(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095001
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】水系顔料分散体
(51)【国際特許分類】
C09D 17/00 20060101AFI20240703BHJP
C09D 11/326 20140101ALI20240703BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240703BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
C09D17/00
C09D11/326
B41M5/00 120
B41M5/00 112
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211969
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 和真
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J037
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA13
2C056FB02
2C056FC01
2H186AB12
2H186BA08
2H186DA08
2H186DA09
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB54
4J037AA02
4J037AA30
4J037CC16
4J037EE08
4J039AD09
4J039AD10
4J039AF05
4J039BA04
4J039BC13
4J039BC15
4J039BE01
4J039BE22
4J039CA06
4J039EA41
4J039EA43
4J039EA46
4J039FA02
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】樹脂フィルムへの印刷に用いる際に得られる印刷物のインク塗膜の基材密着性(耐テープ剥離性)に優れ、かつ間欠吐出性に優れる水系顔料分散体、及び該水系顔料分散体を含有する水系インクを提供する。
【解決手段】〔1〕顔料が架橋ポリマーAで分散された水系顔料分散体であって、該架橋ポリマーAが、水分散性ポリマーA’由来の構造と水不溶性の多官能エポキシ架橋剤由来の構造とを含み、該水分散性ポリマーA’が、シクロアルキル(メタ)アクリレート(a-1)由来の構成単位を含むビニル系樹脂である、水系顔料分散体、及び〔2〕前記〔1〕に記載の水系顔料分散体及び水溶性有機溶剤を含有する水系インクである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料が架橋ポリマーAで分散された水系顔料分散体であって、
該架橋ポリマーAが、水分散性ポリマーA’由来の構造と水不溶性の多官能エポキシ架橋剤由来の構造とを含み、
該水分散性ポリマーA’が、シクロアルキル(メタ)アクリレート(a-1)由来の構成単位を含むビニル系樹脂である、水系顔料分散体。
【請求項2】
前記水分散性ポリマーA’が、シクロアルキル(メタ)アクリレート(a-1)由来の構成単位と、アクリル酸及びメタクリル酸からなる群から選ばれる1種以上のカルボキシ基を有するイオン性モノマー(a-2)由来の構成単位と、アルキル(メタ)アクリレート及び芳香族基含有(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる1種以上の疎水性モノマー(a-3)由来の構成単位とを含むビニル系樹脂である、請求項1に記載の水系顔料分散体。
【請求項3】
前記架橋ポリマーAの酸価が、25mgKOH/g以上170mgKOH/g以下である、請求項1又は2に記載の水系顔料分散体。
【請求項4】
前記多官能エポキシ架橋剤が、炭素数3以上8以下の炭化水素基を有する多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の水系顔料分散体。
【請求項5】
前記架橋ポリマーAの架橋率が、前記水分散性ポリマーA’のカルボキシ基のモル当量数に対する前記多官能エポキシ架橋剤のエポキシ基のモル当量数の比率で、15モル%以上85モル%以下である、請求項2~4のいずれか1項に記載の水系顔料分散体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の水系顔料分散体、及び水溶性有機溶剤を含有する、水系インク。
【請求項7】
樹脂フィルムを印刷基材とする印刷に用いられる、請求項6記載の水系インク。
【請求項8】
インクジェット印刷用である、請求項6又は7に記載の水系インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系顔料分散体、及び該水系顔料分散体を含有する水系インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式を用いる印刷方法は、微細なノズルからインク液滴を吐出し、直接印刷基材に付着させて、文字や画像が記録された印刷物等を得る方法である。この印刷方法は、フルカラー化が容易でかつ安価であり、印刷基材として普通紙やラベル紙、樹脂フィルムなどの様々な印刷基材が使用可能であり、被印刷基材に対して非接触である等、数多くの利点があるため、普及が著しい。特に印刷物の耐候性や耐水性の観点から、着色剤に顔料を用いたインクが主流となってきている。
【0003】
例えば、特許文献1には、顔料を用いる利点である耐水性を維持しつつ、インク吐出ノズルでの顔料やポリマーの固化を抑制できる優れた保存安定性を有し、更に吐出性、定着性に優れた水系顔料分散体、及び水系インクの提供を課題として、顔料をポリマー分散剤で水系媒体に分散させた水系顔料分散体であって、該ポリマー分散剤がカルボキシ基を有する水不溶性ポリマーであり、該カルボキシ基のうち少なくとも一部がアルカリ金属水酸化物で中和されており、かつ該カルボキシ基の一部が水不溶性多官能エポキシ化合物と反応させて得られる架橋構造を有し、所定の条件を満たす水系顔料分散体等が開示されている。
また、特許文献2には、優れた耐候性、定着性(擦過性)等を有する印刷物を形成可能なインクジェットインクを生産性よく提供することを目的として、シクロヘキシルメタクリレート単位とアクリル酸単位とをそれぞれ所定の割合で含むインクジェットインク用共重合体、並びに該共重合体を含有するインクジェットインク用顔料分散体等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-119845号公報
【特許文献2】国際公開第2012/118078号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、食料品等のパッケージ印刷などの産業印刷市場においては、耐久性の観点から印刷基材として主に樹脂フィルムが用いられている。樹脂フィルムは、紙の印刷基材とは異なり、その表面が疎水的かつ非吸液の印刷基材であるため、樹脂フィルム表面に対するインクの濡れ性が十分でないことが課題として挙げられる。そのため、一般的には、インクの樹脂フィルムへの濡れ性を向上させるため、疎水的な有機溶剤がインクに配合されることがある。しかしながら、このような疎水的な有機溶剤が配合されたインクの場合にはインクジェットノズルでのインク濃縮時に顔料の分散安定性が低下し、インクジェットノズルからインクを吐出しないで所定時間が経過した後、再度インクを吐出する際の吐出性、いわゆる間欠吐出性が低下するという問題がある。
また、印刷基材として樹脂フィルムを用いる特有の課題として、得られる印刷物のインク塗膜の基材密着性、特に耐テープ剥離性が挙げられる。印刷物のインク塗膜の耐テープ剥離性が不足する場合、インク塗膜が樹脂フィルムから剥離し易く、印刷物の美粧性を損なうだけでなく、ラミネート処理する場合には、樹脂フィルムとラミネートフィルムとが剥がれる原因となることもある。そのため、樹脂フィルムへ印刷する際に得られる印刷物のインク塗膜の基材密着性(耐テープ剥離性)の向上が求められている。
しかしながら、特許文献1に記載の水系顔料分散体や特許文献2に記載の共重合体を用いたインクは、疎水的かつ非吸液の樹脂フィルムへの印刷に用いた際には、得られる印刷物のインク塗膜の基材密着性(耐テープ剥離性)が不十分であることが判明した。
