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  • 特開-液化水素設備 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094965
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】液化水素設備
(51)【国際特許分類】
   F17C 13/00 20060101AFI20240703BHJP
【FI】
F17C13/00 302A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211904
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】松田 吉洋
(72)【発明者】
【氏名】規矩 大誠
(72)【発明者】
【氏名】福原 太輔
(72)【発明者】
【氏名】北田 一輝
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA03
3E172AA06
3E172AB01
3E172BA06
3E172BD02
3E172BD05
3E172DA90
3E172HA05
3E172HA14
3E172KA03
(57)【要約】
【課題】貯蔵タンク内の冷熱エネルギーを有効利用する。
【解決手段】液化水素設備(1)は、液化水素を貯蔵する貯蔵タンク(2)と、貯蔵タンク(2)の気相部(2a)に存在するボイルオフガスをキャリア(100)へ導出し得るように貯蔵タンク(2)とキャリア(100)とを接続する第1輸送ライン(4)と、第1輸送ライン(4)に設けられ、貯蔵タンク(2)からボイルオフガスを吸い込んでキャリア(100)に送り出す圧縮装置(12)と、第1輸送ライン(4)における圧縮装置(12)よりも下流側に設けられた熱交換器(13)と、貯蔵タンク(2)から熱交換器(13)を通って需要家(110)まで延びるように配設され、圧縮装置(12)による圧縮後のボイルオフガスよりも低温の水素を貯蔵タンク(2)から熱交換器(13)に導く第2輸送ライン(5)とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化水素を貯蔵する貯蔵タンクと、
前記貯蔵タンクの気相部に存在するボイルオフガスを所定のキャリアへ導出し得るように前記貯蔵タンクと前記キャリアとを接続する第1輸送ラインと、
前記第1輸送ラインに設けられ、前記貯蔵タンクからボイルオフガスを吸い込んで前記キャリアに送り出す圧縮装置と、
前記第1輸送ラインにおける前記圧縮装置よりも下流側に設けられた熱交換器と、
前記貯蔵タンクから前記熱交換器を通って所定の需要家まで延びるように配設され、前記圧縮装置による圧縮後のボイルオフガスよりも低温の水素を前記貯蔵タンクから前記熱交換器に導く第2輸送ラインとを備えた、液化水素設備。
【請求項2】
請求項1に記載の液化水素設備において、
前記第1輸送ラインにおける前記圧縮装置よりも上流側に設けられた加温器をさらに備えた、液化水素設備。
【請求項3】
請求項2に記載の液化水素設備において、
前記加温器は、窒素の沸点以上の温度までボイルオフガスを加温する機能を有する、液化水素設備。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の液化水素設備において、
前記第1輸送ラインは、前記キャリアから液化水素を荷受けする際に前記貯蔵タンクから前記キャリアに返送されるボイルオフガスが流通するラインである、液化水素設備。
【請求項5】
請求項4に記載の液化水素設備において、
前記第2輸送ラインにおける前記熱交換器よりも下流側に設けられた下流加温器と、
前記第2輸送ラインにおける前記下流加温器よりも下流側に設けられた下流圧縮装置とをさらに備えた、液化水素設備。
【請求項6】
請求項4に記載の液化水素設備において、
前記液化水素の荷受け時に前記キャリアから前記貯蔵タンクに移送される液化水素が流通する荷受ラインと、
