(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094979
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】ワッシャ、ナット、締結構造
(51)【国際特許分類】
F16B 39/24 20060101AFI20240703BHJP
【FI】
F16B39/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211932
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】593047965
【氏名又は名称】株式会社 日本プララド
(74)【代理人】
【識別番号】100085291
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥巣 実
(74)【代理人】
【識別番号】100117798
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 慎一
(74)【代理人】
【識別番号】100166899
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥巣 慶太
(74)【代理人】
【識別番号】100221006
【弁理士】
【氏名又は名称】金澤 一磨
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 洋
【テーマコード(参考)】
3J034
【Fターム(参考)】
3J034AA09
3J034BA06
3J034BA18
3J034BB07
(57)【要約】
【課題】 簡単な構造でナット又はボルトが緩まず、製造コストも安価であり、緩めたい場合には、簡単に緩められる、ワッシャ、ナット及び締結構造を提供する。
【解決手段】 被取付物Sの被取付面Saと、ナット2(又はボルトの頭部)との間に挟んで取り付けられるワッシャ1である。ワッシャ本体1Aと、ワッシャ本体1Aの上側に設けられワッシャ本体1Aの外形と同等かあるいは小さい直径の環状の凸部1Bとを備える。凸部1Bの上面には、少なくとも1つの溝状の凹部1Aaが設けられ、凹部1Aaの中にはボール4が凹部長さ方向に転動可能に設けられている。及び同様の構造のナットである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被取付物の被取付面と、ナット又はボルトの頭部との間に挟んで取り付けられるワッシャであって、
ワッシャ本体と、
前記ワッシャ本体の上側であって前記ナット又はボルトの頭部に接する側に設けられ前記ワッシャ本体の外形と同等かあるいは小さい直径の環状の凸部と
を備え、
前記凸部の上面には、少なくとも1つの溝状の凹部が前記凸部周方向に設けられ、前記凹部内には転動体が凹部長さ方向に転動可能に設けられ、
前記凹部は、上方から見て時計回り方向に向かって前記凹部の深さが徐々に深くなっている、
ことを特徴とするワッシャ。
【請求項2】
前記凹部は、溝幅が前記転動体の転動を許容する大きさで、底面が平坦な傾斜面で、上方から見て前記時計回り方向先端部では前記転動体の全部が前記凹部内に収納される深さであり、前記時計回り方向後端部では前記転動体の一部が前記凹部から突出する深さである、
請求項1記載のワッシャ。
【請求項3】
前記転動体がボールであり、
前記凹部は、溝幅が前記転動体の転動を許容する大きさで、底面が前記ボールの径と同じかやや大きい径の湾曲面で、上方から見て前記時計回り方向先端部では前記転動体の全部が前記凹部内に収納される深さであり、前記時計回り方向後端部では前記転動体の一部が前記凹部から突出する深さである、
請求項1記載のワッシャ。
【請求項4】
前記傾斜面の角度は、前記ナット又はボルトのねじのリード角より若干大きくなっており、前記転動体は前記凹部から外れないように収納されている、
請求項2記載のワッシャ。
【請求項5】
前記ワッシャ本体の下面は、中心に向かって深くなる湾曲面状の凹部が形成されている、
請求項1記載のワッシャ。
【請求項6】
被取付物を貫通するねじ棒にねじ込まれ、前記被取付物の表面に接触するナットであって、
前記被取付物側の面に、少なくとも1つの溝状の凹部が前記ねじ棒の回転方向に設けられているナット本体と、