本発明は、樹脂フィルムへの印刷に用いる際に得られる印刷物のインク塗膜の基材密着性(耐テープ剥離性)に優れ、かつ間欠吐出性に優れる水系顔料分散体、及び該水系顔料分散体を含有する水系インクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、顔料が架橋ポリマーで分散された水系顔料分散体であって、該架橋ポリマーが、水分散性ポリマー由来の構造と水不溶性の多官能エポキシ架橋剤由来の構造とを含み、該水分散性ポリマーが、シクロアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を含むビニル系樹脂であることにより、上記課題を解決しうることを見出した。
すなわち、本発明は、以下の[1]及び[2]を提供する。
[1]顔料が架橋ポリマーAで分散された水系顔料分散体であって、
該架橋ポリマーAが、水分散性ポリマーA’由来の構造と水不溶性の多官能エポキシ架橋剤由来の構造とを含み、
該水分散性ポリマーA’が、シクロアルキル(メタ)アクリレート(a-1)由来の構成単位を含むビニル系樹脂である、水系顔料分散体。
[2]前記[1]に記載の水系顔料分散体、及び水溶性有機溶剤を含有する、水系インク。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、樹脂フィルムへの印刷に用いる際に得られる印刷物のインク塗膜の基材密着性(耐テープ剥離性)に優れ、かつ間欠吐出性に優れる水系顔料分散体、及び該水系顔料分散体を含有する水系インクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[水系顔料分散体]
本発明の水系顔料分散体は、顔料が架橋ポリマーAで分散された水系顔料分散体であって、該架橋ポリマーAが、水分散性ポリマーA’由来の構造と水不溶性の多官能エポキシ架橋剤由来の構造とを含み、該水分散性ポリマーA’が、シクロアルキル(メタ)アクリレート(a-1)由来の構成単位を含むビニル系樹脂である。
本発明において、顔料は、架橋ポリマーAにより水系媒体に分散されてなる。
本発明において「水系」とは、液体成分において水が質量基準で最大の比率を占めていることを意味する。
水系媒体の水としては、脱イオン水、イオン交換水、又は蒸留水が好ましく用いられる。
水系媒体は、更に有機溶媒を含有してもよい。該有機溶媒としては、メタノール、エタノール、2-プロパノール等の炭素数1以上4以下の脂肪族アルコール、アセトン、メチルエチルケトン等の炭素数3以上8以下のケトン類、テトラヒドロフラン等のエーテル類等の水に溶解する水溶性有機溶媒が挙げられる。
水系媒体中の水の含有量は、環境性の観点から、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上である。
【0009】
また、本発明において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートからなる群から選ばれる1種以上を示す。
多官能エポキシ架橋剤の「水不溶性」とは、架橋剤を25℃のイオン交換水100gに飽和するまで溶解させたときの溶解量が、好ましくは50g未満であることをいう。
本発明に係る印刷基材における「非吸液性」とは、印刷基材と純水との接触時間100m秒における該印刷基材の吸水量が1g/m2以下であることを意味する。
本発明に係る印刷基材における「疎水的」とは、表面自由エネルギー(濡れ張力)が、45mN/m以下であることを意味する。印刷基材の表面自由エネルギー(濡れ張力)は、JIS K6768の濡れ張力試験法に準拠した方法で、濡れ張力試験用混合液(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いて測定される。
本発明における「基材密着性」とは、樹脂フィルムへの印刷に用いる際に得られる印刷物のインク塗膜の耐テープ剥離性を意味し、単に「基材密着性」と称することがある。
【0010】
本発明によれば、樹脂フィルムへの印刷に用いる際に得られる印刷物のインク塗膜の基材密着性(耐テープ剥離性)に優れ、かつ間欠吐出性に優れる水系顔料分散体、及び該水系顔料分散体を含有する水系インクを提供することができる。その理由は必ずしも明らかではないが、以下のように考えられる。
本発明において、顔料を分散させる架橋ポリマーは、水分散性ポリマー由来の構造と水不溶性の多官能エポキシ架橋剤由来の構造とを含み、該水分散性ポリマーは、シクロアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を含むビニル系樹脂である。このシクロアルキル(メタ)アクリレートのシクロアルキルエステル部位は、印刷基材として用いる樹脂フィルム表面に存在する極性官能基との極性値が近いことで、本発明の水系顔料分散体を水系インクに用いる際の樹脂フィルムに対する濡れ性が向上すると考えられる。さらに、前記極性官能基と該シクロアルキルエステル部位との間で水素結合を形成し、また、樹脂フィルムの疎水性部位とシクロアルキル(メタ)アクリレートのシクロアルキル部位及び該シクロアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を含む水分散性ポリマー主鎖との間にファンデルワールス相互作用を効率的に発現することができるため、樹脂フィルムに対するインク塗膜の基材密着性が向上すると考えられる。
また、顔料を分散させる架橋ポリマーは、前記水分散性ポリマー由来の構造と水不溶性の多官能エポキシ架橋剤由来の構造とを含む架橋構造を有するため、インクに配合される有機溶剤によってもポリマーの膨潤が起こり難く、顔料の分散安定性を向上させることができる。その結果、インクジェットノズルからインクを吐出しないで所定時間が経過する間に、インクジェットノズル近傍でインクが長期間大気に曝露されて該インク中の水分が揮発し、該インク中の有機溶剤の比率が高まっても、顔料の凝集を抑制することができ、間欠吐出性を向上させることができると考えられる。
【0011】
<顔料>
本発明に用いられる顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物等が挙げられ、黒色インクにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。白色インクにおいては、二酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム等の金属酸化物などが挙げられる。
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料が挙げられる。
無彩色インクにおいては、ホワイト、ブラック、グレー等の無彩色顔料、有彩色インクにおいては、イエロー、マゼンタ、シアン、レッド、ブルー、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。
前記顔料は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0012】
<架橋ポリマーA>
架橋ポリマーAは、水分散性ポリマーA’由来の構造と水不溶性の多官能エポキシ架橋剤由来の構造とを含み、該水分散性ポリマーA’が、シクロアルキル(メタ)アクリレート(a-1)由来の構成単位を含むビニル系樹脂である。すなわち、架橋ポリマーAは、水分散性ポリマーA’を水不溶性の多官能エポキシ架橋剤で架橋させたポリマーである。
ここで、水分散性ポリマーA’の「水分散性」とは、105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマーを、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g以下であることを意味する。水分散性ポリマーA’の前記溶解量は、好ましくは5g以下、より好ましくは1g以下である。水分散性ポリマーA’が後述するようにアニオン性基を有する場合であって、更に該アニオン性基が中和剤で中和されている場合には、本発明の水系顔料分散体における該水分散性ポリマーA’と該中和剤との質量比が同一となる条件で中和剤を混在させた条件で測定した溶解量で判断する。
【0013】
(水分散性ポリマーA’)
水分散性ポリマーA’は、基材密着性を向上させる観点から、シクロアルキル(メタ)アクリレート(a-1)由来の構成単位を含むビニル系樹脂である。
水分散性ポリマーA’は、顔料の分散安定性を向上させて間欠吐出性を向上させる観点から、アニオン性基を有することが好ましい。アニオン性基とは、アニオン基、又は、イオン化されてアニオン基になり得る基をいう。アニオン性基としては、カルボキシ基(-COOM)、スルホン酸基(-SO3M)、リン酸基(-OPO3M2)等が挙げられる。前記化学式中、Mは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを示す。
