(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094964
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】液化水素タンク及びそのタンク内圧制御方法
(51)【国際特許分類】
F17C 13/00 20060101AFI20240703BHJP
【FI】
F17C13/00 302A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211903
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】松田 吉洋
(72)【発明者】
【氏名】前川 隆洋
(72)【発明者】
【氏名】福原 太輔
(72)【発明者】
【氏名】北田 一輝
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA03
3E172AA06
3E172AB01
3E172BA06
3E172BB04
3E172BB12
3E172BB17
3E172BD05
3E172DA15
3E172DA90
3E172EA03
3E172EB03
3E172EB10
3E172EB20
3E172GA11
3E172HA06
3E172KA02
3E172KA22
(57)【要約】
【課題】液化水素タンクの工事費用を抑えながら、ポンプでのキャビテーションの発生を抑止する。
【解決手段】液化水素タンク1は、タンク本体2と、タンク本体2内の液化水素LHを外部に払い出すポンプ3と、タンク本体2内の液化水素LHの液位を検出する液位検出部(26)と、タンク本体2内の気相部Bの圧力であるタンク内圧を、液位検出部(26)による検出液位の低下に応じて上昇させる昇圧部(4,5)とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化水素を貯蔵するタンク本体と、
前記タンク本体内の液化水素を外部に払い出すポンプと、
前記タンク本体内の液化水素の液位を検出する液位検出部と、
前記タンク本体内の気相部の圧力であるタンク内圧を、前記液位検出部による検出液位の低下に応じて上昇させる昇圧部とを備えた、液化水素タンク。
【請求項2】
請求項1に記載の液化水素タンクにおいて、
前記昇圧部は、前記タンク本体の気相部に存在するボイルオフガスを吸い込んで下流側に排出するBOG圧縮機と、当該BOG圧縮機を制御するコントローラとを含み、
前記コントローラは、前記タンク本体内の検出液位の低下に応じて前記BOG圧縮機によるボイルオフガスの排出量を減少させる、液化水素タンク。
【請求項3】
請求項1に記載の液化水素タンクにおいて、
前記昇圧部は、前記ポンプと、当該ポンプを制御するコントローラとを含み、
前記コントローラは、前記タンク本体内の検出液位の低下に応じて前記ポンプによる液化水素の吐出量を減少させる、液化水素タンク。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の液化水素タンクにおいて、
前記昇圧部は、前記タンク本体内の検出液位の低下に応じて前記タンク内圧を上昇させる前記制御を、前記検出液位が予め定められた基準レベルを下回った時点で開始し、前記検出液位が前記基準レベルに対し低下するほど前記タンク内圧を上昇させる、液化水素タンク。
【請求項5】
液化水素を貯蔵するタンク本体と、当該タンク本体内の液化水素を外部に払い出すポンプと、を含む液化水素タンクのタンク内圧を制御する方法であって、
前記タンク本体内の液化水素の液位を検出するステップと、
前記液化水素の液位の低下が検出された場合に、当該液位の低下に応じて、前記タンク本体内の気相部の圧力であるタンク内圧を上昇させるステップとを含む、液化水素タンクのタンク内圧制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液化水素タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
液化水素を貯蔵して所定の需要家に供給する液化水素タンクが知られている。この液化水素タンクは、例えば、液化水素を貯蔵するタンク本体と、当該タンク本体から液化水素を払い出して前記需要家に向けて送り出すポンプとを備える。
【0003】