前記ナット本体の凹部内に凹部長さ方向に転動可能に設けられている転動体とを備え、
前記凹部は、溝幅が前記転動体の転動を許容する大きさで、底面が平坦な傾斜面で、上方から見て前記時計回り方向先端部では前記転動体の全部が前記凹部内に収納される深さであり、前記時計回り方向後端部では前記転動体の一部が前記凹部から突出する深さである、
ことを特徴とするナット。
【請求項7】
被取付物を貫通するねじ棒にねじ込まれ、前記被取付物の表面に接触するナットであって、
前記被取付物側の面に、少なくとも1つの溝状の凹部が前記ねじ棒の回転方向に設けられているナット本体と、
前記ナット本体の凹部内に凹部長さ方向に転動可能に設けられている転動体とを備え、
前記転動体がボールであり、
前記凹部は、溝幅が前記転動体の転動を許容する大きさで、底面が前記ボールの径と同じかやや大きい径の湾曲面で、上方から見て前記時計回り方向先端部では前記転動体の全部が前記凹部内に収納される深さであり、前記時計回り方向後端部では前記転動体の一部が前記凹部から突出する深さである、
ことを特徴とするナット。
【請求項8】
前記傾斜面の角度は、前記ナットのねじのリード角より若干大きくなっており、前記転動体は前記凹部から外れないように収納されている、
請求項6記載のナット。
【請求項9】
被取付物の被取付面と、ナット又はボルトの頭部との間にワッシャを挟んで取り付けられる締結構造であって、
前記ワッシャが、請求項2又は3に記載されているワッシャである、
ことを特徴とする締結構造。
【請求項10】
被取付物を貫通するねじ棒にナットがねじ込まれ、前記被取付物の表面に前記ナットが接触する締結構造であって、
前記ナットが、請求項6又は7に記載されているナットである、
ことを特徴とする締結構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワッシャ、ナット及び締結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
緩み止めに関して、スプリングワッシャを用いる方法、ダブルナットを用いる方法、ナットとボルトに割ピンを貫通させる方法など、数多くの工夫がなされて実用に供されているが、効果が不十分で振動などにより緩みが生じたり、機構や加工が複雑で製造コストが高価になったりする。
【0003】
そこで、ナット内面に設けた孔にロックピンを貫入することで、ナット内面を押し拡げて、緩み止め圧力を発生させるロック用ピン機構が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1記載のものは、ナット内面を押し広げることで固定するので、メンテナンスなどの場合に、ナットを緩めると、ねじ棒のねじ部分が損傷され、再利用することができなくなる。
【0005】
また、ロックワッシャとして、外円周部は平坦、中央部は雄ねじが挿入出来る中心穴を持ち、中心穴と外円周部に挟まれた中円周部は2等分以上に分割し成形され、分割は中心穴と繋がり、中心穴から放射線上に外円周部平坦部内側まで切り欠きで2等分以上に分割され、各切り欠き面片側を切り起こし、ナット緩み止め係止片を設け、分割扇状部分を皿ばね状の円錐面に形成したナット緩み止め係止片を持つものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
特許文献2に記載のものは、ロックワッシャの持つ弾性反発力による緩み止めとナット緩み止め係止片によるくさび効果で緩み止め効果を向上させたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-293793号公報
【特許文献2】特開2011-127752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に記載のものは、各切り欠き面片側を切り起こし、ナット緩み止め係止片を設けるなど、構造が複雑で、加工が困難で、製造コストが高価になる。また、分割扇状部分を皿ばね状の円錐面に形成しているので、緩みが生じる可能性が残され、あくまでも緩みにくいという機能の範囲内となっている。なぜなら、緩められなければ困るから、緩みにくいという範囲に留まっているのである。
【0009】
そこで、簡単な構造で緩まず、製造コストも安価であるだけでなく、緩めたい場合には簡単に緩められるものが求められている。
