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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009500
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】アースラインを備えた車両構造体
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/249 20210101AFI20240116BHJP
   H01M 50/229 20210101ALI20240116BHJP
   H01M 50/224 20210101ALI20240116BHJP
   H01M 50/588 20210101ALN20240116BHJP
   H01M 50/59 20210101ALN20240116BHJP
【FI】
H01M50/249
H01M50/229
H01M50/224
H01M50/588 101
H01M50/59
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111068
(22)【出願日】2022-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】神山 マックス
(72)【発明者】
【氏名】新井 司
【テーマコード(参考)】
5H040
5H043
【Fターム(参考)】
5H040AA06
5H040AS07
5H040AY05
5H040LL01
5H040LL04
5H040LL06
5H043AA04
5H043BA11
5H043GA23
(57)【要約】
【課題】繊維強化プラスチック製のバッテリーケース内に収容されたバッテリーの露出導電部と、バッテリーケース外の電気的シャシとを接続することができる車両構造体を提供する。
【解決手段】露出導電部を有するバッテリーと、繊維強化プラスチックからなり、前記バッテリーを収容するバッテリーケースと、前記バッテリーの露出導電部と電気的に接続されるアースラインと、を備え、前記アースラインは前記バッテリーケースを貫通して電気的シャシへ接続される、車両構造体。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両構造体であって、
露出導電部を有するバッテリーと、
繊維強化プラスチックからなり、前記バッテリーを収容するバッテリーケースと、
前記バッテリーの露出導電部と電気的に接続されるアースラインと、
を備え、
前記アースラインは前記バッテリーケースを貫通して電気的シャシへ接続される、
車両構造体。
【請求項2】
前記バッテリーケースは複数のバッテリーを収容し、
前記バッテリーケースには、前記複数のバッテリーの間に導電性の補強部材が設けられ、
前記補強材は前記露出導電部と電気的に接続され、前記アースラインの少なくとも一部である、
請求項1に記載の車両構造体。
【請求項3】
前記バッテリーケースは挿通穴を有し、
前記補強部材は中空部を有し、
前記中空部に、前記挿通穴を貫通して前記電気的シャシと電気的に接続され、前記アースラインの一部である導体部材をさらに有する、
請求項2に記載の車両構造体。
【請求項4】
前記バッテリーケースは挿通穴を有し、
前記補強部材と電気的に接続され、かつ前記挿通穴を貫通して前記電気的シャシと電気的に接続され、前記アースラインの一部である導体部材をさらに有する、
請求項2または3に記載の車両構造体。
【請求項5】
前記バッテリーケースは、バッテリートレイおよびバッテリートップカバーを有し、
前記導体部材は、前記バッテリートップカバーを貫通して前記バッテリートップカバーの上部の前記電気的シャシと電気的に接続されている、請求項3又は4に記載の車両構造体。
【請求項6】
前記バッテリーケースは、バッテリートレイおよびバッテリートップカバーを有し、
前記導体部材は、前記バッテリートレイを貫通して前記バッテリートレイの下部の前記電気的シャシと電気的に接続されている、請求項3又は4に記載の車両構造体。
【請求項7】
前記補強部材は前記バッテリーと電気的に接続される接続部を有する、請求項2~6のいずれか一項に記載の車両構造体。
【請求項8】
前記補強部材はダイキャストによって製造される、請求項2~7のいずれか一項に記載の車両構造体。
【請求項9】
前記バッテリーケースは、バッテリートレイおよびバッテリートップカバーを有し、
前記補強部材は前記バッテリートレイに載置され、車両の前後方向または車両幅方向に延在している、請求項2~8のいずれか一項に記載の車両構造体。
【請求項10】
前記バッテリーケースは、バッテリートレイおよびバッテリートップカバーを有し、
前記バッテリートレイは、インサート成形によって埋設された固定金具を有し、
前記補強部材を前記固定金具に締結する締結具をさらに備える、請求項2~8のいずれか一項に記載の車両構造体。
