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特開2024-94991金属空気電池用負極、および、それを用いた金属空気電池
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094991
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】金属空気電池用負極、および、それを用いた金属空気電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 12/08 20060101AFI20240703BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
H01M12/08 K
H01M4/90 M
H01M4/90 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211950
(22)【出願日】2022-12-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、「動的フォトニック結晶の機能向上にむけた高品位・大型ナノシートの創製」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】坂井 伸行
(72)【発明者】
【氏名】馬 仁志
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 高義
(72)【発明者】
【氏名】ワン チェンフイ
【テーマコード(参考)】
5H018
5H032
【Fターム(参考)】
5H018AA10
5H018EE02
5H018EE11
5H018EE12
5H032AA01
5H032AS01
5H032AS02
5H032AS03
5H032BB05
5H032CC11
5H032CC14
5H032EE02
5H032HH00
5H032HH04
(57)【要約】
【課題】 金属空気電池の負極における金属の樹枝状結晶の成長を抑制し、かつ、副反応を抑制する金属空気電池用負極、その製造方法、および、それを用いた金属空気電池を提供すること。
【解決手段】 本発明の空気電池用負極は、亜鉛(Zn)、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、および、鉄(Fe)からなる群から1種選択される金属からなる金属基板と、金属基板上に位置する酸化チタンナノシート単層膜からなる薄膜とを備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛(Zn)、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、および、鉄(Fe)からなる群から1種選択される金属からなる金属基板と、
前記金属基板上に位置する酸化チタンナノシート単層膜からなる薄膜と
を備える、金属空気電池用負極。
【請求項2】
前記薄膜の表面に対する水の接触角が0°以上10°以下の範囲である、請求項1に記載の金属空気電池用負極。
【請求項3】
前記単層膜の厚さは、0.5nm以上1.5nm以下の範囲である、請求項1または2に記載の金属空気電池用負極。
【請求項4】
前記薄膜の厚さは、0.5nm以上10nm以下の範囲である、請求項3に記載の金属空気電池用負極。
【請求項5】
前記酸化チタンナノシート単層膜を構成する酸化チタンナノシートは、Ti0.87、Ti0.91、Ti、Ti、および、Ti11からなる群から選択される、請求項1~4のいずれかに記載の金属空気電池用負極。
【請求項6】
前記酸化チタンナノシート単層膜を構成する酸化チタンナノシートは、厚さ0.5nm以上1.5nm以下、長手方向の長さ5μm以上30μm以下の範囲を有する、請求項1~5のいずれかに記載の金属空気電池用負極。
【請求項7】
前記金属基板は、10μm以上1mm以下の範囲の厚さを有する、請求項1~6のいずれかに記載の金属空気電池用負極。
【請求項8】
前記金属基板の表面粗さRaは、10nm以下である、請求項1~7のいずれかに記載の空気電池用負極。
【請求項9】
前記酸化チタンナノシートは、炭素数1以上20以下のアルキル基を有するアルキルアンモニウムカチオンを有する、請求項1~8のいずれかに記載の金属空気電池用負極。
【請求項10】
前記アルキルアンモニウムカチオンは、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、および、ベンジルメチルアンモニウムイオンからなる群から少なくとも1種選択される、請求項9に記載の金属空気電池用負極。
【請求項11】
亜鉛(Zn)、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、および、鉄(Fe)からなる群から1種選択される金属からなる金属基板の表面に酸化チタンナノシートを含有する分散液を付与することを包含する、請求項1~10のいずれかに記載の金属空気電池用負極の製造方法。
【請求項12】
前記付与することは、スピンコート法、ディップコート法、LB法、滴下法、交互吸着法、および、スプレー法からなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
負極と、空気極と、前記負極と前記空気極との間に位置する電解質とを備える金属空気電池であって、
前記負極は、請求項1~10のいずれかに記載の金属空気電池用負極である、金属空気電池。
【請求項14】
前記空気極は、金属、金属酸化物、金属酸窒化物、金属窒化物、金属ホウ化物、金属ケイ化物および金属硫化物からなる群から選択される触媒を含有する、請求項13に記載の金属空気電池。
【請求項15】
セパレータをさらに備え、
前記電解質は、前記セパレータに含侵されている、請求項13または14に記載の金属空気電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属空気電池用負極、および、それを用いた金属空気電池に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛電極を用いたエネルギー貯蔵技術は、豊富な埋蔵量や低コスト、高い安定性、高い容量を持つことから注目を集めており、ポータブル電源や電気自動車、大規模エネルギー貯蔵などへの実用化が期待されている。しかし、亜鉛の不均一な析出/溶出により樹枝状結晶(デンドライト)が成長し、セパレータを突き抜けて対極と短絡するといった問題がある。また、亜鉛の腐食や水素生成といった副反応が起こることによりエネルギー効率が大きく損なわれ、また、酸化皮膜の形成により亜鉛電極の可逆性が低下したり、ガス生成によりバッテリーの膨張が起きたりする(例えば、非特許文献1を参照)。
【0003】
この問題に対処するためさまざまな取り組みがなされてきたが、とりわけ亜鉛電極表面を他の物質で修飾し電解液との界面を制御する方法は、亜鉛電極表面における析出/溶出プロセスを直接制御して反応速度を向上させ、副反応を抑制できることから、電流効率やサイクル安定性の向上に向けて有望である(例えば、非特許文献2を参照)。
【0004】