これらの中でも、水分散性ポリマーA’は、顔料の分散安定性を向上させて間欠吐出性を向上させる観点から、アニオン性基としてカルボキシ基を有することが好ましい。
【0014】
〔シクロアルキル(メタ)アクリレート(a-1)〕
シクロアルキル(メタ)アクリレート(a-1)のシクロアルキル基の炭素数は、顔料の分散安定性を向上させて間欠吐出性を向上させる観点、並びに基材密着性を向上させる観点から、好ましくは4以上、より好ましくは5以上であり、そして、好ましくは12以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは7以下である。
シクロアルキル(メタ)アクリレート(a-1)としては、顔料の分散安定性を向上させて間欠吐出性を向上させる観点、並びに基材密着性を向上させる観点から、好ましくはシクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、及びシクロヘプチル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくはシクロヘキシル(メタ)アクリレートであり、更に好ましくはシクロヘキシルアクリレートである。
【0015】
〔カルボキシ基を有するイオン性モノマー(a-2)〕
水分散性ポリマーA’は、顔料の分散安定性を向上させて間欠吐出性を向上させる観点から、カルボキシ基を有するイオン性モノマー(a-2)由来の構成単位を更に含むビニル系樹脂であることが好ましい。
カルボキシ基を有するイオン性モノマー(a-2)としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、及びシトラコン酸からなる群から選ばれる1種以上が好ましく挙げられるが、より好ましくはアクリル酸及びメタクリル酸からなる群から選ばれる1種以上であり、更に好ましくはアクリル酸である。
【0016】
〔疎水性モノマー(a-3)〕
水分散性ポリマーA’は、架橋ポリマーの顔料への吸着性を向上させ、顔料の分散安定性を向上させて間欠吐出性を向上させる観点から、アルキル(メタ)アクリレート、及び芳香族基含有(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる1種以上の疎水性モノマー(a-3)由来の構成単位を更に含むビニル系樹脂であることが好ましい。
疎水性モノマー(a-3)としては、炭素数1以上22以下のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、及び炭素数6以上22以下のアリール基を有するアリール基含有(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる1種以上が好ましく挙げられる。
これらの中でも、疎水性モノマー(a-3)としては、水分散性ポリマーA’を架橋してなる架橋ポリマーAのガラス転移温度(Tg)を低下させて、印刷基材からインク塗膜が剥離する際の応力を緩和させ、基材密着性を向上させる観点から、単独重合体にした時のガラス転移温度(Tg)が30℃以下であるモノマーが好ましく、該ガラス転移温度(Tg)が20℃以下であるモノマーがより好ましく、該ガラス転移温度(Tg)が10℃以下であるモノマーが更に好ましい。
なお、各単量体の単独重合体のガラス転移温度(Tg)としては、例えば、Polymer Handbook Third Edition (Wiley-Interscience 1989) 記載の値を用いることができる。
【0017】
炭素数1以上22以下のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチルアクリレート(Tg:8℃)、エチルアクリレート(Tg:-20℃)、プロピルアクリレート(Tg:3℃)、イソプロピルアクリレート(Tg:-3℃)、ブチルアクリレート(Tg:-55℃)、イソブチルアクリレート(Tg:-33℃)、ヘキシルアクリレート(Tg:-57℃)、2-エチルヘキシルアクリレート(Tg:-70℃)、オクチルアクリレート(Tg:-65℃)、ドデシルアクリレート(Tg:-3℃)、及びステアリルアクリレートからなる群から選ばれる1種以上が好ましく挙げられる。これらの中でも、顔料の分散安定性を向上させて間欠吐出性を向上させる観点、及び基材密着性を向上させる観点から、より好ましくはメチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、及びイソブチルアクリレートからなる群から選ばれる1種以上であり、更に好ましくはメチルアクリレート、ブチルアクリレート、及びイソブチルアクリレートからなる群から選ばれる1種以上である。
炭素数6以上22以下のアリール基を有するアリール基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート(Tg:6℃)、フェノキシエチルアクリレート(Tg:-22℃)、及びフェノキシジエチレングリコールアクリレート(Tg:-25℃)からなる群から選ばれる1種以上が好ましく挙げられる。これらの中でも、顔料の分散安定性を向上させて間欠吐出性を向上させる観点、及び基材密着性を向上させる観点から、より好ましくはベンジルアクリレートである。
なお、上記の括弧内の数値は各単量体を単独重合体にした時のガラス転移温度(Tg)を示したものである。
上記(a-1)~(a-3)は、それぞれ、各成分に含まれるモノマーを単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0018】
以上のとおり、水分散性ポリマーA’は、顔料の分散安定性を向上させて間欠吐出性を向上させる観点、及び基材密着性を向上させる観点から、シクロアルキル(メタ)アクリレート(a-1)由来の構成単位と、アクリル酸及びメタクリル酸からなる群から選ばれる1種以上のカルボキシ基を有するイオン性モノマー(a-2)由来の構成単位と、アルキル(メタ)アクリレート及び芳香族基含有(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる1種以上の疎水性モノマー(a-3)由来の構成単位を含むビニル系樹脂であることが好ましい。
【0019】
水分散性ポリマーA’は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、前記モノマー(a-1)~(a-3)以外の他のモノマー由来の構成単位を含有することができる。他のモノマーとしては、前記モノマー(a-1)~(a-3)以外のイオン性モノマー、疎水性モノマー、ノニオン性モノマーが挙げられる。
【0020】
(水分散性ポリマーA’中における各構成単位の含有量)
水分散性ポリマーA’を構成する原料モノマー中のシクロアルキル(メタ)アクリレート(a-1)の含有量又は水分散性ポリマーA’中のシクロアルキル(メタ)アクリレート(a-1)由来の構成単位の含有量は、基材密着性を向上させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは35質量%以上であり、そして、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは75質量%以下である。
水分散性ポリマーA’を構成する原料モノマー中のカルボキシ基を有するイオン性モノマー(a-2)の含有量又は水分散性ポリマーA’中のカルボキシ基を有するイオン性モノマー(a-2)由来の構成単位の含有量は、顔料の分散安定性を向上させて間欠吐出性を向上させる観点から、好ましくは14質量%以上、より好ましくは18質量%以上、更に好ましくは23質量%以上であり、そして、好ましくは36質量%以下、より好ましくは32質量%以下、更に好ましくは28質量%以下である。
水分散性ポリマーA’を構成する原料モノマー中の疎水性モノマー(a-3)の含有量又は水分散性ポリマーA’中の疎水性モノマー(a-3)由来の構成単位の含有量は、顔料の分散安定性を向上させて間欠吐出性を向上させる観点、並びに基材密着性を向上させる観点から、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは4質量%以上であり、そして、好ましくは65質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。
【0021】
水分散性ポリマーA’を構成する原料モノマー中のシクロアルキル(メタ)アクリレート(a-1)の含有量に対する疎水性モノマー(a-3)の含有量の質量比又は水分散性ポリマーA’中のシクロアルキル(メタ)アクリレート(a-1)由来の構成単位の含有量に対する疎水性モノマー(a-3)由来の構成単位の含有量の質量比[疎水性モノマー(a-3)/シクロアルキル(メタ)アクリレート(a-1)]は、基材密着性を向上させる観点から、好ましくは0.03以上、より好ましくは0.04以上、更に好ましくは0.05以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは1以下、より好ましくは0.95以下、更に好ましくは0.90以下である。
