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特開2024-94995アイオノマー樹脂組成物、樹脂シートおよび合わせガラス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094995
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】アイオノマー樹脂組成物、樹脂シートおよび合わせガラス
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/02 20060101AFI20240703BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20240703BHJP
   C08K 5/37 20060101ALI20240703BHJP
   C08K 5/524 20060101ALI20240703BHJP
   C03C 27/12 20060101ALI20240703BHJP
   B32B 17/10 20060101ALI20240703BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240703BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
C08L33/02
C08K5/17
C08K5/37
C08K5/524
C03C27/12 F
B32B17/10
B32B27/30 A
B32B27/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211960
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】512192277
【氏名又は名称】クラレイ ユーロップ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Kuraray Europe GmbH
【住所又は居所原語表記】Philipp-Reis-Strasse 4, D-65795 Hattersheim am Main, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】高杉 晃央
(72)【発明者】
【氏名】中原 淳裕
(72)【発明者】
【氏名】新村 卓郎
【テーマコード(参考)】
4F100
4G061
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AG00B
4F100AG00C
4F100AH03A
4F100AH03H
4F100AH04A
4F100AH04H
4F100AK24A
4F100AK25A
4F100BA03
4F100BA06
4F100EC032
4F100EJ172
4F100EJ422
4F100JB06A
4F100JK06
4F100JK10
4F100JN01
4G061AA02
4G061AA20
4G061CB16
4G061CD18
4G061DA23
4G061DA29
4G061DA30
4G061DA38
4J002BB081
4J002BB201
4J002BG011
4J002BG041
4J002BG051
4J002BG061
4J002EN026
4J002EN036
4J002EN046
4J002EV026
4J002EW066
4J002GL00
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】合わせガラスに用いた際に高い透明性および高い耐貫通性を有する樹脂シートを形成し得るアイオノマー樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】(メタ)アクリル酸単位(A)、(メタ)アクリル酸中和物単位(B)、およびエチレン単位(C)を含むアイオノマー樹脂、ならびにリン、窒素および硫黄からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含み、前記単位(A)に対してルイス塩基性を示す化合物(Z)を含むアイオノマー樹脂組成物であって、前記単位(A)および前記単位(B)の合計含有量は、前記アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準として6モル%以上10モル%以下であり、前記アイオノマー樹脂100質量部に対する化合物(Z)の含有量は、0.001質量部以上6質量部以下である、アイオノマー樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸単位(A)、
(メタ)アクリル酸中和物単位(B)、および
エチレン単位(C)
を含むアイオノマー樹脂、ならびに
リン、窒素および硫黄からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含み、前記単位(A)に対してルイス塩基性を示す化合物(Z)
を含むアイオノマー樹脂組成物であって、
前記単位(A)および前記単位(B)の合計含有量は、前記アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準として6モル%以上10モル%以下であり、
前記アイオノマー樹脂100質量部に対する化合物(Z)の含有量は、0.001質量部以上6質量部以下である、
アイオノマー樹脂組成物。
【請求項2】
前記アイオノマー樹脂は、アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準として、0モル%超1.0モル%以下の(メタ)アクリル酸エステル単位(D)をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
23℃、50%RHにおける、蒸留水の接触角が80°以上90°以下である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
23℃、50%RHにおける、ガラスとの剥離エネルギーが1.0kJ/m以上3.5kJ/m以下である、請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記リン元素を含み、前記単位(A)に対してルイス塩基性を示す化合物(Z)は、分子量が150以上1200以下である、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記窒素元素を含み、前記単位(A)に対してルイス塩基性を示す化合物(Z)は、分子量が50以上300以下である、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記硫黄元素を含み、前記単位(A)に対してルイス塩基性を示す化合物(Z)は、分子量が100以上300以下である、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
前記リン元素を含み、前記単位(A)に対してルイス塩基性を示す化合物(Z)は、有機亜リン酸化合物である、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
前記窒素元素を含み、前記単位(A)に対してルイス塩基性を示す化合物(Z)は、アミン化合物である、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
前記硫黄元素を含み、前記単位(A)に対してルイス塩基性を示す化合物(Z)は、チオール化合物である、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の組成物を含む層を1層以上有する、樹脂シート。
【請求項12】
23℃、50%RHにおける、蒸留水の接触角が80°以上90°以下である、請求項11に記載の樹脂シート。
【請求項13】
23℃、50%RHにおける、ガラスとの剥離エネルギーが1.0kJ/m以上3.5kJ/m以下である、請求項11に記載の樹脂シート。
【請求項14】
請求項11に記載の樹脂シートからなる合わせガラス中間膜。
【請求項15】
2つのガラス板と、該2つのガラス板の間に配置された請求項14に記載の合わせガラス中間膜を有する、合わせガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイオノマー樹脂組成物、該樹脂組成物を含む層を1層以上有する樹脂シート、該樹脂シートからなる合わせガラス中間膜、および該合わせガラス中間膜を有する合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン-不飽和カルボン酸共重合体の中和物であるアイオノマー樹脂は、透明性およびガラスとの接着性に優れるため、合わせガラスの中間膜に使用されている(例えば特許文献1)。近年、合わせガラスに対する要求が高くなっており、合わせガラスの製作条件によらず、より優れた特性(例えば、光学特性、外観および耐貫通性)を有することが求められるようになってきた。
【0003】
例えば、特許文献2には、エチレンの共重合単位と、3~10個の炭素原子を有する第一α,β-不飽和カルボン酸の共重合単位と、3~10個の炭素原子を有する第二α,β-不飽和カルボン酸の誘導体の共重合単位とを特定の割合で含むエチレン酸コポリマーの中和生成物であるイオノマーが記載されており、このイオノマーは従来のイオノマーと比べて向上した光学特性を示すことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6432522号明細書