【0010】
本発明は、簡単な構造で緩まず、製造コストも安価であり、緩めたい場合には簡単に緩められるワッシャ、ナット及び締結構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、被取付物の被取付面と、ナット又はボルトの頭部との間に挟んで取り付けられるワッシャであって、ワッシャ本体と、前記ワッシャ本体の上側であって前記ナット又はボルトの頭部に接する側に設けられ前記ワッシャ本体の外形と同等かあるいは小さい直径の環状の凸部とを備え、前記凸部の上面には、少なくとも1つの溝状の凹部が前記凸部周方向に設けられ、前記凹部内には転動体が凹部長さ方向に転動可能に設けられ、前記凹部は、上方から見て時計回り方向に向かって前記凹部の深さが徐々に深くなっている、ことを特徴とする。このようにすれば、簡単な構造で緩まず、製造コストも安価であり、緩めたい場合には、簡単に緩められる。
【0012】
この場合、前記凹部は、溝幅が前記転動体の転動を許容する大きさで、底面が平坦な傾斜面で、上方から見て前記時計回り方向先端部では前記転動体の全部が前記凹部内に収納される深さであり、前記時計回り方向後端部では前記転動体の一部が前記凹部から突出する深さである、ことが望ましい。また、前記転動体がボールである場合には、前記凹部は、溝幅が前記転動体の転動を許容する大きさで、底面が前記ボールの径と同じかやや大きい径の湾曲面で、上方から見て前記時計回り方向先端部では前記転動体の全部が前記凹部内に収納される深さであり、前記時計回り方向後端部では前記転動体の一部が前記凹部から突出する深さである、ことが望ましい。
【0013】
前記傾斜面の角度は、前記ナット又はボルトのねじのリード角より若干大きくなっており、前記転動体は前記凹部から外れないように収納されている、ことが望ましい。ここで、「凹部から外れないように収納されている」とは、転動体の表面を着磁(磁石にする)したり、弾力性のあるゴムノリで接着したり、転動体の自由な転がり運動に影響を与えないように凹部の上部だけをカシメたりして、転動体が凹部内から外れないように収納することを意味する。
【0014】
また、前記ワッシャ本体の下面は、中心に向かって深くなる湾曲面状の凹部が形成されている、ことが望ましい。
【0015】
本発明は、被取付物を貫通するねじ棒にねじ込まれ、前記被取付物の表面に接触するナットであって、前記被取付物側の面に、少なくとも1つの溝状の凹部が前記ねじ棒の回転方向に設けられているナット本体と、前記ナット本体の凹部内に凹部長さ方向に転動可能に設けられている転動体とを備え、前記凹部は、溝幅が前記転動体の転動を許容する大きさで、底面は平坦な傾斜面となっており、上方から見て前記時計回り方向先端部では前記転動体の全部が前記凹部内に収納される深さであり、前記時計回り方向後端部では前記転動体の一部が前記凹部から突出する深さである、ことを特徴とする。
【0016】
この場合、前述した場合と同様に、前記傾斜面の角度は、前記ナットのねじのリード角より若干大きくなっており、前記転動体は前記凹部から外れないように収納されていること、が望ましい。
【0017】
本発明は、被取付物の被取付面と、ナット又はボルトの頭部との間にワッシャを挟んで取り付けられる締結構造であって、前記ワッシャが、請求項2又は3に記載されているワッシャである、ことを特徴とする。また、本発明は、被取付物を貫通するねじ棒にナットがねじ込まれ、前記被取付物の表面に前記ナットが接触する締結構造であって、前記ナットが、請求項6又は7に記載されているナットである、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、簡単な構造で緩まず、製造コストも安価であり、緩めたい場合には、簡単に緩められる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施の形態に係るワッシャを用いた締結構造の説明図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るワッシャを上方から見た斜視図である。
【
図4】
図4(a)は
図2のA-A線における断面図、
図4(b)は
図4(a)のB-B線における断面図、
図4(c)は他の実施の形態についての
図4(b)と同様の図である。
【
図5】(a)(b)はそれぞれ転動体(ボール)の動きの説明図である。