【請求項11】
前記補強部材は複数の導電性部材から構成される、請求項2~10のいずれか一項に記載の車両構造体。
【請求項12】
前記バッテリーケースは、バッテリートレイおよびバッテリートップカバーを有し、
前記バッテリートレイの外側に、車両の前後方向に延在する金属フレームをさらに備える、請求項2~11のいずれか一項に記載の車両構造体。
【請求項13】
前記電気的シャシは前記バッテリートレイの下部のクロスメンバーである、請求項6に記載の車両構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体に配置される車両構造体であって、車両構造体は、バッテリーケース、複数のバッテリー、アースラインを備えた車両構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気自動車や駆動モータと内燃機関の双方を備えたハイブリッド自動車は、駆動モータの動力源となる充電可能なバッテリーパックが搭載されている。バッテリーパックは、複数のバッテリーセルをバッテリートレイに配列され、内燃機関に用いるバッテリーよりも高い電圧を出力して駆動モータを駆動するように構成されている。
【0003】
このような高電圧の電池パックは高電圧機器となり、絶縁故障した際に高電圧を帯びる可能性がある。このように、通常は通電されないものの絶縁故障時に通電される可能性のある導電性の部分のうち、工具を使用せず、かつ、容易に触れることができるものを「露出導電部」という(道路運送車両の保安基準の細目を定める告示(平成14年国土交通省告示第619号)別添111 「電気自動車、電気式ハイブリッド自動車及び燃料電池自動車の衝突後の高電圧からの乗車人員の保護に関する技術基準」)。そしてこの露出導電部は、危険な電位を生じないよう、電線、アース束線等による接続、溶接、ボルト締等により直接電気的に電気的シャシに確実に接続されていなければならない(同別添111)。ここで、「電気的シャシ」とは、電気的に互いに接続された導電性の部分の集合体であって、その電位が基準とみなされるものをいう(同別添111)。具体的には、「電気的シャシ」は導電性の車体である。
【0004】
特許文献1には、車体に対するアース接続作業を簡素化するため、導電材料で形成された電池ケース及びブラケット部材が車体フレームにアース接続されている車両用電池パックが記載されている。電池ケースの内部に収容される電池モジュールおよびDC/DCコンバータは、アース線により電池ケースのパックトレイに接続されている。
【0005】
特許文献2では、車両の前後方向に延びる一対のサイドメンバ間に支持する導電性の支持部材と、前記支持部材と前記サイドメンバとを連結する導電性部材とを備え、前記導電性部材が、前記支持部材の前記車両の後方に配置されて前記車両の前方視において前記支持部材に重なるように配置されることで、露出導電部の腐食や飛び石による損傷や断線を防止する車両用のアース装置が記載されている。
【0006】
特許文献3には、長手方向に伸びる金属ラインをプラスチック製の排出ダクトに埋設し、電池ブロックを収納する金属製の外装ケースに金属ラインを接続することで、排出ダクトをプラスチック製としながら静電気によるゴミの付着を防止し、ゴミの吸湿による漏電を効果的に防止する発明が記載されている。
【0007】
特許文献4には、金属ベースのバッテリートレイ、バッテリーカバーを貫通して車体側の締結部材に締結される貫通構成要素が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2021-72176号公報
【特許文献2】特開2013-112160号公報
【特許文献3】特開2010-108823号公報
【特許文献4】米国特許出願公開第2021/0050570号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のバッテリーケースは金属で作成されている場合が多く、バッテリーからのアース線をバッテリーケースに接続すれば、バッテリーケースの外部の電気的シャシと接続することは容易であった。
ところで、車体重量を軽量化するため、繊維強化プラスチックをバッテリーケースに採用することが検討されている。しかしながら、繊維強化プラスチックの導電性は低いため、バッテリーケース内のバッテリーの露出導電部と、バッテリーケース外の電気的シャシとを接続することが難しい。特にバッテリーを載置するためのバッテリートレイが金属であれば、アースは極めて容易である。一方バッテリートレイとして繊維強化プラスチックを使用した場合、バッテリーからバッテリートレイを経由してアースすることは出来ない。つまり、従来の金属製のバッテリートレイはこの点について全く検討がされていない。
【0010】
