(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095011
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】疲労判定装置
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20240703BHJP
G10L 15/10 20060101ALI20240703BHJP
G10L 15/00 20130101ALI20240703BHJP
【FI】
G08G1/16 F
G10L15/10 500T
G10L15/00 200J
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211986
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木口屋 雄介
(72)【発明者】
【氏名】牧野 和輝
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA01
5H181CC27
5H181FF27
5H181LL20
(57)【要約】
【課題】車両の走行状態にかかわらず、運転者の疲労状態を早期かつ適切に検知する。
【解決手段】疲労判定装置は、車両を運転している運転者の音声を集音するマイクロフォンと、運転者の音声に基づいて、運転者の疲労を判定する制御装置と、を備え、制御装置は、1つまたは複数のプロセッサと、プロセッサに接続される1つまたは複数のメモリと、を有し、プロセッサは、運転者の疲労を判定するための疲労判定頻度を、車両の車速に応じて設定することと、運転者の音声をテキストデータに変換し、テキストデータに含まれる複数の単語の品詞を分析することと、疲労判定頻度に基づいて、テキストデータに含まれる全品詞の総数に占める感動詞の個数の割合を算出することと、車両の走行中における感動詞の割合の経時変化に基づいて、運転者の疲労を判定することと、を含む処理を実行する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を運転している運転者の音声を集音するマイクロフォンと、
前記運転者の音声に基づいて、前記運転者の疲労を判定する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
1つまたは複数のプロセッサと、
前記プロセッサに接続される1つまたは複数のメモリと、
を有し、
前記プロセッサは、
前記運転者の疲労を判定するための疲労判定頻度を、前記車両の車速に応じて設定することと、
前記運転者の音声をテキストデータに変換し、前記テキストデータに含まれる複数の単語の品詞を分析することと、
前記疲労判定頻度に基づいて、前記テキストデータに含まれる全品詞の総数に占める感動詞の個数の割合を算出することと、
前記車両の走行中における前記感動詞の前記割合の経時変化に基づいて、前記運転者の疲労を判定することと、
を含む処理を実行する、
疲労判定装置。
【請求項2】
前記疲労判定頻度は、前記車両の走行時間に基づく判定頻度、および、前記車両の走行距離に基づく判定頻度を含み、
前記プロセッサは、
前記車速が所定車速未満の低速側範囲内である場合、所定の走行時間ごとに前記感動詞の前記割合を算出し、
前記車速が前記所定車速以上の高速側範囲内である場合、所定の走行距離ごとに前記感動詞の前記割合を算出する、
請求項1に記載の疲労判定装置。
【請求項3】
前記プロセッサは、
前記車速が前記低速側範囲内である場合、前記車速が速くなるほど、前記所定の走行時間を短く設定し、
前記車速が前記高速側範囲内である場合、前記車速が速くなるほど、前記所定の走行距離を短く設定する、
請求項2に記載の疲労判定装置。
【請求項4】
前記プロセッサは、
前記車速の変化に応じて、前記所定の走行時間および前記所定の走行距離を動的に変化させる、
請求項3に記載の疲労判定装置。
【請求項5】
前記プロセッサは、
前記感動詞の前記割合を、前記疲労判定頻度で複数回算出し、
前記感動詞の前記割合が、所定回数以上連続して増加した場合に、前記運転者が疲労していると判定する、
請求項1~4のいずれか一項に記載の疲労判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疲労判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者の疲労が蓄積した状態で運転を継続すると、車両走行中の運転の操作や判断に遅れが生じ、事故につながる可能性がある。そこで、運転による事故を回避するため、運転者の疲労が過剰にならないように、運転者の疲労状態を検知するシステムの検討が行われている。例えば、車両走行中の運転者のペダル操作量やハンドル操作量などの運転操作量から運転者の疲労状態を判定するシステムや、運転者の顔を認識して運転者の目線や顔のふらつきから運転者の疲労状態を判定するシステムの検討が行われている。