前記のような液化水素タンクにおいて、ポンプによる液化水素の払い出しが行われると、その作業の進行に伴いタンク本体内の液化水素の液位が徐々に低下する結果、ポンプの吸込口に流入する液化水素の圧力である吸込圧が徐々に低下する。特に、液化水素の液位がタンク本体の底面に近いレベルまで低下した場合には、ポンプの吸込圧が飽和蒸気圧に近い値まで低下する可能性がある。このような吸込圧の低下は、キャビテーションの発生を誘発してポンプに損傷を与えるおそれがある。
【0004】
ここで、液化水素ではなくLNG(液化天然ガス)を対象とした技術ではあるものの、下記特許文献1には、LNGを貯蔵する設備において上述したキャビテーションへの対策を施すことが開示されている。具体的に、特許文献1には、LNG用の貯蔵器として地盤上に設置されたタンク本体と、当該タンク本体の近傍の地盤を掘り下げた地下ピット(コンクリートピット)内に設置されたLNGポンプとを備えたLNG貯蔵タンクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1のように、地下ピット内にポンプを設置するようにした場合には、タンク本体の底面とポンプの吸込口との高低差を利用してポンプの吸込圧を高めることができ、上述したキャビテーションの発生を抑止することができる。
【0007】
しかしながら、ポンプ設置用の地下ピットを構築することは、工事費用の増大につながる。特に、LNGよりも密度が低い液化水素を貯蔵する液化水素タンクを対象とする場合には、地下ピットの深さを十分に確保しないとキャビテーションの抑止効果が得られない可能性がある。すなわち、液化水素タンクに対し前記特許文献1と同様の対策を施したのでは、工事費用が大幅に増大するおそれがある。
【0008】
本開示は、前記のような事情に鑑みてなされたものであり、工事費用を抑えながらキャビテーションの発生を抑止することが可能な液化水素タンク及びそのタンク内圧制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するためのものとして、本開示の一局面に係る液化水素タンクは、液化水素を貯蔵するタンク本体と、前記タンク本体内の液化水素を外部に払い出すポンプと、前記タンク本体内の液化水素の液位を検出する液位検出部と、前記タンク本体内の気相部の圧力であるタンク内圧を高める昇圧部と、前記ポンプによる液化水素の払い出し時に、前記液位検出部による検出液位の低下に応じて前記タンク内圧が上昇するように前記昇圧部を制御するコントローラと、を備えたものである。
【0010】
また、本開示の他の局面に係る方法は、液化水素を貯蔵するタンク本体と、当該タンク本体内の液化水素を外部に払い出すポンプと、を含む液化水素タンクのタンク内圧を制御する方法であって、前記タンク本体内の液化水素の液位を検出するステップと、前記液化水素の液位の低下が検出された場合に、当該液位の低下に応じて、前記タンク本体内の気相部の圧力であるタンク内圧を上昇させるステップと、を含むものである。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、液化水素タンクの工事費用を抑えながら、ポンプでのキャビテーションの発生を抑止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の一実施形態に係る液化水素タンクの全体構成を示すシステム図である。
【
図2】タンク本体から液化水素を払い出す際の制御の詳細を示すフローチャートである。
【
図3】液化水素の液位と目標タンク内圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[液化水素タンクの全体構成]
図1は、本開示の一実施形態に係る液化水素タンク1の全体構成を示すシステム図である。本図に示すように、液化水素タンク1は、液化水素LHを貯蔵するタンク本体2と、タンク本体2から液化水素LHを払い出すポンプ3と、液化水素LHの蒸発により生じるボイルオフガス(BOG)をタンク本体2から排出するBOG圧縮機4と、ポンプ3及びBOG圧縮機4を制御するコントローラ5を備える。液化水素タンク1は、水素を消費する需要家に水素を供給する供給源として機能する。需要家は、水素を消費する施設であれば特にその種類を問わないが、例えば、水素を燃焼させてその燃焼エネルギーにより発電を行う水素発電所とすることができる。
【0014】
