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  • 特開-積層体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094977
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20240703BHJP
   E04F 13/07 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
B32B27/00 B
B32B27/00 E
E04F13/07 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211927
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】栃木 華恵
(72)【発明者】
【氏名】柏女 恵
(72)【発明者】
【氏名】森田 まち子
(72)【発明者】
【氏名】鍋谷 広美
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AK01E
4F100AK04B
4F100AK07E
4F100AK51C
4F100AK51D
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA07
4F100CA02D
4F100CA06E
4F100CA07E
4F100CB00D
4F100EJ13E
4F100EJ55E
4F100EJ61E
4F100EJ65A
4F100GB07
4F100GB08
4F100HB31C
4F100JA11E
4F100JK06
4F100JL09
4F100JL10B
4F100JN01E
4F100YY00D
4F100YY00E
(57)【要約】
【課題】本開示は、耐候性が向上され層間密着性に優れた積層体を提供することを目的とする。
【解決手段】本実施形態の化粧シート10は、原反層7上に、少なくとも絵柄模様層6、接着剤層5および、接着剤層5と隣接する透明樹脂層1がこの順に設けられた積層体であって、接着剤層5の厚みが1μm以上20μm以下の範囲内であり、平均粒子径(D50)が3.0μmである球状アルミナ粒子を用いて測定した接着剤層5のエロージョン率E1と当該球状アルミナ粒子を用いて測定した透明樹脂層1のエロージョン率E2との差分が、4.0μm/g以下であり、接着剤層5と隣接する透明樹脂層1が酸変性した樹脂を含まない。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色基材シート上に、少なくとも絵柄印刷層、接着剤層および、前記接着剤層と隣接する透明樹脂層がこの順に設けられた積層体であって、
前記接着剤層の厚みが1μm以上20μm以下の範囲内であり、
平均粒子径(D50)が3.0μmである球状アルミナ粒子を用いて測定した前記接着剤層のエロージョン率E1と前記球状アルミナ粒子を用いて測定した前記透明樹脂層のエロージョン率E2との差分が、4.0μm/g以下であり、
前記接着剤層と隣接する前記透明樹脂層が酸変性した樹脂を含まない
ことを特徴とする積層体。
【請求項2】
着色基材シート上に、少なくとも絵柄印刷層、接着剤層および、前記接着剤層と隣接する透明樹脂層をこの順に備える積層体であって、
前記接着剤層の厚みが1μm以上20μm以下の範囲内であり、
平均粒子径(D50)が3.0μmである球状アルミナ粒子を用いて測定した前記接着剤層のエロージョン率E1と前記球状アルミナ粒子を用いて測定した前記透明樹脂層のエロージョン率E2との差分が4.0μm/g以下であり、
酸変性した樹脂を含む樹脂層が設けられていない
ことを特徴とする積層体。
【請求項3】
前記酸変性した樹脂は、マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記透明樹脂層は、酸変性していないポリプロピレン樹脂を含み、
フーリエ型赤外分光測定により求めた前記ポリプロピレン樹脂の結晶化度が40%以上80%以下である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の積層体。
【請求項5】
前記積層体に対し、耐候試験機を用いて所定時間の耐候試験を実施した場合に、
前記耐候試験を実施前の前記積層体の剥離強度P0と前記耐候試験を実施後の剥離強度Ptとの比(Pt/P0)が1/5以上である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の積層体。
【請求項6】
前記耐候試験は、前記耐候試験機の光源として人工光源を用いている
ことを特徴とする請求項5に記載の積層体。
【請求項7】
前記耐候試験は、高酸素濃度かつ高湿度の環境下で実施される
ことを特徴とする請求項6に記載の積層体。
【請求項8】
前記耐候試験は、酸素濃度が50%以上であり、かつ湿度90%以上の環境下で実施される
ことを特徴とする請求項7に記載の積層体。
【請求項9】
前記接着剤層は、ウレタン系樹脂を含有する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の積層体。
【請求項10】
前記透明樹脂層の前記接着剤層側の表面は、オゾン処理、コロナ処理およびプラズマ処理のうちいずれかの方法により官能基導入が成されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
床、天井、壁、玄関ドア等の建築物の内装材又は外装材、扉、窓枠、手摺り、廻り縁、巾木、モール等の建具又は造作部材として、一般的に、鋼板等の金属部材、樹脂部材、木質部材等で構成された被着材に化粧シートを貼りあわせて用いられる。化粧シートは、複数の層を有する積層体として形成されている。また化粧シート(積層体)は、上述のような建築物の内装材、外装材、建具、造作部材の他、キッチン、家具又は家電製品、OA機器等のキャビネットの表面化粧板、さらに車両の内装材又は外装材等にも幅広く用いられる。
【0003】
従来、例えば内装材に用いる化粧シートとしては、層間密着性を向上するため絵柄印刷層と透明樹脂層との間にアクリル酸エステル・エチレン・無水マレイン酸の3元共重合体を主成分とする樹脂(マレイン酸変性樹脂)による接着性層を備えたものが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-250023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
積層体である化粧シートは、上述のように内装材や外装材、建具又は造作部材など、幅広い用途に使用される。このため、耐候性に優れ層間密着性が良好であることが求められる。耐候性が十分でない場合、例えば外装用途に用いた際などに層間密着性が低減して層間剥離(剥がれ)が発生する場合がある。特に近年環境に配慮して使用頻度が高まっているオレフィン系樹脂は非極性であるため、異なる種類の樹脂層との密着性が極めて弱く、層間剥離が発生し易いという問題があった。従って、耐候性が向上され層間密着性に優れる化粧シートの開発が望まれている。ここで、耐候性が向上され層間密着性に優れるとは、後述する耐候試験の実施後において層間密着性が一定以上の評価を得ることを示す。なお、上記耐候試験および層間密着性の評価については後述する。
【0006】
しかしながら、従来の化粧シートに用いられる上記のようなマレイン酸変性樹脂による接着性層(マレイン酸変性樹脂層)は、物性面において密着性が不十分であって、上記耐候試験の実施後に硬化(脆化)が起こるという問題がある。このため、層間剥離の抑制が実現できていない。
【0007】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、耐候性が向上され層間密着性に優れた積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示の一態様による積層体は、着色基材シート上に、少なくとも絵柄印刷層、接着剤層および、前記接着剤層と隣接する透明樹脂層がこの順に設けられた積層体であって、前記接着剤層の厚みが1μm以上20μm以下の範囲内であり、平均粒子径(D50)が3.0μmである球状アルミナ粒子を用いて測定した前記接着剤層のエロージョン率E1と前記球状アルミナ粒子を用いて測定した前記透明樹脂層のエロージョン率E2との差分が、4.0μm/g以下であり、前記接着剤層と隣接する前記透明樹脂層が酸変性した樹脂を含まないことを特徴とする。
【0009】
また上記課題を解決するために、本開示のさらに他の一態様による積層体は、着色基材シート上に、少なくとも絵柄印刷層、接着剤層および、前記接着剤層と隣接する透明樹脂層をこの順に備える積層体であって、前記接着剤層の厚みが1μm以上20μm以下の範囲内であり、平均粒子径(D50)が3.0μmである球状アルミナ粒子を用いて測定した前記接着剤層のエロージョン率E1と前記球状アルミナ粒子を用いて測定した前記透明樹脂層のエロージョン率E2との差分が4.0μm/g以下であり、酸変性した樹脂を含む樹脂層が設けられていないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一態様によれば、耐候性が向上され層間密着性に優れた積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の一実施形態に係る化粧シートの概略構成を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態に係る化粧シート及び化粧部材について、図面を参照しつつ説明する。ここで、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なる。本開示の範囲内にあるものであれば、必ずしも図面に示す順に積層してある必要はない。またこの図面に記載されていない層が付加されていても良い。また、以下に示す実施形態は、本開示の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本開示の技術的思想は、構成部品の材質、形状、及び構造等が下記のものに特定するものでない。本開示の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
また、以下の説明における「左右」や「上下」の方向は、単に説明の便宜上の定義であって、本開示の技術的思想を限定するものではない。よって、例えば、紙面を90度回転すれば「左右」と「上下」とは交換して読まれ、紙面を180度回転すれば「左」が「右」になり、「右」が「左」になることは勿論である。