無機物質から有機物質、無機-有機ハイブリッドに至るまでさまざまな界面層が検討されてきた。これらの界面層は亜鉛電極と電解液を物理的に分離し副反応を抑制したり、イオンや電子の輸送、分布、相互作用を制御したりすることで高い電流効率と安定性を実現してきた。しかし、多くの界面層はマイクロメータースケールの厚みがあるため、電極における不活性物質の割合を増やすとともに、イオンや電子の移動距離を増加させている。その結果、抵抗の増加により電荷容量を大きく損ない、また、コストの増加にもつながっている。最近、ALD法により非常に薄い界面が作製されたが、設備が高額であり、適用できる物質も限られているといった問題がある(例えば、非特許文献3を参照)。
【0005】
一方、金属酸化物のナノシートを金属二次電池用負極材料に用い、デンドライト形成を抑制する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1によれば、炭素系導電性担体にチタン、ルテニウム、またはニオブである金属の酸化物のナノシートを担持させた二次電池用負極材料が開示される。特許文献1によれば、金属酸化物ナノシートの表面に沿うように金属カチオンが引き寄せられて、金属は、針状のデンドライトではなく、板状に析出することを報告する。しかしながら、特許文献1においては、金属酸化物ナノシートが炭素系導電性担体である粉末に保持されるため、これを負極活物質上で使用する場合、電解液と電極の界面層が炭素系導電性担体と同程度以上の厚みが必要であり、界面抵抗の増加を招くという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2014/069541号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Canpeng Liら,Energy Environ.Mater.,2020,3,146
【非特許文献2】Changjiu Liら,Energy Stor.Mater.,2021,35,19
【非特許文献3】Kangning Zhaoら,Adv.Mater.Interfaces,2018,5,1800848
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上から、本発明の課題は、金属空気電池の負極における金属の樹枝状結晶の成長を抑制し、かつ、副反応を抑制する金属空気電池用負極、その製造方法、および、それを用いた金属空気電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による金属空気電池用負極は、亜鉛(Zn)、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、および、鉄(Fe)からなる群から1種選択される金属からなる金属基板と、前記金属基板上に位置する酸化チタンナノシート単層膜からなる薄膜とを備え、これにより上記課題を解決する。
前記薄膜の表面に対する水の接触角が0°以上10°以下の範囲であってよい。
前記単層膜の厚さは、0.5nm以上1.5nm以下の範囲であってよい。
前記薄膜の厚さは、0.5nm以上10nm以下の範囲であってよい。
前記酸化チタンナノシート単層膜を構成する酸化チタンナノシートは、Ti0.87、Ti0.91、Ti、Ti、および、Ti11からなる群から選択されてよい。
前記酸化チタンナノシート単層膜を構成する酸化チタンナノシートは、厚さ0.5nm以上1.5nm以下、長手方向の長さ5μm以上30μm以下の範囲を有してよい。
前記金属基板は、10μm以上1mm以下の範囲の厚さを有してよい。
前記金属基板の表面粗さRaは、10nm以下であってよい。
前記酸化チタンナノシートは、炭素数1以上20以下のアルキル基を有するアルキルアンモニウムカチオンを有してよい。
前記アルキルアンモニウムカチオンは、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、および、ベンジルメチルアンモニウムイオンからなる群から少なくとも1種選択されてよい。
本発明による上記金属空気電池用負極の製造方法は、亜鉛(Zn)、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、および、鉄(Fe)からなる群から1種選択される金属からなる金属基板の表面に酸化チタンナノシートを含有する分散液を付与することを包含し、これにより上記課題を解決する。
前記付与することは、スピンコート法、ディップコート法、LB法、滴下法、交互吸着法、および、スプレー法からなる群から選択されてもよい。
本発明による負極と、空気極と、前記負極と前記空気極との間に位置する電解質とを備える金属空気電池は、前記負極が上記金属空気電池用負極であり、これにより上記課題を解決する。
前記空気極は、金属、金属酸化物、金属酸窒化物、金属窒化物、金属ホウ化物、金属ケイ化物および金属硫化物からなる群から選択される触媒を含有してもよい。
セパレータをさらに備え、前記電解質は、前記セパレータに含侵されていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の金属空気電池用負極は、亜鉛(Zn)、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、および、鉄(Fe)からなる群から1種選択される金属からなる金属基板と、その上に位置する酸化チタンナノシート単層膜からなる薄膜とを備える。酸化チタンナノシート単層膜が有する負電荷により金属イオンは負極表面上に均一に分布する。この結果、負極表面から樹枝状結晶(デンドライト)の生成が抑制され得る。さらに、酸化チタンナノシート単層膜上では水素生成活性が低く、水素発生や腐食などの副反応が抑制される。このような負極を用いれば、サイクル寿命に優れた金属空気電池を提供できる。
【0011】
本発明の金属空気電池用負極は、金属基板上に酸化チタンナノシートを含有する分散液を付与するだけでよいので、複雑なプロセスがなく、高価な装置や熟練した技術を不要とするため、実施に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の金属空気電池用負極を示す模式図
図2】デンドライト成長の抑制メカニズムを説明する模式図
図3】本発明の金属空気電池用負極を製造する工程を示すフローチャート
図4】本発明の金属空気電池を示す模式図
図5】K0.8Ti1.73Li0.27粉末およびH1.07Ti1.73・HO粉末のXRDパターンを示す図
図6】K0.8Ti1.73Li0.27粉末のSEM像を示す図
図7】H1.07Ti1.73・HO粉末のSEM像を示す図
図8】酸化チタンナノシート分散液のゼータ電位を示す図
図9】例1~例3の試料のSEM像を示す図
図10】例1の試料のSEM像およびAFM像を示す図
図11】例1の試料のXRDパターンを示す図
図12】例4および例5の試料のXRDパターンを示す図
図13】例1の試料の面内XRDパターンを示す図
図14】例1の試料のTEM像、電子回折パターン、STEM像およびEDSマッピングを示す図
図15】例1の試料のXPSスペクトルを示す図
図16】例1の試料のTOF-SIMSスペクトルを示す図
図17】例1および例7の対称コインセルの充放電曲線を示す図
図18】例1の対称コインセルの種々の期間のサイクル試験の結果を示す図
図19】例7の対称コインセルの種々の期間のサイクル試験の結果を示す図
図20】充放電試験後の例1の試料のSEM像を示す図
図21】充放電試験後の例7の試料のSEM像を示す図
図22】例1および例7の試料のLSV曲線を示す図