【特許文献2】特表2017-519083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは耐貫通性を向上させるため、原料中の(メタ)アクリル酸単位の含有量を減少させること、原料樹脂の分子量を増加させること、および合わせガラス中間膜樹脂シートの厚みを増加させること等を検討した。しかしながら、原料中の(メタ)アクリル酸単位の含有量を減少させると、透明性など他物性とのバランスが取れなくなる。また、樹脂の分子量を増加させる方法は、樹脂の粘度が増加するため成形温度を高くする必要があり、それに従って樹脂が熱着色してしまう。また、樹脂シートの厚みを増加させる方法は、フィルムの取り扱い性が悪化するといった課題があった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、合わせガラスに用いた際に高い透明性および高い耐貫通性を有する樹脂シートを形成し得るアイオノマー樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち本発明は、以下の好適な形態を提供するものである。
【0008】
[1] (メタ)アクリル酸単位(A)、
(メタ)アクリル酸中和物単位(B)、および
エチレン単位(C)
を含むアイオノマー樹脂、ならびに
リン、窒素および硫黄からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含み、前記単位(A)に対してルイス塩基性を示す化合物(Z)
を含むアイオノマー樹脂組成物であって、
前記単位(A)および前記単位(B)の合計含有量は、前記アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準として6モル%以上10モル%以下であり、
前記アイオノマー樹脂100質量部に対する化合物(Z)の含有量は、0.001質量部以上6質量部以下である、
アイオノマー樹脂組成物。
[2] 前記アイオノマー樹脂は、アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準として、0モル%超1.0モル%以下の(メタ)アクリル酸エステル単位(D)をさらに含む、[1]に記載の組成物。
[3] 23℃、50%RHにおける、蒸留水の接触角が80°以上90°以下である、[1]または[2]に記載の組成物。
[4] 23℃、50%RHにおける、ガラスとの剥離エネルギーが1.0kJ/m以上3.5kJ/m以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5] 前記リン元素を含み、前記単位(A)に対してルイス塩基性を示す化合物(Z)は、分子量が150以上1200以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[6] 前記窒素元素を含み、前記単位(A)に対してルイス塩基性を示す化合物(Z)は、分子量が50以上300以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[7] 前記硫黄元素を含み、前記単位(A)に対してルイス塩基性を示す化合物(Z)は、分子量が100以上300以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[8] 前記リン元素を含み、前記単位(A)に対してルイス塩基性を示す化合物(Z)は、有機亜リン酸化合物である、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[9] 前記窒素元素を含み、前記単位(A)に対してルイス塩基性を示す化合物(Z)は、アミン化合物である、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[10] 前記硫黄元素を含み、前記単位(A)に対してルイス塩基性を示す化合物(Z)は、チオール化合物である、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[11] [1]~[10]のいずれかに記載の組成物を含む層を1層以上有する、樹脂シート。
[12] 23℃、50%RHにおける、蒸留水の接触角が80°以上90°以下である、[11]に記載の樹脂シート。
[13] 23℃、50%RHにおける、ガラスとの剥離エネルギーが1.0kJ/m以上3.5kJ/m以下である、[11]に記載の樹脂シート。
[14] [11]に記載の樹脂シートからなる合わせガラス中間膜。
[15] 2つのガラス板と、該2つのガラス板の間に配置された[14]に記載の合わせガラス中間膜を有する、合わせガラス。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、合わせガラスに用いた際に高い透明性および高い耐貫通性を有する樹脂シートを形成し得るアイオノマー樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[アイオノマー樹脂組成物]
本発明におけるアイオノマー樹脂組成物は、
(メタ)アクリル酸単位(A)、(メタ)アクリル酸中和物単位(B)、およびエチレン単位(C)を含むアイオノマー樹脂、ならびに
リン、窒素および硫黄からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含み、前記単位(A)に対してルイス塩基性を示す化合物(Z)を含み、
前記単位(A)および前記単位(B)の合計含有量は、前記アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準として6モル%以上10モル%以下であり、
前記アイオノマー樹脂100質量部に対する化合物(Z)の含有量は、0.001質量部以上6質量部以下である。
【0011】
〔アイオノマー樹脂〕
本発明におけるアイオノマー樹脂は、(メタ)アクリル酸単位(A)、(メタ)アクリル酸中和物単位(B)、およびエチレン単位(C)を含み、前記単位(A)および前記単位(B)の合計含有量が、前記アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準として6モル%以上10モル%以下である。
本発明において、「単位」とは、「由来の構成単位」を意味するものであり、例えば(メタ)アクリル酸単位とは、(メタ)アクリル酸由来の構成単位を示し、(メタ)アクリル酸中和物単位とは、(メタ)アクリル酸中和物由来の構成単位を示し、エチレン単位とはエチレン由来の構成単位を示す。また、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、メタクリル酸またはアクリル酸を示す。
【0012】
前記単位(A)および前記単位(B)の合計含有量が、前記アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準として6モル%以上10モル%以下であると、得られる樹脂シートの透明性および耐貫通性を向上しやすい。前記単位(A)および前記単位(B)の合計含有量が前記上限値を超えると、アイオノマー樹脂の成形加工時における溶融粘度の上昇を抑制しにくく、それにより、アイオノマー樹脂の成形加工性が低下しやすい。さらに、前記合計含有量が前記下限値未満であると、アイオノマー樹脂の透明性、特に徐冷してアイオノマー樹脂の結晶化を促進させた場合における透明性(以降、徐冷時の透明性ともいう)が低下しやすい。前記合計含有量は、アイオノマー樹脂の透明性(特に徐冷時の透明性)およびガラス等の基材に対する接着性を向上しやすい観点から、6モル%以上、好ましくは6.5モル%以上、より好ましくは7.0モル%以上、さらに好ましくは7.5モル%以上であり、また、成形加工性を向上しやすい観点から、10モル%以下、好ましくは9.9モル%以下、より好ましくは9.5モル%以下、さらに好ましくは8モル%以下である。
【0013】
前記単位(A)および前記単位(B)の合計含有量は、アイオノマー樹脂の製造方法により調整できる。より具体的には、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を原料とし、該共重合体のけん化反応工程を含む方法によりアイオノマー樹脂を製造する場合には、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体中の(メタ)アクリル酸エステル単位を、前記けん化反応および脱金属反応によって、(メタ)アクリル酸単位(A)および(メタ)アクリル酸中和物単位(B)に変換する各反応の反応度(変換割合)によって調整できる。また、米国特許第8399096号に記載されるように、エチレンおよび(メタ)アクリル酸を原料とし、これらを重合してアイオノマー樹脂を製造する場合には、共重合させるエチレンと(メタ)アクリル酸との割合により調整できる。
【0014】
<(メタ)アクリル酸単位(A)>
(メタ)アクリル酸単位(A)を構成する単量体の例としては、アクリル酸、メタクリル酸が挙げられ、耐熱性、耐貫通性および基材に対する接着性の観点から、好ましくはメタクリル酸である。これら(メタ)アクリル酸単位は1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