そこで、本発明は、繊維強化プラスチック製のバッテリーケース内に収容されたバッテリーの露出導電部と、バッテリーケース外の電気的シャシとを接続することができる車両構造体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
<1>
車両構造体であって、
露出導電部を有するバッテリーと、
繊維強化プラスチックからなり、前記バッテリーを収容するバッテリーケースと、
前記バッテリーの露出導電部と電気的に接続されるアースラインと、
を備え、
前記アースラインは前記バッテリーケースを貫通して電気的シャシへ接続される、
車両構造体。
<2>
前記バッテリーケースは複数のバッテリーを収容し、
前記バッテリーケースには、前記複数のバッテリーの間に導電性の補強部材が設けられ、
前記補強材は前記露出導電部と電気的に接続され、前記アースラインの少なくとも一部である、
上記<1>に記載の車両構造体。
<3>
前記バッテリーケースは挿通穴を有し、
前記補強部材は中空部を有し、
前記中空部に、前記挿通穴を貫通して前記電気的シャシと電気的に接続され、前記アースラインの一部である導体部材をさらに有する、
上記<2>に記載の車両構造体。
<4>
前記バッテリーケースは挿通穴を有し、
前記補強部材と電気的に接続され、かつ前記挿通穴を貫通して前記電気的シャシと電気的に接続され、前記アースラインの一部である導体部材をさらに有する、
上記<2>または<3>に記載の車両構造体。
<5>
前記バッテリーケースは、バッテリートレイおよびバッテリートップカバーを有し、
前記導体部材は、前記バッテリートップカバーを貫通して前記バッテリートップカバーの上部の前記電気的シャシと電気的に接続されている、上記<3>又は<4>に記載の車両構造体。
<6>
前記バッテリーケースは、バッテリートレイおよびバッテリートップカバーを有し、
前記導体部材は、前記バッテリートレイを貫通して前記バッテリートレイの下部の前記電気的シャシと電気的に接続されている、上記<3>又は<4>に記載の車両構造体。
<7>
前記補強部材は前記バッテリーと電気的に接続される接続部を有する、上記<2>~<6>のいずれか一つに記載の車両構造体。
<8>
前記補強部材はダイキャストによって製造される、上記<2>~<7>のいずれか一つに記載の車両構造体。
<9>
前記バッテリーケースは、バッテリートレイおよびバッテリートップカバーを有し、
前記補強部材は前記バッテリートレイに載置され、車両の前後方向に延在している、上記<2>~<8>のいずれか一つに記載の車両構造体。
<10>
前記バッテリーケースは、バッテリートレイおよびバッテリートップカバーを有し、
前記バッテリートレイは、インサート成形によって埋設された固定金具を有し、
前記補強部材を前記固定金具に締結する締結具をさらに備える、上記<2>~<8>のいずれか一つに記載の車両構造体。
<11>
前記補強部材は複数の導電性部材から構成される、上記<2>~<10>のいずれか一つに記載の車両構造体。
<12>
前記バッテリーケースは、バッテリートレイおよびバッテリートップカバーを有し、
前記バッテリートレイの外側に、車両の前後方向に延在する金属フレームをさらに備える、上記<2>~<11>のいずれか一つに記載の車両構造体。
<13>
前記電気的シャシは前記バッテリートレイの下部のクロスメンバーである、上記<6>に記載の車両構造体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、繊維強化プラスチック製のバッテリーケース内に収容されたバッテリーの露出導電部と、バッテリーケース外の電気的シャシとを接続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】バッテリーパック200の平面図である。
図1B】バッテリーパック200の正面図である。
図2】バッテリーパック200の分解斜視図である。
図3】バッテリートレイ202の斜視図である。
図4図3のIV-IV線断面図である。
図5図1AのV-V線断面図である。
図6】補強部材300の斜視図である。
図7】締結穴303に締結部材304を螺合させた状態を示す補強部材300の斜視図である。
図8】バッテリートレイ202内に複数のバッテリー100および補強部材300が固定された状態を示す平面図である。
図9図8のIX-IX線断面図である。
図10図8のX-X線断面図である。
図11】車体600へ取り付けられたバッテリーパック200を示す断面図である。
図12】クロスメンバー610へ取り付けられたバッテリーパック200を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0015】
〔第1実施形態〕
本実施形態の車両構造体は、車体中央下部に配置される車両構造体であって、車両構造体は、複数のバッテリーと、バッテリーケースと、アースラインと、を備える。バッテリーケースは繊維強化プラスチックからなる。アースラインは、バッテリーケースを貫通し、バッテリーケース内のバッテリーおよびバッテリーケース外の車体へ接続される。車体は「電気的シャシ」の一例である。複数のバッテリー、バッテリーケースおよびアースラインにより、以下に説明するバッテリーパックが形成されている。バッテリーパックは車両構造体の一例である。
