、金属カルコゲナイド膜中のカルコゲン原子の一部は、金属カルコゲナイド膜から抜け出して、雰囲気中に拡散する。
【0115】
金属カルコゲナイド膜からカルコゲン原子が抜け出すと、後にはカルコゲン原子の空孔が残される。すなわち、新たな原子欠損が、金属カルコゲナイド膜に生成されてしまう。
【0116】
しかし、カルコゲン膜上のグラフェン(または、六方晶窒化ホウ素)を、カルコゲン原子は殆ど通り抜けられないので、金属カルコゲナイド膜には、新たな原子欠損は殆ど発生しない。従って、実施の形態1によれば、原子欠損が少ない金属カルコゲナイド膜(すなわち、カルコゲナイド系層状物質)を製造できる。
【0117】
実施の形態1の製造方法は、好ましくは、更に第5~第7工程を有する。第5工程S5は、第4工程S4の後に、グラフェン22(または、六方晶窒化ホウ素)を除去する工程である。第6工程S6は、第5工程S5の後に、排気された空間26(例えば、真空装置の内部)において、カルコゲン膜(例えば、S膜20)を除去する工程である。第7工程S7は、第6工程S6の後に、排気された上記空間26において、金属カルコゲナイド膜(例えば、MoS2膜18)の上に、絶縁膜28を形成する工程である。ただし、空間26は、第6工程S6の始めから第7工程S7の終わりまで、排気され続ける。
【0118】
第5~第7工程によれば、第1~第4工程によって原子欠損が補填された金属カルコゲナイド膜(例えば、MoS2膜18)を、大気に曝さずに絶縁膜28によって被覆できる。従って、第5~第7工程によれば、第1~第4工程によって原子欠損が補填された金属カルコゲナイド膜(例えば、MoS2膜18)が、大気によって劣化(例えば、酸化)する事を抑制できる。
【0119】
(実施の形態2)
実施の形態2は、金属カルコゲナイド膜と複数の電極とを有する半導体装置の製造方法に関するものである。
図14は、実施の形態2による製造方法の一例を示す図である。
図15~16は、
図14に示した製造方法の工程断面図である。
【0120】
図14~16に示す一例では、MoS
2膜と複数の電極とを有する半導体装置が製造される。しかし、
図14~16に示す例は、MoS
2膜以外の金属カルコゲナイド膜を有する半導体装置に適用しても良い。
【0121】
(1)金属カルコゲナイド膜の形成~絶縁膜による金属カルコゲナイド膜の被覆(
図1または14に示す第1工程S1~第7工程S7)
まず、実施の形態1で説明した第1~7工程(
図1~4参照)に従って、原子欠損が補填されたMoS
2膜18(
図4(b)参照)と、このMoS
2膜18を被覆する絶縁膜28とを基板16の上に形成する。
【0122】
(2)電極形成工程(
図14に示す第8工程S8)
第7工程S7の後に、上記複数の電極を形成する。
【0123】
具体的には先ず、上記基板16が配置された空間26(
図4(b)参照)に大気を導入して、この空間26から基板16を取り出す。その後、リソグラフィ技術により絶縁膜28(
図15(a)参照)の上に、帯状のフォトレジスト膜54を形成する。
図15は、このフォトレジスト膜54を横切る断面図である。
【0124】
このフォトレジスト膜54を介して、絶縁膜28およびMoS
2膜18を、エッチングする。このエッチングは、例えばドライエッチングにより行われる。このエッチングにより、絶縁膜28を帯状の絶縁膜128(
図15(b)参照)に成形し更に、MoS
2膜18を帯状のMoS
2膜218に成形する。
【0125】
次に、帯状の絶縁膜128の中央を露出させる第1開口56a(
図15(c)参照)と、絶縁膜128の側面に接する第2~第3開口56b,56cとを有するフォトレジスト膜154を、リソグラフィ技術により形成する。
【0126】
このフォトレジスト膜154を介して、基板16の上に金属膜58(