(メタ)アクリル酸単位(A)のアイオノマー樹脂中の含有量は、前記単位(A)および前記単位(B)の合計含有量が、アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準として6モル%以上10モル%以下の範囲内であれば特に制限されない。本発明の一実施形態において、(メタ)アクリル酸単位(A)のアイオノマー樹脂中の含有量は、アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準として、好ましくは4.5モル%以上、より好ましくは5.0モル%以上、さらに好ましくは5.5モル%以上、特に好ましくは5.8モル%以上であり、また、好ましくは9.0モル%以下、より好ましくは8.5モル%以下、さらに好ましくは8.0モル%以下、よりさらに好ましくは7.5モル%以下、特に好ましくは6.5モル%以下である。単位(A)の前記含有量が前記下限値以上であると、得られる樹脂シートの透明性およびガラス等の基材に対する接着性を向上しやすい。また、前記上限値以下であると、アイオノマー樹脂組成物の成形加工性を向上しやすい。
【0016】
<(メタ)アクリル酸中和物単位(B)>
(メタ)アクリル酸中和物単位(B)としては、前記(メタ)アクリル酸単位(A)の中和物単位が好ましい。なお、(メタ)アクリル酸中和物は、(メタ)アクリル酸の水素イオンを金属イオンで置き換えたものである。前記金属イオンの例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等の1価金属、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウム、チタン等の多価金属のイオンが挙げられる。このような金属イオンは1種単独でも2種以上組み合わせて用いてもよい。例えば、1種以上の1価金属イオンと1種以上の2価金属イオンとを組み合わせてもよい。
【0017】
(メタ)アクリル酸中和物単位(B)のアイオノマー樹脂中の含有量は、前記単位(A)および前記単位(B)の合計含有量が、前記アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準として6モル%以上10モル%以下の範囲内であれば特に制限されない。本発明の一実施形態において、(メタ)アクリル酸中和物単位(B)の含有量は、アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準として、好ましくは0.65モル%以上、より好ましくは1.0モル%以上、さらに好ましくは1.5モル%以上、特に好ましくは1.7モル%以上であり、また、好ましくは3.0モル%以下、より好ましくは2.7モル%以下、さらに好ましくは2.6モル%以下、特に好ましくは2.5モル%以下である。単位(B)の含有量が前記下限値以上であると、得られる樹脂シートの透明性および弾性率を向上しやすく、前記上限値以下であると、成形加工時の溶融粘度の上昇を抑制しやすい。
【0018】
前記単位(A)および前記単位(B)の各含有量は、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を原料とし、該共重合体のけん化反応工程および脱金属反応工程を含む方法によりアイオノマー樹脂を製造する場合、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体中の(メタ)アクリル酸エステル単位を、前記けん化反応および脱金属反応によって、(メタ)アクリル酸単位(A)および(メタ)アクリル酸中和物単位(B)に変換する各反応における反応度によって調整できる。
【0019】
<エチレン単位(C)>
エチレン単位(C)の含有量は、アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準として、好ましくは80モル%以上、より好ましくは85モル%以上、さらに好ましくは88モル%以上であり、また、好ましくは94モル%以下、より好ましくは91モル%以下である。エチレン単位(C)の含有量が前記下限値以上であると、得られる樹脂シートの機械的強度(特に耐貫通性)および成形加工性を向上しやすく、また、前記上限値以下であると、得られる樹脂シートの透明性を向上しやすい。
【0020】
<(メタ)アクリル酸エステル単位(D)>
本発明におけるアイオノマー樹脂は、(メタ)アクリル酸単位(A)、(メタ)アクリル酸中和物単位(B)、およびエチレン単位(C)に加えて、より高い透明性を得やすい観点から、さらに(メタ)アクリル酸エステル単位(D)を含むことが好ましい。
【0021】
アイオノマー樹脂が(メタ)アクリル酸エステル単位(D)を含む場合、前記単位(A)、前記単位(B)および前記単位(D)の合計含有量は、透明性(特に徐冷時の透明性)を向上しやすい観点から、前記アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準として6モル%以上10モル%以下であることが好ましい。すなわち、本発明の好適な実施形態において、本発明におけるアイオノマー樹脂は、(メタ)アクリル酸単位(A)、(メタ)アクリル酸中和物単位(B)、エチレン単位(C)、および(メタ)アクリル酸エステル単位(D)を含み、前記単位(A)、前記単位(B)および前記単位(D)の合計含有量が、前記アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準として6~10モル%である。アイオノマー樹脂が(メタ)アクリル酸エステル単位(D)を含む場合、前記単位(A)、前記単位(B)および前記単位(D)の合計含有量が前記上限値以下であると、アイオノマー樹脂の成形加工時における溶融粘度の上昇を抑制しやすく、それにより、アイオノマー樹脂の成形加工性を向上しやすい。また、前記合計含有量が下限値以上であると、アイオノマー樹脂の透明性、特に徐冷時の透明性を高めやすい。
アイオノマー樹脂が(メタ)アクリル酸エステル単位(D)を含む場合において、前記単位(A)、前記単位(B)および前記単位(D)の前記合計含有量は、透明性(特に徐冷時の透明性)および基材に対する接着性を向上しやすい観点から、好ましくは6モル%以上、より好ましくは6.5モル%以上、さらに好ましくは7.0モル%以上、さらにより好ましくは7.5モル%以上であり、また、成形加工性の観点から、好ましくは10モル%以下、より好ましくは9.9モル%以下、さらに好ましくは9.5モル%以下である。
【0022】
前記単位(A)、前記単位(B)および前記単位(D)の合計含有量は、アイオノマー樹脂の原料により調整できる。より具体的には、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を原料とし、該共重合体のけん化反応工程を含む方法によりアイオノマー樹脂を製造する場合には、アイオノマー樹脂の原料であるエチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体の(メタ)アクリル酸エステル変性量により調整できる。また、米国特許8399096号に記載されるように、エチレンおよび(メタ)アクリル酸を原料とし、これらを重合してアイオノマー樹脂を製造する場合には、共重合させるエチレンと(メタ)アクリル酸との割合により調整できる。
【0023】
(メタ)アクリル酸エステル単位(D)を構成する単量体の例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸アリル等が挙げられる。
これらのうち、透明性または耐貫通性の観点から、好ましい単量体は、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチルであり、より好ましい単量体は、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチルであり、さらに好ましい単量体は、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチルであり、特に好ましい単量体は、(メタ)アクリル酸メチルである。これら(メタ)アクリル酸エステルは1種単独でも2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0024】
アイオノマー樹脂が(メタ)アクリル酸エステル単位(D)を含む場合、(メタ)アクリル酸エステル単位(D)のアイオノマー樹脂中の含有量は特に制限されない。本発明の一実施形態において、(メタ)アクリル酸エステル単位(D)のアイオノマー樹脂中の含有量は、アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準として、好ましくは0モル%超、より好ましくは0.01モル%以上、さらに好ましくは0.05モル%以上、特に好ましくは0.08モル%以上であり、また、好ましくは1.0モル%以下、より好ましくは0.7モル%以下、さらに好ましくは0.5モル%以下である。単位(D)の含有量が前記下限値以上、かつ前記上限値以下であると得られる樹脂シートの透明性を向上しやすい。
【0025】