図23】例6および例8の試料を用いた電池の定電流(1mA/cm)下における亜鉛析出時の電位変化を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0014】
本明細書において、用語「ナノシート単層膜」とは、層状チタン酸化物が単層剥離された酸化チタンナノシートが稠密に配列して形成する単層膜をいう。用語「ナノシート単層膜からなる薄膜」とは、ナノシート単層膜そのものを意図する場合、または、そのナノシート単層膜が多層化した多層膜(ナノシート多層膜とも呼ぶ)を意図する場合に使用される。電子顕微鏡で観察した際に、酸化チタンナノシートが集合し、膜を形成している場合に、稠密に配列しているとする。
【0015】
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明の金属空気電池用負極およびその製造方法について詳述する。
図1は、本発明の金属空気電池用負極を示す模式図である。
【0016】
本発明の金属空気電池用負極100は、亜鉛(Zn)、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、および、鉄(Fe)からなる群から1種選択される金属からなる金属基板110と、金属基板110上に位置する酸化チタンナノシート120が稠密に配列して形成した酸化チタンナノシート単層膜130からなる薄膜140とを備える。図1では、薄膜140が1つの酸化チタンナノシート単層膜130からなる場合を示すが、薄膜140は、酸化チタンナノシート単層膜130が多層化したナノシート多層膜からなってもよい。
【0017】
上述の金属からなる金属基板110であれば、これら金属を負極活物質に使用した金属空気電池用負極として機能する。金属基板110とすることにより、負極100の集電を行う集電体を不要とできる。ただし、集電体を用いることも可能である。集電体を用いる場合、集電体には、導電性を有する材料を使用でき、例えば、銅、ステンレス、ニッケル、カーボン等であってよく、その形状は、箔状、板状、メッシュ状であってよい。あるいは、本発明の金属空気電池を収容する電池ケースが集電体の機能を備えるようにしてもよい。
【0018】
金属基板110の厚さは、電池の用途によって異なるが、例示的には、10μm以上1mm以下の範囲であってよく、好ましくは、0.1mm以上0.5mm以下の範囲である。この範囲であれば、取り扱いが容易である。
【0019】
金属基板110の表面粗さRaは、好ましくは、0nm以上10nm以下であってよい。この範囲であれば、均一な酸化チタンナノシート単層膜130を形成できる。金属基板110の表面粗さRaは、3nm以上5nm以下の範囲であってもよい。この範囲であれば、隙間のないより稠密な酸化チタンナノシート単層膜130が得られるとともに、金属基板110と酸化チタンナノシート単層膜130とが良好に接触し、電気特性に優れる。
【0020】
酸化チタンナノシート120は、層状チタン酸化物から単層剥離されたものであれば特に制限はなく、選択した層状チタン酸化物の組成によって異なるが、好ましくは、Ti0.87、Ti0.91、Ti、Ti、および、Ti11からなる群から選択される。これらはいずれも負の電荷を有しており、金属イオンを引き付けることができる。例えば、Ti0.87 0.52-、Ti0.91 0.36-、Ti 2-、Ti 2-、および、Ti11 2-のように表すこともできる。中でも、酸化チタンナノシート120は、より大きなナノシートが利用でき、金属基板110を効率的に被覆できるという観点から、より好ましくは、Ti0.87である。
【0021】
例えば、層状チタン酸化物がK0.8Ti1.73Li0.27で表される場合、単層剥離するとTi0.87で表される酸化チタンナノシートが得られる。例えば、層状チタン酸化物がCs0.7Ti1.8250.175(□は空孔)で表される場合、単層剥離するとTi0.91で表される酸化チタンナノシートが得られる。例えば、層状チタン酸化物がNaTiで表される場合、単層剥離するとTiで表される酸化チタンナノシートが得られる。このように、当業者であれば所定の酸化チタンナノシートを得るために、元の層状チタン酸化物の組成を容易に理解する。
【0022】
酸化チタンナノシート120は、厚さ0.5nm以上1.5nm以下、長手方向の長さ5μm以上30μm以下の範囲を有する。このような大きさを有することにより、酸化チタンナノシート120間に静電反発力が働き、分散性に優れるため、塗布した際に稠密な単層膜が得られる。
【0023】
酸化チタンナノシート120は、表面に炭素数1以上20以下のアルキル基を有するアルキルアンモニウムカチオンを有してもよい。後述する製造方法で使用する酸化チタンナノシート120を含有する分散液中では、上述のアルキルアンモニウムカチオンの存在により酸化チタンナノシート120が分散するため、表面にアルキルアンモニウムカチオンを有する場合がある。その場合も負極の性能が低下することはない。
【0024】
このようなアルキルアンモニウムカチオンは、例示的には、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、および、ベンジルメチルアンモニウムイオンからなる群から少なくとも1種選択される。
【0025】
特に、薄膜140が酸化チタンナノシート多層膜(図示せず)からなる場合、負電荷を有する酸化チタンナノシート単層膜間にアルキルアンモニウムカチオンが存在することにより多層化が容易となる。
【0026】
このような酸化チタンナノシート120からなる酸化チタンナノシート単層膜130の厚さは、酸化チタンナノシート120の厚さと同じであり、0.5nm以上1.5nm以下の範囲である。
【0027】
薄膜140の厚さは、酸化チタンナノシート単層膜130からなる場合、ならびに、酸化チタンナノシート多層膜からなる場合を考慮し、好ましくは、0.5nm以上10nm以下である。すなわち、薄膜140は、酸化チタンナノシート単層膜130が1層以上10層以下であってよい。この範囲であれば、効率的に、金属のデンドライトの生成ならびに副反応を抑制できる。特に、薄膜140が酸化チタンナノシート単層膜130からなる場合、非特許文献3の界面層と比べて厚さが1nm程度と大幅に薄いので、必要な元素の物質量が少なく、コストを抑えることができる。
【0028】
薄膜140の表面は、好ましくは、親水性を有する。これにより、本発明の負極100は水性電解質に対して低い接触抵抗を示すので、水性電解質を用いた金属空気電池に有効である。薄膜140の表面に対する水の接触角は、より好ましくは、0°以上10°以下の範囲である。これにより、水性電解質を用いた金属空気電池においても優れた電池特性を実現する。なお、接触角の測定は、JIS R 3257に準拠する。より好ましくは、0°以上5°以下である。
【0029】
図1では、酸化チタンナノシート単層膜130からなる薄膜140が金属基板110を完全に被覆している様子を示すが、デンドライト成長の抑制の観点からは、薄膜140が金属基板110の少なくとも一部を被覆すればよい。しかしながら、デンドライト成長の抑制効果および副反応の発生を極力低減させるためには、好ましくは、酸化チタンナノシート単層膜130の被覆率(基板の全表面積に対する酸化チタンナノシート)は30%以上、より好ましくは、50%以上、なお好ましくは、80%以上100%以下である。
【0030】
次に本発明の金属空気電池用負極100を用いた場合にデンドライトの成長を抑制するメカニズムを説明する。