【0016】
[バッテリーパック]
図1Aはバッテリーパック200の平面図であり、図1Bはバッテリーパック200の正面図であり、図2はバッテリーパック200の分解斜視図である。バッテリーパック200は、複数のバッテリー100と、バッテリートップカバー201と、バッテリートレイ202と、補強部材300と、を備えている。バッテリートップカバー201およびバッテリートレイ202により、複数のバッテリー100および補強部材300を収容するバッテリーケースが形成される。バッテリートップカバー201には、後述するボルト500が挿通される挿通孔201Aが設けられている。また、バッテリートレイ202には、後述するボルト500が挿通される挿通孔202Aが設けられている。
【0017】
なお、バッテリーパック200内に冷却機構203(クーリングプレート)を設けてもよい。また、バッテリートレイ202の外周部に金属フレーム204を備えてもよく、バッテリートレイ202の下に保護壁205を備えていてもよい。金属フレーム204には、後述するボルト500が挿通される挿通孔204Aが設けられる(図10参照)。
本実施形態においては、後述するように、補強部材300がアースラインの一部として機能する。
【0018】
[一体成形された繊維強化プラスチック]
バッテリートップカバー201およびバッテリートレイ202はそれぞれ繊維強化プラスチックであり、それぞれ一体成形された繊維強化プラスチックであることが好ましい。
【0019】
ここで、一体成形とは、成形品が継ぎ目を有さずに連続的に成形されており、別体の部材同士を接合して成形したものではないことをいう。このような一体成形は、一度の成形で繊維強化プラスチックを成形することで実現できる。好ましくはプレス成形により繊維強化プラスチックを成形することでバッテリートップカバー201の一体成形およびバッテリートレイ202の一体成形を実現できる。シートモールディングコンパウンド(SMCと呼ぶ場合がある)を用いて繊維強化プラスチックからなるバッテリートップカバー201およびバッテリートレイ202を一体成形してもよい。一体成形によって、別々の部品から1つのバッテリートップカバー201および1つのバッテリートレイ202を作成することができ、バッテリートップカバー201およびバッテリートレイ202の部品単価を引き下げることが可能となる。バッテリートップカバー201およびバッテリートレイ202を構成する部品の組付け工程数が減少し、部品数の減少により在庫に係る費用の削減も可能である。
【0020】
なお、バッテリートップカバー201およびバッテリートレイ202はそれぞれ一体成形された繊維強化プラスチックが好ましいのであって、バッテリートレイ202とバッテリートップカバー201とが一体のバッテリーケースとして成形されているものではない。バッテリートップカバー201とバッテリートレイ202とは、それぞれ別体である。
【0021】
[繊維強化プラスチック]
1.強化繊維
繊維強化プラスチックに含まれる強化繊維に特に限定は無いが、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、玄武岩繊維からなる群より選ばれる1つ以上の強化繊維であることが好ましい。強化繊維はガラス繊維であることがより好ましい。強化繊維としてガラス繊維を用いる場合、ガラス繊維の平均繊維直径は、1μm~50μmが好ましく、5μm~20μmがより好ましい。平均繊維径が大きいと樹脂の繊維への含浸性が容易となり、上限以下であれば成形性や加工性が良好となる。
【0022】
2.不連続繊維
強化繊維は不連続繊維を含むことが好ましい。不連続繊維を用いた場合、連続繊維のみを用いた繊維強化プラスチックに比べて賦形性が向上し、複雑な成形体を作成することが容易となる。
【0023】
3.強化繊維の重量平均繊維長
本実施形態においては繊維長が互いに異なる不連続強化繊維を併用してもよい。換言すると、本実施形態に用いられる不連続強化繊維は、重量平均繊維長の分布において単一のピークを有するものであってもよく、あるいは複数のピークを有するものであってもよい。
【0024】
3.1 圧縮成形の場合
バッテリートップカバー201およびバッテリートレイ202は、それぞれ圧縮成形された繊維強化プラスチックであっても良い。
【0025】
圧縮成形された繊維強化プラスチックの場合、強化繊維の重量平均繊維長は、1mm以上100mm以下であることが好ましい。重量平均繊維長は1mm~70mmがより好ましく、1mm~50mmがさらに好ましい。
【0026】