アイオノマー樹脂が(メタ)アクリル酸エステル単位(D)を含む場合の前記単位(D)の含有量は、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を原料とし、該共重合体のけん化反応工程および脱金属反応工程を含む方法によりアイオノマー樹脂を製造する場合、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体中の(メタ)アクリル酸エステル単位(D)を、(メタ)アクリル酸単位(A)に変換する前記けん化反応の反応度によって調整できる。
【0026】
<他の単量体単位>
本発明においてアイオノマー樹脂は、(メタ)アクリル酸単位(A)、(メタ)アクリル酸中和物単位(B)、およびエチレン単位(C)、ならびに場合により含まれる(メタ)アクリル酸エステル単位(D)以外の他の単量体単位を含んでいてもよい。他の単量体単位の例としては、(メタ)アクリル酸単位(A)以外のカルボン酸単位(A2)、(メタ)アクリル酸中和物単位(B)以外のカルボン酸中和物単位(B2)等が挙げられる。
前記カルボン酸単位(A2)を構成する単量体の例としては、イタコン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル等が挙げられ、好ましくはマレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチルである。前記カルボン酸中和物単位(B2)を構成する単量体の例としては、前記カルボン酸単位(A2)の中和物単位等が挙げられる。なお、カルボン酸中和物は、カルボン酸の水素イオンを金属イオンで置き換えたものである。前記金属イオンとしては、上述の(メタ)アクリル酸中和物単位(B)における金属イオンと同様のものが挙げられ、該金属イオンは、1種単独でも2種以上を組み合わせてもよい。
これらの他の単量体単位は1種単独でも2種以上を組み合わせてもよい。
【0027】
アイオノマー樹脂が前記他の単量体単位を含む場合、その合計含有量、例えば(A2)および(B2)の合計含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択すればよく、例えば、アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準として、好ましくは5モル%以下、より好ましくは3モル%以下、さらに好ましくは1モル%以下であり、また、好ましくは0.01モル%以上、より好ましくは0.1モル%以上である。
【0028】
本発明のアイオノマー樹脂中の(メタ)アクリル酸単位(A)、(メタ)アクリル酸中和物単位(B)、およびエチレン単位(C)、ならびに含まれる場合の(メタ)アクリル酸エステル単位(D)、および他の単量体単位(例えば単位(A2)および単位(B2))の各含有量は、まず、アイオノマー樹脂中の単量体単位を熱分解ガスクロマトグラフィーで同定し、次いで、核磁気共鳴分光法(NMR)および元素分析を用いることによって、求めることができる。より具体的には実施例に記載の方法により求めることができる。また、前記の分析方法と、IRおよび/またはラマン分析とを組合せた方法で求めることもできる。これらの分析の前にアイオノマー樹脂以外の成分を、再沈殿法やソックスレー抽出法にて除去しておくことが好ましい。
【0029】
アイオノマー樹脂の含有量は、得られる樹脂シートの透明性および耐貫通性向上の観点から、アイオノマー樹脂組成物の総質量に対して、好ましくは90質量部以上、より好ましくは92質量部以上、さらに好ましくは94質量部以上であり、また、好ましくは99.999質量部未満、より好ましくは99.95質量部以下である。
【0030】
本発明の一実施形態において、アイオノマー樹脂の炭素1000個当たりの分岐度は、特に制限されず、好ましくは5~30、より好ましくは6~20である。前記分岐度は、アイオノマー樹脂を重合する際の温度、例えばアイオノマー樹脂をEMMAけん化法にて合成する場合には、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル(X)を合成する際の重合温度により調整できる。炭素1000個当たりの分岐度は、固体NMRを用いてDDMAS法にて測定できる。
【0031】
本発明の一実施形態において、アイオノマー樹脂の融点は、耐熱性および耐熱分解性の観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、さらに好ましくは80℃以上であり、また、合わせガラスを作製する際、ガラスとの接着力が発現し易いという観点から、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、さらに好ましくは150℃以下である。前記融点は、JIS K7121:2012に基づき測定できる。具体的には、示差走査熱量計(DSC)を用いて、冷却速度-10℃/分、昇温速度10℃/分の条件で測定し、2回目の昇温の融解ピークのピックトップ温度から求めることができる。
【0032】
本発明の一実施形態において、アイオノマー樹脂の融解熱は、好ましくは0J/g以上、25J/g以下である。前記融解熱は、JIS K7122:2012に基づき測定できる。具体的には、示差走査熱量計(DSC)を用いて、冷却速度-10℃/分、昇温速度10℃/分の条件で測定し、2回目の昇温時の融解ピークの面積から算出することができる。
【0033】
本発明の一実施形態において、JIS K7210-1:2014に準拠し、190℃、2.16Kgの条件で測定されるアイオノマー樹脂のメルトフローレート(MFR)は、好ましくは0.1g/10分以上、より好ましくは0.3g/10分以上、さらに好ましくは0.7g/10分以上、さらにより好ましくは1.0g/10分以上、特に好ましくは1.5g/10分以上であり、好ましくは50g/10分以下、より好ましくは30g/10分以下、特に好ましくは10g/10分以下である。アイオノマー樹脂のMFRが前記下限値以上かつ上限値以下であると、熱による劣化を抑えた成形加工がしやすく、耐貫通性に優れる樹脂シートを得やすい。
【0034】
アイオノマー樹脂の融点、融解熱およびMFRは、アイオノマー樹脂の分子量、ならびにアイオノマー樹脂の(メタ)アクリル酸単位(A)、(メタ)アクリル酸中和物単位(B)、およびエチレン単位(C)、ならびに場合により含まれる(メタ)アクリル酸エステル単位(D)の含有量により調整し得る。
【0035】
本発明の一実施形態において、アイオノマー樹脂の動的粘弾性測定で測定される50℃での貯蔵弾性率(E’)は、良好な自立性(すなわち、高い弾性率)、特に高温環境下における自立性(高温環境下における高い弾性率)の観点から、好ましくは20MPa以上、より好ましくは30MPa以上、さらに好ましくは40MPa以上、特に好ましくは50MPa以上である。貯蔵弾性率(E’)の上限値は特に制限されず、1000MPaであってよい。前記貯蔵弾性率は、アイオノマー樹脂の分子量、ならびに(メタ)アクリル酸単位(A)、(メタ)アクリル酸中和物単位(B)、およびエチレン単位(C)、ならびに場合により含まれる(メタ)アクリル酸エステル単位(D)の含有量によって調整できる。
【0036】
アイオノマー樹脂の製造方法は特に制限されず、例えば、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(X)を原料とし、これをけん化する工程(けん化工程)、および得られたけん化物の少なくとも一部を脱金属する工程(脱金属工程)を含む方法、ならびにエチレンおよび(メタ)アクリル酸を原料とし、これらを共重合する工程(共重合工程)、および得られた共重合体を部分中和する工程(部分中和工程)を含む方法等が挙げられる。
【0037】
エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(X)を原料とする方法は、例えば国際公開第2022/113906号に記載の製造方法を参照することができる。エチレンおよび(メタ)アクリル酸を原料とする方法は、例えば米国特許第8399096号明細書における樹脂の製造方法を参照することができる。
【0038】
〔化合物(Z)〕
本発明におけるアイオノマー樹脂組成物は、リン、窒素および硫黄からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含み、前記単位(A)に対してルイス塩基性を示す化合物(Z)を、前記アイオノマー樹脂組成物100質量部に対して、0.001質量部以上6質量部以下含有する。アイオノマー樹脂100質量部に対して、化合物(Z)の含有量が0.001質量部以上6質量部以下である場合、アイオノマー樹脂の高い透明性を維持しつつ、耐貫通性を向上できることを本発明者らは見出した。そのため、本発明のアイオノマー樹脂組成物を含む合わせガラス中間膜を使用した合わせガラスは、高い透明性および高い耐貫通性を両立できる。
本発明者らは、合わせガラスの耐貫通性を向上させるために鋭意検討した結果、合わせガラス中間膜とガラスとの接着性は必ずしも高くある必要は無く、ガラスとの接着性が高すぎるとガラスに追随して中間膜も破断しやすくなり、却って耐貫通性が低下しやすくなることを見出した。本発明において、化合物(Z)を含有すると、化合物(Z)中の非共有電子対とアイオノマー樹脂中の(メタ)アクリル酸単位(A)との相互作用により、アイオノマー樹脂中の(メタ)アクリル酸単位(A)とガラスとの相互作用が抑制でき、本発明の樹脂組成物を含む合わせガラス中間膜とガラスとの接着性が適切な範囲に調整でき、耐貫通性を向上させることができると考えられる。
【0039】