図2は、デンドライト成長の抑制メカニズムを説明する模式図である。
【0031】
図2の上段は、酸化チタンナノシート単層膜を有しない亜鉛基板を負極に用いた場合の例であり、図2の下段は、酸化チタンナノシート単層膜を有する亜鉛基板を負極に用いた場合の例である。
【0032】
酸化チタンナノシート単層膜130からなる薄膜140を有しない亜鉛基板上では、亜鉛の不均一な析出/溶出によりデンドライトが成長し、セパレータを突き抜けて対極と短絡する。また、水素生成や亜鉛の腐食といった副反応が起こることによりエネルギー効率が大きく損なわれる(図2の上段)。一方、酸化チタンナノシート単層膜130からなる薄膜140を有する亜鉛基板上では、酸化チタンナノシート単層膜130が有する負電荷により水溶液中の亜鉛イオンは基板上に均一に分布するため、亜鉛は均一に析出し、デンドライトの生成が抑制される。また、水素生成活性が低く、水素発生や腐食などの副反応が抑制される(図2の下段)。ここでは、金属基板110として分かりやすさのために亜鉛基板としたが、亜鉛基板に限らないことは言うまでもない。
【0033】
次に、本発明の金属空気電池用負極100の製造方法を説明する。
図3は、本発明の金属空気電池用負極を製造する工程を示すフローチャートである。
【0034】
本発明の金属空気電池用負極100はステップS310を包含する。
ステップS310:亜鉛(Zn)、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、および、鉄(Fe)からなる群から1種選択される金属からなる金属基板の表面に酸化チタンナノシートを含有する分散液(以降では単に酸化チタンナノシート分散液と称する)を付与する。
本発明の製造方法は、複雑なプロセスがなく、高価な装置や熟練した技術を不要とするため、実施に有利である。
【0035】
ステップS310において、金属基板は上述したとおりであるため説明を省略する。なお、ステップS310に先立って、金属基板の表面を研磨するステップを行ってもよい。これにより、金属基板の表面粗さを上述の範囲に制御できる。このような研磨は機械研磨、化学研磨、化学的機械研磨のいずれであってもよい。また、金属基板の表面の研磨に続いて、親水化処理されてもよい。これにより、続く酸化チタンナノシート分散液の付与を均一に行うことができる。親水化処理は、例えば、酸素プラズマ処理したり、オゾン雰囲気下にて10分~30分程度紫外線照射したりすればよい。
【0036】
酸化チタンナノシート分散液は、例えば、特開2006-96897号公報に記載のコロイド懸濁液の調製方法によって調製されてよいが、例示的には、以下の方法によって得られる。層状チタン酸化物の粉末に塩酸などの酸水溶液を接触させ、層間の金属イオンを、水素イオンまたはオキソニウムイオンに置換した水素イオン交換体を得る。次いで、水素イオン交換体を上述のアルキルアンモニウムカチオンを含有する水溶液に入れ、撹拌する。このようにして得られた酸化チタンナノシートが単層剥離された懸濁液中の溶媒を有機溶媒に置換することにより調製される。
【0037】
酸化チタンナノシート分散液の有機溶媒は、特に制限はないが、好ましくは、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ホルムアミド、プロパノール、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンおよびN,N’-ジメチルプロピレン尿素からなる群から選択される。これらの有機溶媒は極性溶媒であり、酸化チタンナノシートが分散しやすい。中でも、DMSOは、適度な粘性(のびて薄い液膜を形成しやすい)と蒸気圧(比較的ゆっくり乾燥するので、制御しやすい)との観点から好ましい。
【0038】
酸化チタンナノシート分散液中の酸化チタンナノシートの濃度は、好ましくは、0.05wt%以上5wt%以下の範囲である。この範囲であれば、均一な酸化チタンナノシート単層膜が得られる。酸化チタンナノシートの濃度は、より好ましくは、0.08wt%以上0.12wt%以下の範囲である。これにより稠密なナノシート単層膜が得られやすい。
【0039】
ステップS310において、付与は、金属基板に酸化チタンナノシート分散液を付与できる限り特に制限はないが、例示的には、スピンコート法、ディップコート法、LB(ラングミュアブロジェット)法、滴下法、交互吸着法、および、スプレー法からなる群から選択される。中でも、スピンコート法は、極めて均一な酸化チタンナノシート単層膜が得られる点で有利である。
【0040】
例えば、スピンコート法を用いた場合、酸化チタンナノシート分散液の濃度や金属基板の大きさによっても変わるが、上述の濃度範囲であれば、5μL/cm以上50μL/cm以下の範囲で酸化チタンナノシート分散液を滴下し、500rpm以上8000rpm以下の範囲の回転数で、1分以上15分以下の範囲のスピンコート時間を採用できる。金属基板への被覆率の観点からは、より好ましくは、20μL/cm以上40μL/cm以下の範囲で酸化チタンナノシート分散液を滴下し、1000rpm以上1350rpm以下の範囲の回転数で、2分以上10分以下の範囲のスピンコート時間を採用してよい。
【0041】
このようにして、金属基板上に酸化チタンナノシートからなる単層膜(酸化チタンナノシート単層膜)からなる薄膜を備えた金属空気電池用負極を提供できる。
【0042】
ステップS310を繰り返すことにより、酸化チタンナノシート単層膜が多層化された酸化チタンナノシート多層膜からなる薄膜とすることができる。繰り返しの回数は特に制限はないが、好ましくは、10回以下であってよい。
【0043】
ステップS310に続いて、上述した集電体を金属基板の薄膜と対向する側に付与してもよい。
【0044】
(実施の形態2)
実施の形態2では、本発明の金属空気電池用負極を用いた金属空気電池について詳述する。
図4は、本発明の金属空気電池を示す模式図である。
【0045】
本発明の金属空気電池400は、負極410と、正極である空気極420と、負極410と空気極420との間に位置する電解質430とを備える。負極410は、実施の形態1で説明した金属空気電池用負極100であるため、説明を省略する。本発明の金属空気電池400は、負極410の酸化チタンナノシート単層膜により負極表面から樹枝状結晶(デンドライト)の生成が抑制されるだけでなく、水素生成活性が低く、水素発生や腐食などの副反応が抑制されるので、サイクル寿命に優れる。
【0046】
空気極420は、酸素を活物質として用いる公知の空気極を採用できる。空気極420は、好ましくは、空気中から酸素を吸収し、これを酸素と反応させる触媒を備える。触媒は、好ましくは、金属、金属酸化物、金属酸窒化物、金属窒化物、金属ホウ化物、金属ケイ化物、および、金属硫化物からなる群から選択される。
【0047】
金属は、チタン、ジルコニウム、ナトリウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、シリコン、バナジウム、クロミウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、イットリウム、ニオビウム、スズ、タングステン、タンタル、インジウム、ランタン、鉛、ストロンチウム、ビスマス、セリウム、モリブデン、および、ハフニウムからなる群から少なくとも1種選択される。金属酸化物、金属酸窒化物、金属窒化物、金属ホウ化物、金属ケイ化物、および、金属硫化物は、上記選択された金属の化合物であってよい。これらは、空気極での副生成物の発生が抑制されるため好ましい。