タンク本体2は、地盤G上に設置された球面屋根付き平底円筒形タンクである。タンク本体2はまた、外槽21及び内槽22を含む多重殻タンクである。外槽21は、地盤Gに打設されたタンク基礎20の上面に設置されており、内槽22は、外槽21の内側に収容されている。内槽22の内部には、液化水素LHを密閉状態で貯蔵するための貯蔵空間が画成されている。外槽21と内槽22との間には、保冷のための空間である断熱層23が形成されている。断熱層23には、例えばパーライトのような粒状断熱材と低沸点ガスとが充填される。なお、
図1には外槽21と内槽22のみを図示したが、外槽21と内槽22との間にさらに中間槽が備えられていてもよい。すなわち、本実施形態におけるタンク本体2は、外槽21及び内槽22を含む多重殻構造のものであればよく、二重殻タンクでも三重殻タンクでもよい。
【0015】
タンク本体2の内部における液化水素LHの上側には、気相部Bが形成されている。気相部Bは、液化水素LHが入熱により蒸発することで生じるボイルオフガス(BOG)を含む水素ガスが占める空間である。タンク本体2には、気相部Bの圧力であるタンク内圧を検出する圧力センサ25が取り付けられている。また、タンク本体2には、液化水素LHの液面の高さである液位を検出する液位センサ26が取り付けられている。なお、液位センサ26は、本開示における「液位検出部」に相当する。
【0016】
ポンプ3は、タンク本体2から液化水素LHを吸い込んで下流側に吐出する流体機器であり、ポンプ本体31及びポンプモータ32を含む。ポンプ本体31は、インペラ等の回転要素を含む機構部である。ポンプモータ32は、ポンプ本体31の回転要素を回転駆動する電動式のモータである。
【0017】
ポンプ本体31は、上流配管35を介してタンク本体2に接続されている。上流配管35は、タンク本体2の内槽22からポンプ本体31に向かって略水平に延びるように設けられている。ポンプ本体31には、上流配管35の下流端との接続口であるポンプ吸込口31aが形成されている。内槽22の側面22Sには、上流配管35の上流端との接続口であるタンク出口22aが形成されている。タンク出口22aは、内槽22の底面22Bに近い高さに位置するように、内槽22の側面22Sの下端部に形成されている。
【0018】
ポンプ3の下流側には、液化水素LHを気化させる気化器37が設けられている。気化器37は、下流配管36を介してポンプ3に接続されている。
【0019】
タンク本体2から液化水素LHを払い出す際には、ポンプモータ32が作動して、当該ポンプモータ32によってポンプ本体31が回転駆動される。このポンプ本体31の回転駆動を受けて、タンク本体2内の液化水素LHは、タンク出口22aを通じて上流配管35に導入されるとともに、当該上流配管35からポンプ吸込口31aを通じてポンプ本体31に吸い込まれる。ポンプ本体31に吸い込まれた液化水素LHは、下流配管36を通じて気化器37へと圧送される。気化器37では、液化水素LHが気化されて水素ガスが生成される。生成された水素ガスは、所定のルートを通じて需要家に供給される。
【0020】
BOG圧縮機4は、タンク本体2の気相部Bからボイルオフガスを吸い込んで下流側に排出する流体機器であり、圧縮機本体41及び駆動モータ42を含む。圧縮機本体41は、羽根車等の回転要素を含む機構部である。駆動モータ42は、圧縮機本体41の回転要素を回転駆動する電動式のモータである。
【0021】
圧縮機本体41は、BOG配管45を介してタンク本体2に接続されている。具体的に、BOG配管45は、タンク本体2の内槽22の屋根部22Cと圧縮機本体41とを互いに接続している。駆動モータ42により圧縮機本体41が回転駆動されると、タンク本体2の気相部B内のボイルオフガスがBOG配管45を通じて圧縮機本体41に吸い込まれる。吸い込まれたボイルオフガスは、圧縮機本体41の下流側にあるバッファタンクへと圧送される。
【0022】
液化水素LHの払い出しが行われない通常時、BOG圧縮機4は、タンク本体2の気相部Bの圧力つまりタンク内圧を略一定に保つために使用される。すなわち、通常時にタンク本体2内の液化水素LHが少しずつ蒸発する結果、気相部Bのボイルオフガスの量は徐々に増大する。このため、気相部Bからボイルオフガスを適宜排出しないと、タンク内圧が過度に上昇することになる。BOG圧縮機4は、このようなタンク内圧の上昇が起きないように、ボイルオフガスを気相部Bから適宜排出する用途に供される。
【0023】
コントローラ5は、ポンプ3及びBOG圧縮機4を含む液化水素タンク1の各部の動作を統括的に制御する。コントローラ5は、例えば、演算を行うプロセッサ(CPU)と、ROM及びRAM等のメモリーと、各種の入出力バスと、を含むマイクロコンピュータを要部とする制御装置である。