前記第1輸送ラインにおける前記熱交換器よりも下流側の位置から分岐して前記荷受ラインへと至る分岐ラインをさらに備えた、液化水素設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液化水素を扱う液化水素設備に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶等のキャリアから液化水素を荷受けして需要家に供給する液化水素設備が知られている。例えば、下記特許文献1には、液化水素を貯蔵する貯蔵タンクと、当該貯蔵タンクに接続された供給管と、当該供給管と船舶とを接続する多関節構造のローディングアームとを備えた設備が開示されている。貯蔵タンクは、所定の供給ラインを介して発電所等の需要家と接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-202783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した液化水素設備において、貯蔵タンクから需要家に水素が供給される場合には、両者を結ぶ供給ライン上を水素が通過する過程で種々の入熱や加温がなされる。これにより、需要家には、液化水素の温度帯(-253℃付近)から十分に昇温された水素ガスが供給される。このとき、単に外部からの入熱や加温によって水素ガスを昇温させたのでは、貯蔵タンクに蓄えられていた冷熱エネルギーが有効に利用されていないことになり、エネルギー効率の面で改善の余地がある。
【0005】
本開示は、前記のような事情に鑑みてなされたものであり、貯蔵タンク内の冷熱エネルギーを有効利用することが可能な液化水素設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するためのものとして、本開示の一局面に係る液化水素設備は、液化水素を貯蔵する貯蔵タンクと、前記貯蔵タンクの気相部に存在するボイルオフガスを所定のキャリアへ導出し得るように前記貯蔵タンクと前記キャリアとを接続する第1輸送ラインと、前記第1輸送ラインに設けられ、前記貯蔵タンクからボイルオフガスを吸い込んで前記キャリアに送り出す圧縮装置と、前記第1輸送ラインにおける前記圧縮装置よりも下流側に設けられた熱交換器と、前記貯蔵タンクから前記熱交換器を通って所定の需要家まで延びるように配設され、前記圧縮装置による圧縮後のボイルオフガスよりも低温の水素を前記貯蔵タンクから前記熱交換器に導く第2輸送ラインとを備えたものである。
【発明の効果】
【0007】
本開示の液化水素設備によれば、貯蔵タンク内の冷熱エネルギーを有効利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一実施形態に係る液化水素設備の全体構成を示すシステム図である。
図2】液化水素の荷受け前に行われるクールダウン処理の概要を説明するための図1相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[液化水素設備の構成]
図1は、本開示の一実施形態に係る液化水素設備1の全体構成を示すシステム図である。本図に示される液化水素設備1は、運搬船100から液化水素を荷受けして発電所110に供給するための設備である。具体的に、液化水素設備1は、運搬船100から供給された液化水素を受け入れて貯蔵する貯蔵タンク2と、運搬船100から貯蔵タンク2へと至る荷受ライン3と、貯蔵タンク2から運搬船100へと至る返送ライン4と、貯蔵タンク2から発電所110へと至る供給ライン5と、返送ライン4から分岐して荷受ライン3につながる第1分岐ライン6と、荷受ライン3から分岐した第2分岐ライン7とを備える。運搬船100は、液化水素を運搬するキャリアであって、貯蔵タンク2の近傍の港湾に着岸可能な船舶である。発電所110は、水素を消費する需要家であって、供給された水素を燃焼させてその燃焼エネルギーにより発電するプラントである。
【0010】
貯蔵タンク2は、液化水素を保冷しつつ貯蔵するタンクである。貯蔵タンク2としては、保冷性に優れた多重殻構造のタンクが好適である。この場合、貯蔵タンク2は、液化水素の貯蔵空間を画成する内槽と、内槽の外側に配置されかつ当該内槽との間に断熱層を形成する外槽とを少なくとも含む。貯蔵タンク2の形状は特に問わないが、例えば球面屋根付きの平底円筒形のタンクとすることができる。この他、球形の貯蔵タンクを用いることも可能である。
【0011】
荷受ライン3は、前記港湾に着岸した運搬船100と貯蔵タンク2とを互いに接続する配管である。運搬船100から液化水素を受け入れる荷受け時、運搬船100の貯槽から送出された液化水素は、荷受ライン3を通じて貯蔵タンク2に導入される。言い換えると、荷受ライン3は、液化水素の荷受け時に運搬船100から貯蔵タンク2に移送される液化水素が流通する配管である。