【0003】
しかし、運転操作量から運転者の疲労状態を判定する場合、車速が一定車速以上となる高速道路などの単調な道路でしか運転者の疲労状態を判定することができない。また、顔認識から運転者の疲労状態を判定する場合、運転者の表情に疲労が現れる段階まで疲労が蓄積されないと、運転者の疲労状態を判定することができない。
【0004】
特許文献1には、運転者の音声データから特徴量を抽出し、抽出した特徴量から運転者の疲労状態を判定することについて開示がある。特許文献1によれば、運転者の音声データの特徴量から運転者の疲労状態を判定することで、車速や顔認識によらず、運転者の疲労状態を判定することができると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、運転者の疲労状態を、例えば所定の走行距離ごとに判定した場合、渋滞などで車両が低速で走行しているときに、運転者の疲労状態を判定する頻度が低下してしまう。また、運転者の疲労状態を、例えば所定の走行時間ごとに判定した場合、高速道路などで車両が高速で走行しているときに、所定の走行時間が経過する間に所定の走行距離を大きく超えて車両が走行してしまい、運転者の疲労状態を判定する頻度が低下してしまう。このように車両の走行状態によっては、運転者の疲労状態の判定頻度が低下してしまい、運転者の疲労状態を早期かつ適切に検知することができない問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、車両の走行状態にかかわらず、運転者の疲労状態を早期かつ適切に検出可能な疲労判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一実施形態に係る疲労判定装置は、
車両を運転している運転者の音声を集音するマイクロフォンと、
前記運転者の音声に基づいて、前記運転者の疲労を判定する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
1つまたは複数のプロセッサと、
前記プロセッサに接続される1つまたは複数のメモリと、
を有し、
前記プロセッサは、
前記運転者の疲労を判定するための疲労判定頻度を、前記車両の車速に応じて設定することと、
前記運転者の音声をテキストデータに変換し、前記テキストデータに含まれる複数の単語の品詞を分析することと、
前記疲労判定頻度に基づいて、前記テキストデータに含まれる全品詞の総数に占める感動詞の個数の割合を算出することと、
前記車両の走行中における前記感動詞の前記割合の経時変化に基づいて、前記運転者の疲労を判定することと、
を含む処理を実行する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、車両の走行状態にかかわらず、運転者の疲労状態を早期かつ適切に検知することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る車両の構成を示す概略構成図である。
【
図2】
図2は、同実施形態に係る制御装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、同実施形態に係る疲労判定処理の流れを説明するフローチャートである。
【
図4】
図4は、同実施形態に係る疲労判定頻度設定処理の流れを説明するフローチャートである。
【
図5】
図5は、低速側範囲のリニアに変化する疲労判定頻度を説明するためのグラフである。
【
図6】
図6は、高速側範囲のリニアに変化する疲労判定頻度を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す具体的な寸法、材料、数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0012】
図1は、本実施形態に係る車両100の構成を示す概略構成図である。
図1では、車両100を基準として、左右および前後が矢印で示されている。車両100は、道路上を走行可能な自動車である。車両100は、例えば、走行用の駆動源としてエンジンが設けられたエンジン車両である。なお、車両100は、走行用の駆動源としてエンジンとモータとが駆動源として設けられたハイブリッド車両であってもよいし、走行用の駆動源としてモータが設けられた電気車両であってもよい。