近年、車載用のバッテリーは大型化し、バッテリーボックスの縦横の寸法が1m×1mや、1.5m×1.5mのようなサイズになっている。重量平均繊維長が1mm以上であれば、このような大きなバッテリーボックスを作成する場合であっても、大きなバッテリーを格納するための機械物性を担保しやすい。反対に、強化繊維の重量平均繊維長を100mm以下とすれば、流動性に優れるため好ましい。
【0027】
3.2 射出成形の場合
繊維強化プラスチックは射出成形によって製造されても良い。射出成形された繊維強化プラスチックの場合、強化繊維の重量平均繊維長は、0.01mm以上3mm以下であることが好ましい。重量平均繊維長は0.1mm以上1.5mm以下がより好ましく、0.1mm以上1mm以下がさらに好ましく、0.1mm以上0.3mm以下がより一層好ましい。
【0028】
4.繊維体積割合
強化繊維の繊維体積割合Vfに特に限定は無いが、20~70%が好ましく、25~60%がより好ましく、30~55%が更に好ましい。
なお、繊維体積割合(Vf 単位:体積%)とは、強化繊維とマトリクス樹脂だけではなく、その他の添加剤等も含めた全体の体積に対する強化繊維の体積の割合である。
【0029】
5.樹脂
本実施形態において樹脂の種類に特に限定は無く、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂が用いられる。熱硬化性樹脂を用いる場合、不飽和ポリエステル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系の樹脂であることが好ましい。樹脂としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。射出成形の場合、好ましくは熱可塑性樹脂が用いられる。
【0030】
6.その他の剤
本実施形態で用いる繊維強化樹脂中には、本発明の目的を損なわない範囲で、有機繊維または無機繊維の各種繊維状または非繊維状のフィラー、無機充填剤、難燃剤、耐UV剤、安定剤、離型剤、顔料、軟化剤、可塑剤、界面活性剤等の添加剤を含んでいてもよい。
また、熱硬化性樹脂を用いる場合には、増粘剤、硬化剤、重合開始剤、重合禁止剤などを含有してもよい。
添加剤としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
7.シートモールディングコンパウンド
本実施形態の繊維強化プラスチックは、強化繊維を用いたシートモールディングコンパウンド(SMCと呼ぶ場合がある)を成形したものであると好ましい。シートモールディングコンパウンドはその成形性の高さから、バッテリートレイやバッテリートップカバーのような複雑形状であっても、容易に成形することができる。
【0032】
すなわち、シートモールディングコンパウンドを成形して繊維強化プラスチックを製造し、凹凸形状を有するバッテリートレイを製造することができる。シートモールディングコンパウンドは、流動性や賦形性が連続繊維に比べて高く、容易にリブやボスの作成ができる。
【0033】
シートモールディングコンパウンド(SMC)を用いた繊維強化プラスチックとしては、Teijin Automotive Technologies社製(TATと略する場合がある)のシートモールディングコンパウンドを利用することができる。なお、一般的にシートモールディングコンパウンドを成形して繊維強化プラスチックを製造する場合は、圧縮成形が用いられる。
【0034】
[バッテリートレイへのインサート成形]
図3はバッテリートレイ202の斜視図であり、図4図3のIV-IV線断面図である。バッテリートレイ202を成形する際、バッテリートレイ202に補強部材300を固定する固定部206を設けることが好ましい。
また、固定部206には、金属製の固定金具207を埋設しておくことが好ましい。固定金具207に補強部材300を固定することで、補強部材300の位置が安定する。
【0035】
固定金具207は、例えば、インサート成形によってバッテリートレイ202に埋設することができる。なお、固定金具207をインサートしておく必要は必ずしもなく、繊維強化プラスチックからバッテリートレイ202を成形した後に、バッテリートレイ202の固定部206に固定金具207を挿入してもよい。
【0036】
図5図1AのV-V線断面図である。図5に示すように、補強部材300は、バッテリートレイ202に設けられた複数の固定部206と対応する位置で、複数の締結具301によってバッテリートレイ202に固定されている。バッテリートレイ202に複数の固定部206を設け、締結具301によって固定部206に補強部材300を固定することで、バッテリーケースが補強される。
【0037】