【0012】
貯蔵タンク2に液化水素が貯蔵されているとき、当該液化水素への入熱によって液化水素が蒸発し、蒸発した水素がボイルオフガス(BOG)として生成される。このため、貯蔵タンク2の上部には、ボイルオフガス(水素ガス)が充満される気相部2aが形成される。
【0013】
返送ライン4は、貯蔵タンク2の上部(屋根部)と運搬船100とを互いに接続する配管である。この返送ライン4は、液化水素の荷受け時に運搬船100にボイルオフガスを返送する用途に供される。すなわち、液化水素の荷受け時は、運搬船100の貯槽から液化水素が払い出されて貯蔵タンク2に導入される。このとき、安定した荷受けを維持するために、運搬船100の貯槽から払い出される液化水素の量に応じて、貯蔵タンク2の気相部2aにあるボイルオフガスが返送ライン4を通じて運搬船100に供給される。なお、返送ライン4は、本開示における「第1輸送ライン」に相当する。
【0014】
返送ライン4上には、第1加温器11と、第1圧縮装置12と、熱交換器13とが、貯蔵タンク2に近い上流側からこの順に配設されている。
【0015】
第1加温器11は、貯蔵タンク2の気相部2aから抜き出された低温のボイルオフガスを加温する。第1加温器11は、例えば、常温の空気又は水を熱交換用の媒体として用いた熱交換器とすることができる。
【0016】
第1圧縮装置12は、第1加温器11を通過した加温後のボイルオフガスを吸い込んで下流側に圧送する。第1圧縮装置12は、例えば、羽根車等の回転要素と、当該回転要素を回転駆動するモータ等の駆動源と、を含んだものとすることができる。
【0017】
熱交換器13は、第1圧縮装置12から圧送されたボイルオフガスを再び冷却する。すなわち、熱交換器13は、供給ライン5を流れる低温のボイルオフガスを熱交換用の媒体として用いることにより、第1加温器11及び第1圧縮装置12を通過した加温後のボイルオフガスを再び冷却する。
【0018】
返送ライン4は、貯蔵タンク2と第1加温器11とを接続する上流配管4aと、第1圧縮装置12と熱交換器13とを接続する中途配管4bと、熱交換器13と運搬船100とを接続する下流配管4cとを含む。液化水素の荷受け時、貯蔵タンク2の気相部2aから抜き出されたボイルオフガスは、上流配管4aを通じて第1加温器11及び第1圧縮装置12に導入される。第1圧縮装置12から圧送されたボイルオフガスは、中途配管4bを通じて熱交換器13に導入される。熱交換器13を通過したボイルオフガスは、下流配管4cを通じて運搬船100に導入される。
【0019】
供給ライン5は、貯蔵タンク2の上部(屋根部)と発電所110とを互いに接続する配管である。この供給ライン5は、発電所110において水素を用いた発電が行われる水素発電時に、当該発電所110にボイルオフガス(水素ガス)を供給する用途に供される。すなわち、水素発電時は、貯蔵タンク2の気相部2aにあるボイルオフガスが、供給ライン5を通じて発電所110に供給される。発電所110では、供給されたボイルオフガスが燃焼に供され、その燃焼エネルギーによって発電が行われる。なお、供給ライン5は、本開示における「第2輸送ライン」に相当する。
【0020】
供給ライン5は、上述した返送ライン4上の熱交換器13を横切るように配設されている。この供給ライン5における熱交換器13よりも下流側の部分には、第2加温器21及び第2圧縮装置22が、上流側からこの順に配設されている。なお、第2加温器21は本開示における「下流加温器」に相当し、第2圧縮装置22は本開示における「下流圧縮装置」に相当する。
【0021】
第2加温器21は、熱交換器13を通過したボイルオフガスを加温する。第2加温器21は、上述した第1加温器11と同様に、常温の空気又は水を熱交換用の媒体として用いた熱交換器とすることができる。
【0022】
第2圧縮装置22は、第2加温器21を通過した加温後のボイルオフガスを吸い込んで下流側に圧送する。第2圧縮装置22は、上述した第1圧縮装置12と同様に、羽根車等の回転要素と、当該回転要素を回転駆動するモータ等の駆動源と、を含んだものとすることができる。ただし、第2圧縮装置22としては、第1圧縮装置12よりも圧力比の高いものが好適である。
【0023】