本発明において、ルイス塩基性とは上記で示した通り非共有電子対を供与する性質のことを指してよい。非共有電子対を供与し得る元素としては、リン、窒素、硫黄、酸素等が挙げられるが、高い透明性および高い耐貫通性を有する樹脂シートを形成できることから、本発明においては、化合物(Z)はリン、窒素および硫黄からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含むことが好ましい。本発明において、化合物(Z)が(メタ)アクリル酸単位に対してルイス塩基性を示すことは、H-NMRによって確認できる。化合物(Z)とアクリル酸とを混合し、重溶媒(CCD/CDОD=3/1)に溶解して、以下の条件でH-NMRで測定した際のアクリル酸のカルボキシ基のピークが、元のアクリル酸のカルボキシ基のピークから低磁場側へシフトしている場合、化合物(Z)がメタ(アクリル酸)単位に対してルイス塩基性を示すと判断する。
(測定条件)
・測定温度:25℃
・積算回数:128回
【0040】
前記化合物(Z)の含有量が前記上限値を超えるとアイオノマー樹脂の透明性が低下しやすくなり、また、前記下限値未満であると、耐貫通性が低下しやすくなる。前記化合物(Z)の含有量は、耐貫通性を向上しやすい観点から、0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上、さらに好ましくは0.1質量部以上、特に好ましくは0.5質量部以上である。また、透明性を向上しやすい観点から、6質量部以下、好ましくは5質量部以下、より好ましくは4質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下、特に好ましくは1質量部以下である。
【0041】
化合物(Z)は、リン、窒素および硫黄からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む化合物から選択される。これらは、単独または2種以上組み合わせて用いてもよい。リン、窒素および硫黄からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む化合物は、リン元素、窒素元素および硫黄元素のいずれか1つのみを有する化合物であっても、2つ以上有する化合物であってもよい。
【0042】
前記リン元素を含み、前記単位(A)に対してルイス塩基性を示す化合物(Z)(以下、「化合物(Z)」とも称する)は、分子量が好ましくは150以上、より好ましくは250以上、さらに好ましくは300以上であり、好ましくは1200以下、より好ましくは1000以下、さらに好ましくは800以下、よりさらに好ましくは640以下である。前記化合物(Z)の分子量が前記下限値以上および前記上限値以下であると、得られる樹脂シートの耐貫通性を向上しやすい。
【0043】
得られる樹脂シートの耐貫通性をより向上しやすい観点から、前記化合物(Z)は、好ましくは有機亜リン酸化合物である。有機亜リン酸化合物としては、例えばトリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、トリス(シクロヘキシルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)2-エチルヘキシルホスファイト、および2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイトなどのモノホスファイト系化合物;4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニル-ジ-トリデシルホスファイト)、3,9-ビス(オクタデシルオキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、4,4’-イソプロピリデン-ビス(フェニル-ジ-アルキル(C12~C15)ホスファイト)、4,4’-イソプロピリデン-ビス(ジフェニルモノアルキル(C12~C15)ホスファイト)、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ジ-トリデシルホスファイト-5-tert-ブチルフェニル)ブタンおよびテトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンホスファイトなどのジホスファイト系化合物などがあげられる。これらの中でも、得られる樹脂シートの耐貫通性を向上しやすいことからモノホスファイト系化合物では、トリエチルホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトが好ましく、ジホスファイト系化合物では、3,9-ビス(オクタデシルオキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカンが好ましい。
【0044】
前記窒素元素を含み、前記単位(A)に対してルイス塩基性を示す化合物(Z)(以下、「化合物(Z)」とも称する)は、分子量が好ましくは50以上、より好ましくは100以上、さらに好ましくは150以上、よりさらに好ましくは190以上であり、好ましくは300以下、より好ましくは290以下、さらに好ましくは280以下である。前記化合物(Z)の分子量が前記下限値以上および前記上限値以下であると、得られる樹脂シートの耐貫通性を向上しやすい。
【0045】
得られる樹脂シートの耐貫通性をより向上しやすい観点から、前記化合物(Z)は、好ましくはアミン化合物である。アミン化合物としては、例えばヘキシルアミン、へプチルアミン、2-アミノヘプタン、6-メチル-1-ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、ベンジルアミン、トリベンジルアミン、ドデシルアミン、ウンデシルアミン、3-(アミノメチル)ベンジルアミンおよび4-(アミノメチル)ベンジルアミン等のモノアミン化合物;エチレンジアミン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカンおよびジエチレントリアミン等のジアミン化合物;ならびにトリエチレンテトラミン等のトリアミン化合物が挙げられる。これらの中でも、得られる樹脂シートの耐貫通性を向上しやすいことから、モノアミン化合物が好ましく、ドデシルアミン、トリベンジルアミンがより好ましい。
【0046】
前記硫黄元素を含み、前記単位(A)に対してルイス塩基性を示す化合物(Z)(以下、「化合物(Z)」とも称する)は、分子量が好ましくは100以上、より好ましくは120以上、さらに好ましくは150以上であり、好ましくは300以下、より好ましくは250以下、さらに好ましくは205以下である。前記化合物(Z)の分子量が前記下限値以上および前記上限値以下であると、得られる樹脂シートの耐貫通性を向上しやすい。
【0047】
得られる樹脂シートの耐貫通性をより向上しやすい観点から、前記化合物(Z)は、好ましくはチオール化合物である。チオール化合物としては、例えば1-ヘキサンチオール、1-オクタンチオール、1-ノナンチオール、1-デカンチオール、1-ドデカンチオール、1-ウンデカンチオール、1-テトラデカンチオール、1-ペンタデカンチオール、1-ヘキサデカンチオ―ル、1-オクタデカンチオールおよびシクロヘキサンチオール等のモノチオール化合物;ならびに1,4-ブタンジチオール、1,6-ヘキサンジチオール、1,8-オクタンジチオール、1,9-ノナンジチオール、1,10-デカンジチオール、1,11-ウンデカンチオール等のジチオール化合物が挙げられる。これらの中でも、得られる樹脂シートの耐貫通性を向上しやすいことから、モノチオール化合物が好ましく、1-ドデカンチオール、1-デカンチオールがより好ましい。
【0048】
これらの化合物(Z)は、本発明の樹脂組成物を製造する際に添加してもよい。また別の添加方法としては、本発明の樹脂シートを成形する際に樹脂組成物に添加してもよい。
【0049】
アイオノマー樹脂に化合物(Z)を含有させる方法は特に制限されず、例えば、(I)アイオノマー樹脂の製造工程において化合物(Z)を別添する方法、(II)化合物(Z)を含まないアイオノマー樹脂を製造して、該樹脂に化合物(Z)を後添加する方法、および(III)アイオノマー樹脂シートを成形する際に樹脂組成物に添加する方法等が挙げられる。これらの方法のうち、化合物(Z)をアイオノマー樹脂中に均一に分散しやすく、これにより透明性および耐貫通性を向上しやすい観点から、アイオノマー樹脂の製造工程において化合物(Z)を別添する前記方法(I)が好ましい。
【0050】
アイオノマー樹脂組成物中の化合物(Z)の含有量の調整方法は、前記の化合物(Z)の含有方法に応じて適宜選択され得る。例えば、前記方法(I)および(II)により化合物(Z)を含有させる場合には、別添する化合物(Z)の量、および後添加する化合物(Z)の量により、アイオノマー樹脂組成物中の化合物(Z)の含有量をそれぞれ調整できる。
【0051】
アイオノマー樹脂組成物中の化合物(Z)の分散状態は特に制限されないが、透明性および耐貫通性を向上しやすい観点から、アイオノマー樹脂組成物中に均一に分散していることが好ましい。
【0052】
〔添加剤〕