【0022】
(水分散性ポリマーA’の製造)
水分散性ポリマーは、適宜合成したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。
水分散性ポリマーA’は、前記モノマー(a-1)~(a-3)等を含む原料モノマーを公知の重合法により共重合させることによって製造できる。重合法としては溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒に制限はないが、脂肪族アルコール、ケトン類、エーテル類、エステル類等の極性溶媒が好ましく、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン等がより好ましい。
重合の際には、重合開始剤や重合連鎖移動剤を用いることができる。重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;水溶性アゾ重合開始剤等が挙げられる。重合連鎖移動剤としてはメルカプタン類等が挙げられる。
重合温度は、使用する重合開始剤、モノマー、溶媒の種類等によって異なるが、好ましくは30℃以上、より好ましくは50℃以上であり、そして、好ましくは95℃以下、より好ましくは80℃以下である。
重合雰囲気は、好ましくは窒素ガスや不活性ガス雰囲気である。
【0023】
(水分散性ポリマーA’の物性)
水分散性ポリマーA’のガラス転移温度(Tg)は、基材密着性の観点から、好ましくは55℃以下、より好ましくは45℃以下、更に好ましくは35℃以下であり、そして、好ましくは-30℃以上、より好ましくは-15℃以上、更に好ましくは0℃以上である。水分散性ポリマーA’のガラス転移温度は、実施例に記載の方法により算出される。
水分散性ポリマーA’の酸価は、顔料の分散安定性を向上させて間欠吐出性を向上させる観点から、好ましくは100mgKOH/g以上、より好ましくは140mgKOH/g以上、更に好ましくは180mgKOH/g以上であり、そして、基材密着性を向上させる観点から、好ましくは300mgKOH/g以下、より好ましくは250mgKOH/g以下、更に好ましくは220mgKOH/g以下である。
水分散性ポリマーA’の重量平均分子量は、顔料の分散安定性を向上させて間欠吐出性を向上させる観点、及び基材密着性の観点から、好ましくは5,000以上、より好ましくは8,000以上、更に好ましくは10,000以上であり、そして、好ましくは100,000以下、より好ましくは50,000以下、更に好ましくは30,000以下である。
水分散性ポリマーA’の酸価及び重量平均分子量は、実施例に記載の方法により測定される。なお、水分散性ポリマーA’の酸価は、構成するモノマーの質量比から算出することもできる。
【0024】
(中和剤)
水分散性ポリマーA’がアニオン性基有する場合、該水分散性ポリマーのアニオン性基の少なくとも一部は、中和剤により中和されてなることが好ましい。これにより、中和後に発現する該アニオン性基の電荷反発力が大きくなり、水系インクにおける顔料粒子の凝集を抑制し、顔料の分散安定性を向上させて間欠吐出性を向上させることができると考えられる。
中和する場合は、pHが7以上11以下になるように中和することが好ましい。
中和剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;アンモニア;有機アミン等の塩基が挙げられる。これらの中でも、好ましくは水酸化ナトリウム、アンモニア、及び有機アミンからなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくは有機アミンである。
中和剤として用いる有機アミンの好適な例としては、例えば、アルキルアミン、アルカノールアミン、アミノアルカンジオール、アルコキシアミン、複素環式アミンが挙げられる。これらの中でも、アルカノールアミンがより好ましい。
アルカノールアミンとしては、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、及びN,N-ジエチルエタノールアミンからなる群から選ばれる1種以上が好ましく挙げられ、N,N-ジメチルエタノールアミンがより好ましい。
【0025】
中和剤の使用当量は、顔料の分散安定性を向上させて間欠吐出性を向上させる観点から、好ましくは10モル%以上、より好ましくは15モル%以上、更に好ましくは20モル%以上であり、そして、好ましくは60モル%以下、より好ましくは50モル%以下、更に好ましくは40モル%以下である。
ここで、中和剤の使用当量は、下記式(1)によって求めることができる。
中和剤の使用当量(モル%)=〔{中和剤の添加質量(g)/中和剤の当量}/[{中和前の水分散性ポリマーA’の酸価(mgKOH/g)×中和前の水分散性ポリマーA’の質量(g)}/(56×1000)]〕×100 (1)
【0026】
(架橋剤)
架橋ポリマーAは、水分散性ポリマーA’由来の構造と水不溶性の多官能エポキシ架橋剤(以下、「架橋剤」又は「多官能エポキシ架橋剤」ともいう)由来の構造とを含む。
架橋剤の「水不溶性」については、前述のとおりである。
架橋剤としては、顔料の分散安定性を向上させて間欠吐出性を向上させる観点から、好ましくは分子中にエポキシ基を2以上有する多官能エポキシ化合物であり、より好ましくは分子中にグリシジルエーテル基を2以上有する多官能エポキシ化合物であり、更に好ましくは炭素数3以上8以下の炭化水素基を有する多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物である。
架橋剤の分子量は、水系媒体中で効率よく架橋反応させる観点から、好ましくは120以上、より好ましくは150以上であり、そして、好ましくは2,000以下、より好ましくは1,500以下、更に好ましくは500以下である。
架橋剤のエポキシ当量(g/eq.)は、好ましくは90以上、より好ましくは100以上であり、そして、好ましくは300以下、より好ましくは200以下である。
架橋剤の水溶率は、水系媒体中で効率よく架橋反応させる観点から、好ましくは50質量%未満、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。ここで、水溶率とは、25℃の水90質量部に架橋剤10質量部を溶解したときの溶解率(質量%)をいう。
架橋剤の1-オクタノールと水との間の分配係数P(1-オクタノール/水)の常用対数logPow(以下、「logPow」と表記する)は、疎水的な水溶性有機溶剤を配合したインク中での顔料の分散安定性を向上させて間欠吐出性を向上させる観点から、好ましくは-1.5以上、より好ましくは-1.0以上、更に好ましくは-0.5以上であり、そして、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.5以下、更に好ましくは1.0以下である。
logPowは、JIS Z7260-107記載のフラスコ振盪法に従って下記方法により測定及び算出される。
〔分配係数P(1-オクタノール/水)の測定〕
イオン交換水10g、1-オクタノール10gを50mL分液ロートに入れ、25℃で振とうして平衡化させる。ここに架橋剤1gを入れ、よく振とうした後、遠心分離により1-オクタノール相と水相を分け、各相中に溶解する架橋剤の量をガスクロマトグラフ法によって定量し、2相間の分配係数Pの常用対数を取った値をlogPowとする。
【0027】
架橋剤の好適例としては、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、及び1,4-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテルからなる群から選ばれる1種以上のポリグリシジルエーテルが好ましく挙げられる。
【0028】
架橋ポリマーAの架橋率は、顔料の分散安定性を向上させて間欠吐出性を向上させる観点から、水分散性ポリマーA’のカルボキシ基のモル当量数に対する架橋剤のエポキシ基のモル当量数の比率で、好ましくは15モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは25モル%以上、より更に好ましくは30モル%以上、より更に好ましくは35モル%以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは85モル%以下、より好ましくは75モル%以下、更に好ましくは70モル%以下、より更に好ましくは65モル%以下である。