供給ライン5は、貯蔵タンク2と熱交換器13とを接続する上流配管5aと、熱交換器13と第2加温器21とを接続する中途配管5bと、第2圧縮装置22と発電所110とを接続する下流配管5cとを含む。水素発電時、貯蔵タンク2の気相部2aから抜き出されたボイルオフガスは、上流配管5aを通じて熱交換器13に導入される。熱交換器13を通過したボイルオフガスは、中途配管5bを通じて第2加温器21及び第2圧縮装置22に導入される。第2圧縮装置22から圧送されたボイルオフガスは、下流配管5cを通じて発電所110に導入される。
【0024】
ここで、運搬船100からの液化水素の荷受けと、発電所110での水素発電とが同時に行われることがある。図1では、このような状況で返送ライン4の各部を流れるボイルオフガスの温度を、それぞれ第1温度Ta1、第2温度Ta2、第3温度Ta3として表記している。第1温度Ta1は、返送ライン4の上流配管4aを通じて第1加温器11に導入されるボイルオフガスの温度であり、第2温度Ta2は、返送ライン4の中途配管4bを通じて熱交換器13に導入されるボイルオフガスの温度であり、第3温度Ta3は、熱交換器13から返送ライン4の下流配管4cに導出されたボイルオフガスの温度である。同様に、図1では、液化水素の荷受けと水素発電とが同時に行われている状況で供給ライン5の各部を流れるボイルオフガスの温度を、それぞれ第4温度Tb1、第5温度Tb2、第6温度Tb3として表記している。第4温度Tb1は、供給ライン5の上流配管5aを通じて熱交換器13に導入されるボイルオフガスの温度であり、第5温度Tb2は、供給ライン5の中途配管5bを通じて第2加温器21に導入されるボイルオフガスの温度であり、第6温度Tb3は、第2圧縮装置22から供給ライン5の下流配管5cに導出されたボイルオフガスの温度である。
【0025】
まず、返送ライン4上のボイルオフガスの温度である第1~第3温度Ta1~Ta3の大小関係について説明する。第1温度Ta1は、貯蔵タンク2の内部温度に近い温度、換言すれば液化水素の温度帯に近い温度であり、例えば-230℃程度になると想定される。第2温度Ta2は、第1加温器11で加温されかつ第1圧縮装置12で圧縮された後のガス温度であるから、第1温度Ta1に比べてある程度高い温度、具体的には窒素の沸点(約-200℃)を超える温度になる。一例として、第2温度Ta2は、-160℃を超える温度になり得る。第3温度Ta3は、熱交換器13で熱交換された後のガス温度、つまり供給ライン5の上流配管5aからの導入ガスであって第1温度Ta1と略同温のガスとの熱交換により冷却された後の温度であるから、第2温度Ta2よりも低くかつ第1温度Ta1よりも高くなる。このことから、返送ライン4上の温度の大小関係として、Ta1<Ta3<Ta2の関係が成立する。
【0026】
次に、供給ライン5上のボイルオフガスの温度である第4~第6温度Tb1~Tb3の大小関係について説明する。第4温度Tb1は、上述した第1温度Ta1と同じく、貯蔵タンク2の内部温度に近い温度であり、例えば-230℃程度になると想定される。第5温度Tb2は、熱交換器13で熱交換された後のガス温度、つまり返送ライン4の中途配管4bから導入される第2温度Ta2(窒素の沸点を超える温度)のガスとの熱交換により加温された後のガス温度であるから、第4温度Tb1よりも高くかつ第2温度Ta2よりも低くなる。第6温度Tb3は、第2加温器21で加温されかつ第2圧縮装置22で圧縮された後のガス温度であるから、第5温度Tb2よりもさらに高くなる。このことから、供給ライン上の温度の大小関係として、Tb1<Tb2<Tb3の関係が成立する。
【0027】
上述したとおり、本実施形態では、第1加温器11及び第1圧縮装置12を通過した後のガス温度である第2温度Ta2が、窒素の沸点よりも高い値(例えば-160℃超)に設定される。言い換えると、本実施形態では、返送ライン4にボイルオフガスを流す液化水素の荷受け時に、第1加温器11によってボイルオフガスが窒素の沸点以上の温度まで加温されるとともに、この加温後のボイルオフガスの温度が第1圧縮装置12での圧縮によりさらに高められるようになっている。
【0028】
第1分岐ライン6は、返送ライン4の下流配管4cと荷受ライン3とを接続する配管である。具体的に、第1分岐ライン6は、運搬船100の着岸位置に近い下流配管4cの下流端部と、運搬船100の着岸位置に近い荷受ライン3の上流端部とを互いに接続するように配設されている。なお、第1分岐ライン6は、本開示における「分岐ライン」に相当する。
【0029】