【
図6】本発明の実施の形態に係るワッシャの変形例を示し、(a)上方から見た斜視図、(b)は転動体(ローラ)と凹部との関係を示す説明図である。
【
図7】本発明の実施の形態に係るナットを下方から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る実施の形態を図面に沿って説明する。
図1は本発明の実施の形態に係るワッシャを用いた締結構造の説明図である。
図1に示すように、ワッシャ1は、例えば、取付対象物(図示せず)に取り付けられる被取付物Sの被取付面Saと、ナット2との間に挟んで用いられる。
【0021】
ワッシャ1は、
図2及び
図3に示すように、ナット2側となる面に直交する方向から見て六角形状で、ワッシャ本体1Aの被取付面Saに接触する側には、凹部1Aaが形成され、ナット2を締め込むことによりワッシャ本体1Aの中心部分が被取付面Sa側に撓む弾性を有する。ワッシャ本体1Aの中心には、ナット2が螺合されるねじ棒3が貫通する中心孔1aが形成されている。
【0022】
ワッシャ1は、上側であってナット2と接触する側には、ワッシャ本体1Aからナット2側に突出する環状凸部1Bが一体に形成されている。この環状凸部1Bの内周壁面は、中心孔1aの内周壁面に連続している。環状凸部1Bの外径は、ワッシャ本体1Aの外形より小さいが、ワッシャ本体1Aの外形と同等とすることもでき、この場合、締結のためのナット2が断面六角形である場合、平行な二面の間隔L(二面幅)と同程度の大きさの外形となる。
【0023】
環状凸部1Bの上面(ナット2と接触する側)には、少なくとも1つの溝状の凹部1Baが設けられている(
図2では2つとなっている)。凹部1Baは溝幅が、転動体としてのボール4(例えば、硬い鋼球)の転動を許容する大きさで、凹部1Baの中には、ボール4が凹部長さ方向(凹部1Baの長さ方向)に転動可能に設けられている。ここで、ボール4としては、ベアリング用として様々なサイズの鋼球が大量生産されており、それを用いれば安価であり、コスト面で有利である。
【0024】
ボール4は、
図4(a)(b)に示すように、長さdの凹部1Ba内で凹部長さ方向に自由に転がるようになっている。凹部1Baの底面は平坦な傾斜面となっており、上方から見て時計回り方向Tに向かって凹部1Baの深さが徐々に深くなっている。前記傾斜面の角度θは、ナット(又はボルト)のねじのリード角より若干大きくなっており、ボール4は凹部1Baから外れないように収納されている。つまり、ボール4は、凹部1Baから外れないように、ボール4は表面を着磁(磁石にする)したり、弾力性のあるゴム糊で接着したり、凹部1Baの幅をカシメたりしているが、ワッシャ1を取り付けるまで外れなければよい。取付状態では外れることはないからである。
【0025】
ボール4が左端(上方から見て時計回り方向Tの先端部)に寄った時には、
図5(a)に示すように、凹部1Baの深さがボール4の径とほぼ等しくなりナットの底面とわずかに接触する程度に微小量だけ突出する状態となり、ボール4の全部が凹部1Ba内に収納される深さである。右端(上方から見て時計回り方向Tの後端部)に寄った時には、
図5(b)に示すように、ボール4の一部が凹部1Baから少量(=t)突出する状態となり、前記時計回り方向後端部ではボール4の一部が凹部1Baから突出する深さである。なお、前記時計回り方向先端部ではボール4の全部が凹部1Ba内に収納される深さであれば、平坦な傾斜面に限らない。例えば、
図4(c)に示すように、凹部1Ba’の底面がボール4の径と同じかやや大きい径の湾曲面とすることもできる。
【0026】
凹部1Aaは、
図3に示すように、凹部内周面がワッシャ1の中心孔1aの周縁に向かって外周縁からに向かって全面に亘って徐々に深くなる湾曲面状(例えば、逆円錐形状)に形成されている。前記外周縁は、ワッシャ本体1Aの各角部の間では、被取付面Saとの間に空間を形成する逃げ部となっている。
【0027】
凹部1Aaの外形(外周縁の形)は、ナット2(又はボルトの頭部)の外形と同等、あるいはナット2の外形よりも大きく形成されているが、このような中央凹部1Aaを設けるのは、被取付物Sの被取付面Saにワッシャ1が接触する面において中央部分付近を凹状とすれば、ワッシャ1の中央部分が被取付物Sの被取付面Saに直接接触するのを回避できるからである。