本発明におけるアイオノマー樹脂組成物は、アイオノマー樹脂および化合物(Z)に加えて、必要に応じて添加剤を含んでもよい。添加剤としては、前記化合物(Z)に該当する化合物を除く添加剤であって、例えば、紫外線吸収剤、老化防止剤、酸化防止剤、熱劣化防止剤、光安定剤、膠着防止剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、染顔料、有機色素、艶消し剤、蛍光体等が挙げられる。これらの添加剤のなかでも、紫外線吸収剤、老化防止剤、酸化防止剤、熱劣化防止剤、光安定剤、膠着防止剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、有機色素が好ましい。これらの添加剤は単独または2種以上組合せて用いてもよい。
【0053】
各種添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択でき、各種添加剤の合計含有量は、樹脂組成物の総質量に対して、好ましくは7質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは4質量%以下であってよい。
【0054】
〔アイオノマー樹脂組成物の特性〕
本発明におけるアイオノマー樹脂組成物は、23℃、50%RHの標準室内にて測定された蒸留水の接触角が、好ましくは80°以上、より好ましくは81°以上であり、好ましくは90°以下、より好ましくは86°以下、さらに好ましくは84°以下である。本発明の一実施態様において、接触角は後述する本発明のアイオノマー樹脂組成物から形成される樹脂シート表面の接触角であってよい。接触角が前記下限値以上および前記上限値以下であると、本発明のアイオノマー樹脂組成物から形成される樹脂シートの表面エネルギーが小さくなり、ガラス表面との接着性が高くなりすぎないため、耐貫通性を向上しやすい。接触角は、アイオノマー樹脂を構成する単量体単位の種類および/または割合;化合物(Z)の種類および/または量を調整することによって前記下限値以上および前記上限値以下に調整できる。接触角は、例えば後述の実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0055】
本発明におけるアイオノマー樹脂組成物は、標準条件下(23℃、50%RH)において測定されるガラスとの剥離エネルギーが、好ましくは1.0kJ/m以上、より好ましくは1.5kJ/m以上、さらに好ましくは2.0kJ/m以上、よりさらに好ましくは2.2kJ/m以上、特に好ましくは2.5kJ/m以上であり、好ましくは3.5kJ/m以下、より好ましくは3.2kJ/m以下、さらに好ましくは3.1kJ/m以下、よりさらに好ましくは3.0kJ/m以下である。本発明の一実施態様において、剥離エネルギーは後述する本発明のアイオノマー樹脂組成物から形成される樹脂シートとガラスとの剥離エネルギーであってよい。前記剥離試験は、例えば国際公開第2019-027865号公報に剥離接着力測定(Peel Adhesion Measurement)の方法として記載されている方法で実施できる。前記標準条件下において測定される剥離エネルギーは、例えば実施例に記載の方法により測定できる。前記剥離エネルギーによって、本発明のアイオノマー樹脂組成物とガラスとの接着性を評価できる。
【0056】
本発明において、アイオノマー樹脂は高い透明性を有している。したがって、本発明の好適な実施形態において、前記アイオノマー樹脂を含む本発明のアイオノマー樹脂組成物のシート厚さ0.8mmにおけるヘイズは、好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1.0%以下、よりさらに好ましくは0.7%以下、特に好ましくは0.6%以下、極めて好ましくは0.5%以下である。ヘイズが小さいほどアイオノマー樹脂組成物の透明性が高まるため、下限値は特に制限されず、例えば、0.01%であってもよい。なお、アイオノマー樹脂組成物のヘイズは、ヘイズメーターを用いてJIS K7136:2000に準拠して測定される。
【0057】
本発明者らの検討によれば、アイオノマー樹脂の結晶性が高すぎるとアイオノマー樹脂が白化しやすい傾向があるため、アイオノマー樹脂を徐冷して、該樹脂の結晶化を促進させた状態における透明性(徐冷時の透明性)が低下しやすい。本発明において得られるアイオノマー樹脂は、樹脂中の(メタ)アクリル酸単位(A)および(メタ)アクリル酸中和物単位(B)の合計含有量が6モル%以上であるため、結晶化しにくくなり、徐冷時においても高い透明性を有する。
本発明の好適な実施形態において、本発明のアイオノマー樹脂組成物の徐冷により該樹脂の結晶化を促進させた状態のヘイズ(徐冷ヘイズ)は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは4.5%以下、さらに好ましくは4.0%以下、さらにより好ましくは3.0%以下、特に好ましくは2.5%以下である。ヘイズが小さいほどアイオノマー樹脂組成物の透明性が高まるため、下限値は特に制限されず、例えば、0.01%であってもよい。徐冷ヘイズは、シート厚さ0.8mmのアイオノマー樹脂組成物を2つのガラス板の間に配置して合わせガラスを作製し、該合わせガラスを140℃まで加熱した後、140℃から0.1℃/分の速度で23℃まで徐冷した後のヘイズを、ヘイズメーターでJIS K7136:2000に準拠して測定することによって得られる。
【0058】
本発明の一実施形態において、アイオノマー樹脂は着色度が小さく、好ましくは無色である。したがって、前記アイオノマー樹脂を含む本発明のアイオノマー樹脂組成物のシート厚さ0.8mmにおける黄色度(YI)は、低着色性の観点から、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.0以下、さらに好ましくは0.7以下、よりさらに好ましくは0.6以下、特に好ましくは0.5以下である。黄色度(YI)が小さいほどアイオノマー樹脂の着色性が小さくなるため、下限値は特に制限されず、例えば、0であってよい。なお、黄色度(YI)は測色色差計を用い、JIS Z8722:2009に準拠して測定できる。
【0059】
本発明の一実施形態において、本発明のアイオノマー樹脂組成物の落球試験より測定されるMean Break Height(MBH)は、好ましくは5.5m以上、より好ましくは6.0m以上、さらに好ましくは6.5m以上である。MBHが大きくなるほどアイオノマー樹脂組成物の耐貫通性は高まるため、上限値は特に制限されず、例えば、8.0mであってもよい。本発明の一実施態様において、MBHは後述する本発明のアイオノマー樹脂組成物から形成される樹脂シートを、厚さ2.7mmのフロートガラス2枚に挟んで形成された合わせガラスのMBHであってよい。MBHは、例えば後述の実施例に記載の方法に従って測定できる。
【0060】
[樹脂シート]
本発明はまた、本発明のアイオノマー樹脂組成物を含む層(以下、層(x)とも称する)を1層以上有する、樹脂シートにも関する。本発明の一実施形態において、層(x)は本発明のアイオノマー樹脂組成物で構成されている。
本発明の樹脂シートは、1層の層(x)のみから構成されていてもよく、少なくとも1層の層(x)を含む積層体であってもよい。前記積層体の構成は、特に限定されない。その例としては、2層以上の層(x)からなる積層体、1層以上の層(x)と1層以上の他の層とを含む積層体等が挙げられる。積層体に複数の層(x)または複数の他の層が含まれる場合、各層(x)または各他の層を構成する樹脂または樹脂組成物は、同じでも異なっていてもよい。
【0061】
前記他の層としては、公知の樹脂を含む層を使用できる。該樹脂の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエステルのうちポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、環状ポリオレフィン、ポリフェニレンスルファイド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリイミド、および熱可塑性エラストマー等が挙げられる。また、前記他の層は、必要に応じて、先の〔添加剤〕の項に例示された添加剤、ならびに、可塑剤、遮熱材料(例えば、赤外線吸収能を有する無機遮熱性微粒子または有機遮熱性材料)、機能性無機化合物等の添加剤を1以上含有してよい。
【0062】
本発明の好ましい一実施形態において、樹脂シートとガラスとを熱圧着する際の脱泡性に優れる観点から、本発明の樹脂シートは、その少なくとも一方の表面、好ましくはその両方の表面に、メルトフラクチャー法またはエンボス加工法等の従来公知の方法により付与される凹凸構造を有することが好ましい。メルトフラクチャーおよびエンボスの形状は、特に限定されず、従来公知のものを適宜選択してよい。
【0063】
本発明の樹脂シートにおける層(x)1層の厚さは、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.2mm以上、さらに好ましくは0.3mm以上、特に好ましくは0.4mm以上であり、また、好ましくは5mm以下、より好ましくは4mm以下、さらに好ましくは2mm以下、特に好ましくは1mm以下である。樹脂シートに複数の層(x)が含まれる場合、各層(x)の厚さは同じでも異なっていてもよい。
【0064】
本発明の樹脂シートの厚さは、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.2mm以上、さらに好ましくは0.3mm以上、さらにより好ましくは0.4mm以上、とりわけ好ましくは0.5mm以上、とりわけより好ましくは0.6mm以上、とりわけさらに好ましくは0.7mm以上、特に好ましくは0.75mm以上であり、また、好ましくは20mm以下、より好ましくは15mm以下、さらに好ましくは10mm以下、さらにより好ましくは5mm以下、とりわけ好ましくは4mm以下、とりわけより好ましくは2mm以下、とりわけさらに好ましくは1mm以下である。