【0013】
また、本実施形態では、主に、車両100が四輪の自家用自動車である例について説明する。しかし、かかる例に限定されず、車両100は、バス、トラックもしくはタクシー等の商業用車両、または、パトカー、消防車、救急車、レッカー車、除雪車もしくは工事用車両等の特殊車両、または、自動二輪車など、各種の自動車であってもよい。
【0014】
図1に示すように、車両100は、運転者および同乗者が搭乗可能な空間である車室110を備える。なお、同乗者は、車両100を運転する運転者以外の搭乗者のことを指す。車室110には、前部座席120A、120B、後部座席120Cが設けられる。
【0015】
本実施形態では、右側の前部座席120Aに運転者が着座し、左側の前部座席120Bおよび後部座席120Cに同乗者が着座する。ただし、運転者は、左側の前部座席120Bに着座してもよく、同乗者は、右側の前部座席120Aおよび後部座席120Cに着座してもよい。
【0016】
車両100の車室110には、マイクロフォン200が設けられる。マイクロフォン200は、車両100の車室110内の音声を集音する。マイクロフォン200は、集音した音声を示すデータを後述する制御装置600に送信する。本実施形態では、マイクロフォン200は、前部座席120A、120Bの前方に1つ設けられる。ただし、マイクロフォン200は、単一ではなく、複数設けられてもよい。例えば、マイクロフォン200は、右側の前部座席120A、左側の前部座席120B、後部座席120Cのそれぞれの前方に1つずつ設けられてもよい。あるいは、マイクロフォン200は、前部座席120A、120B、後部座席120Cに着座する運転者および同乗者の着座位置の前方に1つずつ設けられてもよい。
【0017】
車両100には、車速センサ300、走行距離計400、走行時間タイマ500、制御装置600が設けられる。車速センサ300は、車両100の車速を計測する。車速センサ300は、計測した車両100の車速を示すデータを制御装置600に送信する。走行距離計400は、車両100の走行距離を計測する。走行距離計400は、計測した車両100の走行距離を示すデータを制御装置600に送信する。走行時間タイマは、車両100の走行時間を計測する。走行時間タイマ500は、計測した車両100の走行時間を示すデータを制御装置600に送信する。
【0018】
制御装置600は、マイクロフォン200、車速センサ300、走行距離計400、走行時間タイマ500と電気的に接続される。これらマイクロフォン200と、車速センサ300と、走行距離計400と、走行時間タイマ500と、制御装置600とにより、疲労判定装置700が構成される。
【0019】
制御装置600は、車両100の全体を制御する。制御装置600は、1つまたは複数のプロセッサ600aと、プロセッサ600aに接続される1つまたは複数のメモリ600bと、を有する。プロセッサ600aは、例えば、CPU(Central Processing Unit)を含む。メモリ600bは、例えば、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などを含む。ROMは、CPUが使用するプログラムおよび演算パラメータ等を記憶する記憶素子である。RAMは、CPUにより実行される処理に用いられる変数およびパラメータ等のデータを一時記憶する記憶素子である。
【0020】
図2は、本実施形態に係る制御装置600の機能構成の一例を示すブロック図である。例えば、
図2に示されるように、制御装置600は、声紋登録部610と、疲労判定頻度設定部620と、音声判別部630と、品詞分析部640と、割合算出部650と、疲労判定部660とを有する。なお、声紋登録部610、疲労判定頻度設定部620、音声判別部630、品詞分析部640、割合算出部650、または、疲労判定部660により行われる以下で説明する処理を含む各種処理は、プロセッサ600aによって実行され得る。詳細には、メモリ600bに記憶されているプログラムをプロセッサ600aが実行することにより、各種処理が実行される。
【0021】
声紋登録部610は、マイクロフォン200から取得される運転者の音声を示すデータを周波数分析によって分解し、運転者独自の音声波形の紋様である声紋を、運転者の声紋として登録する。本実施形態では、声紋登録部610は、車両100を運転する運転者の声紋を登録するが、これに限定されず、声紋登録部610は、車両100に搭乗する同乗者の声紋を登録してもよい。同乗者の声紋を登録することで、後述する音声判別部630で運転者と同乗者の音声をより精度よく判別することができる。疲労判定頻度設定部620は、運転者の疲労を判定するための疲労判定頻度を、車両100の車速に応じて設定する。疲労判定頻度の設定の詳細については、後述する。