【0028】
図1に示すように、ナット2によって締結する際には、ナット2の下面(被取付物S側の面)は、ワッシャ1の、環状凸部1Bの上面にしか接触してない。ワッシャ1の下面は、被取付面Saに対し、6つの角部1Abの頂点(先端)だけが接触している。
【0029】
ワッシャ1を挟んでナット2をねじ棒3に対し締め込んでいくと、ナット2の下面がワッシャ1の上面(環状凸部1Bの上面)を擦りながら(滑りながら)締まって行くことになるが、ワッシャ1はナット2とは全く連れ回りを起こさず、被取付物Sの被取付面Saに対して静止した状態のままである。この被取付面Saに対してワッシャ1は静止した状態のままであるので、結果として、ワッシャ1が被取付面Saをほとんど傷つけることがない。
【0030】
このように、ワッシャ1がナット2に連れ回りしないのは、つまりワッシャ1の上面(環状凸部1Bの上面)でナット2が滑り、ワッシャ1の下面が被取付面Saに対して全く滑らないのは、次の理由による。特開2021-179250号公報にも記載されるように、ナット2とワッシャ1との間の摩擦力と、ワッシャ1と被取付面Saとの間の摩擦力とは、それらの接触部分の面積の大きさとは無関係で、ナット2による押し付け力だけが関係し、同じになる。また、ワッシャ1が接触するナット2も被取付物Sも鉄で、同材質であるから、それらの摩擦係数に少々の違いがあるとしても、ナット2の摩擦係数μ1と被取付物Sの摩擦係数μ2とはほぼ等しいと考えられる。だから、結局、摩擦力は等しくなる。
【0031】
一方、ナット2を締め込む場合(緩める場合でも同じ)、ワッシャ1が「連れ回り」を起こすか否かは、ワッシャ2を回転させようとする回転力(トルク)と、ワッシャ1が被取付面Saに対して回転しないように作用する回転抵抗力(トルク)との大きさの差による。そのため、中央凹部1Aaを設けることで、ナット2とワッシャ1との間の摩擦力でワッシャ1を回転させようとする回転力F1よりも、ワッシャ1が被取付面Saに対して回転しないように作用する回転抵抗力F2が大きくなるようにしているのである。このように、中央凹部1Aaを設けることで、回転中心からナット2とワッシャ1との接触部分までの長さR1より、回転中心からワッシャ1と被取付面Saとの接触部分までの長さR2(半径)の方が大きくなり、摩擦力は同じであっても、ワッシャ1の回転抵抗力F2が、ナット2がワッシャ1を回転させようとする回転力F1より大きくなり、結果として、ワッシャ1を回転させることなく、ナット2だけが回転することになる。
【0032】
よって、ワッシャ1とナット2(=普通の市販ナット)とを組み合わせた締結構造において、時計回り方向Tに回しナット2を締め込むと、ナット2の下面に擦られてボール4が転がり、凹部1Baの左端に寄る(
図5(a)参照)。この状態で締付けを継続しても、ナット2の底面はボール4の一部に僅かに接触して擦れるだけで締付け作業や締付けトルクに影響を与えない。しかし、振動などで、一旦ナット2が緩みかけ、反時計回り方向に回転すると、ナット2の下面に擦られてボール4が転がり、右端へ寄る(
図5(b)参照)。この状態で、ボール4はナット2の下面を上へ強く押し上げる。その結果、ボール4がクサビ効果を発揮し、ナット2が緩み方向へ回転ができなくなる。よって、振動を受けてもナット2が緩まないのである。
【0033】
仮に締付け力が緩く、低トルクの締付けでも、ボール4が転がる機能は非常に敏感に働くために、緩まない。実験例として、M16のナットの最高締付けトルクは360Nm程度であるが、僅か12Nm(3.3%)の締付けであっても、振動実験で一時間以上緩まないことを確認している。因みに、本発明構造にしない場合には、同条件の実験で、8秒程度で緩んでしまうことも確認している。
【0034】
一方、緩めたい時には、ナット2を反時計回り方向に強い力で回せば、ボール4は凹部1Baの右端に寄るが、さらに強い力で回せば、ボール4によるクサビ力を乗り越えて緩められる。この緩め力の大きさは、傾斜面の傾斜角度θの大きさ、傾斜面の長さ、ボール4のサイズ及び凹部1Baの底面の硬さによって自由に設定することができる。実用的には、例えば、それぞれ適切なサイズを選ぶことにより、締付け力の120%程度の力で緩められるようにコントロールできることは実験で確認している。
【0035】