【0065】
樹脂シートの厚さは従来公知の方法、例えば接触式または非接触式の厚み計等を用いて測定される。樹脂シートは、ロール状に巻回された状態であっても、1枚ずつの枚葉シートの状態であってもよい。
【0066】
本発明の樹脂シートは、本発明のアイオノマー樹脂組成物の特性に起因して、透明性、耐着色性、および耐貫通性に優れ、ガラスとの接着性が適度である。
本発明の好適な実施形態において、本発明の樹脂シートは、本発明におけるアイオノマー樹脂組成物と同等のヘイズ、黄色度、ガラスとの接着性、耐貫通性、接触角を示す。
【0067】
[樹脂シートの製造方法]
本発明の樹脂シートの製造方法は特に限定されない。例えば、本発明におけるアイオノマー樹脂組成物を均一に混練した後、押出法、カレンダー法、プレス法、溶液キャスト法、溶融キャスト法、インフレーション法等の公知の製膜方法により層(x)を製造できる。層(x)は、単独で樹脂シートとして使用してよい。また、必要に応じて、2層以上の層(x)、もしくは1層以上の層(x)と1層以上の他の層とをプレス成形等で積層させて積層体を得るか、または2層以上の層(x)、もしくは1層以上の層(x)と1層以上の他の層とを共押出法により成形して積層体を得、この積層体を樹脂シートとして使用してもよい。積層体に複数の層(x)または複数の他の層が含まれる場合、各層(x)または各他の層を構成する樹脂または樹脂組成物は、同じでも異なっていてもよい。
【0068】
公知の製膜方法のなかでも、押出機を用いて樹脂シートを製造する方法が好適に用いられる。押出時の樹脂温度または樹脂組成物温度は、押出機からの樹脂の吐出を安定化しやすく、機械トラブルを低減しやすい観点から、好ましくは150℃以上、より好ましくは170℃以上である。前記温度は、樹脂の分解および分解に伴う樹脂の劣化を低減しやすい観点から、好ましくは250℃以下、より好ましくは230℃以下である。また、揮発性物質を効率的に除去するために、減圧によって押出機のベント口から、揮発性物質を除去することが好ましい。
【0069】
[合わせガラス中間膜および合わせガラス]
本発明の樹脂シートは、合わせガラス中間膜(単に中間膜とも称する)として好適に使用できる。従って、本発明は、本発明の樹脂シートからなる合わせガラス中間膜を包含する。また、本発明は、2つのガラス板と、該2つのガラス板の間に配置された本発明の合わせガラス中間膜とを有する、合わせガラスも包含する。本発明の合わせガラスは、前記樹脂シートからなる合わせガラス中間膜を有するため、優れた透明性および耐着色性、耐貫通性を有する。
【0070】
本発明の中間膜と積層させるガラス板としては、例えば、フロートガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入り板ガラス、熱線吸収板ガラス等の無機ガラスのほか、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート等の従来公知の有機ガラス等を使用してよい。これらは無色または有色のいずれであってもよい。これらは1種を使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、1枚のガラス板の厚さは、100mm以下であることが好ましく、2枚のガラス板の厚さは同じでも異なっていてもよい。
【0071】
本発明の合わせガラスは、従来公知の方法で製造できる。その例としては、真空ラミネーター装置を用いる方法、真空バッグを用いる方法、真空リングを用いる方法、およびニップロールを用いる方法等が挙げられる。また、前記方法により圧着した後に、オートクレーブに投入してさらに接着する方法も挙げられる。
【0072】
真空ラミネーター装置を用いる場合、例えば、1×10-6~1×10-1MPaの減圧下、60~200℃、特に80~160℃でガラス板、中間膜、および任意の層(例えば接着性樹脂層等)をラミネートすることにより、合わせガラスを製造できる。真空バッグまたは真空リングを用いる方法は、例えば欧州特許第1235683号明細書に記載されており、約2×10-2~3×10-2MPa程度の減圧下、100~160℃でガラス板および中間膜をラミネートすることにより、合わせガラスを製造できる。
【0073】
ニップロールを用いる製造方法の例としては、ガラス板、中間膜および任意の層を積層し、中間膜の流動開始温度以下の温度でロールにより脱気した後、さらに流動開始温度に近い温度で圧着を行う方法が挙げられる。具体的には、例えば赤外線ヒーター等で30~70℃に加熱した後、ロールで脱気し、さらに50~120℃に加熱した後ロールで圧着させる方法が挙げられる。
【0074】
オートクレーブに投入してさらに圧着を行う場合、オートクレーブ工程の運転条件は、合わせガラスの厚さおよび/または構成により適宜選択されるが、例えば0.5~1.5MPaの圧力下、100~160℃にて0.5~3時間処理することが好ましい。
【0075】
本発明のアイオノマー樹脂組成物を含んでなる樹脂シートは合わせガラス中間膜として有用である。該合わせガラス中間膜は、高い透明性および高い耐貫通性を有していることから、特に、構造材料用(ファサード用)合わせガラスの中間膜として好ましい。また、構造材料用合わせガラスの中間膜に限らず、自動車用フロントガラス、自動車用サイドガラス、自動車用サンルーフ、自動車用リアガラス、ヘッドアップディスプレイ用ガラス、その他自動車等の移動体、外壁および屋根のためのラミネート、パネル、ドア、窓、壁、屋根、サンルーフ、遮音壁、表示窓、バルコニー、手摺壁等の建築物、会議室の仕切りガラス部材、太陽電池などの各種用途における合わせガラス中間膜としても好適であるが、これらの用途に限定されるものではない。
【実施例0076】
以下、実施例および比較例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。
【0077】
〔実施例および比較例で得られた樹脂の単量体単位の含有量〕
(原料樹脂)
実施例および比較例において原料として用いたエチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を重トルエンまたは重THFに溶解させ、H-NMR(400MHz、日本電子(株)製)にて組成を定量した。
【0078】
(アイオノマー樹脂)
実施例および比較例で得られたアイオノマー樹脂について、該アイオノマー樹脂における(メタ)アクリル酸単位(A)、(メタ)アクリル酸中和物単位(B)、エチレン単位(C)、および(メタ)アクリル酸エステル単位(D)の含有量の分析を、以下のようにして行った。
【0079】
実施例および比較例で得られたアイオノマー樹脂をそれぞれ脱水トルエン/脱水酢酸(75/25質量%)の混合溶媒に溶解し、100℃にて2時間反応させた後、アセトン/水(80/20質量%)の混合溶媒に再沈殿させることで(メタ)アクリル酸中和物単位(B)を(メタ)アクリル酸単位(A)に変換した。得られた樹脂を十分水で洗浄した後、乾燥し、乾燥した樹脂について下記(1)~(3)を行った。
(1)熱分解GC-MSにより、樹脂を構成する単量体単位の成分を分析した。
(2)JIS K0070-1992に準じて、樹脂の酸価を測定した。
(3)重水素化トルエンと重水素化メタノールとの混合溶媒を用いて、樹脂のH-NMR(400MHz、日本電子(株)製)測定を行った。
(4)また、実施例および比較例で得られたアイオノマー樹脂を、それぞれ、硝酸によるマイクロ波分解前処理に付した後、ICP発光分析(Thermo Fisher Scientific社製、「iCAP6500Duo」)によって、(メタ)アクリル酸中和物単位(B)の金属イオンの種類と量を同定した。
前記(1)から、(メタ)アクリル酸エステル単位(D)および(メタ)アクリル酸単位(A)の種類と構造を同定した。その情報、ならびに前記(2)および(3)の情報から、エチレン単位(C)/(メタ)アクリル酸エステル単位(D)/((メタ)アクリル酸単位(A)と(メタ)アクリル酸中和物単位(B)の合計)の比率を算出した。さらに、前記(4)の情報からエチレン単位(C)/(メタ)アクリル酸エステル単位(D)/(メタ)アクリル酸単位(A)/(メタ)アクリル酸中和物単位(B)の比率を算出した。
【0080】
〔ガラス接着性〕
実施例および比較例で得られたシートを、含水率1000ppmに調湿した後に、厚さ2.7mmのフロートガラス2枚に挟み、真空ラミネーター(日清紡メカトロニクス株式会社製1522N)を使用し100℃で真空ラミネーター内を1分減圧し、減圧度、温度を保持したまま30kPaで5分プレスして、仮接着体を得た。得られた仮接着体をオートクレーブに投入し140℃、1.2MPaで30分処理して、合わせガラスを得た。得られた合わせガラスについて、国際公開第2019/027865号公報に剥離接着力測定(Peel Adhesion Measurement)の方法として記載されている方法に従い、剥離力Pを測定した。具体的には、万能試験機(MTS Criterion M45)を用いて、23℃、50%RH条下、1cm/分の速度で90°方向に剥離試験を行った。剥離力Pおよび剥離試験片の幅Wから、剥離エネルギーγを下記式により算出した。
