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特開2024-94989空気二次電池用の空気極及び空気二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094989
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】空気二次電池用の空気極及び空気二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20240703BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20240703BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20240703BHJP
   H01M 4/80 20060101ALI20240703BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20240703BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M4/86 B
H01M4/90 X
H01M12/08 K
H01M12/08 S
H01M4/80 C
H01M4/66 A
H01M4/38 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211947
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】荻原 克幸
(72)【発明者】
【氏名】梶原 剛史
(72)【発明者】
【氏名】夘野木 昇平
(72)【発明者】
【氏名】西 実紀
【テーマコード(参考)】
5H017
5H018
5H032
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA07
5H017CC28
5H017EE04
5H017HH01
5H017HH03
5H018DD01
5H018EE02
5H018EE04
5H018EE13
5H018EE18
5H018HH03
5H018HH05
5H032AA02
5H032AS01
5H032CC02
5H032CC12
5H032CC16
5H032EE01
5H032EE02
5H032EE15
5H032HH01
5H032HH04
5H050AA07
5H050BA20
5H050CA12
5H050CB16
5H050DA06
5H050DA16
5H050FA13
5H050HA01
5H050HA04
(57)【要約】
【課題】従来よりもサイクル寿命特性に優れる空気二次電池用の空気極及びこの空気極を含む空気二次電池を提供する。
【解決手段】電池2は、容器4と、容器4内にアルカリ電解液82とともに収容された電極群10と、を備え、電極群10は、セパレータ14を介して重ね合わされた空気極16及び負極12を含んでおり、空気極16は、空気極用芯体、及び空気極用芯体に組み合わされた空気極合剤層を備えており、負極12と対向する負極対向部と、負極対向部の反対側に位置付けられた空気通路対向部と、負極対向部と空気通路対向部との間の中間部と、を有しており、空気極用芯体は、ニッケルフォームであり、負極対向部に配置され、空気極合剤層は、酸素触媒と、導電材と、フッ素樹脂とを含んでいる空気極合剤により形成されており、空気通路対向部に配置され、中間部は、空気極合剤とニッケルフォームとが共存する複合領域により形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータを介して負極に対向して空気二次電池内にアルカリ電解液とともに収容され、空気極用芯体、及び前記空気極用芯体に組み合わされた空気極合剤層を備える、空気二次電池用の空気極であって、
前記セパレータを介して前記負極と対向する負極対向部と、前記負極対向部の反対側に位置付けられた空気通路と対向する空気通路対向部と、前記負極対向部と前記空気通路対向部との間の中間部と、を有しており、
前記空気極用芯体は、発泡金属であり、前記負極対向部に配置され、
前記空気極合剤層は、酸素触媒と、導電材と、フッ素樹脂とを含んでいる空気極合剤により形成されており、前記空気極通路対向部に配置され、
前記中間部は、前記空気極合剤と前記発泡金属とが共存する複合領域により形成されている、空気二次電池用の空気極。
【請求項2】
前記発泡金属は、ニッケルフォームである、請求項1に記載の空気二次電池用の空気極。
【請求項3】
前記ニッケルフォームは、単位面積当たりの重量が250g/m以上、600g/m以下である、請求項2に記載の空気二次電池用の空気極。
【請求項4】
前記ニッケルフォームの厚さは0.2mm以上、0.4mm以下である、請求項2に記載の空気二次電池用の空気極。
【請求項5】
前記アルカリ電解液が前記空気極内に保持される保液量は、0.010g/cm以上である、請求項1に記載の空気二次電池用の空気極。
【請求項6】
前記酸素触媒は、組成式がBiRuで表されるパイロクロア型の結晶構造を有しているビスマスルテニウム酸化物である、請求項1に記載の空気二次電池用の空気極。
【請求項7】
容器と、
前記容器内にアルカリ電解液とともに収容された電極群と、を備えており、
前記電極群は、請求項1~6の何れかに記載の空気二次電池用の空気極と、前記セパレータを介して重ね合わされた前記負極とを含む、空気二次電池。
【請求項8】
前記負極は、水素吸蔵合金を含んでいる、請求項7に記載の空気二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気二次電池用の空気極及びこの空気極を含む空気二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中の酸素を正極活物質とする空気電池が、エネルギー密度が高く、小型、軽量化が容易であること等の理由から注目を集めている。このような空気電池においては、亜鉛空気一次電池が補聴器用の電源として実用化されている。
【0003】
また、充電が可能な空気電池として、負極用金属に、Li、Zn、Al、Mgなどを用いる空気二次電池の研究がなされており、このような空気二次電池は、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度を超える可能性がある新しい二次電池として期待されている。
【0004】
このような空気二次電池の一種として、電解液にアルカリ性水溶液(以下、アルカリ電解液とも表記する)を用い、負極活物質に水素を用いる空気水素二次電池が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に代表されるような空気水素二次電池は、負極用金属として水素吸蔵合金を用いているが、空気水素二次電池における負極活物質は、上記した水素吸蔵合金に吸蔵及び放出される水素であるので、電池における充放電の際の化学反応(以下、電池反応とも表記する)にともない水素吸蔵合金自体の溶解析出反応は起こらない。このため、空気水素二次電池は、負極用金属が樹枝状に析出するいわゆるデンドライト成長による内部短絡の発生やシェイプチェンジによる電池容量の低下といった問題が起こらないメリットを有している。
【0005】
上記の空気水素二次電池のようにアルカリ電解液を用いる空気二次電池では、正極(以下、空気極とも表記する)において以下に示すような充放電反応が起こる。
【0006】
充電(酸素発生反応):4OH→O+2HO+4e・・・(I)
放電(酸素還元反応):O+2HO+4e→4OH・・・(II)
【0007】
空気二次電池においては、正極である空気極として、上記した充放電反応を促進させる触媒(酸素触媒)が用いられている。この酸素触媒は、酸素還元及び酸素発生の二元機能を有している。