また、ワッシャ1の外形サイズを、ナット2の外形サイズよりも大きく製造しておけば、ナット2を回すことなしに、ワッシャ1にスパナなどを当ててワッシャ1を回すことによって、ナット2に触れることなく緩められる。これも実験で確かめられている。
【0036】
ところで、締めつけた状態で振動を受けた時に、ワッシャ1がナット2と一体になって反時計回り方向に回ってしまっては、緩み止めの機能を果たさない。振動を受けた時に、ワッシャ1は回転せずにナット2だけが回転するようでなければならない。そのための工夫として、ワッシャ1上面の凸部1B(段差)の円弧の径とワッシャ1下面の凹部1Aaの径が設定されている。即ち、前述したように、ナット2が反時計回り方向に回ろう(緩もう)としたとき、ワッシャ1はナット2の下面に擦られて、ナット2の下面との間の摩擦で連れ回りしようとする回転力F1が作用するが、それより大きい回転抵抗力F2(ワッシャ2は被取付面Saとの間の摩擦で連れ回りを阻止する力)が作用するので、ワッシャ1を回転させることなく、ナット2だけが回転することになる。
【0037】
前述したように、摩擦係数が全て同程度とすれば、ナット2の締付けで発生する押付け力(=ボルトの軸力)は同じだから、ナット2の下面とワッシャ1の上面との平均接触径をr、ワッシャ1と被取付面Saとの平均接触径をRとすれば、R>rであるので力学的に回転抵抗力F2>回転力F1となる。即ち、ワッシャ1が被取付面Sa(例えば、床)から受ける摩擦力による連れ回り防止の回転抵抗力F2が勝るので、ワッシャ1は回転しない。この場合、力学的に二つの力(トルク)F1,F2の大小は、「有効接触径」の大小だけに関係し、「接触面積」の大小は無関係である。
【0038】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明したが,本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更が可能である。
【0039】
(i)前述した実施の形態は、ワッシャを市販のナットの緩み止めに用いているが、ナットを使用せずに頭付きボルト(六角頭付き及び六角穴付きボルト)だけで部材を締め付けるときにも、ボルトの頭部の直下に挿入すれば、同じく緩め止めの効果が発揮される。つまり、ナットと被取付物の被取付面との間に設けられるワッシャに限らず、ボルトの頭部と被取付物の被取付面との間に設けられるワッシャについても同様に適用することができる。
【0040】
(ii) 前述した実施の形態は、転動体としてボールを用いているが、
図6(a)(b)に示すように、ワッシャ11の凹部11aの幅を広くして、ボールに代えて、ローラ12(コロ)を用いても、全く同じ効果が発揮させることができる。
【0041】
(iii)また、
図7に示すように、ナット21の下面に、前述したような凹部21a内にボール4を設ける構造としても、同様な効果が得られる。その場合には、ナット21は、被取付物側の面に、少なくとも1つの溝状の凹部が前記ねじ棒の回転方向に設けられているナット本体と、前記ナット本体の凹部内に凹部長さ方向に転動可能に設けられている転動体とを備え、前記凹部の底面は平坦な傾斜面となっており、上方から見て時計回り方向に向かって前記凹部の深さが徐々に深くなっている。よって、そのようなナット21を用いた場合にはワッシャが必要でなくなり、ナット21単体で緩め止めができるので、使い勝手が大変よくなる。実際に振動試験を行い、振動で緩まないのを確認している。
【0042】
(iv)ワッシャは、上方から見て(ナット2側となる面に直交する方向から見て)外形が六角形状である必要はなく、三角形、四角形などの他の多角形状でもよい。また、ワッシャの下面を円錐形状にしているのは、被取付面への接触部の有効径を一層大きめにする(=ナットの中心から大きく外側にする)のが目的であり、ワッシャ外形を多角形にしてあるのは、加えて角部が床にめり込む効果を目的としており、ワッシャを更に一層回転しないようにする目的であるが、この多角形形状は外形サイズを十分大きくとれば究極の無限多角形として円形でもよいので、外形が完全な円形であるのも、本発明に係るワッシャには含まれる。
【符号の説明】
【0043】
1,11 ワッシャ
1A ワッシャ本体
1Aa,11a 凹部
1B 環状凸部
1Ba,1Ba’凹部
2,21 ナット
3 ねじ棒
4 ボール(転動体)
12 コロ
21a 凹部
S 被取付物
Sa 被取付面