γ[kJ/m]=P[kJ/m]/W[m]
【0081】
〔接触角〕
実施例および比較例で得られた各樹脂シートの蒸留水の接触角を、接触角計(協和界面科学社製、DropMaster500)を用い、23℃、50%RHの標準室内にて測定した。液量2.0μlの蒸留水を樹脂シートに着滴させ、液滴接触から2秒後の接触角を測定した。
【0082】
〔透明性〕
実施例および比較例で得られた樹脂シートのヘイズを、ヘイズメーター(日本電色工業株式会社製、「SH7000」)を用い、JIS K7136:2000に準拠して測定した。
【0083】
〔YI〕
実施例および比較例で得られた樹脂シートを日本電色工業株式会社製の測色色差計「ZE-2000」(商品名)を用い、JIS Z8722:2009に準拠して測定した。得られた値を元にJIS K7373:2006に準拠して算出した黄色度の値をイエローインデックス(YI)とした。
【0084】
〔耐貫通性〕
上述の〔ガラス接着性〕の測定時に得られた合わせガラスの縁を支持枠に固定して水平に保持し、その上から2.26kgの鋼球を試験片の中央部に自由落下させた。落下させる高さを0.5m単位で変化させ、一定高さでの繰り返し試験でその試験数の50%において鋼球の貫通が妨げられる最高の落下高さ(MBH)を測定した。この試験は合わせガラスの温度を20℃の温度に保って行った。MBHが、6.5m以上をA、5.5m以上6.5m未満をB、5.5m未満をCとした。
【0085】
〔原料樹脂〕
実施例および比較例において、アイオノマー樹脂の原料として用いた各エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(X)のメタクリル酸メチル(MMA)変性量およびメルトフローレート(MFR)を表1に示す。
EMMA1としては、住友化学(株)製「アクリフト」(登録商標)WH401Fを用いた。なお、実施例および比較例で用いた原料樹脂のMFRの測定は、JIS K7210-1:2014に準拠して測定した。具体的には各樹脂をシリンダ内で溶融し、190℃、2.16kg荷重条件の下で、シリンダ底部に設置された公称孔径2.095mmのダイから押し出し、10分間あたりに押し出される樹脂量(g/10分)を測定することにより行った。
【0086】
【表1】
【0087】
〔実施例1〕
SUS製の耐圧容器に、表1中のEMMA1 100質量部を導入し、そこにトルエン233質量部を加えて、0.02MPa加圧下、60℃で撹拌し、EMMA1を溶解させた。得られた溶液に水酸化ナトリウムのメタノール溶液(20質量%)80質量部を添加し、100℃で4時間撹拌し、EMMA1をけん化して、メタクリル酸メチル単位の一部をメタクリル酸ナトリウム単位に変換した。次いで、この溶液を50℃まで冷却した後に、塩酸(20質量%)66質量部を添加し、50℃で1時間撹拌して、メタクリル酸ナトリウム単位の一部をメタクリル酸に変換し、粗アイオノマー樹脂溶液を得た。
得られた粗アイオノマー樹脂溶液にトルエン/メタノール(75/25質量%)の混合溶媒を粗アイオノマー樹脂濃度が10質量%となるように添加して、該溶液を希釈した。次いで、得られた粗アイオノマー樹脂の希釈溶液を34℃に調整した後、前記希釈溶液に34℃のメタノールを粗アイオノマー樹脂溶液100質量部に対して430質量部添加して、粒状樹脂を析出させた。次いで、得られた粒状樹脂を濾取した後、濾取した粒状樹脂100質量部と水/メタノール(50/50質量%)の混合溶媒600質量部とを混合した。前記混合により得られたスラリーを40℃で1時間撹拌し、その後、粒状樹脂を室温にて濾取した。水/メタノール(50/50質量%)の混合溶媒による粒状樹脂の洗浄をさらに3回行い、洗浄されたアイオノマー樹脂1を得た。アイオノマー樹脂1中のメタクリル酸単位(A)は、5.1モル%、メタクリル酸中和物単位(B)は、1.3モル%、メタクリル酸エステル単位(D)は0.1モル%であった。
得られたアイオノマー樹脂1を8時間以上真空乾燥した後、アイオノマー樹脂1 100質量部とトリエチルホスファイト 0.1質量部とを210℃で溶融混練し、その溶融混練物を210℃での加熱下、4.9MPa(50kgf/cm)の圧力にて5分間圧縮成形し、厚さ0.8mmのアイオノマー樹脂シート1を得た。アイオノマー樹脂シート1の分析結果および評価結果を表2に示す。
【0088】
〔実施例2〕
トリエチルホスファイトに代えて1-ドデカンチオールを用いた以外は、実施例1と同様にして、アイオノマー樹脂1 100質量部と1-ドデカンチオール 0.5質量部とを210℃で溶融混練し、その溶融混練物を210℃での加熱下、4.9MPa(50kgf/cm)の圧力にて5分間圧縮成形し、厚さ0.8mmのアイオノマー樹脂シート2を得た。得られたアイオノマー樹脂シート2の分析結果および評価結果を表2に示す。
【0089】
〔実施例3〕
トリエチルホスファイトに代えてトリベンジルアミンを用いた以外は、実施例1と同様にして、アイオノマー樹脂1 100質量部とトリベンジルアミン 0.1質量部とを210℃で溶融混練し、その溶融混練物を210℃での加熱下、4.9MPa(50kgf/cm)の圧力にて5分間圧縮成形し、厚さ0.8mmのアイオノマー樹脂シート3を得た。得られたアイオノマー樹脂シート3の分析結果および評価結果を表2に示す。
【0090】
〔実施例4〕
トリエチルホスファイトに代えてドデシルアミンを用いた以外は、実施例1と同様にして、アイオノマー樹脂1 100質量部とドデシルアミン 0.05質量部とを210℃で溶融混練し、その溶融混練物を210℃での加熱下、4.9MPa(50kgf/cm)の圧力にて5分間圧縮成形し、厚さ0.8mmのアイオノマー樹脂シート4を得た。得られたアイオノマー樹脂シート4の分析結果および評価結果を表2に示す。
【0091】
〔実施例5〕
ドデシルアミンの添加量をアイオノマー樹脂1 100質量部に対して0.5質量部にした以外は、実施例4と同様にして、アイオノマー樹脂シート5を得た。得られたアイオノマー樹脂シート5の分析結果および評価結果を表2に示す。
【0092】
〔実施例6〕
ドデシルアミンの添加量をアイオノマー樹脂1 100質量部に対して1質量部にした以外は、実施例4と同様にして、アイオノマー樹脂シート6を得た。得られたアイオノマー樹脂シート6の分析結果および評価結果を表2に示す。
【0093】
〔実施例7〕
トリエチルホスファイトに代えて1,10-デカンジチオールを用いた以外は、実施例1と同様にして、アイオノマー樹脂1 100質量部と1,10-デカンジチオール 0.1質量部とを210℃で溶融混練し、その溶融混練物を210℃での加熱下、4.9MPa(50kgf/cm)の圧力にて5分間圧縮成形し、厚さ0.8mmのアイオノマー樹脂シート7を得た。得られたアイオノマー樹脂シート7の分析結果および評価結果を表2に示す。
【0094】
〔実施例8〕
トリエチルホスファイトに代えてトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトを用いた以外は、実施例1と同様にして、アイオノマー樹脂1 100質量部とトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト 5質量部とを210℃で溶融混練し、その溶融混練物を210℃での加熱下、4.9MPa(50kgf/cm)の圧力にて5分間圧縮成形し、厚さ0.8mmのアイオノマー樹脂シート8を得た。得られたアイオノマー樹脂シート8の分析結果および評価結果を表2に示す。
【0095】
〔比較例1〕
実施例1と同様にして、得られたアイオノマー樹脂1を210℃で溶融混練し、その溶融混練物を210℃での加熱下、4.9MPa(50kgf/cm)の圧力にて5分間圧縮成形し、厚さ0.8mmのアイオノマー樹脂シート9を得た。得られたアイオノマー樹脂シート9の分析結果および評価結果を表2に示す。
【0096】
〔比較例2〕
トリエチルホスファイトに代えてトリフェニルホスフェート(化合物(Z)に該当しない)を用いた以外は、実施例1と同様にして、アイオノマー樹脂1 100質量部とトリフェニルホスフェート 0.1質量部とを210℃で溶融混練し、その溶融混練物を210℃での加熱下、4.9MPa(50kgf/cm)の圧力にて5分間圧縮成形し、厚さ0.8mmのアイオノマー樹脂シート10を得た。得られたアイオノマー樹脂シート10の分析結果および評価結果を表2に示す。
【0097】
〔比較例3〕
1-ドデカンチオールの添加量をアイオノマー樹脂1 100質量部に対して7質量部にした以外は、実施例2と同様にして、アイオノマー樹脂シート11を得た。得られたアイオノマー樹脂シート11の分析結果および評価結果を表2に示す。
【0098】
〔比較例4〕
トリエチルホスファイトに代えてテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸)ペンタエリスリトール(化合物(Z)に該当しない)を用いた以外は、実施例1と同様にして、アイオノマー樹脂1 100質量部とテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸)ペンタエリスリトール 0.5質量部とを210℃で溶融混練し、その溶融混練物を210℃での加熱下、4.9MPa(50kgf/cm)の圧力にて5分間圧縮成形し、厚さ0.8mmのアイオノマー樹脂シート12を得た。得られたアイオノマー樹脂シート12の分析結果および評価結果を表2に示す。
【0099】
【表2】