【0008】
空気極は、上記した酸素触媒を含む空気極合剤を保持している。この空気極合剤は、多数の微細な空孔を含む多孔質構造をなしており、この空孔にアルカリ電解液や酸素が取り込まれる。空気極においては、表面部分をはじめ、上記した空孔において充放電反応が進行する。
【0009】
ここで、空気二次電池では、放電時に空気中の酸素が還元されて水酸化物イオンがアルカリ電解液中に生成され、充電時にアルカリ電解液中の水酸化物イオンが酸化されて酸素及び水が生成される。充電時に生成された酸素は、空気極内部の空孔を通って、空気極における大気に開放されている部分から大気中に放出される。
【0010】
上記したような亜鉛一次電池や空気二次電池の空気極としては、空気極合剤が芯体としてのニッケルメッシュに保持されている形態をとるものが知られている(例えば、非特許文献1、特許文献2参照)。
【0011】
亜鉛一次電池用の空気極は、例えば、以下のようにして製造される。まず、カーボンブラック、二酸化マンガン、及びフッ素樹脂を含む空気極合剤にイオン交換水を加えて混錬し、粘土状のペーストとなった空気極合剤を伸ばしてシート状にする。得られた空気極合剤のシートを自然乾燥させ、ある程度水分を蒸発させた後、この空気極合剤のシートの一方の面に芯体としてのニッケルメッシュを押し付け、空気極合剤のシートとニッケルメッシュとを圧着させる。このとき、空気極合剤のシートは、粘土状であるので、空気極合剤のシートにニッケルメッシュが食い込んでいく。そして、最終的には、空気極合剤のシートにおける一方の面とニッケルメッシュがほぼ面一の状態となる。つまり、空気極合剤のシートにおける一方の面は、ニッケルメッシュ及び当該ニッケルメッシュの網目の間隙に入り込んだ空気極合剤が露出した状態の表面(以下、圧着面とも表記する)となっている。このように空気極合剤と芯体とが一体化された中間製品は、不活性ガス雰囲気下で加熱処理が施される。これにより空気極が得られる。得られた空気極は、亜鉛一次電池内に配設される。このとき、空気極は、その圧着面が大気中に開放された側に位置付けられている(例えば、非特許文献1参照)。
【0012】
空気二次電池の空気極としては、主に亜鉛一次電池の空気極と同様なタイプの空気極が用いられている。つまり、空気二次電池の空気極は、上記したような亜鉛一次電池の空気極と同様にニッケルメッシュを芯体とし、この芯体に空気極合剤が圧着されている。この空気二次電池の空気極は、空気極合剤に二酸化マンガンの代わりに酸素触媒が含まれていることを除き、上記した亜鉛一次電池の空気極と同様な製造方法により製造され、その圧着面が大気中に開放された側に位置付けられている。
【0013】
また、空気二次電池の空気極の別な態様として、空気極の芯体にニッケルフォームを用いたものが知られている(例えば、特許文献3)。芯体にニッケルフォームを用いる空気極は、空気極合剤に多めに水を加え、ペーストよりも粘度の低いスラリーを作成し、この空気極合剤スラリーをニッケルフォームの空隙に浸透させることにより空気極を製造する。ニッケルフォームを用いる空気極の場合、粘度の高いペーストを伸ばしてシート状に成形したり、得られたシートを圧着する必要がないので、ニッケルメッシュを用いる空気極に比べ製造効率が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第4568124号公報
【特許文献2】特開2020-187862
【特許文献3】特開2017-076538
【非特許文献1】タイトル;電池便覧(P.135 2・7 その他の一次電池 c.構造(i)ボタン形)、著者名;編集代表:松田好晴,竹原善一郎(発表年;平成7年1月20日発行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、空気二次電池においては、充放電反応にともない水の生成及び消費が行われるので、電池内にて水の量が変化する。このため、空気二次電池においては充放電反応にともないアルカリ電解液の濃度が変化する。
【0016】
ここで、空気二次電池の空気極に含まれる空気極合剤層においては、液体を保持できる量(以下、保液量という)が比較的低い。このように保液量が低いと、水の量の変化の影響を受けやすいため、空気極内では充放電にともないアルカリ電解液の濃度の変化が大きくなる。例えば、アルカリ電解液の濃度が高くなると、芯体を構成するニッケルの表面が酸化し、それにともない電気抵抗値が上昇することがある。このように空気極の電気抵抗値が上昇すると放電電圧が低下する。
【0017】
また、空気極の空気極合剤層は、微細な空隙を多数含んでいる。つまり、空気極は、ある種の毛細管を多数含んでいる多孔質固体と言える。このような多孔質固体である空気極に液体であるアルカリ電解液が接しているところに電圧がかかると電気浸透が起こる。電気浸透が起こると、空気極内部の空隙にアルカリ電解液が浸入していき、空気極の空隙内の固体表面の濡れが進行していく。また、アルカリ電解液の浸透圧に起因して空気極内部の空隙にアルカリ電解液が浸入していくこともあり、空気極の空隙内の固体表面の濡れが進行していく。このように、空気極の内部にアルカリ電解液が多く浸透すると放電場の三相界面が減少し、その結果、放電電圧が低下する。
【0018】
上記したような電気浸透や浸透圧に起因する浸透は、充放電反応にともなうアルカリ電解液の濃度の変化が大きいほど影響を受ける。
【0019】
また、ニッケルフォームに空気極合剤スラリーを充填して空気極を製造する場合、空気極合剤ペーストを伸ばしてシートにすることはしないので、スラリーの内部に含まれるフッ素樹脂に剪断力が作用しにくい。フッ素樹脂に剪断力が作用しないと、フッ素樹脂の繊維化が十分に起こらない。フッ素樹脂が繊維化しないと芯体に空気極合剤を十分に保持できず、充放電サイクルが進むにつれ空気極合剤が脱落する不具合が起こる。このような不具合を改善するため、フッ素樹脂の添加量を増やすことが行われる。しかしながら、フッ素樹脂を増やすと空気極の導電性が阻害され、空気極の電気抵抗値が上昇する。その結果、空気二次電池の放電電圧が低下する。
【0020】
上記のように、空気二次電池においては、充放電のサイクルの進行にともない放電電圧が低下してしまい、比較的サイクル寿命が短いという問題がある。
【0021】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その目的とするところは、従来よりもサイクル寿命特性に優れる空気二次電池用の空気極及びこの空気極を含む空気二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するために、本発明によれば、セパレータを介して負極に対向して空気二次電池内にアルカリ電解液とともに収容され、空気極用芯体、及び前記空気極用芯体に組み合わされた空気極合剤層を備える、空気二次電池用の空気極であって、前記セパレータを介して前記負極と対向する負極対向部と、前記負極対向部の反対側に位置付けられた空気通路と対向する空気通路対向部と、前記負極対向部と前記空気通路対向部との間の中間部と、を有しており、前記空気極用芯体は、発泡金属であり、前記負極対向部に配置され、前記空気極合剤層は、酸素触媒と、導電材と、フッ素樹脂とを含んでいる空気極合剤により形成されており、前記空気極通路対向部に配置され、前記中間部は、前記空気極合剤と前記発泡金属とが共存する複合領域により形成されている、空気二次電池用の空気極が提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る空気二次電池用の空気極は、セパレータを介して負極に対向して空気二次電池内にアルカリ電解液とともに収容され、空気極用芯体、及び前記空気極用芯体に組み合わされた空気極合剤層を備える、空気二次電池用の空気極であって、前記セパレータを介して前記負極と対向する負極対向部と、前記負極対向部の反対側に位置付けられた空気通路と対向する空気通路対向部と、前記負極対向部と前記空気通路対向部との間の中間部と、を有しており、前記空気極用芯体は、発泡金属であり、前記負極対向部に配置され、前記空気極合剤層は、酸素触媒と、導電材と、フッ素樹脂とを含んでいる空気極合剤により形成されており、前記空気極通路対向部に配置され、前記中間部は、前記空気極合剤と前記発泡金属とが共存する複合領域により形成されている。