図16(a)参照)を蒸着する。金属膜58の蒸着は、帯状のMoS
2膜218より金属膜58が過度に厚くならないように制御される。金属膜58の厚さは、例えば10nm~100nmである。金属膜58は、例えばTi/Au膜またはPd膜である。
【0127】
金属膜58の形成後、フォトレジスト膜154を除去する。すると、金属膜58のうちフォトレジスト膜154を覆う部分が除去される。その結果、帯状の絶縁膜128(
図16(b)参照)の上に、トップゲート電極TGが形成される。更に、帯状のMoS
2膜218の側面の一方に接するソース電極Sと、帯状のMoS
2膜218の側面の他方に接するドレイン電極Dとが形成される。すなわち、リフトオフによって、トップゲート電極TGと、ソース電極Sと、ドレイン電極Dとを形成する。
【0128】
以上の工程により、MoS2膜218を有する活性層60と、トップゲート電極TGと、ソース電極Sと、ドレイン電極Dとを有するトップゲート型トランジスタ62が完成する。
【0129】
図14~16に例示した製造方法は、トップゲート型トランジスタを製造する方法である。しかし、
図14~16に例示した製造方法は、例えば第8工程S8で形成する電極を変更する事で、トップゲート型トランジスタ以外の半導体素子(例えば、熱電変換素子)の製造にも適用できる。
【0130】
以上のように、実施の形態2による製造方法は、実施の形態1で説明した第1~第4工程と、第4工程の後に、複数の電極(例えば、トップゲート電極TG、ソース電極S、およびドレイン電極D)を形成する電極形成工程とを有する。
【0131】
実施の形態2による製造方法は、実施の形態1で説明した第1~第4工程を有する。従って、実施の形態2による製造方法によれば、カルコゲン原子の欠損が少ない活性層60を有する半導体装置を製造できる。活性層60は、原子欠損が補填された金属カルコゲナイド膜である。
【0132】
実施の形態2による製造方法は、実施の形態1による製造方法と同様、好ましくは第5~第7工程を有する。更に、複数の電極のうちの一つ(例えば、トップゲート電極TG)は、絶縁膜128の上に形成される。
【0133】
第5~第7工程によれば、大気によって活性層60が劣化する事を抑制できる(実施の形態1参照)。ただし、第5~第7工程は、実施の形態1と同様、省略されても良い。
【0134】
以上、本発明の実施形態について説明したが、実施の形態1~2は、例示であって制限的なものではない。例えば、実施の形態1~2に例示した第3工程S3は、カルコゲナイド膜に、グラフェン(または、六方晶窒化ホウ素)を転写する工程である。しかし、第3工程は、カルコゲナイド膜に直接、グラフェン(または、六方晶窒化ホウ素)を成長する工程であっても良い。
【0135】
更に、実施の形態1~2に例示した金属カルコゲナイド膜(例えば、MoS2膜)は、金属カルコゲナイドとは異なる物質は含まない。しかし、実施の形態1~2における金属カルコゲナイド膜は、金属カルコゲナイドとは異なる物質を含んでも良い。
【0136】
例えば、実施の形態1~2における金属カルコゲナイド膜は、金属(例えば、Mo)と金属カルコゲナイド(例えば、MoS2)とをこの順に有する複合膜であっても良い。この様な複合膜は、例えば、熱硫化法によって金属カルコゲナイド膜を形成する際に形成される事がある。
【0137】
熱硫化法によって金属カルコゲナイド膜を形成する場合、基板116(
図11参照)の上に形成した金属膜(例えば、Mo膜46)が厚すぎると、金属カルコゲナイドと基板116との間に、未反応の金属(例えば、Mo)が取り残される。その結果、金属カルコゲナイド(例えば、MoS
2)と金属とをこの順に有する金属カルコゲナイド膜が、基板116の上に形成される。
【0138】
以上の実施の形態1~2に関し、更に以下の付記を開示する。
【0139】
(付記1)