【0013】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、化粧シート(積層体)において、接着剤層の厚みが特定の範囲内であり、且つ接着剤層のエロージョン率と接着剤層に隣接する透明樹脂層のエロージョン率との差分が特定の範囲内であることにより、積層体の耐候性を向上し優れた層間密着性を付与することができることを見出した。これにより、本発明者らは、耐候性が向上され良好な層間密着性を有する化粧シート(積層体)を発明するに至った。
以下、図面を参照して本開示の一実施形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。
【0014】
(エロージョン率E1,E2の測定)
まず、本実施形態において規定する「エロージョン率E1」、「エロージョン率E2」について説明する。
本実施形態におけるエロージョン率E1は、後述する接着剤層5のエロージョン率であり、本実施形態におけるエロージョン率E2は、接着剤層5に隣接する透明樹脂層1のエロージョン率である。
【0015】
本実施形態におけるエロージョン率E1,E2は、例えば、材料表面精密試験機(マイクロ・スラリージェット・エロージョン試験機、以下MSE試験機、株式会社パルメソ製/装置名ナノ・エム・エス・イー/型式N-MSE-A)を用いて測定される値である。また、エロージョン率E1,E2の具体的な測定方法は、次の通りである。
平均粒子径D50=3.0μmの球状(球形)アルミナ粉末を水に分散させて、スラリーの総質量に対して球状アルミナ粉末を3質量%含むスラリーを調製する。化粧シートを台に固定し、その化粧シートと、上記スラリーを噴射するためのノズルとの投射距離を4mmに設定する。ノズルのノズル径は1mm×1mmとする。ノズルから球状アルミナ粉末を含んだスラリーを噴射し、台に固定された化粧シートを表面保護層から順次切削する。この時の噴射強度は、事前に同様の実験条件にて既存の硬さ基準片、SiウエハまたはPMMA基板を切削し、スラリーの噴射量に対する削れた変位(即ち、スラリー1gを吹き付けた際に切削される深さ)から標準投射力Xを求め、その値に基づいて決定される。球状アルミナ粉末を用いた本実施形態では、既存の硬さ基準片HRC-45に対して1.0μm/g削れたときの投射力を標準投射力Xとした。
【0016】
なお、本実施形態におけるエロージョン率E1は接着剤層について測定するものであり、エロージョン率E2は透明樹脂層について測定するものである。したがって、その測定方法において、上述のように表面保護層から順次切削してもよいし、表面保護層を形成する前の透明樹脂層、接着剤層を順次切削してもよい。
【0017】
切削された部分を水で洗浄した後に、切削の深さ、即ちエロージョン深さZを測定する。エロージョン深さZは、例えば、触針式表面形状測定器(株式会社小坂研究所製/型式PU-EU1/触針子先端R=2~10μm/荷重100または200μN/計測倍率10,000~20,000/測長3~5mm/計測速度0.2mm/sec)を用いて測定する。本実施形態では、上述の投射力より算出した投射粒子量X’[g]とエロージョン深さZ[μm]とを用いて、エロージョン率E[μm/g]を算出した。
【0018】
なお、エロージョン率E1,E2は、エロージョン率E1,E2の測定を実施する際、深さ方向に存在する下層のエロージョン率の大小に影響を受けないことがわかっている。よって、エロージョン率E1,E2を測定する際には、最表面に位置する表面保護層から順にMSE試験を実施してもよい。
【0019】
(化粧シートの構成)
以下に、本実施形態の化粧シート(積層体の一例)の各構成について説明する。なお、本実施形態では、透明樹脂層が単層の場合を想定して説明するが、本開示はこれに限られず、透明樹脂層が複層(例えば2層)であってもよい。
【0020】
図1に示す化粧シート10は、複数の層を備える積層体であって、図面上部側から順に、表面保護層4、透明樹脂層1、接着剤層5(感熱接着剤層、アンカーコート層、ドライラミ接着剤層)、絵柄模様層(絵柄印刷層の一例)6、隠蔽層3、原反層(着色基材シートの一例)7、易接着層8を備えている。
より詳しくは、本実施形態に係る化粧シート10は、透明樹脂層1の一方の面に、絵柄模様層6及び隠蔽層3を設け、透明樹脂層1の他方の面に、表面保護層4を設けた構成の化粧シートである。図1に示すように、化粧シート10は、原反層7の上に、少なくとも絵柄模様層6、接着剤層5、接着剤層5と隣接する透明樹脂層1がこの順に設けられている。これにより、化粧シート10は、透明樹脂層1と原反層7との密着性が良好であり、被着材となる基板の表層を加飾することが可能な表装材として用いることができる。
本実施形態に係る化粧シート10は、上述のように、少なくとも原反層7、絵柄模様層6、接着剤層5、および透明樹脂層1を含む積層体であればよく、隠蔽層3、表面保護層4は省略することができる。
【0021】
詳しくは後述するが、化粧シート10において、接着剤層5のエロージョン率E1と、接着剤層5と隣接する透明樹脂層1のエロ―ジョン率E2との差分、および接着剤層5の厚みが特定の範囲内である。
【0022】
また、意匠性を向上させるために透明樹脂層1の表面保護層4側の面にエンボス模様を適宜設けてもよい。
また、化粧シート10の総厚は、60μm以上250μm以下の範囲内とすることが好適である。総厚が60μmより薄い場合、化粧シートの性能として求められる隠蔽性(木質基材の下地を隠す性能)や、耐傷性の低減が懸念される。また、総厚が250μmより厚い場合、コストが高くなることや、化粧シートと木質基材とを貼り合わせる際に加工性が低減することが懸念される。
また、本実施形態に係る化粧シート10は、塩化ビニル樹脂を含有していないものが好ましい。非塩化ビニル系樹脂を用いた化粧シートとすることにより、焼却時における有毒ガス等の発生の心配が低減される。
以下、本実施形態の化粧シートを構成する各層の詳細について説明する。
【0023】
(原反層)
原反層7は、化粧シートに意匠性、耐傷性及び耐後加工性を付与する場合には、例えば、薄葉紙、チタン紙、樹脂含浸紙などの紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリブチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、アクリルなどの合成樹脂、あるいはこれら合成樹脂の発泡体、エチレン-プロピレン共重合ゴム、エチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴム、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合ゴム、ポリウレタンなどのゴム、有機もしくは無機系の不織布、合成紙、アルミニウム、鉄、金、銀などの金属箔などから適宜選択して用いてもよい。また、原反層7は、透明樹脂層1と同一の樹脂組成物からなるシートであってもかまわない。上記のなかでもポリプロピレンやポリエチレンといったポリオレフィン系の材料を用いることが望ましい。
【0024】
原反層7に含まれるポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテンなどの他に、αオレフィン(例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、9-メチル-1-デセン、11-メチル-1-ドデセン、12-エチル-1-テトラデセンなど)を単独重合あるいは2種類以上共重合させたものや、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・メチルメタクリレート共重合体、エチレン・エチルメタクリレート共重合体、エチレン・ブチルメタクリレート共重合体、エチレン・メチルアクリレート共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体、エチレン・ブチルアクリレート共重合体などのように、エチレンまたはαオレフィンとそれ以外のモノマーとを共重合させたものが挙げられる。
【0025】
原反層7として、ポリオレフィン系材料のような表面が不活性な基材を用いる場合には、原反層7の表裏に、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、電子線処理、紫外線処理、重クロム酸処理等を行い、表裏面に官能基を導入することが望ましい。これにより、密着性を向上する科学的効果が得られる。さらには、原反層7と絵柄模様層6との間に密着を確保させるためにプライマー層(図示せず)を設けてもよい。
【0026】
また、原反層7に隠蔽性の着色シートを使用することで、化粧シートに隠蔽性を付与することができる。つまり、原反層7は、着色基材シートとして構成することができる。また、隠蔽性を付与するために、図1に示すように、原反層7の上層であって絵柄模様層6の下層に隠蔽層3を設けてもよい。なお上述のように原反層7を着色基材シートとして構成する場合は、隠蔽層3を省略することができる。隠蔽層3については、後述する。原反層7として着色基材シートを使用する場合は、原反層7を構成する樹脂材料に着色剤を添加して着色することができる。着色剤としては、例えば、無機顔料(酸化チタンやカーボンブラック等)や有機顔料(フタロシアニンブルー等)の他、染料も使用することができる。本実施形態の着色剤は、公知または市販の着色剤から1種類または2種類以上を選択して用いることができ、所望の隠蔽性と意匠性とが得られるように添加量も調整可能である。
【0027】
原反層7には、必要に応じて、例えば、充填剤、発泡剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、着色剤、つや消し剤など各種添加剤を加えてもよい。
また原反層7の厚みは、印刷作業性、コストなどを考慮して20μm以上150μm以下の範囲内が好適である。
【0028】
(絵柄模様層)
絵柄模様層6を設ける方法としては、原反層7または透明樹脂層1に、例えば、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷、静電印刷、インキジェット印刷などを行う方法がある。
絵柄模様層6の形成にインキを使用する場合は、当該インキに含まれるバインダーは、例えば、硝化綿、セルロース、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、ポリウレタン、アクリル、ポリエステル系等の単独もしくは各変性物の中から適宜選定すればよい。これらは水性、溶剤系、エマルションタイプのいずれでも問題なく、また1液タイプでも硬化剤を使用した2液タイプでも任意に選定可能である。
さらに紫外線や電子線等の照射によりインキを硬化させることも可能である。中でも最も一般的な方法は、ウレタン系のインキを用いてイソシアネートで硬化させる方法である。