図6は補強部材300の斜視図である。図6に示すように、補強部材300は、X軸方向に延在する。補強部材300は、バッテリートレイ202内において、Y軸方向の中央部に配置される。なお、本実施形態においては、X軸方向を車両前後方向、Y軸方向を車両幅方向としているが、X軸方向を車両幅方向、Y軸方向を車両前後方向としてもよい。なお、本実施形態においては、補強部材300は単一の部材であり、以下に説明するようにダイキャストによって下部補強部材300A、上部補強部材300Bおよびスリーブ401が一体に形成されている。しかし、補強部材300は、複数の部材を組み合わせて構成されていてもよい。複数の部材を組み合わせて補強部材300を構成することで、複雑な形状の補強部材を容易に製造することができる。例えば、複数の接続部302を有する下部補強部材300Aと、スリーブ401を有する上部補強部材300Bとを別々に製造し、組み合わせて補強部材300とすることで、単一の部材とするよりも容易に製造することができる。
【0038】
補強部材300は導体である限り、素材に特に限定はないが、金属であることが好ましく、アルミニウム・亜鉛・マグネシウム・銅などの合金(アルミニウム合金)であることが好ましい。補強部材300がアルミニウム合金である場合、ダイキャスト(Die casting)によって補強部材を製造することがより好ましい。ダイキャストとは、金型に溶融した金属(溶湯)を圧入し、瞬時に成形する特殊な鋳造方式、またはこの鋳造方式により製造された鋳物をいう。「ダイカスト」と呼ぶ場合もある。ダイキャストでは、精密な寸法・正確な仕上がり、美しい表面、優れた技術を持つ複雑な形状の製品を大量生産できる。
【0039】
図6に示すように、下部補強部材300Aの幅方向の側面には、複数の接続部302が設けられる。複数の接続部302には、それぞれ締結穴303が設けられている。締結穴303には、後述するように、締結部材304が螺合する。
【0040】
図7は締結穴303に締結部材304を螺合させた状態を示す補強部材300の斜視図である。なお、図7においては、バッテリー100を図示していない。後述するように、締結部材304はバッテリー100の筐体の角部に設けられた挿通孔101に挿入された状態で接続部302の締結穴303に螺合する。これにより、接続部302と締結部材304の頭部との間でバッテリー100が固定される。
【0041】
ここで、バッテリー100の筐体は、導体からなる。バッテリー100の筐体には通常は通電されないものの、絶縁故障時に通電される可能性がある。また、バッテリー100の筐体は、工具を使用せず、かつ、容易に触れることができる部分であることから、「露出導電部」である。このため、バッテリー100の筐体に危険な電位を生じないよう、バッテリー100の筐体は、電気的シャシ(後述する車体600)に確実に電気的に接続されていなければならない。
【0042】
締結部材304は、導体であることが好ましい。締結部材304が導体であると、バッテリー100の筐体と補強部材300とが締結部材304によって電気的に接続される。なお、バッテリー100の筐体と接続部302との接触面積が十分に大きく、バッテリー100の筐体と接続部302とが電気的に接続される場合には、締結部材304が絶縁体であってもよい。
【0043】
図8はバッテリートレイ202内に複数のバッテリー100および補強部材300が固定された状態を示す平面図であり、図9図8のIX-IX線断面図であり、図10図8のX-X線断面図である。
図8に示すように、補強部材300は、バッテリートレイ202内のY軸方向における中央に、X軸方向に延在するように載置される。複数のバッテリー100は補強部材300に対してY軸方向の両側に配置される。なお、本実施形態においては、X軸方向を車両前後方向、Y軸方向を車両幅方向としているが、X軸方向を車両幅方向、Y軸方向を車両前後方向としてもよい。バッテリー100の筐体には、平面視における角部に、締結部材304を挿通させる挿通孔101が設けられている(図9参照)。挿通孔101に挿通された締結部材304が締結穴303に螺合することで、バッテリー100が補強部材300に固定される。
【0044】
図5図7図9図10に示すように、上部補強部材300Bには、上部補強部材300Bの上方に突出するスリーブ401が設けられている。スリーブ401には、上部補強部材300Bを上下方向に貫通する貫通穴402(中空部)が設けられている。
また、下部補強部材300Aにも、貫通穴402と対応する位置に、下部補強部材300Aを上下方向に貫通する貫通穴305(中空部)が設けられている。
貫通穴305および貫通穴402には、後述するようにボルト500が配置される。なお、ボルト500が導体の場合、補強部材300とボルト500とが電気的に接続されるように、貫通穴305および貫通穴402の内周面と、貫通穴305および貫通穴402に挿通されるボルト500の外周面とが接触することが好ましい。
【0045】
図11は車体600へ取り付けられたバッテリーパック200を示す断面図である。図11に示すように、バッテリーパック200の上方に位置する車体600には、ボルト500が挿通される挿通孔600Aが設けられている。
【0046】