第2分岐ライン7は、荷受ライン3と供給ライン5とを接続する配管である。具体的に、第2分岐ライン7は、貯蔵タンク2に近い荷受ライン3の下流端部と、供給ライン5における第2圧縮装置22よりも上流側の位置とを互いに接続するように配設されている。なお、第2分岐ライン7の供給ライン5への接続先は、第2圧縮装置22よりも上流側であればよく、貯蔵タンク2と熱交換器13との間、熱交換器13と第2加温器21との間、第2加温器21と第2圧縮装置22との間、のいずれでもよい。
【0030】
第1分岐ライン6及び第2分岐ライン7は、運搬船100が港湾に着岸する前に荷受ライン3をボイルオフガスで冷却するクールダウン処理の用途に供される。言い換えると、第1分岐ライン6及び第2分岐ライン7は、運搬船100から液化水素を荷受けする際には使用されない。このため、図1では両分岐ライン6,7を破線で示している。
【0031】
図2は、上述したクールダウン処理が行われているときのボイルオフガスの流れを示す図である。クールダウン処理は、運搬船100が着岸する前に行われる処理であるから、図2では運搬船100を想像線(二点鎖線)で表記している。本図に示すように、クールダウン処理の際には、貯蔵タンク2から抜き出された低温のボイルオフガスが返送ライン4及び第1分岐ライン6を通じて荷受ライン3に導入されることにより、荷受ライン3が冷却される。
【0032】
詳しくは、貯蔵タンク2からのボイルオフガスは、第1加温器11及び第1圧縮装置12による加温及び圧縮と、熱交換器13による冷却とを経ながら、返送ライン4の上流配管4a、中途配管4b、及び下流配管4cを順に流れ、さらに当該下流配管4cの下流端部から第1分岐ライン6へと導出される。第1分岐ライン6に導出されたボイルオフガスは、当該第1分岐ライン6を通じて荷受ライン3の上流端部へと送られる。このように、貯蔵タンク2からのボイルオフガスは、返送ライン4及び第1分岐ライン6を通じて荷役ライン3の上流端部に導入されるとともに、その途中で熱交換器13により冷却される。
【0033】
また、荷受ライン3の上流端部に導入されたボイルオフガスは、当該荷役ライン3の下流端部まで流れた後、第2分岐ライン7へと導出される。第2分岐ライン7に導出されたボイルオフガスは、当該第2分岐ライン7を通じて供給ライン5における第2圧縮装置22よりも上流側の位置へと送られ、当該供給ライン5を通じて発電所110に供給される。このように、クールダウン処理の際には、貯蔵タンク2からのボイルオフガスが荷役ライン3の上流端部から下流端部まで流れることにより、荷役ライン3が冷却される。
【0034】
[作用効果]
以上説明したとおり、本実施形態では、貯蔵タンク2と運搬船100とを接続する返送ライン4上に、第1加温器11、第1圧縮装置12、及び熱交換器13が上流側からこの順に配置されるとともに、貯蔵タンク2と発電所110とを接続する供給ライン5の上流配管5aを流れる低温のボイルオフガスが熱交換器13に媒体として導入される。このような構成によれば、貯蔵タンク2内の冷熱エネルギーを有効利用することができ、エネルギー効率を向上させることができる。
【0035】
すなわち、本実施形態では、返送ライン4上の第1加温器11及び第1圧縮装置12を通過したボイルオフガスが、運搬船100に到達する前に熱交換器13に導入されて、供給ライン5を流れるボイルオフガスとの熱交換によって冷却される。このため、返送ライン4を通じて十分に低温かつ高密度のボイルオフガス(水素ガス)を運搬船100に供給することができ、運搬船100の輸送効率を向上させることができる。しかも、運搬船100に向かうボイルオフガスが、貯蔵タンク2から発電所110へと向かう途中の低温のボイルオフガスを用いた熱交換によって冷却されるので、貯蔵タンク2内の冷熱エネルギーを有効利用することができ、エネルギー効率を向上させることができる。
【0036】
また、本実施形態では、返送ライン4における第1圧縮装置12の上流側に第1加温器11が設けられるので、貯蔵タンク2からの低温のボイルオフガスを第1加温器11によって加温した後に第1圧縮装置12に導入することができる。これにより、第1圧縮装置12の耐冷性の要求レベルが過剰になるのを防止でき、第1圧縮装置12の高スペック化による価格上昇等を抑制することができる。
【0037】
特に、本実施形態では、第1加温器11によってボイルオフガスが窒素の沸点以上の温度にまで加温されるので、第1圧縮装置12として、LNG設備等において従来から用いられてきた圧縮装置を流用することができ、第1圧縮装置12の価格上昇等を効果的に抑制することができる。