【0029】
絵柄模様層6において、上記バインダー以外には、通常のインキに含まれている顔料、染料等の着色剤、体質顔料、溶剤、各種添加剤が添加されていてもよい。特によく用いられる顔料には、例えば、縮合アゾ、不溶性アゾ、キナクリドン、イソインドリン、アンスラキノン、イミダゾロン、コバルト、フタロシアニン、カーボン、酸化チタン、酸化鉄、雲母等のパール顔料等がある。また、インキの塗布とは別に、各種金属の蒸着やスパッタリングで意匠を施すことも可能である。
絵柄模様層6の厚みは、0.5μm以上10μm以下の範囲内が好適である。
【0030】
(隠蔽層)
隠蔽層3は、絵柄模様層6と同様の印刷方法によって、原反層7上、または絵柄模様層6上に設けることができる。隠蔽層3を施す場合は、例えば、コンマコーター、ナイフコーター、リップコーター、金属蒸着あるいはスパッタ法等を用いてもよい。なお、隠蔽層3は、一般的には、原反層7の上層であって絵柄模様層6の下層に設けられる。
隠蔽層3に使用される材料も基本的には絵柄模様層6と同じ材料でよい。隠蔽層3は、その目的として隠蔽性を持たせる必要があるために、顔料として、例えば、不透明な顔料、酸化チタン、酸化鉄等を使用することが好ましい。また、隠蔽性を向上させるために、例えば、金、銀、銅、アルミ等の金属を添加することも可能である。一般的にはフレーク状のアルミを添加させることが多い。塗布厚み、即ち隠蔽層3の厚みは、2μmに満たない場合には隠蔽性を付与しにくく、10μmを超える場合には樹脂層の凝集力が弱くなる傾向がある。このため、隠蔽層3の厚みは、2μm以上10μm以下の範囲内が好適である。
【0031】
(接着剤層)
接着剤層5は、透明樹脂層1と隣接する層であり、原反層7および絵柄模様層6と、透明樹脂層1との接着に用いられる層である。接着剤層5の厚みが特定の範囲内であり、接着剤層5のエロージョン率E1と透明樹脂層1のエロージョン率E2との差分が特定の範囲内であることによって、耐候性が向上し層間密着性に優れた化粧シートを提供することが可能となる。
【0032】
接着剤層5を用いた接着方法としては、例えば、熱ラミネート、押出ラミネート、ドライラミネート等がある。接着剤層5に含まれる接着剤は、通常はその凝集力から2液硬化タイプのものが望ましく、特にイソシアネートを用いたポリオールとの反応で得られるウレタン系の材料を用いることが望ましい。つまり、接着剤層5は、ウレタン系樹脂を含むことが好ましい。より詳細には、接着剤層5におけるウレタン系樹脂は、ポリカプロラクトンポリオールを構成要素とすることが好ましい。
【0033】
ポリカプロラクトンポリオールは、εカプロラクトンの開環重合で得られる材料であり、内部にエステル結合を有する。このため、原反層7、透明樹脂層1との密着性が向上する。またポリカプロラクトンポリオールは、耐加水分解性(耐湿性)が優れており、高湿度環境での密着性を向上することができる。
ポリカプロラクトンポリオールは、例えば、ポリカプロラクトンジオール、ポリカプロラクトントリオール、ポリカプロラクトンテトラオール、またはこれらの共重合体などを用いることができる。
なお、接着剤層5に含まれる接着剤は、例えば、ウレタン系樹脂以外にも、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂等の材料から選定してもよい。
【0034】
本実施形態において、接着剤層5の厚みは、1μm以上20μm以下の範囲内である。これにより、接着剤層5を介した絵柄模様層6と透明樹脂層1との密着性、すなわち絵柄模様層6を設けた原反層7と透明樹脂層1との密着性が向上し、層間密着性を良好とすることができる。また、接着剤層5の厚みは、5μm以上20μm以下の範囲内がより好ましい。
さらに本実施形態において、平均粒子径(D50)が3,0μmである球状アルミナ粒子を用いて測定した接着剤層5のエロージョン率E1は、当該球状アルミナ粒子を用いて測定した接着剤層5と隣接する透明樹脂層1のエロ―ジョン率E2との差分が4.0μm/g以下(ΔE1-ΔE2≦4.0μm/g)である。つまり、化粧シート10において、接着剤層5のエロージョン率E1と、隣接する透明樹脂層1のエロージョン率E2との差分は、4.0μm/g以下である。
【0035】
接着剤層5のエロージョン率E1と、隣接する透明樹脂層1のエロージョン率E2との差(差分)が大きい場合、差分が大きな箇所に応力が集中し易く、層間密着性の低減につながる。つまり、上記エロージョン率E1とエロージョン率E2との差が小さいほど、接着剤層5と透明樹脂層1との層間密着性が向上する。
本実施形態に係る化粧シート10では、エロージョン率E1,E2の差分が4.0μm/g以下であることで上記耐候試験の前後での接着剤層5および透明樹脂層1の硬さの変化が少なく、応力が集中しづらくなり層間密着性が担保される。すなわち、耐候性が向上して上記耐候試験実施後においても優れた層間密着性が維持される。具体的には、接着剤層5を介した透明樹脂層1と絵柄模様層6(絵柄模様層6を設けた原反層7)との層間密着性が良好となる。さらに、接着剤層5の厚みが1μm以上20μm以下の範囲内であることで、層間密着性を向上することができる。したがって、本実施形態によれば、耐候性が向上し、層間密着性が優れた化粧シートを提供することができる。また、化粧シート10を被着材へ貼り合わせる等の加工時(例えば、折り曲げ加工時)において、層間剥離(剥がれ)の発生も抑制することができる。
【0036】
接着剤層5のエロージョン率E1は、例えば接着剤層5の材料選択や形成条件(硬化方法)によって、適宜制御することができる。例えばウレタン系樹脂を含有することで接着剤層5を柔らかく(硬度を低減)してエロージョン率E1を下降させることができる。またアクリル系樹脂を含有することで接着剤層5を硬く(硬度を増大)してエロージョン率E1を上昇させてもよい。
また例えば、2液硬化型樹脂を用いた場合には、硬化剤の添加量を増加してエロージョン率E1を上昇させ、硬化剤の添加量を減らして硬化阻害することによってエロージョン率E1を下降させることができる。また紫外線や電子線等で樹脂材料(例えばウレタン系樹脂)硬化させることによってエロージョン率E1を上昇させてもよい。
【0037】
なお、接着剤層5のエロージョン率E1と隣接する透明樹脂層1のエロージョン率E2との差分が4.0μm/gを超え、接着剤層5の厚みが上述の範囲外である場合には、耐候性に劣る傾向があり、上記耐候試験の実施後の層間密着性が低減して層間剥離の発生を十分に抑制することが困難となる場合がある。
以上のように、本実施形態に係る化粧シート10は、接着剤層5の厚みが1μm以上20μm以下の範囲内であり、接着剤層5のエロージョン率E1と透明樹脂層1のエロージョン率E2との差分が4.0μm/g以下であることにより、接着剤層5および透明樹脂層1の耐候性を向上し層間密着性を良好とすることができる。
【0038】
また本実施形態において、接着剤層5のエロージョン率E1と隣接する透明樹脂層1エロージョン率E2との大小関係は限定されない。エロージョン率E1がエロージョン率E2以上でもよいし(E1≧E2)、エロージョン率E1の方がエロージョン率E2以下でもよい(E1≦E2)。つまり差分の上限値(4.0μm/g)は絶対値であり、例えば接着剤層5のエロージョン率E1が隣接する透明樹脂層1のエロージョン率E1より4.0μm/g大きい(+4.0μm/g)場合も、透明樹脂層1のエロージョン率E2より4.0μm/g小さい(-4.0μm/g)も含まれる。
【0039】
接着剤層5には、必要に応じて添加剤を含有してもよい。添加剤としては例えば、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤等が挙げられる。
【0040】
(透明樹脂層)
図1に示すように、化粧シート10は透明樹脂層1を備えている。透明樹脂層1は、接着剤層5の上に形成されている。つまり、透明樹脂層1は接着剤層5と隣接する層である。なお、透明樹脂層1は、複層(本例では2層)構成であってもよく、表面保護層4と接する第一透明樹脂層と、接着剤層5と接する第二透明樹脂層とを有していてもよい。例えば、押出ラミネート方法において透明樹脂層を形成する場合において、さらなるラミネート強度を求める場合に透明樹脂層を2層構造とすることがある。
以下、本実施形態における透明樹脂層1について、詳しく説明する。
【0041】
上述のように本実施形態では、接着剤層5の厚みが特定の範囲内であり、透明樹脂層1のエロ―ジョンE2と接着剤層5のエロージョン率E1との差分が特定の範囲内であることによって、耐候性が向上し層間密着性に優れた化粧シートを提供することが可能となる。
具体的には、本実施形態において、平均粒子径(D50)が3,0μmである球状アルミナ粒子を用いて測定した透明樹脂層1のエロージョン率E2は、当該球状アルミナ粒子を用いて測定した接着剤層5のエロージョン率E1との差分が4.0μm/g以下(ΔE1-ΔE2≦4.0μm/g)である。つまり、化粧シート10は、上述のように接着剤層5の厚みが1μm以上20μm以下の範囲内であり、接着剤層5に隣接する透明樹脂層1のエロージョン率E2と、接着剤層5のエロージョン率E1との差分は、4.0μm/g以下である。これにより、耐候性を向上し層間密着性を良好とすることができる。
【0042】
透明樹脂層1は、成膜によって成形されたシートであってもよいし、既に成形したシートを積層したものであってもよい。透明樹脂層1は熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。より具体的には、透明樹脂層1は、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂を用いて形成することが好ましい。具体的には、透明樹脂層1としてポリプロピレン樹脂を用いることが好ましい。透明樹脂層1を構成するポリプロピレン樹脂としては特に限定されないが、例えばランダムポリプロピレン、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン等が挙げられる。また透明樹脂層1は、例えば、高結晶性ポリプロピレン樹脂で形成されていてもよい。
本実施形態に係る化粧シート10において、接着剤層5と隣接する透明樹脂層1は、酸変性した樹脂を含まない。ここで酸変性とは、例えばマレイン酸変性を示す。つまり、透明樹脂層1はマレイン酸変性した樹脂を含まない。これにより、耐候性が向上し、上記耐候試験の実施後における硬化(脆化)を抑制することができる。
【0043】