【0048】
空気極420は、導電性を向上させるため、導電性材料を含有してもよい。導電性材料は、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、カーボンナノチューブ等の炭素質材料、導電性高分子であってよい。なお、導電性材料は、触媒に対して1質量%以上10質量%の範囲で含有されてよい。
【0049】
上述の触媒は、導電性材料とともに、結着剤を用いて、層状に加工されていてよい。結着剤は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、スチレンブタジエンゴム等のゴム系樹脂を用いてよい。
【0050】
空気極420は、集電体をさらに備えてよい。集電体は、導電性を有する材料を使用でき、例えば、銅、ステンレス、ニッケル、カーボン等であってよく、その形状は、箔状、板状、メッシュ状であってよい。酸素の供給性能の観点からカーボンペーパー、金属メッシュ等の多孔質構造を有することが好ましい。
【0051】
空気極420が上述の層状の触媒および集電体を備える場合、用途により適宜設定できるが、例示的には、2μm以上500μm以下の範囲の厚さの層状の触媒、および、10μm以上1mm以下の範囲の厚さの集電体であってよい。
【0052】
なお、空気極420の製造方法は、周知の方法を採用できるが、例示的には、上述の触媒を必要に応じて導電性材料および結着剤とともに溶媒中で混合し、これを集電体に塗布し、乾燥することによって得られる。
【0053】
電解質430は、負極410と空気極420との間に位置し、金属空気電池に使用する任意の電解質を使用できる。このような電解質には、水系電解質、非水系電解質、イオン液体、固体電解質がある。水系電解質、非水系電解質、イオン液体を用いる場合には、セパレータ(図示せず)に含侵させ、保持させるとよい。セパレータは、ポリエチレンやポリプロピレン等の樹脂製の多孔質膜である。
【0054】
水系電解質は、電気伝導性を有していればよく、水にリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、亜鉛塩を溶解させた電解液がある。具体的には、塩化リチウム水溶液、塩化カリウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、硝酸リチウム水溶液、硝酸カリウム水溶液、硝酸ナトリウム水溶液、酢酸リチウム水溶液、酢酸カリウム水溶液、酢酸ナトリウム水溶液、硫酸亜鉛水溶液、硝酸亜鉛水溶液、リン酸亜鉛水溶液、酢酸亜鉛水溶液等がある。
【0055】
非水系電解質は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γ-ブチロラクトン、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、ジエトキシエタン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、イオン性液体、フッ素含有カーボネート類、フッ素含有エーテル類、ポリエチレングリコール類、フッ素含有ポリエチレングリコール類がある。
【0056】
イオン液体は、アニオンとカチオンとの組み合わせからなり、常温にて液体である物質である。代表的なアニオンには、ハロゲン化物アニオン、BF 等のホウ素化物アニオン、(CN)等のアミドアニオン、スルフェートアニオン、PF 等のリン酸アニオン等がある。代表的なカチオンは、2-エチルイミダゾリウム等のイミダゾリウム、ジエチルメチルアンモニウム等のアンモニウム、アルキルピリジニウム等のピリジニウム、ジアルキルピロリジニウム等のピロリジニウム、ホスホニウム、スルホニウム等がある。イオン液体は、さらに、公知の支持塩を含有してもよい。
【0057】
固体電解質は、電圧の印加により負極活物質の金属イオンを透過できる公知の固体電解質を採用できる。このような固体電解質には、例えば、ガラスセラミックスがある。また、固体電解質と、非水電解液とを組み合わせてもよい。
【0058】
本発明の金属空気電池400は、ケース(図示せず)に収容されてもよい。ケースは、アルミニウム(Al)、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼などからなる。金属空気電池400の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角型などであってよい。ケースは、大気開放型であってもよいし、密閉型であってもよい。密閉型の際には、空気極420に対して酸素(空気)の導入管および排水管を設けてよい。図4では、本発明の金属空気電池400は、一組の負極410、空気極420および電解質430を示すが、これを複数集積させてもよい。このような改変は本発明の範囲内であり、当業者であれば理解する。
【0059】
本発明の金属空気電池400を外部電源に接続し、空気極420に正の電位、負極410に負の電位を印加することにより、充電される。金属空気電池400の負極410および空気極420に放電回路を接続し、電子機器、電気自動車などの放電回路に通電させることにより放電する。
【0060】
次に、本発明の金属空気電池400の製造方法について説明する。
金属空気電池400は、例えば、負極410と、空気極420と、電解質430とをそれぞれ準備し、これらを積層すればよい。特に、電解質430が水系電解質、非水系電解質、あるいは、イオン液体の場合には、負極410上にセパレータを配置し、セパレータに電解液を含侵させ、次いで、空気極420を積層させてもよい。
【0061】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例0062】
[試薬]
以下の試薬を用いた。
炭酸カリウム(KCO、99.9%、株式会社レアメタリック製)、二酸化チタン(TiO、99.99%、株式会社レアメタリック製)、炭酸リチウム(LiCO、99.99%、株式会社レアメタリック製)、塩酸(HCl、35wt%、キシダ化学株式会社製)、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド溶液(TBAOH、10wt%、和光特級、富士フイルム和光純薬株式会社製)、ジメチルスルホキシド(DMSO、試薬特級、富士フイルム和光純薬株式会社製)、硫酸亜鉛(ZnSO、和光1級、富士フイルム和光純薬製)、硫酸ナトリウム(NaSO、試薬特級、富士フイルム和光純薬製)を入手し、そのまま用いた。
【0063】
[基板等]
亜鉛基板(Zn、2cm×2cm×0.25mm、99.98%、Alfa Aesar社製)、シリコン基板(Si、2cm×2cm×0.525mm、株式会社SUMCO製)およびステンレス鋼(SS、2cm×2cm×0.025mm、タイプ304、Alfa Aesar社製)を用いた。亜鉛基板の表面を研磨して用いた。研磨後の表面粗さを原子間力顕微鏡(AFM、AFM5000II、株式会社日立ハイテクサイエンス製)により測定したところ、Ra=3.7nmであった。
【0064】
[酸化チタンナノシートの調製]