このような構成の空気極によれば、空気極の保液量が上昇するため、充放電反応にともなう電解液濃度の変化が軽減される。これにより、電気浸透や浸透圧起因での空気極内部への液体の浸透による濡れの進行が抑制されると考えられる。また電解液濃度の上昇が抑制されることで金属ニッケルの酸化による電気抵抗値の上昇も抑制されることが期待される。その結果、充放電サイクル後も放電の反応場である三相界面が維持されやすくなり、充放電サイクル後も放電電圧が低下しにくい電池が得られる。よって、本発明によれば、多数回の充放電サイクルを経過した後の放電電圧を従来よりも高く維持することができ、サイクル寿命特性に優れる空気二次電池用の空気極及びこの空気極を含む空気二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】一実施形態に係る空気水素二次電池を概略的に示した断面図である。
図2】実施例1の空気極に撥水通気部材を組み合わせた状態を示した斜視図(A)、及び断面図(B)である。
図3】比較例1の空気極に撥水通気部材を組み合わせた状態を示した斜視図(A)、及び断面図(B)である。
図4】比較例2の空気極に撥水通気部材を組み合わせた状態を示した斜視図(A)、及び断面図(B)である。
図5】実施例1の空気極の断面を光学顕微鏡で観察した画像を示した図面代用写真である。
図6】比較例1の空気極の断面を光学顕微鏡で観察した画像を示した図面代用写真である。
図7】3サイクル後における電流値と電池電圧との関係を表すグラフである。
図8】20サイクル後における電流値と電池電圧との関係を表すグラフである。
図9】60サイクル後における電流値と電池電圧との関係を表すグラフである。
図10】サイクル数とI-V抵抗値との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、一実施形態に係る空気二次電池用の空気極を含む空気水素二次電池(以下、電池とも表記する)2について図面を参照して説明する。
【0026】
図1に示すように、電池2は、容器4と、この容器4の中にアルカリ電解液82とともに収容された電極群10とを備えている。
【0027】
電極群10は、負極12と、空気極(正極)16とがセパレータ14を介して重ね合わされて形成されている。
【0028】
負極12は、多孔質構造をなし多数の空孔を有する導電性の負極芯体と、前記した空孔内及び負極芯体の表面に担持された負極合剤とを含んでいる。上記したような負極芯体としては、例えばニッケルフォームを用いることができる。
【0029】
負極合剤は、負極活物質としての水素を吸蔵及び放出可能な水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末と、導電材と、結着剤とを含む。ここで、導電材としては、黒鉛の粉末、カーボンブラックの粉末等を用いることができる。
【0030】
水素吸蔵合金粒子を構成する水素吸蔵合金としては、特に限定されるものではないが、例えば、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金を用いることが好ましい。この希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の組成は自由に選択できるが、例えば、
一般式:Ln1-aMgNib-c-dAl・・・(III)
で表されるものを用いることが好ましい。
【0031】
ただし、一般式(III)中、Lnは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sc、Y、Zr及びTiよりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Mは、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Ga、Zn、Sn、In、Cu、Si、P及びBよりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を表し、添字a、b、c、dは、それぞれ、0.01≦a≦0.30、2.8≦b≦3.9、0.05≦c≦0.30、0≦d≦0.50の関係を満たす数を表す。
【0032】
ここで、水素吸蔵合金粒子は、例えば以下のようにして得られる。
まず、所定の組成となるように金属原材料を計量して混合し、この混合物を不活性ガス雰囲気下にて、例えば、高周波誘導溶解炉で溶解した後、冷却してインゴットにする。得られたインゴットは、不活性ガス雰囲気下にて900~1200℃に加熱され、その温度で5~24時間保持する熱処理が施され均質化される。この後、インゴットを粉砕し、篩分けを行うことにより所望粒径の水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末を得る。
【0033】
結着剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴム等が用いられる。
【0034】
ここで、負極12は、例えば以下のようにして製造することができる。
まず、水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末、導電材、結着剤及び水を混練して負極合剤ペーストを調製する。得られた負極合剤ペーストは負極芯体に充填され、その後、乾燥処理が施される。乾燥後、水素吸蔵合金粒子等が付着した負極芯体はロール圧延されて、単位体積当たりの合金量を高められ、その後、裁断がなされ、これにより負極12が得られる。この負極12は、全体として板状をなしている。負極12に含まれる負極合剤層は、水素吸蔵合金の粒子、導電材の粒子等により形成されているので、粒子間に隙間があり、全体として多孔質構造をなしている。
【0035】
次に、空気極16は、導電性の空気極用芯体、及び前記した空気極用芯体に保持された空気極合剤(正極合剤)により形成された空気極合剤層(正極合剤層)を備えている。
【0036】
上記したような空気極用芯体としては、発泡金属を用いることができる。この発泡金属としては、ニッケルフォームを用いることが好ましい。このニッケルフォームとしては、単位面積当たりの重量が250g/m以上、600g/m以下であるニッケルフォームを用いることが好ましい。また、このニッケルフォームの厚さは、0.2mm以上、0.4mm以下である態様とすることが好ましい。
【0037】
空気極合剤は、酸素触媒、導電材、及び撥水剤を含む。
酸素触媒としては、酸化還元の二元機能を有するものを用いる。このような二元機能を有する触媒は、充電過程でも、放電過程でも電池の過電圧を低減させることに寄与する。このような酸素触媒としては、例えば、パイロクロア型のビスマスルテニウム酸化物を用いることが好ましい。このビスマスルテニウム酸化物は、酸素発生及び酸素還元の二元機能を有している。
【0038】
ビスマスルテニウム酸化物は、組成式がBi2-xRu7-z(ただし、0≦x≦1、zは0≦z≦1の関係を満たしている。)で表されるパイロクロア型の結晶構造を有している。
【0039】
上記したようなパイロクロア型のビスマスルテニウム酸化物は、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0040】