なお、本実施形態に係る化粧シート10は、少なくとも接着剤層5と接する透明樹脂層1が酸変性した樹脂を含有しない構成であればよく、化粧シート10全体として酸変性した樹脂を含む樹脂層を設けない構成であってもよいし、接着剤層5と隣接しない層において、酸変性した樹脂が含有されていてもよい。例えば透明樹脂層1が複層(2層)構成であり表面保護層4と隣接する第一透明樹脂層と第一透明樹脂層の下層であって接着剤層5と隣接する第二透明樹脂層とで構成されるとする。このとき、接着剤層5と隣接する第二樹脂層に酸変性した樹脂を含有していなければよく、接着剤層5と隣接しない表面保護層4側の第一透明樹脂層には酸変性した樹脂を含有してもよい。
【0044】
本実施形態に係る化粧シート10は、上述のように酸変性していないポリプロピレン樹脂を含み、フーリエ型外分光測定(Fourier Transform Infrared Spectroscopy:FTIR)により求めた当該ポリプロピレン樹脂の結晶化度が40%以上80%以下であることが好ましい。請求項結晶化度が当該範囲内であることにより成膜時において透明樹脂層1の硬さを好適に制御することができ、化粧シート10の加工適性(例えば、曲げ加工性)を向上して、被着材への貼り付け等の加工時における割れの発生などを抑制することができる。また、結晶化度が当該範囲内であることにより成膜時において透明樹脂層1のエロージョン率E2を好適に制御することができる。なお、結晶化度の算出の詳細は、後述する。
【0045】
透明樹脂層1のエロージョン率E2は、例えば透明樹脂層1の材料選択(例えば、ポリプロピレン樹脂の種類)や、形成時におけるプロセス条件、透明樹脂層1におけるポリプロピレン樹脂の含有量によって、制御することができる。プロセス条件による結晶性ポリプロピレン樹脂の結晶化度の制御は、既知の方法で行うことができる。プロセス条件としては、例えば、透明樹脂層1が結晶性ポリプロピレン樹脂で形成される場合、透明樹脂層1の成膜時の加熱制御により、結晶化度を高めることで、エロージョン率を上昇させ、結晶化度を下げることでエロージョン率E2を下降させることができる。また、結晶化度の制御は、透明樹脂層1におけるポリプロピレン樹脂の含有量とポリプロピレン樹脂の種類の選択によっても制御することができる。
【0046】
また、透明樹脂層1の片面または両面は、必要に応じて、例えばオゾン処理、コロナ処理、プラズマ処理、電子線処理、紫外線処理、重クロム酸処理等で活性化を行い、官能基を導入することが望ましい。より具体的には、透明樹脂層1の接着剤層5側の表面1bは、オゾン処理、コロナ処理およびプラズマ処理のうちいずれかの方法で官能基導入が成されていることが好ましい。これにより、透明樹脂層1と接着剤層5との層間密着性を向上する化学的効果が得られる。
【0047】
透明樹脂層1を製膜によるシートで成形する場合には、例えば、押出機を用いる方法を用いるのが一般的である。透明樹脂層1を積層して成形する場合は、特に規制はなく、例えば、熱圧を応用した方法、押出ラミネート法及びドライラミネート法等を用いるのが一般的である。また、エンボス模様1aを施す場合には、一旦各種方法でラミネートしたシートに、例えば、後から熱圧によりエンボスを入れる方法や、冷却ロールに凹凸模様を設け、その冷却ロールを用いて押出ラミネートと同時にエンボスを施す方法がある。より詳しくは、エンボス模様1aは、透明樹脂層1である、例えば高結晶性ポリプロピレンシートに直接付与され、その方法は製膜された当該シートに熱及び圧力により凹凸模様を有するエンボス版を用いてエンボス模様を付与する方法や、押出機を用いて製膜する際に凹凸模様を有する冷却ロールを用いて冷却と同時にエンボスを設ける方法などがある。ここではエンボス部としてのエンボス模様1aにインキを埋め込み、さらに意匠性を向上させることも可能である。なお、エンボス模様1aは必要であれば設ければよく、不要な場合は設けなくてもよい。
【0048】
透明樹脂層1の厚みは、40μm以上170μm以下の範囲内であることが好ましい。透明樹脂層1の厚みが40μmに満たない場合には、耐候性や耐傷性が低下することがある。また透明樹脂層1の厚みが170μmを超える場合には、製造コストが高くなり、また可撓性が低下することがある。透明樹脂層1には、必要に応じて、例えば、熱安定剤、難燃剤、紫外線吸収剤、光安定剤、ブロッキング防止剤、触媒捕捉剤、そして、本実施形態の特徴を損なわない範囲で、例えば、着色剤、光散乱剤及び艶調整剤などの各種添加剤を添加することもできる。
【0049】
透明樹脂層1を2層構成とする場合、第一透明樹脂層と第二透明樹脂層とは、共押出法でラミネートされて成形される場合が一般的である。2層構造の透明樹脂層の場合、例えば、図1に示す透明樹脂層1の上にさらに2層目の透明樹脂層を設けることができる。つまり、透明樹脂層1を第二透明樹脂層とし、その上層に別途第一透明樹脂層を設けることができる。表面保護層4側の第一透明樹脂層樹脂は、第二透明樹脂層(透明樹脂層1)と同様に、熱可塑性樹脂を含むことが好ましく、具体的には、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂を含むことが望ましい。また、接着剤層5に隣接していない第一透明樹脂層には、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、アクリル系等の樹脂に酸変性を施したものを用いてもよい。また、第二透明樹脂層の厚みは接着力向上の目的から、2μm以上であることが望ましい。
【0050】
また、2層構造の透明樹脂層においては、第一透明樹脂層の厚みと第二透明樹脂層(透明樹脂層1)の厚みとの合計は、40μm以上170μm以下であることが好ましい。つまり、2層構造の透明樹脂層の総厚は40μm以上170μm以下であることが好ましい。これにより、耐候性や耐傷性を良好としつつ、製造コストの上昇や可撓性の低下を抑制することができる。
【0051】
熱安定剤としては、例えば、フェノール系、硫黄系、リン系、ヒドラジン系等を、また難燃剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等を、また紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾエート系、ベンゾフェノン系、トリアジン系等を、また光安定剤としては、例えば、ヒンダードアミン系等を、それぞれ任意の組み合わせで添加するのが一般的である。特に、本用途に用いる場合は耐候性を考慮する必要があり、その場合には透明樹脂層1に紫外線吸収剤と光安定剤と添加してもよく、添加量はそれぞれ透明樹脂層1を100質量%として、0.1質量%以上2.0質量%以下の範囲内が適量である。また、透明樹脂層1は、超臨界逆相蒸発法によってベシクル化処理された結晶核剤(ナノサイズの造核剤)を含んでもよい。
【0052】
また、透明樹脂層1を形成する結晶性ポリプロピレン樹脂は、ペンタッド分率の異なるアイソタクチックポリプロピレンとシンジオタクチックポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ロックポリプロピレン及びこれらの混合物から適宜選択して設計することができる。より好ましくは、結晶性ポリプロピレン樹脂が、アイソタクチックペンタッド分率(mmmm分率)95%以上、より好ましくは96%以上のプロピレンの単独重合体、すなわちホモポリマーである高結晶性ホモポリプロピレン樹脂とされることが重要である。なお、透明樹脂層1を構成する結晶性ポリプロピレン以外の樹脂は、結晶性ポリプロピレンの物性に著しく悪影響を与えないならば、その配合の目的によって適宜選定が可能である。但し、V溝曲げ加工適性を維持するためには透明樹脂層1を構成する結晶性ポリプロピレン樹脂との相溶性がよいものが好ましい。
なお、透明樹脂層1の材料はこれに限られず、柔軟性の高い、エチレンコンテンツを含有するランダムポリプロピレン樹脂、ポリオレフィン熱可塑性エラストマーなどのポリオレフィン樹脂を用いることができる。
【0053】
以下、簡単に透明樹脂層1に関する上記説明において用いた用語の説明をする。
造核剤とは、樹脂の結晶化時において、結晶核の生成を促進させる、もしくは、造核剤自体を結晶核とするために添加されるものである。造核剤には、添加時に基材の樹脂に溶融し再度析出して結晶核を生成する溶融型もしくは基材に添加した核剤が溶融することなくそのままの粒径で結晶核となる非溶融型の造核剤がある。ポリプロピレン樹脂の造核剤としては、例えば、リン酸エステル金属塩、安息香酸金属塩、ピメリン酸金属塩、ロジン金属塩、ベンジリデンソルビトール、キナクリドン、シアニンブルー及びタルク等が挙げられる。特に、本実施形態においては、ナノ化処理との効果を最大限に得るべく、非溶融型で良好な透明性が期待できるリン酸エステル金属塩、安息香酸金属塩、ピメリン酸金属塩、ロジン金属塩を用いることが好ましいが、ナノ化処理によって透明化が可能な場合には、有色のキナクリドン、シアニンブルー、タルクなども用いることができる。また、非溶融型の造核剤に対して、溶融型のベンジリデンソルビトールを適宜混合して用いるようにしてもよい。
【0054】
アイソタクチックペンタッド分率(mmmm分率)とは、質量数13の炭素C(核種)を用いた13C-NMR測定法(核磁気共鳴測定法)により、透明樹脂層1を構成する樹脂材料を所定の共鳴周波数にて共鳴させて得られる数値(電磁波吸収率)から算出されるものであり、樹脂材料中の原子配置、電子構造、分子の微細構造を規定するものである。ポリプロピレン樹脂のアイソタクチックペンタッド分率とは、13C-NMRにより求めたプロピレン単位が5個並んだ割合のことであって、結晶化度あるいは立体規則性の尺度として用いられる。そして、このようなアイソタクチックペンタッド分率は、主に表面の耐傷性を決定付ける重要な要因の一つであり、基本的にはアイソタクチックペンタッド分率が高いほどシートの結晶化度が高くなるため、耐傷性が向上する。
【0055】
(表面保護層)
図1に示すように、化粧シート10は、表面保護層4を備えている。表面保護層4、化粧シート10に、耐候性、耐傷性、耐汚染性、意匠性などの機能を付与するために設けられる層である。
表面保護層4は、必要に応じて、例えば、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、ブロッキング防止剤、触媒捕捉剤、着色剤、光散乱剤及び艶調整剤などの各種添加剤を配合してもよい。
【0056】
表面保護層4を構成する材料としては、硬化性樹脂組成物が挙げられる。本実施形態において表面保護層4は、硬化性樹脂組成物の硬化物を含んでいる。
より具体的には、表面保護層4を構成する硬化性樹脂組成物は、熱で硬化する樹脂、即ち熱硬化性樹脂、または紫外線や電子線照射で硬化する樹脂、即ち電離放射線硬化性樹脂のうち、少なくとも一方を含んで形成されることが好ましい。つまり、表面保護層4は、硬化性樹脂組成物として熱硬化型樹脂のみを含んで形成されていてもよいし、電離放射線硬化型樹脂のみを含んで形成されてもよい。また、表面保護層4は、熱硬化型樹脂および電離放射線硬化型樹脂の両方、すなわち熱硬化型樹脂と電離放射線硬化型樹脂との混合組成物を含んで形成されてもよい。