【0022】
音声判別部630は、マイクロフォン200から取得される運転者および同乗者の音声を示すデータと、運転者の声紋とに基づいて、運転者の音声と同乗者の音声を判別する。品詞分析部640は、判別した運転者の音声をテキストデータに変換し、当該テキストデータに含まれる複数の単語の品詞を分析する。
【0023】
割合算出部650は、疲労判定頻度に基づいて、テキストデータに含まれる全品詞の総数に占める感動詞の個数の割合を算出する。疲労判定部660は、車両100の走行中における感動詞の割合の経時変化に基づいて、運転者の疲労を判定する。これら声紋登録部610、疲労判定頻度設定部620、音声判別部630、品詞分析部640、割合算出部650、疲労判定部660により、運転者の疲労状態を判定する疲労判定処理が実行される。以下、本実施形態における疲労判定処理について詳細に説明する。
【0024】
図3は、本実施形態に係る疲労判定処理の流れを説明するフローチャートである。
図3に示すように、まず、声紋登録部610は、マイクロフォン200から取得される運転者の音声を示すデータを周波数分析によって分解し、運転者独自の音声波形の紋様である声紋を、運転者の声紋として登録する(S100)。つぎに、疲労判定頻度設定部620は、運転者の疲労を判定するための疲労判定頻度を設定する疲労判定頻度設定処理を実行する(S200)。
【0025】
図4は、本実施形態に係る疲労判定頻度設定処理の流れを説明するフローチャートである。
図4に示すように、疲労判定頻度設定部620は、車両100の走行中に、車速センサ300から車両100の車速を取得し、取得した車速が、低速側範囲の一例である0km/h以上40km/h以下の範囲内にあるか否かを判定する(S210)。
【0026】
車速が0km/h以上40km/h以下の範囲内である場合(S210のYES)、疲労判定頻度設定部620は、運転者の疲労を判定する疲労判定頻度として、所定の第1走行時間である10分を設定する(S220)。一方、車速が0km/h以上40km/h以下の範囲内でない場合(S210のNO)、疲労判定頻度設定部620は、取得した車速が、低速側範囲の一例である41km/h以上80km/h以下の範囲内にあるか否かを判定する(S230)。
【0027】
車速が41km/h以上80km/h以下の範囲内である場合(S230のYES)、疲労判定頻度設定部620は、運転者の疲労を判定する疲労判定頻度として、所定の第2走行時間である7分を設定する(S240)。
【0028】
一方、車速が41km/h以上80km/h以下の範囲内でない場合(S230のNO)、疲労判定頻度設定部620は、取得した車速が、高速側範囲の一例である81km/h以上120km/h以下の範囲内にあるか否かを判定する(S250)。
【0029】
車速が81km/h以上120km/h以下の範囲内にある場合(S250のYES)、疲労判定頻度設定部620は、運転者の疲労を判定する疲労判定頻度として、所定の走行距離である7kmを設定する(S260)。一方、車速が81km/h以上120km/h以下の範囲内でない場合(S250のNO)、運転者の疲労状態の判定を行わないものとして、
図3および
図4の丸囲み文字Aで示すフローの流れで疲労判定処理を終了する。
【0030】
このように、疲労判定頻度は、車両100の走行時間に基づく判定頻度と、車両100の走行距離に基づく判定頻度を含む。疲労判定頻度設定部620は、車両100の車速が所定範囲内にあるとき、車両100の車速に応じて、疲労判定頻度としての所定の走行時間、あるいは、所定の走行距離を設定する。
【0031】
ここで、疲労判定頻度を設定するための車両100の車速の所定範囲(以下、車速範囲という)には、低速側と高速側の複数の範囲が含まれる。本実施形態では、81km/hを所定車速とし、車速範囲のうち所定車速未満を低速側範囲、所定車速以上を高速側範囲として設定される。低速側範囲では、疲労判定頻度として所定の走行時間が設定され、高速側範囲では、疲労判定頻度として所定の走行距離が設定される。
【0032】
これは、低速側範囲では、渋滞時など車両100の進みが遅い場合に、車両100の走行距離が一定値に達するのに時間がかかるため、より早く運転者の疲労を検知できるように、所定の走行距離ではなく所定の走行時間を疲労判定頻度として設定している。
【0033】