Bi(NO・5HO及びRuCl・3HOを準備する。そして、モル比でRuが1.00に対し、Biが0.50以上1.00以下となるように、Bi(NO・5HOと、RuCl・3HOとを計量する。計量されたBi(NO・5HO及びRuCl・3HOを所定の溶液の中に投入し、撹拌してBi(NO・5HO及びRuCl・3HOの混合水溶液を調製する。このとき、所定の溶液としては、蒸留水、希硝酸水溶液等が挙げられ、これらの溶液の温度は、60℃以上、90℃以下とする。そして、この混合水溶液に、1mol/L以上、3mol/L以下のNaOH水溶液を加えて前駆体を析出させる(共沈工程)。この前駆体が沈殿した後、当該混合水溶液を撹拌する。この撹拌操作は、酸素バブリングをともなって12時間~60時間行う。ここで、撹拌操作を行っている間、当該混合水溶液については、pHが10~12となるように維持するとともに、温度が60℃以上、90℃以下になるように維持する。撹拌操作の終了後、混合水溶液を12時間~60時間静置する。静置した後、生じた沈殿物を吸引ろ過して回収する。回収された沈殿物は、80℃以上、100℃以下に保持して水分の一部を蒸発させてペーストを形成する。このペーストを蒸発皿に移し、100℃以上、150℃以下に加熱し、その状態で1時間以上、5時間以下保持して乾燥させ、ペーストの乾燥物を得る。得られたペーストの乾燥物を乳鉢に入れ、乳棒ですりつぶして粉砕し、前駆体の粉末を得る。
【0041】
次に、前駆体の粉末を、空気雰囲気下で400℃以上、700℃以下の温度に加熱し、0.5時間以上、4時間以下保持することにより熱処理を施す(焼成工程)。熱処理が終了した粉末は、60℃以上、90℃以下の蒸留水を用いて水洗された後、乾燥処理が施される。この乾燥処理は、水洗後の粉末を60℃以上、130℃以下で1時間以上、12時間以下保持することにより行われる。これにより、パイロクロア型のビスマスルテニウム酸化物(Bi2-xRu7-z)が得られる。
【0042】
次に、得られたビスマスルテニウム酸化物を硝酸水溶液に浸漬させ、酸処理を施すことが好ましい。具体的には、以下の通りである。
【0043】
まず、硝酸水溶液を準備する。ここで、硝酸水溶液の濃度は、5mol/L以下とすることが好ましい。硝酸水溶液の量は、ビスマスルテニウム酸化物1gに対して20mLの割合となる量を準備することが好ましい。硝酸水溶液の温度は、20℃以上、25℃以下に設定することが好ましい。
【0044】
そして、準備された硝酸水溶液の中に、ビスマスルテニウム酸化物を浸漬し、1時間以上、6時間以下撹拌する。所定時間撹拌した後、硝酸水溶液中からビスマスルテニウム酸化物を吸引濾過する。濾別されたビスマスルテニウム酸化物は、60℃以上、80℃以下に設定された蒸留水に投入され洗浄される。
【0045】
洗浄されたビスマスルテニウム酸化物は、60℃以上、130℃以下で1時間以上、12時間以下保持され、乾燥処理が施される。
【0046】
以上のようにして、酸処理が施されたビスマスルテニウム酸化物を得る。このように酸処理を施すことにより、ビスマスルテニウム酸化物の焼成工程で生じる副生成物を除去することができる。なお、酸処理に用いられる酸性水溶液は、硝酸水溶液に限定されるものではなく、硝酸水溶液の他に塩酸水溶液、硫酸水溶液を用いることができる。これら、塩酸水溶液及び硫酸水溶液においても、硝酸水溶液と同様に副生成物を除去できるという効果が得られる。
【0047】
得られたビスマスルテニウム酸化物の平均粒径としては、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した二次電子像より求めた平均粒径で、1nm以上、100nm以下とすることが好ましい。
【0048】
次に、導電材について説明する。導電材は、空気二次電池の高出力化を図るべく内部抵抗を低下させるため、及び、上記した酸素触媒を担持する担体として用いられる。
【0049】
このような導電材(触媒担持導電材)としては、例えば、ニッケルや炭素材料を用いることが好ましい。ニッケルとしては、ニッケル粒子の集合体であるニッケル粉末を用いることが好ましい。ニッケル粉末としては、カーボニルニッケルの粉末を用いることが好ましい。より好ましくは、スパイク形状やフィラメント形状のニッケル粒子の粉末を用いる。上記したニッケル粒子の平均粒径としては、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置により測定した体積平均粒径(MV)で、1μm以上、5μm以下とすることが好ましい。
【0050】
また、炭素材料としては、黒鉛、カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等を用いることができる。ここで、耐酸化性に優れている観点から黒鉛を用いることが好ましい。黒鉛としては、黒鉛粒子の集合体である黒鉛粉末を用いることが好ましい。
【0051】
上記した導電材は、空気極合剤中において、20重量%以上含有させることが好ましい。この導電材の含有量の上限は、空気極合剤における他の構成材料との関係から70重量%以下とすることが好ましい。
【0052】
撥水剤は、空気極16に適切な撥水性を付与する。ここで、撥水剤としてはフッ素樹脂が用いられる。このフッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、パーフルオロアルコキシアルカンポリマー(PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルフルオライド(PVF)等を用いることができる。ここで、好ましいフッ素樹脂としては、PTFEが挙げられる。PTFEは、せん断力を受けることにより繊維化する性質があり、空気極合剤を結着させる働きもあるためである。
【0053】
上記したフッ素樹脂は、空気極合剤中において、10重量%以上含有させることが好ましい。このフッ素樹脂の含有量が40重量%を超えると充放電反応に寄与する酸素触媒の含有量が相対的に減り、電池特性の低下を招くので、空気極合剤中におけるフッ素樹脂の含有量の上限は、40重量%以下とすることが好ましい。
【0054】
ここで、空気極合剤には、必要に応じで結着剤を添加してもよい。ただし、上記したフッ素樹脂のうちの一部は、空気極合剤の他の構成材料を結着させる働きも有するので、結着剤と兼ねることができる。このように他の構成材料を結着させる働きも有するフッ素樹脂を採用した場合は、別途の結着剤は不要である。
【0055】
空気極16は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、ビスマスルテニウム酸化物粒子の集合体である触媒粉末、導電材としてのニッケルの粒子の集合体である導電材粉末、撥水剤及び水を準備する。そして、これら触媒粉末、導電材粉末、撥水剤及び水を混錬して空気極合剤ペーストを調製する。
【0056】
得られた空気極合剤ペーストは、例えば、ローラプレスを施すことによりシート形状に成形される。その後、25℃程度の室温で乾燥処理が施される。これにより、ペースト中の水分がある程度蒸発し、空気極合剤ペーストは粘性が増して粘土状となる。このようにして、粘土状の空気極合剤シートが得られる。ここで、粘土状とは、粘着性及び可塑性を示す状態であって、荷重をかけると変形して、その変形した形態が保持される状態をいう。
【0057】
一方、空気極用芯体としての発泡金属のシートを準備する。発泡金属のシートは、金属の骨格が三次元網目状に延びる三次元網目構造を有しており、全体としてシート状をなしている。このような発泡金属のシートとしては、例えば、ニッケルの骨格が三次元網目状に延びる三次元網目構造を有するとともに全体としてシート状をなしているニッケルフォームを用いることが好ましい。
【0058】
このニッケルフォームの単位面積当たりの重量が250g/m未満であると、芯体としての十分な強度を得ることが難しくなる。また、ニッケルフォームの単位面積当たりの重量が600g/mを超えるとニッケルフォーム内の空隙が小さくなり過ぎ、ガスの拡散性が阻害されるおそれがある。よって、十分な強度と良好なガス拡散性を確保するためにニッケルフォームの単位面積当たりの重量は、250g/m以上600g/m以下の範囲とすることが好ましい。