【0057】
表面保護層4に用いる熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリウレタン系、アクリル系、アクリルシリコン系、フッ素系、エポキシ系、ビニル系、ポリエステル系、メラミン系、アミノアルキッド系、尿素系等から適宜選択できる。形態も水性、エマルション、溶剤系のいずれでも可能で、且つ硬化も1液タイプでも硬化剤を用いた2液タイプでもよい。それらの中でもイソシアネート反応を利用したウレタン系のトップコートが作業性、価格、樹脂自体の凝集力等の観点からも望ましい。
具体的には、表面保護層4に用いる熱硬化型樹脂として、アクリルポリオールを主剤としてイソシアネート硬化剤を組み合わせたアクリルウレタン樹脂を用いることが好ましい。つまり、表面保護層41を構成する熱硬化性樹脂は、アクリルポリオール(アクリルポリオール化合物)とイソシアネート硬化剤とで構成されることが好ましい。
【0058】
イソシアネートには、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、リジンジイソシアネート(LDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン(HXDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)などの誘導体であるアダクト体、ビュレット体、イソシアヌレート体や各種プレポリマーなどの硬化剤から適宜選択して用いることができるが、耐候性を考慮すると、直鎖状の分子構造を有するヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)もしくはイソホロンジイソシアネート(IPDI)をベースとする硬化剤を使用することが好ましい。
【0059】
表面保護層4に用いる電離放射線硬化性樹脂としては、例えば、ポリエステルアクリレート系、エポキシアクリレート系、ウレタンアクリレート系、アクリルアクリレート系などから適宜選択して用いることができるが、特に、耐候(光)性が良好なウレタンアクリレート系及びアクリルアクリレート系のものを用いることが好ましい。電離放射線硬化性樹脂の硬化方法としては、紫外線や電子線などの活性エネルギー線で硬化することが作業性の観点から好ましい。電子線源としては、例えば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク灯、ブラックライト、メタルハライドランプ等の光源が使用できる。紫外線の波長としては180nm以上400nm以下の範囲内が好ましい。
【0060】
表面保護層4に用いる熱硬化性樹脂と電離放射線硬化性樹脂との混合物については、例えば、熱硬化性樹脂としてのアクリルポリオールとイソシアネートとを反応して得られるウレタン系樹脂と、電離放射線硬化性樹脂としてのウレタンアクリレート系樹脂とを混合して用いることがより好ましい。熱硬化性樹脂と電離放射線硬化性樹脂との混合物を用いることによって、表面硬度を向上させるとともに、硬化収縮の抑制及び無機微粒子(無機フィラー)の密着性の少なくとも1つを向上させることができる。
【0061】
また、表面保護層4を構成する電離放射線硬化性樹脂は、紫外線で硬化する紫外線硬化型性樹脂であることが好ましい。
表面保護層4を構成する紫外線硬化性樹脂は、官能基が4以上であり、質量平均分子量が500以上の成分を1種以上含むものであることが好ましい。より好ましくは、官能基が4以上であり、質量平均分子量が500以上5,000以下の範囲内の成分を1種以上含むものである。紫外線硬化性樹脂の官能基が4に満たない場合には、架橋密度が小さく、耐傷性が著しく低下するため好ましくない。紫外線硬化性樹脂の質量平均分子量が500に満たない場合には、塗工時の面状態が著しく悪化するため好ましくない。紫外線硬化性樹脂の質量平均分子量が5,000を超える場合には、塗液の粘度が上昇し、塗工適性が著しく低下するため、好ましくない。
【0062】
光開始剤の添加量は特に限定されず、主剤樹脂100質量部に対し、0.1~15質量部程度が好ましい。
光開始剤の種類は特に限定されない。ラジカル重合性不飽和基を有する樹脂系の場合は、光開始剤として、例えば、アセトフェノン系やベンゾフェノン系、チオキサントン類、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ミヒラーベンゾイルベンゾエート、ミヒラーケトン、ジフェニルサルファイド、ジベンジルジサルファイド、ジエチルオキサイド、トリフェニルビイミダゾール、イソプロピル-N,Nジメチルアミノベンゾエートなどの少なくとも1種類を選択することができる。また、光源や生産環境に合わせて、複数種を組み合わせて設計することが望ましい。
また、カチオン重合性官能基を有する樹脂系の場合は、光開始剤として、例えば、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族スルホニウム塩、メタロセン化合物、ベンゾインスルホン酸エステル、フリールオキシスルホキソニウムジアリルヨードシル塩などの少なくとも1種が選択できる。
【0063】
表面保護層4の厚みは、4μm以上21μm以下の範囲内であってもよい。表面保護層4の厚みが4μmに満たない場合には、塗工方式が限定的になり、かつ安定した生産が難しくなるため生産性が低下することがある。また、耐候性や耐傷性が低下し、バラつきが大きくなることがある。表面保護層4全体の厚みが21μmを超える場合には、性能とコストのバランスが崩れ、コストが高くなることがある。また、可撓性が低下することがある。
【0064】
表面保護層4の形成方法は特に限定されるものではなく、前述の材料を塗液化したものを、例えば、グラビアコート、マイクログラビアコート、コンマコート、ナイフコート、ダイコートなど通常の方法で塗布した後、熱硬化、紫外線硬化など樹脂材料に適合した方法で硬化させることで表面保護層4を形成してもよい。
この表面保護層4は、接着剤層5を介して原反層7に設けた絵柄模様層6と透明樹脂層1とを接合した後に透明樹脂層1に設けてもよいし、透明樹脂層1と原反層7とを接合する前に透明樹脂層1に設けてもよい。
【0065】
さらに耐候性を向上させるために、表面保護層4に紫外線吸収剤を添加してもよい。つまり、表面保護層4は、紫外線吸収剤を含んでいてもよい。紫外線吸収剤は、例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤及びトリアジン系紫外線吸収剤から選ばれる紫外線吸収剤を用いることができる。
また、紫外線吸収剤に加えて、表面保護層41に光安定剤を適宜添加してもよい。また、各種機能を付与するために抗菌剤、防カビ剤等の機能性添加剤の添加も任意に行える。
【0066】
また表面の耐傷性の向上、あるいは意匠性付与に伴う艶(光沢)調整のため、表面保護層4は、無機材料(無機フィラー)で構成される光沢調整剤を含むことが望ましい。
表面保護層4に添加する無機フィラーとしては、例えば、アルミナ、シリカ、ベーマイト、酸化鉄、酸化マグネシウム、アルミノシリケート、ダイヤモンド、窒化珪素、炭化珪素、ガラスビーズ、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、マグネシウムパイロポレート、酸化亜鉛、窒化珪素、酸化ジルコニウム、酸化クロム、酸化鉄、ガラス繊維等を添加してもよい。無機フィラーとして、平均粒子径が1μm以上30μm以下の範囲内の無機微粒子を用いることができ、特に1μm以上10μm以下の範囲内の無機微粒子が好適である。無機フィラーの平均粒子径が1μmに満たない場合には、艶消し効果を得にくい傾向がある。これは、艶消し効果を発揮するためには、無機フィラーが添加された膜(層)の厚みと同程度、もしくは大きな粒子径であることが理想的であるためである。無機フィラーの平均粒子径が30μm、より確実には10μmを超える場合には、高荷重条件下で無機フィラーが表面保護層4から脱落しやすく、艶が変化し表面が悪化して見える傾向がある。
【0067】
また例えば、表面保護層4の形成方法としてグラビア印刷を選択した場合、一層の塗布厚みは、上述のように、4μm以上21μm以下の範囲内が妥当である。この場合は、上述のように、一度に塗布可能な厚み以下から同程度の平均粒子径を有する無機フィラーを選択するのが好ましい。
表面保護層41における無機フィラーの含有量は、表面保護層41を構成する樹脂100質量部に対し、1質量部以上20質量部以下の範囲内であることが好ましい。無機フィラーの含有量が1質量部に満たない場合には、耐傷性が低下することがある。また無機フィラーの含有量が20質量部を超える場合には、表面の艶が非常に低下するため、意匠を損なうことおよび耐候性や耐汚染性が低下すること起こり得る。
【0068】
表面保護層4が含有する無機フィラーには、表面処理を施すことが望ましい。無機フィラーに表面処理を施すことで、表面保護層4との結合強化を図ることができる。なお、表面保護層4には表面が未処理の無機フィラーを添加してもよい。
また、表面処理を施す際は、無機フィラー表面の疎水化及び表面保護層4との反応性を付与する官能基を有することが望ましい。つまり、無機フィラーの表面を処理する表面処理剤は、表面保護層4を構成する主剤樹脂と反応する反応基を有することが望ましい。無機フィラーの表面処理を実施する際は、手法は特に限定せず、公知の方法を選ぶことができる。
【0069】
また、表面保護層4側の透明樹脂層1の面にエンボス模様1aを施した場合には、このエンボス模様1aの中に、表面保護層4を形成するインキをワイピング加工により埋め込んで意匠性を向上させることも可能である。また図示は省略するが、表面保護層4の最表面側に、エンボス模様1aと同様のエンボス模様を設けてもよい。これにより、意匠性をさらに向上させることができる。
耐候性の面からは、基材としての透明樹脂層1を守るために、上記のように表面保護層4及び透明樹脂層1にそれぞれ耐候性を付与する方法もある。また、それだけではなく、絵柄模様層6を守るために、接着剤層5、絵柄模様層6自体にそれぞれ紫外線吸収剤及び光安定剤を添加する方法もある。
【0070】
図1では、表面保護層4が単層である例を説明したが、本実施形態に係る化粧シート10において表面保護層4は単層に限られない。表面保護層4は単層であってもよいし、複層構成であってもよい。つまり、表面保護層4は1層以上で構成されていればよい。したがって、表面保護層4は、全体での厚みが4μm以上21μm以下の範囲内であってもよい。