また、高速側範囲では、高速道路など車両100の進みが速い場合に、一定時間ごとに進む車両100の走行距離が大きくなり、車両事故の危険性が高まる。そのため、高速側範囲では、より早く運転者の疲労を検知できるように、所定の走行時間ではなく所定の走行距離を疲労判定頻度として設定している。
【0034】
以上のS210~S260のように、本実施形態では、車速が、所定の第1閾値(例えば81km/h)未満の低速側範囲内(例えば、0~40km/h、または、41~80km/hの範囲内)である場合、疲労判定頻度として、車両100の走行時間に基づく判定頻度(時間的な頻度)を使用する。一方、車速が上記第1閾値(例えば81km/h)以上の高速側範囲内(例えば、81~120km/hの範囲内)である場合、疲労判定頻度として、車両100の走行距離に基づく判定頻度(距離的な頻度)を使用する。これにより、低速側範囲において、渋滞時など車両100の進みが遅い場合に、時間的な頻度により運転者の疲労状態を判定することで、より早く運転者の疲労を検知することができるようになる。また、高速側範囲において、高速道路など車両100の進みが速い場合に、距離的な頻度で運転者の疲労状態を判定することで、より早く運転者の疲労を検知することができるようになる。
【0035】
さらに、車両100の車速が速くなるほど車両事故の危険性が高まることから、車速が速くなるほど、疲労判定頻度が高まるように、所定の走行時間あるいは所定の走行距離が設定される。
【0036】
具体的に、
図4に示すように、低速側範囲において、第1の車速範囲0km/h以上40km/h以下では、所定の第1走行時間10分が設定され、第2の車速範囲41km/h以上80km/h以下では、所定の第2走行時間7分が設定される。また、高速側範囲において、第3の車速範囲81km/h以上120km/h以下では、所定の走行距離7kmが設定され、これを例えば車速81km/hで車両100が走行した場合にかかる時間は、約5分である。このように、車速が速くなるほど、疲労判定頻度が高まるように、疲労判定頻度設定部620は、疲労判定頻度を車速に応じて変化するように設定する。これにより、車両の走行状態にかかわらず、運転者の疲労状態を早期かつ適切に検知することが可能となる。
【0037】
なお、
図4に示す各車速範囲、各車速、所定の第1走行時間、所定の第2走行時間、所定の走行距離の値は、一例であり、これに限定されるものではない。また、低速側範囲には、第1の車速範囲、および、第2の車速範囲の複数の車速範囲が含まれるが、これに限定されず、単一の車速範囲であってもよい。また、高速側範囲は、単一の車速範囲を有するが、これに限定されず、低速側範囲と同様に複数の車速範囲を含むものであってもよい。
【0038】
また、本実施形態では、第1の車速範囲、第2の車速範囲、第3の車速範囲において、それぞれ1つの走行時間あるいは走行距離が設定されているが、これに限定されず、各車速範囲に複数の走行時間あるいは走行距離が設定されていてもよい。例えば、疲労判定頻度は、車速の変化に応じて動的に変化するように設定されてもよい。以下、疲労判定頻度が、車速の変化に応じて動的に変化する一例として、車速の変化に応じてリニアに変化する例について説明する。
【0039】
図5は、本実施形態に係る低速側範囲のリニアに変化する疲労判定頻度を説明するためのグラフである。
図6は、本実施形態に係る高速側範囲のリニアに変化する疲労判定頻度を説明するためのグラフである。
図5に示すように、低速側範囲において疲労判定頻度として設定される所定の走行時間は、0km/hから80km/hまで車速が速くなるほど、10分から7分まで短くなる。つまり、0km/hから80km/hまでの車速の変化に応じて、所定の走行時間は、10分から7分までリニアに変化し、車速が速くなるほど短く設定される。
【0040】
また、
図6に示すように、高速側範囲において疲労判定頻度として設定される所定の走行距離は、81km/hから120km/hまで車速が速くなるほど、7kmから3kmまで短くなる。つまり、81km/hから120km/hまでの車速の変化に応じて、所定の走行距離は、7kmから3kmまでリニアに変化し、車速が速くなるほど短く設定される。このように、車速が速くなるほど、疲労判定頻度が高まるように設定することで、車両事故の危険性が高まるほど、より早く運転者の疲労を検知することができる。
【0041】
図3に戻り、音声判別部630は、マイクロフォン200から取得される運転者および同乗者の音声と、運転者の声紋とに基づいて、運転者の音声と同乗者の音声を判別する(S300)。具体的に、音声判別部630は、マイクロフォン200から取得された音声のうち、S100で登録した運転者の声紋に該当する音声のみを識別し、これを運転者の音声として判別し、それ以外を同乗者の音声として判別する。