【0029】
架橋ポリマーAの酸価は、顔料の分散安定性を向上させて間欠吐出性を向上させる観点から、好ましくは25mgKOH/g以上、より好ましくは35mgKOH/g以上、更に好ましくは55mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは170mgKOH/g以下、より好ましくは130mgKOH/g以下、更に好ましくは120mgKOH/g以下である。架橋ポリマーAの酸価は、実施例に記載の方法により測定される。また、架橋ポリマーAの酸価は、下記式(2)によって求めることができる。
架橋ポリマーAの酸価(mgKOH/g)=〔水分散性ポリマーA’の酸価(mgKOH/g)〕×〔100-架橋率(モル%)〕/100 (2)
【0030】
本発明において、顔料が架橋ポリマーAで分散された形態としては、インクに用いる際にインクジェットノズル内で水分が揮発して濃縮された場合でも顔料の分散安定性を向上させて間欠吐出性を向上させる観点から、顔料を含有する架橋ポリマー粒子(以下、「顔料含有架橋ポリマー粒子」ともいう)の形態であることが好ましい。
本発明における顔料含有架橋ポリマー粒子の形態は、架橋ポリマーAの粒子が顔料を包含する形態、架橋ポリマーAの粒子と顔料とからなる粒子の表面に顔料の一部が露出している形態、架橋ポリマーAの粒子が顔料の一部に吸着している形態、及びそれらの混合形態を含むが、これらの中でも、架橋ポリマーAの粒子が顔料を包含する形態、すなわち、顔料を包含する架橋ポリマーAの粒子の形態が好ましい。
【0031】
(水系顔料分散体の製造)
本発明の水系顔料分散体は、下記の工程1~3を含む方法により、効率的に製造することができる。
工程1:顔料、水分散性ポリマーA’、有機溶媒、及び水を含む顔料混合物を分散処理して顔料分散液を得る工程
工程2:工程1で得られた顔料分散液から有機溶媒を除去して顔料が水分散性ポリマーA’で分散された水系顔料分散体(以下、「水系顔料分散体(i)」ともいう)を得る工程
工程3:工程2で得られた水系顔料分散体(i)に水不溶性の多官能エポキシ架橋剤を添加し、水分散性ポリマーA’を多官能エポキシ架橋剤により架橋させて、水系顔料分散体を得る工程
【0032】
(工程1)
工程1における顔料混合物は、水分散性ポリマーA’を有機溶媒に溶解させて得られた水分散性ポリマーA’の有機溶媒溶液に、顔料、水、及び必要に応じて中和剤、界面活性剤等を加えて混合する方法により得ることが好ましい。
工程1で用いる有機溶媒に制限はないが、ケトン類、エーテル類、エステル類、炭素数1以上3以下の脂肪族アルコール等が好ましく、顔料への濡れ性、水分散性ポリマーの顔料への吸着性を向上させる観点から、炭素数4以上8以下のケトンがより好ましく、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが更に好ましく、メチルエチルケトンがより更に好ましい。水分散性ポリマーA’を溶液重合法で合成した場合には、重合で用いた溶媒をそのまま用いてもよい。
また、水分散性ポリマーA’は、予め中和剤で中和してなるものであってもよい。
【0033】
工程1における分散処理は、剪断応力による本分散だけで顔料を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、均一な水系顔料分散体を得る観点から、顔料混合物を予備分散した後、更に本分散することが好ましい。
予備分散に用いる分散機としては、アンカー翼、ディスパー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置を用いることができる。
本分散に用いる剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ニーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー等の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられる。これらの中でも、顔料を小粒径化する観点から、高圧ホモジナイザー及びビーズミルからなる群から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。
高圧ホモジナイザーを用いて分散処理を行う場合、20MPa以上の分散圧力でパス回数の制御により、顔料を所望の粒径になるように制御することができ、最終的に得られる水系顔料分散体中の架橋ポリマーAで分散されてなる顔料(顔料含有架橋ポリマー粒子)の平均粒径も調整することができる。
【0034】
(工程2)
工程2における有機溶媒の除去は、公知の方法で行うことができる。得られた水系顔料分散体(i)中の有機溶媒は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、例えば0.1質量%以下残留していてもよい。
また、粗大粒子等を除去する目的で、有機溶媒を除去した水系顔料分散体を、更に遠心分離した後、液相部分を回収してフィルター等で濾過し、該フィルター等を通過してなるものを、水系顔料分散体(i)として得ることが好ましい。
なお、工程2で得られる水系顔料分散体(i)において、顔料が水分散性ポリマーA’で分散された形態としては、間欠吐出性を向上させる観点から、顔料を含有するポリマー粒子(以下、「顔料含有ポリマー粒子」ともいう)の形態であることが好ましい。
工程2における顔料含有ポリマー粒子の形態は、水分散性ポリマーA’の粒子が顔料を包含する形態、水分散性ポリマーA’の粒子と顔料とからなる粒子の表面に顔料の一部が露出している形態、水分散性ポリマーA’の粒子が顔料の一部に吸着している形態、及びそれらの混合形態を含むが、これらの中でも、水分散性ポリマーA’の粒子が顔料を包含する形態、すなわち、顔料を包含する水分散性ポリマーA’の粒子の形態が好ましい。
【0035】
(工程3)
工程3は、工程2で得られた水系顔料分散体(i)に多官能エポキシ架橋剤を添加し、水分散性ポリマーA’を多官能エポキシ架橋剤で架橋させて、水系顔料分散体を得る工程である。
本発明において、顔料が架橋ポリマーAで分散された形態が、顔料含有架橋ポリマー粒子の形態である場合、工程2で形成される顔料含有ポリマー粒子の表層部に架橋構造を形成させて、顔料含有架橋ポリマー粒子を形成することができる。これにより、水分散性ポリマーA’が多官能エポキシ架橋剤で架橋されてなるポリマー(すなわち、架橋ポリマーA)が顔料表面に強固に吸着又は固定化され、顔料の凝集が抑制され、結果として、得られるインクにおける顔料の分散安定性を向上させて間欠吐出性を向上させることができると考えられる。
工程3における架橋処理の温度は、顔料の分散安定性を向上させて間欠吐出性を向上させる観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上であり、そして、好ましくは90℃以下、より好ましくは85℃以下である。
【0036】
本発明の水系顔料分散体の不揮発成分濃度(固形分濃度)は、顔料の分散安定性を向上させて間欠吐出性を向上させる観点、及び基材密着性を向上させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
固形分濃度は、実施例に記載の方法により測定される。
【0037】
(水系顔料分散体の各成分の含有量及び物性)
本発明の水系顔料分散体中の顔料の含有量は、印刷濃度の観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上、更に好ましくは9質量%以上であり、そして、顔料の分散安定性を向上させて間欠吐出性を向上させる観点から、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
【0038】
本発明の水系顔料分散体中の架橋ポリマーAと顔料との質量比[架橋ポリマーA/顔料]は、顔料の分散安定性を向上させて間欠吐出性を向上させる観点、及び基材密着性を向上させる観点から、好ましくは0.15以上、より好ましくは0.25以上であり、そして、好ましくは1.8以下、より好ましくは1.5以下である。
【0039】
本発明において、顔料が架橋ポリマーAで分散された形態が顔料含有架橋ポリマー粒子の形態である場合、本発明の水系顔料分散体中の顔料含有架橋ポリマー粒子の平均粒径は、顔料の分散安定性を向上させて間欠吐出性を向上させる観点、及び基材密着性を向上させる観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは70nm以上、更に好ましくは80nm以上、より更に好ましくは90nm以上であり、そして、好ましくは400nm以下、より好ましくは300nm以下、更に好ましくは200nm以下、より更に好ましくは150nm以下である。