また、表面保護層4が複層構成の場合、異なる樹脂で形成される層が含まれていてもよい。また、表面保護層4が複層構成である場合、光沢調整剤は、複層構成のうち1層以上に含まれていればよい。また、表面保護層4が複層である場合、少なくとも最上層が硬化性樹脂組成物の硬化物を含んで構成されていればよく、異なる種類の樹脂材料で形成された層が含まれていてもよい。
なお、本実施形態に係る化粧シート10において表面保護層4は必須の構成ではなく、化粧シート10の用途に合わせて適宜省略することができる。
【0071】
(易接着層)
易接着層8は、化粧シート10の被着材(例えば、化粧材用基材)と原反層7とを貼り合せるための層であって、プライマー層ともいう。
易接着層8に使用される材料は、基本的には絵柄模様層6や隠蔽層3と同じ材料でよい。また、化粧シートの裏面に施されるためにウエブ状で巻取りを行うことを考慮すると、ブロッキングを避けて且つ接着剤との密着を高めるために、易接着層8に例えば、シリカ、アルミナ、マグネシア、酸化チタン、硫酸バリウム等の無機充填剤を添加させてもよい。塗布厚み、即ち易接着層8(プライマー層)の厚みは、基材である原反層7との密着を確保することが目的であるので、0.1μm以上10.0μm以下の範囲内が妥当であり、より好ましくは0.1μm以上3.0μm以下の範囲内である。
易接着層8は、原反層7がオレフィン系材料のように表面が不活性な場合には必要であるが、表面が活性である場合は特に必要ではない。
【0072】
以上、本実施形態に係る化粧シート10の各層の構成について説明した。
また、本実施形態に係る化粧シート10は、耐候試験機を用いて所定時間の耐候試験を実施した場合に、耐候試験を実施前の前記積層体の剥離強度P0と耐候試験を実施後の剥離強度Ptとの比(Pt/P0)が1/5(0.2)以上であることが好ましい。これにより、層間密着性をより向上することができる。剥離強度の測定の詳細は、後述する。
上記剥離強度比の算出時に行う耐候試験および当該耐候試験に用いる耐候試験機については、後述するが当該耐候試験では、耐候試験機の光源として人工光源を用いることが好ましい。人工光源としては、例えばキセノンランプが挙げられる。これにより安定した照度により耐候試験を実施することができ、剥離強度比の算出精度を向上することができる。
【0073】
また、上記剥離強度比の算出時に行う耐候試験は、高酸素濃度かつ高湿度の環境下で実施されることが好ましい。これにより、剥離強度比が上記範囲内である化粧シート10の耐候性がより確実に向上される。ここで、高酸素濃度とは酸素濃度が50%以上であり、高湿度とは湿度90%以上であることを示す。つまり、上記剥離強度比の算出時に行う耐候試験は、酸素濃度が50%以上であり、かつ湿度90%以上の環境下で実施されることが好ましい。これにより、化粧シート10の耐候性がさらに確実に向上される。
【0074】
2.変形例
(化粧材)
上記実施形態に係る化粧シート10は、被着材に貼り合わせて化粧材の表装材として用いることができる。化粧シート10を貼り合わせて形成される化粧材は、化粧シート10における原反層7の一方の面側に、隠蔽層3、絵柄模様層6、接着剤層5、透明樹脂層1および表面保護層4がこの順に積層されており、原反層7の他方の面側に、易接着層8、接着剤および化粧材用基材が設けられている。つまり、本変形例による化粧材は、化粧材用基材と、当該化粧材用基材に貼り合わされた積層体である化粧シート10と、を備える。
これにより、本変形例による化粧材は、耐候性が向上され層間密着性に優れた化粧材を提供することが可能となる。
【0075】
(化粧材用基材)
本変形例による化粧材において、上記化粧材用基材としては、木質基材又は金属基材を使用することができる。木質基材としては、例えば木材単板、木材合板、集成材、パーティクルボード、中密度繊維板、硬質繊維板、チップボード等を採用することができる。また、金属基材としては、鋼板・アルミ板などを採用することができる。また、当該化粧材用基材は、プラスチックなどの樹脂、またはそれらの複合材料であっても良い。上記化粧材用基材を樹脂基材とする場合、例えば塩化ビニル樹脂を採用することができる。
また当該化粧材用基材は、例えば不燃仕様の鋼板又は建設省告示1400号で定められた不燃材料から構成しても良い。
また、上記化粧材用基材の形状は特に限定されないが、例えば平板とすることができる。化粧材用基材と化粧シート10とを貼り合わせるには、接着剤を用いることができる。当該接着剤としては、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、アイオノマー、ブタジエン・アクリルニトリルゴム、ネオプレンゴム、天然ゴム、ウレタン系反応型ホットメルト接着剤(PUR)等を有効成分とする公知の接着剤が使用できる。
【0076】
上記化粧材用基材と化粧シート10とを貼り合わせる際は、コールドプレス、ホットプレス、ロールプレス、ラミネーター、ラッピング、縁貼り機、真空プレス等の貼着装置を用いることができる。
上記化粧材用基材と化粧シート10との接合後は、例えば、最終製品の特性に応じて、裁断、テノーナを用いてサネ加工、V字形状の溝加工、四辺の面取り加工(例えばC面取り加工)等を施してもよい。
【0077】
本変形例による化粧材は、化粧シート10側から上記化粧材用基材に至る溝部及び/又は面取り部を設けて、当該溝部及び面取り部を着色塗料によって塗装してもよい。
溝部及び面取り部を塗装するための着色塗料は、例えば、接着剤層5にも使用できる着色剤(有機顔料、無機顔料)をビヒクルに溶解又は分散させることによりインキ化したものが使用できる。具体的な着色剤の例示については上述の着色剤と同じである。ビヒクルとしては、例えば、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等の塩素化ポリオレフィン、ポリエステル、イソシアネートとポリオールからなるポリウレタン、ポリアクリル、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、セルロース系樹脂、ポリアミド系樹脂等が挙げられる。これらのビヒクルは、単独又は2種以上を混合して使用できる。なお、着色塗料には、前記の通り、改質樹脂層のシラノール基と化学的に結合するイソシアネートなどの硬化剤を含有するものを採用することが好ましい。その他、溶剤や補助剤等を必要に応じて添加することもできる。
【0078】
(本実施形態の効果)
本実施形態に係る化粧シートおよび化粧材は、以下の効果を有する。
(1)本実施形態に係る化粧シート10は、原反層7上に、少なくとも絵柄模様層6、接着剤層5および、接着剤層5と隣接する透明樹脂層1がこの順に設けられた積層体であって、接着剤層5の厚みが1μm以上20μm以下の範囲内であり、平均粒子径(D50)が3.0μmである球状アルミナ粒子を用いて測定した接着剤層5のエロージョン率E1と当該球状アルミナ粒子を用いて測定した透明樹脂層1のエロージョン率E2との差分が、4.0μm/g以下であり、接着剤層5と隣接する透明樹脂層1が酸変性した樹脂を含まない。
この構成によれば、耐候性が向上され層間密着性に優れた積層体(化粧シート)を提供することができる。
(2)また本実施形態に係る化粧シート10は、原反層7上に、少なくとも絵柄模様層6、接着剤層5および、接着剤層5と隣接する透明樹脂層1をこの順に備える積層体であって、接着剤層5の厚みが1μm以上20μm以下の範囲内であり、平均粒子径(D50)が3.0μmである球状アルミナ粒子を用いて測定した接着剤層5のエロージョン率E1と当該球状アルミナ粒子を用いて測定した透明樹脂層1のエロージョン率E2との差分が4.0μm/g以下であり、酸変性した樹脂を含む樹脂層が設けられていない。
この構成によれば、耐候性が向上され層間密着性に優れた積層体(化粧シート)を提供することができる。
【0079】
(3)本実施形態に係る化粧シート10において、少なくとも透明樹脂層1に含まれない酸変性した樹脂は、マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂である。
この構成によれば、耐候性が向上し耐候試験の実施後における硬化(脆化)を抑制することができる。
(4)本実施形態に係る化粧シート10において、透明樹脂層1は、酸変性していないポリプロピレン樹脂を含み、フーリエ型赤外分光測定により求めた当該ポリプロピレン樹脂の結晶化度が40%以上80%以下である。
この構成によれば、成膜時において透明樹脂層1の硬さを好適に制御することができ、化粧シート10の加工適性(例えば、曲げ加工性)を向上して、被着材への貼り付け等の加工時における割れの発生などを抑制することができる。
【0080】
(5)本実施形態に係る化粧シート10に対し、耐候試験機を用いて所定時間の耐候試験を実施した場合に、当該耐候試験を実施前の化粧シート10の剥離強度P0と当該耐候試験を実施後の剥離強度Ptとの比(Pt/P0)が1/5以上である。
この構成によれば、層間密着性をより向上することができる。
(6)上記(5)の耐候試験は、耐候試験機の光源として人工光源を用いている。
この構成によれば、安定した照度により耐候試験を実施することができ、剥離強度比の算出精度を向上することができる。
(7)上記(5)の耐候試験は、高酸素濃度かつ高湿度の環境下で実施される。
この構成によれば、剥離強度比が上記(5)の範囲内である化粧シートの耐候性がより確実に向上される。
(8)上記(5)の耐候試験は、酸素濃度が50%以上であり、かつ湿度90%以上の環境下で実施される。
この構成によれば、化粧シート10の耐候性がさらに確実に向上される。
【0081】
(9)本実施形態に係る化粧シート10において、接着剤層5は、ウレタン系樹脂を含有する。
この構成によれば凝集力が向上されて層間密着性をより良好とすることができる。
(10)本実施形態に係る化粧シート10において、透明樹脂層1の接着剤層5側の表面は、オゾン処理、コロナ処理およびプラズマ処理のうちいずれかの方法により官能基導入が成されている。
この構成によれば、接着剤層5と透明樹脂層1との層間密着性を向上する化学的効果が得られる。
【0082】
(1.3)実施例
以下に、本開示の実施形態に係る化粧シートの具体的な実施例である実施例について検討する。
なお本開示の実施形態は、下記の実施例に限定されるものではない。
また、本実施例では、透明樹脂層の樹脂材料として以下のポリプロピレン樹脂A~Cを用いた。
本実施例では、以下のポリプロピレン樹脂A~Cの各樹脂材料の選択および透明樹脂層のプロセス条件(押出時温度、成膜時冷却ロール水温(冷却ロール温度))により、透明樹脂層のエロージョン率を制御した。
〔ポリプロピレン樹脂A〕
ランダムポリプロピレン樹脂「F219DA」((株)プライムポリマー製)、MFR8.0g/10Min.)