【0024】
コントローラ5には、圧力センサ25及び液位センサ26からそれぞれの検出情報が入力される。すなわち、圧力センサ25により検出されたタンク内圧の情報と、液位センサ26により検出された液化水素LHの液位の情報とが、それぞれ電気信号としてコントローラ5に入力される。コントローラ5は、入力されたこれらの情報に基づいて、ポンプ3及びBOG圧縮機4を制御する。例えば、コントローラ5は、ポンプモータ32の駆動制御を通じてポンプ3(ポンプ本体31)による液化水素LHの吐出流量を調整するとともに、駆動モータ42の駆動制御を通じてBOG圧縮機4(圧縮機本体41)によるボイルオフガスの排出流量を調整する。
【0025】
[払い出し時の制御]
次に、タンク本体2から需要家へ液化水素LHを払い出す際の制御の詳細について、
図2のフローチャートを用いて説明する。なお、本図に示す制御が適用される前提として、タンク本体2の内部には液化水素LHが既に貯蔵されており、その液化水素LHの液位はタンク出口22aの高さを十分に超えるレベルであるものとする。
【0026】
図2に示す制御がスタートすると、コントローラ5は、タンク本体2からの液化水素LHの払い出しを開始する払い出し要求があるか否かを判定する(ステップS1)。例えば、コントローラ5は、オペレータが所定の操作部を通じて液化水素LHの払い出しを開始する指示を出した場合に、液化水素LHの払い出し要求があると判定する。
【0027】
前記ステップS1でYESと判定されて液化水素LHの払い出し要求があることが確認された場合、コントローラ5は、ポンプ3を駆動する(ステップS2)。すなわち、コントローラ5は、ポンプモータ32を作動させてポンプ本体31を回転駆動し、当該ポンプ本体31によってタンク本体2から液化水素LHを吸い込んで下流側に吐出する。
【0028】
次いで、コントローラ5は、タンク本体2内の液化水素LHの液位が基準レベルX1未満であるか否かを判定する(ステップS3)。すなわち、コントローラ5は、液位センサ26からの入力情報に基づき液化水素LHの液位を特定するとともに、特定した液位を予め定められた基準レベルX1と比較することにより、液化水素LHの液位が基準レベルX1未満であるか否かを判定する。
【0029】
ここで、液位の閾値である基準レベルX1は、ポンプ吸込口31aに流入する液化水素LHの圧力つまりポンプ3の吸込圧が液化水素LHの飽和蒸気圧を所定量上回るようなレベルに設定される。例えば、タンク本体2の内槽22の底面22Bに対するポンプ吸込口31aの相対高さh0(
図1)が1mである場合、基準レベルX1は約7mに設定し得る。この例によれば、液化水素LHの液位が基準レベルX1(=7m)になったとき、ポンプ吸込口31aに対する液化水素LHの液面の相対高さである有効液位hsは6mとなる。有効液位hsが6mあれば、ポンプ3の吸込圧は液化水素LHの飽和蒸気圧を十分に上回る。このことは、液位が基準レベルX1以上の状態でキャビテーションが発生する可能性を十分に低減する。
【0030】
前記ステップS3でNOと判定されて液化水素LHの液位が基準レベルX1以上であることが確認された場合、コントローラ5は、液化水素LHの払い出しを終了させる終了要求があるか否かを判定する(ステップS8)。例えば、コントローラ5は、オペレータが前記操作部を通じて液化水素LHの払い出しを終了させる指示を出した場合に、液化水素LHの払い出し終了要求があると判定する。
【0031】
前記ステップS8でNOと判定されて液化水素LHの払い出し終了要求が出されていないことが確認された場合、コントローラ5は、前記ステップS2に戻ってポンプ3の駆動を継続する。
【0032】
一方、前記ステップS8でYESと判定されて払い出し終了要求が出されたことが確認された場合、コントローラ5は、後述するステップS6に移行してポンプ3を停止させる。
【0033】
次に、前記ステップS3でYESと判定された場合、つまり液化水素LHの液位が基準レベルX1を下回った場合の制御について説明する。この場合、コントローラ5は、BOG圧縮機4によるボイルオフガスの排出量を減少させる(ステップS4)。例えば、コントローラ5は、BOG圧縮機4の駆動モータ42の出力(回転数)を低下させるか、当該駆動モータ42を停止させることにより、ボイルオフガスの排出量を減少させる。このボイルオフガス排出量の減少は、タンク本体2の気相部Bの圧力つまりタンク内圧を上昇させる作用をもたらす。
【0034】