【0059】
次に、発泡金属のシートに上記のようにして得られた空気極合剤シートを重ね合わせて、これら発泡金属のシートと空気極合剤シートとをプレス圧着する。ここで、空気極合剤シートにおける発泡金属のシートと当接する面を空気極合剤側当接面とする。空気極合剤側当接面にはプレス圧着の進行にともない発泡金属の骨格部分が食い込んでいく。上記したように空気極合剤シートは粘土状なので、変形しやすく発泡金属の骨格部分を受け入れる。換言すると、発泡金属の骨格部分の間隙に空気極合剤シートが入り込んでいく。このとき、発泡金属のシートを空気極合剤シートの中に完全に埋没させることは行わず、発泡金属のシートが所定の深さまで食い込んだところでプレス圧着の操作を停止する。このようにして空気極の中間製品を製造する。
【0060】
得られた空気極の中間製品においては、厚さ方向の中間部に空気極合剤と発泡金属とが共存する複合領域が形成されている。そして、空気極の中間製品において、前記した中間部を挟んでの一方の面側には、空気極合剤のみからなる空気極合剤領域があり、前記した中間部を挟んでの他方の面側には、発泡金属のみからなる発泡金属領域がある。
【0061】
次いで、得られた中間製品は、熱処理炉に投入され熱処理(焼成処理)が施される。この焼成処理は、不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましいが、大気雰囲気中で焼成処理を行ってもよい。この不活性ガスとしては、例えば、窒素ガスやアルゴンガスが用いられる。焼成処理の条件としては、200℃以上、400℃以下の温度に加熱し、この状態で、10分以上、40分以下の間保持する。その後、中間製品を熱処理炉内で自然冷却し、中間製品の温度が150℃以下になったところで大気中に取り出す。これにより、熱処理が施された中間製品が得られる。この熱処理後の中間製品を所定形状に裁断することにより、空気極16が得られる。
【0062】
得られた空気極16は、図2に示すように、一方の面側に空気極合剤のみからなる空気極合剤領域62を有し、他方の面側に発泡金属のみからなる発泡金属領域64を有し、空気極合剤領域62及び発泡金属領域64の間に空気極合剤と発泡金属とが共存する複合領域66を有している。空気極合剤領域62及び複合領域66の空気極合剤により空気極合剤層68が形成されている。斯かる空気極合剤層68は、全体として多数の細孔を含む多孔質構造をなしており、ガス拡散性に優れている。なお、図2においては、空気極16の向きを明確に示すため、空気極16と接する部材である後述の撥水通気部材40を併せて描いている。
【0063】
ここで、空気極合剤層68の厚さは、放電に必要な三相界面を空気極中に必要十分に形成させるために0.15mm以上0.30mm以下とすることが好ましい。
【0064】
また、プレス圧着は、発泡金属が空気極合剤のシートに食い込んで十分な強度と集電性を得るために、空気極合剤層68及び空気極16の全体が適切な厚さとなるように調整して行われる。プレス圧着において、圧縮をし過ぎると空気極合剤層68及び発泡金属が緻密化してしまい、空気極合剤層68及び発泡金属の中に存在する空孔が小さくなってしまう。そうなると、当該空孔がアルカリ電解液で満たされやすくなりガス拡散性が阻害されるおそれがある。一方、プレス圧着において、圧縮の度合いが少ないと、空気極16と負極12とを組み合わせた際に、複合領域66の空気極合剤層68と、負極12との距離が離れ過ぎてしまう。そうなると、アルカリ電解液の電気抵抗値が上昇するおそれがある。上記したような不具合を回避するため、空気極16の総厚さが0.30mm以上0.50mm以下となるようにプレス圧着することが好ましい。
【0065】
上記のようにして得られた空気極16及び負極12は、セパレータ14を介して積層され、これにより電極群10が形成される(図1参照)。このセパレータ14は、空気極16及び負極12の間の短絡を避けるために配設され、電気絶縁性の材料が採用される。このセパレータ14に採用される材料としては、例えば、ポリアミド繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの等を用いることができる。
【0066】
ここで、図2から明らかなように、空気極16は、セパレータ14を介して負極12と対向する負極対向部61を有しており、この負極対向部61には、上記した発泡金属領域64が位置付けられている。つまり、発泡金属領域64はセパレータ14と当接する。更に、空気極16は、上記した負極対向部61の反対側に位置付けられ、後述する大気中に開放された空気通路30と対向する空気通路対向部63を有しており、この空気通路対向部63には、上記した空気極合剤領域62が位置付けられている。この空気極合剤領域62は、後述する撥水通気部材40と当接する。そして、空気極16の負極対向部61と空気通路対向部63との間の中間部65には、上記した複合領域66が位置付けられている。
【0067】
形成された電極群10は、容器4の中に入れられる。この容器4としては、電極群10とアルカリ電解液とを収容できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、箱状の容器4が用いられる。この容器4は、例えば、図1に示すように、容器本体6と、蓋8とを含んでいる。また、容器4の材質に関しては、アルカリ電解液に耐えられるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、アクリル樹脂、金属材料等を挙げることができる。
【0068】
容器本体6は、底壁18と、底壁18の周縁部から上方に延びる側壁20とを有する箱形状をなしている。側壁20の上端縁21で囲まれた部分は、開口している。つまり、底壁18の反対側には、開口部22が設けられている。また、側壁20においては、右側壁20R及び左側壁20Lの所定位置に、それぞれ貫通孔が設けられており、これら貫通孔は、後述するリード線の引出口24、26となる。
【0069】
更に、容器本体6には、電解液貯蔵部80が取り付けられている。この電解液貯蔵部80は、アルカリ電解液82を収容する容器であり、例えば、底壁18に設けられた貫通孔19と連通する連結部84を介して取り付けられている。連結部84は、容器4の内部と電解液貯蔵部80との間を連通するアルカリ電解液82の流路である。このように、容器4の内部と電解液貯蔵部80とは連通しているため、アルカリ電解液82は、容器4の内部と電解液貯蔵部80との間を移動することができる。
【0070】
蓋8は、容器本体6の平面視形状と同じ平面視形状をなしており、容器本体6の上部に被せられ、開口部22を塞ぐ。蓋8と、側壁20の上端縁21との間は液密に封止される。
【0071】
蓋8において、容器本体6の内側に臨む内面部28には、空気通路30が設けられている。空気通路30は、容器本体6の内側に面する部分が開放されており、全体として1本のサーペンタイン形状をなしている。更に、蓋8の所定位置には、厚さ方向に貫通する入側通気孔32及び出側通気孔34が設けられている。入側通気孔32は、空気通路30の一方端と連通しており、出側通気孔34は、空気通路30の他方端と連通している。つまり、空気通路30は、入側通気孔32及び出側通気孔34を介して大気に開放されている。なお、入側通気孔32には、図示しない圧送ポンプを取り付けることが好ましい。この圧送ポンプを駆動することにより入側通気孔32から空気通路30に空気を送り込むことができる。
【0072】
容器本体6の底壁18の上には、必要に応じて、調整部材36を配置する。調整部材36は、容器4内において、電極群10の高さ方向の位置合わせに用いられる。調整部材36としては、例えば、ニッケルフォームのシートが用いられる。
【0073】