CO、TiOおよびLiCOの混合物(モル比で0.42:1.73:0.135)を1000℃で20時間焼成し、層状チタン酸塩K0.8Ti1.73Li0.27を得た。これ(15g)をHCl(1mol/L、1L)で3日間処理し、KがHで交換されたH1.07Ti1.73・HOを導出した。K0.8Ti1.73Li0.27粉末およびH1.07Ti1.73・HO粉末について粉末X線回折測定(株式会社リガク製、Rint-2200、Cu Kα線(λ=1.5405Å))および走査型電子顕微鏡観察(SEM、JSM-6010LA、日本電子株式会社製)を行った。結果を図5図7に示す。
【0065】
図5は、K0.8Ti1.73Li0.27粉末およびH1.07Ti1.73・HO粉末のXRDパターンを示す図である。
【0066】
図5によれば、K0.8Ti1.73Li0.27粉末は、格子定数a=0.3818(1)nm、b=1.5471(6)nm、c=0.29972(2)nmを有する直方晶系を有する結晶相であり、H1.07Ti1.73・HO粉末も、格子定数a=0.37839(9)nm、b=1.8363(4)nm、c=0.2966(2)nmを有する直方晶系を有する結晶相であることを確認した。
【0067】
図6は、K0.8Ti1.73Li0.27粉末のSEM像を示す図である。
図7は、H1.07Ti1.73・HO粉末のSEM像を示す図である。
【0068】
図6および図7によれば、プレート状の層が積層した粒子からなり、数十マイクロメートルの粒子サイズを有することが分かった。
【0069】
1.07Ti1.73・HO粉末(4g)をモル比でTBA/H=1のTBAOH(1L)水溶液に浸漬し、30日間断続的に振盪したところ、単層に剥離したTi0.87が分散した酸化チタンナノシート分散液を得た。この分散液を10000rpmで30分間遠心分離して得られる沈殿をDMSOに再分散させ、酸化チタンナノシートDMSO分散液を得た。このとき、酸化チタンナノシートDMSO分散液中のTi0.87ナノシートの濃度を0.1wt%に調整した。なお、以降では、分散液や単層膜について述べる際は「酸化チタンナノシート」と称し、ナノシートの濃度やゼータ電位等の特性について述べる際は「Ti0.87ナノシート」と称する。
【0070】
分散液中のゼータ電位を、ゼータ電位・粒径測定システム(ELSZ-2、大塚電子株式会社製)を用いて測定した。結果を図8に示す。
【0071】
図8は、酸化チタンナノシート分散液のゼータ電位を示す図である。
【0072】
図8によれば、酸化チタンナノシート分散液のゼータ電位は-27mVであり、Ti0.87ナノシートが負に帯電していることを確認した。このコロイド分散液に、亜鉛イオン電池の電解質として一般的に使用されているZnSO電解液を添加したところ、Zn2+とTi0.87ナノシートとの間の静電引力によって凝集し、白濁した。
以降では酸化チタンナノシート分散液を使用した。
【0073】
[例1]
例1では、図3のプロシージャにしたがって、酸化チタンナノシートからなる単層膜(以降では酸化チタンナノシート単層膜と称する)を有する亜鉛基板を備えた電極を作製した。
【0074】
詳細には、亜鉛基板を、表面処理装置(PIB-20、株式会社真空デバイス製)を用いて、2分間、酸素(O)プラズマ処理し、表面を清浄化した。清浄化した亜鉛基板上に酸化チタンナノシート分散液(Ti0.87ナノシート濃度0.1wt%、120μL、30μL/cm)を滴下し、スピンコータ(MS-B100、ミカサ株式会社製)を用いてスピンコートした。スピンコートの条件は、回転速度100rpmで5秒、1200rpmで300秒であった。得られた試料をTi0.87@Znと称する。なお、薄膜の観察や面内回折のため、シリコン基板上にも酸化チタンナノシート単層膜を形成した。この試料をTi0.87@Siと称する。簡単のため、これらの試料をまとめて例1の試料と称する場合がある。
【0075】
例1の試料の表面のモルフォロジをSEM観察した。結果を図9および図10に示す。例1の試料について粉末X線回折および面内X線回折を行った。面内X線回折パターンは、大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所内の放射光実験施設(Photon Factory)のBL-6C:X線回折・散乱実験ステーション(シンクロトロンX線(λ=1.1991Å))を用いた。例1の試料の断面をエネルギー分散型X線分光法(EDS)が付属した透過型電子顕微鏡(TEM、JEM-2100F、日本電子株式会社製)により観察し、元素分析を実施した。なお、TEM用の試料は、FIB-SEMダブルビーム装置(Xvision200DB、株式会社日立ハイテクサイエンス製)により調製された。これらの結果を図11図14に示す。
【0076】
例1の試料の表面状態を、X線光電子分光分析装置(XPS、PHI 680、アルバック・ファイ株式会社製)および飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF-SIMS、PHI TRIFT V nanoTOF、アルバック・ファイ株式会社製)を用いて調べた。結果を図15および図16に示す。また、例1の試料の表面の接触角を、接触角計(CA-XP、協和界面科学株式会社製)を用いて測定した。
【0077】
電解質として1M NaSOまたは1M ZnSOを用い、作用電極を例1の試料(Ti0.87@Zn)、参照電極と対極とをそれぞれAg/AgCl電極とグラファイトホイルとした3電極系で、電気化学ステーション(AUT87433、Autolab社製)を用いて線形掃引ボルタンメトリ(LSV)を測定した。電解液として1M ZnSO、セパレータとしてガラス繊維ろ紙(Whatman)、負極として例1の試料を用いた2032型対称コインセルを組み立てた。例1の対称コインセルにおける亜鉛析出/溶出の性能は電池充放電装置(HJ1001SD8、北斗電工株式会社製)により評価した。充放電測定後の例1の試料の様子をSEMにより観察した。これらの結果を図17図18図20および図22に示す。
【0078】
[例2]
例2では、回転数を1400rpmとした以外は、例1と同様にして、酸化チタンナノシート単層膜を有する亜鉛基板を備えた電極を作製した。得られた試料を例2の試料と称し、例1と同様に評価した。結果を図9に示す。
【0079】
[例3]
例3では、回転数を2000rpmとした以外は、例1と同様にして、酸化チタンナノシート単層膜を有する亜鉛基板を備えた電極を作製した。得られた試料を例3の試料と称し、例1と同様に評価した。結果を図9に示す。
【0080】
[例4]
例4では、例1の操作を2回繰り返した以外は、例1と同様にして、酸化チタンナノシートからなる多層膜(以降では酸化チタンナノシート多層膜と称する)を有する亜鉛基板を備えた電極を作製した。得られた試料を例4の試料またはTi0.87@Zn-2Tと称し、例1と同様に評価した。結果を図12に示す。
【0081】
[例5]
例5では、例1の操作を5回繰り返した以外は、例1と同様にして、酸化チタンナノシート多層膜を有する亜鉛基板を備えた電極を作製した。得られた試料を例5の試料またはTi0.87@Zn-5Tと称し、例1と同様に評価した。結果を図12に示す。
【0082】
[例6]
例6では、基板をステンレス鋼とした以外は、例1と同様にして、酸化チタンナノシート単層膜を有するステンレス鋼を備えた電極を作製した。得られた試料を例6の試料またはTi0.87@SSと称し、例1と同様に評価した。結果を図23に示す。
【0083】
[例7および例8]