【0038】
また、本実施形態では、熱交換器13よりも下流側にある供給ライン5上に、第2加温器21及び第2圧縮装置22が上流側からこの順に配置されるので、第2圧縮装置22に導入されるボイルオフガスの温度を第2加温器21により高めることができる。このため、仮に運搬船100の不在等のために返送ライン4上の流れが停止されている状況、換言すれば熱交換器13による熱交換機能が望めない状況でも、第2圧縮装置22に過度に低温のボイルオフガスが導入されるのを防止することができる。すなわち、熱交換器13で加温されなかった低温のボイルオフガスを第2加温器21で加温した後に第2圧縮装置22に導入できるので、過度に低温のボイルオフガスが第2圧縮装置22に導入されることがなく、第2圧縮装置22の耐冷性の要求レベルが過剰になるのを防止することができる。
【0039】
また、本実施形態では、返送ライン4の下流配管4cから分岐して荷受ライン3の上流端部に至る第1分岐ライン6が設けられるので、運搬船100が到着する前に、貯蔵タンク2からのボイルオフガスを返送ライン4及び第1分岐ライン6を通じて荷受ライン3に導入することができる(図2参照)。すなわち、本実施形態では、貯蔵タンク2内の液化水素の蒸発により生じた低温のボイルオフガスを事前に荷受ライン3に流して当該荷受ライン3を冷却することができる。これにより、運搬船100の到着時に速やかに荷受け作業に移行することが可能になるので、荷受作業の効率を向上させることができる。また、前記のような予冷却(クールダウン処理)のために荷受ライン3に流されたボイルオフガスは、第2分岐ライン7を通じて発電所110に供給されるので、水素を無駄なく利用することができる。
【0040】
[変形例]
以上、本開示の好ましい実施形態について説明したが、本開示はこれに限定されるわけではなく、例えば次のような変形が可能である。
【0041】
前記実施形態では、需要家としての発電所110に、貯蔵タンク2内の液化水素の蒸発により生じたボイルオフガス(水素ガス)を供給ライン5を通じて供給し、供給ライン5の上流端から下流端までをいずれも水素ガスが流れるようにしたが、少なくとも供給ライン5の上流側の一部については、液化水素が流れる配管であってもよい。言い換えると、供給ライン5の上流配管5aを通じて貯蔵タンク2から熱交換器13に導入される水素は、返送ライン4の中途配管4bを通じて熱交換器13に導入されるボイルオフガスよりも低温の水素であればよく、水素ガスであっても液化水素であってもよい。なお、供給ライン5の上流配管5aに液化水素を流す場合、熱交換器13と第2加温器21との間に液化水素を蒸発させる気化器を設けてもよい。あるいは、第2加温器21を、液化水素を蒸発させる機能と、当該蒸発により生じた水素ガスを加温する機能とを兼ね備えたものとしてもよい。
【0042】
前記実施形態では、返送ライン4における第1圧縮装置12よりも上流側に第1加温器11を設けたが、第1加温器11は必須ではなく、省略してもよい。この場合、貯蔵タンク2から抜き出される低温のボイルオフガスは、第1圧縮装置12での圧縮により加温される。この場合の加温幅、つまり貯蔵タンク2から出た直後のガス温度と第1圧縮装置12を出た直後のガス温度との差は、第1加温器11が存在する場合よりも小さくなるが、運搬船100にできるだけ低温のボイルオフガスを供給したい要望からすれば、やはり加温後のボイルオフガスは再度冷却することが好ましい。これに対し、第1圧縮装置12よりも下流側に熱交換器13が設けられていれば、当該熱交換器13での熱交換によって前記ボイルオフガスを冷却できるので、運搬船100への供給ガスの温度を十分に低くすることができる。
【0043】
前記実施形態では、貯蔵タンク2から供給ライン5を通じて発電所110に水素を供給する例について説明したが、供給ライン5を通じた水素の供給先は、水素を消費する何らかの需要家であればよく、例えば水素を燃料として用いる車両等に水素を供給する水素ステーションであってもよい。
【0044】
前記実施形態では、運搬船100から荷受けされた液化水素を貯蔵タンク2で貯蔵する例について説明したが、液化水素の供給元は、液化水素を運搬する何らかのキャリアであればよく、例えばタンクローリー等の運搬車であってもよい。
【0045】
[まとめ]
前記実施形態及びその変形例には、以下の開示が含まれる。