調整部材36の上には、電極群10が配設される。このとき、電極群10の負極12は、調整部材36と接するように配設される。
【0074】
一方、電極群10の空気極16側には、空気極16の空気極合剤領域62と接するように撥水通気部材40が配設される。この撥水通気部材40は、PTFE多孔膜42に不織布拡散紙44が組み合わされたものである。撥水通気部材40は、PTFEにより撥水効果を発揮するとともに、気体の通過を許容する。撥水通気部材40は、蓋8と空気極16との間に介在し、蓋8及び空気極16の両方に密着している。この撥水通気部材40は、蓋8の空気通路30、入側通気孔32及び出側通気孔34の全体をカバーする大きさを有している。
【0075】
上記のような、電極群10、調整部材36及び撥水通気部材40を収容した容器本体6には、蓋8が被せられる。そして、図1において概略的に描かれているように、容器4(容器本体6及び蓋8)の周端縁部46、48が連結具50、52により上下から挟みこまれる。その後、所定量のアルカリ電解液82が電解液貯蔵部80から注入され、容器4内にアルカリ電解液82が導入される。このようにして、電池2が形成される。
【0076】
なお、上記したアルカリ電解液82としては、アルカリ二次電池に用いられる一般的なアルカリ電解液が好適に用いられ、具体的には、NaOH、KOH及びLiOHのうち、少なくとも1種を溶質として含む水溶液が用いられる。
【0077】
ここで、電池2においては、蓋8の空気通路30は撥水通気部材40に相対している。撥水通気部材40は、気体は通すが水分は遮断するので、空気極16は撥水通気部材40、空気通路30、入側通気孔32及び出側通気孔34を介して大気に開放されることになる。つまり、空気極16は、撥水通気部材40を通じて大気と接することになる。
【0078】
また、この電池2においては、空気極(正極)16に空気極リード(正極リード)54が電気的に接続されており、負極12に負極リード56が電気的に接続されている。これら空気極リード54及び負極リード56は、図1中においては概略的に描かれているが、気密性及び液密性を保持した状態で引出口24、26から容器4の外に引き出されている。そして、空気極リード54の先端には空気極端子(正極端子)58が設けられており、負極リード56の先端には負極端子60が設けられている。したがって、電池2においては、これら空気極端子58及び負極端子60を利用して充放電の際の電流の入力及び出力が行われる。
【0079】
[実施例]
1.電池の製造
(実施例1)
(1)空気二次電池用の酸素触媒の合成
1)共沈工程
Bi(NO・5HO及びRuCl・3HOを準備した。そして、これらBi(NO・5HO及びRuCl・3HOが同じ濃度となるように計量した。計量されたBi(NO・5HO及びRuCl・3HOをあわせて75℃の蒸留水の中に投入し、撹拌してBi(NO・5HO及びRuCl・3HOの混合水溶液を調製した。そして、得られた混合水溶液に、2mol/LのNaOH水溶液を徐々に加えて前駆体を析出させた。この際の浴温度は75℃とし、酸素バブリングを行いながら撹拌した。この操作によって生じた沈殿物を含む溶液を85℃に保持して水分の一部を蒸発させてペーストを形成した。このペーストを蒸発皿に移し、120℃に加熱し、その状態で12時間保持して乾燥させ、ペーストの乾燥物(前駆体)を得た。得られた前駆体の乾燥物を乳鉢に入れ、乳棒ですりつぶして粉砕した。
【0080】
2)焼成工程
得られた前駆体を、空気雰囲気下で600℃の焼成温度に加熱し1時間保持する焼成処理を施した。当該焼成処理が終了した後の前駆体を、70℃の蒸留水を用いて水洗した後、吸引濾過し、120℃で3時間保持する乾燥処理を施した。このようにして得られた焼成物を乳鉢に入れ、乳棒ですりつぶして粉砕し、粉末状とした。得られた粉末に関し、走査型電子顕微鏡による二次電子像を観察した結果、第1焼成物の粒子径は0.1μm以下であった。
【0081】
3)酸処理工程
焼成物の粉末1gに対して20mLの割合となるように硝酸水溶液を準備した。そして、この硝酸水溶液と焼成物の粉末とをスターラーの撹拌槽に入れ、当該硝酸水溶液の温度を25℃に保持したまま1時間撹拌して酸処理を施した。ここで、硝酸水溶液の濃度は2mol/Lとした。
【0082】
撹拌が終了した後、硝酸水溶液中からビスマスルテニウム酸化物の粉末を吸引濾過することにより取り出した。取り出された焼成物の粉末は、70℃に加熱した蒸留水1リットルで洗浄した。洗浄後、焼成物の粉末を、120℃の雰囲気下で3時間保持することにより乾燥させた。
【0083】
以上のようにして、酸処理されたビスマスルテニウム酸化物の粉末、すなわち、空気二次電池用の酸素触媒の粉末を得た。得られた空気二次電池用の酸素触媒においては、上記したように酸処理を施すことにより、ビスマスルテニウム酸化物の製造過程で生じる副生成物が除去された。
【0084】
4)分析
得られたビスマスルテニウム酸化物の粉末につき、粉末X線回折法による分析を行った。このX線回折(XRD)分析には平行ビームX線回折装置を用いた。ここでの分析の条件は、X線源がCuKα、管電圧が40kV、管電流が15mA、スキャンスピードが1度/min、ステップ幅が0.01度とした。分析の結果、得られたXRDプロファイルから、パイロクロア型のBiRuのピーク位置に対応する位置に回折ピークが存在しているため、得られた粉末はパイロクロア型の結晶構造を有しているBiRuであることが確認できた。
【0085】
また、得られたビスマスルテニウム酸化物の粉末につき、走査型電子顕微鏡による二次電子像を観察した結果、一次粒子径は10~50nmであった。
【0086】
(2)空気極合剤のスラリーの製造
導電材としてニッケルの粒子の集合体であるニッケル粉末を準備した。ニッケルは、アルカリ水溶液中で安定であり、充電反応においても酸化劣化しにくい材料であるので、導電材として好ましい。ここで、ニッケル粉末としては、カルボニル法により合成した一次粒子径2~3μmのスパイク形状のニッケル粒子(vale社製のT-255)の集合体を用いた。
【0087】
更に、撥水剤としてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョン及びイオン交換水を準備した。撥水剤としては、撥水性を有していることは勿論のこと、充電電位においても分解しないことを要するので、フッ素樹脂が好ましく、特にPTFEは剪断力を負荷すると繊維化してバインダーの機能も発現するので、より好ましい。実施例1においては、三井・ケマーズフロロプロダクツ株式会社製のPTFEディスパージョン(31-JR、平均粒子径0.20~0.25μm)用いた。
【0088】
上記のようにして得られたビスマスルテニウム酸化物(空気極触媒)の粉末20重量部に、ニッケル粉末70重量部を固相混合することによりビスマスルテニウム酸化物(空気極触媒)とニッケル粉末との混合物を得た。上記のように固相混合することにより、ニッケル粒子表面にビスマスルテニウム酸化物(空気極触媒)が固着された状態となる。次いで、ビスマスルテニウム酸化物(空気極触媒)とニッケル粉末との混合物にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョン及びイオン交換水を加え混合した。このとき、PTFEディスパージョンは10重量部、イオン交換水は30重量部の割合で均一に混合して空気極合剤のペーストを製造した。得られた空気極合剤のペーストをローラプレスによりシート形状に成形した後、25℃の室温環境下で自然乾燥させた。得られた空気極合剤のシートは、水分がある程度蒸発して粘土状となっており、その厚さは0.23mmであった。
【0089】
(3)空気極の製造
空気極用芯体としてシート状のニッケルフォーム(厚さが0.30mm、単位面積当たりの重量が350g/m)を準備した。そして、このニッケルフォームのシートに上記のようにして得られた空気極合剤のシートを重ね合わせ、プレス圧着させることにより空気極の中間製品を得た。空気極の中間製品の総厚さは0.33mmであった。