すなわち、ポンプ3による液化水素LHの払い出しが開始されると、時間経過と共に液化水素LHの液位が徐々に低下して、気相部Bの容積が拡大する。この気相部Bの容積の拡大は、液化水素LHに対し継続的になされる入熱と相俟って、液化水素LHの蒸発を助長し、ボイルオフガスの発生量を増大させる。ただし、液化水素LHの払い出し中も、上述したBOG圧縮機4によるボイルオフガスの排出動作が継続して行われている。このため、前記ステップS4の制御が開始される前は、BOG圧縮機4によるボイルオフガスの排出動作が通常通り行われることにより、上述したボイルオフガス量の増大にかかわらずタンク内圧は略一定に維持される。
【0035】
これに対し、前記ステップS4の制御が開始されると、BOG圧縮機4によるボイルオフガスの排出量が減少する結果、新たに発生したボイルオフガスによる昇圧効果が、ボイルオフガス排出による減圧効果を上回ることになり、このことがタンク内圧の上昇をもたらす。具体的に、前記ステップS4において、コントローラ5は、タンク内圧の目標値である目標タンク内圧を上昇させ、その上昇後の目標タンク内圧に基づいてBOG圧縮機4によるボイルオフガスの排出量を制御することにより、タンク内圧を上昇させる。言い換えると、前記ステップS4において、BOG圧縮機4及びコントローラ5は、タンク内圧を上昇させる昇圧部として機能する。
【0036】
図3は、液化水素LHの液位と目標タンク内圧との関係を示すグラフである。本図に示すように、液化水素LHの液位が基準レベルX1以上であるとき、目標タンク内圧は基準値P1で一定とされる。これに対し、液化水素LHの液位が基準レベルX1を下回ると、目標タンク内圧は基準値P1よりも小さくされる。詳しくは、目標タンク内圧は、液化水素LHの液位が基準レベルX1に対し大きく低下するほど(グラフの左側ほど)、基準値P1に対し大きく増大するように設定される。
【0037】
コントローラ5は、上述した傾向で設定された目標タンク内圧に基づいてBOG圧縮機4によるボイルオフガスの排出量を制御することにより、液位が基準レベルX1まで低下した以降のタンク内圧を上昇させる。すなわち、液位が基準レベルX1以上の状態、つまり前記ステップS4の制御が開始される前の状態において、コントローラ5は、圧力センサ25により検出されたタンク内圧が上述の基準値P1に一致するようにBOG圧縮機4によるボイルオフガスの排出量を制御し、これによってタンク内圧を基準値P1付近に維持する。一方、液位が基準レベルX1を下回って前記ステップS4の制御が開始されると、コントローラ5は、液位が低下するほどBOG圧縮機4によるボイルオフガスの排出量を減少させ、これによってタンク内圧を基準値P1に対し漸増させる。
【0038】
前記ステップS4の制御がもたらすタンク内圧の漸増は、ポンプ3の吸込圧を低下し難くする。すなわち、前記ステップS4の制御により、基準レベルX1からの液位の低下量に反比例するようにタンク内圧が高められる結果、当該液位の低下がもたらす吸込圧の低下効果が、ポンプ内圧の上昇がもたらす吸込圧の上昇効果によって減殺もしくは相殺され、これによってポンプ吸込圧の低下が抑制される。特に、前記低下効果と前記上昇効果とが相殺されるようにタンク内圧の上昇傾向を設定した場合には、液位が基準レベルX1を下回ってからのポンプ3の吸込圧を、液位が基準レベルX1であるときの吸込圧と略同一の値に維持することができる。このことは、ポンプ3でのキャビテーション発生の可能性をより低減する。
【0039】
以上のようなステップS4の制御の開始後、コントローラ5は、液化水素LHの払い出しが完了したか否かを判定する(ステップS5)。例えば、コントローラ5は、液位センサ26により検出される液化水素LHの液位が予め定められた下限レベルに達した場合、もしくは、オペレータが前記操作部を通じて液化水素LHの払い出しを終了させる指示を出した場合に、液化水素LHの払い出しが完了したと判定する。なお、前者のケースにおける液位の下限レベルは、ポンプ吸込口31aの位置(高さh0)よりも若干高いレベルに設定される。
【0040】
前記ステップS5でNOと判定されて液化水素LHの払い出しが未完であることが確認された場合、コントローラ5は、前記ステップS4に戻って、ボイルオフガス排出量の減少によるポンプ内圧の上昇操作を継続する。
【0041】
一方、前記ステップS5でYESと判定されて液化水素LHの払い出しが完了したことが確認された場合、コントローラ5は、ポンプ3を停止させる(ステップS6)。これにより、タンク本体2からポンプ3に液化水素LHが吸い込まれなくなり、液化水素LHの払い出し動作が終了する。