【0042】
品詞分析部640は、判別した運転者の音声をテキストデータに変換し、当該テキストデータに含まれる複数の単語の品詞を分析する(S400)。具体的に、品詞分析部640は、変換した運転者のテキストデータに含まれる複数の単語を、名詞、動詞、感動詞等の品詞ごとに分類し、各品詞に属する単語の個数Na、Nb、Nc、・・・をカウントする。
【0043】
割合算出部650は、運転者の音声のテキストデータに含まれる全品詞の総数NALLに占める感動詞の個数Ncの割合(以下、「感動詞の使用割合」という。)を算出する(S500)。感動詞の使用割合は、車両100の運転中に運転者が発話した音声のうちで、感動詞を使用する割合である。
【0044】
感動詞は、感動、呼びかけ、応答などをあらわす単語である。感動詞は、例えば、「うん」、「いや」、「ああ」、「はい」、「いいえ」、「あら」、「あれ」、「えっ」、「おや」、「おお」、「まあ」、「これ」、「さあ」、「それ」、「どれ」、「ね」、「ねえ」、「ええ」、「よいしょ」などを含む。
【0045】
具体的に、割合算出部650は、品詞ごとに分類されたテキストデータから、例えば、名詞の個数Na(例えば30個)、動詞の個数Nb(例えば40個)、感動詞の個数Nc(例えば20個)・・・などの、各品詞の個数を算出する。また、割合算出部650は、各品詞の個数Na、Nb、Nc、・・・を合計して、全品詞の総数NALL(例えば、30個+40個+20個=90個)を算出する。ここで、全品詞の総数NALLは、例えば、テキストデータに含まれる全ての品詞の全ての単語の総数、すなわち、当該全ての単語の個数を合計した値であってもよい。あるいは、全品詞の総数NALLは、例えば、テキストデータに含まれる全ての品詞のうち、助詞、助動詞などを除いた一部の品詞の全ての単語の個数を合計した値であってもよい。
【0046】
そして、割合算出部650は、感動詞の個数Ncを全品詞の総数NALLで除算することにより、全品詞の総数NALLに占める感動詞の個数Ncの割合R(感動詞の使用割合R)を算出する(R=Nc/NALL:例えば、R=20個/90個×100=22.2[%])。
【0047】
このように、本実施形態の割合算出部650は、運転者の音声のテキストデータに含まれる複数の単語の品詞を分析し、全品詞の総数に占める感動詞の個数の割合である感動詞の使用割合を算出する。感動詞が多く使用される状態は、運転者が同乗者に対しての受け答えが適当で会話に集中できておらず、注意力が散漫な状態であると考えられる。運転者がそのような状態となった場合を、疲労判定部660は、運転者が疲労傾向にあると判定し、感動詞の使用割合の経時変化から運転者の疲労傾向が増加しているかどうかを判定する。
【0048】
疲労判定部660は、感動詞の使用割合が増加したか否かを判定する(S600)。ここでは、疲労判定部660は、前回の感動詞の使用割合に対し、今回の感動詞の使用割合が増加したか否かを判定する。なお、感動詞の使用割合の算出が初回である場合、感動詞の使用割合が増加していないと判定する。
【0049】
感動詞の使用割合が増加した場合(S600のYES)、疲労判定部660は、カウント値を1加算する(S700)。なお、カウント値の初期値は0である。一方、感動詞の使用割合が増加していない場合(S600のNO)、疲労判定部660は、カウント値を初期値にリセットし(S800)、疲労判定処理を終了する。
【0050】
カウント値が1加算された後(S700の後)、疲労判定部660は、カウント値が所定の閾値未満であるか否かを判定する(S900)。ここで、所定の閾値は、例えば、3である。ただし、これに限定されず、所定の閾値は、2以上の整数であればどの数値であってもよい。つまり、ここでは、カウント値が所定の閾値未満か否かを判定することで、疲労判定部660は、感動詞の使用割合の増加が所定回数以上連続してあったか否かを判定している。カウント値が所定の閾値以上であるとき、感動詞の使用割合の増加が所定回数以上連続して行われたと判定される。
【0051】
カウント値が所定の閾値未満である場合(S900のYES)、S200の処理に戻り、S200~S900までの処理が再度実行される。一方、カウント値が所定の閾値未満でない場合(S900のNO)、疲労判定部660は、感動詞の使用割合の増加が所定回数以上連続して行われたと判定し、運転者が疲労傾向にあるとして、運転者の疲労を判定し(S1000)、疲労判定処理を終了する。