【0090】
ここで、空気極の中間製品においては、プレス圧着の過程で、空気極合剤のシートがニッケルフォームのニッケルの骨格部分を受け入れていくとともに、ニッケルの骨格部分の間隙に空気極合剤シートが入り込んでいき、ニッケルフォームと空気極合剤とが複合化される。ニッケルフォームと空気極合剤との複合化が所定の深さまで進行したらプレス圧着の作業を停止する。これにより、空気極の中間製品の厚さ方向における中間部に空気極合剤とニッケルフォームとが共存する複合領域が形成される。そして、空気極の中間製品の一方の面側には、空気極合剤のみからなる空気極合剤領域が存在し、空気極の中間製品の他方の面側には、ニッケルフォームのみからなるニッケルフォーム領域70が存在する。
【0091】
次に、得られた中間製品に熱処理(焼成処理)を施した。具体的には、中間製品を焼成用の電気炉に投入した。焼成処理の条件は、電気炉内に1L/minの流量で窒素ガスを流して窒素ガス雰囲気を形成し、この窒素ガス雰囲気下で340℃の焼成温度に加熱し、この温度で13分間保持した。この焼成処理によりPTFEディスパージョンに含まれる界面活性剤が蒸発し、それにより空気極合剤の撥水化が図られる。焼成処理された中間製品は、縦40mm、横40mmに裁断され、これにより、空気極16を得た。このとき、空気極16に含まれるビスマスルテニウム酸化物触媒の量は1.443gであった。
【0092】
得られた空気極16に関し、別途準備した断面観察用のサンプルについて切断を行い、表出した断面を光学顕微鏡で観察した。その際に得られた写真を図5に示した。この図5より、実施例1の空気極では、空気極合剤のシートの片面にニッケルフォームが食い込んでいるが、完全には埋没していない状態が確認できた。
【0093】
(3)負極の製造
Nd、Mg、Ni、Alの各金属材料を所定のモル比となるように混合した後、高周波誘導溶解炉に投入しアルゴンガス雰囲気下にて溶解させ、得られた溶湯を鋳型に流し込み、25℃の室温まで冷却してインゴットを製造した。
【0094】
ついで、このインゴットに対し、温度1000℃のアルゴンガス雰囲気下にて10時間保持する熱処理を施した後、25℃の室温まで冷却した。冷却後、当該インゴットをアルゴンガス雰囲気下で機械的に粉砕して、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金粉末を得た。得られた希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金粉末について、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置により体積平均粒径(MV)を測定した。その結果、体積平均粒径(MV)は60μmであった。
【0095】
この水素吸蔵合金粉末の組成を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)によって分析したところ、組成は、Nd0.89Mg0.11Ni3.33Al0.17であった。
【0096】
得られた水素吸蔵合金の粉末100重量部に対し、ポリアクリル酸ナトリウムの粉末0.2重量部、カルボキシメチルセルロースの粉末0.04重量部、スチレンブタジエンゴムのディスパージョン1.0重量部、カーボンブラックの粉末0.3重量部、及び水22.4重量部を添加して25℃の環境下において混練し、負極合剤ペーストを調製した。
【0097】
この負極合剤ペーストを単位面積当たりの重量が約300g/m、厚みが約1.7mmのニッケルフォームのシートに充填した。そして、負極合剤ペーストを乾燥させ、負極合剤が充填されたニッケルフォームのシートを得た。得られたシートは圧延され、単位体積当たりの合金量を高められた後、縦40mm、横40mmに裁断された。このようにして負極12を得た。ここで、負極12の厚さは、0.79mmであり、水素吸蔵合金の量が7.65gであった。なお、負極の設計容量は2677mAhである。
【0098】
(4)空気水素二次電池の製造
得られた空気極16及び負極12を、これらの間にセパレータ14を挟んだ状態で重ね合わせ、電極群10を製造した。このとき、ニッケルフォーム領域70がセパレータ14を介して負極12と対向するように空気極16を配設した。
【0099】
電極群10の製造に使用したセパレータ14はスルホン基を有するポリプロピレン繊維製不織布により形成されており、その厚みは0.1mm(目付量53g/m)であった。
【0100】
次いで、アクリル樹脂製の容器本体6を準備し、この容器本体6内に上記した電極群10を収容した。このとき、容器本体6の底壁18の上に調整部材36としてのニッケルフォームのシートを配置し、この調整部材36の上に電極群10を載置した。ここで、調整部材36としてのニッケルフォームのシートは、厚さが1mmであり、縦40mm、横40mmの正方形状をなしている。
【0101】
次いで、電極群10の上(空気極16の上)に撥水通気部材40を配設した。これにより、撥水通気部材40と空気極16の空気極合剤領域62が当接した状態となる。ここで、撥水通気部材40は、縦が45mm、横が45mm、厚さが0.1mmであるPTFE多孔膜42と、縦が40mm、横が40mm、厚さが0.2mmである不織布拡散紙44とが組み合わされて形成されている。
【0102】
次いで、容器本体6の開口部22を塞ぐようにアクリル樹脂製の蓋8を被せた。このとき、蓋8の内面部28における空気通路30、入側通気孔32及び出側通気孔34を含むエリアの全体が撥水通気部材40で覆われるように、当該エリアと撥水通気部材40とを密着させる。ここで、空気通路30は、全体として1本のサーペンタイン形状をなしている。空気通路30の横断面は、矩形状をなしており、当該矩形における縦寸法が1mm、横寸法が1mmである。この空気通路30は、撥水通気部材40側が開放されている。
【0103】
容器本体6及び蓋8が組み合わされて形成された容器4については、その周端縁部46、48が連結具50、52により上下から挟みこまれる。なお、容器本体6と蓋8との接触部には、図示しない樹脂製のパッキンが配設されており、アルカリ電解液の漏れを防止する。
【0104】
次いで、電解液貯蔵部80にアルカリ電解液82として5mol/LのKOH水溶液を注入した。なお、このとき注入したKOH水溶液の量は50mLであった。
以上のようにして、図1に示すような電池2を製造した。
【0105】
ここで、実施例1の電池2における電池の外部から電池の内部に向かっての構成は、外側から、大気に開放された空気通路30、撥水通気部材40、空気極の空気極合剤領域62、空気極の複合領域66、空気極のニッケルフォーム領域70、セパレータ14、及び負極12が、この順に配設されている。
【0106】
なお、空気極16には空気極リード54が、負極12には負極リード56が、それぞれ電気的に接続されており、これら空気極リード54及び負極リード56は、容器4の気密性及び液密性を保持した状態でリード線の引出口24、26から容器4の外側へ適切に延びている。また、空気極リード54の先端には空気極端子58が取り付けられており、負極リード56の先端には負極端子60が取り付けられている。
【0107】
(比較例1)
空気極の製造に際し、空気極用芯体としてニッケルフォームの代わりにニッケルメッシュ(線径が0.08mm、メッシュ数が60メッシュ、単位面積当たりの重量が300g/m)を用いたことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。
【0108】