【0042】
[作用効果]
以上説明したとおり、本実施形態では、ポンプ3によるタンク本体2からの液化水素LHの払い出しに伴ってその液位が基準レベルX1未満になると、タンク本体2内の気相部Bからのボイルオフガスの排出量が相対的に減少するようにBOG圧縮機4が制御され、これによって気相部Bの圧力であるタンク内圧が高められる。このような構成によれば、液化水素タンク1の工事費用を抑えながら、ポンプ3でのキャビテーションの発生を抑止できるという利点がある。
【0043】
すなわち、ポンプ3による液化水素LHの払い出しが開始されると、その後に生じる液化水素LHの液位の低下によってポンプ3の吸込圧が低下する。このようなポンプ3の吸込圧の低下は、キャビテーションの発生を誘発し、ポンプ3の損傷を招くおそれがある。これに対し、本実施形態では、液位の低下に応じてタンク内圧が高められるので、当該タンク内圧の上昇による液化水素LHの加圧効果により、ポンプ3の吸込圧をキャビテーションが起きない程度に保つことができる。ここで、キャビテーションを抑止する別の対策として、地盤Gを掘り下げた地下ピットにポンプ3を設置することが考えられる。タンク本体2の底面22Bとポンプ吸込口31aとの間に高低差が生じ、これによってポンプ3の吸込圧の上昇が見込めるからである。しかしながら、この方法では、地下ピットを構築するために追加の工事費用が生じることが避けられない。これに対し、BOG圧縮機4という既存の設備を用いてタンク内圧を上昇させる本実施形態によれば、上述した地下ピットの構築といった費用増大を招く対策を採らなくても、ポンプ3の吸込圧を高めてキャビテーションの発生を抑止することができる。
【0044】
特に、本実施形態では、液化水素LHの液位が基準レベルX1まで低下してから、タンク内圧を上昇させる制御が開始されるとともに、基準レベルX1に対する液位の低下量に反比例するようにタンク内圧が高められるので、液化水素LHの飽和蒸気圧を所定量上回るような値にポンプ3の吸込圧を適切に保つことができ、キャビテーションの発生を合理的に抑止することができる。
【0045】
[変形例]
以上、本開示の好ましい実施形態について説明したが、本開示はこれに限定されるわけではなく、例えば次のような変形が可能である。
【0046】
前記実施形態では、気相部Bの圧力であるタンク内圧を上昇させるために、BOG圧縮機4によるボイルオフガスの排出量を減少させたが、この方法に代えて、もしくは加えて、ポンプ3による液化水素LHの吐出量を減少させてもよい。ポンプ3による液化水素LHの吐出量が減少すると、気相部Bの容積拡大スピードが緩やかになるので、その後に発生する新たなボイルオフガスによって気相部B内の密度が高まり易くなる。これにより、タンク内圧を上昇させてキャビテーションの発生を抑止することができる。なお、このようにポンプ3の制御によってタンク内圧を上昇させる場合は、ポンプ3及びこれを制御するコントローラ5が、本開示における「昇圧部」に相当する。
【0047】
前記実施形態では、液化水素LHの液位の低下に応じてタンク内圧を上昇させる上述した制御を、ポンプ3による液化水素LHの払い出し時に行ったが、タンク内圧を上昇させる当該制御は、液化水素LHの払い出し時に限らず行うことが可能である。例えば、ポンプ3によって液化水素LHをある程度払い出した後、当該払い出しによって低下した液化水素LHの液位を液位センサ26によって確認し、その結果に応じた上昇幅だけタンク内圧が上昇するように、BOG圧縮機4によるボイルオフガスの排出量を減少させる制御等を行ってもよい。このようにすれば、次回行われる液化水素LHの払い出し時に、ポンプ3の吸込圧を確保してキャビテーションの発生を抑止することができる。
【0048】
前記実施形態では、液化水素LHの液位が基準レベルX1を下回った場合に、当該基準レベルX1に対する液位の低下量に反比例するように連続的にタンク内圧を上昇させたが、液位の低下に応じて段階的にタンク内圧を上昇させてもよい。言い換えると、タンク内圧は、総じて液位が低下するほど上昇するように制御されればよく、その上昇態様は連続的でも段階的であってもよい。
【0049】
前記実施形態では、タンク本体2内の液化水素LHの液位を液位センサ26により直接検出したが、液化水素LHの液位は演算により求めることも可能である。例えば、ポンプ3による液化水素LHの吐出量をセンサにより検出するとともに、温度条件等から液化水素LHの蒸発量を推定し、これら吐出量の検出値と蒸発量の推定値とに基づく所定の演算によって、液化水素LHの液位を都度求めるようにしてもよい。この場合、当該演算を行うコントローラ等のモジュールが、本開示における「液位検出部」に相当する。