〔ポリプロピレン樹脂B〕
ポリオレフィン熱可塑性エラストマー「F3740」((株)プライムポリマー製)、MFR4.5g/10Min.)
〔ポリプロピレン樹脂C〕
高結晶性ホモポリプロピレン樹脂「F109V」((株)プライムポリマー製、MFR30.0g/10Min.)
【0083】
<実施例1>
基材シートとして表裏コロナ処理を施した隠蔽性のある着色したポリエチレン原反(厚み70μm)を用い、一方の面(裏面)にプライマー層(厚み2μm)を形成し、他方の面(表面)には絵柄インキとして2液型ウレタンインキ(V180:東洋インキ(株)製)を用いて木目柄を印刷し絵柄印刷層(厚み約3μm)を設けた。さらに絵柄印刷層の上に2液硬化型ウレタンアンカーコート剤(タケラックA540;三井化学(株)製)を塗布し接着剤層(厚み10μm)を形成した。接着剤層は、上記2液硬化型ウレタンアンカーコート剤における硬化剤の調整によりエロージョン率E1を3.4μm/gとなるように硬さを調整した。具体的には、接着剤層において硬化剤(三井化学製タケネート D-140N)の添加量を主剤100質量%に対して10質量%とした。
次いで、透明樹脂層として表裏コロナ処理を施したポリプロピレン樹脂Cを準備し、上述した接着剤層と熱ラミネートして積層体とした。この時、透明樹脂層はポリプロピレン100質量部に対して、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(イルガノックス1010;BASF社製)を0.5質量部、トリアジン系紫外線吸収剤(CYASORB UV-1164;SUNCHEM製)を0.5質量部、NOR型光安定剤(Tinuvin XT850 FF;BASF社製)を0.5質量部それぞれ配合した樹脂を、押出機を用いて溶融押出機を用いて押出し、接着剤層と隣接する透明樹脂層として使用する厚さ90μmの透明樹脂シートを製膜した。透明樹脂層は、プロセス制御として、上記ポリプロピレン樹脂Cの押出温度を200℃、成膜時冷却ロール水温を25℃とした。これにより、結晶化度が45度、エロ―ジョン率E2が3.5μm/gとなる透明樹脂層を製膜した。
このラミネートされた積層体のポリプロピレン樹脂側(透明樹脂層側)にアクリルポリオール(メチルメタクリレートと2ヒドロキシメタクリレートの共重合体)と硬化剤(ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート体)からなる2液硬化ポリウレタン樹脂層を塗布し表面保護層(厚み10μm)を形成した。この時、添加剤としてアクリルポリオール100質量部に対して、紫外線吸収剤(Tinuvin479:BASF社製)を5質量部、光安定剤(Tinuvin123:BASF社製)を3部配合した。このようにして実施例1の化粧シートを得た。
【0084】
<実施例2>
硬化剤(D-140N)の添加量をウレタンアンカーコート剤(A3210)100質量%に対して10質量%に調整することで、接着剤層のエロージョン率E1が3.2μm/gとなるように硬さを調整した。また、透明樹脂層に使用した樹脂をポリプロピレン樹脂Bとし、上記実施例1と同様のプロセス制御(押出温度、成膜時冷却ロール水温)によりエロージョン率E2が5.5μm/gとなる透明樹脂層を製膜した。それ以外は、実施例1と同様にして実施例2の化粧シートを得た。
<実施例3>
接着剤層の厚みを1μmとし、硬化剤(D-140N)の添加量をアンカーコート剤(A540)100質量%に対して10質量%に調整することで、接着剤層のエロージョン率E1が3.0μm/gとなるように硬さを調整した。それ以外は実施例1と同様にして実施例3の化粧シートを得た。
【0085】
<実施例4>
接着剤層の厚みを20μmとし、硬化剤(D-140N)の添加量をアンカーコート剤(A540)100質量%に対して12質量%に調整することで、接着剤層のエロージョン率E1が4.6μm/gとなるように硬さを調整した。それ以外は実施例1と同様にして実施例4の化粧シートを得た。
<実施例5>
接着剤層の厚みを15μmとし、硬化剤(D-140N)の添加量をアンカーコート剤(A540)100質量%に対して12質量%に調整することで、接着剤層のエロージョン率E1が4.4μm/gとなるように硬さを調整した。また、透明樹脂層の製膜時のプロセス制御として、上記ポリプロピレン樹脂Cの押出温度を230℃、成膜時冷却ロール水温を65℃とした。これにより、結晶化度が70度、エロージョン率E2が0.4μm/gとなる透明樹脂層を製膜した。それ以外は、実施例1と同様にして実施例5の化粧シートを得た。
【0086】
<実施例6>
硬化剤(D-140N)の添加量をアンカーコート剤(A540)100質量%に対して8質量%に調整することで、接着剤層のエロージョン率E1が3.0μm/gとなるように硬さを調整した。また、透明樹脂層の製膜時のプロセス制御として、上記ポリプロピレン樹脂Cの押出温度を200℃、成膜時冷却ロール水温を22℃とした。これにより、結晶化度が40度、エロージョン率E2が3.8μm/gとなる透明樹脂層を製膜した。それ以外は、実施例1と同様にして実施例6の化粧シートを得た。
<実施例7>
透明樹脂層の製膜時のプロセス制御として、上記ポリプロピレン樹脂Cの押出温度を200℃、成膜時冷却ロール水温を80℃とした。これにより、結晶化度が80度、エロージョン率E2が0.3μm/gとなる透明樹脂層を製膜した。それ以外は、実施例1と同様にして実施例7の化粧シートを得た。
【0087】
<比較例1>
透明樹脂層に使用した樹脂をポリプロピレン樹脂Aとし、透明樹脂層の製膜時のプロセス制御として、上記ポリプロピレン樹脂Aの押出温度を200℃、成膜時冷却ロール水温を50℃とした。これにより、結晶化度が50度、エロージョン率E2が9.8μm/gとなる透明樹脂層を製膜した。それ以外は、実施例1と同様にして比較例1の化粧シートを得た。
<比較例2>
接着剤層の厚みを0.8μmとし、硬化剤(D-140N)の添加量をアンカーコート剤(A540)100質量%に対して10質量%に調整することで、接着剤層のエロージョン率E1が3.0μm/gとなるように硬さを調整した。それ以外は、実施例1と同様にして比較例2の化粧シートを得た。
<比較例3>
接着剤層の厚みを7.0μmとし、硬化剤(D-140N)の添加量をアンカーコート剤(A540)100質量%に対して8質量%に調整することで、接着剤層のエロージョン率E1が3.0μm/gとなるように硬さを調整した。また、透明樹脂層に使用した樹脂をマレイン酸変性したポリプロピレン樹脂Cとした。それ以外は、実施例1と同様にして比較例3の化粧シートを得た。
【0088】
<MSE試験におけるエロージョン率測定>
平均粒子径D50=3.0μmの球状アルミナ粉末を水に分散させて、スラリーの総質量に対して球状アルミナ粉末を3質量%含むスラリーを調製した。化粧シートを台に固定し、その化粧シートと、上記スラリーを噴射するためのノズルの投射距離を4mmに設定した。ノズルのノズル径は1mm×1mmとした。ノズルから球状アルミナ粉末を含んだスラリーを噴射し、台に固定された化粧シートを表面保護層から順次切削した。この時の噴射強度は、事前に同様の実験条件にて既存の硬さ基準片を切削し、スラリーの噴射量に対する削れた変位(即ち、スラリー1gを吹き付けた際に切削される深さ)から標準投射力Xを求め、その値に基づいて決定した。球状アルミナ粉末を用いた本実施例では、既存の硬さ基準片HRC-45に対して1.0μm/g削れたときの投射力を標準投射力Xとした。
【0089】
本実施例において、X=1投射力(既存の硬さ基準片HRC-45に対して1.0μm/g削れたときの投射力)とした。
切削された部分を水で洗浄した後に、切削の深さ、即ちエロージョン深さZを測定した。エロージョン深さZは、触針式表面形状測定器(株式会社小坂研究所製/型式PU-EU1/触針子先端R=2μm/荷重200μN/計測倍率10,000/測長3mm/計測速度0.2mm/sec)で測定された値である。より詳しくは、まず、計測長の中で摩耗していない両端基準エリアA、Bを用いて傾き補正を実施した。次に、基準となる回帰直線から摩耗痕中心部C(50μm幅の平均値)までの段差を測定した。次に、0g投射での段差データと、各投射量での段差データとの差分をとり、エロージョン深さZを取得した。取得した投射量-エロージョン深さZの各データから、エロージョン進行グラフおよびエロージョン率分布グラフを作成した。こうして、エロージョン深さZを特定した。
本実施例では、上記エロージョン処理と、上記形状測定器による形状測定を設定回数(2回)繰り返して実施し、2回分の形状計測データを取得した。
また、本実施例では、上述の投射力より算出した投射粒子量X’[g]とエロージョン深さZ[μm]とを用いて、エロージョン率E[μm/g]を算出した。
【0090】
<接着剤層厚みの測定>
各実施例及び各比較例の化粧シートの断面観察を行い、厚みを計測した。具体的には、各実施例および各比較例の化粧シートを冷間硬化タイプのエポキシ樹脂やUV硬化樹脂等の樹脂に包埋して十分に硬化させた後、化粧シートの断面が現れるように切断して機械研磨を施すことにより測定面を得た。
具体的な測定方法は、「走査電子顕微鏡 SU3800(株式会社日立ハイテク)」にて断面観察を行い、エンボス加工の影響を避けるため、凹凸の少ない部分を中心にn100測長し、平均を算出した。