例7および例8では、それぞれ、亜鉛基板およびステンレス鋼をそのまま電極に用い、例1と同様に評価した。結果を図11図15図19図21図23に示す。
【0084】
簡単のため、例1~例8の試料の一覧を表1にまとめ、結果を説明する。
【0085】
【表1】
【0086】
図9は、例1~例3の試料のSEM像を示す図である。
図10は、例1の試料のSEM像およびAFM像を示す図である。
【0087】
SEM像において、暗く示される領域は、酸化チタンナノシートが稠密に単層で堆積している部分に対応し、明るく示される領域は、酸化チタンナノシートが堆積していない部分に対応する。
【0088】
図9(a)~(c)は、それぞれ、例3~例1の試料のSEM像である。図9によれば、1400rpmと2000rpmの高速回転のスピンコートによって得られた例2および例3の試料では、亜鉛基板の中央部に酸化チタンナノシートが堆積せず、一部がむき出しとなった。このときの、SEM像より被覆率(基板の全表面積に対する酸化チタンナノシートの被覆率)は、例2の試料では47%、例3の試料では37%であった。
【0089】
一方、1200rpmのスピンコートによって得られた例1の試料では、センチメートルスケールの基板の領域を完全に覆う、均一で高品質な酸化チタンナノシートからなる膜が生成されることがわかった(被覆率100%)。酸化チタンナノシート分散液の濃度にもよるが、酸化チタンナノシートの濃度が0.08wt%以上0.12wt%以下の範囲であれば、20μL/cm以上40μL/cm以下の範囲で酸化チタンナノシート分散液を滴下し、1000rpm以上1350rpm以下の範囲の回転数で、2分以上10分以下の範囲のスピンコート時間を採用するとよいことが示された。
【0090】
図10(a)は、例1の試料(Ti0.87@Zn)のSEM像をより拡大して示す。図10(a)によれば、亜鉛基板上に数マイクロメートルから数十マイクロメートルの大きさの酸化チタンナノシートが、隙間なく稠密に並んでいる様子が示される。
【0091】
図10(b)は、例1の試料(Ti0.87@Si)のAFM像を示す。図10(b)のAFM像は、図10(a)のSEM像と同様に、約1nmの厚さを有し、平滑かつ稠密な膜であり、酸化チタンナノシート単層膜であった。このことから、亜鉛基板上の薄膜もまた、酸化チタンナノシート単層膜といえる。
【0092】
図示しないが、例4および例5の試料の薄膜も、平滑かつ稠密な膜であったが、それぞれの厚さは、約2nm、および、約5nmであった。このことから、例4および例5の試料の薄膜は、単層膜が多層化した酸化チタンナノシート多層膜であることが確認された。
【0093】
図11は、例1の試料のXRDパターンを示す図である。
図12は、例4および例5の試料のXRDパターンを示す図である。
図13は、例1の試料の面内XRDパターンを示す図である。
【0094】
図11には、六方晶構造を有する亜鉛基板のXRDパターンを併せて示す。図11によれば、例1の試料(Ti0.87@Zn)のXRDパターンは、亜鉛基板のXRDパターンに一致し、スピンコート後も新しいピークを示さなかった。
【0095】
一方、図12によれば、例4および例5の試料のXRDパターンは、2θ=5.8°に新しいピークを示した。このピークは、層間距離1.5nmに相当し、例4の試料のピーク強度よりも例5の試料のピーク強度の方が大きかった。これは、酸化チタンナノシートが層間にTBAを包含しながら積層しており、例4および例5の試料の薄膜は、酸化チタンナノシート多層膜であることを示す。レイヤーバイレイヤーで積層することにより、単層膜の緻密性、平滑性を維持した高品位の多層膜が実現しているといえる。
【0096】
図13は、例1の試料(Ti0.87@Si)の面内XRDパターンを示し、単位格子サイズ(a=0.3760nmおよびc=0.2976nm)を有するTi0.87ナノシートの2次元長方格子により指数付けできた。このことは、シリコン基板表面にナノシート単層膜が存在していることを示す。
【0097】
図14は、例1の試料のTEM像、電子回折パターン、STEM像およびEDSマッピングを示す図である。
【0098】
図14(a)は、例1の試料(Ti0.87@Zn)の断面TEM像であり、亜鉛基板の表面に厚さ1nmのナノシート単層膜が積層している様子が明瞭に示される。図14(b)の亜鉛基板からの電子回折パターンは、六方晶構造の亜鉛金属と一致しており、その他の回折パターンは観察されなかった。
【0099】
図14(c)は、例1の試料のSTEM像であり、図14(d)~(f)は、それぞれ、酸素(O)、亜鉛(Zn)およびチタン(Ti)のEDSマッピングを示す。図14(d)~(f)はグレースケールで示されるが、明るく示される領域に各元素が存在する。図14(d)~(f)によれば、亜鉛基板に相当する部分にZnが均一に分布し、亜鉛基板の上にOとTi元素の薄い層が形成されていることが確認された。
【0100】
図15は、例1の試料のXPSスペクトルを示す図である。
【0101】
図15(a)には、例1の試料(Ti0.87@Zn)のXPSスペクトルに加えて、亜鉛基板のXPSスペクトルも併せて示す。図15(a)によれば、例1の試料は、亜鉛(Zn)、炭素(C)および酸素(O)のピークに加え、チタン(Ti)のピークを示した。亜鉛のピーク強度は、酸化チタンナノシートの被覆前後で顕著に減少しなかったことから、例1の試料は、亜鉛基板上に酸化チタンナノシートが厚さ1nmの単層膜として存在することを示唆する。
【0102】
図15(b)~(d)は、それぞれ、例1の試料のZn2p3/2、O1s、Ti2p1/2およびTi2p3/2のピークの高分解能XPSスペクトルを示す。図15(b)によれば、1021.8eVに観測されたピークは、金属状態のZn2p3/2の結合エネルギーに相当し、基板の亜鉛が金属状態であることを示した。図15(a)に示すO1sのピークは、図15(c)に示すように、C-O結合に起因する531.7eV、および、T-O結合に起因する530.3eVの2つのピークに分離できた。図15(d)によれば、464.3eVおよび458.7eVのピークは、それぞれ、Ti-O結合のTi2p1/2およびTi2p3/2に起因し、酸化チタンナノシートのチタンが4価であることを示した。
【0103】
図16は、例1の試料のTOF-SIMSスペクトルを示す図である。
【0104】
図16(a)は、例1の試料の表面深さが2nm以下の範囲における、亜鉛(Zn)およびチタン(Ti)のTOF-SIMSスペクトルを示す。図16(b)~(d)は、Znの質量数が64、66および68のTOF-SIMSスペクトルを拡大して示す。図16(b)~(d)によれば、Tiのピーク強度は、Znのそれよりもはるかに大きかった。このことは、例1の試料において、酸化チタンナノシート単層膜が亜鉛基板の表面全体を被覆していることを示す。
【0105】
図16(e)~(g)は、それぞれ、例1の試料のフラグメント陽イオン全体、Tiイオン、および、Znイオンの分布を示す。図には、試料調製時に生じた傷を矢印で示す。図16(e)~(g)によれば、TiイオンとZnイオンとは均一に分布しており、亜鉛基板と酸化チタンナノシート単層膜との間の界面で反応が生じることなく、きれいに維持されていた。
【0106】
以上から、本発明の図3に示す方法によって、酸化チタンナノシート単層膜または多層膜である薄膜を備えた金属基板を提供できることが示された。
【0107】
図17は、例1および例7の対称コインセルの充放電曲線を示す図である。