金属とカルコゲンとの化合物を有する金属カルコゲナイド膜を、基板上に形成する第1工程と、
前記金属カルコゲナイド膜の上に、前記カルコゲンとは異なる別のカルコゲンおよび前記カルコゲンの少なくとも一方を有するカルコゲン膜を形成する第2工程と、
前記カルコゲン膜の上に、グラフェンまたは六方晶窒化ホウ素を配置する第3工程と、
前記第3工程の後に、前記カルコゲン膜と前記金属カルコゲナイド膜とを加熱する第4工程とを有する
カルコゲナイド系層状物質の製造方法。
【0140】
(付記2)
前記カルコゲンおよび前記別のカルコゲンは、それぞれ硫黄、セレン、およびテルルのいずれかであることを
特徴とする付記1に記載のカルコゲナイド系層状物質の製造方法。
【0141】
(付記3)
前記カルコゲン膜は、前記カルコゲンの単体であることを
特徴とする付記1に記載のカルコゲナイド系層状物質の製造方法。
【0142】
(付記4)
前記カルコゲン膜は、前記別のカルコゲンの単体であることを
特徴とする付記1に記載のカルコゲナイド系層状物質の製造方法。
【0143】
(付記5)
前記カルコゲン膜は、前記カルコゲンの単体および前記別のカルコゲンの単体の双方を含むことを
特徴とする付記1に記載のカルコゲナイド系層状物質の製造方法。
【0144】
(付記6)
前記第4工程の後に、前記グラフェンまたは前記六方晶窒化ホウ素を除去する第5工程と、
前記第5工程の後に、排気された空間において、前記カルコゲン膜を除去する第6工程と、
前記第6工程の後に、前記空間において更に、前記金属カルコゲナイド膜の上に、絶縁膜を形成する第7工程とを有し、
前記空間は、前記第6工程の始めから前記第7工程の終わりまで、排気され続けることを
特徴とする付記1~5のいずれか1項に記載のカルコゲナイド系層状物質の製造方法。
【0145】
(付記7)
前記第6工程は、前記空間において、前記カルコゲン膜を加熱する工程であることを
特徴とする付記6に記載のカルコゲナイド系層状物質の製造方法。
【0146】
(付記8)
前記第3工程は、前記グラフェンまたは前記六方晶窒化ホウ素を、前記カルコゲン膜に転写する工程であることを
特徴とする付記1~7のいずれか1項に記載のカルコゲナイド系層状物質の製造方法。
【0147】
(付記9)
金属とカルコゲンとの化合物を有する金属カルコゲナイド膜と、複数の電極とを有する半導体装置の製造方法であって、
前記金属カルコゲナイド膜を、基板上に形成する第1工程と、
前記金属カルコゲナイド膜の上に、前記カルコゲンとは異なる別のカルコゲンおよび前記カルコゲンの少なくとも一方を有するカルコゲン膜を形成する第2工程と、
前記カルコゲン膜の上に、グラフェンまたは六方晶窒化ホウ素を配置する第3工程と、
前記第3工程の後に、前記カルコゲン膜と前記金属カルコゲナイド膜とを加熱する第4工程と、
前記第4工程の後に、前記複数の電極を形成する電極形成工程とを有する
半導体装置の製造方法。
【0148】
(付記10)
前記カルコゲンおよび前記別のカルコゲンは、それぞれ硫黄、セレン、およびテルルのいずれかであることを、
特徴とする付記9に記載の半導体装置の製造方法。
【0149】
(付記11)
前記第4工程の後に、前記グラフェンまたは前記六方晶窒化ホウ素を除去する第5工程と、
前記第5工程の後に、排気された空間において、前記カルコゲン膜を除去する第6工程と、
前記第6工程の後に、前記空間において更に、前記金属カルコゲナイド膜の上に絶縁膜を形成する第7工程とを有し、
前記空間は、前記第6工程の始めから前記第7工程の終わりまで排気され続け、
前記複数の電極のうちの一つは、前記絶縁膜の上に形成されることを
特徴とする付記9または10に記載の半導体装置の製造方法。
【符号の説明】
【0150】
16 :基板
18 :MoS2膜
20 :S膜
22 :グラフェン
26 :空間
28 :絶縁膜