【0091】
<結晶化度の算出>
赤外分光測定(FTIR)で得られる吸光スペクトルは物質ごとに固有のパターンが認められる。この時、結晶性樹脂の場合には結晶質部または非晶質部の量に比例して所定の波数におけるピーク強度の値が変化するため、当該ピークの高さや面積から定量分析を行うことも可能である。
ポリプロピレン樹脂の場合、結晶質部は波数998cm-1、非晶質部は波数973cm-1のピークが該当する。このため、本実施例では、これらのピーク強度比から以下の式(1)を用いて、各実施例および比較例の化粧シートの透明樹脂層が含有するポリプロピレン樹脂の結晶化度を算出した。バックグランド補正には波数938cm-1のピークを用いた。
結晶化度=109×(I998-I938)/(I978-I938)-31.4・・・式(1)
【0092】
<剥離強度の測定>
各実施例及び各比較例の化粧シートについて、以下の耐候試験(1)の実施前後において剥離強度の測定を行った。
【0093】
〔耐候試験(1)〕
光源として人工光源(キセノンランプ)を用いた密閉装置である耐候試験機内に化粧シートを設置し、以下の条件で耐候試験を実施した。また密閉装置(耐候試験機)には酸素供給装置、湿度供給装置、水供給装置等が接続してあり、酸素濃度・湿度・水噴霧の間隔を自由に設定することが出来る。
・ライト条件
照度18mW/cm、ブラックパネル温度63℃、酸素濃度50%、 湿度90%RHで20時間
・結露条件
照度0mW/cm、ブラックパネル温度30℃、酸素濃度50%、湿度90%RHで4時間
・水噴霧条件
上記結露条件の実施前後10秒間
【0094】
上記耐候試験(1)実施前に、各実施例及び各比較例の当化粧シートを10mm幅に切り出し、テンシロン引張試験機を用いて100mm/min、180°で剥がした際の剥離強度を、耐候試験(1)実施前の剥離強度(P0)として測定した。
上記耐候試験(1)の実施後、各実施例及び各比較例の当化粧シートを、25℃50%RHの条件下で2日間保持してから、10mm幅に切り出し、テンシロン引張試験機を用いて100mm/min、180°で剥がした際の剥離強度を、耐候試験(1)実施後の剥離強度(PT)として測定した。
各実施例、比較例の化粧シートの上記耐候試験(1)実施前の剥離強度(P0)、耐候試験(1)実施後の剥離強度(PT)、及び剥離強度比(PT/P0)は後述する表1に示す。
【0095】
(評価)
上記の方法により得られた各実施例及び各比較例の化粧シートに対し、層間密着性の評価を以下のように行った。
<層間密着性評価>
以下の耐候試験(2)の実施前後に、各実施例及び各比較例で得られた化粧シートの層間密着性を評価した。
〔耐候試験(2)〕
各実施例及び各比較例で得られた化粧シートを、耐候試験機(ダイプラ・ウィンテス株式会社製メタルウェザー)にセットし、ライト条件(照度:60mW/cm、ブラックパネル温度63℃、層内湿度50%RH)で20時間、結露条件(照度:0mW/cm、ブラックパネル温度30℃、層内湿度98%RH)で4時間、水噴霧条件(結露条件の実施前後10秒間)の条件で480時間放置する耐候試験(2)を行った。
該耐候試験(2)後、25℃50%RHの条件下で2日間保持してから、化粧シート表面にニチバン製セロテープ(登録商標)を貼付けて急激に剥離する操作(セロテープ剥離操作)を1回行った。また、各実施例及び各比較例の化粧シートについて、上記耐候試験(2)の実施前(未実施)の状態においても、上記セロテープ剥離操作を実施した。このときの、着色基材シート(原反層)上に設けた各層が剥離するかどうかを、肉眼観察により確認し、下記の基準で評価した。
◎ :層の剥離は全くなかった
○ :層の剥離はほとんどなかった
× :層の剥離が著しかった
評価が「◎」~「〇」であれば実使用において問題ないと評価される。なお、耐候試験(2)の実施前(未実施)の状態で評価した層間密着性を初期層間密着性とし、耐候試験(2)の実施後に評価した層間密着性を試験後層間密着性とする。
【0096】
以下の表1に、本実施例における各実施例及び比較例の化粧シートの構成と合わせて、上記エロージョン率E1,E2、結晶化度、剥離強度比、および層間密着性の評価結果を示す。
【0097】
【表1】
【0098】
<層間密着性の評価結果>
表1に示すように、実施例1~7において初期層間密着性(耐候試験(2)の実施前の層間密着性)および試験後層間密着性(耐候試験(2)の実施後の層間密着性)のいずれも評価結果が合格(評価「〇」以上)となった。つまり、接着剤層の厚みが1μm以上20μm以下の範囲内であり、平均粒子径(D50)が3.0μmである球状アルミナ粒子を用いて測定した接着剤層のエロージョン率E1と当該球状アルミナ粒子を用いて測定した透明樹脂層のエロージョン率E2との差分が、4.0μm/g以下である化粧シートは、耐候性が向上され層間密着性に優れていることが分かった。
また、実施例1~7の化粧シートは、剥離強度比(Pt/P0)が1/5(0.2)以上であることから、層間密着性がより向上されたと考えられる。
【0099】
一方、比較例1~3は層間密着性(初期層間密着性または試験後層間密着性のうち少なくとも一方)が不合格(評価「×」)であった。
比較例1は、接着剤層のエロージョン率E1と透明樹脂層のエロージョン率E2との差分が4.0μm/gを超えて6.4μm/gと大きく、応力の集中によって接着剤層と透明樹脂層との層間密着性が低減したため、初期層間密着性および試験後層間密着性のいずれも評価が不合格「×」となったと考えられる。
また比較例2は、接着剤層の厚みが1.0μm未満の0.8μmであるため、層間密着性が十分に向上しなかったと考えられる。また比較例3は、透明樹脂層をマレイン酸変性したポリプロピレン樹脂Cで形成したため、耐候試験(2)の実施後において硬化(脆化)が生じて層間密着性が低減し、試験後層間密着性の評価が不合格「×」となったと考えられる。
【0100】
以上、表1より明らかなように、本開示の第1実施例1~7による化粧シートは、層間密着性について全ての評価項目で「合格」であり耐候試験(2)の実施後においても良好な層間密着性が担保される結果となった。つまり、本開示の上記実施形態に係る化粧シートは耐候性が向上され層間密着性に優れていることが示された。
【0101】
また、例えば、本実施形態は以下のような構成を取ることができる。
(1)
着色基材シート上に、少なくとも絵柄印刷層、接着剤層および、前記接着剤層と隣接する透明樹脂層がこの順に設けられた積層体であって、
前記接着剤層の厚みが15μm以上20μm以下の範囲内であり、
平均粒子径(D50)が3.0μmである球状アルミナ粒子を用いて測定した前記接着剤層のエロージョン率E1と前記球状アルミナ粒子を用いて測定した前記透明樹脂層のエロージョン率E2との差分が、4.0μm/g以下であり、
前記接着剤層と隣接する前記透明樹脂層が酸変性した樹脂を含まない
ことを特徴とする積層体。
(2)
着色基材シート上に、少なくとも絵柄印刷層、接着剤層および、前記接着剤層と隣接する透明樹脂層をこの順に備える積層体であって、
前記接着剤層の厚みが15μm以上20μm以下の範囲内であり、
平均粒子径(D50)が3.0μmである球状アルミナ粒子を用いて測定した前記接着剤層のエロージョン率E1と前記球状アルミナ粒子を用いて測定した前記透明樹脂層のエロージョン率E2との差分が4.0μm/g以下であり、
酸変性した樹脂を含む樹脂層が設けられていない
ことを特徴とする積層体。
(3)
前記酸変性した樹脂は、マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂である
ことを特徴とする上記(1)または(2)に記載の積層体。
(4)
前記透明樹脂層は、酸変性していないポリプロピレン樹脂を含み、
フーリエ型赤外分光測定により求めた前記ポリプロピレン樹脂の結晶化度が40%以上80%以下である
ことを特徴とする上記(1)から(3)のいずれか1項に記載の積層体。
(5)
前記積層体に対し、耐候試験機を用いて所定時間の耐候試験を実施した場合に、
前記耐候試験を実施前の前記積層体の剥離強度P0と前記耐候試験を実施後の剥離強度Ptとの比(Pt/P0)が1/5以上である
ことを特徴とする上記(1)から(4)のいずれか1項に記載の積層体。
(6)
前記耐候試験は、前記耐候試験機の光源として人工光源を用いている
ことを特徴とする上記(5)に記載の積層体。
(7)
前記耐候試験は、高酸素濃度かつ高湿度の環境下で実施される
ことを特徴とする上記(5)又は(6)に記載の積層体。
(8)
前記耐候試験は、酸素濃度が50%以上であり、かつ湿度90%以上の環境下で実施される
ことを特徴とする上記(7)に記載の積層体。
(9)
前記接着剤層は、ウレタン系樹脂を含有する
ことを特徴とする上記(1)から(8)のいずれか1項に記載の積層体。
(10)
前記透明樹脂層の前記接着剤層側の表面は、オゾン処理、コロナ処理およびプラズマ処理のうちいずれかの方法により官能基導入が成されている
ことを特徴とする上記(1)から(9)のいずれか1項に記載の積層体。
【符号の説明】
【0102】
1 透明樹脂層
1a エンボス模様
3 隠蔽層
4 表面保護層
5 接着剤層
6 絵柄模様層
7 原反層
8 易接着層
10 化粧シート
図1