図18は、例1の対称コインセルの種々の期間のサイクル試験の結果を示す図である。
図19は、例7の対称コインセルの種々の期間のサイクル試験の結果を示す図である。
【0108】
図17(A)および(B)は、それぞれ、例1および例7の対称コインセルにおける異なる電流密度での充放電曲線を示す。図17によれば、例1および例7の対称コインセルの電圧ヒステリシス(すなわち、充電と放電との間の電位差)は、いずれも、電流密度の増加に伴い増大した。このことは、対称コインセルでは亜鉛の析出/溶出の分極が生じることが確認された。
【0109】
より詳細には、例1の対称コインセルの電圧ヒステリシスは、電流密度を0.5mA/cmから10mA/cmへと段階的に増加させ、再度、0.5mA/cmに減少させても、電流密度の大きさに追随し変化した。一方、例7の対称コインセルは、電流密度を0.5mA/cmから10mA/cmへと段階的に増加する途中、具体的には5mA/cmに増加した時点で短絡した。これはデンドライト成長によると考える。
【0110】
図18および図19は、電流密度1mA/cm、容量1mhA/cmにおける例1および例7の対称コインセルのサイクル試験結果を示す。図19に示すように、酸化チタンナノシートを有しない電極を用いた例7の対称コインセルは、105時間のサイクルで短絡したが、図18に示すように、酸化チタンナノシート単層膜を有する電極を用いた例1の対称コインセルは、1400時間まで短絡することなく安定に動作した。すなわち、酸化チタンナノシート単層膜を有する電極を用いることにより、サイクル安定性が13倍以上向上することが分かった。
【0111】
図示しないが、例2および例3の試料を用いた対称コインセルのサイクル安定性は、例7のそれよりも向上したが、例1には及ばなかった。このことは、酸化チタンナノシート単層膜で金属基板の一部を被覆することにより、デンドライト成長は抑制され、電池特性を向上することが示唆され、好ましくは50%以上の被覆率であるといえる。
【0112】
また、例4および例5の試料を用いた対称コインセルは、例1と同様のサイクル安定性を示した。このことから、酸化チタンナノシート多層膜とすることは、デンドライト成長の抑制に有利であることが示唆される。
【0113】
図19(a)によれば、例1および例7の対称コインセルの電圧ヒステリシスは、いずれも、最初の数サイクルで減少し、電池の分極の減少を示した。しかしながら、図19(b)および(c)によれば、例1の対称コインセルは、例7の対称コインセルに比べて、より小さな電圧ヒステリシスを示し、67mVの低い安定値に達し、1400時間まで維持した。
【0114】
図20は、充放電試験後の例1の試料のSEM像を示す図である。
図21は、充放電試験後の例7の試料のSEM像を示す図である。
【0115】
図20に示すように、酸化チタンナノシート単層膜を有する例1の試料は、1400時間の充放電試験後も、比較的平坦な表面を維持していることが分かった。これは、図2および図8を参照して説明したように、酸化チタンナノシート単層膜は、静電相互作用によってZn2+を引き付け、引き付けたZn2+を単層膜表面全体に均一に分布させるため、亜鉛が樹枝状に成長することを抑制できるためである。
【0116】
一方、図21に示すように、酸化チタンナノシート単層膜を有しない例7の試料は、表面にデンドライト(図中の点線で示す領域)を有した。さらに、図21に示す繊維はセパレータであるが、セパレータをつきやぶった亜鉛(図中の矢印で示す部分)が、短絡を引き起こしていると考える。
【0117】
以上から、本発明の酸化チタンナノシートからなる単層膜または多層膜である薄膜を備えた金属基板は、金属空気電池の負極として機能し、特に、デンドライトの形成を抑制できることが示された。
【0118】
例1の試料の濡れ性の結果について述べる。例1の試料の表面に水滴を垂らした際の接触角は、4.5°であり、例7の試料の表面のそれは90°であった。すなわち、酸化チタンナノシート単層膜は、表面の濡れ性を劇的に改善することが分かった。このことは、本発明の負極は、水系電解質を用いた際に、接触抵抗を低減できるので、金属空気電池にも有効であることを示唆する。
【0119】
図22は、例1および例7の試料のLSV曲線を示す図である。
【0120】
図22(a)は、NaSO電解液を用いた場合のLSV曲線であり、図22(b)は、ZnSO電解液を用いた場合のLSV曲線である。NaSO電解液によるLSV曲線は、水素(H)の生成を反映し、ZnSO電解液によるLSV曲線は、水素生成と亜鉛析出とを合わせた活性を反映する。
【0121】
図22(a)によれば、例7の試料は、例1の試料よりも大きな電流密度を示し、水素生成活性が高いことが分かった。例7の試料の曲線にはスパイクが見られ、激しい水素ガスの発生が見られた。一方、図22(b)によれば、例1も例7の試料も同様の電流密度を示し、亜鉛析出と水素生成とを合わせた活性は同程度であることが分かった。
【0122】
以上より、酸化チタンナノシート単層膜を有する例1の試料は、酸化チタンナノシート単層膜を有しない例7の試料と比較して、亜鉛析出反応の活性が高く、水素生成活性が低いことが分かった。このことは、例1の試料を電極として用いれば、水素発生を抑制しつつ、亜鉛析出を促進できることを示し、酸化チタンナノシート単層膜に亜鉛イオン(Zn2+)が優先的に吸着することを強く支持する。
【0123】
図23は、例6および例8の試料を用いた電池の定電流(1mA/cm)下における亜鉛析出時の電位変化を示す図である。
【0124】
図23によれば、例6および例8の試料の亜鉛の核生成過電圧は、それぞれ、85mVおよび90mVとわかった。例6の試料の核生成過電圧が、例8のそれよりも小さいことは、酸化チタンナノシート単層膜が亜鉛の核生成を効果的に促進しており、亜鉛電極の電気化学的分極を効果的に低減することを示唆する。
【0125】
金属基板として亜鉛を用いて説明してきたが、酸化チタンナノシート単層膜による効果は亜鉛に限らないことは言うまでもなく、当業者であれば、金属空気電池の負極に利用される各種金属基板において同様の効果が得られることを理解する。
【0126】
以上より、本発明の負極は、亜鉛(Zn)、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、および、鉄(Fe)からなる群から1種選択される金属からなる金属基板と、その上に位置する酸化チタンナノシート単層膜または多層膜からなる薄膜とを備え、金属空気電池の負極に利用でき、特に負極におけるデンドライト成長が抑制されるので、サイクル寿命に優れた金属空気電池を提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明の金属空気電池用負極は、デンドライト成長および副反応を抑制できるので、このような負極を適用すれば、大容量でサイクル寿命に優れた金属空気電池を提供できる。それにより、ドローンや無人航空機向けのポータブル電源、電気自動車用の蓄電池、再生エネルギー発電の大規模蓄電システム、および、家庭用太陽光発電と併用する蓄電池などに資することができる。
【符号の説明】
【0128】
100 金属空気電池用負極
110 金属基板
120 酸化チタンナノシート
130 酸化チタンナノシート単層膜
140 薄膜
400 金属空気電池
410 負極
420 空気極
430 電解質
図1
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