比較例1においては、空気極合剤のシートにニッケルメッシュがプレス圧着され、空気極合剤のシートにニッケルメッシュが食い込んでいく。そして、最終的には、空気極合剤のシートにおける一方の面とニッケルメッシュがほぼ面一の状態となる。つまり、空気極合剤のシートにおける一方の面は、ニッケルメッシュ及び当該ニッケルメッシュの網目の間隙に入り込んだ空気極合剤が露出した状態の表面となっている。比較例1の空気極16においては、図3に示すように、ニッケルメッシュ71が入り込んでいるニッケルメッシュ領域72と、ニッケルメッシュ領域72から反対側の面にかけて空気極合剤のみが存在する空気極合剤領域74とが存在している。
【0109】
比較例1の空気水素二次電池においては、ニッケルメッシュが存在する圧着面がセパレータを介して負極と対向している。ここで、プレス圧着後の空気極の中間製品の総厚さは0.227mmであった。また、得られた空気極16に含まれるビスマスルテニウム酸化物触媒の量は1.491gであった。
【0110】
ここで、比較例1の電池2における電池の外部から電池の内部に向かっての構成は、外側から、大気に開放された空気通路30、撥水通気部材40、空気極の空気極合剤領域74、空気極のニッケルメッシュ領域72、セパレータ14、及び負極12が、この順に配設されている。
【0111】
比較例1の空気極に関し、別途準備した断面観察用のサンプルについて切断を行い、表出した断面を光学顕微鏡で観察した。その際に得られた写真を図6に示した。この図6より、比較例1の空気極では、空気極合剤のシートにニッケルメッシュが完全に埋没している状態が確認できた。
【0112】
(比較例2)
電極群10の製造に際して、空気極合剤領域62が負極12と対向するように空気極16を配設したことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。よって、比較例2の電池2における電池の外部から電池の内部に向かっての構成は、外側から、大気に開放された空気通路30、撥水通気部材40、空気極のニッケルフォーム領域70、空気極の複合領域66、空気極の空気極合剤領域62、セパレータ14、及び負極12が、この順に配設されている。つまり、比較例2においては、実施例1の空気極を表と裏が逆になるように配設している(図4参照)。
【0113】
2.電池の評価
(1)電池特性の評価
実施例1、及び比較例1、2の空気水素二次電池について、60℃にて12時間エージングを行った後、室温まで冷却し、負極容量の80%に相当する2000mAhを1Itとし、0.1It×10時間の充電及び0.2Itの放電(放電終止電圧E.V.=0.4V)を1サイクルとする充放電操作を繰り返し実施した。ここで、実施例1及び比較例1の空気水素二次電池について、充放電サイクルが3サイクル後(サイクル初期)、20サイクル後(サイクル中期)、60サイクル後(サイクル末期)において、充電率(State Of Charge:SOC)が50%になった時点から、16、32、48、64、80、160、240、320、400、480、640、800、960、1120、1280、1440、1600mAの放電電流でそれぞれ1分間保持した際の電池電圧を測定した。ここで、3、20、及び60のサイクルにおける電流値と電池電圧との関係を表すグラフを図7~9に示した。
【0114】
上記のようにして得られた測定結果から出力特性(I-V特性)を求めた。得られたI-V特性の0.48A~1.12Aの傾きから放電時のI-V抵抗値を求めた。ここで、サイクル数とI-V抵抗値との関係を表すグラフを図10に示した。
【0115】
また、サイクル初期の放電抵抗値、サイクル末期の放電抵抗値、抵抗の上昇幅(サイクル末期の放電抵抗値-サイクル初期の放電抵抗値)をそれぞれ表1に記載した。
【0116】
ここで、上記した充放電操作において、充放電に関わらず、入側通気孔32から空気を入れ、出側通気孔34から空気を排出するようにして、空気通路30には、50mL/minの割合で常に空気を供給し続けた。
なお、比較例2の電池については、放電不可となったので、データの取得は断念した。
【0117】
(2)空気極の保液量
上記した電池特性の評価をした後の実施例1及び比較例1の電池を解体し、空気極を取り出し、当該空気極の重量を測定した。電池から取り出した直後の空気極は、アルカリ電解液が滴らない程度に湿潤しており、この状態の空気極の重量は、空気極に含浸されているアルカリ電解液の重量(a)と、空気極の重量(b)との合計の重量(a+b)となる。
【0118】
次に、イオン交換水で満たされたガラスビーカーの中に空気極を投入し、空気極をイオン交換水に浸漬した状態で30分間放置した。30分間放置した後、イオン交換水をガラスビーカーから排出し、新たなイオン交換水をガラスビーカーに投入し、再度、空気極をイオン交換水に浸漬した状態で30分間放置した。この操作を合計5回(2時間30分)繰り返した。これにより、空気極に含浸されているアルカリ電解液を取り除いた。
【0119】
その後、当該空気極を減圧乾燥機に投入し、減圧乾燥処理を施した。これにより、空気極を完全に乾燥させ、この状態の空気極の重量(b)を測定した。
【0120】
そして、先に測定しておいた電池から取り出した直後の空気極の重量(a+b)から、乾燥状態の空気極の重量(b)を減算し、空気極に含浸されていたアルカリ電解液の重量(a)を求めた。このaの値が空気極に保持されていたアルカリ電解液の量となる。このaの値から空気極の単位面積当たりのアルカリ電解液の重量を求め、この値を空気極の保液量として表1に示した。
【0121】
【表1】
【0122】
(3)考察
図7~9より、充放電のサイクル初期である3サイクル後では、実施例1の方が比較例1よりも放電電圧の値がわずかに高いだけである。しかしながら、サイクル数の経過にともない放電特性の差は拡大し、実施例1の方が比較例1よりも優れた放電特性を示している。
【0123】
また、表1の結果より実施例1は比較例1に比べサイクル初期及びサイクル末期の放電抵抗の値が低く、抵抗値の上昇幅も小さくなっている。つまり、実施例1の電池は比較例1の電池に比べ充放電サイクルが進行しても放電電圧の低下が少ない電池となっている。
【0124】
以上のように実施例1の電池が比較例1の電池に比べ優れていることについて考察する。まず、実施例1は比較例1に比べ保液量が高いことがわかる。これは空気極のニッケルフォーム領域にて多くのアルカリ電解液を保持できたためであると考えられる。このように空気極の保液量が増えると、充放電反応に伴う電解液濃度の変化が軽減される。これにより、電気浸透や浸透圧起因での空気極内部への電解液の過剰な進行が抑制され、それにともない空気極内において電解液で濡れる範囲が必要以上に広がることを抑制できていると考えられる。また電解液濃度の上昇が抑制されることで金属ニッケルの酸化による抵抗上昇も抑制されると考えられる。以上により、充放電サイクル後も放電の反応場である三相界面が維持されやすくなり、充放電サイクル後も放電電圧が低下しにくい電池が得られたと考えられる。
【0125】
ここで、実施例1の空気極においては主にニッケルフォーム領域が電解液を保持する役割を担っている。このため、比較例2のように実施例1とは逆向きに空気極を配設し、空気通路側にニッケルフォーム領域を配設すると電解液により空気通路からのガス供給が阻害されてしまう。その結果、比較例2の電池では、放電できなくなったものと考えられる。
【0126】
なお、本発明は上記した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。例えば、負極用金属としては、水素吸蔵合金に限定されるものではなく、負極用金属をLi、Zn、Al、Mg等に変更した空気二次電池に本発明を適用することもできる。
【符号の説明】
【0127】
2 電池(空気水素二次電池)
4 容器
6 容器本体
8 蓋
10 電極群
12 負極
14 セパレータ
16 空気極(正極)
30 空気通路
40 撥水通気部材
62 空気極合剤領域
64 発泡金属領域
66 複合領域
68 空気極合剤層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10