【0052】
このように、疲労判定部660は、感動詞の使用割合が所定回数以上連続して増加した場合、運転者が疲労傾向にあると判定する。一方、感動詞の使用割合が不変あるいは減少した場合、運転者が疲労傾向にないと判定する。
【0053】
なお、疲労判定頻度設定処理S200で設定された所定の走行時間ごと、あるいは、所定の走行距離ごとに、S300の運転者の音声の判別、S400の品詞分析、S500の感動詞の使用割合の算出、S600~S1000の運転者の疲労判定の処理が行われる。ここで、所定の走行時間は、走行時間タイマ500により計時され、所定の走行距離は、走行距離計400により計測される。
【0054】
以上、本実施形態によれば、運転者の疲労を判定するための疲労判定頻度を、車速に応じて変化するように設定している。そして、設定された疲労判定頻度で、車両の走行中における感動詞の使用割合の経時変化に基づいて、運転者の疲労を判定している。これにより、車両事故の重大リスクを鑑みて、車速増加に応じて疲労判定頻度を高めて、より早く運転者の疲労を検知することで、重大事故を未然に防止することができる。車速に応じて疲労判定頻度を変えるように設定することにより、車両の走行状態にかかわらず、早期に運転者の疲労を検知することができる。また、感動詞の使用割合の経時変化に基づいて、疲労判定することにより、運転者の疲労の蓄積の進行に応じて適切に疲労を検知することができる。その結果、車両の走行状態にかかわらず、運転者の疲労状態を早期かつ適切に検知することが可能となる。
【0055】
また、本実施形態によれば、疲労判定頻度は、車両の走行時間に基づく判定頻度、および、車両の走行距離に基づく判定頻度を含む。そして、車速が所定車速未満の低速側範囲内である場合、所定の走行時間ごとに感動詞の割合を算出する、これにより、例えば、低速側範囲において、渋滞時など車両100の進みが遅い場合に、車両100の走行距離が一定値に達するのに時間がかかるため、より早く運転者の疲労を検知することができるようになる。また、車速が所定車速以上の高速側範囲内である場合、所定の走行距離ごとに感動詞の割合を算出する。これにより、例えば、高速側範囲において、高速道路など車両100の進みが速い場合に、一定時間ごとに進む車両100の走行距離が大きくなり、車両事故の危険性が高まるため、より早く運転者の疲労を検知することができるようになる。
【0056】
また、本実施形態によれば、車速が所定車速未満である低速側範囲内である場合、車速が速くなるほど、所定の走行時間を短く設定する。また、車速が所定車速以上である高速側範囲内である場合、車速が速くなるほど、所定の走行距離を短く設定する。また、車速の変化に応じて、所定の走行時間および所定の走行距離を動的に変化させる。これにより、車速増加に応じて疲労判定頻度を高めることができる。その結果、より早く運転者の疲労を検知し、重大事故を未然に防止することができる。
【0057】
また、本実施形態によれば、感動詞の割合を、疲労判定頻度で複数回算出し、感動詞の割合が、所定回数以上連続して増加した場合に、運転者が疲労していると判定する。これにより、運転者の疲労状態の誤判定を抑制することができる。
【0058】
以上、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0059】
本実施形態では、車両100の車速が低速側範囲内である場合に、疲労判定頻度として所定の走行時間を設定し、車両100の車速が高速側範囲内である場合に、疲労判定頻度として所定の走行距離を設定する例について説明した。しかし、これに限定されず、車速が速くなるほど疲労判定頻度が高まれば、低速側範囲および高速側範囲の双方に、疲労判定頻度として所定の走行時間が設定されてもよいし、所定の走行距離が設定されてもよい。
【0060】
また、本実施形態では、感動詞の使用割合が所定回数以上連続して増加した場合に、運転者が疲労していると判定する例について説明した。しかし、これに限定されず、感動詞の使用割合が1回増加した場合に、運転者が疲労していると判定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0061】
100 車両
110 車室
120A 前部座席
120B 前部座席
120C 後部座席
200 マイクロフォン
300 車速センサ
400 走行距離計
500 走行時間タイマ
600 制御装置
600a プロセッサ
600b メモリ
610 声紋登録部
620 疲労判定頻度設定部
630 音声判別部
640 品詞分析部
650 割合算出部
660 疲労判定部
700 疲労判定装置