【0046】
本開示の一局面に係る液化水素設備は、液化水素を貯蔵する貯蔵タンクと、前記貯蔵タンクの気相部に存在するボイルオフガスを所定のキャリアへ導出し得るように前記貯蔵タンクと前記キャリアとを接続する第1輸送ラインと、前記第1輸送ラインに設けられ、前記貯蔵タンクからボイルオフガスを吸い込んで前記キャリアに送り出す圧縮装置と、前記第1輸送ラインにおける前記圧縮装置よりも下流側に設けられた熱交換器と、前記貯蔵タンクから前記熱交換器を通って所定の需要家まで延びるように配設され、前記圧縮装置による圧縮後のボイルオフガスよりも低温の水素を前記貯蔵タンクから前記熱交換器に導く第2輸送ラインとを備える。
【0047】
本開示によれば、第1輸送ライン上の圧縮装置を通過したボイルオフガスが、キャリアに到達する前に熱交換器に導入されて、第2輸送ラインを流れる水素との熱交換によって冷却される。このため、第1輸送ラインを通じて十分に低温かつ高密度のボイルオフガス(水素ガス)をキャリアに供給することができ、キャリアの輸送効率を向上させることができる。しかも、キャリアに向かうボイルオフガスが、貯蔵タンクから需要家へと向かう途中の低温の水素を用いた熱交換によって冷却されるので、貯蔵タンク内の冷熱エネルギーを有効利用することができ、エネルギー効率を向上させることができる。
【0048】
好ましくは、前記液化水素設備は、前記第1輸送ラインにおける前記圧縮装置よりも上流側に設けられた加温器をさらに備える。
【0049】
この態様では、貯蔵タンクからの低温のボイルオフガスを加温器によって加温した後に圧縮装置に導入することができる。これにより、圧縮装置の耐冷性の要求レベルが過剰になるのを防止でき、圧縮装置の高スペック化による価格上昇等を抑制することができる。
【0050】
好ましくは、前記加温器は、窒素の沸点以上の温度までボイルオフガスを加温する機能を有する。
【0051】
この態様では、圧縮装置として、LNG設備等において従来から用いられてきた圧縮装置を流用することができ、圧縮装置の価格上昇等を効果的に抑制することができる。
【0052】
前記第1輸送ラインは、例えば、前記キャリアから液化水素を荷受けする際に前記貯蔵タンクから前記キャリアに返送されるボイルオフガスが流通するラインであり得る。
【0053】
この態様では、キャリアから液化水素を荷受けする際に、熱交換器で冷却された低温かつ高密度のボイルオフガスを第1輸送ラインを通じてキャリアに返送することができる。これにより、キャリアから貯蔵タンクへの液化水素の移送(荷受け)を効率的に行うことができる。
【0054】
好ましくは、前記液化水素設備は、前記第2輸送ラインにおける前記熱交換器よりも下流側に設けられた下流加温器と、前記第2輸送ラインにおける前記下流加温器よりも下流側に設けられた下流圧縮装置とをさらに備える。
【0055】
この態様では、第2輸送ラインを通じて下流圧縮装置に導入される水素ガスの温度を下流加温器により高めることができる。このため、仮にキャリアの不在等のために第1輸送ライン上の流れが停止されている状況、換言すれば熱交換器による熱交換機能が望めない状況でも、下流圧縮装置に過度に低温のボイルオフガスが導入されるのを防止することができ、当該下流圧縮装置の価格上昇等を抑制することができる。
【0056】
好ましくは、前記液化水素設備は、前記液化水素の荷受け時に前記キャリアから前記貯蔵タンクに移送される液化水素が流通する荷受ラインと、前記第1輸送ラインにおける前記熱交換器よりも下流側の位置から分岐して前記荷受ラインへと至る分岐ラインをさらに備える。
【0057】
この態様では、キャリアが到着する前に、貯蔵タンクからのボイルオフガスを第1輸送ライン及び分岐ラインを通じて荷受ラインに導入し、導入したボイルオフガスによって荷受ラインを冷却することができる。これにより、キャリアの到着時に速やかに荷受け作業に移行することが可能になるので、荷受作業の効率を向上させることができる。
【符号の説明】
【0058】
1 液化水素設備
2 貯蔵タンク
2a 気相部
3 荷受ライン
4 返送ライン(第1輸送ライン)
5 供給ライン(第2輸送ライン)
6 第1分岐ライン(分岐ライン)
11 第1加温器(加温器)
12 第1圧縮装置(圧縮装置)
13 熱交換器
21 第2加温器(下流加温器)
22 第2圧縮装置(下流圧縮装置)
100 運搬船(キャリア)
110 発電所(需要家)
図1
図2