車体600は、電気的に互いに接続された導電性の部分の集合体であって、その電位が基準とみなされるものである。このため、車体600は「電気的シャシ」に相当する。
車体600の内部側(図11に示す車体600の上部)には、ワッシャー602およびナット603が設けられている。ワッシャー602にはボルト500が挿通される挿通孔602Aが設けられている。ナット603は車体600との間にワッシャー602を挟んだ状態で、ボルト500の上端部に螺合している。
【0047】
図11に示すように、金属フレーム204の挿通孔204A、バッテリートレイ202の挿通孔202A、補強部材300の貫通穴402、バッテリートップカバー201の挿通孔201Aの中心位置が車両前後方向および車両幅方向で一致するように、金属フレーム204、バッテリートレイ202、補強部材300およびバッテリー100、バッテリートップカバー201が下からこの順に配置されている。バッテリートップカバー201の挿通孔201Aおよびスリーブ401の貫通穴402には、上方からスリーブ502が挿入される。
【0048】
スリーブ502にはボルト500が挿通される挿通孔502Aが設けられている。スリーブ502は導体であることが好ましい。
スリーブ502が補強部材300のスリーブ401と電気的に接続されるように、スリーブ502とスリーブ401の貫通穴402の内壁面との接触面積が十分に大きいことが好ましい。
また、スリーブ502が車体600と電気的に接続されるように、スリーブ502と車体600との接触面積が十分に大きいことが好ましい。
【0049】
下部補強部材300Aの貫通穴305および金属フレーム204の挿通孔204Aには、下方からスリーブ503が挿入される。スリーブ502にはボルト500が挿通される挿通孔503Aが設けられている。
スリーブ503は導体であることが好ましい。スリーブ503が導体であると、下部補強部材300Aと金属フレーム204とを電気的に接続することができる。また、ボルト500が導体である場合、スリーブ503を介して下部補強部材300Aとボルト500とを電気的に接続することができる。
【0050】
ボルト500は、頭部501が下部に配置され、下から順に、スリーブ503の挿通孔503A、下部補強部材300Aの貫通穴305、上部補強部材300Bの貫通穴402、スリーブ502の挿通孔502A、車体600の挿通孔600A、ワッシャー602の挿通孔602Aに挿入された状態で、上端部がナット603と螺合している。これにより、バッテリーパック200が車体600へ締結されている。ボルト500によってバッテリーパック200を車体600に締結することで、車体600の組み立て時にバッテリーパック200の取り付けが容易となる。また、ボルト500がバッテリートップカバー201を貫通して車体600に締結されているため、車両の走行時にバッテリートップカバー201が振動することを抑制することができる。
【0051】
ボルト500、ワッシャー602およびナット603は、導体であることが好ましい。ボルト500、ワッシャー602およびナット603が導体であると、ボルト500、ワッシャー602およびナット603を介して補強部材300が車体600へ電気的に接続される。
スリーブ502が絶縁体である場合、ボルト500、ワッシャー602およびナット603は全て導体である。一方、ボルト500、ワッシャー602およびナット603の少なくとも1つが絶縁体である場合、スリーブ502は導体である。
【0052】
本実施形態においては、バッテリー100の筐体が直接、あるいは締結部材304を介して、補強部材300と電気的に接続されている。また、補強部材300が、スリーブ502を介して、あるいは、ボルト500,ナット603およびワッシャー602を介して、車体600と電気的に接続されている。これにより、バッテリー100の筐体と車体600とを接続するアースラインが形成されている。
【0053】
本実施形態によれば、バッテリーケース内のバッテリーに接続されたアースラインをバッテリーケースに貫通させ、バッテリーパックの上部の車体600へアースラインを接続することができる。このため、バッテリーパック200の下部にクロスメンバーを設けない場合であっても、車体にアースラインを接続することができる。
また、クロスメンバーにアースラインを接続する場合、クロスメンバーの位置に合わせてアースラインがバッテリートレイ202を貫通する位置を調整する必要がある。これに対し、バッテリーパック200の上部の車体600へアースラインを接続する場合、バッテリートレイ202の下にクロスメンバーが存在していたとしても、アースラインがバッテリートップカバー201を貫通する位置を調整する必要がない。
【0054】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については、第1実施形態と同じ符号を付して説明を割愛する。
【0055】
図12はクロスメンバー610へ取り付けられたバッテリーパック200を示す断面図である。図12に示すように、クロスメンバー610には、ボルト510が挿通される挿通孔610Aが設けられている。