【0050】
前記実施形態では、液化水素LHの液位の低下に応じたタンク内圧の上昇制御を、コントローラ5による制御の下で自動的に行ったが、当該制御の少なくとも一部を人手を介して行ってもよい。
【0051】
前記実施形態では、タンク本体2として球面屋根付き平底円筒形タンクを用いたが、本開示におけるタンク本体は、液化水素を保冷しつつ貯蔵できるものであればよく、その限りにおいて種々の形式のタンクをタンク本体として用いることが可能である。例えば、タンク本体は、多重殻の球形タンクであってもよい。
【0052】
[まとめ]
前記実施形態及びその変形例には、以下の開示が含まれる。
【0053】
本開示の一局面に係る液化水素タンクは、液化水素を貯蔵するタンク本体と、前記タンク本体内の液化水素を外部に払い出すポンプと、前記タンク本体内の液化水素の液位を検出する液位検出部と、前記タンク本体内の気相部の圧力であるタンク内圧を、前記液位検出部による検出液位の低下に応じて上昇させる昇圧部とを備える。
【0054】
本開示によれば、液化水素の液位の低下に応じてタンク内圧が高められるので、当該タンク内圧の上昇による液化水素の加圧効果により、ポンプの吸込圧をキャビテーションが起きない程度に保つことができる。言い換えると、本開示によれば、ポンプの吸込圧を稼ぐためにポンプを地中深くに埋めるといった対策を採らずとも、ポンプの吸込圧を十分に確保することができる。このことは、ポンプを設置するための地下ピットの構築を不要にするか、当該地下ピットを構築する場合でもその掘削深さを小さく抑えることを可能にする。これにより、液化水素タンクの工事費用を抑えながら、ポンプでのキャビテーションの発生を抑止することができる。
【0055】
好ましくは、前記昇圧部は、前記タンク本体の気相部に存在するボイルオフガスを吸い込んで下流側に排出するBOG圧縮機と、当該BOG圧縮機を制御するコントローラとを含む。前記コントローラは、前記タンク本体内の検出液位の低下に応じて前記BOG圧縮機によるボイルオフガスの排出量を減少させる。
【0056】
気相部からのボイルオフガスの排出量が減少すると、その後に発生する新たなボイルオフガスによって気相部内の密度が高まり易くなる。これにより、タンク内圧を上昇させてキャビテーションの発生を抑止することができる。また、BOG圧縮機という既存の設備を用いてタンク内圧が高められるので、液化水素タンクの工事費用を効果的に削減することができる。
【0057】
前記昇圧部は、前記ポンプと、当該ポンプを制御するコントローラとを含んでいてもよい。この場合、前記コントローラは、前記タンク本体内の検出液位の低下に応じて前記ポンプによる液化水素の吐出量を減少させる。
【0058】
ポンプによる液化水素の吐出量が減少すると、気相部の容積拡大スピードが緩やかになるので、その後に発生する新たなボイルオフガスによって気相部内の密度が高まり易くなる。これにより、タンク内圧を上昇させてキャビテーションの発生を抑止することができる。
【0059】
好ましくは、前記昇圧部は、前記タンク本体内の検出液位の低下に応じて前記タンク内圧を上昇させる前記制御を、前記検出液位が予め定められた基準レベルを下回った時点で開始し、前記検出液位が前記基準レベルに対し低下するほど前記タンク内圧を上昇させる。
【0060】
この態様では、液化水素の液位がある程度低下してから、その後の液位の低下に応じてタンク内圧が高められるので、キャビテーションの発生を合理的に抑止することができる。
【0061】
本開示の他の局面に係る方法は、液化水素を貯蔵するタンク本体と、当該タンク本体内の液化水素を外部に払い出すポンプと、を含む液化水素タンクのタンク内圧を制御する方法であって、前記タンク本体内の液化水素の液位を検出するステップと、前記液化水素の液位の低下が検出された場合に、当該液位の低下に応じて、前記タンク本体内の気相部の圧力であるタンク内圧を上昇させるステップとを含む。
【0062】
この方法によれば、上述した液化水素タンクの開示と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0063】
1 液化水素タンク
2 タンク本体
3 ポンプ
4 BOG圧縮機
5 コントローラ
26 液位センサ(液位検出部)
B 気相部
LH 液化水素