本発明の水系顔料分散体中の顔料含有架橋ポリマー粒子の平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
【0040】
本発明の水系顔料分散体は、インクジェット印刷用、フレキソ印刷用、グラビア印刷用等の各種印刷用の水系インクに配合することで好適に用いることができる。これらの中でも、インクの間欠吐出性、及び基材密着性の観点から、インクジェット印刷用の水系インクに用いることが好ましい。
【0041】
[水系インク]
本発明の水系インク(以下、「本発明のインク」又は「インク」ともいう)は、インクの間欠吐出性、及び基材密着性の観点から、好ましくは前記水系顔料分散体、及び水溶性有機溶剤を含有する。
【0042】
<水溶性有機溶剤>
水溶性有機溶剤は、水と任意の割合で混合できる有機溶剤である。水溶性有機溶剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
水溶性有機溶剤としては、グリコールエーテル、多価アルコール、2-ピロリドン等の含窒素複素環化合物、アルカノールアミン等が挙げられる。これらの中でも、インクの間欠吐出性、及び基材密着性の観点から、グリコールエーテル及び多価アルコールからなる群から選ばれる1種以上が好ましい。
【0043】
グリコールエーテルとしては、モノアルキレングリコールモノアルキルエーテル、ジアルキレングリコールモノアルキルエーテル、トリアルキレングリコールモノアルキルエーテル等の(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル;モノアルキレングリコールジアルキルエーテル、ジアルキレングリコールジアルキルエーテル等の(ポリ)アルキレングリコールジアルキルエーテルが挙げられる。
グリコールエーテルのアルキレンオキシド基としては、エチレンオキシド基及びプロピレンオキシド基からなる群から選ばれる1種以上が挙げられ、エチレンオキシド基がより好ましい。
グリコールエーテルは、好ましくは炭素数が2以上8以下である炭化水素基を少なくとも1つ有する。
【0044】
グリコールエーテルとしては、樹脂フィルムへの濡れ性、及び乾燥性の観点から、好ましくは(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル、及び(ポリ)アルキレングリコールジアルキルエーテルからなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくは(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルである。
(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルとしては、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルからなる群から選ばれる1種以上が好ましく挙げられ、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル及びジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルからなる群から選ばれる1種以上がより好ましい。
【0045】
多価アルコールとしては、樹脂フィルムへの濡れ性、及び乾燥性の観点から、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)、1,2-ヘキサンジオール等の炭素数2以上6以下のアルカンジオール;ジエチレングリコール;及びグリセリンからなる群から選ばれる1種以上が好ましく挙げられ、プロピレングリコールがより好ましい。
【0046】
本発明のインクは、水系インクに通常用いられる定着用樹脂、界面活性剤、保湿剤、湿潤剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等の各種添加剤を含有することができる。
【0047】
界面活性剤としては、ノニオン性界面活性剤が好ましく、アセチレングリコール系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤からなる群から選ばれる1種以上がより好ましい。
アセチレングリコール系界面活性剤としては、樹脂フィルムへの濡れ性、および消泡性の観点から、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、2,4-ジメチル-5-ヘキシン-3-オール等のアセチレン系ジオール、及びそれらアセチレン系ジオールのエチレンオキシド付加物が挙げられる。
アセチレングリコール系界面活性剤の市販品例としては、日信化学工業株式会社製の「サーフィノール」シリーズ、「オルフィン」シリーズ等が挙げられる。
シリコーン系界面活性剤としては、ポリエーテル変性シリコーンが好ましい。
シリコーン系界面活性剤の市販品例としては、信越化学工業株式会社製のKFシリーズ;KF-353、KF-355A、KF-642、KF-6011等、日信化学工業株式会社製のシルフェイスSAGシリーズ、ビックケミー・ジャパン株式会社製のBYKシリーズ等が挙げられる。
【0048】
本発明の水系インクは、前述の水系顔料分散体、水溶性有機溶剤、及び必要に応じて、水、界面活性剤、定着用樹脂、更にその他の添加剤等を混合することにより、効率的に製造することができる。それらの混合方法に特に制限はない。
【0049】
(水系インクの各成分の含有量及び物性)
本発明のインク中の顔料の含有量は、印刷濃度の観点から、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは4質量%以上であり、そして、顔料の分散安定性を向上させて間欠吐出性を向上させる観点、好ましくは15質量%以下、より好ましくは12質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0050】
本発明のインク中の架橋ポリマーAの含有量と顔料の含有量との質量比[架橋ポリマーA/顔料]は、顔料の分散安定性を向上させて間欠吐出性を向上させる観点、及び基材密着性を向上させる観点から、好ましくは0.15以上、より好ましくは0.25以上であり、そして、好ましくは1.8以下、より好ましくは1.5以下である。
【0051】
本発明において、顔料が架橋ポリマーAで分散された形態が顔料含有架橋ポリマー粒子の形態である場合、本発明のインク中の顔料含有架橋ポリマー粒子の含有量は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは4質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは18質量%以下、更に好ましくは16質量%以下である。
【0052】
本発明のインク中の水の含有量は、好ましくは35質量%以上、より好ましくは45質量%以上、更に好ましくは55質量%以上であり、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは85質量%以下である。
【0053】
本発明のインク中の水溶性有機溶剤の含有量は、基材密着性を向上させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
【0054】
本発明のインクが界面活性剤を含有する場合、該インク中の界面活性剤の含有量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上であり、そして、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
【0055】
本発明のインクにおいて、顔料が架橋ポリマーAで分散された形態が顔料含有架橋ポリマー粒子の形態である場合、本発明のインク中の顔料含有架橋ポリマー粒子の平均粒径は、顔料の分散安定性を向上させて間欠吐出性を向上させる観点、及び基材密着性を向上させる観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは70nm以上、更に好ましくは80nm以上、より更に好ましくは90nm以上であり、そして、好ましくは400nm以下、より好ましくは300nm以下、更に好ましくは200nm以下、より更に好ましくは150nm以下である。
本発明のインク中の顔料含有架橋ポリマー粒子の平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
【0056】