【0056】
クロスメンバー610はバッテリーパック200よりも下方にあるが、図12においてバッテリーパック200よりも上方にある車体600の一部である。本実施形態において、クロスメンバー610は導体であり、車体600と電気的に接続されている。このため、クロスメンバー610は「電気的シャシ」に相当する。
クロスメンバー610の下側には、ワッシャー612およびナット613が設けられている。ワッシャー612にはボルト510が挿通される挿通孔612Aが設けられている。ナット613はクロスメンバー610との間にワッシャー612を挟んだ状態で、ボルト510の下端部に螺合している。
【0057】
図12に示すように、バッテリートップカバー201の挿通孔201Aおよびスリーブ401の貫通穴402には、上方からスリーブ513が挿入される。スリーブ513にはボルト510が挿通される挿通孔513Aが設けられている。
【0058】
また、下部補強部材300Aの貫通穴305および金属フレーム204の挿通孔204Aには、下方からスリーブ512が挿入される。スリーブ512にはボルト510が挿通される挿通孔512Aが設けられている。
【0059】
スリーブ512は導体であることが好ましい。スリーブ512が下部補強部材300Aと電気的に接続されるように、スリーブ512と貫通穴305の内壁面との接触面積が十分に大きいことが好ましい。
また、スリーブ512がクロスメンバー610と電気的に接続されるように、スリーブ512とクロスメンバー610との接触面積が十分に大きいことが好ましい。
【0060】
ボルト510は、頭部511が上部に配置され、上から順に、スリーブ513の挿通孔513A、上部補強部材300Bの貫通穴402、下部補強部材300Aの貫通穴305、スリーブ512の挿通孔512A、クロスメンバー610の挿通孔610A、ワッシャー612の挿通孔612Aに挿入された状態で、下端部がナット613と螺合している。これにより、バッテリーパック200がクロスメンバー610へ締結されている。
【0061】
ボルト510、ワッシャー612およびナット613は、導体であることが好ましい。ボルト510、ワッシャー612およびナット613が導体であると、ボルト510、ワッシャー612およびナット613を介して補強部材300がクロスメンバー610へ電気的に接続される。
【0062】
本実施形態においても、バッテリー100の筐体が直接、あるいは締結部材304を介して、補強部材300と電気的に接続されている。また、本実施形態においては、補強部材300が、スリーブ512を介して、あるいは、ボルト510,ナット613およびワッシャー612を介して、クロスメンバー610と電気的に接続されている。これにより、バッテリー100の筐体とクロスメンバー610とを接続するアースラインが形成されている。
【0063】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限られることなく、種々の変更や修正を加えることができる。
【0064】
例えば、上記実施形態において、バッテリーケースの内部に配置される補強部材自体がバッテリーケースを貫通し、バッテリーケースを貫通する補強部材と車体とを電気的に接続してもよい。これにより、バッテリーケースを貫通する補強部材を、バッテリーと車体とを接続するバッテリーラインとすることができる。
【0065】
また、第1実施形態においては、アースラインをバッテリーケースの上方へ貫通させて車体と接続し、第2実施形態においては、アースラインをバッテリーケースの下方へ貫通させてクロスメンバーと接続していたが、アースラインがバッテリーケースを貫通する方向はこれらに限られない。例えば、アースラインをバッテリーケースの側方へ貫通させ、バッテリーケースの側方に位置する車体の部分へアースラインを接続してもよい。
【符号の説明】
【0066】
100 :バッテリー
101、303 :締結穴
200 :バッテリーパック
201 :バッテリートップカバー
201A、202A、204A、502A、503A、512A、513A、600A、602A、610A、612A :挿通孔
202 :バッテリートレイ
203 :冷却機構(クーリングプレート)
204 :金属フレーム
205 :保護壁
206 :固定部
207 :固定金具
300 :補強部材
300A :下部補強部材
300B :上部補強部材
301 :締結具
302 :接続部
304 :締結部材
305、402 :貫通穴
401、502、503、512、513 :スリーブ
500、510 :ボルト
501、511 :頭部
602、612 :ワッシャー
600 :車体
603、613 :ナット
610 :クロスメンバー
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12