本発明のインクの32℃における粘度は、顔料の分散安定性を向上させて間欠吐出性を向上させる観点、及び基材密着性を向上させる観点から、好ましくは2mPa・s以上、より好ましくは3mPa・s以上、更に好ましくは4mPa・s以上であり、そして、好ましくは20mPa・s以下、より好ましくは15mPa・s以下、更に好ましくは12mPa・s以下である。
本発明のインクの32℃における粘度は、実施例に記載の方法によりE型粘度計を用いて測定される。
【0057】
本発明のインクは、インクジェット印刷用、グラビア印刷用、フレキソ印刷用等の各種印刷用インクとして用いることができるが、間欠吐出性を向上させる観点、並びに基材密着性を向上させる観点から、インクジェット印刷用の水系インクとして用いることが好ましい。
本発明のインクをインクジェット印刷用の水系インクとして用いる場合、該水系インクは、公知のインクジェット印刷装置に装填し、樹脂フィルム等の印刷基材にインク液滴として吐出させて画像等を印刷することができる。インク液滴の吐出方式としては、ピエゾ式、サーマル式、静電式のいずれも採用することができる。
【0058】
本発明のインクを用いる印刷に用いられる印刷基材としては、基材密着性の観点から、樹脂フィルムが好ましい。すなわち、本発明の水系インクは、樹脂フィルムを印刷基材とする印刷に用いられることが好ましい。
樹脂フィルムとしては、透明合成樹脂フィルムが挙げられ、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム等のポリエステルフィルム;塩化ビニルフィルム;ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム等のポリオレフィンフィルム;ナイロンフィルム等のポリアミドフィルムが挙げられる。これらの樹脂フィルムは、二軸延伸フィルム、一軸延伸フィルム等の延伸フィルム又は無延伸フィルムであってもよい。また、これらの樹脂フィルムは、樹脂フィルム表面に極性官能基を付与し、水系インクの樹脂フィルムに対する濡れ性を向上させ、該極性官能基と該シクロアルキルエステル部位との間で水素結合を形成させて、基材密着性を向上させる観点から、コロナ放電処理等の表面処理がされたものであることが好ましい。
これらの中でも、ポリエステルフィルム、及び延伸ポリプロピレンフィルムからなる群から選ばれる1種以上が好ましく、コロナ放電処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム及びコロナ放電処理された二軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム等からなる群から選ばれる1種以上がより好ましい。
【実施例0059】
以下の製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「質量部」及び「質量%」である。なお、各物性等の測定、算出方法は以下のとおりである。
【0060】
(1)水分散性ポリマーA’の重量平均分子量の測定
ゲル浸透クロマトグラフィー法により求めた。測定条件を下記に示す。
GPC装置:東ソー株式会社製「HLC-8320GPC」
カラム:東ソー株式会社製「TSKgel SuperAWM-H」、「TSKgel SuperAW3000」、「TSKgel guardcolum Super AW-H」
溶離液:N,N-ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液
流速:0.5mL/min
標準物質:分子量既知の単分散ポリスチレンキット〔PStQuick B(F-550、F-80、F-10、F-1、A-1000)、PStQuick C(F-288、F-40、F-4、A-5000、A-500)〕(以上、東ソー株式会社製)
測定サンプル:ガラスバイアル中にて水分散性ポリマーA’ 0.1gを前記溶離液10mLと混合し、25℃で10時間、マグネチックスターラーで撹拌し、シリンジフィルター「DISMIC-13HP」(PTFE製、0.2μm、アドバンテック株式会社製)で濾過したものを用いた。
【0061】
(2)水分散性ポリマーA’及び架橋ポリマーAの酸価の測定
電位差自動滴定装置(京都電子工業株式会社製、電動ビューレット、型番:APB-610)を用いて、水分散性ポリマーA’の場合には、該水分散性ポリマーA’をトルエンとアセトン(2:1)を混合した滴定溶剤に溶かし、また、架橋ポリマーAの場合には、水系顔料分散体を該滴定溶剤に分散させて、電位差滴定法により0.1N水酸化カリウム/エタノール溶液で滴定し、滴定曲線上の変曲点を終点とした。水酸化カリウム溶液の終点までの滴定量から酸価(mgKOH/g)を算出した。
【0062】
(3)水分散性ポリマーA’のガラス転移温度の算出
共重合体である水分散性ポリマーA’のガラス転移温度は、下記のFox式に従い、水分散性ポリマーA’を構成する各単量体の質量比率と、各単量体を単独重合体としたときの該単独重合体のガラス転移温度から算出することができる。
1/Tg=(W1/Tg1)+(W2/Tg2)+・・・+(Wm/Tgm)
W1+W2+・・・Wm=1
前記Fox式中、Tgは水分散性ポリマーA’のガラス転移温度であり、Tg1、Tg2、・・・、Tgmは各単量体を単独重合体にしたときの該単独重合体のガラス転移温度である。温度の単位はKである。また、W1、W2、・・・、Wmは水分散性ポリマーA’における各単量体の質量比を表わす。
前記Fox式における各単量体の単独重合体のガラス転移温度としては、例えば、Polymer Handbook Third Edition (Wiley-Interscience 1989) 記載の値を用いることができる。
【0063】
(4)固形分濃度の測定
30mLのポリプロピレン製容器(φ=40mm、高さ=30mm)にデシケーター中で恒量化した硫酸ナトリウム10.0gを量り取り、そこへサンプル約1.0gを添加して混合させた後、正確に秤量し、105℃で2時間維持して、揮発分を除去し、さらにデシケーター内で15分間放置し、質量を測定した。揮発分除去後のサンプルの質量を固形分として、添加したサンプルの質量で除して固形分濃度(%)とした。
【0064】
(5)水系顔料分散体又は水系インク中の顔料含有架橋ポリマー粒子の平均粒径の測定
レーザー粒子解析システム「ELS-8000」(大塚電子株式会社製)を用いてキュムラント解析を行い、得られたキュムラント平均粒径を水系顔料分散体又は水系インクの平均粒径を測定した。測定試料には、測定する粒子の濃度が5×10-3%(固形分濃度換算)になるよう水で希釈した分散液を用いた。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。
【0065】
(6)水系顔料分散体及び水系インクの粘度の測定
E型粘度計「TV-25」(東機産業株式会社製、標準コーンロータ1°34’×R24使用、回転数50rpm)を用いて、水系顔料分散体の場合には20℃にて測定し、水系インクの場合には32℃にて測定した。
【0066】
(水分散性ポリマーA’の製造)
製造例1
撹拌機、還流冷却器、及び滴下槽を備えた反応容器に初期仕込みとして、シクロヘキシルアクリレート1.28部、アクリル酸1.32部、ブチルアクリレート2.50部、メチルエチルケトン(以下、「MEK」と表記する)3.76部、及び水0.42部を投入し、反応容器の温度を77℃に維持して10分間撹拌した。
次いで、シクロヘキシルアクリレート11.49部、アクリル酸11.95部、ブチルアクリレート22.52部、MEK39.13部、水4.35部、重合開始剤として4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)0.56部、及び連鎖移動剤として3-メルカプトプロピオン酸0.72部の混合物を5時間かけて反応容器に連続的に添加した。添加終了後、1時間重合反応を行った後、室温まで冷却を行うことで重合反応を終了させて、水分散性ポリマーA’1の溶液(固形分濃度55%)を得た。
得られた水分散性ポリマーA’1の溶液20.54部に、固形分濃度が35%になるようにMEKを11.74部添加して希釈した。次いで、水分散性ポリマーA’1のカルボキシ基に対する中和度が30モル%になるようにN,N-ジメチルエタノールアミン(以下、「DMAE」と表記する)を1.08部添加し、25℃で撹拌した。その後、水69.14部を1時間かけて添加した。添加終了後、MEKをエバポレーターにて留去させ、水分散性ポリマーA’1(DMAE中和)の水分散液(ポリマー固形分濃度25%)を得た。水分散性ポリマーA’1の物性を表1に示す。
【0067】
製造例2~10及び比較製造例1
製造例1において、水分散性ポリマーA’を構成する原料モノマー組成を表1に示す条件に変更し、水分散性ポリマーA’の中和度が30モル%となるように必要に応じて中和剤の量を変更した以外は、製造例1と同様にして、水分散性ポリマーA’2~A’10及びA’C1(いずれもDMAE中和)の水分散液(いずれもポリマー固形分濃度25%)をそれぞれ得た。水分散性ポリマーA’2~A’10及びA’C1の物性を表1に示す。
【0068】
【0069】
(水系顔料分散体の製造)
実施例1-1
(工程1)
水分散性ポリマーA’1(DMAE中和)の水分散液(ポリマー固形分濃度25%)72.59部にMEK5.64部及びイオン交換水3.15部を加え、更にシアン顔料(DIC株式会社製、商品名:Fastogen Blue CA5380 Pigment Blue15:3)18.62部を加え、顔料混合液を得た。
得られた顔料混合液を、ディスパー翼を用いて7000rpm、20℃の条件下で1時間混合した後、更にマイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、高圧ホモジナイザー、商品名:M-140K)を用いて、180MPaの圧力で10パス分散処理して、顔料分散液を得た。
(工程2)
得られた顔料分散液から、減圧下60℃でMEKを除去し、更に一部の水を除去して遠心分離した後、液相部分をメンブランフィルター(ザルトリウス社製、商品名:ミニザルトシリンジフィルター、孔径:5μm、材質:酢酸セルロース)でろ過して粗大粒子を除き、顔料含有ポリマー粒子が水系媒体に分散されてなる水系顔料分散体(i-1)(顔料及び水分散性ポリマーA’の合計濃度22%)を得た。
(工程3)
得られた水系顔料分散体(i-1)(顔料及び水分散性ポリマーA’の合計濃度22%)88.20部をねじ口付きガラス瓶に取り、多官能エポキシ架橋剤としてトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製「デナコールEX-321LT」、エポキシ価:139g/eq.、水溶率27%、logPow:-0.39)(以下、「EX321LT」と表記する)2.88部及びイオン交換水を合計が100部になるように加えて密栓し、スターラーで撹拌しながら80℃で5時間加熱した。その後、室温まで降温し、メンブランフィルター(ザルトリウス社製、商品名:ミニザルトシリンジフィルター、孔径:5μm、材質:酢酸セルロース)でろ過して粗大粒子を除き、顔料含有架橋ポリマー粒子が水系媒体に分散されてなる水系顔料分散体D1(顔料及び架橋ポリマーAの合計濃度22%)を得た。
【0070】
実施例1-2~1-16及び比較例1-1
実施例1-1において、表2に示す条件に変更した以外は実施例1-1と同様にして、水系顔料分散体D2~D16及びDC1をそれぞれ得た。
【0071】
実施例1-17
実施例1-3において、多官能エポキシ架橋剤としてトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(EX321LT)を1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製「デナコールEX-212L」、エポキシ価:135g/eq.、水溶率0%、logPow:0.95)(以下、「EX212L」と表記する)に変更した以外は実施例1-3と同様にして、水系顔料分散体D17を得た。
【0072】
実施例1-18
実施例1-3において、多官能エポキシ架橋剤としてトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(EX321LT)を1,4-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製「デナコールEX-216L」、エポキシ価150g/eq.、水溶率0%、logPow:0.79)(以下、「EX216L」と表記する)に変更した以外は実施例1-3と同様にして、水系顔料分散体D18を得た。
【0073】
実施例1-19
実施例1-3において、シアン顔料をカーボンブラック(キャボット社製、商品名:MONARCH717)に変更した以外は実施例1-3と同様にして、水系顔料分散体D19を得た。
【0074】
(水系インクの調製)
実施例2-1
表2に示すインク組成(合計100部)となるように、水系顔料分散体D1を顔料及び架橋ポリマーAの合計として12部、プロピレングリコール22部、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル4部、アセチレングリコール系界面活性剤(日信化学工業株式会社製、商品名:サーフィノール104―PG50(2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのプロピレングリコール溶液、有効分50%))1部、及びイオン交換水61部を添加し撹拌し、メンブランフィルター(ザルトリウス社製、商品名:ミニザルトシリンジフィルター、孔径:5μm、材質:酢酸セルロース)でろ過して水系インク1を得た。水系インク1の平均粒径及び粘度を表2に示す。
【0075】
実施例2-2~2-19及び比較例2-1
実施例2-1において、水系顔料分散体を表2に示すものに変更した以外は実施例2-1と同様にして、水系インク2~19,C1を得た。各水系インクの平均粒径及び粘度を表2に示す。
【0076】
上記の実施例、比較例で得られた水系インク1~19,C1を用いて、下記に示す方法で基材密着性(耐テープ剥離性)及び間欠吐出性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0077】
<基材密着性(耐テープ剥離性)の評価>
印刷評価装置(セイコーエプソン株式会社製、インクジェットプリンタ、PX105、ピエゾ式)を用い、印刷媒体排出部分にA4サイズのフィルムヒーター(株式会社河合電器製作所製)を固定してインクが撃ち込まれる部分が50℃に加熱できるようにした。
印刷基材は、コロナ放電処理されたPETフィルム(フタムラ化学株式会社製、品番:FE2001、膜厚:20μm)、及びコロナ放電処理されたOPPフィルム(フタムラ化学株式会社製、品番:FOR-AQ、膜厚:20μm)をA4サイズにカットしたものを用いた。
温度25±1℃、相対湿度30±5%の環境で、前記印刷評価装置のカートリッジに実施例及び比較例の各水系インクを充填し、インク100%dutyで50mm×50mmのベタ画像を印刷した後、50℃に加熱できるように設定してフィルムヒーター上で3分間乾燥して印刷物を得た。得られた印刷物の印刷面に長さ50mm、幅15mmのテープ「ナイスタックNo.4」(登録商標)(ニチバン株式会社製)を、1cmの余白を残し4cm貼りつけ、テンシロン万能材料試験機(株式会社エー・アンド・デイ製、商品名:RTC―1150A)を用いてT型剥離試験を行い、基材密着性(耐テープ剥離性)の指標である剥離強度(N/15mm)を測定し、下記の評価基準で基材密着性(耐テープ剥離性)を評価した。
下記の評価基準がAであると基材密着性が優れ、Eであると基材密着性が劣ることを示す。
(評価基準)
A:2.5N/15mm以上
B:2.0N/15mm以上2.5N/15mm未満
C:1.5N/15mm以上2.0N/15mm未満
D:1.0N/15mm以上1.5N/15mm未満
E:1.0N/15mm未満
【0078】
<水系インクの間欠吐出性の評価>
前記印刷評価装置を用いて、インク100%dutyで20mm×20mmのベタ画像を10枚印刷した後、5分間印刷を行わずに放置した。その後、20mm×20mmのベタ画像を1枚印刷して得られたベタ印刷物の状態から、5分間放置直前のベタ印刷物(すなわち、10枚印刷する命令で得られたベタ印刷物の10枚目の印刷物)の吐出面積に対する5分間放置直後のベタ印刷物(すなわち、放置直後、1枚印刷する命令で得られたベタ印刷物)の吐出面積の割合(下記式による吐出回復率(%))を算出し、間欠吐出性を評価した。本評価では前記フィルムヒーターには通電しなかった。
吐出回復率(%)=[(5分間放置直後のベタ印刷物の吐出面積)/(5分間放置直前のベタ印刷物)]×100
評価結果がAであると間欠吐出性が優れ、Dであれば間欠吐出性が劣ることを示す。
(評価基準)
A:吐出回復率が90%以上
B:吐出回復率が87.5%以上90%未満
C:吐出回復率が85%以上87.5%未満
D:吐出回復率が85%未満
【0079】
【0080】
表2から、実施例の水系顔料分散体を用いた水系インクは、比較例の水系顔料分散体を用いた水系インクに比べて、基材密着性(耐テープ剥離性)に優れる印刷物を得ることができ、かつ、間欠吐出性に優れることが分かる。
本発明の水系顔料分散体によれば、間欠吐出性に優れる水系インクを提供することができ、樹脂フィルムへの印刷に用いる際にインク塗膜の基材密着性(耐テープ剥離性)に優れる印刷物を得ることができる。